説明

貫通孔を有する押出発泡シートの製造方法

【課題】 本発明は、加工後の連続気泡層の厚み減少や通気量の低下を招くことのない、貫通孔を有する押出発泡シートの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 貫通孔の表面直径に対する直径比が0.3〜0.5である針またはピンを複数本束ねてなる針群を配置してなる針ロールを用いて、該発泡シートに貫通孔を設けることにより、貫通孔を有する押出発泡シートの製造方法を改善することができる。さらに、押出発泡シートの押出発泡生産ラインに取り込むことにより、生産性をさらに改善することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の天井、ドア、ラゲージボックスなどに用いられる自動車内装材用発泡積層シート、等に用いられる、貫通孔を有する押出発泡シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車内は第2の生活空間として快適性が求められるようになってきた。特に、車内での静寂性が大きくクロ−ズアップされている。この静寂性の要求に対して、従来は重量物である遮音材を使用していたが、吸音材を用いることにより軽量化と静寂性の両立を図ることが進められている。
【0003】
吸音材として、熱可塑性樹脂からなる独立気泡系押出発泡シートに孔開け加工したものを用いる例や、熱可塑性樹脂からなる連続気泡系押出発泡シートを用いる例、等が挙げられる。具体的には、自動車内装材としての高い耐熱性も有する変性ポリフェニレンエーテル系樹脂(以下、「変性PPE系樹脂」と称する場合がある)からなる連続気泡発泡シートを用いる例が挙げられる(特許文献1)。
【0004】
しかしながら、近年、自動車車室内においても、シックハウス症候群としても大きく問題とされている揮発性有機化合物(VОC)の抑制が、特に自動車内装材で多いトルエン量の抑制が、車室内も居住空間の一部として要求されるようになってきた。そのため、前記例の材料は、変性ポリフェニレンエーテル系樹脂を用いていること、さらに、シートの厚み方向に孔開け加工を施していることから、揮発性トルエン量が増加して問題となっている。
【0005】
そこで、前記問題を鑑みて、吸音性を有すると共に、揮発性有機化合物(VОC)量、特に自動車内装材で多いトルエン量を削減する方法として、押出発泡シートの厚み方向に貫通孔を設けた後、空気送風や加温養生を行う方法が考えられる。
【0006】
ただし、押出発泡シートに貫通孔を設ける際、従来から用いられているパンチング装置を用いた場合、加工後の品質は、例えば発泡シートの厚み減少量が少なく、優れたものであるが、生産性(処理能力)に乏しいという問題点が挙げられる。すなわち、パンチング装置はパンチングする度にラインが瞬間停止する為、発泡シートを形成する押出発泡生産ラインへの組み込みが難しく、オフラインで行うことが前提であり、生産の効率の妨げになっていた。
【0007】
また、別の装置として、1本の針またはピンを所定の間隔でロール面に埋め込んだ「針ロール」も用いられているが、針ロールは、連続的な処理は可能であるものの、加工後の発泡シートの厚みの減少による吸音率低下や、発生する貫通屑(バリ)による通風の閉塞影響により養生空気送風量の低下を招く虞があり、改善の余地があった。
【特許文献1】特開2005−88873
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、加工後の発泡シートの厚み減少や通気量の低下を招くことのない、貫通孔を有する押出発泡シートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記問題を解決すべく鋭意検討した結果、貫通孔の表面直径に対する直径比が0.3〜0.5である針またはピンを複数本束ねてなる針群を配置してなる針ロールを用いて、該発泡シートに貫通孔を設けることにより、貫通加工時における針による材料への応力を分散することができ、加工後の厚みを維持しつつ(厚み減少を抑制しつつ)、貫通孔を閉塞する程度の大きなバリが発生しないため、貫通孔の閉塞を抑制できることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、
