説明

車両のエンジンフードのヒンジ構造

【課題】大型化や重量化を招くことなくエンジンフードの後方移動を確実に規制する。
【解決手段】車体側に固定されて起立するヒンジベース2のベース本体4の上端部8には、回転支持部5よりも前方でベース本体4から車幅方向外側へ突出する上規制部6が設けられている。エンジンフード側に固定されるヒンジピン3のピン本体10の後端部14には、回転支持部5の車幅方向内側で回転支持部5に回転自在に連結される連結部11と、連結部11よりも下方で車幅方向外側へ突出する下規制部12が設けられている。ヒンジピン3の下規制部12は、ヒンジベース2の上規制部6に下方から当接してエンジンフードの開度を規制し、ベース本体2の前端に前方から当接してエンジンフードの後方への移動を規制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のエンジンフードを開閉自在に支持するヒンジ構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒンジブラケットを車体側に装着し、ヒンジアームをフロントフード側に装着した自動車のフードヒンジにおいて、ヒンジアームのヒンジセンター側を下方向に向けて円弧状に湾曲させて形成し、この湾曲部の回動範囲内にフロントフードの開きを所定角度に制限する係合部をヒンジブラケットに設け、フロントフードが後方に移動した際、ヒンジアームの湾曲部に当接してフロントフードの後方移動を規制する係止部をヒンジブラケットの係合部に設けたフードヒンジが知られている。
【0003】
フロントフードに前方から衝撃が加わってフロントフードが後方に移動しようとすると、ヒンジアームの湾曲部が後方に圧縮されながら移動し、湾曲部がヒンジブラケットの係合部に当接して、フロントフードの後方への移動が阻止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3275401号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記構造では、ヒンジアームのヒンジセンター側が下方に向けて円弧状に湾曲しているため、ヒンジアームの大型化や重量化を招く。
【0006】
また、フロントフードの後方移動は、変形後の湾曲部がヒンジブラケットの係合部に当接することによって規制されるため、湾曲部の後端が係合部よりも下方へ変位した場合などのように湾曲部の変形の態様によっては、フロントフードの移動を規制できない可能性が生じる。
【0007】
そこで、本発明は、部品の大型化や重量化を招くことなく、エンジンフードの後方への移動を確実に規制することが可能なエンジンフードのヒンジ構造の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成すべく、本発明のヒンジ構造は、ヒンジベースとヒンジピンとを備える。ヒンジベースは、車体側に固定されて起立するベース本体と、ベース本体の上端部に設けられた回転支持部と、回転支持部よりも前方でベース本体から車幅方向の一側へ突出する上規制部と、を有する。ヒンジピンは、エンジンフード側に固定されるピン本体と、ピン本体の後端部に設けられ回転支持部の車幅方向の他側で回転支持部に回転自在に連結される連結部と、連結部よりも下方でピン本体の後端部から車幅方向の一側へ突出する下規制部と、を有する。
【0009】
ヒンジピンの下規制部は、ヒンジベースの上規制部に下方から当接することにより、エンジンフードの開度を規制する。また、下規制部は、ベース本体の前端に前方から当接することにより、エンジンフードの後方への移動を規制する。
【0010】
上記構成では、エンジンフードの開度は、下規制部が上規制部に下方から当接することによって規制され、エンジンフードの後方への移動は、下規制部がベース本体の前端に前方から当接することによって規制される。すなわち、ベース本体に上規制部を突設し、ピン本体に下規制部を突設するという極めて簡単な構成によって、エンジンフードの開度と後方への移動とを規制することができ、部品の大型化や重量化を招くことがない。
【0011】
また、エンジンフードが後方へ移動した際に下規制部が当接する部分は、車体側に固定されて起立するベース体の前端であるため、ヒンジピンの変形によって下規制部が上下方向に変位した場合であっても、下規制部が確実にベース体に当接する。従って、エンジンフードの後方への移動を確実に規制することができる。
【0012】
また、ヒンジピンの下規制部の後部は、後方へ延びてベース本体の車幅方向の一側の表面と対向してもよい。
