説明

超音波診断装置

【課題】超音波を用いた膝関節の軟骨の測定装置において厚み等の評価値を算出する測定領域を適切に設定できるようにするための新たな方式を提供する。
【解決手段】大腿骨遠位端の標準的な形状を表す基準形状モデル60のデータを用意する。このデータには、その標準的な形状における稜線62などの位置合わせ基準の情報と測定領域64の情報とを含める。超音波診断装置は、超音波測定により求めた軟骨の三次元形状70から稜線などの位置合わせ基準の形状を求める。そして、基準形状モデル60の位置合わせ基準と軟骨の三次元形状70の位置合わせ基準との形状や位置が最もよく一致するように、基準形状モデル60と軟骨の三次元形状70とを位置合わせする。このように位置合わせされた状態で、基準形状モデル60に設定された測定領域64を軟骨の三次元形状70に適用することで、軟骨の三次元形状70に対して測定領域を設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波診断装置に関し、特に膝の軟骨の診断のための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
変形性膝関節症(OA:OsteoArthritis)は日本人に多く、X線レントゲンでOAと診断された人は約2400万人、そのうち痛みを伴う患者は約820万人と推定されている。変形性膝関節症は年齢とともに増加するので、早期発見が強く望まれている。簡便に、再現性よく、しかも精度よく検査することができれば、治療方法の選択や治療効果判定が効率よく実現できると期待されている。
【0003】
OAに対する現在の一般的な検査方法は、X線レントゲン画像を用いたKellgren-Lawrence分類によるものである。これは、大腿骨と脛骨との間隔の狭小化の度合いに着目した方法である。しかしながら、この間隔は大腿骨側の軟骨と脛骨側の軟骨とを合わせた幅であり、個々の軟骨の厚みは分からない。
【0004】
また、MRI(Magnetic Resonance Imaging)装置は、非侵襲的な画像診断装置であり、原理上軟骨を骨や筋肉、体液などと区別して画像化することができ、軟骨の厚みも計測できる。しかしながら、MRIは利用コストが高額であり、測定にも時間が掛かるため、大勢の被検者の検査に用いるには適さない。
【0005】
そこで、本出願の出願人又はそのうちの一者は、例えば特許文献1〜5に示すように、超音波診断による膝軟骨の検査手法を提案している。
【0006】
特許文献1に提案された装置は、椅子に腰掛けるなどして大きく曲げられた膝の表面に沿って、リニアアレイ等の超音波探触子を機械的に走査することで、大腿骨の遠位端を含む、膝内部の三次元エコーボリュームデータを取得する。そして、そのボリュームデータに対しエッジ抽出を行うことで、組織境界を抽出し、抽出された組織境界の中から、ユーザの指定等に基づき、軟骨輪郭に該当する部分を抽出する。
【0007】
特許文献2には、抽出された軟骨輪郭上で指定された点から、その点における軟骨輪郭の法線を求め、その法線と軟骨輪郭との2つの交点の距離を、その点での軟骨の厚みとして計算する手法が提案されている。特に同文献の段落0115には、軟骨のボリュームデータ(軟骨の三次元形状データ)を画面表示し、ユーザに厚み測定の対象部位を指定させる方式を提案している。また段落0117には、機械走査する超音波探触子による測定空間の座標軸を、大腿骨の骨軸に対してあらかじめ定められた関係となるように位置決めすることで、軟骨のすり減り具合の検査のために最も重要である軟骨荷重部を自動検出する方式も提案している。一般に、軟骨荷重部は、大腿骨内側顆の中で、骨軸方向について大腿骨の遠位側に最も突出しているので、そのような点を自動検出する方式である。
【0008】
また、特許文献3には、同一人の軟骨厚みの経時的変化を調べるために、今回測定したその人の軟骨三次元形状を、過去に測定したその人の軟骨三次元形状に位置合わせすることで、前回と同じ計測点についての厚みを計測できるようにする方式が提案されている。この方式では、画面に表示した今回と過去の軟骨三次元形状のそれぞれについて、ユーザに軟骨荷重部や軟骨の長手方向などを指定させ、これらを基準に位置合わせを行っている。
【0009】
また、特許文献4には屈曲した膝表面に沿って超音波探触子を移動させるための機構が、特許文献5には超音波探触子と膝との間の音響整合のための水袋を膝表面の形状に沿って略円弧形状となるように保持するホルダが、それぞれ開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2010−000125号公報
【特許文献2】特開2010−000126号公報
【特許文献3】特開2010−000305号公報
【特許文献4】特開2010−022647号公報
【特許文献5】特開2010−022650号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
超音波エコー情報から膝軟骨の三次元形状を求め、その三次元形状から軟骨の厚み等の評価値を算出する場合、標準値との比較や経時的な変化の把握のためには、厚み等の評価値の計算は、軟骨の三次元形状の中の適切な測定領域に対して行う必要がある。このような課題に関しては、特許文献2や3にも課題の認識が示されており、その解決のための技術が示されているが、それらは検査者(例えば医師や技師)の介入を要するか、又は軟骨荷重部の一点を自動的に求めるものであった。検査者の介入を要する方式では、設定される測定領域の位置が検査者の習熟度や個人差の影響を受け、一定しないという問題があった。また、軟骨荷重部を自動的に求めてその厚みを計算することは有益であるが、実際の軟骨の厚みは、軟骨荷重部の一点のみならず、その点を含むある程度の広がりを持った測定領域内の複数点について求めることが望まれる。そのような広がりを持った測定領域を軟骨形状に合わせて適切に設定する技術が求められる。
【0012】
