説明

超音波診断装置

【課題】被検体の性状特性を精度よく測定することができる超音波診断装置を提供する。
【解決手段】被検体へ超音波を送信する探触子101を駆動するための駆動信号を生成する送信部102と、超音波が被検体において反射することにより得られるエコーを探触子102により受信し、得られた受信エコー信号を増幅する受信部103であって、受信エコー信号を増幅する利得を変更することができる受信部103と、受信エコー信号の最大値を記憶する記憶部110と、記憶部110に記憶された最大値に基づき、被検体の変形の周期に同期して受信部103の利得または送信部102で生成する駆動信号の少なくとも一方を調整する調整部111とを備えた超音波診断装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波診断装置に関し、特に、被検体を構成する組織の性状特性を計測する超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置は、超音波を被検体に照射し、そのエコー信号に含まれる情報を解析することにより、被検体を非侵襲的に検査する。従来から広く用いられている超音波診断装置は、エコー信号の強度を対応する画素の輝度に変換することにより、被検体の構造を断層画像として得ている。これにより、被検体の内部の構造を知ることができる。
【0003】
これに対し、近年、エコー信号の主に位相を解析することによって、被検体の組織の動きを精密に測定し、組織の歪みや弾性率、粘性率などの物理的(性状)特性を求めることが試みられている。
【0004】
特許文献1は、エコー信号の検波出力信号の振幅および位相を用い、被検体の瞬間的な位置を決定することによって、被検体組織の追跡を高精度に行ない、拍動している心臓組織に生じている微小振動を捕らえる方法を開示している。この方法を位相差トラッキング法と呼ぶ。この方法によれば、被検体に対して同じ方向にΔTの間隔をおいて超音波パルスを複数回送信し、被検体において反射した超音波をそれぞれ受信する。図7に示すように受信したエコー信号をy(t)、y(t+ΔT)、y(t+2ΔT)とする。ある深度x1から得られるエコー信号の受信時刻t1は、パルス送信時刻をt=0とすると、t1=x1/(C/2)となる。ただし、Cは音速である。このとき、y(t1)とy(t1+ΔT)の間の位相変位をΔθ、t1付近での超音波の中心周波数をfとすると、この期間ΔTにおけるx1の移動量Δxは、以下の式で表される。
【0005】
Δx=−C・Δθ/4πf
【0006】
移動量Δxをx1に加算することで、以下に示すように、ΔT秒後のx1の位置x1’を求めることができ、この計算を繰り返すことにより、被検体の同一部位x1を追跡していくことができる。
【0007】
x1’=x1+Δx
【0008】
特許文献2は、特許文献1の方法をさらに発展させ、被検体組織、特に動脈壁の弾性率を求める方法を開示している。この方法によれば、まず、図8(a)に示すように、探触子101から動脈血管壁へ向けて超音波を送信し、血管壁上に設定した測定点AおよびBからのエコー信号を特許文献1の方法により解析することにより、測定点AおよびBの動きを追跡する。図8(b)は、測定点AおよびBの位置を示す波形TAおよびTBを示している。また、心電波形ECGも合わせて示している。
【0009】
図8(b)に示すように、追跡波形TAおよびTBは心電波形ECGに一致した周期性を有している。これは、心臓の心拍周期に一致して、動脈が拡張および収縮することを示している。具体的には、心電波形ECG中にR波と呼ばれる大きなピークが見られる際、心臓の収縮が開始し、心臓の収縮によって、動脈中に血液が押し出される。このため、血流によって急激に血管壁が広がる。したがって、心電波形ECGにR波が現れた後、追跡波形TAおよびTBも急激に立ち上がり、動脈が急激に拡張する。その後、心臓はゆっくり拡張するので、追跡波形TAおよびTBも徐々に立ち下がり、動脈がゆっくり収縮する。このような動きを動脈は繰り返している。
【0010】
追跡波形TAおよびTBの差は測定点AB間の厚さ変化波形Wとなる。厚さ変化波形Wの変化量をΔWとし、測定点AB間の初期化時の基準厚さをWsとすると、測定点AB間の歪み量εは以下のようになる。
【0011】
ε=ΔW/Ws
【0012】
このときの血圧差をΔPとすると、測定点AB間の弾性率Erは以下の式で表される。
【0013】
Er=ΔP/ε=ΔP・Ws/ΔW
【0014】
したがって、弾性率Erを断層画像上の複数点に対して計測することにより、弾性率の分布画像が得られる。図8(a)に示すように、血管壁中に粥腫が生じている場合、粥腫とその周りの血管壁組織とでは弾性率が異なる。したがって、弾性率の分布画像が得られれば粥腫の生成やその位置を診断することが可能となる。
