説明

赤色発光蛍光体およびそれを用いた発光装置

【課題】演色性および耐候性に優れ発光効率が高い赤色発光蛍光体およびそれを用いた発光装置を提供する。
【解決手段】青色光により励起され、赤色に発光する赤色発光蛍光体9であり、組成が下記化学式CaS:Euα,Ceβ,Xγ(但し、式中XはLi,Na,Kから選ばれた少なく共いずれか1種の元素であり、CaSに対してモル%で表わしたα、β及びγは、関係式0.01≦α≦0.5、0.005≦β≦0.1,0.2≦γ≦0.5を満足する)で表わされることを特徴とする赤色発光蛍光体9である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LEDランプなどの発光装置に用いられる赤色発光蛍光体およびそれを用いた発光装置に係り、特に演色性および耐候性に優れ発光効率が高い赤色発光蛍光体およびそれを用いた発光装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、人体に有害な原料を使用せず、無鉛化のような環境保護に対応する技術が世界的に拡大しており、それに同調して、照明用の光源(ランプ)分野においても、有害なHgを含有する従来の蛍光ランプから白色光を発光する発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)ランプへの移行が急速に進行している。
【0003】
一般的な照明用途では、高演色性を有する白色LEDランプが要求されている。また、液晶表示装置(LCD)のバックライトとしては、色再現域の拡大が可能な白色LEDランプが要求されている。
【0004】
このような技術的要求に応えるために、青色発光のLEDチップと黄色蛍光体とを組合せた白色LEDランプに代わり、青色発光のLEDチップと緑色光乃至黄緑色光を発光する緑色系蛍光体と赤色光を発光する赤色蛍光体とを組み合わせた白色LEDランプの開発が進められている。
【0005】
しかしながら、この方式の白色LEDランプは、青色発光のLEDチップと黄色系蛍光体とを組合せたLEDランプに比べて演色性は優れているものの発光効率が低いという問題があった。
【0006】
青色発光のLEDと組合せる赤色蛍光体として、CaS:Eu蛍光体が従来から知られている(例えば、特許文献1参照)。また、最近では窒化物蛍光体のCaAlSiN:Eu蛍光体が実用化され始めている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、いずれの赤色蛍光体の場合でも発光効率の面で十分では無く、より高い発光効率を有する赤色蛍光体の出現が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−188649号公報
【特許文献2】特開2008−166825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記のような技術的課題を解決するためになされたもので、特に演色性および耐候性に優れ発光効率が高い発光装置用蛍光体を提供することを目的としている。また、そのような蛍光体を用いることによって、演色性および耐候性に優れ発光輝度が高い白色LEDランプなどの発光装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明者らは、公知の蛍光体であるCaS:Euの発光効率の向上を目的として蛍光体組成について種々の改良を行った。その結果、特に付活剤としてEuに加え特定の共付活剤を導入することにより、CaS:Eu蛍光体の発光効率が向上し、現在汎用の実用蛍光体である、CaAlSiN:Euと比較して、より明るく発光する高効率蛍光体が得られるという知見を初めて得た。
【0010】
具体的には、CaS:Eu,Ceで実質的に表されるユウロピウム(Eu)、セリウムおよび(Ce)で付活された硫化カルシウム蛍光体またはCaS:Eu,Ce,Xで実質的に表されるユウロピウム(Eu)、セリウム(Ce)およびXで付活された硫化カルシウム蛍光体を主体とし、XはLi,Na,Kから選択された少なくとも1種の元素を含有する蛍光体である。
