説明

調律装置付電子楽器

【課題】 調律対象音の基準音の周波数設定が容易であり、かつ、調律対象音と基準音とのピッチ誤差を同楽器の演奏者に直接知らせることができる調律装置付電子楽器を提供する。
【解決手段】 調律対象音のピッチ誤差の測定の際の基準となる基準音の周波数は、鍵盤KBの押鍵操作により指定される。調律対象音は、マイクロフォン15により収音される。筐体20の背面10には、大型表示器11が設けられており、これがマイクロフォン15より収音された調律対象音と基準音とのピッチ誤差を表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、合奏等の演奏練習における調律に好適な調律装置付電子楽器に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の調律装置付電子楽器として、例えば特許文献1に開示されたものがある。この調律装置付電子楽器は、鍵盤電子楽器に調律機能を付加した構成となっている。この調律装置付電子楽器において、所望の音高を指定する鍵が押下されると、その音高を有する基準音が放音される。調律対象楽器の演奏者が、この基準音を聴いて楽器演奏を行うと、調律装置付電子楽器では、その楽器演奏音がマイクロフォンにより収音され、同楽器演奏音の周波数の基準音に対するピッチ誤差が求められ、表示部に表示される。この調律装置付電子楽器は、押鍵という簡単な操作により基準音の周波数設定および調律すべき音高の演奏者への告知を行うことができるという利点がある。
【特許文献1】特公平6−40262号公報
【非特許文献1】「楽器の音響学」安藤由典著、音楽之友社、p.54〜64、昭和46年10月30日発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、これまでに提案されている調律装置付電子楽器は、上記特許文献1に開示されているものを含め、調律対象である楽器の演奏者にピッチ誤差の発生状況を効果的に知らせる手段を有していない。このため、調律装置付電子楽器の演奏者が表示部から読み取ったピッチ誤差の発生状況を調律対象である楽器の演奏者に知らせなければならず、非効率的であるという問題がある。現在提供されている単体の調律装置の中には大型の表示部を備えたものもある。しかし、このような単体の調律装置は、押鍵により基準音の周波数を設定することができないので操作が面倒である。
【0004】
この発明は、以上説明した事情に鑑みてなされたものであり、調律対象音の基準音の周波数設定が容易であり、かつ、調律対象音と基準音とのピッチ誤差を同楽器の演奏者に効果的に知らせることができる調律装置付電子楽器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明は、発音すべき基準音を指定する複数の鍵を有する鍵盤と、前記鍵盤の操作により指定された基準音を発生する楽音発生手段と、外界の音を収音する収音手段と、前記収音手段により収音された調律対象音の前記鍵盤の操作により指定された基準音に対するピッチ誤差を測定する測定手段と、当該調律装置付電子楽器の筐体の背面に設けられ、前記測定手段により測定されたピッチ誤差を表示する大型表示部とを具備することを特徴とする調律装置付電子楽器を提供する。
かかる発明によれば、鍵盤の操作により、調律対象音の基準音の周波数設定を容易に行うことができ、かつ、大型表示部により調律対象音と基準音とのピッチ誤差を楽器演奏者に効果的に知らせることができる
好ましい態様において、前記大型表示部は前記筐体の背面に対して回動自在または着脱自在に取り付けられる。この態様は、大型表示部の向きを楽器演奏者の位置に合わせて適切に調整することができる利点がある。
好ましい態様において、前記測定手段は、前記収音手段により収音された複数の調律対象音の前記鍵盤の操作により指定された複数の基準音に対するピッチ誤差を各々測定し、前記大型表示部は、複数の調律対象音のピッチ誤差を対比して表示する。
この態様によれば、複数の調律対象音の発生元である楽器の演奏者は、楽器の放音に先立って、調律装置付電子楽器から放音される各基準音およびハーモニーを予め聴いて確認することができ、さらに各自の楽器の放音による各調律対象音の基準音に対する誤差および自分と他の楽器演奏音のハーモニーの状態を大型表示部により確認することができる。
好ましい態様において、調律装置付電子楽器は、前記複数の調律対象音の音色を各々指定する音色指定手段を具備し、前記測定手段は、前記音色指定手段により指定された複数の音色に各々対応した複数の調律対象音の各成分を前記収音手段により収音される音から各々抽出する抽出手段と、前記抽出手段により抽出された複数の調律対象音の各成分に基づき各調律対象音の各基準音に対するピッチ誤差を各々測定するピッチ誤差測定手段とを具備する。
この態様によれば、複数の調律対象音が混ざり合って収音される状況でも、各調律対象音の音色を手掛かりとして、各調律対象音のピッチ誤差を正確に測定することができる。
他の好ましい態様において、調律装置付電子楽器は、前記複数の基準音の音色を各々指定する音色指定手段を具備し、前記楽音発生手段は、前記音色指定手段により指定された音色の複数の基準音を発生し、前記測定手段は、前記音色指定手段により指定された複数の音色に各々対応した複数の調律対象音の各成分を前記収音手段により収音される音から各々抽出する抽出手段と、前記抽出手段により抽出された複数の調律対象音の各成分に基づき各調律対象音の各基準音に対するピッチ誤差を各々測定するピッチ誤差測定手段とを具備する。
