距離速度測定装置
【課題】スペクトル拡散方式による距離速度測定装置において、高精度に距離と速度を測定すること。
【解決手段】照射光を強度変調する拡散符号として、PN符号と周期符号との論理和をとった変調符号を用いる。周期符号の周期は、パルス幅の6倍以上とする。このような変調符号は、自己相関関数のピークが鋭いため、精度よく目標物までの距離を算出することができ。また、ローカル光と反射光とのビート信号をサンプリングする際に、周期符号の符号1のタイミングにおいては信号強度が0とはならないので、ビート信号を高精度に算出することができ、目標物の速度を共に高精度に測定することができる。
【解決手段】照射光を強度変調する拡散符号として、PN符号と周期符号との論理和をとった変調符号を用いる。周期符号の周期は、パルス幅の6倍以上とする。このような変調符号は、自己相関関数のピークが鋭いため、精度よく目標物までの距離を算出することができ。また、ローカル光と反射光とのビート信号をサンプリングする際に、周期符号の符号1のタイミングにおいては信号強度が0とはならないので、ビート信号を高精度に算出することができ、目標物の速度を共に高精度に測定することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、目標物に対して光を照射することにより、目標物の距離と速度を同時に測定する距離速度測定装置に関するものであり、特に拡散符号を用いて光を変調して照射するスペクトル拡散方式によるものである。
【背景技術】
【0002】
目標物に光を照射し、その目標物による反射光を受光し、発光から受光までの時間を計測することで目標物までの距離を測定する方法が広く知られている。この方法では、散乱などによって測定精度が落ち、遠距離まで測定することができない。これを解決する方法として、スペクトル拡散方式による距離測定方法が知られている(特許文献1)。スペクトル拡散方式は、光をPN符号などの拡散符号で変調して目標物に照射し、受光した反射光から拡散符号を復調し、変調した拡散符号と復調した拡散符号とで相互相関を取り、その相関ピークの位置から目標物までの距離を測定する。また、特許文献1では、駆動回路によって直接に出力を拡散符号で変調する方式(直接変調方式)を取っている。
【0003】
また、特許文献2には、レーザー光を送信光とローカル光に分割し、送信光を擬似ランダム変調信号により変調し、送信光を目標物に照射して反射された光を受信し、その受信光とローカル光とのビート信号を生成し、ビート信号と擬似ランダム変調信号との相関信号の信号強度、周波数を解析することにより、目標物の距離、速度を測定することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−368720
【特許文献2】特開2000−338243
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
スペクトル拡散方式において目標物の距離と速度を同時に測定しようとする場合、拡散符号で変調された光を照射するため、ドップラー周波数の算出のためビート信号をサンプリングする際に、符号が0の点でサンプリングしてしまう可能性があり、速度を高精度に測定することができなかった。
【0006】
そこで本発明の目的は、スペクトル拡散方式によって距離と速度を同時に測定する距離速度測定装置において、距離と速度の双方を高精度に測定する装置を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、光を拡散符号で変調して目標物に照射し、目標物からの反射光を受信して目標物までの距離、および目標物の速度を測定するスペクトル拡散方式による距離速度測定装置において、一定周期のクロックに同期して第1拡散符号を生成する第1拡散符号生成手段と、クロックに同期して第1拡散符号の1ビット長よりも長い周期を有した周期符号を生成する周期符号生成手段と、第1拡散符号と周期符号との論理和をとって第2拡散符号を生成する第2拡散符号生成手段と、照射光を出力する光源と、照射光を第2拡散符号で変調し、目標物に照射する送信手段と、目標物によって反射された反射光を受信して受信信号を生成する第1受信手段と、反射光と照射光とを混合して受信し、ビート信号を生成する第2受信手段と、受信信号と第2拡散符号生成手段が生成した第2拡散符号との相関関数を算出することで目標物までの距離を測定すると共に、ビート信号を周期符号が1のタイミングでサンプリングしてフーリエ変換し、ビート信号の周波数であるドップラー周波数を算出することで目標物の速度を測定する距離速度演算部と、を有することを特徴とする距離速度測定装置である。
【0008】
第2の発明は、光を拡散符号で変調して目標物に照射し、目標物からの反射光を受信して目標物までの距離、および目標物の速度を測定するスペクトル拡散方式による距離速度測定装置において、一定周期のクロックに同期して第1拡散符号を生成する第1拡散符号生成手段と、クロックに同期して第1拡散符号の1ビット長よりも長い周期を有した周期符号を生成する周期符号生成手段と、第1拡散符号と周期符号との論理和をとって第2拡散符号を生成する第2拡散符号生成手段と、光源と、第2拡散符号にしたがって符号が0のときに出力が第1の値b1、符号が1のときに出力が前記第1の値b1よりも大きい第2の値b2、となるよう光源を駆動して、第2拡散符号で変調された照射光を生成し、目標物に前記照射光を照射する送信手段と、目標物によって反射された反射光を受信して受信信号を生成する第1受信手段と、反射光と照射光とを混合して受信し、ビート信号を生成する第2受信手段と、受信信号と第2拡散符号生成手段が生成した第2拡散符号との相関関数を算出することで目標物までの距離を測定すると共に、ビート信号を周期符号が1のタイミングでサンプリングしてフーリエ変換し、ビート信号の周波数であるドップラー周波数を算出することで目標物の速度を測定する距離速度演算部と、を有することを特徴とする距離速度測定装置である。
【0009】
第1、2の発明における目標物の距離の算出では、受信信号と第2拡散符号との相関関数を直接算出するのではなく、受信信号から第2拡散符号を復号し、その復号した第2拡散符号と第2拡散符号生成手段が生成した第2拡散符号との相関関数を算出するようにしてもよい。
【0010】
第3の発明は、第2の発明において、距離速度演算部は、ビート信号の出力のうち、反射光の符号が1で照射光の符号が0のときの干渉の時間帯の信号強度をb2/b1倍して補正する、ことを特徴とする距離速度測定装置である。
【0011】
第4の発明は、第1の発明から第3の発明において、ビート信号のサンプリングは、サンプリングタイミングをずらして2回以上サンプリングを行うことを特徴とする距離速度測定装置である。
【0012】
第5の発明は、第3の発明において、ビート信号のサンプリングは、クロック位相からπ/2遅延したタイミングと、3π/2遅延したタイミングの2回行うことを特徴とする距離速度測定装置である。
【0013】
第6の発明は、第1の発明から第5の発明において、周期符号の周期は、符号のパルス幅の6倍以上とすることを特徴とする距離速度測定装置である。
