説明

車両のインストルメントパネル

【課題】 自動車の歩行者保護対策として、カウルトップ部について上方からの衝撃荷重に対する剛性を低下させる工夫がなされている。しかしながら、カウルトップ部を上方から覆うインストルメントパネルについては従来歩行者保護対策がなされていなかった。本発明ではインストルメントパネルについても歩行者保護対策を施すことによりカウルトップ部の歩行者保護対策をより確実かつ効果的に機能させることを目的とする。
【解決手段】 インストルメントパネルの前部に衝撃吸収溝を切り込み形成して、この衝撃吸収溝に応力を集中させることにより上方からの衝撃に対する剛性を低下させる。当該前部の板厚は、直射日光等による熱変形に耐える板厚を確保する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両の室内前部に装備されるインストルメントパネルに関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆる歩行者保護対策として車両のフロントウインド下部周辺の衝撃吸収構造について、従来より様々な提案がなされている。例えば、特開2004-155351号公報には、フロントウインドの下部を支持するカウルトップ部の閉じ断面構造に折れビード部等の座屈促進部を設けてカウルトップを変形しやすくすることによりフロントウインドの下部に付加された衝撃を吸収して歩行者の保護を図る技術が開示されている。また、特開2000-38160号公報にはカウルトップ部を上方からの衝撃に対して変形しやすい閉じ断面構造とすることにより、フロントウインド下部の衝撃吸収能力を高める技術が開示されている。
【特許文献1】特開2004-155351号公報
【特許文献2】特開2000-38160号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このように従来フロントウインド下部を支持するカウルトップ部の衝撃吸収能力を高めることによって車両の歩行者保護対策が図られていた。
しかしながら、これら従来の歩行者保護対策にもさらに改良を施すべき点があった。すなわち、一般にフロントウインド下部とカウルトップ部との間には、インストルメントパネルがその前部でカウルトップ部を覆う状態に装備されている。このため、インストルメントパネルの前部の剛性が高いと衝撃力の大部分が当該前部に受けられて、カウルトップ部に伝達されず、その結果当該カウルトップ部の衝撃吸収機能が有効かつ十分に発揮されないおそれがある。
この問題は、インストルメントパネルの前部の剛性を低下させることにより解決することができる。
本発明は、フロントウインド下部に付加される上方からの衝撃に対して容易に変形若しくは一部破損し、これにより例えば従来から歩行者保護対策として提案されているカウルトップ部の衝撃吸収機能を確実かつ十分に発揮させることができるインストルメントパネルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
このため、本発明は特許請求の範囲の各請求項に記載した構成のインストルメントパネルとした。
請求項1記載のインストルメントパネルによれば、その前部の板厚方向の剛性が低下されているのでフロントウインド下部に上方からの大きな衝撃力が付加されたときにのみ、その前部が容易に変形若しくは破損して衝撃力の一部が吸収され、その結果従来のカウルトップ部に設けられた衝撃吸収機能を確実かつ効果的に発揮させることができる。
衝撃吸収部としては様々な形態を用いることができる。例えば、インストルメントパネルの前端部からV字形の応力集中溝を切り込み形成し、この応力集中溝に、衝撃により発生する応力を集中させることによりその板厚方向の剛性を低下させることができる。
また、インストルメントパネルの前部に沿った一定の範囲について薄肉化してこの範囲を衝撃吸収部とすることにより、当該前部の上方からの衝撃に対する剛性を低下させる構成とした場合には、当該前部の薄肉部に補強用のリブを前後方向に沿って設けることにより主として熱変形に対する剛性を確保することができ、また当該インストルメントパネル単体での剛性を確保することができる。当該前部に沿った一定の範囲について、熱変形に対する必要な剛性を確保できる程度に薄肉化することにより、上記リブを省略することができる。
さらに、インストルメントパネルの前部についてその材質を後部とは異なる適切な材質に設定することにより、主として熱変形に対する剛性を確保しつつ、上方からの衝撃力に対する剛性を低下させることができる。
請求項1記載の発明は、カウルトップ部が歩行者保護対策としての衝撃吸収機能を備える場合、備えない場合のいずれの場合であっても適用することができ、当該インストルメントパネルの衝撃吸収部のみによっても歩行者保護対策を図ることができる。
【0005】
