説明

超音波探触子

【課題】振動膜の振動により隣接する振動子相互間に生じる干渉を抑制する。
【解決手段】超音波探触子2を、超音波と電気信号を相互に変換する振動子12を複数配列して形成し、振動子12は、基板15と、基板15上に設けられた複数の振動要素16で構成する。そして、振動要素16は、基板15上に設けられた振動膜20と、振動膜20と基板15との間に空間21を形成して振動膜20を支持する支持部22で構成し、支持部22の内部に、振動膜20と基板15との間で伝播する超音波を抑制する低音響インピダンス部25を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体との間で超音波を送受する振動子が複数配列された超音波探触子に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波探触子は、超音波診断装置から供給される電気信号を超音波に変換して被検体に送波するとともに、被検体から発生した反射エコーを受波して受信信号に変換する振動子が複数配列されている。この振動子として、半導体製造技術などのマイクロマシン技術を用いた超微細加工により製造されるMUT(Micromachined Ultrasonic Transducers)が知られている。例えば、MUTの1形態であるcMUT(Capacitive Micromachined Ultrasonic Transducers)は、シリコンなどの半導体で形成される半導体基板上に複数の振動要素を設けて1つの振動子を形成している。この振動要素は、半導体基板上に設けられた振動膜を支持部で支持して、半導体基板と振動膜との間に真空又は空気などの犠牲層を形成した構造とされている。また、半導体基板と振動膜にはそれぞれ電極が設けられており、電極に電気信号を供給することにより振動膜を振動させて超音波を被検体に送波し、被検体から反射してきた超音波が振動膜を振動させることで受信信号を得ている。ここで、振動膜が振動すると、その振動に起因して発生する超音波が支持部を介して半導体基板へ伝播して、半導体基板の背面側に設けられた背面部などの影響で半導体基板内部に多重反射が発生する。これにより、ある特定の周波数が強調された超音波(以下、プレート波という)が発生し、このプレート波が、隣接する振動要素の支持部を介して隣接する振動要素の振動膜に伝播する。そして、隣接する振動要素の振動膜の不必要な振動により、時間的、周波数的、空間的な分解能の劣化が生じる。
【0003】
特許文献1には、cMUT振動子の半導体基板の振動要素間部分に、表面から切り込み溝を設けることや、切り込み溝に多孔質部材を設けることが記載されている。これによれば、半導体基板内部に発生したプレート波が隣接する振動要素へ伝播するのを防ぐことができるとしている。
【0004】
また、特許文献2には、cMUT振動子の半導体基板と背面部との間に音響整合層を設けることが記載されており、これにより、半導体基板に伝播した超音波が背面部材で反射するのを抑制できるとしている。
【特許文献1】米国特許第6262946号公報
【特許文献2】米国特許第6831394号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術は、半導体基板内部でプレート波の伝播を抑制するものであり、また、特許文献2に記載の技術は、半導体基板へ伝播した超音波が背面部で反射するのを抑制することによりプレート波の発生を抑制するものである。すなわち、いずれの技術も超音波が半導体基板へ伝播した後にのみ対処をしているので、隣接する振動要素の振動膜へ伝播するプレート波を十分に抑制できず、隣接する振動要素の振動膜に不必要な振動が生じる場合がある。
【0006】
本発明は、振動膜の振動により隣接する振動要素相互間に生じる干渉を抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の超音波探触子の第1態様は、超音波と電気信号を相互に変換する振動子を複数配列してなり、振動子は、基板と、基板上に設けられた複数の振動要素を備え、振動要素は、基板上に設けられた振動膜と、振動膜と基板との間に空間を形成して振動膜を支持する支持部とを備え、支持部の内部に、振動膜と基板との間で伝播する超音波を抑制する遮音部が設けられてなることを特徴とする。
【0008】
