説明

車両のブレーキ液圧制御装置

【課題】 増圧弁としてリニア電磁弁を使用してリニア増圧制御を行うABS制御を実行する際、「緩制動」時の「ホイールシリンダ圧の増圧開始の遅れ」と、「急制動」時の「ホイールシリンダ圧の比較的長い期間に亘る急激な増大」の発生を共に抑制すること。
【解決手段】 このブレーキ液圧制御装置は、増圧弁として実差圧(マスタシリンダ圧Pmとホイールシリンダ圧Pwの差)をリニアに調整可能な常開リニア電磁弁を採用する。この装置は、減圧制御・保持制御・リニア増圧制御を一組とする制御サイクルを繰り返し実行する一方、実差圧相当電流値が正確に取得していない状態で開始される1回目の制御サイクルに限り、リニア増圧制御に代えて「保持期間付リニア増圧制御」を実行する(時刻t3〜t6)。「保持期間付リニア増圧制御」の開始時の増圧弁への指令電流値Id(=I0)は、同時点の実差圧相当電流値より必ず小さくなる「減圧相当電流値」に設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪の過度のスリップを防止するためのアンチスキッド制御(以下、「ABS制御」と称呼する。)を実行する車両のブレーキ液圧制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ホイールシリンダ内のブレーキ液圧(以下、「ホイールシリンダ圧」と称呼する。)を制御して上記ABS制御を実行するブレーキ液圧制御装置が広く車両に搭載されるようになってきている。一般に、係るブレーキ液圧制御装置は、運転者によるブレーキ操作に応じたブレーキ液圧(以下、「マスタシリンダ圧」と称呼する。)を発生するマスタシリンダとホイールシリンダとの間の液圧回路に介装された常開電磁弁(増圧弁)と、ホイールシリンダとリザーバとの間の液圧回路に介装された常閉電磁弁(減圧弁)を備えていて、係る増圧弁、及び減圧弁を制御することでホイールシリンダ圧の減圧制御・保持制御・増圧制御を実行できるようになっている。
【0003】
ABS制御は、一般に、所定のABS制御開始条件が成立することに応答して開始され、少なくとも減圧制御が実行された後に増圧制御を行うことで達成される。そして、今回のABS制御中における増圧制御中にて上記ABS制御開始条件が再び成立すると、同増圧制御を終了するとともに次回のABS制御が連続的に開始される。即ち、ABS制御開始条件が成立する時点から次にABS制御開始条件が成立する時点までの期間を一制御サイクルと呼ぶことにすると、一般に、ABS制御は、複数回の制御サイクルに亘って連続的に複数回実行されるようになっている。
【0004】
ところで、近年、上記増圧制御中においてホイールシリンダ圧を滑らかに(無段階に)増大する制御(以下、「リニア増圧制御」と称呼する。)を実行する要求がなされてきている。このため、係るブレーキ液圧制御装置においては、上記増圧弁として、通電電流値をリニアに制御することでマスタシリンダ圧とホイールシリンダ圧の間の差圧(以下、「実差圧」と称呼する。)を(無段階に)調整可能なリニア電磁弁(特に、常開リニア電磁弁)が採用されるようになってきている(例えば、下記特許文献1を参照)。
【特許文献1】特開2003−19952号公報
【0005】
係る常開リニア電磁弁では、一般に、その諸元により通電電流値(指令電流)と、吸引力に相当する差圧(以下、「指令差圧」と称呼する。)との関係が規定されていて、同常開リニア電磁弁は、通電電流値に応じて決定される指令差圧が実差圧よりも大きいときに閉弁してマスタシリンダとホイールシリンダとの連通を遮断するようになっている。一方、常開リニア電磁弁は、上記指令差圧が上記実差圧よりも小さいときに開弁してマスタシリンダとホイールシリンダとを連通するようになっていて、この結果、マスタシリンダ側からブレーキ液がホイールシリンダ内に流入することで実差圧が指令差圧に一致するように調整され得るようになっている。
【0006】
即ち、増圧弁として常開リニア電磁弁を使用して上記リニア増圧制御を行うためには、減圧弁を閉状態に維持したまま、先ず、リニア増圧制御の開始時点にて常開リニア電磁弁(即ち、増圧弁)への通電電流値を実差圧に相当する電流値(即ち、上記指令差圧を実差圧と一致させるための通電電流値。以下、「実差圧相当電流値」と称呼する。)に直ちに設定するとともに、以降、同通電電流値を一定の勾配でリニアに減少させていく必要がある。これにより、実差圧がリニア増圧制御開始時点以降において滑らかに減少していき、この結果、リニア増圧制御中に亘ってホイールシリンダ圧を滑らかに増大させていくことができる。
【0007】
換言すれば、リニア増圧制御開始時点から直ちにホイールシリンダ圧を滑らかに増大させていくためには、リニア増圧制御開始時点にて(又は、それ以前に)、同時点での実差圧相当電流値(従って、同時点での実差圧)を正確に取得する必要がある。ここで、実差圧は、マスタシリンダ圧を検出するセンサ、及びホイールシリンダ圧を検出するセンサを共に利用することにより容易に検出することができる。しかしながら、係る2つのセンサを利用する構成は、製造コストが増大すること、センサの信頼性の確保が困難であること等の観点から一般に採用され難い。
【0008】
以上のことから、係るセンサを利用することなく上記リニア増圧制御開始時点における実差圧(或いは、実差圧相当電流値)を取得する必要がある。このため、上記特許文献1に記載のブレーキ液圧制御装置は、1回目の制御サイクル(1回目のABS制御)におけるリニア増圧制御中の或る時点にて上記実差圧相当電流値を取得し、この値に基づいて2回目以降の制御サイクルにおけるリニア増圧制御開始時点での実差圧相当電流値を取得するようになっている。以下、図13、及び図14を参照しながら係る手法についてより具体的に説明する。
【0009】
図13は、係る手法を実行するブレーキ液圧制御装置を搭載した車両の運転者が時刻t1以前の或る時点からブレーキ操作を継続的に実行することにより、時刻t1、及びt4にてABS制御開始条件が成立した場合(即ち、時刻t1〜t4が1回目の制御サイクルに相当し、時刻t4以降が2回目の制御サイクルに相当する場合)における、車輪速度Vw、(推定)車体速度Vso、マスタシリンダ圧Pm、ホイールシリンダ圧Pw、及び、常開リニア電磁弁である増圧弁への指令電流値Id(即ち、通電電流値)の変化の一例を示したタイムチャートである。
【0010】
この図13では、1回目のABS制御開始条件が成立した直後からブレーキ操作力(従って、マスタシリンダ圧Pm)が略一定とされることでリニア増圧制御開始時点(時刻t2)での実差圧が比較的小さい値となっている場合(以下、このような制動状態を「緩制動」と称呼する。)が示されている。
【0011】
図13に示したように、この装置は、時刻t1にて1回目のABS制御の開始と同時に減圧制御(増圧弁:閉、減圧弁:開)を開始するとともに、同減圧制御中において所定の保持制御開始条件が成立すると同減圧制御に続いて保持制御(増圧弁:閉、減圧弁:閉)を実行する。なお、これら減圧制御実行中、及び保持制御実行中では、増圧弁(常開リニア電磁弁)を閉状態に維持するため、指令電流値Idは上記実差圧相当電流値よりも十分に大きい或る値(一定値)に設定されている。
【0012】
次いで、この装置は、時刻t2になると、所定の増圧制御開始条件が成立するから、時刻t2にて指令電流値Idを所定の或る初期値(一定値)に設定するとともに、時刻t2以降、時刻t4までの間、指令電流値Idを一定の勾配でリニアに減少させていくことでリニア増圧制御(減圧弁:閉)を実行する。
【0013】
この例においては、リニア増圧制御開始時点(時刻t2)での実差圧が比較的小さい値となる「緩制動」がなされているため、時刻t2〜t3の間において指令電流値Idが実差圧相当電流値よりも大きくなる(即ち、指令差圧が実差圧よりも大きくなる)場合が示されている。即ち、時刻t2〜t3の間において常開リニア電磁弁は閉状態に維持されている。
【0014】
従って、この間、ホイールシリンダ圧Pwは一定となっている。そして、時刻t3になると、指令電流値Idが実差圧相当電流値に一致して常開リニア電磁弁が開弁し、時刻t3〜t4の間、ホイールシリンダ圧Pwは指令電流値Idの減少に応じて増大していく。換言すれば、時刻t3〜t4の間、指令電流値Idは実差圧相当電流値に一致し続ける。これにより、この装置は、リニア増圧制御終了時点である時刻t4における実差圧相当電流値Idcを正確に取得することができる。
【0015】
続いて、この装置は、時刻t4にて2回目のABS制御の開始と同時に再び減圧制御を開始・実行する。このとき、この装置は、この減圧制御中においてホイールシリンダ圧Pwの減少により増大した実差圧に相当する電流値(以下、「減圧相当電流値ΔIrdc」と称呼する。)を公知の所定の手法により求める。係る減圧相当電流値ΔIrdcは、例えば、減圧制御継続時間と所定の係数との積として求めることができる。
【0016】
そして、この装置は、この減圧制御に続いて保持制御を実行した後、上記リニア増圧制御開始条件が成立する時刻t5になると、指令電流値Idを、上記「リニア増圧制御終了時点での実差圧相当電流値Idc」に上記「減圧相当電流値ΔIrdc」を加えた値ID(ID=Idc+ΔIrdc)に設定する。ここで、この値IDは、時刻t5(即ち、2回目の制御サイクルにおけるリニア増圧制御開始時点)での実差圧相当電流値と一致する値となっている。
【0017】
従って、時刻t5以降において実行されるリニア増圧制御中に亘って指令電流値Idは、先の時刻t3〜t4の間と同様、実差圧相当電流値に正確に一致し続ける。この結果、3回目以降の制御サイクルにおけるリニア増圧制御開始時点での実差圧相当電流値も、上記値IDと同様にして順次正確に取得していくことができる。
【0018】
このように、この装置は、「緩制動」がなされた場合(より具体的には、リニア増圧制御開始時点での指令電流値Idの値(即ち、上記初期値)が実差圧相当電流値よりも大きくなる場合)、1回目の制御サイクルのリニア増圧制御中における或る時点(時刻t3)以降、同リニア増圧制御の終了時点までの間、指令電流値Idが実差圧相当電流値に一致し続けることを利用して同リニア増圧制御の終了時点(即ち、1回目のリニア増圧制御終了時点)での実差圧相当電流値を正確に取得し、この値に基づいて2回目以降の制御サイクルにおけるリニア増圧制御開始時点での実差圧相当電流値を正確に取得することができる。
【0019】
しかしながら、このように「緩制動」がなされた場合、上述したように、上記リニア増圧制御中において、指令電流値Idが実差圧相当電流値よりも大きい(即ち、指令差圧が実差圧よりも大きい)ことで常開リニア電磁弁が閉状態に維持される期間(即ち、ホイールシリンダ圧Pwが保持される期間)が発生する場合がある(図13の時刻t2〜t3を参照)。換言すれば、係る期間だけホイールシリンダ圧Pwの増圧開始が遅れる場合があるという問題が発生し得る。
【0020】
一方、図14は、1回目のABS制御開始条件が成立した後(時刻t1以降)も比較的長い時間に亘ってブレーキ操作力(従って、マスタシリンダ圧Pm)が増大していくことでリニア増圧制御開始時点(時刻t2)での実差圧が比較的大きい値となっている場合(以下、このような制動状態を「急制動」と称呼する。)における、図13に対応するタイムチャートである。なお、図14における時刻t1,t2,t3’,t4’,t5’はそれぞれ、図13における時刻t1,t2,t3,t4,t5に対応している。
【0021】
この図14に示した例では、1回目リニア増圧制御開始時点(時刻t2)での実差圧が比較的大きい値となる「急制動」がなされているため、時刻t2において指令電流値Id(即ち、上記初期値)が実差圧相当電流値よりも十分に小さくなる(即ち、指令差圧が実差圧よりも十分に小さくなる)場合が示されている。
