説明

貴金属被膜の形成方法

【課題】金属基板との密着性、膜硬度、耐擦傷性、耐水性、化学的耐久性に優れ、しかも、膜厚が5μm以下の薄膜状の貴金属被膜を形成することが可能な貴金属被膜の形成方法を提供する。
【解決手段】本発明の貴金属被膜の形成方法は、ケイ素(Si)と、ジルコニウム(Zr)と、アルカリ金属(M)と、酸素(O)とを含有し、ケイ素(Si)を酸化ケイ素(SiO)に、ジルコニウム(Zr)を酸化ジルコニウム(ZrO)にそれぞれ換算したとき、酸化ケイ素(SiO)の、酸化ケイ素(SiO)及び酸化ジルコニウム(ZrO)の合計量に対する重量百分率が10重量%以上かつ90重量%以下である下地膜を、金属基板上に形成し、次いで、この下地膜上に貴金属被膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貴金属被膜の形成方法に関し、さらに詳しくは、金属基板との密着性、膜硬度、耐擦傷性、耐水性、化学的耐久性に優れ、装飾品、触媒担体、導電性付与等に利用可能な貴金属被膜の形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、基板の表面に貴金属被膜を形成する方法としては、次のような方法が知られている。
(1)基板上に、貴金属をめっきする方法(非特許文献1)。
(2)基板上に貴金属を含む液体を塗布し、得られた塗膜に焼き付け処理を施す方法。
しかしながら、上記(1)の方法では、密着性が充分でなく、また工程が複雑であるという間題点があった。
また、上記(2)の方法では、ガラス基板を用いた場合には、まずまずの密着性、膜硬度を有する薄膜状の貴金属被膜を形成し得るものの、金属基板を用いた場合には、焼き付け時の高温処理により金属基板の表面が酸化されてしまい、その結果、金属基板が劣化するという問題点があった。また、金属基板と貴金属被膜との密着性が充分でなく、貴金属被膜の硬度も充分でないために、金属基板の表面に一旦ガラス質のような無機質層を形成し、この無機質層上に貴金属被膜を形成する必要がある。
【0003】
上記(2)の方法を改良した貴金属被膜の形成方法としては、例えば、七宝焼きの技術分野では、金属基板の表面に琺瑯等のガラスコーティング処理を施し、このガラスコーティング膜の表面に貴金属を含有する塗布液を塗布し、加熱処理して硬化させ、貴金属被膜とする方法が検討されている。
【非特許文献1】社団法人日本化学会編、「化学便覧 応用化学編 第5版」、丸善株式会社、平成13年10月25日、P.I549〜I562
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述した従来の金属基板の表面にガラスコーティング膜を介して貴金属被膜を形成する方法では、琺瑯等のガラスコーティング処理によりガラスコーティング膜を形成しているために、ガラスコーティング膜の厚みが、例えば10μm以上に厚くなってしまい、薄膜状に形成することが困難であるという問題点があった。このような厚みのガラスコーティング膜は、耐衝撃性、寸法精度に劣るものとなり、さらなる耐衝撃性の向上、寸法精度の向上が求められていた。
一方、本発明者は、上記(2)の方法を改良すべく、金属基板の表面に、例えば、ゾルゲル法により酸化ケイ素(SiO)からなる無機被膜を形成し、この無機被膜の表面に貴金属微粒子の分散液または貴金属化合物を含む溶液を塗布し、その後加熱硬化させ、貴金属被膜とする方法を検討したが、この方法では、ゾルゲル法等により酸化ケイ素(SiO)からなる無機被膜を形成しているために、この無機被膜自体、耐水性及び耐アルカリ性が充分でないという問題点があった。下地層である無機被膜の耐水性及び耐アルカリ性が充分でなかった場合、この無機被膜上に形成される貴金属被膜も耐水性及び耐アルカリ性が不充分なものとなる。
【0005】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、金属基板との密着性、膜硬度、耐擦傷性、耐水性、化学的耐久性に優れ、しかも、膜厚が5μm以下の薄膜状の貴金属被膜を形成することが可能な貴金属被膜の形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、金属基板上に、ケイ素(Si)と、ジルコニウム(Zr)と、アルカリ金属(M)と、酸素(O)とを含有し、このケイ素(Si)を酸化ケイ素(SiO)に、ジルコニウム(Zr)を酸化ジルコニウム(ZrO)にそれぞれ換算したときの酸化ケイ素(SiO)の、酸化ケイ素(SiO)及び酸化ジルコニウム(ZrO)の合計量に対する重量百分率が10重量%以上かつ90重量%以下である下地膜を形成し、この下地膜上に貴金属被膜を形成すれば、膜厚が5μm以下の薄膜状であり、かつ膜の均質性に優れた貴金属被膜を形成することが可能であり、しかも、得られた貴金属被膜は、金属基板との密着性、膜硬度、耐擦傷性、耐水性、化学的耐久性に優れていることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の貴金属被膜の形成方法は、金属基板上に、ケイ素(Si)と、ジルコニウム(Zr)と、アルカリ金属(M)と、酸素(O)とを含有してなる下地膜を介して貴金属被膜を形成する方法であって、前記ケイ素(Si)を酸化ケイ素(SiO)に、前記ジルコニウム(Zr)を酸化ジルコニウム(ZrO)にそれぞれ換算したとき、前記酸化ケイ素(SiO)の、前記酸化ケイ素(SiO)及び前記酸化ジルコニウム(ZrO)の合計量に対する重量百分率が10重量%以上かつ90重量%以下である下地膜を、金属基板上に形成し、次いで、この下地膜上に貴金属被膜を形成することを特徴とする。
【0008】
前記金属基板上に、ケイ素(Si)化合物と、ジルコニウム(Zr)化合物と、アルカリ金属(M)化合物とを含む塗布液を塗布し、得られた塗膜を熱処理し、前記下地膜とすることが好ましい。
前記下地膜上に、貴金属粒子または貴金属化合物を含む塗布液を塗布し、得られた貴金属塗膜を熱処理し、前記貴金属被膜とすることが好ましい。
前記下地膜上に、貴金属箔を貼着し、この貴金属箔を前記貴金属被膜としてもよい。
前記下地膜上に、アルカリ金属(M)化合物を含む溶液を塗布し、次いで、乾燥または熱処理し、この上に前記貴金属被膜を形成することが好ましい。
【0009】
