説明

誘電体及び誘電体の製造方法

【課題】温度の変化に対して安定した誘電率を有し、かつ高い誘電率を有する誘電体を製造できる、誘電体及び誘電体の製造方法を提供する。
【解決手段】下記一般式(I)で表され、下記xが異なる2種以上のセラミックフィラーと、[化1]Ba1−xSrTiO(I)(式中xは、0<x≦1の範囲の数である。)前記2種以上のセラミックフィラーを含む、好ましくは高い周波数で誘電損失値が小さく、温度による寸法変化が小さく、耐湿性及び耐化学性に優れたポリフェニレンオキシド、液晶高分子などの高分子基材と、を含む誘電体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体及び誘電体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の小型化及びコンバージェンスにより、抵抗、インダクター、キャパシタなどの受動部品の内蔵化技術の重要度はますます高まっている。特に、他の受動部品に比べて基板に多数のキャパシタが実装される内蔵化技術の重要度はさらに高い。
【0003】
デカップリング(decoupling)用キャパシタまたはシグナルマッチング用キャパシタの場合高容量値と低インダクタンス値が求められるが、これに関する開発はまだまだ少ないのが現状である。
【0004】
これと関連して、現在開発中である有機無機複合材料の場合は低誘電率が問題であり、セラミック薄膜の場合は高い工程コスト及び低信頼性という問題があって、実際の製品に適用することが困難であった。
【0005】
また、従来のキャパシタ内蔵用有機無機複合材料絶縁層の場合、高い誘電率を有するセラミック粉末をフィラーとして添加すると、均一な分散度とともに高い添加充填率を確保しにくくなり、誘電体(複合材料)の誘電率を高めることが困難であった。
【0006】
さらに、通常の高分子材料の熱膨張特性から、誘電体の温度変化による安定した誘電率を確保することが困難であった。そこで、高分子材料のTCC(Temperature coefficient of capacitance)を補完できるセラミックフィラーを適用することにより、このような問題点を改善できる技術が開発中であるが、高分子材料のTCC特性に応じて常に最適のセラミックフィラーを選ぶには煩わしさがある。
【0007】
また、既存の高分子基材内にセラミックフィラーを分散させる方法は、溶媒の蒸発段階時または工程待機中の間に、高分子溶液に比べて相対的に高い比重を有するセラミック粉末が沈降することにより、高い均一度を有する誘電体を製造しにくく、添加量を増加するにも多くの制約があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
こうした従来技術の問題点に鑑み、本発明は、温度の変化に対して安定した誘電率を有し、かつ高い誘電率を有する誘電体を提供することを目的とする。また、本発明は、高分子基材内にセラミックフィラーを分散させる方法を改善して上記誘電体を効果的に製造できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施態様では、下記一般式(I)で表され、下記xが異なる2種以上のセラミックフィラーと、
【0010】
[化1]
Ba1−xSrTiO (I)
(式中xは、0<x≦1の範囲の数である。)
前記2種以上のセラミックフィラーを含む高分子基材と、
を含む誘電体が提供される。
【0011】
一実施態様によれば、上記xが異なる2種以上のセラミックフィラーの総量は、上記誘電体の体積に対して10体積%(vol%)〜60体積%であってもよい。
【0012】
一実施態様によれば、上記誘電体に用いられる上記xが異なる2種以上のセラミックフィラーの種類及び上記用いられるセラミックフィラーの量は、温度の変化に対して所定範囲内のTCC(ppm/℃)値を維持するように制御可能である。
【0013】
一実施態様によれば、上記誘電体は、−55〜125℃の温度範囲で−300〜300ppm/℃のTCCを有することができる。
【0014】
