説明

超親水性被膜

基板上の超親水性被膜は、防反射性及び防曇性であることができる。該被膜は、長期間にわたって防反射性及び防曇性を維持することができる。該被膜は、反対電荷の無機ナノ粒子を含むことができ、かつ有機ポリマーを実質的に含まなくてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(優先権の主張)
本出願は2006年8月9日に出願の米国特許出願番号第11/463,507号に優先権を主張する。その文献の全体は引用により取り込まれている。
(連邦政府による資金提供を受けた研究又は開発)
米国政府は、国立科学財団によって与えられたGrant番号DMR-0213282に従って、本発明の特定の権利を有し得る。
(技術分野)
本発明は、超親水性被膜に関する。
【背景技術】
【0002】
(背景)
透明な表面は、小さい水滴が表面に凝縮する時に曇る。そこで光が散乱され、通常、表面が半透明になる。曇りは多くの場合、冷えた表面が急に暖かい湿った空気と接触した時に生じる。重大な曇りは、最終的に透明材料の有用性を損なうことがある。場合によって、例えば、曇った材料が、車両フロントガラス又はゴーグルレンズである場合に、曇りは危険な状況になり得る。現在市販の防曇被膜は、大抵、繰返し洗浄後に時間とともに効果を失う。従って、それらの効果を保証するために常時再塗布が必要とされている。
【発明の概要】
【0003】
(要旨)
安定な超親水性被膜は、ナノ粒子、高分子電解質又はこれらの組合せなどの交互積層構築膜(layer-by-layer assembled films)から形成することができる。超親水性被膜は、防曇性、防反射性、又は防曇性及び防反射性の双方を有することが可能である。該被膜は、高い透明度、高い防曇効率、長期環境安定性、高い耐擦傷性及び耐摩耗性、並びに高い機械的結着性を有することができる。好ましくは、単一の被膜は、これらの特性の組合せを有する。該被膜は、工業スケール技術を用いて、広面積基板に塗布することができ、安い製作コストにつながる。
【0004】
該被膜は、表面上の水滴の凝縮が望ましくない所、特に表面が透明表面である所で、いかなる環境においても使用することができる。この種の環境の例を挙げると、スポーツゴーグル、乗用車フロントガラス、一般の運搬車両の窓、法的処置及びVIP保護のための装甲車の窓、ソーラーパネル及び温室エンクロージャ(green-house enclosures);太陽光-風-塵ゴーグル、レーザー安全保護メガネ、化学/生物学的保護フェースマスク、爆発物処理人員用衝撃シールド及び軽戦闘車両の視野ブロックがある。
【0005】
一態様において、超親水性表面は、基板上に配置される第1の複数の無機ナノ粒子を含む。該基板は、実質的に透明であることができる。該超親水性表面は、実質的に透明であることができる。該表面は、1.3未満の屈折率を有することができる。
【0006】
該表面は、第2の複数の無機ナノ粒子を含むことができる。第1の複数の無機ナノ粒子は、第2の複数の無機ナノ粒子とは反対の静電荷を有することができる。第1の複数の無機ナノ粒子は、第2の複数の無機ナノ粒子と異なる平均粒径を有することができる。
【0007】
該表面は、有機ポリマーを実質的に含まないものとすることができる。第1の複数の無機ナノ粒子は、複数の二酸化ケイ素ナノ粒子を含むことができる。第2の複数の無機ナノ粒子は、複数の二酸化チタンナノ粒子を含むことができる。
【0008】
別の態様において、表面処理方法は、第1の静電荷を有する第1の複数の無機ナノ粒子を基板上に堆積させること、及び第1の複数の無機ナノ粒子上に反対電荷の高分子電解質を堆積させることを含む。反対電荷の高分子電解質は、第2の複数の無機ナノ粒子を含むことができる。第1の複数の無機ナノ粒子は、第2の複数の無機ナノ粒子と異なる平均粒径を有することができる。第1の複数の無機ナノ粒子は、複数の二酸化ケイ素ナノ粒子を含むことができる。第2の複数の無機ナノ粒子は、複数の二酸化チタンナノ粒子を含むことができる。前記方法は、基板を、500℃を超える温度に加熱することを含むことができる。前記方法は、第1の静電荷を有する第1の複数の無機ナノ粒子を基板上に堆積させる工程、及び第1の複数の無機ナノ粒子上に反対電荷の高分子電解質を堆積させる工程を繰返し、それによって静電荷多層を形成することを含む。静電荷多層は、有機ポリマーを実質的に含まないものとすることができる。
【0009】
1つ以上の実施態様の詳細は、添付の図面及び以下の説明に記載されている。他の特徴、目的及び利点は、下記説明及び図面並びに請求項から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】超親水性被膜の模式的な描写である。
【図2A−B】超親水性被膜の特性を示しているグラフである。
【図3A−D】ナノ粒子特性上のpHの影響を示しているグラフである。
【図4A−B】超親水性被膜の防反射特性を示す。
【図5A−C】超親水性表面の特性を示す。
【図6】超親水性被膜の自浄作用を表しているグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(詳細な説明)
ナノテクスチャーを有する表面は、極めて高い濡れ特性を示すことができる。ナノテクスチャーとは、ナノメートル(すなわち、典型的には、1マイクロメートル未満)の寸法を有する稜線、谷又は孔などの表面特徴を指す。場合によって、いくつかの個々の特徴が1マイクロメートルのサイズを超えていても、それらの特徴は、ナノメートルスケールの平均又はrms寸法を有することになる。ナノテクスチャーは、相互連結孔の三次元ネットワークであることができる。表面の構造及び化学組成に応じて、該表面は、親水性、疎水性、又は極端には超親水性若しくは超疎水性であることができる。所望のテクスチャーを形成するための1つの方法は、高分子電解質多層によるものである。また、高分子電解質多層は、防曇性、防反射性、又は所望範囲の波長の反射率などの所望の光学特性を表面に与えることができる。例えば、米国特許出願公開番号第2003/0215626号及び第2006/0029634号、並びに米国特許出願番号第11/268,547号を参照されたい。各文献の全体は引用により取り込まれている。
【0012】
親水性表面は、水を引きつけ;疎水性表面は、水をはじく。概して、表面を疎水性材料で被膜することによって、非疎水性表面を疎水性にすることができる。例えば、水滴の表面に対する接触角を測定することによって、表面の疎水性を測定できる。接触角は、静的接触角又は動的接触角であり得る。動的接触角の測定は、前進接触角若しくは後退接触角、又はその両方を測定することを含むことができる。疎水性表面は、前進接触角と後退接触角との差が小さい(すなわち、接触角ヒステリシスが小さい)疎水性表面が望ましい。水滴は、大きい接触角ヒステリシスを有する表面より小さい接触角ヒステリシスを有する表面の方が移動しやすい。
