説明

誘導体化ハイドロゲルおよびそれらの使用

ハイドロゲル、例えば架橋ポリビニルアルコールのハイドロゲルを誘導体化する方法は、ハイドロゲル中の封入された水のレベルを低下させること、および該材料を、活性部分(例えばアミノ酸、ペプチドまたは蛋白質)を含む誘導体化手段で処理することを含む。製造されたポリマー材料は「高性能の」被覆材に使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリマー材料に関し、詳細には、全くそれだけということではないがハイドロゲルの形態のポリマー材料に関する。好ましい実施形態は、例えば組織工学における細胞増幅を支持するための;細胞移植もしくは組織移植の媒体としての;および/または「高性能の(smart )」創傷被覆材の基礎原料としての生物学的用途におけるポリマー材料の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
様々なタイプの外傷および様々な疾患状態が、種々の臓器系の正常な機能を害することによって生活の質に影響を及ぼす可能性がある。例としては、目の角膜の病変、関節軟骨の表面への強い摩擦性の損傷、および皮膚に影響を及ぼす急性の外傷または慢性の創傷が挙げられる。そのような状態を処置するための移植に十分もしくは適した無傷の組織がない場合、可能性のある治療方法の一つは、患者から小さな生検検体を採取し、培養技術を用いてインビトロで細胞数を増加させ自家組織を生成させて、その同じ患者の処置に使用することである。培養で増殖させたある種の細胞は、適切な条件下であればともかく上皮などの単純な組織構造を再生させる。複数の異なる方法で、そのような組織工学による上皮シートから細胞培養物を採取し活用することができる。例えば、そのような細胞が接着して生存し続けることができる別の表面に該細胞を移植してもよい。本発明の一つの目的は、細胞の増殖/増幅を支持し得るポリマー材料を提供することにある。
【0003】
いわゆる「高性能の」被覆材は、創傷修復の成功に枢要な2つの細胞内プロセス、即ち細胞分裂および細胞移動を促進するようになっていることが知られている。このプロセスはいずれも土台に依存する。このプロセスのどちらか一方を障害または妨害する病的状態によって、ほとんど治癒しない慢性創傷が形成され、場合によっては瘢痕化する可能性がある。本発明の別の目的は、「高性能の」被覆材において用いられ得るポリマー材料を提供することにある。
【0004】
ハイドロゲルの形態のポリマー材料には、様々な使用法が知られている。特許文献1(ブラッドフォード大学(University of Bradford))には、そのような様々なハイドロゲルが記載されている。グルタルアルデヒドによって架橋されたポリビニルアルコールを含んでなるハイドロゲルも公知である。しかしそのような公知のハイドロゲルは、それ自体は一般に、細胞増幅または高性能の被覆材における使用には適していない。広範で有用な用途を有するハイドロゲルを提供することが、本発明の一つの目的である。
【特許文献1】国際公開第98/12239号パンフレット
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
本発明の第1の態様によれば、水を封入した状態で含むタイプのポリマー材料を誘導体化する方法であって、
(a)水を封入した状態で含む第1の水和ポリマー材料を選択すること、
(b)前記第1の水和ポリマー材料中に封入された水のレベルを低下させて、第2のポリマー材料を生成させること、
(c)前記第2のポリマー材料を誘導体化手段で処理して、前記第2のポリマー材料を誘導体化すること
を含む方法が提供される。
【0006】
前記第1の水和ポリマー材料は、好ましくはハイドロゲルである。前記ハイドロゲルは、水に不溶の架橋された水含有材料と定義してもよい。
前記第1のポリマー材料またはハイドロゲルは、適切には少なくとも40重量%、好ましくは少なくとも55重量%、より好ましくは少なくとも70重量%、特に少なくとも80重量%の水を含有する。水の量は、95重量%未満、好ましくは90重量%未満であってもよい。水のレベルは、任意の適切な手段、例えば熱重量分析によって測定してもよい。
【0007】
前記第1のポリマー材料中の水の重量%と、前記第2のポリマー材料中の水の重量%との差が、少なくとも40重量%、好ましくは少なくとも55重量%、より好ましくは少なくとも70重量%であるとよい。前記第2のポリマー材料中の水の量(重量%)に対する前記第1のポリマー材料中の水の量(重量%)の比が、少なくとも10、適切には少なくとも20、好ましくは少なくとも30、より好ましくは少なくとも40、特に少なくとも50であってもよい。この比は、好ましくは1000未満である。
【0008】
前記第2のポリマー材料は、適切には10重量%未満、好ましくは5重量%未満、より好ましくは2重量%未満、特に1重量%未満の水を封入した状態で含む。前記第2のポリマー材料は、微量、例えば少なくとも0.01重量%の水を封入した状態で含んでいてもよい。
【0009】
前記第1の水和ポリマー材料は、好ましくは架橋手段によって架橋された第3のポリマー材料を含む。前記第1のポリマー材料は、第3のポリマー材料を選択すること、および第3のポリマー材料を前記架橋手段で処理することによって製造してもよい。その場合、前記第3のポリマー材料は、ヒドロキシ、カルボン酸、カルボン酸誘導体(例えばエステル)およびアミノ基から選択される官能基を含んでもよい。前記第3のポリマー材料は、好ましくは炭素原子を含む主鎖、好ましくは主に炭素原子から構成される主鎖を含む。主鎖は飽和されていることが好ましい。主鎖のペンダント基は1種以上の前記官能基である。前記第3のポリマー材料は、少なくとも10,000の分子量を有してもよい。前記第3のポリマー材料は、好ましくはポリビニルポリマーである。好ましい第3のポリマー材料としては、任意に置換された、好ましくは非置換の、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセテート、ポリアルキレングリコール、例えばポリプロピレングリコール、およびコラーゲン(およびその任意の成分)が挙げられる。ポリビニルアルコールが、特に好ましい第3のポリマー材料である。
【0010】
特に好ましい実施形態において、前記第1のポリマー材料は、架橋ポリビニルアルコールを含む。
好ましい架橋手段は、化学的架橋材を含む。そのような材料は、前記第3のポリマー材料の官能基と反応することが可能な少なくとも2個の官能基を有する多官能性化合物であることが好ましい。前記架橋材は、第3のポリマー材料のポリマー主鎖に沿って存在する、またはポリマー構造内に存在する基と反応することが可能な1以上の官能基、カルボニル、カルボキシル、ヒドロキシ、エポキシ、ハロゲンまたはアミノを含むことが好ましい。好ましい架橋材は、少なくとも2個のアルデヒド基を含む。つまり、好ましい実施形態において、前記第1のポリマー材料は、少なくとも2個のアルデヒド基を有する材料を用いてポリビニルアルコールを架橋することによって形成された材料を含む。つまり前記第1のポリマー材料は、好ましくは式I:
【0011】
【化1】

