説明

誘電体セラミック

【課題】高誘電率、低誘電損失または0に近い誘電率温度係数を実現することができる誘電体セラミックを提供すること。
【解決手段】本発明の誘電体セラミックは、SrOおよびBaOを含むホウケイ酸ガラスと、Ba6−3a8+2aTi1854(R:希土類元素、0≦a≦1)から組成されており前記ホウケイ酸ガラスに混入されているフィラーとを備えている。前述した組成のホウケイ酸ガラスとフィラーであれば、誘電率を低下させる析出物セルシアンの生成を防ぐことができ、気孔率も低下するので、所望の誘電率を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体セラミックに係り、特に、高誘電率、低誘電損失または0に近い誘電率温度係数が必要とされる高誘電性のガラスセラミックに好適に利用できる誘電体セラミックに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、LTCC(低温焼成セラミック)基板などのセラミック基板を積層させてなる多層セラミック配線板の内層にコンデンサを形成する場合、セラミック基板の材料として高誘電率のガラスセラミックなどの誘電体セラミックが用いられる。
【0003】
従来の誘電体セラミックは、その一例として、ガラスセラミックに高誘電率のフィラー(充填剤)を混入することにより形成されていた。ここで、ガラスセラミックとしては、主成分となるSiOおよびBにSrOやBaOなどを含ませたホウケイ酸ガラスが選択されていた。また、フィラーとしては、AlまたはxBaO−yTiO−zRO3/2系フィラー(R:希土類元素、0.02≦x≦0.3、0.4≦y≦0.85、0.05≦z≦0.5)が選択されていた(特許文献1を参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平5−81927号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の誘電体セラミックにおいては、焼成前のホウケイ酸ガラスの粉末にフィラーを混入して焼成すると、フィラーがホウケイ酸ガラスと化学反応を起こして析出化合物のセルシアンが生成されていた。このセルシアンは誘電体セラミックの比誘電率を低下させる傾向にあるため、誘電損失を低く設計することが困難であるという問題があった。また、従来の誘電体セラミックにおいては、誘電率温度係数を0に近づけることも困難であるという問題があった。
【0006】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、高誘電率、低誘電損失または0に近い誘電率温度係数を実現することができる誘電体セラミックを提供することを本発明の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述した目的を達成するため、本発明の誘電体セラミックは、その第1の態様として、SrOおよびBaOを含むホウケイ酸ガラスと、Ba6−3a8+2aTi1854(R:希土類元素、0≦a≦1)から組成されており前記ホウケイ酸ガラスに混入されているフィラーとを備えていることを特徴としている。
【0008】
本発明の第1の態様の誘電体セラミックによれば、その焼成時にフィラーがホウケイ酸ガラスと化学反応を起こさず、低誘電率の原因となるセルシアンの生成を抑制することができるので、所望の値の比誘電率を得ることができる。
【0009】
本発明の第2の態様の誘電体セラミックは、第1の態様の誘電体セラミックにおいて、前記aの範囲は、0.5≦a≦0.7であることを特徴としている。
【0010】
本発明の第2の態様の誘電体セラミックによれば、高い比誘電率を有するフィラーを生成することができるので、それに比例して誘電体セラミックの比誘電率も高くすることができる。
【0011】
本発明の第3の態様の誘電体セラミックは、第2の態様の誘電体セラミックにおいて、前記Rは、LaNd1−Xであり、前記xの範囲は、0≦x≦0.7であることを特徴としている。
【0012】
本発明の第3の態様の誘電体セラミックによれば、誘電体セラミックの比誘電率を15以上に高くすることができるとともに、ホウケイ酸ガラスの体積分率を調整することにより、誘電体セラミックの誘電率温度係数を0に近づけることができる。
【0013】
本発明の第4の態様の誘電体セラミックは、第3の態様の誘電体セラミックにおいて、前記xの範囲は、0.3≦x≦0.5であることを特徴としている。
【0014】
本発明の第4の態様の誘電体セラミックによれば、後述の基板化できるガラス体積分率の範囲においてホウケイ酸ガラスの体積分率に依存することなく、高誘電率、低誘電損失および0に近い誘電率温度係数を得ることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の誘電体セラミックによれば、析出物の生成を抑制しているので、高誘電率、低誘電損失または0に近い誘電率温度係数を実現することができるという効果を奏する。
【実施例】
【0016】
以下、表および図を用いて、本発明の誘電体セラミックの一実施例を説明する。
【0017】
(1)原料特性および結晶構造
本実施例のホウケイ酸ガラスは、主成分として通常のホウケイ酸ガラスの成分であるSiO、B、CaO、MgO、Alの他、BaOおよびSrOを含有させて形成した。本実施例のホウケイ酸ガラスをガラス1とする。比較例として、ガラス1からBaOおよびSrOを除いたホウケイ酸ガラスをガラス2とする。
【0018】
表1は、ガラスの比誘電率εおよび誘電率温度係数τEgを示している。
【0019】
【表1】

