説明

誘導ラマン分光分析装置

【課題】強力なプローブ光や背景光が試料の測定値におよぼす影響を比較的簡単な構成で軽減除去でき、測定試料の成分変化をオフラインはもちろんのこと直接リアルタイムでも測定できる誘導ラマン分光分析装置を実現する。
【解決手段】ポンプ光とプローブ光を重ね合わせて測定対象25に入射し、前記プローブ光の波長を変化させながら誘導ラマン利得または損失スペクトルを測定するように構成された誘導ラマン分光分析装置において、前記プローブ光を信号光と参照光に分波するプローブ光分波手段22と、このプローブ光分波手段22で分波された信号光を前記測定対象25に入射する信号光入射手段と、前記測定対象25を透過した信号光を前記分波された参照光と合波して干渉信号を生成する合波手段27と、この合波手段27で生成された干渉信号を測定して誘導ラマン利得または損失スペクトルを求める干渉信号測定手段、を設けたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導ラマン分光分析装置に関し、詳しくは、強力なプローブ光や背景光が試料の測定値におよぼす影響の軽減除去に関するものである。
【背景技術】
【0002】
試料の定性・定量あるいは物性などの物理的測定値を、周波数の関数として測定するように構成された分光分析装置の一種に、図9に示すように、試料にポンプ光とプローブ光を照射することにより得られる誘導ラマン散乱光を検出するように構成された誘導ラマン分光分析装置がある。
【0003】
図9において、Arレーザ1はポンプ光の光源として用いられるもので、波長514.5nmの出力光は電気光学効果素子2により変調され、特定波長のみを反射させて他の波長は透過させるように構成されたダイクロイックミラー3に入射される。
【0004】
色素レーザ4はプローブ光の光源として用いられるもので、たとえば1MHzの分解能で1cm−1にわたって波長を変えられる連続発振出力光はノイズ低減システム5およびハーフミラー6で反射されてダイクロイックミラー3に入射され、ポンプ光と重ね合わされる。
【0005】
ダイクロイックミラー3で重ね合わされた光ビームは、試料が充填された多重光路セル7に入射されて試料を多数回通過した後、分散プリズム8と空間フィルタ9を通過することによりポンプ光がカットされ、誘導ラマン効果により変調されたプローブ光がPINダイオードよりなる第1の検出器10で検出される。
【0006】
第1の検出器10で検出された信号の変調成分は、電流増幅器11およびロックイン増幅器12を介してチャートレコーダ13に入力されて高感度に測定記録される。
【0007】
ダイクロイックミラー3の他方の出力光ビームは波長計14に入射される。波長計14には、基準光源として用いられるHeNeレーザ15の出力光も入射される。
【0008】
ロックイン増幅器12には、基準検出器16で検出されたハーフミラー6の透過光が、電流増幅器17を介して入力される。
【0009】
基準発振器18の出力信号は、電気光学効果素子2に変調信号として入力されるとともに、ロックイン増幅器12に基準信号として入力される。
【0010】
このような構成において、色素レーザ4から出力されるプローブ光の波長を測定したい波長帯域で変化させながら測定を行うことにより、試料の定性・定量あるいは物性に関連した誘導ラマン利得または損失スペクトルを得ることができる。
【0011】
図9のような複雑な測定系を用いる必要性について説明する。強力なポンプ光とプローブ光を完全に分離するために、直列に配置した分散プリズム8を用いて空間的にポンプ光とプローブ光を分離し、さらに空間フィルタ9を用いることによりポンプ光を完全に取り除く。
【0012】
さらに、背景光とプローブ光を完全に分離するために、ポンプ光を基準発振器18から出力される所定の周波数で変調することにより、プローブ光が受ける誘導ラマン効果自体を変調する。背景光は変調されていないので、ロックイン増幅器12を用いてプローブ光の所定の周波数で変動する成分のみを検出すれば、背景光の影響を完全に取り除くことができる。
【0013】
特許文献1には、高感度高分解能を有する誘導ラマン分光分析装置の構成が記載されている。
【0014】
【特許文献1】特開2005−227253号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかし、図9の構成によれば、強力なプローブ光や背景光の測定値への影響を除くために、複雑な光学系や信号検出回路を用いなければならず、装置が高価格で大型となり、測定現場への測定装置の導入を阻害する一因になっていた。
【0016】
また、図9の構成では、試料をサンプリングして測定セル7に取り込み、オフラインで測定しているために、たとえばプラント装置のパイプ内に流れる測定試料の成分変化を直接リアルタイムで測定し、その分析結果に基づいて測定試料の成分が所望の値に保たれるように連続的にフィードバック制御することはできない。
