説明

誘電体セラミックスおよび誘電体共振器

【課題】 温度によって共振周波数が変化しにくい誘電体セラミックスおよびこれを用いた誘電体共振器が望まれている。
【解決手段】 組成式をαLa2 x ・βAl2 3 ・γCaO・δTiO2(ただし、3≦x≦4)と表した場合に、モル比α,β,γ,δが下記式を満足する成分100モル部に対して、バリウムの含有量が酸化物換算で0.001モル部以上0.009モル部以下であり、かつCaTiO結晶を含むことを特徴とする誘電体セラミックスとする。
0.16≦α≦0.21
0.16≦β≦0.22
0.29≦γ≦0.36
0.29≦δ≦0.37
(ただし、α+β+γ+δ=1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波および/またはミリ波等を含む高周波領域において、高い比誘電率εr(真空の誘電率εoとの比)および共振の先鋭度(品質係数)Q値を有する誘電体セラミックスおよび誘電体共振器に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話の中継基地局やBSアンテナなどには共振器が組み込まれている。その共振器の中核部には誘電体セラミックスが使用される。この誘電体セラミックスに求められる特性としては、比誘電率εr,誘電損失の逆数として求められるQ値,共振周波数の温度係数τfがある。携帯電話などの基地局やBSアンテナに使用される共振器の設計の違いから、誘電体セラミックスに求められる比誘電率も様々であり、特に比誘電率が45程度の誘電体セラミックスについて、高いQ値と共振周波数の温度係数τfの良好なものの要求が高まっていた。
【0003】
このような比誘電率εrが45程度を示す誘電体セラミックスとして、特許文献1にはLn,Al,CaおよびTiを含有し、SrOおよび/またはBaOが添加されたもの(Lnは少なくとも1種類以上の希土類元素)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3274950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年では、比誘電率εrが45程度を示す誘電体セラミックスにおいて、さらにQ値を向上させつつ、かつ共振周波数の温度係数を0ppm/℃に近づけたものの要求が高まっている。このような特性を有する誘電体セラミックスとして、特許文献1に記載されている希土類元素にLaを用いたLa−Al−Ca−Ti系のものが考えられるが、要求通りの誘電体セラミックスが得られていなかった。
【0006】
本発明の目的は、La−Al−Ca−Ti系にBaOを適量添加して45近辺の比誘電率εrと高いQ値が得られ、かつ共振周波数の温度係数を0ppm/℃に近づけた誘電体セラミックスを得ること、ならびにこれを用いた共振器を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一形態に係る誘電体セラミックスは、組成式をαLa2 x ・βAl2 3 ・γCaO・δTiO2(ただし、3≦x≦4)と表した場合に、モル比α,β,γ,δが下記式を満足する成分100モル部に対して、バリウムの含有量が酸化物換算で0.001モル部以上0.009モル部以下であり、かつCaTiO結晶を含むことを特徴とする。
【0008】
0.16≦α≦0.21
0.16≦β≦0.22
0.29≦γ≦0.36
0.29≦δ≦0.37
(ただし、α+β+γ+δ=1)
また、本発明の一形態に係る誘電体共振器は、前記誘電体セラミックスを誘電体材料に用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の誘電体セラミックスおよび誘電体共振器によれば、比誘電率εrが45近辺の値を示し、高いQ値が得られ、且つ−40〜85℃の温度範囲での共振周波数の温度係数を0ppm/℃に近づけることができ、気温差の激しい場所においても長期間にわたって安定して良好な性能を維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一形態に係る誘電体共振器の一例を模式的に示す一部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の一形態に係る誘電体セラミックスについて説明する。この誘電体セラミックスは、La,Al,CaおよびTiを含有し、組成式を、αLa2X・βAl23・γCaO・δTiO2(ただし、3≦x≦4)と表したとき、モル比α,β,γ,δが、次の式を満足する。0.16≦α≦0.21、0.16≦β≦0.22、0.29≦γ≦0.36、0.29≦δ≦0.37かつα+β+γ+δ=1を満足する。さらに、この成分100モル部に対して、バリウムの含有量が酸化物換算で0.001モル部以上0.009モル部以下であり、かつCaTiOの結晶を含む。
