説明

赤外線分光器および赤外線分光測定装置

【課題】赤外線分光測定装置における検出器の長寿命化を図り、しかも測定対象体に含まれている複数種類の成分についてのパラメータを短時間で測定させ得る赤外線分光器を提供する。
【解決手段】赤外線分光測定装置における光源と検出器との間に配設されて光源から放射された測定光を分光する赤外線分光器であって、透過波長固定型の第1光学フィルタと、第1波長(波長Wa)から第2波長(波長Wb)まで透過波長を変化可能な透過波長可変型の第2光学フィルタとを備え、第1光学フィルタは、第1波長から第2波長までの間に測定光の透過を規制する透過規制波長領域(波長W1,W2間の領域)が1つ以上規定されて第1波長から第2波長までの間に不連続の複数の透過許容波長領域(波長W1を中心とする波長領域、および波長W2を中心とする波長領域の2つの波長領域)が規定された多波長光学フィルタで構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線分光器、および赤外線分光器を備えて測定対象体に含まれている所定の成分についての所定のパラメータを測定する赤外線分光測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の赤外線分光器、および赤外線分光器を備えた赤外線分光測定装置として、特許第3778996号公報にNDIR(Non Dispersive Infrared Gas Anaryzer)測定装置が開示されている。このNDIR測定装置(以下、単に「測定装置」ともいう)は、広帯域赤外線熱源で構成された光源(放射線源)と、光源からの測定光(放射線)を検出する検出器(検知器)とを備えている。また、この測定装置は、測定対象のガスを収容する測定セル(測定チャンネル)と、赤外線分光器とが光源と検出器との間に配設され、検出器によって検出された測定光の光量(赤外線吸収スペクトル)に基づき、測定セル内に収容されているガスに含まれている二酸化炭素の濃度を測定する構成が採用されている。この場合、この測定装置では、透過波長固定型の第1光学フィルタ(ロングパス光学フィルタ)と、透過波長可変型の第2光学フィルタ(ショートエタロン干渉計)とを備えて上記の赤外線分光器が構成されている。
【0003】
この測定装置を用いた二酸化炭素の濃度の測定に際しては、光源から測定光を放射させた状態において、第2光学フィルタの透過波長を変化させつつ、検出器によって測定光を検出する。この場合、図5に示すように、この測定装置に配設されている第1光学フィルタは、所定の波長よりも短い波長の光の透過を許容する光学特性(所定の波長よりも長い波長の光の透過を規制する光学特性:実線L0xで示す透過率特性)を有している。また、二酸化炭素は、波長W1を中心とする波長領域内の赤外線を吸収する特性(同図に一点鎖線L1で示す吸収率特性)を有している。したがって、この測定装置では、まず、上記の波長W1よりも短い波長Wa1から、第1光学フィルタ4によって透過が規制されている波長Wbまで矢印Axで示すように第2光学フィルタの透過波長を変化させつつ、この際に検出器によって検出された測定光の光量(受光量)を取得する。これにより、光源から放射されて測定セルを透過した測定光のうち、二酸化炭素による吸収が顕著な波長W1近傍の波長(吸収帯域波長)を含む波長の光の受光量が取得される。
【0004】
次いで、上記の波長W1よりも長い波長Wa2から上記の波長Wbまで矢印Bxで示すように第2光学フィルタの透過波長を変化させつつ、この際に検出器によって検出された測定光の光量(受光量)を取得する。これにより、光源から放射されて測定セルを透過した測定光のうち、二酸化炭素による吸収が顕著な波長W1近傍の波長を除く波長(参照波長)の光の受光量が取得される。なお、この測定装置では、実際には、ノイズの影響を排除するために、上記の第1光学フィルタによる透過が規制されている波長領域内で例えば矢印Cxで示すように第2光学フィルタの透過波長を変化させ、その際に検出器によって検出される光の光量を取得しているが、この受光量の取得処理、および取得した受光量に基づくノイズの除去処理に関する説明を省略する。