【0017】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、強力なプローブ光や背景光が試料の測定値におよぼす影響を比較的簡単な構成で軽減除去でき、測定試料の成分変化をオフラインはもちろんのこと直接リアルタイムでも測定できる誘導ラマン分光分析装置を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
このような問題を解決するため、請求項1記載の発明は、
ポンプ光とプローブ光を重ね合わせて測定対象に入射し、前記プローブ光の波長を変化させながら誘導ラマン利得または損失スペクトルを測定するように構成された誘導ラマン分光分析装置において、
前記プローブ光を信号光と参照光に分波するプローブ光分波手段と、
このプローブ光分波手段で分波された信号光を前記測定対象に入射する信号光入射手段と、
前記測定対象を透過した信号光を前記分波された参照光と合波して干渉信号を生成する合波手段と、
この合波手段で生成された干渉信号を測定して誘導ラマン利得または損失スペクトルを求める干渉信号測定手段、
を設けたことを特徴とする。
【0019】
請求項2記載の発明は、請求項1に記載の誘導ラマン分光分析装置において、
前記干渉信号測定手段は、前記生成された干渉信号の低周波成分のみを抽出する手段を有することを特徴とする。
【0020】
請求項3記載の発明は、請求項1または2に記載の誘導ラマン分光分析装置において、
前記プローブ光の波長帯が光通信で用いられる波長帯となるように、前記ポンプ光の波長が設定されることを特徴とする。
【0021】
請求項4記載の発明は、請求項1記載の誘導ラマン分光分析装置において、
前記プローブ光はラマン利得スペクトルを含む波長範囲で掃引され、前記干渉信号測定手段は、前記干渉信号を前記波長掃引周波数の2倍の周波数でロックイン検出することを特徴とする。
【0022】
請求項5記載の発明は、請求項1記載の誘導ラマン分光分析装置において、
前記ポンプ光をチョッピングしてプローブ光に対して逆方向に入射し、特定の位置で両波長の波数差が一定になるように変調することにより、光路内の特定位置の誘導ラマン信号を選択的に測定することを特徴とする。
【0023】
請求項6記載の発明は、請求項5記載の誘導ラマン分光分析装置において、
前記干渉信号測定手段は、前記チョッピング周波数で変動する成分をロックイン検出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
これらの誘導ラマン分光分析装置によれば、強力なプローブ光や背景光が試料の測定値におよぼす影響を軽減除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
一般に、誘導ラマン分光分析装置では、ポンプ光の波長に対して測定対象試料の分子のラマンシフト量だけ異なる波長に、誘導ラマン利得または損失が生じる。そこで、プローブ光の波長をこの波長帯域で変化させながら、測定試料を通過したプローブ光の強度を測定することにより、誘導ラマン利得または損失スペクトルを得ている。
【0026】
本発明の基本的な構成は、このような従来の構成と同様であるが、本発明ではさらに、測定対象を通過したプローブ光の強度を測定するのにあたり、ポンプ光や背景光の影響を取り除くことができる。
【0027】
以下、本発明について、図面を参照して説明する。図1は本発明の一実施例を示すブロック図である。図1において、プローブ光用半導体レーザ21から出力されるプローブ光はハーフミラー22に入力され、信号光と参照光に分波される。信号光はさらにダイクロイックミラー23に入力されてポンプ光用半導体レーザ24から出力されるポンプ光と重ね合わされ、測定対象試料が流れるパイプや煙道などの試料領域25に照射される。
【0028】
試料領域25に照射されて測定対象試料の分子を通過した重ね合わされた光は折り返しミラー26で反射され、再度試料領域25を通過した後、ハーフミラー27に入力されて参照光と合波される。合波された光は受光素子28に入力され、光強度が測定される。
【0029】
このような構成において、ポンプ光用半導体レーザ24から出力されるポンプ光の波長を一定に保ちながら、波長制御回路29によりプローブ光用半導体レーザ21から出力されるプローブ光の波長を変化させると、プローブ光の参照光路と信号光路の光路長が異なるため、参照光と信号光の干渉信号(ビート信号)が得られる。
【0030】
この干渉信号の強度は、試料領域25の測定対象分子を透過したプローブ光の信号光の強度に比例することから、干渉信号測定回路30でこの干渉信号強度だけを測定することにより、誘導ラマン利得または損失スペクトルを高感度に測定できる。なお、制御回路31は、波長制御回路29および干渉信号測定回路30の動作を制御する。