(式中、Lは、前記架橋材の残基である)
で示される部分を含む。
【0012】
前記架橋材は、好ましくは第4のポリマー材料を含む。前記第4のポリマー材料は、好ましくは式:
【0013】
【化2】

(式中、AおよびBは、同一または異なっており、任意に置換された芳香族基および複素環式芳香族基から選択され、少なくとも一方が比較的極性の高い原子または基を含み、RおよびRは、独立に、比較的極性の低い原子または基を含む)
で示される反復単位を含む。
【0014】
AおよびBのうち少なくともいずれかが、多環式芳香族基または複素環式芳香族基であってもよい。AおよびBは、任意に置換された5員環以上、好ましくは6員環の芳香族および複素環式芳香族基から独立に選択されることが好ましい。前記複素環式芳香族基の好ましいヘテロ原子としては、窒素、酸素および硫黄原子が挙げられるが、そのうち酸素および特に窒素が好ましい。好ましい複素環式芳香族基は、ヘテロ原子を1つだけ含む。好ましくは、あるヘテロ原子または前記のへテロ原子は、複素環式芳香族基のポリマー主鎖への結合位置から最も離れた位置にある。例えば、複素環式芳香族基が6員環を含んでなる場合、ヘテロ原子は該環とポリマー主鎖との結合位置に対して4位にあることが好ましい。
【0015】
好ましくはAおよびBが異なる基を表す。好ましくは、AおよびBの一方が任意に置換された芳香族基を表し、他方が任意に置換された複素環式芳香族基を表す。好ましくは、Aが任意に置換された芳香族基を表し、Bが任意に置換された複素環式芳香族基、特にピリジニル基などの窒素のヘテロ原子を含む基を表す。
【0016】
別途記載のない限り、本明細書に記載される任意に置換された基、例えばAおよびBは、ハロゲン原子によって、ならびに任意に置換されたアルキル、アシル、アセタール、ヘミアセタール、アセタールアルキルオキシ、ヘミアセタールアルキルオキシ、ニトロ、シアノ、アルコキシ、ヒドロキシ、アミノ、アルキルアミノ、スルフィニル、アルキルスルフィニル、スルホニル、アルキルスルホニル、スルホネート、アミド、アルキルアミド、
アルキルカルボニル、アルコキシカルボニル、ハロカルボニルおよびハロアルキル基によって置換されていてもよい。好ましくは最大3個、より好ましくは最大1個の任意の置換基が、任意に置換された基に付与されていてもよい。
【0017】
別途記載のない限り、アルキル基は、最大10個、好ましくは最大6個、より好ましくは最大4個の炭素原子を有していてもよく、メチル基およびエチル基が特に好ましい。
好ましくはAおよびBのそれぞれが極性を有する原子または基を表す、即ち好ましくは基AおよびBの中に何らかの電荷分離が存在しているか、または基AおよびBが炭素原子および水素原子だけを含んでいるのではないかのうち少なくともいずれかである。
【0018】
AまたはBのうち少なくとも一方が、例えば前記第3のポリマー材料との反応において、縮合反応することができる官能基を含むことが好ましい。好ましくはAが、縮合反応することができる前記官能基を含む。
【0019】
好ましくは基AおよびBのうち一方が、カルボニルまたはアセタール基をはじめとする任意の置換基、特に好ましくはホルミル基を含む。基AおよびBの他方は、アルキル基である任意の置換基、特に好ましくは任意に置換された、好ましくは非置換の、C1〜4アルキル基、例えばメチル基を含んでいてもよい。
【0020】
好ましくは、Aは、例えば芳香族基(特にフェニル基)などの基であって、ホルミル基、または一般式:
【0021】
【化3】

(式中、Xは1〜6の整数であり、それぞれのRは独立にアルキルもしくはフェニル基であるか、または共にアルカレン(alkalene)基を形成している)
で示される基によって(Aが任意に置換されたフェニル基を表す場合、好ましくはポリマー主鎖に対して4位で)置換された基を表す。
【0022】
好ましくは、Bは、任意に置換された複素環式芳香族基、特にヘテロ原子上が水素原子、アルキル基またはアラルキル基で置換された窒素含有複素環式芳香族基を表す。より好ましくは、Bは、一般式:
【0023】
【化4】

(式中、Rは、水素原子、アルキル基、またはアラルキル基を表し、Rは、水素原子またはアルキル基を表し、Xは、強酸イオンを表す)
で示される基を表す。
【0024】
好ましくはRおよびRは、独立に、水素原子、または任意に置換された、好ましくは非置換のアルキル基から選択される。好ましくはRおよびRは、同一の原子または
基を表す。好ましくはRおよびRは、水素原子を表す。
【0025】
好ましい第4のポリマー材料は、特許文献1に記載された方法によって、以下のモノマーのうちいずれか、すなわち
α−(p−ホルミルスチリル)−ピリジニウム、γ−(p−ホルミルスチリル)−ピリジニウム、α−(m−ホルミルスチリル)−ピリジニウム、N−メチル−α−(p−ホルミルスチリル)−ピリジニウム、N−メチル−β−(p−ホルミルスチリル)−ピリジニウム、N−メチル−α−(m−ホルミルスチリル)−ピリジニウム、N−メチル−α−(o−ホルミルスチリル)−ピリジニウム、N−エチル−α−(p−ホルミルスチリル)−ピリジニウム、N−(2−ヒドロキシエチル)−α−(p−ホルミルスチリル)−ピリジニウム、N−(2−ヒドロキシエチル)−γ−(p−ホルミルスチリル)−ピリジニウム、N−アリル−α−(p−ホルミルスチリル)−ピリジニウム、N−メチル−γ−(p−ホルミルスチリル)−ピリジニウム、N−メチル−γ−(m−ホルミルスチリル)−ピリジニウム、N−ベンジル−α−(p−ホルミルスチリル)−ピリジニウム、N−ベンジル−γ−(p−ホルミルスチリル)−ピリジニウムおよびN−カルバモイルメチル−γ−(p−ホルミルスチリル)−ピリジニウム
から製造されてもよく、上述の文献の内容は参照により本明細書に援用される。これらの第4級の塩は、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、過塩素酸塩、テトラフルオロ臭酸塩、メト硫酸塩、リン酸塩、硫酸塩、メタンスルホン酸塩およびp−トルエンスルホン酸塩の形態で用いられてもよい。
【0026】
また、モノマー化合物は、以下の
【0027】