【0020】
表1に示すように、ガラス1およびガラス2の誘電率温度係数τEgはいずれも数百ppm・℃−1であり、誘電率温度係数τEgは正の値を示した。この誘電率温度係数τEgについては、ガラス1の添加物の添加量を適当に変化させることにより所望の値を得ることができる。例えば、ガラス3はガラス1の添加物の添加量を適当に変化させて得たものである。ただし、現段階においてはホウケイ酸ガラスの組成依存性は完全には明らかになっていない。
【0021】
本実施例のフィラーとしては、高誘電率を有するBa6−3a8+2aTi1854系セラミックフィラーを用いた。aの範囲は0≦a≦1である。ここで、Rは1種または2種以上の希土類元素を選択することができる。本実施例においてはRとしてLaNd1−Xを用いた。La量xの範囲は、0≦x≦0.7である。
【0022】
フィラーの作製方法を以下に示す。はじめに、原料となるBaCO、LaOH、NdOHおよびTiOの粉末を所望する組成比に基づき計量し、ボールミルを用いてそれらの粉末を水中において混合した後に混合された粉末(以下、「混合粉末」という。)を乾燥させる。乾燥させた混合粉末を焼成炉に装填して1100〜1250℃(1373〜1523K)まで加熱して原料を反応させることにより、所望のフィラーの焼結体を得た。そして、フィラーの焼結体を焼成炉から取り出した後にボールミルを用いて水中において粉砕した。この粉砕されたフィラーの焼結体を乾燥させることにより、平均粒径0.3〜0.7μmのフィラーを得た。フィラーの結晶構造をXRD(X線回折法)により同定したところ、このフィラーの結晶構造は擬似タングステンブロンズ型構造であった。
【0023】
図1は、測定したフィラーの比誘電率εおよび誘電率温度係数τEfの評価結果を示している。この評価においてはa=0.6に設定してフィラーの組成をBa4.2(LaNd1−x9.2Ti1854とした。また、フィラーの比誘電率εは周波数100MHzにおいて測定し、フィラーの誘電率温度係数τEfは、−55〜125℃(218〜398K)における比誘電率εの変化量から算出した。
【0024】
フィラーの比誘電率εは、図1に示すように、La量xを増加させると90から120まで増加する傾向を示した。また、フィラーの誘電率温度係数τEfは、La量xを増加させると負の方向へ値が大きくなる傾向を示した。ここで、通常のガラスは、数百ppm・℃−1程度の正の誘電率温度係数を有していることが多い。したがって、高誘電率を有する誘電セラミックが0に近い誘電率温度係数を有するためには、ガラスの誘電率温度係数をフィラーの誘電率温度係数によってキャンセルする必要がある。そのためにも、フィラーの誘電率温度係数τEfがLa量xを増加させることにより負の方向へ大きくなる傾向を示したことは重要である。
【0025】
なお、フィラーの組成式におけるaの値については、a=0.5およびa=0.7についてもLa量xを変化させてフィラーの比誘電率εおよび誘電率温度係数τEfを測定したが、a=0.6についての評価結果と比較して大きな変化は見られなかった。x=0.5における評価結果は下記の表2の通りであった。
【0026】
【表2】