【0012】
ここで、共振周波数の温度係数τfについては、前記組成範囲の主成分であるLa−Al−Ca−Ti系誘電体セラミックス100モル部に対し、バリウムを酸化物換算で0.001モル部以上0.009モル部以下とし、従来よりも少ないバリウム添加量に最適化しており、さらに誘電体セラミックス中にCaTiO結晶を析出させるようにしている。
【0013】
この構成により、本実施形態の誘電体セラミックスは、45近辺の比誘電率εrが得られ、かつ高いQ値および0ppm/℃またはこの値に近い共振周波数の温度係数τfが得られる。すなわち、−40〜85℃の温度範囲で0ppm/℃またはこの値に近い共振周波数の温度係数を得ることができる。また、このような誘電体セラミックスを例えば携帯電話の基地局あるいはBSアンテナに共振器として用いれば、温度変化の激しい場所においても、性能変化を極小化できるため、長期にわたって安定して使用することが可能となる。
【0014】
このように、0ppm/℃またはこの値に近い共振周波数の温度係数τfが得られる理由としては、誘電体セラミックス焼結体中で化合物を形成し易いバリウムの添加量を少なくし異相の形成を抑制したことと、誘電体セラミックス中にプラスの共振周波数の温度係数τfを有するCaTiO結晶を析出させ、温度係数τfを調整したことによる。また、CaTiO結晶を析出させれば、−40〜25℃までの温度係数τfと、25〜85℃までの温度係数τfを、いずれの条件においても、0ppm/℃またはこの値に近づけることが可能となり、−40〜85℃の範囲で共振周波数の温度係数がほぼ一定の誘電体セラミックスが得られる。
【0015】
なお、従来のLa−Al−Ca−Ti系誘電体セラミックス焼結体では、LaAlO原料とCaTiO原料がともに微粉砕され平均粒径1μm程度の微粉として用いられている。このため、CaTiOとLaAlOとが均一に互いに固溶しあっており、焼結体中にはCaTiO結晶が単独で析出することが抑制される。
【0016】
本実施形態では、平均粒径1μm程度に微粉砕したCaTiO原料に、予め準備した別の平均粒径3μm以上の粗粒からなるCaTiO原料を前記微粉砕したCaTiO原料の全質量に対し、10〜40%の割合添加混合し、粒配したCaTiO原料を用いる。これにより、CaTiOとLaAlOとの固溶を一部抑制しており、La−Al−Ca−Ti系誘電体セラミックス焼結体中にCaTiO結晶を析出させている。前記粗粒からなるCaTiO原料の平均粒径が3μm以上であると、焼結体中にCaTiO結晶を析出させやすく、0ppm/℃近くの共振周波数の温度係数τfを得やすい。
【0017】
ここで、各成分のモル比α,β,γおよびδを上記の範囲に限定した理由は以下の通りである。
【0018】
まず、0.16≦α≦0.21としたのは、この範囲内であると比誘電率(εr)が大きく,Q値が高く、共振周波数の温度係数τfの絶対値を小さくできるからである。特に、αの下限は0.17が好ましく、αの上限は0.20が好ましい。
【0019】
また、0.16≦β≦0.22としたのは、この範囲内であると比誘電率(εr)が大きく、Q値が高く、τfの絶対値を小さくできるからである。特に、βの下限は、0.17が好ましく、βの上限は、0.20が好ましい。
【0020】
また、0.29≦γ≦0.36としたのは、この範囲内であると比誘電率(εr)が大きく、Q値が高く、τfの絶対値を小さくできるからである。特に、γの下限は0.30が好ましく、γの上限は0.35が好ましい。
【0021】
また、0.29≦δ≦0.37としたのは、この範囲内であると比誘電率(εr)が大きく,Q値が高く,τfの絶対値を小さくできるからである。特に、δの下限は0.30が好ましく,δの上限は0.35が好ましい。
【0022】
また、上記主成分100モル部に対して、バリウムの添加量を酸化物換算で0.001モル部以上0.009モル部以下としたのは、比誘電率εrとQ値の向上効果が得られ、焼結性が低下しないからである。なお、0.009モル部より超えると、添加したバリウム成分が、誘電体セラミックス中の不純物などと異相となる化合物を形成し易く、比誘電率εr、Q値および共振周波数の温度係数τfの値を低下させる。
【0023】
