質量分析方法
【課題】イオントラップで質量分析を行なう場合に、空間電荷の影響を補正し、感度とダイナミックレンジを両立する。
【解決手段】イオン源で試料をイオン化する工程と、イ
オントラップにイオンを蓄積する工程と、前記イオント
ラップから質量選択的にイオンを排出して検出器で検出
し、質量スペクトルを取得する工程を有し、前記質量ス
ペクトルの質量軸を、各イオンが排出される時点で前記
イオントラップ内に蓄積されているイオン量に基づいて
補正する。
【解決手段】イオン源で試料をイオン化する工程と、イ
オントラップにイオンを蓄積する工程と、前記イオント
ラップから質量選択的にイオンを排出して検出器で検出
し、質量スペクトルを取得する工程を有し、前記質量ス
ペクトルの質量軸を、各イオンが排出される時点で前記
イオントラップ内に蓄積されているイオン量に基づいて
補正する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は質量分析装置及びそれを用いた質量分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1にイオントラップを用いて質量分析を行なう場合に、まずイオントラップから排出される総イオン量を測定し、その情報をもとにイオントラップに導入するイオン量を制御して空間電荷の影響が小さい条件で質量分析を行う方法が開示されている。
【0003】
特許文献2にMS/MS分析を行なうときに、前駆体イオンのアイソレーション、解離に用いる共鳴周波数に、空間電荷による共鳴周波数のシフトを補正した周波数を用いることで高い効率でMS/MS分析を行なう方法について開示されている。この方法では、イオントラップにイオンを導入する時間からトラップされるイオン量を見積もり、そのイオン量から空間電荷による共鳴周波数のシフトを算出する。
【0004】
特許文献3に、質量スペクトルの総イオン量を求めて、空間電荷による質量のシフトを補正する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】US5,572,022
【特許文献2】US6,884,996
【特許文献3】US2006/0289743
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明で解決しようとする課題は、イオントラップで質量分析を行なう場合に空間電荷の影響を補正し、感度とダイナミックレンジを両立することである。
【0007】
特許文献1の方法では、イオントラップに導入するイオン量を空間電荷の影響が小さい量に制御するために感度が低くなるという課題がある。特にイオン量が非常に多いイオン種と、イオン量が少ないイオン種が混在している場合には、イオン量が非常に多いイオン種の空間電荷の影響を避けるためにイオントラップに導入されるイオン量が低く制御され、イオン量が少ないイオン種の測定は難しい。また、イオントラップに供給されるイオン量が時間変動する場合には、総イオン量を測定したタイミングのイオン供給量と、質量分析を行なうタイミングのイオン供給量が異なるため、空間電荷の影響を避けられない場合がある。
【0008】
特許文献2の方法はMS/MS測定時でイオンを解離させるために用いる交流電圧の周波数についてのみ開示されており、質量スペクトルの空間電荷のシフトを補正する方法の記述はない。また、イオントラップに供給されるイオン量が時間変動する場合には、総イオン量を測定したタイミングのイオン供給量と質量分析を行なうタイミングのイオン供給量が異なるため、空間電荷の影響を避けられない場合がある。
【0009】
特許文献3の方法では、総イオン量から質量スペクトルのすべてのピークについて同じように補正を行なう。このため、質量スペクトルを測定している間に順次イオンが排出されていくことによりイオン量が変化していく影響を補正することができず、空間電荷の影響を補正する精度は低い。
【課題を解決するための手段】
【0010】
質量スペクトルの質量軸を、各イオンが排出される時点でイオントラップ内に蓄積されているイオン量に基づいて補正する。
【発明の効果】
【0011】
イオントラップで質量分析を行なう場合に空間電荷の影響を補正し、感度とダイナミックレンジを両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】質量分析装置の一例。
【図2】測定シーケンス。
【図3】qとβの関係図。
【図4】質量スペクトルの模式図。
【図5】フローチャート。
【図6】各データ点におけるイオン信号強度。
【図7】q値のシフトとトラップされているイオン数との関係
【図8】測定シーケンス。
【図9】a値とq値の関係図。
【図10】測定シーケンス。
【図11】フローチャート。
【図12】C(j)の一例。
【図13】フローチャート。
【図14】測定対象のイオンのm/zとしきい値のイオン信号強度のリスト。
【図15】測定シーケンス。
【図16】質量分析装置の一例。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0013】
図1は、質量分析装置の一例である。加熱器やスプレー噴霧器などからなる気化部14で試料の一部が気化され、キャピラリー2を通してバルブ前排気領域3に導入される。バルブ前排気領域3は排気ポンプ10で排気されている。(この排気ポンプの排気方向を15として示す。)
気化された試料は、バルブ前排気領域3に導入され、バルブ4が開の時は、周辺ガスと共に、ガラス、セラミック、プラスティックなどの誘電体よりなる誘電体キャピラリー41へ導入される。誘電体外側には電極42と電極43が配置され、電極43と電極42との間に周波数1〜100kHz、電圧2〜5kV程度の電圧を電源40より印加することで、誘電体バリア放電が進行する。この放電領域に気化された分子が導入されることで、試料分子のイオンが生成する。バルブ4の構成としては、ピンチバルブ、スライドバルブのように、間欠的にガスの導入、非導入を制御できるようなものが挙げられる。誘電体キャピラリー41で生成されたイオンは、質量分析部7および検出器8が配置された分析室5へ導入される。分析室5はターボ分子ポンプやイオンゲッターポンプなどの排気ポンプ11により排気される(この排気ポンプの排気方向を16として示す。)。なお、図1では、バルブ4と気化部14との間、バルブ4と分析室5との間をキャピラリーで接続する例を示したが、キャピラリーの代わりにオリフィスを用いても良い。
【0014】
分析室5に導入されたイオンは質量分析部7に導入される。実施例1では測定シーケンスを説明するためにリニアイオントラップ質量分析計を例として説明する。リニアイオントラップは多重極、例えば4本の四重極ロッド電極(7a, 7b, 7c, 7d)より構成される。四重極ロッド電極7には向かい合うロッド間(7a, 7b間、7c, 7d間)で同相、隣接ロッド間で逆相になるようにトラップ高周波電圧19を印加する。トラップ高周波電圧19は、電極サイズや測定質量範囲により最適値が異なることは知られており、典型的には振幅0〜5kV(0-peak)、周波数500kHz〜5MHz程度のものが使用される。また、四重極ロッド電極7にはトラップ高周波電圧19に加えて正イオンを測定する場合は正の、負イオンを測定する場合には負のオフセット電圧を加えてもよい。このトラップ高周波電圧19を印加すると擬ポテンシャルが形成され、四重極ロッド電極7内部の空間にイオンがトラップされる。
【0015】
