説明

車両のペダル支持構造

【課題】 オフセット衝突時等において、ペダルブラケットを案内部材から確実に離脱させて所定のペダルの回動性能を得ることができる車両のペダル支持構造を提供する。
【解決手段】 操作ペダル22をその支軸26周りに支持する車両のペダル支持構造であって、その前端部がダッシュパネルに固定され操作ペダルの支軸が取り付けられるブラケット34と、その前端部がブラケットの後端部に固定され、操作ペダルの支軸の両端部の周りを取り囲こむ腕部64を備えた案内部材44と、ブラケットと案内部材に形成されたスライド式固定機構61と、操作ペダルの支軸の両端部に案内部材の腕部の外側面に面接触するように固定された相対位置規制部材68と、を有し、案内部材は、車両衝突時に、ブラケットが後方に移動して案内部材から離脱した後に、操作ペダルの踏み面が相対的に前方に移動するように、ブラケットの姿勢を変化させる案内面62を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のペダル支持構造に係わり、特に、ダッシュパネルの後方に設けられ且つその上端部に車幅方向に延びる支軸を備えその下端部に踏み面を備えた操作ペダルをその支軸周りに揺動可能に支持する車両のペダル支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車の衝突時には、その衝突を回避するためにドライバがブレーキペダルを踏んで自動車を制動しようとするが、ブレーキペダルの操作が遅れた場合には、自動車が停止せずにブレーキペダルの踏込み状態で衝突してしまう場合が多い。
その場合、衝突に伴って車体前部が衝突エネルギを吸収しながら潰れ、エンジンルーム内に配置されているエンジンがその後方に位置するブレーキ装置のマスタシリンダを押しながら後退する。このとき、マスタシリンダにはダッシュパネル後方側に位置するブレーキペダルがオペレーティングロッドを介して連結されているため、マスタシリンダの後退移動に伴いオペレーティングロッドを介してブレーキペダルも押されて後退する。
このとき、ドライバは、衝突直前までブレーキペダルを踏込んでいるので、ドライバの足には衝突荷重が作用し、足に怪我をするという問題がある。
【0003】
従来から、このような問題を解決するために種々の提案がなされている。例えば、特許文献1には、その前端部がダッシュパネルに固定されその後端部がブレーキペダルの支軸を支持するペダルブラケットと、その前端部がペダルブラケットの後端部を車両衝突時に離脱可能に支持しその前端部がインパネレインフォースメントに固定される案内部材とを備えた車両のペダル支持構造が開示されている。具体的には、ペダルブラケットの後端部にスリット(凹溝)が形成され、そのスリットにボルトが挿通されて、ペダルブラケットが案内部材に離脱可能に固定されている。
【0004】
この車両のペダル支持構造では、案内部材の下側にペダルブラケットを案内する案内面を設けており、車両衝突時に後退するペダルブラケットがこの案内部材の案内面に当接し、この当接したペダルブラケットを下側に案内することによってブレーキペダルを回動させて、ペダル下端の踏み面を前方に移動させるようにしている。
【0005】
【特許文献1】特許第3267145号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、例えばオフセット衝突時等においては、ダッシュパネルからペダルブラケットに入力される衝突荷重の方向が、車両前後方向に対して傾く場合がある。その場合、上記特許文献1に開示されたペダル支持構造においては、ペダルブラケットと案内部材とにおいてねじれ等が生じ、ペダルブラケットが案内部材から離脱できなくなり、ペダルブラケットを案内部材の案内面によって下側に案内させながら後退させるという所定の性能が確実に発揮されなくなるという問題がある。
【0007】