【0013】
上記構成では、ベース本体の車幅方向の一側の表面にはヒンジピンの下規制部の後部が対向し、ベース本体の車幅方向の他側の表面にはヒンジピンのピン本体の後端部が対向した状態となり、エンジンフードの後方への移動に伴ってヒンジピンが後方へ移動したときに、ピン本体の後端部と下規制部の後部との間にベース本体の前端が係合した状態で下規制部がベース本体の前端に当接する。従って、ヒンジピンの変形によって下規制部が車幅方向に変位した場合であっても、下規制部が確実にベース体に当接するとともに、当接後に下規制部がベース本体の前端から離脱し難く、エンジンフードの後方への移動をさらに確実に規制することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、部品の大型化や重量化を招くことなく、エンジンフードの後方への移動を確実に規制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態のヒンジ構造を適用したエンジンフードを示す斜視図である。
【図2】図1のヒンジ構造の斜視図である。
【図3】図1のヒンジ構造の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態を図1〜図3に基づいて説明する。
【0017】
車両のエンジンルーム20を閉止するエンジンフード21の車幅方向両側の後端部は、左右一対のヒンジ構造1によって開閉移動自在に支持される。各ヒンジ構造1は、ヒンジベース2とヒンジピン3とを備える。
【0018】
ヒンジベース2は、ベース本体4と回転支持部5と上規制部6とを一体的に有し、板材を所定形状に打ち抜いた後に曲折することによって形成される。ベース本体4は、車体23側に締結固定される固定フランジ部7を有し、面法線が車幅方向を向くように固定フランジ部7から起立して上方へ延びる。回転支持部5は、ベース本体4の上端部8に設けられている。回転支持部5には、回転軸部材9が挿入される孔(図示省略)が形成されている。上規制部6は、回転支持部5よりも前方で且つ回転支持部5の上端よりも下方で、ベース本体2の上端部8の前端から車幅方向外側へ曲折して突出する。
【0019】
ヒンジピン3は、ピン本体10と連結部11と下規制部12とを一体的に有し、板材を所定形状に打ち抜いた後に曲折することによって形成される。
【0020】
ピン本体10は、前後方向に延びてエンジンフード21の下面側に締結固定される取付フランジ部13を有し、面法線が車幅方向を向くように取付フランジ部13の車幅方向の端縁から下方へ曲折されて後方へ延びる。
【0021】
連結部11は、ピン本体10の後端部14に設けられ、ヒンジベース2の回転支持部5の車幅方向内側に配置される。連結部11には、回転軸部材9が挿入される孔(図示省略)が形成され、この回転軸部材9によって、回転支持部5と連結部11とが回転自在に連結される。
【0022】
下規制部12は、連結部11よりも下方で、ピン本体10の後端部14の下縁から車幅方向外側へ曲折して突出する。下規制部12の突出量は、下規制部12の近傍のベース本体4よりも車幅方向外側へ突出するように設定されている。下規制部12は、ピン本体10から曲折された前部15と、前部15の後端から後上方へ延びる後部16とを有する。後部16の車幅方向の内端縁は、ベース本体4の車幅方向外側の表面と対向する。すなわち、ピン本体10の後端部14の下部と下規制部12の後部16とに区画される間隙に、ベース本体4の前端部分が挿入された状態となる。
【0023】
ヒンジピン3の下規制部12の後部16は、ヒンジベース2の上規制部6の下端縁に下方から当接して、エンジンフード21の開度を規制する。また、下規制部12の前部の後端縁は、ベース本体4の前端縁に前方から当接して、エンジンフード21の後方への移動を規制する。
【0024】
上記ヒンジ構造1によって支持されたエンジンフード21の前端が上方へ持ち上げられると、エンジンフード21側に固定されたヒンジピン10が回転軸部材9を中心として上方へ回転し、エンジンフード21が開移動する。エンジンフード21の開移動が進み、ヒンジピン3の下規制部12の後部16がヒンジベース2の上規制部6の下端縁に下方から当接すると、エンジンフード21の開移動が規制される。すなわち、ヒンジピン3の下規制部12とヒンジベース2の上規制部6との当接によって、エンジンフード21の最大開度が規定される。
【0025】