【0014】
第7の発明は、第1の発明から第6の発明において、周期符号の周期は、測定する目標物の最大速度をV、光源の波長をλとして、λ/(4V)以下とすることを特徴とする距離速度測定装置である。
【発明の効果】
【0015】
第1、2の発明によると、ビート信号をサンプリングする際に、周期符号の符号1のタイミングにおいては信号強度が0とはならないので、目標物の速度を共に高精度に測定することができる。また、周期パルス信号の周期を第1拡散符号の1ビット長よりも長くしているため、第2拡散符号の自己相関ピークは高く、目標物の距離を測定する際も精度を悪化させることがない。
【0016】
また、第3の発明によると、より高精度に目標物の速度を測定することができる。
【0017】
また、第4、5の発明によると、少なくとも1つのサンプリングは、信号の立ち上がり、立ち下がりに入らないようにすることができるので、より精度よく速度を測定することができる。
【0018】
また、第6、7の発明によると、第2拡散符号の自己相関関数のピークがより鋭くなるため、距離測定の精度をより向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例1の距離速度測定装置の構成を示した図。
【図2】変調符号の構成を説明する図。
【図3】変調符号の自己相関関数と周期符号の周期Tとの関係を示した図。
【図4】ビート信号の波形を示した図。
【図5】実施例2の距離速度測定装置の構成を示した図。
【図6】ビート信号の波形を示した図。
【図7】ドップラー周波数をシミュレーションにより算出した結果を示した図。
【図8】ドップラー周波数をシミュレーションにより算出した結果を示した図。
【図9】クロック位相と受信信号の関係を示した図。
【図10】クロック位相と受信信号の関係を示した図。
【図11】クロック位相と受信信号の関係を示した図。
【図12】クロック位相と受信信号の関係を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の具体的な実施例について図を参照に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0021】
図1は、実施例1の距離速度測定装置の構成について示した図である。実施例1の距離速度測定装置は、レーザー10と、強度変調器11と、符号発生回路12と、フォトダイオード13A、Bと、距離速度演算部14と、スプリッタ15、16と、によって構成されている。
【0022】
レーザー10は、連続光を発光する狭帯域なレーザー光源であり、その中心波長はたとえば1500nmである。レーザー10から出力される光は、スプリッタ15によって分割され、一方は目標物に照射する照射光、他方はビート信号を生成するローカル光として用いる。ローカル光はフォトダイオード13Aに入力される。
【0023】
符号生成回路12は、一定周期τのクロックに同期してPN符号(本発明における第1拡散符号)と周期符号を生成し、PN符号と周期符号との論理和をとって変調符号(本発明における第2拡散符号)を生成する(図2参照)。周期符号は、周期Tでパルス幅τの周期パルスである。周期Tはパルス幅τの整数倍である。PN符号はパルス幅(1ビット長)τのM系列やGold系列などの符号である。
【0024】
強度変調器11は、レーザー10が出力する照射光を、符号生成回路12が生成する変調符号によって符号1で照射孔をほぼ透過し、符号0で光強度が0に強度変調する。その変調された照射光は、レンズ17を通して目標物に照射される。
【0025】
図3は、変調符号の自己相関関数と周期符号の周期Tとの関係を示した図である。周期Tが大きくなるほど自己相関関数のピークが鋭くなることがわかる。特に周期Tが6τ以上であれば、自己相関関数のピークは十分に鋭く、距離測定を高精度に行うことができる。
【0026】
目標物に照射されて反射された反射光は、レンズ18を通して受光し、スプリッタ16によって分割され、一方はフォトダイオード13Bに入力され、他方はローカル光と混合されてフォトダイオード13Aに入力される。フォトダイオード13Bでは、反射光が電気信号である受信信号に変換され、受信信号は距離速度演算部14に入力される。また、フォトダイオード13Aでは、ローカル光と反射光の混合によりビート信号に変換され、ビート信号は距離速度演算部14に入力される。
【0027】
なお、フォトダイオード13A、Bに替えて、フォトトランジスタなどの他の受光素子を用いてもよい。また、レーザー10からレンズ17、フォトダイオード13Aに至る光伝送路、およびレンズ18からフォトダイオード13A、Bに至る光伝送路には、光ファイバーを用いることができる。もちろん空間を伝搬させてもよい。また、スプリッタ15、16に替えて光カプラを用いてもよい。
【0028】
距離速度演算部14では、フォトダイオード13Bからの受信信号を用いて目標物の距離を以下のようにして算出する。距離速度演算部14は復号器と相関器を有し、受信信号から変調符号を復号する。そして、その復号した変調符号と、符号発生回路からの変調符号との相互相関を相関器によって算出する。この相互相関関数のピーク位置によって、照射光が目標物によって反射されて戻ってくるまでの時間が分かり、目標物までの距離を算出することができる。ここで変調符号は、図3に示したように自己相関関数のピークが鋭い符号であるから、高精度に目標物の距離を算出することができる。
【0029】
一方、距離速度演算部14では、フォトダイオード13Aからのビート信号をサンプリングしてFFTをすることでビート信号の周波数を算出し、その周波数(ドップラー周波数)から目標物の速度を算出する。ビート信号は、図4に示すように、正弦波の信号において、変調符号の符号1のタイミングでは信号強度が保持され、符号0のタイミングでは信号強度が0となった信号である。ここで、変調符号はPN符号と周期符号との論理和をとった符号であるから、その周期符号の符号1となる周期Tのタイミングでは信号強度が必ず保持されている。したがって、周期符号の符号1のタイミングでビート信号をサンプリングすることで、信号強度が0となるタイミングを回避して信号強度が保持された状態を必ずサンプリングすることができ、ビート信号の周波数を高精度に算出することができる。なお、周期Tは、照射光の波長をλ、目標物の最大速度をVとして、λ/(4V)以下とすることが望ましい。速度Vによって発生するドラップ周波数fd=2V/λをフーリエ解析を用いてスペクトル解析すると、サンプリング周波数fs≧2fd=4V/λで、周期T=1/fs≦1/(2fd)=λ/(4V)となるためである。
【0030】