【特許文献1】特開平10−5226号公報
【特許文献2】特開2000−229078号公報
【特許文献3】特許第2507383号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
特許文献2の方法では、各測定点を正確に追跡するためにエコー信号のSN比が大きいこと、つまり、エコー信号の振幅が大きくかつ飽和していないことが重要である。
【0016】
信号の振幅を所定の値にするための技術としては、自動利得調整回路(AGC)が知られている。しかし、自動利得調整回路はテレビ映像信号のような連続した信号を対象としている。このため、公知の自動利得調整回路を特許文献2に開示された超音波診断装置に用いると、血管内腔のようなエコーの弱い部分から血管壁のようなエコーの強い部分への境界で受信信号が飽和してしまう。
【0017】
このような問題を解消するため、特許文献3は、超音波探傷用受信装置において、時間ゲート回路を用いて対象物からのエコーのみを検出し、エコー信号があらかじめ設定された閾値を超えた場合、その直後のピークを検出し、そのピークが最大振幅となるように利得を調整することを開示している。
【0018】
しかしながら、特許文献3の方法を特許文献1または特許文献2に開示された超音波診断装置に適用する場合、1つの音響線を構成するエコーの受信中に利得が変化してしまう。このため、測定点の位置を正しく追跡できないという問題が生じる。
【0019】
本発明は、このような問題を解決し、被検体の性状特性を精度よく測定することができる超音波診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の超音波診断装置は、被検体へ超音波を送信する探触子を駆動するための駆動信号を生成する送信部と、前記超音波が前記被検体において反射することにより得られるエコーを前記探触子により受信し、得られた受信エコー信号を増幅する受信部であって、前記受信エコー信号を増幅する利得を変更することができる受信部と、前記受信エコー信号の最大値を記憶する記憶部と、前記記憶部に記憶された最大値に基づき、前記被検体の変形の周期に同期して前記受信部の利得または前記送信部で生成する前記駆動信号の少なくとも一方を調整する調整部とを備える。
【0021】
ある好ましい実施形態において、前記調整部は、前記被検体の変形周期内の期間において、前記駆動信号または前記利得を一定に保つ。
【0022】
ある好ましい実施形態において、前記調整部は、前記最大値に基づき、前記増幅された受信エコー信号の最大値が所定の値となるように前記駆動信号または前記利得を調整する。
【0023】
ある好ましい実施形態において、前記調整部は、前記最大値に基づき、前記増幅された受信エコー信号の最大値が所定の範囲内の値となるように前記駆動信号または前記利得を調整する。
【0024】
ある好ましい実施形態において、前記調整部は、前記受信部の利得を調整する。
【0025】
ある好ましい実施形態において、前記調整部は、前記駆動信号の振幅値、波形および波数のうち少なくとも1つを調整する。
【0026】
ある好ましい実施形態において、前記調整部は、前記被検体の心周期に一致して前記駆動信号または前記受信部の利得を調整する。
【0027】
ある好ましい実施形態において、前記調整部は、前記被検体に接続された心電計または心音計から生体情報を受け取る。
【0028】
ある好ましい実施形態において、前記被検体の少なくとも一部は加振装置により周期的に変形し、前記調整部は前記加振装置から変形の周期に関する情報を受け取る。
【0029】
ある好ましい実施形態において、前記受信部から前記受信ビーム信号を受け取り、位相差トラッキング法により前記被検体の性状特性を演算する組織性状処理部をさらに備える。
【0030】
ある好ましい実施形態において、前記性状特性は弾性率である。
【0031】
本発明の超音波診断装置の制御方法は、探触子に駆動信号を印加することにより、被検体へ向けて超音波を送信するステップと、前記超音波が前記被検体において反射することにより得られるエコーを前記探触子により受信し、受信エコー信号を得るステップと、
前記受信エコー信号の最大値を記憶するステップと、前記受信エコー信号を増幅するステップと、前記記憶された最大値に基づき、前記被検体の変形の周期に同期して前記増幅ステップの利得または前記送信ステップにおける前記駆動信号の少なくとも一方を調整するステップとを包含する。
【0032】
ある好ましい実施形態において、前記調整ステップは、前記被検体の変形周期内の期間において、前記駆動信号または前記利得を一定に保つ。