本発明は、上述した従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、オフセット衝突時等において、ペダルブラケットを案内部材から確実に離脱させて所定のペダルの回動性能を得ることができる車両のペダル支持構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明は、ダッシュパネルの後方に設けられ且つその上端部に車幅方向に延びる支軸を備えその下端部に踏み面を備えた操作ペダルをその支軸周りに揺動可能に支持する車両のペダル支持構造であって、その前端部がダッシュパネルに固定され且つダッシュパネルから後方側に延びると共に操作ペダルの支軸が取り付けられるブラケットと、その前端部がブラケットの後端部と車両衝突時に離脱可能に固定されると共にその後端部がダッシュパネル以外の車体側部材に固定される案内部材であって、操作ペダルの支軸の車幅方向に突出した両端部の周りを取り囲み且つ後方部に開口を有する腕部を備えた案内部材と、車両衝突時にブラケットが後方に移動して案内部材から離脱するようにブラケットの後端部と案内部材の前端部に形成されたスライド式固定機構と、操作ペダルの支軸の両端部に案内部材の腕部の外側面に面接触するように固定され、案内部材に対する操作ペダルの支軸の相対位置を規制する相対位置規制部材と、を有し、記案内部材は、車両衝突時に、ブラケットが後方に移動して案内部材から離脱した後に、操作ペダルの踏み面が相対的に前方に移動するように、ブラケットの姿勢を変化させる案内面を備えていることを特徴としている。
このように構成された本発明においては、車両衝突時に、衝突荷重により、ダッシュパネルが後方に移動し、このダッシュパネルの後方への移動に伴いブラケットも後方に移動する。このとき、例えば、オフセット荷重等により、ダッシュパネルからブラケットに入力される荷重が車両前後方向に対して車幅方向及び/又は車両上下方向に傾いていたとしても、操作ペダルの支軸の端部が案内部材の腕部に取り囲まれているので、ブラケットが案内部材の腕部に対して車両後方以外の方向に相対変位し難くなっている。さらに、相対位置規制部材が操作ペダルの支軸の両端部に案内部材の腕部の外側面に面接触するように固定されているので、ペダルの支軸の相対位置が案内部材により保持される。また、ペダルの支軸はブラケットに取り付けられているので、ブラケットもペダルの支軸を介して案内部材によりその相対位置が保持される。これにより、ブラケットの相対位置が案内部材及びペダルの支軸により保持され、車両後方以外の方向に変位し難くなっている。この結果、オフセット衝突等においても、ブラケットと案内部材とにおいてねじれ等が発生し難くなり、ブラケットは、案内部材に対し確実に車両後方に相対移動することができる。このブラケットの後方移動により、スライド式固定機構において、ブラケットが案内部材から確実に離脱し、次に、案内部材の案内面により、ブラケットの姿勢変化し、操作ペダルの踏み面が相対的に前方に移動する。
【0009】
本発明において、好ましくは、相対位置規制手段は、腕部の外側面に面接触する平面を有する金属製のナット部材である。
このように構成された本発明においては、金属製のナット部材の平面が案内部材の外側面と面接触するので、操作ペダルの支軸の相対位置が案内部材により効果的に保持され、ブラケットと案内部材とにおいてねじれ等が発生し難くなり、それにより、ブラケットは、案内部材に対し確実に車両後方に相対移動することができる。
【0010】
本発明において、好ましくは、ナット部材の平面には、金属よりも低摩擦係数の低摩擦部材が固着されている。
このように構成された本発明においては、案内部材の腕部とナット部材との接触面が低摩擦面となっているので、車両衝突時に、ブラケットは、後方に容易に移動し案内部材から確実に離脱する。
【0011】
本発明においては、好ましくは、ナット部材の平面は、円形状である。