本発明の他の貴金属被膜の形成方法は、金属基板上に、ケイ素(Si)と、ジルコニウム(Zr)と、酸素(O)とを含有してなる下地膜を介して貴金属被膜を形成する方法であって、前記ケイ素(Si)を酸化ケイ素(SiO)に、前記ジルコニウム(Zr)を酸化ジルコニウム(ZrO)にそれぞれ換算したとき、前記酸化ケイ素(SiO)の、前記酸化ケイ素(SiO)及び前記酸化ジルコニウム(ZrO)の合計量に対する重量百分率が10重量%以上かつ90重量%以下である下地膜を、金属基板上に形成し、次いで、この下地膜上にアルカリ金属(M)化合物を含む溶液を塗布し、次いで、この上に貴金属被膜を形成することを特徴とする。
【0010】
前記金属基板上に、ケイ素(Si)化合物と、ジルコニウム(Zr)化合物とを含む塗布液を塗布し、得られた塗膜を熱処理し、前記下地膜とすることが好ましい。
前記塗膜上に、貴金属粒子または貴金属化合物を含む塗布液を塗布し、得られた貴金属塗膜を熱処理し、前記貴金属被膜とすることが好ましい。
前記塗膜上に、貴金属箔を貼着し、この貴金属箔を前記貴金属被膜としてもよい。
塗布した前記アルカリ金属(M)化合物を含む溶液を、熱処理することが好ましい。
【0011】
これらの貴金属被膜の形成方法では、前記下地膜及び前記貴金属被膜の全体の厚みは、5μm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の貴金属被膜の形成方法によれば、ケイ素(Si)を酸化ケイ素(SiO)に、ジルコニウム(Zr)を酸化ジルコニウム(ZrO)にそれぞれ換算したとき、前記酸化ケイ素(SiO)の、前記酸化ケイ素(SiO)及び前記酸化ジルコニウム(ZrO)の合計量に対する重量百分率が10重量%以上かつ90重量%以下である下地膜を、金属基板上に形成し、次いで、この下地膜上に貴金属被膜を形成するので、金属基板との密着性、膜硬度、耐擦傷性、耐水性、化学的耐久性に優れ、しかも、膜厚が5μm以下の薄膜状であり、膜の均質性に優れた貴金属被膜を、簡便に、かつ効率良く形成することができる。
【0013】
前記金属基板上に、ケイ素(Si)化合物と、ジルコニウム(Zr)化合物と、アルカリ金属(M)化合物とを含む塗布液を塗布し、得られた塗膜を熱処理すれば、膜の均質性に優れた下地膜を、簡便に、かつ効率良く形成することができる。
【0014】
前記下地膜上に、貴金属粒子または貴金属化合物を含む塗布液を塗布し、得られた貴金属塗膜を乾燥または熱処理すれば、膜厚が5μm以下の薄膜状であり、膜の均質性にさらに優れた貴金属被膜を、簡便に、かつ効率良く形成することができる。
【0015】
前記下地膜上に、貴金属箔を貼着し、この貴金属箔を前記貴金属被膜とすることとしても、膜厚が5μm以下の薄膜状であり、膜の均質性にさらに優れた貴金属被膜を、簡便に、かつ効率良く形成することができる。
【0016】
前記下地膜上に、アルカリ金属(M)化合物を含む溶液を塗布し、次いで、乾燥または熱処理し、この上に前記貴金属被膜を形成すれば、金属基板との密着性にさらに優れ、特に、耐擦傷性、耐水性、化学的耐久性により一層優れた貴金属被膜を形成することができる。
【0017】
本発明の他の貴金属被膜の形成方法によれば、ケイ素(Si)を酸化ケイ素(SiO)に、前記ジルコニウム(Zr)を酸化ジルコニウム(ZrO)にそれぞれ換算したとき、前記酸化ケイ素(SiO)の、前記酸化ケイ素(SiO)及び前記酸化ジルコニウム(ZrO)の合計量に対する重量百分率が10重量%以上かつ90重量%以下である下地膜を、金属基板上に形成し、次いで、この下地膜上にアルカリ金属(M)を含む溶液を塗布し、この上に貴金属被膜を形成するので、金属基板との密着性、膜硬度、耐擦傷性、耐水性、化学的耐久性に優れ、しかも、膜厚が5μm以下の薄膜状であり、膜の均質性に優れた貴金属被膜を、簡便に、かつ効率良く形成することができる。
【0018】
前記金属基板上に、ケイ素(Si)化合物と、ジルコニウム(Zr)化合物とを含む塗布液を塗布し、得られた塗膜を熱処理すれば、膜の均質性に優れた下地膜を、簡便に、かつ効率良く形成することができる。
【0019】
前記塗膜上に、貴金属粒子または貴金属化合物を含む塗布液を塗布し、得られた貴金属塗膜を熱処理すれば、膜厚が5μm以下の薄膜状であり、膜の均質性にさらに優れた貴金属被膜を、簡便に、かつ効率良く形成することができる。
【0020】
前記塗膜上に、貴金属箔を貼着し、この貴金属箔を前記貴金属被膜とすることとしても、膜厚が5μm以下の薄膜状であり、膜の均質性にさらに優れた貴金属被膜を、簡便に、かつ効率良く形成することができる。
【0021】
塗布した前記アルカリ金属(M)化合物を含む溶液を、熱処理すれば、金属基板との密着性にさらに優れ、特に、耐擦傷性、耐水性、化学的耐久性により一層優れた貴金属被膜を形成することができる。
【0022】
これらの貴金属被膜の形成方法において、前記下地膜及び前記貴金属被膜の全体の厚みを5μm以下とすれば、耐衝撃性に優れ、白化やクラック等が発生する虞がなく、剥離等の虞もない貴金属被膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の貴金属被膜の形成方法の最良の形態について説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0024】
「第1の実施形態」
本発明の第1の実施形態の貴金属被膜の形成方法は、金属基板上に、ケイ素(Si)と、ジルコニウム(Zr)と、アルカリ金属(M)と、酸素(O)とを含有してなる下地膜を介して貴金属被膜を形成する方法であって、前記ケイ素(Si)を酸化ケイ素(SiO)に、前記ジルコニウム(Zr)を酸化ジルコニウム(ZrO)にそれぞれ換算したとき、前記酸化ケイ素(SiO)の、前記酸化ケイ素(SiO)及び前記酸化ジルコニウム(ZrO)の合計量に対する重量百分率が10重量%以上かつ90重量%以下である下地膜を、金属基板上に形成し、次いで、この下地膜上に貴金属被膜を形成する方法である。
ここで、「ケイ素(Si)と、ジルコニウム(Zr)と、アルカリ金属(M)と、酸素(O)とを含有してなる」とは、これらの元素以外の元素の含有率が10重量%以下ということである。
【0025】
本実施形態の下地膜は、酸化ケイ素(SiO)及び酸化ジルコニウム(ZrO)の合計量に対する、上記酸化ケイ素(SiO)の重量百分率を10重量%以上かつ90重量%以下としたものであり、酸化ケイ素(SiO)の重量百分率が10重量%未満であると、下地膜中に実質的にケイ素(Si)が含有されないこととなり、その結果、膜の硬化が不十分となって、所望の硬度の下地膜が得られなくなるからであり、一方、酸化ケイ素(SiO)の重量百分率が90重量%を越えると、下地膜中に実質的にジルコニウム(Zr)が含有されないこととなり、その結果、耐水性や耐アルカリ性(化学的耐久性)が不十分となって、金属基板との密着性、膜硬度、耐擦傷性、耐水性、耐アルカリ性(化学的耐久性)に優れた下地膜を形成することができなくなるからである。