なお、誘電体セラミックス中のバリウム量については、誘電体セラミックスの一部を粉砕し、得られた粉体を塩酸などの溶液に溶解した後、IPC発光分光分析装置(島津製作所製:ICPS−8100)を用いてBaの量を測定し酸化物換算することにより得られる。測定装置の誤差は分析値をnとするとn±√nである。
【0024】
また、誘電体セラミックス中にCaTiO結晶が単独で存在するかどうかについては、例えば、波長分散型X線マイクロアナライザー装置(日本電子製JXA−8100)を用いて、誘電体セラミックスの任意の表面のCa,Ti元素の分布状態を調べることにより確認することが可能である。他の表面よりもCa,Ti元素の検出比率が高い部分にCaTiO結晶が存在している。
【0025】
また、誘電体セラミックスの表面におけるCaTiO結晶の割合が、面積率で3%以上15%以下であることを特徴としている。CaTiO結晶の割合が、面積率で前記範囲内にあれば、絶対値で0〜2ppm/℃の共振周波数の温度係数の範囲内とすることが可能となり、より0pp/℃に近い値にできる。
【0026】
ここで、任意の表面におけるCaTiO結晶の割合の面積率を測定する方法としては、例えば、前記CaTiO結晶の確認で用いた波長分散型X線マイクロアナライザー装置(日本電子製JXA−8100)により、誘電体セラミックスの任意の表面の100μm×100μmの範囲のCa,Ti元素の分布状態を2箇所以上測定し、他の表面よりもCa,Ti元素の検出比率が高い部分の全測定面積に対する面積比率を算出し、これを合算して測定箇所数で除算することにより測定することが可能である。
【0027】
また、本実施形態の誘電体セラミックスは、リートベルト法によって算出されるCaTiO結晶の格子定数のaが5.409以上5.415以下、bが5.408以上5.416以下、cが7.643以上7.656以下であることを特徴としている。これにより、バリウムの固溶状態が安定化され、より優れた誘電特性を示す誘電体セラミックスを得ることが可能となる。
【0028】
リートベルト法とは、物質のX線回折パターンから結晶の構造パラメータを精密化する方法であり、測定されたX線回折パターンと結晶の構造データを入力として与え、構造パラメータなどを動かすことで、計算された回折強度と測定された回折強度ができるだけ一致するように精密化する方法である。本実施形態では、解析ソフトRIETANを用い、例えば結晶構造モデルとして(Ca0.7Nd0.3)(Ti0.7Al0.3)O(結晶系:orthorhombic,空間群:No.62,格子定数:a=5.3803Å,b=5.4003Å,c=7.614)を参考にして格子定数を算出することが可能である。また、X線回折チャートは、例えばX線回折装置(PANalytical社製 X’PertPRO)により、測定範囲:2θ=10°〜100°,線源:CuKα,出力電圧,電流:45kV,40mAの測定の条件で測定することが可能である。
【0029】
また、本実施形態の誘電体セラミックスはボイド率が4%以下であることを特徴としている。これにより、誘電体セラミックスがより緻密化されるため、強度や硬度などの機械的特性の低下を抑えることができる。よって、ハンドリング時、落下時、共振器内への取付け時および各携帯電話基地局等への設置後にかかる衝撃等によって、誘電体セラミックスにカケや割れおよび破損等が生じ難い。より好ましくはボイド率を3%以下とする。
【0030】
なお、ボイド率は例えば次のようにして測定する。まず、100μm×100μmの範囲が観察できるように、任意の倍率に調節した金属顕微鏡またはSEM等により、誘電体セラミックスの磁器表面および内部断面の数カ所を写真または画像として撮影する。そして、この写真または画像を画像解析装置により解析することにより、数カ所のボイド率を算出し、この平均値を求めることで算出することが可能である。画像解析装置としては例えばニレコ社製のLUZEX−FS等を用いればよい。
【0031】
また、本実施形態の誘電体セラミックスは、不可避不純物として、Fe,Sr,Na,Ca,K,Si,Pb,Ni,CuまたはMgを酸化物換算で合計1質量%以下含んでいても良い。これにより、各種誘電特性の値が低下することが抑制され、焼結体としての機械的特性の低下が抑制される。
【0032】
次に、本実施形態の誘電体セラミックスの製造方法について説明する。例えば以下の工程(1)〜(7)を実施する。
【0033】