すなわち、プレート波は、超音波が振動膜側から支持部を介して基板へ伝播することで発生するので、支持部の内部に遮音部を設けることにより、基板への超音波の伝播を抑制し、プレート波の発生を抑制することができる。また、隣接する振動要素の支持部の内部に設けられた遮音部により、基板から隣接する振動要素の振動膜に伝播するプレート波を抑制することができる。つまり、プレート波の発生を抑制し、かつ発生したプレート波が隣接する振動要素の振動膜に伝播するのを抑制するので、振動膜の振動により隣接する振動要素相互間に生じる干渉を抑制することができる。
【0009】
この場合において、遮音部は、基板に隣接して設けられてなることが望ましい。すなわち、基板に隣接して遮音部を設けることで、振動膜側から基板へ伝播する超音波と、基板から隣接する振動要素の振動膜へ伝播するプレート波は、確実に遮音部に入射して抑制されることになり、より一層効果的に振動膜の振動により隣接する振動要素相互間に生じる干渉を抑制することができる。
【0010】
また、遮音部は、支持部と基板のいずれよりも低い音響インピダンスを有する低音響インピダンス部であることが望ましい。すなわち、振動膜側から基板へ伝播しようとする超音波の一部は、支持部から低音響インピダンス部へ入射する際と、低音響インピダンス部から基板へ入射する際に、音響インピダンスの違いにより反射する。同様に、基板から隣接する振動要素の振動膜へ伝播しようとするプレート波の一部も、音響インピダンスの違いにより反射される。これにより、プレート波の発生を抑制し、かつ発生したプレート波が隣接する振動要素の振動膜に伝播するのを抑制することができる。
【0011】
さらに、遮音部は、超音波を吸音する吸音部であってもよい。つまり、ベースとなる多孔質部材に音響特性の異なる金属の粉体を混在させることで、吸音部に入射した超音波やプレート波を吸音部内部で散乱させて吸音することができる。これにより、プレート波の発生を抑制し、かつ発生したプレート波が隣接する振動要素の振動膜に伝播するのを抑制することができる。
【0012】
また、本発明の超音波探触子の第2態様は、超音波と電気信号を相互に変換する振動子を複数配列してなり、振動子は、基板と、基板上に設けられた複数の振動要素を備え、振動要素は、基板上に設けられた振動膜と、振動膜と基板との間に空間を形成して振動膜を支持する支持部とを備え、支持部の内部の基板側に、支持部と、基板のいずれよりも低い音響インピダンスを有する低音響インピダンス部が設けられ、支持部の内部であって低音響インピダンス部の基板に対向する側に、振動膜と基板との間を伝播する超音波を吸音する吸音部が設けられてなることを特徴とする。
【0013】
このように、支持部の内部に、超音波やプレート波の伝播方向に沿って低音響インピダンス部と吸音部を設けることにより、超音波やプレート波の伝播をより効果的に抑制することができ、振動膜の振動により隣接する振動要素相互間に生じる干渉をより効果的に抑制することができる。
【0014】
さらに、本発明の超音波探触子の第3態様は、超音波と電気信号を相互に変換する振動子を複数配列してなり、振動子は、基板と、基板上に設けられたベース膜と、ベース膜上に設けられた複数の振動要素とを備え、振動要素は、ベース膜に対向して設けられた振動膜と、振動膜とベース膜との間に空間を形成して振動膜を支持する支持部とを備え、ベース膜の内部に、振動膜と基板との間を伝播する超音波を抑制する遮音部が設けられてなることを特徴とする。この場合において、遮音部は、ベース膜の支持部と基板に挟まれた部分に設けられ、遮音部の端部は、振動膜とベース膜との間に形成された空間の下部にまで伸長されてなることが望ましい。
【0015】
すなわち、遮音部を、振動膜とベース膜との間に形成された空間と異なる層に設けるので、遮音部の厚み、形状などの設計自由度が増え、遮音部の端部を、振動膜とベース膜との間に形成された空間の下部にまで伸長することができる。これにより、超音波やプレート波は、より確実に遮音部に入射して抑制されることになるので、振動膜の振動により隣接する振動要素相互間に生じる干渉をより効果的に抑制することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、振動膜の振動により隣接する振動要素相互間に生じる干渉を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を適用してなる超音波探触子及び超音波診断装置の実施例を、図1〜図16を用いて説明する。なお、以下の説明では、同一機能部品については同一符号を付して重複説明を省略する。
【実施例1】
【0018】
図1は、実施例1の超音波探触子及び超音波診断装置の構成を示す図である。
