説明

課電式事故探査システム、課電式事故探査方法

【課題】 事故点における地絡抵抗が高い場合においても容易かつ確実に事故点を特定し、その事故状態等の具体的な情報を迅速に導出することを目的としている。
【解決手段】 本発明による配電系統における事故探査を行う課電式事故探査システムは、所定時間幅の矩形電圧を配電系統に印加する課電装置100と、矩形電圧が印加されている間の、配電系統の任意の点における3相それぞれの線路電流の推移を取得する線路電流取得部150と、取得された3相分の線路電流の推移を互いに比較し事故が起きている相を特定する事故特定部154と、を含む探査装置110と、を備え、少なくとも、任意の点における課電装置方向に対する事故点の方向、および事故相を特定することを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配電系統における事故探査を行う課電式事故探査システム、課電式事故探査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現代では、電力の供給停止、所謂停電が日常生活に及ぼす影響は計り知れない。従って、配電系統の一部で事故が発生し、停電を招いた場合においても、その事故点を早期に特定し原因を取り除いて電力の供給を迅速に再開しなければならない。例えば、6.6kVの架空配電線において漏電等を伴った事故が生じた場合、まず、電力事業者は、電流異常を検知した発電所または変電所において、その管理下にある配電系統への電力供給を止め、事故区域を絞り、その事故区域以外の正常区域の電力供給を再開する。その後、事故区域内の具体的な事故点の特定を遂行する。
【0003】
上記事故点の特定に関しては、配電線から放射される電波の比較によって事故点を特定する技術(例えば、特許文献1)、ノイズ電流から信号を分離するため、配電系統に、変調したコード化探索信号を印加して漏電箇所を特定する技術(例えば、特許文献2)、配電線路のインピーダンスの虚部(測定インダクタンス)を配電線路の単位長インダクタンスと比較することで課電点から事故点までの距離を特定する技術(例えば、特許文献3)、バッテリを昇圧した課電電圧を利用することで課電装置を小型化した技術(例えば、特許文献4)、ステッキ型のアンテナ(試験プローブ)を利用して事故点を特定する技術(例えば、特許文献5)といった様々な技術が提案されている。
【0004】
従来から利用されている、ステッキ型のアンテナを用いる上記の方法によると、事故区域の任意の位置から試験信号(矩形電圧)が印加され、他の任意の位置において、その試験信号に対する線路電流を測定するだけで事故点を特定することができる。
【0005】
図13は、アンテナを利用した事故点の探査方法を説明するための説明図である。かかる事故点探査方法では、配電系統の配電線10の任意の位置に課電装置12を接続し、その課電装置12から所定時間幅の矩形電圧を周期的に印加する。アンテナ14は、3相ある配電線10のうち1相の線路に掛止され、矩形電圧に対する線路電流量を検知する。アンテナ14の表示部16は、検知した線路電流に応じた漏電量を、LEDの点灯を通じて数値で表す。
【0006】
図14および図15は、アンテナ14による事故点の特定方法を説明するための説明図である。図14(a)は、定常時、即ち事故が生じていないときの配電系統の等価回路を示し、図14(b)はその時のアンテナ14で検知される線路電流を示している。課電装置12が図14(b)の上段に示した矩形電圧を印加すると、対地静電容量Cへの充放電が繰り返され、アンテナ14の測定点では、図14(b)の中段に示すような充電電流Icと放電電流Idとが線路電流として流れる。充電電流Icと放電電流Idとは理論上絶対値が等しくなる。この充電電流Icと放電電流Idとを積分すると図14(b)の下段に示すような波形となる。かかる積分値は充電電流Icによって一旦高い値を示すものの、放電電流Idにより相殺される。従って、アンテナ14の表示部16には、事故レベル「0」(正常)が示される。
【0007】
図15(a)は、事故が生じたときの配電系統の等価回路を示し、図15(b)はその時のアンテナ14で検知される線路電流を示している。図14同様に、課電装置12が図15(b)の上段に示した矩形電圧を印加すると、対地静電容量Cへの充放電が繰り返される。しかし、事故点20において短絡抵抗Rgを通じた事故電流Igが漏電しているため、矩形電圧が印加されている間には、充電電流Icに事故電流Igが加わり、矩形電圧が印加されていないときには逆に放電電流Idから事故電流Igが減じられる。従って、線路電流は、図15(b)の中段に実線で示した波形になる。ここでは、正常時との比較を容易にするため、正常時における線路電流も一点鎖線で表している。この線路電流を積分すると図15(b)の下段に示すような波形となる。かかる積分値は事故電流Ig分だけプラス側に偏るため、アンテナ14の表示部16は、その残留した積分値に応じて、「0」以外の事故レベルを表示する。
【0008】
このようにアンテナ14で異常が確認されると、測定点を中心にして課電装置12と逆方向の配電系統中に事故点20があることが分かる。従って、事故点を超えるまで、即ち異常が確認されなくなるまで測定点を下流に移動する。そして、異常が確認できなくなった場合には、最終的な測定点と、直前の測定点との間に事故点があるということになる。このような作業手順により具体的な事故点を探査することが可能となる。
【特許文献1】特開2006−275831号公報
【特許文献2】特開2005−024434号公報
【特許文献3】特開2004−045118号公報
【特許文献4】特開2003−043093号公報
