説明

車両の制御装置

【課題】車両の制御装置において、変速時における機関回転数の低下を防止して内燃機関の停止を抑制可能とする。
【解決手段】エンジン11と多段変速機13との間にクラッチ12を設け、多段変速機13の出力軸28にモータジェネレータ14を接続し、このモータジェネレータ14にバッテリ26を接続して構成し、バッテリ26の充電状態量が予め設定された所定値より少ないときに多段変速機13における変速線を高回転数に補正し、多段変速機13による変速時にエンジン11の回転数が自立回転数より低下しないようにモータジェネレータ14によりアシスト可能とし、このモータジェネレータ14が駆動するときに補正された変速線を用いて変速制御を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、内燃機関と変速機と電動機を駆動連結したハイブリッド車両が提案されている。例えば、下記特許文献1に記載されたハイブリッド電気自動車の制御装置では、エンジンの駆動力と電動機の駆動力とを複数の前進変速段を有する自動変速機を介して車両の駆動輪に伝達可能とし、出力可能な最大トルクとして上限トルクを電動機が出力困難となる所定状態が検出されたときには、この所定状態が検出されないときに使用する変速マップと比較し、車両の運転状態の変化に応じたダウンシフトを早めに行うと共に、車両の運転状態の変化に応じたアップシフトを遅めに行う制御マップを用いて自動変速機を制御するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−245805号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来のハイブリッド電気自動車の制御装置では、電動機が上限トルクを出力することが困難であるとき、ダウンシフトを早めに行うと共にアップシフトを遅めに行うように自動変速機を制御している。ところが、自動変速機におけるダウンシフトやアップシフトの時期を考慮した場合、車両の駆動に必要な駆動力を確保することはできるものの、エンジンが駆動していたときには、回転数が必要以上に低下して停止してしまうおそれがある。
【0005】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、変速時における機関回転数の低下を防止して内燃機関の停止を抑制可能とする車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の車両の制御装置は、内燃機関と、前記内燃機関の出力軸側に接続可能な変速機と、前記内燃機関と前記変速機との間の駆動伝達を遮断可能なクラッチと、前記変速機の出力軸側に接続可能な電気モータと、前記電気モータに電力を供給可能な二次電池と、を備える車両において、前記二次電池の充電量が予め設定された所定値より少ないときに前記変速機における変速線を高回転数に補正する変速線補正手段と、前記変速機による変速時に前記内燃機関の回転数が自立回転数より低下しないように前記電気モータにより前記内燃機関をアシストするモータアシスト手段と、前記モータアシスト手段が作動するときに前記変速線補正手段により補正された変速線を用いて変速制御を実行する変速制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0007】
上記車両の制御装置にて、前記変速線補正手段は、前記内燃機関の回転数と前記変速機の変速比と前記二次電池の充電量に応じて危険回転数を求め、この危険回転数に基づいて変速線の補正量を設定することが好ましい。
【0008】
上記車両の制御装置にて、変速指令が入力されたら、前記クラッチにより前記内燃機関と前記変速機との間の駆動伝達を遮断すると共に、前記モータアシスト手段及び変速制御手段を作動し、前記変速制御手段は、前記内燃機関における現在の回転数と前記危険回転数とが同回転数となったら変速完了と判定して作動を停止し、前記クラッチにより前記内燃機関と前記変速機との間の駆動伝達を可能とすると共に、前記モータアシスト手段の作動を停止することが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る車両の制御装置によれば、二次電池の充電量が少ないときに変速機における変速線を高回転数に補正する変速線補正手段と、変速時に内燃機関の回転数が自立回転数より低下しないように電気モータにより内燃機関をアシストするモータアシスト手段と、モータアシスト手段が作動するときに変速線補正手段により補正された変速線を用いて変速制御を実行する変速制御手段とを設けるので、変速時における機関回転数の低下を防止して内燃機関の停止を抑制可能とすることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る車両の制御装置を表す概略構成図である。