【0026】
この下地膜に含まれるアルカリ金属(M)としては、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、リチウム(Li)が、金属基板との密着性に優れ、耐水性、耐アルカリ性(化学的耐久性)、耐擦傷性に優れた下地膜が得られるので好適である。
このアルカリ金属(M)の含有率は、0.01重量%以上かつ10重量%以下、好ましくは0.1重量%以上かつ5重量%以下の範囲内が好適である。アルカリ金属(M)の含有率が0.1重量%未満であると、アルカリ金属(M)を含有させる意味がなくなるからであり、一方、10重量%を越えると、下地膜の耐水性、耐アルカリ性等が低下する虞があるからである。
【0027】
下地膜の厚みは、特に制限されるものではないが、通常、0.1μm〜5μmであることが好ましい。下地膜の厚みが0.1μm未満であると、均一な硬さの下地膜が得られず、一方、下地膜の厚みが5μmを超えると、下地膜に白化やクラック等が発生し、また、剥離の原因ともなるからである。
金属基板としては、特に制限はなく、例えば、ステンレス鋼板、各種金属めっき板、銅板、Ni−Mo系合金(ハステロイB、C等)やNi−Cr−Fe系合金(インコネル)等の各種合金板、アルミニウム板等を例示することができる。
【0028】
この下地膜は、後述する第1の下地膜形成用塗布液を金属基板上に塗布し、得られた塗膜を熱処理することにより形成することができる。
この第1の下地膜形成用塗布液は、ケイ酸アルカリ化合物、コロイダルシリカ、ケイフッ化化合物、アルコキシシラン(ケイ素アルコキシド)および/またはその部分加水分解物の群から選択される1種または2種以上のケイ素化合物と、ジルコニウムアルコキシドおよび/またはその部分加水分解物、ジルコニウムアルコキシドのキレート化合物、ジルコニウムアルコキシドの部分加水分解物のキレート化合物からなる群から選択される1種または2種以上のジルコニウム化合物と、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属(M)化合物と、溶媒とを含有した塗布液である。
【0029】
この第1の下地膜形成用塗布液では、ケイ素化合物中のケイ素(Si)を酸化ケイ素(SiO)に、ジルコニウム化合物中のジルコニウム(Zr)を酸化ジルコニウム(ZrO)に、それぞれ換算したとき、酸化ケイ素(SiO)の、前記酸化ケイ素(SiO)及び前記酸化ジルコニウム(ZrO)の合計量に対する重量百分率が10重量%以上かつ90重量%以下である必要がある。
なお、ケイ素化合物として、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸リチウム等のケイ酸アルカリ化合物を選択した場合には、アルカリ金属化合物を共存させなくともよい。
【0030】
この第1の下地膜形成用塗布液における、ジルコニウム化合物及びケイ素化合物の合有率は、ケイ素化合物中のケイ素(Si)を酸化ケイ素(SiO)に、ジルコニウム化合物中のジルコニウム(Zr)を酸化ジルコニウム(ZrO)にそれぞれ換算した場合の、酸化ケイ素(SiO)と酸化ジルコニウム(ZrO)の合計量が1重量%以上かつ10重量%以下であることが好ましい。
ここで、酸化ケイ素(SiO)と酸化ジルコニウム(ZrO)の合計量が1重量%未満であると、所定の厚さの下地膜を得るのが困難となり、一方、酸化ケイ素(SiO)と酸化ジルコニウム(ZrO)の合計量が10重量%を超えると、下地膜の膜厚が所定の厚さを越えてしまい易くなり、その結果、下地膜が白化したり、剥離する等の原因となる。
【0031】
上記の溶媒としては、ケイ素化合物およびジルコニウム化合物が溶解する、または分散するものであれば特に制限なく用いることができ、例えば、水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール等の低級アルコールを例示することができる。
なお、水を用いる場合、加水分解量以上の水が存在すると、アルコキシシランおよび/またはその部分加水分解物、ジルコニウムアルコキシドおよび/またはその部分加水分解物等の加水分解及び縮合反応が進行し、塗布液の貯蔵安定性が悪化する。したがって、水の含有量は、ケイ素及びジルコウムのアルコキシドの部分加水分解率が0モル%超〜100モル%の範囲に収まるような含有量に調製する必要がある。
【0032】
ここで、ケイ酸アルカリ化合物としては、用いる溶媒に溶解するケイ酸アルカリ化合物であれば特に制限はなく、例えば、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸リチウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸アンモニウム等を好適に使用でき、なかでもケイ酸ナトリウム、ケイ酸リチウムは、均一な下地膜を形成するのに好適である。
コロイダルシリカとしては、特に制限はなく、市販のコロイダルシリカを好適に使用できる。
【0033】
ケイフッ化化合物としては、例えば、ケイフッ化ナトリウム、ケイフッ化カリウム、ケイフッ化リチウム等を例示することができる。
アルコキシシランおよび/またはアルコキシシランの部分加水分解物としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、これらの部分加水分解物等を例示することができる。
【0034】
ジルコニウムアルコキシドとしては、特に制限されるものではないが、ジルコニウムテトライソプロポキシドおよび/またはジルコニウムテトラノルマルブトキシドが好ましい。これらジルコニウムテトライソプロポキシドやジルコニウムテトラノルマルブトキシドは、適度な加水分解速度を有し、しかも、取扱い易いので、均一な薄膜を形成することが可能である。
【0035】
ジルコニウムアルコキシドの部分加水分解物としては、ジルコニウムテトライソプロポキシドの部分加水分解物および/またはジルコニウムテトラノルマルブトキシドの部分加水分解物が好ましい。部分加水分解率としては、特に制限はなく、0モル%を越えるものから、100モル%程度のものまで使用可能である。