【特許文献5】特開2003−035740号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、事故点、特に地絡事故点における地絡抵抗が大きいと事故電流Igが小さくなり、アンテナ14を通過する線路電流の上下流の差が小さくなる。かかる地絡抵抗が10kΩ以上の場合には、最早上述したアンテナ14では事故の有無を判断できないので、事故は生じているが事故点を特定できないといった状況に陥ってしまう可能性がある。
【0010】
また、配電線10に接続される機器によっては、事故直後のアークや放電等の影響により絶縁抵抗値が回復する(高くなる)ものも存在し、事故発生時点では地絡抵抗が低かったものの、事故探査のときには、地絡抵抗が数MΩに回復し、アンテナ14では事故の有無を判断できなくなる場合もあり得る。地絡抵抗が回復した場合には、そのまま電力供給を再開することができるが、将来、同様の状況で事故が再発する可能性を無視することはできない。このような地絡抵抗(絶縁抵抗値)の回復は事故探査の困難性をさらに高めている。
【0011】
上記のような背景から、絶縁抵抗値が10kΩ以上である場合や絶縁抵抗値が回復した場合においても、事故点を確実に特定することが可能な事故探査方法が望まれる。
【0012】
また、上述した従来のアンテナを用いる技術では、事故のレベルが数値で表されるものの、その事故の度合いを示す参考値に過ぎず、事故の具体的な原因が把握できるものではなかった。即ち、従来の方法では、1本の線路の上下流のどちらかで10kΩ以下の地絡抵抗による事故が起きているということのみを把握できるに過ぎなかった。今後は、リアルタイムにその事故状態や様相を具体的かつ高精度に導出可能な事故探査方法も望まれる。
【0013】
本発明は、従来の事故探査方法が有する上記問題点に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、事故点における地絡抵抗が高い場合においても容易かつ確実に事故点を特定でき、その事故状態等の具体的な情報を迅速に導出可能な、課電式事故探査システム、課電式事故探査方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、配電系統における事故探査を行う課電式事故探査システムであって、所定時間幅の矩形電圧を配電系統に印加する課電装置と、矩形電圧が印加されている間の、配電系統の任意の点における3相それぞれの線路電流の推移を同時に取得する線路電流取得部と、取得された3相分の線路電流の推移を互いに比較し、任意の点における課電装置方向に対する事故点の方向、および事故相を特定する事故特定部と、を含む探査装置と、を備えることを特徴とする、課電式事故探査システムが提供される。
【0015】
従来のアンテナを用いる事故探査方法では、1本の線路における線路電流の積分値を個別に判断していたので、事故電流が大きな場合はその電流を識別可能であったが、小さい場合には識別することができなかった。本発明では、同時に検出される3相の線路電流の推移を相対的に比較するので、微少な事故電流であっても相対値として抽出することができ、事故が生じている相を容易に特定することができる。従って、事故点における地絡抵抗値が高い場合や、時間の経過により地絡抵抗が回復してしまった場合においても、容易かつ確実に事故点を特定することが可能となる。
【0016】
また、3相の比較により、多重事故が生じた場合においても、相毎に独立して事故点を特定することができ、各相の事故のレベルを相対的に把握することができる。また、従来では特定できなかった塩害領域内や、対地静電容量が高い領域内の事故点も特定することが可能となる。
【0017】
さらに、3相を一括して測定することが可能なので矩形電圧の印加時間または印加回数を大幅に短縮することができ、測定コストおよび測定時間の短縮化を図ることができる。また、矩形電圧の印加時間を短縮することで、当該配電系統に接続された他の設備への影響を最小限に抑えることができ、矩形電圧による二次的障害を回避することが可能となる。
【0018】
事故特定部は、取得された3相分の線路電流を積分した値の推移を比較してもよい。上記線路電流にはノイズ成分も含まれるので、相間での線路電流の差が微差であった場合、ノイズに埋没して事故の有無を判断し辛い場合がある。しかし、線路電流の差が微差であってもその値を積分すると差を顕著に表すことができる。また、異常が検出される場合、その測定点での線路電流の積分値の推移は必ずプラス側に漸増するという特性を有しているので、積分値の推移により事故の有無を容易に判断することができる。
【0019】
探査装置は、事故特定部が、事故が起きていると判断した相の矩形電圧印加間の線路電流の推移を複数の故障モードの典型推移と比較し、その事故相の故障モードを特定する故障モード特定部をさらに備えてもよい。
【0020】
ここでは、予め、複数の故障モードの典型推移を準備している。そして、その典型推移と、当該線路電流の推移とを比較することで、その線路電流の推移がどの故障モードに近いかを判断し、適切な故障モードに割り当てることができる。かかる構成により、事故点の特定と同時に、その事故がどのような原因で生じているかを高精度で把握することが可能となる。
【0021】
また、各相独立して事故点と故障モードとを特定することができるので、多重事故に遭遇した場合においても、適切な故障モードへの割当を行うことができ、迅速な事故点の特定および事故原因の把握が可能となる。このように事故点の特定と同時に故障モードを特定することで、事故点における原因の除去および交換の準備を先駆けて行うことができ、早期の停電回復を図ることが可能となる。
【0022】
