説明

車両に搭載される燃料タンクに水性塗膜を形成する方法およびシステム

【課題】比較的膜厚の厚い水性エマルジョン系塗膜を、膨れや割れを生じさせることなく形成することのできる車両に搭載される燃料タンクに水性塗膜を形成する方法およびシステムを提供する。
【解決手段】燃料タンクに水性塗膜を形成する方法は、中空部W1を具備する燃料タンクWの外面W2に水性エマルジョン系塗料Cを塗布する第1の工程と、中空部W1の壁面W3を100〜130℃の温度雰囲気で所定時間経過させた後に、該燃料タンクWの外側の水性エマルジョン系塗料Cの塗布表面を100〜130℃の温度雰囲気で所定時間経過させることにより、水性エマルジョン系塗料を焼付け乾燥する第2の工程と、からなる。また、中空部W1と燃料タンクWの外面W2を同時に高温雰囲気下に置き、所定時間経過した段階で中空部W1の加熱を停止し、外面W2の加熱はその後も所定時間継続させるような形成方法であってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される燃料タンクに水性エマルジョン系の塗膜を形成する方法およびそのシステムに係り、特に、比較的膜厚の厚い水性エマルジョン系塗膜を、膨れや割れを生じさせることなく形成することのできる燃料タンクに水性塗膜を形成する方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
LEVIIやP−ZEVといった北米における排ガス規制法等をはじめとする各種規制法の要請から、車両のアンダーボディ、中でも車両の燃料タンクなどの防錆技術や孔空き寿命を延長させる技術の開発が切望されている。
【0003】
上記する燃料タンクにおいては、その表面に形成される塗膜に耐チッピング性が要求されるため、比較的厚い膜厚の塗膜が形成される必要がある。この塗膜として、従来はポリ塩化ビニル系のプラスチックゾルが一般に適用されていた。しかし、この材料では、廃車後の車両焼却時に塩化水素を発生させ、環境影響への問題があることからその適用を見直す流れとなってきている。
【0004】
上記するポリ塩化ビニル系のプラスチックゾルに替わり、車両焼却時の環境影響の極めて少ない材料として水性エマルジョン系塗料の適用が昨今の主流となっている。しかし、この水性エマルジョン系塗料を使用して比較的膜厚の厚い塗膜を燃料タンク等の表面に形成しようとすると、今度は焼付け乾燥時の塗膜の膨れやさらには割れといった成形不具合が生じ易くなるという問題が発生し得る。具体的には、水性エマルジョン系塗料を燃料タンク等の被塗装物表面に塗布し、その外面を100℃以上の高温雰囲気に一定時間置いて焼付け乾燥させ、その後に常温環境下に置くことによって塗膜表面が皮張りし、塗膜内部から水分が突沸することによって表面が膨れ、場合によっては割れに至るというものである。
【0005】
ところで、燃料タンク等の表面に塗布される水性エマルジョン系塗料に関し、出願人等の鋭意研究の結果発案された従来技術として、特許文献1,2に開示の塗料を挙げることができる。特許文献1に開示の塗料は、有機高分子感熱ゲル化剤と、無機感熱ゲル化剤またはポリアミンとを配合した水性エマルジョン系塗料とすることにより、塗膜焼付け乾燥時における膨れや割れを効果的に防止できるというものである。
【0006】
一方、特許文献2に開示の塗料は、ポリマー粒子がエマルジョン粒子として水に乳化分散されたラテックスを主体とするエマルジョン系塗料において、エマルジョン粒子の平均粒径を0.3μm以上とし、ラテックスの固形分を50重量%以上とし、さらに、充填剤に中空微粒子を配合したものである。この塗料を使用することによっても、塗膜焼付け乾燥時における膨れや割れを効果的に防止することができる。
【特許文献1】特開平7−166094号公報
【特許文献2】特開平7−166096号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1,2に開示の水性エマルジョン系塗料によれば、比較的膜厚の厚い水性塗膜を燃料タンク等の表面に形成する際に、塗膜焼付け乾燥時における膨れや割れを効果的に防止することが可能となる。しかし、これらの塗料は特殊な成分を配合する必要があることから、かかる塗料構成成分を調達できない地域では使用ができないこと、さらには、塗料成分が高価であるために、結果として該塗料が塗布された燃料タンク等のコストも高価となってしまうといった問題がある。