また、向かい合った一対のロッド電極間(7a,7b間)に補助交流電圧18を印加する。補助交流電圧18としては、典型的には振幅0〜50V(0-peak)、周波数5kHz-2MHz程度の単一周波数およびその複数周波数成分の重畳波形が使用される。この補助交流電圧18を印加することで、四重極ロッド電極7内部にトラップされたイオンに対し、特定質量数のイオンのみを選択しそれ以外を排除したり、特定質量数のイオンを解離したり、質量選択的にイオンを排出する質量スキャンが可能となる。質量スキャンの仕方としては、ここでは補助交流電圧18を一対の電極間に印加する例を挙げたが、これ以外にも一対のロッド電極間(7a,7b間)に同じ位相の補助交流電圧を印加する方法等がある。質量選択的に排出されたイオン(排出方向を50として示す)は電子増倍管、マルチチャンネルプレートなどからなる検出器8により電気的な信号に変換され、制御部21へと送られる。制御部21では検出器8からの出力信号を一定のサンプリング周期(典型的には1us 〜 1000 us)ごとにアナログ−デジタルコンバータ(ADC)やパルスカウンティングユニットでデジタルデータに変換して制御部内の記憶部に蓄積する。
【0016】
制御部21内には、記憶部の外に、スペクトル補正に用いるのに必要なデータ処理部が含まれる。記憶部はメモリやハードディスクなどからなり、質量スペクトルのデータの他、補正を行なうために必要な数値や関係式、測定シークエンスなどの情報を記憶して置くことができる。データ処理部は、演算機能や演算に必要な数値を一時保存するためのメモリを有する。また、制御部21は、これらの情報を蓄積、変換する以外にも、各電極などを制御する制御電源22、バルブ電源23などをコントロールする機能や表示部60に情報を表示する機能がある。表示部60は、ディスプレーやプリンターなどで、質量スペクトルそのものや、質量スペクトルのピークのm/zと強度、測定対象の物質の有無などの情報を表示する機能がある。
【0017】
分析室の圧力については、バルブ4が開のときには、1Pa以上(典型的には10Pa近辺)となる。一方で、リニアイオントラップや電子増倍管などからなる検出器8などの良好な動作が可能なのは0.1Pa以下である。
【0018】
図2に測定シーケンスの例を示す。この測定シークエンスは、蓄積、排気待ち、質量スキャン、排除の4つの工程からなる。
【0019】
蓄積工程では、バルブ4を開いて試料ガスをイオン化室1に導入し、生成されたイオンを分析室5のイオントラップ内にトラップする。
【0020】
排気待ち工程では分析室5の圧力をイオンの測定が可能となる0.1Pa以下の圧力に減圧されるまで待機する。蓄積工程で導入される試料ガスが多いほど感度は向上するが、排気待ち時間は長くなりduty cycleは低下する。
【0021】
質量スキャン工程では、試料イオンはイオントラップ内にトラップしたまま、質量選択的にイオンを排出する。排出されたイオンは検出器8で検出され、イオンの信号強度が制御部21に保存される。図2のようにイオンの共鳴周波数の補助交流電圧を印加することで、質量選択的にイオンを排出することができる。共鳴励起される一価イオンの質量(kg)は以下の式で表される。
【0022】
【数1】
【0023】
ここで、V: トラップRF電圧振幅(V)、Ω:トラップRF電圧角周波数(rad/s)、e: 電気素量、r0: 四重極内接円半径(m)である。または、qは以下の(数2)で与えられるβと、図3の関係で一意に結ばれる定数である。
【0024】
【数2】
【0025】
ここで、ωは補助交流電圧角周波数(rad/s)である。共鳴励起されるイオンのm/zは(数1)よりqに依存し、qは図の関係からβに依存し、βは(数2)の関係からωに依存する。したがって補助交流電圧の周波数ωをスキャン開始からの時間tに対してスキャンすると、共鳴励起されるイオンのm/zをスキャンすることができる。周波数ωは高周波数側から低周波数側にスキャンしてもよいし、低周波数側から高周波数側にスキャンしてもよい。イオントラップから排出されたイオンの信号強度をスキャン開始からの時間の関数としてプロットすると、質量スペクトルが得られる。
【0026】
排除工程ではトラップ高周波電圧の電圧振幅を0にしてトラップ内に残留しているすべてのイオンを排除する。
【0027】
まず、本発明と総イオン量を用いて質量スペクトルの補正を行なう場合の差異について説明する。図4に質量スペクトルの模式図を示す。ここで質量スキャンは低質量から高質量に行なったとする。イオンaが排出される時点で、トラップされているイオンはa, b, c, dである。一方、イオンbが排出される時点でトラップされているイオンはb, c, dである。総イオン量で補正を行なう場合にはすべてのイオンに対して、総イオン量のイオンがトラップ内にあると仮定して補正を行なう。しかし、例えばbが排出される時点ではaは既に排出されているため、トラップされているイオン量が減少しており、その分空間電荷の影響が減少する。そのためbのピークに対して総イオン量から補正を行なうと補正しすぎでずれが生じる。そこで、本発明ではおのおののイオンについて、それぞれのイオンがトラップから排出される時点でトラップされているイオン量を求め、それを用いて補正を行なうことで正確な補正を行なう。
【0028】
次に補正の具体的な方法について、図5のフローチャートを用いて説明する。補正は上記の制御部21で行われる。まず、例えば図2の測定シークエンスにより得られた質量スペクトルを記憶部から取得する。質量スペクトルは、データ処理部のサンプリングの周期ごとに取得されたイオン信号強度の値が時系列に沿って並べられた配列データになる。図6に質量スペクトルの例を示す。ここで、横軸はスキャン開始からの時間、縦軸はイオンの信号強度である。あるデータ点iより前に排出されたイオンは白い縦棒で、データ点i以後に排出されたイオンは黒い縦棒で示してある。
【0029】
次にデータ処理部に保存された質量スペクトルの、各データ点についてイオンが排出される時点でトラップされているイオン量Sを求める。質量スペクトルの各点について、その点以後で排出されたイオンの信号強度を質量スペクトルの終端まで積分すれば、そのデータ点のイオンが排出された時点でトラップされているイオン量を求めることができる。例えば、図6の質量スペクトルでデータ点iのイオンが排出される時点でトラップされているイオン量をSiとすれば、黒い縦棒で示したデータ点i以後に排出されたイオンの総和がSiとなる。
【0030】
続いてトラップされているイオン量Siからq値のシフト(Δq)を求める。空間電荷による質量スペクトルm/zシフトなどの現象は、擬ポテンシャルの変化として扱うことができる。リニアイオントラップの擬ポテンシャルは以下の式であらわされる。
【0031】
【数3】
【0032】
ここで、Dは擬ポテンシャルの高さ(V), V: トラップRF電圧振幅(V)である。空間電荷による擬ポテンシャルの変化分をΔDとすると、空間電荷の影響があるときのq値と擬ポテンシャルの関係は、
【0033】
【数4】
【0034】
と書くことができる。(数3)を代入して、
【0035】
【数5】
【0036】
ΔDはトラップされているイオン量に比例するので、空間電荷の影響によるデータ点iのイオン のq値のシフト(Δqi)は式で表される。
【0037】
【数6】
【0038】
ここでCは経験的に定められる定数でイオントラップの形状に依存し、データ処理部または記憶部内に格納されている。トラップRF電圧振幅Vは、本実施例のように補助交流電圧の周波数をスキャンする場合には定数である。
【0039】
図7にトラップに導入するイオンの量を変化させ、m/z 93, m/z 153, m/z 240の各イオンのq値のシフトを測定した実験結果を示す。q値のシフトは、そのイオンが排出される時点でトラップされていたイオン数に比例し、m/zによらず同一直線上にのる。この実験結果は(数6)の関係が確かに成りたつことを示している。
【0040】
さらに、質量スペクトルの各データ点についてスキャン開始からの時間Tからω、ωから(数2)の関係によりβ,βから図3の関係によりq値を求めることができる。補正前の質量スペクトル上でのデータ点iのイオンのq値をq’iとすると、データ点iのイオンについて空間電荷によるq値のシフトΔqiを補正したq値(qi)は、
【0041】
【数7】
【0042】
