説明

走行式薬液混合撒布装置

【課題】薬液を原液のまま使用するも例えば1000倍以上に希釈された希釈薬液を精度よくしかも簡単且つ容易に撒布することが出来、更には薬液噴霧の作業性に優れた走行式薬液混合撒布装置を提供する。
【解決手段】薬液供給路3には薬液貯留部30の薬液を吸水路2に強制的に供給するための薬液供給ポンプ7が設けられ、各還流路5aと撒布路4a〜4cとの接続部には、前記撒布路から撒布用ノズルへの流れを許容して前記撒布路から前記還流路への流れを阻止する薬液撒布操作切り替え位置と、前記撒布用ノズルへの流れを阻止して前記撒布路から前記還流路への流れを許容する薬液撒布停止操作切り替え位置に切り替え可能な流路切り替え器50a〜50cが設けられ、コントローラ70は、前記薬液供給ポンプ7による薬液の供給量を前記流路切り替え器50a〜50cの動作に基づいて制御するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、畑などを走行しながら、薬剤を水溶液に混合して、希釈された薬液を作物や土壌などに撒布するための走行式薬液混合撒布装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にこの種の薬液混合撒布装置は、圧送ポンプと、この圧送ポンプの吸込口に連通した合流部と、この合流部と薬液タンクとを連通する薬液供給路と、合流部と水タンクとを連通する吸水路と、圧送ポンプの吐出口に連通した散布路とが備えられている。
【0003】
また散布路の先端には開閉コックを介してノズルが設けられており、吸水路には第1オリフィスが、薬液供給路には第2オリフィスが、それぞれ介装されている。
【0004】
第1オリフィスのオリフィス径と第2オリフィスのオリフィス径とは、薬液と水との所期の混合比率即ち希釈倍数に応じて設定されている。
【0005】
以上の薬液混合撒布装置にあっては、圧送ポンプを起動するとともに開閉コックを開くと、圧送ポンプの吸込側に生じる負圧により、薬液供給路からは薬液が、吸水路からは水タンクに貯留されている水がそれぞれ吸い上げられて合流部で混合されるのであって、この際、薬液と水とは、第1オリフィスのオリフィス径と第2オリフィスのオリフィス径とにより設定された混合比率で混合されるのである。そして希釈された希釈薬液は、散布路を経てノズルから畑地等に散布される。
【0006】
ところで以上の薬液混合撒布装置では、希釈薬液の希釈率は、前記したように、吸水路と薬液供給路に設けられた両オリフィスのオリフィス径の相違により決定されるものであるが、希釈率を例えば1000倍以上にすべく、薬液供給路側の第2オリフィスのオリフィス径を小径にしようとしても自ずと限度があり、即ち、あまりオリフィス径を小さくすると、いわゆる目詰まりが生じ易く、現実的には、オリフィス径の調整だけでは、数百倍程度の希釈率の希釈薬液を撒布するのが精一杯で、従って薬剤を原液のまま利用すると、例えば1000倍に希釈された希釈薬液を得ることは困難である。
【0007】
そのため、以上の薬液撒布装置により、1000倍から2000倍程度に希釈した薬液を作成して撒布しようとする場合には、例えば10倍程度に希釈した薬液を用意して、この薬液を水溶液に随時混入させることで、例えば1000倍に希釈された所望の希釈薬液を撒布するようにしているのが現状である。
【0008】
従って以上の薬液混合撒布装置では、例えば10倍程度に希釈した薬液を事前に作っておく必要があり、撒布の作業性が悪いばかりか、撒布する希釈薬液の希釈率の管理もそれだけ手間がかかり、ともすると間違った希釈率の希釈薬液を撒布する事態も招きかねない。
【0009】
また前記した従来の薬液混合撒布装置では、撒布作業の途中で撒布する希釈薬液の希釈倍率を変更することも難しい。
【特許文献1】特開平11−76906
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は以上の実情に鑑みて開発したものであって、目的とするところは、薬液を原液のまま使用するも例えば1000倍以上に希釈された希釈薬液を精度よくしかも簡単且つ容易に撒布することが出来、更には薬液噴霧の作業性に優れた走行式の薬液混合撒布装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以上の目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、