この態様では、和音の構成音の調律を行う場合において調律対象音と同じ音色の基準音を予め発生させ、それに応じて放音される各調律対象音のピッチ誤差を測定することができる。その際、複数の調律対象音が混ざり合って収音される状況でも、各調律対象音の音色を手掛かりとして、各調律対象音のピッチ誤差を正確に測定することができる。
好ましい態様において、前記音色指定手段は、複数の音色を予め指定する手段を有し、前記鍵盤の操作により複数の基準音が順次指定されるとき、予め指定された複数の音色の中から音色を順次選択し、各基準音の音色として指定する。
この態様は、複数の基準音およびこれに対応した複数の調律対象音の音色を簡単な操作により設定することができるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、図面を参照し、この発明の実施の形態を説明する。
図1(a)はこの発明の一実施形態である調律装置付電子楽器の上面の構成を示す平面図、同図(b)は同調律装置付電子楽器の背面10の構成を示す背面図である。図1(a)に示すように、調律装置付電子楽器は、通常の鍵盤電子楽器と同様な鍵盤KBを有している。この鍵盤KBの左側にはスピーカ1が設けられており、鍵盤KBの上方には、各種の情報を表示するためのLCD(Liquid Crystal Display)パネル2が設けられている。
【0007】
このLCDパネル2の左側には、フルート、トランペット等、各種の音色を指定する複数の音色指定スイッチ3と、この調律装置付電子楽器の動作モードの切り換えを指示するモード切り換えスイッチ4と、4個の基準音指定スイッチ5−k(k=1〜4)が設けられている。なお、基準音指定スイッチ5−k(k=1〜4)の役割については後述する。
【0008】
一方、LCDパネル2の右側には、各種の増減操作に使用されるカーソルスイッチ5−uおよび5−dと、基準ピッチであるA音の周波数(デフォルト値は440Hz)の調整の際に操作される基準ピッチ指定スイッチ6と、音律の指定に用いられる音律指定スイッチ7と、C、C#、D、D#、…、BとAUTOからなる各音律における調を指定するための調指定スイッチ8と、平均律に対して各鍵の周波数をシフトさせる際に平均律のままシフトさせない基準となる音を、ROOT、A、Bbの中から指定するシフト基準音指定スイッチ9とが設けられている。
【0009】
この調律装置付電子楽器は、動作モードとして演奏モードと調律モードを有している。演奏モードは、通常の鍵盤電子楽器と同様、鍵盤KBの操作に応じて楽音を形成し、スピーカ1から放音する動作モードである。調律モードは、所望の音高を有する基準音をスピーカ1から放音するとともに、これに応じて調律対象である楽器から出力される楽音(調律対象音)を収音し、調律対象音と基準音とのピッチ誤差を求める動作モードである。この調律モードにおいて、鍵盤KBは基準音のキーコードを指定する手段としての役割を果たす。演奏モードおよび調律モードにおいて、鍵盤KBの押鍵操作に応じて放音する楽音の周波数の決定方法は、次の通りである。
【0010】
<楽音の周波数の決定方法>
a.調指定スイッチ8によりAUTO以外のC、C#、D、D#、…、Bのいずれかが指定されている場合
この場合、基準ピッチ指定スイッチ6の操作により指定された基準ピッチと、音律指定スイッチ7の操作により指定された音律と、調指定スイッチ8の操作により指定された調と、シフト基準音指定スイッチ9により指定されたシフト基準音と、押鍵された鍵のキーコードとに基づいて、放音する楽音の周波数が演算される。
【0011】
b.調指定スイッチ8によりAUTOが指定されている場合
この場合、基準ピッチ指定スイッチ6の操作により指定された基準ピッチと、音律指定スイッチ7の操作により指定された音律と、3つ以上の鍵が同時に押鍵された場合の各鍵のキーコードに基づいて自動判定される調と、押鍵された鍵のキーコードとに基づいて、放音する楽音の周波数が演算される。同時に3つ以上の鍵の押鍵が行われない場合には、直前の自動判定により求められた調が楽音の周波数の演算に採用される。
【0012】
このようにして決定された楽音の周波数は、スピーカ1から放音する楽音の周波数となるのみならず、調律対象である楽器から出力される楽音(調律対象音)のピッチ誤差を求める際の基準となる基音周波数としての役割を果たす。
【0013】
この調律装置付電子楽器において行う調律は、幾つかの特徴を有する。第1の特徴は、音高の異なった複数の基準音からなる和音をスピーカ1から放音し、これに応じて複数の調律対象楽器から出力される複数の調律対象音のうち最大4個までの調律対象音を同時に収音し、調律対象音毎に各々に対応した基準音とのピッチ誤差を求めることができるという点にある。調律モードでは、和音を構成する4個の基準音を、どの鍵も押鍵されていない状態から鍵が押された順に第1基準音、第2基準音、第3基準音、第4基準音として決定する。5つめからは調律の対象音としない。
【0014】
第2の特徴は、上述した基準音指定スイッチ5−k(k=1〜4)の操作により、基準音および調律対象音の音色を設定することが可能な点である。本実施形態では、第k基準音を指定する基準音指定スイッチ5−kをONとし、これに続いて、所望の楽器に対応した音色指定スイッチ3をONにすることにより、その音色指定スイッチ3に対応した音色が第k基準音を放音するときの音色として設定される。同時に、この第k基準音の音色は第k基準音の放音に応じて調律対象楽器から放音される調律対象音の音色と解釈される。そして、調律装置付電子楽器では、この解釈に従って、調律対象音のピッチ誤差を求めるための処理が行われるのである。基準音指定スイッチ5−k(k=1〜4)と音色指定スイッチ3は、基準音の音色を指定する手段を構成すると同時に、この基準音に応じて放音されるべき調律対象音の音色を指定する手段を構成している。