【0022】
この場合、時刻t2以降、常開リニア電磁弁が開状態に維持されて実差圧が指令電流値Idに応じた指令差圧に向けて急激に減少していく(即ち、実差圧相当電流値が指令電流値Idに向けて急激に減少していく)。これにより、ホイールシリンダ圧Pwが急激に増大していく。
【0023】
そして、実差圧相当電流値が指令電流値Idと一致する時刻t3’になると、上述した「ホイールシリンダ圧Pwの急激な増大」が終了し、時刻t3’以降、リニア増圧制御終了時点である時刻t4’までの間、ホイールシリンダ圧Pwは、図13の時刻t3〜t4と同様に指令電流値Idの減少に応じて増大していく。換言すれば、時刻t3’〜t4’の間、指令電流値Idは実差圧相当電流値に一致し続ける。これにより、この装置は、1回目のリニア増圧制御終了時点(時刻t4’)における実差圧相当電流値Idc(従って、2回目のリニア増圧制御開始時点(時刻t5’)における実差圧相当電流値ID)を正確に取得することができる。
【0024】
このように、この装置は、「急制動」がなされた場合(より具体的には、リニア増圧制御開始時点での指令電流値Idの値(即ち、上記初期値)が実差圧相当電流値よりも小さくなる場合)であっても、1回目の制御サイクルのリニア増圧制御中における或る時点(時刻t3’)以降、同リニア増圧制御の終了時点までの間、指令電流値Idが実差圧相当電流値に一致し続けることを利用して同リニア増圧制御の終了時点(即ち、1回目のリニア増圧制御終了時点)での実差圧相当電流値を正確に取得し、この値に基づいて2回目以降の制御サイクルにおけるリニア増圧制御開始時点での実差圧相当電流値を正確に取得することができる。
【0025】
しかしながら、このように「急制動」がなされた場合、上述したように、上記リニア増圧制御中において、指令電流値Idが実差圧相当電流値よりも十分に小さい(即ち、指令差圧が実差圧よりも十分に小さい)ことに起因して比較的長い期間に亘ってホイールシリンダ圧Pwが急激に増大していく場合がある(図14の時刻t2〜t3’を参照)という問題が発生し得る。
【0026】
以上のことから、上記特許文献1に記載のブレーキ液圧制御装置においては、「緩制動」がなされた場合、リニア増圧制御中においてホイールシリンダ圧の増圧開始が遅れる場合があり、「急制動」がなされた場合、リニア増圧制御中においてホイールシリンダ圧が比較的長い期間に亘って急激に増大していく場合があるという問題がある。
【発明の開示】
【0027】
本発明は上記問題に対処するためになされたものであって、その目的は、増圧弁としてリニア電磁弁を使用してリニア増圧制御を行うABS制御を実行する車両のブレーキ液圧制御装置において、「緩制動」がなされた場合での「ホイールシリンダ圧の増圧開始の遅れ」と、「急制動」がなされた場合での「ホイールシリンダ圧の比較的長い期間に亘る急激な増大」を共に抑制し得るものを提供することにある。
【0028】
本発明に係る車両のブレーキ液圧制御装置は、リニア電磁弁である上記増圧弁と、通電電流値に応じて少なくとも開閉可能な電磁弁である上記減圧弁とを備えた制御ユニットに適用され、所定のABS制御開始条件が成立することに応答して開始されるABS制御であって、前記増圧弁への通電電流値と前記減圧弁への通電電流値を制御することで少なくとも前記ホイールシリンダ圧を減少せしめる減圧制御が実行された後に、前記減圧弁への通電電流値を制御して同減圧弁を閉状態に維持したまま前記増圧弁への通電電流値を一定の勾配でリニアに減少又は増加する基本パターンをもって変化させることで前記ホイールシリンダ圧を増大せしめるリニア増圧制御が次にABS制御開始条件が成立するまで実行されるABS制御、を連続的に複数回実行可能なアンチスキッド制御手段を備えている。
【0029】
本発明に係るブレーキ液圧制御装置の特徴は、前記アンチスキッド制御手段が、所定回目の前記ABS制御の前記リニア増圧制御中において、所定の期間だけ前記増圧弁への通電電流値を前記基本パターンに対応する電流値に代えて同増圧弁を閉状態に維持せしめるための電流値に設定して、同所定の期間だけ前記ホイールシリンダ圧を保持せしめる保持制御を実行するように構成されたことにある。
【0030】
ここにおいて、「所定回目のABS制御」として、上記実差圧相当電流値が正確に取得できていない状態で開始されるABS制御が使用される。一般に、1回目のABS制御におけるリニア増圧制御開始時点では上記実差圧相当電流値が正確に取得できていない。従って、「所定回目のABS制御」として「1回目のABS制御」が使用されることが好ましい。
【0031】
また、前記増圧弁は、常開リニア電磁弁(通電電流値が「0」のときに開状態となるリニア電磁弁)であっても常閉リニア電磁弁(通電電流値が「0」のときに閉状態となるリニア電磁弁)であってもよいが、通常において増圧弁は開状態に維持されることを鑑みれば、増圧弁は常開リニア電磁弁であることが消費エネルギーの低減、耐久性の向上等を達成する上で好ましい。前記増圧弁として常開リニア電磁弁が採用される場合、上記基本パターンとして通電電流値が一定の勾配でリニアに減少するパターンが使用され、前記増圧弁として常閉リニア電磁弁が採用される場合、上記基本パターンとして通電電流値が一定の勾配でリニアに増加するパターンが使用される。
【0032】
また、前記減圧弁は、(常閉)電磁開閉弁(通電電流値に応じて選択的に開状態と閉状態の何れかになる電磁弁)であっても(常閉)リニア電磁弁であってもよい。また、前記ABS制御においては、減圧制御とリニア増圧制御の間に保持制御が実行されてもよい。また、前記ABS制御においては、ABS制御開始条件が成立することに応答して、初めに減圧制御が実行されてもよいし、初めに保持制御が実行されてもよい。更には、各制御サイクルの開始条件である前記ABS制御開始条件は、毎回同じ条件であってもよいし、制御サイクル毎に異ならせてもよい。
【0033】
これによれば、実差圧相当電流値が正確に取得できていない段階でのABS制御である所定回目の(一般には、1回目の)ABS制御のリニア増圧制御中において、所定の期間だけ保持制御が実行される。ここで、所定回目のABS制御のリニア増圧制御開始時点での通電電流値が、「緩制動」がなされた場合における同時点での実差圧相当電流値よりも小さい値に設定される場合を考える。
【0034】
この場合、「緩制動」、「急制動」の何れがなされる場合であっても、上記リニア増圧制御開始時点での通電電流値が同時点での実差圧相当電流値よりも小さくなる。従って、「急制動」がなされた場合のみならず「緩制動」がなされた場合であっても、ホイールシリンダ圧は上記リニア増圧制御開始時点以降、直ちに増大し得る。換言すれば、「緩制動」がなされた場合での上述した「ホイールシリンダ圧の増圧開始の遅れ」の発生を防止できる。
【0035】
加えて、この場合、所定回目のABS制御のリニア増圧制御中において実差圧相当電流値が(上記基本パターンをもって一定の勾配をもってリニアに減少又は増加していく)通電電流値と一致するまでの間に上記保持制御が実行されるものとすると、ホイールシリンダ圧は、同保持制御が開始されるまでの間は上述のごとく急激に増大し得るものの、その後、同保持制御が実行される上記所定の期間だけ保持される。そして、保持制御が終了すると、ホイールシリンダ圧は(実差圧相当電流値が通電電流値と一致するまでの間)再び、急激に増大し得る。
【0036】
このことは、「急制動」がなされた場合において、所定回目のABS制御のリニア増圧制御中におけるホイールシリンダ圧の平均的な増加勾配が、上記保持制御が実行されない場合(例えば、図14の時刻t2〜t3’を参照)に比して小さくなることを意味する。換言すれば、「急制動」がなされた場合での上述した「ホイールシリンダ圧の比較的長い期間に亘る急激な増大」が防止され得る。
【0037】
以上のことから、所定回目のABS制御のリニア増圧制御中における上記保持制御の実行により、同リニア増圧制御開始時点での通電電流値を「緩制動」がなされた場合における同時点での実差圧相当電流値よりも小さい値に設定すれば、「緩制動」がなされた場合での「ホイールシリンダ圧の増圧開始の遅れ」と、「急制動」がなされた場合での「ホイールシリンダ圧の比較的長い期間に亘る急激な増大」を共に抑制することができる。
【0038】
上記本発明に係るブレーキ液圧制御装置においては、前記アンチスキッド制御手段は、前記所定回目のABS制御における前記リニア増圧制御の開始時点での前記増圧弁への通電電流値を、前記所定回目のABS制御における前記減圧制御による前記ホイールシリンダ圧の減少により増大した前記差圧に相当する電流値(即ち、上記減圧相当電流値)に設定するように構成されることが好適である。
【0039】
一般に、リニア増圧制御実行前に実行される減圧制御による減圧相当電流値は、「緩制動」がなされた場合における同リニア増圧制御開始時点での実差圧相当電流値よりも小さい値となる。従って、上記構成によれば、リニア増圧制御開始時点での通電電流値を、「緩制動」がなされた場合における同時点での実差圧相当電流値よりも小さい値に確実に設定することができる。
【0040】
また、上記本発明に係るブレーキ液圧制御装置においては、前記アンチスキッド制御手段は、前記所定回目のABS制御の前記リニア増圧制御中において、前記保持制御実行中における前記増圧弁への通電電流値を、前記基本パターンに対応する電流値に一定値を加算又は減算した電流値に設定するように構成されることが好適である。
【0041】
ここにおいて、前記増圧弁として常開リニア電磁弁が採用される場合、前記保持制御実行中における前記増圧弁への通電電流値は、前記基本パターンに対応する電流値に一定値を加算した電流値に設定され、前記増圧弁として常閉リニア電磁弁が採用される場合、前記保持制御実行中における前記増圧弁への通電電流値は、前記基本パターンに対応する電流値に一定値を減算した電流値に設定される。
【0042】
これによれば、増圧弁であるリニア電磁弁への通電電流値を基本パターンから簡易なパターンで変化させることで、所定回目のABS制御のリニア増圧制御中において上記保持制御を実行することができる。
【0043】
また、上記本発明に係るブレーキ液圧制御装置においては、前記アンチスキッド制御手段は、前記所定回目のABS制御の前記リニア増圧制御中において、前記保持制御を周期的に実行するように構成されることが好適である。
【0044】
これによると、所定回目のABS制御のリニア増圧制御中において、増圧制御と保持制御とが交互に、且つ周期的に実行されていくことになる。従って、所定回目のABS制御のリニア増圧制御中におけるホイールシリンダ圧の平均的な増加勾配を同リニア増圧制御中に亘ってより均一にすることができ、この結果、所定回目のABS制御においてより安定した滑らかな増圧制御が達成され得る。
【0045】
このように、所定回目のABS制御のリニア増圧制御中において保持制御が周期的に実行される場合、上記本発明に係るブレーキ液圧制御装置は、前記所定回目のABS制御の前記リニア増圧制御中において同ABS制御の対象となっている車輪のスリップ量が増大していく程度を示す値を取得するとともに、同車輪のスリップ量が増大していく程度を示す値に応じて前記保持制御が実行される前記所定の期間の長さを変更する保持制御時間変更手段を更に備えることが好適である。
【0046】
ここにおいて、前記車輪のスリップ量が増大していく程度を示す値は、例えば、所定回目のABS制御のリニア増圧制御中において周期的に実行される各増圧制御のそれぞれの開始時点での上記「ABS制御の対象となっている車輪」のスリップ量が増大していく程度であり、より具体的には、今回の増圧制御開始時点での同車輪のスリップ量と前回(一回前)の増圧制御開始時点での同車輪のスリップ量の差等であって、これに限定されない。