【0013】
表面は、超親水性であることができる。超親水性表面は、水で完全又は瞬時に濡れ、すなわち、水と接触すると0.5秒未満で5度未満の水滴前進接触角を示す。例えば、Bico, J.らの文献, Europhys. Lett. 2001, 55, 214-220を参照されたい。その全体は引用により取り込まれている。他の極端な場合として、表面は、超疎水性であることができる。すなわち150°以上の水滴前進接触角を示す。ハスの葉は超疎水性表面の例である(Neinhuis, C.; Barthlott, W., Ann. Bot. 1997, 79, 677;及びBarthlott, W.; Neinhuis, C., Planta 1997, 202, 1を参照されたい。各文献の全体は、引用により取り込まれている。)。また、ハスの葉は、非常に小さい接触角ヒステリシスを示す:後退接触角は前進接触角の5°の範囲内である(例えば、Chen, W. らの文献, Langmuir 1999, 15, 3395;及びOner, D.; McCarthy, T. J. Langmuir 2000, 16, 7777を参照されたい。各文献の全体は、引用により取り込まれている。)。
【0014】
TiO2などの光化学的に活性な物質は、紫外線曝露後、又は適切な化学修飾で処理された場合には可視放射線曝露後に超親水性になることができる。TiO2に基づく表面被膜は、通常、暗環境に置かれると、数分から数時間内に超親水性を失う。しかし、この潜在的な限界を排除する方向に向かって大きな前進が行われている。例えば、Gu, Z. Z.; Fujishima, A.; Sato, O. Angewandte Chemie-International Edition 2002, 41, (12), 2068-2070;及びWang, R.らの文献, Nature 1997, 388, (6641), 431-432を参照されたい。各文献の全体は、引用により取り込まれている。
【0015】
テクスチャー表面は、超親水性挙動を促進することができる。Wenzel及びCassie-Baxterによる先の理論的研究、並びにQuere及び共同研究者による最近の研究は、正しい長さスケールで粗さを導入することによって、水による表面の濡れを著しく増強することが可能であることを示唆している。例えば、Wenzel, R. N. J. Phys. Colloid Chem. 1949, 53, 1466; Wenzel, R. N. Ind. Eng. Chem. 1936, 28, 988; Cassie, A. B. D.; Baxter, S. Trans. Faraday Soc. 1944, 40, 546; Bico, J.らの文献, D. Europhysics Letters 2001, 55, (2), 214-220;及びBico, J.らの文献, Europhysics Letters 1999, 47, (6), 743-744を参照されたい。各文献の全体は、引用により取り込まれている。この研究に基づいて、近年、リソグラフィーによるテクスチャー表面及び微孔性表面の両方を超親水性にできることが実証された。例えば、McHale, G.; Shirtcliffe, N. J.; Aqil, S.; Perry, C. C.; Newton, M. I. Physical Review Letters 2004, 93, (3)を参照されたい。該文献の全体は、引用により取り込まれている。超疎水性状態と超親水性状態との切換の興味深い可能性もこれらの表面構造の一部について実証された。例えば、Sun, T. L.らの文献, Angewandte Chemie-International Edition 2004, 43, (3), 357-360;及びGao, Y. F.らの文献, Langmuir 2004, 20, (8), 3188-3194を参照されたい。各文献の全体は、引用により取り込まれている。
【0016】
高分子電解質多層膜の交互積層処理を用いて、膜厚及び化学特性に対する分子レベルの調節による整合的な薄膜被膜を作製することができる。荷電高分子電解質を交互積層法で構築することができる。換言すれば、正電荷高分子電解質と負電荷高分子電解質とを基板に交互に堆積させることができる。高分子電解質を堆積させる1つの方法は、基板を適切なpHで高分子電解質の水溶液と接触させることである。高分子電解質が部分的又は弱く荷電するようにpHを選択することができる。多層は、それが含む二分子膜の数により表すことができ、二分子膜は反対電荷の高分子電解質を順次適用して得られる。
【0017】
一般に、高分子電解質は、1よりも大きい静電荷を有する材料である。高分子電解質は、正電荷又は負電荷(すなわち、それぞれポリカチオン又はポリアニオン)であることができる。いくつかの実施態様では、高分子電解質は、正電荷及び負電荷の両方(すなわち、カチオンモノマーとアニオンモノマーとの共重合体などのポリ双性イオン)を有することができる。高分子電解質は、主鎖及びその主鎖に結合した複数の荷電官能基を含む有機ポリマーであることができる。有機ポリマー高分子電解質の例を挙げると、スルホン化ポリスチレン(SPS)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリ(アリルアミン塩酸塩)、及びそれらの塩がある。高分子電解質は、無機ナノ粒子などの無機材料であることができる。高分子電解質無機ナノ粒子の例を挙げると、SiO2、TiO2、及びそれらの混合物のナノ粒子がある。幾つかの高分子電解質は、温度又はpHなどの条件に応じて、多く荷電又は少なく荷電することができる。反対電荷の高分子電解質は、静電力によって、互いに引き付けられ得る。この効果は、交互積層処理(layer-by-layer processing)において効果的に用いることができる。
【0018】
交互積層法は、単に処理液のpHを調整することによる堆積プロセスを超えた、新しい水準の分子制御を提供することができる。非多孔性高分子電解質多層は、簡単な酸性水性処理により生じる多孔性薄膜構造を形成することができる。例えば、塩含有量(イオン強度)、温度又は表面化学特性などのパラメータの操作によって、この孔形成処理を調整し、微孔、ナノ孔又はそれらの組合せを形成することができる。ナノ孔は、150nm未満、例えば1〜120nm又は10〜100nmの直径を有する。ナノ孔は、100nm未満の直径を有することができる。微孔は、150nmを超える直径、典型的には200nmを超える直径を有する。孔形成条件の選択により、該被膜の多孔性を調節できる。例えば、該被膜は、微孔が実質的にないナノ孔性被膜であることができる。或いは、該被膜は、250nm、500nm、1ミクロン、2ミクロン、5ミクロン又は10ミクロン以上など、200nmより大きい平均孔径を有する微孔性被膜であることができる。
