車両に働く駆動力を制御する制御装置
【課題】車両の安定性を向上可能な制御装置を提供すること。
【解決手段】車両の前輪駆動力及び後輪駆動力を制御する制御装置は、主駆動輪駆動力及び副駆動輪駆動力を制御する第1の制御手段であって、前記主駆動輪駆動力は、前記前輪駆動力及び前記後輪駆動力の一方であり、前記副駆動輪駆動力は、前記前輪駆動力及び前記後輪駆動力の他方である、第1の制御手段と、前記副駆動輪駆動力を制限する副駆動輪制限駆動力を前記第1の制御手段に送る第2の制御手段と、を備える。前記第2の制御手段は、基準駆動力を準備する準備部と、前記副駆動輪制限駆動力の減少を制限する第1の制限部と、前記副駆動輪制限駆動力の増加を制限する第2の制限部と、を有する。前記第2の制御手段は、前記第1の制限部及び前記第2の制限部を介して、前記基準駆動力を前記副駆動輪制限駆動力として前記第1の制御手段に送る。
【解決手段】車両の前輪駆動力及び後輪駆動力を制御する制御装置は、主駆動輪駆動力及び副駆動輪駆動力を制御する第1の制御手段であって、前記主駆動輪駆動力は、前記前輪駆動力及び前記後輪駆動力の一方であり、前記副駆動輪駆動力は、前記前輪駆動力及び前記後輪駆動力の他方である、第1の制御手段と、前記副駆動輪駆動力を制限する副駆動輪制限駆動力を前記第1の制御手段に送る第2の制御手段と、を備える。前記第2の制御手段は、基準駆動力を準備する準備部と、前記副駆動輪制限駆動力の減少を制限する第1の制限部と、前記副駆動輪制限駆動力の増加を制限する第2の制限部と、を有する。前記第2の制御手段は、前記第1の制限部及び前記第2の制限部を介して、前記基準駆動力を前記副駆動輪制限駆動力として前記第1の制御手段に送る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の前輪駆動力及び後輪駆動力を制御する制御装置(駆動力制御装置)に関連する。
【背景技術】
【0002】
車両、例えば自動車は、一般に、4つの車輪、即ち2つの前輪及び2つの後輪を備え、これらの車輪を駆動する電子的な制御装置を備えることができる。このような電子的な制御装置として、特許文献1は、4WD・ECU(four-wheel-drive electronic control unit)を開示する。特許文献1に開示される4WD・ECUは、VSA(vehicle stability assist)・ECUとともに、車両に働く駆動力を制御し、具体的には、4つの車輪駆動力を、例えばトルクを単位として決定する。
【0003】
このように、4WD・ECUは、VSA・ECUと協働して、駆動力を制御する。具体的には、VSA・ECUは、例えば、車両の走行状態が不安定である場合、駆動力の制限を4WD・ECUに要求することができる。4WD・ECUは、VSA・ECUからの要求に応じて、駆動力を減少させ、車両の安定性を向上させることができる。
【0004】
VSA・ECU等の車両挙動制御手段は、一般に、車輪の空転を抑制する機能(トラクション・コントロール・システム)、車輪のロックを抑制する機能(アンチロック・ブレーキ・システム)及び車両の横滑りを抑制する機能の少なくとも1つを備えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-256605号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、車両の安定性を向上可能な制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の形態によれば、車両の前輪駆動力及び後輪駆動力を制御する制御装置であって、主駆動輪駆動力及び副駆動輪駆動力を制御する第1の制御手段であって、前記主駆動輪駆動力は、前記前輪駆動力及び前記後輪駆動力の一方であり、前記副駆動輪駆動力は、前記前輪駆動力及び前記後輪駆動力の他方である、第1の制御手段と、前記副駆動輪駆動力を制限する副駆動輪制限駆動力を前記第1の制御手段に送る第2の制御手段と、を備え、前記第2の制御手段は、基準駆動力を準備する準備部と、前記副駆動輪制限駆動力の減少を制限する第1の制限部と、前記副駆動輪制限駆動力の増加を制限する第2の制限部と、を有し、前記第2の制御手段は、前記第1の制限部及び前記第2の制限部を介して、前記基準駆動力を前記副駆動輪制限駆動力として前記第1の制御手段に送る、制御装置が提供される。
【0008】
副駆動輪制限駆動力の変化が小さくなり、これにより、車両の安定性が向上し得ることを本発明者らは認識した。制御装置において、副駆動輪制限駆動力が減少する場合、第1の制限部によってその減少を制限することができる。また、副駆動輪制限駆動力が増加する場合、第2の制限部によってその増加を制限することができる。従って、副駆動輪制限駆動力の変化が大きい場合、第2の制御手段は、準備した基準駆動力それ自身を要求する代わりに、基準駆動力を第1の制限部及び前記第2の制限部を介して、要求することができる。これにより、第2の制御手段から要求される副駆動輪制限駆動力の変化を小さく設定することができる。
【0009】
第1の形態において、前記第1の制御手段は、前記副駆動輪駆動力を前記第2の制御手段からの前記副駆動輪制限駆動力に一致させることにより、前記主駆動輪駆動力を増加させてもよい。
【0010】
副駆動輪駆動力が副駆動輪制限駆動力に一致し、従って、副駆動輪駆動力を減少させる一方、主駆動輪駆動力を増加させることができる。具体的には、第1の制御手段は、第2の制御手段からの要求に応じて、「主駆動輪駆動力:副駆動輪駆動力」を変更することができる。車両の走行状態が例えばオーバ・ステアであり、従って不安定である場合、「主駆動輪駆動力:副駆動輪駆動力」を変更して、オーバ・ステアを抑制又は解消することができる。
【0011】
第1の形態において、前記副駆動輪制限駆動力の減少分が下限量よりも大きい場合、前記第1の制限部は、前記減少分を前記下限量に一致させてもよく、前記下限量は、前記車両の速度が大きいほど少なくてもよい。
【0012】
下限量は、車両の速度が大きいほど少なく設定される。従って、車両の速度が大きい場合、副駆動輪制限駆動力の減少分、即ち副駆動輪制限駆動力の変化を小さく設定することができる。これにより、車両の安定性が向上する。
【0013】
第1の形態において、前記副駆動輪制限駆動力の減少分が下限量よりも大きい場合、前記第1の制限部は、前記減少分を前記下限量に一致させてもよく、前記下限量は、前記車両の横加速度が大きいほど少なくてもよい。
【0014】
下限量は、前記車両の横加速度が大きいほど少なく設定される。従って、車両の横加速度が大きい場合、副駆動輪制限駆動力の減少分、即ち副駆動輪制限駆動力の変化を小さく設定することができる。
【0015】
第1の形態において、前記副駆動輪制限駆動力の増加分が上限量よりも大きい場合、前記第2の制限部は、前記増加分を前記上限量に一致させてもよく、前記上限量は、前記車両のヨー・レートが大きいほど少なくてもよい。
【0016】
上限量は、車両のヨー・レートが大きいほど少なく設定される。従って、車両のヨー・レートが大きい場合、副駆動輪制限駆動力の増加分、即ち副駆動輪制限駆動力の変化を小さく設定することができる。
【0017】
第1の形態において、前記副駆動輪制限駆動力の増加分が上限量よりも大きい場合、前記第2の制限部は、前記増加分を前記上限量に一致させてもよく、前記上限量は、前記車両の総加速度が大きいほど多くてもよく、前記総加速度は、前記車両の前後加速度及び横加速度の合成加速度であってもよい。
【0018】
車両の総加速度が大きい場合、副駆動輪制限駆動力の増加分、即ち副駆動輪制限駆動力の変化を大きく設定してもよい。この場合、車両が例えば高摩擦路面を走行していると判断して、車両の走行性を優先することができる。
【0019】
第1の形態において、前記第2の制御手段は、前記車両の走行状態が不安定であるか否かを検出する検出部を、さらに有してもよく、前記第2の制御手段は、前記走行状態が不安定であることが前記検出部によって検出された時の前記副駆動輪駆動力を前記副駆動輪制限駆動力として前記第1の制御手段に送ってもよい。
【0020】
第2の制御手段は、走行状態が不安定であることが検出部によって検出された時の副駆動輪駆動力を要求することができる。この時、副駆動輪駆動力の減少分は、実質的にゼロになり、車両の安定性を確保することができる。車両の安定性を確保した後で、第2の制御手段は、走行状態が不安定であることが検出部によって検出された時の副駆動輪駆動力よりも小さい副駆動輪制限駆動力を要求することができる。
【0021】
第1の形態において、前記第2の制御手段は、前記車両の走行状態が不安定であるか否かを検出する第1の検出部をさらに有してもよく、前記第1の検出部の検出結果が不安定から安定に変化する場合、前記準備部は、前記副駆動輪駆動力を制限しない値を準備してもよい。
【0022】
一般的に、走行状態が安定である場合、第2の制御手段は、副駆動輪制限駆動力を要求しなくてもよい。言い換えれば、不安定から安定に変化する時、第2の制御手段は、即座に副駆動輪駆動力を制限しない値を第1の制御手段に要求又は出力してもよい。しかしながら、準備部が副駆動輪駆動力を制限しない値を準備し、副駆動輪駆動力を制限しない値を第2の制限部を介して要求することで、副駆動輪制限駆動力の変化が小さくなる。
【0023】
第1の形態において、前記副駆動輪制限駆動力の増加分が第1の上限量よりも大きい場合、前記第2の制限部は、前記増加分を前記第1の上限量に一致させてもよく、前記第1の上限量は、前記車両のヨー・レートが大きいほど少なくてもよい。
【0024】
車両のヨー・レートが大きい場合、副駆動輪制限駆動力の増加分、即ち副駆動輪制限駆動力の変化を小さく設定することができる。
【0025】
第1の形態において、前記第2の制御手段は、前記ヨー・レートを感知するヨー・レート・センサが故障であるか否かを検出する第2の検出部をさらに有してもよく、前記ヨー・レート・センサが故障であることが前記第2の検出部によって検出され、かつ前記副駆動輪制限駆動力の増加分が前記第1の上限量の代わりの第2の上限量よりも大きい場合、前記第2の制限部は、前記増加分を前記第2の上限量に一致させてもよく、前記第2の上限量は、前記ヨー・レート・センサが故障であることが前記第2の検出部によって検出された時からの経過時間が長いほど多くてもよい。
【0026】
一般的に、ヨー・レート・センサが故障である場合、第2の制御手段は、副駆動輪制限駆動力を要求しなくてもよい。言い換えれば、ヨー・レート・センサが故障した時、第2の制御手段は、即座に副駆動輪駆動力を制限しない値を第1の制御手段に要求又は出力してもよい。しかしながら、第2の制限部は、第2の上限量で、副駆動輪制限駆動力の増加を制限し続けることができる。加えて、ヨー・レート・センサが故障した時からの経過時間が長い場合、第2の制限部による制限を緩和することで、副駆動輪制限駆動力は、副駆動輪駆動力を制限しない値に速く向かうことができる。
【0027】
第1の形態において、前記第1の上限量は、前記車両の総加速度が大きいほど多くてもよく、前記総加速度は、前記車両の前後加速度及び横加速度の合成加速度であってもよい。
【0028】
車両の総加速度が大きい場合、高摩擦路面を走行していると判断して車両の走行性を優先することができる。
【0029】
第1の形態において、前記第2の制御手段は、センサが故障であるか否かを検出する検出部をさらに有してもよく、前記センサが故障であることが前記検出部によって検出され、かつ前記副駆動輪制限駆動力の増加分が上限量よりも大きい場合、前記第2の制限部は、前記増加分を前記上限量に一致させてもよく、前記上限量は、前記センサが故障であることが前記検出部によって検出された時からの経過時間が長いほど多くてもよい。
【0030】
センサが故障である場合、第2の制御手段は、副駆動輪制限駆動力の増加を制限して、副駆動輪制限駆動力の変化を抑制することができる。言い換えれば、第2の制御手段は、副駆動輪制限駆動力の要求を即座に解除するのではなく、副駆動輪制限駆動力の要求を遅く解除することができる。
【0031】
第1の形態において、前記センサは、ヨー・レート・センサであってもよい。
【0032】
ヨー・レート・センサセンサが故障である場合、第2の制御手段は、副駆動輪制限駆動力の要求を遅く解除することができる。
【0033】
第1の形態において、ヨー・レート・センサ、前後加速度センサ及び横加速度センサのうちの少なくとも1つであってもよい。
【0034】
ヨー・レート・センサ、前後加速度センサ及び横加速度センサのうちの少なくとも1つが故障である場合、第2の制御手段は、副駆動輪制限駆動力の要求を遅く解除することができる。
【0035】
第1の形態において、前記主駆動輪駆動力は、前記前輪駆動力であってもよく、前記副駆動輪駆動力は、前記後輪駆動力であってもよい。
【0036】
車両の走行状態が例えばオーバ・ステアであり、従って不安定である場合、後輪駆動力(副駆動輪駆動)を減少する一方、前輪駆動力(主駆動輪駆動)を増加させ、オーバ・ステアを抑制又は解消することができる。
【0037】
第1の形態において、第1の制御手段は、駆動力制御手段であってもよく、第2の制御手段は、車両挙動制御手段であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明による制御装置を備える車両の概略構成を示すブロック図。
【図2】本発明による制御装置の概略構成を示すブロック図。
【図3】本発明による制御装置の車両挙動制御手段の概略構成を示すブロック図。
【図4A】基準駆動力の設定例を示すグラフ図。
【図4B】基準駆動力の設定例を示すグラフ図。
【図5A】車両挙動制御手段の出力部の出力例を示すグラフ図。
【図5B】車両挙動制御手段の出力部の出力例を示すグラフ図。
【図5C】車両挙動制御手段の出力部の出力例を示すグラフ図。
【図6】本発明の変形例を示すブロック図。
【図7】下限量の設定に用いられる制御マップの例を示す図。
【図8】上限量の設定に用いられる制御マップの例を示す図。
【図9】センサが故障した時の上限量の設定に用いられる制御マップの例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下に説明する実施形態は、本発明を容易に理解するために用いられている。従って、本発明が、以下に説明される実施形態によって不当に限定されないことを留意すべきである。
1. 車両
【0040】
図1は、本発明による制御装置を備える車両の概略構成図を示す。図1に示されるように、車両1(例えば、自動車)は、様々な制御を実行可能な制御装置100を備える。制御装置100は、様々な制御の1例として、車両1の前輪駆動力(前輪71,72に伝達される駆動力の目標値)及び後輪駆動力(後輪73,74に伝達される駆動力の目標値)を制御することができる。本発明による制御装置100の具体的な制御は、「2. 制御装置」で後述する。
【0041】
図1の例において、車両1は、原動機10(例えば、ガソリン・エンジン等の内燃機関)を備える。原動機10は、出力軸11を有し、この出力軸11を回転させることができる。車両1は、原動機10を制御する原動機制御手段20(例えば、エンジン・ECU)と、スロットル・アクチュエータ21とを備える。原動機制御手段20は、原動機駆動力(目標値)を求め、原動機10の出力軸11の回転(実際の原動機駆動力)が原動機駆動力(目標値)に一致するように、スロットル・アクチュエータ21を制御する。
【0042】
原動機10内に混合気が流入する量を制御するスロットル(図示せず)の開度は、スロットル・アクチュエータ21を介して、原動機駆動力に基づき制御される。即ち、原動機制御手段20は、原動機駆動力に相当するスロットルの開度を求め、スロットルの開度に対応する制御信号を生成し、制御信号をスロットル・アクチュエータ21に送る。スロットル・アクチュエータ21は、原動機制御手段20からの制御信号に応じて、スロットルの開度を調整する。