【0011】
すなわち、本発明に係る赤色発光蛍光体は、青色光により励起され、赤色に発光する赤色発光蛍光体であり、組成が下記化学式
[化1]
CaS:Euα,Ceβ,Xγ
(但し、式中XはLi,Na,Kから選択された少なくとも1種の元素であり、CaSに対してモル%で表わした係数α、β及びγは、関係式0.01≦α≦0.5、0.005≦β≦0.1,0.2≦γ≦0.5を満足する)で表わされることを特徴とする。
【0012】
また、上記の赤色発光蛍光体において、前記係数α、β及びγが、関係式0.05≦α≦0.2,0.01≦β≦0.05、0.3≦γ≦0.4を満足することが、より好ましい。
【0013】
さらに、上記の赤色発光蛍光体において、赤色発光蛍光体の粒子表面が、二酸化珪素(SiO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化ジルコニウム(ZrO)および酸化チタン(TiO)から選択される少なくとも1種の被覆剤で被覆されていることが好ましい。
【0014】
また、上記赤色発光蛍光体において、前記赤色発光蛍光体の粒子表面を被覆する被覆剤の重量が、前記赤色発光蛍光体に対して、1〜20重量%の範囲であることを特徴とする。
【0015】
本発明に係る発光装置は、上記の赤色発光蛍光体と青色発光LEDとを組合せて成ることを特徴とする。
【0016】
また、上記発光装置において、前記赤色発光蛍光体と、緑色乃至黄色に発光する蛍光体とを組み合わせることにより白色光を発する発光装置であることが好ましい。
【0017】
さらに、上記の発光装置において、前記緑色乃至黄色に発光する蛍光体が、Eu付活Srチオガレート蛍光体,Eu付活Caチオガレート蛍光体,Eu付活アルカリ土類オルト珪酸塩系蛍光体,Eu,Mn付活アルカリ土類オルト珪酸塩系蛍光体およびCe付活ガーネット系蛍光体から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の発光装置用蛍光体は、Eu、CeおよびX付活硫化カルシウム蛍光体を主体とし、XはLi,Na,Kから選ばれたいずれか1種の元素を含有し、好ましくは蛍光体表面に二酸化珪素(SiO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化ジルコニウム(ZrO)および酸化チタン(TiO)から選択される少なくとも1種の被覆剤が均一に被覆されている赤色発光蛍光体であるために、青色LEDの励起により高効率で波長変換し、高輝度の赤色光を発光することが可能となる。また、この赤色発光蛍光体と緑色乃至黄色に発光する蛍光体とを組み合わせることにより、高温高湿下(温度70℃・湿度85%)においての輝度維持率(耐候性)および発光輝度が高い白色LEDランプなどの発光装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態である赤色発光蛍光体を使用した発光装置としてのLEDランプの構成を概略的に示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0021】
本発明の第1の実施形態は、ユウロピウム(Eu)、セリウム(Ce)およびX(XはLi,Na,Kから選ばれたいずれか1種の元素)をそれぞれ付活剤および共付活剤として含有した硫化物を主体とする蛍光体である。
【0022】
より具体的には、化学式:CaS:Eu,Ce,Xで実質的に表される組成を有するユウロピウム、セリウムおよびX(XはLi,Na,Kから選ばれたいずれか1種の元素)付活硫化カルシウムを主体として構成され、青色LEDの放射により励起されて赤色光を発光する赤色蛍光体である。
【0023】
第1の実施形態の蛍光体において、Euは発光中心をなす第1の付活剤(主付活剤)であり、高い遷移確率を有しているので発光効率が高い。
【0024】
