説明

走行金属線条体の伸線用潤滑剤除去装置

【課題】乾式方式により、走行している金属線条体の表面の伸線用潤滑剤被膜を均一、かつ、十分に除去することができる走行金属線条体の伸線用潤滑剤除去装置を提供すること。
【解決手段】研磨用の一対のバフ同士を押圧した状態で当接させ、走行している金属線条体を前記一対のバフ同士で挟み込んだ状態でバフ同士の当接面を通過させるバフ装置10,20を、金属線条体の走行路に沿って複数個並べて配設したバフ式潤滑剤除去装置110と、研磨用チップを収容し、金属線条体が通過可能に仕切られた複数のチップ収容室が金属線条体の走行路に沿って形成されている回転ドラム30,30’を有し、バフ式潤滑剤除去装置から導かれた走行している金属線条体を前記チップ収容室を通過させる研磨用チップ式潤滑剤除去装置120と、を備えている走行金属線条体の伸線用潤滑剤除去装置100である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、シームを有するフラックス入り溶接用ワイヤの製造工程において用いられ、走行している金属線条体の表面の伸線用潤滑剤被膜を除去する走行金属線条体の伸線用潤滑剤除去装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シームを有するフラックス入り溶接用ワイヤの製造工程では、伸線されたシーム有り伸線ワイヤの表面の伸線用潤滑剤被膜を除去する工程が設けられている。なお、伸線用潤滑剤としては、グラファイト、あるいはC、Si、Na、Ca、K、W、B、Mo、Znの各酸化物、あるいは各窒化物、あるいは各炭酸塩、あるいは各リン酸塩、あるいは各亜硝酸塩、あるいは各ホウ酸塩、あるいは各硫化物、あるいはそれらの複合化物が用いられている。そして、フロン使用規制のためフロン洗浄が採用できないことから、湯水洗浄などの湿式方式による伸線用潤滑剤除去装置を用いると、シーム部からワイヤ内に水分が浸入して製品の品質が低下するため、乾式方式による伸線用潤滑剤除去装置が必要とされている。
【0003】
しかしながら、従来、乾式方式による伸線用潤滑剤除去装置として適切なものがなく、走行しているシーム有り伸線ワイヤを連続的に通過させながら、前記シーム有り伸線ワイヤの表面の伸線用潤滑剤被膜を均一、かつ十分に除去することができるようにした伸線用潤滑剤除去装置が要請されていた。
【0004】
【特許文献1】特許第2839381号公報(段落[0011]〜[0013]、図3、図4)
【特許文献2】特開2005−74438号公報(段落[0050]、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明の課題は、乾式方式により、走行している金属線条体の表面の伸線用潤滑剤被膜を均一、かつ、十分に除去することができるようにした、走行金属線条体の伸線用潤滑剤除去装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の課題を解決するため、本願発明では、次の技術的手段を講じている。
【0007】
請求項1の発明は、走行している金属線条体の表面の伸線用潤滑剤被膜を除去する走行金属線条体の伸線用潤滑剤除去装置であって、研磨用の一対のバフ同士を押圧した状態で当接させ、走行している金属線条体を前記一対のバフ同士で挟み込んだ状態で該バフ同士の当接面を通過させるバフ装置を、金属線条体の走行路に沿って複数個並べて配設したバフ式潤滑剤除去装置と、内部に、研磨用チップを収容し、金属線条体が通過可能に仕切られた複数のチップ収容室が金属線条体の走行路に沿って形成されている回転ドラムを有し、前記バフ式潤滑剤除去装置から導かれた走行している金属線条体を前記回転ドラムの前記チップ収容室を通過させる研磨用チップ式潤滑剤除去装置と、を備えていることを特徴とする走行金属線条体の伸線用潤滑剤除去装置である。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1記載の走行金属線条体の伸線用潤滑剤除去装置において、前記複数のバフ装置の少なくとも一部が、前記一対のバフ同士を一体に回転させ、走行している金属線条体を、前記回転させている一対のバフ同士で挟み込んだ状態で該バフ同士の当接面を通過させる回転併用型バフ装置であることを特徴とするものである。
【0009】
請求項3の発明は、請求項1又は2記載の走行金属線条体の伸線用潤滑剤除去装置において、前記研磨用チップ式潤滑剤除去装置の前記回転ドラムの外周面に、金属線条体より除去された伸線用潤滑剤を回転ドラム外部へ排出するための多数の除去潤滑剤排出孔が設けられていることを特徴とするものである。