【0015】
第3の特徴は、以下説明する調律結果の表示手段にある。図1(b)に示すように、この調律装置付電子楽器の筐体20の背面10には、その殆どの領域を利用して、調律結果を表示するための大型表示器11が設けられている。この大型表示器11は、水平方向に並んだ複数のLED12からなるLEDラインを上下方向に4ライン並べた構成となっている。これら4本のLEDラインは、下から順に、第1基準音に応じて出力された調律対象音のピッチ誤差、第2基準音に応じて出力された調律対象音のピッチ誤差、第3基準音に応じて出力された調律対象音のピッチ誤差、第4基準音に応じて出力された調律対象音のピッチ誤差を表示する役割を果たす。
【0016】
各LEDラインにおいてLED12は等間隔で並んでおり、また、LEDラインにおける各LED12の水平方向における各位置は各LEDライン間で揃っている。大型表示器11の上辺中央に設けられたマーカ13aと下辺中央に設けられたマーカ13bは、各々の間に、4本のLEDラインの中央の4個のLED12を挟んでいる。このマーカ13aおよび13b間のLED12は、調律対象音と基準音とのピッチ誤差が0セントである場合に点灯する。そして、調律対象音のピッチが基準音のピッチよりも5セント高いと、その右隣のLED12が点灯し、さらに5セント高いとさらにその右隣のLED12が点灯し、という具合に、点灯するLED12は順次右にシフトする。逆に調律対象音のピッチが基準音のピッチより5セント低いと、マーカ13aおよび13b間のLED12の左隣のLED12が点灯し、さらに5セント低いとさらにその左隣のLED12が点灯し、という具合に、点灯するLED12は順次左にシフトする。このように4本のLEDラインは、各々の水平方向におけるLED点灯位置により、第1基準音〜第4基準音の各々を基準とした各調律対象音のピッチ誤差を対比して示すものである。
【0017】
マーカ13aおよび13bは、視認性を良くするために、LEDにより構成してもよい。その際、LED12は例えば緑色で点灯させ、マーカ13aおよび13bは赤色で点灯させる、という具合にLED12とマーカ13aおよび13bとで点灯色を変えてもよい。また、ピッチ誤差が0セントである場合に点灯するLEDとそれ以外のLEDとで点灯色を変えてもよい。これによりピッチ誤差が0セントで一致したときの視認性が良くなる。
【0018】
大型表示器11の左隣には、LCDパネル14が設けられている。このLCDパネル14は、調律時、下から順に第1基準音〜第4基準音の各々の音色(すなわち、調律対象音の各音色)とキーコードを表示する。図示の例では、第1基準音の音色・Tb(トロンボーン)およびキーコード・C4、第2基準音の音色・Tp(トランペット)およびキーコード・E4、第3基準音の音色・Hr(第1ホルン)およびキーコード・G4、第4基準音の音色・Hr(第2ホルン)およびキーコード・B4が表示されている。大型表示器11の左側には、マイクロフォン15が設けられている。調律対象音は、このマイクロフォン15により収音される。
【0019】
図2はこの調律装置付電子楽器の電気的構成を示すブロック図である。この図において、CPU100は、この調律装置付電子楽器の各部を制御する装置である。キースイッチ回路101は、鍵盤KBの各鍵に設けられたキースイッチを含む回路である。CPU100は、このキースイッチ回路101を介して、鍵盤KBにおいて発生するキーオンイベント、キーオフイベントを検出する。操作子群102は、図1(a)に示す音色指定スイッチ3等、この調律装置付電子楽器の筐体20に配備された各種の操作子の総体である。表示制御部103は、CPU100からの指令に従い、図1(a)におけるLCDパネル2、図1(b)における大型表示器11およびLCDパネル14等、この調律装置付電子楽器の筐体20に設けられた各種の表示装置の表示制御を行う装置である。
【0020】
ROM110は、CPU100がこの調律装置付電子楽器の各部の制御を行うために実行する各種のプログラムや制御に使用する各種の情報を記憶した読み出し専用メモリである。RAM120は、CPU100によってワークエリアとして使用される。音源130は、CPU100による制御の下、各種の音色、音高を有する楽音信号を形成する装置である。この音源130は、楽音信号の形成を行う複数の楽音形成チャネルを有しており、これらにより同時に複数の楽音信号を形成することが可能である。サウンドシステム131は、音源130によって形成された楽音信号を楽音として、図1(a)に示すスピーカ1から放音する装置である。
【0021】
