説明

車両、内燃機関の異常判定方法および内燃機関の異常判定装置

【課題】異常を判定する機会を確保する。
【解決手段】ECUは、大気圧が第1の値であり、かつエンジン回転数NEおよび負荷のうちの少なくともいずれか一方により表される運転状態が予め定められた領域内にある場合、エンジンの異常を判定する。また、ECUは、大気圧が第1の値よりも低い第2の値であり、かつ運転状態が予め定められた領域外にある場合、エンジンの異常を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両、内燃機関の異常判定方法および内燃機関の異常判定装置に関し、特に大気圧に応じて異常を判定する運転領域を変更する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
気筒内で燃料を燃焼させる内燃機関が知られている。内燃機関において、常に燃料が正常に燃焼するとは限らない。したがって、内燃機関を制御する制御装置には、様々な異常判定機能が組み込まれる。
【0003】
特開平9−88643号公報(特許文献1)は、エンジン負荷状態によって失火検出領域を求め、この失火検出領域内で失火状態を検出する内燃機関の失火検出装置を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−88643号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
仮に、検出領域を広く設定すると、異常を誤検出し易い運転状態において異常が判定され得る。よって、異常を検出する精度が悪化し得る。したがって、検出領域を制限することが望ましい。しかしながら、検出領域を制限した場合、検出領域外の運転状態で内燃機関を駆動する頻度が多くなることもある。たとえば、吸気管内の負圧を確保すべく、大気圧が低くなるほど高回転低負荷で内燃機関が駆動するようにすると、通常の大気圧下における運転状態(負荷および出力軸回転数)を含むように制限された検出領域外の運転状態で内燃機関が駆動し得る。この場合、異常があってもそれを検出できないことがあり得る。
【0006】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、異常を判定する機会を確保することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
車両は、複数の気筒が設けられた内燃機関と、大気圧が第1の値であり、かつ内燃機関の出力軸回転数および負荷のうちの少なくともいずれか一方により表される運転状態が予め定められた領域内にある場合、内燃機関の異常を判定し、大気圧が第1の値よりも低い第2の値であり、かつ運転状態が領域外にある場合、内燃機関の異常を判定する制御ユニットとを備える。
【0008】
複数の気筒が設けられた内燃機関の異常判定方法は、大気圧が第1の値であり、かつ内燃機関の出力軸回転数および負荷のうちの少なくともいずれか一方により表される運転状態が予め定められた領域内にある場合、内燃機関の異常を判定するステップと、大気圧が第1の値よりも低い第2の値であり、かつ運転状態が領域外にある場合、内燃機関の異常を判定するステップとを備える。
【0009】
複数の気筒が設けられた内燃機関の異常判定装置は、大気圧が第1の値であり、かつ内燃機関の出力軸回転数および負荷のうちの少なくともいずれか一方により表される運転状態が予め定められた領域内にある場合、内燃機関の異常を判定するための第1の判定手段と、大気圧が第1の値よりも低い第2の値であり、かつ運転状態が領域外にある場合、内燃機関の異常を判定するための第2の判定手段とを備える。
【0010】
これらの構成によると、大気圧が第1の値である場合、予め定められた領域内の運転状態において、内燃機関の異常が判定される。一方、大気圧が第1の値よりも低い第2の値である場合、定められた領域外の運転状態においても、内燃機関の異常が判定される。これにより、大気圧が第2の値であれば、領域外の運転状態において内燃機関の異常が判定される。よって、異常を判定する頻度が確保される。
【0011】
他の実施例において、制御ユニットは、大気圧が第1の値であり、かつ運転状態が領域外にある場合、内燃機関の異常を判定しない。
【0012】
この構成によると、大気圧が第1の値である場合、異常が判定される運転状態から、予め定められた領域外の運転状態が除かれる。