【図2】図2は、本実施形態の車両の制御装置における変速制御の処理を表すフローチャートである。
【図3】図3は、本実施形態の車両の制御装置における変速制御の処理を表すフローチャートである。
【図4】図4は、従来の車両の制御装置における変速制御の動作を表すタイムチャートである。
【図5】図5は、本実施形態の車両の制御装置における変速制御の動作を表すタイムチャートである。
【図6】図6は、本実施形態の車両の制御装置における変速制御の動作を表すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明に係る車両の制御装置の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではなく、また、実施形態が複数ある場合には、各実施形態を組み合わせて構成するものも含むものである。
【0012】
〔実施形態〕
図1は、本発明の一実施形態に係る車両の制御装置を表す概略構成図、図2及び図3は、本実施形態の車両の制御装置における変速制御の処理を表すフローチャート、図4は、従来の車両の制御装置における変速制御の動作を表すタイムチャート、図5及び図6は、本実施形態の車両の制御装置における変速制御の動作を表すタイムチャートである。
【0013】
本実施形態のハイブリッド車両は、図1に示すように、動力源としてのエンジン(内燃機関)11と、自動式のクラッチ12と、自動式の多段変速機13と、動力源としてのモータジェネレータ(電気モータ)14と、最終減速装置15と、駆動輪16とを有している。
【0014】
エンジン11としては、燃焼室内で燃料を燃焼させ、これにより発生した熱エネルギを機械的エネルギに変換する熱機関たる内燃機関であって、ガソリンを燃料とし、ピストンの往復運動によって出力軸(クランクシャフト)21から機械的な動力を出力可能となっている。このエンジン11は、燃料噴射装置及び点火装置を有しており、この燃料噴射装置及び点火装置は、動作がエンジン用の電子制御装置(以下、エンジンECUと称する。)101により制御される。このエンジンECU101は、燃料噴射装置の燃料噴射量や燃料噴射時期などを制御すると共に、点火装置の点火時期を制御して、エンジン11の出力軸21から出力される機械的な動力(エンジン出力トルク)の大きさを調整することができる。
【0015】
このエンジンECU101は、CPU(中央演算処理装置)、所定の制御プログラムなどを予め記憶しているROM(Read Only Memory)、そのCPUの演算結果を一時記憶するRAM(Random Access Memory)、予め用意された情報等を記憶するバックアップRAM等で構成されている。
【0016】
モータジェネレータ14は、供給された電力を機械的な動力(モータ出力トルク)に変換して出力軸22から出力するモータ(電動機)としての機能と、出力軸22に入力された機械的な動力を電力に変換して回収するジェネレータ(発電機)としての機能とを兼ね備えている。このモータジェネレータ14は、例えば、永久磁石型交流同期電動機として構成されており、インバータ23から三相の交流電力が供給されて回転磁界を形成するステータ24と、その回転磁界に引き付けられて回転する回転子としてのロータ25とを有している。そのロータ25は、出力軸22と一体になって回転する。また、このモータジェネレータ14は、ロータ25の回転角位置を検出する回転センサ(レゾルバ)が設けられており、その回転センサが検出信号をモータジェネレータ用の電子制御装置(以下、モータECUと称する。)102に送信する。このモータECU102は、CPU、所定の制御プログラム等を予め記憶しているROM、そのCPUの演算結果を一時記憶するRAM、予め用意された情報等を記憶するバックアップRAM等で構成されている。
【0017】
また、モータジェネレータ14は、出力軸22が多段変速機13の出力軸38に連結されている。そして、モータジェネレータ14は、モータとして機能するときには、モータ出力トルクを多段変速機13の出力軸38に伝達する一方、ジェネレータとして機能するときには、多段変速機13の出力軸38からの機械的な動力が出力軸22に入力される。