【0033】
ある好ましい実施形態において、前記調整ステップは、前記最大値に基づき、前記増幅された受信エコー信号の最大値が所定の値または所定の範囲内の値となるように前記駆動信号または前記利得を調整する。
【0034】
ある好ましい実施形態において、前記調整ステップは、前記受信部の利得を調整する。
【0035】
ある好ましい実施形態において、前記調整ステップは、前記駆動信号の振幅値、波形および波数のうち少なくとも1つを調整する。
【0036】
ある好ましい実施形態において、前記調整ステップは、前記被検体の心周期に一致して前記駆動信号または前記受信部の利得を調整する。
【0037】
ある好ましい実施形態において、前記調整ステップは、前記被検体に接続された心電計または心音計から生体情報を受け取り、前記生体情報に基づいて前記駆動信号または前記受信部の利得を調整する。
【0038】
ある好ましい実施形態において、前記被検体の少なくとも一部は加振装置により周期的に変形し、前記調整ステップは、前記加振装置から変形の周期に関する情報を受け取る。
【発明の効果】
【0039】
本発明の超音波診断装置によれば、被検体の変形の周期に同期して、受信部における利得を調整するため、受信エコー信号あるいは、受信ビーム信号のS/N比が向上し、正確な計測を行うことが可能となる。また、被検体の変形の周期に同期した周期の期間中は利得が一定値に保たれるため、変形周期内では計測条件が一定となる。このため、性状特性、特に弾性特性を高い精度で計測することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
まず、超音波診断装置において受信信号が飽和することにより生じる影響を説明する。図1は、受信信号の飽和度と被検体の測定点の位置を追跡した場合の追跡誤差との関係をシミュレーションによって求めたグラフである。受信信号の飽和度は、下記式に基づいて求めている。
【0041】
(飽和度)=(受信信号の振幅の最大値)/(信号処理回路における最大値)
【0042】
ここで、受信信号の振幅の最大値は、受信部において増幅した後の受信信号の最大振幅であり、信号処理回路における最大値は、超音波診断装置において処理可能な受信信号の最大値である。図1に示すように、飽和度が100%を超えるとトラッキングSN比が低下している。
【0043】
図2は、受信信号の飽和度と相対弾性率との関係をシミュレーションによって求めたグラフである。ある測定によって得られた信号の増幅率を変化させることによって飽和度を変化させている。相対弾性率は、飽和度が100%である場合の弾性率を基準としている。同じ測定データを用いているため、信号の増幅率によらず弾性率は変化しないはずであるが、図2に示すように、受信信号の飽和度が大きくなると弾性率は小さくなる。
【0044】
これらの結果から、受信信号が飽和するほど計測誤差が大きくなること、および、精度の高い計測を行うためには、受信信号が飽和しないように受信信号の振幅を調整する必要があることが分かる。また、超音波診断装置により被検体の弾性率を求める場合には、被検体の歪み量とその歪みを生じさせる応力差が加わる期間においては計測条件を一定にすることが好ましい。計測条件が途中で変わると正しい弾性率の測定ができない可能性があるからである。
【0045】
これらの点を考慮して本発明の超音波診断装置は、探触子を用いて受信した受信信号の最大値に基づき、被検体の変形周期に同期して送信部で生成する前記駆動信号または前記受信部の利得を調整する。以下、図面を参照しながら本発明の超音波診断装置の実施形態を説明する。
【0046】
図3は超音波診断装置200のブロック図を示している。超音波診断装置200は探触子101を用いて被検体の形状特性または性状特性を測定する。特に、被検体が生体である場合において、動脈壁組織の弾性率を測定するのに好適に用いられる。ここで、形状特性とは、被検体組織の形状、または、形状の時間変化による被検体組織の運動速度やその積分値である位置変位量、被検体組織に設定した2点間の厚さ変化量などをいう。被検体の性状特性は、被検体組織の弾性率などをいう。以下においては、動脈を含む生体を被検体の例として説明する。動脈は、心臓が血液を駆出することによって、周期的に拡張および収縮を繰り返すように変形している。
【0047】