【0013】
他の実施例において、制御ユニットは、大気圧が第1の値であり、かつ運転状態が領域内にあり、かつ気筒間で空燃比が異なる場合、内燃機関の異常を検出する。さらに、制御ユニットは、大気圧が第2の値であり、かつ運転状態が領域外にあり、かつ気筒間で空燃比が異なる場合、内燃機関の異常を検出する。
【0014】
この構成によると、気筒間で空燃比が異なる異常が検出される。
他の実施例において、運転状態は内燃機関の出力軸回転数により表される。制御ユニットは、大気圧が第1の値であり、かつ内燃機関の出力軸回転数が領域内の出力軸回転数の最大値以下である場合、内燃機関の異常を判定する。さらに、制御ユニットは、大気圧が第2の値であり、かつ内燃機関の出力軸回転数が最大値よりも大きい場合、内燃機関の異常を判定する。
【0015】
この構成によると、大気圧が低くなるほど高回転で内燃機関が駆動しても、内燃機関の異常が判定される。
【0016】
他の実施例において、運転状態は内燃機関の負荷により表される。制御ユニットは、大気圧が第1の値であり、かつ内燃機関の負荷が領域内の負荷の最小値以上である場合、内燃機関の異常を判定する。さらに、制御ユニットは、大気圧が第2の値であり、かつ内燃機関の負荷が最小値よりも小さい場合、内燃機関の異常を判定する。
【0017】
この構成によると、大気圧が低くなるほど低負荷で内燃機関が駆動しても、異常が判定される。
【0018】
他の実施例において、運転状態は内燃機関の出力軸回転数および負荷により表される。制御ユニットは、大気圧が第1の値であり、内燃機関の出力軸回転数が領域内の出力軸回転数の最大値以下であり、かつ内燃機関の負荷が領域内の負荷の最小値以上である場合、内燃機関の異常を判定する。さらに、制御ユニットは、大気圧が第2の値であり、内燃機関の出力軸回転数が最大値よりも大きく、かつ内燃機関の負荷が最小値よりも小さい場合、内燃機関の異常を判定する。
【0019】
この構成によると、大気圧が低くなるほど高回転低負荷で内燃機関が駆動しても、異常が判定される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】ハイブリッド車のパワートレーンを示す概略構成図である。
【図2】エンジンを示す概略構成図である。
【図3】動力分割機構の共線図である。
【図4】変速機の共線図である。
【図5】エンジンの運転状態を示す図である。
【図6】エンジン回転数および負荷を定める動作線を示す図である。
【図7】大気圧が第1の値であるときの動作線と、大気圧が第1の値よりも低い第2の値であるときの動作線とを示す図である。
【図8】ECUの機能を示す機能ブロック図である。
【図9】大気圧が第1の値であるときの検出領域と、大気圧が第1の値よりも低い第2の値であるときの検出領域とを示す図である。
【図10】ECUが実行する処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同一である。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0022】
図1を参照して、ハイブリッド車のパワートレーンについて説明する。図1に示すように、パワートレーンは、エンジン100と、第1モータジェネレータ(MG1)200と、これらエンジン100と第1モータジェネレータ200との間でトルクを合成もしくは分配する動力分割機構300と、第2モータジェネレータ(MG2)400と、変速機500とを主体として構成されている。
【0023】
エンジン100は、燃料を燃焼させて動力を出力する公知の動力装置であって、スロットル開度(吸気量)や燃料供給量、点火時期などの運転状態を電気的に制御できるように構成されている。その制御は、例えば、マイクロコンピュータを主体とするECU(Electronic Control Unit)1000によって行なわれる。
【0024】
図2を参照して、エンジン100には、エアクリーナ102から空気が吸入される。吸入空気量は、スロットルバルブ104により調整される。スロットルバルブ104はモータにより駆動される電子スロットルバルブである。
【0025】
空気は、シリンダ106(燃焼室)において燃料と混合される。シリンダ106は、複数設けられる。シリンダ106には、インジェクタ108から燃料が直接噴射される。すなわち、インジェクタ108の噴射孔はシリンダ106内に設けられている。燃料は、シリンダ106の吸気側(空気が導入される側)から噴射される。