【0008】
本発明は、上記する問題に鑑みてなされたものであり、特殊な塗料成分を必要とせず、比較的膜厚の厚い水性塗膜を膨れや割れを生じさせることなく燃料タンク表面に形成することのできる車両に搭載される燃料タンクに水性塗膜を形成する方法およびシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成すべく、本発明による車両に搭載される燃料タンクに水性塗膜を形成する方法は、中空部を具備する燃料タンクの外部に水性エマルジョン系塗料を塗布する第1の工程と、前記中空部の壁面を100〜130℃の温度雰囲気で所定時間経過させた後に、該燃料タンク外側の水性エマルジョン系塗料の塗布表面を100〜130℃の温度雰囲気で所定時間経過させることにより、水性エマルジョン系塗料を焼付け乾燥する第2の工程と、からなることを特徴とする。
【0010】
本発明の水性塗膜を形成する方法が対象とする容器体は特に車両に搭載される燃料タンクに限定されるものであり、少なくとも、中空部を有するとともに、その外側表面に水性エマルジョン系塗料が塗布されて焼付け乾燥されるタンクである。この燃料タンクは、例えば金属素材からなるものである。
【0011】
水性塗膜の形成方法として、まず、燃料タンクの外部表面に適宜の水性エマルジョン系塗料を塗布する(第1の工程)。ここで、水性エマルジョン系塗料は、例えば適宜のポリマーに、充填剤、消泡剤、増粘剤、分散剤などが含有されるものである。
【0012】
上記するポリマーとしては、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、スチレン−ブタジエンゴムなどを適用することができる。また、充填剤としては、炭酸カルシウム、タルク、シリカ、珪藻土、ゼオライト、炭酸マグネシウム、マイカなどを適用することができる。また、増粘剤としては、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、たんぱく質、ポリビニルアルコール、アクリル酸ナトリウムなどの一種または複数種を適用することができる。さらに、分散剤としてはポリリン酸ソーダ類や界面活性剤などを適用することができる。これらのポリマーや充填剤等を調整混合することにより、所望の水性エマルジョン系塗料を生成することができる。
【0013】
生成された水性エマルジョン系塗料を燃料タンクの外部に塗布した後、燃料タンクに予め設けられた開口に加熱エア等を供給するためのエアダクトを連通させ、燃料タンクの中空部に100〜130℃の温度雰囲気のエアを所定時間提供する。この所定時間としては、例えば10分以下の時間で設定することができる。なお、この所定時間が長過ぎると製造歩留まりを低下させることとなるため、可及的に短い時間であることが好ましい。
【0014】
次いで、燃料タンクの外部(水性エマルジョン系塗料の塗布表面)を100〜130℃の温度雰囲気下に置き、所定時間経過させる(第2の工程)。例えば、内部が100〜130℃の温度雰囲気に調整された乾燥炉内に燃料タンクを移載すればよい。ここでの所定時間は、例えば20分以下の時間を設定することができる。かかる設定時間により、中空部の焼付け乾燥開示からのトータル時間(第2の工程の所要時間)は、例えば30分以下に設定することができる。なお、温度が100℃未満の場合には、水性塗膜の付着性が不十分であり、また、130℃を超えると、製造可能な上限膜厚が薄くなるという実験結果が発明者等によって実証されている。
【0015】
本発明の水性塗膜を形成する方法によれば、中空部を有する燃料タンクの内部からまず焼付け乾燥させることで、塗膜が燃料タンクと接する面から該塗膜が焼付け乾燥されることとなる。したがって、膜厚が比較的厚い塗膜を形成する場合であっても、塗膜表面が皮張りしてその内部から水分が突沸することによって表面が膨れ、さらには割れに至るといった問題を効果的に防止することが可能となる。しかも、本発明の方法によれば、かかる効果を得るために水性塗膜成分に特殊な成分を配合する必要がないため、製造コストを高騰させるといった問題も生じ得ない。
