説明

超音波接合強度の予測方法

【課題】超音波接合における接合強度がより正確に予測できるようにする。
【解決手段】常温より温度Tを加えた場合のバンプ材料の温度印加時降伏応力σyTを求める温度条件設定部101と、ヘッド振幅δ(μm)の超音波振動を与えた場合の超音波印加時降伏応力σyUSを求める超音波条件設定部102と、超音波接合により変形した後の接合バンプ高さhを求める変形バンプ高さ算出部103と、接合した状態におけるバンプの接合面積Sを求める接合面積算出部104と、接合面積S及び予め得られている降伏応力σy,常数φをもとに接合強度予測値fを求める接合強度予測部105とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属バンプを熱超音波接合する場合において、荷重と温度と超音波出力とを含む接合条件より、理想的な接合が行われた場合の剪断強度を予測する超音波接合強度の予測方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体チップの上に錨形状の金ワイヤバンプを形成し、これに荷重,熱,及び超音波を加えてプリント配線基板に実装する超音波フリップ実装がある(特許文献1,2参照)。この実装においては、バンプの接合強度が歩留りや信頼性を左右するため、接合条件などにより予め接合強度を把握(推定)しておくことが重要となっている。
【0003】
従来、上述した接合における強度の推定は、主な接合条件である超音波の出力(振幅),荷重,温度,及び超音波発振(印加)時間を各々変えた実験サンプルを作製し、これら実験サンプルに対して剪断強度試験を行い、各条件と強度の関係を各々に求めて適切な条件を選ぶことで行われていた。また、各条件を多変量解析などにより相関関係を求め、多変量近似式によって各条件を変更した場合の接合強度の関係を実験式として表す試みも行われてきた。
【0004】
【特許文献1】特開2002−083839号公報
【特許文献2】特開2002−252252号公報
【非特許文献1】長田修次、柳本潤,「基礎からわかる塑性加工」,コロナ社,pp.96-105,(1997)。
【非特許文献2】中道義弘、吉沢亮、原雅徳,「足回り部品の弾塑性解析」,日立金属技報,Vol.19,pp87-90,(2003)。
【非特許文献3】日本金属学会編、「金属便覧」第5版,pp410,(1990)。
【非特許文献4】植田充彦 他 、「セラミック基板への表面活性化常温フリップチップ実装プロセスの開発」、Mate 12th, pp359-364,(2006)。
【非特許文献5】幡野佐一、「工業材料便覧」、日刊工業新聞社、pp193,(1981)。
【非特許文献6】高橋康夫、「常温凝着接合における接合強度の時間依存性に関する研究」、溶接学会論文集, 第17巻第4号, pp583-588,(1999)。
【非特許文献7】幡野佐一、「工業材料便覧」、日刊工業新聞社、pp117,118(1981)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来の方法では、膨大な実験データの収集が必要となり、加えて、多変量近似式を構成する各常数は、剪断強度実験により得られた剪断強度データにより統計的に推定されるものであるから、工学理論に照らし合わせた理論強度を導き出すことができなかった。
【0006】
また、超音波接合における実際の接合強度は、荒さや清浄度などの配線基板の表面処理状態、前処理としての洗浄工程、金属バンプ材質などの様々な要因により実強度が変化するため、各々の場合について実験データを取得する必要がある。従来では、これらを実現する現実的かつ実用的な強度の予測式が提案されていない。このため、現状では、超音波接合で実際に接合した接合部の剪断強度値が、要求特性を満たしている状態の判断は、経験的な実績との比較より行うようにしており、正確な状態が把握できていない。
【0007】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、超音波接合における接合強度がより正確に予測できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る超音波接合強度の予測方法は、実装対象のチップに設けられたバンプに超音波を印加してバンプをチップが実装される基板の接続端子に接続してチップを基板に実装したときのバンプと接続端子との接合強度を予測する超音波接合強度の予測方法であって、先ず、以下の式(1)を用い、常温におけるバンプの降伏応力σy及び予め得られている常数α1,α2,α3,・・・をもとに、常温より温度Tを加えたときのバンプの降伏応力である温度印加時降伏応力σyTを求める。次に、以下の式(2)を用い、温度印加時降伏応力σyT及び予め得られている常数β1,β2,β3,・・・をもとに、所定の状態量δの超音波をバンプに与えたときのバンプ降伏応力である超音波印加時降伏応力σyUSを求める。次に、以下の式(3)を用い、超音波印加時降伏応力σyUS,予め測定されている初期状態のバンプの高さh0,初期状態のバンプの等価的な径D0,及びバンプと接合される接続端子との間の摩擦係数μをもとに、荷重Fにおける超音波接合により変形した後のバンプの高さである接合バンプ高さhを求める。次に、以下の式(4)を用い、高さh0,径D0,及び接合バンプ高さhをもとに、接合した状態におけるバンプと端子との接合面積Sを求める。次に、以下の式(5)を用い、接合面積S,降伏応力σy,及び予め得られている常数φをもとに接合強度予測値fを求める。上記状態量δは、例えば、超音波の振幅又は超音波の出力のいずれかである。
【0009】
【数1】

【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、本発明によれば、上記式(1),式(2),式(3),式(4),及び式(5)により超音波接合強度を求める(推定する)ようにしたので、超音波接合における接合強度がより正確に予測できるようになるという優れた効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。本発明では、超音波接合により接合されたバンプの接合(剪断)強度予測値fを、超音波接合に用いられるバンプの材料により決定される常数α1,α2,α3,・・・及び常数β1,β2,β3,・・・と、接合において加えられる荷重Fと、バンプと接合される接続端子との間の摩擦係数を示す常数μと、接合前の初期状態のバンプ高さh0と、接合前の初期状態のバンプの等価的な径D0と、バンプの材料の常温(25℃)における降伏応力(実効降伏応力)σyと、常数φとを用い、以下の式(1),式(2),式(3),式(4),及び式(5)により求めるようにした。
【0012】
【数2】