薬液撒布用のノズルが機体に取り付けられて、前記ノズルから薬液を被撒布対象に撒布するようにした走行可能な薬液撒布装置において、
走行可能な機体には、
コントローラにより駆動制御可能な圧送ポンプと、
水を貯留する水貯留部と前記圧送ポンプの吸込側とを連通する吸水路と、薬液を貯留する薬液貯留部と吸水路の途中とを連通する薬液供給路と、圧送ポンプの吐出側に連通した複数の撒布路と、前記各撒布路と吸水路とを連絡する還流路が備えられ、前記の撒布路の終端部には前記ノズルが設けられる一方、前記薬液供給路には薬液貯留部の薬液を前記吸水路に強制的に供給するための薬液供給ポンプが設けられ、
前記各還流路と前記撒布路との接続部には、前記撒布路から撒布用ノズルへの流れを許容して前記撒布路から前記還流路への流れを阻止する薬液撒布操作切り替え位置と、前記撒布用ノズルへの流れを阻止して前記撒布路から前記還流路への流れを許容する薬液撒布停止操作切り替え位置に切り替え可能な流路切り替え器が設けられ、
前記コントローラは、前記薬液供給ポンプによる薬液の供給量を前記流路切り替え器の動作に基づいて制御するようにしていることを特徴とするものである。
【0012】
また請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の走行式薬液混合撒布装置において、前記機体の走行速度が速くなるに伴い、圧送ポンプの吐出量が増大するようにしていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載の発明によれば、薬液供給ポンプにより所定量の薬液を強制的に吸水路に供給するようにしているので、薬液を原液のまま使用可能で、従来のいわゆる負圧式の薬液混合撒布装置よりも、簡単且つ容易に例えば1000倍以上に希釈された希釈薬液を撒布することが出来るのは勿論のこと、流路切り替え器による流路切り替え操作により、例えば一つの撒布路からの希釈薬液の撒布が停止されても、その他の撒布路から予め設定された倍率の希釈薬液を安定よく撒布することが出来るし、またコントローラに予め複数種類の希釈倍率を設定しておくことにより、作業者が撒布作業に際して所望の希釈率を選択することも可能となる。
【0014】
また請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明の効果に加え、機体の走行速度にかかわらず、撒布対象に対して所定量の希釈薬液を安定的に撒布することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1〜図3は、畑などに薬液を撒布するのに用いる走行式薬液混合撒布装置の一例を示したものである。
【0016】
この走行式薬液混合撒布装置は、例えば畑などを走行輪により走行しながら、所定の希釈率に混合した希釈薬液を作物や土壌などに撒布するためのものであって、基本的には、
機体10の走行用エンジン11に連動して駆動する圧送ポンプ1、
この圧送ポンプ1の吸込側と水の貯留部としての水タンク20とを連通する吸水路2、
薬液を貯留する薬液タンク30と吸水路2の途中とを連通する薬液供給路3、
圧送ポンプ1の吐出側に連通した3系統の撒布路4a〜4c、
撒布路4a〜4cの途中と吸水路2における薬液供給路3との接続部よりも下流側とを連絡する還流路5a〜5cが備えられ、これら構成機器は、機体10に搭載されている。
【0017】
図に示す実施形態では、各撒布路4a〜4cの終端部は、機体10の側部から水平に延びるブーム12に保持されており、これら撒布路4a〜4cの終端部には、希釈薬液を主として霧状に撒布させるための5つのノズル41がそれぞれに設けられている。
【0018】
圧送ポンプ1は、走行用エンジン11の回転速度がアップして機体10の走行速度が順次速くなるに伴い、その吐出量も増大するようにしている。
【0019】
そして各撒布路4a〜4cと還流路5a〜5cの連結部には、撒布路4a〜4cからノズル41への流れを許容して撒布路4から還流路5への流れを阻止する薬液撒布操作切り替え位置、乃至ノズル41への流れを阻止して撒布路4から還流路5への流れを許容する薬液撒布停止操作切り替え位置に切り替え可能な手動コックから構成される流路切り替え器50a〜50cが介装されている。
【0020】
この手動コックから構成される流路切り替え器50a〜50cの切り替え操作は、機体10の運転室13内で行なえるようにしている。
【0021】
