説明

誘電体セラミック組成物および積層セラミックコンデンサ

【課題】たとえば車載用のような高温環境下で使用される積層セラミックコンデンサにおいて用いるのに適した誘電体セラミック組成物を提供する。
【解決手段】組成式:100(Ba1-xCax)TiO3+aR23+bV25+cZrO2+dMnO(ただし、RはY、La、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、TmおよびYbの中から選ばれる少なくとも1種の金属元素であり、a、b、cおよびdはモル比を表わす。)で表わされ、かつ、0.03≦x≦0.20、0.05≦a≦3.50、0.22≦b≦2.50、0.05≦c≦3.0、および0.01≦d≦0.30の各条件を満たす、誘電体セラミック組成物。この誘電体セラミック組成物の焼結体によって、積層セラミックコンデンサ1の誘電体セラミック層3を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、誘電体セラミック組成物および積層セラミックコンデンサに関するもので、特に、たとえば車載用のような高温環境下で使用される積層セラミックコンデンサにおいて用いるのに適した誘電体セラミック組成物、およびそれを用いて構成された積層セラミックコンデンサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサに対する保証温度範囲として、高温側については、一般民生用が85℃、さらに高信頼性用が125℃とするのが一般的であるが、最近、車載用途などでは、150〜175℃という、より高い温度における絶縁性および信頼性(寿命特性)が求められてきている。
【0003】
そのため、積層セラミックコンデンサのための誘電体セラミック組成物として、高温に強くかつ誘電率も良好である、たとえば(Ba1−xCaTiOを主成分とするものが用いられている。
【0004】
たとえば特開2005−194138号公報(特許文献1)では、組成式:100(Ba1-xCaxmTiO3+aMnO+bV25+cSiO2+dRe23(ただし、ReはY、La、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、TmおよびYbの中から選ばれる少なくとも1種の金属元素であり、a、b、cおよびdはモル比を表わす。)で表わされ、かつ、
0.030≦x≦0.20、
0.990≦m≦1.030、
0.010≦a≦5.0、
0.050≦b≦2.5、
0.20≦c≦8.0、および
0.050≦d≦2.5
の各条件を満たす、誘電体セラミック組成物が記載されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の誘電体セラミック組成物は、150℃で電界強度10V/μmの直流電圧が印加された際の高温負荷信頼性については、平均故障時間で100時間以上と優れることが確認されているが、たとえば175℃で電界強度20V/μmの直流電圧が印加された際の高温負荷信頼性については、特許文献1に記載されていない。
【0006】
特許文献1に記載の誘電体セラミック組成物において、信頼性を向上させるためにRe添加量を多くした場合、比誘電率の温度変化率が劣化することになり、したがって、高い信頼性と比誘電率の平坦な温度変化率との両立が不可能であった。
【特許文献1】特開2005−194138号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、この発明の目的は、上述したような問題を解決し得る誘電体セラミック組成物、すなわち、たとえば車載用のような高温環境下で使用される積層セラミックコンデンサにおいて用いるのに適した誘電体セラミック組成物を提供しようとすることである。
【0008】
この発明の他の目的は、上述した誘電体セラミック組成物を用いて構成される積層セラミックコンデンサを提供しようとすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した技術的課題を解決するため、この発明に係る誘電体セラミック組成物は、組成式:100(Ba1-xCax)TiO3+aR23+bV25+cZrO2+dMnO(ただし、RはY、La、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、TmおよびYbの中から選ばれる少なくとも1種の金属元素であり、a、b、cおよびdはモル比を表わす。)で表わされ、かつ、