エンジンフード21に前方から衝撃が加わり、エンジンフード21が後方へ僅かに移動すると、ヒンジピン3の下規制部12の前部15の後端縁がベース本体4の前端縁に前方から当接する。また、ピン本体10の後端部14の下部と下規制部12の後部16とに区画される間隙に、ベース本体4の前端部分が挿入された状態となっているので、ヒンジピン3が後方へ移動したときに、ピン本体10の後端部14の下部と下規制部12の後部16との間にベース本体4の前端部分が係合した状態で、下規制部12の前部15の後端縁がベース本体4の前端縁に当接する。これによってエンジンフード21の後方への移動が規制される。
【0026】
このように、ベース本体4に上規制部6を突設し、ピン本体10に下規制部12を突設するという極めて簡単な構成によって、エンジンフード21の開度と後方への移動とを規制することができるので、ヒンジベース2及びヒンジピン3の大型化や重量化を招くことがない。
【0027】
エンジンフード21が後方へ移動した際に下規制部が当接する部分は、車体側に固定されて起立するベース体4の前端縁であるため、ヒンジピン10の変形によって下規制部12が上下方向に変位した場合であっても、下規制部12が確実にベース体4に当接する。また、ピン本体10の後端部14の下部と下規制部12の後部16との間にベース本体4の前端部分が係合するので、ヒンジピン10の変形によって下規制部12が車幅方向に変位した場合であっても、下規制部12が確実にベース体4に当接するとともに、当接後に下規制部12がベース本体4の前端部から離脱し難い。従って、エンジンフード21の後方への移動をさらに確実に規制することができる。
【0028】
上規制部6及び下規制部12は、ともに回転軸部材9の前方に配置され、エンジンフード21によって常時覆われている。このため、上規制部6及び下規制部12が露出することがなく、エンジンフード21の開移動時に作業者の指などが両者の間に挟まれてしまうことがない。
【0029】
上規制部6が回転支持部5の上端よりも下方に配置されているため、エンジンフード21に人間の頭部などが衝突した際に、エンジンフード21の変形による衝撃緩和の効果が上規制部6によって損なわれてしまうことがない。
【0030】
なお、上記実施形態は本発明の一例であり、上規制部6や下規制部6の形状等は上記に限定されるものではない。また、上記ではヒンジベース2の車幅方向内側にヒンジピン3を配置する例を示したが、反対に、ヒンジベース2の車幅方向外側にヒンジピン3を配置してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明のヒンジ構造は、エンジンフードを支持する構造に広く適用可能である。
【符号の説明】
【0032】
1:ヒンジ構造
2:ヒンジベース
3:ヒンジピン
4:ベース本体
5:回転支持部
6:上規制部
8:ベース本体の上端部
9:回転軸部材
10:ピン本体
11:連結部
12:下規制部
14:ピン本体の後端部
15:下規制部の前部
16:下規制部の後部
20:エンジンルーム
21:エンジンフード
23:車体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体側に固定されて起立するベース本体と、該ベース本体の上端部に設けられた回転支持部と、該回転支持部よりも前方で前記ベース本体から車幅方向の一側へ突出する上規制部と、を有するヒンジベースと、
エンジンフード側に固定されるピン本体と、該ピン本体の後端部に設けられ前記回転支持部の車幅方向の他側で該回転支持部に回転自在に連結される連結部と、該連結部よりも下方で前記ピン本体から前記一側へ突出する下規制部と、を有するヒンジピンと、を備え、
前記下規制部は、前記上規制部に下方から当接することにより、前記エンジンフードの開度を規制し、前記ベース本体の前端に前方から当接することにより、前記エンジンフードの後方への移動を規制する
ことを特徴とする車両のエンジンフードのヒンジ構造。
【請求項2】
請求項1に記載のヒンジ構造であって、
前記下規制部の後部は、後方へ延びて前記ベース本体の前記一側の表面と対向する
ことを特徴とする車両のエンジンフードのヒンジ構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−228708(P2010−228708A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−81220(P2009−81220)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(510157306)イスズモータースカンパニー(タイランド)リミテッド (9)
【Fターム(参考)】