Euは、蛍光体の母体である硫化カルシウム(CaS)に対して、0.01〜0.5モル%の範囲で含有される。Euのより好ましい含有割合は0.05〜0.2モル%の範囲である。Euの含有割合がこの範囲を外れると、発光輝度や発光色度が低下するため好ましくない。
【0025】
一方、Ceは共付活剤と呼ばれるものであり、蛍光体の母体である硫化カルシウム(CaS)に対して、0.005〜0.1モル%の範囲で含有される。より好ましいCeの含有割合は0.01〜0.05モル%の範囲である。Ceの含有割合がこの範囲を外れると、発光輝度や発光色度が低下するため好ましくない。
【0026】
次に、他の共付活剤であるX成分(Li,Na,Kから選択された少なくとも1種の元素)は、硫化カルシウム(CaS)を付活したEu、Ceを電荷補償するものである。このX成分の含有割合は、蛍光体母体である硫化カルシウム(CaS)に対して0.2〜0.5モル%の範囲とされる。このX成分のより好ましい含有割合は0.3〜0.4モル%の範囲である。X成分の含有割合がこの範囲を外れると、極小粒子化あるいは極大粒子化によって発光輝度が低下するため好ましくない。
【0027】
本発明の第1の実施形態であるユウロピウム、セリウムおよびX(XはLi,Na,Kから選択された少なくとも1種の元素)付活硫化カルシウム蛍光体は、例えば以下に示す方法で製造することができる。すなわち、蛍光体の母体と付活剤(主付活剤および共付活剤)とを構成する元素またはその元素を含有する化合物を含む蛍光体原料を、所望の組成割合(CaS:Euα,Ceβ,Xγ)となるように秤量し、これらを乾式で混合する。
【0028】
具体的には、硫化カルシウムを所定量混合し、付活剤とフラックスとを適量添加することで蛍光体の原料とする。なお、上記硫化カルシウムの代わりに、硫酸カルシウムなどの酸性カルシウム原料を使用してもよい。
【0029】
主付活剤としては、硫化ユウロピウムやシュウ酸ユウロピウムを使用する一方、共付活剤として、硫化セリウムやシュウ酸セリウム、更には炭酸リチウムや塩化リチウム、炭酸ナトリウムや塩化リチウム、炭酸カリウムや塩化カリウムなどを使用することができる。
【0030】
次いで、上記のように調製した蛍光体原料を、適当量の硫黄および活性炭素と共にアルミナるつぼなどの耐熱容器に充填する。硫黄の添加・混合においては、ブレンダなどを使用して蛍光体原料より若干多めに混合し、この混合材料を耐熱容器に充填した後、その充填した原料表面を硫黄で覆うようにすることが好ましい。
【0031】
さらに、上記のように充填した混合材料を、硫化水素雰囲気、硫黄蒸気雰囲気などの硫化性雰囲気、あるいは還元性雰囲気(例えば3〜5%水素−残部窒素の雰囲気)で焼成する。
【0032】
焼成条件は、蛍光体母体(CaS)の結晶構造を制御する上で重要である。焼成温度は800〜1300℃の範囲とすることが好ましい。焼成時間は、設定した焼成温度にもよるが、60〜180分とし、焼成後は焼成と同一雰囲気で冷却することが好ましい。その後、得られた焼成物をイオン交換水などで水洗し乾燥した後、必要に応じて粗大粒子を除去するための篩別などを行うことによって、ユウロピウム、セリウムおよびX(XはLi,Na,Kから選択された少なくとも1種の元素)付活硫化カルシウム(CaS:Euα,Ceβ,Xγ)蛍光体を製造することができる。
【0033】
さらに、蛍光体原料の焼成を、以下に記すように回転式加熱炉を用いて実施することも可能である。すなわち、前記した蛍光体原料を、水平方向に対して傾斜して配置された回転する管状の加熱炉に投入し、連続的に通過させる。そして、この加熱炉内で蛍光体原料を所定の焼成温度まで急速に加熱し、かつ加熱炉の回転に応じて転動させながら炉内を上方から下方へ移動させる。こうして、蛍光体原料を必要かつ十分な時間だけ加熱して焼成する。その後、焼成物を加熱炉から連続的に排出し、排出された焼成物を急速度で冷却する。
【0034】
このような焼成工程において、管状の加熱炉の内部、および加熱炉から排出された焼成物の冷却部は、蛍光体の酸化を防止するために、酸素が除去された無酸素状態に保持されていることが好ましく、特に加熱炉内を、アルゴン、窒素などの不活性ガス雰囲気や水素を含む還元性ガス雰囲気、さらには硫化水素雰囲気に保持することが望ましい。