【0005】
続いて、第2光学フィルタの透過波長を波長Wa1から波長Wbまで変化させた際の受光量から、第2光学フィルタの透過波長を波長Wa2から波長Wbまで変化させた際の受光量を差し引く。これにより、測定セル3を通過した測定光のうち、二酸化炭素による吸収が顕著な波長W1を中心とする波長領域(この例では、波長Wa2〜Wa1の波長領域内)の光の検出器による検出量(赤外線吸収スペクトル)が測定される。次いで、測定した検出量と測定用基準値とに基づき、測定セル内のガスに含まれている二酸化炭素の濃度を演算する。具体的には、上記の測定処理時には、光源から放射された測定光のうち、波長W1を中心とする波長領域内の測定光が測定セル内の二酸化炭素の濃度に応じて測定セル内で二酸化炭素によって吸収される。したがって、二酸化炭素の濃度が高いときには、上記の波長Wa2〜Wa1の波長領域内の光の受光量が少量となり、二酸化炭素の濃度が低いときには、上記の波長Wa2〜Wa1の波長領域内の光の受光量が多量となる。したがって、上記の測定した受光量と測定用基準値とに基づき、二酸化炭素の濃度を測定することが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3778996号公報(第5−8頁、第1−4図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、従来の測定装置には、以下の問題点が存在する。すなわち、従来の測定装置では、第2光学フィルタの透過波長を波長Wa1から波長Wbまで変化させつつ検出器による測定光の受光量を取得する処理(以下、「第1処理」ともいう)と、第2光学フィルタの透過波長を波長Wa2から波長Wbまで変化させつつ検出器による測定光の受光量を取得する処理(以下、「第2処理」ともいう)とを実行することによって、測定セルを通過した測定光のうちの二酸化炭素による吸収が顕著な波長W1を含む波長Wa2〜Wa1の波長領域内の光の受光量を取得する構成が採用されている。このため、従来の測定装置では、1種類の気体(この例では、二酸化炭素)の濃度を測定するために第2光学フィルタの透過波長を2回に亘って変化させる必要があり、これに起因して、測定時間の短縮が困難となっている。また、従来の測定装置では、1種類の気体の濃度を測定するために第2光学フィルタの透過波長を2回に亘って変化させていることに起因して、第2光学フィルタの長寿命化が困難となっている。
【0008】
さらに、従来の測定装置では、上記の第1処理時において、二酸化炭素による吸収が顕著な波長領域の光だけでなく、二酸化炭素による吸収率が低い波長領域の光を含んだ受光量が取得される。このため、従来の測定装置では、第1処理によって取得した受光量から第2処理によって取得した受光量(二酸化炭素による吸収率が低い波長領域の光の受光量)を差し引く演算処理が必要となっており、これに起因して測定処理の短縮が一層困難となっている。この場合、従来の測定装置では、上記したように、1種類の気体(この例では、二酸化炭素)の濃度を測定するだけでも、第1処理および第2処理の2つの処理を実行する必要があり、2種類以上の気体の濃度を測定する際には、さらに複数回の処理が必要となる。このため、従来の測定装置では、複数種類の気体の濃度を測定するときに、測定時間がさらに長時間化するだけでなく、第2光学フィルタの長寿命化が一層困難となるという問題点が生じている。
【0009】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、検出器の長寿命化を図り、しかも測定対象体に含まれている複数種類の成分についてのパラメータを短時間で測定し得る赤外線分光器および赤外線分光測定装置を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成すべく請求項1記載の赤外線分光器は、赤外線分光測定装置における光源と検出器との間に配設されて当該光源から放射された測定光を分光する赤外線分光器であって、透過波長固定型の第1光学フィルタと、第1波長から第2波長まで透過波長を変化可能な透過波長可変型の第2光学フィルタとを備え、前記第1光学フィルタが、前記第1波長から前記第2波長までの間に前記測定光の透過を規制する透過規制波長領域が1つ以上規定されて当該第1波長から当該第2波長までの間に不連続の複数の透過許容波長領域が規定された多波長光学フィルタで構成されている。