【0027】
(2)誘電体セラミックの作製方法
ホウケイ酸ガラスの粉末、フィラー、PVB(ポリビニルブチラール)系樹脂および有機溶剤を混合したスラリーをドクターブレード装置を用いて均一の厚さに引き伸ばした後、そのスラリーを乾燥させることにより、誘電体セラミックのグリーンシートを作製した。その後、焼成炉を用いてそのグリーンシートを燃焼した。焼成炉の温度が550℃にまで加熱される間にグリーンシートに含有されたPVB系樹脂および有機溶剤が分解または揮発してそのグリーンシートから除去される。焼成炉の温度が830〜870℃まで加熱させたら、そのグリーンシートを830〜870℃で1時間保持して焼結させた後、焼成炉を降温させた。以上の手順を経ることにより、ホウケイ酸ガラスとフィラーとからなる緻密な焼結体である本実施例の誘電体セラミック(ガラス1ベースの誘電体セラミック)を得た。誘電体セラミックにおけるホウケイ酸ガラスの体積分率Vの範囲は、0.5≦V≦0.7に設定した。
【0028】
(3)誘電体セラミックの評価
(A)誘電体セラミックの組織および気孔率の評価
誘電体セラミックの組織、気孔率bおよび比誘電率εを以下の表3に示す。ここで、ガラス1およびガラス2は、表1に示した通りである。誘電体セラミックの組織についてはXRDにより評価した。誘電体セラミックの気孔率については、誘電体セラミックの密度、各ガラスおよびフィラーの真密度ならびにそれらのガラスの体積分率Vに基づき算出した。
【0029】
【表3】

【0030】
ガラス1およびフィラーを組み合せて得た本実施例の誘電体セラミックにおいては、焼成後の誘電体セラミックの組織がタングステンブロンズ相のみからなっており、ガラス1(非晶質)およびフィラー(タングステンブロンズ相)以外の化合物は見られなかった。つまり、本実施例の誘電体セラミックは、ガラス1およびフィラーの複合体のみからなり、セルシアンが析出していないことが明らかとなった。また、気孔率も1〜2%であり、緻密な誘電体セラミックの焼結体を得ることができた。後述するが、本実施例の誘電体セラミックにおいては、ガラス1の体積分率を変化させることにより、15以上の高い比誘電率εを得ることができた。
【0031】
他方、ガラス2およびフィラーを組み合わせて得たガラス2ベースの誘電体セラミックにおいては、焼成後の誘電体セラミックにガラス2とフィラー以外の化合物が析出しているのが確認された。この析出物は、セルシアン(BaSiAl)と同定された。セルシアンは、本実施例のBa−R−Ti−O系フィラーのBaがガラス2のSiおよびAlに反応して生成されたものであると考えられる。つまり、本実施例のBa−R−Ti−O系フィラーをホウケイ酸ガラスに混入する場合、そのホウケイ酸ガラスにBaOおよびSrOが含有されていないとセルシアンが析出してしまうと推測される。言い換えると、ガラス1をベースとする本実施例の誘電体セラミックにおいては、ガラス1に混入したBa−R−Ti−O系フィラーとの関係においてガラス1にBaOおよびSrOを含有させたので、セルシアンが析出しなかったと考えられる。後述に詳細に説明するが、セルシアンが析出したガラス2ベースの誘電体セラミックの比誘電率εは15よりも著しく低下した。
【0032】
また、表3に示すように、ガラス2ベースの誘電体セラミックにおいては、多くの空隙が含まれているため、その気孔率が大きく、緻密な焼結体(誘電体セラミック)を得ることができなかった。この気孔率の悪化もガラス2ベースの誘電体セラミックの比誘電率εを低下させる原因となった。気孔率の増加の一因としては、セルシアンがガラス2ベースの誘電体セラミックに析出した際、ガラス2の組成が変化してその粘度が上昇し、焼成時のガラス2の流動性が悪くなったために緻密に焼結できなかったものと考えられる。言い換えると、ガラス1ベースの誘電体セラミックは、BaOおよびSrOを含有することによりセルシアンの析出を抑制したので、気孔率が低く、所望の特性が得られたと考えられる。
【0033】
以上より、ガラス2ベースの誘電体セラミックにおいては、ガラス2の体積分率を変化させても15を超える比誘電率εを得ることができなかった。
(B)誘電体セラミックの比誘電率εおよび誘電率温度係数τの評価
前述した誘電体セラミックの組織評価により、本実施例の誘電体セラミックには析出物が生成されていないことが確認できた。一般的に、ガラスとフィラーからなる析出物のない誘電体セラミックの比誘電率εは、ガラスの比誘電率をε、フィラーの比誘電率をεおよびガラスの体積分率をVとすると、以下の数1により表されることが知られている。
【0034】
【数1】