図1に示すように、超音波診断装置1は、駆動信号を超音波に変換して被検体に送波すると共に、被検体から発生した超音波を受波して電気信号に変換する振動子が複数配列された超音波探触子2と、超音波探触子2に駆動信号を供給する送信手段3と、超音波探触子2に供給される駆動信号に重畳して直流バイアス電圧を印加するバイアス手段4と、超音波探触子2から出力される電気信号(以下、反射エコー信号という)を処理する受信手段6と、受信手段6から出力される反射エコー信号に対しディジタル整相及び加算処理を施す整相加算手段7と、整相加算手段7から出力される反射エコー信号に基づき超音波像を再構成する画像処理手段8と、画像処理手段8から出力される超音波像を表示する表示手段9などから構成されている。また、送信手段3、バイアス手段4、受信手段6、整相加算手段7、画像処理手段8、表示手段9は、それぞれ制御手段10と接続されており、制御手段10から出力される制御指令に基づいて制御されている。
【0019】
次に、超音波診断装置1の動作を説明する。被検体に接触させた超音波探触子2にバイアス手段4から直流バイアス電圧が供給され、さらに、これに重畳して送信手段3から駆動信号が供給される。供給された駆動信号は、超音波探触子2の各振動子で超音波に変換され、被検体に送波される。被検体で反射した超音波は、超音波探触子2の各振動子により受波され、各振動子によって反射エコー信号に変換される。超音波探触子2から出力される反射エコー信号は、受信手段6により増幅やアナログディジタル変換などの受信処理が施される。受信処理が施された反射エコー信号は、整相加算手段7により整相加算され、整相加算された反射エコー信号は、画像処理手段8により超音波像(例えば、断層像や血流像などの診断画像)に再構成される。再構成された診断画像は、表示手段9に表示される。
【0020】
図2は、実施例1の超音波探触子2の斜視図である。図2に示すように、超音波探触子2は、複数の振動子12a〜12m(m:2以上の自然数)が短冊状に配設された1次元アレイ型に形成されている。ただし、振動子を2次元配列した2次元アレイ型や、振動子を扇型上に配設したコンベックス型など他の形態の超音波探触子にも本発明を適用できる。振動子12a〜12mの背面側にバッキング層13が設けられるとともに、超音波射出側に音響レンズ14が配設されている。なお、振動子を2次元配列することにより、音響レンズ14を用いない構成とすることも可能である。また、振動子12a〜12mと音響レンズ14の間には、必要に応じて音響整合層を設けることも可能である。
【0021】
振動子12a〜12mは、送信手段3からの駆動信号を超音波に変換して被検体に超音波を送波すると共に、被検体で反射した超音波を受波して電気信号に変換する。バッキング層13は、振動子12a〜12mから背面側に射出される超音波の伝搬を吸収することによって、振動子12a〜12mの余分な振動を抑制する。音響レンズ14は、振動子12a〜12mから射出される超音波ビームを収束する。なお、振動子12a〜12mの配列方向を長軸方向Xとし、長軸方向Xに直交する方向を短軸方向Yとする。
【0022】
図3は、図2の複数の振動子12a〜12mにおける一の振動子12の拡大斜視図である。図3に示すように、振動子12は、基板15上に複数の振動要素16a〜16n(n:2以上の自然数)を有して形成されている。振動要素16a〜16nは、印加される直流バイアス電圧の大きさによって電気機械結合係数、つまり送受信感度が変化する電気―音響変換素子である。また、振動要素16a〜16nは、長軸方向X及び短軸方向Yに略均等間隔に配列されており、隣接する振動要素間は電極17aで接続されている。なお、本実施例では短軸方向Yに沿って上、中、下の3区間に別れて電極17aで接続されているが、これに限らず全ての振動要素16a〜16nを1まとまりで接続してもよいし、さらに区間を細分化してもよい。また、振動要素16a〜16nを不均等な間隔で配列することも可能である。
【0023】
図4は、図3の基板15及び基板15上に設けられた複数の振動要素16a〜16nにおける一の振動要素16の縦断面図である。図4に示すように、振動要素16は、基板15に対向して設けられた振動膜20と、振動膜20の内部に埋め込むように設けられた電極17aと、振動膜20と基板15の間に真空又は空気の空間(以下、空間21という)を形成して振動膜20を基板15に支持する支持部22とで構成されている。また、基板15の下部には、電極17bが設けられている。
【0024】
電極17aは、送信手段3の駆動信号電源26に接続端子27aを介して接続されており、電極17bは、バイアス手段4の直流バイアス電源25に接続端子27bを介して接続されている。
【0025】