(1)出発原料として、高純度の酸化ランタン(La)と高純度の酸化アルミニウム(Al),炭酸カルシウム(CaCO)および酸化チタン(TiO)の各粉末を準備する。しかる後、まずLaとAlを所望の割合となるように秤量後、純水を加え、混合原料の平均粒径が2.0μm以下となるまで1〜100時間、ジルコニアボール等を使用したボールミルにより湿式混合及び粉砕を行い混合物を得る。これと平行してCaCOとTiOについても、同様の工程を経て混合物を得る(1次調合)。
【0034】
(2)この混合物を乾燥後、1100〜1300℃でそれぞれ1〜10時間仮焼し、LaAlO,CaTiOの仮焼物を得る。
【0035】
(3)得られた仮焼物をそれぞれ平均粒径1〜2μmとなるまで、ボールミル等により湿式粉砕し、得られた混合物をステンレス製容器に移し、乾燥後、メッシュパスしてLaAlO,CaTiOの原料を得る。なお、CaTiO原料ついては、焼成後に誘電体セラミックス中にCaTiO結晶を析出させるためには、粗粒からなる平均粒径3μm以上のCaTiO原料を予め準備しておき、それを粉砕後のCaTiO原料に対して、10〜40質量%の割合で添加したものを用いる。
【0036】
(4)LaAlO,CaTiOの原料をそれぞれ所望の割合秤量し、これに高純度で平均粒径0.5〜3μmのBaTiOを、バリウムの含有量が酸化物換算で0.001モル部以上0.009モル部以下となるよう秤量して混合し、純水を加えた後、ジルコニアボール等を使用したボールミルにより湿式混合を行う(2次調合)。
【0037】
(5)3〜10質量%のバインダーを加えてから脱水し、その後、例えばスプレードライ法等により造粒または整粒し、得られた造粒体又は整粒粉体等を、例えば金型プレス法、冷間静水圧プレス法、押し出し成形法等により任意の形状に成形する。なお、造粒体又は整粒粉体等の形態は粉体等の固体のみならず、スラリー等の固体、液体混合物でも良い。この場合、液体は水以外の液体、例えばIPA(イソプロピルアルコール)、メタノ−ル、エタノ−ル、トルエン、アセトン等でも良い。
【0038】
(6)得られた成形体を大気中1500℃〜1700℃で5〜10時間保持して焼成する。より好ましくは1550〜1650℃で焼成するのが良い。
【0039】
(7)得られた焼成体を酸素5〜30体積%以上含むガス中において、温度1500〜1700℃、圧力300〜3000気圧で、1分〜100時間熱処理する。より好ましくは、温度1550〜1650℃,圧力1000〜2500気圧で20分〜3時間熱処理するのが良い。
【0040】
次に、本実施形態の誘電体セラミックスを使用した誘電体共振器の一例について以下に説明する。図1に示すように、TEモ−ド型の誘電体共振器1は、軽量なアルミニウム等の金属からなる金属ケース2において、その内壁の相対向する両側に、入力端子3及び出力端子4を設けてなる。そして、入出力端子3と出力端子4の間に、上述した誘電体セラミックスをフィルタとして用いた誘電体磁器5を載置台6の所定位置に配置して構成される。このような誘電体共振器1は、入力端子3からミリ波および/またはマイクロ波の高周波が入力され、高周波は誘電体磁器5と自由空間との境界の反射によって誘電体磁器5内に閉じこめられ、特定の周波数で共振を起こす。そしてこの信号が出力端子4と電磁界結合して出力される。このように、本実施形態の誘電体セラミックスは、携帯電話の基地局やBSアンテナに使用される種々の共振器用材料として好適に利用できる。
【0041】
なお、本実施形態の誘電体セラミックスは上記に限定されず、入力端子3および出力端子4を誘電体磁器5に直接設けてもよい。また、誘電体磁器5は、本実施形態の誘電体セラミックスからなる所定形状の共振媒体であるが、その形状は直方体、立方体、板状体、円板、円柱、多角柱、または、その他共振が可能な立体形状であればよい。また、入力される高周波信号の周波数は500MHz〜500GHz程度であり、共振周波数としては2GHz〜80GHz程度が実用上好ましい。
【0042】
また、本実施形態の誘電体セラミックスは、各種共振器用材料以外に、MIC(Monolithic IC)用誘電体基板材料、誘電体導波路用材料または積層型セラミックコンデンサの誘電体材料等に使用してもよい。
【0043】
次に、実施例について説明する。
【実施例1】
【0044】
La−Al−Ca−Ti系材料のモル比α,β,γおよびδの値とバリウムの添加量を変えて試料を作製し、比誘電率εr,Q値および共振周波数の温度係数の測定をした。製造方法および特性測定方法の詳細を以下に説明する。
【0045】
出発原料として純度99.5質量%以上のLa,Al,CaCOおよびTiOを準備した。
【0046】
