説明

誘電体セラミックおよび積層セラミックコンデンサ

【課題】 誘電率の温度係数が正でありながら、誘電率の高い、温度補償用セラミックコンデンサに好適な誘電体セラミックを提供する。
【解決手段】 SnmNb26(0.7≦m≦1.3)を主成分とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、誘電体セラミックおよびそれを用いて構成される積層セラミックコンデンサに関するもので、特に、正の誘電率温度特性を有する誘電体セラミックに関する。
【背景技術】
【0002】
各種電子回路には、温度補償用セラミックコンデンサが用いられることがある。これには、静電容量の温度変化に直線性が求められる。好ましくは、静電容量の温度係数がゼロのものが用いられるが、温度係数が正値のもの、温度係数が負値のものもある。
【0003】
温度補償用セラミックコンデンサの静電容量の温度係数は、誘電体セラミックの誘電率の温度係数によって主に支配される。また、温度係数をゼロにするのは、温度係数が正値の材料と、温度係数が負値の材料とを組み合わせて、全体として温度係数をゼロにする手法も用いられる。
【0004】
また、温度補償用セラミックコンデンサの静電容量の値は誘電体セラミックの誘電率によって決まるが、このとき、誘電率が大きいと、温度補償用セラミックコンデンサの小型化に有利となる。
【0005】
したがって、温度補償用セラミックコンデンサ用の誘電体セラミックのバリエーションとしては、誘電率が高く、かつ様々な温度係数を有する複数の材料を有しているのが好ましい。
【0006】
温度補償用セラミックコンデンサに用いられる誘電体セラミックが、たとえば特許文献1に示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−211975号公報
【発明の概要】
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の誘電体セラミックにおいては、温度係数が正値である誘電体セラミックを得ようとした場合、誘電率が小さくなるという問題があった。また、Cuを主成分とする内部電極は使用可能であるものの、Niを主成分とする内部電極を使用するにはセラミックの耐還元性が不足しているという問題もあった。
【0010】
そこで、本発明の目的は、誘電率の温度係数が正値でありながら、誘電率の比較的高い誘電体セラミック材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明は、SnmNb26(0.7≦m≦1.3)を主成分とする誘電体セラミックである。
【0012】
また、本発明は、前記主成分100重量部に対し、副成分として、Mn、V、Mg、Siのうち少なくとも一種を、MnCO3、V25、MgCO3、SiO2に換算して合計10重量部以下含むことも好ましい。さらに、本発明は、前記主成分100重量部に対し、Al23、ZrO2のうち少なくとも一種を10重量部以下含むことも好ましい。
【0013】
また、本発明は、積層された複数の誘電体セラミック層および前記誘電体セラミック層間の特定の界面に沿って形成された内部電極を含む積層体と、前記内部電極の特定のものに電気的に接続されるように前記積層体の外表面上に形成された外部電極とを備え、前記誘電体セラミック層が本発明の誘電体セラミックからなる積層セラミックコンデンサにも向けられる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、誘電率の温度係数が正値であり、十分な絶縁性を示し、かつ高い誘電率を有する誘電体セラミックを得ることができる。
【0015】
また、本発明の誘電体セラミックによれば、静電容量温度係数のバリエーションに富み、小型化に有利な積層セラミックコンデンサを得ることができる。
【0016】
また、本発明の誘電体セラミックは耐還元性に優れるため、積層セラミックコンデンサの内部電極にNiを使用することが可能となり、低コストの積層セラミックコンデンサを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】この発明の一実施形態による積層セラミックコンデンサ1を図解的に示す断面図である。
【図2】試料番号6の試料の静電容量の温度カーブである。
【図3】試料番号7の試料のXRDチャートである。
【図4】試料番号5の試料のD−Eヒステリシスカーブである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、この発明の一実施形態による積層セラミックコンデンサ1を示す断面図である。
【0019】
積層セラミックコンデンサ1は、積層体2を備えている。積層体2は、積層された複数の誘電体セラミック層3と、複数の誘電体セラミック層3間の特定の複数の界面に沿ってそれぞれ形成された複数の内部電極4および5とをもって構成されている。
【0020】
内部電極4および5は、好ましくは、Niを主成分としている。内部電極4および5は、積層体2の外表面にまで到達するように形成されるが、積層体2の一方の端面6にまで引き出される内部電極4と他方の端面7にまで引き出される内部電極5とが、積層体2の内部において交互に配置されている。
【0021】
積層体2の外表面であって、端面6および7上には、それぞれ、外部電極8および9が形成されている。外部電極8および9は、たとえば、Cuを主成分とする導電性ペーストを塗布し、焼付けることによって形成される。一方の外部電極8は、端面6上において、内部電極4と電気的に接続され、他方の外部電極9は、端面7上において、内部電極5と電気的に接続される。
【0022】
外部電極8および9上には、はんだ付け性を良好にするため、必要に応じて、Niなどからなる第1のめっき膜10および11、さらにその上に、Snなどからなる第2のめっき膜12および13がそれぞれ形成される。
【0023】
このような積層セラミックコンデンサ1において、誘電体セラミック層3はSnmNb26(0.7≦m≦1.3)を主成分とする誘電体セラミックである。本発明の誘電体セラミックの結晶構造は、タングステンブロンズ構造が支配的である。