【0026】
燃料は吸気行程において噴射される。なお、燃料が噴射される時期は、吸気行程に限らない。また、本実施の形態においては、インジェクタ108の噴射孔がシリンダ106内に設けられた直噴エンジンとしてエンジン100を説明するが、直噴用のインジェクタ108に加えて、ポート噴射用のインジェクタを設けてもよい。さらに、ポート噴射用のインジェクタのみを設けるようにしてもよい。
【0027】
シリンダ106内の混合気は、点火プラグ110により着火され、燃焼する。燃焼後の混合気、すなわち排気ガスは、三元触媒112により浄化された後、車外に排出される。混合気の燃焼によりピストン114が押し下げられ、クランクシャフト116が回転する。
【0028】
シリンダ106の頭頂部には、吸気バルブ118および排気バルブ120が設けられる。シリンダ106に導入される空気の量および時期は吸気バルブ118により制御される。シリンダ106から排出される排気ガスの量および時期は排気バルブ120により制御される。吸気バルブ118はカム122により駆動される。排気バルブ120はカム124により駆動される。
【0029】
吸気バルブ118は、VVT(Variable Valve Timing)機構126により、開閉タイミング(位相)が変更される。なお、排気バルブ120の開閉タイミングを変更するようにしてもよい。
【0030】
本実施の形態においては、カム122が設けられたカムシャフト(図示せず)がVVT機構126により回転されることにより、吸気バルブ118の開閉タイミングが制御される。なお、開閉タイミングを制御する方法はこれに限らない。本実施の形態において、VVT機構126は、油圧により作動する。
【0031】
エンジン100は、ECU1000により制御される。ECU1000は、エンジン100が所望の運転状態になるように、スロットル開度、点火時期、燃料噴射時期、燃料噴射量、吸気バルブ118の開閉タイミングを制御する。ECU1000には、カム角センサ800、クランク角センサ802、水温センサ804、エアフローメータ806、空燃比センサ808、大気圧センサ810から信号が入力される。
【0032】
カム角センサ800は、カムの位置を表す信号を出力する。クランク角センサ802は、クランクシャフト116の回転数(エンジン回転数)NEおよびクランクシャフト116の回転角度を表す信号を出力する。水温センサ804は、エンジン100の冷却水の温度(以下、水温とも記載する)を表す信号を出力する。エアフローメータ806は、エンジン100に吸入される空気量表す信号を出力する。空燃比センサ808は、排気ガスの空燃比を表す信号を出力する。大気圧センサ810は、大気圧を表す信号を出力する。なお、大気圧センサ810により大気圧を検出する代わりに、エアフローメータ806を用いて検出される吸入空気量および吸気温度などから大気圧を算出するようにしてもよい。大気圧を算出する方法については、周知の一般的な方法を利用すればよいためここではその詳細な説明は繰り返さない。
【0033】
ECU1000は、これらのセンサから入力された信号、ROM(Read Only Memory)1002に記憶されたマップおよびプログラムに基づいて、エンジン100を制御する。
【0034】
本実施の形態において、ECU1000は、空燃比センサ808から入力された信号に基づいて、シリンダ106間で空燃比が異なる異常を判定する。すなわち、シリンダ106間で空燃比が異なると、異常が検出される。シリンダ106毎の空燃比は、クランク角毎の空燃比から特定される。シリンダ106毎の空燃比を検出する方法には周知の一般的な技術を利用すればよいため、ここではその詳細な説明は繰り返さない。空燃比の異常以外の異常を判定するようにしてもよい。
【0035】
図1に戻って、第1モータジェネレータ200は、一例として三相交流回転電機であって、電動機(モータ)としての機能と発電機(ジェネレータ)としての機能とを生じるように構成される。インバータ210を介してバッテリなどの蓄電装置700に接続されている。インバータ210を制御することにより、第1モータジェネレータ200の出力トルクあるいは回生トルクを適宜に設定するようになっている。その制御は、ECU1000によって行なわれる。なお、第1モータジェネレータ200のステータ(図示せず)は固定されており、回転しないようになっている。