【化5】


をはじめとする、アセタール基を含むスチリルピリジニウム塩であってもよい。
【0028】
つまり、前記第4のポリマー材料は、水性溶媒中に一般式:
【0029】
【化6】

(式中、A、B、RおよびRは、先に記載したとおりである)
で示される化合物を(前記モノマー分子が凝集するのに適したように)提供すること、および前記化合物内のC=C基を(例えばUV照射を利用して)互いに反応させて、前記第4のポリマー材料を形成させることによって製造されるか、または製造可能であることが
好ましい。
【0030】
前記第4のポリマー材料は、式:
【0031】
【化7】

(式中、A、B、RおよびRは、先に記載したとおりであり、nは整数である)
で示されるものであってもよい。整数nは、適切には10以下、好ましくは8以下、より好ましくは6以下、特に5以下である。整数nは、適切には少なくとも1、好ましくは少なくとも2、より好ましくは少なくとも3である。前記第3および第4のポリマー材料からの前記第1のポリマー材料の形成は、縮合反応を含むことが好ましい。前記第1のポリマー材料の形成は、酸触媒反応を含むことが好ましい。前記第3および第4のポリマー材料は、反応(例えば縮合反応)して前記第1のポリマー材料を形成するように構成された官能基を含むことが好ましい。前記第3および第4のポリマー材料は、反応(例えば酸触媒反応)して前記第1のポリマー材料を形成するように構成された官能基を含むことが好ましい。
【0032】
前記第1のポリマー材料は、前記第3のポリマー材料と前記架橋材、特に前記第4のポリマー材料、との混合物を提供すること、およびそれら2種の材料を反応させることによって製造してもよい。好ましくは、前記混合物は、少なくとも2重量%、より好ましくは少なくとも3重量%の前記第3のポリマー材料を含む。第3のポリマー材料の分子量が比較的低い(例えば50,000)場合、混合物中の前記第3のポリマー材料の最大量は、最大40重量%であってもよい。第3のポリマー材料の分子量がより大きい場合、最大量はより小さく、例えば最大30重量%、または最大20重量%となりうる。前記混合物は、少なくとも0.05重量%、好ましくは少なくとも0.1重量%の前記架橋手段、特に前記第4のポリマー材料を含んでいてもよい。前記架橋手段の量は、最大3重量%であってもよい。
【0033】
前記第3のポリマー材料および前記架橋手段は、好ましくは水中に提供される。前記混合物は、少なくとも80重量%、適切には少なくとも85重量%、好ましくは少なくとも92重量%、より好ましくは少なくとも95重量%、特に少なくとも96重量%の水を含みうる。前記混合物は、別の微量成分、例えば前記第3のポリマー材料および前記架橋手段からの前記第1のポリマー材料の形成を触媒する触媒、特に酸を含んでいてもよい。
【0034】
前記第1のポリマー材料は、適切には式:
【0035】
【化8】

(式中、R、RおよびBは先に記載したとおりであり、Aは、前記第3および第4のポリマー材料が関与する反応後の、先述の基Aの残基を表し、Yは、前記第3および第4のポリマー材料が関与する前記反応後の、前記第3のポリマー材料の残基を表し、Xは、第3のポリマー材料の残基と第4のポリマー材料の残基の間に伸びて結合する原子または基を表す)
で示される部分を含む。一つの好ましい実施形態において、Aは、任意に置換されたフェニル基を表し、Xは、酸素原子を介して前記第3のポリマー材料の残基に結合している基:
【0036】
【化9】