[1]厚み方向に貫通孔を有する押出発泡シートの製造方法であって、押出発泡シートに、複数本の針またはピンを束ねてなる針群を配置してなるロールを押し当て、貫通孔を設けることを特徴とする、押出発泡シートの製造方法、
[2]針群を構成する1本の針の、貫通孔の表面直径に対する直径比が0.5以下であることを特徴とする、[1]に記載の連続気泡押出発泡積層シートの製造方法、および
[3]押出発泡シートの基材樹脂が、ポリスチレン系樹脂およびポリフェニレンエーテル系樹脂の混合樹脂からなる変性ポリフェニレンエーテル系樹脂であることを特徴とする、[1]または[2]に記載の連続気泡系押出発泡シートの製造方法
に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法は、得られる貫通加工後の押出発泡シートの厚みを低減させることなく、貫通孔を閉塞する程度の大きなバリが発生しないため、貫通孔の閉塞を抑制できる製造方法である。本発明の製造方法は、さらに、押出発泡シートを製造する押出発泡生産ラインへの組み込みも可能となる(すなわち、押出発泡生産ラインへのインライン化が可能である)製造方法である。
【0012】
本発明の製造方法は、耐熱性樹脂、特に変性ポリフェニレンエーテル系樹脂を基材樹脂とする押出発泡シートに対する、VOC低減を目的とする空気通風や加温養生等の強制養生の前段階の製造方法として、有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の製造方法は、厚み方向に貫通孔を有する、押出発泡シートの製造方法であり、押出発泡シートに対して、複数本の針またはピンを束ねてなる針群を配置してなる針ロールを押し当て、貫通孔を設けることを特徴とする、押出発泡シートの製造方法である。
【0014】
本発明の製造方法において、押出発泡シートに針ロールを押し当てる方法としては、特に限定されないが、例えば、未加工の押出発泡シートを、所定間隔を存して回転軸が互いに平行となるように並設され、且つ、一方がロール表面に多数の針群が配置してなる針ロールであり、他方が通常のロールである一対のロール間に供給する方法、等が挙げられる。
【0015】
本発明の製造方法における針ロールとは、ロール表面に前記針群を所定の間隔により埋込み配されてなるロールである。
【0016】
本発明の製造方法においては、針ロールに配置される針の形態として、目的とする貫通孔直径に相当する針直径を有する1本の針またはピンの代わりに、複数本の針またはピンを束ねてなる針群とすることにより、貫通加工時の押出発泡シートへの印加圧力が分散され、該押出発泡シートの厚みの減少が少なくし、貫通孔でのバリの発生を抑制することができ、貫通孔の閉塞を抑制することができる。
【0017】
本発明の製造方法は、押出発泡シートとしては、いわゆる、独立気泡系押出発泡シートにも、連続気泡系押出発泡シートに対しても適用できる。本発明の製造方法は、印加圧力による厚み減少を被りやすい連続気泡系押出発泡シートにおいて、その抑制に関して大きな効果を発揮することができる。
【0018】
本発明の製造方法における、針群を構成する個々の針またはピンは、目的とする貫通孔直径(以下、「表面直径」と称する場合がある)に対する直径比として、0.5以下であることが好ましく、0.3〜0.5であることがより好ましい。個々の針またはピンの直径比が0.5よりも大きい場合、複数本の針またはピンの直径が同一径ではなくなるため、最も大きい直径の針またはピンによる圧力印加が大きくなり、厚みの減少抑制効果が小さくなる傾向がある。針またはピンの直径比が0.3よりも小さい場合、束ねる針またはピンの本数が多くなるため、バリが詰まりやすくなり、保守・点検等の作業性が悪くなる傾向がある。
【0019】
本発明の製造方法における、複数本の針またはピンを束ねてなる針群を、図を用いて例示する。
図1は、同一直径を有する複数針からなる針群の拡大図であり、針群(60)は、目的とする貫通孔の表面直径(55)に対して直径比0.45である針(50)を3本束ねたものである。