【0043】
車両1は、アクセル・ペダル22及びアクセル・センサ23を備え、アクセル・センサ23は、車両1の運転者によるアクセル・ペダル22の操作量を感知し、アクセル・ペダル22の操作量を原動機制御手段20に送る。原動機制御手段20は、概して、アクセル・ペダル22の操作量に基づき原動機駆動力又はスロットルの開度を求める。車両1は、回転数センサ24及び圧力センサ25を備える。原動機10が例えばエンジンである場合、回転数センサ24は、エンジンの回転数を感知し、圧力センサ25は、混合気をエンジンに取り込む吸気管内の絶対圧力を感知することができる。原動機制御手段20は、アクセル・ペダル22の操作量、感知される回転数及び絶対圧力に基づき原動機駆動力又はスロットルの開度を求めることができる。原動機制御手段20は、制御装置100からの制御信号(例えば、車両1の走行状態)に基づきアクセル・ペダル22の操作量を修正することができる。代替的に、原動機制御手段20は、アクセル・ペダル22の操作量、感知される回転数、感知される絶対圧力及び制御装置100からの制御信号に基づき原動機駆動力又はスロットルの開度を求めることができる。
【0044】
また、図1の例において、車両1は、動力伝達装置(パワー・トレイン、ドライブ・トレイン)を備える。図1に示されるように、動力伝達装置は、例えば、変速機30、フロント・ディファレンシャル・ギア機構51、フロント・ドライブ・シャフト52,53、トランスファ54、プロペラ・シャフト55、リア・ディファレンシャル・ギア機構61、リア・ドライブ・シャフト64,65を有する。変速機30は、トルク・コンバータ31及びギア機構32を有する。
【0045】
動力伝達装置は、図1の例に限定されず、図1の例を変形・修正、又は具体化してもよい。動力伝達装置は、例えば、特開平07-186758号公報の図2で開示される駆動力伝達系であってもよい。
【0046】
原動機10の出力軸11の回転(実際の原動機駆動力)は、動力伝達装置を介して、実際の全輪駆動力(実際の前輪駆動力及び後輪駆動力)に変換される。このような変換に関する制御において、全輪駆動力(目標値)は、原動機制御手段20の原動機駆動力(目標値)、トルク・コンバータ31の増幅率(目標値)及びギア機構32の変速ギア比(目標値)に基づき決定される。主駆動輪駆動力である前輪駆動力(目標値)から副駆動輪駆動力である後輪駆動力(目標値)への配分は、前輪駆動力(目標値)及びリア・ディファレンシャル・ギア機構61の配分比に基づき決定される。
【0047】
リア・ディファレンシャル・ギア機構61の配分比が例えば「前輪駆動力:後輪駆動力=100:0」である場合、主駆動輪駆動力である前輪駆動力(目標値)は、全輪駆動力(目標値)と一致する。リア・ディファレンシャル・ギア機構61の配分比が例えば「前輪駆動力:後輪駆動力=(100−x):x」である場合、主駆動輪駆動力である前輪駆動力(目標値)は、全輪駆動力(目標値)から副駆動輪駆動力である後輪駆動力(目標値)を減算した値と一致する。
【0048】
なお、前輪71,72は、フロント・ディファレンシャル・ギア機構51及びフロント・ドライブ・シャフト52,53を介して前輪駆動力(目標値)によって制御される。後輪73,74は、リア・ディファレンシャル・ギア機構61及びリア・ドライブ・シャフト64,65を介して後輪駆動力(目標値)によって制御される。実際の全輪駆動力は、トランスファ54を介してプロペラ・シャフト55に伝達され、プロペラ・シャフト55に伝達される実際の全輪駆動力の一部は、リア・ディファレンシャル・ギア機構61に伝達される実際の後輪駆動力に配分される。プロペラ・シャフト55、トランスファ54及びフロント・ディファレンシャル・ギア機構51に伝達される実際の全輪駆動力の残部が、実際の前輪駆動力になる。
【0049】
図1の例において、車両1は、変速機30の変速比(例えば、ギア機構32の変速ギア比)を制御する変速機制御手段40(例えば、AT(automatic transmission)・ECU)を備える。車両1は、シフト・レバー33及びシフト位置センサ34を備え、変速機制御手段40は、概して、シフト位置センサ34によって感知されるシフト・レバー33のシフト位置(例えば、「1」,「2」,「D」)に基づき、ギア機構32の変速ギア比を決定する。
【0050】
シフト・レバー33のシフト位置が例えば「1」である場合、ギア機構32が1速を表す変速ギア比を有するように、変速機制御手段40は、ギア機構32を制御する。シフト・レバー33のシフト位置が例えば「D」である場合、変速機制御手段40は、制御装置100からの制御信号(例えば、車両1の速度及び全輪駆動力(目標値))に基づき例えば1速〜5速等で構成されるギア機構32が有する全ての変速ギアの何れか1つを表す変速ギア比を決定する。これに応じて、ギア機構32が例えば1速〜5速の何れか1つを表す変速ギア比を有するように、変速機制御手段40は、ギア機構32を制御する。その後、例えば、変速機制御手段40が例えば1速を表す変速ギア比から2速を表す変速ギア比に変更する時、ギア機構32が1速を表す変速ギア比から2速を表す変速ギア比に変更するように、変速機制御手段40は、ギア機構32を制御する。
【0051】
図1の例において、車両1は、前輪71の回転速度を感知する車輪速度センサ81を備え、前輪72の回転速度を感知する車輪速度センサ82も備える。また、車両1は、後輪73の回転速度を感知する車輪速度センサ83を備え、後輪74の回転速度を感知する車輪速度センサ84も備える。制御装置100は、車輪速度センサ81,82,83,84で感知された回転速度(車輪速度)に基づき、車両1の速度を求めることができる。車両1は、車両1の前後方向に沿った車両1の加速度を感知する前後加速度センサ85(例えば、その加速度を重力加速度単位で感知する前後Gセンサ)を備え、制御装置100は、その加速度で、車両1の速度を補正することができる。
【0052】
図1の例において、車両1は、車両1が旋回する時のヨー・レートを感知するヨー・レート・センサ86を備える。また、車両1は、車両1の横方向に沿った車両1の遠心力(遠心加速度)を感知する横加速度センサ87(その遠心加速度を重力加速度単位で感知する横Gセンサ)を備える。さらに、車両1は、ステアリング・ホイール88及びこのステアリング・ホイール88の操舵角を感知する操舵角センサ89を備える。
【0053】
制御装置100は、ヨー・レート、遠心加速度(横加速度)及び操舵角に基づき、車両1の横滑り等の挙動を検出することができる。制御装置100は、このような挙動の検出に加えて、様々な制御(例えば、図示しないブレーキ等の制動部を介する前輪71,72及び後輪73,74の少なくとも1つに関係する制御)をすることができるが、上述の制御のすべてを実行する必要がない。以下に、制御装置100の制御の概要を説明する。
2. 制御装置
【0054】
図2は、本発明による制御装置の概略構成図を示す。図2に示されるように、制御装置100は、入力信号を入力し、出力信号を出力し、様々な制御を実行することができる。制御装置100は、駆動力制御手段300(を備え、駆動力制御手段300は、様々な制御の1例として、主駆動輪駆動力(例えば、前輪駆動力)及び副駆動輪駆動力(例えば、後輪駆動力)を制御する。
【0055】
図2の例において、制御装置100は、車両挙動制御手段200を備える。車両挙動制御手段200は、様々な制御の1例として、副駆動輪駆動力を制限する副駆動輪制限駆動力を算出することができる。具体的には、例えば車両の走行状態が不安定である場合、車両挙動制御手段200は、副駆動輪制限駆動力の増加及び減少を制限し、このように制限された副駆動輪制限駆動力を駆動力制御手段300に送ることができる。
【0056】
具体的には、例えば、駆動力制御手段300は、主駆動輪駆動力(目標値)と副駆動輪駆動力(目標値)と間の比率を決定し、その比率及び全輪駆動力(目標値)に基づき例えば副駆動輪駆動力(目標値)を決定する。決定された副駆動輪駆動力(目標値)が得られるように、駆動力制御手段300は、例えば図1のリア・ディファレンシャル・ギア機構61の配分比を出力信号で制御する。駆動力制御手段300からリア・ディファレンシャル・ギア機構61への出力信号は、副駆動輪駆動力(目標値)を制御する制御信号である。
【0057】
なお、リア・ディファレンシャル・ギア機構61の配分比によって副駆動輪駆動力がゼロである時、即ち、プロペラ・シャフト55とリア・ドライブ・シャフト64,65との間が遮断される時、図1の例において、主駆動輪駆動力(目標値)又は前輪駆動力は、全輪駆動力(目標値)と一致する。代替的に、リア・ディファレンシャル・ギア機構61の配分比によって副駆動輪駆動力がゼロでない時、即ち、プロペラ・シャフト55とリア・ドライブ・シャフト64,65との間が接続される時、図1の例において、主駆動輪駆動力(目標値)は、全輪駆動力(目標値)から副駆動輪駆動力(目標値)を減算した値と一致する。
【0058】
図2に示す制御装置100の車両挙動制御手段200は、例えばヨー・レート・センサ86から取得するヨー・レート等を表す入力信号を入力することができる。車両挙動制御手段200は、入力信号に基づき、副駆動輪制限駆動力を算出又は要求することができる。具体的には、入力信号は、副駆動輪制限駆動力を算出するための信号、車両1の走行状態が不安定であるか否かを検出するための信号等である。なお、入力信号は、副駆動輪制限駆動力を算出又は要求するタイミングを表すトリガであってもよい。
【0059】
車両挙動制御手段200は、複数のモードで副駆動輪制限駆動力を算出することができる。例えば第1のモードに対応する第1の期間において、車両挙動制御手段200は、副駆動輪制限駆動力が下り勾配に従って減少するように、副駆動輪制限駆動力を算出することができる。第1のモードは、例えば初期モードと呼ぶことができ、第1の期間は、例えば、車両1の走行状態が不安定であることが検出された時から始まる所定の期間(第1の所定の期間)である。例えば第2のモードに対応する第2の期間において、車両挙動制御手段200は、副駆動輪制限駆動力が上り勾配に従って増加するように、副駆動輪制限駆動力を算出することができる。第2のモードは、例えば末期モード又は徐々に戻すモードと呼ぶことができ、第2の期間は、例えば、車両1の走行状態が安定である又は例えばヨー・レート・センサ86等のセンサが故障であることが検出された時から始まる所定の期間(第2の所定の期間)である。
【0060】
車両挙動制御手段200が副駆動輪制限駆動力(制限駆動力)を駆動力制御手段300に要求する場合、駆動力制御手段300は、副駆動輪駆動力(目標値)を減少させる一方、主駆動輪駆動力(目標値)を増加させる。この時、駆動力制御手段300は、副駆動輪駆動力(目標値)を副駆動輪制限駆動力(制限駆動力)と一致させることにより、副駆動輪駆動力(目標値)を減少させる。具体的には、リア・ディファレンシャル・ギア機構61の配分比によって副駆動輪駆動力が減少するように、駆動力制御手段300は、リア・ディファレンシャル・ギア機構61を制御する。プロペラ・シャフト55とリア・ドライブ・シャフト64,65との間がより弱く接続されることで、実際の副駆動輪駆動力が減少し、その結果として、実際の主駆動輪駆動力が増加する。副駆動輪駆動力の減少により、例えば、オーバ・ステアを抑制することができる。従って、例えば、車両1の安定性は向上する。
【0061】
駆動力制御手段300は、主駆動輪駆動力(目標値)及び副駆動輪駆動力(目標値)を予め決定し、車両挙動制御手段200からの要求に応じて、予め決定された副駆動輪駆動力(目標値)を減少させ、予め決定された主駆動輪駆動力(目標値)を増加させることができる。
【0062】
なお、駆動力制御手段300は、主駆動輪駆動力(目標値)及び副駆動輪駆動力(目標値)を決定する第1の制御手段と呼ぶこともでき、車両挙動制御手段200は、第2の制御手段と呼ぶことができる。駆動力制御手段300(第1の制御手段)は、主駆動輪駆動力(目標値)及び副駆動輪駆動力(目標値)を一次的に決定する。駆動力制御手段300(第1の制御手段)は、車両挙動制御手段200(第2の制御手段)からの副駆動輪駆動力(目標値)の制限要求に応じるか否かを判定してもよく、制限要求を拒否してもよい。車両挙動制御手段200が副駆動輪制限駆動力(制限駆動力)を駆動力制御手段300に送る場合、駆動力制御手段300(第1の制御手段)は、主駆動輪駆動力(目標値)及び副駆動輪駆動力(目標値)を二次的に(最終的に)決定することができる。
3. 車両挙動制御手段(第2の制御手段)
【0063】
図3は、本発明による車両挙動制御手段の概略構成図を示す。車両挙動制御手段200(第2の制御手段)は、副駆動輪駆動力(目標値)の増加を駆動力制御手段(第1の制御手段)、例えば、図2の駆動力制御手段300に要求することができる。図3の車両挙動制御手段200は、例えば、準備部220、第1の制限部230及び第2の制限部240を備えることができる。準備部220は、基準駆動力を準備し、第1の制限部230及び第2の制限部240は、それぞれ、副駆動輪制限駆動力の減少及び増加を制限する。準備部220、第1の制限部230及び第2の制限部240は、副駆動輪制限駆動力を算出する算出部と呼ぶことができる。車両挙動制御手段200は、このような算出部だけを備えてもよく、出力部250をさらに備えることができる。また、車両挙動制御手段200は、検出部210をさらに備えてもよく、それをさらに備えなくてもよい。
【0064】
例えば図3に示されるように、車両挙動制御手段200は、例えば図1のヨー・レート・センサ86からのヨー・レート及び操舵角センサ89からの操舵角を入力する検出部210を備えることができる。検出部210は、入力部と呼ぶことができ、車両挙動制御手段200が検出部210を備えない場合、ヨー・レート等を入力する例えば第1の制限部230又は第2の制限部240は、入力部と呼ぶことができる。副駆動輪制限駆動力を例えば図2の駆動力制御手段300に出力又は要求する出力部250は、要求部と呼ぶことができる。車両挙動制御手段200が出力部250を備えない場合、副駆動輪制限駆動力を出力又は要求する第1の制限部230又は第2の制限部240は、出力部又は要求部と呼ぶことができる。
3.1. 検出部
【0065】
検出部210は、例えば車両1の不安定状態を検出し、準備部220が、例えば副駆動輪制限駆動力の元である基準駆動力を準備するように、準備部220に指示することができる。不安定状態が検出された場合、検出部210は、準備部220に基準駆動力の準備の指示又は許可を表す信号(例えば二進法で「1」又はhighレベルを表す信号)を送ることができる。車両1の不安定状態は、例えば、ヨー・レート・センサ86から取得する実ヨー・レートと、操舵角及び車両1の速度に基づいて算出する規範ヨー・レートとを用いて、車両1の走行状態が不安定か否かを判定することができる。具体的には、実ヨー・レートと規範ヨー・レートとの差(ヨー・レート偏差)が所定値よりも大きいときに不安定状態であるとすることができる。また、ヨー・レート偏差に対してフィルタ処理を行なって、不安定状態を判断してもよい。さらに、横加速度センサ87から取得する横加速度で、規範ヨー・レートを修正又は訂正することができる。
【0066】
車両1が不安定状態か否かとは、車両1の走行状態が不安定であるか否か、具体的にはオーバ・ステアであるか否かということであり、車両1の速度を考慮しないで、実ヨー・レートと操舵角との差から不安定状態(オーバ・ステア状態の判定基準)を判断してもよい。
【0067】