と表される。このqiを(数1)に代入すると、空間電荷の効果を補正したデータ点iのイオンのm/zを求めることができる。この操作を各データ点について繰り返すと、質量スペクトル全体を補正することができる。また、質量スペクトル全体ではなく、質量スペクトル上の特定のピークだけを補正することもできる。
【0043】
本実施例のように質量分析装置に間欠的に試料やイオンを導入する場合にはイオントラップに供給されるイオン量が毎回のスキャンごとに大きくばらつくため、本発明のように測定後の解析で空間電荷の影響を補正する方法が特に重要である。
【0044】
空間電荷を補正した質量スペクトルは表示部60で表示する。質量スキャンを複数回行ないそれぞれ空間電荷を補正した質量スペクトル同士を平均すると、各スキャンでイオントラップに導入されるイオン量が大きくばらついた場合でも、1回のスキャンで測定した質量スペクトルより高いS/Nを得ることができる。
【実施例2】
【0045】
(選択工程による排除)
装置構成は実施例1と同様である。図8に測定シーケンスを示す。実施例1との違いは排気待ち工程と質量スキャン工程との間に、選択工程があることである。選択工程は1 ms 〜 100 ms程度である。選択工程では四重極ロッド電極7に向かい合うロッド間(7a, 7b間、7c, 7d間)で同相、隣接ロッド間で逆相になるように四重極DC電圧を印加する。このとき図9の安定領域80内のイオンのみがイオントラップ内に残り、他のイオンは排除される。ここで図9のa,qは以下の式で与えられる値である。
【0046】
【数8】
【0047】
【数9】
【0048】
ここで、Uは四重極DC電圧(V)である。トラップRF電圧振幅と四重極DC電圧の強度を、質量スキャン工程でスキャンするm/z範囲のイオンのみをトラップ内に残すように設定する。質量スペクトルの測定範囲外にあるイオンの空間電荷の影響を避けることができるので実施例1に比べてロバストな補正が可能になる。
【0049】
排気待ち工程の時間を調整して、選択工程の分析室圧力を1 Pa以下とすることで、安定領域内のイオンの損失を抑えて安定領域外のイオンを排除することができる。排気待ち工程や蓄積工程で四重極DC電圧を印加しても、安定領域外のイオンを排除することができるが、安定領域内のイオンにも損失が発生する。
【0050】
選択工程で四重極DC電圧を印加せず、補助交流電圧として質量スキャン工程でスキャンするm/z範囲外のイオンの共鳴周波数の重ね合わせの波形を印加しても、質量スキャン工程でスキャンするm/z範囲外のイオンを排除することができ、ロバストな補正が可能になる。
【実施例3】
【0051】
(トラップRF電圧スイープの場合)
装置構成、及び補助交流電圧とトラップRF電圧振幅以外の電圧は実施例1と同じである。図10に補助交流電圧とトラップRF電圧の測定シークエンスを示す。本実施例では補助交流電圧の周波数は一定に保ち、トラップRF電圧振幅をスキャンする。補助交流電圧振幅は一定でもよいが、図10のように補助交流電圧振幅をトラップRF電圧振幅に比例するようにスキャンしたほうが高い効率でイオンを排出することができる。(数1)の関係からトラップRF電圧振幅を小さいほうから大きいほうにスキャンすると、共鳴励起されるイオンのm/zは低質量から高質量にスキャンされる。トラップRF電圧振幅をスキャンする場合、空間電荷によって擬ポテンシャルが浅くなる効果は、以下の式のようにも書くことができる。
【0052】
【数10】
【0053】
イオンiが排出される時点で、トラップされている電荷量をSiとすると空間電荷によるトラップRF電圧振幅のシフトΔVは、
【0054】
【数11】
【0055】
とあらわされる。ここでC’は経験的に定められる定数でイオントラップの形状に依存し、データ処理部内または記憶部内に格納されている。
【0056】
図11のフローチャートを用いて本発明の具体的な方法を説明する。まず、Siを実施例1と同様な方法によりもとめる。次に(数11)の関係から、空間電荷によるトラップRF電圧振幅のシフトΔVを求める。次にΔVを用いて、空間電荷によるシフトを補正したトラップRF電圧振幅Viを求める。補正前の質量スペクトル上でのデータ点iのトラップRF電圧振幅をV’iとすると、空間電荷によるシフトを補正したトラップRF電圧振幅Viは、
【0057】
【数12】
【0058】
と表される。最後に、このViを(数1)に代入して、空間電荷の効果を補正したデータ点iのイオンのm/zを求める。
【0059】
実施例1と比較して、同じm/z範囲の質量スペクトルを測定するのに必要なRF電圧振幅が大きくなるため電源の必要電力が増えるが、特に高質量のイオンに対しては実施例1の方式より高い質量分解能を得ることができる。
【実施例4】
【0060】
(質量スペクトルの詳細補正)
各イオンが、排出されるイオンの運動に与える空間電荷の効果は、厳密にはそれぞれイオンのm/zによって異なる。本実施例では補正対象のイオンが排出された時点で、トラップされていた各イオンのイオン信号強度に、それぞれのイオンが補正対象のイオンに与える空間電荷の影響を重み付けした値をもちいて、空間電荷の影響を実施例1より精密に補正する方法を説明する。装置構成、測定シークエンスは実施例1と同様である。
【0061】
データ点iのイオンの補正を行なう場合に、データ点iのイオンが排出される時点でトラップされていた各データ点のイオン信号強度Iに、それぞれのデータ点のイオンがデータ点iのイオンに与える空間電荷の影響の重みCを掛けて、
【0062】
【数13】
【0063】
として、Δqiを求めることもできる。ここでnは質量スペクトルの最後のデータ点である。空間電荷の重みC(j)は、あらかじめ記憶部またはデータ処理部に保存しておく。
【0064】
図12にC(j)の一例を示す。一般に補正するデータ点のイオン、つまり共鳴励起されているイオンにm/zが近いイオンでは|C(j)|が小さくなる。これは共鳴励起されているイオンとm/zが近いイオンは、イオントラップの径方向の位置分布が広がるため、イオンに与える影響が中心軸上にトラップされているイオンに比べて小さくなるためである。実施例4の方法では実施例1に比べてより正確に補正を行なうことが可能であるが、計算が複雑になり、また記憶部に関数C(j)を保存しておくためのメモリが必要になる。
【実施例5】
【0065】
(MS/MS時への応用)
装置構成は実施例1と同様である。記憶部に測定対象のイオンのm/z、しきい値のイオン信号強度、MS/MS測定の必要の有無、MS/MS測定の前駆体イオンのm/z、フラグメントイオンのしきい値のイオン信号強度などの情報を含むリストを記憶しておく。図14にリストの一例を示す。図14のリストでは測定対象ごとに、物質の同定や定量に必要な情報(測定対象のイオンのm/z、しきい値など)が列挙されており、この情報に基づいて測定を行う。
【0066】
図13のフローチャートを用いて測定の流れを示す。まず、質量スペクトルの測定を行い、質量スペクトルを測定する。測定した質量スペクトルを実施例1の方法で補正する。このとき記憶部のリストを参照し、測定対象のイオンのm/zを含む一定のm/z範囲、典型的にはリストに記憶されているm/zからm/z 0.1 〜 2 amuの程度のm/z範囲のピーク対してのみ補正を行うと、補正の計算時間を短くすることができる。
【0067】
次に補正を行なったピークに対して、測定対象イオンの信号強度がしきい値を超えているかの判定を行なう。しきい値を超えた測定対象イオンがない場合には、質量スペクトルの測定に戻る。一方、測定対象イオンでしきい値を越えたイオンがあった場合には、リストの情報からMS/MS測定が必要か判断する。MS/MS測定の必要がない場合には、表示部60に結果を表示して質量スペクトルの取得に戻る。MS/MS測定が必要な場合には続けてMS/MS測定を行なう。MS/MS測定を行い取得したMS/MSスペクトルについて、補正を行なう。続けてリストを参照して測定対象イオンの信号強度がしきい値を超えているかの判定を行ない、しきい値を超えた測定対象イオンがあった場合には表示部60で表示し、次の質量スペクトルの測定にもどる。測定が終了するまでこのフローチャートの流れを繰り返す。