請求項2記載のインストルメントパネルによれば、フロントウインド下部に上方からの大きな衝撃力が付加されたときに、これが当該インストルメントパネルの前部に伝達されてV字形の応力集中溝に、上記衝撃力により発生する応力が集中する結果、当該インストルメントパネルの前部が容易に変形若しくは破損して当該衝撃力の一部が吸収される。インストルメントパネルの前部が容易に変形等するので、カウルトップ部が歩行者保護対策としての衝撃吸収機能を備える場合には同機能を確実かつ十分に発揮させることができる。
請求項3記載のインストルメントパネルによれば、その前部に薄肉部が設けられているので上方からの衝撃力に対する剛性が低下されてより変形等しやすくなり、これによりカウルトップ部の衝撃吸収機能が確実かつ十分に発揮される。
また、薄肉部の裏面には補強用のリブが設けられているため、主として熱変形等に対する剛性が確保され、また当該インストルメントパネルの単体での剛性が確保されている。補強用のリブは前後方向に沿って設けられているので、当該リブの存在しない範囲又はリブとリブの間では上記薄肉化により上方からの衝撃に対する変形等しやすい状態(衝撃吸収部)が確保されている。
また、リブとリブとの間において薄肉部にV字形の応力集中溝を加えた構成とすることにより、衝撃付加時にインストルメントパネルの前部をより確実に変形若しくは破損させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
次に、本発明の実施形態を図1〜図9に基づいて説明する。図1は、本実施形態に係るインストルメントパネルを備えた車両1のカウルトップ部2の周辺を示している。図中符号3は、フロントウインドを示している。このフロントウインド3の下部はカウルトップパネル4に支持されている。このカウルトップパネル4の室内側端部はダッシュアッパパネル7の上端に接合されている。ダッシュアッパパネル7の下端部はダッシュロアパネル8の上端に接合されている。ダッシュロアパネル8の上端には、カウルパネル9の一端側が接合されている。
また、フロントウインド3の下部にはカウルルーバ5の上部が覆い被さっている。カウルルーバ5の下部には、エンジンルームを開閉するフードパネル6の上部が覆い被さっている。カウルルーバ5の下部はカウルパネル9の他端側に接合されている。カウルルーバ5の下端上面にはフードパネル6との間をシールするためのシール部材5aが取り付けられている。
このように構成されたカウルトップ部2は、カウルトップパネル4とダッシュアッパパネル7がカウルパネル9に対して開断面構造を有することにより、フロントウインド3の下部に付加される上方からの衝撃荷重Pに対して変形しやすい構造を備えており、これによりいわゆる歩行者対策がなされている。以上の点は、従来公知の技術であり、本実施形態において特に変更を要しない。
【0007】
さて、車室内前部であってフロントウインド3の下方には、本実施形態に係るインストルメントパネル10が配置されている。このインストルメントパネル10は、ダッシュアッパパネル7及びダッシュロアパネル8の上方を覆う状態に取り付けられており、その前端部は、図示するようにフロントウインド3の下部とカウルトップパネル4との間に入り込んでいる。
図2には、このインストルメントパネル10が単独で示されている。このインストルメントパネル10は、直射日光等に対して容易には変形しないようにするため(熱変形対策)に適切な板厚のボード材を基材として製作されている。この点は、従来のインストルメントパネルと同様である。本実施形態のインストルメントパネル10は、複数の応力集中溝11a〜11aがその前端部から切り込み形成されてなる衝撃吸収部11を備えた点に特徴を有している。この衝撃吸収部11が特許請求の範囲に記載した衝撃吸収部の一例に相当する。
図3に示すように各応力集中溝11aは、当該インストルメントパネル10の前端から平面視(平面的に見て)概ねV字形に切り込まれている。また、各応力集中溝11aは、前端側ほど深くなる方向に傾斜する状態(板厚方向に深さが変化する状態)に切り込み形成されている。
フロントウインド3を経てインストルメントパネル10の主として前端部に対して上方からの衝撃荷重Pが付加されると、これにより発生する応力が各応力集中溝11aに集中する(応力集中)。このため、図3に示すように各応力集中溝11aの切り込み先端部から亀裂12〜12が発生しやすくなり、ひいては当該インストルメントパネル10の前端部が変形若しくは破損して衝撃荷重Pが吸収されやすくなっている。