図2も同じく、同一直径を有する複数針からなる針群の拡大図であり、針群(61)は、目的とする貫通孔の表面直径(55)に対して直径比0.33とする針(50)を7本束ねたものである。
【0020】
さらに、本発明の製造方法における、複数本の針またはピンを束ねてなる針群を、一定の間隔により埋め込み配置したロールの表面配置について、図を用いて例示する。
針を3本束ねた針群(60)は、ロール上に、図3のように、所定の間隔[ピッチ(70)]により埋め込み、配置されている。
針を7本束ねた針群(61)も、ロール上に、図4のように、所定の間隔[ピッチ(71)]により埋め込み配置されてなる。
なお、ピッチ(70)または(71)は、後述する開口率に併せて、適宜設定される値である。
【0021】
本発明の製造方法において、押出発泡シートに設ける貫通孔直径[円相当径、前記の表面直径(55)と同じ]としては、0.3〜3mmφが好ましく、0.5〜2.0mmφがより好ましい。貫通孔直径(円相当径)が3mmφよりも大きいと、押出発泡シートおよびそれを用いた押出発泡積層シートの剛性が低下する傾向がある。0.3mmφよりも小さいと、安定的に孔空け加工を行えなくなる傾向がある。
【0022】
本発明の製造方法における押出発泡シートに設ける貫通孔の開口率としては、0.2〜100%が好ましく、0.5〜6.0%がより好ましい。開口率が10%よりも大きいと、押出発泡シート及びそれを用いた押出発泡積層シートの剛性が低下する傾向がある。開口率が0.2%よりも小さいと、強制養生をする場合は適度に空気をブローすることができない場合がある。

ところで、本発明の製造方法における貫通孔直径および開口率は、以下の方法を用いて測定した値である。開口率とは、発泡シートの面方向にどの程度の孔が存在するかの指標であり、貫通孔直径(面積)および数を求めることにより測定できる。
【0023】
なお、一般的には、以下のようにして、開口率を計算することができる。
(a)厚み方向に孔を形成させた発泡シートを、例えば、光学顕微鏡や通常のカメラを用いて、適当な倍率にて撮影する。
(b)撮影された写真の上にOHPシートを置き、孔に対応する部分を黒インキで塗りつぶして写しとる(一次処理)。
(c)画像処理装置(例えば、(株)ピアス製、PIAS−II)に一次処理画像を取り込み、濃色部分と淡色部分を、即ち黒インキで塗られた部分か否かを識別する。
(d)画像解析計算機能中の「FRACTAREA(面積率)」を用い、画像全体に占める貫通孔の面積比を次式により求める。
【0024】
【数1】

【0025】
また、開口直径に関しては以下のようにして計算することができる。
(a)前記開口率を計算する過程において撮影された写真に存在する貫通孔の数を数える。
(b)得られた開口率と孔数から次式により、円相当径の開口部直径を計算する。
【0026】
【数2】

【0027】
孔の形成状態は、シートの面方向および厚み方向において構造剛性の不均一を招かない程度であれば、均一でも不均一でも構わない。
【0028】
本発明の製造方法は、後述する押出発泡方法により得られ、一旦巻き取られた押出発泡シートに対しても適用できるが、特に、押出発泡シートを製造する押出発泡生産ラインへ組み込むことにより、貫通孔を有する押出発泡シート製造の生産効率を向上させることができる。押出発泡生産ラインへの組み込みの例としては、図5に示すような、基材樹脂を押出機中にて溶融混練した後、発泡剤を圧入して、樹脂温度を調整した後、サーキュラーダイを通して大気圧下に円筒状に押出発泡させ、マンドレルにより冷却され、カッターを用いて切り開かれてシート状にされた後、複数本の針またはピンを束ねてなる針群を配置してなる針ロールを押し当て、貫通孔を設けながら、巻き取る例、等が挙げられる。
【0029】
本発明の製造方法に用いられる押出発泡シートの製造法に関しても、以下に説明する。