ここで、基板15は、セラミックス、ガラス、半導体などで形成するのが好ましい。また、振動膜20は、シリコンナイトライドなどのガラス、又はセラミックなど、絶縁性を有し、かつ繰り返しの振動に対する強度を有する材料で形成するのが好ましく、支持部22は、同様にシリコンナイトライドなどのガラス、又はセラミックなど、絶縁性を有し、かつ振動膜20を基板15に支持する強度を有する材料で形成するのが好ましい。さらに、電極17a及び電極17bは、アルミニウム又はチタンなどの金属で形成するのが好ましい。
【0026】
次に、振動要素16の動作を説明する。振動要素16に直流バイアス電源25によって直流のバイアス電圧を印加すると、印加されたバイアス電圧の大きさに応じて振動要素16の空間21に電界が発生する。発生した電界により振動膜20が緊張することによって、振動要素16の電気機械結合係数の値が定められる。そして、駆動信号電源26から振動要素16に駆動信号を供給すると、供給された駆動信号は、電気機械結合係数の値に基づいて超音波に変換される。また、被検体で反射した超音波を振動要素16によって受波すると、振動要素16の振動膜20が電気機械結合係数の値に基づいて励起される。振動膜20が励起されることにより空間21の容量が変化し、その容量変化に基づく電気信号が超音波診断装置に取り込まれる。
【0027】
次に、本発明を適用した超音波探触子2の振動要素について、図5を用いて説明する。図5は、図4における振動要素16の支持部22と、その周辺の断面を拡大した図である。図5に示すように支持部22には、基板15に隣接して振動膜20と基板15との間を伝播する超音波を抑制する遮音部である低音響インピダンス部25が複数設けられている。
【0028】
本実施例において、低音響インピダンス部25は、真空又は空気の空間であるが、これに限らず、金属、ガラス、セラミック、フェライトなどの内部に真空又は空気の空間が形成された多孔質部材であってもよい。
【0029】
ここで、図6を用いて図5における振動要素16の全体構成を説明する。図6は、図5の振動要素16のVI−VI線での断面図である。このように、振動要素16は、空間21の外周を囲むように3層に渡って低音響インピダンス部25が設けられ、空間21と最内周の低音響インピダンス部25の間、各低音響インピダンス部25間、最外周の低音響インピダンス部25の外周側に支持部22が設けられている。なお、本実施例のように低音響インピダンス部25を環状に配置する例に限らず、超音波の抑制能力及び支持部22の支持強度などを考慮して環状の低音響インピダンス部25を複数に分割して配置することもできる。
【0030】
次に、本実施例の超音波探触子2の動作と効果を説明する。図7〜図10は、超音波探触子2の振動子12の断面の一部を模式的に示した図である。ここでは、図7〜図10において左側の4個の振動要素をまとめて振動要素群30、右側の2個の振動要素をまとめて振動要素群31とし、振動要素群30を同時に駆動して、振動要素群31を駆動していない場合を例に説明する。
【0031】
超音波診断装置1が振動要素群30の振動膜20及び基板15に設けられている電極17a、17bに駆動信号を供給すると、駆動信号に起因して振動膜20が振動して超音波を被検体(図7において、矢印32方向)に送波する。また、振動膜20は、被検体から反射してきた超音波を受波して振動する。このような送受波の際に発生する振動膜20の振動によって、図7に示すように、超音波は支持部22を介して矢印33方向へ伝播する。
【0032】
ここで、音響インピダンスがZ(MRayls)である媒質Aから、音響インピダンスがZ(MRayls)である媒質Bへ超音波が進行した場合、両媒質の境界面で超音波が反射する割合R(反射率)は、以下の式で表される。
【0033】
(数1式)
R=│(Z―Z)/(Z+Z)│
つまり、ある媒質から別のある媒質へ超音波が進行した場合の境界面での超音波の反射率は、両媒質の音響インピダンスの比率に依存し、両媒質間の音響インピダンスの比率の違いが大きければ大きい程その両媒質の境界面で超音波は反射する。
【0034】
本実施例では、シリコンナイトライドなどで形成された支持部22の音響インピダンスは、例えば約20(MRayls)であり、シリコンなどで形成された基板15の音響インピダンスも例えば約20(MRayls)である。これに対して低音響インピダンス部25は、真空又は空気なので支持部22や基板15と比べると、音響インピダンスは、例えばほとんど0(MRayls)とみることができる。したがって、図8に示すように、振動膜20から基板15に伝播しようとする超音波の一部は、支持部22と支持部22の下部に設けられた低音響インピダンス部25との音響インピダンスの違い及び低音響インピダンス部25と基板15との音響インピダンスの違いにより矢印34方向へ反射するので、基板15への超音波の伝播は抑制される。これにより、基板15内部での超音波の多重反射によるプレート波の発生が抑制される。