【0035】
上記のような焼成方法によれば、蛍光体原料が、加熱炉内を移動する過程で転動しながら急速に加熱されるので、無酸素状態でかつ硫化水素雰囲気などで蛍光体原料に均一な熱エネルギーが付加される結果、従来のるつぼを用いた焼成方法に比べて短時間で焼成を完了させることができる。したがって、輝度低下を生じることなく発光効率が良好な蛍光体を得ることができる。
【0036】
また、蛍光体粒子の凝集を効果的に抑制することができるので、焼成後にさらに粉砕を実施する必要がない。したがって、粉砕工程を重ねることによる蛍光体の劣化を抑制することができる。さらに、蛍光体原料は、加熱炉内を転動しながら加熱・焼成されるので、球形に近い形状で均一な粒径を有する蛍光体粒子を得ることができる。
【0037】
また、これらの方法で得られた蛍光体粒子表面を酸化物粒子によって被覆する表面処理を実施することが好ましい。特にSiO・Al・ZrO・TiOのうち少なくとも1種から選択される酸化物による皮膜を蛍光体粒子表面に形成することにより、高温高湿下での蛍光体の耐候性が改善され、赤色発光の経時的な輝度低下が少なく輝度維持率が高くなる。但し、上記酸化物は非発光成分であるために、過量の被覆は大幅な輝度の低下を招来する。
【0038】
上記表面処理は具体的に以下のように実施される。すなわち、前記のように調製された蛍光体粒子をエチルアルコール(COH)中に分散して、分散液を調製する。次に酸化物原料としてのオルト珪酸テトラエチル(Si(OC)、あるいはトリエトキシアルミニウム(Al(OC)、あるいはジルコニウムテトラエトキシド(Zr(OC)、あるいはテトラエチルチタナート(TiOC)のうち少なくとも1種を蛍光体(CaS:Eu,Ce,X)に対して、酸化物(SiO・Al・ZrO・TiOのうち少なくとも1種)換算で、1〜20重量%の範囲で秤量し、分散液中に投入して蛍光体粒子表面に微細な酸化物粒子で被覆するように表面処理を行う。
【0039】
この時、酸化物(SiO,Al,ZrO,TiOのうちの少なくとも1種)の被覆量は1〜20重量%であり、好ましくは5〜15重量%の範囲である。蛍光体分散液の温度は30℃〜80℃に設定することが好ましい。投入後、エチルアルコール成分が蒸発するまで充分に攪拌することにより、蛍光体粒子表面に酸化物(SiO,Al,ZrOおよびTiOのうち少なくとも1種)が均一に被覆された蛍光体が得られる。
【0040】
こうして得られた第1の実施形態に係るユウロピウム、セリウムおよびX(XはLi,Na,Kから選択された少なくとも1種の元素)付活硫化カルシウム(CaS:Euα,Ceβ,Xγ)蛍光体は、青色LEDの放射により励起されて赤色に発光する蛍光体であり、良好な発光効率を有するので、高い発光輝度が得られる。
【0041】
したがって、この蛍光体を赤色蛍光体として用いることにより、発光輝度が高いLEDランプなどの発光装置を実現することができる。
【0042】
次に、第2の実施形態として、上記の赤色蛍光体を含む発光部を有する発光装置としてのLEDランプ(白色LEDランプ)について説明する。
【0043】
図1は、第2の実施形態である発光装置としてのLEDランプの構成を概略的に示す断面図である。発光装置(LED装置)1は、表面に電極3A,3Bを形成した絶縁基板4と、絶縁基板4上に搭載されたLED素子2と、LED素子2を収納する凹部を形成するためのリフレクタ基材6と、リフレクタ基材6の内側に配置されてLED素子2からの発光を正面方向に反射する反射材6aを貼り付けたリフレクタ7と、透明樹脂8中に蛍光体粒子9を分散させた透明樹脂封止層10と、電極3BからLED素子2に通電するためのボンディングワイヤ5とを備えて構成される。
【0044】
実施形態のLEDランプにおいては、発光部である透明樹脂封止層(蛍光体含有層)10に、第1の実施形態の赤色発光蛍光体と共に、青色発光のLEDチップにより励起されて緑色光乃至黄緑色光を発光する緑色系蛍光体を含有させることにより、白色LEDランプを得ることができる。