【0019】
弱荷電高分子電解質の特性をpHの変化によって厳密に調節できる。例えば、G. Decher, Science 1997, 277, 1232; Mendelsohnらの文献, Langmuir 2000, 16, 5017; Feryらの文献, Langmuir 2001, 17, 3779; Shiratoriらの文献, Macromolecules 2000, 33, 4213;及び米国特許出願公開第2003-0215626号を参照されたい。各文献の全体は、引用により取り込まれている。この種の被膜は、これらの高分子電解質多層膜を構成するのに用いられる水をベースとした交互積層(layer-by-layer)(LbL)吸着処理に適した、任意の表面に対して塗布できる。水をベースとした処理は、水溶液が表面に接触する場所全てに高分子電解質を堆積させることが可能であるため、複雑な幾何学形状を有する物体の内面さえも被膜することができる。一般に、高分子電解質は、浸漬、噴霧、印刷(例えば、インクジェット印刷)又はミスト堆積などの、表面への水溶液塗布に適した任意の方法により、表面に塗布することができる。
【0020】
1966年に、Ilerは、反対電荷のナノ粒子の順次吸着によって、水性懸濁剤から基板上に反対電荷のナノ粒子の多層膜を構築できることを報告している(Iler、R. K. J. Colloid Interf. Sci. 1966, 21, 569-594。その文献の全体は、引用により取り込まれている。)。
【0021】
極めて高い濡れ挙動を示す表面を高分子電解質被膜から作製できる。例えば、米国特許出願公開第2006/0029808号を参照されたい。その文献は、引用により取り込まれている。高分子電解質は、複数の荷電官能基が結合された主鎖を有することができる。高分子電解質は、ポリカチオン性又はポリアニオン性であることができる。ポリカチオンは、複数の正電荷官能基が結合した主鎖、例えば、ポリ(アリルアミン塩酸塩)を有する。ポリアニオンは、スルホン化ポリスチレン(SPS)若しくはポリ(アクリル酸)又はそれらの塩などの、複数の負電荷官能基が結合した主鎖を有する。いくつかの高分子電解質は、pHのなどの条件に応じて、それらの電荷を失うことができる(すなわち、電気的に中性になり得る)。共重合体などのいくつかの高分子電解質は、ポリカチオン部及びポリアニオン部の双方を含むことができる。
【0022】
SiO2のナノ粒子を含む多層薄膜は、交互積層法(layer-by-layer assembly)により調製することができる(Lvov, Y.; Ariga, K.; Onda, M.; Ichinose, I.; Kunitake, T., Langmuir 1997, 13, (23), 6195-6203を参照されたい。その文献の全体は、引用により取り込まれている。)。他の研究は、TiO2ナノ粒子、SiO2ゾル粒子、及び単一又は二重層ナノ粒子系の防反射被膜の多層構築法について説明している。例えば、Zhang, X-T.らの文献 Chem. Mater. 2005, 17, 696; Rouse, J. H.; Ferguson, G. S. J. Am. Chem. Soc. 2003, 125, 15529; Sennerfors, T.らの文献, Langmuir 2002, 18, 6410; Bogdanvic, G.らの文献, J. Colloids Interface Science 2002, 255, 44; Hattori, H. Adv. Mater. 2001, 13, 51; Koo, H. Y.らの文献, Adv. Mater. 2004, 16, 274; 及びAhn, J. S.; Hammond, P. T.; Rubner, M. F.; Lee, I. Colloids and Surfaces A: Physicochem. Eng. Aspects 2005, 259, 45を参照されたい。各文献の全体は、引用により取り込まれている。TiO2ナノ粒子を多層薄膜内に組み込むと、光活性化により誘発される超親水性状態の安定性を向上させることができる。例えば、Kommireddy, D. S.らの文献, J. Nanosci. Nanotechnol. 2005, 5, 1081を参照されたい。その文献の全体は、引用により取り込まれている。
【0023】
交互積層処理を用いて、高効率相似防反射被膜を、実質的に任意の形状、サイズ又は材料の任意表面に塗布することができる。例えば、米国特許出願公開第2003/0215626号を参照されたい。その文献の全体は、引用により取り込まれている。該方法を用いて、2つ以上の表面に同時に防反射被膜を施すことができ、被膜性能を低下させ得るピンホール及び欠陥が実質的にない被膜を生成することができる。多孔性被膜は、防反射性であることができる。該方法を用いて、ポリマー基板に防反射及び遮光被膜を形成することができる。その簡単且つ汎用性の高い方法により、低コスト、高性能の防反射及び遮光被膜として機能する分子レベルで設計された整合的な薄膜を形成することができる。該方法を用いて、フラットパネルディスプレイ及び太陽電池などの高性能ポリマー光学部品を製造することができる。
【0024】
同様に、該被膜は、防曇被膜とすることができる。防曇被膜は、光を散乱させる水滴が表面で凝縮するのを防止することができる。該被膜は、光を分散させる水滴が表面に形成されるのを防止することによって、透明な表面、例えば窓又は表示画面に光学的透明性を維持するのに役立つことができる。該被膜は、防反射及び防曇被膜であることができる。防曇被膜を有する透明な物体の表面は、表面に水の凝縮を引き起こす条件下で防曇被膜のない同じ物体と比較した場合に、可視光に対するその透明性を維持する。都合のよいことに、多孔性材料は、同時に防曇性及び防反射性であることができる。例えば、多孔性材料は、(曇り防止するために)孔に水滴の浸潤を促進することができ;かつ孔は、被膜の屈折率を低下させ、防反射被膜として作用することもできる。
【0025】
高分子電解質多層膜を基板に堆積させ、かつ多孔性遷移(porosity transition)を誘発するように多層膜を処理することによって、超親水性被膜を作製することができる。多孔性遷移は、多層膜にナノスケールの多孔を生じることができる。ナノ粒子を塗布して、表面のテクスチャーをさらに拡大することができる。結果として表面は、超親水性であることができる。