超音波診断装置200は、送信部102、受信部103、記憶部110、調整部111および組織性状処理部105を備えている。また、これらの各部を制御するために制御部100を備えている。送信部102は、制御部100の制御に基づき、被検体へ超音波を送信する探触子101を駆動するための駆動信号を生成する。以下において詳細に説明するように、送信部102は、調整部111からの指令に基づき、生成する駆動信号の振幅、波形および波数のうちの少なくとも一方を変化させて駆動信号を生成してもよい。図4(a)は駆動信号を模試的に示している。駆動信号d1、d2・・・dnは所定の時間間隔で繰り返し送信される。各駆動信号には複数のパルス信号が含まれている。
【0048】
探触子101は、複数の圧電体振動子を含み、駆動信号の印加によって各圧電体振動子が振動し、超音波を生成する。生成した超音波は、被検体へ向けて送信される。被検体において反射した超音波はエコーとして探触子101へ戻る。探触子101は受信したエコーを電気信号に変換し、受信エコー信号として受信部103へ出力する。図4(b)は受信エコー信号を模試的に示している。各駆動信号d1、d2・・・dnに対応して、受信エコー信号r1、r2・・・・rnが得られる。
【0049】
受信部103は、可変利得増幅器およびビームフォーマを含む。以下において詳細に説明するように、可変利得増幅器は、調整部111からの制御信号に基づく利得で受信エコー信号を増幅する。増幅された受信エコー信号は、ビームフォーマによって定められた位置および方向からの超音波ビームが得られるよう合成される。これにより、受信部103は受信ビーム信号を出力する。受信部103はまた、可変利得増幅器により増幅する前の受信エコー信号を記憶部110へ出力する。
【0050】
図4(c)に示すように、記憶部110は、受信エコー信号r1、r2・・・・rnを受け取り、所定の期間Tにおける受信エコー信号の最大値w2を記憶する。所定期間の経過後、最大値w2を調整部111へ出力するとともに、最大値をクリアし、次の期間における受信信号の最大値を記憶し始める。この所定の期間は、被検体の変形の周期に同期していることが好ましい。被検体が生体であり、心周期に一致して変形する場合には、図3に示すように同期信号検出器109から心周期に同期した信号を記憶部110は受け取り、所定の期間を決定することが好ましい。同期信号検出器109は、たとえば、被検体を計測する心電計や心音計であってもよい。記憶部110が最大値を求める所定の期間は、被検体の変形の周期に同期していればよく、一致していなくてもよい。つまり、被検体の変形周期の2倍の周期と一致していてもよい。
【0051】
調整部111は、受け取った受信信号の最大値に基づき、増幅後の受信エコー信号が所定の目標値または目標範囲内の値となるように受信信号を増幅する場合の利得を決定し、決定した利得で次の所定の期間、受信エコー信号を増幅するよう受信部103の可変利得増幅器へ制御信号を出力する。
【0052】
目標値または目標範囲は、組織性状処理部105において処理が可能な最大値に基づいて決定することが好ましい。たとえば、組織性状処理部105の処理可能な最大値の95%の値を目標値としたり、最大値の90%から95%の範囲を目標範囲とする。上述したように、受信部103において受信エコー信号を増幅する際の利得は、直前の期間において取得された受信エコー信号の最大値に基づいて決定されている。このため、決定された利得はその期間においては最適ではない可能性がある。しかし、隣接する2つの期間において、受信される2つの受信エコー信号間では、通常大きな変化はなく、隣接する2つの期間における最大値もほぼ等しいと考えられる。このため、隣接する2つの期間において、変動し得る最大値の範囲を考慮して、目標値または目標範囲設定することによって、決定した利得で受信エコー信号を増幅しても、十分な大きさでかつ、飽和することのない振幅の受信ビーム信号を得ることが可能となる。
【0053】
また、目標範囲を設定する場合には、まず受信エコー信号の最大値と現在設定されている利得の値とを用いて、増幅後の受信エコー信号の最大値が目標範囲に入るかどうかを調べる。目標範囲内である場合には、利得の値を更新せず同じ値を用いるように受信部103へ制御信号を出力する。これにより、頻繁に利得の値が変動することを防止し、安定した計測を行うことができるようになる。
【0054】
組織性状処理部105は、たとえば、直交検波器、組織追跡部および組織性状値算出部を含み、特許文献1および2に開示される位相差トラッキング法によって被検体組織の位置を追跡する。具体的には、直交検波器が受信ビーム信号を位相検波し、組織追跡部は受信ビーム信号の位相差に基づき、被検体組織に設定した各測定点の運動速度を求める。さらに運動速度を積分することにより、各測定点の相対位置を求める。組織追跡部は、相対位置から、任意の2つの測定点間の厚さ変化量(歪み量)を求めてもよい。また、図3に示すように、超音波診断装置200は血圧計108から被検体の最高血圧および最低血圧に関する情報を受け取り、これらを用いて被検体組織の弾性率を求めてもよい。