【0068】
図15にMS/MS測定の測定シークエンスを示す。アイソレーション工程、解離工程以外の工程は、図2のシークエンスと同様である。アイソレーション工程では補助交流電圧として、前駆体イオン以外の共鳴周波数の重ね合わせを印加して前駆体イオン以外のイオンを排除する。解離工程では前駆体イオンの共鳴周波数の補助交流電圧を印加して、前駆体イオンをイオントラップ中の中性分子との衝突により解離させてフラグメントイオンを生成する。解離方法についてはこれに限らず、電子捕獲解離や電界移動解離、光励起による解離のようなものを用いてもよい。
【0069】
MS/MS測定を行うときに、直前に測定した質量スペクトルの前駆体イオンの信号量から、蓄積時間の長さを調整してもよい。直前に測定した質量スペクトルの前駆体イオンの信号量が小さければ蓄積時間を長くすることで、duty cycleを維持しつつ前駆体イオン量が比較的少ない場合にも高いS/Nを得ることができる。
【0070】
また、直前に測定した質量スペクトルの前駆体イオンの信号量を(数4)に代入するとq値のシフトがわかり、ここから空間電荷によるシフトを含んだ共鳴周波数を算出することができる。解離工程でこの空間電荷によるシフトを含んだ共鳴周波数を印加することで効率よく前駆体イオンを解離することができる。
【実施例6】
【0071】
図16は質量分析装置の一実施例を示す構成図である。なお、バッファーガス等の導入機構は簡略化のために省いてある。エレクトロスプレーイオン源、大気圧化学イオン源、大気圧光イオン源、大気圧マトリックス支援レーザー脱離イオン源、マトリックス支援レーザー脱離イオン源などのイオン源101で生成されたイオンは第一細孔102を通して、第一差動排気部105に導入される。第一差動排気部105はポンプ140で排気されている。第一差動排気部105に導入されたイオンは第二細孔103を通して第二差動排気部106に導入される。第二差動排気部106はポンプ141で排気され10-4Torr〜10-2Torr(1.3×10-2Pa〜1.3Pa)程度の圧力に維持されている。第二差動排気部106にはイオンガイド131が設置されている。イオンガイド131は四重極ロッド電極110を有する。四重極ロッド電極110にはRF電源で生成した交互に位相の反転したRF電圧が印加される。このRF電圧の典型的な電圧振幅は数100〜5000V、周波数は500 kHz〜2 MHz程度である。イオンガイドの四重極ロッド電極110に、四重極DC電圧を印加して、質量スペクトルでスキャンする範囲のm/zだけが、イオンガイドを透過しイオントラップに導入されるようにすることもできる。
【0072】
第二差動排気部106からイオンは第三細孔104を通して高真空室107に導入される。高真空室107はポンプ142で排気され10-4Torr以下に維持されており、リニアイオントラップ132と検出器6が設置されている。リニアイオントラップの構造は実施例1と同じである。また、制御部21や表示部60の構成も他の実施例と同様である。実施例1〜6ではリニアイオントラップの例について述べたが、本発明は三次元四重極イオントラップ、トロイダルイオントラップなど、イオンをトラップから質量選択的に排出して質量スペクトルを測定するイオントラップであれば適用することができる。
【0073】
トラップRF電圧振幅、補助交流電圧振幅の測定シークエンスは図2等と同様である。ただし、本実施例ではイオントラップに気体が連続で導入されているため、高真空室、及びイオントラップ内部の圧力は一定である。このため、排気待ち時間はトラップされたイオンが冷却される時間典型的には1〜10 ms程度あれば十分である。
【0074】
測定した質量スペクトルの補正方法は他の実施例と同様である。質量スペクトルの総イオン量の情報をフィードバックして、次の質量スペクトル測定時のイオンの導入量を制御することもできる。この方法によりダイナミックレンジをさらに拡大することができる。
【0075】
また、実施例1〜6に共通することであるが、補正に用いる定数Cまたは関数C(j)は、既知のm/zのイオンについて、トラップの蓄積時間やイオン源の動作時間の長さなどを変えることで、イオントラップに導入されるイオン量を段階的に変化させ、それぞれの条件で質量スペクトルを測定することで決定することができる。
【符号の説明】
【0076】
1…イオン化室、2…キャピラリー、3…バルブ前排気領域、4…バルブ、5…分析室、6…検出器、7…リニアイオントラップの四重極ロッド電極、8…検出器、10…排気ポンプ、11…排気ポンプ、14…サンプル気化部、15…排気方向、16…排気方向、18…補助交流電圧、19…トラップ高周波電圧、21…制御部、22…制御電源、23…バルブ制御電源、40…バリア放電用高周波電圧、41…誘電体、42…電極、43…電極、60…表示部、80…安定領域、101…イオン源、102…第一細孔、103…第二細孔、104…第三細孔、105…第一差動排気部、106…第二差動排気部、107…高真空室、131…イオンガイド、132…リニアイオントラップ、140…ポンプ、141…ポンプ,142…ポンプ、110…イオンガイドの四重極ロッド電極、200…データ点i、201…質量スペクトルの終端のデータ点
【技術分野】
【0001】
本発明は質量分析装置及びそれを用いた質量分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1にイオントラップを用いて質量分析を行なう場合に、まずイオントラップから排出される総イオン量を測定し、その情報をもとにイオントラップに導入するイオン量を制御して空間電荷の影響が小さい条件で質量分析を行う方法が開示されている。
【0003】
特許文献2にMS/MS分析を行なうときに、前駆体イオンのアイソレーション、解離に用いる共鳴周波数に、空間電荷による共鳴周波数のシフトを補正した周波数を用いることで高い効率でMS/MS分析を行なう方法について開示されている。この方法では、イオントラップにイオンを導入する時間からトラップされるイオン量を見積もり、そのイオン量から空間電荷による共鳴周波数のシフトを算出する。
【0004】
特許文献3に、質量スペクトルの総イオン量を求めて、空間電荷による質量のシフトを補正する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】US5,572,022
【特許文献2】US6,884,996
【特許文献3】US2006/0289743
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明で解決しようとする課題は、イオントラップで質量分析を行なう場合に空間電荷の影響を補正し、感度とダイナミックレンジを両立することである。
【0007】
特許文献1の方法では、イオントラップに導入するイオン量を空間電荷の影響が小さい量に制御するために感度が低くなるという課題がある。特にイオン量が非常に多いイオン種と、イオン量が少ないイオン種が混在している場合には、イオン量が非常に多いイオン種の空間電荷の影響を避けるためにイオントラップに導入されるイオン量が低く制御され、イオン量が少ないイオン種の測定は難しい。また、イオントラップに供給されるイオン量が時間変動する場合には、総イオン量を測定したタイミングのイオン供給量と、質量分析を行なうタイミングのイオン供給量が異なるため、空間電荷の影響を避けられない場合がある。
【0008】
特許文献2の方法はMS/MS測定時でイオンを解離させるために用いる交流電圧の周波数についてのみ開示されており、質量スペクトルの空間電荷のシフトを補正する方法の記述はない。また、イオントラップに供給されるイオン量が時間変動する場合には、総イオン量を測定したタイミングのイオン供給量と質量分析を行なうタイミングのイオン供給量が異なるため、空間電荷の影響を避けられない場合がある。