【0016】
なお、発明者等の実証実験によれば、上記方法を適用することで、1500μm程度の厚い水性塗膜を、100%の付着性で形成することができるという結果が得られている。
【0017】
また、本発明による車両に搭載される燃料タンクに水性塗膜を形成する方法の他の実施の形態は、中空部を具備する燃料タンクの外部に水性エマルジョン系塗料を塗布する第1の工程と、前記中空部の壁面および塗料の塗布された前記燃料タンク表面の両面を100〜130℃の温度雰囲気で所定時間経過させることにより、水性エマルジョン系塗料を焼付け乾燥する第2の工程と、からなることを特徴とする。
【0018】
本発明の水性塗膜を形成する方法は、例えば、燃料タンクの外部に水性エマルジョン系塗料を塗布した後に(第1の工程)、高温エア供給用のダクトを燃料タンクに連通させた姿勢で該燃料タンクを100〜130℃の温度雰囲気の乾燥炉内に移載し、移載と同時に100〜130℃の温度雰囲気のエアを中空部に供給し、所定時間経過させるというものである(第2の工程)。
【0019】
ここで、中空部の内部を焼付け乾燥させる時間は、例えば10分以下の時間に設定し、かかる時間経過後に中空部の加熱を停止させ、燃料タンク外部の加熱は継続して例えば20分以下の設定時間でおこなうことができる。
【0020】
本発明の方法においても、中空部の外部表面および内部(中空部の壁面)から塗膜の焼付け乾燥をおこなうことにより、燃料タンクの膜厚が厚い場合であっても、塗膜の膨れや割れといった問題を効果的に防止することが可能となる。
【0021】
また、本発明による車両に搭載される燃料タンクに水性塗膜を形成する方法の好ましい実施の形態は、前記温度雰囲気が110〜120℃であることを特徴とする。
【0022】
燃料タンクの中空部およびその外部を焼付け乾燥させる設定温度としては、上記する100〜130℃の中でも、特に、110〜120℃の温度条件の場合に、塗膜の厚みの上限値とその付着性の双方の最適値が得られることが発明者等によって実証されている。
【0023】
また、上記する車両に搭載される燃料タンクに水性塗膜を形成する方法を実現する本発明のシステムの一実施の形態は、中空部を具備する燃料タンクの外部に水性エマルジョン系塗料が塗布された該燃料タンクを垂下した吊具を移載する搬送レールと、閉合されたベルコン上に移動自在に載置されるとともに加熱機からの高温エアが提供される閉合ダクトと、該閉合ダクトに連通する複数のエアダクトと、該搬送レールと、該ベルコンが収容され、室内温度を少なくとも100〜130℃の温度雰囲気に調整可能な乾燥炉と、該ベルコンと該吊具の移動を所定速度で同期移動させる調整装置と、を具備しており、乾燥炉内に移載された燃料タンクにエアダクトが自動取り付けされた後に100〜130℃の高温エアが供給されることを特徴とするものである。
【0024】
また、システムの他の実施の形態として、前記乾燥炉の内部が、仕切り壁にて仕切られてなる常温雰囲気の第1の室内と少なくとも100〜130℃の温度雰囲気に調整可能な第2の室内とから構成されており、第1の室内に前記ベルコンが配設されており、第1の室内にて燃料タンクの中空部を100〜130℃の温度雰囲気で所定時間経過させた後に、第2の室内に燃料タンクを移載し、該燃料タンクの外部を100〜130℃の温度雰囲気で所定時間経過させるように設定されていることを特徴とするものである。
【0025】
車両用の燃料タンクは、耐チッピング性を得ることを目的に厚膜の水性塗膜が形成される必要があり、水性塗膜の形成に際してはその膨れや割れといった問題を効果的に防止する必要がある。
【0026】
そこで、燃料タンクの表面に水性塗膜を形成する際に既述する本発明の方法(または本発明のシステム)を適用することにより、効率的かつ品質の高い塗膜の形成を実現することが可能となる。
【発明の効果】
【0027】
以上の説明から理解できるように、本発明の車両に搭載される燃料タンクに水性塗膜を形成する方法およびシステムによれば、燃料タンクの外部からのみならず燃料タンクの内部からも所定温度で所定時間焼付け乾燥することにより、形成される塗膜の膜厚が厚い場合であっても、膨れや割れといった問題を効果的に防止することができ、かつ、製造効率を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明の水性塗膜を形成する方法を実施するための塗膜形成システムの一実施の形態を示した模式図を、図2は、燃料タンクの外部表面に水性塗膜を焼付け乾燥している状況を説明した模式図を、図3は、本発明の水性塗膜を形成する方法を実施するための塗膜形成システムの他の実施の形態を示した模式図をそれぞれ示している。