【0024】
本発明の誘電体セラミックにおいて、Snのモル比mは1前後であるが、0.7〜1.3の間であれば、焼結性が良好であり、かつ、異相も少ない。
【0025】
また、本発明の誘電体セラミックにおけるSnは主に2価の陽イオンであるが、本発明の目的を損なわない限り、別の価数のSnイオンを含んでいても構わない。
【0026】
本発明の誘電体セラミックの製造方法においては、通常の固相法において製造することができるが、好ましくは、SnmNb26の合成時や、セラミックの焼結時には、Snが安定して2価の陽イオンとなるよう、雰囲気を還元雰囲気にすることが好ましい。
【0027】
また、本発明は、前記主成分100重量部に対し、副成分として、Mn、V、Mg、Siのうち少なくとも一種を、MnCO3、V25、MgCO3、SiO2に換算して合計10重量部以下含む場合、誘電率に悪影響を与えることなく、効果的に絶縁抵抗率が改善される。
【0028】
さらに、本発明の誘電体セラミックでは、Al23、ZrO2のうち少なくとも一種を含むことも好ましい。これらの添加量が主成分100重量部に対して10重量部以下であると、誘電率にさほど悪影響を与えることなく、効果的に絶縁抵抗率が改善される。
【実施例】
【0029】
次に、この発明による効果を確認するために実施した実験例について説明する。
【0030】
[実験例1]まず、主成分の出発原料として、SnO2粉末およびNb25粉末を用意した。これらを、表1のmの値となるよう秤量し、水を溶媒としたボールミルにて混合した。そして乾燥後、窒素雰囲気中において、500〜1000℃の温度で2時間仮焼した。このようにして、セラミック原料を得た。
【0031】
次いで、得られたセラミック原料粉末に、ポリビニルブチラール系バインダおよびエタノール等の有機溶剤を加えて、ボールミルにより混合し、セラミックスラリーを得た。このセラミックスラリーをドクターブレード法によってシート成形し、セラミックグリーンシートを得た。
【0032】
次に、上記セラミックグリーンシート上に、Niを主成分とする導電性ペーストをスクリーン印刷し、内部電極となるべき導電性ペースト膜を形成した。そして、この導電性ペースト膜が形成されたセラミックグリーンシートを、導電性ペースト膜が引き出される側が互い違いになるように積層し、生の積層体を得た。
【0033】
次に、生の積層体を、窒素雰囲気中において300℃の温度に加熱し、バインダを燃焼させた後、酸素分圧が10-9〜10-20MPaのH2−N2−H2Oガスからなる還元性雰囲気中において、表1に示す温度で2時間焼成し、焼結した積層体を得た。この積層体は、セラミックグリーンシートが焼結して得られた誘電体層および導電性ペースト膜が焼結して得られた内部電極を備えているものである。
【0034】
焼成後の積層体の両端面にB23-SiO2-BaO系のガラスフリットを含有する銀ペーストを塗布し、窒素雰囲気中において800℃の温度で焼き付け、内部電極と電気的に接続された外部電極を形成した。
【0035】
このようにして得られた積層セラミックコンデンサの外形寸法は、長さ2.0mm、幅1.2mmおよび厚さ0.6mmであり、内部電極間に介在する誘電体セラミック層の厚みは0.6μmであった。また、静電容量形成に有効な誘電体セラミック層の数は5であり、誘電体セラミック層1層当たりの対向電極面積は2.1mm2であった。
【0036】
上記の各試料に係る積層セラミックコンデンサにおける誘電体セラミック層を構成する誘電体セラミックの誘電率εを、25℃、1kHz、1Vrmsの条件下で測定した。
【0037】
また、静電容量値をの−55℃〜125℃における温度変化を測定し、20℃の静電容量C20と125℃における静電容量C125を基準とした、下記の式に示す静電容量温度係数Tcを測定した。
【0038】
Tc=(C125−C20)/C20/(125−20)×106(ppm./℃)
また、試料番号6の試料の静電容量の温度カーブを図2に示す(100℃のときの静電容量を基準とした変化率で表す)。
【0039】
次に、誘電体セラミック層を構成する誘電体セラミックの抵抗率ρを、25℃の温度にて100Vの電圧を120秒間チャージして測定した絶縁抵抗から求めた。
【0040】
以上、誘電率ε、静電容量温度係数Tc、抵抗率の対数logρの結果を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
表1の結果より、試料番号3〜11の試料において、十分な絶縁性を保ちつつ、正の静電容量温度係数と、50以上の誘電率εが得られた。
【0043】
また、試料番号7の試料において、XRD(線源CuKα、電圧40kV)による結晶構造解析を行った。XRDチャートを図3に示す。これより、単斜晶系のタングステンブロンズ型結晶構造であることがわかった。
【0044】
さらに、試料番号5の試料において、Novocontrol社製RT6000HVSを用いて、印加電圧50Vp-p、周波数50Hzの条件にてD−Eヒステリシスカーブを測定した。結果を図4に示す。結果として、ヒステリシスは殆ど観察されず、常誘電性を示すことが明らかとなった。
【0045】
[実験例2] 次に、出発原料として、SnO2、Nb25、MnCO3、V25、MgCO3、SiO2の粉末をそれぞれ用意した。これらを、これらを、SnO2粉末およびNb25粉末は表2のmの値となるよう秤量し、MnCO3、V25、MgCO3、SiO2の粉末はSnmNb26100重量部に対し表2に示す重量部となるよう秤量した。秤量した粉を水を溶媒としたボールミルにて混合した。そして乾燥後、窒素雰囲気中において、500〜1000℃の温度で2時間仮焼した。このようにして、セラミック原料を得た。
【0046】
得られたセラミック原料を用いて、実験例1と同様にして、積層セラミックコンデンサを得た。なお、焼成温度は表2に示す値に設定した。
【0047】
得られた積層セラミックコンデンサに対し、実験例1と同様にして、誘電率ε、静電容量温度係数Tc、抵抗率の対数logρを求め、表2に示した。
【0048】
【表2】

