説明

赤外線フィルタ及びその製造方法

【課題】製造時や廃棄時における赤外線フィルタの取り扱いを容易にする。
【解決手段】赤外線フィルタ1は、赤外線を透過する基板2と、基板2表面上に交互に多層積層されたGe膜及びHfO膜とを備え、HfO膜は(111)面と(−111)面を主とする面方向に配向した結晶構造を有する。これにより、多層膜構造を形成する際にZnSを使用しないので、製造時や廃棄時における赤外線フィルタの取り扱いを容易にすることができる。また、HfO膜は(111)面と(−111)面を主とする面方向に配向した結晶構造を有するので、Ge膜とHfO膜の密着力が高まり、高強度の赤外線フィルタを提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体や動物等の対象物を検知するセンサに適用して好適な赤外線フィルタ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、多層積層された膜それぞれの界面における光の干渉現象を利用することにより赤外線波長領域の光のみを透過させる赤外線フィルタが知られている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−317701号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の赤外線フィルタは、多層膜構造の一部にZnS(硫化亜鉛)を使用しているために、成膜時に発生する異臭を避けるために専用の成膜室を設ける必要がある等、製造時や廃棄時の取り扱いが困難であった。
【0004】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、製造時や廃棄時の取り扱いが容易な赤外線フィルタ及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明に係る赤外線フィルタは、赤外線を透過する基板と、基板表面上に交互に多層積層されたGe膜及びHfO膜とを備え、HfO膜は(111)面と(−111)面を主とする面方向に配向した結晶構造を有することを特徴とする。また、本発明に係る赤外線フィルタの製造方法は、イオンビームアシスト蒸着法を利用して赤外線を透過する基板表面上にGe膜とHfO膜を交互に多層積層する工程と、HfO膜が(111)面と(−111)面を主とする面方向に配向した結晶構造を有するようにイオン加速電圧を調整する工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係る赤外線フィルタ及びその製造方法によれば、多層膜構造を形成する際にZnSを使用しないので、製造時や廃棄時における赤外線フィルタの取り扱いを容易にすることができる。また、本発明に係る赤外線フィルタ及びその製造方法によれば、HfO膜は(111)面と(−111)面を主とする面方向に配向した結晶構造を有するので、Ge膜とHfO膜の密着力が高まり、高強度の赤外線フィルタを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態となる赤外線フィルタの構成及びその製造方法について詳しく説明する。
【0008】
〔赤外線フィルタの構成〕
本発明の実施形態となる赤外線フィルタ1は、図1に示すように、赤外線を透過する基板2と、基板2表面上に交互に多層積層されたGe膜(ゲルマニウム膜)及びHfO膜(ハフニウム酸化膜)とを備える。
【0009】
〔赤外線フィルタの製造方法〕
上記赤外線フィルタ1は、図2に示すようなRFイオンビーム銃11からSiウェハ等の基板2表面に向けてイオンビームを照射しながら蒸着材料が充填された坩堝12を加熱することにより基板2表面上に成膜するイオンビームアシスト蒸着装置13により製造される。具体的には、基板2表面上にGe膜を成膜する際は、RFイオンビーム銃11からAr(アルゴン)イオンビームを照射しながら坩堝12を加熱することにより、基板2表面上にGeを蒸着させる。また、基板2表面上にHfO膜を成膜する際は、RFイオンビーム銃11からO(酸素)イオンビームを照射しながら坩堝12を加熱することにより、基板2表面上にHfOを蒸着させる。なお、各膜の成膜レートは、水晶センサ14によって検出され、所定の大きさになるように調整されている。そして、赤外光源15から基板2の裏面に向けて赤外線光を照射し、基板2と多層膜を透過してきた赤外線光を赤外光センサ16によって検出すると共に、可視光センサ17によって基板2の裏面において反射した光を検出する光学センサ18によって、製造された赤外線フィルタ1の性能を評価する。
【0010】
なお、基板2表面上に形成される多層膜における光の屈折率は、RFイオンビーム銃11からのイオンビームの照射条件、換言すれば、輸送比を調整することにより制御することができる。なお、「輸送比」とは、基板2表面に到達するイオンの数を基板2表面に到達する蒸着原子の数で割った値を示す。具体的には、HfO膜における光の屈折率を調整する場合には、基板温度を300[℃],蒸着レートを2.0[Å/sec]で固定した状態で輸送比を変化させることにより、図3に示すようにHfO膜における光の屈折率を1.99〜2.89の範囲で調整することができる。なお、HfO膜における光の屈折率が2.04以下である場合には、多層膜はテープ試験(市販のセロテープ(登録商標)を膜表面に貼り付け、表面垂直方向に一定の力で引っ張ることにより、膜が剥がれるか否かを評価することにより、Ge膜とHfO膜の密着力を調べる試験)に合格しなかったので、HfO膜における光の屈折率は2.06以上であることが望ましい。