【0011】
また、請求項2記載の赤外線分光測定装置は、赤外線波長領域の光を含む測定光を放射する光源と、前記測定光を検出して検出結果を出力する検出器とを備えると共に、透過波長固定型の第1光学フィルタおよび透過波長可変型の第2光学フィルタを有する赤外線分光器とが前記光源および前記検出器の間に配設され、第1波長から第2波長まで前記第2光学フィルタの透過波長を変化させつつ、前記測定対象体および前記赤外線分光器を透過した前記測定光を前記検出器によって検出する赤外線分光測定装置であって、前記第1光学フィルタが、前記第1波長から前記第2波長までの間に前記測定光の透過を規制する透過規制波長領域が1つ以上規定されて当該第1波長から当該第2波長までの間に不連続の複数の透過許容波長領域が規定された多波長光学フィルタを備えて構成されている。なお、上記の「測定対象体」には、「気体」、「液体」および「固体」の各種態様の測定対象体がこれに含まれる。
【0012】
さらに、請求項3記載の赤外線分光測定装置は、請求項2記載の赤外線分光測定装置において、前記検出結果に基づいて前記測定対象体についての所定のパラメータを測定する測定部を備えている。
【0013】
また、請求項4記載の赤外線分光測定装置は、請求項3記載の赤外線分光測定装置において、前記測定部が、前記所定のパラメータとして、前記検出結果に基づいて前記測定対象体に含まれている所定の成分の濃度を測定可能に構成されている。
【発明の効果】
【0014】
請求項1記載の赤外線分光器、および請求項2記載の赤外線分光測定装置によれば、透過波長固定型の第1光学フィルタと、第1波長から第2波長まで透過波長を変化可能な透過波長可変型の第2光学フィルタとを備えて赤外線分光器を構成すると共に、第1波長から第2波長までの間に測定光の透過を規制する透過規制波長領域が規定されて第1波長から第2波長までの間に不連続の複数の透過許容波長領域が規定された多波長光学フィルタで第1光学フィルタを構成したことにより、第2光学フィルタの透過波長を1回変更するだけで、2種類の成分(例えば、大気中に含まれる二酸化炭素および二酸化硫黄)の濃度を測定することができるため、測定時間を短縮することができるだけでなく、第2光学フィルタの長寿命化を図ることができる。また、煩雑な演算処理を実行することなく、所望の成分の濃度を測定することができるため、この赤外線分光器、および赤外線分光器を備えた赤外線分光測定装置によれば、測定時間を大幅に短縮することができる。
【0015】
また、請求項3記載の赤外線分光測定装置では、検出器の検出結果に基づいて測定対象体についての所定のパラメータを測定する測定部を備えている。また、請求項4記載の赤外線分光測定装置では、測定部が、所定のパラメータとして、検出器の検出結果に基づいて測定対象体に含まれている所定の成分の濃度を測定する。したがって、この赤外線分光測定装置によれば、例えば、検出器の検出結果(赤外線吸収スペクトル)を測定結果として出力する構成の赤外線分光測定装置と比較して、所望の成分についてのパラメータ(濃度等)と赤外線吸収スペクトルとの対応関係を表す資料を参照して利用者がこれらのパラメータを特定するといった煩雑な作業を行うことなく、所望の成分についてのパラメータを短時間で容易に取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】赤外線分光測定装置1の構成を示す構成図である。
【図2】赤外線分光測定装置1における第1光学フィルタ4の光透過特性と、赤外線分光測定装置1における第2光学フィルタ5の透過波長可変範囲と、測定対象ガス中の二酸化炭素および二酸化硫黄の赤外線吸収率との関係について説明するための説明図である。
【図3】赤外線分光測定装置1Aの構成を示す構成図である。
【図4】赤外線分光測定装置1Bの構成を示す構成図である。