を表す。例えば基Xは、前記第3のポリマー材料のポリマー主鎖に結合していてもよい。
【0037】
水のレベルは、ステップ(b)において任意の適切な手段によって低下させてもよい。適切には、乾燥は、大気圧または大気圧未満(例えば真空中)で、10℃〜60℃の範囲内の温度で実施される。
【0038】
ステップ(c)では、比較的低レベルの水を封入した状態で含有する第2のポリマーが、前記誘導体化手段で処理される。前記第2のポリマー材料の誘導体化は、一連のステップを含むことが好ましい。第1の誘導体化ステップにおいて、前記第2のポリマー材料は、前記第2のポリマー材料と適切に反応する第1の誘導体化材料で処理されてもよい。第2のポリマー材料と前記第1の誘導体化材料との間に複合体が形成されてもよく、あるいは、反応に第2のポリマー材料と第1の誘導体化材料との共有結合の形成を伴うことが好ましい。前記第2のポリマー材料と前記第1の誘導体化材料との反応が、5重量%未満、好ましくは1重量%未満の水の存在下で実施されることが好ましい。該反応は有機溶媒(例えばアセトン)中で実施されることが好ましい。該反応は、実質的に水が存在しない状態で実施されることが好ましい。この場合、ミクロボイドに封入された水を本方法のステップ(b)で除去済みのポリマー材料中のミクロボイド中には反応物がほとんど浸透および反応せず、反応は主として第2のポリマー材料の表面で行われることになろう。
【0039】
前記第1の誘導体化材料は、先に言及した化学的架橋材のいずれの特徴を有していてもよい。第1の誘導体化ステップが、有機溶媒中で実質的に水が存在しない状態で実施される場合、そのような第1の誘導体化材料は、第2のポリマー材料の部分をそれほど大幅には架橋しないはずである(第1の誘導体化ステップ)。前記第1の誘導体化材料は、好ましくは二官能基であり、好ましくは該材料の各分子の一つの官能基だけが、前記第1の誘
導体化ステップで第2のポリマー材料と反応する。好ましくは前記第1の誘導体化材料は、少なくとも1個のアルデヒド基を含む。
【0040】
前記第1の誘導体化材料は、前記第4のポリマー材料を製造することができる上記のモノマーから選択されてもよい。
第2のポリマー材料の誘導体化は、前記第2のポリマー材料上に結合部分を導入するように構成された一つ以上の誘導体化ステップ(前記第1のステップを含む)を含みうる。結合部分は、適切には、第2のポリマー材料を活性部分に結合させるように構成されている。活性部分が所望の特性を有するように選択することによって、その所望の特性を本方法で製造され誘導体化される材料に付与する手段を提供することもできる。例えば、該活性部分は、生物学的適合性を有していてもよく(それゆえ、第1のポリマー材料の生物学的適合性を増大させるように構成されてもよく)、そして/または細胞への接着性を増大させるように構成されてもよい。好ましい活性部分としては、アミノ酸を含有する部分、ペプチドおよび蛋白質が挙げられる。あるいは活性部分は、導電性ポリマー、有機半導体、またはミクロエレクトロニクスのインターフェース技術に関連する別の材料を含んでいてもよい。
【0041】
状況によっては、前記第1のステップの一部として記述の種類の活性部分を導入することが可能な場合がある。しかし、前記活性部分は、適切には前記第1のステップの後のステップで導入される。
【0042】
上記のとおり、前記第1の誘導体化ステップは、適切には、実質的に水が存在しない状態で実施される。その後の1以上のステップも、実質的に水が存在しない状態で実施されてよい。あるいは後続の誘導体化ステップが、水の存在下で実施されてもよい。そのような後続の誘導体化ステップにおける反応物は、ミクロボイド中に実質的に浸透せず、前記第2のポリマー材料を前記誘導体化手段で誘導体化することによって生成された官能基以外の官能基と反応しないことが好ましい場合があるため、誘導体化ステップが水の存在下で実施される場合には、該誘導体化ステップが前の誘導体化ステップで形成された官能基との反応を必要とするように反応物および/または条件が選択される。これを実現するためには、誘導体化において、ポリマー材料の官能基のうち前の誘導体化ステップで形成された官能基以外の官能基とは反応することができない官能基を有する材料を使用してもよく、あるいは前の誘導体化ステップで形成された基と選択された材料との反応速度が、その特定のポリマー材料の他の官能基の反応速度より急速であってもよい。
【0043】
第2のポリマー材料の誘導体化は、アミン基を有する化合物を第2のポリマー材料またはその誘導体、例えば上述の結合基を含む誘導体と反応させる誘導体化ステップを含むことが好ましい。アミン基を含む化合物を用いる誘導体化は、水性溶媒中で実施されることが好ましい。
【0044】
第1の態様の方法は、封入された水のレベルをステップ(b)の後に上昇させることを含んでいてもよい。封入された水のレベルは、ステップ(c)において誘導体化手段で処理する際に上昇させてもよいし、その後上昇させてもよい。有利な点は、既述のように誘導体化および再水和した後の第1のポリマー材料の強度は、ステップ(a)で選択された第1のポリマー材料の強度と同等である(場合により、何らかの点で高いこともある)ことである。
【0045】
ステップ(a)で選択された第1のポリマー材料が、所定のマイクロトポグラフィおよび/または表面パターンおよび/または形状を備えていてもよい。上記方法を実施する際、マイクロトポグラフィ、表面パターンおよび/または形状が材料の誘導体化後に実質的に維持されていると有利である。
【0046】
本発明の第2の態様によれば、ポリマー材料を製造する方法であって、
(a)(i)前記第1の態様に記載した第4のポリマー材料によって架橋された、前記第1の態様に記載した第3のポリマー材料;または
(ii)式VI(式中、R、R、B、A、XおよびYは、前記第1の態様に記載したとおりである)で示される部分を含むポリマー材料、
を含む第5のポリマー材料を選択すること;および
(b)前記第5のポリマー材料を、同ポリマー材料を誘導体化するための前記第1の態様に記載した誘導体化手段で処理すること
を含む方法が提供される。
【0047】
第1の態様のいずれかの特徴が、必要な変更を加えながら第2の態様に適用されてもよい。
第1および第2の態様の方法を用いて、同方法で誘導体化されるポリマー材料の表面にマイクロパターン化された化学的性質を導入してもよい。これについては、ポリマー材料は、その表面上の所定の位置が第1の部分によって誘導体化され、同表面の他の部分は誘導体化されないか、または異なる第2の部分によって誘導体化されうる。一実施態様において、第1の部分が、表面上の位置に生物学的適合性(例えば細胞への接着性)を与えるように構成されてもよく、これに対し表面の残りの部分は生物学的適合性が低くてもよいし、かつ/または細胞の付着を阻止するように構成されてもよい。
【0048】
表面にマイクロパターン化される化学的性質は、ポリマー材料の表面の所定の位置を誘導体化手段、例えば上記のアミン基を有する化合物に接触させることによって生成させてもよい。
【0049】
本発明の第3の態様によれば、前記第1の態様または前記第2の態様による方法で製造される、または製造可能な誘導体化ポリマー材料が提供される。
本発明の第4の態様によれば、誘導体化ハイドロゲルが提供される。ハイドロゲルは、第1または第2の態様により記載したとおりであってもよい。