【0018】
このモータジェネレータ14は、インバータ23を介してバッテリ(二次電池)26が接続されている。このバッテリ26からの直流電力は、インバータ23で交流電力に変換されてモータジェネレータ14に供給される。この交流電力が供給されたモータジェネレータ14は、モータとして作動して、出力軸22からモータ出力トルクを出力する。一方、このモータジェネレータ14をジェネレータとして作動させたときは、このモータジェネレータ14からの交流電力をインバータ23で直流電力に変換してバッテリ26に回収、または、電力の回生を行いながら駆動輪16に制動力(回生制動)を加えることができる。この場合、このモータジェネレータ14は、多段変速機13から出力された機械的な動力(出力トルク)が出力軸22を介してロータ25に入力され、この入力トルクを交流電力に変換する。このインバータ23の動作は、モータECU102によって制御される。
【0019】
バッテリ26は、その充電状態(SOC:State of Charge)などを管理するバッテリ用の電子制御装置(以下、バッテリECUと称する。)103が接続されている。このバッテリECU103は、バッテリ26の充電状態、つまり、充電状態量(SOC量)を検出するSOCセンサ61が設けられている。バッテリECU103は、SOCセンサ61が検出したバッテリ26の充電状態量(SOC量)に関する信号を受信する。そして、このバッテリECU103は、この信号に基づいてバッテリ26の充電状態の判定を行い、充電及び放電の要否を判定する。
【0020】
多段変速機13は、エンジン11の動力(エンジン出力トルク)やモータジェネレータ14の動力(モータ出力トルク)を駆動力とし、最終減速装置15を介して左右の駆動輪16に伝達するものである。
【0021】
この自動式の多段変速機13は、前進5段、後退1段の変速段を有するものであって、前進用の変速段として第1速ギア段31、第2速ギア段32、第3速ギア段33、第4速ギア段34、第5速ギア段35を有し、後退用の変速段として後退ギア段36を有している。前進用の変速段は、変速比が第1速ギア段31、第2速ギア段32、第3速ギア段33、第4速ギア段34、第5速ギア段35の順に小さくなるよう構成されている。また、この多段変速機13は、エンジン11のエンジン出力トルクが伝達される入力軸37と、この入力軸37に対して間隔を空けて平行に配置された出力軸38を有している。なお、この多段変速機13は、その構成を簡易的に説明しており、各変速段の数や配置については、図1のものに限るものではない。
【0022】
ここで、第1速ギア段31は、互いに噛み合い状態にある第1速ドライブギア31aと第1速ドリブンギア31bとで構成され、第1速ドライブギア31aは入力軸37上に配置され、第1速ドリブンギア31bは出力軸38上に配置される。第2速ギア段32は、互いに噛み合い状態にある第2速ドライブギア32aと第2速ドリブンギア32bとで構成され、第2速ドライブギア32aは入力軸37上に配置され、第2速ドリブンギア32bは出力軸38上に配置される。第3速ギア段33は、互いに噛み合い状態にある第3速ドライブギア33aと第3速ドリブンギア33bとで構成され、第3速ドライブギア33aは入力軸37上に配置され、第3速ドリブンギア33bは出力軸38上に配置される。第4速ギア段34は、互いに噛み合い状態にある第4速ドライブギア34aと第4速ドリブンギア34bとで構成され、第4速ドライブギア34aは入力軸37上に配置され、第4速ドリブンギア34bは出力軸38上に配置される。第5速ギア段35は、互いに噛み合い状態にある第5速ドライブギア35aと第5速ドリブンギア35bとで構成され、第5速ドライブギア35aは入力軸37上に配置され、第5速ドリブンギア35bは出力軸38上に配置される。
【0023】
後退ギア段36は、後退ドライブギア36aと後退ドリブンギア36bと後退中間ギア36cとで構成される。後退ドライブギア36aは入力軸37上に配置され、後退ドリブンギア36bは出力軸38上に配置され、後退中間ギア36cは、後退ドライブギア36a及び後退ドリブンギア36bと噛み合い状態にあり、回転軸39上に配置される。
【0024】
なお、実際の多段変速機13の構成においては、各変速段のドライブギアのうちのいずれかが、入力軸37と一体回転するように配設される一方、残りのドライブギアが入力軸37に対して相対回転するように配設される。また、各変速段のドリブンギアは、そのうちのいずれかが出力軸38と一体回転するように配設される一方、残りが出力軸38に対して相対回転するように配設される。