【0031】
ここで、得られる干渉信号の周波数f(Hz)は、プローブ光の単位時間当たりの光周波数変化量をΔν(Hz/sec)、プローブ光の参照光路と信号光路の光路長差をΔL(m)、光速をC(m)とすると、
f=Δν*ΔL/C
となる。
【0032】
したがって、ΔνとΔLを適切に選択することにより、所望の周波数f値を設定することができる。具体的な数値例を示す。
Δν=1THz/sec、ΔL=1mとすると、f=3.3kHzとなる。
【0033】
その他に得られる干渉信号としてポンプ光とプローブ光間の干渉信号があるが、この干渉信号の周波数は測定対象分子のラマンシフト量と同じになる。通常測定する分子のラマンシフト量は周波数で1GHzより十分大きく、ポンプ光による干渉信号をローパスフィルタにより簡単に除けるので、測定値へのポンプ光の影響を取り除くことができる。
【0034】
さらに、背景光はレーザ光ではなく、その周波数と位相がランダムなので、プローブ光やポンプ光と干渉することはない。したがって、干渉信号測定回路30で周波数fの干渉信号のみを測定することにより、背景光の影響も取り除くことができる。
【0035】
このように、本発明によれば、簡単な構成で、強力なプローブ光や背景光の測定値への影響を取り除くことができる。
【0036】
そして、装置の小型化が図れることから、従来のように試料をサンプリングして測定セルに充填することなく、パイプなどの流路を流れる試料をそのままのインライン状態で連続的にオンライン分析測定することができるので、このような分析測定結果に基づいて試料の定性・定量あるいは物性などをリアルタイムに調整する連続的なフィードバック制御系を構築することもできる。
【0037】
図2は本発明の他の実施例を示すブロック図であり、図1と共通する部分には同一の符号を付けている。図2と図1の相違点は、図1の折り返しミラー26を削除して試料領域25を通過する光を1系統にしていることである。
【0038】
図2において、プローブ光用半導体レーザ21から出力されるプローブ光はファイバカプラ32に入力され、信号光と参照光に分波される。
【0039】
信号光は、ファイバの出力光を平行光に整形するレンズ33を介してダイクロイックミラー23に入力されてポンプ光用半導体レーザ24から出力されるポンプ光と重ね合わされ、測定対象試料が流れるパイプや煙道などの試料領域25に照射される。
【0040】
参照光は、ファイバの出力光を平行光に整形するレンズ34を介してハーフミラー23に入力されて試料領域25を透過した光と重ね合わされ、受光素子28に入力されて光強度が測定される。
【0041】
図2の構成によれば、試料領域25を通過する光を1系統にできるので、図1の構成に比べて装置全体の簡略化が図れる。
【0042】
なお、プローブ光用光源として半導体レーザを用いることにより、注入電流に応じて波長を制御することができる。
【0043】
また、プローブ光用光源として面発光型波長可変レーザを用いることにより、出力を一定に保ちながら波長を変えることができる。
【0044】
また、プローブ光用光源の波長帯がDWDM(dense wavelength division multiplex)光通信で用いられる波長帯となるようにポンプ光の波長を設定することにより、プローブ光用光源として汎用的な光通信用半導体レーザを用いることができ、コストを下げることができる。
【0045】
ところで、本発明において、干渉信号を高感度に測定するためには、以下に説明するように、図1の干渉信号測定回路30でロックイン検出を行うようにすればよい。
【0046】
図3は測定対象試料のラマン利得スペクトル例図であり、1550nmを中心に10pm程度の広がりを持っている例を示している。このようなラマン利得スペクトルを有する試料を測定対象とするのにあたっては、プローブ光用半導体レーザ21から出力されるプローブ光の波長範囲を、図4に示すように、ラマン利得スペクトルを含むように三角波状にたとえば200Hzで掃引する。これにより、波長変化量20pmは光周波数変化量2.5GHzに対応するので、光周波数変化量は2.5GHz/2.5ms=1THz/sになる。
【0047】
ここで、得られる干渉信号の周波数f(Hz)は、プローブ光の単位時間当たりの光周波数変化量をΔν(Hz/sec)、プローブ光の参照光路と信号光路の光路長差をΔL(m)、光速をC(m)とすると、前述のように、
f=Δν*ΔL/C
となるので、Δν=1THz/sec、ΔL=3mとすると、f=10kHzとなる。
【0048】
図5は、このようにして得られる周波数fの干渉信号の強度例図である。波長がラマン利得スペクトルの中央(1550nm)となるときにプローブ光強度が最大になるので、図5に示すように波長掃引周波数の2倍の400Hzで強度変調された干渉信号が得られる。
【0049】