【図5】従来の測定装置における第1光学フィルタの光透過特性と、従来の測定装置における第2光学フィルタの透過波長可変範囲と、測定対象ガス中の二酸化炭素の赤外線吸収率との関係について説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る赤外線分光器および赤外線分光測定装置の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
【0018】
図1に示す赤外線分光測定装置1は、測定対象体の一例である気体(「大気」や、機械設備からの「排気」等)に含まれている二酸化炭素および二酸化硫黄の2種類の気体(「所定の成分」の一例)の濃度(「所定のパラメータ」の一例)を測定可能に構成された測定装置であって、光源2、測定セル3、第1光学フィルタ4、第2光学フィルタ5、検出器6、制御部7および記憶部8を備えている。光源2は、白熱灯やハロゲンランプ等で構成され、制御部7の制御に従って赤外線波長領域の光を含む測定光R0を放射する。測定セル(収容部)3は、測定対象体の一例である気体を収容可能に構成されて光源2および検出器6の間に規定された測定位置に気体を位置させる。なお、測定対象物としての「液体」についてのパラメータを測定する場合には、上記の測定セル3に代えて、液体を収容して測定位置に位置させる収容部を配設し、測定対象物としての「固体」についてのパラメータを測定する場合には、上記の測定セル3に代えて、固体を保持して測定位置に位置させる保持部を配設する。
【0019】
第1光学フィルタ4は、第2光学フィルタ5と相俟って赤外線分光器10を構成する。この場合、図2に示すように、所定の成分の一例である二酸化炭素は、波長W1を中心とする波長領域内の赤外線を吸収する特性(一点鎖線L1で示す吸収率特性)を有している。また、二酸化硫黄は、波長W2を中心とする波長領域内の赤外線を吸収する特性(二点鎖線L2で示す吸収率特性)を有している。一方、第1光学フィルタ4は、透過波長固定型の光学フィルタであって、上記の二酸化炭素による吸収が顕著な波長W1を中心とする波長領域と、二酸化硫黄による吸収が顕著な波長W2を中心とする波長領域との2つの波長領域の光の透過を許容し、その他の波長の光の透過を規制する光学特性(実線L0で示す透過率特性)を有する多波長光学フィルタで構成されている。
【0020】
なお、この第1光学フィルタ4では、波長W1を中心とする波長領域、および波長W2を中心とする波長領域の2つの波長領域が「不連続の複数の透過許容波長領域」に相当すると共に、波長W1,W2の間の波長Wcを中心とする波長領域、波長Wa近傍の波長領域、および波長Wb近傍の波長領域の3つの波長領域が「1つ以上の透過規制波長領域」に相当する。この場合、上記の第1光学フィルタ4における波長Wa近傍の波長領域(波長W1を中心とする透過許容波長領域よりも短い波長の領域)、および波長Wb近傍の波長領域(波長W2を中心とする透過許容波長領域よりも長い波長の領域)については、透過許容波長領域とすることもできる(「透過規制波長領域」が1つの構成の例)。また、第2光学フィルタ5は、透過波長可変型の光学フィルタであって、一例として、ファブリペロ光学フィルタで構成されて、後述するように、制御部7の制御に従い、波長Wa(第1波長の一例)から波長Wb(第2波長の一例)まで矢印Aで示すように透過波長を変化させる。
【0021】
検出器6は、いわゆる赤外線センサであって、図1に示すように、光源2から放射されて測定セル3および赤外線分光器10(第1光学フィルタ4および第2光学フィルタ5)を透過した測定光R3(「測定対象体および赤外線分光器を透過した測定光」の一例)を受光して(検出して)検出信号S(「検出結果」の一例)を出力する。制御部7は、赤外線分光測定装置1を総括的に制御する。具体的には、制御部7は、光源2を制御して測定光R0を放射させると共に、第2光学フィルタ5を制御して透過波長を変化させる。また、制御部7は、測定部として機能して検出器6からの検出信号Sに基づいて二酸化炭素および二酸化硫黄の濃度を測定する。
【0022】