【0035】
また、ガラスとフィラーからなる析出物のない誘電体セラミックの誘電率温度係数τは、ガラスの誘電率温度係数をτEg、フィラーの誘電率温度係数をτEfおよびガラスの体積分率をVとすると、以下の数2により表されることが知られている。
【0036】
【数2】

【0037】
本実施例の誘電体セラミックについて、ガラス1の体積分率Vを変えて焼成体(誘電体セラミック)を作製し、本実施例の誘電体セラミックの比誘電率εおよび誘電率温度係数τが数1および数2に従った値になるかを確認した。ここで、作製した誘電体セラミックの気孔率bは0.02(2%)であり、フィラーにおけるaの値を0.6、La量xを0.5に設定した。測定した本実施例の誘電体セラミックの比誘電率εおよび誘電率温度係数τを図2および図3に示す。
【0038】
図2および図3に示すように、比誘電率εおよび誘電率温度係数τの実測値は計算値と近似している。したがって、比誘電率εおよび誘電率温度係数τのは計算によって求められることが確認できたので、ガラスの体積分率Vを変化させることにより、本実施例の誘電体セラミックの比誘電率εおよび誘電率温度係数τを容易に制御できることが示された。
【0039】
また、図1に示すように、フィラーにおけるLa量xを変化させることにより、フィラーの比誘電率εおよび誘電率温度係数τEfを制御することができる。そのため、本実施例の誘電体セラミックについては、フィラーのLa量xおよびガラスの体積分率Vを変化させることにより、所望の比誘電率εおよび誘電率温度係数τを容易に得ることができる。
【0040】
次に、表5および表6ならびに図4および図5を用いて、フィラーのLa量xおよびガラスの体積分率Vを変化させたときの本実施例の誘電体セラミックの比誘電率εおよび誘電率温度係数τの変化を説明する。ここで、フィラーについては、前述と同様、a=0.6であって0≦x≦0.7としたBa4.2(LaNd1−x9.2Ti1854を作製した。また、ガラスの体積分率Vについては、0.5≦V≦0.7を選択した。表4に示すように、V<0.5においては気孔率が4%以上に上昇して緻密な焼結体(誘電体セラミック)が得られず、また、0.7<V≦1においては誘電体セラミックの焼成時に誘電体セラミックが焼成炉に付着して剥離困難であるため、Vの測定範囲から除外した。
【0041】
【表4】

【0042】
表5および図4は、フィラーのLa量xおよびガラスの体積分率Vを変化させたときの誘電体セラミックの比誘電率εを示している。また、表6および図5は、フィラーのLa量xおよびガラスの体積分率Vを変化させたときの誘電体セラミックの誘電率温度係数τを示している。なお、表5および表6におけるマーク*は、比誘電率ε≧15および誘電率温度係数τ=0±60ppm・℃−1を満たす誘電体セラミックについてのフィラーのLa量xおよびガラスの体積分率Vの組み合わせを示している。また、図4における点線は比誘電率ε=15を示しており、図5において点線枠により囲まれた範囲は誘電率温度係数τ=0±60ppm・℃−1を満たす範囲を示している。
【0043】
【表5】