0.03≦x≦0.20、
0.05≦a≦3.50、
0.22≦b≦2.50、
0.05≦c≦3.0、および
0.01≦d≦0.30
の各条件を満たすことを特徴としている。
【0010】
この発明は、また、積層された複数の誘電体セラミック層、および誘電体セラミック層間の特定の界面に沿って形成された複数の内部電極をもって構成される、コンデンサ本体と、コンデンサ本体の外表面上の互いに異なる位置に形成され、かつ内部電極の特定のものに電気的に接続される、複数の外部電極とを備える、積層セラミックコンデンサにも向けられる。この発明に係る積層セラミックコンデンサは、誘電体セラミック層が上述のこの発明に係る誘電体セラミック組成物の焼結体からなることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
この発明に係る誘電体セラミック組成物によれば、これを焼成して得られた焼結体について、信頼性を高く、比誘電率を大きく、かつ比誘電率の温度変化率を小さくすることができる。
【0012】
また、この発明に係る誘電体セラミック組成物によれば、これを用いて構成される積層セラミックコンデンサにおいて、非常に厳しい高温負荷試験下でも、優れた寿命特性を得ることができる。
【0013】
この発明に係る誘電体セラミック組成物において、上記(Ba1-xCax)TiO3で表わされる化合物100モル部に対して、SiO2を0.2〜5.0モル部さらに含むと、温度特性をさらに良好なものとすることができる。
【0014】
また、この発明に係る誘電体セラミック組成物において、上記(Ba1-xCax)TiO3で表わされる化合物100モル部に対して、MgOを0.1〜5.0モル部さらに含むと、信頼性をさらに向上させることができる。
【0015】
この発明に係る誘電体セラミック組成物は、低酸素分圧下で焼成しても半導体化しないので、積層セラミックコンデンサにおいて、内部電極を構成する材料として、Ni、Ni合金、CuおよびCu合金の中から選ばれる少なくとも1種の導電性材料を主成分として含むものを有利に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明に係る誘電体セラミック組成物を用いて構成される積層セラミックコンデンサ1を図解的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、この発明に係る誘電体セラミック組成物を用いて構成される積層セラミックコンデンサ1を図解的に示す断面図である。
【0018】
積層セラミックコンデンサ1は、コンデンサ本体2を備えている。コンデンサ本体2は、積層される複数の誘電体セラミック層3と、複数の誘電体セラミック層3の間の特定の複数の界面に沿ってそれぞれ形成される複数の内部電極4および5とをもって構成される。内部電極4および5は、コンデンサ本体2の外表面にまで到達するように形成されるが、コンデンサ本体2の一方の端面6にまで引き出される内部電極4と、他方の端面7にまで引き出される内部電極5とが、コンデンサ本体2の内部において交互に配置されている。
【0019】
コンデンサ本体2の外表面上であって、端面6および7上には、外部電極8および9がそれぞれ形成されている。また、必要に応じて、外部電極8および9上には、Ni、Cu等からなる第1のめっき層10および11がそれぞれ形成され、さらにその上には、はんだ、Sn等からなる第2のめっき層12および13がそれぞれ形成されている。
【0020】
次に、上述のような積層セラミックコンデンサ1の製造方法について、製造工程順に説明する。
【0021】
まず、誘電体セラミック組成物のための原料粉末を用意し、これをスラリー化し、このスラリーをシート状に成形して、誘電体セラミック層3のためのグリーンシートを得る。ここで、誘電体セラミック原料粉末として、後に詳細に説明するように、この発明に係る誘電体セラミック組成物のための原料粉末が用いられる。
【0022】