【0010】
請求項4の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の走行金属線条体の伸線用潤滑剤除去装置において、前記回転ドラムの前記チップ収容室に収容される前記研磨用チップが、自己磨耗性のあるものであることを特徴とするものである。
【0011】
請求項5の発明は、請求項4記載の走行金属線条体の伸線用潤滑剤除去装置において、前記研磨用チップの材質が、木材、竹材、果実種子よりなる群から選ばれた1種であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明による走行金属線条体の伸線用潤滑剤除去装置は、金属線条体の走行路にバフ装置を複数個並べて配設したバフ式潤滑剤除去装置と、このバフ式潤滑剤除去装置からの金属線条体が導入される回転ドラムを有する研磨用チップ式潤滑剤除去装置とを備えており、前記回転ドラムの内部には、研磨用チップを収容し、金属線条体が通過可能に仕切られた複数のチップ収容室が、金属線条体の走行路に沿って形成されている。
【0013】
本発明による伸線用潤滑剤除去装置は、まず、バフ式潤滑剤除去装置の各バフ装置において、研磨用の一対のバフ同士を押圧した状態で当接させ、走行している金属線条体を、前記一対のバフ同士で挟み込んだ状態で該バフ同士の当接面を通過させるようにしている。これにより、金属線条体表面の伸線用潤滑剤被膜が擦り取られて(引っ掻き取られて)、伸線用潤滑剤被膜の大部分を除去することができる。
【0014】
次いで、研磨用チップ式潤滑剤除去装置において、回転ドラムを回転させることにより、金属線条体が複数のチップ収容室を順次通過する間に、走行しているこの金属線条体に多数の研磨用チップを衝突させるようにしている。これにより、前記バフ式潤滑剤除去装置を経た後も金属線条体表面にこびりついている伸線用潤滑剤被膜を、浮き上がらせて除去することができる。
【0015】
このように、前記バフ式潤滑剤除去装置と、このバフ式潤滑剤除去装置からの金属線条体が導入される前記研磨用チップ式潤滑剤除去装置とを備えているので、乾式方式により、走行している金属線条体の表面の伸線用潤滑剤被膜を均一、かつ、十分に除去することができる。
【0016】
また、前記バフ式潤滑剤除去装置のバフ装置として回転併用型バフ装置を備えたものでは、この回転併用型バフ装置により、一対のバフ同士を一体に回転させるようにしているので、バフ同士の当接面を均等に摩耗させることができる。さらに、回転によってバフ同士の当接面と金属線条体との接触位置が360°にわたって変化しているので、バフと金属線条体との接触による摩擦力によってバフ自体が摩耗することで新たな研磨面が表出し、バフに長時間にわたって研磨力を保持させることができる。よって、バフの交換時間を長くして、高速で走行している金属線条体を長時間にわたって処理することができる。
【0017】
また、前記研磨用チップ式潤滑剤除去装置の回転ドラムの外周面に多数の除去潤滑剤排出孔を設けたものでは、これらの多数の除去潤滑剤排出孔により、走行金属線条体より除去された伸線用潤滑剤を回転ドラム外部へ自由落下させて排出するようにしている。したがって、金属線条体を大量に処理するに際し、金属線条体より除去された伸線用潤滑剤を回転ドラム内から容易、かつ連続的に排出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。図1は本発明の一実施形態を示す走行金属線条体の伸線用潤滑剤除去装置であって、二段式の伸線用潤滑剤除去装置における第1段目の伸線用潤滑剤除去装置の全体構成を示す側面図である。
【0019】
図1において、101は装置を取り付け、収容するための取付け架台である。この取付け架台101の上部に、バフ式潤滑剤除去装置110が設けられており、取付け架台101の下部に、研磨用チップ式潤滑剤除去装置120が設けられている。第1段目の伸線用潤滑剤除去装置100は、バフ式潤滑剤除去装置110と研磨用チップ式潤滑剤除去装置120とを備えている。
【0020】
まず、バフ式潤滑剤除去装置110について説明する。取付け架台101の上部には、金属線条体の水平方向に延びる走行路に沿って、回転併用型バフ装置10と非回転型バフ装置20とが交互に並べて配設されている。バフ式潤滑剤除去装置110は、この実施形態では、6台の回転併用型バフ装置10と5台の非回転型バフ装置20とを備えている。走行する金属線条体は、入側線条体ガイド部材103、バフ式潤滑剤除去装置110、出側線条体ガイド部材104及び出側ターンローラ105をこの順に経て、研磨用チップ式潤滑剤除去装置120へ導かれるようになっている。ここで、前記金属線条体は、シームを有するフラックス入り溶接用ワイヤを製造する製造工程での伸線工程から導かれてきたところの、シーム有り伸線ワイヤである(線径:0.8〜1.6mmφ)。また、金属線条体の走行速度は、100〜1500m/分程度である。