検出部210は、操舵角を、例えば操舵角センサ89から入力できる。また、検出部210は、例えば車輪速度センサ81,82,83,84で感知された4つの回転速度(車輪速度)の平均を算出し、駆動輪の平均車輪速度Vaw_avを車両1の速度として得ることができる。代替的に、検出部210は、例えば車輪速度センサ83,84で感知された2つの回転速度(車輪速度)の平均を算出し、車両1の速度Vvh_esを車両1の速度として得る又は推定することができる。
【0068】
なお、車両1の速度Vvh_es(推定速度)は、例えば車両1の振動等によるノイズの影響を排除するために、後輪73,74(副駆動輪)の車輪速度の各々に、上昇制限及び下降制限を適用してもよい。即ち、検出部210は、車輪速度センサ83,84で感知された2つの回転速度(車輪速度)を補正又は訂正し、補正又は訂正された2つの回転速度(車輪速度)の平均を算出し、車両1の速度Vvh_esを得る又は推定することができる。車両1の速度Vvh_es(推定速度)は、他の手法で推定してもよい。
【0069】
検出部210は、車両1の走行状態が不安定であるか否かを表す信号を準備部220に送ることができる。検出部210は、この信号を例えば出力部250に送ってもよい。さらに、検出部210は、例えばヨー・レート偏差を表す信号を準備部220に送ることができる。
【0070】
車両1の走行状態が不安定である場合、準備部220は、例えばヨー・レート偏差に基づく基準駆動力を準備又は算出する。なお、基準駆動力の算出手法は、ヨー・レート偏差を使用する手法に限定されない。また、準備部220は、基準駆動力として、副駆動輪駆動力を制限しない値を準備してもよい。準備部220は、複数のモードに応じて基準駆動力を準備又は算出することができる。準備部220の詳細な動作については、後述する。
【0071】
車両1の走行状態が不安定である場合、出力部250は、準備部220で準備された基準駆動力を第1の制限部230及び第2の制限部240を介して、例えば図2の駆動力制御手段300に出力する。車両1の走行状態が不安定であることが検出された時、即ち、検出部210の検出結果が安定から不安定に変化した瞬間に、出力部250は、例えば図2の駆動力制御手段300からの副駆動輪駆動力を入力し、その副駆動輪駆動力を副駆動輪制限駆動力として出力又は戻すことができる。出力部250の詳細な動作については、後述する。
【0072】
検出部210は、例えばヨー・レート・センサ86が故障であるか否かを検出することができる。また、検出部210は、ヨー・レート・センサ86とは異なる他のセンサが故障であるか否かを検出することができる。具体的には、検出部210は、ヨー・レート・センサ86等のセンサからの信号が途絶える場合、検出部210は、センサが故障したことを検出することができる。また、ヨー・レート・センサ86等のセンサからの信号が異常値を示す場合も、検出部210は、センサが故障したことを検出することができる。加えて、ヨー・レート・センサ86等のセンサは、それ自身が故障であることを表す信号を送ってもよい。検出部210が、センサが故障であることを表す信号を受ける場合、検出部210は、センサが故障したことを検出することができる。検出部210は、準備部220にセンサの故障の事実を表す信号(例えば二進法で「1」又はhighレベルを表す信号)を送ることができる。
【0073】
なお、例えば車両1の不安定状態を検出する検出部210を第1の検出部と呼び、センサの故障を検出する検出部210を第2の検出部と呼ぶことができる。第1の検出部及び第2の検出部は、互いに独立してもよく、一体に形成されてもよい。
3.2. 準備部
【0074】
図3の準備部220は、基準駆動力を準備する。基準駆動力は、出力部250からの出力の元になる。出力部250又は車両挙動制御手段200が例えば副駆動輪制限駆動力を例えば図2の駆動力制御手段300に出力又は要求する場合、副駆動輪制限駆動力は、基準駆動力に基づく。出力部250又は車両挙動制御手段200が副駆動輪制限駆動力を出力又は要求しない場合、出力部250からの出力(副駆動輪駆動力を制限しない値)も、基準駆動力に基づく。従って、準備部220は、例えば検出部210からの信号、具体的には、車両1の走行状態が不安定であるか否かを表す信号に応じて、基準駆動力を変更することができる。
【0075】
図4A及び図4Bは、基準駆動力の設定例を示す。図4Aの例において、実線は、準備部220で準備される基準駆動力を示す。時刻TSまで、検出部210からの信号は、車両1の走行状態が安定であることを示し、準備部220は、副駆動輪駆動力を制限しない値を基準駆動力として準備する。副駆動輪駆動力を制限しない値は、例えば、駆動力制御手段300で決定し得る副駆動輪駆動力の最大値である。時刻TSで、車両1の走行状態が不安定であることが検出部210によって検出されると、準備部220は、例えば第1の値を示す基準駆動力(第1の基準駆動力)を準備する。時刻TEで、車両1の走行状態が安定であることが検出部210によって検出されると、準備部220は、副駆動輪駆動力を制限しない値を基準駆動力として準備する。
【0076】
図4Aの例において、点線は、駆動力制御手段300によって二次的に(最終的に)決定される副駆動輪駆動力を示す。準備部220によって準備される基準駆動力は、第1の制限部230及び第2の制限部240を介して出力部250から出力される。仮に、準備部220によって準備される基準駆動力が直接に出力部250から出力される場合、時刻TSで、駆動力制御手段300は、副駆動輪駆動力を第1の基準駆動力に一致させることができる。副駆動輪駆動力が第1の基準駆動力に一致することで、副駆動輪駆動力は減少する一方、主駆動輪駆動力は増加し、これにより、例えばアンダ・ステア等の走行状態の不安定が抑制又は解消される。しかしながら、図4Aで示されるように、基準駆動力が真下に変化する場合、副駆動輪駆動力が真下に変化しないことにより、車両1の安定性が向上し得ることを本発明者らは認識した。言い換えれば、出力部250からの副駆動輪駆動力の減少を制限する第1の制限部230を設けることが好ましいことを本発明者らは認識した。第1の制限部230の詳細な動作については、後述する。
【0077】
仮に、準備部220によって準備される基準駆動力が直接に出力部250から出力される場合、時刻TEで、車両1の走行状態が安定であることが検出部210によって検出されると、駆動力制御手段300は、一次的に決定される副駆動輪駆動力それ自身を二次的に(最終的に)決定される副駆動輪駆動力として採用することができる。時刻TEの直前で、駆動力制御手段300は、例えば、一次的に決定される副駆動輪駆動力及び出力部250からの副駆動輪駆動力(例えば、第1の基準駆動力)のうちの最小の駆動力を二次的に(最終的に)決定される副駆動輪駆動力として採用することができる。時刻TEの直前で、出力部250からの副駆動輪駆動力(例えば、第1の基準駆動力)が二次的に(最終的に)決定される副駆動輪駆動力として採用される場合、時刻TEで、二次的に(最終的に)決定される副駆動輪駆動力は、第1の基準駆動力から一次的に決定される副駆動輪駆動力に変化する。このような状況を回避することが好ましいことを本発明者らは認識した。言い換えれば、出力部250からの副駆動輪駆動力の増加を制限する第2の制限部240を設けることが好ましいことを本発明者らは認識した。第2の制限部240の詳細な動作については、後述する。
【0078】
図4Bの例において、時刻TFで、ヨー・レート・センサ86等のセンサが故障であることが検出部210によって検出されると、準備部220は、副駆動輪駆動力を制限しない値を基準駆動力として準備する。センサが故障である場合、出力部250又は車両挙動制御手段200は、副駆動輪制限駆動力の中止を決定することができる。時刻TFでも、準備部220によって準備される基準駆動力(副駆動輪駆動力を制限しない値)が直接に出力部250から出力されないで、出力部250からの副駆動輪駆動力の増加を制限する第2の制限部240を設けることが好ましいことを本発明者らは認識した。
【0079】
車両1の走行状態が不安定である期間(例えば時刻TSから時刻TEまで、時刻TSから時刻TFまで等)において、第1の値は、固定値でなくてもよい。具体的には、準備部220は、例えばヨー・レート偏差を検出部220から受けることができ、ヨー・レート偏差が小さくなるように、準備部220は、第1の値を変化させることができる。即ち、車両1の走行状態が不安定である期間において、準備部220は、ヨー・レート偏差に基づく基準駆動力を準備又は算出してもよい。
3.3. 第1の制限部
【0080】
図3の第1の制限部230は、出力部250からの出力(例えば、副駆動輪制限駆動力)の減少を制限する。第1の制限部230は、例えば下限量を有し、下限量は、例えば第1の制限部230、具体的には第1の制限部230内の図示しない記憶部(例えばメモリ、レジスタ等)に設定される。具体的には、第1の制限部230は、準備部220で準備された基準駆動力を取り込むとともに、出力部250から既に出力された副駆動輪制限駆動力を取り込む。第1の制限部230は、取り込んだ基準駆動力及び副駆動輪駆動路を比較し、出力部250から次に出力される副駆動輪制限駆動力(第1の制限部230からの出力)の減少を制限する。具体的には、第1の制限部230は、取り込んだ副駆動輪制限駆動力(前回の値)から下限量を減算した値(第1の暫定的な副駆動輪制限駆動力(減少時))が取り込んだ基準駆動力(第2の暫定的な副駆動輪制限駆動力(減少時))よりも大きいか否かを判定することができる。
【0081】
第1の制限部230の判定結果が肯定を表す場合、基準駆動力それ自身(第2の暫定的な副駆動輪制限駆動力)を直接に出力部250から出力することを仮定する。この場合、出力部250から次に出力される副駆動輪制限駆動力(今回の値)と出力部250から既に出力された副駆動輪制限駆動力(前回の値)との差、即ち、副駆動輪制限駆動力の減少分は、下限量よりも大きい。従って、副駆動輪制限駆動力の変化が大きい。副駆動輪制限駆動力の変化が大きくなることを回避するために、第1の制限部230の判定結果が肯定を表す場合、第1の判定部230は、取り込んだ副駆動輪制限駆動力(前回の値)から下限量を減算した値(第1の暫定的な副駆動輪制限駆動力)を出力する。出力部250は、第2の暫定的な副駆動輪制限駆動力の代わりに、第1の暫定的な副駆動輪制限駆動力を副駆動輪制限駆動力(今回の値)として出力する。
【0082】
第1の制限部230の判定結果が否定を表す場合、基準駆動力それ自身(第2の暫定的な副駆動輪制限駆動力)を直接に出力部250から出力することを仮定する。この場合、出力部250から次に出力される副駆動輪制限駆動力(今回の値)と出力部250から既に出力された副駆動輪制限駆動力(前回の値)との差、即ち、副駆動輪制限駆動力の減少分は、下限量と等しいか、又は下限量よりも小さい。従って、副駆動輪制限駆動力の変化が小さい。第1の制限部230の判定結果が否定を表す場合、第1の判定部230は、取り込んだ基準駆動力(第2の暫定的な副駆動輪制限駆動力)を出力する。出力部250は、第2の暫定的な副駆動輪制限駆動力を副駆動輪制限駆動力(今回の値)として出力する。
3.4. 第2の制限部
【0083】
図3の第2の制限部240は、出力部250からの出力(例えば、副駆動輪制限駆動力)の増加を制限する。第2の制限部240は、例えば上限量を有し、上限量は、例えば第2の制限部240、具体的には第2の制限部240内の図示しない記憶部(例えばメモリ、レジスタ等)に設定される。具体的には、第2の制限部240は、準備部220で準備された基準駆動力を取り込むとともに、出力部250から既に出力された副駆動輪制限駆動力を取り込む。第2の制限部240は、取り込んだ基準駆動力及び副駆動輪駆動路を比較し、出力部250から次に出力される副駆動輪制限駆動力(第2の制限部240からの出力)の増加を制限する。具体的には、第2の制限部240は、取り込んだ副駆動輪制限駆動力(前回の値)に上限量を加算した値(第1の暫定的な副駆動輪制限駆動力(増加時))が取り込んだ基準駆動力(第2の暫定的な副駆動輪制限駆動力(増加時))よりも小さいか否かを判定することができる。
【0084】
第2の制限部240の判定結果が肯定を表す場合、基準駆動力それ自身(第2の暫定的な副駆動輪制限駆動力)を直接に出力部250から出力することを仮定する。この場合、出力部250から次に出力される副駆動輪制限駆動力(今回の値)と出力部250から既に出力された副駆動輪制限駆動力(前回の値)との差、即ち、副駆動輪制限駆動力の増加分は、上限量よりも大きい。従って、副駆動輪制限駆動力の変化が大きい。副駆動輪制限駆動力の変化が大きくなることを回避するために、第2の制限部240の判定結果が肯定を表す場合、第2の判定部240は、取り込んだ副駆動輪制限駆動力(前回の値)から上限量を加算した値(第1の暫定的な副駆動輪制限駆動力)を出力する。出力部250は、第2の暫定的な副駆動輪制限駆動力の代わりに、第1の暫定的な副駆動輪制限駆動力を副駆動輪制限駆動力(今回の値)として出力する。
【0085】
第2の制限部240の判定結果が否定を表す場合、基準駆動力それ自身(第2の暫定的な副駆動輪制限駆動力)を直接に出力部250から出力することを仮定する。この場合、出力部250から次に出力される副駆動輪制限駆動力(今回の値)と出力部250から既に出力された副駆動輪制限駆動力(前回の値)との差、即ち、副駆動輪制限駆動力の増加分は、上限量と等しいか、又は上限量よりも小さい。従って、副駆動輪制限駆動力の変化が小さい。第2の制限部240の判定結果が否定を表す場合、第2の判定部240は、取り込んだ基準駆動力(第2の暫定的な副駆動輪制限駆動力)を出力する。出力部250は、第2の暫定的な副駆動輪制限駆動力を副駆動輪制限駆動力(今回の値)として出力する。
【0086】
なお、第2の制限部240は、出力部250からの出力の増加を制限し、第1の制限部230は、出力部250からの出力の減少を制限する。言い換えれば、取り込んだ基準駆動力が取り込んだ副駆動輪制限駆動力(前回の値)よりも大きい場合、第2の制限部240は、有効である一方、第1の制限部230は、無効である。また、取り込んだ基準駆動力が取り込んだ副駆動輪制限駆動力(前回の値)と等しい又は取り込んだ副駆動輪制限駆動力(前回の値)よりも小さい場合、第2の制限部240は、無効である一方、第1の制限部230は、有効である。有効である第2の制限部240は、第1の暫定的な副駆動輪制限駆動力(増加時)及び第2の暫定的な副駆動輪制限駆動力(増加時)のうちの最小の副駆動輪制限駆動力を出力する。有効である第1の制限部230は、第1の暫定的な副駆動輪制限駆動力(減少時)及び第2の暫定的な副駆動輪制限駆動力(減少時)のうちの最大の副駆動輪制限駆動力を出力する。
3.5. 出力部
【0087】
図3の出力部250は、第1の制限部230からの出力又は第2の制限部240からの出力を副駆動輪制限駆動力として出力する。また、出力部250は、車両1の走行状態が不安定であるか否かを表す信号を入力してもよく、入力しなくてもよい。出力部250がこの信号を入力する場合、出力部250は、車両1の走行状態が不安定であることが検出部210によって検出された時の副駆動輪駆動力(例えば図2の駆動力制御手段300によって二次的に(最終的に)決定される副駆動輪駆動力)を取得することができる。この時、出力部250は、取得した副駆動輪駆動力を副駆動輪制限駆動力として駆動力制御手段300に出力又は戻すことができる。
【0088】