【0026】
超親水性表面は、高分子電解質多層膜を含むことができる。交互積層法を用いて、表面に多層膜を被覆することができる。多層膜の処理によって、多層膜に粗さを形成することができる。多層膜は、高度の粗さの多層膜になることができる。高度の粗さは、マイクロメートルスケールの粗さであり得る。高度な粗さの表面は、100nm、150nm又は200nm以上のrms粗さを有することができる。高度の粗さの形成を誘発する処理としては、酸処理又は塩処理(すなわち塩の水溶液による処理)を挙げることができる。高分子電解質多層膜における孔の形成は、多層膜に高度の粗さを生じさせることができる。条件(例えば、pH、温度、処理時間)を適切に選択することで、異なる径の孔の形成を促進することができる。孔は、微孔(例えば、200nmを超える直径、500nmを超える直径、1マイクロメートルを超える直径又は10マイクロメートル以上の直径などのマイクロメートルスケールの直径の孔)であることができる。微孔性高分子電解質多層膜は、高度の粗さの高分子電解質多層膜であることができる。
【0027】
高分子電解質多層膜を高度な粗さの表面に形成することによって、高度の粗さの高分子電解質多層膜を形成することができる。高分子電解質多層膜が高度な粗さの表面に形成される場合、任意に、高分子電解質多層膜の高分子電解質多層膜を増加させるための処理を行うことができる。高度な粗さの表面は、例えば、以下を含むことができる;微粒子又は微小球体などの粒子;ナノ粒子又はナノ球体;又は隆起、稜線、若しくは窪み領域である。マイクロメートルスケールの粒子は、例えば、クレイ又は他の微粒子材料であることができる。隆起、稜線、若しくは窪みを、例えば、好適な基板のエッチング、マイクロメートルスケールの粒子の堆積、又はフォトリソグラフィーによって形成することができる。
【0028】
固定化(lock-in)工程は、多孔性多層膜構造のさらなる変化を防止することができる。固定化は、例えば、多層膜を化学重合条件又は熱重合条件に曝すことによって達成することができる。高分子電解質を架橋することができ、さらなる多孔性遷移を不可能にすることができる。場合によっては、化学的架橋工程は、カルボジイミド試薬による高分子電解質多層膜の処理を含むことができる。カルボジイミドは、高分子電解質のカルボン酸とアミン基との架橋の形成を促進できる。高分子電解質多層膜が、架橋に必要な温度で不安定である基板上に形成される場合(例えば、基板がポリスチレンである場合等)は、化学的架橋工程が好ましい。架橋工程は、光架橋工程であることができる。光架橋は、架橋を達成するために、増感剤(例えば感光性基)及び露光(UV、可視又はIR光等)を使用することができる。マスクを使用して、表面に架橋及び非架橋領域のパターンを形成することができる。高分子電解質多層膜のポリマー鎖を架橋するための他の方法も知られている。
【0029】
ナノ粒子を多層膜に塗布して、表面にナノメートルスケールのテクスチャー又は粗さを与えることができる。ナノ粒子は、例えば、シリカナノ球体、チタニアナノ球体、ポリマーナノ球体(ポリスチレンナノ球体等)又は金属ナノ球体などのナノ球体であることができる。ナノ粒子は、金又は銀ナノ粒子などの金属ナノ粒子であることができる。ナノ粒子は、例えば、1〜1000ナノメートル、10〜500ナノメートル、20〜100ナノメートル、又は1〜100ナノメートルの直径を有することができる。シリカナノ粒子の本質的に高い濡れ性、並びに多層膜表面の粗さ及び多孔性は、極めて高い濡れ挙動の好ましい条件を確立する。
【0030】
多孔性遷移を誘発する多層膜の処理の必要なく、多層膜から超親水性被膜を形成することができる。例えば、多層膜は、高分子電解質及び複数の親水性ナノ粒子を含むことができる。適切な構築条件を選択することによって、ナノ粒子を用いて調節可能な厚さの三次元ナノ孔性ネットワークを形成することができる。ネットワークは、相互連結することができる--換言すれば、ナノ孔は、複数の連結された空隙を形成することができる。このネットワークへの水の急速浸透(ナノ-ウィッキング(nano-wicking))によって、超親水性挙動を導くことができる。
【0031】
被膜は、有機ポリマーを実質的に含まないものとすることができる。例えば、該被膜は、反対電荷の無機ナノ粒子(例えば、SiO2ナノ粒子及びTiO2ナノ粒子)を含むことができる。
【0032】
被膜の機械的結着性(例えば、耐久性及び接着力)は、実際的な用途において、重要であり得る。構築時(すなわち、固定化処理前)のTiO2/SiO2ナノ粒子系多層膜は、理想的な機械的特性より低い機械的特性を有することがある。構築時の多層膜の弱い接着力及び耐久性は、被膜内に共に堆積される材料を架橋する浸透成分(すなわち、荷電高分子)が存在しないためと思われる。被膜の機械的特性は、構築時の多層膜を高温(例えば、550の℃)で3時間焼成することによって大幅に改善することができる。これは、ガラス基板にナノ粒子を互いに融合させ、更には該被膜のより良好な接着をもたらすものである。例えば、2005年11月8日に出願の米国特許出願番号第11/268,574号を参照されたい。その文献の全体は引用により取り込まれている。
【0033】
図1は、基板20、及び基板20の表面上の被膜25を含む被覆物品10を示す。被膜25は、ナノ粒子30及び40を含む。ナノ粒子30及び40は、逆の静電荷を有することができる。また、ナノ粒子30及び40は、異なる組成及び異なる平均サイズを有することができる。例えば、ナノ粒子30は実質的に酸化チタンであることができる。一方、ナノ粒子40は実質的に酸化ケイ素であることができる。ナノ粒子30及び40は、被膜25において、ナノ粒子30及び40の間に空隙50を形成するように配列することができる。いくつかの実施態様では、被膜25は、有機ポリマー(例えば、PAA、PAH、又はSPSなどの高分子電解質有機ポリマー)を含む。他の実施態様において、被膜25は、有機ポリマーを実質的に含まない。
【0034】
有機ポリマーを実質的に含まない被膜などの、ナノ粒子系の被膜は、自浄性であることができる。有機汚染物質は、例えば、活性化光源への曝露時に、該被膜により除去又は酸化され得る。活性化光源は、UV光源又は可視光源であることができる。
【0035】
被膜は、交互積層堆積プロセスによって作製することができる。そこにおいて、基板は順次、反対電荷の高分子電解質と接触される。高分子電解質は、水溶液であることができる。基板は、例えば、浸漬、印刷、スピンコーティング、噴霧、ミスト堆積、又は他の方法によって、水溶液と接触することが可能である。
【0036】
