説明

距離計

【課題】ユーザが誤った取り扱いをするのを回避することができ、これを通じて正確な計測結果を与えることができる距離計を提供する。
【解決手段】ハウジング10と、ハウジング内に設けられた、光ビームを用いて、目標物までの距離を非接触で計測するための測距部20と、ハウジング上に設けられた、ユーザが選択しうるようになっている少なくとも1つの計測起点50A〜50Dと、ハウジング上に設けられた、少なくとも測距部20を操作しうるようになっている操作ボタン30と、ハウジング上に、操作ボタンと関連づけられて設けられた、制御条件、および/または計測起点から目標物までの計測距離が示されるディスプレイ40とを備える距離計100において、ハウジング上に、ディスプレイとは別個に、計測起点50A〜50Dに1対1で対応し、いずれかの計測起点が選択された場合にアクティブ状態となる少なくとも1つの視覚的認識可能手段を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、距離計、特に請求項1の前提部に記載の特徴を有する、目標物までの距離を非接触で計測しうる携帯式の距離計に関する。
【背景技術】
【0002】
冒頭に記載したタイプの距離計は、光学的な手段で距離を計測する。例えば、光変調信号(光パルス、正弦波、疑似雑音等に変調される)の往復にかかる所要時間や、レーザによって与えられるコヒーレント光を放射した際の位相のずれを利用する測距方法は周知である。この外、レーザを用いる三角測量も周知である。これらの方法は、距離計測のために、所望に応じて利用されている。一方、距離計は、目標点までの距離を非接触的に計測しうる、光波を利用する測距部をハウジング内に備えている。このような距離計は、特許文献1または2に記載されているように周知である。
【0003】
冒頭に掲げた距離計は、自在に持ち運びできる携帯式のものを前提としている。特に、ハウジングの輪郭、大きさ等は、手で扱えるようなものである。このような距離計においては、原則として、ハウジング内の計測基準点(零点)から目標物までの距離が計測される。距離計を用いるときには、ユーザが、ハウジングやその取付け部を支持構造物(例えば壁や床等)に設置して、目標物までの距離を計測する。また、ハウジング上には、計測起点(ユーザが選択しうるようになっている)が設けられている。このような計測起点は、ハウジング上に設けられるもの、ハウジングに収容されかつハウジングから延出するようになっている部材に設けられるもの、例えば三脚のように、ハウジングに連結しうるようになっている部材に設けられるもの等がある。ハウジングから延出させるようになっている部材の場合、引き出したり、押し込めたり、固定したりするのは、ユーザが行う。また、計測起点は、必要に応じて、ハウジングに設けられた入力装置を介して、複数の中から選択しうるようにすることもできる。このような入力装置は、例えばキーボードのようなものとすることができる。この場合、距離の計測後に、ユーザに計測起点から目標物までの正確な距離が示されるよう、所望により、計測起点から目標物までの距離に、各計測起点に対応する標準的な定数を加算することができる。計測された距離は、通常、ディスプレイに表示される。ディスプレイは、距離計の設定条件等を示すことができるよう、少なくとも入力装置と接続される。
【0004】
今日の技術水準によれば、冒頭に掲げた距離計による計測の正確さを向上させるため、種々の方式が提案されている。例えば、特許文献3は、計測起点を有するハウジングが温度に対応して変形するのを、往復路を偏向させることにより補償しうる距離計を開示している。また、特許文献4は、計測値から、距離の長短に依存する不正確さを、データ(例えばメモリに格納されている特性曲線)に照らし合わせて取り除くことができる距離計を開示している。
【0005】
上記のように、距離計自体に起因して計測結果が不正確になるおそれがあると、距離計が想定外の誤った取り扱いをされるという、より大きな誤差につながるおそれがある。ところで、特許文献5には、発光の送信を可能にするユーザ制御モジュール(距離計の光源と接続したり、切り離したりすることができる)を備えた距離計が開示されている。
【0006】
このように、計測結果の不正確さを正すことができる距離計が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】ドイツ国特許第10051302号明細書
【特許文献2】ドイツ国特許第10112833号明細書
【特許文献3】ドイツ国特許出願公開第10157378号明細書
【特許文献4】ドイツ国出願公開特許第10232878号明細書