次に、グリーンシートの特定のものの各一方主面に、内部電極4および5を形成する。内部電極4および5を構成する導電性材料は、Ni、Ni合金、Cu、およびCu合金の中から選ばれる少なくとも1種を主成分とするが、特にNiまたはNi合金を主成分とすることが好ましい。これら内部電極4および5は、通常、上述のような導電性材料を含む導電性ペーストを用いて、スクリーン印刷法や転写法により形成されるが、これらに限らず、どのような方法によって形成されてもよい。
【0023】
次に、内部電極4または5を形成した誘電体セラミック層3のためのグリーンシートを必要数積層するとともに、これらグリーンシートを、内部電極が形成されない適当数のグリーンシートによって挟んだ状態とし、これを熱圧着することによって、生のコンデンサ本体を得る。
【0024】
次に、この生のコンデンサ本体を、所定の還元性雰囲気中で所定の温度にて焼成し、それによって、図1に示すような焼結後のコンデンサ本体2を得る。
【0025】
その後、コンデンサ本体2の両端面6および7上に、内部電極4および5とそれぞれ電気的に接続されるように、外部電極8および9を形成する。これら外部電極8および9の材料としては、Ni、Ni合金、Cu、Cu合金、AgまたはAg合金等を用いることができる。外部電極8および9は、通常、金属粉末にガラスフリットを添加して得られた導電性ペーストを、コンデンサ本体2の両端面6および7上に塗布し、これを焼き付けることによって形成される。
【0026】
なお、外部電極8および9となるべき導電性ペーストは、通常、上述のように、焼結後のコンデンサ本体2に塗布され、焼き付けられるが、焼成前の生のコンデンサ本体に塗布しておき、コンデンサ本体2を得るための焼成と同時に焼き付けられてもよい。
【0027】
次に、外部電極8および9上に、Ni、Cu等のめっきを施し、第1のめっき層10および11を形成する。最後に、これら第1のめっき層10および11上に、はんだ、Sn等のめっきを施し、第2のめっき層12および13を形成し、積層セラミックコンデンサ1を完成させる。
【0028】
このような積層セラミックコンデンサ1において、誘電体セラミック層3は、組成式:100(Ba1-xCax)TiO3+aR23+bV25+cZrO2+dMnO(ただし、RはY、La、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、TmおよびYbの中から選ばれる少なくとも1種の金属元素であり、a、b、cおよびdはモル比を表わす。)で表わされる、誘電体セラミック組成物の焼結体から構成される。
【0029】
ただし、上記の組成式において、x、a、b、cおよびdは、それぞれ、
0.03≦x≦0.20、
0.05≦a≦3.50、
0.22≦b≦2.50、
0.05≦c≦3.0、および
0.01≦d≦0.30
の各条件を満たす。
【0030】
なお、上記組成式において、(Ba+Ca)/Ti比は、通常、1であるが、0.99〜1.05の範囲で変動させても、特性に実質的な変化がないことを確認している。
【0031】
上記の誘電体セラミック組成物は、還元性雰囲気のような低酸素分圧下で焼成しても、半導体化することなく、焼結させることができる。
【0032】
また、この誘電体セラミック組成物の焼結体は、後述する実験例からわかるように、その比誘電率が高く、かつ比誘電率の温度変化率が小さい。また、この誘電体セラミック組成物を用いて、積層セラミックコンデンサ1における誘電体セラミック層3を構成するようにすれば、非常に厳しい高温負荷試験下でも、優れた寿命特性を得ることができ、積層セラミックコンデンサ1の信頼性を向上させることができる。
【0033】
この誘電体セラミック組成物の出発原料は、(Ba1-xCax)TiO3で表わされる化合物、R化合物(ただし、Rは、Y、La、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、TmおよびYbの中から選ばれる少なくとも1種の金属元素)、V化合物、Zr化合物およびMn化合物を含むものであるが、誘電体セラミック組成物の原料粉末の製造方法としては、100(Ba1-xCax)TiO3+aR23+bV25+cZrO2+dMnOで表わされる化合物を実現し得るものであればどのような方法を用いてもよい。
【0034】