本発明は、上記従来技術の問題点の少なくとも1つを解決するためのものであり、超音波を用いた膝関節の軟骨の測定装置において、厚み等の評価値の算出の対象とする測定領域を適切に設定できるようにするための新たな方式を提供することを特徴とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る超音波診断装置は、大腿骨遠位端の基準形状を表す基準形状モデルと当該基準形状モデルに対して設定された測定領域とを記憶する記憶手段と、屈曲した膝の正面側の体表面から超音波ビームを走査することにより、膝内部の大腿骨遠位端の軟骨を含む三次元領域についてのボリュームデータを取得する送受波手段と、前記ボリュームデータにおける各ボクセルのエコーレベル値に基づき、前記ボリュームデータから前記軟骨に対応する部分を抽出し、抽出した前記軟骨に対応する部分を表す三次元形状データを生成する軟骨形状抽出手段と、前記軟骨形状抽出手段が生成した前記三次元形状データと前記基準形状モデルとを位置合わせする位置合わせ手段と、前記位置合わせ手段により位置合わせされた状態で、前記基準形状モデルに対して設定された前記測定領域を前記三次元形状データに当てはめ、前記三次元形状データのうち当該測定領域におけるデータに基づき、あらかじめ定められた評価値を算出する評価値算出手段と、を備える。
【0014】
1つの態様では、前記記憶手段に記憶される前記基準形状モデルの情報には、大腿骨遠位端の軟骨の形状の基準となる基準線又は基準点を表す基準情報が含まれ、前記位置合わせ手段は、前記三次元形状データから前記基準線又は基準点を求め、当該基準線又は基準点が、前記基準情報が表す前記基準形状モデルの基準線又は基準点に最もよく適合するように、前記三次元形状データと前記基準形状モデルとを位置合わせする、ことを特徴とする。
【0015】
更なる態様では、前記記憶手段は、前記基準線を表す前記基準情報として、大腿骨遠位端の基準形状の稜線を表す稜線情報を記憶し、前記位置合わせ手段は、前記三次元形状データの稜線を求め、当該稜線が、前記稜線情報が表す前記基準形状モデルの稜線に最もよく適合するように、前記三次元形状データと前記基準形状モデルとを位置合わせする、ことを特徴とする。
【0016】
更なる態様では、前記記憶手段は、前記基準点を表す前記基準情報として、大腿骨遠位端の基準形状の軟骨荷重部の位置を表す荷重部情報を更に記憶し、前記位置合わせ手段は、前記三次元形状データにおける軟骨荷重部の位置を更に求め、当該三次元形状データにおける前記稜線及び軟骨荷重部の位置が、前記稜線情報及び前記荷重部情報が表す前記基準形状モデルの稜線及び軟骨荷重部に最もよく適合するように、前記三次元形状データと前記基準形状モデルとを位置合わせする、ことを特徴とする。
【0017】
更なる態様では、前記記憶手段は、前記基準線を表す前記基準情報として、大腿骨遠位端の基準形状を大腿骨の骨軸に垂直な面に投影した略馬蹄形の投影形状における内側の凹部の曲線形状を表す凹部形状情報が含まれ、前記位置合わせ手段は、前記ボリュームデータを前記骨軸に垂直な面に投影した略馬蹄形の投影形状における内側の凹部の曲線形状と、前記凹部形状情報が表す曲線形状との一致度合いも加味して、前記三次元形状データと前記基準形状モデルとを位置合わせする、ことを特徴とする。
【0018】
別の態様では、前記位置合わせ手段は、前記基準形状モデルの幅を着座状態における膝の横幅の実測値より求められた大腿骨遠位端の幅に合致するよう、前記基準形状モデルと前記測定領域とを拡大又は縮小し、拡大又は縮小された前記基準形状モデルと前記三次元形状データと位置合わせし、拡大又は縮小された前記測定領域を前記三次元形状データに当てはめる、ことを特徴とする。
【0019】
更に別の態様では、前記基準形状モデルは、大腿骨遠位端を大腿骨の骨軸方向に対してあらかじめ定めた関係にある基準面に投影した二次元形状の基準形状を表すモデルであり、前記稜線情報は、大腿骨遠位端内側顆における稜線の形状を前記基準面に投影した形状であり、前記送受波手段は、前記屈曲した膝に対して、大腿骨の骨軸方向と前記膝の回転軸とに対してあらかじめ定めた関係にある座標系に従って超音波ビームを走査することで、前記ボリュームデータとして前記基準面との関係が既知のデータを求め、前記位置合わせ手段は、前記三次元形状データを前記基準面に投影した投影形状と、前記基準形状モデルとが最もよく一致するよう、前記三次元形状データを前記基準形状モデルに位置合わせする、ことを特徴とする。
【0020】
本発明の別の側面では、コンピュータを、大腿骨遠位端の基準形状を表す基準形状モデルと当該基準形状モデルに対して設定された測定領域とを記憶する記憶手段、超音波ビームの走査により求められた大腿骨遠位端の軟骨を含む三次元領域についてのボリュームデータを受け取り、当該ボリュームデータにおける各ボクセルのエコーレベル値に基づき、前記ボリュームデータから前記軟骨に対応する部分を抽出し、抽出した前記軟骨に対応する部分を表す三次元形状データを生成する軟骨形状抽出手段、前記軟骨形状抽出手段が生成した前記三次元形状データと前記基準形状モデルとを位置合わせする位置合わせ手段、前記位置合わせ手段により位置合わせされた状態で、前記基準形状モデルに対して設定された前記測定領域を前記三次元形状データに当てはめ、前記三次元形状データのうち当該測定領域におけるデータに基づき、あらかじめ定められた評価値を算出する評価値算出手段、として機能させるためのプログラムを提供する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、超音波測定により得た軟骨の三次元形状に対し、基準形状モデルに対して設定された測定領域を適用することで、ある程度の広がりを持った測定領域を軟骨の三次元形状に対して適切に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施形態の超音波診断装置の機能構成の一例を示す図である。
【図2】メカニカル三次元プローブの機械走査方式の一例を説明するための模式的な側面図である。
【図3】機械式のアーク走査により得られる、角度の異なる断層画像を説明するための図である。
【図4】測定領域が設定された基準形状モデルの一例を示す図である。
【図5】超音波測定により求められた軟骨の三次元形状と基準形状モデルとの位置合わせの仕方を説明するための図である。
【図6】位置合わせされた状態での軟骨の三次元形状と基準形状モデルとを、大腿骨の骨軸方向に沿った視線方向に見た状態を模式的に示す図である。
【図7】実施形態の装置における処理手順の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