【0036】
ジルコニウムアルコキシドのキレート化合物としては、ジルコニウムアルコキシドと、1種または2種以上の加水分解抑制剤との反応生成物であることが好ましい。
また、ジルコニウムアルコキシドの部分加水分解物のキレート化合物としては、ジルコニウムアルコキシドの部分加水分解物と、1種または2種以上の加水分解抑制剤との反応生成物であることが好ましい。
【0037】
この加水分解抑制剤は、ジルコニウムアルコキシドおよび/またはその部分加水分解物とキレート化合物を形成し、このキレート化合物の加水分解を抑制する作用を有する化合物のことであり、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のエタノールアミン、アセチルアセトン等のβ−ジケトン、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、マロン酸ジエチル、フェノキシ酢酸エチル等のβ−ケト酸エステル、酢酸、乳酸、クエン酸、安息香酸、リンゴ酸等のカルボン酸等を例示することができる。
【0038】
この加水分解抑制剤の添加量は、ジルコニウムアルコキシドおよび/またはその部分加水分解物に含まれるジルコニウム(Zr)の0.5モル倍以上かつ4モル倍以下、好ましくは1モル倍以上かつ3モル倍以下が好ましい。
この加水分解抑制剤の添加量が0.5モル倍より少ないと、塗布液の安定性が不十分なものとなるからであり、一方、添加量が4モル倍を超えると、熱処理した後においても、加水分解抑制剤が下地膜中に残留し、その結果、下地膜の硬度が低下するからである。
【0039】
なお、ジルコニウムアルコキシドのキレート化合物および/またはジルコニウムアルコキシドの部分加水分解物のキレート化合物としては、ジルコニウムアルコキシドおよび/またはジルコニウムアルコキシドの部分加水分解物を上記の溶媒に溶解し、さらに上記の加水分解抑制剤を添加し、得られた溶液中にてキレート化を生じさせたものであってもよい。
【0040】
このジルコニウムアルコキシドのキレート化合物および/またはジルコニウムアルコキシドの部分加水分解物のキレート化合物を、アルコキシシランおよび/またはアルコキシシランの部分加水分解物と共存させるためには、予めジルコニウムアルコキシドおよび/またはジルコニウムアルコキシドの部分加水分解物と加水分解抑制剤とを反応させてキレート化合物を生成させておき、このキレート化合物を、アルコキシシランおよび/またはアルコキシシラン部分加水分解物を含む溶液に添加すればよい。
【0041】
この第1の下地膜形成用塗布液には、ケイ素及びジルコウムのアルコキシドの加水分解、縮合反応を促進する触媒が含まれていてもよい。
この加水分解、縮合反応を促進する触媒としては、塩酸、硝酸等の無機酸、クエン酸、酢酸等の有機酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等の無機塩基を例示することができる。これらの触媒の添加量は、固形分、すなわち、塗膜形成成分に対して0.01〜10重量%程度である。
【0042】
さらに、この第1の下地膜形成用塗布液には、沸点を調整する溶媒、基板への濡れ性を改善する溶媒等を添加してもよい。
沸点を調整する溶媒としては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル類を例示することができる。
また、基板への濡れ性を改善する溶媒としては、例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン、酢酸カルビトール等を例示することができる。
【0043】
この第1の下地膜形成用塗布液を金属基板上に塗布し、得られた塗膜を熱処理し、下地膜とする。
塗布方法としては、スプレーコート法、ディップコート法、バーコート法、スピンコート法、フローコート法、ロールコート法、メニスカスコート法等、通常のウエットコート法を用いることができる。特に、金属基板の一面に塗布する場合には、スプレーコート法、バーコート法、スピンコート法が好適であり、また、金属基板の両面に塗布する場合には、ディップコート法が好適である。
得られた塗膜を熱処理する際の温度及び時間は、金属基板が耐え得る範囲内であれば任意であるが、通常、100℃〜300℃、1分間〜4時間程度である。熱処理する際の雰囲気は制限されず、通常、大気中で行う。
【0044】
次いで、この下地膜上に貴金属被膜を形成する。
貴金属被膜を形成する方法としては、次の2種類の方法を挙げることができる。
(1)下地膜上に、貴金属粒子または貴金属化合物を含む塗布液を塗布し、得られた貴金属塗膜を熱処理する方法。
この貴金属粒子を含む塗布液としては、金微粒子、銀微粒子、白金微粒子等を溶媒中に分散させたコロイド状貴金属微粒子分散液が挙げられる。
また、貴金属化合物を含む塗布液としては、塩化金酸、硝酸銀等を水等の溶媒中に溶解した溶液が挙げられる。
【0045】
塗布方法としては、スプレーコート法、ディップコート法、バーコート法、スピンコート法、フローコート法、ロールコート法、メニスカスコート法等、通常のウエットコート法を用いることができる。
塗布量は、得られた貴金属塗膜の厚みが5μm以下となるように適宜、調製すればよい。
この貴金属塗膜を熱処理する際の温度及び時間は、金属基板が耐え得る範囲内であれば任意であるが、通常、200℃〜900℃、好ましくは300℃〜800℃、1分間〜4時間程度である。熱処理する際の雰囲気は制限されず、通常、大気中で行う。
【0046】
(2)下地膜上に、貴金属箔を貼着し、この貴金属箔を前記貴金属被膜とする方法。
貴金属箔としては、金箔、銀箔、白金箔等が挙げられ、これらの貴金属箔の厚みは5μm以下が好ましく、貴金属被膜の用途に応じて適宜、調製すればよい。
【0047】
本発明の第1の実施形態の貴金属被膜の形成方法においては、下地膜上に、アルカリ金属(M)化合物を含む溶液を塗布した後、乾燥または熱処理し、この上に前記貴金属被膜を形成することが好ましい。
【0048】
このアルカリ金属(M)化合物を含む溶液とは、アルカリ金属(M)化合物を、その濃度が例えば1重量%〜10重量%となるように溶媒に溶解したものであり、このアルカリ金属化合物としては、例えば、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸カリウム等を例示することができる。なかでも、ケイ酸ナトリウムとケイ酸リチウムは、均一な膜を形成することができるので好適である。