さらに、故障モードの特定精度が向上すれば、事故点の故障モードのみならず、事故予想点の故障モードも特定することが可能となる。ここで事故予想点とは、事故には至っていないが事故が生じる蓋然性の高い設備等を言う。このように事故点のみならず、事故予想点も把握、抽出し、抽出した設備に事前に対処することで、事故を未然に防ぐことができる。
【0023】
故障モードは、抵抗地絡、放電地絡、放電および抵抗地絡の群から選択されてもよい。
【0024】
本発明では、故障モードをこのような抵抗地絡、放電地絡、放電および抵抗地絡に分けている。かかる構成により、事故点の特定と同時に、その事故が上記の具体的な故障のどれに当たるかを高精度で把握することが可能となる。
【0025】
探査装置は、故障モードが特定された矩形電圧印加間の線路電流の推移を故障モードに関連付けて蓄積する線路電流蓄積部と、蓄積された矩形電圧印加間の線路電流の推移を統計処理して故障モードの典型推移を導出する故障モード導出部と、をさらに備えてもよい。
【0026】
かかる構成により、当該測定結果も統計データの1つとして蓄積することができ、そのような多数の統計データを蓄積することで、より実測した値に即した典型推移を形成することができる。そして、上記の典型推移利用およびデータ蓄積のループにより、事故原因の究明を高精度に行うことが可能となる。
【0027】
線路電流取得部は、さらに、矩形電圧の印加前の線路電流の推移も取得し、矩形電圧の印加前および印加間の線路電流の推移をフーリエ変換し、矩形電圧の印加前と印加間との線路電流の周波数特性の差を逆フーリエ変換して線路電流の推移を再生してもよいし、また、矩形電圧印加間の線路電流の推移から矩形電圧印加前の線路電流の推移を減算して線路電流の推移を再生してもよい。
【0028】
かかる構成により、事故が生じていない場合にも定常的に測定されるノイズ電流を、線路電流から除去することが可能となり、事故に起因する線路電流の変化のみを比較対象とすることができる。従って、事故特定部は、高精度に3相の線路電流を比較することができる。
【0029】
また、コンピュータを、上記課電式事故探査システムの探査装置、即ち、矩形電圧が印加されている間の、配電系統の任意の点における3相それぞれの線路電流の推移を同時に取得する線路電流取得部と、取得された3相分の線路電流の推移を互いに比較し、任意の点における課電装置方向に対する事故点の方向、および事故相を特定する事故特定部として機能させるプログラムも提供される。
【0030】
上記課題を解決するために、本発明の他の観点によれば、配電系統における事故探査を行う課電式事故探査方法であって、所定時間幅の矩形電圧を配電系統に印加し、矩形電圧が印加されている間の、配電系統の任意の点における3相それぞれの線路電流の推移を同時に取得し、取得された3相分の線路電流の推移を互いに比較し、任意の点における課電装置方向に対する事故点の方向、および事故相を特定することを特徴とする、課電式事故探査方法が提供される。
【0031】
上述した、課電式事故探査システムの技術的思想に基づく構成要素やその説明は、当該課電式事故探査方法にも適用可能である。
【発明の効果】
【0032】
以上説明したように本発明によれば、事故点における地絡抵抗が高い場合や絶縁抵抗値が回復した場合においても容易かつ確実に事故点を特定でき、その事故状態等の具体的な情報を迅速に導出することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0034】
配電系統の一部で事故が発生した場合、発電所または変電所では電力事業所の管理下にある配電系統への電力の供給を一旦停止する。そして、事故が起きた地点を大まかな区域に絞って、その事故区域以外の正常区域への電力供給を再開する。そして事故区域中の具体的な事故点を特定する。具体的な事故点が特定されるとその事故の原因を速やかに取り除いて事故区域においても通常の電力供給を再開する。
【0035】
本実施形態の課電式事故探査システムは、このような事故点の特定を迅速かつ容易に行うことができ、加えて、その事故の具体的な情報をも同時に導出することができる。また、従来探査困難または不可能であった地絡抵抗が高い事故点も特定することが可能となる。以下、このような課電式事故探査システムの具体的構成を述べ、後にその課電式事故探査システムを用いて事故点を特定する課電式事故探査方法を説明する。
【0036】
(課電式事故探査システムの構成)
図1は、課電式事故探査システムの概略的な構成を示す説明図である。かかる課電式事故探査システムは、課電装置100と探査装置110とから構成される。また、ここでは、6.6kVの配電線10(架空および地中配電線のいずれも含む。)における事故を想定して、課電式事故探査システムを適用する。
【0037】
上記課電装置100は、単相100V(50/60Hz)の交流電圧をスイッチング倍電圧整流方式により高電圧に変換して電源コンデンサ(例えば、5μF)に充電し、7.5〜15kVの直流高電圧の矩形波パルス(矩形電圧)を出力することが可能な装置である。課電装置100は、事故区域における配電系統の配電線10の任意の位置(配電線10の途中または課電専用端子)に接続され、所定時間幅の矩形電圧を配電線10に印加することができる。かかる所定時間幅は10±1msecとすることができ、課電装置100は、その矩形電圧を4sec毎に周期的に出力させることもできる。
【0038】
上記探査装置110は、クランプ電流センサ112と、AD変換部114と、本体116とを含んで構成される。クランプ電流センサ112は、それ自体を配電線10にクランプし、配電線10に流れる直流の線路電流量を、配電線10に電気的に接続することなく抽出する。AD変換部114は、その抽出された線路電流のアナログ値をデジタル処理可能な信号に変換する。本体116は、パーソナルコンピュータ、PDA(Personal Digital Assistant)、携帯電話等の電子機器を用い、デジタル化された線路電流の推移を保持して、事故点を特定するための演算処理を行う。