【特許文献5】ドイツ国特許第10239435号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされてものであり、正確な計測結果を与えることができる距離計を提供することを目的する。本発明に係る距離計は、ユーザが誤った取り扱いをするのを回避することができ、これを通じて正確な計測結果を与えることができる。特に、本発明に係る距離計は、ユーザが計測起点を誤って選択することを防止し、正確な計測結果が得られるようにする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題は、本発明に従って、冒頭に掲げた距離計に請求項1の特徴を持たせることにより解決される。本発明によれば、距離計のハウジングは、ディスプレイの他に、計測起点と1対1で適合し、かついずれかの計測起点を選択したときに作動を開始するようになっている視覚的認識可能手段を備える。
【0010】
本発明は、これまでに知られているあらゆる距離計においては、ユーザがいずれの計測起点を選択したかは、不十分にしか示されていないという知見に基づいている。すなわち、これまでの距離計においては、いずれの計測起点が選択されているかは、ユーザにまったく示されないか、または操作ボタンと関連づけられたディスプレイにのみ示されていた。ディスプレイに示す態様としては、例えば、距離計の記号化または図案化された画像、およびこれと同様の、ユーザが選択した計測起点の画像を示すものがある。本発明は、このような計測起点の表示は不十分であり、不正確な計測が生じてしまうおそれを内包しているという認識に基づいている。また、本発明は、このような表示は、小さかったり、複雑であったりするため、距離計を迅速に手で扱う際には、どの計測起点を選択したかを十分に把握する上で、時間がかかる場合があるという認識にも基づいている。特に、比較的小さい画像がモノクロのディスプレイに表示される場合には、ユーザが意図しない計測起点を選択しているおそれが比較的大きいことが分かっている。ユーザが計測起点を誤って選択している場合には、実際に選択した計測起点とは異なる計測起点を、例えば操作ボタンを介して、利用しているおそれがあると捉える必要がある。このような計測起点の意図しない選択の誤りがあると、距離計の計測基準点から視た計測距離が誤った値となるおそれがあり、実際には、計測値の誤差が10cmよりも大きくなる可能性がある。すなわち、距離計の計測基準点から視た計測値が比較的正確なものであっても、これに、誤った加算値を選択するため、目標物までの距離が比較的大きくなり、部分的には、致命的な誤りが表示されることもある。
【0011】
本発明者らは、選択した計測起点をユーザに示すことは、特に有利であり、計測値の正確さを高めることにつながることを見出した。これは、特に、ユーザが選択しうるようになっている一定数の計測起点を有する距離計に当てはまる。距離計の場合、ハウジングの後面に比較的重要な計測起点が設けられている。さらに、ハウジングの後面以外に計測起点が設けられていたり、ハウジングに連結された延長ロッド、もしくは三脚との固定手段に計測起点が設けられていたりする場合もある。本発明は、ただ1つの計測起点しか有しない距離計に対して、複数の計測起点を有することができるよう、改善を提案するものである。本発明によれば、ユーザが一の計測起点を選択したこと、およびどの計測起点を選択したかが、ディスプレイとは別に設けられた、計測起点と1対1で対応する、一の視覚的認識可能手段がアクティブ状態となることにより、ユーザに明瞭に示される。したがって、距離計を手で素早く取り扱う場合でも、ユーザは、選択した計測起点を速やかに認識することができる。いずれにしても、距離計上においてユーザが選択した計測起点は明瞭に示され、ユーザは、距離計から目標物までの距離を計測するため、所望により、この計測起点を確実に正すことができる。したがって、全体として、実際には選択していない、誤った計測起点に基づいて、ユーザが計測を行うおそれは回避される。
【0012】
前述の技術的思想を実現するための、上記以外の本発明の好ましい態様は、引用形式請求項および以下の好ましい態様に記載されている。
【0013】