また、溶媒としては、特に制限されるものではないが、例えば、水、メタノール、エタノール、2−プロパノール、1−ブタノール等の低級アルコール等を例示することができる。
【0049】
このアルカリ金属化合物を含む溶液の塗布方法としては、スプレーコート法、ディップコート法、バーコート法、スピンコート法、フロ、ーコート法、ロールコート法、メニスカスコート法等、通常のウエットコート法を用いることができる。
このアルカリ金属化合物を含む溶液を乾燥する場合、その温度及び時間は、通常、室温(25℃)〜100℃、10分〜1週間程度である。
一方、このアルカリ金属化合物を含む溶液を熱処理する場合、その温度及び時間は、金属基板が耐え得る範囲内であれば任意であるが、通常、100℃〜300℃、好ましくは200℃〜300℃、1分間〜4時間程度である。熱処理する際の雰囲気は制限されず、通常、大気中で行う。
【0050】
このように、下地膜上にアルカリ金属化合物を含む溶液を塗布することにより、この下地膜がアルカリ金属化合物により刺激されて硬化が促進され、その結果、金属基板との密着性が更に優れ、耐水性、耐アルカリ性、耐擦傷性により一層優れた貴金属被膜を形成することができる。
【0051】
以上説明したように、本実施形態の貴金属被膜の形成方法によれば、ケイ素(Si)と、ジルコニウム(Zr)と、アルカリ金属(M)と、酸素(O)とを含有し、ケイ素(Si)を酸化ケイ素(SiO)に、ジルコニウム(Zr)を酸化ジルコニウム(ZrO)にそれぞれ換算したとき、前記酸化ケイ素(SiO)の、前記酸化ケイ素(SiO)及び前記酸化ジルコニウム(ZrO)の合計量に対する重量百分率が10重量%以上かつ90重量%以下である下地膜を、金属基板上に形成し、次いで、この下地膜上に貴金属被膜を形成するので、金属基板との密着性、膜硬度、耐擦傷性、耐水性、化学的耐久性に優れ、しかも、均質性に優れた膜厚が5μm以下の貴金属被膜を、簡便に、かつ効率良く形成することができる。
【0052】
「第2の実施形態」
本発明の第2の実施形態の貴金属被膜の形成方法は、金属基板上に、ケイ素(Si)と、ジルコニウム(Zr)と、酸素(O)とを含有し、かつ、アルカリ金属(M)を含まない下地膜を介して貴金属被膜を形成する方法であって、前記ケイ素(Si)を酸化ケイ素(SiO)に、前記ジルコニウム(Zr)を酸化ジルコニウム(ZrO)にそれぞれ換算したとき、前記酸化ケイ素(SiO)の、前記酸化ケイ素(SiO)及び前記酸化ジルコニウム(ZrO)の合計量に対する重量百分率が10重量%以上かつ90重量%以下である下地膜を、金属基板上に形成し、次いで、この下地膜上にアルカリ金属(M)化合物を含む溶液を塗布し、この上に貴金属被膜を形成する方法である。
ここで、「ケイ素(Si)と、ジルコニウム(Zr)と、酸素(O)とを含有してなる」とは、これらの元素以外の元素の含有率が10重量%以下ということである。
【0053】
本実施形態の下地膜は、酸化ケイ素(SiO)及び酸化ジルコニウム(ZrO)の合計量に対する、上記酸化ケイ素(SiO)の重量百分率を10重量%以上かつ90重量%以下としたものであり、酸化ケイ素(SiO)の重量百分率が10重量%未満であると、下地膜中に実質的にケイ素(Si)が含有されないこととなり、その結果、膜の硬化が不十分となって、所望の硬度の下地膜が得られなくなるからであり、一方、酸化ケイ素(SiO)の重量百分率が90重量%を越えると、下地膜中に実質的にジルコニウム(Zr)が含有されないこととなり、その結果、耐水性や耐アルカリ性(化学的耐久性)が不十分となって、金属基板との密着性、膜硬度、耐擦傷性、耐水性、耐アルカリ性(化学的耐久性)に優れた下地膜を形成することができなくなるからである。
【0054】
下地膜の厚みは、特に制限されるものではないが、通常、0.1μm〜5μmであることが好ましい。下地膜の厚みが0.1μm未満であると、均一な硬さの下地膜が得られず、一方、下地膜の厚みが5μmを超えると、下地膜に白化やクラック等が発生し、また、剥離の原因ともなるからである。
金属基板としては、特に制限はなく、例えば、ステンレス鋼板、各種金属めっき板、銅板、各種合金板、アルミニウム板等を例示することができる。
【0055】
この下地膜は、後述する第2の下地膜形成用塗布液または第3の下地膜形成用塗布液を、金属基板上に塗布し、得られた塗膜を熱処理することにより形成することができる。
(第2の下地膜形成用塗布液)
アルコキシシランおよび/またはその部分加水分解物からなるケイ素化合物と、ジルコニウム塩、コロイダルジルコニア、ジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムアルコキシドの部分加水分解物、ジルコニウムアルコキシドのキレート化合物、ジルコニウムアルコキシドの部分加水分解物のキレート化合物の群から選択される1種または2種以上のジルコニウム化合物と、溶媒とを含有し、ケイ素化合物中のケイ素(Si)を酸化ケイ素(SiO)に、ジルコニウム化合物中のジルコニウム(Zr)を酸化ジルコニウム(ZrO)に、それぞれ換算したとき、酸化ケイ素(SiO)の、前記酸化ケイ素(SiO)及び前記酸化ジルコニウム(ZrO)の合計量に対する重量百分率が10重量%以上かつ90重量%以下の塗布液である。
【0056】
ここで、上記のアルコキシシランとしては、特に制限されるものではないが、下記の化学式(1)
2m+1−O−(Si−O)n−1(OR)2n−2−Si(OR)……(1)
(ただし、Rはアルキル基、mは1、2または3、nは10以下の整数)
で表されるアルコキシシランが挙げられる。
【0057】
ここで、mを1、2または3としたのは、適当な加水分解速度を有するからであり、また、nを10以下の整数としたのは、ジルコニウムと均一なゾルを形成し易いからである。このようなアルコキシシランとしては、テトラメトキシシラン(TMOS)、テトラエトキシシラン(TEOS)等を例示することができる。
なお、本発明においては、上記のアルコキシシランには、有機官能基を有するシランカップリング剤も含まれる。
このアルコキシシランの部分加水分解物としては、特に制限されるものではないが、上記の化学式(1)で表されるアルコキシシランのうち、0モル%超〜100モル%程度の範囲内で加水分解されたものが硬化性がよいので好ましい。
【0058】
上記のジルコニウム塩としては、用いる溶媒に溶解するジルコニウム塩であれば特に制限はなく、例えば、硝酸ジルコニルを好適に使用できる。この硝酸ジルコニルは、均一な薄膜を成膜することが可能である。