【0036】
動力分割機構300は、外歯歯車であるサンギヤ(S)310と、そのサンギヤ(S)310に対して同心円上に配置された内歯歯車であるリングギヤ(R)320と、これらサンギヤ(S)310とリングギヤ(R)320とに噛合しているピニオンギヤを自転かつ公転自在に保持しているキャリヤ(C)330とを三つの回転要素として差動作用を生じる公知の歯車機構である。エンジン100の出力軸がダンパを介して第1の回転要素であるキャリヤ(C)330に連結されている。言い換えれば、キャリヤ(C)330が入力要素となっている。
【0037】
これに対して第2の回転要素であるサンギヤ(S)310に第1モータジェネレータ200のロータ(図示せず)が連結されている。したがってサンギヤ(S)310がいわゆる反力要素となっており、また第3の回転要素であるリングギヤ(R)320が出力要素となっている。そして、そのリングギヤ(R)320が、駆動輪(図示せず)に連結された出力軸600に連結されている。出力軸600の回転数は、出力軸回転数センサ602により検出され、出力軸回転数を表わす信号がECU1000に入力される。
【0038】
図3に、動力分割機構300の共線図を示す。図3に示すように、キャリヤ(C)330に入力されるエンジン100の出力するトルクに対して、第1モータジェネレータ200による反力トルクをサンギヤ(S)310に入力すると、これらのトルクを加減算した大きさのトルクが、出力要素となっているリングギヤ(R)320に現れる。その場合、第1モータジェネレータ200のロータがそのトルクによって回転し、第1モータジェネレータ200は発電機として機能する。また、リングギヤ(R)320の回転数(出力回転数)を一定とした場合、第1モータジェネレータ200の回転数を大小に変化させることにより、エンジン100の回転数を連続的に(無段階に)変化させることができる。すなわち、エンジン100の回転数を例えば燃費が最もよい回転数に設定する制御を、第1モータジェネレータ200を制御することによって行なうことができる。その制御は、ECU1000によって行なわれる。
【0039】
走行中にエンジン100を停止させていれば、第1モータジェネレータ200が逆回転しており、その状態から第1モータジェネレータ200を電動機として機能させて正回転方向にトルクを出力させると、キャリヤ(C)330に連結されているエンジン100にこれを正回転させる方向のトルクが作用し、第1モータジェネレータ200によってエンジン100を始動(モータリングもしくはクランキング)することができる。その場合、出力軸600にはその回転を止める方向のトルクが作用する。したがって走行のための駆動トルクは、第2モータジェネレータ400が出力するトルクを制御することにより維持でき、同時にエンジン100の始動を円滑におこなうことができる。なお、この種のハイブリッド形式は、機械分配式あるいはスプリットタイプと称されている。
【0040】
図1に戻って、第2モータジェネレータ400は、一例として三相交流回転電機であって、電動機としての機能と発電機としての機能とを生じるように構成される。インバータ310を介してバッテリなどの蓄電装置700接続されている。インバータ310を制御することにより、力行および回生ならびにそれぞれの場合におけるトルクを制御するように構成されている。なお、第2モータジェネレータ400のステータ(図示せず)は固定されており、回転しないようになっている。
【0041】
変速機500は、一組のラビニョ型遊星歯車機構によって構成されている。それぞれ外歯歯車である第1サンギヤ(S1)510と第2サンギヤ(S2)520とが設けられており、その第1サンギヤ(S1)510に第1のピニオン531が噛合するとともに、その第1のピニオン531が第2のピニオン532に噛合し、その第2のピニオン532が各サンギヤ510,520と同心円上に配置されたリングギヤ(R)540に噛合している。
【0042】
なお、各ピニオン531,532は、キャリヤ(C)550によって自転かつ公転自在に保持されている。また、第2サンギヤ(S2)520が第2のピニオン532に噛合している。したがって第1サンギヤ(S1)510とリングギヤ(R)540とは、各ピニオン531,532と共にダブルピニオン型遊星歯車機構に相当する機構を構成し、また第2サンギヤ(S2)520とリングギヤ(R)540とは、第2のピニオン532と共にシングルピニオン型遊星歯車機構に相当する機構を構成している。