本発明の特に好ましい態様によれば、計測起点の位置と、これに1対1で対応するハウジング上の視覚的認識可能手段の形態的特徴は、対応する視覚的認識可能手段から、ユーザが直ちに計測起点の位置を関連づけることができるようなものとされる。換言すれば、視覚的認識可能手段の外観的特徴は、計測起点の位置について、ユーザにヒントを与えることができるようなものとされる。ユーザにとって明瞭で、かつ計測起点の位置と関連づけることが可能な視覚的認識可能手段(ハウジングのディスプレイから離間して設けられる)の好ましい態様は、距離計を直感的に手で操作しうるようにするものである。高い確率で生じうる大きな過誤の原因は、ここでは、除外される。特に好ましいのは、計測起点の位置が、視覚的認識可能手段の設置位置と関連づけられるように、計測起点の位置と、これに1対1で対応する視覚的認識可能手段のハウジング上における配置とを予め定めておくことである。特に、視覚的認識可能手段(80A〜80D)の配置は、選択されなかった計測起点(50A〜50D)の位置の近くにあるものよりも、選択された計測起点(50A〜50D)の位置に近くにあるものがアクティブ状態となるように定めるのが好ましい。ユーザは、自身がどの計測起点を選択したかを、ハウジング上で直ちに視認できるようになっているのが好ましい。ユーザは、距離計上で、アクティブ状態となった視覚的認識可能手段に最も近い計測起点に基づいて、ハウジングを直感的に操作できるようになっているのが好ましい。特に好ましい態様においては、視覚的認識可能手段は、選択された計測起点のすぐ隣、またはこれと同じ位置にあるものがアクティブ状態となる。
【0014】
ハウジングは、ユーザが選択しうるようになっている複数の計測起点、およびこれに1対1で対応する一定の視覚的認識可能手段を備えているのが特に好ましい。各計測起点は、各視覚的認識可能手段からは離間して、1つ1つ捉えやすいように配置されているのが好ましい。こうすれば、ユーザが、自身が選択した計測起点とは異なる計測起点を、実際に目標物までの距離の計測に用いるという誤りは回避される。
【0015】
複数の計測起点は、ハウジングに固定的に設けられている計測起点を含むのが好ましい。このような計測起点としては、ハウジングの後面に設けられた後方の計測起点がある。これに加えて、またはこの代わりに、側方の計測起点、前方の計測起点、上方もしくは下方の計測起点、または延長可能な、もしくは折りたたみ式の計測起点等の、1つまたは複数の計測起点を設けることもできる。ハウジングに連結される計測起点とは、ハウジング上に固定的に設けられてはいない計測起点を意味するものであるとすれば、このような計測起点は、ハウジングに連結される延長ロッドに設けられたものを例示することができる。あるいは、このような計測起点は、ハウジングに連結される三脚のような台架に設けられたものでもよい。この場合、ハウジングに取り付ける三脚のねじ部または取り付け部の位置が、計測起点の位置となる。さらに、計測起点を他にも設けることができるが、この場合でも分散配置された視覚的認識可能手段を、計測起点に対応して別個に対応させる必要がある。
【0016】
視覚的認識可能手段は、LED、ランプ等の発光手段として形成するのが特に好ましい。このような発光手段は、光信号を出射しうるように構成されている。光信号は、持続的に出射されるだけではなく、点滅したり輝度が変化したりして出射されるようなものでなければならない。上記のような発光手段やこれに関連する発光手段を用いると、ユーザによる視覚的認識可能手段の視認性を飛躍的に高める。
【0017】
ハウジング上に設ける視覚的認識可能手段の形態は、1つまたは複数の形態的特徴を有するのが好ましい。このような形態的特徴として、例えば、ユーザに、自身が選択した計測起点との関連を示すのに適当な色彩や大きさを選択する。この外に、形状(例えば計測起点を指し示す矢印等)を適宜選択することもできる。
【0018】
本発明の特に好ましい態様によれば、目標物までの距離を、光ビームの往復時間を利用して計測する測距部が用いられる。このような測距部は、レーザ装置、ならびに投光モジュールおよび受光モジュールを備える。投光モジュールは、光ビームを目標物に向けて発するための、光軸をもつ出射光路を有する。一方、受光モジュールは、目標物によって反射された光ビームを入射させるための、光軸をもつ入射光路を有する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1a】本発明の一実施形態に係る距離計の主要な機能を説明するための模式的な正面図である。
【図1b】同側面図である。
【図2a】図1aと図1bとに示す距離計に用いる測距部の変形例である2軸式測距部を示す正面図である。
【図2b】同じく、同軸式測距部を示す正面図である。
【図3】図1aと図1bとに示す距離計を使って、ハウジングに設けられた互いに異なる3つの計測起点から、距離を計測する態様を示す概略図である。
【図4a】ユーザが選択した第1の計測起点と、これに対応する視覚的認識可能手段(発光ダイオードを含む発光部)に従って、距離計を操作する態様を示す正面図である。
【図4b】ユーザが選択した第2の計測起点と、これに対応する視覚的認識可能手段に従って、距離計を操作する態様を示す正面図である。
【図4c】ユーザが選択した第3の計測起点と、これに対応する視覚的認識可能手段に従って、距離計を操作する態様を示す正面図である。