【0045】
ここで、上記緑色光乃至黄緑色光を発光する緑色系蛍光体としては、Eu付活Srチオガレート蛍光体、Eu付活Caチオガレート蛍光体、Eu付活アルカリ土類オルト珪酸塩系蛍光体、Eu,Mn付活アルカリ土類オルト珪酸塩系蛍光体、Ce付活ガーネット系蛍光体から選択される少なくとも1種の蛍光体が用いられる。このようなLEDランプでは、赤色蛍光体から発光される赤色光と黄緑色系蛍光体から発光される緑色光乃至黄緑色光との混色によって、演色性が高い高輝度の白色光が発光される。
【実施例】
【0046】
以下、本発明の具体的な実施例について記載する。
【0047】
[実施例1〜11](赤色LEDランプ 単色評価)
蛍光体の母体および付活剤を構成する元素またはその元素を含有する化合物を含む原料を、下記の組成、すなわち
実施例1(CaS:Eu含有割合0.01モル%、Ce含有割合0.005モル%)
実施例2(CaS:Eu含有割合0.01モル%、Ce含有割合0.03モル%)
実施例3(CaS:Eu含有割合0.01モル%、Ce含有割合0.1モル%)
実施例4(CaS:Eu含有割合0.06モル%、Ce含有割合0.03モル%)
実施例5(CaS:Eu含有割合0.08モル%、Ce含有割合0.005モル%)
実施例6(CaS:Eu含有割合0.08モル%、Ce含有割合0.03モル%)
実施例7(CaS:Eu含有割合0.08モル%、Ce含有割合0.1モル%)
実施例8(CaS:Eu含有割合0.1モル%、Ce含有割合0.03モル%)
実施例9(CaS:Eu含有割合0.5モル%、Ce含有割合0.005モル%)
実施例10(CaS:Eu含有割合0.5モル%、Ce含有割合0.03モル%)
実施例11(CaS:Eu含有割合0.5モル%、Ce含有割合0.1モル%)
となるように秤量した。さらにCaSに対するX成分としてのKの含有割合は一律に0.3モル%となるように秤量した。
【0048】
さらに上記各蛍光体原料に、フラックスとして過剰の炭酸カリウムを添加して十分に混合した。得られた各蛍光体原料に、硫黄および活性炭素を適当量添加して石英るつぼ内に充填し、これを硫化水素雰囲気で焼成した。焼成条件は950℃×60分とし、得られた各焼成物を1150℃×60分の条件でさらに焼成した。
【0049】
その後、得られた各焼成物を水洗および乾燥しさらに篩別することによって、Eu、CeおよびK付活硫化カルシウム蛍光体(CaS:Euα,Ceβ,Kγ)を得た。
【0050】
[実施例12] (酸化チタン(TiO)表面処理)
また、実施例6と同様の条件で作製した赤色発光蛍光体の表面に酸化チタン(TiO)が15重量%の割合で被覆するようにエチルアルコール及びテトラエチルチタナートを用いて酸化チタンが表面処理されたEu、CeおよびK付活硫化カルシウム蛍光体(CaS:Euα,Ceβ,Kγ+TiO)を作製し実施例12に係る蛍光体を調製した。
【0051】
[実施例13] (酸化ジルコニウム(ZrO)表面処理)
実施例6に係る赤色発光蛍光体粒子表面に酸化ジルコニウム(ZrO)が20重量%の割合で被覆するように、エチルアルコール及びジルコニウムテトラエトキシドを用いて表面処理を実施して実施例12に係るEu、CeおよびK付活硫化カルシウム蛍光体(CaS:Eu,Ce,K+ZrO)を調製した。
【0052】
[実施例14] (酸化アルミニウム(Al)表面処理)
実施例6に係る赤色発光蛍光体粒子表面に酸化アルミニウム(Al)が3重量%被覆するように、エチルアルコール及びトリエトキシアルミニウムを用いて表面処理を実施して実施例14に係るEu、CeおよびK付活硫化カルシウム蛍光体(CaS:Eu,Ce,K+Al)を調製した。
【0053】
[実施例15] (二酸化珪素(SiO)表面処理)
実施例6に係る赤色発光蛍光体粒子表面に二酸化珪素(SiO)が6重量%被覆するようにエチルアルコール及び珪酸テトラエチルを用いて表面処理を実施して実施例15に係るEu、CeおよびK付活硫化カルシウム蛍光体(CaS:Eu,Ce,K+SiO)を調製した。
【0054】