【0039】
1回の事故点の特定において、課電装置100は矩形電圧の印加位置を変更しなくてよいが、探査装置110は事故点を絞り込むまで、様々な位置で線路電流の測定を実施しなくてはならない。従って、本実施形態の探査装置110は、小型かつ軽量であり携帯性に優れた電子機器が選択される。探査装置110の計算能力は、後述するフーリエ変換等の処理を踏まえると高いものを準備する必要があるが、機能を分担して、当該探査装置110では、線路電流の推移の保持のみを行い、計算自体は無線通信で接続される別体の管理サーバにさせることができる。
【0040】
また、課電装置100における矩形電圧の出力タイミングを探査装置110から遠隔操作することも可能である。かかる構成により、測定が行われていないときの不要な矩形電圧の生成を抑制することができ、省電力化、低コスト化を図ることができる。
【0041】
本実施形態では、上述したように、配電線10の任意の位置に課電装置100を接続し、その課電装置100から10msec幅の矩形電圧を配電線10に周期的に印加する。探査装置110は、クランプ電流センサ112を配電線10の3相全てにそれぞれ掛止し、課電装置10からの矩形電圧と配電線10の対地静電容量とによって生じる充電電流と放電電流とを3相同時に取得、事故の有無を導出する。
【0042】
例えば、図1に示した測定点において探査装置110が異常を確認すると、測定点を中心にして課電装置100と逆方向の配電系統中に事故点があることを把握できる。従って、異常が確認されなくなるまで矢印で示すように下流に測定点を移動する。例えば、点線で示した新たな測定点で、同様の測定を行う。異常が確認できなくなった場合、最終的な測定点と、直前の測定点との間に事故点があるということになるので、その範囲内でさらに事故点を絞ることとなる。
【0043】
(探査装置110の構成)
本実施形態による課電式事故探査システムは、このような事故点の特定に加えて、事故が起きている相の特定、複数の相で事故が起きている場合における相間の事故の度合い、および事故の種別を特定することが可能である。以下では、このような機能を有する課電式事故探査システムの探査装置110の具体的な構成について述べる。
【0044】
図2は、探査装置110の概略的な機能を示した機能ブロック図である。探査装置110は、線路電流取得部150と、データ記憶部152と、事故特定部154と、故障モード特定部156と、線路電流蓄積部158と、故障モード導出部160とを含んで構成される。かかる各機能は、探査装置110に設けられた中央処理装置CPUが不揮発性の記憶媒体に保存された各機能を実行するプログラムを解読して実行される。
【0045】
上記線路電流取得部150は、矩形電圧が印加されている間の、配電系統の任意の点における3相それぞれの線路電流の推移を、AD変換部114を通じて取得し、その取得した推移をデータ記憶部152に記憶する。また、線路電流取得部150は、その線路電流を積分し、その積分した値の推移もデータ記憶部152に記憶する。
【0046】
このとき、線路電流取得部150は、上記の推移からノイズを除去するために、矩形電圧の印加前の線路電流の推移も一定時間取得するとしてもよい。そして、線路電流取得部150は、矩形電圧の印加前および印加間の線路電流の推移をそれぞれフーリエ変換(高速フーリエ変換FFT:Fast Fourier Transform)し、矩形電圧の印加前と印加間との線路電流の周波数特性の差を逆フーリエ変換して線路電流の推移を生成してもよい。
【0047】
また他の方法として、矩形電圧印加間の線路電流の推移から矩形電圧印加前の線路電流の推移を単純に減算して線路電流の推移を生成してもよい。かかる構成により、事故が生じていない場合にも定常的に測定されるノイズ電流を、線路電流から除去することが可能となり、事故に起因する線路電流の変化のみを比較対象とすることができる。従って、事故特定部154は、3相の線路電流を高精度に比較することができる。かかるノイズ除去に関する詳細な説明は後述する。
【0048】
上記データ記憶部152は、3相分の線路電流の推移およびその積分値の推移を記憶する。また、後述する線路電流蓄積部158からの線路電流の推移も記憶する。
【0049】
上記事故特定部154は、線路電流取得部150による線路電流の取得が完了した後、取得された3相分の線路電流の推移をデータ記憶部152から読み出し、互いを比較して事故が起きている相を特定する。かかる比較は、3相分の線路電流をグラフ上で重ねて行うとしてもよく、その場合、全体的な偏りや事故の度合いを把握することができる。また、その比較する範囲は、矩形電圧が印加されている全時間範囲とすることもできるし、矩形電圧が印加された後6〜8msecに範囲限定することができる。
【0050】
事故特定部154は、1本の線路における線路電流の積分値を個別に判断するのではなく、同時に検出された3相の線路電流の推移を相対的に比較しているので、事故が生じている相を容易に特定することができる。従って、事故点における地絡抵抗値が高い場合や、時間の経過により地絡抵抗が回復してしまった場合においても、容易かつ確実に事故点を特定することが可能となる。
【0051】
また、3相の比較により、多重事故が生じた場合においても、相毎に独立して事故点を特定することができ、各相の事故のレベルを相対的に把握することができる。また、従来では特定できなかった塩害領域内や、対地静電容量が高い領域内の事故点も特定することが可能となる。かかる塩害領域や対地静電容量が高い領域に関する詳細な説明は後述する。
【0052】