【0009】
特許文献3の方法では、総イオン量から質量スペクトルのすべてのピークについて同じように補正を行なう。このため、質量スペクトルを測定している間に順次イオンが排出されていくことによりイオン量が変化していく影響を補正することができず、空間電荷の影響を補正する精度は低い。
【課題を解決するための手段】
【0010】
質量スペクトルの質量軸を、各イオンが排出される時点でイオントラップ内に蓄積されているイオン量に基づいて補正する。
【発明の効果】
【0011】
イオントラップで質量分析を行なう場合に空間電荷の影響を補正し、感度とダイナミックレンジを両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】質量分析装置の一例。
【図2】測定シーケンス。
【図3】qとβの関係図。
【図4】質量スペクトルの模式図。
【図5】フローチャート。
【図6】各データ点におけるイオン信号強度。
【図7】q値のシフトとトラップされているイオン数との関係
【図8】測定シーケンス。
【図9】a値とq値の関係図。
【図10】測定シーケンス。
【図11】フローチャート。
【図12】C(j)の一例。
【図13】フローチャート。
【図14】測定対象のイオンのm/zとしきい値のイオン信号強度のリスト。
【図15】測定シーケンス。
【図16】質量分析装置の一例。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0013】
図1は、質量分析装置の一例である。加熱器やスプレー噴霧器などからなる気化部14で試料の一部が気化され、キャピラリー2を通してバルブ前排気領域3に導入される。バルブ前排気領域3は排気ポンプ10で排気されている。(この排気ポンプの排気方向を15として示す。)
気化された試料は、バルブ前排気領域3に導入され、バルブ4が開の時は、周辺ガスと共に、ガラス、セラミック、プラスティックなどの誘電体よりなる誘電体キャピラリー41へ導入される。誘電体外側には電極42と電極43が配置され、電極43と電極42との間に周波数1〜100kHz、電圧2〜5kV程度の電圧を電源40より印加することで、誘電体バリア放電が進行する。この放電領域に気化された分子が導入されることで、試料分子のイオンが生成する。バルブ4の構成としては、ピンチバルブ、スライドバルブのように、間欠的にガスの導入、非導入を制御できるようなものが挙げられる。誘電体キャピラリー41で生成されたイオンは、質量分析部7および検出器8が配置された分析室5へ導入される。分析室5はターボ分子ポンプやイオンゲッターポンプなどの排気ポンプ11により排気される(この排気ポンプの排気方向を16として示す。)。なお、図1では、バルブ4と気化部14との間、バルブ4と分析室5との間をキャピラリーで接続する例を示したが、キャピラリーの代わりにオリフィスを用いても良い。
【0014】
分析室5に導入されたイオンは質量分析部7に導入される。実施例1では測定シーケンスを説明するためにリニアイオントラップ質量分析計を例として説明する。リニアイオントラップは多重極、例えば4本の四重極ロッド電極(7a, 7b, 7c, 7d)より構成される。四重極ロッド電極7には向かい合うロッド間(7a, 7b間、7c, 7d間)で同相、隣接ロッド間で逆相になるようにトラップ高周波電圧19を印加する。トラップ高周波電圧19は、電極サイズや測定質量範囲により最適値が異なることは知られており、典型的には振幅0〜5kV(0-peak)、周波数500kHz〜5MHz程度のものが使用される。また、四重極ロッド電極7にはトラップ高周波電圧19に加えて正イオンを測定する場合は正の、負イオンを測定する場合には負のオフセット電圧を加えてもよい。このトラップ高周波電圧19を印加すると擬ポテンシャルが形成され、四重極ロッド電極7内部の空間にイオンがトラップされる。
【0015】
また、向かい合った一対のロッド電極間(7a,7b間)に補助交流電圧18を印加する。補助交流電圧18としては、典型的には振幅0〜50V(0-peak)、周波数5kHz-2MHz程度の単一周波数およびその複数周波数成分の重畳波形が使用される。この補助交流電圧18を印加することで、四重極ロッド電極7内部にトラップされたイオンに対し、特定質量数のイオンのみを選択しそれ以外を排除したり、特定質量数のイオンを解離したり、質量選択的にイオンを排出する質量スキャンが可能となる。質量スキャンの仕方としては、ここでは補助交流電圧18を一対の電極間に印加する例を挙げたが、これ以外にも一対のロッド電極間(7a,7b間)に同じ位相の補助交流電圧を印加する方法等がある。質量選択的に排出されたイオン(排出方向を50として示す)は電子増倍管、マルチチャンネルプレートなどからなる検出器8により電気的な信号に変換され、制御部21へと送られる。制御部21では検出器8からの出力信号を一定のサンプリング周期(典型的には1us 〜 1000 us)ごとにアナログ−デジタルコンバータ(ADC)やパルスカウンティングユニットでデジタルデータに変換して制御部内の記憶部に蓄積する。
【0016】
制御部21内には、記憶部の外に、スペクトル補正に用いるのに必要なデータ処理部が含まれる。記憶部はメモリやハードディスクなどからなり、質量スペクトルのデータの他、補正を行なうために必要な数値や関係式、測定シークエンスなどの情報を記憶して置くことができる。データ処理部は、演算機能や演算に必要な数値を一時保存するためのメモリを有する。また、制御部21は、これらの情報を蓄積、変換する以外にも、各電極などを制御する制御電源22、バルブ電源23などをコントロールする機能や表示部60に情報を表示する機能がある。表示部60は、ディスプレーやプリンターなどで、質量スペクトルそのものや、質量スペクトルのピークのm/zと強度、測定対象の物質の有無などの情報を表示する機能がある。
【0017】
分析室の圧力については、バルブ4が開のときには、1Pa以上(典型的には10Pa近辺)となる。一方で、リニアイオントラップや電子増倍管などからなる検出器8などの良好な動作が可能なのは0.1Pa以下である。
【0018】
図2に測定シーケンスの例を示す。この測定シークエンスは、蓄積、排気待ち、質量スキャン、排除の4つの工程からなる。
【0019】
蓄積工程では、バルブ4を開いて試料ガスをイオン化室1に導入し、生成されたイオンを分析室5のイオントラップ内にトラップする。
【0020】
排気待ち工程では分析室5の圧力をイオンの測定が可能となる0.1Pa以下の圧力に減圧されるまで待機する。蓄積工程で導入される試料ガスが多いほど感度は向上するが、排気待ち時間は長くなりduty cycleは低下する。
【0021】
質量スキャン工程では、試料イオンはイオントラップ内にトラップしたまま、質量選択的にイオンを排出する。排出されたイオンは検出器8で検出され、イオンの信号強度が制御部21に保存される。図2のようにイオンの共鳴周波数の補助交流電圧を印加することで、質量選択的にイオンを排出することができる。共鳴励起される一価イオンの質量(kg)は以下の式で表される。
【0022】
【数1】
【0023】
ここで、V: トラップRF電圧振幅(V)、Ω:トラップRF電圧角周波数(rad/s)、e: 電気素量、r0: 四重極内接円半径(m)である。または、qは以下の(数2)で与えられるβと、図3の関係で一意に結ばれる定数である。
【0024】
【数2】
【0025】
ここで、ωは補助交流電圧角周波数(rad/s)である。共鳴励起されるイオンのm/zは(数1)よりqに依存し、qは図の関係からβに依存し、βは(数2)の関係からωに依存する。したがって補助交流電圧の周波数ωをスキャン開始からの時間tに対してスキャンすると、共鳴励起されるイオンのm/zをスキャンすることができる。周波数ωは高周波数側から低周波数側にスキャンしてもよいし、低周波数側から高周波数側にスキャンしてもよい。イオントラップから排出されたイオンの信号強度をスキャン開始からの時間の関数としてプロットすると、質量スペクトルが得られる。