そして流路切り替え器50a〜50cにはそれぞれ切り替え位置を検出する検出器51a〜51cが組み込まれ、これら検出器51a〜51cにより、各流路切り替え器50a〜50cが「薬液撒布操作切り替え位置」若しくは「薬液撒布停止操作切り替え位置」に切り替えられるのを検出するようにしている。
【0022】
また以上の薬液混合撒布装置において、吸水路2における還流路5との接続部よりも上流側には、吸水路2内における水タンク20から圧送ポンプ1方向への水の流れを許容して、圧送ポンプ1から水タンク20方向への水の流れを阻止するための逆止弁6が設けられている。
【0023】
更に薬液供給路3の途中には、薬液タンク30内の薬液を吸水路2に強制的に供給するためのモーター駆動式の薬液供給ポンプ7が設けられており、この薬液供給ポンプ7の駆動は、マイクロコンピュータが搭載されたコントローラ70により制御するようにしている。
【0024】
この薬液供給ポンプ7としては、少量の流量を正確に送ることが出来る流量精度に優れているチューブポンプが用いられており、機体10に搭載されたバッテリー14をその動力源としている。
【0025】
前記したコントローラ70は、薬液供給ポンプ7による薬液の供給量を流路切り替え器50a〜50cの動作に基づいて制御するようにしているのであって、具体的には、流路切り替え器50a〜50cに組み込まれた検出器51a〜51cからの出力信号に基づいて、各流路切り替え器50a〜50cが「薬液撒布操作切り替え位置」に切り替えられた時には、その切り替え器50a〜50cが設けられている各撒布路4a〜4bからの希釈薬液の吐出量に見合う薬液の量が供給されるよう薬液供給ポンプ7の駆動を制御すると共に、各流路切り替え器50a〜50cが「薬液撒布停止操作切り替え位置」に切り替えられた時には、その切り替え器50a〜50cの設けられた撒布路4a〜4bへの薬液撒布量に見合う量の薬液の供給が中止されるよう、換言すれば、流路切り替え器50a〜50c中、「薬液撒布操作切り替え位置」となっている撒布路での薬液撒布量に見合う量の薬液が供給されるように、薬液供給ポンプ7の駆動を制御するようにしている。
【0026】
またコントローラ70は、複数の希釈倍率(例えば1000倍と1200倍と1500倍などの希釈倍率)の希釈薬液が得られるように、薬液供給ポンプ7の流量を変更可能にして、オペレータが選択した希釈倍率に見合う量の薬液を吸水路2に送り出せるようにしている。
【0027】
更にコントローラ70は、圧送ポンプ1の吐出量も検出し、機体10の走行速度が速くなって圧送ポンプ1の吐出量が増大するに伴い、薬液供給ポンプ7による薬液の供給量も増大するように薬液供給ポンプ7を制御している。
【0028】
以上の構成の走行式薬液混合撒布装置では、先ず、コントローラ70の電源をオンにして、例えば希釈倍率1000倍の希釈薬液が得られるように、コントローラ70を設定した上で、圧送ポンプ1を駆動すると共に、各撒布路4a〜4cの流路切り替え器50a〜50cを「薬液撒布操作切り替え位置」に切り替えると、圧送ポンプ1を介して水タンク20内の水が吸水路2を流れる一方、薬液供給ポンプ7が駆動して、薬液タンク30内の薬液が強制的に吸水路2に送り込まれて、吸水路2内を流れる水と混合され、1000倍に希釈された希釈液が、図1、図2に示すように、各撒布路4a〜4cを介してノズル42から撒布されるのであって、この時、コントローラ70により、薬液供給ポンプ7による薬液の供給量が随時制御されるのである。
【0029】
即ち、すべての撒布路4a〜4cが開いている時には、これら3本の撒布路4a〜4cから撒布される希釈薬液の量に見合う薬液の量が供給されるよう薬液供給ポンプ7の駆動がコントローラ70により制御され、また図3に示すように、例えば流路切り替え器50aが「薬液撒布停止操作切り替え位置」に切り替えられた時には、その流路切り替え器50aが設けられている撒布路4a内の希釈薬液は、還流路5aを経て吸水路2に戻された後、再び圧送ポンプ1に吸い込まれると共に、切り替え器50aの設けられた撒布路4aへの薬液撒布量に見合う量の薬液の供給が中止され、開いている撒布路4b・4cから撒布される希釈薬液の量に見合う薬液の量が供給されよう薬液供給ポンプ7の駆動がコントローラ70により制御されるのである。
【0030】
更に薬液の撒布作業時に、機体10の走行速度が例えば速くなっても、圧送ポンプ1の吐出量が増大すると同時に、薬液供給ポンプ7による薬液の供給量も増大することから、撒布対象に対して所定の希釈倍率の薬液を所定量撒布することができる。