ROM110に記憶された情報として、ピッチ補正テーブル111と、音色パラメータデータベース112と、倍音構造データベース113がある。ピッチ補正テーブル111は、各種の音律と調の組み合わせについて、平均律における各キーコードに対応した各基音周波数(楽音の音高に対応した基音(第1倍音)の周波数)をその音律と調の組み合わせにおける基音周波数に補正するための補正量を定義したテーブルである。このピッチ補正テーブル111は、キーオンイベントが発生し、そのキーオンイベントに応じて形成すべき楽音信号の基音周波数を演算する際に、CPU100により参照される。さらに詳述すると、本実施形態においてCPU100は、あるキーコードに対応した鍵のキーオンイベントを検出した場合に、その時点において設定されている基準ピッチに基づき、まず、平均律において押下鍵のキーコードに対応した基音周波数を演算する。また、CPU100は、調指定スイッチ8によりC、C#、D、D#、…、Bの特定の調が指定されている場合にはその調を、AUTOが指定されている場合には発生している複数のキーオンイベントのキーコードの組み合わせに基づいて調を判定する。そして、現在設定されている音律が平均律でない場合には、ピッチ補正テーブル111の中から当該音律および調に対応した補正量のうち、シフト基準音指定スイッチ9により指定されたシフト基準音に対応した補正量と押下鍵のキーコードに対応した補正量を参照し、シフト基準音指定スイッチ9により指定されたシフト基準音に対応した補正量が±0セントになるように、押下鍵のキーコードに対応した補正量を補正し、この補正後の補正量を用いて平均律で求めた基音周波数をシフトさせ、形成すべき楽音信号の基音周波数を求めるのである。
【0022】
音色パラメータデータベース112は、音色指定スイッチ3により指定可能な各音色について、音源130がその音色の楽音信号を形成するために必要とする音色パラメータを集めたデータベースである。倍音構造データベース113は、音色指定スイッチ3により指定可能な各音色について、その音色を持った楽音のスペクトルが如何なる倍音構造を有しているかを示す倍音構造データを集めたデータベースである。楽器によっては、楽音の倍音構造が音域により異なるものもある。そのような楽器の音色に関しては、各音域について各々における楽音の倍音構造を示す倍音構造データが倍音構造データベース113に格納される。倍音構造データベース113は、調律対象音の基準音に対するピッチ誤差を測定するための測定条件を決定するに当たって参照される。
【0023】
本実施形態では、音高の異なった最大4個の基準音からなる和音をスピーカ1から放音し、これに応じて複数の調律対象楽器から出力される複数の調律対象音を同時にマイクロフォン15により収音し、調律対象音毎に各々に対応した基準音とのピッチ誤差を求めることができる。測定部150は、この機能を実行するために設けられた装置である。この測定部150は、通過帯域の制御が可能な4個のBPF(バンドパスフィルタ)151−k(k=1〜4)と、その後段の4個のピッチ誤差測定部152−k(k=1〜4)とにより構成されている。
【0024】
基準音の数がm個であり、これらに対応したm個の調律対象音がマイクロフォン15により収音される場合、CPU100は、BPF151−k(k=1〜m)とピッチ誤差測定部152−k(k=1〜m)を使用することにより、m個の調律対象音のm個の基準音に対する各ピッチ誤差を各々測定し、ピッチ誤差を表示制御部103に引き渡して大型表示器11に表示させる。
【0025】
さらに詳述すると、CPU100は、m個の基準音の各々について、基音周波数Ff−kと抽出対象周波数Ft−kとを求める。ここで、基音周波数Ff−kは、第k基準音の発生を指示するために押鍵操作された鍵のキーコードと、その時点における音律および調と、ピッチ補正テーブルと、シフト基準音指定スイッチ9の状態と、基準ピッチとに基づき演算される。CPU100は、演算により求めたm個の基音周波数Ff−k(k=1〜m)をピッチ誤差測定部152−k(k=1〜m)に設定する。
【0026】
抽出対象周波数Ft−kは、BPF151−kに設定する通過帯域の中心周波数であり、第k基準音の基音および倍音の周波数の中から選択される。m個の基準音について選択される各抽出対象周波数Ft−k(k=1〜m)は、基準音の基音周波数Ff−kとなる場合もあるが、基準音の第2倍音、第3倍音などの倍音周波数となる場合もある。
【0027】
CPU100は、m個の基準音について抽出対象周波数Ft−k(k=1〜m)を選択するに当たり、倍音構造データベース113の中の各基準音(すなわち、各調律対象音)の音色に対応した倍音構造データを参照する。そして、周波数軸を共通にして各基準音の各スペクトルを並べた場合に、他の基準音のスペクトルとの区別が容易であり、かつ、その基準音に特有のスペクトルを、m個の基準音の各々について選択し、それらの周波数を抽出対象周波数Ft−k(k=1〜m)とする。そして、抽出対象周波数Ft−k(k=1〜m)を各々中心とし、所定の周波数幅を持った通過帯域を求め、それらの通過帯域の下限周波数FL−k(k=1〜m)および上限周波数FH−k(k=1〜m)をBPF151−k(k=1〜m)に各々設定する。ここで、個々のBPF151−kに設定する通過帯域は、抽出対象周波数Ft−kの最近傍の周波数のスペクトルのみを通過させ、他のスペクトルを通過させないようにその幅が決定される。
【0028】
ピッチ誤差測定部152−k(k=1〜m)の各々の処理内容は、抽出対象周波数Ft−kが基音周波数Ff−kであるか倍音周波数であるかにより異なったものとなる。抽出対象周波数Ft−kが基音周波数Ff−kである場合、ピッチ誤差測定部152−kは、BPF151−kの出力信号の周波数を測定し、この周波数の基音周波数Ff−kに対するピッチ誤差(両周波数の比をセント値表現したもの)を求める。一方、抽出対象周波数Ft−kが基音周波数Ff−kではなく倍音周波数である場合、ピッチ誤差測定部152−kは、BPF151−kの出力信号の周波数(この場合、倍音周波数)を測定し、この周波数から第k基準音に対応して出力された調律対象音の基音周波数を求める。そして、この調律対象音の基音周波数の基音周波数Ff−kに対するピッチ誤差を求める。
【0029】
本実施形態の1つの特徴は、このようなピッチ誤差の測定の態様にある。以下、本実施形態がこのような態様でピッチ誤差の測定を行う理由を説明する。