また、コロイダルジルコニアとしては、住友大阪セメント製のコロイダルジルコニアを好適に使用できる。このコロイダルジルコニアは、膜硬度、膜強度に優れた薄膜を成膜することが可能である。
【0059】
さらに、上記のジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムアルコキシドの部分加水分解物、ジルコニウムアルコキシドのキレート化合物及びジルコニウムアルコキシドの部分加水分解物のキレート化合物は、上述した第1の実施形態の第1の下地膜形成用塗布液に用いたものを同様に用いることができる。
【0060】
(第3の下地膜形成用塗布液)
コロイダルシリカおよび/またはケイフッ化化合物からなるケイ素化合物と、ジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムアルコキシドの部分加水分解物、ジルコニウムアルコキシドのキレート化合物、ジルコニウムアルコキシドの部分加水分解物のキレート化合物の群から選択される1種または2種以上のジルコニウム化合物と、溶媒とを含有し、ケイ素化合物中のケイ素(Si)を酸化ケイ素(SiO)に、ジルコニウム化合物中のジルコニウム(Zr)を酸化ジルコニウム(ZrO)に、それぞれ換算したとき、酸化ケイ素(SiO)の、前記酸化ケイ素(SiO)及び前記酸化ジルコニウム(ZrO)の合計量に対する重量百分率が10重量%以上かつ90重量%以下の塗布液である。
【0061】
上記のコロイダルシリカ、ケイフッ化化合物、ジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムアルコキシドの部分加水分解物、ジルコニウムアルコキシドのキレート化合物及びジルコニウムアルコキシドの部分加水分解物のキレート化合物は、上述した第1の実施形態の第1の下地膜形成用塗布液に用いたものを同様に用いることができる。
これら第2及び第3の下地膜形成用塗布液におけるその他の点については、上述した第1の実施形態の第1の下地膜形成用塗布液と全く同様である。
【0062】
上記の第2または第3の下地膜形成用塗布液を金属基板上に塗布し、得られた塗膜を熱処理し、下地膜とする。
塗布方法としては、スプレーコート法、ディップコート法、バーコート法、スピンコート法、フローコート法、ロールコート法、メニスカスコート法等、通常のウエットコート法を用いることができる。特に、金属基板の一面に塗布する場合には、スプレーコート法、バーコート法、スピンコート法が好適であり、また、金属基板の両面に塗布する場合には、ディップコート法が好適である。
得られた塗膜を熱処理する際の温度及び時間は、金属基板が耐え得る範囲内であれば任意であるが、通常、100℃〜300℃、1分間〜4時間程度である。熱処理する際の雰囲気は制限されず、通常、大気中で行う。
【0063】
次いで、この下地膜上にアルカリ金属(M)化合物を含む溶液を塗布し、乾燥または熱処理する。
このアルカリ金属化合物を含む溶液は、アルカリ金属化合物を、その濃度が例えば1重量%〜10重量%となるように溶媒に溶解したものであり、アルカリ金属化合物としては、例えば、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸カリウム等を例示することができる。なかでも、ケイ酸ナトリウムとケイ酸リチウムは、均一な膜を形成することができるので好適である。
また、溶媒としては、特に制限されるものではないが、例えば、水、メタノール、エタノール、2−プロパノール、1−ブタノール等の低級アルコール等を例示することができる。
【0064】
このアルカリ金属化合物を含む溶液の塗布方法としては、スプレーコート法、ディップコート法、バーコート法、スピンコート法、フローコート法、ロールコート法、メニスカスコート法等、通常のウエットコート法を用いることができる。
このアルカリ金属化合物を含む溶液を乾燥する場合、その温度及び時間は、通常、室温(25℃)〜100℃、10分〜1週間程度である。
一方、このアルカリ金属化合物を含む溶液を熱処理する場合、その温度及び時間は、金属基板が耐え得る範囲内であれば任意であるが、通常、100℃〜300℃、好ましくは200℃〜300℃、1分間〜4時間程度である。熱処理する際の雰囲気は制限されず、通常、大気中で行う。
【0065】
このように、下地膜上にアルカリ金属化合物を含む溶液を塗布することにより、この下地膜がアルカリ金属化合物により刺激されて硬化が促進され、その結果、金属基板との密着性が更に優れ、耐水性、耐アルカリ性、耐擦傷性により一層優れた貴金属被膜を形成することができる。
【0066】
次いで、このアルカリ金属化合物を含む溶液により硬化が促進された下地膜上に貴金属被膜を形成する。
貴金属被膜を形成する方法としては、次の2種類の方法を挙げることができる。
(1)下地膜上に、貴金属粒子または貴金属化合物を含む塗布液を塗布し、得られた貴金属塗膜を乾燥または熱処理する方法。
この貴金属粒子を含む塗布液としては、金微粒子、銀微粒子、白金微粒子等を溶媒中に分散させたコロイド状貴金属微粒子分散液が挙げられる。
また、貴金属化合物を含む塗布液としては、塩化金酸、硝酸銀等を水等の溶媒中に溶解した溶液が挙げられる。
【0067】
塗布方法としては、スプレーコート法、ディップコート法、バーコート法、スピンコート法、フローコート法、ロールコート法、メニスカスコート法等、通常のウエットコート法を用いることができる。
塗布量は、得られた貴金属塗膜の厚みが5μm以下となるように適宜、調製すればよい。
この貴金属塗膜を熱処理する際の温度及び時間は、金属基板が耐え得る範囲内であれば任意であるが、通常、200℃〜900℃、好ましくは300℃〜800℃、1分間〜4時間程度である。熱処理する際の雰囲気は制限されず、通常、大気中で行う。
【0068】
(2)下地膜上に、貴金属箔を貼着し、この貴金属箔を前記貴金属被膜とする方法。
貴金属箔としては、金箔、銀箔、白金箔等が挙げられ、これらの貴金属箔の厚みは5μm以下が好ましく、貴金属被膜の用途に応じて適宜、調製すればよい。
【0069】