さらに、3相を一括して測定することが可能なので矩形電圧の印加時間または印加回数を大幅に短縮することができ、測定コストおよび測定時間の短縮化を図ることができる。また、矩形電圧の印加時間を短縮することで、当該配電系統に接続された他の設備への影響を最小限に抑えることができ、矩形電圧による二次的障害を回避することが可能となる。
【0053】
また、事故特定部154は、データ記憶部152に記憶された3相分の線路電流を積分した値の推移を比較してもよい。配電線10の線路電流にはノイズ成分も含まれるので、相間での線路電流の差が微差であった場合、ノイズに埋没して事故の有無を判断し辛い場合がある。しかし、微差であってもその値を積分すると差を顕著に表すことができる。また、異常が検出される場合、その測定点での線路電流の積分値は必ずプラス側に漸増するという特性を有しているので、積分値の推移により事故の有無を容易に判断することができる。
【0054】
上記故障モード特定部156は、事故特定部154が、事故が起きていると判断した相の矩形電圧印加間の線路電流の推移を、データ記憶部152に予め記憶された複数の故障モードの典型推移と比較し、故障モードを特定する。実測した線路電流の推移と典型推移との適合は様々な方法で実行できるが、例えば、両推移の相関をとって、相関値が所定値以上であれば故障モードを特定できるとしてもよい。故障モードは、故障の原因を様々な方法でグループ化して形成されるが、本実施形態ではその一例として、抵抗地絡、放電地絡、放電および抵抗地絡の3つのグループに分ける。かかる構成により、事故点の特定と同時に、その事故が上記の具体的な故障のどれに当たるかを把握することが可能となる。
【0055】
また、各相独立して事故点と故障モードとが特定されるので、多重事故に遭遇した場合においても、適切な故障モードへの割当を行うことができ、迅速な事故点の特定および事故原因の把握が可能となる。このように事故点の特定と同時に故障モードを特定することで、事故点における原因の除去および交換の準備を先駆けて行うことができ、早期の停電回復を図ることが可能となる。
【0056】
さらに、故障モードの特定精度が向上すれば、事故点の故障モードのみならず、それに付随し、または単独に存在する、事故予想点の故障モードも特定することが可能となる。ここで、事故予想点とは、事故には至っていないが事故が生じる蓋然性の高い設備等を言う。このように事故点のみならず、事故予想点も把握、抽出し、抽出した設備に事前に対処することで、事故を未然に防ぐことができる。
【0057】
また、上述した事故予想点がその後事故点になった場合に、事故に至るまでの履歴からその動向(トレンド)を分析することができ、そのような情報も蓄積することで、事故点または事故予想点の故障モード特定の総合的な精度を高めることが可能となる。
【0058】
上記線路電流蓄積部158は、故障モード特定部156が故障モードを特定した矩形電圧印加間の線路電流の推移を、その故障モードに関連付けてデータ記憶部152に蓄積する。蓄積された線路電流の推移は故障モードを示すデータとして統計的に処理される。かかる蓄積は、ここで示したように探査装置110本体で記憶してもよいし、データ通信により、別体の管理サーバに送信して、管理サーバで集中して行われるとしてもよい。
【0059】
このように管理サーバで集中蓄積することで、多数の探査装置110から事故時の線路電流データを収集することができ、事故点探査に関わる者以外の例えば、配電系統を管理する者も当該収集された電流データをリアルタイムで確認することができ、電力事業者全体として事故復旧処理を遂行することが可能となる。
【0060】
また、このように収集された膨大な量の線路電流データをサンプルとして蓄積することで、高精度かつ高信頼性な故障モードの典型推移を形成することが可能となり、事故点や故障モードの特定精度の飛躍的な向上を図ることができる。
【0061】
さらに、課電装置100と探査装置110とが双方向のデータ通信機能を有する場合、課電装置100における線路電流の推移と、探査装置110における線路電流の推移とをリアルタイムに比較することで、故障モードの同一性を確認することができる。かかる同一性を、相関(相関値)によって確認することで、課電装置100と探査装置110との位置の違いによる線路電流の減衰を無視することができる。ここで線路電流の推移の同一性が確認できなかった場合、例えば、課電装置100で検出された線路電流の推移に複数の故障モードが重畳されているといった判断ができるため、故障モードの切り分けや、高精度の事故点特定が可能となる。
【0062】
また、事故原因である機器等を回収した後、故障モード特定部156が特定した故障モードと実際の故障モードが相異していた場合、今回蓄積した線路電流の推移を実際の故障モードに変更する。
【0063】
上記故障モード導出部160は、線路電流蓄積部158によって蓄積された矩形電圧印加間の線路電流の推移を統計処理して故障モードの典型推移を導出する。かかる統計処理は既存の様々な方法を用いることができる。例えば、集計した線路電流の推移の平均値をとることによって典型推移を形成する。
【0064】
かかる線路電流蓄積部158および故障モード導出部160の構成により、当該測定結果も統計データの1つとして蓄積することができ、そのような多数の統計データを蓄積することで、より実測した値に即した典型推移を形成することができる。そして、上記の典型推移利用およびデータ蓄積のループにより、事故原因の高精度な究明を図ることが可能となる。
【0065】
(課電式事故探査方法)
次に、上述した課電式事故探査システムを利用して事故探査を行う課電式事故探査方法を説明する。
【0066】