このように構成された本発明においては、案内部材の腕部と面接触するナット部材の平面が円形状であるので、両者の接触面積が車両上下方向及び車両前後方向においてほぼ同じとなるので、衝突荷重がどの方向にオフセットされて作用しても、ブラケットの相対位置が案内部材及びペダルの支軸により保持され、ブラケットと案内部材とにおいてねじれ等が発生し難くなり、それにより、ブラケットは、案内部材に対し確実に車両後方に相対移動することができる。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、本発明の車両のペダル支持構造によれば、オフセット衝突時等において、ペダルブラケットを案内部材から確実に離脱させて所定のペダルの回動性能を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明による車両のペダル支持構造の実施形態について添付図面を参照して説明する。
先ず、図1乃至図6により、本発明の車両のペダル支持構造の実施形態について説明する。
図1は、本発明の車両のペダル支持構造が適用されるブレーキペダル等が設けられた自動車(左ハンドル車)の車室前部を示すの概略図である。図2は、本発明の実施形態の車両のペダル支持構造を示す概略側面図である。
【0014】
図1及び図2に示すように、ダッシュパネル1が、エンジン2が収容されたエンジンルーム4と車室6とを区画形成するように設けられている。ダッシュパネル1の車両後方側にはインストルメントパネル(図示せず)が設けられ、このインストルメントパネルの内部には、その両端が車体左右に設けられた一対のフロントピラー8により支持され車幅方向に延びるインパネレインフォースメント10が設けられている。インパネレインフォースメント10にはハンガブラケット12が取り付けられ、このハンガブラケット12がステアリングコラム14を支持するようになっている。ステアリングコラム14にはステアリングシャフト16が挿通しており、その上端部にはステアリングホイール18が取り付けられている。ここで、インパネレインフォースメント10及びハンガブラケット12は、車両の衝突時に、車室6内における乗員のスペースを確保するために、それらの剛性がダッシュパネル1より高く設定され、後退移動しないような構造となっている。さらに、ステアリングコラム14の下方には、アクセルペダル20とブレーキペダル22が設けられている。
【0015】
以下、ブレーキペダル22に本発明の車両のペダル支持構造が適用された実施形態を説明する。
図2に示すように、ブレーキペダル22は、ダッシュパネル1の後方位置で、上下方向に延びるように設けられている。ブレーキペダル22は、その下端にドライバーが足で踏み操作する踏み面24を備え、その上端にブレーキペダル22を前後方向に揺動可能に支持するために車幅方向に延びるように設けられた支軸26を備えている。ここで、ダッシュパネル1のエンジンルーム4側にはマスタバック28が固定されており、このマスタバック28には、ダッシュパネル1を貫通して車室6側に突出するオペレーティングロッド30の一端が連結されている。ブレーキペダル22の踏み面24と支軸26のほぼ中間位置31には、このオペレーティングロッド30の他端が連結されている。さらに、ブレーキペダル22の中間位置31には、ブレーキペダル22を車両後方側に付勢するコイルバネ32が連結されている。
【0016】
ここで、図3は本発明の車両のペダル支持構造の実施形態を示す拡大側面図であり、図4は本発明の車両のペダル支持構造の実施形態を示す斜視図であり、図5は本発明の車両のペダル支持構造の実施形態を示す部品展開図であり、図6は図4のVI−VI線に沿って見た部分断面図である。
図2乃至図6に示すように、ブレーキペダル22は、ペダルブラケット34により、支軸26周りに揺動可能に支持されている。
ペダルブラケット34は、前方側に位置するほぼ板状のダッシュパネル固定部36と、このダッシュパネル固定部36から後方かつ上方に向かって延びる本体部38とから構成されている。本体部38は、ブレーキペダル22を車幅方向に挟むように設けられた2つの側壁部40と、これらの側壁部40の後端近傍においてそれらの上端同士を連結する連結部42を備えている。
【0017】
ペダルブラケット34は、ダッシュパネル固定部36がダッシュパネル1の後面に固定されることにより、ダッシュパネル1に締結固定され、さらに、連結部42が、後述する案内部材44に2つの共締ボルト46により固定されることにより、案内部材44を介してインパネレインフォースメント10に固定されるようになっている。