記憶部8は、測定用基準データDや制御部7の動作プログラムを記憶する。この場合。測定用基準データDは、上記の波長W1を中心とする波長領域の測定光R3の検出器6による受光量と二酸化炭素の濃度との関係を特定可能なデータ、および上記の波長W2を中心とする波長領域の測定光R3の検出器6による受光量と二酸化硫黄の濃度との関係を特定可能なデータで構成されている。なお、この赤外線分光測定装置1は、上記の測定セル3内に測定対象の気体を送風する送風機構、または、測定セル3内の気体を排気する排気機構に接続されているが、赤外線分光測定装置1の構成および動作原理についての理解を容易とするために、これらに関する図示および説明を省略する。
【0023】
この赤外線分光測定装置1を用いた二酸化炭素および二酸化硫黄の濃度の測定に際しては、まず、測定対象の気体を測定セル3内に収容した状態において、図示しない操作部を操作して測定開始を指示する。これに応じて、制御部7は、光源2を制御して測定光R0を放射させる。この際に、測定セル3内の気体に二酸化炭素および二酸化硫黄が含まれているときには、光源2からの測定光R0が測定セル3を通過(透過)する際に、波長W1を中心とする波長領域の測定光R0が二酸化炭素によって吸収されると共に、波長W2を中心とする波長領域の測定光R0が二酸化硫黄によって吸収される。したがって、測定セル3を通過した測定光R1は、測定セル3内の二酸化炭素や二酸化硫黄の濃度に応じて、波長W1を中心とする波長領域および波長W2を中心とする波長領域の光が減少した状態となる。
【0024】
また、測定セル3を透過した測定光R1は、第1光学フィルタ4を通過(透過)する際に、上記の波長W1,W2の間の波長Wcを中心とする波長領域と、後述するように第2光学フィルタ5の透過波長を変化させる際の開始波長である波長Wa近傍の波長領域と、第2光学フィルタ5の透過波長を変化させる際の終了波長である波長Wb近傍の波長領域との3つの波長領域において測定光R1の透過が規制される。したがって、第1光学フィルタ4を通過した測定光R2に含まれている光の大半は、二酸化炭素による吸収が顕著な波長W1を中心とする波長領域と、二酸化硫黄による吸収が顕著な波長W2を中心とする波長領域との2つの波長領域の光となる。
【0025】
次いで、制御部7は、第2光学フィルタ5を制御して、その透過波長を図2に矢印Aで示すように波長Waから波長Wbまで変化させる。この場合、第2光学フィルタ5の透過波長を変化させた直後(図2に矢印Aa1で示す変化範囲)においては、第1光学フィルタ4によって透過が規制されている波長領域のため、第2光学フィルタ5に対して測定光R2が殆ど入射せず、結果として、検出器6によって測定光R3が殆ど受光されない状態となる。また、第2光学フィルタ5の透過波長が波長W1を中心とする波長領域内の波長となったとき(図2に矢印Aa2で示す変化範囲)には、光源2から放射された測定光R0のうちの測定セル3内の二酸化炭素によって吸収されなかった測定光R1であって第1光学フィルタ4の透過を許容された測定光R2が第2光学フィルタ5を透過して測定光R3として検出器6によって受光されることとなる。この際には、検出器6が測定光R3の受光量に応じて検出信号Sを制御部7に出力する。
【0026】
さらに、第2光学フィルタ5の透過波長が波長W1を中心とする波長領域内を外れたとき(図2に矢印Aa3,Ab1で示す変化範囲)には、第1光学フィルタ4によって透過が規制されている波長領域のため、第2光学フィルタ5に対して測定光R2が殆ど入射せず、結果として、検出器6によって測定光R3が殆ど受光されない状態となる。また、第2光学フィルタ5の透過波長が波長W2を中心とする波長領域内の波長となったとき(図2に矢印Ab2で示す変化範囲)には、光源2から放射された測定光R0のうちの測定セル3内の二酸化硫黄によって吸収されなかった測定光R1であって第1光学フィルタ4の透過を許容された測定光R2が第2光学フィルタ5を透過して測定光R3として検出器6によって受光されることとなる。この際には、検出器6が測定光R3の受光量に応じて検出信号Sを制御部7に出力する。
【0027】