[実施例16] (酸化チタン(TiO)+二酸化珪素(SiO)表面処理)
実施例6に係る赤色発光蛍光体粒子表面に酸化チタン(TiO)が5重量%及び二酸化珪素(SiO)が3重量%被覆するようにエチルアルコール及びテトラエチルチタナート、珪酸テトラエチルを用いて表面処理を実施して実施例16に係るEu、CeおよびK付活硫化カルシウム蛍光体(CaS:Eu,Ce,K+TiO+SiO)を調製した。
【0055】
[実施例17] (酸化ジルコニウム(ZrO)+酸化アルミニウム(Al)表面処理)
実施例6に係る赤色発光蛍光体粒子表面に酸化ジルコニウム(ZrO)が10重量%及び酸化アルミニウム(Al)が2重量%の割合で被覆するようにエチルアルコール、ジルコニウムテトラエトキシドおよびトリエトキシアルミニウムを用いて表面処理を実施して実施例17に係るEu、CeおよびK付活硫化カルシウム蛍光体(CaS:Eu,Ce,K+ZrO+Al)を調製した。
【0056】
次いで、上記のように調製された各蛍光体を用い、以下に示すようにして図1に示す赤色LEDランプを作製した。すなわち、各蛍光体を赤色蛍光体9として使用し、エポキシ樹脂8と酸無水物系硬化剤との混合液に混合したものを、青色発光のLEDチップ(0.4mm角)2の上にディスペンサを用いて滴下し、エポキシ樹脂を硬化させた後、その上に半球形の透明なエポキシ樹脂キャップを被覆し、各実施例に係る発光装置を製造した。
【0057】
[比較例1〜8] (赤色LEDランプ 単色評価)
蛍光体の母体および付活剤を構成する元素またはその元素を含有する化合物を含む原料を、以下の組成
比較例1(CaS:Eu含有割合0.08モル%、Ce含有割合0モル%)、
比較例2(CaS:Eu含有割合0.008モル%、Ce含有割合0モル%)
比較例3(CaS:Eu含有割合0.008モル%、Ce含有割合0.005モル%)
比較例4(CaS:Eu含有割合0.5モル%、Ce含有割合0.002モル%)
比較例5(CaS:Eu含有割合0.5モル%、Ce含有割合0.2モル%)
比較例6(CaS:Eu含有割合0.7モル%、Ce含有割合0.002モル%)
比較例7(CaS:Eu含有割合0.7モル%、Ce含有割合0.03モル%)
比較例8(CaS:Eu含有割合0.7モル%、Ce含有割合0.1モル%)
となるように秤量する一方、CaSに対するX成分としてのKの含有割合は一律0.3モル%となるように秤量した。
【0058】
さらにフラックスとして過剰の炭酸カリウムを添加して十分に混合した。得られた蛍光体原料に、硫黄および活性炭素を適当量添加して石英るつぼ内に充填し、これを硫化水素雰囲気で焼成した。焼成条件は950℃×60分とし、得られた焼成物を1150℃×60分の条件でさらに焼成した。
【0059】
その後、得られた焼成物を水洗および乾燥しさらに篩別することによって、比較例1〜2に係るEuおよびK付活硫化カルシウム蛍光体(CaS:Eu,K)および比較例3〜8に係るEu、CeおよびK付活硫化カルシウム蛍光体(CaS:Eu,Ce,K)を得た。
【0060】
[比較例9]
また、CaSに対するK成分の含有割合を0.1モル%と過小にした点以外は、実施例6と同様に処理して比較例9に係る蛍光体を調製した。
【0061】
[比較例10]
一方、CaSに対するK成分の含有割合を0.6モル%と過大にした点以外は、実施例6と同様に処理して比較例10に係る蛍光体を調製した。
【0062】
[比較例11]
さらに、比較例11として、最近、高い発光効率および高い演色性を有する白色LED用蛍光体として検討されている窒化物系赤色発光蛍光体(CaAlSiN:Eu)を用意した。
【0063】
こうして得られた各比較例1〜11に係る蛍光体を用い、実施例1と同様にエポキシ樹脂と酸無水物系硬化剤との混合液に混合したものを、青色発光のLEDチップ(0.4mm角)の上にディスペンサを用いて滴下し、エポキシ樹脂を硬化させた後、その上に半球形の透明なエポキシ樹脂キャップを被覆し被覆し、各比較例に係る発光装置(赤色LEDランプ)を製造した。
【0064】