【0013】
以下、本発明の実施の形態における超音波接合強度の予測方法を実施するための超音波接合強度予測装置について説明すると、図1の構成図に示すように、先ず、式(1)を用い、常温(25℃)における降伏応力σy及び予め得られている常数α1,α2,α3,・・・をもとに、常温より温度Tを加えた場合のバンプ材料の降伏応力である温度印加時降伏応力σyTを求める温度条件設定部101を備える。
【0014】
また、本装置は、式(2)を用い、温度印加時降伏応力σyT及び予め得られている常数β1,β2,β3,・・・をもとに、ヘッド振幅(μm)の超音波振動を与えた場合の超音波印加時降伏応力σyUSを求める超音波条件設定部102を備える。また、本装置は、式(3)を用い、超音波印加時降伏応力σyUS,予め測定されている初期状態のバンプ高さh0,初期状態のバンプ径D0,及びバンプと接合される接続端子との間の摩擦係数μをもとに、荷重Fを加えつつ超音波接合により変形した後の接合バンプ高さhを求める変形バンプ高さ算出部103を備える。
【0015】
また、本装置は、式(4)を用い、初期状態のバンプ高さh0,予め測定されている初期状態のバンプ径D0,及び接合バンプ高さhをもとに、接合した状態におけるバンプの接合面積Sを求める接合面積算出部104を備える。加えて、本装置は、式(5)を用い、接合面積S及び予め得られている降伏応力σy,常数φをもとに接合強度予測値fを求める接合強度予測部105を備える。なお、本装置により高さを測定する必要はなく、本装置と高さ測定装置とは一体である必要はない。
【0016】
次に、上述した超音波接合強度予測装置による超音波接合強度の予測について、図2のフローチャートを用いて説明する。なお、常数α1,α2,α3,・・・及び常数β1,β2,β3,・・・や、バンプの各寸法及びバンプの実効降伏応力σyなどは、以降に説明するように、同種のバンプを使用した実験により、予め求めておく。
【0017】
このように各常数が予め得られている状態で、先ず、ステップS201で、温度条件設定部101が、式(1)を用い、常温(25℃)における降伏応力σy及び予め得られている常数α1,α2,α3,・・・をもとに、常温より温度Tを加えた場合の温度印加時降伏応力σyTを求める。
【0018】
次に、ステップS202で、超音波条件設定部102が、式(2)を用い、温度条件設定部101により求められた温度印加時降伏応力σyT及び予め得られている常数β1,β2,β3,・・・をもとに、ヘッド振幅(μm)で与えられる状態量δの超音波振動を与えた場合の超音波印加時降伏応力σyUSを求める。
【0019】
次に、ステップS203で、変形バンプ高さ算出部103が、式(3)を用い、荷重Fと、超音波条件設定部102により求められた超音波印加時降伏応力σyUS,予め測定されている初期状態のバンプ高さh0,初期状態のバンプ径D0,及びバンプと接合される接続端子との間の摩擦係数μをもとに、超音波接合により変形した後の接合バンプ高さhを求める。
【0020】
次に、ステップS204で、接合面積算出部104が、式(4)を用い、初期状態のバンプ高さh0,予め測定されている初期状態のバンプ径D0,及び変形バンプ高さ算出部103により求められた接合バンプ高さhをもとに、接合した状態におけるバンプと接続端子との接合面積Sを求める。
【0021】
最後に、ステップS205で、接合強度予測部105が、式(5)を用い、接合面積算出部104により求められた接合面積S及び予め得られている降伏応力σy,常数φをもとに接合強度予測値fを求める。
【0022】
なお、上述した本実施の形態に係る超音波接合強度の予測方法は、上記各ステップの手順をプログラムとしてコンピュータにより処理させることで実施できる。例えば、演算処理部と、主記憶部と、外部記憶部と、入力部と、表示部と、プリンターとを備えたコンピュータを用いればよい。このコンピュータにおいて、例えば、磁気記録装置である外部記憶部に、上述した第1〜第5ステップを少なくとも備えたプログラムなどが記憶されている。
【0023】
このように外部記憶部に記憶されているプログラムが、演算処理部により主記憶部に展開して実行され、この実行の結果が表示部にリアルタイムに表示され、また、プリンターにより印刷出力される。また、処理結果は、外部記憶部に記憶される。また、演算処理に必要な常数などの情報(データ)は、操作者の操作により入力部より入力され、主記憶部に一時記憶され、また、外部記憶部に記憶される。これらの記憶された常数などのデータを用い、主記憶部に展開されたプログラムを実行することで、演算処理部は、接合強度予測値fを算出する。
【0024】
ここで、超音波接合について簡単に説明する。超音波接合は、例えば図3の構成図に例示する接合装置により行う。図3に示す接合装置を説明すると、本装置は、超音波ヘッド305と、回路基板303が載置されるホットプレート307を備えたステージ310と、振幅制御型の超音波発生部308と、加熱温度設定部309とを備える。また、超音波ヘッド305は、実装(接合)対象の半導体チップ301を吸着する吸着ノズル351と、加熱部352と、超音波振動伝達部353とを備える。また、超音波ヘッド305を介して半導体チップ301に対して荷重を印加する荷重印加部306を備える。なお、半導体チップ301は、電極に形成された金バンプ302を備え、回路基板303は、金バンプ302が接続(接合)される接続端子304を備えている。ここで、金バンプ302は、めっきによるバンプでもワイヤボンダによるバンプでもよい。また、接続端子304の表面には金めっきを施すことが必要である。
【0025】
超音波ヘッド305において、半導体チップ301を保持する吸着ノズル351は、超音波発生部308から超音波振動伝達部353を経由して超音波振動する構造となっている。また、超音波ヘッド305に設けられている加熱部352は、超音波振動に悪影響を与えないような取り付け方法と質量とを備えた構造となっている。例えば、ペルチェ素子を超音波振動伝達部353と吸着ノズル351の中間に耐熱性接着剤で固定する方法を用いることができる。ここで、加熱方式は単純な常時加熱方式でもよく、また、パルスヒート方式でもよい。
【0026】
この接合装置の動作について簡単に説明すると、先ず、図示しない別途設けた入力装置から加熱温度設定部309に対し、回路基板303の熱膨張率と回路基板303の加熱温度t2及び半導体チップ301の熱膨張率を入力する。続いて、回路基板303をホットプレート307の上に載置し、加熱温度設定部309からの設定のもとにホットプレート307を加熱し、回路基板303を加熱する。続いて、吸着ノズル351で半導体チップ301を吸着保持し、回路基板303の半導体チップ実装位置に位置合わせして載置する。
【0027】
次に、荷重印加部306により、超音波ヘッド305を介して半導体チップ301に所定の荷重を印加する。この後、加熱温度設定部309からの設定のもとに超音波ヘッド305に備えた加熱部352を所定温度に加熱し、超音波発生部308で超音波を発生させ、超音波振動伝達部353を介して吸着ノズル351に超音波を伝達し、吸着ノズル351に超音波振動を与えて吸着保持されている半導体チップ301を振動させる。例えば、半導体チップ301を、図3の紙面の左右方向(水平方向)に振動させる。このことにより、金バンプ302と接続端子304間に相対的な振動を加えて半導体チップ301を回路基板303に超音波接合させる。
【0028】
以下、前述したバンプ材料の温度印加時降伏応力σyT、超音波印加時降伏応力σyUS、変形した後の接合バンプ高さh、及びバンプの接合面積Sの算出と、これらによる接合強度予測値fの算出について、より詳細に説明する。なお、本実施の形態では、主に金バンプを例に説明するが、これに限るものではなく、他の金属からなるバンプについても同様である。
【0029】
[1.0] 円柱の圧縮変形における基本理論式
前述した式(1)〜(5)による圧縮変形モデル(特に式(3))では、鍛造加工に必要な荷重を理論推定する際に用いられるスラブ法を用いている。この方法は、変形領域を板状微小要素(slab)に分割し、分割した要素に対して垂直に作用する応力を主応力として力の釣り合い条件と降伏条件を連立して解くものである。また、接続技術への応用としてバンプ又は粒子の変形を解析することを目的としているため、具体的には「円柱の圧縮変形」として、非特許文献1に詳細な記述のある「平面ひずみのすべり変形解析」より得られた式を使用する。本モデル式の概要は以下のとおりである。
【0030】
例えば、図4(a)及び図4(b)の斜視図に示すような構成とされた微小要素の場合、半径方向の力、円周方向からの力、上下面から圧縮圧力pを加えられた面における摩擦(摩擦係数μ)で釣り合っており、さらにミーゼス降伏条件を用いて連立して整理すると式(6)が得られる。
【0031】
【数3】