【0026】
排除工程ではトラップ高周波電圧の電圧振幅を0にしてトラップ内に残留しているすべてのイオンを排除する。
【0027】
まず、本発明と総イオン量を用いて質量スペクトルの補正を行なう場合の差異について説明する。図4に質量スペクトルの模式図を示す。ここで質量スキャンは低質量から高質量に行なったとする。イオンaが排出される時点で、トラップされているイオンはa, b, c, dである。一方、イオンbが排出される時点でトラップされているイオンはb, c, dである。総イオン量で補正を行なう場合にはすべてのイオンに対して、総イオン量のイオンがトラップ内にあると仮定して補正を行なう。しかし、例えばbが排出される時点ではaは既に排出されているため、トラップされているイオン量が減少しており、その分空間電荷の影響が減少する。そのためbのピークに対して総イオン量から補正を行なうと補正しすぎでずれが生じる。そこで、本発明ではおのおののイオンについて、それぞれのイオンがトラップから排出される時点でトラップされているイオン量を求め、それを用いて補正を行なうことで正確な補正を行なう。
【0028】
次に補正の具体的な方法について、図5のフローチャートを用いて説明する。補正は上記の制御部21で行われる。まず、例えば図2の測定シークエンスにより得られた質量スペクトルを記憶部から取得する。質量スペクトルは、データ処理部のサンプリングの周期ごとに取得されたイオン信号強度の値が時系列に沿って並べられた配列データになる。図6に質量スペクトルの例を示す。ここで、横軸はスキャン開始からの時間、縦軸はイオンの信号強度である。あるデータ点iより前に排出されたイオンは白い縦棒で、データ点i以後に排出されたイオンは黒い縦棒で示してある。
【0029】
次にデータ処理部に保存された質量スペクトルの、各データ点についてイオンが排出される時点でトラップされているイオン量Sを求める。質量スペクトルの各点について、その点以後で排出されたイオンの信号強度を質量スペクトルの終端まで積分すれば、そのデータ点のイオンが排出された時点でトラップされているイオン量を求めることができる。例えば、図6の質量スペクトルでデータ点iのイオンが排出される時点でトラップされているイオン量をSiとすれば、黒い縦棒で示したデータ点i以後に排出されたイオンの総和がSiとなる。
【0030】
続いてトラップされているイオン量Siからq値のシフト(Δq)を求める。空間電荷による質量スペクトルm/zシフトなどの現象は、擬ポテンシャルの変化として扱うことができる。リニアイオントラップの擬ポテンシャルは以下の式であらわされる。
【0031】
【数3】
【0032】
ここで、Dは擬ポテンシャルの高さ(V), V: トラップRF電圧振幅(V)である。空間電荷による擬ポテンシャルの変化分をΔDとすると、空間電荷の影響があるときのq値と擬ポテンシャルの関係は、
【0033】
【数4】
【0034】
と書くことができる。(数3)を代入して、
【0035】
【数5】
【0036】
ΔDはトラップされているイオン量に比例するので、空間電荷の影響によるデータ点iのイオン のq値のシフト(Δqi)は式で表される。
【0037】
【数6】
【0038】
ここでCは経験的に定められる定数でイオントラップの形状に依存し、データ処理部または記憶部内に格納されている。トラップRF電圧振幅Vは、本実施例のように補助交流電圧の周波数をスキャンする場合には定数である。
【0039】
図7にトラップに導入するイオンの量を変化させ、m/z 93, m/z 153, m/z 240の各イオンのq値のシフトを測定した実験結果を示す。q値のシフトは、そのイオンが排出される時点でトラップされていたイオン数に比例し、m/zによらず同一直線上にのる。この実験結果は(数6)の関係が確かに成りたつことを示している。
【0040】
さらに、質量スペクトルの各データ点についてスキャン開始からの時間Tからω、ωから(数2)の関係によりβ,βから図3の関係によりq値を求めることができる。補正前の質量スペクトル上でのデータ点iのイオンのq値をq’iとすると、データ点iのイオンについて空間電荷によるq値のシフトΔqiを補正したq値(qi)は、
【0041】
【数7】
【0042】
と表される。このqiを(数1)に代入すると、空間電荷の効果を補正したデータ点iのイオンのm/zを求めることができる。この操作を各データ点について繰り返すと、質量スペクトル全体を補正することができる。また、質量スペクトル全体ではなく、質量スペクトル上の特定のピークだけを補正することもできる。
【0043】
本実施例のように質量分析装置に間欠的に試料やイオンを導入する場合にはイオントラップに供給されるイオン量が毎回のスキャンごとに大きくばらつくため、本発明のように測定後の解析で空間電荷の影響を補正する方法が特に重要である。
【0044】
空間電荷を補正した質量スペクトルは表示部60で表示する。質量スキャンを複数回行ないそれぞれ空間電荷を補正した質量スペクトル同士を平均すると、各スキャンでイオントラップに導入されるイオン量が大きくばらついた場合でも、1回のスキャンで測定した質量スペクトルより高いS/Nを得ることができる。
【実施例2】
【0045】
(選択工程による排除)
装置構成は実施例1と同様である。図8に測定シーケンスを示す。実施例1との違いは排気待ち工程と質量スキャン工程との間に、選択工程があることである。選択工程は1 ms 〜 100 ms程度である。選択工程では四重極ロッド電極7に向かい合うロッド間(7a, 7b間、7c, 7d間)で同相、隣接ロッド間で逆相になるように四重極DC電圧を印加する。このとき図9の安定領域80内のイオンのみがイオントラップ内に残り、他のイオンは排除される。ここで図9のa,qは以下の式で与えられる値である。
【0046】
【数8】
【0047】
【数9】
【0048】
ここで、Uは四重極DC電圧(V)である。トラップRF電圧振幅と四重極DC電圧の強度を、質量スキャン工程でスキャンするm/z範囲のイオンのみをトラップ内に残すように設定する。質量スペクトルの測定範囲外にあるイオンの空間電荷の影響を避けることができるので実施例1に比べてロバストな補正が可能になる。
【0049】
排気待ち工程の時間を調整して、選択工程の分析室圧力を1 Pa以下とすることで、安定領域内のイオンの損失を抑えて安定領域外のイオンを排除することができる。排気待ち工程や蓄積工程で四重極DC電圧を印加しても、安定領域外のイオンを排除することができるが、安定領域内のイオンにも損失が発生する。
【0050】
選択工程で四重極DC電圧を印加せず、補助交流電圧として質量スキャン工程でスキャンするm/z範囲外のイオンの共鳴周波数の重ね合わせの波形を印加しても、質量スキャン工程でスキャンするm/z範囲外のイオンを排除することができ、ロバストな補正が可能になる。
【実施例3】
【0051】
(トラップRF電圧スイープの場合)
装置構成、及び補助交流電圧とトラップRF電圧振幅以外の電圧は実施例1と同じである。図10に補助交流電圧とトラップRF電圧の測定シークエンスを示す。本実施例では補助交流電圧の周波数は一定に保ち、トラップRF電圧振幅をスキャンする。補助交流電圧振幅は一定でもよいが、図10のように補助交流電圧振幅をトラップRF電圧振幅に比例するようにスキャンしたほうが高い効率でイオンを排出することができる。(数1)の関係からトラップRF電圧振幅を小さいほうから大きいほうにスキャンすると、共鳴励起されるイオンのm/zは低質量から高質量にスキャンされる。トラップRF電圧振幅をスキャンする場合、空間電荷によって擬ポテンシャルが浅くなる効果は、以下の式のようにも書くことができる。