【0029】
図1は、燃料タンクの外部表面に塗布された水性エマルジョン系塗料を焼付け乾燥させる塗膜形成システムの一実施の形態の概要を示した模式図である。この塗膜形成システム10は、室内温度を130℃程度の温度雰囲気に調整可能な乾燥炉1と、その内部に配設された吊具レール2、加熱機7から高温エアが送られる無端の閉合ダクト5を載置して回転移動させる閉合ベルコン4、閉合ダクト5から高温エアを燃料タンクWの中空部に送るエアダクト6,6,…から大略構成されている。
【0030】
まず、図示する乾燥炉1に移載される前段で、燃料タンクWの外部表面には別途の塗布ブースにて適宜の水性エマルジョン系塗料が所定の厚みで塗布されている。この水性エマルジョン系塗料は、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、スチレン−ブタジエンゴムなどのポリマーに充填剤、消泡剤、増粘剤、分散剤などが調整混合されてなるものであり、充填剤としては、炭酸カルシウム、タルク、シリカ、珪藻土、ゼオライト、炭酸マグネシウム、マイカなどを適用でき、増粘剤としては、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、たんぱく質、ポリビニルアルコール、アクリル酸ナトリウムなどの一種または複数種を適用することができ、分散剤としては、ポリリン酸ソーダ類や界面活性剤などを適用することができる。
【0031】
また、上記する水性塗膜の塗布厚は、例えば1000〜1700μm程度の厚みで塗布できる。
【0032】
外部表面に適宜の水性塗料が塗布された燃料タンクは、吊具3に垂下された姿勢で吊具レール2に案内されながら所定の高温雰囲気に調整された乾燥炉1内に移載される。この吊具3の上端には吊具レール2に沿って移動するローラ21,21が設けられている。なお、このローラ21,21の移動速度は不図示の速度制御機にて制御されており、燃料タンクWが乾燥炉1内に収容される時間(高温雰囲気内に置かれる時間)の調整をおこなうことができる。なお、この速度制御機は、パーソナルコンピュータ(PC)内のCPUにて各ローラ21,21の移動制御が実行されるようになっており、作業員が所定の速度もしくは室内収容時間を入力すると、この入力データに応じて速度等の調整がおこなわれるようになっている。
【0033】
閉合ダクト5には複数のエアダクト6,6,…が垂下されており、この閉合ダクト5は図示する閉合ループに沿って回転移動している(Y方向)。一方、その側方に配設された吊具レール2には、燃料タンクW,W,…が移動しており(X方向)、閉合ダクト5の移動と燃料タンクWの移動が同期移動するように各移動速度が制御されている。
【0034】
乾燥炉1内に移載されてきた燃料タンクWにはエアダクト6の先端が取り付けられる開口W4が開設されており、例えば不図示のマニピュレータ(多関節ロボットアームなど)がエアダクト6を把持し、その先端を開口W4に自動取り付けする。エアダクト6が取り付けられた燃料タンクWは乾燥炉1内の一定延長(t1)だけ移動し、この移動の際に燃料タンクWの中空部(内壁)が所定温度の高温エアに曝される。
【0035】
図2は、燃料タンクWの外部表面と中空部を構成する壁面の双方が高温エアに曝されて水性塗膜が焼付け乾燥されている態様を図示したものである。燃料タンクWは、任意の外殻形状からなる外面W2と中空部W1、中空部W1を画成する内面W3、既述する開口W4とから構成されており、例えば金属素材から成形されている。この外面W2に適宜の水性エマルジョン系塗料(塗膜C)が所定の厚みで塗布されている。
【0036】
エアダクト6を介して例えば100〜130℃の範囲内の高温エアが中空部W1に送られ(Z1方向)、内面W3に高温エアが提供される(Z2方向)。一方、外面W2にも乾燥炉1内の高温エアが提供されており(Z3方向)、したがって、燃料タンクWはその内外面の双方から高温雰囲気に置かれる。