インストルメントパネル10の前端下面には、取り付け縁部10a〜10aが設けられている。各取り付け縁部10aには、その前端から取り付け溝部10bが切り込み形成されている。各取り付け溝部10b内に、カウルトップパネル4とダッシュアッパパネル7との接合部4aを嵌め込む状態で当該各取り付け縁部10aを接合部4aに沿って係合させることにより、インストルメントパネル10の前端部の主として浮き上がり方向の変位が規制されている。インストルメントパネル10の左右側部及び後部の取り付けについては従来公知の取り付け手段により取り付けられており、本実施形態において特に変更を要しないのでその図示及び説明を省略する。
【0008】
以上のように構成した本実施形態のインストルメントパネル10によれば、その前端部に複数の応力集中溝11a〜11aからなる衝撃吸収部11が形成されている。このため、フロントウインド3を経て当該前端部に上方からの衝撃荷重Pが付加されると、これにより発生する応力が各応力集中溝11aに集中し、その結果当該インストルメントパネル10の前端部が変形し、若しくは破損し易くなっている。
これに対して、当該インストルメントパネル10はその前端部を含めて直射日光等による熱変形に対して容易に変形等しないようにするために十分な板厚を備えている。一般に、インストルメントパネルの前端部の剛性を低下させるには、当該前端部を薄肉化することにより可能となるが、当該前端部は直射日光が照射される等するため熱変形に対する剛性を確保することも必要である。従って、当該前端部について無制限に薄肉化する方法をとることは好ましくない。また、インストルメントパネルは、ボディ組み付け前の部品(単品)としての剛性を確保する必要があり、この点でも一定以上の板厚を有することが必要になる。
このようにインストルメントパネル10の前端部が熱変形に対する剛性等を確保しつつ上方からの衝撃荷重Pに対して変形若しくは破損しやすくなっているので、いわゆる歩行者対策を当該インストルメントパネル10について行うことが可能となる。しかも、例示したようにカウルトップ部2について従来公知の歩行者対策を施している場合に、インストルメントパネル10の前端部が上方からの衝撃荷重Pに対して変形若しくは破損しやすくなっているので、当該カウルトップ部2の歩行者対策をより確実かつ効果的に機能させることができる。
【0009】
以上例示した実施形態には種々変更を加えることができる。例えば、衝撃吸収部として板厚方向に深さが変化する有底の応力集中溝11aを例示したが、図4に示すように板厚方向に貫通する状態で切り込み形成した平面視V字形の応力集中溝21a〜21aをインストルメントパネル20の前端部に沿って複数形成してこれを衝撃吸収部21としてもよい。
また、図5及び図6に示すように上記2形態の応力集中溝11a,21aを組み合わせた衝撃吸収部31としてもよい。すなわち、板厚方向に貫通する平面視V字形の応力集中溝31a〜31aをインストルメントパネル30の前端部に沿った複数箇所に切り込み形成し、各応力集中溝31aの切り込み先端部(V字形の尖端部)に、板厚方向に深さが変化する平面視V字形の補助溝31bを設けて衝撃吸収部31としてもよい。この複合溝式の衝撃吸収部31によれば、各応力集中溝31aの尖端部により確実かつ効率よく応力を集中させることができ、ひいては熱変形に対する剛性を確保しつつ当該インストルメントパネル30の前端部を上方からの衝撃荷重Pに対してより一層変形若しくは破損しやすくすることができ、これによりカウルトップ部2に設定した歩行者対策をより確実かつ十分に機能させることができるようになる。
また、インストルメントパネル10の前端部から応力集中溝11a,21a,31aをV字形に切り込み形成する構成を例示したが、V字形に限らず単なる切り込み(スリット)を応力集中溝としてもよく、また前端から切り込むのではなく前端から適宜距離をおいた範囲に応力集中溝若しくは応力集中孔若しくは応力集中凹部(板厚方向の凹み)を設けて衝撃吸収部を構成としてもよい。
【0010】
さらに、本発明に係る衝撃吸収部は、上記例示したように応力集中溝11a,21a,31a等を設ける構成に限らず、例えば図7及び図8に示すようにインストルメントパネル40の前部に沿った範囲(L1で示す範囲)の板厚t1をその他の範囲(後部、L2で示す範囲)の板厚t2よりも薄肉に形成し(t1<t2)、この薄肉部を衝撃吸収部41としてもよい。この衝撃吸収部41(板厚t1の範囲L1)は、薄肉であることから他の部分よりも上方からの衝撃荷重Pに対して変形若しくは破損し易くなっている。この衝撃吸収部41により、前記と同様カウルトップ部2の歩行者対策をより確実かつ十分に機能させることができる。
また、上記衝撃吸収部41の裏面(下面)には、複数のリブ42〜42が設けられている。各リブ42は、板厚t1の範囲L1において前後(車両の前後方向)に沿って設けられている。また、隣接するリブ42,42は、相互に間隔Dをおいて配置されている。このリブ42〜42により、当該衝撃吸収部41を薄肉に形成したことによる熱変形に対する剛性の低下を補うことができる。すなわち、衝撃吸収部41は、リブ42〜42により直射日光等による熱変形に対する剛性を確保しつつ、図7中二点鎖線で示すようにリブ42,42間の範囲において上方からの衝撃荷重Pに対する剛性を低下させる構成となっている。