人間の膝関節は、大腿骨の遠位端部と、脛骨の近位端部と、膝蓋骨とから構成される。大腿骨の遠位端及び脛骨の近位端の表面は、それぞれ軟骨で覆われている。それら骨の表面のうち軟骨で覆われた部分は、軟骨下骨と呼ばれる。大腿骨と脛骨の軟骨同士の間には半月板が存在している。大腿骨の遠位端は、立位の身体の正面方向から見た場合、二股に分かれて突起しており、身体の内側の突起部分を内側顆、外側の突起部分を外側顆と呼ぶ。大腿骨遠位端の内側顆及び外側顆の軟骨は、内側及び外側の半月板にそれぞれ空いた穴を介して、脛骨の近位端の軟骨と接している。なお、以上に説明した膝関節部分は滑膜及び関節包により覆われている。
【0024】
大腿骨の遠位端の軟骨は、当該遠位端部の表面を広く覆っているが、そのうち立位の際に脛骨の近位端の軟骨と接する部分は、上半身の荷重を強く受ける部分である。この部分は、軟骨荷重部と呼ばれる。軟骨荷重部は摩耗しやすく、摩耗が著しくなると変形性膝関節症を引き起こす。変形性膝関節症の診断には、軟骨荷重部の軟骨の厚み等の評価値が重要な判断指標となる。
【0025】
そこで、出願人は、上記の特許文献1〜5にて、膝軟骨の超音波診断のための装置を提案した。
【0026】
本実施形態では、超音波を用いて求めた軟骨の三次元形状情報から軟骨の厚み等の評価値を求めるに際し、その評価値を算出する二次元的な広がりを持つ測定領域を、他者との比較が可能になるような形で設定する方式を提案する。
【0027】
図1に、実施形態の超音波診断装置の機能構成の一例を示す。この例では、膝内部の三次元領域のエコーを取得するための超音波プローブ(探触子)として、メカニカル三次元プローブ10を用いる。メカニカル三次元プローブ10は、振動素子が1次元配列された振動子アレイ12と、メカ走査機構14とを備える。
【0028】
振動アレイ12によって超音波ビームが形成され、その超音波ビームは電子走査される。電子走査方式としては電子セクタ走査、電子リニア走査等が公知である。
【0029】
メカ走査機構14は、振動子アレイ12を、当該アレイ12の電子走査の走査面と略垂直な方向に機械走査する。振動子アレイ12による電子走査とメカ走査機構14による機械走査の組合せにより、三次元領域がカバーされる。すなわち、一回の電子走査により1つの電子走査面の断層画像データを得ることができ、機械走査の走査位置ごとに電子走査を行うことで、複数の電子走査面の断層画像データの集まりを得ることができる。機械走査範囲全体の断層画像データの集まりが、メカニカル三次元プローブ10の走査範囲についての1つのボリュームデータである。
【0030】
振動子アレイ12の電子走査形状は特に限定されず、例えば軟骨の横幅をカバーする程度の幅(アレイ長)を持つリニア走査の振動子アレイ12を用いることもできる。また、コンベックス走査、コンケーブ(凹形)走査のプローブを用いてもよい。
【0031】
また、例えば図2に示す例では、メカ走査機構14は、椅子等に座った状態で屈曲された膝に対し、太もも側から脛側まで膝頭に沿って上下にアーク(コンケーブ)走査を行う。図2は、被検者の膝を側面側から見た状態の図である。振動子アレイ12のアレイ方向は例えば図2の紙面に垂直な方向である。またメカ走査機構14の機械走査方向は、大腿骨100の遠位部に対して所定の位置関係に位置決めされた回転軸42を中心に、図中の矢印で示すように、上下に回転する方向である。回転軸42は、膝頭の両側にそれぞれ設ければよい。振動子アレイ12を収容する振動子部40の両側面には、各々の側の回転軸42から延びるアーム44が取り付けられており、図示しない駆動機構により振動子部40を矢印方向に動かすことができる。振動子部40の振動子アレイ12側には、水などの音響カップリング剤を封じた柔軟なスタンドオフ46が設けられている。測定時には、スタンドオフ46の一方の面が膝頭の形状に密着し、他方の面に沿って振動子アレイ12が矢印方向に移動する。なお、このようなメカ走査機構やその周辺機構としては、例えば特許文献1〜5(特に特許文献4)に示したものなどといった従来公知のものや、今後提案されるものを用いてもよい。
【0032】
図1の説明に戻ると、送受信部16は、振動子アレイ12及びメカ走査機構14を駆動・制御して超音波ビームの送受信、電子走査、機械走査を実現する。送受信部16は、送信部の機能と受信部の機能を備える。送信部は送信ビームフォーマーとして機能する。すなわち、送信部から複数の送信信号が振動子アレイ12の複数の振動素子に対して供給される。これによって振動子アレイ12から超音波ビームパルスが生体内に放射される。生体内からの反射波は、振動子アレイ12にて受波される。これにより複数の振動素子から複数の受信信号が出力される。それらの受信信号は送受信部16の受信部に入力される。受信部は受信ビームフォーマーとして機能する。すなわち、複数の受信信号に対して整相加算処理を適用する。また受信部は、対数圧縮処理、フィルタ処理等といった各種の信号処理を行う。そのような処理を経た受信信号が、座標変換部18に入力される。受信信号は、被検体内の各点でのエコーレベル値を表す。
【0033】
座標変換部18は、入力された受信信号(エコー信号)に対し、表示、画像処理、保存などのためのあらかじめ定めた共通座標系、例えば三次元デカルト座標系(XYZ座標系)、への座標変換処理を施す。すなわち、受信信号は被検体内各点のエコー強度の情報を含んでいるが、この場合の各点は、プローブ10の電子走査及び機械走査の走査形状により規定されるプローブ座標系でのものである。
【0034】
例えば、図2の例のように電子リニア走査の振動子部40を機械的にアーク走査する場合、被検体内の点は、機械アーク走査の回転角θ、電子リニア走査における走査位置x、及びプローブ10からの距離(深さ)dからなる座標系で表現される。電子走査位置x及び距離dは送受信部16から得ることができ、機械走査位置(回転角θ)はメカ走査機構14が備えるエンコーダから得ることができる。このように、送受信部16が出力する受信信号は、プローブ座標系でのボリュームデータを表す。図3に示すように、機械的アーク走査では、例えばあらかじめ定められた角度Δθごとの間隔をあけた回転角ごとに、超音波ビームを電子走査することで1つの超音波断層画像50を生成する。各超音波断層画像50の中には、大腿骨遠位端の軟骨を表す画像成分52が含まれている。これら各回転角における超音波断層画像50の集まりが、オリジナルのボリュームデータである。座標変換部18は、ボリュームデータをプローブ座標系から表示等のための共通座標系に座標変換するのである。また、座標変換部18は、共通座標系の点(ボクセル)のうち受信信号のデータ(エコーレベル値)がない点のデータを、その点の周囲の各点のデータを補間することにより求める。医用三次元画像における座標変換や補間は周知技術なので、これ以上の説明は省略する。