【0021】
図2は図1におけるバフ式潤滑剤除去装置の回転併用型バフ装置の構成を示す正面図である。以下、回転併用型バフ装置10について説明する。
【0022】
図2において、1は研磨用のバフである。バフ1は、帯状の研磨材が渦巻き状に巻き取られて積層状態にされたものである。このバフ1は、その中心部分が中空とされており、平面視で円環形状(ドーナツ形状)をなしている。そして、バフ1の金属線条体に接触させる面は、研磨ロールとは違って外周面ではなく、帯状の研磨材が渦巻き状に積層状態となっている面(平面視で円環形状をなしている面)である。
【0023】
11A,11Bは一対のエアシリンダである。これらのうち、図2における右側のエアシリンダ11Aには、水平方向に延びるエアシリンダ支持軸12Aが固着されており、このエアシリンダ支持軸12Aは、軸受13Aによって回転可能に支持されている。軸受13Aは、ベースプレート102に取り付けられた軸受支持部材14Aによって支持されている。このように、エアシリンダ11Aは、その水平方向に延びる軸線を中心として回転可能に支持されている。そして、このエアシリンダ11Aの水平方向に伸縮するピストンロッドの先端部には、円形形状をなすバフ取付け板15Aが固着されており、このバフ取付け板15Aに、前記一対のバフ1,1のうちの、一方側のバフ1が取り付けられている。
【0024】
なお、前記エアシリンダ支持軸12Aの内部に形成されたエア供給通路の端部に、エア源と連絡するエアホースが接続された回転型継手が接続されるようになっている。そして、エアシリンダ11Aには、前記エア供給通路、及び、このエア供給通路とエアシリンダ11Aのポートとを連絡する接続用エアホースを経由して、エア源からエアが供給されるようになっている。したがって、エアシリンダ11Aを回転させたとき、前記接続用ホースがエアシリンダ11Aに絡みつくことなくエアシリンダ11Aと一緒に回転するので、回転エアシリンダ11Aに支障なくエアを供給することができる。
【0025】
同様に、図2における左側のエアシリンダ11Bには、水平方向に延びるエアシリンダ支持軸12Bが固着されており、このエアシリンダ支持軸12Bは、軸受13Bによって回転可能に支持されている。前記軸受13Bは、ベースプレート102に取り付けられた軸受支持部材14Bによって支持されている。このように、エアシリンダ11Bは、その水平方向に延びる軸線を中心として回転可能に支持されている。そして、このエアシリンダ11Bの水平方向に伸縮するピストンロッドの先端部には、円形形状をなすバフ取付け板15Bが固着されており、このバフ取付け板15Bに他方側のバフ1が取り付けられている。なお、エアシリンダ11Bには、前述したエアシリンダ11Aの場合と同様の構成で、エアが供給されるようになっている。
【0026】
このように、一対のバフ1,1のうち、一方側のバフ1をエアシリンダ11Aに装着するとともに、他方側のバフ1をエアシリンダ11Bに装着することにより、一対のバフ1,1同士をエアシリンダ11A,11Bによって押圧した状態で当接させることができる。この場合、エアシリンダ11A,11Bを使用しているので、エアの圧力を変化させることで、押圧力の調整を容易に行うことができる。
【0027】
次に、この回転併用型バフ装置10が備えている駆動源(モータ17)及びチェーン式動力伝達機構について説明する。図2に示すように、前記エアシリンダ支持軸12Aには、2列の従動スプロケット16が装着されている。一方、モータ17の回転軸と連結された駆動軸18には、2列の駆動スプロケット19が装着されている。そして、前記2列の駆動スプロケット19の図2における左側のスプロケット19と前記2列の従動スプロケット16の図2における左側のスプロケット16とにわたってチェーン(図示省略)が掛け回されている。
【0028】
これにより、モータ17の駆動力がエアシリンダ支持軸12Aに伝達されて、一方側のバフ1が取り付けられているエアシリンダ11Aが回転する。この一方側のバフ1が回転すると、一対のバフ1,1同士がエアシリンダ11A,11Bで押圧した状態で当接されているので、一対のバフ1,1同士が一体に回転する。なお、バフ1,1の回転方向と金属線条体の走行方向との間には、特定の関係はない。