【0044】
【表6】

【0045】
ガラス1とフィラーを組み合わせた本実施例の誘電体セラミックの比誘電率εは、表5および図4に示すように、0≦x≦0.7および0.5≦V≦0.7の範囲においていずれも15以上の値を示した。ここで、La量xが多くなるほど誘電体セラミックの比誘電率εは増加する傾向を示した。これは、図1に示したフィラーの比誘電率εの増加傾向と同様である。また、ガラスの体積分率Vが増加するほど誘電体セラミックの比誘電率εが減少することも示された。
【0046】
本実施例の誘電体セラミックの誘電率温度係数τは、表6に示すように、0≦x≦0.7および0.5≦V≦0.7の範囲において−247≦τ≦91を示した。ここで、ガラスの体積分率Vを一定にしてLa量xを増加させると、誘電体セラミックの誘電率温度係数τは、フィラーの誘電率温度係数τEfと同様、急激に減少することが示された。また、表6および図5に示すように、La量xを一定にしてガラスの体積分率Vを増加させると、誘電体セラミックの誘電率温度係数τは直線的に増加することが示された。図5に示すように、La量xを一定にした場合においては、La量xが少ないほど誘電体セラミックの誘電率温度係数τの傾きが小さいこともわかる。
【0047】
つまり、表6および図5に示すように、La量が少ないほど誘電体セラミックの誘電率温度係数τの変化が少なくて安定しているといえる。そのため、0.1≦La量x≦0.6の範囲内においてはガラスの体積分率Vが変化しても、誘電体セラミックの比誘電率ε≧15およびその誘電率温度係数τ=0±60ppm・℃−1またはそれに近い値の誘電率温度係数τを得ることができることが示された。特に、表6および図5に示すように、0.1≦La量x≦0.5の範囲内においては、ガラスの体積分率Vを変化させても比誘電率ε≧15および誘電率温度係数τ=0±60ppm・℃−1を満たす良好な特性の誘電体セラミックを得られることが示された。
【0048】
なお、本実施例の誘電体セラミックを複数形成してそのばらつきを調べたところ、比誘電率εの誤差は0.5以下であり、その誘電率温度係数τのバラツキは10ppm・℃−1以下であった。一般的に、焼成炉の温度分布は±10℃程度なので、本実施例の誘電体セラミックは焼成温度に対して高い安定性を持っていることが示された。
【0049】
(C)誘電体セラミックにおけるホウケイ酸ガラスの誘電率温度係数τEgの依存性の評価
次に、本実施例のホウケイ酸ガラス(ガラス1)をガラス3に変更して誘電体セラミックの比誘電率εおよび誘電率温度係数τを評価した。ここで、ガラス3とは、表1にも示したとおり、ガラス1と同様にBaOおよびSrOを含有しているが、ガラス1よりもその誘電率温度係数τEgが大きいホウケイ酸ガラスである。フィラーについては、前述と同様、a=0.6であって0≦x≦0.7としたBa4.2(LaNd1−x9.2Ti1854を作製した。また、ガラスの体積分率Vについては、0.5≦V≦0.7を選択した。選択理由は、誘電体セラミック1と同様、V<0.5においては気孔率が4%以上に上昇して緻密な焼結体(誘電体セラミック)が得られず、また、0.7<V≦1においては誘電体セラミックの焼成時に誘電体セラミックが焼成炉に付着して剥離困難であるためである。
【0050】
表7および図6は、ガラス3に本実施例のフィラーを混合した誘電体セラミック(以下、「誘電体セラミック3」という。)について、フィラーのLa量xおよびガラスの体積分率Vを変化させたときの比誘電率εを示している。また、表8および図7は、誘電体セラミック3について、フィラーのLa量xおよびガラスの体積分率Vを変化させたときの誘電体セラミックの誘電率温度係数τを示している。なお、表7および表8におけるマーク*は、比誘電率ε≧15および誘電率温度係数τ=0±60ppm・℃−1を満たす誘電体セラミック3についてのフィラーのLa量xおよびガラスの体積分率Vの組み合わせを示している。また、図6における点線は比誘電率ε=15を示しており、図7において点線枠により囲まれた範囲は誘電率温度係数τ=0±60ppm・℃−1を満たす範囲を示している。
【0051】
【表7】