高分子電解質溶液は、該被膜内に要求されるナノ多孔性を達成する制御方法下で混合ポリマー及びナノ粒子溶液を基板に塗布する、単一ステップで塗布することができる。このアプローチは、安い製作コスト及び高収量をもたらすことができる。或いは、高分子電解質溶液は、ポリマー層とナノ粒子層とを交互に配置する多段階方法で塗布することができる。多段階アプローチは、浸漬ベースの方法より、スプレー方法を用いた製造の方がより効率的であることができる。なぜなら、スプレー堆積は浸漬間にすすぎを必要としないためである。いずれの方法でも、材料成分、溶液濃度、溶媒の種類などのコーティングパラメータを最適化し、所望の特性を有する被膜を効率的に生成することができる。
【実施例】
【0037】
正電荷TiO2ナノ粒子(平均サイズ〜7 nm)、及び負電荷SiO2ナノ粒子(平均サイズ〜7及び〜22 nm)の全ナノ粒子多層膜を、交互積層法によって、基板としてガラス又はシリコンを用いて調製した。各ナノ粒子懸濁液は、濃度0.03重量%及びpH3.0である。TiO2及びSiO2ナノ粒子の多層膜の成長挙動は、分光器偏光解析法及び原子力顕微鏡検査(AFM)を用いてモニターした。図2Aは、堆積した二分子膜(1層の二分子膜は、1対のTiO2及びSiO2ナノ粒子堆積から成る)の数の増加に対する膜厚の変化を示す。いずれの場合においても、多層膜は、線形の成長挙動(7 nm TiO2 / 22 nm SiO2及び7 nm TiO2 / 7 nm SiO2多層膜の平均二分子膜厚は、それぞれ19.6及び10.5 nmである。)を示す。AFMを介して測定されたRMS表面粗さは、いずれの場合においても漸近的に増加した。他の研究(高分子電解質、DNA又はジチオール化合物をナノ粒子間のリンカーとして用い、ナノ粒子薄膜を会合した研究)も、線形成長挙動を示した。例えば、Ostrander、J. W.、Mamedov、A. A.、Kotov、N. A., J. Am Chem. Soc. 2001, 123, 1101-1110; Lvov, Y.; Ariga, K.; Onda, M.; Ichinose, I.; Kunitake, T., Langmuir 1997, 13, 6195-6203; Brust, M.; Bethell, D.; Kiely, C. J.; Schiffrin, D., J. Langmuir 1998, 14, 5425-5429; Taton, T. A.; Mucic, R. C.; Mirkin, C. A.; Letsinger, R. L., J. Am. Chem. Soc. 2000, 122, 6305-6306; 及びCebeci, F. C.; Wu, Z. Z.; Zhai, L.; Cohen, R. E.; Rubner, M. F., Langmuir 2006, 22, 2856-2862を参照されたい。各文献の全体は引用により取り込まれている。しかし、2つの反対電荷のナノ粒子を含む交互積層構築多層膜の最近の分子力学(MD)シミュレーション研究において、その多層膜の厚さは、その多層膜の表面粗さの増大のために、非線形成長挙動を示した(Jeon, J. Panchagnula, V.; Pan, J.; Dobrynin, A. V., Langmuir 2006, 22, 4629-4637。その文献の全体は引用により取り込まれている。)。表面粗さの増加は、堆積する層の数が増加し、基板がナノ粒子で一様に被覆されていないためである。従って、ここの表面粗さの観察された飽和は、表面がナノ粒子多層膜で一様かつ完全に被覆されたことを間接的に示している。AFM結果(図示せず)により、ガラス基板上の多層膜の一様被膜の存在を確認した。
【0038】
各系の屈折率は、堆積二分子膜の数の関数として変化しないが、2つの系の屈折率は異なる。図2Bは、7 nm TiO2及び22 nm SiO2ナノ粒子の多層膜の平均屈折率は1.28の±0.01であり、一方、7 nm TiO2及び7 nm SiO2ナノ粒子の多層膜の平均屈折率は1.32の±0.01であることを示している。いずれの場合においても、TiO2/SiO2ナノ粒子多層膜の屈折率は、報告されたバルク鋭錐石TiO2(2.0〜2.7)及びSiO2(1.4〜1.5)の値より低かった(Klar, T.らの文献, Phys. Rev. Lett. 1998, 80, 4249-4252; Wang, X. R.らの文献, Appl. Phys. Lett. 1998, 72, 3264-3266; Biswas, R.らの論文, Phys. Rev. B 2000, 61, 4549-4553;及びGarcia-Santamaria, F.らの論文, Langmuir 2002, 18, 1942-1944を参照されたい。各文献の全体は引用により取り込まれている。)。ナノ粒子の集合は、効果的に多層膜の屈折率を低下させるナノ孔の存在下で生じる。厚みを有する屈折率の不変性及び線形成長挙動は、各系の多層膜の成分が堆積二分子膜の数の増加で変化しなかったことを示している。2つの多層系の観察された屈折率の違いは、多孔性、SiO2ナノ粒子に対するTiO2の相対的な量、又はその両方が異なっていたことを示唆している。この問題を明確に解決するために、偏光解析法を介してナノ粒子多層被膜の多孔性及び化学組成を決定した。
【0039】
偏光解析法は、構成材料の屈折率が公知であるという仮定に基づいて薄膜の多孔性を推定するために広く使われている。例えば、Cebeci, F. C.らの文献, Langmuir 2006, 22, 2856-2862;及びTzitzinou, A.らの文献, Macromolecules 2000, 33, 2695-2708を参照されたい。各文献の全体は引用により取り込まれている。しかし、構成材料がナノ粒子である場合では、膜作製に利用されるナノ粒子の屈折率において信頼性が高い情報を有することは必ずしも可能ではない。ナノ粒子の物性は、量子閉じ込め効果及びそれらの大きな特定の表面積のために、それらの対応するバルク材料特性とは異なる(Henglein, A., Chem. Rev. 1989, 89, 1861-1873;及びAlivisatos, A. P. Science 1996, 271, 933-937。各文献の全体は引用により取り込まれている。)。
【0040】
材料特性(すなわち、屈折率)について仮定なしにナノ多孔性薄膜の多孔性を決定する偏光解析法に基づく方法が開発された。多孔性薄膜のために、材料のフレームワーク(すなわち、固体材料)の屈折率及び全体の多孔性が未知である場合、これらの値を決定するのに2つのパラメータを含む2種類の独立方程式を解析することが必要であろう。これらの2種類の独立方程式は、公知の屈折率(例えば、空気及び水)の2つの異なる媒体中で多孔性薄膜の実効屈折率の値を測定し、多孔性薄膜の厚さがこれらの2つの異なる媒体(一定容量)で一定であると仮定して得ることができる。この方法の他の必要条件は、選択された媒体が孔を完全に浸透かつ充填できるように、孔が相互連結されていなければならないということである。上記理由に基づき、膜の固体フレームワークの多孔性及び屈折率は、以下のように表すことができる:
【0041】
【数1】

【0042】
式中、pは多孔性薄膜の多孔性(すなわち、空隙容量の割合)であり、nf,空気(= 1.00)、nf,水(= 1.33)、及びnf, フレームワークは、それぞれ、空気、水、及び固体フレームワークの屈折率を表す。nf,1及びnf,2は、それぞれ、媒体1(空気)及び媒体2(水)中での多孔性薄膜の、実験的に測定された実効屈折率を表す(「実効屈折率」という用語(nf,1及びnf,2)は、偏光解析法を介して実験的に測定された多孔性薄膜全体の屈折率を指す。一方、固体フレームワーク(nf, フレームワーク)の屈折率は、多孔性薄膜中の固体材料の屈折率を指す。)。式(1)及び(2)により、薄膜の多孔性及び2つの異なる媒体中の単純な偏光解析測定によるナノ粒子フレームワークの屈折率を決定することができた。使用される溶媒(この研究において水を使用)が孔を満たし、構造体を大きくしない限り、この方法論を用いて、偏光解析装置及び液体セルで、多孔性及びフレームワーク材料の屈折率を容易に決定し、任意のナノ多孔性薄膜を特徴付けることができる。また、1種類のナノ粒子のみを含む薄膜を作ることにより、この方法で、構成ナノ粒子の屈折率を測定することができる。
【0043】
TiO2及びSiO2から作られる全ナノ粒子薄膜の場合、薄膜の定量的特徴付けのために決定される4つの独立変数が必要である。これらの変数は、多孔性(p)、ナノ粒子の一方(例えばvTiO2)の体積分率、及びTiO2(nf,TiO2)ナノ粒子とSiO2(nf,SiO2)ナノ粒子との屈折率である。最初に、上記の方法によって、各ナノ粒子の中で屈折率(nf,TiO2及びnf,SiO2)を得た;すなわち、TiO2又はSiO2ナノ粒子のいずれか一方を含むナノ多孔性薄膜の実効屈折率を空気中及び水中で測定し、続いて、式(1)及び(2)を用いて、各構成ナノ粒子の屈折率を計算した。この目的のために、全TiO2又は全SiO2ナノ粒子のいずれか一方を含むナノ多孔性薄膜を、それぞれ、TiO2ナノ粒子/ポリ(スルホン酸ビニル)(PVS)又はポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)(PDAC)/SiO2ナノ粒子多層膜の交互積層法により調製した。これらの多層膜の膨張を妨ぐために、続いて、各々の多層膜のポリマーを除去し、偏光解析測定を空気中及び水中で行う前に、構成ナノ粒子を互いに高温焼成によって部分的に融合させた。焼成された膜は、水中で膨張しなかった。7 nm TiO2、7 nm SiO2、及び22 nm SiO2ナノ粒子の屈折率は、それぞれ、2.21±0.05、1.47±0.01、及び1.47±0.004と決定された。TiO2/SiO2ナノ粒子系膜の複合フレームワークの多孔性(p)及び屈折率(nf, フレームワーク:用語「複合」は、この場合、TiO2及びSiO2ナノ粒子からなるので、材料のフレームワークとして使用される。)は、空気中及び水中のそれらのTiO2/SiO2ナノ粒子系膜の実効屈折率を測定すること、及び式(1)及び(2)を用いることにより決定した。また、これらの全ナノ粒子薄膜を焼成(後述する)し、水中の薄膜の膨張を防止した。得られたnf,TiO2、nf,SiO2、nf, フレームワーク、及びpの値を用いて、TiO2及びSiO2ナノ粒子の体積分率を、複合屈折率の線形関係から計算することができる。該体積分率は、下記式に示すように表される。
【0044】
【数2】

【0045】
得られた値を表1にまとめる。7 nm TiO2 / 22 nm SiO2と7 nm TiO2 / 7 nm SiO2とのナノ粒子系多層被膜の大きな違いは多孔性であった。7 nm TiO2と7 nm SiO2ナノ粒子とを有する膜中のナノ粒子の密度充填は、22 nm SiO2ナノ粒子を有する膜と比較して一致していた。2つの系におけるTiO2ナノ粒子の重量分率は、それほど相違はなかったが、7 nm TiO2 / 7 nm SiO2の系は、わずかに大きい値を有していた。また、表1は、偏光解析方法が、1/2の二分子膜差で、多層膜の化学組成のわずかな違いを区別するのに十分感度が高かったことを示している(例えば、二分子膜6〜6.5層の7 nm TiO2と22 nm SiO2との多層膜)。
【0046】
【表1】

【0047】
偏光解析法を介して決定された化学組成の信頼性を確認するために、TiO2及びSiO2ナノ粒子の重量分率を、それぞれ、水晶振動子微量天秤(QCM)及びX線光電子分光法(XPS)を用いて測定した。表2に、QCM及びXPSにより測定された化学組成(TiO2ナノ粒子の重量%)をまとめる。QCM及びXPSから得られたTiO2の重量分率は、多層膜中のTiO2ナノ粒子の量が比較的少なく(<12重量%)、かつ7 nm TiO2 / 7 nm SiO2多層膜の方に、わずかに多い量のTiO2ナノ粒子が該薄膜内に存在することを一貫して示した。これらの結果は、どちらの系でもTiO2ナノ粒子の重量分率がSiO2ナノ粒子の重量分率と比べて比較的少なく、7 nm TiO2 / 7 nm SiO2系の方にTiO2ナノ粒子の含有量が多いことを示した偏光解析法の結果と一致していた。3つの異なる技術から得られた値が良好な一致を示したという事実により、偏光解析方法の性能が有効であることが確認された。
【0048】
【表2】

【0049】
研究した2つの多層系のTiO2ナノ粒子の体積分率が、2容量%未満(8重量%未満)であったという観察は、注目かつ驚くべきことであった。LbL構築時の各ナノ粒子の表面電荷密度は、TiO2/SiO2ナノ粒子系多層薄膜の化学組成の決定に重要な役割を担うであろう。両ナノ粒子の懸濁液がpH 3.0である構築条件で、7 nm TiO2ナノ粒子のゼータ電位は、7 nm及び22 nm SiO2ナノ粒子のそれぞれ-3.3±2.6及び-13.4±1.4mVの値に比べて、+40.9±0.9mVであった。これらの値は、TiO2ナノ粒子が、LbL構築時のSiO2ナノ粒子より非常に強く荷電していたことを示唆している。従って、少数のTiO2ナノ粒子のみが、多層成長に要求される電荷反転を達成することを必要とするであろう。また、吸着されたTiO2ナノ粒子の間の粒子間距離は、粒子間の強い静電反発のために大きくなるであろう。一方、多数のSiO2ナノ粒子は、表面電荷を逆転させることを必要とするであろう。同時に、SiO2ナノ粒子間の静電反発が高荷電TiO2ナノ粒子間の静電反発ほど大きくないので、SiO2ナノ粒子はTiO2ナノ粒子と比べてより高密度に充填することができる。類似の留意点として、また、Lvovらは、ナノ粒子懸濁液に塩を添加することによるSiO2ナノ粒子上の官能基の部分的中和が、ポリカチオンで構築された多層膜中のSiO2ナノ粒子の分率増加につながることを示した(Lvov、Y.らの文献, Langmuir 1997, 13, 6195-6203。その文献の全体は引用により取り込まれている。)。