たとえば、(Ba1-xCax)TiO3で表わされる化合物を主成分、それ以外の成分を副成分と呼ぶ場合、BaCO3、CaCO3およびTiO2を混合する工程と、主成分を合成するためにこの混合物を熱処理する工程と、得られた主成分に副成分を加えて混合する工程とを備える製造方法によって、誘電体セラミック組成物の原料粉末を得ることができる。
【0035】
また、水熱合成法、加水分解法、あるいはゾル−ゲル法等の湿式合成法によって主成分を合成する工程と、得られた主成分に副成分を加えて混合する工程とを備える製造方法によっても、誘電体セラミック組成物の原料粉末を得ることができる。
【0036】
また、副成分であるR化合物、V化合物、Zr化合物およびMn化合物としては、誘電体セラミック組成物を構成できるものであれば、酸化物粉末に限らず、アルコキシドや有機金属等の溶液を用いてもよく、これら用いられる副成分の形態によって、得られた誘電体セラミック組成物の特性が損なわれることはない。
【0037】
この発明に係る誘電体セラミック組成物において、上記(Ba1-xCax)TiO3で表わされる化合物100モル部に対して、SiO2を0.2〜5.0モル部さらに含むと、後述する実験例2からわかるように、温度特性をさらに良好なものとすることができる。
【0038】
また、この発明に係る誘電体セラミック組成物において、上記(Ba1-xCax)TiO3で表わされる化合物100モル部に対して、MgOを0.1〜5.0モル部さらに含むと、後述する実験例3からわかるように、信頼性をさらに向上させることができる。
【0039】
また、上述したような誘電体セラミック組成物は、焼成されて、図1に示した積層セラミックコンデンサ1の誘電体セラミック層3となるが、このような焼成工程において、内部電極4および5に含まれるNi、Ni合金、CuまたはCu合金のような金属は、誘電体セラミック層3中に拡散する場合もあるが、上記の誘電体セラミック組成物によれば、このような金属成分が拡散しても、その電気的特性に実質的な影響がないことを確認している。
【0040】
次に、この発明を実験例に基づいてより具体的に説明する。これらの実験例は、この発明に係る誘電体セラミック組成物の組成範囲または好ましい組成範囲の限定の根拠を与えるためのものでもある。
【0041】
なお、実験例では、試料として、図1に示すような積層セラミックコンデンサを作製した。
【0042】
[実験例1]
まず、主成分である(Ba1-xCax)TiO3の出発原料として、高純度のBaCO3、CaCO3およびTiO2の各粉末を準備し、表1および表2に示すCa変性量xが得られるように、これら出発原料粉末を調合した。
【0043】
次に、この調合原料粉末をボールミルを用いて湿式混合し、均一に分散させた後、乾燥処理を施して調整粉末を得た。
【0044】
次に、得られた調整粉末を1000℃から1200℃の温度で仮焼し、平均粒径0.20μmの主成分粉末を得た。なお、平均粒径は、走査型電子顕微鏡によって粉末を観察し、300個の粒子の粒子径を測長して求めた。
【0045】
他方、副成分の出発原料として、R23(ただし、RはY、La、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、TmおよびYbの中のいずれか)、V25、ZrO2およびMnCO3の各粉末を準備した。
【0046】
次に、表1および表2に示すCa変性量xを有する上記主成分粉末に対して、表1および表2に示すように、Rを選びながら、a、b、cおよびdのモル比が得られるように、各副成分の出発原料粉末を調合し、組成式:100(Ba1-xCax)TiO3+aR23+bV25+cZrO2+dMnOで表わされる組成を有する調合粉末を得た。
【0047】
次に、この調合粉末を、ボールミルを用いて湿式混合し、均一に分散させた後、乾燥処理を施して、誘電体セラミック組成物の原料粉末を得た。
【0048】
次に、この誘電体セラミック原料粉末にポリビニルブチラール系のバインダ、可塑剤およびエタノール等の有機溶剤を加え、ボールミルにより湿式混合して、誘電体セラミック組成物を含むスラリーを得た。
【0049】
次に、このスラリーを、ポリエチレンテレフタレートからなるキャリアフィルム上にシート状に成形して、誘電体セラミック組成物を含むグリーンシートを得た。得られたグリーンシートの厚みは2.4μmであった。
【0050】