一実施態様によれば、上記xが異なる2種以上のセラミックフィラーは、Ba0.9Sr0.1TiO、Ba0.8Sr0.2TiO、Ba0.7Sr0.3TiO、Ba0.6Sr0.4TiO、及びBa0.5Sr0.5TiOを含むことができる。
【0015】
一実施態様によれば、上記xが異なる2種以上のセラミックフィラーの総量は、上記誘電体の体積に対して20〜40体積%であってもよい。
【0016】
一実施態様によれば、上記xが異なる2種以上のセラミックフィラーは、上記Ba0.9Sr0.1TiOを20〜30体積%、上記Ba0.8Sr0.2TiOを0.1〜1体積%、上記Ba0.7Sr0.3TiOを0.1〜1体積%、上記Ba0.6Sr0.4TiOを0.1〜2体積%、及び上記Ba0.5Sr0.5TiOを0.1〜1体積%含むことができる。
【0017】
本発明の他の実施形態では、(a)高分子基材と、該高分子基材が溶解可能な第1溶媒とを混合して高分子溶液を製造するステップと、(b)上記第1溶媒、分散剤、及びセラミックフィラーを混合してセラミックフィラーゾル(Sol)を製造するステップであって、上記(a)ステップと該(b)ステップの順序は問わない、ステップと(c)上記高分子溶液と上記セラミックフィラーゾルとを混合して分散液を製造するステップと、(d)上記第1溶媒に対して不溶性である第2溶媒に上記分散液を液滴(droplet)状に落として上記セラミックフィラーが分散された高分子基材を析出させるステップと、(e)上記析出された高分子基材を乾燥して溶媒を蒸発させるステップと、を含む誘電体の製造方法が提供される。
【0018】
一実施態様によれば、上記セラミックフィラーは、下記一般式(I)で表されるセラミックであって(以下「BST」という場合がある)、下記xが異なる2種以上のものの混合物であるセラミックフィラーを含むことができる。
【0019】
[化2]
Ba1−xSrTiO (I)
(式中xは、0<x≦1の範囲の数である。)
【0020】
一実施態様によれば、上記xが異なる2種以上のセラミックフィラーの総量は、上記誘電体の体積に対して10体積%(vol%)〜60体積%である。
【0021】
一実施態様によれば、上記誘電体に用いられる上記xが異なる2種以上のセラミックフィラーの種類及び上記用いられるセラミックフィラーの量を調整して、温度の変化に対して所定範囲内のTCC(ppm/℃)値を維持するように制御することが可能である。
【0022】
一実施態様によれば、上記xが異なる2種以上のセラミックフィラーは、Ba0.9Sr0.1TiO、Ba0.8Sr0.2TiO、Ba0.7Sr0.3TiO、Ba0.6Sr0.4TiO、及びBa0.5Sr0.5TiOを含むことができる。
【0023】
一実施態様によれば、上記xが異なる2種以上のセラミックフィラーの総量は、上記誘電体の体積に対して20〜40体積%であってもよい。
【0024】
一実施態様によれば、上記xが異なる2種以上のセラミックフィラーは、上記Ba0.9Sr0.1TiOを20〜30体積%、上記Ba0.8Sr0.2TiOを0.1〜1体積%、上記Ba0.7Sr0.3TiOを0.1〜1体積%、上記Ba0.6Sr0.4TiOを0.1〜2体積%及び上記Ba0.5Sr0.5TiOを0.1〜1体積%含むことができる。
【0025】
一実施態様によれば、上記第1溶媒はトルエンであり、上記第2溶媒はメタノールであってよい。
【0026】
本発明のまた他の実施形態では、上述した誘電体を用いたキャパシタ内蔵型基板用絶縁材料が提供される。
【0027】
本発明のまた他の実施形態では、上述した誘電体を用いたキャパシタ内蔵型基板が提供される。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、温度の変化に対して安定した誘電率を有し、かつ高い誘電率を有する誘電体を提供することができる。
【0029】
また、本発明によれば、高分子基材内にセラミックフィラーを高い分散率で分散させることができるため、上記誘電体を効果的に製造することができる。
【0030】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】セラミックフィラーの種類別の、温度による誘電率の変化グラフである。