【0035】
座標変換部18により座標変換された受信信号は、三次元データメモリ20に書き込まれる。三次元データメモリ20には、表示等のための共通座標系での各点(ボクセル)のエコーレベル値が記憶されることになる。すなわち、三次元データメモリ20には、座標変換後のボリュームデータが記憶される。
【0036】
画像形成部28は、この三次元データメモリ20に記憶されたボリュームデータから、表示部30に表示する画像を生成する。例えば、画像形成部28は、指定された視点からボリュームデータをレンダリングすることで、その視点から見た被検体内部の三次元画像を生成する。また、画像形成部28は、ボリュームデータの中の指定された1以上の各断面(スライス)の画像を生成する機能を備えていてもよい。また、画像形成部28は、それら三次元画像や断面画像のうちの複数を1つの画面に配列する機能を持っていてもよい。
【0037】
また、画像形成部28は、軟骨抽出部24により抽出される大腿骨遠位端の軟骨の三次元形状情報に基づき、軟骨の三次元画像や断面画像を生成する機能を備える。また、生成した軟骨の三次元画像や断面画像を、走査範囲全体の三次元画像や断面画像に合成する機能を備えていてもよい。この合成では、軟骨の画像を走査範囲の他の部分から強調するようにしてもよい。例えば、軟骨の画像の色を走査範囲の他の部分の色とは異なった色とするなどである。
【0038】
また、画像形成部28は、後述する定量化処理部34により計算される軟骨についての定量化データ(例えば軟骨の厚みなど)を、例えば数値などの形で表示画像に合成する機能を備える。
【0039】
この他、必須ではないが、画像形成部28は、超音波診断装置が備える他の機能(例えばドプラ画像生成機能など)により得られる情報から、カラーフローマッピング画像(二次元血流画像)、カラー組織画像(組織運動表示画像)、パワードプラ画像などの各種画像を形成する機能を備えていてもよい。また、それら各種画像を、上述の三次元画像や軟骨の画像と合成して表示する機能を備えていてもよい。
【0040】
画像形成部28は、例えばDSC(デジタルスキャンコンバータ)などにより構成される。画像形成部28によって生成された画像が、表示部30に表示される。
【0041】
更に図1を参照して、軟骨抽出のための構成について説明する。
【0042】
画像前処理部22は、三次元データメモリ20中のボリュームデータ、又はそのボリュームデータ中の断面のスライスデータに対して、軟骨抽出に適した画像にするための前処理を行う。画像前処理部22が行う前処理は、例えばノイズ低減のための平滑化、又は軟骨境界を明確化させるためのエッジ強調、又はその両方を含んだ処理である。
【0043】
軟骨抽出部24は、画像前処理部22で前処理されたスライスデータ又はボリュームデータを受け取り、このデータに対してエッジ抽出などの画像演算を行うことで、軟骨の輪郭の三次元形状を抽出する。この抽出の際、ポインティングデバイスなどの入力部32から軟骨抽出部24に対し、軟骨抽出の範囲とするROI(Region Of Interest:注目範囲)の設定入力を行うようにしてもよい。抽出された軟骨の三次元形状のデータは、三次元データメモリ26に記憶される。抽出した軟骨の三次元形状は、サーフェイスモデル又はソリッドモデルなどの三次元形状オブジェクトとして三次元データメモリ26に記憶しておいてもよい。
【0044】
画像前処理部22及び軟骨抽出部24が行う具体的な画像処理は、特許文献1〜3に示すものと同様のものでよい。
【0045】
画像形成部28は、その三次元データメモリ26内のデータをレンダリングして、三次元の軟骨画像を生成し、表示部30に表示する。画像形成部28は、レンダリングした軟骨画像を三次元データメモリ20内の、膝内部全体の生のボリュームデータをレンダリングした三次元画像と合成した画像を生成し、表示してもよい。合成は、例えば、軟骨画像を、膝内部全体の画像とは異なる色で表示し、両者を重畳するような処理でもよい。また、画像形成部28は、三次元データメモリ26内の軟骨形状のデータに基づき、ユーザから指定された断面での軟骨形状を表す画像を形成し、表示部30に表示してもよい。
【0046】
以上、超音波プローブによる大腿骨遠位端のエコー計測、及びそのエコー計測結果からの大腿骨遠位端の軟骨三次元形状の抽出について説明したが、これらの処理やそのための装置構成は、あくまで一例に過ぎない。大腿骨遠位端のエコー計測や軟骨三次元形状の抽出のためには、従来公知の、或いはこれから開発される様々は処理方式や機構を用いることができる。
【0047】
次に、抽出された軟骨の三次元形状の情報に基づく、軟骨の定量評価のための仕組みについて説明する。この定量評価のために、この実施形態の超音波診断装置は、定量化処理部34及び基準形状モデル記憶部35を備える。
【0048】
定量化処理部34は、軟骨の厚み等の定量的な評価値の計算や、その計算のための制御を行う。この実施形態では、測定の検査者依存性の低減や再現性の向上のために、抽出された軟骨の三次元形状に対して適切な測定領域を自動設定するための方式を提案する。
【0049】
測定領域の自動設定のために、この実施形態では、「基準形状モデル」を用いる。基準形状モデルは、抽出された軟骨の三次元形状の位置合わせの基準とする形状モデルである。この例では、基準形状モデルとして、標準的な大腿骨の遠位端を大腿骨の骨軸に垂直な面に平行投影した二次元形状を用いる。ここで、「標準的」とは、多数の人の大腿骨遠位端から統計的に求めた平均的な形状という意味である。また、「大腿骨の遠位端」の形状なので、遠位端にある軟骨のみならず、遠位端の大腿骨本体も含んだ形状である(ただし、大腿骨近位端の形状は含まない)。大腿骨の「骨軸」は、大腿骨の長手方向に向かって延びる大腿骨の中心軸である。図2に、大腿骨の骨軸Aを一点鎖線で示している。例えば被検者が椅子に腰掛けた状態では、水平面内での太ももの伸びる方向がほぼ大腿骨の骨軸の方向と見なせるようになる。あるいは、椅子の座面の角度を適切に決めておくことで、大腿骨の骨軸の方向が水平面内になるようにすることができる。大腿骨は、骨軸に沿ってその中央部は細く、両端の遠位端及び近位端が中央部よりも広がった形状をしている。したがって、大腿骨の(近位端を除いて)遠位端を骨軸Aに垂直な面に平行投影すると、骨軸A上の視点から見たときに、大腿骨遠位端の最大範囲の二次元的な形状が得られる。これが、この例における基準形状モデルである。