【0029】
そして、この実施形態では、チェーンとスプロケットを用いたチェーン式動力伝達機構により、1台の前記モータ17を駆動源として、6台の回転併用型バフ装置10の各一対のバフ1,1を回転させることができるように構成されている。
【0030】
このように、回転併用型バフ装置10は、一対のバフ1,1同士をエアシリンダ11A,11Bによって押圧した状態で当接させるとともに、該一対のバフ1,1同士を一体に回転させ、走行している金属線条体を、その走行路に対して左右から前記回転させている一対のバフ1,1同士で挟み込んだ状態で該バフ1,1同士の当接面を通過させるように構成されている。なお、一対のバフ1,1の回転数は、1分間あたり1〜180回転程度である。
【0031】
図3は図1におけるバフ式潤滑剤除去装置の非回転型バフ装置の構成を示す正面図である。以下、非回転型バフ装置20について説明する。
【0032】
図3において、21は2個の円筒状の押え受けガイド22を有するベース台、23は2本の棒状部材24を有する押え部材、25は押え部材23の上面に固着された重りである。非回転型バフ装置20は、ベース台21上に上下に重ねられた一対のバフ1,1の上に、重り25が固着された押え部材23を、その2本の棒状部材24が押え受けガイド22に挿入されるようにして、載置することにより、一対のバフ1,1を重り25によって上から押圧するようにしたものである。なお、ベース台21は、前記ベースプレート102に固着される。
【0033】
このように、非回転型バフ装置20は、一対のバフ1,1同士を重り25によって押圧した状態で当接させ、走行している金属線条体を、走行路に対して上下から一対のバフ1,1同士で挟み込んだ状態で該バフ1,1同士の当接面を通過させるように構成されている。
【0034】
次に、前記研磨用チップ式潤滑剤除去装置120について、前記図1、及び図4を参照して説明する。図4は図1における研磨用チップ式潤滑剤除去装置の回転ドラムの要部を示す側面図である。
【0035】
図1に示すように、研磨用チップ式潤滑剤除去装置120は、1台のドラム駆動用モータ(図示省略)と、第1及び第2の2台の回転ドラム30,30’と、前記ドラム駆動用モータの駆動力を2台の回転ドラム30,30’へ伝達するチェーン式動力伝達機構と、第1〜第3のターンローラ121〜123とを備えている。走行する金属線条体は、第1ターンローラ121、第1の回転ドラム30、第2ターンローラ122、第2の回転ドラム30’、第3ターンローラ123及び第1ターンローラ121をこの順に経て、その後、後述する第2段目の伸線用潤滑剤除去装置200のバフ式潤滑剤除去装置210へ導入されるようになっている。
【0036】
第1の回転ドラム30の内部には、仕切り板32によって金属線条体が通過可能に仕切られた複数のチップ収容室31が、金属線条体の走行路に沿って形成されている。円柱状の中空部を有する各チップ収容室31内には、それぞれ、所定量の研磨用チップ(図示省略)が収容される。前記仕切り板32は円形形状をなしており、この仕切り板32の中心部に嵌め込まれた線条体ガイド部材33には、金属線条体の通過を許容し、かつ、研磨用チップの通過を阻止する孔が設けられている。この実施形態では、回転ドラム30の内部に、2つの仕切り板32を用いて、3つのチップ収容室31が形成されている。
【0037】
ここで、前記研磨用チップとしては、自己磨耗性があって、チップ自体が摩耗することで新たな研磨面が表出するようなものがよい。研磨用チップの材質としては、木材、竹材、果実種子などが挙げられる。これらのうち、入手の容易性、供給の安定性、価格競争力などの点から、特に好ましいのは、竹材製の研磨用チップである。研磨用チップの形状は、直方体形状、正方体(立方体)形状、円柱体形状が挙げられる。研磨用チップの寸法は、直方体や正方体の形状では、端面の一辺の長さが3〜100mm程度、長さが3〜100mm程度であり、円柱体形状では、直径が2〜100mm程度、長さが2〜200mm程度である。
【0038】
そして、このような研磨用チップが収容されるチップ収容室31を有する回転ドラム30の胴部の外周面(外周壁)には、金属線条体より除去された伸線用潤滑剤を回転ドラム外部へ排出するための多数の小さい除去潤滑剤排出孔34が設けられている(図4参照)。
【0039】