それぞれの材料を表1の割合となるように秤量後、LaとAlとを混合したもの、およびCaCOとTiOを、それぞれ別のボールミル内で純水を加え、混合原料の平均粒径が2μm以下となるまでジルコニアボールを使用したボールミルにより、湿式混合および粉砕し1次調合を行って2種類の混合物を得た。
【0047】
そして、それぞれの混合物を乾燥後、1200℃で仮焼しLaAlO,CaTiO仮焼物を得た。
【0048】
得られた2種類の仮焼物を湿式粉砕により、LaAlO,CaTiOの仮焼物ともに1〜2μmの平均粒径となるように、ボールミルを使用して粉砕しLaAlO原料、CaTiO原料を得た。なお、CaTiOについては、粉砕後の全質量に対し30質量%の割合で予め準備した粗粒からなる平均粒径3μmのCaTiO原料を添加・混合しCaTiO原料とした。
【0049】
そして両者を混合し、さらにバリウム成分として、市販の平均粒径1μmの炭酸バリウムを添加し、純水を加え、1〜100時間ジルコニアボール等を使用したボールミルにより、湿式混合を行い、2次調合して数種類のスラリーを得た。
【0050】
次に、前記スラリーにさらに1〜10質量%のバインダーを加えてから所定時間混合した後、脱水し、このスラリーをスプレードライヤーで噴霧造粒して2次原料を得た。この2次原料を金型プレス成形法によりφ20mm,高さ15mmの円柱体に成形し成形体を得た。
【0051】
得られた成形体を大気中1500℃〜1700℃で10時間保持して焼成して、試料No.1〜27を得た。なお、これら試料は、焼成後に上下面と側面の一部に研磨加工を施し、アセトン中で超音波洗浄を行った。
【0052】
なお、比較例として、バリウム成分を添加しない以外は前記と同様の工程にて製造された試料No.28も準備した。また、別の比較例として、粉砕後のCaTiO原料に平均粒径3μmの粗粒からなるCaTiO原料を添加しない以外は前記と同様の工程を経て製造された試料No.29も準備した。
【0053】
次に、これら試料No.1〜29について、誘電特性を測定した。誘電特性は円柱共振器法により測定周波数3.5〜4.5GHzで比誘電率εr,Q値を測定した。Q値は、マイクロ波誘電体において一般的に成立する(Q値)×(測定周波数f)=一定の関係から、1GHzでのQ値に換算した。
【0054】
また、CaTiO結晶の有無については、波長分散型X線マイクロアナライザー装置(日本電子製JXA−8100)を用いて、各試料の任意の表面のCa,Ti元素の分布状態を確認し、他の表面よりもCa,Ti元素の検出比率が高い部分にCaTiO結晶が存在するとして確認を実施した。
【0055】
比較例と本実施形態のバリウムを含むLa−Al−Ca−Ti系材料における組成範囲、および添加量の臨界的意義を示す結果を表1に示す。なお、バリウムの添加量(=含有量)は酸化物であるBaO換算とした。
【0056】
なお、表1において、比誘電率εrが40.0〜48.0の範囲内、Q値が30000以上、共振周波数の温度係数τfが−10〜+10の範囲内、25〜85℃および−40〜25℃のそれぞれの温度範囲内での温度係数の差が絶対値で2以内のものを良好範囲とした。
【0057】
【表1】

【0058】
表1に示すように、特にαの値が好適範囲内でない試料No.1,6については、比誘電率εrが40〜48の範囲外であり、共振周波数の温度係数も−10〜+10の範囲外であった。
【0059】
また、特にβの値が好適範囲内でない試料No.7,10については、比誘電率εrが40.0〜48.0の範囲外であり、共振周波数の温度係数が−10〜+10の範囲外であった。
【0060】
また、γの値が好適範囲内でない試料No.11については、Q値が30000以下であり、同様にγの値が好適範囲内でない試料No.17については、比誘電率εrが40.0〜48.0の範囲外、Q値が30000以下、さらに共振周波数の温度係数が−10〜+10の範囲外であった。
【0061】
また、δの値が好適範囲でない試料No.18については、比誘電率εrが40.0〜48.0の範囲外であり、Q値が30000以下であった。同様にδの値が好適範囲でない試料No.21については、共振周波数の温度係数が−10〜+10の範囲外であった。
【0062】
また、バリウム成分が好適範囲でない試料No.21については、25〜85℃と−40〜25℃の共振周波数の温度係数の絶対値差が2を超えており、試料No.27については、共振周波数の温度係数が−10〜+10の範囲外であった。
【0063】
また、比較例として製造した試料No.28については、バリウム成分を含有していないために、焼結性が低下して誘電体セラミックスを充分に緻密化させることができず、比誘電率εr,Q値ともに低い値を示した。