本発明の押出発泡シートの製造法は、前述したように、例えば、基材樹脂および必要により使用される別種類の樹脂、添加剤をブレンダーで混合した後、押出機に供給し、該樹脂組成物を溶融混練した後、発泡剤を高温・高圧下で圧入して混合し、適性発泡温度まで冷却し、大気圧下に、環状のスリットを有する金型であるサーキュラーダイスを通して押出発泡させ、円筒状発泡体を得、円筒状発泡体の内面側から冷却するように円筒状発泡体の内側に位置して設置された環状冷却マンドレルにて延伸・冷却した後、カッターを用いて切り開き、シート状に引き取る方法である。
【0030】
押出発泡に用いる押出機としては、押出機1機の一段式、押出機2機を直列に連結した二段式(タンデム式)、等を挙げることができる。これらの中では、樹脂の可塑化、樹脂と添加剤との混合、及び樹脂の冷却段階と続いて押出を効率よく実施するには、二段式が特に好ましい。
【0031】
ここで、特に連続気泡系押出発泡シートを得ようとする場合には、上記押出工程において、例えば、(i)押出機での温度条件、(ii)発泡剤量を調整することにより、押出発泡シートの連続気泡率を高めることができる。さらに、具体的には、(i)に関しては、2段目押出機での前記冷却温度を高温側に設定することにより、シートの厚み方向に対して全体的に連続気泡層を設けることができる。(ii)に関しては、発泡剤圧入量を基材樹脂100重量部に対して通常使用量の1.5〜2.0倍程度に設定すればよい。ただし、発泡剤圧入量を大きくしすぎると、可塑化が進み、ポリマー同士のせん断発熱が起こりにくくなるために、逆に連続気泡率が低下する場合がある。これら(i)〜(ii)を組み合わせてもよい。
【0032】
なお、連続気泡系押出発泡シートとしては、発泡セル膜が部分的あるいは全体的に開口しており、大部分のセルが隣接する発泡セルと連通していれば良く、表層部分に密度の高い層、いわゆる非発泡層や部分的な独立気泡層を有していても構わない。さらに、発泡時に連続気泡化しているのとは別に、独立気泡系押出発泡シートの後加工として、圧縮加工等、機械的に連続気泡化を促進しても構わない。
【0033】
本発明の製造方法において、厚み方向に貫通孔を形成される前の連続気泡系押出発泡シートは、吸音性の観点から、連続気泡率が60%〜98%であることが好ましく、70〜85%であることがより好ましい。連続気泡率が60%未満の場合、入射する音波が効率的に連続気泡層を利用した材料の振動を発現できないため、吸音効果が減少する可能性もある。また、98%を超える場合、シートの曲げ剛性が極端に低下するため、曲げ剛性を有する非発泡層を積層しても内装材としての実用特性を満たさなくなる場合がある。
【0034】
なお、本発明における「連続気泡率」とは、発泡セルが他の発泡セルとセル膜で完全に隔離されて独立しているセル(独立気泡)の全発泡セルに対する比率(独立気泡率)を、マルチピクノメーター(ベックマン社製)を用いて、ASTMD−2859に準じて測定した後、連続気泡率(%)=100−独立気泡率(%)として算出した値である。
【0035】
本発明の製造方法に用いられる基材樹脂としては、耐熱性を有するとして当業者に知られている、いずれの樹脂も用いることができる。耐熱性を有する樹脂の具体例としては、(i)スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、スチレン−イタコン酸共重合体等の耐熱ポリスチレン系樹脂、(ii)ポリスチレンあるいは耐熱ポリスチレンとポリフェニレンエーテル(以下、「PPE」と略す場合がある)との混合樹脂、PPEへのスチレングラフト重合物などのスチレン・フェニレンエーテル共重合体、等の変性ポリフェニレンエーテル系樹脂(以下、「変性PPE系樹脂」と略す場合がある)、(iii)ポリカーボネート樹脂および(iv)ポリブチレンテレフタレートやポリエチレンテレフタレートで例示されるポリエステル樹脂などがあげられる。これらの樹脂は、単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
これらのうちでも、変性PPE系樹脂が、耐熱性、剛性等の品質に優れている上に、加工性および製造が容易である点から、好ましい。さらに、変性PPE系樹脂としては、PPE系樹脂とPS系樹脂との混合樹脂が、製造が容易であるなどの点から、好ましい。
【0037】