【0032】
これを積分して境界条件(rがバンプ半径aとなる場所でσr=0)を用いて整理し、1軸引張方向の降伏応力σy とすれば、半径方向の位置に対する圧力pの分布式となる式(7)が得られる。
【0033】
【数4】

【0034】
さらに、圧縮面全体の平均的な圧力Pは、半径方向に圧力分布を積分したものを面積で割ればよいので、以下の式(8)が得られる。この圧力Pは、変形状態における接続界面の平均圧力を意味するので、降伏圧力σyieldと表すことにする。
【0035】
【数5】

【0036】
式(8)に示すように、圧縮変形における降伏圧力(荷重と面積)及び高さの関係を、摩擦係数と降伏応力という一般的に用いられている材料物性を使って表すことで汎用化できる。逆に言えば、材料物性として広く知られる1軸引張方向の降伏応力を、実際の使用状態の応力方向における降伏点に変換(換算)したものが、式(8)で表す降伏圧力であると言える。このような、応力方向を変換して基準となる応力を推定する解析手法は、自動車用など応力が加わる構造部品における解析(非特許文献2参照)などでは良く用いられているが、接合技術に適用して紹介される例は少ない。
【0037】
[2.0]円柱型バンプの変形挙動
フリップチップ接続(FCB;Flip Chip Bonding)に良く用いられるめっきバンプは角柱型であるが、これを図5に示すような円柱形状のバンプ501とし、バンプ501の径を高さ及び断面積が等しい等価径Dとして定義すれば、式(8)は次の式(9)で示されるものとなる。なお、等価径とは、高さがhである円柱と角柱とにおいて、圧縮方向に垂直な断面の面積が、角柱に等しい円柱の径を示すものである。角柱の横幅をW,奥行きをLとし、円柱の直径をD0とすると「π(D0/2)2=L・W→D0=2(L・W/π)1/2」のようにして求めることができる。
【0038】
【数6】

【0039】
次に、荷重を加えてバンプ変形が進行している過程において、体積Vは常に一定であるから、変形面積S,及びバンプ径Dとバンプ高さhは、以下の式(10)の関係式が得られる。ここで、S0は変形開始時の面積、D0は変形開始時の初期バンプ径、h0は変形開始時の初期高さである。従って、接合面積が、この変形面積Sと等しいと仮定すれば、バンプ高さhより接合面積を求めることができる。
【0040】
【数7】

【0041】
この式(10)を式(9)に代入して整理すると、以下の式(11)が得られる。
【0042】
【数8】

【0043】
従って、材料の1軸引張の降伏応力σyと摩擦係数μ及び変形前の寸法がわかれば、バンプ高さが変化(減少)していく際の降伏圧力σyieldを求めることができる。
【0044】
図6は、式(11)の具体的計算例として、変形前に径60μm、高さ60μmのめっきバンプが圧縮変形して高さが減少していく場合における降伏比を示したものである。これによれば、一般的な摩擦係数としてμ=0.5前後と見込めば、バンプ高さが半分程度となる30μmまでは、変形に必要な降伏圧力が降伏応力の1.2から1.7倍程度へ僅かに上昇する程度だが、初期高さの1/3程度となる20μmまで変形させると変形抵抗が著しく増し、降伏応力の3倍程度の降伏圧力を必要とすることがわかる。すなわち、十分に変形が行える荷重で加圧しても、バンプ変形が進むにつれて変形抵抗が大きくなり、いずれは変形が止まるということが示されている。
【0045】
次に、降伏圧力σyieldは、荷重Fと変形面積S(マクロ的な接触面積)との比であるから、以下に示す式(12)と表せる。従って、式(10)、式(11)より以下の式(13)が得られる。つまり、初期形状(初期バンプ径D0と初期高さh0)が与えられれば、バンプ変形に必要な荷重Fは、材料物性(降伏応力と摩擦係数)を用いてバンプ高さhを変数として一義的に表すことができる。逆に、式(13)の逆関数を用いれば、荷重Fから高さhが求まり、これによって変形面積(マクロ的な接触面積)Sも計算(推定)できる。
【0046】
【数9】