【図2】セラミックフィラーの種類別の、含量による誘電率の変化グラフである。
【図3】セラミックフィラーの種類別の、含量による誘電損失の変化グラフである。
【図4】セラミックフィラーの異なる含量で製造された誘電体のTGA分析チャートである。
【図5】Ba0.9Sr0.1TiOのキャパシタンス値(上段)とTCC値(下段)の温度による変化を表すグラフである。
【図6】Ba0.8Sr0.2TiOのキャパシタンス値(上段)とTCC値(下段)の温度による変化を表すグラフである。
【図7】Ba0.7Sr0.3TiOのキャパシタンス値(上段)とTCC値(下段)の温度による変化を表すグラフである。
【図8】Ba0.6Sr0.4TiOのキャパシタンス値(上段)とTCC値(下段)の温度による変化を表すグラフである。
【図9】Ba0.5Sr0.5TiOのキャパシタンス値(上段)とTCC値(下段)の温度による変化を表すグラフである。
【図10】本発明の一実施例である上記5種のセラミックフィラーをそれぞれ6体積%ずつ含む誘電体のキャパシタンス値(上段)とTCC値(下段)の温度による変化を表すグラフである。
【図11】本発明の一実施例である各BSTの含量最適化と関連したキャパシタンス値(上段)とTCC値(下段)の温度による変化を表すグラフである。
【図12】本発明の比較例であるPPOのキャパシタンス値(上段)とTCC値(下段)の温度による変化を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明は多様な変換を加えることができ、様々な実施例を有することができるため、本願では特定実施例を図面に例示し、詳細に説明する。しかし、これは本発明を特定の実施形態に限定するものではなく、本発明の思想及び技術範囲に含まれるあらゆる変換、均等物及び代替物を含むものとして理解されるべきである。本発明を説明するに当たって、係る公知技術に対する具体的な説明が本発明の要旨をかえって不明にすると判断される場合、その詳細な説明を省略する。
「第1」、「第2」などのような序数を含む用語は、多様な構成要素を説明するために用いられるに過ぎず、構成要素がそれらの用語により限定されるものではない。それらの用語は一つの構成要素を他の構成要素から区別する目的だけに用いられる。
【0033】
本願で用いた用語は、ただ特定の実施例を説明するために用いたものであって、本発明を限定するものではない。単数の表現は、文の中で明らかに表現しない限り、複数の表現を含む。本願において、「含む」または「有する」などの用語は明細書上に記載された特徴、数字、段階、動作、構成要素、部品、またはこれらを組合せたものの存在を指定するものであって、一つまたはそれ以上の他の特徴や数字、段階、動作、構成要素、部品、またはこれらを組合せたものの存在または付加可能性を予め排除するものではないと理解しなくてはならない。
【0034】
以下、添付した図面を参照して、本発明に基づいて誘電体及び誘電体の製造方法の好ましい実施態様を詳細に説明する。本発明を説明するに当たって、図面番号にかかわらず同一かつ対応の構成要素には同一の図面符号を付し、これに対する重複説明は省略する。
【0035】
本発明の一実施態様では、高分子基材(Matrix)を用いた誘電体であって、下記一般式(I)で表され、下記xが異なる2種以上のセラミックフィラーを含む誘電体を提供する。
【0036】
[化3]
Ba1−xSrTiO (I)
(式中xは、0<x≦1の範囲の数である。)
【0037】
本発明に用いられる高分子基材は、誘電体として使用できるものであれば特に制限はない。例えば、エポキシ系基材またはポリフェニレンスルフィド(Poly Phenylene Sulfide、PPS)系基材が使用可能であり、好ましくは高い周波数で誘電損失値が小さく、温度による寸法変化が小さく、耐湿性及び耐化学性に優れたポリフェニレンオキシド(Poly Phenylene oxide、PPO)あるいは液晶高分子(Liquid Crystal Polymer)などが使用される。
【0038】