【0055】
超音波診断装置200は断層画像処理部104をさらに備えていてもよい。断層画像処理部104は、フィルタ、対数増幅器および検波器などを含み、受信部103から受け取った受信ビーム信号を信号強度に応じた輝度情報を有する信号に変換する。これにより、断層画像処理部104は、輝度による諧調表示がなされた被検体の断層画像を生成する。
【0056】
画像合成部106は、断層画像処理部104および組織性状処理部105から受け取ったデータを合成し、モニタ107に表示する。組織性状処理部105で求めた各種のデータは、数値のままモニタ107に表示してもよいし、グラフや二次元分布画像として断層画像処理部104から得られる断層画像に重ねて表示してもよい。組織性状処理部105における演算および画像合成部106におけるデータの合成は、被検体の変形の周期に同期して更新するようにしてもよい。
【0057】
次に、被検体の変形の周期について詳しく説明する。図5(a)は、被検体の心電波形であり、(b)および(c)は被検体内の動脈の内径の変化および動脈壁の厚さ変化をそれぞれ示している。図5(d)は被検体の変形の周期Tを示しており、(e)は受信部の可変利得増幅器の利得を示している。図5(b)および(c)に示すように、被検体の動脈は、心臓の心拍によって生じる血流によって周期的に拡張および収縮を繰り返し、これにともなって動脈壁の厚さも周期的に変化している。このように被検体は、周期的に変形している。これらの変形の周期は、心拍と同期しており、図5(a)に示す心電波形と同期している。
【0058】
本発明の超音波診断装置では、受信部における利得の値の更新を被検体の変形の周期に同期させ、同期した期間内では利得の値を一定にすることを特徴としている。上述したように、動脈壁の弾性率を求める場合、厚さ変化量の最大値と最小値との差Δwは図4(a)および(c)に示すように、心電波形においてR波が観測される直後に生じる。このため、この動脈壁の厚さにおいてΔwが観測される期間、利得の値が一定となるように、受信部における利得の値の更新周期も定めることが好ましい。図から明らかなように、被検体が心周期に一致して変形する場合には、心電波形のR波を利得の値の更新の周期の基準とすることが好ましい。つまり、心電計を同期信号検出器109とし、R波をトリガとして、記憶部110が受信エコー信号の最大値を測定し、また、調整部111は、R波をトリガとして利得を決定し、制御信号を受信部103へ出力することが好ましい。
【0059】
このように本発明の超音波診断装置によれば、被検体の変形の周期に同期して、受信部における利得を調整するため、受信エコー信号あるいは、受信ビーム信号のS/N比が向上し、正確な計測を行うことが可能となる。また、被検体の変形の周期に同期した周期の期間中は利得が一定値に保たれるため、変形周期内では計測条件が一定となる。このため、性状特性、特に弾性特性を高い精度で計測することが可能となる。
【0060】
上記実施形態では、被検体は心臓の拍動によって能動的に変形していたが、本発明の超音波診断装置は静止臓器など、能動的には変形しない組織の弾性特性などの性状特性も上述した方法によって高い精度で測定することができる。図6は、静止臓器の弾性特性を計測するための構成を模式的に示している。被検体210中に肝臓などの静止臓器212が含まれている場合、静止臓器212を周期的に変形させるために加振装置310を用いる。加振装置310は、被検体210と接触する接触部302を有するアーム300および駆動部304を備えており、アーム300は矢印で示すように駆動部304によって所定の周期で振動する。接触部302を被検体に接触させてアーム300を振動させると、周期的に被検体を変形させることができる。
【0061】
静止臓器212の弾性特性を計測する場合、加振装置310を用いて被検体210の静止臓器212を周期的に圧迫および弛緩を繰り返しながら、探触子101による超音波の送受信を行う。この際、加振装置310から振動の周期に同期したトリガ信号を記憶部110、調整部111、組織性状処理部105および画像合成部106へ入力させ、上述したように計測を行う。これにより、静止臓器212に設定した測定点間の厚さ変化量(歪み量)を計測することができる。また、加振装置310の振動から被検体210へ加えられる圧力差を求めることができる。したがって、厚さ変化量と圧力差とを用いて弾性率を求めることができる。
【0062】
このように加振装置310を用いる場合、生体ではない被検体の弾性率を求めることも可能である。たとえば、弾性体からなる配管の弾性率を測定し、配管の劣化状況を判定することも可能である。