【0047】
一般に、ABS制御の(リニア)増圧制御中におけるホイールシリンダ圧の増加勾配には所定の最適値が存在する。ここで、上記所定回目のABS制御のリニア増圧制御中におけるホイールシリンダ圧の(平均的な)増加勾配は、周期的に実行される上記各保持制御が実行される所定の期間の長さを変更することで調整され得る。
【0048】
他方、一般に、ABS制御の(リニア)増圧制御中におけるホイールシリンダ圧の増加勾配が大きくなるほど、同増圧制御中における「ABS制御の対象となっている車輪」のスリップ量が増大していく程度が大きくなる。換言すれば、ABS制御のリニア増圧制御中において上記車輪のスリップ量が増大していく程度を示す値は、ホイールシリンダ圧の増加勾配を精度良く表す値となり得る。
【0049】
以上のことから、上記のように、車輪のスリップ量が増大していく程度を示す値に応じて周期的に実行される各保持制御が実行される所定の期間の長さを変更するように構成すれば、例えば、車輪のスリップ量が増大していく程度が大きい場合(即ち、ホイールシリンダ圧の増加勾配が大きい場合)、上記所定の期間をより長くすることで同ホイールシリンダ圧の増加勾配を所定の最適値に一致させる(或いは、近づける)ことができる。この結果、所定回目のABS制御において最適なホイールシリンダ圧の増加勾配に基づく最適なリニア増圧制御を実行することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
以下、本発明による車両のブレーキ液圧制御装置の実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明の実施形態に係るブレーキ液圧制御装置を含む車両の運動制御装置10を搭載した車両の概略構成を示している。この車両は、非駆動輪(従動輪)である前2輪(左前輪FL及び右前輪FR)と、駆動輪である後2輪(左後輪RL及び右後輪RR)を備えた後輪駆動(FR)方式の4輪車両である。
【0051】
この車両の運動制御装置10は、各車輪にブレーキ液圧によるブレーキ力を発生させるためのブレーキ液圧制御部30を含んでいて、ブレーキ液圧制御部30は、その概略構成を表す図2に示すように、ブレーキペダルBPの操作力に応じたブレーキ液圧を発生するブレーキ液圧発生部32と、各車輪FR,FL,RR,RLにそれぞれ配置されたホイールシリンダWfr,Wfl,Wrr,Wrlに供給するブレーキ液圧をそれぞれ調整可能なFRブレーキ液圧調整部33,FLブレーキ液圧調整部34,RRブレーキ液圧調整部35,RLブレーキ液圧調整部36と、還流ブレーキ液供給部37とを含んで構成されている。
【0052】
ブレーキ液圧発生部32は、ブレーキペダルBPの作動により応動するバキュームブースタVBと、同バキュームブースタVBに連結されたマスタシリンダMCとから構成されている。バキュームブースタVBは、図示しないエンジンの吸気管内の空気圧力(負圧)を利用してブレーキペダルBPの操作力を所定の割合で助勢し同助勢された操作力をマスタシリンダMCに伝達するようになっている。
【0053】
マスタシリンダMCは、第1ポート、及び第2ポートからなる2系統の出力ポートを有していて、リザーバRSからのブレーキ液の供給を受けて、前記助勢された操作力に応じた第1マスタシリンダ液圧を第1ポートから発生するようになっているとともに、同第1マスタシリンダ圧と略同一の液圧である前記助勢された操作力に応じた第2マスタシリンダ圧を第2ポートから発生するようになっている。これらマスタシリンダMC及びバキュームブースタVBの構成及び作動は周知であるので、ここではそれらの詳細な説明を省略する。このようにして、マスタシリンダMC及びバキュームブースタVB(ブレーキ液圧発生手段)は、ブレーキペダルBPの操作力に応じた第1マスタシリンダ圧及び第2マスタシリンダ圧をそれぞれ発生するようになっている。
【0054】
マスタシリンダMCの第1ポートは、FRブレーキ液圧調整部33の上流側及びFLブレーキ液圧調整部34の上流側の各々と接続されている。同様に、マスタシリンダMCの第2ポートは、RRブレーキ液圧調整部35の上流側及びRLブレーキ液圧調整部36の上流側の各々と接続されている。これにより、FRブレーキ液圧調整部33の上流部及びFLブレーキ液圧調整部34の上流部の各々には、第1マスタシリンダ圧が供給されるとともに、RRブレーキ液圧調整部35の上流部及びRLブレーキ液圧調整部36の上流部の各々には、第2マスタシリンダ圧が供給されるようになっている。
【0055】
FRブレーキ液圧調整部33は、常開リニア電磁弁である増圧弁PUfrと、2ポート2位置切換型の常閉電磁開閉弁である減圧弁PDfrとから構成されている。減圧弁PDfrは、図2に示す閉状態(非励磁(OFF)に対応する状態)にあるときホイールシリンダWfrとリザーバRSfとの連通を遮断するとともに、開状態(励磁(ON)に対応する状態)にあるときホイールシリンダWfrとリザーバRSfとを連通するようになっている。
【0056】
増圧弁PUfrの弁体には、図示しないコイルスプリングからの付勢力に基づく開方向の力が常時作用しているとともに、マスタシリンダ圧とホイールシリンダ圧の間の差圧(以下、単に「実差圧」と云うこともある。)に基づく開方向の力と、増圧弁PUfrへの通電電流値(従って、指令電流値Id)に応じて比例的に増加する吸引力に基づく閉方向の力が作用するようになっている。
【0057】
この結果、図3に示したように、上記吸引力に相当する指令差圧ΔPdが指令電流値Idに応じて比例的に増加するように決定される。ここで、I0はコイルスプリングの付勢力に相当する電流値である。そして、増圧弁PUfrは、係る指令差圧ΔPdが上記実差圧よりも大きいとき(即ち、指令電流値Idが前記実差圧相当電流値よりも大きいとき)に閉弁してFRブレーキ液圧調整部33の上流部とホイールシリンダWfrとの連通を遮断する。一方、増圧弁PUfrは、指令差圧ΔPdが同実差圧よりも小さいとき(即ち、指令電流値Idが実差圧相当電流値よりも小さいとき)に開弁してFRブレーキ液圧調整部33の上流部とホイールシリンダWfrとを連通する。この結果、FRブレーキ液圧調整部33の上流部のブレーキ液がホイールシリンダWfr内に流入することで上記実差圧が指令差圧ΔPdに一致するように調整され得るようになっている。
【0058】
換言すれば、増圧弁PUfrへの指令電流値Idに応じて上記実差圧(の許容最大値)が制御され得るようになっている。また、増圧弁PUfrを非励磁状態にすると(即ち、指令電流値Idを「0」に設定すると)、増圧弁PUfrはコイルスプリングの付勢力により開状態を維持するようになっている。更には、指令電流値Idを上記実差圧として発生し得る差圧より十分に大きい指令差圧ΔPdに相当する値(例えば、閉弁維持電流値Ihold(図3を参照)、或いは後述する電流値「Idbase+Iadd」)に設定することにより、増圧弁PUfrは閉状態を維持するようになっている。
【0059】
これにより、減圧弁PDfrを閉状態として増圧弁PUfrへの指令電流値Idを現時点での実差圧相当電流値から徐々に小さくしていくと、実差圧が徐々に減少していき、この結果、ホイールシリンダWfr内のブレーキ液圧(ホイールシリンダ圧)は滑らかに増大していく。この場合における作動をリニア増圧モードにおける作動と称呼する。
【0060】
また、増圧弁PUfrを閉状態に維持するとともに減圧弁PDfrを閉状態とすると、ホイールシリンダ圧はFRブレーキ液圧調整部33の上流部の液圧に拘わらず現時点での液圧に保持される。この場合における作動を保持モードにおける作動と称呼する。更には、増圧弁PUfrを閉状態に維持するとともに減圧弁PDfrを開状態とすると、ホイールシリンダWfr内のブレーキ液がリザーバRSfに還流されることによりホイールシリンダ圧は減圧される。この場合における作動を減圧モードにおける作動と称呼する。
【0061】
このように、ホイールシリンダWfr内のブレーキ液圧(ホイールシリンダ圧)は、原則的には、リニア増圧モード、保持モード、及び減圧モードという3種類の制御モードに応じてリニア増圧制御・保持制御・減圧制御されるようになっている。なお、後述するように、リニア増圧制御実行中に増圧制御及び保持制御が交互に、且つ周期的に実行される「保持期間付リニア増圧制御」が実行される場合もある。
【0062】
加えて、増圧弁PUfrにはブレーキ液のホイールシリンダWfr側からFRブレーキ液圧調整部33の上流部への一方向の流れのみを許容するチェック弁CV1が並列に配設されていて、これにより、操作されているブレーキペダルBPが開放されたときホイールシリンダWfr内のブレーキ液圧が迅速に減圧されるようになっている。
【0063】
同様に、FLブレーキ液圧調整部34,RRブレーキ液圧調整部35、RLブレーキ液圧調整部36は、それぞれ、増圧弁PUfl及び減圧弁PDfl,増圧弁PUrr及び減圧弁PDrr,増圧弁PUrl及び減圧弁PDrlから構成されており、これらの各増圧弁(常開リニア電磁弁)及び各減圧弁(常閉電磁開閉弁)が制御されることにより、ホイールシリンダWfl,ホイールシリンダWrr及びホイールシリンダWrl内のブレーキ液圧をそれぞれリニア増圧制御(保持期間付リニア増圧制御を含む)、保持制御、減圧制御できるようになっている。また、増圧弁PUfl,PUrr及びPUrlの各々にも、上記チェック弁CV1と同様の機能を達成し得るチェック弁CV2,CV3及びCV4がそれぞれ並列に配設されている。
【0064】
還流ブレーキ液供給部37は、直流モータMTと、同モータMTにより同時に駆動される2つの液圧ポンプHPf,HPrを含んでいる。液圧ポンプHPfは、減圧弁PDfr,PDflから還流されてきたリザーバRSf内のブレーキ液をチェック弁CV7を介して汲み上げ、同汲み上げたブレーキ液をチェック弁CV8,CV9を介してFRブレーキ液圧調整部33及びFLブレーキ液圧調整部34の上流部に供給するようになっている。
【0065】
同様に、液圧ポンプHPrは、減圧弁PDrr,PDrlから還流されてきたリザーバRSr内のブレーキ液をチェック弁CV10を介して汲み上げ、同汲み上げたブレーキ液をチェック弁CV11,CV12を介してRRブレーキ液圧調整部35及びRLブレーキ液圧調整部36の上流部に供給するようになっている。なお、液圧ポンプHPf,HPrの吐出圧の脈動を低減するため、チェック弁CV8及びCV9の間の液圧回路、及びチェック弁CV11及びCV12の間の液圧回路には、それぞれ、ダンパDMf,DMrが配設されている。
【0066】
モータMT(従って、液圧ポンプHPf,HPr)は、原則的に、減圧弁PDfr,PDfl,PDrr,PDrlの少なくとも1つが開状態となっている間(従って、少なくとも1つの車輪について減圧モードが選択されている間)のみ、所定の回転速度で駆動せしめられるようになっている。
【0067】
以上、説明した構成により、ブレーキ液圧制御部30は、全ての電磁弁が非励磁状態にあるときブレーキペダルBPの操作力に応じたブレーキ液圧(即ち、マスタシリンダ圧)を各ホイールシリンダに供給できるようになっている。また、この状態において、例えば、増圧弁PUrr及び減圧弁PDrrをそれぞれ制御することにより、ホイールシリンダWrr内のブレーキ液圧のみを(第2)マスタシリンダ圧から所定量だけ減圧することができるようになっている。即ち、ブレーキ液圧制御部30は、各車輪のホイールシリンダ圧をそれぞれ独立してマスタシリンダ圧から減圧できるようになっている。
【0068】
再び、図1を参照すると、この車両の運動制御装置10は、対応する車輪が所定角度回転する毎にパルスを有する信号を出力する車輪速度センサ41FL,41FR,41RL,41RRと、ブレーキペダルBPの操作の有無に応じてオン状態(High信号)又はオフ信号(Low信号)になる信号を出力するブレーキスイッチ42と、電気制御装置50とを備えている。