また、第1の回転ドラム30の両端面には、それぞれ、回転軸35が固着されている。これらの回転軸35は、走行する金属線条体を通すための中空部を有している。さらに、前記中空部の両端部分には、線条体ガイド部材が嵌め込まれている。また、回転ドラム30の図1における右側の回転軸35には、従動スプロケット37が装着されている。そして、回転ドラム30の回転軸35が軸受36によって回転可能に支持されており、第1の回転ドラム30は、水平方向へ延びる姿勢にて回転可能に支持されている。なお、第2の回転ドラム30’の構成については、第1の回転ドラム30と同一構成であるので、その説明を省略する。
【0040】
次に、2台の回転ドラム30,30’を回転させるためのチェーン式動力伝達機構について説明する。取付け架台101の下部には、1台のドラム駆動用モータ(図示省略)が配設されている。このドラム駆動用モータの回転軸に連結された駆動軸に、駆動スプロケット(図示省略)が装着されている。この駆動スプロケットと、第1の回転ドラム30の右側の回転軸35に装着された従動スプロケット37と、第2の回転ドラム30’の右側の回転軸35に装着された従動スプロケット37とにわたってチェーン(図示省略)が掛け回されている。これにより、1台の前記ドラム駆動用モータの駆動力が前記各回転軸35に伝達されて、回転ドラム30,30’が回転する。なお、回転ドラム30,30’の回転数は、1分間あたり1〜180回転程度である。
【0041】
次に、この第1段目の伸線用潤滑剤除去装置100の下流側に設置される第2段目の伸線用潤滑剤除去装置200について説明する。図5は第2段目の伸線用潤滑剤除去装置の全体構成を示す側面図である。ここで、バフ式潤滑剤除去装置210の構成が異なる点以外は、第1段目の伸線用潤滑剤除去装置の構成と同一なので、両者に共通する部分には同一の符号を付して説明を省略し、異なる点について説明する。
【0042】
図5に示すように、取付け架台201の上部に、バフ式潤滑剤除去装置210が設けられており、取付け架台201の下部に、研磨用チップ式潤滑剤除去装置120が設けられている。第2段目の伸線用潤滑剤除去装置200は、バフ式潤滑剤除去装置210と研磨用チップ式潤滑剤除去装置120とを備えている。
【0043】
前記バフ式潤滑剤除去装置210について説明する。取付け架台201の上部には、金属線条体の走行路に沿って、1台の非回転型バフ装置20と、2台の従動側回転併用型バフ装置50と、1台の非回転型バフ装置20と、2台の従動側回転併用型バフ装置50と、1台の駆動側回転併用型バフ装置40と、1台の非回転型バフ装置20とが、金属線条体入側からこの順に並べて配設されている。バフ式潤滑剤除去装置210は、この実施形態では、前記5台の回転併用型バフ装置と前記3台の非回転型バフ装置とを備えている。第1段目の伸線用潤滑剤除去装置100の研磨用チップ式潤滑剤除去装置120を経た後、走行する金属線条体は、入側線条体ガイド部材202及びバフ式潤滑剤除去装置210を経て、研磨用チップ式潤滑剤除去装置120へ導かれるようになっている。
【0044】
図6は図5におけるバフ式潤滑剤除去装置の駆動側回転併用型バフ装置の構成を示す正面図である。以下、駆動側回転併用型バフ装置40について説明する。
【0045】
図6において、41は減速機付きのモータである。モータ41の回転軸には、水平方向に延びる駆動軸42が連結されている。この駆動軸42のモータ側の端部には、2列のスプロケット43が装着されている。一対のバフ1,1は、それぞれ、円環形状(ドーナツ形状)をなすバフ取付け板44A,44Bに固着されている。そして、スプロケット43が装着された駆動軸42の外側に、一方側の圧縮コイルばね45A、一方側のバフ1が取り付けられたバフ取付け板44A、他方側のバフ1が取り付けられたバフ取付け板44B及び他方側の圧縮コイルばね45Bが、この順で嵌め込まれ、最後に、駆動軸42にストッパ部材46が取り付けられている。
【0046】
このようにして、一対のバフ1,1同士の作用面を、圧縮コイルばね45A,45Bによって弾性的に押圧した状態で当接させるようにしている。そして、モータ41によって駆動軸42が回転されることにより、一対のバフ1,1同士が一体に回転する。
【0047】
このように、駆動側回転併用型バフ装置40は、一対のバフ1,1を圧縮コイルばね45a,45Bによって弾性的に押圧した状態で当接させるとともに、一対のバフ1,1同士を一体に回転させ、走行している金属線条体を、その走行路に対して左右から前記回転させている一対のバフ1,1同士で挟み込んだ状態で該バフ1,1同士の当接面を通過させるように構成されている。
【0048】
図7は図5におけるバフ式潤滑剤除去装置の従動側回転併用型バフ装置の構成を示す正面図である。以下、従動側回転併用型バフ装置50について説明する。
【0049】