【0050】
第4の態様の前記ハイドロゲルは、ゲルのマクロボイドよりも主としてその表面領域が誘導体化されることが好ましい。
第3および第4の態様の誘導体化ポリマー材料またはハイドロゲルは、アミド基を含んでもよい。前記アミド基は、好ましくはポリマー主鎖のペンダント部分の一部である。該アミド基が誘導体化手段をポリマー主鎖に結合させることが好ましい。アミド基が、活性部分、例えばアミノ酸を含有する材料を前記ポリマー主鎖のペンダント部分の一部に結合させることが好ましい。
【0051】
本発明の第5の態様によれば、生物学的用途のための材料を製造する方法であって、前記第1の態様による第1もしくは第2のポリマー材料、または前記第2の態様による第5のポリマー材料の表面に、マイクロトポグラフィ形状を形成させることを含む方法が提供される。
【0052】
前記マイクロトポグラフィ形状は、予め決められていることが好ましい。
第3の態様に従って処理されたポリマー材料は、前記マイクロトポグラフィ形状の形成前、形成時、および/または形成後に水を封入してもよい。本発明の方法は、マイクロトポグラフィ形状が形成された後に、封入された水のレベルを低下させるステップと、任意選択で、前記マイクロトポグラフィ形状を備えたポリマー材料を第1の態様のステップ(c)および第2の態様のステップ(b)に記載したように誘導体化するステップと、を含んでもよい。有利な点としては、誘導体化をポリマー材料の表面の所定の位置に限定する
ことにより、表面にマイクロパターン化された化学的性質を導入してもよい。従って、製造される材料に、3次元の表面パターンと、表面がパターン化された化学的性質との両方を組入れることで、創傷被覆材(など)の特定の生物学的適用において有益なものとすることができる。
【0053】
第5の態様により記載したとおりにマイクロトポグラフィ形状を形成するには、型板(例えば格子状のスライド)を形成すること、所望のトポグラフィーを組入れること、およびマイクロトポグラフィ形状を形成しようとするポリマー材料に型板を接触させることが含まれうる。ポリマー材料との接触はポリマー材料が完全に重合する前に行われ、ポリマー材料が重合する間接触を続けることを好ましい。マイクロトポグラフィ形状を形成しようとするポリマー材料が、先に記載した前記第3および第4のポリマー材料から製造される場合、本発明の方法は、第3および第4のポリマー材料を任意の必要な触媒と混合すること、その混合物を型板に接触させること、ならびに第3のポリマー材料と第4のポリマー材料とを反応させることを含みうるが、あるいは第3のポリマー材料および第4のポリマー材料を含む混合物は、型板に接触する前に少なくとも一部が反応してもよい。その後、第3および第4のポリマー材料の反応が完了すればよい。
【0054】
前記マイクロトポグラフィ形状は、本発明の方法でマイクロトポグラフィ形状を画定するために用いられる型板を用意することによって予め決められていてもよい。型板は、第5の態様の方法で処理される第1のポリマー材料中に生成される形状のネガ板であってもよい。
【0055】
前記第5の態様により形成されるマイクロトポグラフィ形状は、表面の均一な形状、例えば寸法が100μm未満でありうる溝を含んでいてもよい。
本発明の第6の態様によれば、好ましくは生物学的用途のためのポリマー材料であって、マイクロトポグラフィ形状を有する本明細書に記載のポリマー材料またはハイドロゲルを含むポリマー材料が提供される。
【0056】
ポリマー材料またはハイドロゲルは、第3または第4の態様により記載したとおりでよい。従って本発明は、誘導体化された、好ましくはアミノ酸を含有する材料によって誘導体化されたマイクロトポグラフィ形状を有するハイドロゲルを提供することが好ましい。
【0057】
本発明の第7の態様によれば、第3、第4、第5または第6の態様のいずれかによる誘導体化ポリマー材料またはハイドロゲルを含む創傷ケア製品が提供される。
創傷ケア製品は、硬膏剤でも包帯(など)でもよく、または体内で使用可能な場合、移植可能なプロテーゼ(など)であってもよい。用語「創傷」は、損傷および/または疾患に起因する障害を包含する。
【0058】
本発明の第8の態様によれば、ヒトまたは動物の体の処置方法、例えば損傷組織および/もしくは罹患組織ならびに/または創傷の処置方法であって、第3、第4、第5、第6または第7の態様による誘導体化ポリマー材料、ハイドロゲルまたは創傷ケア製品を、処置しようとする部分またはその近辺に配置することを含む方法が提供される。
【0059】
本発明の第9の態様によれば、損傷組織および/もしくは罹患組織ならびに/または創傷を処置する材料を製造するための第3、第4、第5または第6の態様によるポリマー材料またはハイドロゲルの使用が提供される。
【0060】
本明細書に記載のいずれかの発明または実施形態のいずれかの態様のいずれかの特徴を、本明細書に記載の別のいずれかの発明または実施形態のいずれかの態様のいずれかの特徴と組み合わせてもよい。
【0061】
本発明の具体的実施形態について、フィブロネクチンによるハイドロゲルの誘導体化を簡略に示す図1を参照しながら、例をあげてここに記載する。
以下の実施例には、ハイドロゲルを「高性能の」被覆材として使用するために製造および操作する方法が記載されている。高性能の被覆材を製造する目的は、様々な種類の創傷の細胞外マトリックスを再構築し、その後、細胞移動および細胞分裂に対する許容性の高い代替的基体として働き得る微細環境条件を、マイクロエンジニアリング技術を用いて再現することにある。細胞を適切に移動および分裂させるためには、接着性の細胞に、誘導の合図となるマイクロトポグラフィ形状を有する適切な表面またはマイクロパターン化された化学的性質を有する表面、特に細胞の移動を開始させ促進するのに必要な表面を与えることが重要である。概括的に言えば、以下の実施形態では、ハイドロゲルの表面のマイクロトポグラフィを操作して所定の様態とし、その後、表面の化学的性質を調整することによって細胞を適切に移動および分裂させるのに用い得る材料を提供することができる手段が提供される。
【実施例1】
【0062】
[ハイドロゲルを製造する一般的方法]
ステップ(a):ポリ(1,4−ジ(4−(N−メチルピリジニル))−2,3−ジ(4−(1−ホルミルフェニル)ブチリデンの製造
内容が本明細書に参考として援用されるPCT/GB97/02529の実施例1に記載したとおりに製造した。同方法では、1重量%を超える4−(4−ホルミルフェニルエテニル)−1−メチルピリジニウムメトスルホネート(SbQ)の水溶液を、SbQを周囲温度の水と混合することによって調製する。そのような条件下では、SbQ分子は凝集体を形成する。その後、溶液を紫外線に暴露した。その結果、以下の反応スキームに示したとおり、凝集体の中の4−(4−ホルミルフェニルエテニル)−1−メチルピリジニウムメトスルフェート分子(VIII)の隣接する炭素間二重結合の間に光化学反応が起り、ポリマーであるポリ(1,4−ジ(4−(N−メチルピリジニル))−2,3−ジ(4−(1−ホルミルフェニル)ブチリデンメトスルホネート(IX)が生成する。当然のことであるが、化合物VIIIおよびIXのアニオンは明確さを期すために省略されている。
【0063】
【化10】

