説明

超純水用管継手

【課題】 超純水を取り扱うことができる管継手及びその配管システムにおいて、管継手からの不純物の超純水への溶出がなく、また非酸素透過性を向上することができ、更に耐薬品製を向上することができる、超純水用管継手及びその配管システムの提供を課題とする。
【解決手段】 合成樹脂製の管継手の少なくとも接液部に、DLC膜がコーティングされてなる超純水用管継手である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として超純水供給用の配管設備に使用される超純水用管継手であり、特には管継手等の配管系から不純物が水へ溶出することを防止できる超純水用管継手及びその配管システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体ウエーハ等のIC製造工程において、その洗浄等に超純水が必要とされてきた。このような超純水を供給するためには、配管等に用いられる管等の設備が必要である。
この配管等に用いられる管等は、超純水の水質に影響を与えないために、管等からの金属イオンやTOC(全有機炭素)等の不純物の溶出を防ぐことが求められている。
【0003】
このような不純物の溶出を防止する方法として、配管系に用いる材料を、不純物等の溶出の少ない材料を用いること、具体的には、単独重合体のガラス転移温度が−140〜−20℃であるアルキル(メタ)アクリレートモノマー50重量%以上を含有してなるアクリル系モノマー成分100重量部と多官能性モノマー成分0.01〜10重量部とを共重合したアクリル系共重合体1〜10重量%に、塩化ビニルモノマー単独又は塩化ビニルモノマーとその他の共重合性モノマーとの混合モノマー99〜90重量%をグラフト共重合してなる平均重合度600〜3000の複合塩化ビニル系樹脂が主成分である硬質塩化ビニル系樹脂管(特許文献1参照)を用いる例が知られている。
【0004】
一方、プラスチック素材は、ガス体が透過しやすいことに鑑みて、プラスチック容器の表面にDLC(ダイヤモンドレライクカーボン)膜を形成させたプラスチック容器(特許文献2参照)とすることも知られている。
この技術は、炭酸飲料やワイン等の充填容器としてプラスチック製容器を使用した場合、酸素がプラスチックを透過して飲料を経時的に酸化させたり、あるいは炭酸飲料中の炭酸ガスがプラスチックを透過して外部に放出されるために炭酸飲料の気が抜けてしまったりすることを防止するものであって、上記したDLC膜を形成させることにより、透過性を防止できるという性質を利用している。
【特許文献1】特開2005−155901号公報
【特許文献2】特開2001−31045号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、プラスチック材料は、ガスバリア性が低いという欠点がある。しかしながら、特許文献1に記載の技術では、塩化ビニル系樹脂からなるプラスチック製の管を使用しているため、酸素等が管を透過して、経時的に超純水への溶出が起こり、使用される超純水に悪影響を与える虞があるという不利があった。
また、近年のIC等の高密度化により、線幅がさらに狭くなりつつあり、そのためには、洗浄水のさらなる高純度化が必要となってきている。
従って、本発明は、上記従来の問題点を解決するためになされたものであり、もう一段優れた超純水を取り扱うことのできる超純水用管継手及びその配管システムを得るものとして、1.管継手からの不純物の超純水への溶出がなく、2.非酸素透過性を向上することができ、3.耐薬品製を向上することができる、超純水用管継手及びその配管システムの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、合成樹脂製の管継手の少なくとも接液部に、非酸素透過性に優れたダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜をコーティングさせることにより、管継手からの不純物の超純水への溶出を防止することができる実用上極めて望ましい純水用管継手及びその配管システムを見い出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、合成樹脂製の超純水用管継手の少なくとも接液部に、ダイヤモンドライクカーボン(以下、単にDLCと略称する)膜がコーティングされてなる超純水用管継手である。
また、樹脂製の管、継手、バルブ等からなる配管システムにおいて、少なくとも接液部に、DLC膜がコーティングされてなる超純水用配管システムでもある。
【発明の効果】
【0008】
本発明の超純水用管継手は、管継手からの不純物の超純水への溶出を防止することができるので、特に半導体装置に使用されるウエーハ洗浄用のためのもう一段優れた超純水を対象とする優れた超純水用管継手及びその配管システムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の超純水用管継手の形態について詳細に説明する。
本発明の純水用管継手は、合成樹脂からなるもので、例えば、硬質塩化ビニル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン樹脂、架橋ポリエチレン、ポリブチテン、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂等が挙げられる。これらの中でも、硬質塩化ビニル樹脂が成形性等の点で好ましく採用される。
【0010】
本発明の超純水用管継手は、上記した合成樹脂材料が採用されるが、これらの樹脂は、透明もしくは不透明の樹脂材料を用いてもよく、その用途に応じて適宜選択することができる。
【0011】
本発明の超純水用管継手の形状及び呼び径等は、通常使用されているものであれば特に制限はないが、一般には、呼び径が13〜300mm程度のものが採用され、厚さは例えば2〜20mm程度であり、必要に応じて適宜選択することができる。
【0012】
本発明の超純水用管継手は、上記した材料からなる管継手の少なくとも接液部に、DLC膜がコーティングされてなることに技術的な特徴がある。
DLC膜がコーティングされる接液部とは、合成樹脂製の管継手に超純水が接触する部分であり、通常、管継手の内面、外面、あるいは管継手と他の管との接続部等のことである。
このDLC膜は、ダイヤモンドとグラファイトの中間的構造の非結晶(アモルファス)炭素薄膜であり、高硬度、低摩擦係数、高耐摩耗性、高化学的安定性等の優れた特性を有するため、保護膜として好適に使用することができる。