【0018】
ここで、連結部42には、図5に示すように、その前端縁から後方に向かって延びる2つの凹溝48が車幅方向に所定の間隔だけ離間して形成されている。各凹溝48の溝幅は、共締ボルト46の頭部よりも狭くかつその軸部よりも広く設定されている。
【0019】
また、各側壁部40には、その後端側の部分にブレーキペダル22の支軸26が貫通して配置される貫通孔50が形成されている。ブレーキペダル22の支軸26は、各貫通孔50を貫通した状態で2つの側壁部40間を掛け渡すように配置され、これにより、ブレーキペダル22は、支軸26周りに回動可能に支持される。このとき、支軸26の各端部は、図4に示されているように、側壁部40から車幅方向の外方に突出している。
【0020】
なお、ペダルブラケット34の後端部には、図3に示すように、ブレーキスイッチを取り付けるためのブレーキスイッチ取付用ブラケット52が取り付けられている(図3にのみ図示)。
【0021】
ペダルブラケット34の後側には、案内部材44が設けられている。この案内部材44は、水平方向に拡がる上壁部54と、この上壁部54の車幅方向両側縁部それぞれから下方に延びる側壁部55を備え、下側が開放された断面コ字形状に構成されている。
【0022】
この案内部材44は、その前端部分がペダルブラケット34の後端部分に対して上下方向に重なるように設けられており、その後端部分は、後述するようにインパネレインフォースメント10に固定された車体側取付部材56に取り付けられている。これにより、案内部材44は、車体側取付部材56を介してインパネレインフォースメント10に固定されることになる。
【0023】
案内部材44の上壁部54の前端部分には、上述した共締ボルト46が挿入される2つのボルト孔58が車幅方向に所定の間隔だけ離間して設けられている。この上壁部54の前前端部分は、凹溝48が形成されたペダルブラケット34の連結部42の上側に位置しており、ペダルブラケット34を支持する支持部60となっている。ここで、ペダルブラケット34の凹溝48、案内部材44のボルト孔58が形成された支持部60が及び共締めボルト46は、後述するように、車両衝突時にペダルブラケット34が後方に移動して案内部材44から離脱することができるように、ペダルブラケット34を案内部材44に固定するスライド式固定機構61を構成している。
【0024】
案内部材44の各側壁部55の下端縁部は、その前側が上方に後側が下方になるように傾斜しており、各側壁部55は、全体として、車幅方向(側面)から見てほぼ三角形状となっている。さらに、案内部材44の各側壁部55は、スライド式固定機構61よりも後側において、その下端縁部が車幅方向の外方に折曲しており、その折曲部分の下面により水平方向に対して所定の角度で傾いた案内面62が形成されている。これらの案内面62は、後述するように、車両衝突時に、後退するブレーキペダル22の支軸26を下側に案内するものである。
【0025】
また、案内部材44の各側壁部55には、その前端部から前方に突出するように、具体的には、スライド式固定機構61(支持部60)より前方位置において、腕部64が設けられている。各腕部64は、ペダルブラケット34の側壁部40から車幅方向の外方に突出したブレーキペダル22の支軸26の各端部に係合し、支軸26の突出端部を周方向に囲むと共に後方部に開口を有する鉤形状となっている。
【0026】
また、案内部材44の各側壁部55のスライド式固定機構61と案内面62との間には、その案内面62に直交する方向に延びる切り欠きである脆弱部66が設けられている。
【0027】
次に、ブレーキペダル22の支軸26の両端部に案内部材44の腕部64の外側面に面接触するように金属製の鍔付ナット68が固定されている。この鍔付ナット68の鍔の部分(案内部材44の腕部64と接触する平面)は、ほぼ円形状であり、そのため、鍔付ナット68は、案内部材44の腕部64と、後方部分の除く全方向において、ほぼ同じ接触面積となるように面接触している。
