説明

走行路区別方法及び走行路区別装置

【課題】双曲線航法の原理を利用し区別対象の走行路に対して固定局を適切に配置することで、移動局の存在する走行路の検出精度を向上する。
【解決手段】移動局(列車)2A,2Bが走行する走行路(線路)4A,4Bの各中心線上で、受信時刻差がそれぞれ零となるように、走行路4A,4Bを挟んで固定局1A〜1Cを配置し、移動局2A,2Bから送信した信号を各固定局1A〜1Cで受信し、走行路判定部3により、固定局1Aと1Cの受信時刻差及び固定局1Bと1Cの受信時刻差を算出し、受信時刻差の正負に基づいて送信元の移動局が存在する走行路を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動局と固定局間で信号を送受し計測される受信時刻差から複数の走行路のうちのどの走行路に移動局が存在するかを区別する走行路区別方法及び走行路区別装置に関し、特に、双曲線航法の原理を利用して移動局の存在する走行路の検出精度を向上させる走行路区別方法及び走行路区別装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、移動局の位置を特定するのに双曲線航法を利用したものがある(例えば特許文献1参照)。双曲線航法は、予め位置が固定された2ヶ所からの電波を受信した時に、その到達時間差が一定となる点の軌跡は、2つの発信点を焦点とする双曲線となるという原理を利用して移動局の位置を特定するものである。尚、逆に、1ヵ所から電波を送信し、予め位置が固定された2ヶ所で受信する場合も同様で、その到達時間差が一定となる点の軌跡は、2つの受信点を焦点とする双曲線となる。
【特許文献1】特開平10−239414
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、複数の走行路が存在し、どの走行路に移動体が存在するのかを判断するため、2つの固定局と移動体(移動局)との間で信号を送受して前記双曲線航法の原理を利用して受信時刻差に基づいて走行路を区別する場合、マルチパスや雑音の影響による受信時刻測定に伴う誤差が、区別対象の走行路に対する固定局の位置によっては大きくなり、移動局が存在する走行路を正確に検出できない虞れがある。また、固定局の配置によって走行路の区別が可能な領域が限定されるという問題がある。
【0004】
本発明は上記問題点に着目してなされたもので、区別対象の走行路に対して固定局を適切に配置し、測定誤差を許容し、移動局の存在する走行路の検出精度を向上させた走行路区別方法及び走行路区別装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このため、請求項1の発明は、移動局及び固定局のいずれか一方の局から信号を送信して他方の局で前記信号を受信し、計測した受信時刻差に基づいて、複数の走行路のうちのどの走行路に前記移動局が存在するかを区別する走行路区別方法において、前記複数の走行路の各中心線上で、前記受信時刻差がそれぞれ所定の一定値となるように前記複数の走行路を挟んで少なくとも2つ以上の前記固定局を配置し、前記各所定の一定値をオフセット値として前記計測した受信時刻差を補正し、補正後の受信時刻差の正負の値に基づいて前記移動局が存在する走行路を区別することを特徴とする。
【0006】
請求項2のように、前記固定局は、前記各走行路の各中心線上で、前記所定の一定値が零となるように前記走行路毎に走行路を挟んで設置するとよい。
請求項3のように、前記受信時刻差を複数回測定し、各測定値の統計的分布状態に基づいて前記オフセット値を補正可能とするとよい。
請求項4のように、走行路に沿って間隔を設けて別途2つの固定局を配置し、前記走行路に沿って位置した2つの固定局と前記移動局とで信号を送受した時の受信時刻差が略零となる領域内に、少なくとも2つ以上の前記固定局を前記複数の走行路を挟んで配置するようにするとよい。
【0007】
請求項5のように、前記移動局を送信側とし、前記固定局を受信側とする構成とするとよい。