【0011】
さらに、図9に示すようにインストルメントパネル50の前部(図9中L3で示す範囲)の板厚を徐々に変化させて後部(図9中L4で示す範囲)よりも薄肉の衝撃吸収部51としてもよい。この場合も衝撃吸収部51の裏面に複数のリブ52〜52が前後方向に沿って設けられている。これにより衝撃吸収部51の上方からの衝撃荷重Pに対する剛性が低下されて変形若しくは破損しやくなっているとともに、直射日光等による熱変形に対する剛性が確保されている。
このように、インストルメントパネル40,50の前部に薄肉の衝撃吸収部41,51を設けて上方からの衝撃荷重Pに対する剛性を低下させることによりカウルトップ部2の歩行者保護対策をより確実かつ効果的に機能させる構成とすることができる一方、その裏面にリブ42〜42、52〜52を設けることにより熱変形に対する剛性あるいは組み付ける前における部品としての剛性を確保してその組み付け性及び取り扱い性を確保することができる。
さらに、インストルメントパネルの前部に沿った一定の範囲の板厚について、直射日光等による熱変形に対する剛性あるいは組み付け前の単品としての剛性を確保できる程度に単に薄肉化して、当該前部の上方からの衝撃に対する剛性を低下させる構成とすることにより上記のリブ42〜42、52〜52を省略した上で同様の作用効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に係るインストルメントパネルの前部を示す図であって、カウルトップ部周辺の縦断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係るインストルメントパネルを斜め上方から見た斜視図である。
【図3】本発明の実施形態に係るインストルメントパネルの前端部であって、図2の(3)部の拡大図である。
【図4】別形態の応力集中溝を備えたインストルメントパネル前部の斜視図である。
【図5】さらに別形態の応力集中溝を備えたインストルメントパネル前部の斜視図である。
【図6】図5に示す応力集中溝の縦断面図である。
【図7】薄肉タイプの衝撃吸収部を備えたインストルメントパネルの前部の斜視図である。
【図8】薄肉タイプの衝撃吸収部を備えたインストルメントパネルの前部の縦断面図である。
【図9】板厚が徐々に変化する薄肉タイプの衝撃吸収部を備えたインストルメントパネルの前部が縦断面図である。
【符号の説明】
【0013】
1…車両
2…カウルトップ部
3…フロントウインド
4…カウルトップパネル、4a…接合部
5…カウルルーバー、5a…シール部材
6…フードパネル
7…ダッシュアッパパネル
8…ダッシュロアパネル
9…カウルパネル
10…インストルメントパネル(第1実施形態)
10a…取り付け縁部、10b…取り付け溝部
11…衝撃吸収部、11a…応力集中溝
P…上方からの衝撃荷重
20…インストルメントパネル(第2実施形態)
21…衝撃吸収部(第2実施形態)、21a…応力集中溝
30…インストルメントパネル(第3実施形態)
31…衝撃吸収部(第3実施形態)、31a…応力集中溝、31b…補助溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のカウルトップ部を覆う前部に、その板厚方向の衝撃に対する剛性を低下させるための衝撃吸収部を設けたインストルメントパネル。
【請求項2】
請求項1記載のインストルメントパネルであって、その前部は主として熱変形に対する剛性を確保するための板厚を有し、前記衝撃吸収部として、前記前部に沿った複数箇所に平面視V字形の応力集中溝を切り込み形成し、該応力集中溝に前記衝撃により発生する応力を集中させて前記前部の剛性を低下させる構成としたインストルメントパネル。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のインストルメントパネルであって、前記衝撃吸収部としてその前部を後部よりも薄肉に形成して前記衝撃に対する剛性を低下させる一方、該薄肉部の裏面に前後方向に沿って補強用のリブを設けて主として熱変形に対する剛性を確保する構成としたインストルメントパネル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−290069(P2006−290069A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−110945(P2005−110945)
【出願日】平成17年4月7日(2005.4.7)
【出願人】(000110321)トヨタ車体株式会社 (1,272)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】