【0052】
【表8】

【0053】
誘電体セラミック3の比誘電率εは、表7および図6に示すように、0≦La量x≦0.7および0.5≦体積分率V≦0.7の範囲において、いずれも15以上の値を示した。ここで、ガラス1に本実施例のフィラーを混合した誘電体セラミック(以下、「誘電体セラミック1」という。)と同様、La量xが多くなるほど誘電体セラミック3の比誘電率εは増加する傾向を示した。また、誘電体セラミック1と同様、ガラスの体積分率Vが増加するほど誘電体セラミックの比誘電率εが減少することも示された。ここで、表5および表7を比較すると、誘電体セラミック1の比誘電率εと誘電体セラミック3の比誘電率εとの間に大きな違いが見られないことが分かる。これは、ガラス1の比誘電率εとガラス3の比誘電率εとの間に大きな違いが見られないことに起因する。
【0054】
誘電体セラミック3の誘電率温度係数τは、表8に示すように、0≦x≦0.7および0.5≦V≦0.7の範囲において−200≦τ≦90を示した。ここで、ガラスの体積分率Vを一定にしてLa量xを増加させると、誘電体セラミック3の誘電率温度係数τは、フィラーの誘電率温度係数τEfと同様、急激に減少することが示された。また、表8および図7に示すように、La量xを一定にしてガラスの体積分率Vを増加させると、誘電体セラミック3の誘電率温度係数τは直線的に増加することが示された。La量xを一定にした場合においては、La量xが少ないほど誘電体セラミック3の誘電率温度係数τの傾きが小さいこともわかる。つまり、表8および図7に示すように、誘電体セラミック1と同様、La量が少ないほど誘電体セラミック3の誘電率温度係数τの変化が少なくて安定しているといえる。
【0055】
ただし、表8に示すように、誘電体セラミック3については、誘電体セラミック1とは異なり、0.3≦La量x≦0.7の範囲内において誘電体セラミックの比誘電率ε≧15およびその誘電率温度係数τ=0±60ppm・℃−1またはそれに近い値の誘電率温度係数τを得ることができることが示された。特に、0.4≦La量x≦0.6の範囲であればガラスの体積分率Vを変化させても比誘電率ε≧15および誘電率温度係数τ=0±60ppm・℃−1を満たす良好な特性の誘電体セラミックを得られることが示された。
【0056】
つまり、表5〜表8および図4〜図7に示したように、誘電体セラミック1および誘電体セラミック3の評価結果を参照すると、0≦La量x≦0.7および0.5≦体積分率V≦0.7においては、La量およびガラスの体積分率Vを表5から表8に基づき選択することにより、誘電体セラミックの比誘電率ε≧15およびその誘電率温度係数τ=0±60ppm・℃−1を有する誘電体セラミックが得られることが示された。特に、表6および表8に示すように、0.3≦La量x≦0.5を満たせば、ホウケイ酸ガラスの誘電率温度係数τEgに依存することなく高誘電率および0に近い誘電率温度係数を有する誘電体セラミックを得られることがわかる。
【0057】
また、表や図には示さないが、本実施例の誘電体セラミックの損失係数tanδを測定した結果、本実施例の誘電体セラミックの損失係数tanδはすべて0.001以下となった。したがって、誘電体セラミックの損失係数についても所望の値を得ることができた。
【0058】
すなわち、本実施例の誘電体セラミックによれば、高誘電率、低誘電損失および0に近い誘電率温度係数を実現することができる。
【0059】
なお、本発明は、前述した実施例などに限定されるものではなく、必要に応じて種々の変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本実施例のフィラーにおいてa=0.6とした場合のLa量xと比誘電率εもしくは誘電率温度係数τEf との関係を示すグラフ
【図2】本実施例の誘電体セラミック(ガラス1+フィラー)においてa=0.6およびLa量x=0.5とした場合のガラスの体積分率Vと比誘電率εとの関係を示すグラフ
【図3】本実施例の誘電体セラミック(ガラス1+フィラー)においてa=0.6およびLa量x=0.5とした場合のガラスの体積分率Vと誘電率温度係数τとの関係を示すグラフ
【図4】本実施例の誘電体セラミック(ガラス1+フィラー)においてa=0.6とした場合のガラスの体積分率Vと比誘電率εとの関係を示すグラフ
【図5】本実施例の誘電体セラミック(ガラス1+フィラー)においてa=0.6とした場合のガラスの体積分率Vと誘電率温度係数τとの関係を示すグラフ
【図6】ガラス3にフィラーを混合した誘電体セラミック3においてa=0.6とした場合のガラスの体積分率Vと比誘電率εとの関係を示すグラフ
【図7】ガラス3にフィラーを混合した誘電体セラミック3においてa=0.6とした場合のガラスの体積分率Vと誘電率温度係数τとの関係を示すグラフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SrOおよびBaOを含むホウケイ酸ガラスと、
Ba6−3a8+2aTi1854(R:希土類元素、0≦a≦1)から組成されており、前記ホウケイ酸ガラスに混入されているフィラーと
を備えていることを特徴とする誘電体セラミック。
【請求項2】
前記aの範囲は、0.5≦a≦0.7である
ことを特徴とする請求項1に記載の誘電体セラミック。
【請求項3】
前記Rは、LaNd1−Xであり、
前記xの範囲は、0≦x≦0.7である
ことを特徴とする請求項2に記載の誘電体セラミック。
【請求項4】
前記xの範囲は、0.3≦x≦0.5である
ことを特徴とする請求項3に記載の誘電体セラミック。
【請求項5】
前記ホウケイ酸ガラスの体積分率Vの範囲は、0.5≦V≦0.7である
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の誘電体セラミック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−40648(P2009−40648A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−209026(P2007−209026)
【出願日】平成19年8月10日(2007.8.10)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】