図7において、51は水平方向に延びる従動軸である。従動軸51は、軸受52によって回転可能に支持されている。この従動軸51の大径部の端部には、2列のスプロケット53が装着されている。そして、スプロケット53が装着された従動軸51の前記大径部に、一方側の圧縮コイルばね54A、一方側のバフ1が取り付けられたバフ取付け板55A、他方側のバフ1が取り付けられたバフ取付け板55B及び他方側の圧縮コイルばね54Aが、この順で嵌め込まれ、最後に、従動軸51の前記大径部にストッパ部材56が取り付けられている。このようにして、一対のバフ1,1同士を圧縮コイルばね54a,54Bによって弾性的に押圧した状態で当接させるようにしている。
【0050】
そして、回転併用型バフ装置40,50は、1台の前記モータ41を共通の駆動源として、チェーンとスプロケットを用いたチェーン式動力伝達機構を備えている。これにより、1台の前記モータ41を駆動源として、1台の駆動側回転併用型バフ装置40及び4台の従動側回転併用型バフ装置50の各一対のバフ1,1を回転させることができるように構成されている。
【0051】
このように、従動側回転併用型バフ装置50は、駆動側回転併用型バフ装置40と同じく、一対のバフ1,1同士を圧縮コイルばね45A,45Bによって弾性的に押圧した状態で当接させるとともに、一対のバフ1,1同士を一体に回転させ、走行している金属線条体を、その走行路に対して左右から前記回転させている一対のバフ1,1同士で挟み込んだ状態で該バフ1,1同士の当接面を通過させるように構成されている。
【0052】
なお、第2段目の伸線用潤滑剤除去装置200に備えられた3台の非回転型バフ装置20の構成については、第1段目の伸線用潤滑剤除去装置100の非回転型バフ装置20と同一構成である。
【0053】
このように構成されるバフ式潤滑剤除去装置210を経て、走行する金属線条体は、前述した研磨用チップ式潤滑剤除去装置120へ導かれる。そして、走行する金属線条体は、第1ターンローラ121、第1の回転ドラム30、第2ターンローラ122、第2の回転ドラム30’、第3ターンローラ123、第1ターンローラ121及び出側線条体ガイド203をこの順に経て、次の工程へ導かれるようになっている。
【0054】
次に、前記のように構成された第1段目の伸線用潤滑剤除去装置100を用いて、金属線条体表面の伸線用潤滑剤被膜を除去することについて説明する。
【0055】
伸線工程から導かれてきた走行する金属線条体は、入側線条体ガイド部材103を通って、バフ式潤滑剤除去装置110へ導かれる。このバフ式潤滑剤除去装置110に備えられた6台の回転併用型バフ装置10において、走行する金属線条体は、その走行路に対して左右から一対のバフ1,1同士で挟み込まれた状態で該バフ1,1同士の当接面を通過する。これにより、走行する金属線条体は、エアシリンダ11A,11Bによって押圧された前記当接面と接触することによって、その金属線条体表面が擦られる(引っ掻かれる)。
【0056】
また、バフ式潤滑剤除去装置110に備えられた5台の非回転型バフ装置20において、走行する金属線条体は、その走行路に対して上下から一対のバフ1,1同士で挟み込まれた状態で該バフ1,1同士の当接面を通過する。これにより、走行する金属線条体は、重り25によって押圧された前記当接面と接触することによって、その金属線条体表面が擦られる(引っ掻かれる)。
【0057】
このように、バフ式潤滑剤除去装置110により、走行する金属線条体の表面の伸線用潤滑剤被膜が擦り取られて(引っ掻き取られて)、伸線用潤滑剤被膜の大部分を除去することができる。
【0058】
また、このバフ式潤滑剤除去装置110に備えられた回転併用型バフ装置10は、一対のバフ1,1同士を一体に回転させるようにしている。したがって、バフ1,1同士の当接面を均等に摩耗させることができる。さらに、回転によってバフ1,1同士の当接面と金属線条体との接触位置が360°にわたって変化しているので、バフ1と金属線条体との接触による摩擦力によってバフ自体が摩耗することで新たな研磨面が表出し、バフ1に長時間にわたって研磨力を保持させることができる。よって、バフ1の交換時間を長くして、高速で走行している金属線条体を長時間にわたって処理することができる。
【0059】
また、非回転型バフ装置20を配設しているので、非回転型バフ装置20の存在により、走行している金属線条体が振動したり、走行路に対して金属線条体が大きく位置ずれしたりすることを防止することができる。
【0060】
次いで、走行する金属線条体は、研磨用チップ式潤滑剤除去装置120へ導かれる。