【図4d】ユーザが選択した第4の計測起点と、これに対応する視覚的認識可能手段に従って、距離計を操作する態様を示す正面図である。
【図4e】ユーザが選択した第5の計測起点と、これに対応する視覚的認識可能手段に従って、距離計を操作する態様を示す正面図である。
【図5a】図4a〜図4eに示す距離計の視覚的認識可能手段を構成する、ディスプレイから離間して設けられたすべての発光部を描いた正面図である。
【図5b】同側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
上記以外の本発明の効果、特徴および詳細は、以下の実施形態および添付の図面から明らかになるであろう。
【0021】
以下では、本発明の実施形態を、添付の図面を参照して詳細に説明する。以下の実施形態は、添付の図面は、実施形態に示す装置等を必ずしも等縮尺で描いたものではない。むしろ説明に役立つよう、模式的に、および/または変形させて描いたところもある。この外、図面から直ちに認識しうる事項は、現時点での技術水準に鑑み省略してある。また、実施形態に示す装置等の形状や内部の詳細については、本発明の技術的思想から逸脱しない範囲で、多様な設計変更や変形例が可能であることに留意すべきである。明細書、図面および特許請求の範囲に開示された本発明の発明特定事項は、単独でも、任意の組み合わせによっても、本発明をさらに発展させる上で重要である。さらに、明細書、図面および/または特許請求の範囲に開示された発明特定事項の少なくとも2つを組み合わせたものは、本発明の技術的範囲に包含される。本発明の技術的思想は、以下に添付図面を参照して説明する好ましい実施形態に係る形状や内部の詳細、または出願時の技術水準によって限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に照らして判断されるべきである。数値範囲が与えられた場合には、境界値を除く、その範囲に入る値は、任意に適用することができ、かつ特許請求の範囲に包含される。理解の容易のため、以下では、同一もしくは類似の形状を有する要素、または同一もしくは類似の機能を営む要素については、同一の符号を用いている。
【0022】
図1aおよび図1bは、目標物までの距離を非接触方式で計測しうる携帯式の距離計100を示す。図1aは、距離計100のハウジング10の操作面を示す正面図であり、他方、図1bは、ハウジング10の側面図である。両図とも、距離計100の各構成要素を模式的に示している。
【0023】
手持ち式レーザ距離計とも呼ばれる距離計100は、手で扱えるように形作られたハウジング10を備えている。すなわち、ハウジング10は、本質的なことではないが、手の平よりも大きくなく、これに応じた手触りがある(必要に応じて、人間工学的な面も考慮される)。また、図には、分かりやすいように方形に描いてある。ハウジング10の内部には、本発明をレーザ距離計としても捉えうるものとする、レーザビーム1を用いる測距部20(破線で示す)が収容されている。なお、図2aと図2bは、それぞれ、測距部20の変形例を示す。目標物までの距離を非接触式で計測する際の種々の態様は、図3に詳しく示してある。
【0024】
距離計100におけるハウジング10の操作面には、キーボードタイプの操作ボタン30が組み込まれている。ハウジング10の操作面には、この外、目標物までの計測距離および距離計100の設定条件を示すディスプレイ40も設けられている。測距部20の操作、および以下に説明するハウジング10の計測起点の選択は、操作ボタン30を介して行われる。レーザビーム1を出射して距離の計測を行う際には、ユーザは、内蔵されている計測基準点NPを参照し、通常、符号50A〜50Dで示す計測起点(後に、図3、図4a〜図4eならびに図5aおよび図5bを参照して詳細に説明する。図1aおよび図1bにはその一部だけを示す。)の1つに従って、目標物までの距離を計測する。換言すれば、ユーザは、操作ボタン30を介して、ハウジング10の面10A〜10C、または延長ロッドの先端10Dを基準とする計測起点50A〜50Dのいずれかを選択することにより、距離計100による計測結果に、選択された計測起点50A〜50Dのいずれかに対応する一定の値を加算する。計測起点50A〜50Dに対応する加算値は、計測起点50A〜50Dから計測基準点NPまでの隔たりによって、それぞれ異なり、互いにおおよそ10cmまでかそれ以上の相違がある。発明の距離計100においては、ユーザが計測起点50A〜50Dのうちどれを選択したかが、視覚的認識可能手段(図4a〜図4eならびに図5aおよび図5b を参照して詳細に説明する)を介して、ユーザに明瞭に示されるため、ある程度大きな測定ミスは回避される。したがって、距離計100を使用するならば、ユーザは、選択した計測起点を、目標物までの距離の計測に効果的に活用できることが保証される。また、このような保証があるならば、計測起点50A〜50Dから目標物200(図3参照)までの距離(すなわち計測基準点NPから目標物200までの距離に正しい加算値を加えた値)は、正しく表示される。