請求項6のように、前記走行路の中心線上で、各走行路を挟んで配置された2つの固定局の受信時刻差が略零となるように複数の固定局を配置した時に、前記複数の固定局のいずれか1つから誤差補正用信号を送信し、誤差補正用信号の受信時刻を用いて走行路を挟んで配置された2つの固定局の受信時刻差を算出する構成とするとよい。
【0008】
また、請求項7の発明は、移動局及び固定局のいずれか一方の局から信号を送信して他方の局で前記信号を受信し、計測した受信時刻差に基づいて、複数の走行路のうちのどの走行路に前記移動局が存在するかを区別する走行路区別装置において、前記複数の走行路の各中心線上で、前記受信時刻差がそれぞれ所定の一定値となるように前記複数の走行路を挟んで配置する少なくとも2つ以上の前記固定局と、前記各所定の一定値をオフセット値として記憶し、前記計測した受信時刻差を前記オフセット値で補正し、補正後の受信時刻差の正負の値に基づいて前記移動局が存在する走行路を判定する判定部と、を備える構成とした。
かかる構成では、移動局と2つの固定局で信号を送受し、受信側で受信時刻を計測し、判定部は、計測された各受信時刻を対応する各オフセット値で夫々補正し、補正された各受信時刻の差を算出し、算出した受信時刻差の正負の値に基づいて移動局が存在する走行路を判定するようになる。
【0009】
請求項8のように、前記固定局は、前記各走行路の各中心線上で、前記所定の一定値が零となるように前記走行路毎に走行路を挟んで設置する構成とするとよい。
かかる構成では、オフセット値を零として受信時刻差を算出するようになる。
請求項9のように、前記判定部は、前記受信時刻差を複数回測定し、各測定値の統計的分布状態に基づいて前記オフセット値を補正可能な構成とするとよい。
かかる構成では、受信時刻の測定値の誤差が大きい場合でも、精度よく走行路を区別可能となる。
【0010】
請求項10のように、走行路に沿って間隔を設けて別途2つの固定局を配置し、前記走行路に沿って位置した2つの固定局と前記移動局とで信号を送受した時の受信時刻差が略零となる領域内に、少なくとも2つ以上の前記固定局を前記複数の走行路を挟んで配置する構成とするとよい。
かかる構成では、区別対象の走行路を挟んで2つの固定局を配置すればよく、2つの固定局で多数の走行路の区別が可能となる。
請求項11のように、前記移動局を送信側とし、前記固定局を受信側とする構成とするとよい。
【0011】
請求項12のように、前記走行路の中心線上で、各走行路を挟んで配置された2つの固定局の受信時刻差が略零となるように複数の固定局を配置した時に、前記複数の固定局のいずれか1つから誤差補正用信号を送信すると共に、前記判定部が、前記各固定局で計測される誤差補正用信号の受信時刻を用いて走行路を挟んで配置された2つの固定局の受信時刻差を算出する構成とするとよい。
かかる構成では、各固定局の受信時刻計測用カウンタのずれや受信回路の遅れ時間の影響による受信時刻差の誤差を取除くことが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、移動局と固定局間で信号を送受信したときに、受信時刻差が走行路の中心線上で一定となるように、走行路を挟んで固定局を設置し、受信時刻差に基づいて移動局が存在する走行路を判定するので、共通に存在する測定誤差要因を取除くことができ、誤差を許容して精度よく走行路を区別できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明に係る走行路区別方法に用いる走行路区別装置の第1実施形態の構成図を示す。尚、以下では移動体が列車であってこれを移動局とし、列車が走行する線路を走行路として説明する。
図1において、本実施形態の走行路区別装置は、複数の固定局1A〜1Cと、移動局2A,2Bと、走行路判定部3とを備えて構成される。
【0014】