本発明の製造方法における変性ポリフェニレンエーテル系樹脂としては、PPE系樹脂とポリスチレン系樹脂(以下、PS系樹脂と証する場合がある)との混合物、PPEへのスチレン系単量体のグラフト共重合物などのスチレン・フェニレンエーテル共重合体、等があげられる。
【0038】
変性PPE系樹脂中のPPE系樹脂の具体例としては、例えば、ポリ(2,6−ジメチルフェニレン−1,4−エーテル)、ポリ(2−メチル−6−エチルフェニレン−4−エーテル)、ポリ(2,6−ジエチルフェニレン−1,4−エーテル)、ポリ(2,6−ジエチルフェニレン−1,4−エーテル)、ポリ(2−メチル−6−n−プロピルフェニレン−1,4−エーテル)、ポリ(2−メチル−6−n−ブチルフェニレン−1,4−エーテル)、ポリ(2−メチル−6−クロルフェニレン−1,4−エーテル)、ポリ(2−メチル−6−ブロムフェニレン−1,4−エーテル)、ポリ(2−エチル−6−クロルフェニレン−1,4−エーテル)などがあげられ、これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いもよい。
【0039】
変性PPE系樹脂中においてPPE系樹脂と混合樹脂を形成するPS系樹脂としては、スチレンまたはその誘導体、例えば、α−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、モノクロルスチレン、ジクロルスチレン、p−メチルスチレン、エチルスチレンなどを主成分とする樹脂があげられる。したがって、PS系樹脂はスチレンまたはスチレン誘導体だけからなる単独重合体に限らず、他の単量体との共重合により得られる共重合体であってもよい。
【0040】
また、PPE系樹脂に重合、好ましくはグラフト重合させるスチレン系単量体の具体例としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、モノクロルスチレン、ジクロルスチレン、p−メチルスチレン、エチルスチレンなどがあげられる。これらのなかでも、汎用性およびコストの点で、スチレンが好ましい。これらは単独で用いてもよく、2種以上組み合わせてもよい。
【0041】
これら変性PPE系樹脂のなかでは、低コストであり、その混合比を変化させることにより、簡単に耐熱性、剛性等の品質に優れ、加工性を変化させたものを得ることができる点から、PPE系樹脂とPS系樹脂との混合樹脂であることが好ましい。
【0042】
本発明における変性PPE系樹脂としては、PPE系樹脂25〜70重量%およびPS系樹脂75〜30重量%であることが好ましく、PPE系樹脂35〜60重量%およびPS系樹脂65〜40重量%であることがより好ましい。変性PPE系樹脂中のPPE系樹脂が25重量%より少ないと、耐熱性が劣る傾向にあり、PPE系樹脂が70重量%を超えると、加熱流動時の粘度が上昇して発泡成形が困難になる傾向がある。
【0043】
本発明の製造方法における発泡剤としては、炭化水素系発泡剤を用いることが、用いる樹脂との相溶性、発泡性等の点から、好ましい。
【0044】
例えば、変性ポリフェニレンエーテル系樹脂からなる連続気泡系発泡シートを得る際に使用される炭化水素系発泡剤としては、揮発性発泡剤が好ましく、具体的には、エタン、プロパン、ブタン、ペンタンなどがあげられる。なかでも、発泡剤の溶解度を示すカウリブタノール値(KB値)が20〜50である炭化水素系発泡剤が好ましい。また、この範囲よりもKB値の高いものと低いものとを2種以上適宜混合して前記範囲としたものも使用することができる。
【0045】
本発明の製造方法においては、前記発泡剤の具体例のなかでも、発泡剤の適度な溶解性および発泡剤の逸散性が小さく、発泡層の経時変化に伴う発泡性の変化が小さい点から、ブタンが好ましい。前記ブタンは、イソブタン、ノルマルブタン、または、イソブタンおよびノルマルブタンの混合体であってもよい。
【0046】
本発明の製造方法における押出発泡時の炭化水素系発泡剤の圧入量は、構成樹脂100重量部に対し、2.0〜6.0重量部であることが好ましく、2.5〜4.5重量部であることがより好ましい。発泡剤の圧入量が2.0重量部より少ないと、良好な連続気泡発泡セルまたは独立気泡発泡セルが得られない傾向があり、5.0重量部を超えると、押出発泡が不安定になったり、発泡シートの表面荒れが大きく発生する傾向がある。