【0030】
従来から提供されている多くの調律装置は、調律対象音の基音周波数を測定する機能を有している。このため、これらの調律装置では、調律対象音の基音周波数を測定し、これと基準音の基音周波数との差をピッチ誤差として求めるようにしている。
【0031】
このようなピッチ誤差の測定方法は、1つの調律対象音を取り扱う場合には有効である。しかし、本実施形態のように複数の調律対象音が混ざり合って収音される状況では、各調律対象音の基音周波数を測定するのは以下説明するように一般的に困難である。
【0032】
まず、各楽器の楽音は、必ずしも基音のスペクトルの強度が最大であるとは限らない。また、同一楽器の楽音であっても、その音域によりどの倍音の強度が高いかが異なる場合がある。さらに楽音の倍音構造は楽器により多様である。例えばフルートは、最低の数音を強奏する場合を除き、基音が最強の成分であり、平均的に周波数の高い倍音ほど勢力が小さい。また、オーボエ、ファゴットは、ホルマントにより一定の周波数帯域に強い倍音の集中がある。クラリネットは、楽器の構造が音響的に一端開放、一端閉塞の円筒閉管であるために、偶数次の共鳴を生じない。トランペットのスペクトルエンベロープは、大体2kHz付近を頂点とするなだらかな山形で、基本音より倍音の強度が大きい(以上、非特許文献2参照)。
【0033】
このような次第であるから、複数の調律対象音が混ざった状態でマイクロフォン15により収音される状況では、マイクロフォン15の出力信号のスペクトルの中から個々の調律対象音の基音のスペクトルを見つけ出すことは極めて困難であり、従って、各調律対象音のピッチ誤差を求めることも極めて困難なのである。
【0034】
しかしながら、複数の調律対象音が如何なる楽器のものであるかが予め分かっているのであれば、各調律対象音について、マイクロフォン15の出力信号のスペクトルの中から抽出することが容易な倍音のスペクトルを選択し、そのようなスペクトルのみをBPF−k(k=1〜4)により選択し、ピッチ誤差測定に利用することができる。本実施形態におけるピッチ誤差の測定は、以上のような考えに基づくものである。
以上が本実施形態における調律装置付電子楽器の構成の詳細である。
【0035】
次に本実施形態の動作について説明する。なお、以下では本実施形態において特徴的な調律モードでの動作を取り上げ、その詳細を明らかにする。図3は調律モードにおけるCPU100の処理内容を示している。図3に示すように、CPU100は、音色設定処理201と、基準音設定処理202と、基音周波数演算処理203と、測定条件設定処理204と、測定結果表示処理205と、発音制御処理206を実行する。
【0036】
音色設定処理201では、音色指定スイッチ3および基準音指定スイッチ5−k(k=1〜4)の操作を監視する。和音を発生させて調律を行う場合、ユーザは、和音を構成する各基準音について、音色設定のための操作を行う。すなわち、ユーザが第k基準音を指定する基準音指定スイッチ5−kをONとし、これに続いて、所望の楽器に対応した音色指定スイッチ3をONにすると、音色設定処理201では、ON状態にされた音色指定スイッチ3に割り当てられた音色コードを第k基準音の音色コードTC−kとして設定する。そして、ユーザは、音律指定スイッチ8の操作により所望の音律を設定する。
【0037】
次にユーザが鍵盤KBの押鍵操作を行うと、CPU100は、基準音設定処理202を実行し、ユーザが押鍵により指定するm個の基準音のキーコードKC−k(k=1〜m)を求める。
【0038】
図4はこの基準音設定処理202の動作を示す状態遷移図である。図4に示すように、基準音設定処理202は、内部状態として、第1基準音待ち状態ST0、第2基準音待ち状態ST1、第3基準音待ち状態ST2、第4基準音待ち状態ST3、測定指示待ち状態ST4および測定終了待ち状態ST5を有する。
【0039】
初期状態において、基準音設定処理202は、第1基準音待ち状態ST0となっている。この第1基準音待ち状態ST0において、鍵盤KBのキーオンイベントが検出されると、基準音設定処理202は、押下鍵のキーコードを第1基準音のキーコードKC−1とし、内部状態を第2基準音待ち状態ST1に遷移させる(遷移TR0)。この第2基準音待ち状態ST1において、新たなキーオンイベントが検出され、そのときの押下鍵のキーコードがキーコードKC−1以外の他のキーコードである場合、押下鍵のキーコードを第2基準音のキーコードKC−2とし、内部状態を第3基準音待ち状態ST2に遷移させる(遷移TR1)。
【0040】
以下同様であり、既に求められた基準音のキーコードとは異なるキーコードを持ったキーオンイベントが検出されると、内部状態は、第3基準音待ち状態ST2から第4基準音待ち状態ST3へ(遷移TR2)、第4基準音待ち状態ST4から測定指示待ち状態ST4へ(遷移TR3)、という具合に遷移し、その際に検出される押下鍵のキーコードに基づき第3基準音のキーコードKC−3、第4基準音のキーコードKC−4が設定される。
【0041】
このように、基準音設定処理202の実行過程において各基準音のキーコードが決定されると、その都度、決定された基準音のキーコードが基音周波数演算処理203に引き渡される。そして、基音周波数演算処理203では、第k基準音のキーコードKC−kが基準音設定処理202から引き渡された場合に、図3に示すように、そのキーコードKC−kと、その時点における音律および調301と、シフト基準音303と、ピッチ補正テーブル111と、基準ピッチ302とに基づき基音周波数Ff−kを演算する。このようにして第k基準音の基音周波数Ff−kが得られると、基音周波数Ff−kは第k基準音の音色コードTC−kとともに発音制御処理206に引き渡される。発音制御処理206では、音色コードTC−kに対応した音色パラメータを音色パラメータデータベース112から読み出し、基音周波数Ff−kを指定する情報と音色パラメータを音源130に与え、第k基準音の楽音信号の形成およびその放音を行わせる。各基準音のキーコードが決定される都度、以上のような処理が行われ、押鍵操作に応じて、各基準音が指定された音色、音高で順次放音される。