次いで、上記のように各実施例および比較例で得られた赤色LEDランプについて発光輝度を測定した。各発光輝度は比較例1(CaS:Eu含有割合0.08モル%、Ce含有割合0モル%,X濃度0.3モル%)のLEDランプの発光輝度を基準値100%としたときの相対値として求めた。また、高温高湿雰囲気下(温度70℃,湿度85%)でLEDランプを1000時間点灯して、点灯開始から点灯末期に至るまでの輝度変化を測定する輝度劣化(耐候性)試験を実施し、下記算出方法に従って輝度維持率を測定した。
【0065】
[数1]
輝度維持率(%)=輝度劣化試験後の発光輝度(%)÷発光輝度(%)×100
【0066】
上記の発光輝度および輝度維持率の測定結果を下記表1に示す。
【表1】

【0067】
上記表1に示す結果から明らかなように、実施例1〜実施例11で得られた赤色LEDランプは、比較例1〜比較例8で得られた赤色LEDランプと比較して、いずれも赤色発光の輝度向上が確認できた。
【0068】
すなわち、本発明で規定するように、Euを母体のCaSに対し0.01〜0.5モル%の濃度範囲内で含有し、Ceを母体のCaSに対し0.005〜0.1モル%の濃度範囲内で含有し、且つ付活剤の濃度を最適化した各実施例においては、赤色発光の輝度が大幅に向上することが上記結果から実証された。このことは、X濃度についても比較例9および比較例10の結果と実施例6との結果を比較した場合にも同様のことが言える。すなわちX成分の含有量を適正に制御することにより発光輝度を効果的に高めることができる。
【0069】
実施例12のように、酸化チタンの皮膜を形成する表面処理を施した赤色発光蛍光体を用いた赤色LEDランプは実施例6で得られた赤色LEDランプに比べ赤色発光の輝度が低下しているが、高温高湿下(温度70℃・湿度85%)での耐候性評価では、赤色発光の経時的な輝度低下が少なく輝度維持率が高い結果が得られた。
【0070】
なお、各実施例ではX成分としてKを含有させた例を示しているが、K単独の場合以外にLiおよびNaの少なくとも一方を含有させた場合においても、蛍光体の発光輝度の改善効果が得られ、輝度維持率が高い発光装置が得られた。
【0071】
また、比較例11に係る窒化物系赤色発光蛍光体(CaAlSiN:Eu)を用いた赤色LEDランプと本実施例に係る赤色発光蛍光体を用いた赤色LEDランプとの比較からも明らかなように、本実施例においても赤色発光の輝度向上の効果が得られた。
【0072】
[実施例20](白色LEDランプ)
白色LEDランプとして評価するために下記の白色LEDランプを調製した。すなわち、実施例6で作製したEu、CeおよびK付活硫化カルシウム蛍光体(CaS:Eu,Ce,K)を赤色蛍光体として使用し、ランプからの発光が白色となるように、緑色蛍光体(Eu付活Srチオガレート蛍光体(SrGa:Eu))に混合した。このRG白色LED用蛍光体を、エポキシ樹脂と酸無水物系硬化剤との混合液に混合し、その液を青色発光のLEDチップ(0.4mm角)の上にディスペンサを用いて滴下しエポキシ樹脂を硬化させた後、その上に半球形の透明なエポキシ樹脂キャップを被覆し、実施例20に係る白色LEDランプを調製した。
【0073】
[比較例21](白色LEDランプ)
比較例1で作製したEuおよびK付活硫化カルシウム蛍光体(CaS:Eu,K)を赤色蛍光体として使用した他は、実施例20と同様に処理して比較例21に係る白色LEDランプを調製した。
【0074】
[比較例22](白色LEDランプ)
また、比較例22として窒化物系赤色発光蛍光体(CaAlSiN:Eu)を赤色蛍光体として用いて、実施例20と同様にして白色LEDランプを作製した。
【0075】
こうして調製した実施例20および比較例21〜22に係る白色LEDランプについて、発光輝度を測定した。なお各発光輝度は、比較例21の白色LEDランプの発光輝度を基準値100%としたときの相対値として表示した。各発光輝度の測定結果を下記表2に示す。
【表2】

【0076】
