説明

超電導ケーブル用冷却装置および超電導ケーブル冷却方法

【課題】 超電導ケーブル用の冷却装置において、万一の短絡等の事故で電力用ケーブルに臨界値を超える電流が生じたときに、銀シース等に生じる渦電流で冷却用の液体が昇温し、熱膨張することにより冷却用の液体あるいはその流路内の圧力が過度に上昇し、このため外周に在る断熱管等に永久歪が生じるのを防止する。
【解決手段】 超電導ケーブルを臨界温度以下に保持するための液体中に、該液体の温度以下の沸点の気体を所定量混入させる気体混入手段を有していることを特徴とする超電導ケーブル用冷却装置および超電導ケーブル冷却方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超電導ケーブル用冷却装置および超電導ケーブル冷却方法に関し、特に冷却用液体が事故時の昇温により膨張したときに装置内部の圧力が上昇するのを防止する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
超電導を利用した電力用超電導ケーブルは、図1に示す様に冷却用液体を満たした断熱管の内部に電力用超電導線が配置されている。図1において、101は電線本体である超電導体および過電流保護のための銅線である。102は、絶縁層である。103は、超電導遮蔽導体および過電流保護のための銅線である。104は、遮蔽層絶縁である。200は、液体窒素等の冷却用液体の流路である。301は、断熱層内管である。302は、断熱層である。303は、断熱層外管である。以上の構造の下で、超電導体101は、流路200内を軸方向に緩やかに流れる冷却用液体により臨界温度以下に冷却、保持されている。
【0003】
なお、理論上電気抵抗0といっても、現実には交流損失が僅かにあり、また外部からの浸入熱もある。このため、実際のシステムあるいはプラントとしては冷却用液体の冷却装置、供給装置、循環装置等を有している。またケースによっては、冷却用液体を充填するに先立っての断熱層内管301内の除湿、乾燥を行う装置等をも有している。更に、電力用の超電導ケーブルも、図1に示すような単芯でなく、3芯等、多芯のものもある。
【0004】
以上の他、電線本体、遮蔽(層)材、内管の材質等については、以下の特許文献1その他、例えば以下の非特許文献1にも記載されている。
【0005】
以上の下で、電力用超電導ケーブルは、臨界電流を超えない範囲で大電力の供給に使用されている。
【特許文献1】特開2003−297161号公報
【非特許文献1】理化学辞典 (岩波書店、第5版、1998年発行)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、落雷やこれを起因とする短絡事故等の異常事態、事故を完全になくすことは困難である。そして万一事故が発生したときには、臨界値を超えた過電流が生じる。そしてこの過電流は、超電導体を流れずにその周囲の銀シースや更に外側に巻かれた短絡電流保護用の導体(図示せず)に流れ、それらも発熱させる。このため、その近辺に在る冷却用液体も発熱し、熱膨張する。そしてこの熱膨張は、細長い電力線の線(軸)方向全体にわたって急に生じるため、冷却用液体の圧力が急上昇することとなる。
【0007】
例えば、冷却用液体が窒素である場合、1気圧での沸点である−196℃近辺では、1℃の昇温でおおよそ0.5%膨張する。そしてこれは、若し断熱層内管301等の容器が全く膨張しない場合、5MPaの昇圧に繋がる。
【0008】
一方、断熱層の内管等の構造材料は液体窒素の沸点以下で使用されるものであるため、アルミ、銅、極低温用のステンレス鋼等の比較的柔軟な金属材料が使用されている。しかもコストの面から薄肉であることが多い。このため、上述の僅かな温度上昇そして熱膨張による昇圧でも永久歪等の不都合が生じかねない。特に、多くの場合、単に細長いパイプ構造ではなく、溶接箇所、屈曲箇所、センサー取り付け箇所等の加工部があるため、なおさらである。そして若し、永久歪等が生じると、極低温であるため、2次的な不都合まで生じかねない。
【0009】
しかしながら、極低温であること、細長い超電導線全体にわたっての昇圧であることのため、ゴムダンパ等の膨張吸収装置や安全弁や破裂板を装着して対処することも困難である。
このため、超電導ケーブルにおいて、短絡事故等の異常が発生した時に冷却用の液体の昇温による体積膨張を即時に吸収し、これにより冷却用液体系統の圧力上昇を防ぐ技術の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以上の課題を解決することを目的としてなされたものであり、冷却用液体内にその急激な体積膨張を吸収する気体を適量混入しておくものである。
また、混入する気体の種類や比率、混入する系統、混入する装置や構造に工夫を凝らしたものである。
【0011】
請求項1に記載の発明は、超電導ケーブルを臨界温度以下に保持するための液体中に、該液体の温度以下の沸点の気体を所定量混入させる気体混入手段を有していることを特徴とする超電導ケーブル用冷却装置である。
液体中に混入させる気体の量は、超電導ケーブルの発熱量等により決められるが、一般的には5から10体積%である。
【0012】
請求項2に記載の発明は、前記の超電導ケーブル用冷却装置であって、気体混入手段により混入された気体を、混入場所と別の場所にて浮力を利用して回収する気体回収手段を有していることを特徴とする超電導ケーブル用冷却装置である。
【0013】