【0047】
ただし、過去に評価データのないバンプ材料に対して本モデル式を用いて荷重Fと高さhの実験データを整理する場合には、降伏応力σyと摩擦係数μとの2つ常数が未知数となる。上記式より明らかなように、1組みのみの荷重と高さのデータから、一義的に摩擦係数μと降伏応力σyの2常数を特定することはできない。しかし、式(13)よりわかるとおり、荷重Fを横軸、高さhを縦軸として図示するとすれば、降伏応力σyは縦軸方向の位置を決め、摩擦係数μは曲線の曲率を決めている。従って、荷重範囲を広く変更した多くの水準の実験データを取得すれば、最小二乗法などによって摩擦係数μと降伏応力σyの各々について最適な値を導き出すことができる(以下の[6.0]項参照)。
【0048】
なお、十分に荷重範囲の広いデータが得られない場合には、実測プロットの曲率を考慮しつつ摩擦係数をある値に仮定しておき、残された未知数である降伏応力は実測プロットの位置から近似計算に比較的合う値を推定すればよい。一般的に、大気中の摩擦係数は幅広い値ではなく、金同士は2.0以上とやや高めではあるものの、他の金属同士では概ね0.3〜0.8程度の範囲となっており(非特許文献3参照)、これから類推すれば、金と他金属又は酸化物間は他金属同士の場合もこの範囲にあると考えてよい。
【0049】
実際の金めっきバンプ変形に関して、植田らが実験的に得た荷重とバンプ高さ変化量の相関関係に関する実験データ(非特許文献4参照)を本モデル式で解析すると、図7(プロットが実験値、曲線が本数式モデル)に示すとおり、摩擦係数0.4とした場合の降伏応力が212MPaと、ほぼ妥当な結果となる。なお、212MPaは、ビッカース硬度Hv65に相当している(Hv≒3.0σyとする)(非特許文献5参照)。
【0050】
従って、ここで用いたスラブ法を基本とする本モデルによって、実験値から降伏応力σyが概算推定でき、これを元に同等なバンプの変形挙動を数式化できることがわかる。
【0051】
なお、図7において、荷重1.0Nの条件では、計算上は降伏条件に達していないため変形が開始する荷重ではないが、実際のバンプでは表面凹凸範囲に相当する程度の僅かな変形は低荷重から開始することを示唆しているものと考えられる。
【0052】
また、図7では、Δh(バンプ高さ変化量)と荷重Fの関係を示したが、初期バンプ高さ25μm、径79μm、硬度65Hv、摩擦係数0.4として、荷重とバンプ高さの関係を数値計算によって示すと、図8及び図9に示すとおりとなり、正確には非線形ではあるが、荷重範囲が狭ければ実験的にはバンプ高さhは荷重の逆対数ln(1/F)にほぼ比例することが予測される。
【0053】
[3.0]ワイヤバンプの変形挙動
ワイヤボンディング法によるワイヤバンプは、トーチによってワイヤを溶断した後、ワイヤ端に再凝固時に形成された球状部分をキャピラリで圧縮変形させ、かつ球状部分につながるワイヤを引き千切りによって切断した形状が基本形状となる。この形状は、図10の電子顕微鏡写真に示すとおり、主に3段構成であり、以下では先端(上端)から数えて1段目,2段目,3段目と呼ぶ。なお、1段目は、動物の尾に例えて「テール」、3段目は最下部であるため「台座」と呼ばれることもある。
【0054】
この変形挙動を解析するには、円錐状(あるいは各種形状を複合)の近似モデルを考えなければならないが、以下では、便宜的に円柱形状が積み重なったものとして[1.0]項で示したモデル式を適用した場合について示す。
【0055】
図10に示すようなワイヤバンプを、接合装置などで圧縮変形させて接合する場合には、先端部分は実装段階初期でレベリングされて平坦となることから、図11(a)に示す形状を図11(b)に示すような3段構成の円柱を初期形状と仮定する。また、変形においては、図11(c)に示すように、1段目が変形して高さが圧縮され、これに伴い1段目の変形に相当するだけ1段目の径が増加し、2段目の径と等しくなった段階で1段目の変形後の高さと2段目の高さの和として新たに2段目の寸法を設定する(図11(d))。このように順次変形していくことで、円柱が積み重なった形状における圧縮変形挙動を近似する。この変形を、以下では「逐次変形モデル」と呼ぶ。
【0056】
このような逐次変形モデルを仮定することで、各段の変形は、めっきバンプと同様な変形として計算できる。実際に、図11(b)〜図11(d)に示すように変形状態が近似できるワイヤバンプに対し、接合装置を用いてヘッド温度を常温、200℃、350℃の各温度帯で圧縮変形させ、圧縮変形させたバンプ高さを測定して本モデル式で整理すると図12(a),図12(b)に示すとおりとなる。この場合の金バンプ物性は、各温度帯で、各々実効降伏応力170,121,73MPa、摩擦係数0.8とすることで、実験値を理論予測することが可能となる。なお、本実験の荷重範囲では、2段目のみの計算(図12(b))で表すことができ、荷重の逆対数に対して直線に近い緩やかな曲率の曲線となる。
【0057】
また、ここで予測した実効降伏応力σyについて、常温を基準に比率ψで表し、温度を横軸にとって整理すると、図13(a)に示すとおり、ほぼ直線に近い緩やかな曲線となる。なお、この減少傾向は図13(b)に示す非特許文献6に示される降伏応力の温度依存性(常温と350℃における降伏応力が、各々99、83MPa)よりも急激であることがわかる。通常、文献値等で用いられる物性が、アニール処理されて安定化したものを測定に使うのに対し、本実験で用いた材料は、延伸されたワイヤをさらにバンプ形成時に圧縮及び引き千切りで切断された加工歪みの多いものである。すなわち、元々常温では加工歪みの影響で、降伏応力が高い状態にあるものが、加熱を加えることによって本来の物性に近づくアニール効果が生じているものと考えられる。
【0058】
図13(a)に示すように得られた実効降伏応力σyの温度依存性は、便宜的に超音波ヘッドの常温からの温度差をT、この温度のときの温度印加時降伏応力σyTは、以下の式(14)に示す2次の近似式で表すことができる。
【0059】
【数10】