さらに、第2光学フィルタ5の透過波長が波長W2を中心とする波長領域内を外れて波長Wbに近付いたとき(図2に矢印Ab3で示す変化範囲)には、第1光学フィルタ4によって透過が規制されている波長領域のため、第2光学フィルタ5に対して測定光R2が殆ど入射せず、結果として、検出器6によって測定光R3が殆ど受光されない状態となる。このように、第2光学フィルタ5の透過領域を波長Waから波長Wbまで変化させることにより、第1光学フィルタ4の透過が許容された波長W1を中心とする波長領域の測定光R3と、第1光学フィルタ4の透過が許容された波長W2を中心とする波長領域の測定光R3とが検出器6に対して順次入射し、検出器6から受光量に応じた検出信号Sが制御部7に出力される。次いで、制御部7は、検出器6から出力された検出信号Sと、記憶部8に記憶されている測定用基準データDとに基づき、測定セル3内の気体に含まれている二酸化炭素および二酸化硫黄の両気体の濃度を測定する「検出器の検出結果に基づいて測定対象体についての所定のパラメータを測定する」との処理の一例であって、「所定のパラメータとして、検出結果に基づいて測定対象体に含まれている所定の成分の濃度を測定する」との処理の一例)。
【0028】
この場合、測定セル3内の気体に二酸化炭素が含まれているときには、光源2から放射された測定光R0のうちの波長W1を中心とする波長領域内の光が測定セル3内の二酸化炭素によって吸収される。このため、第2光学フィルタ5の透過波長を図2に矢印Aa2の範囲で変化させているときに検出器6によって受光される(検出される)測定光R3が減少し、その減少の度合いが二酸化炭素の濃度に比例する。したがって、制御部7は、第2光学フィルタ5の透過波長を図2に矢印Aaで示すように変化させているとき(第1光学フィルタ4によって透過が規制されている波長Wa近傍の波長領域、第1光学フィルタ4によって透過が許容されている波長W1を中心とする波長領域、および第1光学フィルタ4によって透過が規制されている波長Wc近傍の波長領域をこの順で変化させているとき)に検出器6から出力された検出信号S(この例では、第2光学フィルタ5の透過波長の変化を開始してから最初に出力された検出信号S)に基づいて検出器6による受光量を特定し、特定した受光量に関連付けられた濃度を測定用基準データDのなかから特定して測定セル3内の二酸化炭素の濃度として測定する。
【0029】
一方、測定セル3内の気体に二酸化硫黄が含まれているときには、光源2から放射された測定光R0のうちの波長W2を中心とする波長領域内の光が測定セル3内の二酸化硫黄によって吸収される。このため、第2光学フィルタ5の透過波長を図2に矢印Ab2の範囲で変化させているときに検出器6によって受光される(検出される)測定光R3が減少し、その減少の度合いが二酸化硫黄の濃度に比例する。したがって、制御部7は、第2光学フィルタ5の透過波長を図2に矢印Abで示すように変化させているとき(第1光学フィルタ4によって透過が規制されている波長Wc近傍の波長領域、第1光学フィルタ4によって透過が許容されている波長W2を中心とする波長領域、および第1光学フィルタ4によって透過が規制されている波長Wb近傍の波長領域をこの順で変化させているとき)に検出器6から出力された検出信号S(この例では、第2光学フィルタ5の透過波長の変化を開始してから2番目に出力された検出信号S)に基づいて検出器6による受光量を特定し、特定した受光量に関連付けられた濃度を測定用基準データDのなかから特定して測定セル3内の二酸化硫黄の濃度として測定する。
【0030】
この後、制御部7は、上記の測定結果を図示しない表示部に表示させ、一連の測定処理を終了する。なお、測定セル3内に新たな気体が順次送り込まれ、この気体における二酸化炭素および二酸化硫黄の濃度をリアルタイムで継続的に測定する場合には、上記の一連の測定処理を所定時間間隔で繰り返して実行する。これにより、測定セル3内に順次送り込まれる気体に含まれている二酸化炭素および二酸化硫黄の濃度がリアルタイムで表示部に表示される。
【0031】