ここで、ペダル22の支軸26の両端部には雄ねじが形成され、鍔付ナット68には雌ねじが形成され、両者が螺合し、且つ、両者間がスポット溶接等されるようになっている。なお、ペダル22の支軸26と鍔付ナット68には雄ねじ及び雌ねじを形成せず、両者を溶接等のみにより固定するようにしても良い。
【0028】
ここで、図7は、本発明の実施形態による車両のペダル支持構造の変形例を示す図6に相当する断面図である。図7に示すように、鍔付ナット68において、その案内部材44の腕部64と接触する平面には、金属よりも低摩擦係数の低摩擦部材69が固着されている。低摩擦部材69は、例えば、樹脂製である。
【0029】
図2及び図5に示すように、案内部材44の後方位置には、車体側取付部材56が配置されている。この車体側取付部材56は、インパネレインフォースメント10に固定されている。
この車体側取付部材56は、ほぼ上下方向に延びる前壁部と、この前壁部の車幅方向両側縁部から後方に延びる2つの側壁と、を備え、前壁は、その上下方向の中間に位置し案内部材44の後端部が取り付けられる取付部70と、この取付部70の下側に位置し水平方向に対して所定の角度で傾斜した案内部72とを備えている。この案内部72は、上述した案内部材44の案内面62よりも、水平方向に対する傾き角が大きくなるように設けられている。
【0030】
また、車体側取付部材56の2つの側壁の内の一方の側壁(図5では紙面奥側に位置する側壁)は、インパネレインフォースメント10に固定される固定部74となっており、
この固定部74は、その上端縁が断面円形状のインパネレインフォースメント10の外周面に沿うようにほぼ1/4円弧状に切り欠かれている。
【0031】
本実施形態の車両のペダル支持構造の組立時において、ペダルブラケット34のダッシュパネル固定部36がダッシュパネル1に固定され、案内部材44が、車体側取付部材56を介してインパネレインフォースメント10に固定されることにより、ペダルブラケット34の連結部42が下側で、案内部材44が上側となって上下方向に重ね合わされた状態となる。この状態で、各ボルト孔58及び各凹溝48内に共締ボルト46が挿入されて共締めされて、スライド式固定機構61となり、これにより、ペダルブラケット34の後端部が案内部材44により支持されることになる。
【0032】
これにより、ペダルブラケット34に支持されたブレーキペダル22は、支軸26周りに揺動可能に支持される。このときに、ブレーキペダル22の支軸26の端部はペダルブラケット34の両側壁部40それぞれから車幅方向の両側外方に突出しており、この支軸26の各突出端部に腕部64が係合するようになっている。さらに、ブレーキペダル22の支軸26の両端部には、鍔付ナット68が、案内部材44の腕部64の外側面に面接触するように固定されている。
【0033】
この車両のペダル支持構造においては、衝突時に所定値以上の荷重が作用した場合には、ペダルブラケット34が車両後方側に後退し、このとき、各共締ボルト46が凹溝48内を相対的に前方に移動してこの凹溝48から外れ、ペダルブラケット34が案内部材44から離脱するようになっている。
【0034】
次に、上述した実施形態の車両のペダル支持構造の車両の前突時における動作を図8により説明する。
車両衝突時に、所定値以上の荷重がダッシュパネル1に作用すると、ダッシュパネル1が大きく後退する。
【0035】
このとき、インパネレインフォースメント10は、ダッシュパネル1に対してその剛性が高い構造となっているのでほとんど後退せず、それゆえ、インパネレインフォースメント10に対して間接的に固定された案内部材44も、同様に、ほとんど後退しない。
一方、ダッシュパネル1に固定されたペダルブラケット34は、衝突荷重により、ダッシュパネル1の後退に伴い大きく後退する。これにより、通常時(非衝突時)には、腕部64に係合した状態にあった支軸26は、腕部64の後方部に形成された開口を通って後方に相対的に移動する(図8(a)(b)参照)。
【0036】
このときに、例えばオフセット衝突等により、車両の衝突時にダッシュパネル1からペダルブラケット34に入力される衝突荷重の方向が車両前後方向に対して幅方向や上下方向に傾いていたとしても、ブレーキペダル22の支軸26の端部が案内部材44の腕部64に取り囲まれているので、ペダルブラケット34が案内部材44の腕部64に対して車両後方以外の方向に相対変位し難くなっている。