前記固定局1A〜1Cは、移動局2A,2Bから送信される信号を受信してその受信時刻を計測する機能を備える。固定局1Cは、上記の受信機能に加えて移動局2A,2Bに対して信号を送信する送信機能も備える。そして、固定局1Aと1Cは、走行路4Aの中心線上で、受信時刻差が所定の一定値(本実施形態では受信時刻差が零)となるように走行路4Aを挟んで設置し、固定局1Bと1Cも同様に、走行路4Bの中心線上で、受信時刻差が所定の一定値(本実施形態では受信時刻差が零)となるように走行路4Bを挟んで設置する。言い換えれば、固定局1A,1Cを、それぞれ焦点とする互いの双曲線が走行路4Aの中心線上で重なるように走行路4Aを挟んで固定局1A,1Cを設置し、固定局1B,1Cを、それぞれ焦点とする互いの双曲線が走行路4Bの中心線上で重なるように走行路4Bを挟んで固定局1B,1Cを設置する。
【0015】
前記移動局2A,2Bは、固定局1Cから送信される送信指示信号を受信して信号の送信を開始する構成であり、送受信機能を備え、それぞれ走行路4A,4Bを移動する。
前記走行路判定部3は、各固定局1A〜1Cと接続され、各固定局1A〜1Cの信号の受信時刻情報に基づいて固定局1Aと1Cの受信時刻差と固定局1Bと1Cの受信時刻差を算出し、各受信時刻差の値の正負に基づいて送信元の移動局の存在する走行路を判定する。
【0016】
本発明の走行路区別方法は、複数の走行路の各中心線上で、受信時刻差がそれぞれ所定の一定値となるように複数の走行路を挟んで少なくとも2つ以上の固定局を配置し、各所定の一定値をオフセット値として計測した受信時刻差を補正し、補正後の受信時刻差の正負の値に基づいて移動局が存在する走行路を区別するというものである。
【0017】
次に、この方法に用いる走行路区別装置の第1実施形態の判定動作を説明する。
図2は、移動局と固定局の信号の送受信動作を示すタイムチャートである。ここでは移動局2Aを例に説明する。
まず、固定局1Cが移動局2Aに対して送信指示の信号を送る。移動局2Aは、前記送信指示信号を受信すると伝播時間測定のための信号を送信する。各固定局1A〜1Cは、移動局2Aからの信号を受信するとその受信時刻を計測カウンタにより計測する。固定局1Cは、前記送信指示信号を発生してから所定時間Tint経過後に、各固定局1A〜1Cの各計測カウンタのカウント値のずれと受信回路遅れ時間による受信時刻差の誤差を補正するための誤差補正用信号を送信し、各固定局1A〜1Cは、前記誤差補正用信号の受信時刻を計測する。各固定局1A〜1Cは、それぞれの計測時刻情報を走行路判定部3に送る。走行路判定部3は、各固定局1A〜1Cからの計測時刻情報に基づいて固定局1Aと1Cの受信時刻差τacと固定局1Bと1Cの受信時刻差τbcをそれぞれ算出して移動局2Aの存在する走行路を判定する。
【0018】
走行路判定部3における前記受信時刻差τac,τbcの算出について以下に説明する。
図2において、TXは固定局1Cが送信指示信号を発生してから移動局2Aが信号を送信開始した時点までの固定局1Cの計測カウンタのカウント値、TX+Ta0は移動局2Aの送信開始時点の固定局1Aの計測カウンタのカウント値(Ta0は固定局1Aのカウント値と固定局1Cのカウント値のずれ)、TX+Tb0は移動局2Aの送信開始時点の固定局1Bの計測カウンタのカウント値(Tb0は固定局1Bのカウント値と固定局1Cのカウント値のずれ)、Ta1,Tb1,Tc1は移動局送信信号受信時の固定局1A,1B,1Cの各計測カウンタの各カウント値(受信時刻に相当する)、Ta2,Tb2,Tc2は固定局1Cの誤差補正用信号受信時の固定局1A,1B,1Cの各計測カウンタの各カウント値、derayA,B,Cは固定局1A,1B,1Cの各受信回路の遅れ時間、Lacは固定局1Aと1Cの距離、Lbcは固定局1Bと1Cの距離、cは信号の伝播速度を示す。
【0019】
走行路判定部3はこれらの各情報を用いて以下のように受信時刻差τac,τbcを算出する。
Ta1=TX+Ta0+τa+delayA ・・・(1)
Ta2=Tint+Ta0+Lac/c+delayA ・・・(2)
Tb1=TX+Tb0+τb+delayB ・・・(3)
Tb2=Tint+Tb0+Lbc/c+delayB ・・・(4)
Tc1=TX+τc+delayC ・・・(5)
Tc2=Tint+delayC ・・・(6)
となる。
【0020】
(2)式、(4)式、(6)式から
Ta0+delayA=Ta2−(Tint+Lac/c) ・・・(7)
Tb0+delayB=Tb2−(Tint+Lbc/c) ・・・(8)