このように、この赤外線分光器10、および赤外線分光器10を備えた赤外線分光測定装置1によれば、透過波長固定型の第1光学フィルタ4と、波長Wa(第1波長)から波長Wb(第2波長)まで透過波長を変化可能な透過波長可変型の第2光学フィルタ5とを備えて赤外線分光器10を構成すると共に、波長Waから波長Wbまでの間に測定光の透過を規制する透過規制波長領域(この例では、波長Wcを中心とする波長領域、波長Wa近傍の波長領域、および波長Wb近傍の波長領域の3つの波長領域)が規定されて波長Waから波長Wbまでの間に不連続の複数の透過許容波長領域(この例では、波長W1を中心とする波長領域、および波長W2を中心とする波長領域の2つの波長領域)が規定された多波長光学フィルタで第1光学フィルタ4を構成したことにより、第2光学フィルタ5の透過波長を1回変更するだけで、2種類の気体(2種類の成分:この例では、二酸化炭素および二酸化硫黄)の濃度を測定することができるため、測定時間を短縮することができるだけでなく、第2光学フィルタ5の長寿命化を図ることができる。また、煩雑な演算処理を実行することなく、所望の成分の濃度を測定することができるため、この赤外線分光器10、および赤外線分光器10を備えた赤外線分光測定装置1によれば、測定時間を大幅に短縮することができる。
【0032】
また、この赤外線分光測定装置1では、検出器6の検出結果に基づいて測定対象体についての所定のパラメータ(この例では、測定対象体としての「気体」に含まれている「二酸化炭素」および「二酸化硫黄」の濃度)を測定する制御部7(測定部)を備えている。また、この赤外線分光測定装置1では、制御部7が、所定のパラメータとして、検出器6からの検出信号S(検出結果)に基づいて「気体」に含まれている「二酸化炭素」および「二酸化硫黄」の濃度を測定する。したがって、この赤外線分光測定装置1によれば、例えば、検出器6の検出結果(赤外線吸収スペクトル)を測定結果として出力する構成の赤外線分光測定装置と比較して、所望の成分の濃度と赤外線吸収スペクトルとの対応関係を表す資料を参照して利用者がこれらの濃度を特定するといった煩雑な作業を行うことなく、所望の成分の濃度を短時間で容易に取得することができる。
【0033】
なお、赤外線分光測定装置の構成は、上記の赤外線分光測定装置1の構成に限定されない。例えば、光源2寄りに測定セル3を配設すると共に検出器6寄りに赤外線分光器10(第1光学フィルタ4および第2光学フィルタ5)を配設した赤外線分光測定装置1を例に挙げて説明したが、図3に示す赤外線分光測定装置1Aのように、光源2寄りに赤外線分光器10(第1光学フィルタ4および第2光学フィルタ5)を配設すると共に検出器6寄りに測定セル3を配設する構成を採用することもできる。また、図4に示す赤外線分光測定装置1Bのように、赤外線分光器10における第1光学フィルタ4を光源2寄りに配設すると共に第2光学フィルタ5を検出器6寄りに配設し、この第1光学フィルタ4および第2光学フィルタ5の間に測定セル3を配設する構成を採用することもできる。なお、この赤外線分光測定装置1A,1Bにおいて上記の赤外線分光測定装置1と同一の機能を有する構成要素については、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0034】
この赤外線分光測定装置1A,1Bによれば、前述した赤外線分光測定装置1と同様にして、多波長光学フィルタで構成した第1光学フィルタ4を有する赤外線分光器10を備えたことにより、第2光学フィルタ5の透過波長を1回変更するだけで、2種類の気体(2種類の成分:一例として、二酸化炭素および二酸化硫黄)の濃度を測定することができるため、測定時間を短縮することができるだけでなく、第2光学フィルタ5の長寿命化を図ることができる。また、煩雑な演算処理を実行することなく、所望の成分の濃度を測定することができるため、この赤外線分光器10、および赤外線分光器10を備えた赤外線分光測定装置1A,1Bによれば、測定時間を大幅に短縮することができる。
【0035】