【0050】
図3A〜3Dは、ナノ粒子集合膜のpHの影響を示す。図3Aは、ナノ粒子溶液のpH(両溶液は、同じpHである)の関数として、平均二分子膜厚を示す。図3Bは、pHの関数として、7 nm TiO2及び22 nm SiO2ナノ粒子の測定ゼータ電位を示す。図3Cは、pHの関数として、測定粒径を示す。図3Dは、平均二分子膜厚における各ナノ粒子溶液のpHの影響を示す。これらのデータを用いて、集合条件を選択し、被膜特性(例えば、最終的な被膜厚)を制御することができる。
【0051】
ガラス上にナノ多孔性TiO2/SiO2ナノ粒子系被膜を堆積することにより、可視領域の反射損失が著しく減少され、99%超過の透過レベルが容易に達成された。可視領域における最大の反射抑制波長を、被膜の四分の一波長の光学的厚さにより測定した。該厚さは、図4Aに示されるように堆積する層の数を変えることによって変更することができる。図4Aは、ガラス基板上の7 nm TiO2 / 22 nm SiO2多層被膜の透過スペクトルであり、焼成前(細い実線)、及び550℃の焼成後(太い実線)を示している。緑、赤及び青の曲線は、未処理ガラス、及びそれぞれ5層及び6層の二分子膜で被覆したガラスの透過率を表す。図4Bは、これらの全ナノ粒子防反射被膜の視覚影響を示している。図4Bは、5層の二分子膜7 nm TiO2 / 22 nm SiO2ナノ粒子多層(焼成済)による、反射抑制を示しているガラススライドの写真である。スライドの左の部分は、多層膜で覆われていない。多層被膜は、ガラス基板の両側にある。その高い実効屈折率のため、7 nm TiO2及び7 nm SiO2ナノ粒子から作られる多層被膜の防反射特性(図示せず)は、7 nm TiO2及び22 nm SiO2ナノ粒子系の多層被膜ほど顕著ではなかった(焼成前後の可視領域において最大透過は、それぞれ約98及び97%)。しかし、7 nm TiO2 / 7 nm SiO2ナノ粒子系の最大の抑制波長は、7 nm TiO2 / 22 nm SiO2多層膜と比較して、平均二分子膜厚がわずか10 nmであるので正確に調整することができる。
【0052】
任意の被膜の実際的な塗布のためにも、機械的結着性(耐久性及び接着力)は非常に重要であろう。構築時のTiO2/SiO2ナノ粒子系多層膜は、理想的な機械的特性より低い機械的特性を示す。構築時の多層膜の弱い接着力及び耐久性は、多層膜内に共に堆積される粒子を架橋又は接着する浸透成分(すなわち、荷電高分子)が存在しないためと思われる。全ナノ粒子多層膜の機械的特性は、構築時の多層膜を高温(550℃)で3時間焼成することによって大きく改善された。上で簡潔に述べたように、このプロセスは、ナノ粒子間の部分的な融合をもたらした。また、ガラス基板への被膜のより良好な接着力も達成された(Cebeci, F. C.らの文献, Langmuir 2006, 22, 2856-2862を参照されたい。その文献の全体は引用により取り込まれている。)。膜厚が約5%減少すると共に、屈折率は焼成プロセス後にわずかに増加(約2%)し、図4Aに示されるように最大透過波長のブルーシフトが観察された。この点から、焼成された(7 nm TiO2 / 22 nm SiO2)多層膜の多機能特性を報告する。
【0053】
防反射特性に加えて、TiO2/SiO2ナノ粒子多層膜のナノ多孔性は超親水性に至った。ナノ多孔性被膜は、該被膜に存在する毛細管のネットワークへの水のナノ-ウイッキングのために、SiO2ナノ粒子提示超親水性(0.5秒未満の水滴接触角度<5°)を含む(米国特許出願第11/268,547号及びCebeci, F. C.らの文献, Langmuir 2006, 22, 2856-2862を参照されたい。各文献の全体は引用により取り込まれている。)。この挙動の機構は、Wenzelらによって導き出された単純な関係から理解することができる。表面上の液体の見掛けの接触角が以下の関係に従って表面の粗さに依存することが証明されている:
【0054】
【数3】

【0055】
式中、θaは粗面上の見掛けの水接触角であり、及びθは平滑面上の測定された固有の接触角である。rは、見積表面積に対する実際の表面積の比率として定義される表面粗さである。rが多孔性材料について無限になることは、90°未満の接触角度(平滑面で測定)を有する任意の液体で表面が完全に濡らされる(すなわち、θa〜0)ことを意味する。平面SiO2及びTiO2面上の水の接触角度は、それぞれ、約20°及び50〜70°であることが報告されている;従って、SiO2ナノ粒子(主成分)及びTiO2ナノ粒子(少成分)を含むナノ多孔性構造の多層膜は、超親水性を示すであろう。図5A-Bは、この予想を検証したものである;データは、TiO2/SiO2ナノ粒子系の多層被膜上の水滴(〜0.5μL)の接触角度が0.5秒未満で5°未満になることを示している。
【0056】
暗下でその超親水性を失うTiO2系被膜とは異なり、SiO2/TiO2ナノ粒子系被膜は、同時に数ヶ月間暗下で保存された後でさえ超親水性を保持していた。これは、超親水性がTiO2の化学作用よりもむしろナノ多孔性構造により有効になるためであろう。図5Bは、60日間暗下で保存後に超親水性が残存していることを示している。
【0057】
図5Cに示されるように、これらの被膜の防曇特性は、低温(4℃)でそれらを冷やした後に未処理ガラス基板及び多層修飾ガラス基板を湿潤環境(相対湿度〜50%)に曝すことによって実証された。図5Cは、未処理ガラス基板(右)の防曇特性と比較した、多層被膜ガラス(左)の防曇特性を示している写真である。各サンプルは、冷蔵庫(4℃)中で12時間冷やした後に空気(相対湿度〜50%)に曝した。左上のスライドの上部部分は、多層膜で覆われていなかったものである。通常の(すなわち固体)TiO2系被膜は、紫外線照射により超親水性及び防曇性を示すことができるが、この種の被膜は、暗下保存後にそれらの防曇特性を失う。TiO2/SiO2ナノ粒子系多層膜は、6ヵ月の暗下保存後でさえ、防曇特性を保持する。上述の通り、これらの膜のナノ孔の存在は、該被膜の毛細管ネットワークへの水のナノウイッキングをもたらす;従って、これらの被膜の超親水性は、紫外線照射がない場合さえ観察することができる。