【0043】
さらに、変速機500には、第1サンギヤ(S1)510を選択的に固定するB1ブレーキ561と、リングギヤ(R)540を選択的に固定するB2ブレーキ562とが設けられている。これらのブレーキ561,562は摩擦力によって係合力を生じるいわゆる摩擦係合要素であり、多板形式の係合装置あるいはバンド形式の係合装置を採用することができる。そして、これらのブレーキ561,562は、油圧による係合力に応じてそのトルク容量が連続的に変化するように構成されている。さらに、第2サンギヤ(S2)520に前述した第2モータジェネレータ400が連結される。キャリヤ(C)550が出力軸600に連結される。
【0044】
したがって、上記の変速機500は、第2サンギヤ(S2)520がいわゆる入力要素であり、またキャリヤ(C)550が出力要素となっており、B1ブレーキ561を係合させることにより変速比が“1”より大きい高速段が設定される。B1ブレーキ561に替えてB2ブレーキ562を係合させることにより、高速段より変速比の大きい低速段が設定される。
【0045】
この各変速段の間での変速は、車速や要求駆動力(もしくはアクセル開度)などの走行状態に基づいて実行される。より具体的には、変速段領域を予めマップ(変速線図)として定めておき、検出された運転状態に応じていずれかの変速段を設定するように制御される。
【0046】
図4に、変速機500の共線図を示す。図4に示すように、B2ブレーキ562によってリングギヤ(R)540を固定すれば、低速段Lが設定され、第2モータジェネレータ400の出力したトルクが変速比に応じて増幅されて出力軸600に付加される。これに対してB1ブレーキ561によって第1サンギヤ(S1)510を固定すれば、低速段Lより変速比の小さい高速段Hが設定される。この高速段Hにおける変速比も“1”より大きいので、第2モータジェネレータ400の出力したトルクがその変速比に応じて増大させられて出力軸600に付加される。
【0047】
なお、各変速段L,Hが定常的に設定されている状態では、出力軸600に付加されるトルクは、第2モータジェネレータ400の出力トルクを変速比に応じて増大させたトルクとなるが、変速過渡状態では各ブレーキ561,562でのトルク容量や回転数変化に伴う慣性トルクなどの影響を受けたトルクとなる。また、出力軸600に付加されるトルクは、第2モータジェネレータ400の駆動状態では、正トルクとなり、被駆動状態では負トルクとなる。
【0048】
図5に示すように、ハイブリッド車の走行パワーがエンジン始動しきい値より小さいと、第2モータジェネレータ400の駆動力のみを用いてハイブリッド車が走行する。
【0049】
一方、ハイブリッド車の走行パワーがエンジン始動しきい値以上になると、エンジン100が駆動される。これにより、第2モータジェネレータ400の駆動力に加えて、もしくは代わりに、エンジン100の駆動力を用いてハイブリッド車が走行する。また、エンジン100の駆動力を用いて第1モータジェネレータ200が発電した電力が第2モータジェネレータ400に直接供給される。
【0050】
走行パワーは、たとえば、ドライバにより操作されるアクセルペダルの開度(アクセル開度)および車速などをパラメータに有するマップに従ってECU1000により算出される。すなわち、本実施の形態において、ハイブリッド車の走行パワーは、運転者が要求するパワーを表わす。なお、走行パワーを算出する方法はこれに限らない。なお、本実施の形態において、パワーの単位はkW(キロワット)である。
【0051】
ハイブリッド車は、走行パワーを、エンジン100と第2モータジェネレータ400とで分担して実現するように制御される。たとえば、第1モータジェネレータ200が発電しない場合であれば、エンジン100の出力パワーと第2モータジェネレータ400の出力パワーとの和が、走行パワーと略同じになるように制御される。したがって、エンジン100の出力パワーが零であると、第2モータジェネレータ400の出力パワーが、走行パワーと略同じになるように制御される。第2モータジェネレータ400の出力パワーが零であると、エンジン100の出力パワーが走行パワーと略同じになるように制御される。
【0052】