図5A及び図5Bは、出力部の出力例を示す。図5Aの例において、実線は、出力部250からの出力を示す。出力部250は、準備部220で準備された基準駆動力を第1の制限部230及び第2の制限部240を介して出力する。図5Aの例において、時刻TSまで、検出部210からの信号は、車両1の走行状態が安定であることを示し、出力部250は、例えば図4Aで示されるような準備部220で準備された基準駆動力(副駆動輪駆動力を制限しない値)を出力する。
【0089】
時刻TSで、車両1の走行状態が不安定であることが検出部210によって検出されると、準備部220は、例えば第1の値を示す基準駆動力(第1の基準駆動力)を準備する。従って、出力部250は、第1の基準駆動力を第1の制限部230で制限し、出力部250からの出力(副駆動輪制限駆動力)は、副駆動輪駆動力を制限しない値から第1の基準駆動力まで下り勾配に従って減少する。図5Aの例において、点線は、駆動力制御手段300によって二次的に(最終的に)決定される副駆動輪駆動力を示す。時刻TSの直後、出力部250からの出力(副駆動輪制限駆動力)が、駆動力制御手段300によって一次的に決定される副駆動輪駆動力よりも大きい場合、駆動力制御手段300は、図5Aに示すような二次的に(最終的に)決定される副駆動輪駆動力(時刻TSから時刻TAまでの点線)を採用することができる。時刻TAから時刻TBまで、駆動力制御手段300は、二次的に(最終的に)決定される副駆動輪駆動力を、副駆動輪制限駆動力(出力部250からの出力)に一致させることができる。図5Aの例において、出力部250からの出力(実線)が駆動力制限手段300で最終的に決定される副駆動輪駆動力(点線)と一致する時刻TAから時刻TBに対応する実線は、太く描かれている。
【0090】
図5B及び図5Cの例において、実線は、車両1の走行状態が不安定であるか否かを表す信号を入力する出力部250からの出力を示す。時刻TSで、車両1の走行状態が不安定であることが検出部210によって検出されると、出力部250は、駆動力制御手段300によって二次的に(最終的に)決定される副駆動輪駆動力を取得し、取得した副駆動輪駆動力を副駆動輪制限駆動力として出力する。従って、出力部250からの出力(副駆動輪制限駆動力)は、時刻TSでの副駆動輪駆動力から第1の基準駆動力まで下り勾配に従って減少する。時刻TSの直後、出力部250からの出力(副駆動輪制限駆動力)が、駆動力制御手段300によって一次的に決定される副駆動輪駆動力よりも小さい場合、駆動力制御手段300は、下り勾配に従って減少する副駆動輪制限駆動力を採用することができる。この場合、副駆動輪駆動力を副駆動輪制限駆動力で効果的に制限することができる。図5Bの例において、二次的に(最終的に)決定される副駆動輪駆動力は、時刻TSから時刻TCまで、副駆動輪制限駆動力(出力部250からの出力)に一致し、実線は、太く描かれている。また、図5Cの例において、二次的に(最終的に)決定される副駆動輪駆動力は、時刻TSから時刻TDまで、副駆動輪制限駆動力(出力部250からの出力)に一致し、実線は、太く描かれている。
【0091】
図5Aの例及び図5Bの例において、時刻TEで、車両1の走行状態が安定であることが検出部210によって検出されると、準備部220は、副駆動輪駆動力を制限しない値を基準駆動力として準備する。また、図5Cの例において、時刻TFで、ヨー・レート・センサ86等のセンサが故障であることが検出部210によって検出されると、準備部220は、副駆動輪駆動力を制限しない値を基準駆動力として準備する。従って、出力部250は、副駆動輪駆動力を制限しない値を第2の制限部240で制限し、出力部250からの出力(副駆動輪制限駆動力)は、第1の基準駆動力から副駆動輪駆動力を制限しない値まで上り勾配に従って増加する。このとき、図5Aの例においては、時刻TEから例えば時刻TBまで、二次的に(最終的に)決定される副駆動輪駆動力は、副駆動輪制限駆動力(出力部250からの出力)に一致する。図5Bの例においては、時刻TEから例えば時刻TCまで、二次的に(最終的に)決定される副駆動輪駆動力は、副駆動輪制限駆動力(出力部250からの出力)に一致する。図5Cの例においては、時刻TFから例えば時刻TDまで、二次的に(最終的に)決定される副駆動輪駆動力は、副駆動輪制限駆動力(出力部250からの出力)に一致する。
【0092】
車両1の走行状態が不安定である期間(例えば時刻TSから時刻TEまで、時刻TSから時刻TFまで等)において、第1の値(第1の基準駆動力)は、固定値でなくてもよい。具体的には、準備部220は、ヨー・レート偏差に基づく基準駆動力を準備又は算出してもよい。車両1の走行状態が不安定である期間において、基準駆動力が変化する場合も、出力部250は、変化する基準駆動力を第1の制限部230及び第2の制限部240で制限することができる。仮に、車両1の走行状態が不安定である期間において、基準駆動力の増加分、従って副駆動輪制限駆動力の増加分が大きい場合、増加する基準駆動力又は副駆動輪制限駆動力は、上限量に基づく上り勾配に従って制限される。仮に、車両1の走行状態が不安定である期間において、基準駆動力の減少分、従って副駆動輪制限駆動力の減少分が大きい場合、減少する基準駆動力又は副駆動輪制限駆動力は、下限量に基づく下り勾配に従って制限される。
4. 変形例
【0093】
図3の第1の制限部230は、副駆動輪制限駆動力の減少分が下限量よりも大きい場合、その減少分を下限量に一致させる。言い換えれば、出力部250からの出力は、例えば図5Bに示すような下限量に基づく下り勾配に一致する。この時、下限量は、固定値でなくてもよい。具体的には、下限量は、車両1の速度が大きいほど少なく設定することができる。また、下限量は、車両1の横加速度が大きいほど少なく設定することができる。下り勾配を小さくすることで、副駆動輪制限駆動力の変化をさらに少なくし、例えば、オーバ・ステアを解消した後のアンダ・ステアの発生を抑制することができる。また、車両1の振動を抑制することができる。このように、下限量を補正又は調整することで、車両1の安定性が向上する。第1の制限部230の変形例又は追加的な構成例は、後述する。
【0094】
図3の第2の制限部240は、副駆動輪制限駆動力の増加分が上限量よりも大きい場合、その増加分を上限量に一致させる。言い換えれば、出力部250の出力は、例えば図5Bに示すような上限量に基づく上り勾配に一致する。この時、上限量は、固定値でなくてもよい。具体的には、上限量は、車両1のヨー・レートが大きいほど少なく設定することができる。また、上限量は、車両1の総加速度(前後加速度及び横加速度の合成加速度)が大きいほど多く設定することができる。上り勾配を小さくすることで、副駆動輪制限駆動力の変化をさらに少なくし、例えば、オーバ・ステアを解消した後のオーバ・ステアの再発生を抑制することができる。また、上り勾配を大きくすることで、車両1の加速の制限を緩和することができる。このように、上限量を補正又は調整することで、車両1の安定性が向上し、又は車両1の走行性を優先することができる。第2の制限部240の変形例又は追加的な構成例は、後述する。
【0095】
図6は、追加的な構成例を示す。図6に示すように、第1の設定部260は、例えば図3の検出部210から車両1の速度を入力する。また、第1の設定部260は、例えば図1の横加速度センサ87からの横加速度を入力する。なお、第1の設定部260は、車両1の速度及び横加速度の少なくとも1つに基づき、第1の制限部230に設定される下限量を設定してもよい。第2の設定部270は、横加速度を入力する。また、第2の設定部270は、例えば図1の前後加速度センサ85から車両1の前後加速度を入力する。さらに、第2の設定部270は、例えば図3の検出部210からのヨー・レートを入力する。なお、第2の設定部270は、ヨー・レートだけに基づき、第2の制限部240に設定される上限量を設定してもよい。
【0096】
図7は、下限量の設定例を示す。図7の例において、実線は、第1の横加速度を示す時の速度依存性を示す。点線は、第1の横加速度よりも大きい第2の横加速度を示す時の速度依存性を示す。1点鎖線は、第2の横加速度よりも大きい第3の横加速度を示す時の速度依存性を示す。2点鎖線は、第3の横加速度よりも大きい第4の横加速度を示す時の速度依存性を示す。例えば図7に示すように、図6の第1の設定部260は、車両1の速度及び横加速度に基づき、第1の制限部230に設定される下限量を設定する。図7の例において、下限量は、速度が大きくなるほど少なくなるが、下限量と速度との関係は、図7の例に限定されない。例えば、下限量と速度との関係は、折れ線グラフでもよい。また、下限量と速度との関係との関係は、一次関数でなく、2次関数、多次関数などで表される曲線でも、階段関数で表される階段状の折れ曲がった直線でもよい。同様に、下限量と速度と横加速度の関係は、図7の例に限定されない。
【0097】
図8は、上限量の設定例を示す。図8の例において、実線は、第1の総加速度を示す時のヨー・レート依存性を示す。点線は、第1の総加速度よりも大きい第2の総加速度を示す時のヨー・レート依存性を示す。1点鎖線は、第2の総加速度よりも大きい第3の総加速度を示す時のヨー・レート依存性を示す。2点鎖線は、第3の総加速度よりも大きい第4の総加速度を示す時のヨー・レート依存性を示す。先に述べたとおり、総加速度は前後加速度と横加速度とを含む。例えば図8に示すように、図6の第2の設定部270は、車両1のヨー・レート及び総加速度に基づき、第2の制限部240に設定される上限量を設定する。図8の例において、上限量は、ヨー・レートが大きくなるほど少なくなるが、上限量とヨー・レートとの関係は、図8の例に限定されない。例えば、上限量とヨー・レートとの関係係は、折れ線グラフでもよい。また、上限量とヨー・レートとの関係は、一次関数でなく、2次関数、多次関数などで表される曲線でも、階段関数で表される階段状の折れ曲がった直線でもよい。同様に、上限量とヨー・レートと総加速度の関係は、図8の例に限定されない。
【0098】
図6の第2の設定部270は、通常、第2の制限部240に設定される上限量(第1の上限量)を設定するが、例えばヨー・レート・センサ86、横加速度センサ87及び前後加速度センサ85の少なくとも1つが故障する場合、第2の設定部270は、他の上限量(第2の上限量)を設定することができる。ヨー・レート・センサ86の故障は、例えば図3の検出部210(第1の検出部)によって検出されてもよく、図6の第2の設定部270(第2の検出部)によって検出されてもよい。
【0099】
図9は、他の上限量(第2の上限量)の設定例を示す。図9に示すように、ヨー・レート・センサ86等のセンサが故障した時の上限量は、センサが故障であることが検出された時からの経過時間が長いほど多く設定される。図9の例において、上限量は、経過時間が長くなるほど多くなるが、上限量と経過時間との関係は、図9の例に限定されない。例えば、上限量と経過時間との関係は、折れ線グラフでもよい。また、上限量と経過時間との関係は、一次関数でなく、2次関数、多次関数などで表される曲線でも、階段関数で表される階段状の折れ曲がった直線でもよい。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本願発明による制御装置は、車両の安定性制御に最適である。
【符号の説明】
【0101】
1・・・車両、100・・・制御装置、200・・・挙動制御手段(第2の制御手段)、220・・・準備部、230・・・第1の制限部、240・・・第2の制限部、300・・・駆動力制御手段(第1の制御手段)。
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の前輪駆動力及び後輪駆動力を制御する制御装置(駆動力制御装置)に関連する。
【背景技術】
【0002】
車両、例えば自動車は、一般に、4つの車輪、即ち2つの前輪及び2つの後輪を備え、これらの車輪を駆動する電子的な制御装置を備えることができる。このような電子的な制御装置として、特許文献1は、4WD・ECU(four-wheel-drive electronic control unit)を開示する。特許文献1に開示される4WD・ECUは、VSA(vehicle stability assist)・ECUとともに、車両に働く駆動力を制御し、具体的には、4つの車輪駆動力を、例えばトルクを単位として決定する。
【0003】
このように、4WD・ECUは、VSA・ECUと協働して、駆動力を制御する。具体的には、VSA・ECUは、例えば、車両の走行状態が不安定である場合、駆動力の制限を4WD・ECUに要求することができる。4WD・ECUは、VSA・ECUからの要求に応じて、駆動力を減少させ、車両の安定性を向上させることができる。
【0004】
VSA・ECU等の車両挙動制御手段は、一般に、車輪の空転を抑制する機能(トラクション・コントロール・システム)、車輪のロックを抑制する機能(アンチロック・ブレーキ・システム)及び車両の横滑りを抑制する機能の少なくとも1つを備えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-256605号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、車両の安定性を向上可能な制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の形態によれば、車両の前輪駆動力及び後輪駆動力を制御する制御装置であって、主駆動輪駆動力及び副駆動輪駆動力を制御する第1の制御手段であって、前記主駆動輪駆動力は、前記前輪駆動力及び前記後輪駆動力の一方であり、前記副駆動輪駆動力は、前記前輪駆動力及び前記後輪駆動力の他方である、第1の制御手段と、前記副駆動輪駆動力を制限する副駆動輪制限駆動力を前記第1の制御手段に送る第2の制御手段と、を備え、前記第2の制御手段は、基準駆動力を準備する準備部と、前記副駆動輪制限駆動力の減少を制限する第1の制限部と、前記副駆動輪制限駆動力の増加を制限する第2の制限部と、を有し、前記第2の制御手段は、前記第1の制限部及び前記第2の制限部を介して、前記基準駆動力を前記副駆動輪制限駆動力として前記第1の制御手段に送る、制御装置が提供される。
【0008】
副駆動輪制限駆動力の変化が小さくなり、これにより、車両の安定性が向上し得ることを本発明者らは認識した。制御装置において、副駆動輪制限駆動力が減少する場合、第1の制限部によってその減少を制限することができる。また、副駆動輪制限駆動力が増加する場合、第2の制限部によってその増加を制限することができる。従って、副駆動輪制限駆動力の変化が大きい場合、第2の制御手段は、準備した基準駆動力それ自身を要求する代わりに、基準駆動力を第1の制限部及び前記第2の制限部を介して、要求することができる。これにより、第2の制御手段から要求される副駆動輪制限駆動力の変化を小さく設定することができる。
【0009】
第1の形態において、前記第1の制御手段は、前記副駆動輪駆動力を前記第2の制御手段からの前記副駆動輪制限駆動力に一致させることにより、前記主駆動輪駆動力を増加させてもよい。
【0010】
副駆動輪駆動力が副駆動輪制限駆動力に一致し、従って、副駆動輪駆動力を減少させる一方、主駆動輪駆動力を増加させることができる。具体的には、第1の制御手段は、第2の制御手段からの要求に応じて、「主駆動輪駆動力:副駆動輪駆動力」を変更することができる。車両の走行状態が例えばオーバ・ステアであり、従って不安定である場合、「主駆動輪駆動力:副駆動輪駆動力」を変更して、オーバ・ステアを抑制又は解消することができる。
【0011】
第1の形態において、前記副駆動輪制限駆動力の減少分が下限量よりも大きい場合、前記第1の制限部は、前記減少分を前記下限量に一致させてもよく、前記下限量は、前記車両の速度が大きいほど少なくてもよい。
【0012】