次に、得られたグリーンシート上に、Niを主成分とする導電性ペーストを用いて内部電極パターンを印刷した後、互いに対向して複数の静電容量を構成するように6層積み重ね、さらにその上下面に内部電極パターンが形成されないセラミックグリーンシートを適当数積み重ねて熱圧着し、生のコンデンサ本体を得た。
【0051】
次に、この生のコンデンサ本体を、N2雰囲気中において、350℃の温度で3時間保持して脱バインダし、その後、N2−H2−H2Oの混合ガスを用いて、内部電極に含まれるNiが酸化しない酸素分圧10-12〜10-9MPaに設定された還元性雰囲気中で焼成し、焼結したコンデンサ本体を得た。
【0052】
次に、得られたコンデンサ本体の両端面に、Cuを主成分とし、B23−SiO2−BaO系のガラスフリットを含有する導電性ペーストを塗布し、N2雰囲気中において800℃の温度で焼き付けることにより、内部電極と電気的に接続された外部電極を形成した。
【0053】
次に、外部電極上に、公知の方法にてNiめっき処理を施して第1のめっき層を形成し、その上にSnめっき処理を施して第2のめっき層を形成した。
【0054】
このようにして得られた各試料に係る積層セラミックコンデンサの外形寸法は、幅が5.0mm、長さが5.7mm、および厚さが2.4mmであった。また、有効な誘電体セラミック層の数は5であり、1層当たりの対向電極面積は16.3mm2であり、誘電体セラミック層の厚さは2.0μmであった。
【0055】
これら得られた各試料に係る積層セラミックコンデンサについて、静電容量(C)を、自動ブリッジ式測定器を用い、25℃において1Vrms、1kHzの交流電圧を印加して測定し、得られたCと内部電極面積および誘電体セラミック層の厚さとから比誘電率(εr)を算出した。
【0056】
また、−55℃から150℃の範囲内で、温度を変化させながら静電容量を測定し、25℃での静電容量(C25)を基準として、変化の絶対値が最大となった静電容量(C)についての温度変化率(ΔC)を、ΔC={(C−C25)/C25}の式に基づいて算出した。
【0057】
また、高温負荷信頼性試験として、温度175℃において40Vの直流電圧を印加して、その絶縁抵抗(RLIFE)の経時変化を測定し、各試料の絶縁抵抗値が10Ω以下になった時点を故障とし、それらの平均故障時間(MTTF)を求めた。
【0058】
以上の電気的特性の評価結果を表1および表2に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
表1において、試料番号に*を付したものは、この発明に係る組成範囲から外れた試料である。
【0062】
以下に、この発明において、前述したような組成範囲に限定した理由について説明する。
【0063】
まず、x<0.03の場合、試料1のように、MTTFが50時間未満となった。他方、x>0.20の場合も、試料2のように、MTTFが50時間未満となった。
【0064】
次に、a<0.05の場合、試料3のように、ΔCの絶対値が23%を超えた。他方、a>3.50の場合は、試料4のように、εが2500未満となった。
【0065】
次に、b<0.22の場合、試料5のように、ΔCの絶対値が23%を超え、また、MTTFが50時間未満となった。他方、b>2.50の場合は、試料6のように、εが2500未満となった。
【0066】
次に、c<0.05の場合、試料7のように、MTTFが50時間未満となった。他方、c>3.0の場合は、試料8のように、ΔCの絶対値が23%を超えた。
【0067】
次に、d<0.01の場合、試料9のように、MTTFが50時間未満となった。他方、d>0.30の場合は、試料10のように、ΔCの絶対値が23%を超えた。
【0068】
これらに対して、この発明の範囲内にある試料11〜60によれば、εを2500以上と大きく、ΔCの絶対値を23%以下と小さく、さらに、MTTFについては、これを50時間以上と長くすることができた。
【0069】
[実験例2]
実験例2では、SiO2添加の効果を調査した。
【0070】
副成分の出発原料として、さらにSiO2の粉末を準備した。そして、表3に示すCa変性量xを有する主成分粉末に対して、表3に示すように、RとしてYを用いながら、a、b、c、dおよびeのモル比が得られるように、各副成分の出発原料粉末を調合し、組成式:100(Ba1-xCax)TiO3+aR23+bV25+cZrO2+dMnO+eSiO2で表わされる組成を有する調合粉末を得たことを除いて、実験例1の場合と同様の操作を経て、各試料に係る積層セラミックコンデンサを得た。