上述したx値は高分子基材の特性に応じて温度による高誘電率の安定性を確保するために選択することができる。x値に応じてキュリー温度(Curie temperature)を調節でき、Srの組成が増加するにつれ、キュリー温度が低くなる特性がある。すなわち、Srの含量に応じて、温度による誘電率の変化を小さくすることができる。
【0039】
好ましくは、xは0<x≦0.7、より好ましくは0<x≦0.5の範囲の数である。x値としては、例えば、0.1、0.2、0.3、0.4、または0.5を選択することができる。それによるセラミックフィラーに対して、以下では略称で、Ba0.9Sr0.1TiOをBST01と、Ba0.8Sr0.2TiOをBST02と、Ba0.7Sr0.3TiOをBST03と、Ba0.6Sr0.4TiOをBST04と、Ba0.5Sr0.5TiOをBST05ということもある。
【0040】
図1は、それぞれx値が異なる複数のセラミックフィラーを用いて製造したディスクの誘電率を測定したグラフである。ディスクは、1230℃で2時間焼結して製造された(直径(d)=10mm、厚み(t)=1mm)。
【0041】
図1に示すように、x値に応じて温度による比誘電率が異なることが分かる。
上記x値が1を超える完全固溶体は存在しない。
【0042】
本発明の一実施態様によれば、上記xが異なる2種以上のセラミックフィラーは、誘電体の体積に対して10体積%(vol%)〜60体積%である。
セラミックフィラーの含量が10体積%未満であると、誘電率の向上にあまり効果がなく、60体積%を超えると、フィラー界面の細孔(Pore)などの問題により誘電率がそれ以上増加できなくなる。より好ましくは、誘電体の体積に対して20〜40体積%である。
【0043】
図2は、ディスク状に製作された複合体の両面に銀ペーストで電極を形成した後に、25℃で測定した誘電率に関するグラフであり、図3は、それによる誘電損失に関するグラフである。
【0044】
セラミックフィラーの添加により誘電率及び誘電損失が大きくなることが分かり、30体積%以下では誘電損失が0.004以下の低い値を有することが分かる。
【0045】
好ましくは、上記xが異なる2種以上のセラミックフィラーは、Ba0.9Sr0.1TiO、Ba0.8Sr0.2TiO、Ba0.7Sr0.3TiO、Ba0.6Sr0.4TiO、及びBa0.5Sr0.5TiOを含むことができる。
【0046】
上記誘電体に用いられる上記xが異なる2種以上のセラミックフィラーの種類及び上記用いられるセラミックフィラーの量を調整することにより、温度の変化に対して所定範囲内のTCC(ppm/℃)値を維持するよう、制御することが可能である。
【0047】
例えば、キャパシタに用いられるのに好ましい物性である、−55〜125℃の温度範囲で−300〜300ppm/℃のTCCを有することができる。より好ましくは、−30〜30ppm/℃のTCCを有することができる。
【0048】
制御されたセラミックフィラーの種類及び量の一例として、上記Ba0.9Sr0.1TiOを20〜30体積%、上記Ba0.8Sr0.2TiOを0.1〜1体積%、上記Ba0.7Sr0.3TiOを0.1〜1体積%、上記Ba0.6Sr0.4TiOを0.1〜2体積%、及び上記Ba0.5Sr0.5TiOを0.1〜1体積%含むことができる。
【0049】
2種以上のセラミックフィラーを上記範囲で含む場合、多様な温度で安定したキャパシタンス変化(%)(Capacitance variation)とTCC値を有することができる。すなわち、高い誘電率を有する様々な組成のBSTセラミックフィラーを用いることにより、温度の変化に対して安定した誘電率を有し、かつ高い誘電率を有する複合材料を製造することができる。
【0050】
本発明のまた他の一実施態様では、(a)高分子基材と、該高分子基材が溶解可能な第1溶媒とを混合して高分子溶液を製造するステップと、(b)上記第1溶媒、分散剤、及びセラミックフィラーを混合してセラミックフィラーゾルを製造するステップであって、上記(a)ステップと上記(b)ステップの順序は問わない、ステップと、(c)上記高分子溶液と上記セラミックフィラーゾルとを混合して分散液を製造するステップと、(d)上記第1溶媒に対して不溶性である第2溶媒に上記分散液を液滴状に落として上記セラミックフィラーが分散された高分子基材を析出させるステップと、(e)上記析出された高分子基材を乾燥して溶媒を蒸発させるステップと、を含む誘電体の製造方法を提供する。