下限量は、車両の速度が大きいほど少なく設定される。従って、車両の速度が大きい場合、副駆動輪制限駆動力の減少分、即ち副駆動輪制限駆動力の変化を小さく設定することができる。これにより、車両の安定性が向上する。
【0013】
第1の形態において、前記副駆動輪制限駆動力の減少分が下限量よりも大きい場合、前記第1の制限部は、前記減少分を前記下限量に一致させてもよく、前記下限量は、前記車両の横加速度が大きいほど少なくてもよい。
【0014】
下限量は、前記車両の横加速度が大きいほど少なく設定される。従って、車両の横加速度が大きい場合、副駆動輪制限駆動力の減少分、即ち副駆動輪制限駆動力の変化を小さく設定することができる。
【0015】
第1の形態において、前記副駆動輪制限駆動力の増加分が上限量よりも大きい場合、前記第2の制限部は、前記増加分を前記上限量に一致させてもよく、前記上限量は、前記車両のヨー・レートが大きいほど少なくてもよい。
【0016】
上限量は、車両のヨー・レートが大きいほど少なく設定される。従って、車両のヨー・レートが大きい場合、副駆動輪制限駆動力の増加分、即ち副駆動輪制限駆動力の変化を小さく設定することができる。
【0017】
第1の形態において、前記副駆動輪制限駆動力の増加分が上限量よりも大きい場合、前記第2の制限部は、前記増加分を前記上限量に一致させてもよく、前記上限量は、前記車両の総加速度が大きいほど多くてもよく、前記総加速度は、前記車両の前後加速度及び横加速度の合成加速度であってもよい。
【0018】
車両の総加速度が大きい場合、副駆動輪制限駆動力の増加分、即ち副駆動輪制限駆動力の変化を大きく設定してもよい。この場合、車両が例えば高摩擦路面を走行していると判断して、車両の走行性を優先することができる。
【0019】
第1の形態において、前記第2の制御手段は、前記車両の走行状態が不安定であるか否かを検出する検出部を、さらに有してもよく、前記第2の制御手段は、前記走行状態が不安定であることが前記検出部によって検出された時の前記副駆動輪駆動力を前記副駆動輪制限駆動力として前記第1の制御手段に送ってもよい。
【0020】
第2の制御手段は、走行状態が不安定であることが検出部によって検出された時の副駆動輪駆動力を要求することができる。この時、副駆動輪駆動力の減少分は、実質的にゼロになり、車両の安定性を確保することができる。車両の安定性を確保した後で、第2の制御手段は、走行状態が不安定であることが検出部によって検出された時の副駆動輪駆動力よりも小さい副駆動輪制限駆動力を要求することができる。
【0021】
第1の形態において、前記第2の制御手段は、前記車両の走行状態が不安定であるか否かを検出する第1の検出部をさらに有してもよく、前記第1の検出部の検出結果が不安定から安定に変化する場合、前記準備部は、前記副駆動輪駆動力を制限しない値を準備してもよい。
【0022】
一般的に、走行状態が安定である場合、第2の制御手段は、副駆動輪制限駆動力を要求しなくてもよい。言い換えれば、不安定から安定に変化する時、第2の制御手段は、即座に副駆動輪駆動力を制限しない値を第1の制御手段に要求又は出力してもよい。しかしながら、準備部が副駆動輪駆動力を制限しない値を準備し、副駆動輪駆動力を制限しない値を第2の制限部を介して要求することで、副駆動輪制限駆動力の変化が小さくなる。
【0023】
第1の形態において、前記副駆動輪制限駆動力の増加分が第1の上限量よりも大きい場合、前記第2の制限部は、前記増加分を前記第1の上限量に一致させてもよく、前記第1の上限量は、前記車両のヨー・レートが大きいほど少なくてもよい。
【0024】
車両のヨー・レートが大きい場合、副駆動輪制限駆動力の増加分、即ち副駆動輪制限駆動力の変化を小さく設定することができる。
【0025】
第1の形態において、前記第2の制御手段は、前記ヨー・レートを感知するヨー・レート・センサが故障であるか否かを検出する第2の検出部をさらに有してもよく、前記ヨー・レート・センサが故障であることが前記第2の検出部によって検出され、かつ前記副駆動輪制限駆動力の増加分が前記第1の上限量の代わりの第2の上限量よりも大きい場合、前記第2の制限部は、前記増加分を前記第2の上限量に一致させてもよく、前記第2の上限量は、前記ヨー・レート・センサが故障であることが前記第2の検出部によって検出された時からの経過時間が長いほど多くてもよい。
【0026】
一般的に、ヨー・レート・センサが故障である場合、第2の制御手段は、副駆動輪制限駆動力を要求しなくてもよい。言い換えれば、ヨー・レート・センサが故障した時、第2の制御手段は、即座に副駆動輪駆動力を制限しない値を第1の制御手段に要求又は出力してもよい。しかしながら、第2の制限部は、第2の上限量で、副駆動輪制限駆動力の増加を制限し続けることができる。加えて、ヨー・レート・センサが故障した時からの経過時間が長い場合、第2の制限部による制限を緩和することで、副駆動輪制限駆動力は、副駆動輪駆動力を制限しない値に速く向かうことができる。
【0027】
第1の形態において、前記第1の上限量は、前記車両の総加速度が大きいほど多くてもよく、前記総加速度は、前記車両の前後加速度及び横加速度の合成加速度であってもよい。
【0028】
車両の総加速度が大きい場合、高摩擦路面を走行していると判断して車両の走行性を優先することができる。
【0029】
第1の形態において、前記第2の制御手段は、センサが故障であるか否かを検出する検出部をさらに有してもよく、前記センサが故障であることが前記検出部によって検出され、かつ前記副駆動輪制限駆動力の増加分が上限量よりも大きい場合、前記第2の制限部は、前記増加分を前記上限量に一致させてもよく、前記上限量は、前記センサが故障であることが前記検出部によって検出された時からの経過時間が長いほど多くてもよい。
【0030】
センサが故障である場合、第2の制御手段は、副駆動輪制限駆動力の増加を制限して、副駆動輪制限駆動力の変化を抑制することができる。言い換えれば、第2の制御手段は、副駆動輪制限駆動力の要求を即座に解除するのではなく、副駆動輪制限駆動力の要求を遅く解除することができる。
【0031】
第1の形態において、前記センサは、ヨー・レート・センサであってもよい。
【0032】
ヨー・レート・センサセンサが故障である場合、第2の制御手段は、副駆動輪制限駆動力の要求を遅く解除することができる。
【0033】
第1の形態において、ヨー・レート・センサ、前後加速度センサ及び横加速度センサのうちの少なくとも1つであってもよい。
【0034】
ヨー・レート・センサ、前後加速度センサ及び横加速度センサのうちの少なくとも1つが故障である場合、第2の制御手段は、副駆動輪制限駆動力の要求を遅く解除することができる。
【0035】
第1の形態において、前記主駆動輪駆動力は、前記前輪駆動力であってもよく、前記副駆動輪駆動力は、前記後輪駆動力であってもよい。
【0036】
車両の走行状態が例えばオーバ・ステアであり、従って不安定である場合、後輪駆動力(副駆動輪駆動)を減少する一方、前輪駆動力(主駆動輪駆動)を増加させ、オーバ・ステアを抑制又は解消することができる。
【0037】
第1の形態において、第1の制御手段は、駆動力制御手段であってもよく、第2の制御手段は、車両挙動制御手段であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明による制御装置を備える車両の概略構成を示すブロック図。
【図2】本発明による制御装置の概略構成を示すブロック図。
【図3】本発明による制御装置の車両挙動制御手段の概略構成を示すブロック図。
【図4A】基準駆動力の設定例を示すグラフ図。
【図4B】基準駆動力の設定例を示すグラフ図。
【図5A】車両挙動制御手段の出力部の出力例を示すグラフ図。
【図5B】車両挙動制御手段の出力部の出力例を示すグラフ図。
【図5C】車両挙動制御手段の出力部の出力例を示すグラフ図。
【図6】本発明の変形例を示すブロック図。
【図7】下限量の設定に用いられる制御マップの例を示す図。
【図8】上限量の設定に用いられる制御マップの例を示す図。
【図9】センサが故障した時の上限量の設定に用いられる制御マップの例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下に説明する実施形態は、本発明を容易に理解するために用いられている。従って、本発明が、以下に説明される実施形態によって不当に限定されないことを留意すべきである。
1. 車両
【0040】
図1は、本発明による制御装置を備える車両の概略構成図を示す。図1に示されるように、車両1(例えば、自動車)は、様々な制御を実行可能な制御装置100を備える。制御装置100は、様々な制御の1例として、車両1の前輪駆動力(前輪71,72に伝達される駆動力の目標値)及び後輪駆動力(後輪73,74に伝達される駆動力の目標値)を制御することができる。本発明による制御装置100の具体的な制御は、「2. 制御装置」で後述する。
【0041】
図1の例において、車両1は、原動機10(例えば、ガソリン・エンジン等の内燃機関)を備える。原動機10は、出力軸11を有し、この出力軸11を回転させることができる。車両1は、原動機10を制御する原動機制御手段20(例えば、エンジン・ECU)と、スロットル・アクチュエータ21とを備える。原動機制御手段20は、原動機駆動力(目標値)を求め、原動機10の出力軸11の回転(実際の原動機駆動力)が原動機駆動力(目標値)に一致するように、スロットル・アクチュエータ21を制御する。
【0042】
原動機10内に混合気が流入する量を制御するスロットル(図示せず)の開度は、スロットル・アクチュエータ21を介して、原動機駆動力に基づき制御される。即ち、原動機制御手段20は、原動機駆動力に相当するスロットルの開度を求め、スロットルの開度に対応する制御信号を生成し、制御信号をスロットル・アクチュエータ21に送る。スロットル・アクチュエータ21は、原動機制御手段20からの制御信号に応じて、スロットルの開度を調整する。
【0043】
車両1は、アクセル・ペダル22及びアクセル・センサ23を備え、アクセル・センサ23は、車両1の運転者によるアクセル・ペダル22の操作量を感知し、アクセル・ペダル22の操作量を原動機制御手段20に送る。原動機制御手段20は、概して、アクセル・ペダル22の操作量に基づき原動機駆動力又はスロットルの開度を求める。車両1は、回転数センサ24及び圧力センサ25を備える。原動機10が例えばエンジンである場合、回転数センサ24は、エンジンの回転数を感知し、圧力センサ25は、混合気をエンジンに取り込む吸気管内の絶対圧力を感知することができる。原動機制御手段20は、アクセル・ペダル22の操作量、感知される回転数及び絶対圧力に基づき原動機駆動力又はスロットルの開度を求めることができる。原動機制御手段20は、制御装置100からの制御信号(例えば、車両1の走行状態)に基づきアクセル・ペダル22の操作量を修正することができる。代替的に、原動機制御手段20は、アクセル・ペダル22の操作量、感知される回転数、感知される絶対圧力及び制御装置100からの制御信号に基づき原動機駆動力又はスロットルの開度を求めることができる。
【0044】
また、図1の例において、車両1は、動力伝達装置(パワー・トレイン、ドライブ・トレイン)を備える。図1に示されるように、動力伝達装置は、例えば、変速機30、フロント・ディファレンシャル・ギア機構51、フロント・ドライブ・シャフト52,53、トランスファ54、プロペラ・シャフト55、リア・ディファレンシャル・ギア機構61、リア・ドライブ・シャフト64,65を有する。変速機30は、トルク・コンバータ31及びギア機構32を有する。
【0045】
動力伝達装置は、図1の例に限定されず、図1の例を変形・修正、又は具体化してもよい。動力伝達装置は、例えば、特開平07-186758号公報の図2で開示される駆動力伝達系であってもよい。
【0046】
原動機10の出力軸11の回転(実際の原動機駆動力)は、動力伝達装置を介して、実際の全輪駆動力(実際の前輪駆動力及び後輪駆動力)に変換される。このような変換に関する制御において、全輪駆動力(目標値)は、原動機制御手段20の原動機駆動力(目標値)、トルク・コンバータ31の増幅率(目標値)及びギア機構32の変速ギア比(目標値)に基づき決定される。主駆動輪駆動力である前輪駆動力(目標値)から副駆動輪駆動力である後輪駆動力(目標値)への配分は、前輪駆動力(目標値)及びリア・ディファレンシャル・ギア機構61の配分比に基づき決定される。
【0047】
リア・ディファレンシャル・ギア機構61の配分比が例えば「前輪駆動力:後輪駆動力=100:0」である場合、主駆動輪駆動力である前輪駆動力(目標値)は、全輪駆動力(目標値)と一致する。リア・ディファレンシャル・ギア機構61の配分比が例えば「前輪駆動力:後輪駆動力=(100−x):x」である場合、主駆動輪駆動力である前輪駆動力(目標値)は、全輪駆動力(目標値)から副駆動輪駆動力である後輪駆動力(目標値)を減算した値と一致する。
【0048】
なお、前輪71,72は、フロント・ディファレンシャル・ギア機構51及びフロント・ドライブ・シャフト52,53を介して前輪駆動力(目標値)によって制御される。後輪73,74は、リア・ディファレンシャル・ギア機構61及びリア・ドライブ・シャフト64,65を介して後輪駆動力(目標値)によって制御される。実際の全輪駆動力は、トランスファ54を介してプロペラ・シャフト55に伝達され、プロペラ・シャフト55に伝達される実際の全輪駆動力の一部は、リア・ディファレンシャル・ギア機構61に伝達される実際の後輪駆動力に配分される。プロペラ・シャフト55、トランスファ54及びフロント・ディファレンシャル・ギア機構51に伝達される実際の全輪駆動力の残部が、実際の前輪駆動力になる。
【0049】
図1の例において、車両1は、変速機30の変速比(例えば、ギア機構32の変速ギア比)を制御する変速機制御手段40(例えば、AT(automatic transmission)・ECU)を備える。車両1は、シフト・レバー33及びシフト位置センサ34を備え、変速機制御手段40は、概して、シフト位置センサ34によって感知されるシフト・レバー33のシフト位置(例えば、「1」,「2」,「D」)に基づき、ギア機構32の変速ギア比を決定する。
【0050】
シフト・レバー33のシフト位置が例えば「1」である場合、ギア機構32が1速を表す変速ギア比を有するように、変速機制御手段40は、ギア機構32を制御する。シフト・レバー33のシフト位置が例えば「D」である場合、変速機制御手段40は、制御装置100からの制御信号(例えば、車両1の速度及び全輪駆動力(目標値))に基づき例えば1速〜5速等で構成されるギア機構32が有する全ての変速ギアの何れか1つを表す変速ギア比を決定する。これに応じて、ギア機構32が例えば1速〜5速の何れか1つを表す変速ギア比を有するように、変速機制御手段40は、ギア機構32を制御する。その後、例えば、変速機制御手段40が例えば1速を表す変速ギア比から2速を表す変速ギア比に変更する時、ギア機構32が1速を表す変速ギア比から2速を表す変速ギア比に変更するように、変速機制御手段40は、ギア機構32を制御する。
【0051】
図1の例において、車両1は、前輪71の回転速度を感知する車輪速度センサ81を備え、前輪72の回転速度を感知する車輪速度センサ82も備える。また、車両1は、後輪73の回転速度を感知する車輪速度センサ83を備え、後輪74の回転速度を感知する車輪速度センサ84も備える。制御装置100は、車輪速度センサ81,82,83,84で感知された回転速度(車輪速度)に基づき、車両1の速度を求めることができる。車両1は、車両1の前後方向に沿った車両1の加速度を感知する前後加速度センサ85(例えば、その加速度を重力加速度単位で感知する前後Gセンサ)を備え、制御装置100は、その加速度で、車両1の速度を補正することができる。