【0069】
電気制御装置50は、互いにバスで接続された、CPU51、CPU51が実行するルーチン(プログラム)、テーブル(ルックアップテーブル、マップ)、定数等を予め記憶したROM52、CPU51が必要に応じてデータを一時的に格納するRAM53、電源が投入された状態でデータを格納するとともに同格納したデータを電源が遮断されている間も保持するバックアップRAM54、及びADコンバータを含むインターフェース55等からなるマイクロコンピュータである。
【0070】
インターフェース55は、前記車輪速度センサ41**、及びブレーキスイッチ42と接続され、CPU51に車輪速度センサ41**、及びブレーキスイッチ42からの信号を供給するとともに、同CPU51の指示に応じて、ブレーキ液圧制御部30の電磁弁(増圧弁PU**、及び減圧弁PD**)、及びモータMTに駆動信号を送出するようになっている。
【0071】
なお、各種変数等の末尾に付された「**」は、同各種変数等が各車輪FR等のいずれに関するものであるかを示すために同各種変数等の末尾に付される「fl」,「fr」等の包括表記であって、例えば、増圧弁PU**は、左前輪用増圧弁PUfl,
右前輪用増圧弁PUfr, 左後輪用増圧弁PUrl, 右後輪用増圧弁PUrrを包括的に示している。
【0072】
これにより、上述した増圧弁PU**への指令電流値Id**(通電電流値)は、CPU51により制御される。具体的には、CPU51は、図4に示すように、一サイクル時間Tcycle**に対する増圧弁PU**への通電時間Ton**の割合(即ち、デューティ比Ratioduty**=(Ton**
/ Tcycle**))を調整することで平均(実効)電流(=指令電流値Id**)を調整するようになっている。この結果、デューティ比Ratioduty**を車輪毎に個別に調整すること(即ち、デューティ制御)により指令電流値Id**が車輪毎に個別にリニアに可変制御され得るようになっている。
【0073】
そして、以上説明したブレーキ液圧制御部30(CPU51)は、運転者によるブレーキペダルBPの操作により発生する車輪のスリップが過度にならないようにABS制御を実行するようになっている。ABS制御は、車輪が過度のスリップ傾向(ロック傾向)にあるとき、同車輪のホイールシリンダ圧を減圧・保持・(リニア)増圧制御することで同車輪のホイールシリンダ圧をマスタシリンダ圧から適宜減圧せしめる制御である。
【0074】
(ABS制御の概要)
次に、上記本発明の実施形態に係るブレーキ液圧制御装置を含む車両の運動制御装置10(以下、「本装置」と云うこともある。)による、ABS制御の概要について説明する。本装置は、所定のABS制御開始条件が成立することに応答してABS制御を開始する。このABS制御では、原則的に、ABS制御開始条件の成立と同時に上記減圧制御が開始・実行され、同減圧制御中において所定の保持制御開始条件が成立すると同減圧制御に続いて上記保持制御が開始・実行されるとともに、同保持制御中において所定の増圧制御開始条件が成立すると同保持制御に続いて上記リニア増圧制御が実行される。
【0075】
そして、今回のABS制御中におけるリニア増圧制御中にて上記ABS制御開始条件が再び成立すると、同リニア増圧制御を終了するとともに次回のABS制御が連続的に開始される。即ち、ABS制御開始条件が成立する時点から次にABS制御開始条件が成立する時点までの期間を一制御サイクルとすると、本装置は、所定のABS制御終了条件が成立するまでの間、原則的に、減圧制御・保持制御・リニア増圧制御を一組とするABS制御を、複数回の制御サイクルに亘って連続的に複数回実行する。
【0076】
他方、本装置は、実差圧相当電流値が正確に取得できていない状態で開始される1回目のABS制御に限り、リニア増圧制御に代えて後述する「保持期間付リニア増圧制御」を実行する。以下、図5〜図7を参照しながら本装置によるABS制御についてより具体的に説明していく。
【0077】
図5、及び図6は、運転者が時刻t1以前の或る時点から「急制動」を行ったことで本装置によりABS制御が実行された場合における、(推定)車体速度Vso、車輪速度Vw、マスタシリンダ圧Pm、ホイールシリンダ圧Pw、及びリニア電磁弁である増圧弁PU**への指令電流値Id(即ち、通電電流値)の変化の一例を示した一連のタイムチャートの前半部、及び後半部である。
【0078】
即ち、マスタシリンダ圧Pmが、「急制動」開始時点から急激に上昇を開始し、時刻t1にて1回目のABS制御開始条件が成立した後も比較的長期間に亘って上昇し続けるとともに、その後、一定値に維持される場合が示されている。
【0079】
この場合、図5に示したように、時刻t1以前ではABS制御が実行されていないからホイールシリンダ圧Pwはマスタシリンダ圧Pmと等しい値となる。時刻t1になると、ABS制御開始条件が成立するから、本装置は、減圧制御(増圧弁PU**:閉(指令電流:Ihold)、減圧弁PD**:開)を開始する。この結果、1回目の制御サイクルが開始されるとともに、ホイールシリンダ圧Pwは減少を開始する。ABS制御開始条件は、本例では、「SLIP**
> SLIPref、且つ、|DVw**|>DVwref」である。
【0080】
ここで、SLIP**は車輪**についてのスリップ量であって、スリップ量SLIP**は下記(1)式により表される。(1)式において、Vsoは推定車体速度であって、本例では各車輪の車輪速度Vw**のうちの最大値である。DVw**は車輪**についての車輪加速度(即ち、車輪速度Vw**の時間微分値)である。SLIPref、DVwrefはそれぞれ所定の定数である。
【0081】
SLIP**=Vso−Vw** ・・・(1)
【0082】
続いて、時刻t2になると保持制御開始条件が成立するから、本装置は減圧制御に続いて保持制御(増圧弁PU**:閉(指令電流:Ihold)、減圧弁PD**:閉)を開始する。この結果、ホイールシリンダ圧Pwは時刻t2以降、一定値に維持される。保持制御開始条件は、本例では、「DVw**が負から正に変化すること」である。
【0083】
次いで、時刻t3になると増圧制御開始条件が成立するから、本装置は、上述したように、本制御サイクルに限り、リニア増圧制御に代えて「保持期間付リニア増圧制御」を実行する。増圧制御開始条件は、本例では、「SLIP** < SLIPref1」である。SLIPref1は所定の定数である。以下、「保持期間付リニア増圧制御」について説明する。
【0084】
先ず、本装置は、下記(2)式に従って、上記減圧制御中(時刻t1〜t2)においてホイールシリンダ圧Pwの減少により増大した実差圧に相当する電流値(以下、「減圧相当電流値ΔIrdc」と称呼する。)を求める。下記(2)式において、Trdcは減圧制御の継続時間(この場合、時刻t1から時刻t2までの時間)であり、Krdcは所定の係数である。なお、ΔIrdcを所定の一定値に設定してもよい。
【0085】
ここで、この減圧相当電流値ΔIrdcは、「急制動」がなされた場合のみならず「緩制動」がなされた場合であっても保持期間付リニア増圧制御が開始される時点(この場合、時刻t3)での実差圧相当電流値よりも小さい値となる。換言すれば、図5、及び図6に示すように「急制動」がなされた場合、減圧相当電流値ΔIrdcは、保持期間付リニア増圧制御が開始される時点での実差圧相当電流値よりも十分に小さい値となる。
【0086】
ΔIrdc=Krdc・Trdc ・・・(2)
【0087】
また、本装置は、「指令電流値Idの初期値I0(時刻t3での値)を上記求めた減圧相当電流値ΔIrdcとし、以降、時間の経過に従って一定の勾配で同指令電流値Idがリニアに減少する」指令電流値Idの基本パターンを設定する。なお、上記「一定の勾配」は、ホイールシリンダ圧Pwの最適な増加勾配に対応する値に設定される。以降、係る基本パターンに対応する電流値を「基本電流値Idbase」と称呼する。
【0088】
そして、本装置は、減圧弁PD**を閉状態に維持したまま、先ず、時刻t3以降、所定の増圧時間TAに亘って指令電流値Idを上記基本パターンに沿って(即ち、上記基本電流値Idbaseそのものに)設定・変更していく。ここで、上述したように、上記減圧相当電流値ΔIrdc(=指令電流値Idの初期値I0)は、時刻t3での実差圧相当電流値よりも十分に小さい。加えて、上記増圧時間TAの継続中では、指令電流値Idが徐々に減少していく。従って、ホイールシリンダ圧Pwは上記増圧時間TAの継続中では、必ず増大していく。この増圧時間TAの継続中におけるホイールシリンダ圧Pwの増大については後に詳述する。
【0089】
続いて、本装置は、減圧弁PD**を閉状態に維持したまま、所定の保持時間TBに亘って指令電流値Idを上記基本電流値IdBaseに所定の加算値Iaddを加えた値「Idbase+Iadd」に設定・変更していく。ここで、上記加算値Iaddは、ABS制御中(特に、リニア増圧制御開始時点)での実差圧の想定され得る最大値に対応する実差圧相当電流値に設定されている。換言すれば、指令電流Idが「Idbase+Iadd」に設定される保持時間TBの継続中では、指令電流Idが実差圧相当電流値よりも必ず大きくなるから増圧弁PU**が閉状態に維持される。即ち、値「Idbase+Iadd」は、「増圧弁を閉状態に維持せしめるための電流値」に相当する。
【0090】
この結果、保持時間TBの継続中では、保持制御が実行されることになるから、ホイールシリンダ圧Pwは同保持時間TBの継続中では一定値に保持される。ここで、増圧時間TAと保持時間TBの和である時間TC(=TA+TB)を一周期とする、係る増圧制御と保持制御とが交互に実行される制御を「周期制御」と呼ぶことにする。
【0091】
本装置は、係る周期制御を、先のABS制御開始条件が再び成立するまで(従って、2回目の制御サイクルが開始されるまで)の間、連続的に繰り返し実行する。図5に示した例では、本装置は、時刻t3から一パルス周期TCが経過した時刻t4にて2回目の周期制御を開始する。更に、本装置は、時刻t4から一パルス周期TCが経過した時刻t5にて3回目の周期制御を開始する。
【0092】
そして、係る3回目の周期制御の増圧時間TAが経過する前の時点である時刻t6になると、再び上記ABS制御開始条件が成立するから、本装置は、実行中である3回目の周期制御を中止する(即ち、「保持期間付リニア増圧制御」を中止する)。
【0093】
以下、増圧時間TA(図5の例では、3回の増圧時間TAのそれぞれ)の継続中におけるホイールシリンダ圧Pwの増大について説明する。上述したように、「保持期間付リニア増圧制御」の開始時点(時刻t3)での指令電流値Idは、同時点での実差圧相当電流値よりも十分に小さい。従って、「保持期間付リニア増圧制御」中における増圧制御実行中(増圧時間TAの継続中)においては、実差圧相当電流値が上記基本パターンに対応する指令電流値Id(=基本電流値Idbase)と一致するまでの間、ホイールシリンダ圧Pwは急激に増大する。
【0094】
他方、何れかの増圧時間TAの継続中において実差圧相当電流値が基本電流値Idbaseと一致した時点以降は、実差圧相当電流値は指令電流値Id(=基本電流値Idbase)と一致し続け、この結果、ホイールシリンダ圧Pwは最適な増加勾配をもって滑らかに上昇していく。
【0095】
ここで、各増圧時間TAを短めに設定すると、少なくとも、ホイールシリンダ圧Pwの急激な増大が比較的長い期間に亘って発生することが防止され得る。加えて、各保持時間TBの継続中ではホイールシリンダ圧Pwが保持される。このことは、「急制動」がなされた場合において、「保持期間付リニア増圧制御」中におけるホイールシリンダ圧Pwの平均的な増加勾配を小さくすることができることを意味する。即ち、各増圧時間TAを短めに設定するとともに保持時間TBを設けることで、「急制動」がなされた場合での上述した「ホイールシリンダ圧の比較的長い期間に亘る急激な増大」の発生が防止され得る。