以上説明したように、本実施形態の貴金属被膜の形成方法によれば、ケイ素(Si)を酸化ケイ素(SiO)に、ジルコニウム(Zr)を酸化ジルコニウム(ZrO)にそれぞれ換算したとき、前記酸化ケイ素(SiO)の、前記酸化ケイ素(SiO)及び前記酸化ジルコニウム(ZrO)の合計量に対する重量百分率が10重量%以上かつ90重量%以下である下地膜を、金属基板上に形成し、次いで、この下地膜上にアルカリ金属(M)化合物を含む溶液を塗布し、この上に貴金属被膜を形成するので、金属基板との密着性、膜硬度、耐擦傷性、耐水性、化学的耐久性に優れ、しかも、均質性に優れた膜厚が5μm以下の貴金属被膜を、簡便に、かつ効率良く形成することができる。
【実施例】
【0070】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0071】
「実施例1」
金属基板として、ステンレス鋼板を用意した。材質はSUS304、2B仕上げ品とした。
次いで、下地膜形成用塗布液を調製した。
テトラエトキシシラン5重量部、ジルコニウムイソブトキシド5重量部、2−プロパノール80重量部、アセト酢酸エチル8重量部、60重量%の硝酸1重量部、純水1重量部の混合溶液を調整し、実施例1の下地膜形成用塗布液とした。
この下地膜形成用塗布液中のケイ素(Si)をシリカ(SiO)に、ジルコニウム(Zr)をジルコニア(ZrO)にそれぞれ換算した場合の、シリカ(SiO)の、シリカ(SiO)とジルコニア(ZrO)の合計量に対する含有率は50重量%であった。
【0072】
次いで、この下地膜形成用塗布液を上記のステンレス鋼板上に、塗布量50g/mの割合でスプレー塗装した。その後、大気雰囲気中、220℃にて20分間熱処理し、次いで自然冷却し、ステンレス鋼板上に下地膜を形成した。
一方、JIS4号ケイ酸ナトリウム水溶液を純水にて希釈し、固形分が5重量%のケイ酸ナトリウム水溶液を調製した。
次いで、この5重量%ケイ酸ナトリウム水溶液を上記の下地膜上に塗布量20g/mの割合でスプレー塗装した。その後、大気雰囲気中、220℃にて20分間熱処理し、次いで自然冷却し、ステンレス鋼板上にケイ酸ナトリウムにより改質された下地膜を形成した。
【0073】
次いで、この下地膜上に、6重量%の金コロイド水溶液を塗布量20g/mの割合でスプレー塗装した。その後、大気雰囲気中、500℃にて20分間熱処理し、次いで自然冷却し、実施例1の金被膜付きステンレス鋼板を得た。
このようにして得られた金被膜付きステンレス鋼板の金被膜について、下記の方法により評価を行った。評価項目は、鉛筆硬度、耐アルカリ性、耐水性(耐熱水性)、密着性、膜厚の5点とした。評価方法を下記に示す。
【0074】
(1)鉛筆硬度
日本工業規格JIS K 5600−5−4「塗料一般試験方法」「引っかき硬度(鉛筆法)」に準拠して評価した。
(2)耐アルカリ性
5重量%の水酸化ナトリウム水溶液(25℃)に24時間浸漬し、金被膜の表面状態を目視にて観察した。
(3)耐水性(耐熱水性)
沸騰した水道水に24時問浸漬し、金被膜の表面状態を目視にて観察した。
【0075】
(4)密着性
日本工業規格JIS K 5600−5−6「塗料一般試験方法」「クロスカット法」に準拠して評価した。ここでは、100個のマス目のうち剥離せずに残存したマス目の個数Nを用いて、密着性の度合いをN/100と表した。
(5)膜厚
金被膜付きステンレス鋼板の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて撮影し、その画像から金被膜の膜厚を測定した。
これらの評価結果を表1に示す。
【0076】
「実施例2」
金属基板として、クロムめっき鋼板を用意した。
テトラメトキシシラン1重量部、硝酸ジルコニル1重量部、60重量%の硝酸1重量部、2−プロパノール97重量部の混合溶液を調整し、実施例2の下地膜形成用塗布液とした。
この下地膜形成用塗布液中のケイ素(Si)をシリカ(SiO)に、ジルコニウム(Zr)をジルコニア(ZrO)にそれぞれ換算した場合の、シリカ(SiO)の、シリカ(SiO)とジルコニア(ZrO)の合計量に対する含有率は60重量%であった。
【0077】
次いで、この下地膜形成用塗布液を上記のクロムめっき鋼板上に、塗布量100g/mの割合でスプレー塗装した。その後、大気雰囲気中、200℃にて60分間熱処理し、次いで自然冷却し、クロムめっき鋼板上に下地膜を形成した。
一方、アルカリ金属を含む溶液としてケイ酸リチウム45(商品名:日本化学(株)社製)を用い、これを純水にて希釈し、固形分が5重量%のケイ酸リチウム水溶液を調製した。
次いで、この5重量%ケイ酸リチウム水溶液を上記の下地膜上に塗布量20g/mの割合でスプレー塗装した。その後、大気雰囲気中、200℃にて60分間熱処理し、次いで自然冷却し、クロムめっき鋼板上にケイ酸リチウムにより改質された下地膜を形成した。
【0078】
次いで、この下地膜上に、50重量%の硝酸銀水溶液を塗布量20g/mの割合でスプレー塗装した。その後、大気雰囲気中、600℃にて60分間熱処理し、次いで自然冷却し、実施例2の銀被膜付きクロムめっき鋼板を得た。
このようにして得られた銀被膜付きクロムめっき鋼板の銀被膜について、実施例1に準じて評価を行った。これらの評価結果を表1に示す。
【0079】
「実施例3」
金属基板として、ハステロイ板(Ni−Mo系合金板)を用意した。
テトラメトキシシラン1重量部、硝酸ジルコニル1重量部、純水1重量部、2−プロパノール95重量部の混合溶液を調整し、実施例3の下地膜形成用塗布液とした。
この下地膜形成用塗布液中のケイ素(Si)をシリカ(SiO)に、ジルコニウム(Zr)をジルコニア(ZrO)にそれぞれ換算した場合の、シリカ(SiO)の、シリカ(SiO)とジルコニア(ZrO)の合計量に対する含有率は62重量%であった。
【0080】
次いで、この下地膜形成用塗布液を上記のハステロイ板上に、塗布量100g/mの割合でスプレー塗装した。その後、大気雰囲気中、280℃にて60分間熱処理し、次いで自然冷却し、ハステロイ板上に下地膜を形成した。
一方、アルカリ金属を含む溶液として5重量%水酸化ナトリウム水溶液を調製した。
次いで、この5重量%水酸化ナトリウム水溶液を上記の下地膜上に塗布量20g/mの割合でスプレー塗装した。その後、大気雰囲気中、280℃にて60分間熱処理し、次いで自然冷却し、ハステロイ板上に水酸化ナトリウムにより改質された下地膜を形成した。
【0081】
次いで、この下地膜上に、白金液(浪速金液社製)を塗布量20g/mの割合でスプレー塗装した。その後、大気雰囲気中、780℃にて60分間熱処理し、次いで自然冷却し、実施例3の白金被膜付きハステロイ板を得た。
このようにして得られた白金被膜付きハステロイ板の白金被膜について、実施例1に準じて評価を行った。これらの評価結果を表1に示す。