【0050】
このような基準形状モデルの例を、図4に示す。この例では、基準形状モデル60は、馬蹄形状をしている。ただし、これは説明のための便宜的なものであり、基準形状モデル60は馬蹄形に限られるものではなく、多数のサンプルから統計により求められる形状である。図4に示す基準形状モデルは、右足の大腿骨遠位端についてのモデルであり、人が椅子に腰掛け、大腿骨の骨軸がほぼ水平となった状態で、膝の正面側から骨軸方向に向かって見た大腿骨遠位端の二次元形状を示している。図における右側が身体の内側、左側が身体の外側、上側が座った状態での頭の側すなわち上方、を示す。
【0051】
基準形状モデルは、形状のみならず、サイズの情報も有する。特に重要なサイズとして、水平方向についての最大幅Wがある。この幅Wは、図2に示すように人が椅子に腰掛けた状態で、膝を正面から骨軸Aの方向に見た場合の、基準形状モデルの水平方向(言い換えれば、膝の回転軸に沿った方向)についての最大幅である。基準形状モデルには、この幅Wの情報が含まれる。
【0052】
また、基準形状モデル60には、超音波計測で測定しやすい内側顆の稜線(一点鎖線)の投影線62の情報が含まれる。稜線は、大腿骨遠位端の内側顆の統計的に見た標準的な三次元形状(軟骨部分を含む)において、骨軸A(図2参照)に沿って大腿骨の遠位端よりも近位端側にシフトした位置にある、骨軸Aに垂直な面を基準面としたときに、その基準面に対する高さの極値(峰)を連ねた線である。例えば、大腿骨遠位端内側顆の標準的な三次元形状を、図4のように膝の正面側から骨軸方向に向かって見た場合に、図4において水平方向に沿ったスライス面66(すなわち、骨軸Aに平行且つ水平な面)でその三次元形状をスライスすると、そのスライス面で切断された内側顆の形状は山形となる。様々な高さのスライス面66の山形の頂上の点を連ねたものが、稜線である。稜線自体は三次元的な線であるが、二次元的な基準形状モデル60に持たせる稜線情報は、その三次元的な稜線をその基準形状モデル60の平面に投影した投影線62である。なお、この稜線上に、軟骨荷重部の点が位置する。そこで、稜線の投影線の情報のみならず、軟骨荷重部をその平面に投影した位置を、基準形状モデル60に持たせてもよい。
【0053】
また、この実施形態では、基準形状モデル60に対して測定領域64(破線で示す)が設定されている。測定領域64は、軟骨の厚みなどの評価値を求める範囲を示す二次元的な領域である。この測定領域64は、多数のサンプルからの知見などをもとに定めればよい。図4では、内側顆の軟骨荷重部(図示省略)を含んだ正方形の領域が測定領域64に設定されている。測定領域64を正方形としているのはあくまで一例に過ぎない。例えば円形や楕円形、長方形などといった他の形状を用いてもよい。測定領域64は、軟骨荷重部がその中心を占めるように設定してもよいし、そのように設定しなくてもよい。
【0054】
また、この例では、正方形の測定領域64の一辺の長さを、基準形状モデル60の横幅Wの0.2倍としているが、0.2という係数はあくまで一例に過ぎず、係数は他の数値でもよい。
【0055】
また、この例では、正方形の測定領域64が正立状態、すなわち各辺が図中で水平及び垂直となっているが、これも一例に過ぎない。測定領域64を稜線の投影線62の例えば平均的な傾きに沿って傾けてももちろんよい。例えば測定領域64を楕円形とする場合、その長手軸方向が稜線の投影線62と傾きに沿うように配置してもよい。
【0056】
測定領域64は、基準形状モデル60が記述される二次元座標系内で規定される。したがって、基準形状モデル60を実際の軟骨の三次元形状にフィッティングすべく拡大又は縮小すると、それに応じて測定領域64も拡大又は縮小する。
【0057】
このような基準形状モデル60の情報は、基準形状モデル記憶部35に記憶されている。
【0058】
なお、大腿骨遠位端のサイズや形状は、性別、人種、年齢層などといったカテゴリに応じて異なるので、それらカテゴリごとに基準形状モデル60を作成し、基準形状モデル記憶部35に登録しておくことも好適である。例えば、性別と、20〜30代、40〜50代、60代、70代などといった年齢層との組合せごとに、基準形状モデルを用意するなどである。
【0059】
この実施形態では、上述の軟骨抽出部24で抽出された軟骨の三次元形状のうち、この測定領域64に該当する領域内の各点について、厚み等の評価値を計算する。ここで、この測定領域64を実際の軟骨の三次元形状に適用するために、この実施形態では、軟骨の三次元形状と基準形状モデル60との位置合わせ(フィッティング)処理を行う。この処理を担うのが、定量化処理部34の位置合わせ部36である。
【0060】
位置合わせ部36の行う処理には、軟骨の三次元形状と基準形状モデル60とのサイズ合わせが含まれる。このサイズ合わせでは、大腿骨遠位端の横幅w(膝の回転軸に沿った方向の最大幅)を実測し、基準形状モデル60の幅Wがその横幅wに一致するように、基準形状モデル60を拡大又は縮小する。
【0061】
被検者が図2に示すように椅子に腰掛け、膝を約90度の角度に曲げた状態で、その膝の上側(大腿骨遠位端)の水平方向についての両脇を触ると、皮膚及び筋膜の薄い層を介して大腿骨遠位端の出っ張りを感じることができる。この皮膚や筋膜の厚みは個人差が少ない。そこで、この水平方向両側の出っ張りの幅をノギス等の幅計測器具で計測し、その計測値からあらかじめ定めた皮膚や筋膜の厚みを減算することで、大腿骨遠位端の最大横幅wを求めることができる。なお、検査者が膝の上部の最大幅の実測値を入力すると、位置合わせ部36がその実測値からあらかじめ定めた皮膚や筋膜の厚みを減算し、大腿骨遠位端の最大横幅wを計算するようにしてもよい。位置合わせ部36は、基準形状モデル60の横幅Wが、このようにして求めた被検者の大腿骨遠位端の横幅wに一致するように、基準形状モデル60を拡大又は縮小する。
【0062】