delayC=Tc2−Tint ・・・(9)
(1)式と(7)式から
Ta1=τa+Ta2+TX−(Tint+Lac/c) ・・・(10)
(3)式と(8)式から
Tb1=τb+Tb2+TX−(Tint+Lbc/c) ・・・(11)
(5)式と(9)式から
Tc1=τc+Tc2+TX−Tint ・・・(12)
となる。
【0021】
固定局1Aと固定局1Cの受信時刻差τac(=τa−τc)は、(10)式と(12)式から
Ta1−Tc1=τa−τc+(Ta2−Tc2)−Lac/c
τac=Ta1−Tc1−(Ta2−Tc2)+Lac/c ・・・(13)
となる。
同様にして、固定局1Bと固定局1Cの受信時刻差τbc(=τb−τc)は、(11)式と(12)式から
Tb1−Tc1=τb−τc+(Tb2−Tc2)−Lbc/c
τac=Tb1−Tc1−(Tb2−Tc2)+Lbc/c ・・・(14)
となる。
【0022】
(13)式及び(14)式の各右辺には、計測カウンタのずれや各受信回路の遅れ時間が含まれていない。従って、誤差補正用信号の送信により、受信時刻差τac、τbcを算出する際に、各固定局1A,1B,1Cが互いに同期していない場合の計測カウンタのずれや各受信回路の遅れ時間の影響を取除くことができ、精度よく受信時刻差τac、τbcを算出できる。
【0023】
算出された受信時刻差τac、τbcは、移動局の存在位置に応じて零を含む正負の値となる。受信時刻差τac、τbcの正負と移動局の存在位置との関係を図3に示す。
即ち、本実施形態では、移動局が走行路4Aの外側(図1において走行路4Aの図中左側)に存在する場合、移動局との距離は固定局1Aの方が固定局1Cより近いので、固定局1Aの受信時刻τaは固定局1Cの受信時刻τcより早く、受信時刻差τac(=τa−τc)<0となる。移動局が走行路4Aに存在する場合、移動局との距離は固定局1Aと固定局1Cは略同じとなるので、τa=τcとなり、受信時刻差τac=0となる。移動局が走行路4Aと4Bの中間、走行路4B、及び走行路4Bの外側(図1において走行路4Bの図中右側)にそれぞれ存在する場合、移動局との距離は固定局1Aの方が固定局1Cより遠いので、τa>τcとなり、τac>0となる。
【0024】
受信時刻差τbcに関しては、移動局が走行路4Aの外側、走行路4A、走行路4Aと4Bの中間にそれぞれ存在する場合は、移動局との距離は固定局1Bの方が固定局1Cより遠いので、τb>τcとなり、τbc>0となり、移動局が走行路4Bに存在する場合は、移動局との距離は固定局1Bと固定局1Cは略同じとなるので、τb=τcでτbc=0となり、移動局が走行路4Bの外側に存在する場合は、移動局との距離は固定局1Bの方が固定局1Cより近いので、τb<τcとなり、τbc<0となる。例えば、τac=0且つτbc>0であれば移動局の存在位置が走行路4Aと判定でき、τac>0且つτbc=0であれば移動局の存在位置が走行路4Bと判定できる。
【0025】
かかる実施形態によれば、固定局1A〜1Cを走行路4A,4Bに対して適切に配置して受信時刻差に基づいて走行路を判定することにより、共通に存在する測定誤差要因を取除くことができ、誤差を許容して精度よく移動局2A,2Bが存在する走行路を判定することができる。また、1つの固定局1Cから誤差補正用信号を送信してその受信時刻情報を得ることにより、各固定局1A〜1Cの計測カウンタの互いのずれや各受信回路の遅れ時間の影響を排除することができ、より一層走行路の判定精度を向上できる。
尚、固定局における受信時刻の計測方法は、本出願人が先に提出した特開2004−361311号公報及び特開2005−201655号公報に記載した方法を用いるとよい。
【0026】
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
図4は、第2実施形態の構成図を示し、本実施形態は走行路が曲線の場合である。尚、図1に示す第1実施形態と同一要素には同一符号を付してある。また、図4では、走行路4A,4Bを1本線で示してある。
【0027】