【0025】
また、この実施形態では、変速機として多段変速機13を適用したが、ベルト式あるいはトロイダル式の無段変速機を適用してもよい。また、モータジェネレータ14が変速機13の出力軸38に対して常時連結された構造となっている。しかし、このような構造に限らず、モータジェネレータ14と変速機13の出力軸38をクラッチにより係合及び開放(伝達遮断)可能となるように構成してもよい。また、モータジェネレータ14と変速機13の入力軸37とを直接またはクラッチにより係合及び開放可能となるように構成してもよい。
【0026】
多段変速機13は、変速機用の電子制御装置(以下、変速機ECUと称する。)104により制御される。変速機ECU104は、変速操作装置41が接続されている。そのため、ドライバによる変速操作装置41の操作信号が変速機ECU104に入力され、変速機ECU104は、図示しない油圧装置(油圧アクチュエータ)を用いて多段変速機13における変速段の変更を行う。なお、本実施形態では、油圧装置として油圧アクチュエータ)を用いたが、特にこの構成に限定されるものではなく、例えば、電動アクチュエータを用いてもよい。
【0027】
この場合、多段変速機13の入力軸37や出力軸38は、変速機ECU104により、油圧で軸線方向に移動するスリーブを有している。このスリーブが軸線方向へ移動することで、移動された方向に位置する相対回転可能なドライブギアやドリブンギアを入力軸37や出力軸38と一体回転させる。この多段変速機13は、スリーブが移動することで、変速段への切り替えやニュートラル位置への切り替えを行うことができる。
【0028】
クラッチ12は、エンジン11と多段変速機13との間に介装され、このエンジン11の出力軸21と多段変速機13の入力軸37との間で、動力を伝達可能な係合状態と、動力の伝達を遮断可能な開放状態とに切替可能となっている。このクラッチ12は、乾式または湿式の単板クラッチ、多板クラッチであって、円板状の摩擦板を有し、この摩擦板の摩擦力によりエンジン11のエンジン出力トルクを出力軸21から多段変速機13の入力軸37に伝達することができる。このクラッチ12は、出力軸21に連結される入力側回転部45と、入力軸37に連結される出力側回転部46とを有している。そして、クラッチ12は、クラッチ用の電子制御装置(以下、クラッチECUと称する。)105により制御される。クラッチECU105は、車両の運転状態に応じて、図示しない油圧装置(油圧アクチュエータ)を用いてクラッチ12の作動状態の切替動作(係合及び開放)を行うことができる。
【0029】
最終減速装置15は、多段変速機13の出力軸38から入力された入力トルクを減速して、左右の駆動輪16に分配するものである。この最終減速装置15は、出力軸38の端部に固定されたピニオンギア51と、このピニオンギア51に噛み合って回転トルクを減速させながら回転方向を直交方向へと変換するリングギア52と、このリングギア52を介して入力された回転トルクを左右の駆動輪16に分配する差動機構53とを有している。
【0030】
更に、このハイブリッド車両は、車両全体の動作を統括的に制御する電子制御装置(以下、ハイブリッドECUと称する。)100が設けられている。このハイブリッドECU100は、CPU、所定の制御プログラム等を予め記憶しているROM、そのCPUの演算結果を一時記憶するRAM、予め用意された情報等を記憶するバックアップRAM等で構成されており、エンジンECU101、モータECU102、バッテリECU103、変速機ECU104、クラッチECU105との間で各種センサの検出信号や制御指令等の情報の授受ができる。
【0031】
そして、ハイブリッドECU100においては、その走行モードとして、エンジン走行モード、モータ走行モード、ハイブリッド走行モードが少なくとも用意され、ドライバによる変速操作装置41を操作、ハイブリッド車両の走行状態に基づいて各モードのいずれかを実現可能としている。
【0032】