【0061】
この研磨用チップ式潤滑剤除去装置120に備えられた各回転ドラム30,30’において、走行する金属線条体が3つのチップ収容室31を順次通過する間に、金属線条体に多数の研磨用チップが衝突して、金属線条体が擦られる。これにより、前記バフ式潤滑剤除去装置110を経た後も金属線条体表面にこびりついている伸線用潤滑剤被膜を、浮き上がらせることができる。そして、伸線工程での伸線用潤滑剤の使用量が少ない金属線条体の場合には、金属線条体表面にこびりついている伸線用潤滑剤被膜を浮き上がらせて、その大部分を除去することができる。
【0062】
研磨用チップ式潤滑剤除去装置120において、前記チップ収容室31内に収容されている研磨用チップは、回転ドラム30,30’の回転に伴って、走行する金属線条体の周囲を循環しながら、該金属線条体に衝突する。このとき、チップ収容室31内に収容されている研磨用チップは、常に、研磨用チップ同士が衝突し、かつ、攪拌される。これにより、チップ収容室31内を走行する金属線条体に、新生面が表出された研磨用チップを衝突させることができる。
【0063】
ここで、回転するチップ収容室内に収容されている研磨用チップは、時間の経過とともに次第に、金属線条体走行路の下流側へ移動する。チップ収容室が1個の場合には、チップ収容室内の一箇所に研磨用チップが集まると、チップ収容室内(回転ドラム内)において伸線用潤滑剤被膜を除去できる領域が大幅に制限される。そこで、チップ収容室内の金属線条体の走行路のほぼ全長にわたって伸線用潤滑剤被膜の除去を行えるようにするため、前記各回転ドラム30,30’には、この実施形態では3つのチップ収容室31を設けている。
【0064】
また、回転ドラム30,30’には、その外周面に多数の除去潤滑剤排出孔34が設けられているので、これらの多数の除去潤滑剤排出孔34により、走行金属線条体より除去された伸線用潤滑剤を回転ドラム30,30’外部へ自由落下させて排出することができる。したがって、金属線条体を大量に処理するに際し、金属線条体より除去された伸線用潤滑剤を回転ドラム30,30’内から容易、かつ連続的に排出することができる。
【0065】
このようにして、伸線工程での伸線用潤滑剤の使用量が少ない金属線条体の場合には、この第1段目の伸線用潤滑剤除去装置100を用いて、乾式方式により、走行している金属線条体の表面の伸線用潤滑剤被膜を均一、かつ、十分に除去することができる。
【0066】
そして、伸線工程での伸線用潤滑剤の使用量が多い金属線条体の場合には、走行する金属線条体は、伸線用潤滑剤除去装置100の研磨用チップ式潤滑剤除去装置120を経た後、第2段目の伸線用潤滑剤除去装置200へ導かれる。
【0067】
以下、前記のように構成された第2段目の伸線用潤滑剤除去装置200を用いて、金属線条体の伸線用潤滑剤被膜を除去することについて説明する。
【0068】
前記伸線用潤滑剤除去装置100から導かれてきた走行する金属線条体は、入側線条体ガイド部材202を通って、バフ式潤滑剤除去装置210へ導かれる。このバフ式潤滑剤除去装置210に備えられた5台の回転併用型バフ装置40,50において、走行する金属線条体は、その走行路に対して左右から一対のバフ1,1同士で挟み込まれた状態で該バフ1,1同士の当接面を通過する。これにより、走行する金属線条体は、前記圧縮コイルばねによって押圧された前記当接面と接触することによって、その金属線条体表面が擦られる(引っ掻かれる)。
【0069】
また、バフ式潤滑剤除去装置210に備えられた3台の非回転型バフ装置20において、走行する金属線条体は、その走行路に対して上下から一対のバフ1,1同士で挟み込まれた状態で該バフ1,1同士の当接面を通過する。これにより、走行する金属線条体は、重り25によって押圧した状態で当接させた前記当接面と接触することによって、その金属線条体表面が擦られる(引っ掻かれる)。
【0070】
このように、バフ式潤滑剤除去装置210により、金属線条体表面の伸線用潤滑剤被膜が擦り取られて(引っ掻き取られて)、金属線条体表面に残存している伸線用潤滑剤被膜の大部分を除去することができる。この場合、金属線条体表面に残存している伸線用潤滑剤被膜は、前記1段目での前記研磨用チップ式潤滑剤除去装置120によって浮き上がらせて、除去されやすい状態となっている。
【0071】
次いで、走行する金属線条体は、最終の仕上げとし、第2段目の伸線用潤滑剤除去装置200の研磨用チップ式潤滑剤除去装置120へ導かれて、その表面に残存している伸線用潤滑剤被膜が除去される。
【0072】