図3は、課電式事故探査方法の大まかな処理の流れを示したフローチャートである。事故発生後、事故区域を所定範囲に絞ると、その区域内で事故点を探査する。ここでは、まず、配電線10に矩形電圧を印加させ(S200)、探査装置110の線路電流取得部150が、矩形電圧が印加されている間の、配電系統の任意の点における3相それぞれの線路電流の推移を一度に取得し、その推移をデータ記憶部152に記憶する(S202)。
【0067】
そして、探査装置110の線路電流取得部150は、その取得した線路電流のノイズを除去する(S204)。かかるノイズの除去は、様々な方法によって実施できるが、ここでは、フーリエ変換による方法と、単純差分による方法とを説明する。
【0068】
図4は、フーリエ変換によるノイズ除去方法を説明するための説明図である。かかる図4を参照すると、図4(a)で示した課電装置100の印加電圧に対して、線路電流は図4(b)のような波形を示す。かかる線路電流には迷走電流やホワイトノイズ等のノイズ成分が含まれているため、線路電流をフーリエ変換した場合、図4(c)に示すように周波数の広範囲に渡ってノイズ成分が確認される。ここで、線路電流取得部150が予め取得している矩形電圧の印加前の線路電流の周波数特性を上記印加間の線路電流の周波数特性から減算して、図4(d)に示すようなノイズ成分を除去した周波数特性を得る。
【0069】
元となる線路電流は正の値のみをとるので、図4(d)に示した周波数特性は逆フーリエ変換可能であり、かかる逆フーリエ変換後の線路電流の推移は図4(e)に示すようなノイズ成分が除去された波形となる。かかる構成により、事故に起因する線路電流の変化のみを比較対象とすることができる。
【0070】
図5は、単純差分によるノイズ除去方法を説明するための説明図である。かかる図5を参照すると、図5(a)で示した線路電流に周期的なノイズが混在している。従って、線路電流取得部150が予め取得している図5(b)で示すような矩形電圧の印加前の線路電流の推移(ノイズ成分)を上記印加間の線路電流の推移に同期させ、単純に減算して、図5(c)に示すようなノイズ成分を除去した線路電流の推移を得る。こうして、フーリエ変換によるノイズ除去と同様、事故に起因する線路電流の変化のみを比較対象とすることができる。
【0071】
続いて、事故特定部154は、線路電流取得部150によって形成された3相分の線路電流の推移を読み出し、互いを比較して事故が起きている相を特定する(S206)。
【0072】
図6は、探査装置110の事故特定部154による線路電流の比較を説明するための説明図である。かかる図6を参照すると、取得した3相のうち、第1相のみ矩形電圧印加間の線路電流が大きくなっており、他の第2相および第3相は大きくない。図6右側に示すように、3相の線路電流を重ね合わせると、対地静電容量に電荷が溜まった後も第1相のみにおいて事故電流が継続して流れているのが把握できる。従って、測定点の下流かつ第1相に事故点があることが特定される。
【0073】
また、上述した3相の線路電流の比較で事故相の判別ができなかった場合、線路電流の所定時間のみを抽出して3相を比較したり、線路電流の積分値を比較したりすることで、事故相を確実に抽出することができる。
【0074】
図7は、線路電流の所定時間のみによる比較を説明するための説明図である。本実施形態では、抽出する所定時間を、矩形電圧が印加された後6〜8msecとして線路電流の比較を行う。ここで、6〜8msecとしたのは、6msec以下の範囲では対地静電容量による充電電流の占有率が高く、8msec以上の範囲では、矩形電圧が終了する(10±1msec)可能性があるからである。かかる6〜8msecの期間について線路電流を比較すると、正常相(第2相または第3相)はほぼ0の値を維持しているのに対して、事故相(第1相)のみ高い電流値を維持している。正常相と事故相との電流差を測定したところ10mAの値を示した。このように、所定時間における3相の線路電流推移を比較するだけで、事故相を確実に抽出することが可能となる。
【0075】
図8は、線路電流の積分値による比較を説明するための説明図である。図8(a)に示すように、事故点の地絡抵抗が大きい場合には相間での線路電流の差が微差になり、ノイズに埋没して事故の有無を判断し辛い場合がある。この場合、上述した6〜8msecの時間範囲に絞ったとしてもその差は明確にならない。
【0076】
そこで、図8(b)に示すように、線路電流を各相それぞれ積分し、その推移を比較して事故相を特定する。例え線路電流が微差であってもその値を積分すると差を顕著に表すことができる。例えば、図8(b)の積分値においては、事故相(第1相)のみが漸増曲線の軌跡を残し、正常相(第2相または第3相)は所定値から変動していない。従って、矩形電圧の接地時点(10msec)では、事故相と正常相との間で積分値が大きく異なることとなる。このように異常がある相においては、事故電流分だけ多く電流が流れるので、積分値がプラス側に漸増するという特性が現れる。ここで、事故相が2本あった場合には、2つの積分値の増加で複数相の異常を特定することができる。
【0077】
続いて、探査装置110の故障モード特定部156が、事故が起きていると判断した相の矩形電圧印加間の線路電流の推移と複数の故障モードの典型推移とを比較し、故障モードを特定する(S208)。ここで、故障モードは、抵抗地絡、放電地絡、放電および抵抗地絡の3つのグループに分ける。そしてそれぞれの故障モードは、複数の故障原因を有している。
【0078】
図9は、かかる故障モードを説明するための説明図である。図9において、例えば、抵抗地絡性の故障モードでは、金属接触等や他物接触(台風時などで飛来してきたトタン屋根、看板類、猿・猫・カラス・ネズミなどの鳥獣類を含む。)系の原因を含み、放電地絡性の故障モードでは、エポキシ樹脂、架橋ポリエチレン、ゴム貫通破壊系の原因を含み、放電および抵抗地絡性の故障モードでは、LA(Line Amplifier)、変圧器巻線、磁器、ゴム沿面破壊系の原因を含み、全故障モードに樹木、飛来物等を含んでいる。ただし、実際の配電線では完全な抵抗地絡は極めて少ないことが予想される。また、施設環境、絶縁破壊後の絶縁抵抗値および機材の吸湿状態によって故障モードの移行もあり得る。