【0042】
なお、第2基準音待ち状態ST1、第3基準音待ち状態ST2および第4基準音待ち状態ST3において、測定指示が与えられることなく、他のキーオンイベントも検出されることなく所定時間が経過すると、内部状態は第1基準音待ち状態ST0に戻る(遷移TR11、TR12、TR13)。また、測定指示待ち状態ST4において、測定指示が与えられることなく所定時間が経過した場合にも、内部状態は第1基準音待ち状態ST0に戻る(遷移TR14)。これらの場合、それまでに設定した各基準音のキーコードは無効となる。
【0043】
第2基準音待ち状態ST1において、第1基準音のキーコードKC−1と同じキーコードのキーオンイベントが検出されると、それが測定指示となる。この場合、基準音設定処理202は、測定条件設定処理204に起動を指示し、測定終了待ち状態ST5となる(遷移TR21)。
【0044】
第3基準音待ち状態ST2、第4基準音待ち状態ST3および測定指示待ち状態ST4では、全ての鍵が押下されていないオールキーオフの状態となり、その後、いずれかの基準音と同一のキーコードのキーオンイベントを含む複数のキーオンイベントが同時に検出されると、その旨が基音周波数演算処理203に報告される。基音周波数演算処理203では、その時点において決定されているm個(2≦m≦4)の基準音の基音周波数Ff−k(k=1〜m)と音色コードTC−k(k=1〜m)を発音制御処理206に引き渡す。発音制御処理206では、m個の基準音について、音色コードに対応して音色パラメータを取得し、音源130に各基準音の楽音信号の形成およびその放音を行わせる。このようにしてスピーカ1からm個の基準音からなる和音が放音される。その後、再びオールキーオフの状態になると、基準音設定処理202では、それが測定指示となる。この場合も、基準音設定処理202は、測定条件設定処理204に起動を指示し、測定終了待ち状態ST5となる(遷移TR22、TR23、TR24)。
【0045】
測定条件設定処理204が実行されると、基準音の個数mに応じて、測定部150のBPF151−k(k=1〜m)に対する通過帯域の設定およびピッチ誤差測定部152−k(k=1〜m)の設定が行われ、m個の調律対象音のピッチ誤差の測定が行われる。そして、ピッチ誤差の測定が終了すると、基準音設定処理202の内部状態は第1基準音待ち状態ST0となる(遷移TR30)。
【0046】
図5(a)および(b)は、以上のような処理により、基準音のキーコードが設定され、ピッチ誤差測定が開始されるまでの動作の具体例を示している。なお、図5(a)に示す例では、ユーザは押下した鍵から指を離してその後の鍵を押下しており、図5(b)に示す例では、押下した鍵から指を離すことなく別の指でその後の鍵を押下しているが、いずれの操作を行った場合でも基準音設定処理202の状態遷移は同じものとなる。図5(a)および(b)に示す例では、異なる3個の鍵が順次押下されることにより、基準音設定処理202の内部状態がST1→ST2→ST3と遷移し、その際に順次検出される押下鍵のキーコードが第1基準音のキーコードKC−1、第2基準音のキーコードKC−2、第3基準音のキーコードKC−3とされる。そして、状態ST3において、オールオフ状態となった後、3個のキーオンイベントが発生し、その後、再びオールオフ状態となることにより測定指示が発生している。各調律対象楽器の演奏者は、この測定指示が発生するタイミング、すなわち、キーコードKC−1、KC−2およびKC−3の和音が鳴り止むタイミングにおいて一斉に各々の楽器から調律対象音を発生させる。これらの調律対象音は、マイクロフォン15を介して測定部150に供給され、ピッチ誤差測定の対象となる。
【0047】
測定条件設定処理204の処理内容は、基準音の個数mが1である場合と複数である場合とで異なったものとなる。m=1の場合、測定条件設定処理204では、第1基準音のキーコードKC−1から得られた基音周波数Ff−1をピッチ誤差測定部152−1に設定する。また、測定条件設定処理204では、基音周波数Ff−1を抽出対象周波数Ft−1とし、これを中心周波数としてBPF151−1の通過帯域FL−1〜FH−1を設定する。
【0048】
これに対し、mが複数である場合の測定条件設定処理204の処理内容は次のようになる。まず、m個のキーコードKC−k(k=1〜m)から得られた基音周波数Ff−k(k=1〜m)をピッチ誤差測定部152−k(k=1〜m)に設定する。次にm個の基準音の音色コードTC−k(k=1〜m)に対応した倍音構造データを倍音構造データベース113から読み出す。そして、この倍音構造データを参照することにより、m個の基準音について、他の基準音のスペクトルとの区別が容易であり、かつ、その基準音に特有のスペクトルを選択し、それらの周波数を抽出対象周波数Ft−k(k=1〜m)とする。そして、この抽出対象周波数Ft−k(k=1〜m)を各々中心周波数として、BPF151−k(k=1〜m)の通過帯域を設定する。
【0049】