【0031】
斯くして、撒布路4a〜4cの一つ若しくは2つが閉じられても、撒布する希釈薬液の希釈率が不用意に変わってしまうような不具合は生じない。
【0032】
一方、流路切り替え器50a〜50cが「薬液撒布停止操作切り替え位置」に切り替えられて、すべての撒布路4a〜4cが閉じられた場合には、すべての還流路5a〜5cが撒布路4a〜4cに連通し、撒布路4a〜4c内の希釈薬液は、還流路5a〜5cを経て吸水路2に戻された後、再び圧送ポンプ1に吸い込まれるのであって、こうして希釈薬液は、圧送ポンプ1,撒布路4a〜4c、還流路5a〜5c及び吸水路2の下流域からなる閉回路を循環し、これにより、水タンク20内の水が吸水路2に送り込まれなくなると共に、薬液供給ポンプ7がコントローラ70の制御により停止して、吸水路2への薬液の供給も中断される。
【0033】
図1〜図3に示す実施形態では、水タンク20内に予め水を貯留して、この水タンク20内の水を吸水路2に順次送るようにしたが、図4に示すように、水タンク20に加え、例えば水田等にはられた水を汲み上げる汲み上げ路としての汲み上げ用ホース21と汲み上げポンプ22を設けて、この汲み上げ用ホース21と汲み上げポンプ22とにより、水タンク20に水を任意汲み上げるようにしてもよい。
【0034】
そして、以上の構成を採用することにより、例えば水田にはられている水や農水路を流れる水を有効利用することが出来、機体10に搭載する水タンク20の小型化が可能となり、結果として機体10も小型することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明にかかる走行式薬液混合撒布装置の一実施形態を示す概略構成図。
【図2】本発明にかかる走行式薬液混合撒布装置の一実施形態を示す説明図。
【図3】本発明にかかる走行式薬液混合撒布装置の一実施形態を示す説明図。
【図4】本発明にかかる走行式薬液混合撒布装置の別の実施形態を示す要部の説明図。
【符号の説明】
【0036】
1 圧送ポンプ
10 機体
11 走行用エンジン
2 吸水路
20 水タンク(水貯留部)
3 薬液供給路
30 薬液タンク(薬液貯留部)
4a 撒布路
4b 撒布路
4c 撒布路
41 ノズル
5a 還流路
5b 還流路
5c 還流路
50a 流路切り替え器
50b 流路切り替え器
50c 流路切り替え器
7 薬液供給ポンプ
70 コントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬液撒布用のノズルが機体に取り付けられて、前記ノズルから薬液を被撒布対象に撒布するようにした走行可能な薬液撒布装置において、走行可能な機体には、コントローラにより駆動制御可能な圧送ポンプと、水を貯留する水貯留部と前記圧送ポンプの吸込側とを連通する吸水路と、薬液を貯留する薬液貯留部と吸水路の途中とを連通する薬液供給路と、圧送ポンプの吐出側に連通した複数の撒布路と、前記各撒布路と吸水路とを連絡する還流路が備えられ、前記の撒布路の終端部には前記ノズルが設けられる一方、前記薬液供給路には薬液貯留部の薬液を前記吸水路に強制的に供給するための薬液供給ポンプが設けられ、前記各還流路と前記撒布路との接続部には、前記撒布路から撒布用ノズルへの流れを許容して前記撒布路から前記還流路への流れを阻止する薬液撒布操作切り替え位置と、前記撒布用ノズルへの流れを阻止して前記撒布路から前記還流路への流れを許容する薬液撒布停止操作切り替え位置に切り替え可能な流路切り替え器が設けられ、前記コントローラは、前記薬液供給ポンプによる薬液の供給量を前記流路切り替え器の動作に基づいて制御するようにしていることを特徴とする走行式薬液撒布装置。
【請求項2】
機体の走行速度が速くなるに伴い、圧送ポンプの吐出量が増大するようにしていることを特徴とする請求項1に記載の走行式薬液混合撒布装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−125434(P2008−125434A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−313933(P2006−313933)
【出願日】平成18年11月21日(2006.11.21)
【出願人】(397002360)ヤマホ工業株式会社 (14)
【Fターム(参考)】