このように、伸線工程での伸線用潤滑剤の使用量が多い金属線条体の場合でも、各々がバフ式潤滑剤除去装置及び研磨用チップ式潤滑剤除去装置を備えた伸線用潤滑剤除去装置100,200を直列に設置した二段式とすることにより、乾式方式により、走行している金属線条体の表面の伸線用潤滑剤被膜を均一、かつ、十分に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の一実施形態を示す走行金属線条体の伸線用潤滑剤除去装置であって、二段式の伸線用潤滑剤除去装置における第1段目の伸線用潤滑剤除去装置の全体構成を示す側面図である。
【図2】図1におけるバフ式潤滑剤除去装置の回転併用型バフ装置の構成を示す正面図である。
【図3】図1におけるバフ式潤滑剤除去装置の非回転型バフ装置の構成を示す正面図である。
【図4】図1における研磨用チップ式潤滑剤除去装置の回転ドラムの要部を示す側面図である。
【図5】第2段目の伸線用潤滑剤除去装置の全体構成を示す側面図である。
【図6】図5におけるバフ式潤滑剤除去装置の駆動側回転併用型バフ装置の構成を示す正面図である。
【図7】図5におけるバフ式潤滑剤除去装置の従動側回転併用型バフ装置の構成を示す正面図である。
【符号の説明】
【0074】
1…バフ
10…回転併用型バフ装置
11A,11B…エアシリンダ
15A,15B…バフ取付け板
16…従動スプロケット
17…モータ
18…駆動軸
19…駆動スプロケット
20…非回転型バフ装置
25…重り
30…第1の回転ドラム 30’…第2の回転ドラム、
31…チップ収容室
34…除去潤滑剤排出孔
35…回転軸
40…駆動側回転併用型バフ装置
41…モータ
42…駆動軸
44A,44B…バフ取付け板
45A,45B…圧縮コイルばね
50…従動側回転併用型バフ装置
51…従動軸
54A,54B…圧縮コイルばね
55A,55B…バフ取付け板
100…第1段目の伸線用潤滑剤除去装置
101…取付け架台
110…バフ式潤滑剤除去装置
120…研磨用チップ式潤滑剤除去装置
121〜123…ターンローラ
200…第2段目の伸線用潤滑剤除去装置
201…取付け架台
210…バフ式潤滑剤除去装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行している金属線条体の表面の伸線用潤滑剤被膜を除去する走行金属線条体の伸線用潤滑剤除去装置であって、研磨用の一対のバフ同士を押圧した状態で当接させ、走行している金属線条体を前記一対のバフ同士で挟み込んだ状態で該バフ同士の当接面を通過させるバフ装置を、金属線条体の走行路に沿って複数個並べて配設したバフ式潤滑剤除去装置と、内部に、研磨用チップを収容し、金属線条体が通過可能に仕切られた複数のチップ収容室が金属線条体の走行路に沿って形成されている回転ドラムを有し、前記バフ式潤滑剤除去装置から導かれた走行している金属線条体を前記回転ドラムの前記チップ収容室を通過させる研磨用チップ式潤滑剤除去装置と、を備えていることを特徴とする走行金属線条体の伸線用潤滑剤除去装置。
【請求項2】
前記複数のバフ装置の少なくとも一部が、前記一対のバフ同士を一体に回転させ、走行している金属線条体を、前記回転させている一対のバフ同士で挟み込んだ状態で該バフ同士の当接面を通過させる回転併用型バフ装置であることを特徴とする請求項1記載の走行金属線条体の伸線用潤滑剤除去装置。
【請求項3】
前記研磨用チップ式潤滑剤除去装置の前記回転ドラムの外周面に、金属線条体より除去された伸線用潤滑剤を回転ドラム外部へ排出するための多数の除去潤滑剤排出孔が設けられていることを特徴とする請求項1又は2記載の走行金属線条体の伸線用潤滑剤除去装置。
【請求項4】
前記回転ドラムの前記チップ収容室に収容される前記研磨用チップが、自己磨耗性のあるものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の走行金属線条体の伸線用潤滑剤除去装置。
【請求項5】
前記研磨用チップの材質が、木材、竹材、果実種子よりなる群から選ばれた1種であることを特徴とする請求項4記載の走行金属線条体の伸線用潤滑剤除去装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−18361(P2009−18361A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−181215(P2007−181215)
【出願日】平成19年7月10日(2007.7.10)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】