【0013】
本発明の超純水用管継手において、接液部にDLC膜をコーティングする方法としては、常温CVDプラズマ処理法が採用される。
この方法は、従来、金属向けのコーティング方法では、200℃以上のプラズマ温度でないと、コーティングできないので、これを合成樹脂製の管継手には、溶融や熱劣化等の問題からコーティングできなかったが、この方法により、50〜60℃のプラズマ温度帯で、DLC膜をコーティングすることができる。
【0014】
例えば、本発明においては、予め管継手を低温プラズマ処理等に供することにより、清浄化(或いはエッチング)処理しておくことができる。さらに必要ならば、清浄化処理に先立ち、常法に従って、アルコール洗浄等による基材の脱脂を行っても良い。低温プラズマ処理による清浄化処理は、Ar、H2、N2、He、CF4などの少なくとも1種を用いる公知の高周波プラズマ処理法、マイクロ波プラズマ処理法などにより行うことができる。すなわち、管継手を熱的に劣化させない温度(合成樹脂材料の種類により定まる)において、ガス圧力を10〜150Pa程度(より好ましくは13〜135Pa程度)に保持しつつ行う。この低温プラズマ処理により、管継手の高度の清浄化と表面修飾とが行われる。
【0015】
次いで、必要に応じて上記清浄化処理された管継手を、メタン−アルゴン混合ガスを用いるCVDプラズマ処理に供する。この工程は、上記において使用したものと同様のプラズマ発生装置を用いて、同様の温度および圧力条件下に行うことができる。この工程におけるメタン−アルゴン混合ガス中のメタン含有量は、通常10〜80容量%程度であり、より好ましくは20〜50容量%程度である。この工程により、管継手表面には、基材との密着性に極めて優れた炭素中間層が形成される。この炭素中間層は、主としてアモルファスカーボンからなっている。炭素中間層の厚さは、最終製品の用途等によって異なるが、通常10〜1000nm程度であり、より好ましくは20〜500nm程度である。炭素中間層の厚さは、混合ガス中のメタン含有量(メタン分圧)、CVDプラズマ処理における条件(温度、圧力、時間)などにより、制御することができる。
【0016】
次いで、この工程により炭素中間層を形成された管継手を、炭化水素ガス或いは炭化水素ガスと水素との混合ガスを用いるCVDプラズマ処理工程に供する。このCVDプラズマ処理工程は、上記工程において使用したものと同様のプラズマ発生装置を用いて、同様の温度および圧力条件下に行うことができる。炭化水素としては、メタン、エタン、エチレン、アセチレン等が挙げられる。前記工程からプラズマ処理工程への移行は、雰囲気ガス圧力を所定値に維持した状態で、アルゴン含有量を減少させつつ、水素含有量を増大させることにより、プラズマ処理操作を中断することなく、連続的に行うことができる。この場合には、炭素中間層からDLC層までの構造と物性とを連続的に変化させた"傾斜性機能膜"を形成することができる。
【0017】
この傾斜性機能膜においては、炭素中間層(下層)とDLC膜(上層)との間に明確な界面が存在しないので、DLC膜と管継手との密着性がさらに向上する。CVDプラズマ処理工程の最終段階における炭化水素含有ガス中の炭化水素含有量は、10〜100容量%程度であり、より好ましくは25〜100容量%程度である。このCVDプラズマ処理工程により、管継手の最表面には、所望の高硬度のDLC膜が形成される。このDLC膜の厚さは、炭化水素含有ガス中の炭化水素含有量(炭化水素ガス分圧)、CVDプラズマ処理における諸条件(温度、圧力、時間等)等により、制御することができる。
【0018】
本発明を構成するDLC膜の膜厚は、特に制限されるものでないが、好ましくは50〜500Åの範囲、より好ましくは200〜400Åの範囲である。
この厚さが50Å未満であると、非酸素透過性等の効果を十分に発揮することができない虞があり、逆に500Åを超えると経済的に不利になるという虞がある。
【0019】
また本発明では、樹脂製の管、継手、バルブ等からなる配管システムにおいて、少なくともその接液部に、上記したDLC膜が形成されていることが好ましい。
この場合、樹脂製の管、継手、バルブ等は、通常用いられているものを採用さればよい。
【実施例】
【0020】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例のみに限定されるものではない。
【0021】
[実施例1]
呼び径20mm、厚さ3mmの硬質塩化ビニル樹脂からなる管継手の接液部に、常温プラズマCVD法によって、平均厚さ300ÅのDLC膜が形成された超純水用管継手を作製した。
この超純水用管継手を用いて、超純水を封水させ、30日経過後の管継手からの不純物の超純水への溶出を調べた結果、原液と比較して溶出は全く見られなかった。
【0022】
[比較例1]
表面にDLC膜を形成しない呼び径20mm、厚さ3mmの硬質塩化ビニル樹脂からなる管継手を作製した。この管継手を用いて、これに超純水を封水させ、30日経過後の管継手からの不純物の超純水への溶出を調べた結果、原液と比較して溶出が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明の超純水用管継手は、管継手からの不純物の超純水への溶出を防止することができるので、特に半導体装置に使用されるウエーハ洗浄用のための超純水を対象とする優れた超純水用管継手及びその配管システムを提供することができ、その産業上の利用価値は極めて高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂製の管継手の少なくとも接液部に、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜がコーティングされてなることを特徴とする超純水用管継手。
【請求項2】
樹脂製の管、継手、バルブ等からなる配管システムにおいて、少なくとも接液部に、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜がコーティングされてなることを特徴とする超純水用配管システム。

【公開番号】特開2009−8191(P2009−8191A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−171086(P2007−171086)
【出願日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】