【0051】
上記高分子基材との溶解度パラメータの差が小さい第1溶媒は、トルエンであってもよく、用いられる高分子基材の溶解可否により選択される。高分子基材を溶解でき、以後のステップで蒸留(Distillation)できるものであれば、その種類は特に制限されない。
【0052】
上記第2溶媒は第1溶媒に対して不溶性である溶媒であって、メタノールであってもよい。
【0053】
従来の分散方法により誘電体を製造する場合、分散されたセラミックフィラーの密度が高分子基材や溶媒よりも大きいため、工程の状態に依存して、または乾燥段階時にセラミックフィラーが沈降して不均一性をもたらす。
【0054】
本発明の一実施態様によれば、第1溶媒を用いた分散液を、第1溶媒に対して不溶性である第2溶媒に液滴状に落とすことにより、上記セラミックフィラーが高分子基材内に均一に分布された状態で析出されることができる。すなわち、セラミックフィラーの高い分散度を有する複合材料を製造することができる。
【0055】
セラミックフィラーの均一に分散された高分子基材が析出された後、溶媒を蒸発させ、乳鉢で粉砕して均一に分散された高分子−セラミック複合顆粒体(Granule)を製造することができる。製造された顆粒体は、高温プレスモールドまたは射出などの方法で成形されることができる。
【0056】
上記方法に用いられるセラミックフィラーの種類や使用可能な体積%は上述した通りである。
【0057】
本発明のまた他の一実施例では、上記誘電体を用いたキャパシタ内蔵型基板用絶縁体及び上記基板を提供する。
以下、本発明を、実施例を参照して説明する。
【実施例】
【0058】
ポリフェニレンオキシド(PPO)としてポリ(2,6−ジメチルフェニレンオキシド)(Sigma Aldrich社)を用い、上記材料の誘電率を測定するために、310℃の温度及び6kgf/cmの圧力で高温プレスモールドにより40mmの直径及び約1mmの厚さを有するディスクを製作して種々の温度における誘電率を測定した。
製造過程は次の通りである。
まずPPOをトルエンに入れ、弱い熱を加えながらマグネチックスターラーを用いて完全に溶かして高分子溶液を用意した。
BSTセラミックフィラーをトルエンに分散させてセラミックフィラーゾルを製造した。分散時に超音波ホモジナイザを利用し、分散剤としてtriton x−100(Sigma Aldrich、米)を使用した。セラミックフィラーの分散量は、後の実験に応じて計算して調節した。後の実験に必要とされるセラミックフィラーの種類及び量は下記表1の通りである。
【0059】
【表1】

【0060】
それぞれ用意した高分子溶液とセラミックフィラーゾルをマグネチックスターラーを用いて混合した後、これを超音波ホモジナイザを用いて完全に分散させた。このように製造された分散液をマグネチックスターラーで攪拌しながら、ディスペンサーを用いて一滴ずつ、トルエンとの溶解度パラメータの差が大きいメタノールに落とした。
【0061】
BSTセラミックフィラーが分散された状態の高分子基材がスポンジ状でメタノールより析出され、この析出物を80℃のオーブンで乾燥させて溶媒を完全に蒸発させた後、これを粉砕して微粒状物を得た。
乾燥及び粉砕して得られた微粒状物を金型に入れて、高温プレスを用いて310℃で20分間6kgf/cmの圧力でディスク状の試片を製造した。
【0062】
<実施例1>
セラミックフィラーとしてBST01を選択して誘電体を製造した。セラミックフィラーの体積%によるセラミックフィラーの損失に対して実験した。分析はTGA分析を利用した。
表2から分かるように、高含量のフィラーを有する誘電体でも、密度差によるセラミックフィラーの沈降によるフィラー含量が損失されること無く、設計されたフィラー含量を有する誘電体を製造できることが分かる。
【0063】
【表2】

上記表2に示す結果をグラフにしたものを図4に示す。
これは本発明の一実施例による誘電体の製造方法が、フィラーを多く含む誘電体の製造に効果的であることを示す。