【0049】
mの値が0.7〜1.3の範囲にある試料番号103〜121の試料においては、εが50以上でかつ、log(ρ/Ω・m)にして9.5以上と、より高い絶縁性が得られた。
【0050】
[実験例3]次に、当実験例は、本願発明の主成分に対し、Al23、ZrO2を添加した効果をみたものである。
【0051】
まず、主成分の出発原料として、SnO2粉末、Nb25粉末、Al23粉末、およびZrO2粉末を用意した。これらを、SnO2粉末およびNb25粉末は表3のmの値となるよう秤量し、Al23粉末およびZrO2粉末はSnmNb26100重量部に対し表3に示す重量部となるよう秤量した。この秤量粉を、水を溶媒としたボールミルにて混合した。そして乾燥後、窒素雰囲気中において、500〜1000℃の温度で2時間仮焼した。このようにして、セラミック原料を得た。
【0052】
次に、上記セラミック原料を用いて、実験例1と同じ工程を経て、積層セラミックコンデンサを作製した。そして、実験例1と同様にして、誘電率ε、静電容量温度係数Tc、抵抗率の対数logρを評価した。結果を表3に示す。
【0053】
【表3】

【0054】
試料番号201〜219の試料においては、log(ρ/Ω・m)にして10以上と、より高い絶縁性が得られた。
【0055】
[実験例4]次に、出発原料として、SnO2、Nb25、MnCO3、V25、MgCO3、SiO2、Al23粉末、およびZrO2粉末を用意した。これらを、SnO2粉末およびNb25粉末は表4のmの値となるよう秤量し、MnCO3、V25、MgCO3、SiO2、Al23粉末、およびZrO2粉末は、SnmNb26100重量部に対し表4に示す重量部となるよう秤量した。この秤量粉を、水を溶媒としたボールミルにて混合した。そして乾燥後、窒素雰囲気中において、500〜1000℃の温度で2時間仮焼した。このようにして、セラミック原料を得た。
【0056】
次に、上記セラミック原料を用いて、実験例1と同じ工程を経て、積層セラミックコンデンサを作製した。そして、実験例1と同様にして、誘電率ε、静電容量温度係数Tc、抵抗率の対数logρを評価した。結果を表4に示す。
【0057】
【表4】

【0058】
試料番号301〜306の試料においては、log(ρ/Ω・m)にして10以上と、より高い絶縁性が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の誘電体セラミック、およびそれを用いた積層セラミックコンデンサは、各種電子回路において、温度補償用のコンデンサとして有用である。
【符号の説明】
【0060】
1 積層セラミックコンデンサ
2 積層体
3 誘電体セラミック層
4,5 内部電極
8,9 外部電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SnmNb26(0.7≦m≦1.3)を主成分とする、誘電体セラミック。
【請求項2】
前記主成分100重量部に対し、副成分として、Mn、V、Mg、Siのうち少なくとも一種を、MnCO3、V25、MgCO3、SiO2に換算して、合計10重量部以下含む、請求項1に記載の誘電体セラミック。
【請求項3】
前記主成分100重量部に対し、Al23、ZrO2のうち少なくとも一種を10重量部以下含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の誘電体セラミック。
【請求項4】
積層された複数の誘電体セラミック層および前記誘電体セラミック層間の特定の界面に沿って形成された内部電極を含む積層体と、前記内部電極の特定のものに電気的に接続されるように前記積層体の外表面上に形成された外部電極と、を備え、
前記誘電体セラミック層は請求項1〜3に記載の誘電体セラミックからなる積層セラミックコンデンサ。
【請求項5】
前記内部電極の主成分がNiであることを特徴とする、請求項4に記載の積層セラミックコンデンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−189252(P2010−189252A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−147728(P2009−147728)
【出願日】平成21年6月22日(2009.6.22)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】