【0047】
なお、本発明の連続気泡発泡シートを構成する樹脂には、本発明の目的を著しく損なわない範囲で、必要に応じて、各種の添加剤、例えば、造核剤、酸化防止剤、熱安定剤、帯電防止剤、導電性付与剤、耐候剤、紫外線吸収剤、難燃剤、無機充填剤等を添加することができる。
【0048】
本発明の製造方法により得られる、貫通孔加工前の押出発泡シートの厚みは、2.0〜10mmが好ましく、3.5〜6.0mmがより好ましい。押出発泡シートの厚みが2.0mm未満では、吸音性能において連続気泡層としての機能が殆ど発現しない傾向があり、10mmより大きい場合には、巻取り時に折れが発生したり、体積が大きくなって輸送等の生産性が低下する傾向がある。
【0049】
本発明の製造方法により得られる、貫通孔加工前の押出発泡シートの目付は、100〜300g/mが好ましく、200〜250g/mがより好ましい。押出発泡シートの目付が100g/mより小さい場合には、剛性が不足する傾向があり、300g/mを超えると、軽量性が低下する傾向にある。
【0050】
本発明の製造方法により得られる、貫通孔加工前の押出発泡シートの発泡倍率は、5〜25倍が好ましく、15〜20倍がより好ましい。押出発泡シートの発泡倍率が5倍より低いと、柔軟性に劣り、曲げなどによる破損が生じ易く、また、軽量化の効果が少なくなる傾向がある。一方、発泡倍率が25倍を超えると、強度が低下し、ハンドリング性が低下する傾向がある。
【0051】
本発明の製造方法により得られる、厚み方向に貫通孔を有する押出発泡シートは、バリによる貫通孔閉塞が抑制されているため、いわゆる養生期間において、下記に示す貫通孔を通しての空気の送風や加熱養生等の強制養生を効率的に行うことができ、押出発泡シート内に存在するVOC量(変性PPE系樹脂を用いる場合には、揮発性トルエン量)を低減することができる。
【0052】
強制養生の具体的な操作としては、貫通孔を有する押出発泡シートを、(i)連続気泡発泡シート内部を通気できるように、シートの厚み方向に圧力勾配を設けて、空気等を送風する、あるいは、圧力勾配を設けて温風(加熱空気)を送風する方法、(ii)オーブン等内で加熱して一定期間放置する、あるいは、減圧状態のオーブン内で加熱して一定期間放置する方法、などがあげられ、さらには、それらを組み合わせた、加熱状態下において圧力勾配を設けて温風を送風する方法があげられる。
【0053】
本発明の製造方法により得られる、厚み方向に貫通孔を有する押出発泡シートは、貫通孔加工時の厚み低下が抑制され、吸音性能が維持されるため、自動車の天井、ドア、ラゲージボックスなどに用いられる自動車内装材用発泡積層シートの芯材として好適に用いられる。
以下に、自動車内装材用発泡積層シートに関して、簡単に説明する。
【0054】
自動車内装材用発泡積層シートとしては、図6のように、厚み方向に貫通孔を有し、強制養生を行った押出発泡シート(10)の両面に、熱可塑性樹脂からなる非発泡層(室内側非発泡層(14)および室外側非発泡層(12))を形成し、さらに、室内側非発泡層面側から連続気泡発泡シートの内部に到達する非貫通孔を設けてなる発泡積層シート(20)が挙げられる。
【0055】
自動車内装材用発泡積層シートは、図7のように、さらに、非貫通孔を設けた面に接着層(15)、表皮材(16)を、対面に異音防止層(13)を積層することにより、自動車内装材用基材(25)として利用することができる。
【0056】
本発明の製造方法により得られる、貫通孔を有する押出発泡シートを用いる自動車内装材用発泡積層シートまたは自動車内装材用基材を賦形して内装材とするための成形加工法としては、例えば、上下にヒーターを備える加熱炉の中央に、発泡積層シートまたは基材をクランプして導き、成形に適した温度(例えば、発泡積層シートの表面温度が125〜155℃)になるように加熱して軟化させた後、温度調節した金型にてプレス冷却し、賦形する方法が挙げられる。
【0057】