【0071】
次いで、各試料に係る積層セラミックコンデンサについて、温度変化率(ΔC)を、実験例1の場合と同様の方法により求めた。その結果が表3に示されている。
【0072】
【表3】

【0073】
表3に示した試料61〜70は、すべて、表1および表2に示した、この発明の範囲内にある試料11〜60に比べて、ΔCの絶対値が小さくなった。特に、SiO2添加量eが0.2〜5.0モル部の範囲にある試料62〜69では、ΔCの絶対値が15%以下と、より優れた温度特性を示した。
【0074】
[実験例3]
実験例3では、MgO添加の効果を調査した。
【0075】
副成分の出発原料として、さらにMgCO3の粉末を準備した。そして、表3に示すCa変性量xを有する主成分粉末に対して、表4に示すように、RとしてYを用いながら、a、b、c、dおよびfのモル比が得られるように、各副成分の出発原料粉末を調合し、組成式:100(Ba1-xCax)TiO3+aR23+bV25+cZrO2+dMnO+fMgOで表わされる組成を有する調合粉末を得たことを除いて、実験例1の場合と同様の操作を経て、各試料に係る積層セラミックコンデンサを得た。
【0076】
次いで、各試料に係る積層セラミックコンデンサについて、高温負荷信頼性試験での平均故障時間(MTTF)を、実験例1の場合と同様の方法により求めた。その結果が表4に示されている。
【0077】
【表4】

【0078】
表4に示した試料71〜79は、すべて、89時間以上と長いMTTFを示した。中でも、MgO添加量fが0.1〜5.0モル部の範囲にある試料72〜78では、MTTFが100時間を超え、より優れた信頼性を示した。
【符号の説明】
【0079】
1 積層セラミックコンデンサ
2 コンデンサ本体
3 誘電体セラミック層
4,5 内部電極
8,9 外部電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式:100(Ba1-xCax)TiO3+aR23+bV25+cZrO2+dMnO(ただし、RはY、La、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、TmおよびYbの中から選ばれる少なくとも1種の金属元素であり、a、b、cおよびdはモル比を表わす。)で表わされ、かつ、
0.03≦x≦0.20、
0.05≦a≦3.50、
0.22≦b≦2.50、
0.05≦c≦3.0、および
0.01≦d≦0.30
の各条件を満たす、誘電体セラミック組成物。
【請求項2】
前記(Ba1-xCax)TiO3で表わされる化合物100モル部に対して、SiO2を0.2〜5.0モル部さらに含む、請求項1に記載の誘電体セラミック組成物。
【請求項3】
前記(Ba1-xCax)TiO3で表わされる化合物100モル部に対して、MgOを0.1〜5.0モル部さらに含む、請求項1または2に記載の誘電体セラミック組成物。
【請求項4】
積層された複数の誘電体セラミック層、および前記誘電体セラミック層間の特定の界面に沿って形成された複数の内部電極をもって構成される、コンデンサ本体と、
前記コンデンサ本体の外表面上の互いに異なる位置に形成され、かつ前記内部電極の特定のものに電気的に接続される、複数の外部電極と
を備え、
前記誘電体セラミック層が請求項1ないし3のいずれかに記載の誘電体セラミック組成物の焼結体からなる、積層セラミックコンデンサ。
【請求項5】
前記内部電極は、Ni、Ni合金、CuおよびCu合金の中から選ばれる少なくとも1種の導電性材料を主成分として含む、請求項4に記載の積層セラミックコンデンサ。

【図1】
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【公開番号】特開2011−207630(P2011−207630A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−74124(P2010−74124)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】