ハイブリッドECU100は、エンジン11の出力軸21の回転数(エンジン回転数)Neを検出するエンジン回転数センサ62と、変速機13の入力軸37の回転数(インプット回転数)Ninを検出するインプット回転数センサ63と、車速を検出する車速センサ64と、アクセル開度θを検出するアクセル開度センサ65と、ブレーキペダルの踏み込みのON/OFFを検出するブレーキペダルセンサ66とが接続されている。なお、本実施形態では、ブレーキペダルの踏み込みを検出するものとしてブレーキペダルセンサ66を用いたが、特にこの構成に限定されるものではなく、例えば、ブレーキ踏量を検出するブレーキストロークセンサやブレーキ踏力を検出するブレーキ踏力センサとしてもよい。ハイブリッドECU100は、各センサ61〜66の出力信号に基づいて、各ECU101〜105により、エンジン11、クラッチ12、多段変速機13、モータジェネレータ14、バッテリ26を駆動制御可能であり、各種の制御を実現することができる。
【0033】
ハイブリッドECU100は、エンジン走行モードでは、クラッチ12を係合状態としてエンジン11を駆動する。すると、エンジン11が駆動トルクを発生し、この駆動トルクがクラッチ12を介して多段変速機13に伝達される。そして、この駆動トルクが多段変速機13にて変速され、最終減速装置15にて減速されて左右の駆動輪16に配分される。
【0034】
一方、ハイブリッドECU100は、モータ走行モードでは、クラッチ12を開放状態としてエンジン11を多段変速機13から分離し、モータジェネレータ14を駆動する。すると、モータジェネレータ14が駆動トルクを発生し、この駆動トルクが多段変速機13の出力軸38を介して最終減速装置15に伝達され、最終減速装置15にて減速されて左右の駆動輪16に配分される。
【0035】
また、ハイブリッドECU100は、ハイブリッド走行モードでは、クラッチ12を係合状態としてエンジン11を駆動すると共に、モータジェネレータ14を駆動する。すると、エンジン11の駆動トルクがクラッチ12を介して多段変速機13に伝達され、多段変速機13にて変速される。一方、モータジェネレータ14の駆動トルクが多段変速機13の出力軸38に伝達される。そして、エンジン11及びモータジェネレータ14の駆動トルクが最終減速装置15にて減速されて左右の駆動輪16に配分される。
【0036】
そして、ハイブリッドECU100は、このハイブリッド走行モードにて、エンジン11を一時的に停止させるエコラン制御を実現することができる。例えば、ハイブリッド車両が減速走行しているとき、フリーラン走行しているときなど、ハイブリッド車両が駆動トルクを必要としていないときに、ハイブリッドECU100は、クラッチ12を開放状態としてエンジン11を停止させることができる。ハイブリッド走行モードにて、エンジン11を停止することで、燃費を向上することができる。また、このとき、モータジェネレータ14を発電機として用いることで、回生走行を行うようにしてもよいし、モータジェネレータ14を停止してもよい。
【0037】
このように構成された本実施形態の車両の制御装置では、バッテリ26の充電状態量が予め設定された所定値より少ないときに多段変速機13における変速線を高回転数に補正する変速線補正手段と、多段変速機13による変速時にエンジン11の回転数が自立回転数より低下しないようにモータジェネレータ14によりエンジン11をアシストするモータアシスト手段と、モータアシスト手段が作動するときに変速線補正手段により補正された変速線を用いて変速制御を実行する変速制御手段とを設けている。
【0038】
ここで、変速線補正手段と変速制御手段は、変速機ECU104が機能し、モータアシスト手段は、モータECU102が機能するが、ハイブリッドECU100が各ECU101〜105と各種の信号の授受を行うことから、変速線補正手段とモータアシスト手段と変速制御手段は、ハイブリッドECU100が機能するとも言える。
【0039】
そして、変速線補正手段としての変速機ECU104は、エンジン11の負荷と現在の回転数とバッテリ26の充電状態量に応じて危険回転数を求め、この危険回転数に基づいて変速線の補正量を設定する。
【0040】
また、ハイブリッドECU100に変速指令が入力されたら、クラッチECU105がクラッチ12を開放してエンジン11と多段変速機13との間の駆動伝達を遮断し、モータECU102がモータジェネレータ14を作動してエンジン11をアシストすると共に、変速機ECU104が変速線を用いて変速を行い、変速機ECU104は、エンジン11における現在の回転数と危険回転数とが同回転数となったら変速完了と判定して作動を停止し、クラッチECU105がクラッチ12を接続してエンジン11と多段変速機13との間の駆動伝達を可能とすると共に、モータECU102がモータジェネレータ14の作動を停止する。