【0060】
この温度依存性は、バンプ材料や加工履歴によって異なると考えられるため、一般的には、以下の式(15)に示す多項近似式で表すことができるものと考えられる。この式(15)が、前述した式(1)である。ここで、α1、α2、α3・・・は常数、σyは常温におけるバンプの実効降伏応力である。従って、同種のバンプを使用した実験により、予め常数α1、α2、α3・・・を求めておけば、実効降伏応力σyから温度印加時降伏応力σyTを推定する(求める)ことができる。
【0061】
【数11】

【0062】
なお、上述の評価は、金ワイヤバンプをビルドアップ基板(FC−BGA型専用評価基板)のパターン上で圧縮変形させたものであるが、ヘッド温度350℃のデータが他と異なり、荷重が増加しても変形が進まないことがわかる。これは、温度上昇によって基板材料が軟化し荷重印加時に銅箔が樹脂中に沈み込んでいるがため、本モデル式どおりに変形が進んでいないものと考えられる。このように、本モデル式によってバンプ変形寸法を予測することによって、この予測から外れた場合の他因子の影響性を評価することにも応用できる。
【0063】
[4.0]超音波接合におけるバンプ変形挙動
超音波接合では、ヘッドはチップ裏面から基板に向けて圧縮方向に荷重を加えつつチップ面に水平な超音波振動を加えるが、この超音波振動によって金バンプの変形抵抗が低下して変形し易くなる「Blaha」効果と呼ばれる現象が生じる。これは、振動によって塑性変形時の金属結晶内の転位におけるポテンシャル障壁を下げる効果といわれている。ただし、チップに水平方向の振動を加えてもバンプ内部の応力方向は複雑であり、縦方向の圧縮応力成分も生じることを考慮すれば、実質的には接合装置が静的に加える荷重に加味して超音波振動による応力が加わっているため、上述した変形が進むと考えることができる。
【0064】
これを式(13)で表現するためには、超音波振動による縦方向の圧縮応力を接合装置が加える圧縮応力に加えて荷重Fを見積もればよいが、超音波振動による圧縮応力を計算することは実質的に困難であるため、式(13)の荷重Fは接合装置が加える荷重のみとし、実効降伏応力σyが見かけ上で低下すると考えれば、[1.0],[3.0]項で示した近似計算を適用できる。
【0065】
そこで[3.0]項で示した実験と同様に,今度はヘッド温度200℃(ステージ温度76℃)で超音波をヘッド振幅で0,1,2,3μmと変えて印加して圧縮変形させ、変形させたバンプ高さを測定して式(13)の数式モデルで整理し、ヘッド振幅毎に降伏応力を推定する。なお、摩擦係数μは、[3.0]項で示した実験と同様に0.8と仮定している。
【0066】
状態量δを横軸にとりヘッド振幅毎の実効降伏応力を整理すると、図14に示すとおりとなり、このときの超音波印加時降伏応力σyUSは、状態量δが増加するに従って減少し、図13(a)と似たほぼ直線に近い緩やかな曲線となる。具体的には、振幅3μmを荷重と共に印加すると、荷重のみを加えて圧縮変形させた場合の2倍の変形面積が得られることを示している。
【0067】
この振幅依存性は、以下の式(16)に示す2次の近似式で表すことができる。
【0068】
【数12】

【0069】
従って、[3.0]項において温度上昇に伴って実効降伏応力が減少することを多項近似式で表したことと同様に一般的には、以下の式(17)で表すことができると考えられる。ここで、β1、β2、β3・・・は常数、σyTは式(15)で示したヘッド温度Tとした場合の超音波を加えていない場合の降伏応力を示す温度印加時降伏応力である。従って、同種のバンプを使用した実験により、予め常数β1、β2、β3・・・を求めておけば、式(15)より推定した温度印加時降伏応力σyTから温度印加時降伏応力σyTを求める(推定する)ことができる。
【0070】
【数13】

【0071】
また、式(17)のように表すことで、超音波出力(ヘッド振幅)とヘッド温度を同様に扱うことができる。例えば、図13(a)で得た実効降伏応力の温度依存性は10℃当たり概ね−2.8MPaであり、図14より、ヘッド振幅依存性は1μm当たり概ね−20MPaである。これは、例えば130℃,2μmと、200℃,1μmのバンプ変形量は、同じであることを意味する。すなわち、バンプ変形量を基準にすれば、ヘッド振幅1μmの増加は温度換算で約70℃弱の温度上昇に相当する「超音波出力と温度の等価性」を定量的に表すことができる。なお、上述では、印加する超音波の指標となる状態量δとして、印加する超音波の振幅(ヘッド振幅)を用いるようにしたが、これに限るものではなく、状態量δとして、超音波ヘッドに印加する電力(出力W)を用いるようにしても同様である。
【0072】
[5.0]接合剪断強度の予測法
接合条件を評価する際は、理想的な接合状態における強度と比較することで、設定した接合条件が適切か否かの判断を行うことが必要になる。
【0073】
界面活性化による常温接合又は超音波接合など、界面における凝着現象を利用した接合における理想的な接合条件下では、接合界面の破断応力は、金属バンプ自体の同破断応力に等しいかやや小さい値を示す。この原因の一つとして、先ず、超音波の印加などの界面活性化による常温接合では、凝着による強度自体がバルク強度よりも強くなるため、全面密着状態を強制破断させると界面近傍のバルク側で破断することが挙げられる。また、超音波接合の場合には、接合初期では界面の摺動と新生面形成によって接合が進み強度が増加するが、金属バンプ自体の強度に達した時点で界面の摺動が止まり、これより先は、金属バンプあるいは被接合体の弾塑性変形が優勢となり、強度増加の要因となる新生面形成が発生しないため、結果としてバルク強度とほぼ同等な値を示すものと考えられる。
【0074】
従って、理想的な接合状態の剪断強度は、金属バンプの剪断方向の降伏応力τと接合面積Sによって計算することができる。すなわち、本発明における圧縮変形モデルを用いることで、降伏応力σyと接合面積Sを計算できるため、以下に示す手順により、接合条件として設定する荷重・温度・超音波出力から、理論強度である剪断強度f(バンプの接合強度予測値f)を推定することができる。
【0075】
引張方向で定義される実効降伏応力σyと剪断方向の降伏応力τは、一般的な材料力学理論から以下の式(18)の関係にあることが知られている(非特許文献7参照)。すなわち、剪断降伏は引張降伏の0.50〜0.58倍で生じる。
【0076】
【数14】