【0079】
図10は、かかる故障モードの典型推移を説明するための説明図である。例えば、図10(a)は、放電地絡性のケーブル地絡の場合の線路電流の典型推移を示し、図10(b)は、放電および抵抗地絡性の絶縁筒地絡の場合の線路電流の典型推移を示している。この2つの波形を比較して理解できるように、事故時の線路電流の推移は、その事故原因に応じた規則性を有している。従って、線路電流の推移を故障モードの各典型推移と比較し、事故点の特定と同時に、その事故がどのような原因で生じているかを高精度で把握することが可能となる。このように事故点の特定と同時に故障モードを特定することで、事故点における原因の除去および交換の準備を先駆けて行うことができ、早期の停電回復を図ることが可能となる。
【0080】
続いて、全ての相における事故点および事故原因を判別したかどうかが判断される(S210)。かかる判断は、事故相が複数ある多重事故の場合における、未だ判断されていない事故相に関する事故探査を行うものである。上記の判断(S210)で、まだ事故探査が完了していない相があれば、その相に関する故障モードの特定処理(S208)が行われる。従って、事故相が2つであっても3つであってもそれぞれ独立して事故探査が行われる。例えば、3相全てが同じ事故点で地絡した場合であっても、相毎に独立して地絡事故と判断することができる。こうして、全ての事故相に関して事故点および事故原因を特定すると、その事故の原因を取り除き、配電系統への電力の供給を再開する。
【0081】
続いて、線路電流蓄積部158は、上記の故障モードを特定した矩形電圧印加間の線路電流の推移を故障モードに関連付けてデータ記憶部152に蓄積する(S212)。故障モード導出部160は、線路電流蓄積部158によってある程度実測値が蓄積されると、蓄積された矩形電圧印加間の線路電流の推移を統計処理して故障モードの典型推移を導出し、今後利用する故障モードの典型推移として更新してもよい。このように、多数の統計データを蓄積することで、より実測した値に即した典型推移を形成することができ、上記の典型推移利用およびデータ蓄積のループにより、事故原因の高精度な究明を図ることができる。
【0082】
以上説明した課電式事故探査方法によって、事故点における地絡抵抗が高い場合や絶縁抵抗値が回復した場合においても容易かつ確実に事故点を特定でき、その事故状態等の具体的な情報を迅速に導出することが可能となる。
【0083】
図11は、本実施形態の課電式事故探査方法による事故の検出率を示した参考図である。かかる図11を参照すると、従来のアンテナを用いた事故点の検出率37.2〜53.9%と比較して、相当高い値を示し、89.2〜97.9%の検出率を達成することができた。また、従来では事故を認識できる地絡抵抗の最大値は10kΩであったが、本実施形態では3MΩまで上昇することができた。これは変電所におけるリレー動作領域(6kΩ(電気工学ハンドブック参照))の数百倍にあたる。
【0084】
次に、今まで探査困難または不可能であった事故点を、本実施形態を適用することによって特定することが可能となった例を示す。
【0085】
(塩害領域内での事故点の特定)
沿岸においては海水等による塩分によって配電系統が害を受け(塩害)、事故が発生していない状態においても配電系統の地絡絶縁抵抗は0kΩを示す。しかし、配電線上の電流は正常に供給されるので、変電所のリレーは正常に機能する。従って、従来のアンテナを用いた測定では、事故点が部分的に数kΩであったとしても全体的な線間抵抗が0Ωのままであり、事故点を特定することができなかった。
【0086】
本実施形態では、3相の線路電流から相対的に事故相を導出しているので、微少な電流の差をも抽出できる。例えば、配電線10上に1MΩの地絡抵抗が生じた場合に、変電所のリレーには影響しないが、本実施形態による3相の比較では、その差が顕著に表れる。従って、塩害領域内においても、容易かつ確実に事故点を特定することが可能となる。
【0087】
(対地静電容量が高い領域内の事故点の特定)
また、対地静電容量が小さい空中配電線等においては、上述したアンテナによって事故点を特定することができた。しかし、対地静電容量が0.6μF以上ある場合、例えば、都市部における地中線線路では、線路電流の時定数が大きくなって、矩形電圧が10msecのままでは事故点の有無を判断することができなかった。
【0088】
図12は、対地静電容量と線路電流との関係を説明するための説明図である。対地静電容量が小さい配電線10においては、図12(a)のように正常相と事故相との充電電圧に明確な差を確認できるが、対地静電容量が大きくなると、図12(b)に示すように、事故電流より充電電流や放電電流の方が大きくなり、充電電流と放電電流との差で事故レベルを推定するアンテナでは正常相と事故相との差が明確ではなくなり、事故を特定することができなくなる。本実施形態では、図12(c)に示すように、線路電流を6〜8msecのみの特定期間で判断することができるので図12(b)のような対地静電容量が大きい場合であっても事故の有無を導出できる。従って、本実施形態においては、0.6〜2.88μFの対地静電容量を有する配電線10にも対応可能である。
【0089】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0090】
例えば、上述した実施形態においては、配電線として架空配電線を挙げて説明しているが、かかる場合に限られず、地中配電線に本実施形態の課電式事故探査システムを適用することができる。この場合、地上との接続点である配電塔で事故測定を行う。