【0025】
図3の中央には、最も重要な計測起点(すなわち、レーザビーム1を用いて目標物200までの距離を計測するための支持構造物の表面300上における計測起点50A(距離計100の後面に位置する))に従って距離計100を使用する際の態様が描かれている。この場合、まず、距離計100の計測基準点NPから目標物200の計測点P2までの距離が、測距部20により計測される。ついで、支持構造物の表面300から計測点P2までの距離が、正しい加算値(すなわち、計測起点50Aに対応する加算値)を加えられて、ディスプレイに表示される。
【0026】
図3の上部には、目標物200の計測点P1までの距離を、レーザビーム1を利用して、測距部20により計測する態様が描かれている。この計測の際は、距離計100の前面に位置する計測起点50Bに従って、前述の態様と同様に、支持構造物の表面300からの距離の計測が行われる。この場合には、距離計100の計測基準点NPから目標物200の計測点P1までの距離が計測され、さらに正確な加算値が加えられた(すなわち、計測起点50Bに対応する加算値が使用された)後に、ユーザに示される。
【0027】
図3の下部には、支持構造物の表面300から目標物200の計測点P3までの距離を、レーザビーム1を利用して、測距部20により計測する態様が描かれている。先に説明した2つの態様との違いは、ハウジング10の延長ロッド60の先端に位置する計測起点50Dから、距離が計測されることである。この場合、計測起点50Dに対応する加算値が使用され、計量装置100のディスプレイ40において、ユーザに正しい距離が示される。延長ロッド60は、図示の形式とは異なる、折り畳み式、伸縮式またはねじ込み式とすることもできる。図1aと図1bに模式的に示し、さらに図4a〜図4eならびに図5aおよび図5bにおいて詳しく例示してあることから明らかなように、三脚などの台架は、実際には、延長ロッド60と考えてよい。距離計100は、また、図3には使用時の態様が示されていない変形例においては、図1aと図1bに示すように、三脚をねじ込めるねじ部を有し、その中心部が計測起点50c(図4c参照)として使用される。
【0028】
距離計100の計測基準点NPから目標物200までの距離を確定するためには、冒頭に説明した方法を用いる。距離計100は、レーザビーム1の往復に要する時間に基づいて距離を計測する測距部20を備えている。図2aおよび図2bは、それぞれ、測距部20として用いうる2つのタイプの測距部20A,20Bを示す。これらの測距部20A,20Bは、レーザ装置21(例えば、投光モジュール22および受光モジュール23とともに使用されるレーザダイオード)を備えている。また、測距部20A,20Bは、レーザビーム1を目標物200に向けて出射する際の光路24(1本の光軸をもつ)を有している。さらに、測距部20A,20Bは、目標物200によって反射および/または散乱されたレーザビーム2(図3参照)が入射する際の光路25(光軸を含む)も有している。入射時の光路25には、反射および/または散乱されたレーザビーム2を検知するための検知器26が設けられている。受光モジュール23は、測距部20Aにおいても測距部20Bにおいても、検知器26(例えばフォトダイオード)に入射する反射および/または散乱されたレーザビーム2を収斂させる役割を果たす。図2aに示す測距部20Aは、出射時の光路24と入射時の光路25が重ならないよう、投光モジュール22と受光モジュール23を別々に備えている。これらの光路24,25は、測距部20A内において、2つの光軸をもつように配置されている。一方、測距部20Bにおいては、測距部20Aとは違って、光路24と25は、同軸的に配置されている。すなわち、出射時の光路24と入射時の光路25は、ビームスプリッタ27を介して組み合わされており、投光・受光モジュール22,23は、両方の光路24,25中に位置する。一方、レーザ装置21(または検出器26)とビームスプリッタ27の間の領域においては、出射時の光路24と入射時の光路25は一致しなくなる。
【0029】