【0035】
しかしながら、基板15へ伝播する超音波を完全に抑制することはできないので、図9に示すように、基板15内部では矢印35などに示すように超音波が多重反射してプレート波が発生する。このプレート波は、振動要素群30の各振動要素や振動要素群31の各振動要素に伝播しようとする。しかし、上記と同様の理由により、図10に示すように、基板15と各支持部22の下部に設けられた低音響インピダンス部25との音響インピダンスの違い及び低音響インピダンス部25と支持部22との音響インピダンスの違いにより矢印36方向へ反射する。したがって、振動要素郡30を駆動することによって、駆動していない振動要素郡31の振動膜に不要な振動が生じることを抑制することができる。
【0036】
なお、本実施例では、振動要素郡30を同時に駆動し、振動要素郡31を駆動していない場合を例に説明したが、例えば、振動要素郡30の中で駆動する振動要素と駆動していない振動要素があるような場合は、駆動する振動要素の振動に起因する超音波が、駆動していない振動要素に伝播することを抑制することになる。
【0037】
本実施例によれば、プレート波の発生を抑制し、かつ抑制しきれずに発生したプレート波が、隣接する振動要素の振動膜に伝播するのを抑制するので、振動膜の振動により隣接する振動要素相互間に生じる干渉を抑制することができる。
【0038】
また、本実施例の超音波探触子2の振動要素は、空間21と低音響インピダンス部25を同一の層に設けているので、製造工数を低減することができ、開発コストを抑制することができる。
【0039】
なお、本実施例では、低音響インピダンス部25を複数に分割して基板15に隣接させて設けているが、低音響インピダンス部25は、振動膜20と基板15の間を伝播する超音波を抑制するために設けられるものなので、複数に分割せず一体とすることもできるし、配置位置も限定されるものではない。しかし、低音響インピダンス部25を極端に大きくすると、振動膜20を基板15に支持する支持部22の体積が小さくなり、支持強度が保てなくなる。したがって、低音響インピダンス部25は、超音波伝播の抑制能力及び支持強度などを考慮して適宜大きさや間隔を決定して設ければ良い。例えば、図11に示すように低音響インピダンス部25を多層状に、かつ、下層の低音響インピダンス部25と上層の低音響インピダンス部25を互い違いに設けることも可能である。このような構成によれば、支持部22の支持強度を保ちつつ、超音波伝播の抑制能力を増大することができる。
【実施例2】
【0040】
本発明の実施例2を図12、図13を用いて説明する。実施例1の超音波探触子2との違いは、支持部22の内部に設けられた低音響インピダンス部25に替えて吸音部を設けることのみであるので、重複部分の説明は省略する。図12は、図4の振動要素16の支持部22とその周辺部材の断面を拡大した図である。図12に示すように、吸音部39は、基板15に隣接して設けられるのではなく、支持部22の内部に設けられている。
【0041】
吸音部39は、金属、ガラス、セラミック、フェライトなどの部材に複数の空気又は真空などの空間を多層状で、かつ迷路状に混在させた部材、又はこのような部材に、タングステンや白金などの金属粉体など音響特性の異なる物質の粉体を混在させた部材などが好ましい。
【0042】
次に、本実施例の超音波探触子1の動作について図13を用いて説明する。ここでは、吸音部39として、シリコンナイトライド40にタングステン粉体41を混在した部材を使用した場合を例に説明する。実施例1と同様に、超音波の送受波の際に振動膜20が振動することにより超音波が支持部22に伝播し、矢印42に示すように吸音部39に入射する。吸音部39に入射した超音波は、吸音部39内部のタングステン粉体41に入射すると、図に示すように四方八方へ反射して散乱する。吸音部39の内部でこのような散乱を繰り返すうちに、超音波の機械的エネルギーは熱エネルギーへと変換され、その結果、超音波は吸音部39の内部で吸音される。つまり、吸音部39に入射した超音波は、実質的に減衰される。
【0043】
これにより、超音波が基板15に伝播するのを抑制することができ、プレート波の発生を抑制することができる。また、実施例1と同様に、抑制しきれずに基板15へ伝播した超音波が多重反射してプレート波が発生し、基板15から隣接する振動要素に伝播しようとするが、吸音部39内部で上記と同様に吸音されるので、隣接する振動要素の振動膜に伝播するプレート波を抑制することができる。