【0063】
また、上記実施形態では、受信部における利得を被検体の周期に同期させ、これにより組成性状処理部105に入力する信号が飽和しておらず、かつ、十分な信号強度を有するように調整していた。しかし、被検体へ超音波を送信するための駆動波の波形を変形させることにより、受信エコー信号の振幅を調整してもよい。具体的には、図4(a)に示すように、調整部111は、記憶部110から受け取る受信エコー信号の最大値に基づき、送信部102において生成する駆動信号d1〜dnを変化させる。上述したように、1回の超音波ビームを送信するための駆動信号d1〜dnは複数のパルス信号を含むので、このパルス信号の振幅w1や波形、波数を変化させることによって、受信エコー信号の振幅を調整することができる。調整部111は、受信部における利得に加えて送信部102で生成する駆動信号を変化させてもよい。
【0064】
また、上記実施形態では、受信エコー信号の最大値を求めた期間とその最大値を用いて決定した利得により受信エコー信号を増幅する期間とは異なっていた。しかし、受信部103に少なくとも一周期分の受信エコー信号を一時的に記憶するメモリーを設けることにより、最大値を求めた期間の受信エコー信号をその最大値から求めた利得によって増幅することができる。たとえば、一周期分の受信エコー信号の最大値を求める間、その受信エコー信号をメモリーに蓄積し、最大値に基づいて利得を決定した後、メモリーから受信エコー信号を読み出し、決定した利得を用いて受信エコー信号を増幅する。これにより、確実に受信エコー信号が飽和することなくかつ十分な大きさの振幅を有するように受信エコー信号を増幅することができる。この場合、受信部に設けるメモリーには十分なダイナミックレンジを確保しておくことが好ましい。
【0065】
さらに、上記実施形態では、記憶部110および調整部111に同期信号検出器109から得られる信号をトリガとして入力し、利得を一定する期間および最大値を計測する期間を更新させている。しかし、同期信号検出器109から得られる信号は記憶部110または調整部111の一方にのみ入力してもよい。たとえば、同期信号検出器109から得られる信号を記憶部110に入力し、記憶部110から出力される最大値が更新されるたびに、調整部111は駆動信号や利得を調整する制御信号を更新してもよい。また、同期信号検出器109から得られる信号に基づいて、調整部111において、駆動信号や利得を調整する制御信号を更新し、制御信号の更新に基づいて、記憶部110の最大値を計測する期間を更新してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、種々の被検体の形状特性または性状特性を精度よく計測することがきる超音波診断装置に好適に用いられる。特に、動脈を含む生体の動脈壁の弾性率を計測する超音波診断装置に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】受信信号の飽和度と測定点の追跡精度との関係をシミュレーションによって求めたグラフである。
【図2】受信信号の飽和度と弾性率との関係をシミュレーションによって求めたグラフである。
【図3】本発明による超音波診断装置の実施形態を示すブロック図である。
【図4】(a)および(b)は、駆動信号および受信エコー信号の波形を模式的に示す図であり、(c)は、周期を示す図である。
【図5】(a)〜(e)は、心電波形、動脈の内径変化、動脈壁の厚さ変化、動脈の変形の周期および受信部において設定する利得の変化を示す図である。
【図6】静止臓器の弾性率を求めるための構成を示す模式図である。
【図7】超音波エコー信号の位相差から組織の追跡を行う方法を説明する図である。
【図8】(a)および(b)は、組織の追跡波形から歪み量を求める方法を説明する図である。
【符号の説明】
【0068】
100 制御部
101 探触子
102 送信部
103 受信部
104 断層画像処理部
105 組織性状処理部
106 画像合成部
107 モニタ
108 血圧計
109 同期信号検出器
110 記憶部
111 調整部
200 超音波診断装置
210 被検体
212 静止臓器
300 アーム
302 接触部
304 駆動部
310 加振装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体へ超音波を送信する探触子を駆動するための駆動信号を生成する送信部と、
前記超音波が前記被検体において反射することにより得られるエコーを前記探触子により受信し、得られた受信エコー信号を増幅する受信部であって、前記受信エコー信号を増幅する利得を変更することができる受信部と、