ビート信号のサンプリング手順についてより詳しく説明する。まず、周期τで位相差π/2のタイミングをずらして2回サンプリングを行う。図4において点線の矢印と直線の矢印で示したタイミングである。2回サンプリングを行うのは、反射光がフォトダイオード13Aに到達するタイミングが不定であるために、ビート信号の立ち上がり、立ち下がりのタイミングでサンプリングをしてしまわないようにするためである。2回サンプリングすれば、これにより得られる2つのサンプリングデータのうち、少なくとも一方はビート信号の立ち上がり、立ち下がりを回避することができる。もちろん、2回以上サンプリングを行ってもよい。2回のサンプリングのタイミングは、たとえばクロック位相のπ/2と3π/2のタイミングである。ローカル光と反射光の時間遅延を考慮して、遅延時間分サンプリングのタイミングを遅らせてもよい。
【0031】
次に、2組のサンプリングデータのうち一方を選択し、他方を破棄する。相関器での参照光の受信時刻を参照して、受信時刻がkT+T/4とkT+3T/4のどちらに近いかを判定し、kT+T/4に近い場合はクロックの3π/2遅延のタイミングでサンプリングしたデータを保持し、kT+3T/4に近い場合はクロックのπ/2遅延のタイミングでサンプリングしたデータを保持する。ここで、kは正の整数、Tは周期符号の周期である。
【0032】
図9のように、ビート信号(ヘテロダイン信号)の受信時刻がクロック位相の0〜π/2の間にある場合、クロック立ち上がりや、π/2遅延のタイミングでは、ビート信号の立ち上がりに入る可能性があり、サンプリング時刻として使用することができない。一方、クロック立ち上がりや、3π/2遅延のタイミングではサンプリング可能である。また、図10のように、ビート信号の受信時刻がクロック位相のπ/2〜πの間にある場合、同様にビート信号の立ち上がりに入る可能性から、π/2遅延やπ遅延のタイミングはサンプリング時刻として使用できず、クロック立ち上がりもスパイクノイズ発生の可能性があるため使用することはできない。そのため、3π/2遅延のタイミングのみが使用可能である。また、図11のように、受信時刻がπ〜3π/2の間にある場合、同様にビート信号の立ち上がりに入る可能性から、クロック立ち下がりや3π/2遅延のタイミングはサンプリング時刻として使用できず、クロック立ち上がりもスパイクノイズ発生の可能性があるため使用することはできない。そのため、クロックπ/2遅延のタイミングのみが使用可能である。また、図12のように、受信時刻が3π/2〜2πにある場合、ート信号の立ち上がりに入る可能性から、3π/2遅延のタイミングやクロック立ち上がりはサンプリング時刻として使用できない。そのため、クロックπ/2遅延やクロック立ち上がりのタイミングがサンプリングタイミングとして使用可能である。以上図9〜12から、クロックのπ/2遅延と3π/2遅延のタイミングの2つのタイミングでサンプリングすれば、受信時刻に位相のずれがあったとしても、2つのタイミングのうち少なくとも一方は正しくサンプリングすることができることがわかる。
【0033】
次に、サンプリングデータのうち、周期符号の符号1のタイミングのデータのみを残す。これにより、サンプリング周期はτからTへと変換される。
【0034】
次に、周期がTに変換されたサンプリングデータをFFTしてドップラー周波数fdを算出し、そのドップラー周波数fdからλ*fd/2(λは照射光の波長)によって目標物の速度を算出する。
【0035】
以上、実施例1の距離速度測定装置によれば、スペクトル拡散方式の距離速度測定装置において、ドップラー周波数を高精度に算出することができ、目標物の速度を高精度に測定することができる。また、照射光を変調する変調符号の自己相関関数のピークが鋭いため、目標物の距離も高精度に測定することができる。
【実施例2】
【0036】
図は、実施例2の距離速度測定装置の構成について示した図である。実施例2の距離速度測定装置は、レーザー20と、駆動回路21と、符号生成回路22と、フォトダイオード23A、Bと、距離速度演算部24と、スプリッタ25、26と、によって構成されている。符号生成回路22は、実施例1の符号生成回路12と同様であり、PN符号と周期符号との論理和をとって変調符号を生成する。
【0037】
レーザー20は、連続光を発光する狭帯域なレーザー光源であり、駆動回路21によって光強度が制御される。駆動回路21は、符号生成回路22からの変調符号に基づいて、レーザー20から出力される照射光の光強度が、符号1に対して光強度b2、符号0に対して光強度b1(<b2)となるように制御する。レーザー20から出力される照射光は、スプリッタ25によって分割され、一方は目標物に照射する照射光、他方はビート信号を生成するローカル光として用いる。照射光はレンズ27を通して目標物に照射され、ローカル光はフォトダイオード13Aに入力される。
【0038】
目標物に照射されて反射された反射光は、レンズ28を通して受光し、スプリッタ26によって分割され、一方はフォトダイオード23Bに入力され、他方はローカル光と混合されてフォトダイオード23Aに入力される。フォトダイオード23Bでは、反射光が電気信号である受信信号に変換され、受信信号は距離速度演算部24に入力される。また、フォトダイオード23Aでは、ローカル光と反射光の混合によりビート信号に変換され、ビート信号は距離速度演算部24に入力される。
【0039】
距離速度演算部24では、実施例1の場合と同様にして、フォトダイオード23Bからの受信信号を用いて目標物の距離を算出する。変調符号は実施例1のように自己相関関数のピークが鋭い符号であるから、高精度に目標物の距離を算出することができる。
【0040】
また、距離速度演算部24では、フォトダイオード23Aからのビート信号をサンプリングしてFFTをすることでビート信号の周波数を算出し、その周波数(ドップラー周波数)から目標物の速度を算出する。
【0041】
ここで、実施例1の場合はローカル光は連続光であったが、実施例2ではローカル光は変調符号により強度変調された光である。そのため、実施例2のビート信号の波形は、実施例1のビート信号の波形よりも正弦波から崩れた波形となり、ビート信号の周波数の測定精度が悪化してしまう。このような波形の崩れは、ローカル光の変調符号の符号0と、反射光の変調符号の符号1とで干渉する場合、または、ローカル光の変調符号の符号1と、反射光の変調符号の符号0とで干渉する場合とがあるためである。この2つの場合のうち、ビート信号をサンプリングするのは反射光の変調符号の符号1のタイミングであるので(詳細なサンプリング手法にしては後述)、その場合について、信号強度をb2/b1倍して補正し、より正弦波に近い波形とすることで、ビート信号の周波数をより正確に算出することができる。図6は、この補正を行ったビート信号の波形について示した図である。正弦波に近い波形が得られていることがわかる。なお、この補正は、以下に示すビート信号のサンプリングの後に行う。
【0042】
ビート信号のサンプリング手順についてより詳しく説明する。ビート信号のサンプリングは、実施例1の場合と同様に、サンプリングタイミングをずらして2回行う。図6のように、補正後のビート信号には、ローカル光の立ち上がりや立ち下がりの部分でスパイクノイズが発生可能性があるので、これを回避するようなサンプリングを行う必要がある。そこで、サンプリングタイミングは、クロック位相のπ/2と3π/2のタイミングの2回行う。これにより、スパイクノイズを回避してサンプリングを行うことができる。ローカル光と反射光の時間遅延を考慮して、遅延時間分サンプリングのタイミングを遅らせてもよい。すなわち、遅延時間をφとして、クロック位相の(π/2)+φと(3π/2)+φのタイミングでサンプリングを行うようにしてもよい。