【0052】
【数10】
【0053】
イオンiが排出される時点で、トラップされている電荷量をSiとすると空間電荷によるトラップRF電圧振幅のシフトΔVは、
【0054】
【数11】
【0055】
とあらわされる。ここでC’は経験的に定められる定数でイオントラップの形状に依存し、データ処理部内または記憶部内に格納されている。
【0056】
図11のフローチャートを用いて本発明の具体的な方法を説明する。まず、Siを実施例1と同様な方法によりもとめる。次に(数11)の関係から、空間電荷によるトラップRF電圧振幅のシフトΔVを求める。次にΔVを用いて、空間電荷によるシフトを補正したトラップRF電圧振幅Viを求める。補正前の質量スペクトル上でのデータ点iのトラップRF電圧振幅をV’iとすると、空間電荷によるシフトを補正したトラップRF電圧振幅Viは、
【0057】
【数12】
【0058】
と表される。最後に、このViを(数1)に代入して、空間電荷の効果を補正したデータ点iのイオンのm/zを求める。
【0059】
実施例1と比較して、同じm/z範囲の質量スペクトルを測定するのに必要なRF電圧振幅が大きくなるため電源の必要電力が増えるが、特に高質量のイオンに対しては実施例1の方式より高い質量分解能を得ることができる。
【実施例4】
【0060】
(質量スペクトルの詳細補正)
各イオンが、排出されるイオンの運動に与える空間電荷の効果は、厳密にはそれぞれイオンのm/zによって異なる。本実施例では補正対象のイオンが排出された時点で、トラップされていた各イオンのイオン信号強度に、それぞれのイオンが補正対象のイオンに与える空間電荷の影響を重み付けした値をもちいて、空間電荷の影響を実施例1より精密に補正する方法を説明する。装置構成、測定シークエンスは実施例1と同様である。
【0061】
データ点iのイオンの補正を行なう場合に、データ点iのイオンが排出される時点でトラップされていた各データ点のイオン信号強度Iに、それぞれのデータ点のイオンがデータ点iのイオンに与える空間電荷の影響の重みCを掛けて、
【0062】
【数13】
【0063】
として、Δqiを求めることもできる。ここでnは質量スペクトルの最後のデータ点である。空間電荷の重みC(j)は、あらかじめ記憶部またはデータ処理部に保存しておく。
【0064】
図12にC(j)の一例を示す。一般に補正するデータ点のイオン、つまり共鳴励起されているイオンにm/zが近いイオンでは|C(j)|が小さくなる。これは共鳴励起されているイオンとm/zが近いイオンは、イオントラップの径方向の位置分布が広がるため、イオンに与える影響が中心軸上にトラップされているイオンに比べて小さくなるためである。実施例4の方法では実施例1に比べてより正確に補正を行なうことが可能であるが、計算が複雑になり、また記憶部に関数C(j)を保存しておくためのメモリが必要になる。
【実施例5】
【0065】
(MS/MS時への応用)
装置構成は実施例1と同様である。記憶部に測定対象のイオンのm/z、しきい値のイオン信号強度、MS/MS測定の必要の有無、MS/MS測定の前駆体イオンのm/z、フラグメントイオンのしきい値のイオン信号強度などの情報を含むリストを記憶しておく。図14にリストの一例を示す。図14のリストでは測定対象ごとに、物質の同定や定量に必要な情報(測定対象のイオンのm/z、しきい値など)が列挙されており、この情報に基づいて測定を行う。
【0066】
図13のフローチャートを用いて測定の流れを示す。まず、質量スペクトルの測定を行い、質量スペクトルを測定する。測定した質量スペクトルを実施例1の方法で補正する。このとき記憶部のリストを参照し、測定対象のイオンのm/zを含む一定のm/z範囲、典型的にはリストに記憶されているm/zからm/z 0.1 〜 2 amuの程度のm/z範囲のピーク対してのみ補正を行うと、補正の計算時間を短くすることができる。
【0067】
次に補正を行なったピークに対して、測定対象イオンの信号強度がしきい値を超えているかの判定を行なう。しきい値を超えた測定対象イオンがない場合には、質量スペクトルの測定に戻る。一方、測定対象イオンでしきい値を越えたイオンがあった場合には、リストの情報からMS/MS測定が必要か判断する。MS/MS測定の必要がない場合には、表示部60に結果を表示して質量スペクトルの取得に戻る。MS/MS測定が必要な場合には続けてMS/MS測定を行なう。MS/MS測定を行い取得したMS/MSスペクトルについて、補正を行なう。続けてリストを参照して測定対象イオンの信号強度がしきい値を超えているかの判定を行ない、しきい値を超えた測定対象イオンがあった場合には表示部60で表示し、次の質量スペクトルの測定にもどる。測定が終了するまでこのフローチャートの流れを繰り返す。
【0068】
図15にMS/MS測定の測定シークエンスを示す。アイソレーション工程、解離工程以外の工程は、図2のシークエンスと同様である。アイソレーション工程では補助交流電圧として、前駆体イオン以外の共鳴周波数の重ね合わせを印加して前駆体イオン以外のイオンを排除する。解離工程では前駆体イオンの共鳴周波数の補助交流電圧を印加して、前駆体イオンをイオントラップ中の中性分子との衝突により解離させてフラグメントイオンを生成する。解離方法についてはこれに限らず、電子捕獲解離や電界移動解離、光励起による解離のようなものを用いてもよい。
【0069】
MS/MS測定を行うときに、直前に測定した質量スペクトルの前駆体イオンの信号量から、蓄積時間の長さを調整してもよい。直前に測定した質量スペクトルの前駆体イオンの信号量が小さければ蓄積時間を長くすることで、duty cycleを維持しつつ前駆体イオン量が比較的少ない場合にも高いS/Nを得ることができる。
【0070】
また、直前に測定した質量スペクトルの前駆体イオンの信号量を(数4)に代入するとq値のシフトがわかり、ここから空間電荷によるシフトを含んだ共鳴周波数を算出することができる。解離工程でこの空間電荷によるシフトを含んだ共鳴周波数を印加することで効率よく前駆体イオンを解離することができる。
【実施例6】
【0071】
図16は質量分析装置の一実施例を示す構成図である。なお、バッファーガス等の導入機構は簡略化のために省いてある。エレクトロスプレーイオン源、大気圧化学イオン源、大気圧光イオン源、大気圧マトリックス支援レーザー脱離イオン源、マトリックス支援レーザー脱離イオン源などのイオン源101で生成されたイオンは第一細孔102を通して、第一差動排気部105に導入される。第一差動排気部105はポンプ140で排気されている。第一差動排気部105に導入されたイオンは第二細孔103を通して第二差動排気部106に導入される。第二差動排気部106はポンプ141で排気され10-4Torr〜10-2Torr(1.3×10-2Pa〜1.3Pa)程度の圧力に維持されている。第二差動排気部106にはイオンガイド131が設置されている。イオンガイド131は四重極ロッド電極110を有する。四重極ロッド電極110にはRF電源で生成した交互に位相の反転したRF電圧が印加される。このRF電圧の典型的な電圧振幅は数100〜5000V、周波数は500 kHz〜2 MHz程度である。イオンガイドの四重極ロッド電極110に、四重極DC電圧を印加して、質量スペクトルでスキャンする範囲のm/zだけが、イオンガイドを透過しイオントラップに導入されるようにすることもできる。
【0072】
第二差動排気部106からイオンは第三細孔104を通して高真空室107に導入される。高真空室107はポンプ142で排気され10-4Torr以下に維持されており、リニアイオントラップ132と検出器6が設置されている。リニアイオントラップの構造は実施例1と同じである。また、制御部21や表示部60の構成も他の実施例と同様である。実施例1〜6ではリニアイオントラップの例について述べたが、本発明は三次元四重極イオントラップ、トロイダルイオントラップなど、イオンをトラップから質量選択的に排出して質量スペクトルを測定するイオントラップであれば適用することができる。