したがって、たとえば制御回路31から干渉信号測定回路30に掃引周波数の2倍になる400Hzの信号を入力し、この干渉信号測定回路30を用いて400Hzで変動する成分をロックイン検出することにより、レーザ光の強度雑音や検出回路の雑音などを除くことができ、さらに高感度な信号検出が行える。干渉信号測定回路30で検出された信号から、ラマン利得スペクトルに関する情報を得ることができる。
【0050】
なお、干渉信号測定回路30は、ロックイン検出に限るものではなく、バンドパスフィルタ(特にデジタルフィルタ)を用いるようにしてもよい。
【0051】
また、波長掃引幅をラマン利得スペクトル幅に対し十分小さくして同様に測定することにより、波長掃引幅内のラマン利得スペクトルの二次微分が得られる。たとえば波長掃引幅の中心波長を僅かにずらしながら同様の測定を行うことにより、ラマン利得スペクトルの二次微分波形を得ることができ、光出力変動の影響を受けることなく安定した信号検出が行える。
【0052】
図6も本発明の他の実施例を示すブロック図であり、図1と共通する部分には同一の符号を付けている。図6と図1の相違点は、プローブ光の信号光とポンプ光の重ね合わせ位置の変更による試料領域25への入射方向の変更と干渉信号の測定系統にある。
【0053】
図6において、プローブ光の信号光とポンプ光とを合波するダイクロイックミラー23は、プローブ光の信号光が試料領域25に照射されて折り返しミラー26で反射され再度試料領域25を通過する位置に設けられている。
【0054】
なお、ポンプ光用半導体レーザ24から出力されるポンプ光の波長は、制御回路31で制御される波長制御回路34により制御される。
【0055】
測定対象試料が前述の図3のようなラマン利得スペクトルを有するものであり、測定対象試料のラマンシフト量が波数4186.7cm−1とすると、波長940nmのポンプ光に対する誘導ラマン利得は波長1550nmの位置に生じる。
【0056】
図7はポンプ光の波長変化例図、図8はプローブ光の波長変化例図である。これらポンプ光とプローブ光の波長を1MHzで同期して変調すると、一周期の長さは約300mでポンプ光とプローブ光の出力時の波数差は常に4186.7cm−1となる。これらポンプ光とプローブ光を同じ光路で互いに逆向きに測定対象試料に入射させると、各光源から等距離の点(つまり中央付近)で両波長が位相同期して変調されているので、ポンプ光とプローブ光の波数差は常に4186.7cm−1となり、この位置では誘導ラマン利得が発生する。
【0057】
一方、この位置からずれた場所では両波長の位相がずれるので、ポンプ光とプローブ光の波数差も4186.7cm−1からずれ、この位置では誘導ラマン利得は発生しない(実際には一周期に2回だけ波数差が4186.7cm−1になる瞬間があるが信号強度的に無視できる)。この数値例では位置が7cmずれただけでプローブ光の波長がラマン利得スペクトルのピークから2.5pmずれるので、この程度の位置分解能が得られる。
【0058】
図6の動作を説明する。プローブ光はハーフミラー22によりまず信号光と参照光に分けられ、信号光は試料領域25に入射される。
【0059】
ポンプ光は、チョッパ33によりたとえば1kHzで強度変調された後、ダイクロイックミラー23により信号光と逆方向に重ね合わされて試料領域25に入射され、折り返しミラー26で反射されて再度試料領域25を通過する。
【0060】
試料領域25を通過したプローブ光の信号光も折り返しミラー26で反射され、再度試料領域25を通過した後、ハーフミラー27で参照光と合波される。ハーフミラー27で合波された光は、受光素子28で光強度が測定される。
【0061】
プローブ光の参照光と信号光はそれぞれの光路長が異なるため、参照光と信号光の干渉信号(ビート信号)が得られる。この干渉信号の強度は測定対象試料を透過したプローブ光の信号光強度に比例するので、この干渉信号強度だけを測定することにより、誘導ラマン利得または損失スペクトルを高感度に測定できる。
【0062】
ここで、前述同様に、得られる干渉信号の周波数f(Hz)は、プローブ光の単位時間当たりの光周波数変化量をΔν(Hz/sec)、プローブ光の参照光路と信号光路の光路長差をΔL(m)、光速をC(m)とすると、
f=Δν*ΔL/C
となる。
【0063】
具体的に、これらの数値例を示すと、Δν=1350000THz/sec、ΔL=1mで、f=4.5GHzとなる。その他に得られる干渉信号としては、ポンプ光とプローブ光間の干渉信号があるが、この干渉信号の周波数は125THzと十分大きく、ポンプ光による干渉信号はローパスフィルタにより簡単に除けるので、測定値へのポンプ光の影響を取り除くことができる。さらに、背景光はレーザ光ではなく、その周波数と位相がランダムなので、プローブ光やポンプ光と干渉することはない。
【0064】