ステップ(b)
分子量300,000の88%水和ポリ(ビニルアルコール)の所定の量を、60℃で6時間加熱することによって水に溶解する。その後、これを放冷して、ステップ(a)のブチリデンポリマーの所定の量を同溶液に溶解する。
【0064】
ステップ(c)
酸触媒をステップ(b)の混和物に添加し、適切にはpHを約2にする。その後、この混合物を自然に重合させることにより、ステップ(a)のブチリデンポリマーが以下のスキームに従ってポリビニルアルコールを架橋する。
【0065】
【化11】

酸の濃度が、架橋反応の速度に影響を及ぼす。架橋が起きると、本明細書に記載したとおり処理および/または操作され得るハイドロゲルが形成される。
【0066】
生成したこのハイドロゲルは、80〜90重量%の水を含むことができる。
【実施例2】
【0067】
[所定のマイクロトポグラフィを組入れた格子状のスライドを製造するための一般的方法]
適切なマイクロトポグラフィの合図は、通常は溶融シリカまたは同様の材料で作製される原型を用いてゲルの表面に型押/流延された、一連の溝および隆線またはチャネルとして、細胞に提示される。マイクロトポグラフィの所望のデザインは、写真縮尺または特定のデザインパッケージの使用のいずれかによって、最初にリソグラフィのレジストマスクとして描出される。このリソグラフィのマスクを通してUVに露光し、その後、現像液を用いて露光/非露光フォトレジスト(ポジティブフォトレジストまたはネガティブフォトレジストのどちらを用いるかによって、いずれかが可能になる)を除去することによって、フォトレジストがパターン化される。この工程を利用して、長さ10〜100μmの範囲の形状を作製することができる。これより小さい(例えば50nm〜10μmの)マイクロトポグラフィ形状を作製するためには、通常はPMMAの電子ビームレジストを、ビームライターを用いて露光させることにより、デザインをレジストの表面に直接描く。いずれの種類の装置についても、エッチングマスクとしてパターン化されたレジストを用いて、Cまたはその均等物などの気体で、所定のエッチング深さを実現するのに必要な程度に十分な時間、無地の溶融シリカ表面を反応性イオンエッチングすることによって、所定のマイクロトポグラフィを組入れた格子状のスライドを作製する。
【0068】
その後、製造した格子状のスライドを用いて、マイクロトポグラフィをハイドロゲル表面に作製してもよい。
【実施例3】
【0069】
[マイクロトポグラフィを組入れた流延法ハイドロゲルの製造]
実施例2に記載したとおり作製され選択された格子状のスライドを、超音波槽中の10%デコン(Decon 、洗剤)溶液で40分間洗浄し、水で十分にすすぎ、完全に乾燥させて放冷した。その後、スライドを100%アセトンですすぎ、再度乾燥させた。ペトリ皿をヘモソール(heamosoal 、洗剤)で洗浄し、十分に水ですすいで乾燥させ、最後に100%アセトンですすぎ、過剰のアセトンを蒸発させた。その後、スライドの格子側を上にして、ペトリ皿に入れた。10重量%ポリビニルアルコール溶液60gおよび実施例1のステップ(c)のポリマー0.1gを用いて、実施例1のステップ(a)〜(c)に記載したものとほぼ同様にハイドロゲル配合物を調製した。形成された水溶液には、10重量%のポリビニルアルコールおよび0.5重量%の実施例1、ステップ(c)のポリマーが含まれている。20%HCl 1mlの存在下でこの配合物を緩徐に混合して、気泡を減少させた。その後、重合中の該混合物をペトリ皿に注ぎ入れ、通風棚で一晩、完全に重合させた。その後、この皿を50℃、−1995Pa(−15mmHg)圧の真空オーブン中に一晩置いた。完全に重合した後、ハイドロゲルを皿(およびスライド)から剥いで、ハイドロゲルに形成された格子を周りの余分なハイドロゲルから切り離した。顕微鏡検査では、ハイドロゲルが格子を非常に良好に再現できることが見出されている。
【実施例4】
【0070】
[マイクロトポグラフィを組入れた引張ハイドロゲル(pulled hydrogel )の製造]
選択した格子状のスライドを、実施例3に記載したとおり作製し、乾燥させた後、逆さにしたペトリ皿上に、格子側を上にして置いた。10重量%ポリビニルアルコール溶液20gおよび実施例1、ステップ(c)のポリマー0.1gを用いて、ハイドロゲルを製造した。形成された水溶液には、10重量%のポリビニルアルコールおよび0.5重量%の実施例1、ステップ(c)のポリマーが含まれている。その後、この水溶液を20%HCl 0.2mlと緩徐に混合し、その後、5cmペトリ皿に注ぎ入れて、延伸可能な数mm厚のハイドロゲルを生成させた。重合中の特定の時点(ハイドロゲルの粘着性は指に付くほどではないが「潤い」は十分にある時点)で、ハイドロゲルの角を指先で持ち上げて、格子を載せたペトリ皿の上に引き伸ばして覆った。ハイドロゲルを室温で1時間放置し
て、50℃のオーブンに45分間入れて完全に重合させた。完全に重合した後、ハイドロゲルを注意深く皿(およびスライド)から剥いで、格子を余分なハイドロゲルから切り離した。
【0071】
同様に顕微鏡検査によって、ハイドロゲルが格子を非常に正確に再現できることが明らかとなる。
【実施例5】
【0072】
[ハイドロゲルを誘導体化するための一般的手法]
本明細書に記載したハイドロゲルのいずれか(マイクロトポグラフィを組入れたもの、または他のもの)を誘導体化して、生物学的適合性を改善すること、または細胞への接着性を高めることのうち少なくともいずれかが可能であり、そのような誘導体化ハイドロゲルは広範囲の用途に用いることができる。好ましい実施形態では、ゲルを乾燥させてから誘導体化する。これは、20〜40℃の範囲の温度で約16時間、真空乾燥させることを含んでもよい。適切には、ゲルが含有する水が1重量%未満(例えば熱重量分析によって測定)となるようにゲルを乾燥させる。乾燥させたゲルを誘導体化する際、主として(ゲルの内部領域よりも)ゲルの表面が誘導体化されることが見出されており、このことから多数の利点が得られる可能性がある。例えば、生物学的適合性および/またはゲルが細胞に接着する能力が、そのような誘導体化ゲルの表面に集中することによって、ゲル本体への進入が制限される。その上、誘導体化によってゲルの強度が有意に低下することはなく、場合によっては強度が上昇し得ることも見出されている。より詳細には、誘導体化した乾燥ゲルを再水和させることができ、得られた水和誘導体化ゲルは、誘導体化していないものに比べて同等の(またはそれを超える)強度を有しうる。
【0073】
一連の方法を用いてハイドロゲルを誘導体化してもよい。最初に、例えば生物学的適合性材料などの材料をゲルに共有結合させてもよい。この点については、先の実施例1のゲルの場合、誘導体化は、ゲル上にヒドロキシ、アセテートまたはアルデヒド基を含ませる反応を伴うものでもよい。そのような基を介して結合基をゲルに結合させ、次いで該結合基に所望の生物学的適合性材料を共有結合させてもよい。適切な結合基の例として、以下の:
−実施例1、ステップ(a)のポリマー。このポリマーは、実施例1、ステップ(c)の架橋ポリマーのヒドロキシル基と反応し得るアルデヒド基を有している
−実施例1、ステップ(a)に記載のモノマー(SbQ)。このポリマーも、ヒドロキシル基と反応し得るアルデヒド基を有している
−英国特許第2030575B号明細書の第3ページ第8〜39行に記載のモノマー、および同モノマーから国際公開第98/12239号パンフレットに記載のとおりに製造されたポリマー
が挙げられる。
【0074】
第2に、電荷移動錯体を形成させることによってゲルに生物学的適合性材料を会合させてもよい。より詳細には、錯体が、上記のようなピリジニウム含有化合物で誘導体化されたゲルまたはゲル変形物のピリジニウム部分のN部分と相互作用すればよい。例えば、この方法論を用いて、ラウリル硫酸ナトリウムなどの界面活性剤をゲルに結合させてもよい。この場合、誘導体化したゲルは、その後の水和の際に膨潤し難くなり、これによってゲルの、例えば同ゲルのカルボニル基の更なる反応を促進することができる。
【0075】