請求項3に記載の発明は、前記の超電導ケーブル用冷却装置であって、気体回収手段により回収された気体が、気体混入手段に送られることにより、前記気体を循環させる気体循環システムを有していることを特徴とする超電導ケーブル用冷却装置である。
この気体循環システムとしては、例えばリターン管や気体ポンプ等を装備したシステムが挙げられる。
【0014】
請求項4に記載の発明は、前記の超電導ケーブル用冷却装置であって、気体混入手段は、気体を液体に混入させる部分に、該混入される気体が当該部の液体の温度に等しくなるようにする混入気体用熱交換部を有していることを特徴とする超電導ケーブル用冷却装置である。
混入気体用熱交換部としては、例えば流路内部への気体混入用差込管等が挙げられる。
【0015】
請求項5に記載の発明は、前記の超電導ケーブル用冷却装置であって、気体混入手段が、ヘリウム、ネオン、水素若しくはこれらの混合ガスを混入するものであることを特徴とする超電導ケーブル用冷却装置である。
【0016】
請求項6に記載の発明は、前記の超電導ケーブル用冷却装置であって、液体が窒素であることを特徴とする超電導ケーブル用冷却装置である。
【0017】
請求項7に記載の発明は、超電導ケーブルを臨界温度以下に保持するための液体中に、該液体の温度以下の沸点の気体を所定量混入させる気体混入ステップを有していることを特徴とする超電導ケーブル冷却方法である。
【0018】
請求項8に記載の発明は、前記の超電導ケーブル冷却方法であって、気体混入ステップにより混入された気体を、混入場所と別の場所にて浮力を利用して回収する気体回収ステップを有していることを特徴とする超電導ケーブル冷却方法である。
【0019】
請求項9に記載の発明は、前記の超電導ケーブル冷却方法であって、気体回収ステップにより回収された気体が、気体混入ステップが行われ場所に送られることにより、前記気体を循環させる気体循環ステップを有していることを特徴とする超電導ケーブル冷却方法である。
【0020】
請求項10に記載の発明は、前記の超電導ケーブル冷却方法であって、気体混入ステップは、前記気体を前記液体に混入させる場所にて、該混入する気体が当該部の液体の温度に等しくなるようにする混入気体用熱交換ステップを有していることを特徴とする超電導ケーブル冷却方法である
【発明の効果】
【0021】
上記構成により、本発明によれば、超電導ケーブルにおいて、何らかの事故による過電流を起因とする冷却用液体の昇温による体積膨張が生じても、混入されている気体が収縮するため、冷却用液体、その流路等の過度の圧力上昇が防止され、過度の昇圧による断熱管内管等の変形や永久歪の発生が防止される。
また、混入された気体の回収あるいは液体との分離は浮力を利用するため確実となり、更にそのための構造も簡単になる。
【0022】
また、混入された気体は循環使用されるため、コストの低下に寄与する。
また、気体は混入に先立って液体と同じ温度となっているため、混入後の温度変化による膨張や収縮がなく、無用の振動や圧力変化が生じない。
また、気体状のヘリウム、ネオン、水素若しくはこれらの混合ガスを混入するため、多くの場合その液化温度に対して余裕があり、冷却用液体の温度の選択範囲が低温側に広がる。
また、冷却用液体は窒素であるため、コストと安全性の面から優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明をその最良の実施の形態に基づいて説明する。
【0024】
図2に、本発明の実施の形態の系統及び構造を概念的に示す。図2において、100は超電導ケーブルであり、図1に示す遮蔽層絶縁104及びその内部側の構造物よりなる。210は、流路200内を流れる液体窒素であり、211はそのリターン管であり、212は循環用ポンプ及び冷凍機等からなる液体窒素用の冷却循環駆動部である。250は、液体窒素内に混入されたヘリウムガスであり、251はそのリターン管であり、252は気体ポンプである。300は、断熱管であり、図1に示す断熱層内管301、断熱層302、断熱層外管303よりなる。
【0025】
310と320は、各々断熱管300の両端に在るタンク部である。253は断熱管内の流路200の下流側(図上右方)のタンク部320の上部に設けられた気体回収部である。254は、流路の上流側のタンク部310に差し込まれた気体混入用の金属製の細管からなる差込管である。
以上の他、液体窒素及びヘリウムガスのリターン管の外周には断熱層が形成され、またそれらの供給設備が接続される等している。ただし、これらは本発明の趣旨に直接の関係がないので図示や説明は省略する。
【0026】
図2に示す超電導ケーブルにおいては、液体窒素の密封(シール)の都合で、超電導ケーブル100は左右のタンク部310,320の天井壁を貫通して内部に入り込み、あるいは出て行くようになっている。
そして、液体窒素210は冷却循環駆動部212により−196℃よりも幾分低い温度に冷却され、しかる後左方のタンク部310、流路200、右方のタンク部320、リターン管211内を流れ、最後に再度冷却循環駆動部212に戻ってくる。そしてこれにより超電導ケーブル100を臨界温度以下の−196℃以下に保持する。
【0027】
また、右方のタンク部320の中央より多少左方(液体窒素の流れの上流側)には、天井下面より超電導ケーブル100の近辺まで仕切壁321が設けられており、その左方にはヘリウムガスを浮力により液体窒素から分離して回収する気体回収部253が形成されている。更に、気体ポンプ252の下方に取り付けられた気体混入用差込管254が、その先端部を左方のタンク部310の天井壁を貫通して内部に深く挿入されている。このため、気体混入用差込管254、流路200、気体回収部253、ヘリウムガスのリターン管251、気体ポンプ252がヘリウムガスの循環路(ループ)を形成する。