【0096】
図5の時刻t6において「保持期間付リニア増圧制御」が中止されると、同時刻t6にて1回目の制御サイクルが終了するとともに2回目の制御サイクル(2回目のABS制御)が開始される。このとき、本装置は、時刻t6での実差圧相当電流値と一致している同時刻t6における指令電流値Idを減圧制御開始時実差圧相当電流値Idcとして記憶しておく。
【0097】
続いて、本装置は、時刻t6から上記保持制御開始条件が成立する時刻t7までの間、減圧制御を実行するとともに、時刻t7において、上記(2)式に従って時刻t6〜t7の間の減圧制御についての減圧相当電流値ΔIrdcを求める。
【0098】
次いで、本装置は、時刻t7から上記増圧制御開始条件が成立する時刻t8までの間、保持制御を再び実行するとともに、時刻t8(即ち、2回目のリニア増圧制御開始時点)にて、指令電流値Idを、上記減圧制御開始時実差圧相当電流値Idcに減圧相当電流値ΔIrdcを加えた値ID(=Idc+ΔIrdc)に設定する。これにより、時刻t8における指令電流値Idは同時点における実差圧相当電流値に一致する。
【0099】
本装置は、時刻t8以降、リニア増圧制御を実行するため、「指令電流値Idの初期値(時刻t8での値)を上記求めた値IDとし、以降、時間の経過に従って上記「一定の勾配」で同指令電流値Idがリニアに減少する」指令電流値Idの基本パターンを設定する。
【0100】
そして、本装置は、減圧弁PD**を閉状態に維持したまま、時刻t8以降、時間の経過に従って指令電流値Idを上記基本パターンに沿って(即ち、上記基本電流値Idbaseそのものに)設定・変更していく。これにより、図5、及び図6に示すように、時刻t8以降、ホイールシリンダ圧Pwは最適な所定の上昇勾配をもって滑らかに上昇していく。即ち、リニア増圧制御が実行される。この間、指令電流値Idは実差圧相当電流値と一致し続ける。
【0101】
そして、時刻t9になると、再び上記ABS制御開始条件が成立するから、本装置は、実行中であるリニア増圧制御を中止する。これにより、2回目の制御サイクルが終了するとともに3回目の制御サイクル(3回目のABS制御)が開始される。係る3回目のABS制御(4回目以降のABS制御についても同様)においても、2回目のABS制御と同様、リニア増圧制御開始時点(時刻t11)にて指令電流値Idを新たに計算された上記値ID(=Idc+ΔIrdc)に設定し、時刻t11以降、上記「新たに計算された値ID」を初期値とする新たに設定された上記基本パターンに沿って指令電流値Idを設定・変更することで、リニア増圧制御を実行していく。
【0102】
このようにして、本装置は、上記ABS制御終了条件が成立しない限りにおいて、実差圧相当電流値が正確に取得できていない状態で開始される1回目のABS制御に限り、減圧制御・保持制御・保持期間付リニア増圧制御を一組とするABS制御を実行し、実差圧相当電流値が正確に取得できた状態で開始される2回目以降のABS制御において、減圧制御・保持制御・リニア増圧制御を一組とするABS制御を繰り返し実行していく。
【0103】
この結果、図5、及び図6に示すように「急制動」がなされた場合、1回目のABS制御の「保持期間付リニア増圧制御」中において、上述した「ホイールシリンダ圧の比較的長い期間に亘る急激な増大」の発生が防止され得る。
【0104】
一方、図7は、運転者が時刻t21以前の或る時点から「緩制動」を行ったことで本装置によりABS制御が実行された場合における、図5に対応するタイムチャートである。図7における時刻t21,t22,t23,t24,t25,t26,t27,t28はそれぞれ、図5における時刻t1,t2,t3,t4,t5,t6,t7,t8に対応している。
【0105】
上述したように、「緩制動」がなされた場合であっても、1回目のABS制御の「保持期間付リニア増圧制御」の開始時点(時刻t23)での指令電流値Id(=I0。即ち、時刻t21〜t22の間の減圧制御についての上記減圧相当電流値ΔIrdc)は、時刻t23での実差圧相当電流値より必ず小さくなる。加えて、増圧時間TAの継続中では、上述のごとく上記基本パターンに沿って指令電流値Idが徐々に減少していく。
【0106】
従って、図7に示したように、ホイールシリンダ圧Pwは、「保持期間付リニア増圧制御」中の1回目の増圧時間TAの開始時点(即ち、「保持期間付リニア増圧制御」の開始時点)である時刻t23から直ちに増大していく。即ち、「保持期間付リニア増圧制御」の開始時点での指令電流値Idを同時点での実差圧相当電流値より必ず小さい上記減圧相当電流値ΔIrdcに設定することで、「緩制動」がなされた場合での上述した「ホイールシリンダ圧の増圧開始の遅れ」の発生が防止され得る。
【0107】
なお、図5に示した「急制動」がなされた場合、「保持期間付リニア増圧制御」中における3回目の「周期制御」の途中(時刻t6)にて2回目のABS制御が開始されているのに対し、図7に示した「緩制動」がなされた場合、「保持期間付リニア増圧制御」中における4回目の「周期制御」の途中(時刻t26)にて2回目のABS制御が開始されている。換言すれば、「緩制動」がなされた場合、「急制動」がなされた場合に比して「保持期間付リニア増圧制御」の継続時間が長くなる。これは、以下の理由に基づく。
【0108】
即ち、「緩制動」がなされた場合、「急制動」がなされた場合に比して、「保持期間付リニア増圧制御」の開始時点での指令電流値Idと同時点での実差圧相当電流値との差が小さくなる。これにより、「保持期間付リニア増圧制御」中の増圧制御実行中(増圧時間TAの継続中)において実差圧相当電流値が指令電流値Id(=基本電流値Idbase)と一致するまでの間にて(急激に増加していく)ホイールシリンダ圧Pwの増加勾配が小さくなる。
【0109】
この結果、実差圧相当電流値が指令電流値Id(=基本電流値Idbase)と一致するまでの間に実行される各増圧制御によるホイールシリンダ圧Pwの各増加量がそれぞれ小さくなる。このことは、「保持期間付リニア増圧制御」中において周期的に実行される上記「周期制御」の回数が多くなることに繋がる。従って、「緩制動」がなされた場合、「急制動」がなされた場合に比して「保持期間付リニア増圧制御」の継続時間が長くなる。
【0110】
以上のように、本装置によるABS制御では、実差圧相当電流値が正確に取得できていない状態で開始される1回目のABS制御にて「保持期間付リニア増圧制御」を実行することで、「急制動」がなされた場合での上述した「ホイールシリンダ圧の比較的長い期間に亘る急激な増大」と、「緩制動」がなされた場合での上述した「ホイールシリンダ圧の増圧開始の遅れ」が共に抑制され得る。以上が、ABS制御の概要である。
【0111】
(保持期間付リニア増圧制御中における保持時間TBの変更)
ABS制御の増圧制御中におけるホイールシリンダ圧Pwの増加勾配には所定の最適値が存在する。ここで、先に述べたように、2回目以降のABS制御において実行されるリニア増圧制御中においては、ホイールシリンダ圧Pwは係る最適な所定の増加勾配をもって滑らかに上昇していくように制御される。
【0112】
一方、1回目のABS制御において実行される「保持期間付リニア増圧制御」中(図5の時刻t3〜t6、図7の時刻t23〜t26を参照)におけるホイールシリンダ圧Pwの平均的な増加勾配は、保持時間TBの長さを変更することで調整できる。
【0113】
他方、「保持期間付リニア増圧制御」中におけるホイールシリンダ圧Pwの平均的な増加勾配が非常に大きくなっていることは、同「保持期間付リニア増圧制御」中における車輪のスリップ量SLIP**が増加していく傾向が大きいことを検出することで検出することができる。
【0114】
そこで、本装置は、「保持期間付リニア増圧制御」中において増圧制御が開始される(従って、周期制御が開始される)それぞれの時点(図5の時刻t3,t4,t5、或いは、図7の時刻t23、t24、t25、t29を参照)での車輪のスリップ量(図5のSLIP(1),SLIP(2),SLIP(3)。図7のSLIP(1),SLIP(2),SLIP(3),SLIP(4)を参照。)を順次取得していく。
【0115】
そして、本装置は、今回取得した増圧制御開始時スリップ量SLIP(k)から前回取得した増圧制御開始時スリップ量SLIP(k-1)を減じた値が所定値ΔSLIPrefよりも大きいとき、「保持期間付リニア増圧制御」中におけるホイールシリンダ圧Pwの増加勾配が非常に大きくなっていると判定し、今回の増圧制御の後に続いて実行される保持制御の保持時間TBを長めに設定する(実際には、今回の周期制御における周期TCを(TC+ΔTC(>0))とする。ΔTCは延長時間。)。以上が、「保持期間付リニア増圧制御」中における保持時間の変更についての概要である。
【0116】
(実際の作動)
次に、以上のように構成された本発明の実施形態に係るブレーキ液圧制御装置を含む車両の運動制御装置10の実際の作動について、電気制御装置50のCPU51が実行するルーチンをフローチャートにより示した図8〜図12を参照しながら説明する。図8〜図12に示した各ルーチンは、車輪毎に実行される。
【0117】
CPU51は、図8に示した車輪速度等の算出を行うルーチンを所定時間の経過毎に繰り返し実行している。従って、所定のタイミングになると、CPU51はステップ800から処理を開始し、ステップ805に進んで、車輪**の車輪速度(車輪**の外周の速度)Vw**を算出する。具体的には、CPU51は車輪速度センサ41**が出力する信号が有するパルスの時間間隔に基づいて車輪速度Vw**を算出する。
【0118】
次いで、CPU51はステップ810に進み、前記車輪速度Vw**のうちの最大値を推定車体速度Vsoとして算出する。なお、車輪速度Vw**の平均値を推定車体速度Vsoとして算出してもよい。次に、CPU51はステップ815に進み、ステップ810にて算出した推定車体速度Vsoの値と、ステップ805にて算出した車輪速度Vw**の値と、上記(1)式とに基づいて車輪**のスリップ量SLIP**を算出する。
【0119】
次いで、CPU51はステップ820に進み、下記(3)式に従って前記車輪速度**の時間微分値としての車輪**の車輪加速度DVw**を算出した後、ステップ895に進んで本ルーチンを一旦終了する。下記(3)式において、Vw1**は前回の本ルーチン実行時におけるステップ805にて算出された車輪速度Vw**であり、Δtは前記所定時間(CPU51の本ルーチンについての実行周期)である。
【0120】
DVw**=(Vw**-Vw1**)/Δt ・・・(3)
【0121】
また、CPU51は、図9に示したASB制御の開始・終了判定を行うルーチンを所定時間の経過毎に繰り返し実行している。従って、所定のタイミングになると、CPU51はステップ900から処理を開始し、ステップ905に進んで、変数CYCLE**の値が「0」であるか否かを判定する。ここで、変数CYCLE**は、車輪**について、その値が「0」のときABS制御が実行されていないことを示し、その値が「1」のとき1回目のABS制御が実行されていることを示し、その値が「2」のとき2回目以降のABS制御が実行されていることを示す。
【0122】
いま、車輪**について、ABS制御が実行されておらず、且つ、ABS制御開始条件が成立していないものとすると、変数CYCLE**の値は「0」になっているから、CPU51はステップ905にて「Yes」と判定してステップ910に進み、車輪**について上記ABS制御開始条件が成立しているか否かを判定する。ここにおいて、SLIP**としては先のステップ815にて算出されている最新値が使用され、DVw**としては先のステップ820にて算出されている最新値が使用される。