【0058】
有機化合物による多孔性母材の汚染は、防曇特性の損失につながることがある。この点において、防曇性被膜の長期性能を促進するために、防曇性被膜の自浄が望ましい。有機汚染物質を紫外線照射下で除去又は酸化できることを確認するために、TiO2/SiO2ナノ粒子系多層膜の自浄特性を試験した。TiO2/SiO2ナノ粒子系多層膜で被覆したガラス基板、及びSiO2ナノ粒子系超親水性被膜を、モデル汚染物質(すなわち、メチレンブルー(MB))を用いて汚染した。被膜によるメチレンブルーの分解を、時間の関数として紫外線照射後の被膜の残りのMBの量を測定することによってモニターした。図6は、TiO2/SiO2ナノ粒子系被膜(ダイヤモンド)において、本質的に90%を超えるMBが3時間の紫外線照射後に分解したことを示している。SiO2ナノ粒子のみの被膜(正方形)において、60%を超えるMBが、4時間後に該被膜に残存していた。MB汚染表面上の水の接触角度は20.0±1.2°であり、2時間の紫外線照射後に〜3°に変化し、これは超親水性も回復されたことを示している。これらの結果は、多層被膜のTiO2ナノ粒子の量(1容量%をわずかに超える量)が、自浄特性をこれらの被膜に与えるのに十分であったことを示している。回復された防曇特性は、UV照射サンプルを暗下で保存した後でさえ、30日を超えて保持されていた。
【0059】
MBで汚染されたTiO2/SiO2表面上の水の接触角度は、18.5±1.0°であった;従って、防曇特性を失っていた。接触角度は、2時間の紫外線照射後に〜0°に変化し、これは超親水性が回復されることを示している。これらの結果は、多層被膜のTiO2ナノ粒子の量(6重量%をわずかに超えた量)が、自浄特性をこれらの被膜に与えるのに十分なことを示している。また、Nakajimaらは、2重量%のTiO2のみを含む透明な超疎水性被膜が、紫外線照射の作用の下で自浄性になり得ることを示している(Nakajima, A.らの文献, Langmuir 2000, 16, 7044-7047。この文献の全体は引用により取り込まれている。)。回復された防曇特性は、MB汚染/UV照射サンプルを暗下で保存した後でさえ、30日を超えて保持されていた。UV照射サンプルの暗下30日後に測定された接触角度は4°未満であり、防曇特性が観測される角度制限(〜7°)未満であった。幾つかの以前の研究では、TiO2系薄膜へのSiO2の組込みにより、光誘発超親水性の安定性が改善されることを示している。しかし、改善された安定性の機構は、本発明者らの機構と異なっていた。これらは、ナノ多孔性により駆動される(Zhang, X. T.らの文献, Chem. Mater. 2005, 17, 696-700;及びMachida, M.らの文献, J. Mater. Sci. 1999, 34, 2569-2574を参照されたい。各文献の全体は引用により取り込まれている。)。
【0060】
現在の系は、活性化のために紫外線照射(400 nmより短い波長)を必要とするTiO2ナノ粒子を含むが、可視光に感受性であるTiO2ナノ粒子が開発された。本発明者らは、多層被膜へのこれらの可視光活性TiO2ナノ粒子の組込みがLbL技術を用いて容易であり、かつ可視領域における被膜の自浄特性が可能になることを確信する。
他の実施態様は、添付の請求項の範囲内である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に配置された第1の複数の無機ナノ粒子を含む、超親水性表面。
【請求項2】
前記基板が実質的に透明である、請求項1記載の表面。
【請求項3】
前記超親水性表面が実質的に透明である、請求項2記載の表面。
【請求項4】
前記表面が1.3未満の屈折率を有する、請求項3の表面。
【請求項5】
前記表面が第2の複数の無機ナノ粒子を更に含む、請求項1記載の表面。
【請求項6】
前記第1の複数の無機ナノ粒子が、前記第2の複数の無機ナノ粒子と反対の静電荷を有する、請求項5記載の表面。
【請求項7】
前記第1の複数の無機ナノ粒子が、前記第2の複数の無機ナノ粒子と異なる平均粒径を有する、請求項5記載の表面。
【請求項8】
前記表面が、有機ポリマーを実質的に含まない、請求項5記載の表面。
【請求項9】
前記第1の複数の無機ナノ粒子が、複数の二酸化ケイ素ナノ粒子を含む、請求項5記載の表面。
【請求項10】
前記第2の複数の無機ナノ粒子が、複数の二酸化チタンナノ粒子を含む、請求項9記載の表面。
【請求項11】
前記表面が、有機ポリマーを実質的に含まない、請求項10記載の表面。
【請求項12】
第1の静電荷を有する第1の複数の無機ナノ粒子を基板上に堆積させること;及び
該第1の複数の無機ナノ粒子上に反対電荷の高分子電解質を堆積させること
を含む、表面の処理方法。
【請求項13】
反対電荷の高分子電解質が、第2の複数の無機ナノ粒子を含む、請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記第1の複数の無機ナノ粒子が、前記第2の複数の無機ナノ粒子と異なる平均粒径を有する、請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記第1の複数の無機ナノ粒子が、複数の二酸化ケイ素ナノ粒子を含む、請求項13記載の方法。
【請求項16】
前記第2の複数の無機ナノ粒子が、複数の二酸化チタンナノ粒子を含む、請求項15記載の方法。
【請求項17】
前記基板を、500°Cを超える温度に加熱することを更に含む、請求項12記載の方法。
【請求項18】
第1の静電荷を有する第1の複数の無機ナノ粒子を基板上に堆積させる工程、及び該第1の複数の無機ナノ粒子上に反対電荷の高分子電解質を堆積させる工程を繰返し、それによって静電荷多層を形成することを含む、請求項12記載の方法。
【請求項19】
静電荷多層が、有機ポリマーを実質的に含まない、請求項18記載の方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2010−500277(P2010−500277A)
【公表日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−523951(P2009−523951)
【出願日】平成19年8月7日(2007.8.7)
【国際出願番号】PCT/US2007/075341
【国際公開番号】WO2008/021817
【国際公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【出願人】(591091892)マサチューセッツ・インスティテュート・オブ・テクノロジー (16)
【Fターム(参考)】