【0011】
また、基板温度を300[℃],蒸着レートを2.0[Å/sec]で固定した状態でイオン加速電圧を700〜1000[V]の範囲で変化させた場合には、図4(a)のX線回折図形に示すように、イオン加速電圧が900[V]以上である時はHfO膜は(111)面と(−111)面を主とした面方向に配向した結晶構造を有し、イオン加速電圧が900[V]以下である時はHfO膜は(002)面を主とした面方向に配向した結晶構造を有することがわかった。そして、イオン加速電圧を変化させて製造した赤外線フィルタについて上述のテープ試験を行った所、イオン加速電圧を900[V]以上として製造した赤外線フィルタはテープ試験に合格したのに対し、イオン加速電圧を900[V]以下として製造した赤外線フィルタはテープ試験に不合格であった。このことから、イオン加速電圧を900[V]以上程度とし、HfO膜は(111)面と(−111)面を主とした面方向に配向した結晶構造を有するようにすることにより、Ge膜とHfO膜の密着力が強い赤外線フィルタが製造できることがわかった。
【0012】
以上の説明から明らかなように、本発明の実施形態となる赤外線フィルタ1は、赤外線を透過する基板2と、基板2表面上に交互に多層積層されたGe膜及びHfO膜とを備え、HfO膜は(111)面と(−111)面を主とする面方向に配向した結晶構造を有する。そして、このような構成によれば、多層膜構造を形成する際にZnSを使用することがないので、製造時や廃棄時における赤外線フィルタの取り扱いを容易にすることができる。
【0013】
また、本発明の実施形態となる赤外線フィルタ1によれば、HfO膜は(111)面と(−111)面を主とする面方向に配向した結晶構造を有するので、Ge膜とHfO膜の密着力が高まり、強度が高い赤外線フィルタを提供することができる。また、本発明の実施形態となる赤外線フィルタ1によれば、Ge膜及びHfO膜はイオンビームアシスト蒸着法により成膜されるので、イオンの衝突効果によって緻密で密着性のよい多層膜を成膜することができる。
【0014】
以上、本発明者らによってなされた発明を適用した実施の形態について説明したが、この実施の形態による本発明の開示の一部をなす論述及び図面により本発明は限定されることはない。例えば、多層膜を成膜する際は、図5(b)に示すように、50[μm]程度の膜厚を有するNi−Fe等のメタルマスクを4インチのSiウェハ21のメッシュ域R(有効径φ90。メッシュ域R内を構成する各メッシュの寸法は図5(a)に示す)にマスキングすることによりダイジングラインを付けるようにしてもよい。このような構成によれば、HfO膜のような硬質膜であっても容易にダイジングを行うことができる。このように、上記実施の形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれることは勿論であることを付け加えておく。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態となる赤外線フィルタの構成を示す断面図である。
【図2】図1に示す赤外線フィルタを製造する際に用いられるイオンビームアシスト蒸着装置の構成を示す模式図である。
【図3】輸送比の変化に対するHfO膜における光の屈折率の変化を示す図である。
【図4】イオン加速電圧の変化に対するHfO膜の結晶方位の変化を示すX線回折図形である。
【図5】成膜時に基板にマスキングされるダイジングラインを示す図である。
【符号の説明】
【0016】
1:赤外線フィルタ
2:基板
11:RFイオン銃
12:坩堝
13:イオンビームアシスト蒸着装置
14:水晶センサ
15:赤外光源
16:赤外光センサ
17:可視光センサ
18:光学モニタ
21:Siウェハ
R:メッシュ域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線を透過する基板と、
前記基板表面上に交互に多層積層されたGe膜及びHfO膜とを備え、
前記HfO膜は(111)面と(−111)面を主とする面方向に配向した結晶構造を有すること
を特徴とする赤外線フィルタ。
【請求項2】
イオンビームアシスト蒸着法を利用して赤外線を透過する基板表面上にGe膜とHfO膜を交互に多層積層する工程と、
HfO膜が(111)面と(−111)面を主とする面方向に配向した結晶構造を有するようにイオン加速電圧を調整する工程と
を有することを特徴とする赤外線フィルタの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−199378(P2007−199378A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−17694(P2006−17694)
【出願日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】