また、第1光学フィルタ4を光源2寄りに配置すると共に第2光学フィルタ5を検出器6寄りに配置した赤外線分光器10を例に挙げて説明したが、上記の赤外線分光測定装置1,1A,1Bにおける赤外線分光器10の第1光学フィルタ4と第2光学フィルタ5との配設位置を入れ替えて、第1光学フィルタ4を検出器6寄りに配置すると共に第2光学フィルタ5を光源2寄りに配置して赤外線分光器を構成することもできる(図示せず)。このような構成を採用した場合においても、上記の赤外線分光器10と同様の効果を奏することができる。
【0036】
さらに、測定対象体に含まれている所定の成分としての二酸化炭素および二酸化硫黄の2種類の気体についての測定処理を実行する例について説明したが、濃度等を測定すべき成分の数はこれに限定されず、また、3種類以上の複数の成分についてのパラメータを測定可能に構成することもできる。この場合、3種類以上の成分についての測定を実行するときには、測定すべき成分による吸収が顕著な波長を中心とする不連続の透過許容波長領域(上記の波長W1,W2を中心とする波長領域のように透過を許容する領域)を3つ以上有し、かつ、各透過許容波長領域の間に透過規制波長領域(上記の波長Wcを中心とする波長領域のように透過を規制する領域)を規定した第1光学フィルタを採用する。また、パラメータとしての気体の濃度を測定する例について説明したが、濃度以外の各種パラメータ(温度や圧力など)を測定可能に構成することもできる。加えて、濃度等のパラメータを測定結果として表示するタイプの赤外線分光測定装置だけでなく、検出器6から出力された検出信号Sに基づく赤外線吸収スペクトル(スペクトル図:図示せず)を測定結果として表示する構成を採用することもできる。
【符号の説明】
【0037】
1,1A,1B 赤外線分光測定装置
2 光源
3 測定セル
4 第1光学フィルタ
5 第2光学フィルタ
6 検出器
7 制御部
8 記憶部
10 赤外線分光器
D 測定用基準データ
R0〜R9 測定光
S 検出信号
W1,W2,Wa,Wa1,Wa2,Wb 波長

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線分光測定装置における光源と検出器との間に配設されて当該光源から放射された測定光を分光する赤外線分光器であって、
透過波長固定型の第1光学フィルタと、第1波長から第2波長まで透過波長を変化可能な透過波長可変型の第2光学フィルタとを備え、
前記第1光学フィルタは、前記第1波長から前記第2波長までの間に前記測定光の透過を規制する透過規制波長領域が1つ以上規定されて当該第1波長から当該第2波長までの間に不連続の複数の透過許容波長領域が規定された多波長光学フィルタで構成されている赤外線分光器。
【請求項2】
赤外線波長領域の光を含む測定光を放射する光源と、前記測定光を検出して検出結果を出力する検出器とを備えると共に、透過波長固定型の第1光学フィルタおよび透過波長可変型の第2光学フィルタを有する赤外線分光器とが前記光源および前記検出器の間に配設され、第1波長から第2波長まで前記第2光学フィルタの透過波長を変化させつつ、前記測定対象体および前記赤外線分光器を透過した前記測定光を前記検出器によって検出する赤外線分光測定装置であって、
前記第1光学フィルタは、前記第1波長から前記第2波長までの間に前記測定光の透過を規制する透過規制波長領域が1つ以上規定されて当該第1波長から当該第2波長までの間に不連続の複数の透過許容波長領域が規定された多波長光学フィルタを備えて構成されている赤外線分光測定装置。
【請求項3】
前記検出結果に基づいて前記測定対象体についての所定のパラメータを測定する測定部を備えている請求項2記載の赤外線分光測定装置。
【請求項4】
前記測定部は、前記所定のパラメータとして、前記検出結果に基づいて前記測定対象体に含まれている所定の成分の濃度を測定可能に構成されている請求項3記載の赤外線分光測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−286291(P2010−286291A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−138760(P2009−138760)
【出願日】平成21年6月10日(2009.6.10)
【出願人】(000227180)日置電機株式会社 (982)
【Fターム(参考)】