より具体的にいうと、測距部20A,20Bがレーザ測距部である場合には、レーザ装置21(レーザダイオード)から出射されるレーザビーム1は、投光モジュール22のレンズによってビーム化される。ビーム化されたレーザビーム1は、ハウジングの前面10B(図1aおよび図1b参照)から、目標物200(例えば計測点P1,P2,P3)に向かって出射され、計測点P1,P2,P3に光点を生じさせる。ついで、反射および/または散乱されたレーザビーム2は、受光モジュール23のレンズによって、検出器26におけるフォトダイオードの活性領域に結像する。測距部20Aは光軸を2つもつように、他方、測距部20Bは同軸的に構成されている。距離計100の計測基準点NPから目標物200までの距離(往路と復路を合わせたもの)を確定するために、レーザビームは変調される。この変調は、パルス状または正弦波形となるように行われる。すなわち、レーザビームの変調は、変調された出射光と入射光について、出射時刻と入射時刻との時間差を計測しうるように行われる。光速度の値を用いて、距離計の計測基準点NPから目標物200までの片道の距離を求めることができる。この計算は、図示していない制御装置において行われる。
【0030】
多くの場合、距離計100は、図3の中央部に示すように、その後面10A(計測起点50Aに対応する)を使って、支持構造物の面300(壁面、床面等)に固定される。したがって、距離計の後面10Aには、後方計測起点50Aが設けられている。一旦このような設定がなされると、それ以降は、目標物200までの計測された距離のすべてについて、この計測起点50Aが参照される。仮にユーザが操作ボタン30を介して、一度計測起点50Aを選択すると、前述の制御装置において、この計測起点50Aに対応する加算値が、計測基準点NPからの計測値に加えられ、その結果得られた値がディスプレイ40に表示される。
【0031】
本発明の技術的思想によれば、図4a〜図4eに示す距離計100は、距離計測のためにユーザが選択しうるようになっているいくつかの計測起点50A,50B,50C,50D.1および50D.2を備えている。さらに、距離計100は、分散配置されたいくつかの視覚的認識可能手段80A,80B,80C,80D.1および80D.2も備えている。分散配置された視覚的認識可能手段80A,80B,80C,80D.1および80D.2は、ディスプレイ40とは別に設けられ、これらの計測起点50A,50B,50C,50D.1および50D.2の各々と互いに別個に1対1で対応している。図4a〜図4eから明らかなように、選択された計測起点は、ディスプレイ40において、アイコン3A,3B,3C,3D.1および3D.2によって示される。ただし、本発明の技術的思想においては、このような表示は必ずしも必要ではなく、省略することもできる。この実施形態においては、計測起点50A〜50D.2のいずれが選択されたかは、視覚的認識可能手段80A〜80D.2を介してユーザに示される。視覚的認識可能手段80A〜80D.2は、ここでは、LEDのような発光体からなるインジケータとして形成されている。図4aに示すように、ハウジングの後面10Aには、最後部の計測起点50Aに対応する視覚的認識可能手段80Aが設けられている。この視覚的認識可能手段80Aは、図3の中央部に示す態様で距離計100を使用する際に発光しアクティブ状態となる。また、図4bに示すように、ハウジングの前面10Bには、最前部の計測起点50Bに対応する視覚的認識可能手段80Bが設けられている。この視覚的認識可能手段80Bは、図3の上部に示す態様で距離計100を使用する際に発光する。
【0032】
図4cから明らかなように、ハウジング10は、中央部に、三脚を用いる場合のハブとして形成された計測起点50Cを有している。この中央部にある計測起点50Cは、ハウジングの上面(操作面)に設けられた視覚的認識可能手段80Cに対応している。一方、視覚的認識可能手段80Cは、計測起点50Cが用いられると(すなわち、距離計100が、ねじ部を用いて三脚に螺合されると)、直ちに発光する。
【0033】
図4dから明らかなように、ハウジング10は、第1の計測起点50.1を有する第1の延長ロッド60.1を備えている。他方、図4eから明らかなように、ハウジング10は、第2の計測起点50.2を有する第2の延長ロッド60.2も備えている。ハウジングの長手軸方向に沿って並ぶ視覚的認識可能手段80D1.および80D.2は、それぞれ計測起点50D.1および50D.2に対応している。
【0034】
図5aおよび図5bには、計測起点50A〜50Cとともに、視覚的認識可能手段80A〜80Dを模式的に示してある。図4a〜図4eには、それぞれ、視覚的認識可能手段80A〜80D.2うち、選択された計測起点50A〜50D.2に対応するものだけを示している。
【0035】