エンジン100を駆動する場合、たとえば、車速が高いほど、第2モータジェネレータ400の出力トルクが低下されて、走行パワーに対するエンジン100の出力パワーの比率が大きくされる。一例として、車速がしきい値よりも高い場合には、第2モータジェネレータ400の出力トルクが零まで低下されて、エンジン100の駆動力のみを用いてハイブリッド車が走行する。なお、出力パワーの制御態様はこれに限らない。
【0053】
エンジン100の出力軸回転数(エンジン回転数)NEおよび負荷は、図6に示す動作線に従って定められる。動作線は、エンジン回転数NEと負荷との関係を示す。すなわち、動作線は、エンジン100の運転点を定める。動作線は、実験およびシミュレーションなどの結果に基づいて開発者により予め定められる。
【0054】
エンジン100のエンジン回転数NEおよび負荷は、動作線と、運転者の操作に応じて定められたエンジン100の出力パワーを示す等パワー線との交点として定められる。すなわち、エンジン100のエンジン回転数NEは、動作線上において、運転者の操作に応じて定められたエンジン100の出力パワーを実現する回転数である。
【0055】
動作線は、大気圧に応じて変更される。図7に示すように、エンジン100の出力パワーが同じであれば、大気圧が低いほどエンジン回転数NEが高く、かつ負荷が低くなるように動作線が変更される。図7においては、大気圧が第1の値であるときの動作線を実線で示し、大気圧が第1の値よりも低い第2の値であるときの動作線を破線で示す。動作線を変更するのは、エンジン100の吸気経路において負圧を確保するためである。なお、第1の値および第2の値は任意の値であって、特定の値に限定されない。
【0056】
図8を参照して、ECU1000の機能について説明する。なお、以下に説明する機能はソフトウェアにより実現してもよく、ハードウェアにより実現してもよく、ソフトウェアとハードウェアとの協働により実現してもよい。
【0057】
ECU1000は、第1判定部1010と、第2判定部1020と、設定部1030とを備える。第1判定部1010は、大気圧が第1の値であり、かつエンジン回転数NEが予め定められた上限値以下である場合、エンジン100の異常を判定する。したがって、第1判定部1010は、大気圧が第1の値であり、かつエンジン回転数NEが上限値以下であり、かつシリンダ106間で空燃比が異なる場合、エンジン100の異常を検出する。
【0058】
なお、第1判定部1010は、大気圧が第1の値であり、かつエンジン回転数NEが上限値よりも大きい場合、エンジン100の異常を判定しない。よって、第1判定部1010は、大気圧が第1の値であり、かつエンジン回転数NEが上限値よりも大きい場合は、シリンダ106間で空燃比が異なっていても、エンジン100の異常を検出しない。エンジン回転数NEが大きい状態では、空燃比の異常を誤判定し得るからである。
【0059】
さらに、第1判定部1010は、大気圧が第1の値であり、かつエンジン100の負荷が予め定められた下限値以上である場合、エンジン100の異常を判定する。したがって、第1判定部1010は、大気圧が第1の値であり、かつ負荷が下限値以下であり、かつシリンダ106間で空燃比が異なる場合、エンジン100の異常を検出する。
【0060】
さらに、第1判定部1010は、大気圧が第1の値であり、かつ負荷が下限値よりも小さい場合、エンジン100の異常を判定しない。よって、第1判定部1010は、大気圧が第1の値であり、かつ負荷が下限値よりも小さい場合は、シリンダ106間で空燃比が異なっていても、エンジン100の異常を検出しない。負荷が小さい状態では、空燃比の異常を誤判定し得るからである。
【0061】
要するに、第1判定部1010は、大気圧が第1の値であり、かつエンジン回転数NEおよび負荷のうちの少なくともいずれか一方により表される運転状態が予め定められた領域内にある場合、エンジン100の異常を判定する。大気圧が第1の値であり、運転状態が予め定められた領域外にある場合、エンジン100の異常は判定されない。エンジン回転数NEおよび負荷のうちの一方のみにより運転状態を表すようにしてもよい。 第2判定部1020は、大気圧が第1の値よりも低い第2の値であり、かつエンジン回転数NEが上限値より大きい場合、エンジン100の異常を判定する。したがって、第2判定部1020は、大気圧が第2の値であり、かつエンジン回転数NEが上限値よりも大きく、かつシリンダ106間で空燃比が異なる場合、エンジン100の異常を検出する。
【0062】