したがって、周波数fの干渉信号のみを測定することにより、背景光の影響も取り除くことができる。図6の場合は、ポンプ光が1kHzでチョッピングされているので、干渉信号測定回路30において1kHzで変動する成分をロックイン検出すれば、レーザ光の強度雑音や検出回路の雑音などを除くことができ、高感度な信号検出ができる。
【0065】
以上の図6の実施例の動作説明は、各光源21、24から等距離の点(つまり中央付近)における測定の場合であるが、他の位置の測定を行うには、その位置でポンプ光とプローブ光の波長が位相同期して変調されるように、両波長の変調位相を調整すればよい。
【0066】
なお、図6の干渉信号測定回路30は、ロックイン検出に限るものではなく、図1と同様にバンドパスフィルタ(特にデジタルフィルタ)を用いるようにしてもよい。
【0067】
以上説明したように、本発明によれば、強力なプローブ光や背景光が試料の測定値におよぼす影響を比較的簡単な構成で軽減除去でき、測定試料の成分変化を、オフラインはもちろんのこと直接リアルタイムでも測定できる誘導ラマン分光分析装置が実現できる。
【0068】
そして、本発明の誘導ラマン分光分析装置を用いることにより、装置の小型化が図れることから、プラント装置のパイプ内に流れる測定試料の成分変化を直接リアルタイムで測定し、その分析結果に基づいて測定試料の成分が所望の値に保たれるように連続的にフィードバック制御するフィードバック制御系を構築することもでき、プラント装置の制御精度を高めることによる収益性の改善が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の一実施例を示すブロック図である。
【図2】本発明の他の実施例を示すブロック図である。
【図3】測定対象試料のラマン利得スペクトル例図である。
【図4】干渉信号を高感度に測定するためのプローブ光の波長範囲の掃引例説明図である。
【図5】図4に示すプローブ光の波長範囲の掃引により得られる信号強度の説明図である。
【図6】本発明の他の実施例を示すブロック図である。
【図7】ポンプ光の波長変化例図である。
【図8】プローブ光の波長変化例図である。
【図9】従来の誘導ラマン分光分析装置の一例を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0070】
21 プローブ光用半導体レーザ
22、27 ハーフミラー
23 ダイクロイックミラー
24 ポンプ光用半導体レーザ
25 試料領域
26 折り返しミラー
28 受光素子
29、36 波長制御回路
30 干渉信号測定回路
31 制御回路
32 ファイバカプラ
33、34 レンズ
35 チョッパ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプ光とプローブ光を重ね合わせて測定対象に入射し、前記プローブ光の波長を変化させながら誘導ラマン利得または損失スペクトルを測定するように構成された誘導ラマン分光分析装置において、
前記プローブ光を信号光と参照光に分波するプローブ光分波手段と、
このプローブ光分波手段で分波された信号光を前記測定対象に入射する信号光入射手段と、
前記測定対象を透過した信号光を前記分波された参照光と合波して干渉信号を生成する合波手段と、
この合波手段で生成された干渉信号を測定して誘導ラマン利得または損失スペクトルを求める干渉信号測定手段、
を設けたことを特徴とする誘導ラマン分光分析装置。
【請求項2】
前記干渉信号測定手段は、前記生成された干渉信号の低周波成分のみを抽出する手段を有することを特徴とする請求項1記載の誘導ラマン分光分析装置。
【請求項3】
前記プローブ光の波長帯が光通信で用いられる波長帯となるように、前記ポンプ光の波長が設定されることを特徴とする請求項1または2記載の誘導ラマン分光分析装置。
【請求項4】
前記プローブ光はラマン利得スペクトルを含む波長範囲で掃引され、前記干渉信号測定手段は、前記干渉信号を前記波長掃引周波数の2倍の周波数でロックイン検出することを特徴とする請求項1記載の誘導ラマン分光分析装置。
【請求項5】
前記ポンプ光をチョッピングしてプローブ光に対して逆方向に入射し、特定の位置で両波長の波数差が一定になるように変調することにより、光路内の特定位置の誘導ラマン信号を選択的に測定することを特徴とする請求項1記載の誘導ラマン分光分析装置。
【請求項6】
前記干渉信号測定手段は、前記チョッピング周波数で変動する成分をロックイン検出することを特徴とする請求項5記載の誘導ラマン分光分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−145270(P2010−145270A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−323629(P2008−323629)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】