図4において、本実施形態は、固定局1Aと1Cを、走行路4Aの中心線上で受信時刻差τacが所定の一定値τ1(τ1≠0)となるように走行路4Aを挟んで設置し、固定局1Bと1Cを、走行路4Bの中心線上で受信時刻差τbcが所定の一定値τ2(τ2≠0)となるように走行路4Bを挟んで設置する。図中、Lacは固定局1Aと1C間の距離を示し、Lbcは固定局1Bと1C間の距離を示す。
【0028】
尚、厳密に言えば、走行路4A,4Bは必ずしも双曲線とはならない。しかし、双曲線で程よく近似できる区間においては本実施形態の走行路区別装置を適用して移動局が存在する走行路の区別が可能である。
【0029】
本実施形態は、第1実施形態と同様にして受信時刻差τac,τbcを算出した後、前記各一定値τ1,τ2をそれぞれオフセット値として、前記受信時刻差τac,τbcを前記各オフセット値τ1,τ2でそれぞれ補正し、補正後の受信時刻差τac,τbcの正負により走行路の判定を行う。本実施形態では、走行路4Aの中心線が固定局1A側にオフセットされているので、補正後の受信時刻差τac′は、τac′=τa−(τc−τ1)=τac+τ1となり、走行路4Bの中心線が固定局1C側にオフセットされているので、補正後の受信時刻差τbc′は、τbc′=τb−(τc+τ2)=τbc−τ2となる。
【0030】
補正後の受信時刻差τac′、τbc′の正負と移動局の存在位置との関係を図5に示し、第1実施形態と同様にして図5の正負に基づいて移動局が存在する走行路を精度よく判定できる。
かかる実施形態によれば、走行路4A,4Bが曲線である場合でも精度よく移動局が存在する走行路を判定できる。
【0031】
ここで、図1の構成における受信時刻の測定誤差の影響を考える。
固定局1A,1B,1Cの各測定誤差をea,eb,ecとすると、固定局1Aと1Cの受信時刻差τacと、固定局1Bと1Cの受信時刻差τbcは、それぞれ
τac=(τa+ea)−(τc+ec)
τbc=(τb+eb)−(τc+ec)
となる。
移動局が走行路4A上に存在する場合、τa1=τc1<τb1であるので、
τac=ea−ec
τbc=(τb1−τc1)+(eb−ec)
ここで、−e<ea,eb,ec<eとすれば、
−2e<τac<2e
(τb1−τc1)−2e<τbc<(τb1−τc1)+2e
となる。
ここで、2e<(τb1−τc1)−2eの場合、即ち、e<(τb1−τc1)/4の場合は、走行路4A上に移動局が存在すれば、誤差を含んでいても、必ずτac<τbcとなる。
【0032】
移動局が走行路4B上に存在する場合、τb2=τc2<τa1であるので、
τac=(τa2−τc2)+(ea−ec)
τbc=eb−ec
ここで、−e<ea,eb,ec<eとすれば、
(τa2−τc2)−2e<τac<(τa2−τc2)+2e
−2e<τbc<2e
となる。
ここで、2e<(τa2−τc2)−2eの場合、即ち、e<(τa2−τc2)/4の場合は、走行路4B上に移動局が存在すれば、誤差を含んでいても、必ずτbc<τacとなる。
しかしながら、誤差が大きい場合、測定した受信時刻差の正負による走行路判定では、判定に誤り生じる虞れがある。
【0033】
このような誤り判定を防止するために、図6に示すような2つの受信時刻差τac,τbcの統計的分布状態に基づいてオフセット値を補正するようにすればよい。
図6は、図1の第1実施形態において走行路4Aに移動局が存在すると仮定した場合であって、例えば予め定めた所定回数以上測定した時の受信時刻差が同一値となった回数の分布状態を示し、実線は受信時刻差τacの分布状態を示し、点線は受信時刻差τbcの分布状態を示す。
【0034】
図6では、例えば、固定局1Cの設置位置の走行路4B側へのずれ等に起因して、固定局1Cの誤差平均値が0でなく、受信時刻差τac(=τa1−τc1),τbc(=τb1−τc1)が矢印方向にシフトした様子を示している。かかる統計的分布状態のずれ量に応じて、オフセット値を適切に補正し、補正したオフセット値を用いて計測された受信時刻差τac,τbcを補正することにより、正確な受信時刻差τac,τbcを得ることが可能となり、図3の正負の関係から移動局が存在する走行路を精度よく判定できるようになる。