ゲルを誘導体化する方法が、ゲルと会合させたい生物学的適合性材料の性質に応じて選択されることは理解されよう。多くの実施形態において、生物学的適合性材料は1個以上のアミン基を含み(例えば該材料は蛋白質またはアミノ酸であってもよい)、その場合、材料は、アミド結合によってゲルに共有結合されてもよい。この方法でゲルに結合するこ
とができ、ゲルの細胞との適合性を改善することができる材料の例としては、いずれも公知の細胞外マトリックス成分、サイトカイン、成長因子、ホルモン、およびその他の細胞内または細胞外シグナル分子が挙げられる。具体的な例は、フィブロネクチンである。
【実施例6】
【0076】
[フィブロネクチンによるハイドロゲルの誘導体化]
図1を参照すると、表面にポリビニルアルコール部分を有する実施例1のステップ(c)のハイドロゲル(XI)を、アセトンおよび酸の存在下、実施例1のステップ(b)のブチリデンポリマー(XII )で処理することにより、縮合生成物XIIIが生成される。その後、生成物XIIIをアセトン中のカルボニルジイミダゾール(XIV )で処理してXVを生成し、このXVを水溶性フィブロネクチン(XVI )で処理してフィブロネクチン誘導体化ハイドロゲルXVIIを生成させる。
【0077】
より詳細には、実施例1、ステップ(c)のポリマー2gをアセトン100mlに添加し、その溶液を2時間撹拌する。これにより、アセトン中に飽和した実施例1、ステップ(c)のポリマーの溶液が生成する(過剰の未溶解ポリマーが、フラスコの底に見られる)。濃塩酸0.5mlをこの溶液に添加する。その後、この酸性化したポリマー/アセトン溶液中に乾燥したハイドロゲルフィルムを少なくとも4時間(ただし16時間を超えずに)浸漬させる。(例としては、直径約10cm、厚さ0.5mmの大きさの乾燥ハイドロゲルフィルムには、溶液約50mlが必要である)。その後、フィルムをアセトンで数回洗浄し、25℃で約4時間、真空乾燥させる。
【0078】
アセトン中の1重量%カルボニルジイミダゾール溶液100mlを調製し、同溶液に、先のように製造したハイドロゲルフィルムを4時間浸漬させる。その後、フィルムを取り出して再度アセトンで数回洗浄し、25℃で4時間、真空乾燥させる。
【0079】
先のフィルムをフィブロネクチンの水溶液に暴露すると、フィブロネクチンが表面に共有結合する。その後、フィルムを滅菌蒸留水で洗浄する。
【実施例7】
【0080】
[ゲル表面にマイクロパターン化された化学的性質をもたらすための一般的手法]
実施例5および6に記載したとおりハイドロゲルの表面全体を誘導体化してもよいが、ゲルの所定の領域のみを誘導体化することにより所定のパターンを有する所望の化学的性質を表面に形成することも可能である。これを実現する第1の方法は、流延による(または他の方法で形成した)所望のマイクロトポグラフィを表面に有するエラストマーのスタンプの使用を伴う。エラストマーを硬化して、アミン基含有化合物(例えばフィブロネクチンなどの蛋白質)の溶液に一定時間(約20分間)浸し、用途に応じて該蛋白質を十分に吸収させる。このスタンプを窒素流に短時間暴露して乾燥させる。その後、該スタンプを、適切な官能基で誘導体化したハイドロゲル上に、該官能基がアミン基含有化合物のアミン基と反応できるように接触側を下にして置く(例えばスタンプを用いて、図1の化合物XVにより誘導体化したゲルにフィブロネクチン(XVI )を送達してもよい)。十分な接触時間(例えば1分)の後、スタンプを取り外すが、ゲルの所定の位置には共有結合したアミン化合物が残る。その後、任意選択で、誘導体化していない領域を他のアミン基含有化合物で処理してもよい。この化合物は、細胞に結合するための2種のアミン化合物の組合せによる効果などに基づいて選択されてもよいし、細胞付着の阻害剤として作用するものでもよい。阻害剤の例は、アルブミンおよびカゼインである。
【0081】
表面にマイクロパターン化した化学的性質を付与する第2の方法は、先に記載したようなスタンプの使用を含むが、但しこの場合のスタンプは平面である。アミン含有化合物が装荷されたスタンプを操作担当者が選択位置に移動させて、ゲル表面に接触させ、その選
択位置の表面に所望の化学的性質を画定する。
【0082】
(製造した材料の使用)
例えばフィルムの形態で、表面にマイクロトポグラフィおよび/またはマイクロパターン化された化学的性質を組入れたゲルを、適切な寸法で形成させて創傷用の被覆材として機能させてもよい。その場合、被覆材の加工した側を下向きにして、創傷そのものにあてる。任意選択で、創傷を皮膚剥離術(など)で前処置することによって、生存能力のある細胞とハイドロゲルとが適切に接触するようにしてもよい。ヒト皮膚細胞および創傷モデルによる試験から、該被覆材が創傷の閉塞および/または治癒の進行を促進し得ることが示された。
【0083】
本願に関連する本明細書と同時、またはそれ以前に提出され、本明細書と共に公開されている全ての論文および文書に留意されたい。そのような論文および文書の全ての内容は、参照により本明細書に援用される。
【0084】
本明細書(添付の特許請求の範囲、要約書および図面を含む)に開示される特徴の全て、および/またはそのように開示される方法または工程のステップ全てが、いかなる組合せとされてもよいが、但しそのような特徴および/またはステップの少なくとも幾つかが互いに排除されるような組合せは除く。
【0085】
本明細書(添付の特許請求の範囲、要約書および図面を含む)に開示される各特徴は、別途記載のない限り、同様、均等または類似の目的を果たす別の特徴で置換えられてもよい。つまり、別途記載のない限り、開示された各特徴は、均等または類似の特徴を有する包括的集合物の一例に過ぎない。
【0086】
本発明は、前述の実施形態の詳細に限定されるものではない。本発明は、本明細書(添付の特許請求の範囲、要約書および図面を含む)に開示された特徴のうち新規なもの、もしくは新規な組合せ、またはそのように開示された方法または工程のステップの新規なもの、もしくは新規な組合せにもおよぶ。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1A】フィブロネクチンによるハイドロゲルの誘導体化を示す略図。
【図1B】フィブロネクチンによるハイドロゲルの誘導体化を示す略図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を封入した状態で含むタイプのポリマー材料を誘導体化する方法であって、
(a)水を封入した状態で含む第1の水和ポリマー材料を選択すること、
(b)前記第1の水和ポリマー材料中に封入された水のレベルを低下させて、第2のポリマー材料を生成させること、
(c)前記第2のポリマー材料を誘導体化手段で処理して、前記第2のポリマー材料を誘導体化すること
を含む方法。
【請求項2】
前記第1のポリマー材料中の水の重量%と、前記第2のポリマー材料中の水の重量%との差が、少なくとも40重量%であり、前記第2のポリマー材料が、10重量%未満の水を封入した状態で含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の水和ポリマー材料が、架橋手段によって架橋された第3のポリマー材料を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1のポリマー材料が、第3のポリマー材料を選択すること、および第3のポリマー材料を前記架橋手段で処理することによって製造され、前記第3のポリマー材料が、ヒドロキシル、カルボン酸、カルボン酸誘導体およびアミン基から選択される官能基を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記第3のポリマー材料がポリビニルポリマーである、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
前記第3のポリマー材料がポリビニルアルコールである、請求項3〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記第1のポリマー材料が架橋ポリビニルアルコールを含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記第1のポリマー材料が、式I:
【化1】