【0043】
次に、クロック位相のπ/2と3π/2のタイミングでサンプリングした2組のサンプリングデータのうち、一方を選択し、他方を破棄する。これは実施例1で説明したことと同様にして選択する。
【0044】
次に、サンプリングデータのうち、周期符号の符号1のタイミングのデータのみを残す。これにより、サンプリング周期はτからTへと変換される。このデータは、ローカル光の変調符号の符号0と反射光の変調符号の符号1とで干渉した場合と、ローカル光の変調符号の符号1と反射光の変調符号の符号1とで干渉した場合のデータとを含んでいる。
【0045】
次に、サンプリングしたデータが、ローカル光の変調符号の符号0と反射光の変調符号の符号1とで干渉した場合と、ローカル光の変調符号の符号1と反射光の変調符号の符号1とで干渉した場合とのどちらであるかを判定する。ローカル光の変調符号の符号0と反射光の変調符号の符号1とで干渉した場合のデータである場合には、信号強度をb2/b1倍する補正を行う。ローカル光の変調符号の符号1と反射光の変調符号の符号1とで干渉した場合のデータである場合には、信号強度を補正せず維持する。
【0046】
次に、上記補正がされたサンプリングデータをFFTしてドップラー周波数を算出し、そのドップラー周波数から目標物の速度を算出する。
【0047】
図7は目標物の速度を1m/sとした場合、図8は11.11m/sとした場合のドップラー周波数をシミュレーションにより求めた結果である。1ビット長τは5ns、周期符号の周期Tは30nsとした。また、それぞれの場合について、雑音無し、SNRが0dB、−10dB、−20dBの4通りでシミュレーションを行った。目標物の速度1m/sの場合、実際のドップラー周波数1.29MHzとの間に0.2485MHzの誤差があり、11.11m/sの場合、実際のドップラー周波数14.337MHzとの間に0.011MHzの誤差があった。この結果から、実施例2の距離速度測定装置によって高精度に目標物の速度を測定できることがわかる。また、目標物の速度が速いほど高精度に測定できることが推察される。また、SNRが−20dBまでの範囲では、雑音に影響されずに目標物の速度を測定できることがわかる。
【0048】
以上、実施例2の距離速度測定装置によれば、スペクトル拡散方式の距離速度測定装置において、スパイクノイズを回避するようにサンプリングし、信号強度の補正を行っているため、ドップラー周波数を高精度に算出することができ、目標物の速度を高精度に測定することができる。また、実施例1の距離速度測定装置と同様に、高精度に目標物の距離を測定することができる。実施例1の距離速度測定装置で用いた強度変調器は高価であるため、これを用いない実施例2の距離速度測定装置は実施例1の距離速度測定装置よりも安価に製造できる利点がある。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、車載レーダ装置などに応用することができる。
【符号の説明】
【0050】
10、20:レーザー
11:強度変調器
12、22:符号生成回路
13A、B、23A、B:フォトダイオード
14、24:距離速度演算部
15、16、25、26:スプリッタ
21:駆動回路
【技術分野】
【0001】
本発明は、目標物に対して光を照射することにより、目標物の距離と速度を同時に測定する距離速度測定装置に関するものであり、特に拡散符号を用いて光を変調して照射するスペクトル拡散方式によるものである。
【背景技術】
【0002】
目標物に光を照射し、その目標物による反射光を受光し、発光から受光までの時間を計測することで目標物までの距離を測定する方法が広く知られている。この方法では、散乱などによって測定精度が落ち、遠距離まで測定することができない。これを解決する方法として、スペクトル拡散方式による距離測定方法が知られている(特許文献1)。スペクトル拡散方式は、光をPN符号などの拡散符号で変調して目標物に照射し、受光した反射光から拡散符号を復調し、変調した拡散符号と復調した拡散符号とで相互相関を取り、その相関ピークの位置から目標物までの距離を測定する。また、特許文献1では、駆動回路によって直接に出力を拡散符号で変調する方式(直接変調方式)を取っている。
【0003】
また、特許文献2には、レーザー光を送信光とローカル光に分割し、送信光を擬似ランダム変調信号により変調し、送信光を目標物に照射して反射された光を受信し、その受信光とローカル光とのビート信号を生成し、ビート信号と擬似ランダム変調信号との相関信号の信号強度、周波数を解析することにより、目標物の距離、速度を測定することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−368720
【特許文献2】特開2000−338243
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
スペクトル拡散方式において目標物の距離と速度を同時に測定しようとする場合、拡散符号で変調された光を照射するため、ドップラー周波数の算出のためビート信号をサンプリングする際に、符号が0の点でサンプリングしてしまう可能性があり、速度を高精度に測定することができなかった。
【0006】
そこで本発明の目的は、スペクトル拡散方式によって距離と速度を同時に測定する距離速度測定装置において、距離と速度の双方を高精度に測定する装置を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、光を拡散符号で変調して目標物に照射し、目標物からの反射光を受信して目標物までの距離、および目標物の速度を測定するスペクトル拡散方式による距離速度測定装置において、一定周期のクロックに同期して第1拡散符号を生成する第1拡散符号生成手段と、クロックに同期して第1拡散符号の1ビット長よりも長い周期を有した周期符号を生成する周期符号生成手段と、第1拡散符号と周期符号との論理和をとって第2拡散符号を生成する第2拡散符号生成手段と、照射光を出力する光源と、照射光を第2拡散符号で変調し、目標物に照射する送信手段と、目標物によって反射された反射光を受信して受信信号を生成する第1受信手段と、反射光と照射光とを混合して受信し、ビート信号を生成する第2受信手段と、受信信号と第2拡散符号生成手段が生成した第2拡散符号との相関関数を算出することで目標物までの距離を測定すると共に、ビート信号を周期符号が1のタイミングでサンプリングしてフーリエ変換し、ビート信号の周波数であるドップラー周波数を算出することで目標物の速度を測定する距離速度演算部と、を有することを特徴とする距離速度測定装置である。
【0008】