【0035】
次に、本発明の第3実施形態について説明する。
図7に、第3実施形態の構成図を示す。尚、図1に示す第1実施形態と同一要素には同一符号を付してある。
第3実施形態は、多数の走行路を4つの固定局で判定するものである。
【0036】
図7において、固定局1A,1Bは、複数、本実施形態では3つの走行路4A〜4Cを挟んで設置する。更に詳細には、走行路4Aの中心線上で受信時刻差τabが所定の一定値τ1、走行路4Bの中心線上で受信時刻差τabが所定の一定値τ2、走行路4Cの中心線上で受信時刻差τabが所定の一定値τ3に、それぞれなるように、固定局1A,1Bの双曲線が各走行路4A〜4Bの中心線上で一致するよう走行路4A〜4Bを挟んで設置する。
【0037】
固定局1X,1Yは、固定局1A,1Bを結ぶ線上から等距離、即ち、前記線上において固定局1Xと固定局1Yの受信時刻差τxyが零となるように、走行路4A〜4Cに沿って間隔を設けて設置する。
そして、本実施形態では、固定局1Aと1Bによる受信時刻差τabの測定を、固定局1A,1Bを結ぶ線を中心とした図7の点線で囲まれた領域Pに限定して行う。領域Pは、固定局1Aと1Bによる受信時刻差τabの誤差が所定値以下となる条件により定める。
【0038】
第3実施形態の走行路判定部3による判定動作は、固定局1Xと固定局1Yが移動局からの信号を受信した時に、その受信時刻差τxyを算出し、τxyの値に基づいて移動局が領域P内か否かを判定し、τxy=0の時に、固定局1Aと固定局1Bの受信時刻差τab(=τa−τb、τa,τb:各固定局1A,1Bでそれぞれ計測した受信時刻)を算出し、この受信時刻差τabと前記オフセット値τ1,τ2,τ3(図7の構成では、τ1<0、τ2=0、τ3>0)に基づいて、τab−τ1、τab−τ2、τab−τ3を計算し、この計算値の正負に基づいて移動局が存在する走行路を判定できる。
【0039】
図8に、固定局1Xと1Yの受信時刻差τxy=0の時のτab−τ1、τab−τ2、τab−τ3の正負と移動局の存在位置との関係を示す。
かかる第3実施形態によれば、受信時刻差の誤差の少ない計測領域を予め定めてその領域で受信時刻差を計測するので、精度よく移動局2A〜2Cが存在する走行路を判定できる。また、4つの固定局1X,1Y,1A,1Bを設置するだけで、多数の走行路を精度よく判定できる利点がある。
【0040】
尚、上記各実施形態では、移動体を列車とし列車が走行する線路を区別対象の走行路としたが、移動体が自動車で区別対象の走行路を道路とし、自動車が存在する車線の判定にも適用できることは言うまでもない。
【0041】
また、各実施形態では、移動局側から信号を送信して固定局側で受信時刻差を計測する構成としたが、逆に、固定局側から信号を送信し移動局側で受信時刻差を計測するようにしてもよい。この場合、移動局は受信信号がどの固定局からのものか送信元を識別する必要がある。送信元を識別する方法としては、例えば各固定局の送信信号周波数を異ならせたり、或いは、固定局の送信時間を互いにずらしたりする等が考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の第1実施形態を示す走行路が直線である場合の構成図。
【図2】第1実施形態の動作を説明するタイムチャート
【図3】第1実施形態の受信時刻差と移動局の存在位置との関係を示す図
【図4】本発明の第2実施形態を示す走行路が曲線である場合の構成図
【図5】第2実施形態の受信時刻差と移動局の存在位置との関係を示す図
【図6】統計的分布状態を利用して受信時刻差を算出する場合の説明図
【図7】本発明の第3実施形態の構成図
【図8】第3実施形態の受信時刻差と移動局の存在位置との関係を示す図
【符号の説明】
【0043】
1A〜1C,1X,1Y 固定局
2A〜2C 移動局
3 走行路判定部
4A〜4C 走行路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動局及び固定局のいずれか一方の局から信号を送信して他方の局で前記信号を受信し、計測した受信時刻差に基づいて、複数の走行路のうちのどの走行路に前記移動局が存在するかを区別する走行路区別方法において、