そして、位置合わせ部36は、超音波エコーから求めた軟骨の三次元形状を(サイズ合わせ後の)基準形状モデル60に対して位置合わせする。この位置合わせでは、図5に示すように、その軟骨の三次元形状70の稜線72を基準形状モデル60の平面に投影した投影線が、基準形状モデル60の稜線の投影線62に最もよく適合するように、軟骨の三次元形状70と基準形状モデル60との位置関係を定める。なお、図5に例示する軟骨の三次元形状70は、被検者が椅子に腰掛けて膝を十分に(例えば90度)に曲げたときに膝蓋骨に邪魔されずにプローブ10で計測できる、大腿骨遠位端の内側顆の軟骨についてのものである。
【0063】
この位置合わせに先立ち、軟骨の三次元形状70の向きと基準形状モデル60の向きとを合わせる。1つの例では、メカニカル三次元プローブ10による膝の屈曲方向についての機械的なアーク走査の基準角度(例えば0度)を、図2に示す骨軸Aの方向に合わせる。このときの骨軸Aの方向を、ボリュームデータをデカルト(xyz)座標系で表現する場合のz軸方向としてもよい。このようなアーク走査の座標系でボリュームデータを形成することにより、そのボリュームデータから抽出される軟骨の三次元形状70のアーク走査方向についての基準角度も骨軸Aを向いたものとなる。一方、基準形状モデル60は、大腿骨遠位端を骨軸方向に垂直な面に投影したものである。したがって、軟骨の三次元形状70のその基準角度の向きを、基準形状モデル60の面に垂直な方向に一致させることで、軟骨の三次元形状70の向きが適切なものとなる。
【0064】
位置合わせ部36は、このように向きを合わせた状態で、軟骨の三次元形状70の稜線72を求める。稜線72は、大腿骨遠位端の標準的な三次元形状の稜線を求める場合と同様、例えば図4に示すように水平方向(膝の回転軸が延びる方向)に沿った各スライス面66でその軟骨の三次元形状70をスライスしたときにできるそれぞれの山形状の峰を連ねることで求めればよい。もちろん、稜線の求め方はこれに限るものではない。
【0065】
そして、位置合わせ部36は、軟骨の三次元形状70と基準形状モデル60とをその基準形状モデル60に平行な面内で相互に移動(平行移動又は回転)させながら、両者の位置関係ごとに、稜線72を基準形状モデル60の面への投影線と、基準形状モデル60の稜線の投影線62との一致度(相関度)を計算する。線分同士のパターンマッチング技術は従来様々なものが開発されており、基準形状モデル60の稜線の投影線62との一致度(相関度)は、それら従来技術を用いて求めればよい。一致度が最も高くなったときの軟骨の三次元形状70と基準形状モデル60との位置関係が、それら両者が最もよく位置合わせされた状態である。このように位置合わせされた状態を、図6に示す。
【0066】
位置合わせ部36は、この最良の位置合わせ状態で、基準形状モデル60に設定された測定領域64を、軟骨の三次元形状70に当てはめる(転写する)。軟骨の三次元形状70における骨軸A(図2参照)を例えばその形状を規定するデカルト座標系のz方向とすれば、サイズ合わせ及び位置合わせがなされた基準形状モデル60の測定領域64はxy平面内の正方形(図4の例の場合)であり、その正方形の範囲を規定するx座標及びy座標の情報は、そのまま軟骨の三次元形状70における測定領域74を表すものとなる。この場合、計算すべき軟骨の厚みは、軟骨の三次元形状70のz軸方向についての幅である。
【0067】
図6は、サイズ合わせ及び位置合わせされた状態での基準形状モデル60と軟骨の三次元形状70とを、人体の正面側から、骨軸Aの方向に見た(投影した)ときの状態を示している。この例では、軟骨の三次元形状70の稜線72と基準形状モデル60における稜線の投影線62とがよく位置合わせされており、この状態での測定領域64が、そのまま軟骨の三次元形状70の測定領域74として用いられることとなる。
【0068】
評価値計算部38は、このようにして求められた測定領域74内のあらかじめ定めた各計算点につき、その点における軟骨の三次元形状70の評価値を計算する。例えば骨軸Aの方向をz軸方向とした場合の、xy面内の各画素(ボクセル)をそれぞれ計算点とし、それら画素ごとにその画素位置での評価値を計算してもよい。また、そのような全画素について評価値を求める代わりに、最も注目すべき軟骨荷重部と測定領域74の正方形の各頂点などといった少数の代表点を計算点としてもよい。この場合、例えば、軟骨の三次元形状70において骨軸Aの方向に最も突出した点を軟骨荷重部とすればよい。
【0069】
評価値計算部38が計算する評価値は、例えば、各計算点における軟骨の三次元形状70の厚みである。また評価値計算部38は、各計算点において求めた厚みについての統計値(平均値など)を評価値の1つとして求めてもよい。また、軟骨の三次元形状70のうちの測定領域74内の部分の体積を評価値として求めてもよい。また、軟骨の三次元形状70のうちの測定領域74内の部分の軟骨表面の凹凸度を評価値として求めることもできる。求められた評価値の情報は、画像形成部28にて軟骨の三次元形状70と並べて、或いは重畳して、表示することもできる。例えば、各計算点における軟骨の厚みの値を、その値の大きさに応じて色分けし、軟骨の三次元形状70における測定領域74内の各計算点に重畳して表示することで、軟骨厚みの分布を画像化できる。また、軟骨荷重部の厚みの値を、数値で表示してもよい。
【0070】
次に、この実施形態の超音波診断装置における軟骨測定の流れの一例を、図7を参照して説明する。この例は、性別と年齢層別の組合せごとに、基準形状モデル60を用意している場合の例である。
【0071】
この手順では、被検者を例えば図2に例示したように椅子に腰掛けさせ、メカニカル三次元プローブ10により超音波測定を行い、更にその測定結果のボリュームデータから軟骨抽出部24により軟骨の三次元形状70を抽出する(S10)。抽出された三次元形状70は、三次元データメモリ26に保持される。また、検査者(医師など)から、入力部32を介して被検者の性別、年齢の入力を受け付ける(S12)。また、このとき、検査者は腰掛けた状態での被検者の膝の上部の最大幅(大腿骨遠位端の最大幅に対応)をノギス等で測定し、その測定値を入力部32から入力する。定量化処理部34は、その入力値から、被検者の大腿骨遠位端の幅wを計算する。なお、S10とS12はどちらを先に実行してもよい。
【0072】