さらに、鍔付ナット68がブレーキペダル22の支軸26の両端部に案内部材44の腕部64の外側面に面接触するように固定されているので、ブレーキペダル22の支軸26の相対位置が案内部材44により保持される。また、ブレーキペダル22の支軸26はペダルブラケット34に取り付けられているので、ペダルブラケット34もブレーキペダル22の支軸26を介して案内部材44によりその相対位置が保持される。これにより、ペダルブラケット34の相対位置が案内部材44及びブレーキペダル22の支軸26により保持され、車両後方以外の方向に変位し難くなっている。この結果、オフセット衝突等においても、ペダルブラケット34と案内部材44とにおいてねじれ等が発生し難くなり、ペダルブラケット34は、案内部材44に対し確実に車両後方に相対移動することができる。このペダルブラケット34の後方移動により、スライド式固定機構61において、ペダルブラケット34が案内部材44から確実に離脱することができる。
【0037】
ペダルブラケット34の後退により、上述したように、各共締ボルト46が各凹溝48から外れ、それにより、ペダルブラケット34は案内部材44に対して脱落可能となる。また、ペダルブラケット34の後退により、ブレーキペダル22の支軸26の両端部に固定された鍔付ナット68の鍔部の外周部68aが、案内部材44の支持部60の後側に設けられた案内面62に当接することになる。
【0038】
ペダルブラケット34が後退するに伴い、ブレーキペダル22の支軸26の両端部に固定された鍔付ナット68の鍔部の外周部68aは案内面62に沿って下方に案内される(図8(c)(d)参照)。このとき、ブレーキペダル22の中間位置31にオペレーティングロッド30が連結されているため、ブレーキペダル22は、オペレーティングロッド30の拘束力により、この中間位置31を回動中心として図8において時計周りに回動し、その結果、ブレーキペダル22の踏み面24は、前方に移動する。
【0039】
ペダルブラケット34がさらに後退することにより、そのペダルブラケット34の後端は車体側取付部材56の案内部72に当接するようになり、ペダルブラケット34は、傾斜した案内部72によってさらに下方に案内される(図7(e)(f)参照)。車体側取付部材56の案内部72は、案内部材の44の案内面62よりも水平方向に対する傾斜角が大きいため、ペダルブラケット34の回動量がさらに増大し、ブレーキペダル22の踏み面24は、さらに前方に移動する。
【0040】
このように、本実施形態による車両のペダル支持構造によれば、ブレーキペダル22の支軸26の両端部に鍔付ナット68が案内部材44の腕部64と面接触するように固定されているので、ペダルブラケット34の後端部と、ブレーキペダル22の支軸26及び案内部材44の支持部60の相対位置が規制されるので、ペダルブラケット34を確実に後退させて、ブレーキペダル22の支軸26を案内部材44の案内面62に確実に当接させることができる。その結果、ブレーキペダル22を確実に回動させることができる。
【0041】
特に、本実施形態による車両のペダル支持構造においては、通常時はブレーキペダル22の支軸26と案内部材44の案内面62とが当接しておらず、車両衝突時にペダルブラケット34が後方に移動し、ブレーキペダル22の支軸26の両端部に固定された鍔付ナット68の鍔部の外周部68aが案内部材44の案内面62に当接する構造であり、ペダルブラケット34の後端部が案内部材44の支持部60に対してねじり方向等に相対変位し易い構造となっている。そのため、本実施形態においては、ブレーキペダル22の支軸26の両端部に固定された鍔付ナット68の鍔部の外周部68aにより、ペダルブラケット34の後端部と、ブレーキペダル22の支軸26及び案内部材44の支持部64との相対位置を規制するようにしたことが特に有効となる。
【0042】