【0077】
また、剪断方向の降伏応力τについても、式(12)と同様に、剪断強度fと接合面積Sから式(19)で表される。なお、降伏応力τは平均的な剪断応力として扱う。従って、剪断強度fは、以下の式(20)で表される。なお、この場合の実効降伏応力σyは強度試験の環境温度(通常は常温;25℃程度)における値を用いる。
【0078】
【数15】

【0079】
ただし、式(19)は、加工硬化の生じない場合に用いられるもので、圧縮変形では完全塑性と仮定したが、破断に至る応力を考えた場合には図15で示すような加工硬化による応力増加を無視できない。従って、現実的には破断応力(最大強さ)と降伏応力との比として常数θを用い、式(19)、(20)を、各々以下の式(21)、(22)と書き改めることにする。この式(22)の右辺の降伏応力(実効降伏応力)σy及び接合面積S以外を常数φとした式が、前述の式(5)である。
【0080】
【数16】

【0081】
なお、本来、常数θは、剪断方向の強度試験によって求めておくことが望ましいが、材料物性として一般的に用いられている引張方向の応力−ひずみ曲線から類推しても大きな違いは見られないとすれば、例えば、金ワイヤバンプの場合には、図15に示す応力−歪み曲線より約1.4(破断応力は降伏応力の40%増)となる。従って、この場合の式(22)は、最大強度を推定する目的で使う場合には式(23)となり、剪断方向の降伏応力τは、実効降伏応力σyの80%程度と見込めばよいことになる。
【0082】
【数17】

【0083】
実際に、[3.0]項の図12(a),図12(b)で結果を示した実験において、ワイヤバンプの常温における実効降伏応力が170MPaである結果を得ているが、これより強度を推定すると140MPa程度となり、超音波接合を行った場合に得られる単位面積当たりの剪断強度(バルク破断)100〜150MPaとほぼ一致する。なお、バンプ当たりの具体的な剪断強度についても、荷重・温度・超音波出力の各接合条件を変えた場合の接合面積Sを[1.0]〜[4.0]項に示した圧縮変形モデルから計算することで推定できる。
【0084】
[6.0]マイクロボールの変形挙動
マイクロボール(球形粒子)の変形挙動についても、変形過程においては円柱型に近似できる。円柱の場合には変形面積が増加し、高さが減少する相関を体積一定の関係から単純な式(10)で表すことができた。しかし、初期形状が球の場合には、変形面積と高さの関係を与える式を仮定する必要がある。
【0085】
ここで、発明者は、1軸圧縮における球体の変形において、図16(a),図16(b),図16(c)に示すとおり、変形部の外周円をバンプ中心からの半径rとして表した場合に、この径がバンプ全体の曲率半径にほぼ等しいものと考えた。つまり、バンプ表面は、常に同じ曲率半径rの中心を持つ(曲率半径自体はバンプ変形とともに増加する)ことを意味するから式(24)に示すh、r、dの相関式が得られる。
【0086】
【数18】

【0087】
また、変形前の体積V1と変形後の体積V2とは等しいから、式(24)を用いて整理すると、以下の式(25)が得られ、変形部半径dを初期ボール径D、変形後高さhのみで表すことができる。すなわち、変形面積はdより求めることができるから、高さhより変形面積(接合面積)Sを求めることができる。
【0088】
【数19】

【0089】
また、変形過程の降伏圧力σyieldは、荷重Fと変形面積S(マクロ的な接触面積)との比(式(12)参照)なので、式(9)を書き改めた式(26)に式(25)を代入して整理すると式(27)が得られる。
【0090】
【数20】