次に、定量化処理部34は、入力された性別と年齢の組合せに対応する基準形状モデル60を基準形状モデル記憶部35から選択する(S14)。次に、位置合わせ部36が、選択された基準形状モデル60を測定した軟骨の三次元形状70に対してサイズ合わせし、更にそのサイズ合わせの後、基準形状モデル60を軟骨の三次元形状70に対して、上述のように例えば稜線情報に基づいて、位置合わせする(S16)。その位置合わせされた状態で、基準形状モデル60に設定されている測定領域64を軟骨の三次元形状70に適用する(S18)。そして、評価値計算部38が、適用された測定領域74内の各計算点の厚みなど、その測定領域74についての軟骨の評価値を計算する(S20)。計算された評価値の情報は、画像形成部28により、軟骨の三次元形状70の画像などと組み合わせられ、表示部30に表示される(S22)。
【0073】
以上に説明した例では、超音波により求めた軟骨の三次元形状70と基準形状モデル60との位置合わせを、軟骨の稜線を利用して行ったが、これは一例に過ぎない。この他に、例えば軟骨の稜線の他に、軟骨荷重部の位置を加味して位置合わせを行ってもよい。すなわち、位置合わせの際に、稜線同士の一致度に軟骨荷重部同士の位置の近さも反映させる等の演算を行えばよい。軟骨の三次元形状70と基準形状モデル60とで軟骨荷重部の位置ずれが小さいほど、両者がよりよく位置合わせされているといえる。
【0074】
また、稜線情報を用いず、軟骨荷重部の位置のみを合わせるという位置合わせ処理も考えられる。この場合、位置合わせは、軟骨の三次元形状70と基準形状モデル60(サイズ合わせ済)とを互いに平行移動させることにより行えばよい。
【0075】
また、稜線に加え、又は稜線の代わりに、大腿骨遠位端の略馬蹄形の内側の凹部の曲線形状に用いて位置合わせを行ってもよい。すなわち、例えば図4に示すように、基準形状モデル60に、略馬蹄形の内側の凹部の曲線68の範囲を位置合わせ基準として設定しておき、軟骨の三次元形状70のうち馬蹄形の凹部に対応する部分の曲線が、基準形状モデル60の曲線と一致又は平行に近くなるように、三次元形状70と基準形状モデル60の位置合わせを行う。ただし、これには、抽出された軟骨の三次元形状70の中に、大腿骨遠位端の馬蹄形の凹部の軟骨部分の形状が含まれている必要がある。このように軟骨の凹部曲線を位置合わせに用いる代わりに、超音波で測定した大腿骨遠位端の三次元形状(ボリュームデータ)を基準形状モデル60の平面に投影し、その投影形状における凹部の曲線と基準形状モデル60の曲線68とが一致するよう、大腿骨遠位端の三次元形状と基準形状モデル60とを位置合わせしてもよい。軟骨の三次元形状70と、超音波測定により得た大腿骨遠位端の三次元形状との位置関係は容易に求めることができるので、その位置合わせした状態での基準形状モデル60に対する軟骨の三次元形状70も求められる。
【0076】
また、上述の例では、位置合わせに当たり、軟骨の表面(大腿骨から見て外側の面)の形状情報を用いたが、この代わりに、或いはこれに加えて、特許文献1〜3に例示したのと同様、軟骨の裏面(すなわち、大腿骨遠位端の骨本体部と接する側の面)の形状情報を用いてもよい。軟骨の裏面の場合、稜線ではなく谷底線が位置合わせのための基準の1つとなる。また特許文献1〜3にも説明した通り、軟骨の裏面にも軟骨荷重部が存在する。この場合、基準形状モデル60には、大腿骨遠位端の内側顆の軟骨抜きの形状の稜線(これが軟骨の谷底線に該当する)の投影形状の情報を持たせておき、これと、超音波測定で得た軟骨の三次元形状70の裏面の谷底線の投影形状とが一致するように位置合わせを行えばよい。
【0077】
また、以上の例では、大腿骨遠位端の三次元形状を大腿骨の骨軸に垂直な面に投影した平面形状を基準形状モデル60としたが、投影する面は、必ずしも垂直な面に限らず、骨軸に対してあらかじめ定められた関係を持つ面(基準面と呼ぶ)であればよい。ただし、基準面は、骨軸に平行ではないものとする。基準面としては、骨軸に垂直に近い面の方が望ましい。この場合、基準形状モデル60の稜線の投影線62もその基準面への投影線とすればよい。位置合わせの際、軟骨の三次元形状70の稜線72をその基準面に投影し、この投影線を基準形状モデル60の稜線の投影線と位置合わせすればよい。ただし、基準面として、骨軸に対して垂直な面を選んだ方が、軟骨荷重部の特定などのための計算が容易(例えば、その基準面に対する高さを調べるだけで軟骨荷重部が特定できる)になる。
【0078】
また、以上の例では、基準形状モデル60として、大腿骨遠位端の三次元形状を大腿骨の骨軸に垂直な面に投影した平面形状を用いたが、これは一例に過ぎない。この代わりに、大腿骨遠位端の三次元形状と、超音波測定により得た軟骨の三次元形状70とを互いに位置合わせしてもよい。この場合、位置合わせの基準としては、前述の例と同様、軟骨表面の稜線(又は軟骨裏面の谷底線)を用いることができる。ただし、この場合の位置合わせは、三次元曲線である稜線同士が最もよく一致するように行う。なお、このような三次元的な位置合わせでも、軟骨荷重部の位置(三次元位置)等といった他の位置合わせ基準を用いてもよい。
【0079】
なお、平面的な基準形状モデル60を用いる上述の例は、位置合わせ処理の際に平面内での平行移動や回転を考慮すればよいだけなので、三次元的な位置合わせの場合と比べて計算量がはるかに少なくて済むという利点がある。
【0080】
以上に説明した実施形態における定量化処理部34(特に位置合わせ部36)は、典型的には、上述の定量化処理部34の各処理内容を記述したプログラムを、コンピュータに実行させることにより実現される。ただし、それら処理内容のうちの一部又は全部を、専用LSI(Large Scale Integration)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit、特定用途向け集積回路)又はFPGA(Field Programmable Gate Array)、DSP(Digital Signal Processor)等のハードウエア回路として構成してもよい。
【符号の説明】
【0081】
10 メカニカル三次元プローブ、12 振動子アレイ、14 メカ走査機構、16 送受信部、18 座標変換部、20 三次元データメモリ、22 画像前処理部、24 軟骨抽出部、26 三次元データメモリ、28 画像形成部、30 表示部、32 入力部、34 定量化処理部、36 位置合わせ部、38 評価値計算部、40 振動子部、42 回転軸、44 アーム、46 スタンドオフ、100 大腿骨。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大腿骨遠位端の基準形状を表す基準形状モデルと当該基準形状モデルに対して設定された測定領域とを記憶する記憶手段と、