上記表2に示す結果から明らかなように、実施例20に係る白色LEDランプは、比較例21および比較例22に係る白色LEDランプと比較して、白色発光の輝度が大幅に向上することが判明した。すなわち、Eu濃度、Ce濃度およびX濃度を最適範囲に調整することにより、白色LEDランプにおいても発光輝度を大幅に向上させることが可能になることが実証された。
【0077】
なお、実施例20に係るLEDランプにおいては、緑色乃至黄色に発光する蛍光体が、Eu付活Srチオガレート蛍光体を使用した場合で例示しているが、上記蛍光体の他にEu付活アルカリ土類オルト珪酸塩系蛍光体,Eu,Mn付活アルカリ土類オルト珪酸塩系蛍光体およびCe付活ガーネット系蛍光体から選択される少なくとも1種の蛍光体を使用した場合についても同様な作用効果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明に係る発光装置用赤色発光蛍光体によれば、青色LEDの励起により高輝度の赤色光を発光する。したがって、この蛍光体を用いることにより、発光輝度が高い白色LEDランプなどの発光装置を実現することが可能になる。
【符号の説明】
【0079】
1 LED(発光装置)
2 LED素子
3A・3B 電極
4 基板
5 ボンディングワイヤ
6 リフレクタ基材
6a 反射材
7 リフレクタ
8 透明樹脂
9 蛍光体
10 透明樹脂封止層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
青色光により励起され、赤色に発光する赤色発光蛍光体であり、
組成が下記化学式
CaS:Euα,Ceβ,Xγ
(但し、式中XはLi,Na,Kから選択された少なくとも1種の元素であり、CaSに対してモル%で表わした係数α、β及びγは、関係式0.01≦α≦0.5、0.005≦β≦0.1,0.2≦γ≦0.5を満足する)で表わされることを特徴とする赤色発光蛍光体。
【請求項2】
請求項1記載の赤色発光蛍光体において、前記α、β及びγが、関係式0.05≦α≦0.2,0.01≦β≦0.05、0.3≦γ≦0.4を満足することを特徴とする赤色発光蛍光体。
【請求項3】
請求項1または2記載の赤色発光蛍光体において、前記赤色発光蛍光体の粒子表面が、二酸化珪素(SiO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化ジルコニウム(ZrO)および酸化チタン(TiO)から選択される少なくとも1種の被覆剤で被覆されていることを特徴とする赤色発光蛍光体。
【請求項4】
請求項3の赤色発光蛍光体において、前記赤色発光蛍光体の粒子表面を被覆する被覆剤の重量が、前記赤色発光蛍光体に対して、1〜20重量%の範囲であることを特徴とする赤色発光蛍光体。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の赤色発光蛍光体と青色発光LEDとを組合せて成ることを特徴とする発光装置。
【請求項6】
請求項5記載の発光装置において、前記赤色発光蛍光体と、緑色乃至黄色に発光する蛍光体とを組み合わせることにより白色光を発することを特徴とする発光装置。
【請求項7】
請求項6記載の発光装置において、前記緑色乃至黄色に発光する蛍光体が、Eu付活Srチオガレート蛍光体,Eu付活Caチオガレート蛍光体,Eu付活アルカリ土類オルト珪酸塩系蛍光体,Eu,Mn付活アルカリ土類オルト珪酸塩系蛍光体およびCe付活ガーネット系蛍光体から選択される少なくとも1種であることを特徴とする発光装置。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−209194(P2010−209194A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−55926(P2009−55926)
【出願日】平成21年3月10日(2009.3.10)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(303058328)東芝マテリアル株式会社 (252)
【Fターム(参考)】