【0073】
トラップRF電圧振幅、補助交流電圧振幅の測定シークエンスは図2等と同様である。ただし、本実施例ではイオントラップに気体が連続で導入されているため、高真空室、及びイオントラップ内部の圧力は一定である。このため、排気待ち時間はトラップされたイオンが冷却される時間典型的には1〜10 ms程度あれば十分である。
【0074】
測定した質量スペクトルの補正方法は他の実施例と同様である。質量スペクトルの総イオン量の情報をフィードバックして、次の質量スペクトル測定時のイオンの導入量を制御することもできる。この方法によりダイナミックレンジをさらに拡大することができる。
【0075】
また、実施例1〜6に共通することであるが、補正に用いる定数Cまたは関数C(j)は、既知のm/zのイオンについて、トラップの蓄積時間やイオン源の動作時間の長さなどを変えることで、イオントラップに導入されるイオン量を段階的に変化させ、それぞれの条件で質量スペクトルを測定することで決定することができる。
【符号の説明】
【0076】
1…イオン化室、2…キャピラリー、3…バルブ前排気領域、4…バルブ、5…分析室、6…検出器、7…リニアイオントラップの四重極ロッド電極、8…検出器、10…排気ポンプ、11…排気ポンプ、14…サンプル気化部、15…排気方向、16…排気方向、18…補助交流電圧、19…トラップ高周波電圧、21…制御部、22…制御電源、23…バルブ制御電源、40…バリア放電用高周波電圧、41…誘電体、42…電極、43…電極、60…表示部、80…安定領域、101…イオン源、102…第一細孔、103…第二細孔、104…第三細孔、105…第一差動排気部、106…第二差動排気部、107…高真空室、131…イオンガイド、132…リニアイオントラップ、140…ポンプ、141…ポンプ,142…ポンプ、110…イオンガイドの四重極ロッド電極、200…データ点i、201…質量スペクトルの終端のデータ点
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン源で試料をイオン化する工程と、
イオントラップにイオンを蓄積する工程と、
前記イオントラップから質量選択的にイオンを排出して検出器で検出し、質量スペクトルを取得する工程を有し、
前記質量スペクトルの質量軸を、各イオンが排出される時点で前記イオントラップ内に蓄積されているイオン量に基づいて補正することを特徴とする質量分析方法。
【請求項2】
請求項1に記載の質量分析方法であって、前記イオントラップにイオンを間欠的に導入するバルブを有し、前記バルブの開閉により間欠的に前記イオントラップにイオンを導入することを特徴とする質量分析方法。
【請求項3】
請求項1に記載の質量分析方法であって、前記イオンを蓄積する工程と前記質量スペクトルを取得する工程との間に、前記イオントラップ内のイオンの一部を排除する工程を有することを特徴とする質量分析方法。
【請求項4】
請求項1に記載の質量分析方法であって、前記質量スペクトルを取得する工程において、前記イオントラップに印加した交流電圧によってイオンを共鳴励起して質量選択的に排出することを特徴とする質量分析方法。
【請求項5】
請求項4に記載の質量分析方法であって、前記質量スペクトルを取得する工程において、イオンを共鳴励起する交流電圧の周波数をスキャンすることを特徴とする質量分析方法。
【請求項6】
請求項4に記載の質量分析方法であって、前記イオントラップにイオンをトラップするポテンシャルを形成する交流電圧を用い、前記質量スペクトルを取得する工程において、前記イオンをトラップするポテンシャルを形成する交流電圧の振幅をスキャンすることを特徴とする質量分析方法。
【請求項7】
請求項1に記載の質量分析方法であって、補正対象のイオンが排出される時点で前記イオントラップ内に蓄積されている各イオンの信号強度を、それぞれのイオンが補正対象のイオンに及ぼす空間電荷の影響で重みづけした値を用いて質量スペクトルの質量軸を補正することを特徴とする質量分析方法。
【請求項8】
請求項1に記載の質量分析方法であって、前駆体イオンの質量の情報を含むリストを保存した制御部を有し、各イオンが排出される時点でイオントラップ内に蓄積されているイオン量に基づいて補正した質量スペクトルから、前記リストの前駆体イオンの有無を判定して、MS/MS測定を行うことを特徴とする質量分析方法。
【請求項1】
イオン源で試料をイオン化する工程と、
イオントラップにイオンを蓄積する工程と、
前記イオントラップから質量選択的にイオンを排出して検出器で検出し、質量スペクトルを取得する工程を有し、
前記質量スペクトルの質量軸を、各イオンが排出される時点で前記イオントラップ内に蓄積されているイオン量に基づいて補正することを特徴とする質量分析方法。
【請求項2】
請求項1に記載の質量分析方法であって、前記イオントラップにイオンを間欠的に導入するバルブを有し、前記バルブの開閉により間欠的に前記イオントラップにイオンを導入することを特徴とする質量分析方法。
【請求項3】
請求項1に記載の質量分析方法であって、前記イオンを蓄積する工程と前記質量スペクトルを取得する工程との間に、前記イオントラップ内のイオンの一部を排除する工程を有することを特徴とする質量分析方法。
【請求項4】
請求項1に記載の質量分析方法であって、前記質量スペクトルを取得する工程において、前記イオントラップに印加した交流電圧によってイオンを共鳴励起して質量選択的に排出することを特徴とする質量分析方法。
【請求項5】
請求項4に記載の質量分析方法であって、前記質量スペクトルを取得する工程において、イオンを共鳴励起する交流電圧の周波数をスキャンすることを特徴とする質量分析方法。
【請求項6】
請求項4に記載の質量分析方法であって、前記イオントラップにイオンをトラップするポテンシャルを形成する交流電圧を用い、前記質量スペクトルを取得する工程において、前記イオンをトラップするポテンシャルを形成する交流電圧の振幅をスキャンすることを特徴とする質量分析方法。
【請求項7】
請求項1に記載の質量分析方法であって、補正対象のイオンが排出される時点で前記イオントラップ内に蓄積されている各イオンの信号強度を、それぞれのイオンが補正対象のイオンに及ぼす空間電荷の影響で重みづけした値を用いて質量スペクトルの質量軸を補正することを特徴とする質量分析方法。
【請求項8】
請求項1に記載の質量分析方法であって、前駆体イオンの質量の情報を含むリストを保存した制御部を有し、各イオンが排出される時点でイオントラップ内に蓄積されているイオン量に基づいて補正した質量スペクトルから、前記リストの前駆体イオンの有無を判定して、MS/MS測定を行うことを特徴とする質量分析方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図9】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図16】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図9】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図16】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図15】
【公開番号】特開2013−7637(P2013−7637A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−140089(P2011−140089)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】
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