【0064】
<実施例2>
各セラミックフィラーの種類、添加量、及び温度による誘電率の変化に対して実験した。
キャパシタンス変化(%)は25℃での値を基準とし、又、TCCは下記の式により計算した。
【0065】
【数1】

【0066】
BST01の結果を図5に、BST02の結果を図6に、BST03の結果を図7に、BST04の結果を図8に、及びBST05の結果を図9に示す。
大部分のBSTにおいて、セラミックフィラーの含量が30体積%であるとき、温度によるTCCの変化量が小さいことが分かる。
上記図5から図9のグラフの結果を表3に整理した。
【0067】
【表3】

【0068】
<実施例3>
5種のBSTセラミックフィラーのそれぞれに対してセラミックフィラーの量を一定に30体積%とした誘電体、及び上記5種のBSTセラミックフィラーをそれぞれ6体積%含んで総30体積%のセラミックフィラーが含まれた誘電体に対して実施例2と同様に実験した。
BST012345は、5種のセラミックフィラーをそれぞれ6体積%ずつ含む誘電体を意味する。
その結果は図10に示されている。図10から分かるように、BST012345が、それぞれのセラミックフィラーよりも温度の変化に対してより安定したキャパシタンス許容度(capacitance tolerance)及びTCC値を有することが分かる。
【0069】
<実施例4>
上記実施例3の実験結果に基づいて、セラミックフィラーの全量を30体積%に限定し、TCCの温度による変化を最小とするために各フィラーの組成を最適化した。その結果、70体積%のPPOにセラミックフィラーとしてBa0.9Sr0.1TiO、Ba0.8Sr0.2TiO、Ba0.7Sr0.3TiO、Ba0.6Sr0.4TiO、Ba0.5Sr0.5TiOをそれぞれ27体積%、0.6体積%、0.6体積%、1.2体積%、0.6体積%添加した結果、誘電率が7.3、誘電損失が0.003であり、図11に示すように−55〜125℃の温度範囲でTCCが−30〜−10ppm/℃である誘電体を製造することができた。上記誘電体は、誘電密度が215pF/cmであって、シグナルマッチング用キャパシタ内蔵材料として適する値を有する。
図11でOptimizeと表示されたものが、上記最適化されたセラミックフィラーであって、温度の変化に対して優れた安定性を有することが分かる。
【0070】
<比較例>
セラミックフィラーを除いたポリ(2,6−ジメチルフェニレンオキシド)(Sigma Aldrich社)だけを用いて実施例1と同様にディスク状の試片を製造した。
製造されたディスク状の試片のキャパシタンス変化及びTCCを実施例2と同様の方法により測定し、その結果は図12に示す。
キャパシタンス変化は、−5℃で0.21%で最も高い値を示し、温度の変化により−0.77%までの幅の大きい変化を見せた。TCC値も温度の変化により−173から30ppm/℃まで幅の大きい変化を見せた。
【0071】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表され、下記xが異なる2種以上のセラミックフィラーと、
[化1]
Ba1−xSrTiO (I)
(式中xは、0<x≦1の範囲の数である。)
前記2種以上のセラミックフィラーを含む高分子基材と、
を含む誘電体。
【請求項2】
前記xが異なる2種以上のセラミックフィラーの総量は、前記誘電体の体積に対して10体積%〜60体積%であることを特徴とする請求項1に記載の誘電体。
【請求項3】
前記xが、0<x≦0.5の範囲の数である、請求項1または2記載の誘電体。
【請求項4】
前記誘電体が、−55〜125℃の温度範囲で−300〜300ppm/℃のTCCを有することを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の誘電体。
【請求項5】
前記xが異なる2種以上のセラミックフィラーは、Ba0.9Sr0.1TiO、Ba0.8Sr0.2TiO、Ba0.7Sr0.3TiO、Ba0.6Sr0.4TiO、及びBa0.5Sr0.5TiOを含むことを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の誘電体。