【0123】
現時点では、車輪**についてABS制御開始条件は成立していないから、CPU51はステップ910にて「No」と判定してステップ995に直ちに進んで本ルーチンを一旦終了する。以降、CPU51は、ABS制御開始条件が成立しない限りにおいて、ステップ900、905、910の処理を繰り返し実行する。
【0124】
次に、この状態にて、運転者がブレーキペダルBPを操作することにより、車輪**についてABS制御開始条件が成立したものとすると(図5の時刻t1、図7の時刻t21を参照。)、CPU51はステップ910に進んだとき「Yes」と判定してステップ915に進み、変数CYCLE**の値を「0」から「1」に変更し、続くステップ920にて変数Mode**の値を「1」に設定する。ここで、変数Mode**は、車輪**について、その値が「1」のとき減圧制御が実行されていることを示し、その値が「2」のとき保持制御が実行されていることを示し、その値が「3」のとき増圧制御(即ち、「保持期間付リニア増圧制御」、或いはリニア増圧制御)が実行されていることを示す。
【0125】
続いて、CPU51はステップ925に進んで、経過時間Trdc**をリセットした後、ステップ995に進んで本ルーチンを一旦終了する。ここで、経過時間Trdc**は電気制御装置50に内蔵された所定のタイマにより計測される、車輪**について現時点以降において開始される制御サイクル(現時点では1回目の制御サイクル)の開始時点(即ち、減圧制御開始時点。図5の時刻t1、図7の時刻t21を参照。)からの経過時間を表す。
【0126】
以降、CPU51はステップ905に進んだとき「No」と判定してステップ930に進むようになり、同ステップ930にてABS制御終了条件が成立しているか否かをモニタする。ABS制御終了条件は、ブレーキスイッチ42がLow信号を出力しているとき(即ち、運転者がブレーキペダルBPの操作を終了したとき)、或いは、「Mode**=2」となっている状態(即ち、増圧制御の実行)が所定時間Tref以上継続しているときに成立する。
【0127】
現時点はABS制御開始条件が成立した直後であるから、CPU51はステップ930にて「No」と判定する。以降、ステップ930のABS制御終了条件が成立しない限りにおいて、CPU51はステップ900、905、930の処理を繰り返し実行する。この処理を繰り返している間、CPU51は後述する図10〜図12のルーチンの実行により車輪**についてABS制御を1回目の制御サイクルから順に実行する。
【0128】
CPU51は、図10に示した1回目の制御サイクルの実行を行うルーチンを所定時間の経過毎に繰り返し実行している。従って、所定のタイミングになると、CPU51はステップ1000から処理を開始し、ステップ1002に進んで、変数CYCLE**の値が「1」であるか否かを判定し、「No」と判定する場合、ステップ1095に直ちに進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0129】
いま、初めにABS制御開始条件が成立した直後であって、先のステップ915の実行により変数CYCLE**の値が「0」から「1」に変更された直後であるものとすると(図5の時刻t1、図7の時刻t21を参照。)、CPU51はステップ1002にて「Yes」と判定してステップ1004に進み、変数Mode**の値が「1」になっているか否かを判定する。
【0130】
現時点では、先のステップ920の処理により変数Mode**の値は「1」になっているから、CPU51はステップ1004にて「Yes」と判定してステップ1006に進んで、車輪**についての増圧弁PU**への指令電流値Id**を前記閉弁維持電流値Iholdに設定する。続いて、CPU51はステップ1008にて、車輪**についての減圧弁PD**を開状態とするとともに増圧弁PU**への通電電流値が同指令電流値Id(=Ihold)となるように同通電電流値をデューティ制御する。これにより、車輪**について減圧制御が開始・実行される。
【0131】
次いで、CPU51はステップ1010に進んで、車輪**についての車輪加速度DVw**の値が負の値から正の値に変化したか否か(即ち、車輪速度Vw**の値が極小値となったか否か)、即ち、保持制御開始条件が成立したか否かを判定する。DVw**としては先のステップ820にて計算されている最新値が使用される。現時点では、減圧制御が開始された直後であるから車輪速度Vw**の値は極小値とはなっていない。従って、CPU51はステップ1010にて「No」と判定してステップ1095に直ちに進む。以降、車輪**について保持制御開始条件が成立するまでCPU51はステップ1000〜1010の処理を繰り返し実行する。この結果、車輪**について減圧制御が継続される。
【0132】
そして、所定時間が経過して車輪速度Vw**の値が極小値となると(図5の時刻t2、図7の時刻t22を参照。)、CPU51はステップ1010に進んだとき「Yes」と判定してステップ1012に進むようになり、変数Mode**の値を「1」から「2」に変更する。
【0133】
続いて、CPU51はステップ1014に進み、この時点での経過時間Trdc**(現時点では、1回目の制御サイクルにおける減圧制御継続時間)を制御用経過時間Trdcc**として格納するとともに、続くステップ1016にて上記(2)式に相当するステップ1016内に記載の式に従って減圧相当電流値ΔIrdc**を計算し、この値ΔIrdc**を値I0**として格納する。
【0134】
以降、変数Mode**の値が「2」になっているから、CPU51はステップ1004に進んだとき「No」と判定してステップ1018に進むようになる。CPU51はステップ1018に進むと、変数Mode**の値が「2」になっているか否かを判定する。現時点では、変数Mode**の値が「2」になっているからCPU51はステップ1018にて「Yes」と判定してステップ1020に進み、増圧弁PU**への指令電流値Id**を前記閉弁維持電流値Iholdに設定する。
【0135】
続いて、CPU51はステップ1022にて、減圧弁PD**を閉状態とするとともに増圧弁PU**への通電電流値が同指令電流値Id(=Ihold)となるように同通電電流値をデューティ制御する。これにより、車輪**について保持制御が開始・実行される。
【0136】
続いて、CPU51はステップ1024に進んで、車輪**についてのスリップ量SLIP**の値が所定値SLIPref1より小さいか否か、即ち、増圧制御開始条件が成立したか否かを判定する。SLIP**としては先のステップ815にて計算されている最新値が使用される。
【0137】
現時点では、保持制御が開始された直後であるからスリップ量SLIP**の値はSLIPref1よりも大きい値となっている。従って、CPU51はステップ1024にて「No」と判定してステップ1095に直ちに進む。以降、車輪**について増圧制御開始条件が成立するまでCPU51はステップ1000〜1004、1018〜1024の処理を繰り返し実行する。この結果、車輪**について保持制御が継続される。
【0138】
そして、所定時間が経過してSLIP**の値が所定値SLIPref1よりも小さくなると(図5の時刻t3、図7の時刻t23を参照。)、CPU51はステップ1024に進んだとき「Yes」と判定してステップ1026に進むようになり、変数Mode**の値を「2」から「3」に変更する。
【0139】
続いて、CPU51は、次に実行される増圧制御(具体的には、「保持期間付リニア増圧制御」)の準備を行うため、ステップ1028に進んで、基本電流値Idbase**(の初期値)を先のステップ1016にて格納した値I0**に、変数N**の値を「1」に、変数TCc**の値を前記周期TCに、変数SLIP(1)**の値をステップ815にて算出されている最新のスリップ量SLIP**にそれぞれ設定するとともに、続くステップ1030にて経過時間Tout**をリセットする。
【0140】
ここで、変数N**は、車輪**について何回目の「周期制御」が現時点で実行されているかを表す値であり、TCc**は車輪**について現時点で実行中の「周期制御」の周期(制御用周期)であり、SLIP(k)(k=1,2,・・・)はk回目の「周期制御」の開始時点での車輪**についてのスリップ量であり、Tout**は電気制御装置50に内蔵された所定のタイマにより計測される、車輪**について現時点で実行中の「周期制御」の開始時点からの経過時間を表す。
【0141】
この結果、変数Mode**の値が「3」になっているから、CPU51はステップ1018に進んだとき「No」と判定してステップ1032に進むようになる。CPU51はステップ1032に進むと、先のステップ910の条件と同じABS開始条件が再び成立しているか否か(即ち、2回目の制御サイクルが開始されるか否か)を判定する。
【0142】
現時点では、「保持期間付リニア増圧制御」が開始された直後であるからABS制御開始条件は成立していない。従って、CPU51はステップ1032にて「No」と判定してステップ1034に進み、同ステップ1034を経由して図11に示した「保持期間付リニア増圧制御」を行うルーチンの処理をステップ1100から開始する。
【0143】
CPU51はステップ1105に進むと、現時点での基本電流値Idbase**(=I0**)から値「Ki・Δt」を減じた値を新たな基本電流値Idbase**とすることで基本電流値Idbase**を更新する。ここで、Kiは上記基本パターンにおける上述した「一定の勾配」に対応する係数であり、Δtは本ルーチンの実行周期である。即ち、値「Ki・Δt」は、上記基本パターンにおける本ルーチンの一実行周期あたりの基本電流値Idbase**の減少量である。これにより、基本電流値Idbase**が値I0を初期値とする上記基本パターンに沿って設定・変更されていく。
【0144】
次いで、CPU51は、ステップ1110に進み、経過時間Tout**が前記増圧時間TAに達していないか否かを判定する。現時点では、先のステップ1030の処理が実行された直後であるから経過時間Tout**が増圧時間TAに達していない。従って、CPU51はステップ1110にて「Yes」と判定してステップ1115に進み、指令電流値Id**をステップ1105にて更新されている現時点での基本電流値Idbase**そのものに設定する。
【0145】
続いて、CPU51はステップ1120にて、減圧弁PD**を閉状態に維持するとともに増圧弁PU**への通電電流値が同指令電流値Id**(=Idbase**)となるように同通電電流値をデューティ制御する。これにより、車輪**について1回目の「周期制御」(における増圧制御)が開始・実行される。
【0146】
次に、CPU51はステップ1125進み、経過時間Tout**が前記制御用周期TCc**(現時点では、上記周期TCと等しい。)に達しているか否かを判定する。現時点では、経過時間Tout**が周期TCに達していないから、CPU51はステップ1125にて「No」と判定してステップ1195、及び図10のステップ1034を経由してステップ1095に直ちに進んで図10のルーチンを一旦終了する。
【0147】
以降、ABS制御開始条件が成立しない限りにおいて、経過時間Tout**が増圧時間TAに一致するまで、CPU51はステップ1000〜1004、1018、1032、1034、1100〜1125の処理を繰り返し実行する。この結果、この結果、車輪**について1回目の「周期制御」(における増圧制御)が継続される。