前記受信エコー信号の最大値を記憶する記憶部と、
前記記憶部に記憶された最大値に基づき、前記被検体の変形の周期に同期して前記受信部の利得または前記送信部で生成する前記駆動信号の少なくとも一方を調整する調整部と、
を備えた超音波診断装置。
【請求項2】
前記調整部は、前記被検体の変形周期内の期間において、前記駆動信号または前記利得を一定に保つ請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記調整部は、前記最大値に基づき、前記増幅された受信エコー信号の最大値が所定の値となるように前記駆動信号または前記利得を調整する請求項2に記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記調整部は、前記最大値に基づき、前記増幅された受信エコー信号の最大値が所定の範囲内の値となるように前記駆動信号または前記利得を調整する請求項2に記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記調整部は、前記受信部の利得を調整する請求項1から4のいずれかに記載の超音波診断装置。
【請求項6】
前記調整部は、前記駆動信号の振幅値、波形および波数のうち少なくとも1つを調整する請求項1から4のいずれかに記載の超音波診断装置。
【請求項7】
前記調整部は、前記被検体の心周期に一致して前記駆動信号または前記受信部の利得を調整する請求項1から4のいずれかに記載の超音波診断装置。
【請求項8】
前記調整部は、前記被検体に接続された心電計または心音計から生体情報を受け取る請求項7に記載の超音波診断装置。
【請求項9】
前記被検体の少なくとも一部は加振装置により周期的に変形し、前記調整部は前記加振装置から変形の周期に関する情報を受け取る請求項1から4のいずれかに記載の超音波診断装置。
【請求項10】
前記受信部から前記受信ビーム信号を受け取り、位相差トラッキング法により前記被検体の性状特性を演算する組織性状処理部をさらに備える請求項9に記載の超音波診断装置。
【請求項11】
前記性状特性は弾性率である請求項10に記載の超音波診断装置。
【請求項12】
探触子に駆動信号を印加することにより、被検体へ向けて超音波を送信するステップと、
前記超音波が前記被検体において反射することにより得られるエコーを前記探触子により受信し、受信エコー信号を得るステップと、
前記受信エコー信号の最大値を記憶するステップと、
前記受信エコー信号を増幅するステップと、
前記記憶された最大値に基づき、前記被検体の変形の周期に同期して前記増幅ステップの利得または前記送信ステップにおける前記駆動信号の少なくとも一方を調整するステップと、
を包含する超音波診断装置の制御方法。
【請求項13】
前記調整ステップは、前記被検体の変形周期内の期間において、前記駆動信号または前記利得を一定に保つ請求項12に記載の超音波診断装置の制御方法。
【請求項14】
前記調整ステップは、前記最大値に基づき、前記増幅された受信エコー信号の最大値が所定の値または所定の範囲内の値となるように前記駆動信号または前記利得を調整する請求項13に記載の超音波診断装置の制御方法。
【請求項15】
前記調整ステップは、前記受信部の利得を調整する請求項12から14のいずれかに記載の超音波診断装置の制御方法。
【請求項16】
前記調整ステップは、前記駆動信号の振幅値、波形および波数のうち少なくとも1つを調整する請求項12から14のいずれかに記載の超音波診断装置の制御方法。
【請求項17】
前記調整ステップは、前記被検体の心周期に一致して前記駆動信号または前記受信部の利得を調整する請求項12から14のいずれかに記載の超音波診断装置の制御方法。
【請求項18】
前記調整ステップは、前記被検体に接続された心電計または心音計から生体情報を受け取り、前記生体情報に基づいて前記駆動信号または前記受信部の利得を調整する請求項17に記載の超音波診断装置の制御方法。
【請求項19】
前記被検体の少なくとも一部は加振装置により周期的に変形し、前記調整ステップは、前記加振装置から変形の周期に関する情報を受け取る請求項17に記載の超音波診断装置の制御方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2006−230618(P2006−230618A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−47775(P2005−47775)
【出願日】平成17年2月23日(2005.2.23)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】