これまでの実施形態から、計測起点50A〜50D.2の位置、およびこれに対応する視覚的認識可能手段80A〜80D.2のハウジング上における位置は、予め関連づけられていることが分かる。すなわち、視覚的認識可能手段80A〜80Dのウジング上における位置は、限定されている。このような位置上の関係は、図4a〜図4eから明らかなように、視覚的認識可能手段80A〜80Cのハウジング上の位置は、それぞれ、選択されていない計測起点の位置よりも、選択された計測起点50A〜50Cの各位置に近接している。すなわち、計測起点50Aを選択した場合には、視覚的認識可能手段80Aだけが発光している。また、計測起点50Bを選択した場合には、視覚的認識可能手段80Bだけが発光している。さらに、計測起点50Cを選択した場合には、視覚的認識可能手段80Cだけが発光している。このような位置の対応関係は、計測起点50Dと視覚的認識可能手段80Dにも当てはまる(図5aおよび図5b参照)。すなわち、視覚的認識可能手段80Dは、視覚的認識可能手段80A〜80Cとは異なる位置を占めている。ユーザは、この視覚的認識可能手段80Dに加えて、延長ロッド60.1または60.2を見れば、その時点で、自身が計測起点50D.1および50D.2のいずれを選択したかを直観的に把握することができる。このような把握は、操作ボタン30の操作、または延長ロッド60.1もしくは60.2の引き出し、押し込み、もしくは固定の後に可能となる。
【0036】
視覚的認識可能手段80A〜80Dを、計測起点50A〜50Dの位置と対応させるに際し、これらのハウジング10上の場所的な関係の対応だけではなく、上記実施形態以外の態様で、例えば、該当する視覚的認識可能手段80A〜80Dの大きさや形状(矢印や符号など)で表すことにより、選択された計測起点50A〜50Dの位置を指し示すようにすることもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標物(200)までの距離を非接触で計測するための、携帯式のものを含む、距離計(100)であって、
手持ち式のものを含む、ハウジング(10)と、
前記ハウジング(10)内に設けられた、光ビームを用いて、目標物(200)までの距離を非接触で計測するための測距部(20)と、
前記ハウジング(10)上に設けられた、ユーザが選択しうるようになっている少なくとも1つの計測起点(50A〜50D)と、
前記ハウジング(10)上に設けられた、少なくとも前記測距部(20)を操作しうるようになっている操作ボタン(30)と、
前記ハウジング(10)上に、前記操作ボタン(30)と関連づけられて設けられた、制御条件、および/または前記計測起点(50A〜50D)から目標物(200)までの計測距離が示されるディスプレイ(40)とを備える距離計(100)において、
前記ハウジング(10)は、
前記計測起点(50A〜50D)に1対1で対応し、いずれかの計測起点(50A〜50D)が選択された場合にアクティブ状態となる少なくとも1つの視覚的認識可能手段(80A〜80D)を、前記ディスプレイ(40)とは別個に備えることを特徴とする距離計。
【請求項2】
前記計測起点(50A〜50D)の位置と、前記ハウジング(10)上における視覚的認識可能手段(80A〜80D)の形態とは、計測起点(50A〜50D)の位置が、対応する視覚的認識可能手段(80A〜80D)に関連づけられるように定められることを特徴とする請求項1に記載の距離計。
【請求項3】
前記計測起点(50A〜50D)の位置と、前記ハウジング(10)上における視覚的認識可能手段(80A〜80D)の配置とが、計測起点(50A〜50D)の位置が、対応する視覚的認識可能手段(80A〜80D)の配置と関連づけられるように定められることを特徴とする請求項1または2に記載の距離計。
【請求項4】
前記視覚的認識可能手段(80A〜80D)の配置は、選択されなかった計測起点(50A〜50D)の位置の近くにあるものよりも、選択された計測起点(50A〜50D)の位置に近くにあるものがアクティブ状態となるように定められることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の距離計。
【請求項5】
前記ハウジング(10)上に設けられる視覚的認識可能手段(80A〜80D)の前記形態は、色彩、矢印、大きさおよび形状を含む1つまたは複数の形態的特徴を有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の距離計。
【請求項6】
前記ユーザが選択しうるようになっている計測起点(50A〜50D)は、距離計における計測起点の操作、または固定によって選択されるようになっていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の距離計。
【請求項7】