前記複数の走行路の各中心線上で、前記受信時刻差がそれぞれ所定の一定値となるように前記複数の走行路を挟んで少なくとも2つ以上の前記固定局を配置し、前記各所定の一定値をオフセット値として前記計測した受信時刻差を補正し、補正後の受信時刻差の正負の値に基づいて前記移動局が存在する走行路を区別することを特徴とする走行路区別方法。
【請求項2】
前記固定局は、前記各走行路の各中心線上で、前記所定の一定値が零となるように前記走行路毎に走行路を挟んで設置したことを特徴とする請求項1に記載の走行路区別方法。
【請求項3】
前記受信時刻差を複数回測定し、各測定値の統計的分布状態に基づいて前記オフセット値を補正可能とした請求項1又は2に記載の走行路区別方法。
【請求項4】
走行路に沿って間隔を設けて別途2つの固定局を配置し、前記走行路に沿って位置した2つの固定局と前記移動局とで信号を送受した時の受信時刻差が略零となる領域内に、少なくとも2つ以上の前記固定局を複数の走行路を挟んで配置するようにした請求項1に記載の走行路区別方法。
【請求項5】
前記移動局を送信側とし、前記固定局を受信側とする構成とした請求項1〜4のいずれか1つに記載の走行路区別方法。
【請求項6】
前記走行路の中心線上で、各走行路を挟んで配置された2つの固定局の受信時刻差が略零となるように複数の固定局を配置した時に、前記複数の固定局のいずれか1つから誤差補正用信号を送信し、誤差補正用信号の受信時刻を用いて走行路を挟んで配置された2つの固定局の受信時刻差を算出する構成とした請求項5に記載の走行路区別方法。
【請求項7】
移動局及び固定局のいずれか一方の局から信号を送信して他方の局で前記信号を受信し、計測した受信時刻差に基づいて、複数の走行路のうちのどの走行路に前記移動局が存在するかを区別する走行路区別装置において、
前記複数の走行路の各中心線上で、前記受信時刻差がそれぞれ所定の一定値となるように前記複数の走行路を挟んで配置する少なくとも2つ以上の前記固定局と、
前記各所定の一定値をオフセット値として記憶し、前記計測した受信時刻差を前記オフセット値で補正し、補正後の受信時刻差の正負の値に基づいて前記移動局が存在する走行路を判定する判定部と、
を備える構成としたことを特徴とする走行路区別装置。
【請求項8】
前記固定局は、前記各走行路の各中心線上で、前記所定の一定値が零となるように前記走行路毎に走行路を挟んで設置したことを特徴とする請求項7に記載の走行路区別装置。
【請求項9】
前記判定部は、前記受信時刻差を複数回測定し、各測定値の統計的分布状態に基づいて前記オフセット値を補正可能な構成である請求項7又は8に記載の走行路区別方法。
【請求項10】
走行路に沿って間隔を設けて別途2つの固定局を配置し、前記走行路に沿って位置した2つの固定局と前記移動局とで信号を送受した時の受信時刻差が略零となる領域内に、少なくとも2つ以上の前記固定局を複数の走行路を挟んで配置する構成とした請求項7に記載の走行路区別装置。
【請求項11】
前記移動局を送信側とし、前記固定局を受信側とする構成とした請求項7〜10のいずれか1つに記載の走行路区別装置。
【請求項12】
前記走行路の中心線上で、各走行路を挟んで配置された2つの固定局の受信時刻差が略零となるように複数の固定局を配置した時に、前記複数の固定局のいずれか1つから誤差補正用信号を送信すると共に、前記判定部が、前記各固定局で計測される誤差補正用信号の受信時刻を用いて走行路を挟んで配置された2つの固定局の受信時刻差を算出する構成である請求項11に記載の走行路区別装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2007−225558(P2007−225558A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−49942(P2006−49942)
【出願日】平成18年2月27日(2006.2.27)
【出願人】(000004651)日本信号株式会社 (720)
【Fターム(参考)】