さらに、第2判定部1020は、大気圧が第1の値よりも低い第2の値であり、かつエンジン100の負荷が下限値より小さい場合、エンジン100の異常を判定する。したがって、第2判定部1020は、大気圧が第2の値であり、かつ負荷が下限値よりも小さく、かつシリンダ106間で空燃比が異なる場合、エンジン100の異常を検出する。
【0063】
要するに、第2判定部1020は、大気圧が第2の値であり、かつエンジン回転数NEおよび負荷のうちの少なくともいずれか一方により表される運転状態が予め定められた領域外にある場合、エンジン100の異常を判定する。 第1判定部1010および第2判定部1020の機能は、具体的には、設定部1030により大気圧に応じて検出領域を定めるとともに、エンジン回転数NEおよび負荷が、定められた検出領域内にある場合にエンジン100の異常を判定することにより実現される。
【0064】
図9に検出領域の例を示す。検出領域は、エンジン100の異常が判定されるエンジン回転数NEおよび負荷を定める領域である。したがって、ECU1000は、エンジン回転数NEが検出領域内にあり、かつエンジン100の負荷が検出領域内にある場合、エンジン100の異常を判定する。
【0065】
図9において、大気圧が第1の値である場合に設定される検出領域(以下、第1検出領域とも記載する)を実線で示し、大気圧が第2の値である場合に設定される検出領域(以下、第2検出領域とも記載する)を破線で示す。また、大気圧が第1の値であるときの動作線を一点鎖線で示し、大気圧が第2の値であるときの動作線を二点鎖線で示す。
【0066】
図9から明らかなように、大気圧が第1の値である場合、第1検出領域は、大気圧が第1の値であるときの動作線により規定されるエンジン回転数NEおよび負荷を含むように設定される。大気圧が第2の値である場合、第2検出領域は、大気圧が第2の値であるときの動作線により規定されるエンジン回転数NEおよび負荷を含むように設定される。
【0067】
その結果、大気圧が第2の値である場合には、大気圧が第1の値である場合に比べて高い出力軸回転数を含むように検出領域が設定される。なお、前述した「上限値」は、大気圧が第1の値である場合に設定される第1検出領域内の出力軸回転数の最大値(出力軸回転数NE1)を意味する。同様に、大気圧が第2の値である場合には、大気圧が第1の値である場合に比べて低い負荷を含むように検出領域が設定される。前述した「下限値」は、大気圧が第1の値である場合に設定される第1検出領域内の負荷の最小値(負荷KL1)を意味する。
【0068】
大気圧に応じて検出領域を設定した結果、大気圧が第1の値である場合、エンジン回転数NEおよび負荷が図9において実線で示される第1検出領域内にある場合、エンジン100の異常が判定される。一方、大気圧が第1の値であり、エンジン回転数NEまたは負荷が図9において実線で示される第1検出領域外にある場合、エンジン100の異常は判定されない。大気圧が第1の値よりも低い第2の値である場合、エンジン回転数NEまたは負荷が図9において実線で示される第1検出領域外にあっても、エンジン100の異常が判定される。
【0069】
図10を参照して、ECU1000が実行する処理について説明する。
ステップ(以下、ステップをSと略す)100にて、ECU1000は、大気圧を検出する。S102にて、ECU1000は、大気圧に応じて検出領域を設定する。S104いて、ECU1000は、エンジン回転数NEおよび負荷が検出領域内にあるか否かを判定する。
【0070】
エンジン回転数NEおよび負荷が検出領域内にあると(S100にてYES)、処理はS106に移される。S106にて、ECU1000は、空燃比センサ808により検出される空燃比に基づいて、シリンダ106間で空燃比が異なるか否かを判定する。シリンダ106間で空燃比が異なると(S106にてYES)、処理はS108に移される。S108にて、ECU1000は、異常を検出する。
【0071】
エンジン回転数NEまたは負荷が検出領域外にある場合(S104にてNO)、ECU1000は、異常を判定しない。
【0072】
以上のように、本実施の形態によれば、大気圧が第1の値である場合、予め定められた領域内の運転状態において、エンジン100の異常が判定される。一方、大気圧が第1の値よりも低い第2の値である場合、予め定められた領域外の運転状態においても、エンジン100の異常が判定される。これにより、異常を判定する頻度が確保される。