成形方法の例としては、具体的には、プラグ成形、フリードローイング成形、プラグ・アンド・リッジ成形、リッジ成形、マッチド・モールド成形、ストレート成形、ドレープ成形、リバースドロー成形、エアスリップ成形、プラグアシスト成形、プラグアシストリバースドロー成形などの方法が挙げられる。
【実施例】
【0058】
次に、実施例および比較例に基づいて本発明に関する発泡シートについて説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0059】
得られた発泡シートの評価方法を以下に示す。
【0060】
<発泡シートの連続気泡率>
孔を形成する前の発泡シートを、マルチピクノメーター(ベックマン社製)を用いて、ASTMD−2859に準じて測定し、独立気泡率を求めた。この際、発泡シートの体積は、メスシリンダーを用いて水没により測定したが、水没した際に3分間経過してから測定する体積変化が独立気泡率に対して±1%以下であることを確認した。
得られた独立気泡率から、 連続気泡率(%)=(1−独立気泡率)×100
の式により連続気泡率を求めた。
【0061】
<厚み減少量(発泡シートの厚さ)>
得られた孔を形成する前後の押出発泡シートに対し、目盛付きルーペ(PEAK社製、ズームスケールルーペ、倍率15倍)を用いて、幅方向任意の20ヵ所の厚さを、測定し、その測定値の平均値或いは穴加工前後の差を算出した。
○:厚み減少量が0.5mm未満。
×:厚み減少量が0.5mm以上。
【0062】
<発泡シートの目付>
得られた孔を形成する前の押出発泡シートにおいて、押出方向に任意の430mm×430mmサイズの試験片を5枚切り出し、それらの重量を測定した後、平均値を算出し、1m当たりに換算してシート全体の目付とした。
【0063】
<発泡シートの発泡倍率>
得られた孔を形成する前の押出発泡シートの密度dfをJIS K7222に準じて測定し、別途、基材樹脂の密度dpをJIS K 7112に準じて測定した後、
発泡倍率=dp/dfの式により算出した。
【0064】
<通気量測定>
得られた貫通孔加工後の押出発泡シートから直径7cmφの試験片(面積38.5cm)を切り出し、JIS L1018に従い、フラジール形通気度試験機(株式会社安田精機製作所製)を用いて通気量を測定した。
◎:通気量が60cc/cm/sec以上。
○:通気量が40cc/cm/sec以上、60cc/cm/sec未満。
×:通気量が40cc/cm/sec未満。
【0065】
(製造例1)
[発泡シートの作製]
押出発泡シートの基材樹脂として、PPE樹脂成分40重量%およびPS樹脂成分60重量%となるように、PPE樹脂(サビック(株)製、ノリルPKN−4752、PPE成分/PS成分=70/30)57.1重量部およびPS樹脂(PSジャパン社製、G8102:PS成分=100)42.9重量部を混合した変性PPE樹脂を用いた。
該変性PPE樹脂100重量部、タルク(林化成(株)社製、タルカンパウダーPK)0.34重量部、ステアリン酸マグネシウム(堺化学工業(株)社製、SM−1000)0.08重量部、およびポリブテン(日石ポリブテン製、LV−50)0.05重量部をリボンブレンダーで撹拌混合した。得られた配合物を、115mmφ押出機(第1段押出機)と152mmφ押出機(第2段押出機)が直列に連結されたタンデム押出機に190kg/時間にて供給し、樹脂温度が約280℃になるように、第1段押出機中で溶融混練させた後、発泡剤として炭化水素系発泡剤(iso−ブタン/n−ブタン=85/15重量%)を変性PPE樹脂100重量部に対して4.1重量部圧入混合した。その後、第2段押出機のシリンダ−温度を200℃に冷却した後、サーキュラーダイより大気圧下に、押出した。得られる円筒状発泡体を、図5のように、マンドレル(外径445mmであり、循環水により40℃に温調)を用いて成形しながら10m/minで引き取りつつ、これをカッターで切り開きシート状態とし、そのまま、直径260mmの巻き芯材を用いて、長さ120m分を直径800mmの円筒ロールになるように巻き取った。その後、該巻き芯材を抜き取って、発泡シート(10)のロール状物を得た。
得られた発泡シ−トは、発泡倍率19倍、連続気泡率85%、目付230g/m、シ−ト幅1400mmおよびシート厚み4.5mmであった。
【0066】