抽出対象周波数Ft−k(k=1〜m)の選択方法としては、各基準音が有する各スペクトル毎に、隣接する他の基準音のスペクトルとの周波数差や当該スペクトルの強度に適当な重み係数を乗じて加算して、他の基準音のスペクトルとの区別の容易さを表わすコストを演算し、最もコストの高いスペクトルの周波数を抽出対象周波数として選択する方法が考えられる。好ましい態様では、より妥当な抽出対象周波数を選択するために、次のような基準を併用し、抽出対象周波数の選択範囲に絞り込みを掛ける。
a.複数の基準音(調律対象音)の中にフルート音が含まれている場合に、フルート音を優先し、フルートの基準音については基音周波数を抽出対象周波数とする。
b.複数の基準音(調律対象音)の中にオーボエ音やファゴット音が含まれている場合、オーボエ音やファゴット音である基準音については、各々に特有の強い倍音が集中する帯域の倍音周波数を抽出対象周波数とする。
c.複数の基準音(調律対象音)の中にクラリネット音が含まれている場合、クラリネット音でない基準音については、クラリネットが発生しない偶数次倍音に相当する帯域から抽出対象周波数を選択する。
d.複数の基準音(調律対象音)の中にトランペット音が含まれている場合、トランペット音における2kHz付近の最も強度の大きな倍音成分の周波数を抽出対象周波数とする。
【0050】
測定条件設定処理204では、BPF151−k(k=1〜m)の通過帯域の設定およびピッチ誤差測定部152−k(k=1〜m)の基音周波数の設定を行った後、同時に押鍵されていた複数の鍵が全てキーオフ状態になったときに、測定部150に測定指示を送る。測定指示の与えられた測定部150では、マイクロフォン15の出力信号中のm個の調律対象音のピッチ誤差を求める処理がBPF151−k(k=1〜m)およびピッチ誤差測定部152−k(k=1〜m)により行われる。この結果得られるm個の調律対象音のピッチ誤差は、測定結果表示処理205に引き渡される。測定結果表示処理205は、このm個の調律対象音の音色コードTC−k(k=1〜m)、キーコードKC−k(k=1〜m)およびピッチ誤差を表示制御部103に引き渡し、各調律対象音の音色(すなわち、楽器の名称)、音名をLCD14に、ピッチ誤差を大型表示器11に表示させる。なお、調律対象音の個数mが4より少ない場合、表示制御部103は、定まっていない調律対象音の音色、音名の代わりに「−」等をLCD14に表示させる。
【0051】
各調律対象楽器の演奏者は、大型表示器11の左横のLCDパネル14に表示された楽器の名称を確認し、その中から自分の演奏する楽器の名称を見つけ、また、演奏すべき音高の音名を確認する。そして、大型表示器11において自分の演奏する楽器名の表示の右横にあるLEDラインのLED点灯位置から、自分の楽器の調律対象音のピッチが高低いずれの方向にどれだけずれているかを把握することができる。また、全調律対象音のピッチが例えば各々の基準音のピッチから全体に5セントだけ低い方にずれたときは、各LEDラインにおけるLED点灯位置が縦一列に並ぶこととなり、良いハーモニーが得られていることが分かる。
【0052】
以上説明したように、本実施形態によれば、調律対象音のピッチ誤差は、調律装置付電子楽器の筐体20の背面10の殆どを利用した大型表示器11に表示されるので、調律対象楽器の演奏者は、自分の楽器の演奏音のピッチ誤差を容易かつ迅速に知ることができる。また、本実施形態によれば、和音の各構成音を調律対象音とし、各調律対象音の基準音に対するピッチ誤差が対比された状態で大型表示器11に表示されるので、和音の各構成音を担当する各演奏者は、各構成音が良いハーモニー状態を作っているか否か、自分の担当している構成音のピッチが他の構成音のピッチとどのような関係になっているかを容易に確認することができる。また、本実施形態によれば、押鍵操作により調律の基準となる基準音を放音する際に、基準音の音色を設定することができる。従って、各調律対象楽器の音色を持った基準音からなる和音を調律対象楽器の演奏者に聴かせ、目標とするハーモニー状態を認識させることができる。また、本実施形態によれば、各調律対象音に対応した各種の音色の基準音の倍音構造の関係に基づいて、マイクロフォン15の出力信号から抽出すべき各調律対象音の基音成分または倍音成分を選択し、その基音成分または倍音成分の周波数からピッチ誤差を求める。従って、複数の調律対象音の混ざり合った音がマイクロフォン15により収音される状況においても、マイクロフォン15の出力信号から各調律対象音の基音成分または倍音成分を適切に抽出し、各調律対象音のピッチ誤差を求めることができる。
【0053】
以上、この発明の一実施形態について説明したが、この発明にはこれ以外にも他の実施形態が考えられる。例えば次の通りである。
(1)図6に示すように、大型表示器11、LCDパネル14およびマイクロフォン15を一体化して背面ユニット10Aを構成し、この背面ユニット10Aをヒンジなどにより調律装置付電子楽器の筐体20の背面に回動自在に取り付けてもよい。この態様は、調律装置付電子楽器の筐体20の向きを変えなくても、背面ユニット10Aの向きを調律対象楽器の演奏者の位置に合わせて適切に調節することができるという利点がある。
(2)図7に示すように、背面ユニット10Aを調律装置付電子楽器の背面に対して着脱自在としてもよい。この場合、背面ユニット10Aと調律装置付電子楽器の筐体20とをケーブル16により接続し、このケーブル16を介して電源を背面ユニット10Aに供給し、かつ、筐体20内の関連装置と背面ユニット10Aとの間の信号の授受を行うように構成する。この態様も、調律装置付電子楽器の向きとは無関係に、調律対象楽器の演奏者のいる適切な方向へ背面ユニット10Aを向かせることができるという利点がある。