第2の発明は、光を拡散符号で変調して目標物に照射し、目標物からの反射光を受信して目標物までの距離、および目標物の速度を測定するスペクトル拡散方式による距離速度測定装置において、一定周期のクロックに同期して第1拡散符号を生成する第1拡散符号生成手段と、クロックに同期して第1拡散符号の1ビット長よりも長い周期を有した周期符号を生成する周期符号生成手段と、第1拡散符号と周期符号との論理和をとって第2拡散符号を生成する第2拡散符号生成手段と、光源と、第2拡散符号にしたがって符号が0のときに出力が第1の値b1、符号が1のときに出力が前記第1の値b1よりも大きい第2の値b2、となるよう光源を駆動して、第2拡散符号で変調された照射光を生成し、目標物に前記照射光を照射する送信手段と、目標物によって反射された反射光を受信して受信信号を生成する第1受信手段と、反射光と照射光とを混合して受信し、ビート信号を生成する第2受信手段と、受信信号と第2拡散符号生成手段が生成した第2拡散符号との相関関数を算出することで目標物までの距離を測定すると共に、ビート信号を周期符号が1のタイミングでサンプリングしてフーリエ変換し、ビート信号の周波数であるドップラー周波数を算出することで目標物の速度を測定する距離速度演算部と、を有することを特徴とする距離速度測定装置である。
【0009】
第1、2の発明における目標物の距離の算出では、受信信号と第2拡散符号との相関関数を直接算出するのではなく、受信信号から第2拡散符号を復号し、その復号した第2拡散符号と第2拡散符号生成手段が生成した第2拡散符号との相関関数を算出するようにしてもよい。
【0010】
第3の発明は、第2の発明において、距離速度演算部は、ビート信号の出力のうち、反射光の符号が1で照射光の符号が0のときの干渉の時間帯の信号強度をb2/b1倍して補正する、ことを特徴とする距離速度測定装置である。
【0011】
第4の発明は、第1の発明から第3の発明において、ビート信号のサンプリングは、サンプリングタイミングをずらして2回以上サンプリングを行うことを特徴とする距離速度測定装置である。
【0012】
第5の発明は、第3の発明において、ビート信号のサンプリングは、クロック位相からπ/2遅延したタイミングと、3π/2遅延したタイミングの2回行うことを特徴とする距離速度測定装置である。
【0013】
第6の発明は、第1の発明から第5の発明において、周期符号の周期は、符号のパルス幅の6倍以上とすることを特徴とする距離速度測定装置である。
【0014】
第7の発明は、第1の発明から第6の発明において、周期符号の周期は、測定する目標物の最大速度をV、光源の波長をλとして、λ/(4V)以下とすることを特徴とする距離速度測定装置である。
【発明の効果】
【0015】
第1、2の発明によると、ビート信号をサンプリングする際に、周期符号の符号1のタイミングにおいては信号強度が0とはならないので、目標物の速度を共に高精度に測定することができる。また、周期パルス信号の周期を第1拡散符号の1ビット長よりも長くしているため、第2拡散符号の自己相関ピークは高く、目標物の距離を測定する際も精度を悪化させることがない。
【0016】
また、第3の発明によると、より高精度に目標物の速度を測定することができる。
【0017】
また、第4、5の発明によると、少なくとも1つのサンプリングは、信号の立ち上がり、立ち下がりに入らないようにすることができるので、より精度よく速度を測定することができる。
【0018】
また、第6、7の発明によると、第2拡散符号の自己相関関数のピークがより鋭くなるため、距離測定の精度をより向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例1の距離速度測定装置の構成を示した図。
【図2】変調符号の構成を説明する図。
【図3】変調符号の自己相関関数と周期符号の周期Tとの関係を示した図。
【図4】ビート信号の波形を示した図。
【図5】実施例2の距離速度測定装置の構成を示した図。
【図6】ビート信号の波形を示した図。
【図7】ドップラー周波数をシミュレーションにより算出した結果を示した図。
【図8】ドップラー周波数をシミュレーションにより算出した結果を示した図。
【図9】クロック位相と受信信号の関係を示した図。
【図10】クロック位相と受信信号の関係を示した図。
【図11】クロック位相と受信信号の関係を示した図。
【図12】クロック位相と受信信号の関係を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の具体的な実施例について図を参照に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0021】
図1は、実施例1の距離速度測定装置の構成について示した図である。実施例1の距離速度測定装置は、レーザー10と、強度変調器11と、符号発生回路12と、フォトダイオード13A、Bと、距離速度演算部14と、スプリッタ15、16と、によって構成されている。
【0022】
レーザー10は、連続光を発光する狭帯域なレーザー光源であり、その中心波長はたとえば1500nmである。レーザー10から出力される光は、スプリッタ15によって分割され、一方は目標物に照射する照射光、他方はビート信号を生成するローカル光として用いる。ローカル光はフォトダイオード13Aに入力される。
【0023】
符号生成回路12は、一定周期τのクロックに同期してPN符号(本発明における第1拡散符号)と周期符号を生成し、PN符号と周期符号との論理和をとって変調符号(本発明における第2拡散符号)を生成する(図2参照)。周期符号は、周期Tでパルス幅τの周期パルスである。周期Tはパルス幅τの整数倍である。PN符号はパルス幅(1ビット長)τのM系列やGold系列などの符号である。
【0024】
強度変調器11は、レーザー10が出力する照射光を、符号生成回路12が生成する変調符号によって符号1で照射孔をほぼ透過し、符号0で光強度が0に強度変調する。その変調された照射光は、レンズ17を通して目標物に照射される。
【0025】
図3は、変調符号の自己相関関数と周期符号の周期Tとの関係を示した図である。周期Tが大きくなるほど自己相関関数のピークが鋭くなることがわかる。特に周期Tが6τ以上であれば、自己相関関数のピークは十分に鋭く、距離測定を高精度に行うことができる。
【0026】
目標物に照射されて反射された反射光は、レンズ18を通して受光し、スプリッタ16によって分割され、一方はフォトダイオード13Bに入力され、他方はローカル光と混合されてフォトダイオード13Aに入力される。フォトダイオード13Bでは、反射光が電気信号である受信信号に変換され、受信信号は距離速度演算部14に入力される。また、フォトダイオード13Aでは、ローカル光と反射光の混合によりビート信号に変換され、ビート信号は距離速度演算部14に入力される。
【0027】
なお、フォトダイオード13A、Bに替えて、フォトトランジスタなどの他の受光素子を用いてもよい。また、レーザー10からレンズ17、フォトダイオード13Aに至る光伝送路、およびレンズ18からフォトダイオード13A、Bに至る光伝送路には、光ファイバーを用いることができる。もちろん空間を伝搬させてもよい。また、スプリッタ15、16に替えて光カプラを用いてもよい。