【0064】
また、比較例として製造した粗粒のCaTiO原料を添加せず粒配したCaTiO原料を用いなかった試料No.29については、共振周波数の温度係数が−10〜+10の範囲外の値を示し、かつ25〜85℃と−40〜25℃の共振周波数の温度係数の絶対値差が2を超える値を示した。
【0065】
これらの試料と比較して本発明範囲内の試料No.2〜5,8,9,12〜16,19,20,23〜26については、比誘電率εr,Q値,共振周波数の温度係数,25〜85℃と−40〜25℃の共振周波数の温度係数の絶対値差がともに範囲内の値を示した。
【0066】
以上の結果より、モル比α,β,γ,δ(小数点以下3桁目を四捨五入)が、0.16≦α≦0.21、0.16≦β≦0.22、0.29≦γ≦0.36、0.29≦δ≦0.37かつα+β+γ+δ=1(小数点以下を四捨五入)を満足し、バリウムが酸化物換算で0.001モル部以上0.009モル部以下であり、かつCaTiO結晶を含むとよいことが判明した。
【実施例2】
【0067】
次に、CaTiO結晶の面積率を種々に変更した試料を作成し、共振周波数の温度係数を測定する試験を実施した。
【0068】
準備した試料は、α,β,γ,δ,バリウム添加量については、実施例1の試料No.14と同様の組成比率とし、粗粒のCaTiO原料(表にはCaTiO粗粒と記載)の添加量を表2のように変えたこと以外は実施例1の製造方法と同様に製造している。
【0069】
そして、共振周波数の温度係数を実施例1と同様の方法にて測定した。
【0070】
結果を表2に示す。
【0071】
【表2】

【0072】
表2から、CaTiO粗粒の添加量が5質量%と少なく、CaTiO面積率が3%未満の2%と低い試料No.30については、温度係数τf自体は−10〜+10ppm/℃の範囲内ではあるものの25〜85℃と−40〜25℃の共振周波数の温度係数の絶対値差が2ppm/℃と高くなった。
【0073】
また、CaTiO粗粒の添加量が45質量%と多く、CaTiO面積率が15%を超え20%と高い試料No.35については、CaTiO粗粒の添加量が多すぎるために焼結性が低下し機械的強度が低下しており、かつ共振周波数の温度係数τfも高くなった。
【0074】
これらと比較して試料No.31〜34については、焼結性の低下もなく、良好な温度係数τfと25〜85℃と−40〜25℃の共振周波数の温度係数の絶対値差を示した。
【符号の説明】
【0075】
1:誘電体共振器
2:金属ケース
3:入力端子
4:出力端子
5:誘電体磁器
6:載置台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式をαLa2 x ・βAl2 3 ・γCaO・δTiO2(ただし、3≦x≦4)と表した場合に、モル比α,β,γ,δが下記式を満足する成分100モル部に対して、バリウムの含有量が酸化物換算で0.001モル部以上0.009モル部以下であり、かつCaTiO結晶を含むことを特徴とする誘電体セラミックス。
0.16≦α≦0.21
0.16≦β≦0.22
0.29≦γ≦0.36
0.29≦δ≦0.37
(ただし、α+β+γ+δ=1)
【請求項2】
表面におけるCaTiO結晶の割合が、面積率で3%以上15%以下であることを特徴とする請求項1に記載の誘電体セラミックス。
【請求項3】
リートベルト法によって算出されるCaTiO結晶の格子定数のa、bおよびcが下記式を満足することを特徴とする請求項1または2に記載の誘電体セラミックス。
5.409≦a≦5.415
5.408≦b≦5.416
7.643≦c≦7.656
【請求項4】
ボイド率が4%以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の誘電体セラミックス。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の誘電体セラミックスを誘電体材料に用いたことを特徴とする誘電体共振器。

【図1】
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【公開番号】特開2010−280550(P2010−280550A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−136772(P2009−136772)
【出願日】平成21年6月8日(2009.6.8)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】