【0037】
図示する燃料タンクWのように中空部を有する燃料タンクの該中空部を効果的に利用し、燃料タンク内部をも高温エアに曝すことにより、塗膜表面に皮張りが形成され、塗膜内部の水分が蒸発して塗膜に膨れや割れが生じるといった成形時の不具合を解消することができる。
【0038】
図1に戻り、燃料タンクWが上記区間t1を通過した際に、エアダクト6が燃料タンクWから自動的に取り外され、燃料タンクWの外面は引き続き高温雰囲気内に置かれることとなる(図中のt2区間)。
【0039】
燃料タンクの移動調整としては、例えば、図1に示すt1区間に10分以内の時間、t2区間に20分以内の時間で設定することができる。
【0040】
図3は、塗膜形成システムの他の実施の形態の概要を示した模式図である。この塗膜形成システム10Aは、室内が仕切り壁8にて常温炉1Aと温度100〜130℃程度に設定された高温炉1Bとに画成され、常温炉1A内には閉合ベルコン4が回転するように配設され、常温炉1Aと高温炉1Bとに跨るように吊具レール2が延設されている。
【0041】
まず、常温炉1A内にて燃料タンクWの中空部に高温エアが送られ、タンク内部が外部に先行して加熱される。例えば、この中空部が加熱される時間は10分以下の時間に設定できる。
【0042】
次いで、燃料タンクWは仕切り壁8を介して高温炉1Bに移載され、高温炉1B内でタンクの外面(塗布された水性塗膜)が高温雰囲気に曝される。この外面が高温に曝される時間は20分以下の時間に設定することができる。
【0043】
塗膜形成システム10Aのように、燃料タンクの内部が先行して高温雰囲気で所定時間曝され、次いでタンクの外面が同様に高温雰囲気に曝されることによっても、塗膜形成システム10と同様の効果、すなわち、比較的膜厚の厚い水性塗膜を膨れや割れを生じさせることなく燃料タンク表面に形成することができる。
【実施例】
【0044】
次に、発明者等による実証実験の概要とその結果について説明する。この実験は、燃料タンクの外面に水性エマルジョン系塗料を650〜1700μmの範囲の厚みで塗布した後に、一つの実施例は、中空部を先行して10分間100〜130℃の範囲の温度に曝した後に外部を20分間100〜130℃の範囲の温度に曝した場合の実施例であり、他の実施例は、タンクの中空部と外部を同時に100〜130℃の範囲の温度に曝すものの、中空部は10分間で高温エアの供給を停止し、外部は30分間継続して100〜130℃の範囲の温度に曝した場合の実施例である。この実験により、水性塗膜を焼付け乾燥する際の上限膜厚(最大膜厚)と、その付着性の検証をおこなった。
【0045】
なお、付着性の検証は、塗膜面を2mm四方で100個の升目をカッターナイフで切り込み形成し(10行10列の切り込みが形成される)、その表面にセロハンテープを貼着して剥がした際に、剥がされた升目の数量で付着性の良否を検証するものである。実験結果を以下の表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
表1における付着性の判定結果において、○は、100%の付着性を、△は90%以上で100%未満の付着性を、×は70%以上で90%未満の付着性の試験結果を示している。また、総合判定は、上限膜厚と付着性の双方を総合判定した結果であり、Aから順に効果が低下するものである。
【0048】
表1中の例えば実施例1においては、中空部の加熱(100℃のエアの供給)を10分おこない、次いでタンクの外部を20分間、100℃の温度雰囲気下に置いたものである。また、実施例5は、中空部もタンクの外部もともに100℃の温度雰囲気下に置き、中空部は最初の10分間だけ高温エアを提供してエア供給を停止し、タンクの外部は30分間継続して高温雰囲気下に置いたものである。一方、比較例は、中空部に高温エアを供給することなく、タンク外部のみを高温雰囲気下に置く従来の塗膜形成方法によるものである。
【0049】
試験の結果、まず実施例1〜8と比較例1〜4を比較するに、上限膜厚、付着性ともに、実施例が効果を挙げていることが分かる。また、実施例1〜8の中で比較するに、中空部のみを高温雰囲気下に10分置いた後に、タンクの外部のみを20分間高温雰囲気下に置く実施例1〜4の結果が、中空部とタンク外部を同時に高温雰囲気に置くとともに途中で中空部の加熱を停止する実施例5〜8の結果に比して、上限膜厚も厚く、付着性もよいという結果が得られた。