【0052】
図1の例において、車両1は、車両1が旋回する時のヨー・レートを感知するヨー・レート・センサ86を備える。また、車両1は、車両1の横方向に沿った車両1の遠心力(遠心加速度)を感知する横加速度センサ87(その遠心加速度を重力加速度単位で感知する横Gセンサ)を備える。さらに、車両1は、ステアリング・ホイール88及びこのステアリング・ホイール88の操舵角を感知する操舵角センサ89を備える。
【0053】
制御装置100は、ヨー・レート、遠心加速度(横加速度)及び操舵角に基づき、車両1の横滑り等の挙動を検出することができる。制御装置100は、このような挙動の検出に加えて、様々な制御(例えば、図示しないブレーキ等の制動部を介する前輪71,72及び後輪73,74の少なくとも1つに関係する制御)をすることができるが、上述の制御のすべてを実行する必要がない。以下に、制御装置100の制御の概要を説明する。
2. 制御装置
【0054】
図2は、本発明による制御装置の概略構成図を示す。図2に示されるように、制御装置100は、入力信号を入力し、出力信号を出力し、様々な制御を実行することができる。制御装置100は、駆動力制御手段300(を備え、駆動力制御手段300は、様々な制御の1例として、主駆動輪駆動力(例えば、前輪駆動力)及び副駆動輪駆動力(例えば、後輪駆動力)を制御する。
【0055】
図2の例において、制御装置100は、車両挙動制御手段200を備える。車両挙動制御手段200は、様々な制御の1例として、副駆動輪駆動力を制限する副駆動輪制限駆動力を算出することができる。具体的には、例えば車両の走行状態が不安定である場合、車両挙動制御手段200は、副駆動輪制限駆動力の増加及び減少を制限し、このように制限された副駆動輪制限駆動力を駆動力制御手段300に送ることができる。
【0056】
具体的には、例えば、駆動力制御手段300は、主駆動輪駆動力(目標値)と副駆動輪駆動力(目標値)と間の比率を決定し、その比率及び全輪駆動力(目標値)に基づき例えば副駆動輪駆動力(目標値)を決定する。決定された副駆動輪駆動力(目標値)が得られるように、駆動力制御手段300は、例えば図1のリア・ディファレンシャル・ギア機構61の配分比を出力信号で制御する。駆動力制御手段300からリア・ディファレンシャル・ギア機構61への出力信号は、副駆動輪駆動力(目標値)を制御する制御信号である。
【0057】
なお、リア・ディファレンシャル・ギア機構61の配分比によって副駆動輪駆動力がゼロである時、即ち、プロペラ・シャフト55とリア・ドライブ・シャフト64,65との間が遮断される時、図1の例において、主駆動輪駆動力(目標値)又は前輪駆動力は、全輪駆動力(目標値)と一致する。代替的に、リア・ディファレンシャル・ギア機構61の配分比によって副駆動輪駆動力がゼロでない時、即ち、プロペラ・シャフト55とリア・ドライブ・シャフト64,65との間が接続される時、図1の例において、主駆動輪駆動力(目標値)は、全輪駆動力(目標値)から副駆動輪駆動力(目標値)を減算した値と一致する。
【0058】
図2に示す制御装置100の車両挙動制御手段200は、例えばヨー・レート・センサ86から取得するヨー・レート等を表す入力信号を入力することができる。車両挙動制御手段200は、入力信号に基づき、副駆動輪制限駆動力を算出又は要求することができる。具体的には、入力信号は、副駆動輪制限駆動力を算出するための信号、車両1の走行状態が不安定であるか否かを検出するための信号等である。なお、入力信号は、副駆動輪制限駆動力を算出又は要求するタイミングを表すトリガであってもよい。
【0059】
車両挙動制御手段200は、複数のモードで副駆動輪制限駆動力を算出することができる。例えば第1のモードに対応する第1の期間において、車両挙動制御手段200は、副駆動輪制限駆動力が下り勾配に従って減少するように、副駆動輪制限駆動力を算出することができる。第1のモードは、例えば初期モードと呼ぶことができ、第1の期間は、例えば、車両1の走行状態が不安定であることが検出された時から始まる所定の期間(第1の所定の期間)である。例えば第2のモードに対応する第2の期間において、車両挙動制御手段200は、副駆動輪制限駆動力が上り勾配に従って増加するように、副駆動輪制限駆動力を算出することができる。第2のモードは、例えば末期モード又は徐々に戻すモードと呼ぶことができ、第2の期間は、例えば、車両1の走行状態が安定である又は例えばヨー・レート・センサ86等のセンサが故障であることが検出された時から始まる所定の期間(第2の所定の期間)である。
【0060】
車両挙動制御手段200が副駆動輪制限駆動力(制限駆動力)を駆動力制御手段300に要求する場合、駆動力制御手段300は、副駆動輪駆動力(目標値)を減少させる一方、主駆動輪駆動力(目標値)を増加させる。この時、駆動力制御手段300は、副駆動輪駆動力(目標値)を副駆動輪制限駆動力(制限駆動力)と一致させることにより、副駆動輪駆動力(目標値)を減少させる。具体的には、リア・ディファレンシャル・ギア機構61の配分比によって副駆動輪駆動力が減少するように、駆動力制御手段300は、リア・ディファレンシャル・ギア機構61を制御する。プロペラ・シャフト55とリア・ドライブ・シャフト64,65との間がより弱く接続されることで、実際の副駆動輪駆動力が減少し、その結果として、実際の主駆動輪駆動力が増加する。副駆動輪駆動力の減少により、例えば、オーバ・ステアを抑制することができる。従って、例えば、車両1の安定性は向上する。
【0061】
駆動力制御手段300は、主駆動輪駆動力(目標値)及び副駆動輪駆動力(目標値)を予め決定し、車両挙動制御手段200からの要求に応じて、予め決定された副駆動輪駆動力(目標値)を減少させ、予め決定された主駆動輪駆動力(目標値)を増加させることができる。
【0062】
なお、駆動力制御手段300は、主駆動輪駆動力(目標値)及び副駆動輪駆動力(目標値)を決定する第1の制御手段と呼ぶこともでき、車両挙動制御手段200は、第2の制御手段と呼ぶことができる。駆動力制御手段300(第1の制御手段)は、主駆動輪駆動力(目標値)及び副駆動輪駆動力(目標値)を一次的に決定する。駆動力制御手段300(第1の制御手段)は、車両挙動制御手段200(第2の制御手段)からの副駆動輪駆動力(目標値)の制限要求に応じるか否かを判定してもよく、制限要求を拒否してもよい。車両挙動制御手段200が副駆動輪制限駆動力(制限駆動力)を駆動力制御手段300に送る場合、駆動力制御手段300(第1の制御手段)は、主駆動輪駆動力(目標値)及び副駆動輪駆動力(目標値)を二次的に(最終的に)決定することができる。
3. 車両挙動制御手段(第2の制御手段)
【0063】
図3は、本発明による車両挙動制御手段の概略構成図を示す。車両挙動制御手段200(第2の制御手段)は、副駆動輪駆動力(目標値)の増加を駆動力制御手段(第1の制御手段)、例えば、図2の駆動力制御手段300に要求することができる。図3の車両挙動制御手段200は、例えば、準備部220、第1の制限部230及び第2の制限部240を備えることができる。準備部220は、基準駆動力を準備し、第1の制限部230及び第2の制限部240は、それぞれ、副駆動輪制限駆動力の減少及び増加を制限する。準備部220、第1の制限部230及び第2の制限部240は、副駆動輪制限駆動力を算出する算出部と呼ぶことができる。車両挙動制御手段200は、このような算出部だけを備えてもよく、出力部250をさらに備えることができる。また、車両挙動制御手段200は、検出部210をさらに備えてもよく、それをさらに備えなくてもよい。
【0064】
例えば図3に示されるように、車両挙動制御手段200は、例えば図1のヨー・レート・センサ86からのヨー・レート及び操舵角センサ89からの操舵角を入力する検出部210を備えることができる。検出部210は、入力部と呼ぶことができ、車両挙動制御手段200が検出部210を備えない場合、ヨー・レート等を入力する例えば第1の制限部230又は第2の制限部240は、入力部と呼ぶことができる。副駆動輪制限駆動力を例えば図2の駆動力制御手段300に出力又は要求する出力部250は、要求部と呼ぶことができる。車両挙動制御手段200が出力部250を備えない場合、副駆動輪制限駆動力を出力又は要求する第1の制限部230又は第2の制限部240は、出力部又は要求部と呼ぶことができる。
3.1. 検出部
【0065】
検出部210は、例えば車両1の不安定状態を検出し、準備部220が、例えば副駆動輪制限駆動力の元である基準駆動力を準備するように、準備部220に指示することができる。不安定状態が検出された場合、検出部210は、準備部220に基準駆動力の準備の指示又は許可を表す信号(例えば二進法で「1」又はhighレベルを表す信号)を送ることができる。車両1の不安定状態は、例えば、ヨー・レート・センサ86から取得する実ヨー・レートと、操舵角及び車両1の速度に基づいて算出する規範ヨー・レートとを用いて、車両1の走行状態が不安定か否かを判定することができる。具体的には、実ヨー・レートと規範ヨー・レートとの差(ヨー・レート偏差)が所定値よりも大きいときに不安定状態であるとすることができる。また、ヨー・レート偏差に対してフィルタ処理を行なって、不安定状態を判断してもよい。さらに、横加速度センサ87から取得する横加速度で、規範ヨー・レートを修正又は訂正することができる。
【0066】
車両1が不安定状態か否かとは、車両1の走行状態が不安定であるか否か、具体的にはオーバ・ステアであるか否かということであり、車両1の速度を考慮しないで、実ヨー・レートと操舵角との差から不安定状態(オーバ・ステア状態の判定基準)を判断してもよい。
【0067】
検出部210は、操舵角を、例えば操舵角センサ89から入力できる。また、検出部210は、例えば車輪速度センサ81,82,83,84で感知された4つの回転速度(車輪速度)の平均を算出し、駆動輪の平均車輪速度Vaw_avを車両1の速度として得ることができる。代替的に、検出部210は、例えば車輪速度センサ83,84で感知された2つの回転速度(車輪速度)の平均を算出し、車両1の速度Vvh_esを車両1の速度として得る又は推定することができる。
【0068】
なお、車両1の速度Vvh_es(推定速度)は、例えば車両1の振動等によるノイズの影響を排除するために、後輪73,74(副駆動輪)の車輪速度の各々に、上昇制限及び下降制限を適用してもよい。即ち、検出部210は、車輪速度センサ83,84で感知された2つの回転速度(車輪速度)を補正又は訂正し、補正又は訂正された2つの回転速度(車輪速度)の平均を算出し、車両1の速度Vvh_esを得る又は推定することができる。車両1の速度Vvh_es(推定速度)は、他の手法で推定してもよい。
【0069】
検出部210は、車両1の走行状態が不安定であるか否かを表す信号を準備部220に送ることができる。検出部210は、この信号を例えば出力部250に送ってもよい。さらに、検出部210は、例えばヨー・レート偏差を表す信号を準備部220に送ることができる。
【0070】
車両1の走行状態が不安定である場合、準備部220は、例えばヨー・レート偏差に基づく基準駆動力を準備又は算出する。なお、基準駆動力の算出手法は、ヨー・レート偏差を使用する手法に限定されない。また、準備部220は、基準駆動力として、副駆動輪駆動力を制限しない値を準備してもよい。準備部220は、複数のモードに応じて基準駆動力を準備又は算出することができる。準備部220の詳細な動作については、後述する。
【0071】
車両1の走行状態が不安定である場合、出力部250は、準備部220で準備された基準駆動力を第1の制限部230及び第2の制限部240を介して、例えば図2の駆動力制御手段300に出力する。車両1の走行状態が不安定であることが検出された時、即ち、検出部210の検出結果が安定から不安定に変化した瞬間に、出力部250は、例えば図2の駆動力制御手段300からの副駆動輪駆動力を入力し、その副駆動輪駆動力を副駆動輪制限駆動力として出力又は戻すことができる。出力部250の詳細な動作については、後述する。
【0072】
検出部210は、例えばヨー・レート・センサ86が故障であるか否かを検出することができる。また、検出部210は、ヨー・レート・センサ86とは異なる他のセンサが故障であるか否かを検出することができる。具体的には、検出部210は、ヨー・レート・センサ86等のセンサからの信号が途絶える場合、検出部210は、センサが故障したことを検出することができる。また、ヨー・レート・センサ86等のセンサからの信号が異常値を示す場合も、検出部210は、センサが故障したことを検出することができる。加えて、ヨー・レート・センサ86等のセンサは、それ自身が故障であることを表す信号を送ってもよい。検出部210が、センサが故障であることを表す信号を受ける場合、検出部210は、センサが故障したことを検出することができる。検出部210は、準備部220にセンサの故障の事実を表す信号(例えば二進法で「1」又はhighレベルを表す信号)を送ることができる。
【0073】
なお、例えば車両1の不安定状態を検出する検出部210を第1の検出部と呼び、センサの故障を検出する検出部210を第2の検出部と呼ぶことができる。第1の検出部及び第2の検出部は、互いに独立してもよく、一体に形成されてもよい。
3.2. 準備部
【0074】
図3の準備部220は、基準駆動力を準備する。基準駆動力は、出力部250からの出力の元になる。出力部250又は車両挙動制御手段200が例えば副駆動輪制限駆動力を例えば図2の駆動力制御手段300に出力又は要求する場合、副駆動輪制限駆動力は、基準駆動力に基づく。出力部250又は車両挙動制御手段200が副駆動輪制限駆動力を出力又は要求しない場合、出力部250からの出力(副駆動輪駆動力を制限しない値)も、基準駆動力に基づく。従って、準備部220は、例えば検出部210からの信号、具体的には、車両1の走行状態が不安定であるか否かを表す信号に応じて、基準駆動力を変更することができる。
【0075】
図4A及び図4Bは、基準駆動力の設定例を示す。図4Aの例において、実線は、準備部220で準備される基準駆動力を示す。時刻TSまで、検出部210からの信号は、車両1の走行状態が安定であることを示し、準備部220は、副駆動輪駆動力を制限しない値を基準駆動力として準備する。副駆動輪駆動力を制限しない値は、例えば、駆動力制御手段300で決定し得る副駆動輪駆動力の最大値である。時刻TSで、車両1の走行状態が不安定であることが検出部210によって検出されると、準備部220は、例えば第1の値を示す基準駆動力(第1の基準駆動力)を準備する。時刻TEで、車両1の走行状態が安定であることが検出部210によって検出されると、準備部220は、副駆動輪駆動力を制限しない値を基準駆動力として準備する。
【0076】
図4Aの例において、点線は、駆動力制御手段300によって二次的に(最終的に)決定される副駆動輪駆動力を示す。準備部220によって準備される基準駆動力は、第1の制限部230及び第2の制限部240を介して出力部250から出力される。仮に、準備部220によって準備される基準駆動力が直接に出力部250から出力される場合、時刻TSで、駆動力制御手段300は、副駆動輪駆動力を第1の基準駆動力に一致させることができる。副駆動輪駆動力が第1の基準駆動力に一致することで、副駆動輪駆動力は減少する一方、主駆動輪駆動力は増加し、これにより、例えばアンダ・ステア等の走行状態の不安定が抑制又は解消される。しかしながら、図4Aで示されるように、基準駆動力が真下に変化する場合、副駆動輪駆動力が真下に変化しないことにより、車両1の安定性が向上し得ることを本発明者らは認識した。言い換えれば、出力部250からの副駆動輪駆動力の減少を制限する第1の制限部230を設けることが好ましいことを本発明者らは認識した。第1の制限部230の詳細な動作については、後述する。