【0028】
距離速度演算部14では、フォトダイオード13Bからの受信信号を用いて目標物の距離を以下のようにして算出する。距離速度演算部14は復号器と相関器を有し、受信信号から変調符号を復号する。そして、その復号した変調符号と、符号発生回路からの変調符号との相互相関を相関器によって算出する。この相互相関関数のピーク位置によって、照射光が目標物によって反射されて戻ってくるまでの時間が分かり、目標物までの距離を算出することができる。ここで変調符号は、図3に示したように自己相関関数のピークが鋭い符号であるから、高精度に目標物の距離を算出することができる。
【0029】
一方、距離速度演算部14では、フォトダイオード13Aからのビート信号をサンプリングしてFFTをすることでビート信号の周波数を算出し、その周波数(ドップラー周波数)から目標物の速度を算出する。ビート信号は、図4に示すように、正弦波の信号において、変調符号の符号1のタイミングでは信号強度が保持され、符号0のタイミングでは信号強度が0となった信号である。ここで、変調符号はPN符号と周期符号との論理和をとった符号であるから、その周期符号の符号1となる周期Tのタイミングでは信号強度が必ず保持されている。したがって、周期符号の符号1のタイミングでビート信号をサンプリングすることで、信号強度が0となるタイミングを回避して信号強度が保持された状態を必ずサンプリングすることができ、ビート信号の周波数を高精度に算出することができる。なお、周期Tは、照射光の波長をλ、目標物の最大速度をVとして、λ/(4V)以下とすることが望ましい。速度Vによって発生するドラップ周波数fd=2V/λをフーリエ解析を用いてスペクトル解析すると、サンプリング周波数fs≧2fd=4V/λで、周期T=1/fs≦1/(2fd)=λ/(4V)となるためである。
【0030】
ビート信号のサンプリング手順についてより詳しく説明する。まず、周期τで位相差π/2のタイミングをずらして2回サンプリングを行う。図4において点線の矢印と直線の矢印で示したタイミングである。2回サンプリングを行うのは、反射光がフォトダイオード13Aに到達するタイミングが不定であるために、ビート信号の立ち上がり、立ち下がりのタイミングでサンプリングをしてしまわないようにするためである。2回サンプリングすれば、これにより得られる2つのサンプリングデータのうち、少なくとも一方はビート信号の立ち上がり、立ち下がりを回避することができる。もちろん、2回以上サンプリングを行ってもよい。2回のサンプリングのタイミングは、たとえばクロック位相のπ/2と3π/2のタイミングである。ローカル光と反射光の時間遅延を考慮して、遅延時間分サンプリングのタイミングを遅らせてもよい。
【0031】
次に、2組のサンプリングデータのうち一方を選択し、他方を破棄する。相関器での参照光の受信時刻を参照して、受信時刻がkT+T/4とkT+3T/4のどちらに近いかを判定し、kT+T/4に近い場合はクロックの3π/2遅延のタイミングでサンプリングしたデータを保持し、kT+3T/4に近い場合はクロックのπ/2遅延のタイミングでサンプリングしたデータを保持する。ここで、kは正の整数、Tは周期符号の周期である。
【0032】
図9のように、ビート信号(ヘテロダイン信号)の受信時刻がクロック位相の0〜π/2の間にある場合、クロック立ち上がりや、π/2遅延のタイミングでは、ビート信号の立ち上がりに入る可能性があり、サンプリング時刻として使用することができない。一方、クロック立ち上がりや、3π/2遅延のタイミングではサンプリング可能である。また、図10のように、ビート信号の受信時刻がクロック位相のπ/2〜πの間にある場合、同様にビート信号の立ち上がりに入る可能性から、π/2遅延やπ遅延のタイミングはサンプリング時刻として使用できず、クロック立ち上がりもスパイクノイズ発生の可能性があるため使用することはできない。そのため、3π/2遅延のタイミングのみが使用可能である。また、図11のように、受信時刻がπ〜3π/2の間にある場合、同様にビート信号の立ち上がりに入る可能性から、クロック立ち下がりや3π/2遅延のタイミングはサンプリング時刻として使用できず、クロック立ち上がりもスパイクノイズ発生の可能性があるため使用することはできない。そのため、クロックπ/2遅延のタイミングのみが使用可能である。また、図12のように、受信時刻が3π/2〜2πにある場合、ート信号の立ち上がりに入る可能性から、3π/2遅延のタイミングやクロック立ち上がりはサンプリング時刻として使用できない。そのため、クロックπ/2遅延やクロック立ち上がりのタイミングがサンプリングタイミングとして使用可能である。以上図9〜12から、クロックのπ/2遅延と3π/2遅延のタイミングの2つのタイミングでサンプリングすれば、受信時刻に位相のずれがあったとしても、2つのタイミングのうち少なくとも一方は正しくサンプリングすることができることがわかる。
【0033】
次に、サンプリングデータのうち、周期符号の符号1のタイミングのデータのみを残す。これにより、サンプリング周期はτからTへと変換される。
【0034】
次に、周期がTに変換されたサンプリングデータをFFTしてドップラー周波数fdを算出し、そのドップラー周波数fdからλ*fd/2(λは照射光の波長)によって目標物の速度を算出する。
【0035】
以上、実施例1の距離速度測定装置によれば、スペクトル拡散方式の距離速度測定装置において、ドップラー周波数を高精度に算出することができ、目標物の速度を高精度に測定することができる。また、照射光を変調する変調符号の自己相関関数のピークが鋭いため、目標物の距離も高精度に測定することができる。
【実施例2】
【0036】
図は、実施例2の距離速度測定装置の構成について示した図である。実施例2の距離速度測定装置は、レーザー20と、駆動回路21と、符号生成回路22と、フォトダイオード23A、Bと、距離速度演算部24と、スプリッタ25、26と、によって構成されている。符号生成回路22は、実施例1の符号生成回路12と同様であり、PN符号と周期符号との論理和をとって変調符号を生成する。
【0037】
レーザー20は、連続光を発光する狭帯域なレーザー光源であり、駆動回路21によって光強度が制御される。駆動回路21は、符号生成回路22からの変調符号に基づいて、レーザー20から出力される照射光の光強度が、符号1に対して光強度b2、符号0に対して光強度b1(<b2)となるように制御する。レーザー20から出力される照射光は、スプリッタ25によって分割され、一方は目標物に照射する照射光、他方はビート信号を生成するローカル光として用いる。照射光はレンズ27を通して目標物に照射され、ローカル光はフォトダイオード13Aに入力される。
【0038】
目標物に照射されて反射された反射光は、レンズ28を通して受光し、スプリッタ26によって分割され、一方はフォトダイオード23Bに入力され、他方はローカル光と混合されてフォトダイオード23Aに入力される。フォトダイオード23Bでは、反射光が電気信号である受信信号に変換され、受信信号は距離速度演算部24に入力される。また、フォトダイオード23Aでは、ローカル光と反射光の混合によりビート信号に変換され、ビート信号は距離速度演算部24に入力される。