【0082】
「実施例4」
実施例1に準じて、ステンレス鋼板上にケイ酸ナトリウムにより改質された下地膜を形成した。
次いで、この下地膜上に金箔を載置し、大気雰囲気中、700℃にて10分間熱処理し、実施例4の金被膜付きステンレス鋼板を得た。
このようにして得られた金被膜付きステンレス鋼板の金被膜について、実施例1に準じて評価を行った。これらの評価結果を表1に示す。
【0083】
「実施例5」
アセチルアセトン1.6重量部、ジルコニウムノルマルブトキシド3.0重量部、2−プロパノール81.9重量部を含む溶液を室温(25℃)下にて反応させ、アセチルアセトンとジルコニウムノルマルブトキシドとのキレート化合物を含む溶液を得た。
次いで、この溶液86.5重量部に、ケイ酸リチウム45.5重量部、JIS4号ケイ酸ナトリウム水溶液5.0重量部、テトラエトキシシラン3.0重量部、純水0.5重量部を加え、実施例5の下地膜形成用塗布液を調整した。
【0084】
この下地膜形成用塗布液を用い、実施例1に準じて実施例5の金被膜付きステンレス鋼板を得た。
このようにして得られた金被膜付きステンレス鋼板の金被膜について、実施例1に準じて評価を行った。これらの評価結果を表1に示す。
【0085】
「比較例」
テトラエトキシシラン10重量部、2−プロパノール80重量部、アセト酢酸エチル8重量部、60重量%の硝酸1重量部、純水1重量部の混合溶液を調整し、比較例の下地膜形成用塗布液とした。
この下地膜形成用塗布液を用い、実施例1に準じて比較例の金被膜付きステンレス鋼板を得た。
このようにして得られた金被膜付きステンレス鋼板の金被膜について、実施例1に準じて評価を行った。これらの評価結果を表1に示す。
【0086】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の貴金属被膜の形成方法は、ケイ素(Si)と、ジルコニウム(Zr)と、アルカリ金属(M)と、酸素(O)とを含有し、ケイ素(Si)を酸化ケイ素(SiO)に、ジルコニウム(Zr)を酸化ジルコニウム(ZrO)にそれぞれ換算したとき、酸化ケイ素(SiO)の、酸化ケイ素(SiO)及び酸化ジルコニウム(ZrO)の合計量に対する重量百分率が10重量%以上かつ90重量%以下である下地膜を、金属基板上に形成し、次いで、この下地膜上に貴金属被膜を形成することにより、金属基板との密着性、膜硬度、耐擦傷性、耐水性、化学的耐久性に優れ、しかも、膜厚が5μm以下の薄膜状の貴金属被膜を、金属基板上に形成することができたものであるから、金属基板はもちろんのこと、密着性、膜硬度、耐擦傷性、耐水性、化学的耐久性、薄厚が要求されるあらゆる金属表面処理の技術分野で利用可能であり、その工業的意義は極めて大きいものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基板上に、ケイ素(Si)と、ジルコニウム(Zr)と、アルカリ金属(M)と、酸素(O)とを含有してなる下地膜を介して貴金属被膜を形成する方法であって、
前記ケイ素(Si)を酸化ケイ素(SiO)に、前記ジルコニウム(Zr)を酸化ジルコニウム(ZrO)にそれぞれ換算したとき、前記酸化ケイ素(SiO)の、前記酸化ケイ素(SiO)及び前記酸化ジルコニウム(ZrO)の合計量に対する重量百分率が10重量%以上かつ90重量%以下である下地膜を、金属基板上に形成し、次いで、この下地膜上に貴金属被膜を形成することを特徴とする貴金属被膜の形成方法。
【請求項2】
前記金属基板上に、ケイ素(Si)化合物と、ジルコニウム(Zr)化合物と、アルカリ金属(M)化合物とを含む塗布液を塗布し、得られた塗膜を熱処理し、前記下地膜とすることを特徴とする請求項1記載の貴金属被膜の形成方法。
【請求項3】
前記下地膜上に、貴金属粒子または貴金属化合物を含む塗布液を塗布し、得られた貴金属塗膜を熱処理し、前記貴金属被膜とすることを特徴とする請求項1または2記載の貴金属被膜の形成方法。
【請求項4】
前記下地膜上に、貴金属箔を貼着し、この貴金属箔を前記貴金属被膜とすることを特徴とする請求項1または2記載の貴金属被膜の形成方法。
【請求項5】
前記下地膜上に、アルカリ金属(M)化合物を含む溶液を塗布し、次いで、乾燥または熱処理し、この上に前記貴金属被膜を形成することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項記載の貴金属被膜の形成方法。
【請求項6】
金属基板上に、ケイ素(Si)と、ジルコニウム(Zr)と、酸素(O)とを含有してなる下地膜を介して貴金属被膜を形成する方法であって、
前記ケイ素(Si)を酸化ケイ素(SiO)に、前記ジルコニウム(Zr)を酸化ジルコニウム(ZrO)にそれぞれ換算したとき、前記酸化ケイ素(SiO)の、前記酸化ケイ素(SiO)及び前記酸化ジルコニウム(ZrO)の合計量に対する重量百分率が10重量%以上かつ90重量%以下である下地膜を、金属基板上に形成し、次いで、この下地膜上にアルカリ金属(M)化合物を含む溶液を塗布し、この上に貴金属被膜を形成することを特徴とする貴金属被膜の形成方法。
【請求項7】
前記金属基板上に、ケイ素(Si)化合物と、ジルコニウム(Zr)化合物とを含む塗布液を塗布し、得られた塗膜を熱処理し、前記下地膜とすることを特徴とする請求項6記載の貴金属被膜の形成方法。
【請求項8】
前記塗膜上に、貴金属粒子または貴金属化合物を含む塗布液を塗布し、得られた貴金属塗膜を熱処理し、前記貴金属被膜とすることを特徴とする請求項6または7記載の貴金属被膜の形成方法。
【請求項9】
前記塗膜上に、貴金属箔を貼着し、この貴金属箔を前記貴金属被膜とすることを特徴とする請求項6または7記載の貴金属被膜の形成方法。
【請求項10】
塗布した前記アルカリ金属(M)化合物を含む溶液を、熱処理することを特徴とする請求項6ないし9のいずれか1項記載の貴金属被膜の形成方法。
【請求項11】
前記下地膜及び前記貴金属被膜の全体の厚みは、5μm以下であることを特徴とする請求項1ないし10のいずれか1項記載の貴金属被膜の形成方法。

【公開番号】特開2008−169428(P2008−169428A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−3258(P2007−3258)
【出願日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】