【0044】
なお、本実施例による超音波の伝播抑制の効果は、吸音部39の厚みが大きければ大きいほど増大する。したがって、本実施例のような吸音部39の配置に限らず、例えば、支持部22全体を吸音部39で形成することもできるし、多層状に形成することもできる。
【実施例3】
【0045】
本発明の実施例3を、図14を用いて説明する。実施例1の超音波探触子2との違いは、支持部22の内部の低音響インピダンス部25及び吸音部39の構成のみであるので、重複部分の説明は省略する。図14は、図4の振動要素16の支持部22とその周辺部材の断面を拡大した図である。本実施例は、実施例1と実施例2の組み合わせであり、具体的には、図14に示すように、実施例1で説明した低音響インピダンス部25を基板15に隣接して設け、実施例2で説明した吸音部39を支持部22の内部に設けている。つまり、支持部22の内部に、超音波又はプレート波の伝播方向に沿って低音響インピダンス部25及び吸音部39が設けられている。
【0046】
本実施例によれば、支持部22の内部を伝播する超音波又はプレート波をより効果的に抑制することができ、振動膜の振動により隣接する振動要素相互間に生じる干渉をより効果的に抑制することができる。
【実施例4】
【0047】
本発明の実施例4を図15、図16を用いて説明する。実施例1の超音波探触子1との違いは、振動要素16と基板15との間にベース膜45を設ける点と、低音響インピダンス部25の配置位置のみであるので、重複部分の説明は省略する。図15は、本実施例の振動要素16とベース膜45と基板15の断面を拡大した図である。図15に示すように、基板15上にベース膜45が設けられ、ベース膜45上に振動要素16が設けられている。そして、低音響インピダンス部25は、ベース膜45の内部に、支持部22の下部から空間21の下部に渡って設けられている。ここで、ベース膜45は、振動膜20や支持部22と同様に、シリコンナイトライドなどのガラス、又はセラミックなどの部材であるのが好ましい。
【0048】
本実施例によれば、空間21と低音響インピダンス部25を異なる層に設けているので、空間21の厚みと低音響インピダンス部25の厚みを異ならせたり、形状を異ならせたりすることができ、また、本実施例のように、空間21と低音響インピダンス部25を上下方向に一部重複させて設けることができる。これにより、超音波やプレート波をより確実に低音響インピダンス部25に入射させることができるので、振動膜の振動により隣接する振動要素相互間 に生じる干渉をより効果的に抑制することができる。
【0049】
なお、実施例1で説明したのと同様に、本実施例においても、低音響インピダンス部25の形状、大きさ及び配置位置などは、超音波伝播の抑制能力及び支持強度などを考慮して適宜決定すればよい。
【0050】
また、図16に示すように、支持部22の下部のベース膜45に低音響インピダンス部25を設けるのみではなく、ベース膜45の振動要素16aが設けられていない箇所にも低音響インピダンス部25を設けることにより、被検体側からみた支持部22及び基板15の音響インピダンスを低くすることができる。これにより、支持部22と基板15の音響インピダンスは、被検体のそれと近づくので、被検体から反射してきた超音波(図16において、矢印48方向)が、支持部22や基板15で反射するのを抑制できる。つまり、被検体の音響インピダンスは、例えば約1.5(MRayls)であるのに対し、支持部22及び基板15の音響インピダンスは、例えば約20(MRayls)であるので、低音響インピダンス部25を設けない場合は、実施例1において説明したように音響インピダンスの比率の違いにより、被検体から反射してきた超音波48が支持部22及び基板15でほとんど反射してしまう。しかし、本実施例のようにベース膜45を設けることで、振動要素16が設けられている場所に限らず、振動要素16が設けられていない場所でも被検体から反射してきた超音波が再度反射することを抑制することができる。
【0051】
また、実施例1〜実施例3においても、同様に被検体からみた支持部22の音響インピダンスを低くして、被検体から反射してきた超音波が支持部22で反射するのを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】実施例1における超音波探触子及び超音波診断装置の構成を示す図である。
【図2】実施例1における超音波探触子の斜視図である。