【0091】
このように、マイクロボールの場合も、材料物性(実効降伏応力と摩擦係数)を仮定すれば、変形に必要な荷重Fはボール高さhを変数として、初期ボール径Dが与えられれば一義的に表すことができる。また、[2.0]項に示したとおり、逆関数として荷重Fからボール高さh、変形面積Sを計算できる。
【0092】
ところで、2個の未知数(常数)である摩擦係数μと実効降伏応力σyの特定について、[2.0]項及び[3.0]項で示した実験例では、変形範囲が狭くデータ数が少ないことより、実測プロットの曲率を考慮しつつ摩擦係数をある値に仮定しておき、残された未知数である実効降伏応力は実測プロットの位置から近似計算に合う値を推定した。しかし、変形範囲を広くとれるデータが取得できる場合には、以下に示すように、2段階の最小二乗法によって、より確度の高い常数の推定が可能となる。
【0093】
先ず、ある任意の実効降伏応力σy(i)を仮定し、次に、摩擦係数μを0.3〜0.8程度の範囲の中で順次変えて荷重F毎の高さの計算値hμを求め、実験における各荷重水準毎に高さの実測値hと計算値hμとの差を二乗したもの求め、この総和が最小となる摩擦係数μを特定する。次に、特定した摩擦係数μを用い、実効降伏応力σyを予想される範囲で順次変えて計算値hμを求め、同様な最小二乗法により実効降伏応力σy(i)を特定する。これにより、摩擦係数の最適値が若干変動する場合には、上記を繰り返して微調して最適な、摩擦係数μと実効降伏応力σyとの2つ常数を決定する。
【0094】
この一例として、直径が200μmの金ボールを圧縮変形させて高さを測定し、荷重との相関を式(27)によって表し、実測値と摩擦係数μ及び実効降伏応力σyとの関係を求めると、数回の微調の末、結果的には図17に示すとおりとなる。この結果より、摩擦係数μは0.45、実効降伏応力σyは120MPaが、最小二乗法における最も適切な値として得られる。
【0095】
このようにして得られた常数に基づき、荷重Fと高さhの関係を表すと、図18に示すとおりとなり、図中白丸のプロットで示す実験値と、図中実線で示す式(27)による近似曲線(変形モデル曲線)とが、非常に良く一致する。
【0096】
また、初期ボール径Dと変形後の高さh又は変形部径dとの比を、各々圧縮率P、扁平率Bとした以下に示す式(28)、式(29)として定義して無次元化し、荷重との関係について近似計算結果と実験値を比較すると、図19に示すとおりとなる。図19からわかるとおり、扁平率が1以上、すなわち変形部径が初期ボール径以上になるためには、材料物性や大きさに係わらず圧縮率を0.55以下にすることが必要となる。つまり、接合部材にマイクロボールを使用した場合、導電路となる接合面積を使用するマイクロボール径以上にするためには、マイクロボールの径が初期の半分以下になるまで押しつぶせばよいことが分かる。
【0097】
なお、摩擦係数を前述のような最小二乗法を用いて求める場合には、変形範囲を広く採り、曲線の曲率に差が出やすいデータを得る必要があるが、図19からわかるとおり圧縮率0.4付近で曲線の接線に大きな変化が生じるため、この点を中心とする圧縮率0.75〜0.25において少なくとも3点以上、望ましくは計5点以上のデータを取得することが必要であることがわかる。
【0098】
【数21】