(実施例1)
[発泡シートの作製]
製造例1において、シート状態とした後、円筒ロールに巻き取る工程の間で、図5のように、下記の針ロールを押し当てながら貫通孔を設けた以外は、製造例1と同様の操作により、貫通孔を設けた発泡シートのロール状物を得た。
針ロールは、図3のように、直径0.9mmφ(目的とする貫通孔の表面直径2.0mmφに対して、直径比0.45)の針を3本束ね合わせた針群を、ピッチ(70)6mmに配置したロールである。
得られた押出発泡シ−ト(10)に関して、厚み減少量および通気量の測定を行い、その結果を表1に示す。
【0067】
(実施例2)
[発泡シートの作製]
針ロールを、図直径0.67mmφ(目的とする貫通孔の表面直径2.0mmφに対して、直径比0.33)の針を7本束ね合わせた針群を用いる、針ロールに変更した以外は、実施例1と同様の操作により、貫通孔を設けた発泡シートのロール状物を得た。
得られた押出発泡シ−ト(10)に関して、厚み減少量および通気量の測定を行い、その結果を表1に示す。
【0068】
(比較例1)
[発泡シートの作製]
針ロールを、針群の代わりに、直径2.0mmφ(目的とする貫通孔の表面直径2.0mmφに対して、直径比1.0)の針を用いる針ロールに変更した以外は、実施例1と同様の操作により、貫通孔を設けた発泡シートのロール状物を得た。
得られた押出発泡シ−ト(10)に関して、厚み減少量および通気量の測定を行い、その結果を表1に示す。
【0069】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】図1は、本発明にかかる同一直径を有する複数針からなる針群の一例を示す拡大模式図である。
【図2】図2は、本発明にかかる同一直径を有する複数針からなる針群の一例を示す拡大模式図である。
【図3】図3は、本発明にかかる針群配置に係る平面実施態様を示す模式説明図である。
【図4】図4は、本発明にかかる針群配置に係る平面実施態様を示す模式説明図である。
【図5】図1は、本発明にかかる連続気泡系押出発泡シートの製造方法における連続貫通孔加工に係る装置の構成の一例を示す説明図である。
【図6】図6は、本発明の製造方法により得られる貫通孔を有する押出発泡シートを用いる、自動車内装材用発泡積層シートの要部拡大断面模式説明図である。
【図7】図7は、本発明の製造方法により得られる貫通孔を有する押出発泡シートを用いる、自動車内装材用基材の要部拡大断面模式説明図である。
【符号の説明】
【0071】
50、51:針又はピン
55、56:目的とする貫通孔の直径(表面直径)
60、61:針群
70、71:針群を配置する際のピッチ
10:押出発泡シート
14:室内側非発泡層
12:室外側非発泡層
15:接着剤層
13:異音防止層
16:表皮材
20:自動車内装材用発泡積層シート
25:自動車内装材用基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚み方向に貫通孔を有する押出発泡シートの製造方法であって、
押出発泡シートに、複数本の針またはピンを束ねてなる針群を配置してなる針ロールを押し当て、貫通孔を設けることを特徴とする、押出発泡シートの製造方法。
【請求項2】
針群を構成する1本の針またはピンの、貫通孔の表面直径に対する直径比が0.3〜0.5であることを特徴とする、請求項1に記載の押出発泡シートの製造方法。
【請求項3】
押出発泡シートの基材樹脂が、ポリスチレン系樹脂およびポリフェニレンエーテル系樹脂の混合樹脂からなる変性ポリフェニレンエーテル系樹脂であることを特徴とする、請求項1または2に記載の連続気泡押出発泡シートの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−143006(P2010−143006A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−320920(P2008−320920)
【出願日】平成20年12月17日(2008.12.17)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】