前記ユーザが選択しうるようになっている計測起点(50A〜50D)は、前記操作ボタン(30)を介して選択されるようになっていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の距離計。
【請求項8】
前記ハウジング(10)は、ユーザが選択しうるようになっている複数の計測起点(50A〜50D)、および分散配置された複数の視覚的認識可能手段(80A〜80D)を備え、前記分散配置された視覚的認識可能手段(80A〜80D)は、それぞれ別個に、前記計測起点(50A〜50D)の1つに1対1で対応していることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の距離計。
【請求項9】
前記複数の計測起点(50A〜50D)は、ハウジング(10)上に固定された計測起点(50A,50B)、およびハウジング(10)に連結された計測起点(50C,50D)を含むことを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の距離計。
【請求項10】
前記ハウジング(10)は、前方の計測起点(50B)を有する前面(10B)、および/または、上方もしくは下方の計測起点を有する上面もしくは下面、および/または、側方の計測起点(50C)を有する側面(10C)、および/または、後方の計測起点(50A)を有する後面(10A)を備え、前記ディスプレイ(40)とは別に設けられている視覚的認識可能手段(80A〜80D)は、それぞれが、これらの計測起点(50A〜50D)と1対1で対応しており、いずれかの計測起点(50A〜50D)が選択された場合にアクティブ状態となることを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の距離計。
【請求項11】
前記ハウジング(10)は、このハウジング(10)に連結されているか、もしくはこのハウジング(10)に連結しうるようになっている延長ロッド(60.1,60.2)、またはハウジングの一面(10D)上における前記計測起点(50C,50D)と位置が揃うようになっている台架を備え、前記ディスプレイ(40)とは別個に設けられている視覚的認識可能手段(80A〜80D)は、それぞれが、前記計測起点(50C,50D)と1対1で対応しており、いずれかの計測起点(50C,50D)が選択された場合に、対応するものがアクティブ状態となることを特徴とする請求項1乃至10のいずれかに記載の距離計。
【請求項12】
前記視覚的認識可能手段(80A〜80D)は、光信号を出射しうるLEDおよびランプを含む発光手段として形成されていることを特徴とする請求項1乃至11のいずれかに記載の距離計。
【請求項13】
前記光ビーム(1)を用いる測距部(20)は、
レーザ装置(21)と、
投光モジュール(22)および受光モジュール(23)と、
光ビーム(1)を目標物(200)に向けて発するための、光軸をもつ出射光路(24)と、
目標物(200)によって反射および/または散乱された光ビーム(2)を入射させるための、光軸をもつ入射光路(25)とを有し、
前記測距部(20)は、往復に要する時間を計測するようになっているものを含むことを特徴とする請求項1乃至12のいずれかに記載の距離計。

【図1a】
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【図1b】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【図4c】
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【図4d】
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【図4e】
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【図5a】
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【図5b】
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【公開番号】特開2012−118077(P2012−118077A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−260465(P2011−260465)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(591010170)ヒルティ アクチエンゲゼルシャフト (339)
【住所又は居所原語表記】Feldkircherstrasse 100, 9494 Schaan, LIECHTENSTEIN
【Fターム(参考)】