【0077】
仮に、準備部220によって準備される基準駆動力が直接に出力部250から出力される場合、時刻TEで、車両1の走行状態が安定であることが検出部210によって検出されると、駆動力制御手段300は、一次的に決定される副駆動輪駆動力それ自身を二次的に(最終的に)決定される副駆動輪駆動力として採用することができる。時刻TEの直前で、駆動力制御手段300は、例えば、一次的に決定される副駆動輪駆動力及び出力部250からの副駆動輪駆動力(例えば、第1の基準駆動力)のうちの最小の駆動力を二次的に(最終的に)決定される副駆動輪駆動力として採用することができる。時刻TEの直前で、出力部250からの副駆動輪駆動力(例えば、第1の基準駆動力)が二次的に(最終的に)決定される副駆動輪駆動力として採用される場合、時刻TEで、二次的に(最終的に)決定される副駆動輪駆動力は、第1の基準駆動力から一次的に決定される副駆動輪駆動力に変化する。このような状況を回避することが好ましいことを本発明者らは認識した。言い換えれば、出力部250からの副駆動輪駆動力の増加を制限する第2の制限部240を設けることが好ましいことを本発明者らは認識した。第2の制限部240の詳細な動作については、後述する。
【0078】
図4Bの例において、時刻TFで、ヨー・レート・センサ86等のセンサが故障であることが検出部210によって検出されると、準備部220は、副駆動輪駆動力を制限しない値を基準駆動力として準備する。センサが故障である場合、出力部250又は車両挙動制御手段200は、副駆動輪制限駆動力の中止を決定することができる。時刻TFでも、準備部220によって準備される基準駆動力(副駆動輪駆動力を制限しない値)が直接に出力部250から出力されないで、出力部250からの副駆動輪駆動力の増加を制限する第2の制限部240を設けることが好ましいことを本発明者らは認識した。
【0079】
車両1の走行状態が不安定である期間(例えば時刻TSから時刻TEまで、時刻TSから時刻TFまで等)において、第1の値は、固定値でなくてもよい。具体的には、準備部220は、例えばヨー・レート偏差を検出部220から受けることができ、ヨー・レート偏差が小さくなるように、準備部220は、第1の値を変化させることができる。即ち、車両1の走行状態が不安定である期間において、準備部220は、ヨー・レート偏差に基づく基準駆動力を準備又は算出してもよい。
3.3. 第1の制限部
【0080】
図3の第1の制限部230は、出力部250からの出力(例えば、副駆動輪制限駆動力)の減少を制限する。第1の制限部230は、例えば下限量を有し、下限量は、例えば第1の制限部230、具体的には第1の制限部230内の図示しない記憶部(例えばメモリ、レジスタ等)に設定される。具体的には、第1の制限部230は、準備部220で準備された基準駆動力を取り込むとともに、出力部250から既に出力された副駆動輪制限駆動力を取り込む。第1の制限部230は、取り込んだ基準駆動力及び副駆動輪駆動路を比較し、出力部250から次に出力される副駆動輪制限駆動力(第1の制限部230からの出力)の減少を制限する。具体的には、第1の制限部230は、取り込んだ副駆動輪制限駆動力(前回の値)から下限量を減算した値(第1の暫定的な副駆動輪制限駆動力(減少時))が取り込んだ基準駆動力(第2の暫定的な副駆動輪制限駆動力(減少時))よりも大きいか否かを判定することができる。
【0081】
第1の制限部230の判定結果が肯定を表す場合、基準駆動力それ自身(第2の暫定的な副駆動輪制限駆動力)を直接に出力部250から出力することを仮定する。この場合、出力部250から次に出力される副駆動輪制限駆動力(今回の値)と出力部250から既に出力された副駆動輪制限駆動力(前回の値)との差、即ち、副駆動輪制限駆動力の減少分は、下限量よりも大きい。従って、副駆動輪制限駆動力の変化が大きい。副駆動輪制限駆動力の変化が大きくなることを回避するために、第1の制限部230の判定結果が肯定を表す場合、第1の判定部230は、取り込んだ副駆動輪制限駆動力(前回の値)から下限量を減算した値(第1の暫定的な副駆動輪制限駆動力)を出力する。出力部250は、第2の暫定的な副駆動輪制限駆動力の代わりに、第1の暫定的な副駆動輪制限駆動力を副駆動輪制限駆動力(今回の値)として出力する。
【0082】
第1の制限部230の判定結果が否定を表す場合、基準駆動力それ自身(第2の暫定的な副駆動輪制限駆動力)を直接に出力部250から出力することを仮定する。この場合、出力部250から次に出力される副駆動輪制限駆動力(今回の値)と出力部250から既に出力された副駆動輪制限駆動力(前回の値)との差、即ち、副駆動輪制限駆動力の減少分は、下限量と等しいか、又は下限量よりも小さい。従って、副駆動輪制限駆動力の変化が小さい。第1の制限部230の判定結果が否定を表す場合、第1の判定部230は、取り込んだ基準駆動力(第2の暫定的な副駆動輪制限駆動力)を出力する。出力部250は、第2の暫定的な副駆動輪制限駆動力を副駆動輪制限駆動力(今回の値)として出力する。
3.4. 第2の制限部
【0083】
図3の第2の制限部240は、出力部250からの出力(例えば、副駆動輪制限駆動力)の増加を制限する。第2の制限部240は、例えば上限量を有し、上限量は、例えば第2の制限部240、具体的には第2の制限部240内の図示しない記憶部(例えばメモリ、レジスタ等)に設定される。具体的には、第2の制限部240は、準備部220で準備された基準駆動力を取り込むとともに、出力部250から既に出力された副駆動輪制限駆動力を取り込む。第2の制限部240は、取り込んだ基準駆動力及び副駆動輪駆動路を比較し、出力部250から次に出力される副駆動輪制限駆動力(第2の制限部240からの出力)の増加を制限する。具体的には、第2の制限部240は、取り込んだ副駆動輪制限駆動力(前回の値)に上限量を加算した値(第1の暫定的な副駆動輪制限駆動力(増加時))が取り込んだ基準駆動力(第2の暫定的な副駆動輪制限駆動力(増加時))よりも小さいか否かを判定することができる。
【0084】
第2の制限部240の判定結果が肯定を表す場合、基準駆動力それ自身(第2の暫定的な副駆動輪制限駆動力)を直接に出力部250から出力することを仮定する。この場合、出力部250から次に出力される副駆動輪制限駆動力(今回の値)と出力部250から既に出力された副駆動輪制限駆動力(前回の値)との差、即ち、副駆動輪制限駆動力の増加分は、上限量よりも大きい。従って、副駆動輪制限駆動力の変化が大きい。副駆動輪制限駆動力の変化が大きくなることを回避するために、第2の制限部240の判定結果が肯定を表す場合、第2の判定部240は、取り込んだ副駆動輪制限駆動力(前回の値)から上限量を加算した値(第1の暫定的な副駆動輪制限駆動力)を出力する。出力部250は、第2の暫定的な副駆動輪制限駆動力の代わりに、第1の暫定的な副駆動輪制限駆動力を副駆動輪制限駆動力(今回の値)として出力する。
【0085】
第2の制限部240の判定結果が否定を表す場合、基準駆動力それ自身(第2の暫定的な副駆動輪制限駆動力)を直接に出力部250から出力することを仮定する。この場合、出力部250から次に出力される副駆動輪制限駆動力(今回の値)と出力部250から既に出力された副駆動輪制限駆動力(前回の値)との差、即ち、副駆動輪制限駆動力の増加分は、上限量と等しいか、又は上限量よりも小さい。従って、副駆動輪制限駆動力の変化が小さい。第2の制限部240の判定結果が否定を表す場合、第2の判定部240は、取り込んだ基準駆動力(第2の暫定的な副駆動輪制限駆動力)を出力する。出力部250は、第2の暫定的な副駆動輪制限駆動力を副駆動輪制限駆動力(今回の値)として出力する。
【0086】
なお、第2の制限部240は、出力部250からの出力の増加を制限し、第1の制限部230は、出力部250からの出力の減少を制限する。言い換えれば、取り込んだ基準駆動力が取り込んだ副駆動輪制限駆動力(前回の値)よりも大きい場合、第2の制限部240は、有効である一方、第1の制限部230は、無効である。また、取り込んだ基準駆動力が取り込んだ副駆動輪制限駆動力(前回の値)と等しい又は取り込んだ副駆動輪制限駆動力(前回の値)よりも小さい場合、第2の制限部240は、無効である一方、第1の制限部230は、有効である。有効である第2の制限部240は、第1の暫定的な副駆動輪制限駆動力(増加時)及び第2の暫定的な副駆動輪制限駆動力(増加時)のうちの最小の副駆動輪制限駆動力を出力する。有効である第1の制限部230は、第1の暫定的な副駆動輪制限駆動力(減少時)及び第2の暫定的な副駆動輪制限駆動力(減少時)のうちの最大の副駆動輪制限駆動力を出力する。
3.5. 出力部
【0087】
図3の出力部250は、第1の制限部230からの出力又は第2の制限部240からの出力を副駆動輪制限駆動力として出力する。また、出力部250は、車両1の走行状態が不安定であるか否かを表す信号を入力してもよく、入力しなくてもよい。出力部250がこの信号を入力する場合、出力部250は、車両1の走行状態が不安定であることが検出部210によって検出された時の副駆動輪駆動力(例えば図2の駆動力制御手段300によって二次的に(最終的に)決定される副駆動輪駆動力)を取得することができる。この時、出力部250は、取得した副駆動輪駆動力を副駆動輪制限駆動力として駆動力制御手段300に出力又は戻すことができる。
【0088】
図5A及び図5Bは、出力部の出力例を示す。図5Aの例において、実線は、出力部250からの出力を示す。出力部250は、準備部220で準備された基準駆動力を第1の制限部230及び第2の制限部240を介して出力する。図5Aの例において、時刻TSまで、検出部210からの信号は、車両1の走行状態が安定であることを示し、出力部250は、例えば図4Aで示されるような準備部220で準備された基準駆動力(副駆動輪駆動力を制限しない値)を出力する。
【0089】
時刻TSで、車両1の走行状態が不安定であることが検出部210によって検出されると、準備部220は、例えば第1の値を示す基準駆動力(第1の基準駆動力)を準備する。従って、出力部250は、第1の基準駆動力を第1の制限部230で制限し、出力部250からの出力(副駆動輪制限駆動力)は、副駆動輪駆動力を制限しない値から第1の基準駆動力まで下り勾配に従って減少する。図5Aの例において、点線は、駆動力制御手段300によって二次的に(最終的に)決定される副駆動輪駆動力を示す。時刻TSの直後、出力部250からの出力(副駆動輪制限駆動力)が、駆動力制御手段300によって一次的に決定される副駆動輪駆動力よりも大きい場合、駆動力制御手段300は、図5Aに示すような二次的に(最終的に)決定される副駆動輪駆動力(時刻TSから時刻TAまでの点線)を採用することができる。時刻TAから時刻TBまで、駆動力制御手段300は、二次的に(最終的に)決定される副駆動輪駆動力を、副駆動輪制限駆動力(出力部250からの出力)に一致させることができる。図5Aの例において、出力部250からの出力(実線)が駆動力制限手段300で最終的に決定される副駆動輪駆動力(点線)と一致する時刻TAから時刻TBに対応する実線は、太く描かれている。
【0090】
図5B及び図5Cの例において、実線は、車両1の走行状態が不安定であるか否かを表す信号を入力する出力部250からの出力を示す。時刻TSで、車両1の走行状態が不安定であることが検出部210によって検出されると、出力部250は、駆動力制御手段300によって二次的に(最終的に)決定される副駆動輪駆動力を取得し、取得した副駆動輪駆動力を副駆動輪制限駆動力として出力する。従って、出力部250からの出力(副駆動輪制限駆動力)は、時刻TSでの副駆動輪駆動力から第1の基準駆動力まで下り勾配に従って減少する。時刻TSの直後、出力部250からの出力(副駆動輪制限駆動力)が、駆動力制御手段300によって一次的に決定される副駆動輪駆動力よりも小さい場合、駆動力制御手段300は、下り勾配に従って減少する副駆動輪制限駆動力を採用することができる。この場合、副駆動輪駆動力を副駆動輪制限駆動力で効果的に制限することができる。図5Bの例において、二次的に(最終的に)決定される副駆動輪駆動力は、時刻TSから時刻TCまで、副駆動輪制限駆動力(出力部250からの出力)に一致し、実線は、太く描かれている。また、図5Cの例において、二次的に(最終的に)決定される副駆動輪駆動力は、時刻TSから時刻TDまで、副駆動輪制限駆動力(出力部250からの出力)に一致し、実線は、太く描かれている。
【0091】
図5Aの例及び図5Bの例において、時刻TEで、車両1の走行状態が安定であることが検出部210によって検出されると、準備部220は、副駆動輪駆動力を制限しない値を基準駆動力として準備する。また、図5Cの例において、時刻TFで、ヨー・レート・センサ86等のセンサが故障であることが検出部210によって検出されると、準備部220は、副駆動輪駆動力を制限しない値を基準駆動力として準備する。従って、出力部250は、副駆動輪駆動力を制限しない値を第2の制限部240で制限し、出力部250からの出力(副駆動輪制限駆動力)は、第1の基準駆動力から副駆動輪駆動力を制限しない値まで上り勾配に従って増加する。このとき、図5Aの例においては、時刻TEから例えば時刻TBまで、二次的に(最終的に)決定される副駆動輪駆動力は、副駆動輪制限駆動力(出力部250からの出力)に一致する。図5Bの例においては、時刻TEから例えば時刻TCまで、二次的に(最終的に)決定される副駆動輪駆動力は、副駆動輪制限駆動力(出力部250からの出力)に一致する。図5Cの例においては、時刻TFから例えば時刻TDまで、二次的に(最終的に)決定される副駆動輪駆動力は、副駆動輪制限駆動力(出力部250からの出力)に一致する。
【0092】
車両1の走行状態が不安定である期間(例えば時刻TSから時刻TEまで、時刻TSから時刻TFまで等)において、第1の値(第1の基準駆動力)は、固定値でなくてもよい。具体的には、準備部220は、ヨー・レート偏差に基づく基準駆動力を準備又は算出してもよい。車両1の走行状態が不安定である期間において、基準駆動力が変化する場合も、出力部250は、変化する基準駆動力を第1の制限部230及び第2の制限部240で制限することができる。仮に、車両1の走行状態が不安定である期間において、基準駆動力の増加分、従って副駆動輪制限駆動力の増加分が大きい場合、増加する基準駆動力又は副駆動輪制限駆動力は、上限量に基づく上り勾配に従って制限される。仮に、車両1の走行状態が不安定である期間において、基準駆動力の減少分、従って副駆動輪制限駆動力の減少分が大きい場合、減少する基準駆動力又は副駆動輪制限駆動力は、下限量に基づく下り勾配に従って制限される。
4. 変形例
【0093】
図3の第1の制限部230は、副駆動輪制限駆動力の減少分が下限量よりも大きい場合、その減少分を下限量に一致させる。言い換えれば、出力部250からの出力は、例えば図5Bに示すような下限量に基づく下り勾配に一致する。この時、下限量は、固定値でなくてもよい。具体的には、下限量は、車両1の速度が大きいほど少なく設定することができる。また、下限量は、車両1の横加速度が大きいほど少なく設定することができる。下り勾配を小さくすることで、副駆動輪制限駆動力の変化をさらに少なくし、例えば、オーバ・ステアを解消した後のアンダ・ステアの発生を抑制することができる。また、車両1の振動を抑制することができる。このように、下限量を補正又は調整することで、車両1の安定性が向上する。第1の制限部230の変形例又は追加的な構成例は、後述する。
【0094】