【0039】
距離速度演算部24では、実施例1の場合と同様にして、フォトダイオード23Bからの受信信号を用いて目標物の距離を算出する。変調符号は実施例1のように自己相関関数のピークが鋭い符号であるから、高精度に目標物の距離を算出することができる。
【0040】
また、距離速度演算部24では、フォトダイオード23Aからのビート信号をサンプリングしてFFTをすることでビート信号の周波数を算出し、その周波数(ドップラー周波数)から目標物の速度を算出する。
【0041】
ここで、実施例1の場合はローカル光は連続光であったが、実施例2ではローカル光は変調符号により強度変調された光である。そのため、実施例2のビート信号の波形は、実施例1のビート信号の波形よりも正弦波から崩れた波形となり、ビート信号の周波数の測定精度が悪化してしまう。このような波形の崩れは、ローカル光の変調符号の符号0と、反射光の変調符号の符号1とで干渉する場合、または、ローカル光の変調符号の符号1と、反射光の変調符号の符号0とで干渉する場合とがあるためである。この2つの場合のうち、ビート信号をサンプリングするのは反射光の変調符号の符号1のタイミングであるので(詳細なサンプリング手法にしては後述)、その場合について、信号強度をb2/b1倍して補正し、より正弦波に近い波形とすることで、ビート信号の周波数をより正確に算出することができる。図6は、この補正を行ったビート信号の波形について示した図である。正弦波に近い波形が得られていることがわかる。なお、この補正は、以下に示すビート信号のサンプリングの後に行う。
【0042】
ビート信号のサンプリング手順についてより詳しく説明する。ビート信号のサンプリングは、実施例1の場合と同様に、サンプリングタイミングをずらして2回行う。図6のように、補正後のビート信号には、ローカル光の立ち上がりや立ち下がりの部分でスパイクノイズが発生可能性があるので、これを回避するようなサンプリングを行う必要がある。そこで、サンプリングタイミングは、クロック位相のπ/2と3π/2のタイミングの2回行う。これにより、スパイクノイズを回避してサンプリングを行うことができる。ローカル光と反射光の時間遅延を考慮して、遅延時間分サンプリングのタイミングを遅らせてもよい。すなわち、遅延時間をφとして、クロック位相の(π/2)+φと(3π/2)+φのタイミングでサンプリングを行うようにしてもよい。
【0043】
次に、クロック位相のπ/2と3π/2のタイミングでサンプリングした2組のサンプリングデータのうち、一方を選択し、他方を破棄する。これは実施例1で説明したことと同様にして選択する。
【0044】
次に、サンプリングデータのうち、周期符号の符号1のタイミングのデータのみを残す。これにより、サンプリング周期はτからTへと変換される。このデータは、ローカル光の変調符号の符号0と反射光の変調符号の符号1とで干渉した場合と、ローカル光の変調符号の符号1と反射光の変調符号の符号1とで干渉した場合のデータとを含んでいる。
【0045】
次に、サンプリングしたデータが、ローカル光の変調符号の符号0と反射光の変調符号の符号1とで干渉した場合と、ローカル光の変調符号の符号1と反射光の変調符号の符号1とで干渉した場合とのどちらであるかを判定する。ローカル光の変調符号の符号0と反射光の変調符号の符号1とで干渉した場合のデータである場合には、信号強度をb2/b1倍する補正を行う。ローカル光の変調符号の符号1と反射光の変調符号の符号1とで干渉した場合のデータである場合には、信号強度を補正せず維持する。
【0046】
次に、上記補正がされたサンプリングデータをFFTしてドップラー周波数を算出し、そのドップラー周波数から目標物の速度を算出する。
【0047】
図7は目標物の速度を1m/sとした場合、図8は11.11m/sとした場合のドップラー周波数をシミュレーションにより求めた結果である。1ビット長τは5ns、周期符号の周期Tは30nsとした。また、それぞれの場合について、雑音無し、SNRが0dB、−10dB、−20dBの4通りでシミュレーションを行った。目標物の速度1m/sの場合、実際のドップラー周波数1.29MHzとの間に0.2485MHzの誤差があり、11.11m/sの場合、実際のドップラー周波数14.337MHzとの間に0.011MHzの誤差があった。この結果から、実施例2の距離速度測定装置によって高精度に目標物の速度を測定できることがわかる。また、目標物の速度が速いほど高精度に測定できることが推察される。また、SNRが−20dBまでの範囲では、雑音に影響されずに目標物の速度を測定できることがわかる。
【0048】
以上、実施例2の距離速度測定装置によれば、スペクトル拡散方式の距離速度測定装置において、スパイクノイズを回避するようにサンプリングし、信号強度の補正を行っているため、ドップラー周波数を高精度に算出することができ、目標物の速度を高精度に測定することができる。また、実施例1の距離速度測定装置と同様に、高精度に目標物の距離を測定することができる。実施例1の距離速度測定装置で用いた強度変調器は高価であるため、これを用いない実施例2の距離速度測定装置は実施例1の距離速度測定装置よりも安価に製造できる利点がある。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、車載レーダ装置などに応用することができる。
【符号の説明】
【0050】
10、20:レーザー
11:強度変調器
12、22:符号生成回路
13A、B、23A、B:フォトダイオード
14、24:距離速度演算部
15、16、25、26:スプリッタ
21:駆動回路
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を拡散符号で変調して目標物に照射し、前記目標物からの反射光を受信して目標物までの距離、および前記目標物の速度を測定するスペクトル拡散方式による距離速度測定装置において、
一定周期のクロックに同期して第1拡散符号を生成する第1拡散符号生成手段と、
前記クロックに同期して前記第1拡散符号の1ビット長よりも長い周期を有した周期符号を生成する周期符号生成手段と、
前記第1拡散符号と前記周期符号との論理和をとって第2拡散符号を生成する第2拡散符号生成手段と、
照射光を出力する光源と、
前記照射光を前記第2拡散符号で変調し、前記目標物に照射する送信手段と、
前記目標物によって反射された反射光を受信して受信信号を生成する第1受信手段と、
前記反射光と前記照射光とを混合して受信し、ビート信号を生成する第2受信手段と、
前記受信信号と前記第2拡散符号生成手段が生成した前記第2拡散符号との相関関数を算出することで前記目標物までの距離を測定すると共に、前記ビート信号を前記周期符号が1のタイミングでサンプリングしてフーリエ変換し、前記ビート信号の周波数であるドップラー周波数を算出することで前記目標物の速度を測定する距離速度演算部と、
を有することを特徴とする距離速度測定装置。
【請求項2】