【0099】
なお、本モデルの基本式となる式(8)は公知の近似式であるが、マイクロボールの変形挙動を表すために用いた式(24)は、発明者が独自に仮定したものであるため、実験値と比較してこの妥当性を検証する。この検証は、上記実験において高さとともに圧縮変形部径d及び最外径2rを実測し、これと式(25)及び式(24)より得られる近似値を比較することにより行う。この結果、図20に示す圧縮による変形部径近似値dについては、変形初期においては実測値とのズレが大きいが、変形の進行とともに近似値に近づき実際の接合に用いられるようなアスペクト比0.5〜0.2程度の範囲では、実験値により近い値を与えることがわかる。また、図21に示す最外径2近似値rについては、実測した全領域で近似値とよい一致を示していることがわかる。
【0100】
なお、図20における変形初期における実験値との差については、図21がよい一致を示していることから、変形量が小さい場合には、弾性変形や局部変形の影響を受けており、実際の塑性変形面積が小さいことが示唆される。しかし、変形初期において高さに関する近似に多少の差異があったとしても、変形初期においては降伏圧力比の変化は少ない。つまり、高さに多少の誤差が生じても、変形抵抗に及ぼす影響が少ないため、図17で示すような荷重と高さの関係として表せば、近似値と実験値は良く一致したものになるものと考えられる。従って、実際の接合における圧縮変形量を予測する上では、十分な計算精度であると言える。
【0101】
また、前述したように、バンプ当たりの具体的な剪断強度については、荷重・温度・超音波出力の各接合条件を変えた場合の接合面積Sを[1.0]〜[4.0]項に示した圧縮変形モデルから計算することで推定できるが、マイクロボールの場合についても同様である。例えば、図17に示したように、直径200μmの金マイクロボールの圧縮変形挙動から界面において強固な凝着が行われていると仮定した理想的な接合剪断強度fは、接合時の荷重Fに対して図22に示すとおりに推定することができる。なお、ここでは、常温における圧着のみによる常温接合を行った場合の式(23)による最大強度の推定値として計算しており、常温の実効降伏応力σyは実験より得られた120MPaを用いている。
【0102】
ところで、本発明における圧縮変形モデルを用いれば、従来では直接測定が困難であった微小金属球形粒子の硬さを、実効降伏応力として測定することに応用可能である。近年では、BGA(Ball Grid Array)や、フリップチップ及びフレキシブル基板端子接続(FOB;Flex On Board)などの電子部品の接続では、微細な導電粒子を介して電極間の電気的な接続を取る技術が開発されている。この技術でも、金属微粒子の降伏応力の把握が重要となる。
【0103】
従来の材料試験法は、引張試験によって降伏応力や破断強度が求められてきたが、微小球形粒子に対しては直接的に物性を測定することが困難であり、加工前の金属材料の物性値から加工後の物性を予測することが行われてきた。また、比較的粒子径の大きなものであれば、ビッカース法など測定法により、圧子を押し込みこの打痕跡の大きさで硬度を測定し、測定した硬度と降伏応力との換算式を元に、硬さを推定することができる。しかし、表面形状が曲面でしかも微小径の場合は、圧子で打痕を付ける大きさに限界がり、また微小圧子によるマイクロビッカース法を使ったとしても、押し込み深さが浅く表面の情報しか得られないという問題があった。
【0104】
接合分野においては、デバイスの小型化・狭ピッチ化に伴い接続材料微小化が進んでおり、使用材料物性の直接測定は重要な課題となっている。微小材料に対して直接的に試験が行える「圧縮試験法」自体は以前からも用いられてはいたが、変形荷重と高さ、降伏応力との相関が明らかになっておらず、これまでは、専らある一定の圧縮率にまで変形させるために必要な荷重をサイズ毎に比較する方法が採られていた。
【0105】
この圧縮試験法において、本発明に係る上述した実施の形態の式(3)による圧縮変形モデルを適用することで、実際の接合状態に近い試験方法で材料の降伏応力を推定することが可能であり、接合技術のみならず各種力学的シミュレーションなどの理論予測に役立てることができると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】本発明の実施の形態における超音波接合強度の予測方法を実施するための超音波接合強度予測装置の構成を示す構成図である。
【図2】超音波接合強度の予測方法について説明するフローチャートである。
【図3】超音波接合を実施するための接合装置の構成例を示す構成図である。
【図4】微小要素の構成例を示す斜視図である。
【図5】推定において定義されるバンプ形状を示す構成図である。
【図6】変形前に径60μm、高さ60μmのめっきバンプが圧縮変形して高さが減少していく場合における降伏比を示した特性図である。
【図7】非特許文献4に記載されている実験データを本モデル式で解析した結果を示す特性図である。
【図8】初期バンプ高さ25μm、径79μm、硬度65Hv、摩擦係数0.4として、荷重とバンプ高さの関係を示す特性図である。
【図9】初期バンプ高さ25μm、径79μm、硬度65Hv、摩擦係数0.4として、荷重とバンプ高さの関係を示す特性図である。
【図10】ワイヤボンディング法によるワイヤバンプの形状を電子顕微鏡で観察した結果を示す写真である。
【図11】図10に示すワイヤバンプを接合装置などで圧縮変形させて接合する場合の変形状態を模式化した説明図である。
【図12】図11(b)〜図11(d)に示すように変形状態が近似できるワイヤバンプに対し、接合装置を用いてヘッド温度を常温、200℃、350℃の各温度帯で圧縮変形させ、圧縮変形させたバンプ高さを測定し、この結果を本発明に係る予測方法による予測結果を示す特性図である。
【図13】実効降伏応力σyについて、常温を基準に比率ψで表し、温度を横軸にとって整理した結果を示す特性図である。
【図14】状態量δを横軸にとり超音波を印加していない200℃の実効降伏応力121MPa(ψ=0.71)を基準に整理した、超音波印加時降伏応力σyUSと状態量δとの関係を示す特性図である。
【図15】金ワイヤ(99.95%Au,直径25μm)について、常温における1軸引張試験による応力−ひずみの実測値を示す特性図である。
【図16】1軸圧縮における球体の変形を模式化した説明図である。
【図17】直径が200μmの金ボールを圧縮変形させて高さを測定し、荷重との相関を式(27)によって表し、実測値と摩擦係数μ及び実効降伏応力σyとの関係を求めた結果を示す特性図である。
【図18】図17に示した結果より得られた摩擦係数μ=0.45、実効降伏応力σy=120MPaの常数に基づき、式(27)により荷重Fと高さhの関係を表した結果を示す特性図である。
【図19】初期ボール径Dと変形後の高さh×変形部径dとの比を、各々圧縮率P、扁平率Bとした以下に示す式(28)、式(29)として定義して無次元化し、荷重との関係について近似計算結果と実験値を比較した結果を示す特性図である。
【図20】実験において高さとともに圧縮変形部径d及び最外径2rを実測し、これと式(25)及び式(24)より得られる近似値を比較した結果の中で、圧縮変形部径dについて示す特性図である。
【図21】実験において高さとともに圧縮変形部径d及び最外径2rを実測し、これと式(25)及び式(24)より得られる近似値を比較した結果の中で、最外径2rについて示す特性図である。
【図22】直径200μmの金マイクロボールの圧縮変形挙動から界面において強固な凝着が行われていると仮定した理想的な接合剪断強度fを推定した結果を示す特性図である。
【符号の説明】
【0107】
101…温度条件設定部、102…超音波条件設定部、103…変形バンプ高さ算出部、104…接合面積算出部、105…接合強度予測部、301…半導体チップ、302…金バンプ、303…回路基板、304…接続端子、305…超音波ヘッド、306…荷重印加部、307…ホットプレート、308…超音波発生部、309…加熱温度設定部、310…ステージ、351…吸着ノズル、352…加熱部、353…超音波振動伝達部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実装対象のチップに設けられたバンプに超音波を印加して前記バンプを前記チップが実装される基板の接続端子に接続して前記チップを前記基板に実装したときの前記バンプと前記接続端子との接合強度を予測する超音波接合強度の予測方法であって、
以下の式(1)を用い、常温における前記バンプの降伏応力σy及び予め得られている常数α1,α2,α3,・・・をもとに、常温より温度Tを加えたときの前記バンプの降伏応力である温度印加時降伏応力σyTを求める第1ステップと、
以下の式(2)を用い、前記温度印加時降伏応力σyT及び予め得られている常数β1,β2,β3,・・・をもとに、所定の状態量δの超音波を前記バンプに与えたときの前記バンプ降伏応力である超音波印加時降伏応力σyUSを求める第2ステップと、
以下の式(3)を用い、前記超音波印加時降伏応力σyUS,予め測定されている初期状態の前記バンプの高さh0,初期状態の前記バンプの等価的な径D0,及び前記バンプと接合される前記接続端子との間の摩擦係数μをもとに、荷重Fにおける超音波接合により変形した後の前記バンプの高さである接合バンプ高さhを求める第3ステップと、
以下の式(4)を用い、前記高さh0,前記径D0,及び前記接合バンプ高さhをもとに、接合した状態におけるバンプと前記端子との接合面積Sを求める第4ステップと、
以下の式(5)を用い、前記接合面積S,前記降伏応力σy,及び予め得られている常数φをもとに接合強度予測値fを求める第5ステップと
を少なくとも備えることを特徴とする超音波接合強度の予測方法。
【数1】

【請求項2】
請求項1記載の超音波接合強度の予測方法において、
前記状態量δは、前記超音波の振幅又は前記超音波の出力のいずれかである
ことを特徴とする超音波接合強度の予測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図10】
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【図16】
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【公開番号】特開2008−108960(P2008−108960A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−291242(P2006−291242)
【出願日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【出願人】(000227836)日本アビオニクス株式会社 (197)
【Fターム(参考)】