また、本実施形態による車両のペダル支持構造においては、図7に示すように、鍔付ナット68の案内部材44の腕部64と接触する平面は、金属よりも低摩擦係数の低摩擦部材69により形成されているため、車両衝突時にペダルブラケット34が後退するとき、摩擦抵抗が少なくなり、ペダルブラケット34が案内部材44からスムーズに離脱することが可能となる。
【0043】
さらに、鍔付ナット68の案内部材44の腕部64と面接触する平面が円形状としたので、鍔付ナット68の平面と腕部64の接触面積が車両上下方向及び車両前後方向においてほぼ同じとなり、そのため、衝突荷重がどの方向にオフセットされて作用しても、ペダルブラケット34の相対位置が案内部材44及びブレーキペダル22の支軸26により保持され、ペダルブラケット34と案内部材44とにおいてねじれ等が発生し難くなり、それにより、ペダルブラケット34は、案内部材44に対し確実に車両後方に相対移動することができる。
【0044】
また、案内部材44の腕部64は、ペダルブラケット34の側壁部40の外側でブレーキペダル22の両突出端部と係合するため、ペダルブラケット34と案内部材44とが、ねじれ方向に相対変位することを効果的に規制することが出来る。その結果、オフセット衝突時等においても、ブレーキペダル22を確実に回動させることが出来る。
【0045】
さらに、案内部材44の腕部64がブレーキペダル22の支軸26の突出端部を周方向に囲むことによって、ペダルブラケット34と案内部材44とが、ねじれ方向に相対変位することを効果的に規制することができ、さらに、腕部64の後方部が開口しているので、車両衝突時にペダルブラケット34をスムーズに後退させることができる。
【0046】
また、ペダルブラケット34のダッシュパネル固定部36はブレーキペダル22の支軸26よりも下方に位置しており、車両衝突時にダッシュパネル1からペダルブラケット34に入力される衝突エネルギは、ペダルブラケット34の本体部38を、図3に一点鎖線で示す直線に沿って伝達するが、スライド式固定機構61(支持部60)は、この直線よりも前方位置に配置されるため、その衝突荷重がスライド式固定機構61(支持部64)に直接入力されることがなく、それゆえ、スライド式固定機構61(支持部60)の破損や変形等を回避することができる。
【0047】
また、本実施形態による車両のペダル支持構造においては、案内部材44のスライド式固定機構61(支持部64)と案内面62との間に脆弱部66を設けることにより、ペダルブラケット34が案内部材44に対して車両後方以外の方向に相対変位するような比較的大きな衝突荷重が入力された場合には、脆弱部66が破損することになり、スライド式固定機構61(支持部60)及び案内面62が破損することは回避される。その結果、ペダルブラケット34を、案内部材44に対して車両後方に確実に相対変位させることができる。
【0048】
さらに、案内部材44の脆弱部66を、案内面62に対して直交する方向に延びる切り欠きとしたので、案内面62が変形したり、破損したりすることを効果的に回避することができる。
【0049】
次に、上述した実施形態では、本発明の車両のペダル支持構造をブレーキペダル22に適用する例を示したが、クラッチペダルに適用することも可能である。
【0050】
また、上述した実施形態では、案内部材44及び車体側取付部材56が固定される車体側部材としてインパネレインフォースメント10を示したが、操作ペダルに近接して配置される車体側部材であれば、インパネレインフォースメント10に限らない。さらに、車体側取付部材56の案内部72は設けないようにしても良い。
【0051】
さらに、上述した実施形態による車両のペダル支持構造は、ブレーキペダル22の支軸26の両端部に固定された鍔付ナット68の鍔部の外周部68aが案内面62によって案内される構成であるが、ペダルブラケット34自体又はブレーキペダル22の支軸26が案内部材44の案内面62により案内されるような構成としてもよい。
【0052】