光を拡散符号で変調して目標物に照射し、前記目標物からの反射光を受信して目標物までの距離、および前記目標物の速度を測定するスペクトル拡散方式による距離速度測定装置において、
一定周期のクロックに同期して第1拡散符号を生成する第1拡散符号生成手段と、
前記クロックに同期して前記第1拡散符号の1ビット長よりも長い周期を有した周期符号を生成する周期符号生成手段と、
前記第1拡散符号と前記周期符号との論理和をとって第2拡散符号を生成する第2拡散符号生成手段と、
光源と、
前記第2拡散符号にしたがって符号が0のときに出力が第1の値b1、符号が1のときに出力が前記第1の値b1よりも大きい第2の値b2、となるよう前記光源を駆動して、前記第2拡散符号で変調された照射光を生成し、前記目標物に前記照射光を照射する送信手段と、
前記目標物によって反射された反射光を受信して受信信号を生成する第1受信手段と、
前記反射光と前記照射光とを混合して受信し、ビート信号を生成する第2受信手段と、
前記受信信号と前記第2拡散符号生成手段が生成した前記第2拡散符号との相関関数を算出することで前記目標物までの距離を測定すると共に、前記ビート信号を前記周期符号が1のタイミングでサンプリングしてフーリエ変換し、前記ビート信号の周波数であるドップラー周波数を算出することで前記目標物の速度を測定する距離速度演算部と、
を有することを特徴とする距離速度測定装置。
【請求項3】
前記距離速度演算部は、前記ビート信号の出力のうち、前記反射光の符号が1で前記照射光の符号が0のときの干渉の時間帯の信号強度をb2/b1倍して補正する、ことを特徴とする請求項2に記載の距離速度測定装置。
【請求項4】
前記ビート信号のサンプリングは、サンプリングタイミングをずらして2回以上サンプリングを行うことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の距離速度測定装置。
【請求項5】
前記ビート信号のサンプリングは、クロック位相からπ/2遅延したタイミングと、3π/2遅延したタイミングの2回行うことを特徴とする請求項3に記載の距離速度測定装置。
【請求項6】
前記周期符号の周期は、符号のパルス幅の6倍以上とすることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の距離速度測定装置。
【請求項7】
前記周期符号の周期は、測定する目標物の最大速度をV、前記光源の波長をλとして、λ/(4V)以下とすることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の距離速度測定装置。
【請求項1】
光を拡散符号で変調して目標物に照射し、前記目標物からの反射光を受信して目標物までの距離、および前記目標物の速度を測定するスペクトル拡散方式による距離速度測定装置において、
一定周期のクロックに同期して第1拡散符号を生成する第1拡散符号生成手段と、
前記クロックに同期して前記第1拡散符号の1ビット長よりも長い周期を有した周期符号を生成する周期符号生成手段と、
前記第1拡散符号と前記周期符号との論理和をとって第2拡散符号を生成する第2拡散符号生成手段と、
照射光を出力する光源と、
前記照射光を前記第2拡散符号で変調し、前記目標物に照射する送信手段と、
前記目標物によって反射された反射光を受信して受信信号を生成する第1受信手段と、
前記反射光と前記照射光とを混合して受信し、ビート信号を生成する第2受信手段と、
前記受信信号と前記第2拡散符号生成手段が生成した前記第2拡散符号との相関関数を算出することで前記目標物までの距離を測定すると共に、前記ビート信号を前記周期符号が1のタイミングでサンプリングしてフーリエ変換し、前記ビート信号の周波数であるドップラー周波数を算出することで前記目標物の速度を測定する距離速度演算部と、
を有することを特徴とする距離速度測定装置。
【請求項2】
光を拡散符号で変調して目標物に照射し、前記目標物からの反射光を受信して目標物までの距離、および前記目標物の速度を測定するスペクトル拡散方式による距離速度測定装置において、
一定周期のクロックに同期して第1拡散符号を生成する第1拡散符号生成手段と、
前記クロックに同期して前記第1拡散符号の1ビット長よりも長い周期を有した周期符号を生成する周期符号生成手段と、
前記第1拡散符号と前記周期符号との論理和をとって第2拡散符号を生成する第2拡散符号生成手段と、
光源と、
前記第2拡散符号にしたがって符号が0のときに出力が第1の値b1、符号が1のときに出力が前記第1の値b1よりも大きい第2の値b2、となるよう前記光源を駆動して、前記第2拡散符号で変調された照射光を生成し、前記目標物に前記照射光を照射する送信手段と、
前記目標物によって反射された反射光を受信して受信信号を生成する第1受信手段と、
前記反射光と前記照射光とを混合して受信し、ビート信号を生成する第2受信手段と、
前記受信信号と前記第2拡散符号生成手段が生成した前記第2拡散符号との相関関数を算出することで前記目標物までの距離を測定すると共に、前記ビート信号を前記周期符号が1のタイミングでサンプリングしてフーリエ変換し、前記ビート信号の周波数であるドップラー周波数を算出することで前記目標物の速度を測定する距離速度演算部と、
を有することを特徴とする距離速度測定装置。
【請求項3】
前記距離速度演算部は、前記ビート信号の出力のうち、前記反射光の符号が1で前記照射光の符号が0のときの干渉の時間帯の信号強度をb2/b1倍して補正する、ことを特徴とする請求項2に記載の距離速度測定装置。
【請求項4】
前記ビート信号のサンプリングは、サンプリングタイミングをずらして2回以上サンプリングを行うことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の距離速度測定装置。
【請求項5】
前記ビート信号のサンプリングは、クロック位相からπ/2遅延したタイミングと、3π/2遅延したタイミングの2回行うことを特徴とする請求項3に記載の距離速度測定装置。
【請求項6】
前記周期符号の周期は、符号のパルス幅の6倍以上とすることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の距離速度測定装置。
【請求項7】
前記周期符号の周期は、測定する目標物の最大速度をV、前記光源の波長をλとして、λ/(4V)以下とすることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の距離速度測定装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−185050(P2012−185050A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−48676(P2011−48676)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】
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