【0073】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0074】
100 エンジン、106 シリンダ、116 クランクシャフト、200 第1モータジェネレータ、300 動力分割機構、400 第2モータジェネレータ、500 変速機、802 クランク角センサ、808 空燃比センサ、810 大気圧センサ、1000 ECU、1010 第1判定部、1020 第2判定部、1030 設定部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の気筒が設けられた内燃機関と、
大気圧が第1の値であり、かつ前記内燃機関の出力軸回転数および負荷のうちの少なくともいずれか一方により表される運転状態が予め定められた領域内にある場合、前記内燃機関の異常を判定し、大気圧が前記第1の値よりも低い第2の値であり、かつ前記運転状態が前記領域外にある場合、前記内燃機関の異常を判定する制御ユニットとを備える、車両。
【請求項2】
前記制御ユニットは、
大気圧が前記第1の値であり、かつ前記運転状態が前記領域外にある場合、前記内燃機関の異常を判定しない、請求項1に記載の車両。
【請求項3】
前記制御ユニットは、
大気圧が前記第1の値であり、かつ前記運転状態が前記領域内にあり、かつ気筒間で空燃比が異なる場合、前記内燃機関の異常を検出し、
大気圧が前記第2の値であり、かつ前記運転状態が前記領域外にあり、かつ気筒間で空燃比が異なる場合、前記内燃機関の異常を検出する、請求項1に記載の車両。
【請求項4】
前記運転状態は前記内燃機関の出力軸回転数により表され、
前記制御ユニットは、大気圧が前記第1の値であり、かつ前記内燃機関の出力軸回転数が前記領域内の出力軸回転数の最大値以下である場合、前記内燃機関の異常を判定し、大気圧が前記第2の値であり、かつ前記内燃機関の出力軸回転数が前記最大値よりも大きい場合、前記内燃機関の異常を判定する、請求項1に記載の車両。
【請求項5】
前記運転状態は前記内燃機関の負荷により表され、
前記制御ユニットは、大気圧が前記第1の値であり、かつ前記内燃機関の負荷が前記領域内の負荷の最小値以上である場合、前記内燃機関の異常を判定し、大気圧が前記第2の値であり、かつ前記内燃機関の負荷が前記最小値よりも小さい場合、前記内燃機関の異常を判定する、請求項1に記載の車両。
【請求項6】
前記運転状態は前記内燃機関の出力軸回転数および負荷により表され、
前記制御ユニットは、大気圧が前記第1の値であり、前記内燃機関の出力軸回転数が前記領域内の出力軸回転数の最大値以下であり、かつ前記内燃機関の負荷が前記領域内の負荷の最小値以上である場合、前記内燃機関の異常を判定し、大気圧が前記第2の値であり、前記内燃機関の出力軸回転数が前記最大値よりも大きく、かつ前記内燃機関の負荷が前記最小値よりも小さい場合、前記内燃機関の異常を判定する、請求項1に記載の車両。
【請求項7】
複数の気筒が設けられた内燃機関の異常判定方法であって、
大気圧が第1の値であり、かつ前記内燃機関の出力軸回転数および負荷のうちの少なくともいずれか一方により表される運転状態が予め定められた領域内にある場合、前記内燃機関の異常を判定するステップと、
大気圧が前記第1の値よりも低い第2の値であり、かつ前記運転状態が前記領域外にある場合、前記内燃機関の異常を判定するステップとを備える、内燃機関の異常判定方法。
【請求項8】
複数の気筒が設けられた内燃機関の異常判定装置であって、
大気圧が第1の値であり、かつ前記内燃機関の出力軸回転数および負荷のうちの少なくともいずれか一方により表される運転状態が予め定められた領域内にある場合、前記内燃機関の異常を判定するための第1の判定手段と、
大気圧が前記第1の値よりも低い第2の値であり、かつ前記運転状態が前記領域外にある場合、前記内燃機関の異常を判定するための第2の判定手段とを備える、内燃機関の異常判定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−117421(P2012−117421A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−266742(P2010−266742)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】