屈曲した膝の正面側の体表面から超音波ビームを走査することにより、膝内部の大腿骨遠位端の軟骨を含む三次元領域についてのボリュームデータを取得する送受波手段と、
前記ボリュームデータにおける各ボクセルのエコーレベル値に基づき、前記ボリュームデータから前記軟骨に対応する部分を抽出し、抽出した前記軟骨に対応する部分を表す三次元形状データを生成する軟骨形状抽出手段と、
前記軟骨形状抽出手段が生成した前記三次元形状データと前記基準形状モデルとを位置合わせする位置合わせ手段と、
前記位置合わせ手段により位置合わせされた状態で、前記基準形状モデルに対して設定された前記測定領域を前記三次元形状データに当てはめ、前記三次元形状データのうち当該測定領域におけるデータに基づき、あらかじめ定められた評価値を算出する評価値算出手段と、
を備える超音波診断装置。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波診断装置であって、
前記記憶手段に記憶される前記基準形状モデルの情報には、大腿骨遠位端の軟骨の形状の基準となる基準線又は基準点を表す基準情報が含まれ、
前記位置合わせ手段は、前記三次元形状データから前記基準線又は基準点を求め、当該基準線又は基準点が、前記基準情報が表す前記基準形状モデルの基準線又は基準点に最もよく適合するように、前記三次元形状データと前記基準形状モデルとを位置合わせする、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項3】
請求項2に記載の超音波診断装置であって、
前記記憶手段は、前記基準線を表す前記基準情報として、大腿骨遠位端の基準形状の稜線を表す稜線情報を記憶し、
前記位置合わせ手段は、前記三次元形状データの稜線を求め、当該稜線が、前記稜線情報が表す前記基準形状モデルの稜線に最もよく適合するように、前記三次元形状データと前記基準形状モデルとを位置合わせする、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項4】
請求項3に記載の超音波診断装置であって、
前記記憶手段は、前記基準点を表す前記基準情報として、大腿骨遠位端の基準形状の軟骨荷重部の位置を表す荷重部情報を更に記憶し、
前記位置合わせ手段は、前記三次元形状データにおける軟骨荷重部の位置を更に求め、当該三次元形状データにおける前記稜線及び軟骨荷重部の位置が、前記稜線情報及び前記荷重部情報が表す前記基準形状モデルの稜線及び軟骨荷重部に最もよく適合するように、前記三次元形状データと前記基準形状モデルとを位置合わせする、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項5】
請求項3又は4のいずれか1項に記載の超音波診断装置であって、
前記記憶手段は、前記基準線を表す前記基準情報として、大腿骨遠位端の基準形状を大腿骨の骨軸に垂直な面に投影した略馬蹄形の投影形状における内側の凹部の曲線形状を表す凹部形状情報が含まれ、
前記位置合わせ手段は、前記ボリュームデータを前記骨軸に垂直な面に投影した略馬蹄形の投影形状における内側の凹部の曲線形状と、前記凹部形状情報が表す曲線形状との一致度合いも加味して、前記三次元形状データと前記基準形状モデルとを位置合わせする、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の超音波診断装置であって、
前記位置合わせ手段は、前記基準形状モデルの幅を着座状態における膝の横幅の実測値より求められた大腿骨遠位端の幅に合致するよう、前記基準形状モデルと前記測定領域とを拡大又は縮小し、拡大又は縮小された前記基準形状モデルと前記三次元形状データと位置合わせし、拡大又は縮小された前記測定領域を前記三次元形状データに当てはめる、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の超音波診断装置であって、
前記基準形状モデルは、大腿骨遠位端を大腿骨の骨軸方向に対してあらかじめ定めた関係にある基準面に投影した二次元形状の基準形状を表すモデルであり、
前記稜線情報は、大腿骨遠位端内側顆における稜線の形状を前記基準面に投影した形状であり、
前記送受波手段は、前記屈曲した膝に対して、大腿骨の骨軸方向と前記膝の回転軸とに対してあらかじめ定めた関係にある座標系に従って超音波ビームを走査することで、前記ボリュームデータとして前記基準面との関係が既知のデータを求め、
前記位置合わせ手段は、前記三次元形状データを前記基準面に投影した投影形状と、前記基準形状モデルとが最もよく一致するよう、前記三次元形状データを前記基準形状モデルに位置合わせする、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項8】
コンピュータを、
大腿骨遠位端の基準形状を表す基準形状モデルと当該基準形状モデルに対して設定された測定領域とを記憶する記憶手段、
超音波ビームの走査により求められた大腿骨遠位端の軟骨を含む三次元領域についてのボリュームデータを受け取り、当該ボリュームデータにおける各ボクセルのエコーレベル値に基づき、前記ボリュームデータから前記軟骨に対応する部分を抽出し、抽出した前記軟骨に対応する部分を表す三次元形状データを生成する軟骨形状抽出手段、
前記軟骨形状抽出手段が生成した前記三次元形状データと前記基準形状モデルとを位置合わせする位置合わせ手段、
前記位置合わせ手段により位置合わせされた状態で、前記基準形状モデルに対して設定された前記測定領域を前記三次元形状データに当てはめ、前記三次元形状データのうち当該測定領域におけるデータに基づき、あらかじめ定められた評価値を算出する評価値算出手段、
として機能させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−19812(P2012−19812A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−157504(P2010−157504)
【出願日】平成22年7月12日(2010.7.12)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(390029791)日立アロカメディカル株式会社 (899)
【Fターム(参考)】