また、上述した実施形態のペダル支持構造は、通常時にブレーキペダル22の支軸26の両端部に固定された鍔付ナット68の鍔部の外周部68aと案内部材44の案内面62とが当接しない構造、即ち、ペダルブラケット34の移動しろを設けた構造であるが、本発明においては、ブレーキペダル22の支軸26の両端部に固定された鍔付ナット68の鍔部の外周部68a、ペダルブラケット34自体又はブレーキペダル22の支軸26と、案内部材44の案内面62とが通常時においても当接するよう構成しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の車両のペダル支持構造が適用されるブレーキペダル等が設けられた自動車(左ハンドル車)の車室前部を示すの概略図である。
【図2】本発明の車両のペダル支持構造の実施形態を示す概略側面図である。
【図3】本発明の車両のペダル支持構造の実施形態を示す拡大側面図である。
【図4】本発明の車両のペダル支持構造の実施形態を示す斜視図である。
【図5】本発明の車両のペダル支持構造の実施形態を示す部品展開図である。
【図6】図4のVI−VI線に沿って見た部分断面図である。
【図7】本発明の車両のペダル支持構造の実施形態の変形例による図6に相当する部分断面図である。
【図8】本発明の車両のペダル支持構造の実施形態による車両衝突時の動作を示す側面図である。
【符号の説明】
【0054】
1 ダッシュパネル
10 インパネレインフォーレスト
22 ブレーキペダル(操作ペダル)
24 踏み面
26 支軸
30 オペレーティングロッド
31 中間位置
34 ペダルブラケット
36 ダシュパネル固定部
38 本体部
40 側壁部
42 連結部
44 案内部材
46 共締ボルト
48 凹溝
50 貫通孔
54 上壁部
55 側壁部
58 ボルト孔
60 支持部
61 スライド式固定機構
62 案内面
64 腕部
66 脆弱部
68 鍔付ナット
72 案内部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダッシュパネルの後方に設けられ且つその上端部に車幅方向に延びる支軸を備えその下端部に踏み面を備えた操作ペダルをその支軸周りに揺動可能に支持する車両のペダル支持構造であって、
その前端部が上記ダッシュパネルに固定され且つダッシュパネルから後方側に延びると共に上記操作ペダルの支軸が取り付けられるブラケットと、
その前端部が上記ブラケットの後端部と車両衝突時に離脱可能に固定されると共にその後端部が上記ダッシュパネル以外の車体側部材に固定される案内部材であって、上記操作ペダルの支軸の車幅方向に突出した両端部の周りを取り囲み且つ後方部に開口を有する腕部を備えた上記案内部材と、
車両衝突時に上記ブラケットが後方に移動して上記案内部材から離脱するように上記ブラケットの後端部と上記案内部材の前端部に形成されたスライド式固定機構と、
上記操作ペダルの支軸の両端部に上記案内部材の腕部の外側面に面接触するように固定され、上記案内部材に対する上記操作ペダルの支軸の相対位置を規制する相対位置規制部材と、を有し、
上記案内部材は、車両衝突時に、上記ブラケットが後方に移動して上記案内部材から離脱した後に、上記操作ペダルの踏み面が相対的に前方に移動するように、上記ブラケットの姿勢を変化させる案内面を備えていることを特徴とする車両のペダル支持構造。
【請求項2】
上記相対位置規制部材は、上記腕部の外側面に面接触する平面を有する金属製のナット部材である請求項1記載の車両のペダル支持構造。
【請求項3】
上記ナット部材の平面には、金属よりも低摩擦係数の低摩擦部材が固着されている請求項2記載の車両のペダル支持構造。
【請求項4】
上記ナット部材の平面は、円形状である請求項1乃至3の何れか1項記載の車両のペダル支持構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−178611(P2006−178611A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−369335(P2004−369335)
【出願日】平成16年12月21日(2004.12.21)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】