図3の第2の制限部240は、副駆動輪制限駆動力の増加分が上限量よりも大きい場合、その増加分を上限量に一致させる。言い換えれば、出力部250の出力は、例えば図5Bに示すような上限量に基づく上り勾配に一致する。この時、上限量は、固定値でなくてもよい。具体的には、上限量は、車両1のヨー・レートが大きいほど少なく設定することができる。また、上限量は、車両1の総加速度(前後加速度及び横加速度の合成加速度)が大きいほど多く設定することができる。上り勾配を小さくすることで、副駆動輪制限駆動力の変化をさらに少なくし、例えば、オーバ・ステアを解消した後のオーバ・ステアの再発生を抑制することができる。また、上り勾配を大きくすることで、車両1の加速の制限を緩和することができる。このように、上限量を補正又は調整することで、車両1の安定性が向上し、又は車両1の走行性を優先することができる。第2の制限部240の変形例又は追加的な構成例は、後述する。
【0095】
図6は、追加的な構成例を示す。図6に示すように、第1の設定部260は、例えば図3の検出部210から車両1の速度を入力する。また、第1の設定部260は、例えば図1の横加速度センサ87からの横加速度を入力する。なお、第1の設定部260は、車両1の速度及び横加速度の少なくとも1つに基づき、第1の制限部230に設定される下限量を設定してもよい。第2の設定部270は、横加速度を入力する。また、第2の設定部270は、例えば図1の前後加速度センサ85から車両1の前後加速度を入力する。さらに、第2の設定部270は、例えば図3の検出部210からのヨー・レートを入力する。なお、第2の設定部270は、ヨー・レートだけに基づき、第2の制限部240に設定される上限量を設定してもよい。
【0096】
図7は、下限量の設定例を示す。図7の例において、実線は、第1の横加速度を示す時の速度依存性を示す。点線は、第1の横加速度よりも大きい第2の横加速度を示す時の速度依存性を示す。1点鎖線は、第2の横加速度よりも大きい第3の横加速度を示す時の速度依存性を示す。2点鎖線は、第3の横加速度よりも大きい第4の横加速度を示す時の速度依存性を示す。例えば図7に示すように、図6の第1の設定部260は、車両1の速度及び横加速度に基づき、第1の制限部230に設定される下限量を設定する。図7の例において、下限量は、速度が大きくなるほど少なくなるが、下限量と速度との関係は、図7の例に限定されない。例えば、下限量と速度との関係は、折れ線グラフでもよい。また、下限量と速度との関係との関係は、一次関数でなく、2次関数、多次関数などで表される曲線でも、階段関数で表される階段状の折れ曲がった直線でもよい。同様に、下限量と速度と横加速度の関係は、図7の例に限定されない。
【0097】
図8は、上限量の設定例を示す。図8の例において、実線は、第1の総加速度を示す時のヨー・レート依存性を示す。点線は、第1の総加速度よりも大きい第2の総加速度を示す時のヨー・レート依存性を示す。1点鎖線は、第2の総加速度よりも大きい第3の総加速度を示す時のヨー・レート依存性を示す。2点鎖線は、第3の総加速度よりも大きい第4の総加速度を示す時のヨー・レート依存性を示す。先に述べたとおり、総加速度は前後加速度と横加速度とを含む。例えば図8に示すように、図6の第2の設定部270は、車両1のヨー・レート及び総加速度に基づき、第2の制限部240に設定される上限量を設定する。図8の例において、上限量は、ヨー・レートが大きくなるほど少なくなるが、上限量とヨー・レートとの関係は、図8の例に限定されない。例えば、上限量とヨー・レートとの関係係は、折れ線グラフでもよい。また、上限量とヨー・レートとの関係は、一次関数でなく、2次関数、多次関数などで表される曲線でも、階段関数で表される階段状の折れ曲がった直線でもよい。同様に、上限量とヨー・レートと総加速度の関係は、図8の例に限定されない。
【0098】
図6の第2の設定部270は、通常、第2の制限部240に設定される上限量(第1の上限量)を設定するが、例えばヨー・レート・センサ86、横加速度センサ87及び前後加速度センサ85の少なくとも1つが故障する場合、第2の設定部270は、他の上限量(第2の上限量)を設定することができる。ヨー・レート・センサ86の故障は、例えば図3の検出部210(第1の検出部)によって検出されてもよく、図6の第2の設定部270(第2の検出部)によって検出されてもよい。
【0099】
図9は、他の上限量(第2の上限量)の設定例を示す。図9に示すように、ヨー・レート・センサ86等のセンサが故障した時の上限量は、センサが故障であることが検出された時からの経過時間が長いほど多く設定される。図9の例において、上限量は、経過時間が長くなるほど多くなるが、上限量と経過時間との関係は、図9の例に限定されない。例えば、上限量と経過時間との関係は、折れ線グラフでもよい。また、上限量と経過時間との関係は、一次関数でなく、2次関数、多次関数などで表される曲線でも、階段関数で表される階段状の折れ曲がった直線でもよい。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本願発明による制御装置は、車両の安定性制御に最適である。
【符号の説明】
【0101】
1・・・車両、100・・・制御装置、200・・・挙動制御手段(第2の制御手段)、220・・・準備部、230・・・第1の制限部、240・・・第2の制限部、300・・・駆動力制御手段(第1の制御手段)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前輪駆動力及び後輪駆動力を制御する制御装置であって、
主駆動輪駆動力及び副駆動輪駆動力を制御する第1の制御手段であって、前記主駆動輪駆動力は、前記前輪駆動力及び前記後輪駆動力の一方であり、前記副駆動輪駆動力は、前記前輪駆動力及び前記後輪駆動力の他方である、第1の制御手段と、
前記副駆動輪駆動力を制限する副駆動輪制限駆動力を前記第1の制御手段に送る第2の制御手段と、
を備え、
前記第2の制御手段は、
基準駆動力を準備する準備部と、
前記副駆動輪制限駆動力の減少を制限する第1の制限部と、
前記副駆動輪制限駆動力の増加を制限する第2の制限部と、
を有し、
前記第2の制御手段は、前記第1の制限部及び前記第2の制限部を介して、前記基準駆動力を前記副駆動輪制限駆動力として前記第1の制御手段に送る、制御装置。
【請求項2】
前記第1の制御手段は、前記副駆動輪駆動力を前記第2の制御手段からの前記副駆動輪制限駆動力に一致させることにより、前記主駆動輪駆動力を増加させる、請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記副駆動輪制限駆動力の減少分が下限量よりも大きい場合、前記第1の制限部は、前記減少分を前記下限量に一致させ、前記下限量は、前記車両の速度が大きいほど少ない、請求項1に記載の制御装置。
【請求項4】
前記副駆動輪制限駆動力の減少分が下限量よりも大きい場合、前記第1の制限部は、前記減少分を前記下限量に一致させ、前記下限量は、前記車両の横加速度が大きいほど少ない、請求項1に記載の制御装置。
【請求項5】
前記副駆動輪制限駆動力の増加分が上限量よりも大きい場合、前記第2の制限部は、前記増加分を前記上限量に一致させ、前記上限量は、前記車両のヨー・レートが大きいほど少ない、請求項1に記載の制御装置。
【請求項6】
前記副駆動輪制限駆動力の増加分が上限量よりも大きい場合、前記第2の制限部は、前記増加分を前記上限量に一致させ、前記上限量は、前記車両の総加速度が大きいほど多く、前記総加速度は、前記車両の前後加速度及び横加速度の合成加速度である、請求項1に記載の制御装置。
【請求項7】
前記第2の制御手段は、前記車両の走行状態が不安定であるか否かを検出する検出部をさらに有し、
前記第2の制御手段は、前記走行状態が不安定であることが前記検出部によって検出された時の前記副駆動輪駆動力を前記副駆動輪制限駆動力として前記第1の制御手段に送る、請求項1に記載の制御装置。
【請求項8】
前記第2の制御手段は、前記車両の走行状態が不安定であるか否かを検出する第1の検出部をさらに有し、
前記第1の検出部の検出結果が不安定から安定に変化する場合、前記準備部は、前記副駆動輪駆動力を制限しない値を準備する、請求項1に記載の制御装置。
【請求項9】
前記副駆動輪制限駆動力の増加分が第1の上限量よりも大きい場合、前記第2の制限部は、前記増加分を前記第1の上限量に一致させ、前記第1の上限量は、前記車両のヨー・レートが大きいほど少ない、請求項8に記載の制御装置。
【請求項10】
前記第2の制御手段は、前記ヨー・レートを感知するヨー・レート・センサが故障であるか否かを検出する第2の検出部をさらに有し、
前記ヨー・レート・センサが故障であることが前記第2の検出部によって検出され、かつ前記副駆動輪制限駆動力の増加分が前記第1の上限量の代わりの第2の上限量よりも大きい場合、前記第2の制限部は、前記増加分を前記第2の上限量に一致させ、前記第2の上限量は、前記ヨー・レート・センサが故障であることが前記第2の検出部によって検出された時からの経過時間が長いほど多い、請求項9に記載の制御装置制御装置。
【請求項11】
前記第1の上限量は、前記車両の総加速度が大きいほど多く、前記総加速度は、前記車両の前後加速度及び横加速度の合成加速度である、請求項9に記載の制御装置。
【請求項12】
前記第2の制御手段は、センサが故障であるか否かを検出する検出部をさらに有し、
前記センサが故障であることが前記検出部によって検出され、かつ前記副駆動輪制限駆動力の増加分が上限量よりも大きい場合、前記第1の制限部は、前記増加分を前記上限量に一致させ、前記上限量は、前記センサが故障であることが前記検出部によって検出された時からの経過時間が長いほど多い、請求項1に記載の制御装置。
【請求項13】
前記センサは、ヨー・レート・センサである、請求項12に記載の制御装置制御装置。
【請求項14】
前記センサは、ヨー・レート・センサ、前後加速度センサ及び横加速度センサのうちの少なくとも1つである、請求項12に記載の制御装置。
【請求項15】
前記主駆動輪駆動力は、前記前輪駆動力であり、前記副駆動輪駆動力は、前記後輪駆動力である、請求項1に記載の制御装置。
【請求項16】
前記第1の制御手段は、駆動力制御手段であり、前記第2の制御手段は、車両挙動制御手段である、請求項1に記載の制御装置。
【請求項1】
車両の前輪駆動力及び後輪駆動力を制御する制御装置であって、
主駆動輪駆動力及び副駆動輪駆動力を制御する第1の制御手段であって、前記主駆動輪駆動力は、前記前輪駆動力及び前記後輪駆動力の一方であり、前記副駆動輪駆動力は、前記前輪駆動力及び前記後輪駆動力の他方である、第1の制御手段と、
前記副駆動輪駆動力を制限する副駆動輪制限駆動力を前記第1の制御手段に送る第2の制御手段と、
を備え、
前記第2の制御手段は、
基準駆動力を準備する準備部と、
前記副駆動輪制限駆動力の減少を制限する第1の制限部と、
前記副駆動輪制限駆動力の増加を制限する第2の制限部と、
を有し、
前記第2の制御手段は、前記第1の制限部及び前記第2の制限部を介して、前記基準駆動力を前記副駆動輪制限駆動力として前記第1の制御手段に送る、制御装置。
【請求項2】
前記第1の制御手段は、前記副駆動輪駆動力を前記第2の制御手段からの前記副駆動輪制限駆動力に一致させることにより、前記主駆動輪駆動力を増加させる、請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記副駆動輪制限駆動力の減少分が下限量よりも大きい場合、前記第1の制限部は、前記減少分を前記下限量に一致させ、前記下限量は、前記車両の速度が大きいほど少ない、請求項1に記載の制御装置。
【請求項4】
前記副駆動輪制限駆動力の減少分が下限量よりも大きい場合、前記第1の制限部は、前記減少分を前記下限量に一致させ、前記下限量は、前記車両の横加速度が大きいほど少ない、請求項1に記載の制御装置。
【請求項5】
前記副駆動輪制限駆動力の増加分が上限量よりも大きい場合、前記第2の制限部は、前記増加分を前記上限量に一致させ、前記上限量は、前記車両のヨー・レートが大きいほど少ない、請求項1に記載の制御装置。
【請求項6】
前記副駆動輪制限駆動力の増加分が上限量よりも大きい場合、前記第2の制限部は、前記増加分を前記上限量に一致させ、前記上限量は、前記車両の総加速度が大きいほど多く、前記総加速度は、前記車両の前後加速度及び横加速度の合成加速度である、請求項1に記載の制御装置。
【請求項7】
前記第2の制御手段は、前記車両の走行状態が不安定であるか否かを検出する検出部をさらに有し、
前記第2の制御手段は、前記走行状態が不安定であることが前記検出部によって検出された時の前記副駆動輪駆動力を前記副駆動輪制限駆動力として前記第1の制御手段に送る、請求項1に記載の制御装置。
【請求項8】
前記第2の制御手段は、前記車両の走行状態が不安定であるか否かを検出する第1の検出部をさらに有し、
前記第1の検出部の検出結果が不安定から安定に変化する場合、前記準備部は、前記副駆動輪駆動力を制限しない値を準備する、請求項1に記載の制御装置。
【請求項9】
前記副駆動輪制限駆動力の増加分が第1の上限量よりも大きい場合、前記第2の制限部は、前記増加分を前記第1の上限量に一致させ、前記第1の上限量は、前記車両のヨー・レートが大きいほど少ない、請求項8に記載の制御装置。
【請求項10】
前記第2の制御手段は、前記ヨー・レートを感知するヨー・レート・センサが故障であるか否かを検出する第2の検出部をさらに有し、
前記ヨー・レート・センサが故障であることが前記第2の検出部によって検出され、かつ前記副駆動輪制限駆動力の増加分が前記第1の上限量の代わりの第2の上限量よりも大きい場合、前記第2の制限部は、前記増加分を前記第2の上限量に一致させ、前記第2の上限量は、前記ヨー・レート・センサが故障であることが前記第2の検出部によって検出された時からの経過時間が長いほど多い、請求項9に記載の制御装置制御装置。
【請求項11】
前記第1の上限量は、前記車両の総加速度が大きいほど多く、前記総加速度は、前記車両の前後加速度及び横加速度の合成加速度である、請求項9に記載の制御装置。
【請求項12】
前記第2の制御手段は、センサが故障であるか否かを検出する検出部をさらに有し、
前記センサが故障であることが前記検出部によって検出され、かつ前記副駆動輪制限駆動力の増加分が上限量よりも大きい場合、前記第1の制限部は、前記増加分を前記上限量に一致させ、前記上限量は、前記センサが故障であることが前記検出部によって検出された時からの経過時間が長いほど多い、請求項1に記載の制御装置。
【請求項13】
前記センサは、ヨー・レート・センサである、請求項12に記載の制御装置制御装置。
【請求項14】
前記センサは、ヨー・レート・センサ、前後加速度センサ及び横加速度センサのうちの少なくとも1つである、請求項12に記載の制御装置。
【請求項15】
前記主駆動輪駆動力は、前記前輪駆動力であり、前記副駆動輪駆動力は、前記後輪駆動力である、請求項1に記載の制御装置。
【請求項16】
前記第1の制御手段は、駆動力制御手段であり、前記第2の制御手段は、車両挙動制御手段である、請求項1に記載の制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2012−210927(P2012−210927A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−32528(P2012−32528)
【出願日】平成24年2月17日(2012.2.17)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年2月17日(2012.2.17)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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