(式中、Lは、前記架橋材の残基である)
で示される部分を含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記架橋手段が、式:
【化2】

(式中、AおよびBは、同一または異なっており、任意に置換された芳香族および複素環式芳香族基から選択され、少なくとも一方が比較的極性の高い原子または基を含み、RおよびRは、独立に、比較的極性の低い原子または基を含む)
で示される反復単位を含む第4のポリマー材料を含む、請求項3または4に記載の方法。
【請求項10】
AおよびBが異なっており、任意に置換された芳香族および複素環式芳香族基から選択され、AおよびBの少なくとも一方が比較的極性の高い原子または基を含み、RおよびRが、独立に、比較的極性の低い原子または基を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記第1のポリマー材料が、式:
【化3】

(式中、R、RおよびBは請求項9および10に記載したとおりであり、Aは、前記第3および第4のポリマー材料が関与する反応後の、請求項9および10に記載した基Aの残基を表し、Yは、前記第3および第4のポリマー材料が関与する前記反応後の、前記第4のポリマー材料の残基を表し、Xは、前記第3のポリマー材料の残基と第4のポリマー材料の残基の間に伸びて結合する原子または基を表す)
で示される部分を含む、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
ステップ(b)において、乾燥が10℃〜60℃の範囲内の温度で行われる、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
ステップ(c)において、前記第2のポリマー材料が第1の誘導体化ステップで誘導体化され、同ステップにおいて、前記第2のポリマー材料が、前記第2のポリマー材料と反応する第1の誘導体化材料で処理され、前記反応が、5重量%未満の水の存在下、および有機溶媒中で実施される、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記第1の誘導体化材料が、1種以上のカルボニル、カルボキシル、ヒドロキシル、エポキシ、ハロゲン、またはアミノ官能基を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記第1の誘導体化材料が、一般式:
【化4】

(式中、A、B、RおよびRは、請求項9および10のうち少なくともいずれかに記載したとおりである)
で示される化合物から選択される、請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
前記第2のポリマー材料の誘導体化が、前記第2のポリマー材料上に結合部分を導入するように構成された1以上の誘導体化ステップを含み、前記結合部分が、前記第2のポリマー材料を活性部分に結合させるように構成されている、請求項1〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記活性部分が生物学的適合性を有する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記活性部分が、アミノ酸を含有する部分、ペプチド、蛋白質、導電性ポリマー、および有機半導体から選択されるか、または前記活性部分が、細胞の化学的性質または生物学的性質をモニタリングするセンサーの一部であってもよい、請求項16または17に記載の方法。
【請求項19】
ステップ(b)の後のある段階で、封入された水のレベルを上昇させることを含む、請求項1〜18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
ポリマー材料を製造する方法であって、
(a)(i)請求項9または10に記載の第4のポリマー材料によって架橋された、請求項3〜6のいずれか1項に記載の第3のポリマー材料;または
(ii)請求項11に記載の式VIで示される部分を含むポリマー材料、
を含む第5のポリマー材料を選択すること;および
(b)前記第5のポリマー材料を、同ポリマー材料を誘導体化するための誘導体化手段で処理すること
を含む方法。
【請求項21】
請求項1〜19のいずれか1項に記載の方法で製造される、または製造可能な誘導体化ポリマー材料。
【請求項22】
生物学的用途のための材料を製造する方法であって、請求項1〜21のいずれか1項に記載の第1、第2または第5のポリマー材料の表面にマイクロトポグラフィ形状を形成させることを含む方法。
【請求項23】
請求項1〜22のいずれか1項に記載の、マイクロトポグラフィ形状を有する前記第1、第2もしくは第5のポリマー材料またはハイドロゲルから選択されるポリマー材料。
【請求項24】
請求項1〜23のいずれか1項に記載の誘導体化ポリマー材料またはハイドロゲルを含む創傷ケア製品。
【請求項25】
ヒトまたは動物の体を処置する方法であって、請求項1〜24のいずれか1項に記載の
誘導体化ポリマー材料、ハイドロゲルまたは創傷ケア製品を、処置しようとする部分またはその近辺に配置することを含む方法。
【請求項26】
損傷組織および罹患組織のうち少なくともいずれか、ならびに創傷のうち少なくともいずれかの処置用の材料を製造するための、請求項1〜25のいずれか1項に記載のポリマー材料またはハイドロゲルの使用。

【図1A】
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【図1B】
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【公表番号】特表2006−505648(P2006−505648A)
【公表日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−549354(P2004−549354)
【出願日】平成15年11月5日(2003.11.5)
【国際出願番号】PCT/GB2003/004791
【国際公開番号】WO2004/041872
【国際公開日】平成16年5月21日(2004.5.21)
【出願人】(399016835)ユニバーシティ・オブ・ブラッドフォード (7)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITY OF BRADFORD
【Fターム(参考)】