(3)上記実施形態では、複数の基準音を順次発生してから、それらの基準音からなる和音を発生する際に、各基準音を指定された音色で発生するようにしたが、和音を発生するときのみ各基準音を指定された音色で発生し、基準音を順次発生するときには固定された音色(例えばオルガン音)で各基準音を発生するようにしてもよい。この場合、和音を構成するm個の基準音の鍵が同時に押鍵されたときに、m個の押下鍵に対応した各キーコードを音高の低いものからキーコードKC−k(k=1〜m)とし、それらに音色コードTC−k(k=1〜m)を対応付けて各基準音の発音制御および各基準音に対応した調律対象音のピッチ誤差測定を行えばよい。この態様は、演算処理が簡単であるという利点がある。
(4)上記実施形態では、調律対象音と同じ音色の基準音を発生したが、調律モードにおいて基準音指定スイッチ5−k(k=1〜4)および音色指定スイッチ3は調律対象音の音色の指定のみに利用し、基準音は調律対象音とは無関係に所定の音色のものを発生するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】この発明の一実施形態である調律装置付電子楽器の上面の構成を示す平面図および背面の構成を示す背面図である。
【図2】同調律装置付電子楽器の電気的構成を示すブロック図である。
【図3】同調律装置付電子楽器のCPUの調律モードにおける処理内容を示す図である。
【図4】同調律装置付電子楽器のCPUが実行する基準音設定処理の動作を示す状態遷移図である。
【図5】同実施形態における基準音に対応したキーコードの設定動作の具体例を示す図である。
【図6】この発明の他の実施形態である調律装置付電子楽器の構成を示す斜視図である。
【図7】この発明の他の実施形態である調律装置付電子楽器の構成を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0055】
1……スピーカ、KB……鍵盤、2、14……LCDパネル、3……音色指定スイッチ、4……モード切り換えスイッチ、5−k(k=1〜4)……基準音指定スイッチ、5−u,5−d……カーソル、6……基準ピッチ指定スイッチ、7……音律指定スイッチ、8……音律指定スイッチ、9……シフト基準音指定スイッチ、20……筐体、10……筐体の背面、12……LED、13a,13b……マーカ、15……マイクロフォン、101……キースイッチ回路、102……操作子群、110……ROM、120……RAM、130……音源、131……サウンドシステム、103……表示制御部、100……CPU、150……測定部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発音すべき基準音を指定する複数の鍵を有する鍵盤と、
前記鍵盤の操作により指定された基準音を発生する楽音発生手段と、
外界の音を収音する収音手段と、
前記収音手段により収音された調律対象音の前記鍵盤の操作により指定された基準音に対するピッチ誤差を測定する測定手段と、
当該調律装置付電子楽器の筐体の背面に設けられ、前記測定手段により測定されたピッチ誤差を表示する大型表示部と
を具備することを特徴とする調律装置付電子楽器。
【請求項2】
前記大型表示部を前記筐体の背面に対して回動自在または着脱自在に取り付けてなることを特徴とする請求項1に記載の調律装置付電子楽器。
【請求項3】
前記測定手段は、前記収音手段により収音された複数の調律対象音の前記鍵盤の操作により指定された複数の基準音に対するピッチ誤差を各々測定し、
前記大型表示部は、複数の調律対象音のピッチ誤差を対比して表示することを特徴とする請求項1または2に記載の調律装置付電子楽器。
【請求項4】
前記複数の調律対象音の音色を各々指定する音色指定手段を具備し、
前記測定手段は、前記音色指定手段により指定された複数の音色に各々対応した複数の調律対象音の各成分を前記収音手段により収音される音から各々抽出する抽出手段と、前記抽出手段により抽出された複数の調律対象音の各成分に基づき各調律対象音の各基準音に対するピッチ誤差を各々測定するピッチ誤差測定手段とを具備することを特徴とする請求項3に記載の調律装置付電子楽器。
【請求項5】
前記複数の基準音の音色を各々指定する音色指定手段を具備し、
前記楽音発生手段は、前記音色指定手段により指定された音色の複数の基準音を発生し、
前記測定手段は、前記音色指定手段により指定された複数の音色に各々対応した複数の調律対象音の各成分を前記収音手段により収音される音から各々抽出する抽出手段と、前記抽出手段により抽出された複数の調律対象音の各成分に基づき各調律対象音の各基準音に対するピッチ誤差を各々測定するピッチ誤差測定手段とを具備することを特徴とする請求項3に記載の調律装置付電子楽器。
【請求項6】
前記音色指定手段は、複数の音色を予め指定する手段を有し、前記鍵盤の操作により複数の基準音が順次指定されるとき、予め指定された複数の音色の中から音色を順次選択し、各基準音の音色として指定することを特徴とする請求項5に記載の調律装置付電子楽器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−193156(P2007−193156A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−11957(P2006−11957)
【出願日】平成18年1月20日(2006.1.20)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】