【0148】
そして、経過時間Tout**が増圧時間TAに一致すると、CPU51はステップ1110に進んだとき「No」と判定してステップ1115に代えてステップ1130に進んで指令電流値Id**を、現時点での基本電流値Idbase**に前記加算値Iaddを加えた値「Idbase**+Iadd」に設定するようになる。この結果、ステップ1120の繰り返し実行により、車輪**について1回目の「周期制御」における保持制御が実行・継続される。
【0149】
その後、経過時間Tout**が制御用周期TCc**(=TC)に一致すると(図5の時刻t4、図7の時刻t24を参照。)、CPU51はステップ1125に進んだとき「Yes」と判定してステップ1135に進んで変数N**の値を「1」だけインクリメントし(現時点では、「1」から「2」になる。)、続くステップ1140にて変数SLIP(N**)**(現時点では、2回目の「周期制御」開始時点でのスリップ量SLIP(2)**)の値を、ステップ815にて計算されている最新の(現時点での)スリップ量SLIP**に設定する。
【0150】
続いて、CPU51はステップ1145に進み、変数SLIP(N**)**から変数SLIP(N**−1)**を減じた値(現時点では、値「SLIP(2)**−SLIP(1)**」)が所定値ΔSLIPrefよりも大きいか否かを判定し、「Yes」と判定する場合(即ち、ホイールシリンダ圧Pwの上昇勾配が非常に大きくなっている場合)、ステップ1150に進んで制御用周期TCc**の値を周期TCに前記延長時間ΔTCを加えた値に設定し、一方、「No」と判定する場合、ステップ1155に進んで制御用周期TCc**の値を周期TCそのものに設定する。そして、CPU51はステップ1160に進んで経過時間Tout**をリセットした後、ステップ1195、1034を経由してステップ1095に進んで図10のルーチンを一旦終了する。
【0151】
これにより、1回目の「周期制御」が終了して2回目の「周期制御」が開始される。即ち、2回目にABS制御開始条件が成立しない限りにおいて、経過時間Tout**が増圧時間TAに達するまでの間はステップ1115、1120の実行により増圧制御が実行され、経過時間Tout**が増圧時間TAに達した後であって先のステップ1150、又はステップ1155にて設定されている制御用周期TCc**に達するまでの間はステップ1130、1120の実行により保持制御が実行される。
【0152】
そして、経過時間Tout**が上記制御用周期TCc**に達すると(図5の時刻t5、図7の時刻t25を参照。)、2回目の「周期制御」が終了して3回目の「周期制御」が開始される。このようにして、以降も、2回目にABS制御開始条件が成立しない限りにおいて「周期制御」が連続的に繰り返し実行されていく(即ち、「保持期間付リニア増圧制御が継続されていく)。
【0153】
そして、2回目にABS制御開始条件が成立すると(図5の時刻t6、図7の時刻t26を参照。)、CPU51はステップ1032に進んだとき「Yes」と判定してステップ1036に進み、変数CYCLE**の値を「1」から「2」に変更するとともに、続くステップ1038にて変数Mode**の値を「3」から「1」に変更する。
【0154】
続いて、CPU51はステップ1040に進み、現時点(即ち、「保持期間付リニア増圧制御」の終了時点)での指令電流値Id**を減圧制御開始時実差圧相当電流値Idc**として格納した後、ステップ1042に進んで上記経過時間Trdc**をリセットする。この場合、経過時間Trdc**は、車輪**について現時点以降において開始される制御サイクル(現時点では2回目の制御サイクル)の開始時点(即ち、減圧制御開始時点。図5の時刻t6、図7の時刻t26を参照。)からの経過時間を表す。
【0155】
これにより、変数CYCLE**の値が「2」になっている。従って、CPU51はステップ1002に進んだとき「No」と判定してステップ1095に直ちに進んで図10のルーチンを一旦終了するようになる。この結果、ステップ1034が実行されなくなるから図11のルーチン(即ち、保持期間付リニア増圧制御)も実行されなくなる。従って、1回目の制御サイクルが終了する。
【0156】
一方、CPU51は、図12に示した2回目以降の制御サイクルの実行を行うルーチンを所定時間の経過毎に繰り返し実行している。なお、図12に示したステップのうち図10に示したステップと同一の処理を行うステップについては、対応する図10のステップ数と同一のステップ数を付してあり、詳細な説明を省略する。従って、以降、図12に特有のステップについて主として説明していく。
【0157】
CPU51は、所定のタイミングになると、CPU51はステップ1200から処理を開始し、ステップ1205に進んで、変数CYCLE**の値が「2」であるか否かを判定し、「No」と判定する場合、ステップ1295に直ちに進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0158】
いま、2回目にABS制御開始条件が成立した直後であって、先のステップ1036の実行により変数CYCLE**の値が「1」から「2」に変更された直後であるものとすると(図5の時刻t6、図7の時刻t26を参照。)、CPU51はステップ1205にて「Yes」と判定してステップ1004に進み、先のステップ1038の実行により変数Mode**の値が「1」になっていることから同ステップ1004でも「Yes」と判定する。
【0159】
この結果、先の1回目の制御サイクルの場合と同様、ステップ1010の条件(保持制御開始条件)が成立するまでの間、車輪**について減圧制御が実行される(図5の時刻t6〜t7、図7の時刻t26〜t27を参照。)。そして、保持制御開始条件が成立すると(図5の時刻t7、図7の時刻t27を参照。)、CPU51はステップ1010にて「Yes」と判定してステップ1012に進んで、変数Mode**の値を「1」から「2」に変更する。
【0160】
続いて、CPU51はステップ1014に進んで、この時点での経過時間Trdc**(現時点では、2回目の制御サイクルにおける減圧制御継続時間)を制御用経過時間Trdcc**として設定するとともに、続くステップ1210にて上記(2)式に相当するステップ1210内に記載の式に従って減圧相当電流値ΔIrdc**を計算する。以降、ステップ1024の条件(増圧制御開始条件)が成立するまでの間(図5の時刻t7〜t8、図7の時刻t27〜t28を参照。)、車輪**について保持制御が実行される。
【0161】
そして、増圧制御開始条件が成立すると、CPU51はステップ1024にて「Yes」と判定してステップ1026に進み、変数Mode**の値を「2」から「3」に変更した後、ステップ1215に進んで、先の図10のステップ1040にて格納している減圧制御開始時実差圧相当電流値Idc**と先の1210にて計算している減圧相当電流値ΔIrdc**の和を値ID**として格納し、続くステップ1220にて基本電流値Idbase**を同格納した値ID**に設定する。
【0162】
これにより、2回目(以降)の制御サイクルにおけるリニア増圧制御開始時点(図5の時刻t8、図7の時刻t28を参照。)での基本電流値Idbase**(=指令電流値Id**)が同時点での実差圧相当電流値に一致する。
【0163】
この結果、変数Mode**の値が「3」になっているから、CPU51はステップ1032に進み、ABS制御開始条件が再び成立しない限りにおいて、同ステップ1032にて「No」と判定してステップ1225に進む。CPU51はステップ1225に進むと、指令電流値Id**を基本電流値Idbase**(現時点では、値ID**)そのものに設定し、続くステップ1230にて、減圧弁PD**を閉状態に維持するとともに増圧弁PU**への通電電流値が同指令電流値Id**(現時点では、値ID**)となるように同通電電流値をデューティ制御する。
【0164】
続いて、CPU51はステップ1235に進み、その時点での基本電流値Idbase**から値「Ki・Δt」を減じた値を新たな基本電流値Idbase**とすることで基本電流値Idbase**を更新する。ここで、値「Ki・Δt」は、先のステップ1105と同様、「基本パターンにおける本ルーチンの一実行周期あたりの基本電流値Idbase**の減少量」である。これにより、基本電流値Idbase**が値IDを初期値とする上記基本パターンに沿って設定・変更されていく。
【0165】
これらステップ1225〜1235の処理はABS制御開始条件が再び成立しない限りにおいて繰り返し実行されていく。この結果、指令電流値Id**(=基本電流値Idbase**)が徐々に減少していくとともに車輪**についてリニア増圧制御が実行されていく。
【0166】
そして、ABS制御開始条件が再び成立すると(図6の時刻t9を参照。)、CPU51はステップ1032に進んだとき「Yes」と判定してステップ1038〜ステップ1042の処理を実行する。これにより、変数Mode**の値が「3」から「1」に再び変更され、現時点(即ち、2回目のABS制御終了時点)での指令電流値Id**が減圧制御開始時実差圧相当電流値Idc**として格納され、更に、経過時間Trdc**がリセットされる。
【0167】
このとき、変数CYCLE**の値は「2」に維持されたままである。この結果、CPU51はステップ1205に進んだとき「Yes」と判定し続けるから、2回目の制御サイクルの場合と同様、3回目以降の制御サイクルに係るABS制御が図12のルーチンの実行により達成されていく。
【0168】
以上説明したCPU51による作動は、ステップ900、905、930の処理が繰り返し実行されている先の図9のルーチンにおけるステップ930のABS制御終了条件が成立しない限りにおいて実行され得るものである。従って、上述した作動の途中において運転者がブレーキペダルBPの操作を終了する場合等、ステップ930の条件が成立すると、CPU51はステップ930にて「Yes」と判定してステップ935に進んで変数CYCLE**の値を「1」、「2」の何れかから「0」に変更し、続くステップ940にて総ての電磁弁(具体的には増圧弁PU**、減圧弁PD**)を非励磁状態にする。これにより、実行されていた一連のABS制御が終了する。
【0169】
以降、CPU51はステップ905に進んだとき「Yes」と判定して再びステップ910に進むようになり、同ステップ910にて再びABS制御開始条件が成立しているか否かをモニタするようになる。
【0170】
以上、説明したように、本発明の実施形態に係る車両のブレーキ液圧制御装置によれば、増圧弁PU**として通電電流値がデューティ制御によりリニアに制御される常開リニア電磁弁を採用するとともに、減圧弁PD**として常閉電磁開閉弁を採用する。そして、本実施形態は、ABS制御開始条件成立後、ABS制御終了条件成立までの間、原則的に、減圧制御・保持制御・リニア増圧制御を一組とするABS制御を繰り返し実行していく。このとき、実差圧相当電流値が正確に取得できていない状態で開始される1回目のABS制御においてのみ、リニア増圧制御に代えて「保持期間付リニア増圧制御」が実行される。
【0171】
「保持期間付リニア増圧制御」では、その開始時点での指令電流値Idが同時点での実差圧相当電流値より必ず小さい上記減圧相当電流値ΔIrdcに設定される。この結果、「保持期間付リニア増圧制御」の開始直後からホイールシリンダ圧が増大し得るから、「緩制動」がなされた場合での上述した「ホイールシリンダ圧の増圧開始の遅れ」の発生が防止され得る。加えて、「保持期間付リニア増圧制御」では、各増圧時間TAが短めに設定されるとともに保持時間TBが設けられることで、「急制動」がなされた場合での上述した「ホイールシリンダ圧の比較的長い期間に亘る急激な増大」の発生も防止され得る。