【0091】
なお、本明細書の課電式事故探査方法における各工程は、必ずしもフローチャートとして記載された順序に沿って時系列に処理する必要はなく、並列的あるいは個別に実行される処理(例えば、並列処理あるいはオブジェクトによる処理)も含むとしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明は、配電系統における事故探査を行う課電式事故探査システム、課電式事故探査方法に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】課電式事故探査システムの概略的な構成を示す説明図である。
【図2】探査装置の概略的な機能を示した機能ブロック図である。
【図3】課電式事故探査方法の大まかな処理の流れを示したフローチャートである。
【図4】フーリエ変換によるノイズ除去方法を説明するための説明図である。
【図5】単純差分によるノイズ除去方法を説明するための説明図である。
【図6】探査装置の事故特定部による線路電流の比較を説明するための説明図である。
【図7】線路電流の所定時間のみによる比較を説明するための説明図である。
【図8】線路電流の積分値による比較を説明するための説明図である。
【図9】故障モードを説明するための説明図である。
【図10】故障モードの典型推移を説明するための説明図である。
【図11】課電式事故探査方法による事故の検出率を示した参考図である。
【図12】対地静電容量と線路電流との関係を説明するための説明図である。
【図13】従来のアンテナを利用した事故点の探査方法を説明するための説明図である。
【図14】従来のアンテナによる事故点の特定方法を説明するための説明図である。
【図15】従来のアンテナによる事故点の特定方法を説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0094】
100 課電装置
110 探査装置
112 クランプ電流センサ
150 線路電流取得部
152 データ記憶部
154 事故特定部
156 故障モード特定部
158 線路電流蓄積部
160 故障モード導出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配電系統における事故探査を行う課電式事故探査システムであって、
所定時間幅の矩形電圧を前記配電系統に印加する課電装置と、
前記矩形電圧が印加されている間の、前記配電系統の任意の点における3相それぞれの線路電流の推移を同時に取得する線路電流取得部と、取得された3相分の線路電流の推移を互いに比較し、前記任意の点における前記課電装置方向に対する事故点の方向、および事故相を特定する事故特定部と、を含む探査装置と、
を備えることを特徴とする、課電式事故探査システム。
【請求項2】
前記事故特定部は、取得された3相分の線路電流を積分した値の推移を比較することを特徴とする、請求項1に記載の課電式事故探査システム。
【請求項3】
前記探査装置は、前記事故特定部が、事故が起きていると判断した相の前記矩形電圧印加間の線路電流の推移を複数の故障モードの典型推移と比較し、その事故相の故障モードを特定する故障モード特定部をさらに備えることを特徴とする、請求項1または2に記載の課電式事故探査システム。
【請求項4】
前記故障モードは、抵抗地絡、放電地絡、放電および抵抗地絡の群から選択されることを特徴とする、請求項3に記載の課電式事故探査システム。
【請求項5】
前記探査装置は、
前記故障モードが特定された前記矩形電圧印加間の線路電流の推移を前記故障モードに関連付けて蓄積する線路電流蓄積部と、
前記蓄積された前記矩形電圧印加間の線路電流の推移を統計処理して前記故障モードの典型推移を導出する故障モード導出部と、
をさらに備えることを特徴とする、請求項3または4に記載の課電式事故探査システム。
【請求項6】
前記線路電流取得部は、さらに、前記矩形電圧の印加前の線路電流の推移も取得し、前記矩形電圧の印加前および印加間の線路電流の推移をフーリエ変換し、前記矩形電圧の印加前と印加間との前記線路電流の周波数特性の差を逆フーリエ変換して前記線路電流の推移を再生することを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の課電式事故探査システム。
【請求項7】
前記線路電流取得部は、さらに、前記矩形電圧の印加前の線路電流の推移も取得し、前記矩形電圧印加間の線路電流の推移から矩形電圧印加前の線路電流の推移を減算して前記線路電流の推移を再生することを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の課電式事故探査システム。
【請求項8】
配電系統における事故探査を行う課電式事故探査方法であって、
所定時間幅の矩形電圧を前記配電系統に印加し、
前記矩形電圧が印加されている間の、前記配電系統の任意の点における3相それぞれの線路電流の推移を同時に取得し、
前記取得された3相分の線路電流の推移を互いに比較し、
前記任意の点における前記課電装置方向に対する事故点の方向、および事故相を特定することを特徴とする、課電式事故探査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2008−216040(P2008−216040A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−53890(P2007−53890)
【出願日】平成19年3月5日(2007.3.5)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】