【0028】
気体混入用差込管254の先端部は左方のタンク部310内にその天井から内部に深く挿入されているため、液体窒素内に混入されるヘリウムガスはリターン管内部で多少昇温していても、液体窒素に混入されるときには液体窒素と同じ温度になっている。また、僅かに混入している気体状の窒素も液化される。このため、混入後の冷却による収縮、体積変化で流路200内の気液混合流体に余計な振動や圧力変動を生じさせることがない。
【0029】
次に、混入するヘリウムガスの量については、図2の場合においては、流路200内に液体窒素が95体積%、ヘリウムガスが5体積%となるようにしてある。これにより、液体窒素の1%の体積膨張でヘリウムガスはおおよそ20%収縮し、系統の圧力上昇は絶対圧でおおよそ20%以内となるようにしている。ひいては、万が一の短絡の発生等で冷却用の液体が多少熱膨張しても、冷却用の液体系統が過度に昇圧することが防止される。
【0030】
以上、本発明をその望ましい実施の形態を基に説明したが、本発明は前記形態に限定されない。即ち、例えば以下の様な形態であっても良い。
【0031】
ガスのリターン管を液体の流路内部に設け、これにより外部からの浸入熱の極少化を図っている。
左方のタンク部の上方にも、ガスの滞留を防止する仕切り壁を設ける。
冷却用の液体として、ヘリウム、アルゴン等他の種類の物質や液体空気等の混合物を用いる。また混入するガスとして、前記したガスと異なる種類の物質を用いる。
また、液体の流路も傾斜させたり、あるいは上下方向に配置する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】単層の超電導ケーブルの構造を概念的に示す断面図である。
【図2】本発明の超電導ケーブル用の冷却装置の系統と構造を示す図である。
【符号の説明】
【0033】
100 超電導ケーブル
101 超電導体
102 絶縁層
103 超電導遮蔽導体
104 遮蔽絶縁層
200 冷却用液体の流路
210 液体窒素
211 液体窒素のリターン管
212 液体窒素の冷却循環駆動部
250 ヘリウムガス
251 ヘリウムのリターン管
252 気体ポンプ
253 気体回収部
254 気体混入用差込管
300 断熱管
301 断熱層内管
302 断熱層
303 断熱層外管
310 上流側(左方)のタンク部
320 下流側のタンク部
321 仕切壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超電導ケーブルを臨界温度以下に保持するための液体中に、該液体の温度以下の沸点の気体を所定量混入させる気体混入手段を有していることを特徴とする超電導ケーブル用冷却装置。
【請求項2】
前記気体混入手段により混入された気体を、混入場所と別の場所にて浮力を利用して回収する気体回収手段を有していることを特徴とする請求項1に記載の超電導ケーブル用冷却装置。
【請求項3】
前記気体回収手段により回収された気体が、前記気体混入手段に送られることにより、前記気体を循環させる気体循環システムを有していることを特徴とする請求項2に記載の超電導ケーブル用冷却装置。
【請求項4】
前記気体混入手段は、前記気体を前記液体に混入させる部分に、該混入する気体が当該部の液体の温度に等しくなるようにする混入気体用熱交換部を有していることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の超電導ケーブル用冷却装置。
【請求項5】
前記気体混入手段が、ヘリウム、ネオン、水素若しくはこれらの混合ガスを混入するものであることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の超電導ケーブル用冷却装置。
【請求項6】
前記液体が、窒素であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の超電導ケーブル用冷却装置。
【請求項7】
超電導ケーブルを臨界温度以下に保持するための液体中に、該液体の温度以下の沸点の気体を所定量混入させる気体混入ステップを有していることを特徴とする超電導ケーブル冷却方法。
【請求項8】
前記気体混入ステップにより混入された気体を、混入場所と別の場所にて浮力を利用して回収する気体回収ステップを有していることを特徴とする請求項7に記載の超電導ケーブル冷却方法。
【請求項9】
前記気体回収ステップにより回収された気体が、前記気体混入ステップが行われる場所に送られることにより、前記気体を循環させる気体循環ステップを有していることを特徴とする請求項8に記載の超電導ケーブル冷却方法。
【請求項10】
前記気体混入ステップは、前記気体を前記液体に混入させる場所にて、該混入する気体が当該部の液体の温度に等しくなるようにする混入気体用熱交換ステップを有していることを特徴とする請求項7から9のいずれかに記載の超電導ケーブル冷却方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−66296(P2006−66296A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−249152(P2004−249152)
【出願日】平成16年8月27日(2004.8.27)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】