【図3】実施例1における振動子の拡大斜視図である。
【図4】実施例1における振動子の基板及び基板上に設けられた振動要素の縦断面図である。
【図5】実施例1における振動要素の支持部とその周辺の断面を拡大した図である。
【図6】図5における振動要素のVI−VI線での断面図である。
【図7】実施例1における超音波探触子の動作例を説明する図である。
【図8】実施例1における超音波探触子の動作例を説明する図である。
【図9】実施例1における超音波探触子の動作例を説明する図である。
【図10】実施例1における超音波探触子の動作例を説明する図である。
【図11】実施例1における振動要素の遮音部の配置変形例を示す図である。
【図12】実施例2における振動要素の支持部とその周辺の断面を拡大した図である。
【図13】実施例2における超音波探触子の動作例を説明する図である。
【図14】実施例3における振動要素の支持部とその周辺の断面を拡大した図である。
【図15】実施例4における振動要素とベース膜と基板の断面を拡大した図である。
【図16】実施例4の超音波探触子の動作例を説明する図である。
【符号の説明】
【0053】
1 超音波診断装置
2 超音波探触子
12 振動子
15 基板
16 振動要素
20 振動膜
21 空間
22 支持部
25 低音響インピダンス部
39 吸音部
41 タングステン粉体
45 ベース膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波と電気信号を相互に変換する振動子を複数配列してなり、前記振動子は、基板と、該基板上に設けられた複数の振動要素を備え、前記振動要素は、前記基板上に設けられた振動膜と、該振動膜と前記基板との間に空間を形成して前記振動膜を支持する支持部とを備え、前記支持部の内部に、前記振動膜と前記基板との間を伝播する超音波を抑制する遮音部が設けられてなることを特徴とする超音波探触子。
【請求項2】
前記遮音部は、前記基板に隣接して設けられてなることを特徴とする請求項1に記載の超音波探触子。
【請求項3】
前記遮音部は、前記支持部と前記基板のいずれよりも低い音響インピダンスを有する低音響インピダンス部、又は前記超音波を吸音する吸音部であることを特徴とする請求項1又は2に記載の超音波探触子。
【請求項4】
前記低音響インピダンス部は、空間、又は金属、ガラス、セラミック、フェライトを基材とする多孔質部材であることを特徴とする請求項3に記載の超音波探触子。
【請求項5】
前記吸音部は、金属、ガラス、セラミック、フェライトを基材とする多孔質部材、又は前記多孔質部材に金属の粉体を混在させた部材であることを特徴とする請求項3に記載の超音波探触子。
【請求項6】
超音波と電気信号を相互に変換する振動子を複数配列してなり、前記振動子は、基板と、該基板上に設けられた複数の振動要素を備え、前記振動要素は、前記基板上に設けられた振動膜と、該振動膜と前記基板との間に空間を形成して前記振動膜を支持する支持部とを備え、前記支持部の内部の前記基板側に、前記支持部と、前記基板のいずれよりも低い音響インピダンスを有する低音響インピダンス部が設けられ、前記支持部の内部であって前記低音響インピダンス部の前記基板に対向する側に、前記振動膜と前記基板との間を伝播する超音波を吸音する吸音部が設けられてなることを特徴とする超音波探触子。
【請求項7】
超音波と電気信号を相互に変換する振動子を複数配列してなり、前記振動子は、基板と、該基板上に設けられたベース膜と、該ベース膜上に設けられた複数の振動要素を備え、前記振動要素は、前記ベース膜上に設けられた振動膜と、該振動膜と前記ベース膜との間に空間を形成して前記振動膜を支持する支持部とを備え、前記ベース膜の内部に、前記振動膜と前記基板との間を伝播する超音波を抑制する遮音部が設けられてなることを特徴とする超音波探触子。
【請求項8】
前記遮音部は、前記ベース膜の前記支持部と前記基板に挟まれた部分に設けられ、前記遮音部の端部は、前記振動膜と前記ベース膜との間に形成された空間の下部にまで伸長されてなることを特徴とする請求項7に記載の超音波探触子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate


【公開番号】特開2007−301023(P2007−301023A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−130538(P2006−130538)
【出願日】平成18年5月9日(2006.5.9)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】