【0172】
更には、「保持期間付リニア増圧制御」中において、今回取得した「周期制御」開始時点でのスリップ量SLIP(k)から前回取得した「周期制御」開始時点でのスリップ量SLIP(k-1)を減じた値が所定値ΔSLIPrefよりも大きいとき、「保持期間付リニア増圧制御」中におけるホイールシリンダ圧の増加勾配が非常に大きくなっていると判定され、今回の「周期制御」における周期TC(具体的には、保持時間TB)が延長時間ΔTCだけ延長される。これにより、「保持期間付リニア増圧制御」中においてホイールシリンダ圧の増加勾配が非常に大きくなっている場合、同増加勾配が所定の最適値に向けて減少せしめられ得、この結果、最適なホイールシリンダ圧の増加勾配に基づく最適な「保持期間付リニア増圧制御」が実行され得る。
【0173】
本発明は上記各実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記実施形態においては、「保持期間付リニア増圧制御」中における保持制御実行中(即ち、保持時間TBの継続中)において、常開リニア電磁弁である増圧弁PU**への通電電流値(従って、指令電流値Id)が、「増圧弁PU**を閉状態に維持せしめるための電流値」としての値「Idbase+Iadd」に設定・変更されていくが、上記閉弁維持電流値Ihold(図3を参照。一定値)に維持してもよい。
【0174】
また、上記実施形態においては、「保持期間付リニア増圧制御」の開始時点での増圧弁PU**への指令電流値Idを上記「減圧相当電流値ΔIrdc」に設定しているが、「緩制動」がなされた場合であっても同開始時点での実差圧相当電流値よりも小さくなる値であれば他の値(例えば、一定値)であってもよい。
【0175】
加えて、上記実施形態においては、今回取得した「周期制御」開始時点でのスリップ量SLIP(k)から前回取得した「周期制御」開始時点でのスリップ量SLIP(k-1)を減じた値が所定値ΔSLIPrefよりも大きいときにのみ、今回の「周期制御」における周期TCを延長時間ΔTCだけ延長するように構成されているが、SLIP(k)からSLIP(k-1)を減じた値に応じて今回の「周期制御」における周期TCの延長時間ΔTCを変更するように構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0176】
【図1】本発明の実施形態に係る車両のブレーキ液圧制御装置を含む車両の運動制御装置を搭載した車両の概略構成図である。
【図2】図1に示したブレーキ液圧制御部の概略構成図である。
【図3】図2に示した増圧弁についての指令電流と指令差圧との関係を示したグラフである。
【図4】図3に示した指令電流をデューティ制御にて制御する際の通電パターンを示した図である。
【図5】運転者により「急制動」がなされたことで図1に示したブレーキ液圧制御装置によりABS制御が実行された場合における、推定車体速度、車輪速度、マスタシリンダ圧、ホイールシリンダ圧、及び常開リニア電磁弁である増圧弁への指令電流値の変化の一例を示したタイムチャートの前半部である。
【図6】運転者により「急制動」がなされたことで図1に示したブレーキ液圧制御装置によりABS制御が実行された場合における、推定車体速度、車輪速度、マスタシリンダ圧、ホイールシリンダ圧、及び常開リニア電磁弁である増圧弁への指令電流値の変化の一例を示したタイムチャートの後半部である。
【図7】運転者により「緩制動」がなされたことで図1に示したブレーキ液圧制御装置によりABS制御が実行された場合における、推定車体速度、車輪速度、マスタシリンダ圧、ホイールシリンダ圧、及び常開リニア電磁弁である増圧弁への指令電流値の変化の一例を示したタイムチャートである。
【図8】図1に示したCPUが実行する車輪速度等を算出するためのルーチンを示したフローチャートである。
【図9】図1に示したCPUが実行するABS制御の開始・終了判定を行うためのルーチンを示したフローチャートである。
【図10】図1に示したCPUが実行する1回目の制御サイクルに係るABS制御を行うためのルーチンを示したフローチャートである。
【図11】図1に示したCPUが実行する保持期間付リニア増圧制御を行うためのルーチンを示したフローチャートである。
【図12】図1に示したCPUが実行する2回目以降の制御サイクルに係るABS制御を行うためのルーチンを示したフローチャートである。
【図13】運転者により「緩制動」がなされたことで背景技術に係るブレーキ液圧制御装置によりABS制御が実行された場合における、推定車体速度、車輪速度、マスタシリンダ圧、ホイールシリンダ圧、及び常開リニア電磁弁である増圧弁への指令電流値の変化の一例を示したタイムチャートである。
【図14】運転者により「急制動」がなされたことで背景技術に係るブレーキ液圧制御装置によりABS制御が実行された場合における、推定車体速度、車輪速度、マスタシリンダ圧、ホイールシリンダ圧、及び常開リニア電磁弁である増圧弁への指令電流値の変化の一例を示したタイムチャートである。
【符号の説明】
【0177】
10…車両の運動制御装置、30…ブレーキ液圧制御部、41**…車輪速度センサ、42…ブレーキスイッチ、50…電気制御装置、51…CPU、52…ROM、PU**…増圧弁、PD**…減圧弁、MT…モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者によるブレーキ操作に応じたブレーキ液圧であるマスタシリンダ圧を発生するマスタシリンダ(MC)とホイールシリンダ(Wfr等)との間の液圧回路に介装されるとともに通電電流値に応じて同マスタシリンダ圧と同ホイールシリンダ内のブレーキ液圧であるホイールシリンダ圧との差圧を調整可能なリニア電磁弁である増圧弁(PUfr等)と、
前記ホイールシリンダとリザーバとの間の液圧回路に介装されるとともに通電電流値に応じて少なくとも開閉可能な電磁弁である減圧弁(PDfr等)と、
を備えた制御ユニットに適用され、
所定のアンチスキッド制御開始条件が成立することに応答して開始されるアンチスキッド制御であって、前記増圧弁への通電電流値と前記減圧弁への通電電流値を制御することで少なくとも前記ホイールシリンダ圧を減少せしめる減圧制御が実行された後に、前記減圧弁への通電電流値を制御して同減圧弁を閉状態に維持したまま前記増圧弁への通電電流値を一定の勾配でリニアに減少又は増加する基本パターンをもって変化させることで前記ホイールシリンダ圧を増大せしめるリニア増圧制御が次に前記アンチスキッド制御開始条件が成立するまで実行されるアンチスキッド制御、を連続的に複数回実行可能なアンチスキッド制御手段(51,図10〜図12のルーチン)を備えた車両のブレーキ液圧制御装置において、
前記アンチスキッド制御手段は、
所定回目の前記アンチスキッド制御の前記リニア増圧制御中において、所定の期間だけ前記増圧弁への通電電流値を前記基本パターンに対応する電流値(Idbase)に代えて同増圧弁を閉状態に維持せしめるための電流値(Idbase+Iadd)に設定して、同所定の期間だけ前記ホイールシリンダ圧を保持せしめる保持制御を実行する(図11のルーチン)ように構成された車両のブレーキ液圧制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両のブレーキ液圧制御装置において、
前記所定回目のアンチスキッド制御として1回目のアンチスキッド制御が使用される車両のブレーキ液圧制御装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の車両のブレーキ液圧制御装置において、
前記アンチスキッド制御手段は、
前記所定回目のアンチスキッド制御における前記リニア増圧制御の開始時点での前記増圧弁への通電電流値(I0)を、前記所定回目のアンチスキッド制御における前記減圧制御による前記ホイールシリンダ圧の減少により増大した前記差圧に相当する電流値に設定するように構成された車両のブレーキ液圧制御装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の車両のブレーキ液圧制御装置において、
前記アンチスキッド制御手段は、
前記所定回目のアンチスキッド制御の前記リニア増圧制御中において、前記保持制御実行中における前記増圧弁への通電電流値を、前記基本パターンに対応する電流値(Idbase)に一定値(Iadd)を加算又は減算した電流値に設定するように構成された車両のブレーキ液圧制御装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載の車両のブレーキ液圧制御装置において、
前記アンチスキッド制御手段は、
前記所定回目のアンチスキッド制御の前記リニア増圧制御中において、前記保持制御を周期的に実行するように構成された車両のブレーキ液圧制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載の車両のブレーキ液圧制御装置であって、
前記所定回目のアンチスキッド制御の前記リニア増圧制御中において同アンチスキッド制御の対象となっている車輪のスリップ量が増大していく程度を示す値を取得するとともに、同車輪のスリップ量が増大していく程度を示す値に応じて前記保持制御が実行される前記所定の期間の長さを変更する保持制御時間変更手段を更に備えた車両のブレーキ液圧制御装置。
【請求項7】
運転者によるブレーキ操作に応じたブレーキ液圧であるマスタシリンダ圧を発生するマスタシリンダ(MC)とホイールシリンダ(Wfr等)との間の液圧回路に介装されるとともに通電電流値に応じて同マスタシリンダ圧と同ホイールシリンダ内のブレーキ液圧であるホイールシリンダ圧との差圧を調整可能なリニア電磁弁である増圧弁(PUfr等)と、
前記ホイールシリンダとリザーバとの間の液圧回路に介装されるとともに通電電流値に応じて少なくとも開閉可能な電磁弁である減圧弁(PDfr等)と、
を備えた制御ユニットに適用され、
所定のアンチスキッド制御開始条件が成立することに応答して開始されるアンチスキッド制御であって、前記増圧弁への通電電流値と前記減圧弁への通電電流値を制御することで少なくとも前記ホイールシリンダ圧を減少せしめる減圧制御が実行された後に、前記減圧弁への通電電流値を制御して同減圧弁を閉状態に維持したまま前記増圧弁への通電電流値を一定の勾配でリニアに減少又は増加する基本パターンをもって変化させることで前記ホイールシリンダ圧を増大せしめるリニア増圧制御が次に前記アンチスキッド制御開始条件が成立するまで実行されるアンチスキッド制御、を連続的に複数回実行可能なアンチスキッド制御ステップ(図10〜図12のルーチン)を備えた車両のブレーキ液圧制御用のプログラムにおいて、
前記アンチスキッド制御ステップは、
所定回目の前記アンチスキッド制御の前記リニア増圧制御中において、所定の期間だけ前記増圧弁への通電電流値を前記基本パターンに対応する電流値(Idbase)に代えて同増圧弁を閉状態に維持せしめるための電流値(Idbase+Iadd)に設定して、同所定の期間だけ前記ホイールシリンダ圧を保持せしめる保持制御を実行する(図11のルーチン)ように構成された車両のブレーキ液圧制御用のプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2006−315526(P2006−315526A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−139990(P2005−139990)
【出願日】平成17年5月12日(2005.5.12)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】