【請求項6】
前記xが異なる2種以上のセラミックフィラーの総量は、前記誘電体の体積に対して20〜40体積%であることを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載の誘電体。
【請求項7】
前記xが異なる2種以上のセラミックフィラーが、
前記Ba0.9Sr0.1TiOを20〜30体積%、前記Ba0.8Sr0.2TiOを0.1〜1体積%、前記Ba0.7Sr0.3TiOを0.1〜1体積%、前記Ba0.6Sr0.4TiOを0.1〜2体積%、及び前記Ba0.5Sr0.5TiOを0.1〜1体積%含むことを特徴とする請求項1から6の何れか1項に記載の誘電体。
【請求項8】
(a)高分子基材と、該高分子基材が溶解可能な第1溶媒とを混合して高分子溶液を製造するステップと、
(b)前記第1溶媒、分散剤、及びセラミックフィラーを混合してセラミックフィラーゾルを製造するステップであって、前記(a)ステップと該(b)ステップの順序は問わない、ステップと、
(c)前記高分子溶液と前記セラミックフィラーゾルとを混合して分散液を製造するステップと、
(d)前記第1溶媒に対して不溶性である第2溶媒に前記分散液を液滴状に落として前記セラミックフィラーが分散された高分子基材を析出させるステップと、
(e)前記析出された高分子基材を乾燥して溶媒を蒸発させるステップと、
を含む誘電体の製造方法。
【請求項9】
前記セラミックフィラーは、
下記一般式(I)で表され、下記xが異なる2種以上のセラミックフィラーを含むことを特徴とする請求項8に記載の誘電体の製造方法。
[化2]
Ba1−xSrTiO (I)
(式中xは、0<x≦1の範囲である。)
【請求項10】
前記xが異なる2種以上のセラミックフィラーの総量は、前記誘電体の体積に対して10体積%(vol%)〜60体積%であることを特徴とする請求項8または9に記載の誘電体の製造方法。
【請求項11】
前記誘電体に用いられる前記xが異なる2種以上のセラミックフィラーの種類及び前記用いられるセラミックフィラーの量を調整して、温度の変化に対して所定範囲内のTCC(ppm/℃)値を維持するように制御することを特徴とする請求項8から10の何れか1項に記載の誘電体の製造方法。
【請求項12】
前記xが異なる2種以上のセラミックフィラーは、Ba0.9Sr0.1TiO、Ba0.8Sr0.2TiO、Ba0.7Sr0.3TiO、Ba0.6Sr0.4TiO、及びBa0.5Sr0.5TiOを含むことを特徴とする請求項8から11の何れか1項に記載の誘電体の製造方法。
【請求項13】
前記xが異なる2種以上のセラミックフィラーの総量は、前記誘電体の体積に対して20〜40体積%であることを特徴とする請求項8から12の何れか1項に記載の誘電体の製造方法。
【請求項14】
前記xが異なる2種以上のセラミックフィラーは、
前記Ba0.9Sr0.1TiOを20〜30体積%、前記Ba0.8Sr0.2TiOを0.1〜1体積%、前記Ba0.7Sr0.3TiOを0.1〜1体積%、前記Ba0.6Sr0.4TiOを0.1〜2体積%、及び前記Ba0.5Sr0.5TiOを0.1〜1体積%含むことを特徴とする請求項8から13の何れか1項に記載の誘電体の製造方法。
【請求項15】
前記第1溶媒はトルエンであり、前記第2溶媒はメタノールであることを特徴とする請求項8から14の何れか1項に記載の誘電体の製造方法。
【請求項16】
請求項1から7の何れか1項に記載の誘電体を用いたキャパシタ内蔵型基板用絶縁材料。
【請求項17】
請求項16に記載の絶縁材料を用いたキャパシタ内蔵型基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−257935(P2010−257935A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−285438(P2009−285438)
【出願日】平成21年12月16日(2009.12.16)
【出願人】(591003770)三星電機株式会社 (982)
【Fターム(参考)】