【0050】
また、表1より、加熱温度は110〜120℃の範囲に設定するのがより好ましいという結論を得るに至った。
【0051】
なお、100℃未満の加熱温度では水性塗膜の付着性が不十分となり、また、130℃を超えると、表中の上限膜厚の傾向からも明らかなように、上限膜厚が薄くなってしまう。
【0052】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の水性塗膜を形成する方法を実施するための塗膜形成システムの一実施の形態を示した模式図。
【図2】燃料タンクの外部表面に水性塗膜を焼付け乾燥している状況を説明した模式図。
【図3】本発明の水性塗膜を形成する方法を実施するための塗膜形成システムの他の実施の形態を示した模式図。
【符号の説明】
【0054】
1…乾燥炉、1A…常温炉、1B…高温炉、2…吊具レール、21…ローラ、3…吊具、4…閉合ベルコン、5…閉合ダクト、6…エアダクト、7…加熱機、10,10A…塗膜形成システム、W…燃料タンク、W1…中空部、W2…外面、W3…内面、W4…開口、C…塗膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空部を具備する燃料タンクの外部に水性エマルジョン系塗料を塗布する第1の工程と、
前記中空部の壁面を100〜130℃の温度雰囲気で所定時間経過させた後に、該燃料タンク外側の水性エマルジョン系塗料の塗布表面を100〜130℃の温度雰囲気で所定時間経過させることにより、水性エマルジョン系塗料を焼付け乾燥する第2の工程と、からなることを特徴とする車両に搭載される燃料タンクに水性塗膜を形成する方法。
【請求項2】
中空部を具備する燃料タンクの外部に水性エマルジョン系塗料を塗布する第1の工程と、
前記中空部の壁面および塗料の塗布された前記燃料タンク表面の両面を100〜130℃の温度雰囲気で所定時間経過させることにより、水性エマルジョン系塗料を焼付け乾燥する第2の工程と、からなることを特徴とする車両に搭載される燃料タンクに水性塗膜を形成する方法。
【請求項3】
前記温度雰囲気が110〜120℃であることを特徴とする請求項1または2に記載の車両に搭載される燃料タンクに水性塗膜を形成する方法。
【請求項4】
中空部を具備する燃料タンクの外部に水性エマルジョン系塗料が塗布された該燃料タンクを垂下した吊具を移載する搬送レールと、閉合されたベルコン上に移動自在に載置されるとともに加熱機からの高温エアが提供される閉合ダクトと、該閉合ダクトに連通する複数のエアダクトと、該搬送レールと、該ベルコンが収容され、室内温度を少なくとも100〜130℃の温度雰囲気に調整可能な乾燥炉と、該ベルコンと該吊具の移動を所定速度で同期移動させる調整装置と、を具備しており、乾燥炉内に移載された燃料タンクにエアダクトが自動取り付けされた後に100〜130℃の高温エアが供給されることを特徴とする車両に搭載される燃料タンクに水性塗膜を形成するシステム。
【請求項5】
前記乾燥炉の内部が、仕切り壁にて仕切られてなる常温雰囲気の第1の室内と少なくとも100〜130℃の高温雰囲気に調整可能な第2の室内とから構成されており、第1の室内に前記ベルコンが配設されており、第1の室内にて燃料タンクの中空部を100〜130℃の温度雰囲気で所定時間経過させた後に、第2の室内に燃料タンクを移載し、該燃料タンクの外部を100〜130℃の温度雰囲気で所定時間経過させるように設定されていることを特徴とする請求項4に記載の車両に搭載される燃料タンクに水性塗膜を形成するシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−301528(P2007−301528A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−135353(P2006−135353)
【出願日】平成18年5月15日(2006.5.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】