【0041】
ここで、本実施形態の車両の制御装置による多段変速機13の変速制御の処理について、図2及び図3のフローチャートに基づいて詳細に説明する。
【0042】
一般に、ハイブリッド車両では、走行中に、変速要求により多段変速機13の変速制御を実行する場合がある。このとき、エンジン11の回転数が低下して停止(エンスト)しないように、ドライバからの要求駆動力に応じて、モータジェネレータ14によりハイブリッド車両の駆動力をアシストする必要がある。
【0043】
本実施形態の車両の制御装置による多段変速機13の変速制御において、図2に示すように、ステップS11にて、ハイブリッドECU100は、現在走行しているハイブリッド車両におけるエンジン11のエンスト危険回転数Nedを計算する。このエンスト危険回転数Nedとは、多段変速機13における現在の変速段(変速比)から1段シフトアップしたときに発生する負荷でエンジン11が停止しない回転数の下限値である。ハイブリッドECU100は、現在のエンジン11の回転数と、現在の多段変速機13の変速段と、バッテリ26の充電状態量に基づいてエンスト危険回転数Nedを求める。ここで、現在のエンジン11回転数は、エンジン回転数センサ62により検出される。現在の多段変速機13の変速段は、変速機ECU104の指令値や多段変速機13に設けられた変速位置センサ(図示略)の検出値を用いる。バッテリ26の充電状態量は、SOCセンサ61により検出される。
【0044】
ステップS12にて、ハイブリッドECU100は、エンスト危険回転数Nedに基づいて多段変速機13における変速線の補正量、つまり、変速シフトアップ量Mを設定する。変速機ECU104は、多段変速機13によるシフトアップ時とシフトダウン時における変速エンジン回転数を変速線として設定し、これをマップ化して記憶している。この変速線マップは、エンジン11の危険回転数Nedが考慮されていないことから、エンジン11に大きな負荷が作用して回転数が低下すると、エンストが発生してしまうおそれがある。そのため、現在のハイブリッド車両の走行状態にて、現在のエンジン11におけるエンスト危険回転数Nedに基づいて多段変速機13における変速シフトアップ量Mを設定する。
【0045】
ステップS13にて、バッテリECU103は、SOCセンサ61が検出した現在のバッテリ26の充電状態量SOCが、予め設定された所定の充電状態量SOC1より大きいか否かを判定する。この所定の充電状態量SOC1は、バッテリECU103が、バッテリ26に充電されている現在の充電状態量SOCでは、モータジェネレータ14を駆動してハイブリッド車両をドライバの要求通りに走行させることが困難となる下限値である。
【0046】
ここで、現在のバッテリ26の充電状態量SOCが所定の充電状態量SOC1以下であると判定(No)されたら、ステップS14にて、現在のエンジン11におけるエンスト危険回転数Nedに基づいて設定された多段変速機13における変速シフト量Mにより変速線マップを補正してから、ステップS15に移行する。一方、現在のバッテリ26の充電状態量SOCが所定の充電状態量SOC1より大きいと判定(Yes)されたら、変速線マップを補正せずに、ステップS15に移行する。
【0047】
ステップS15にて、変速機ECU104に変速指令が入力されて多段変速機13の変速を行うか否かを判定する。ここで、変速機ECU104に変速指令が入力されたと判定(Yes)されたら、ステップS16に移行し、変速機ECU104に変速指令が入力されないと判定(No)されたら、ステップS11に戻る。
【0048】
多段変速機13による変速が行われるときには、図3に示すように、ステップS16にて、クラッチECU105が、クラッチ12を開放してエンジン11と多段変速機13との駆動伝達を遮断する。そして、ステップS17にて、モータECU102が、モータジェネレータ14を駆動し、変速時におけるエンジン11の駆動力のアシストを開始する。ステップS18にて、ハイブリッドECU100が、現在のエンジン11におけるエンスト危険回転数Nedを計算する。このエンスト危険回転数Nedの計算方法は、前述したステップS11と同様である。ステップS19にて、ハイブリッドECU100は、ハイブリッド車両における現在の車速と、多段変速機13における次の変速段における変速比(ギア比)から、多段変速機13における次の変速段での変速回転数Ne2を計算する。
【0049】
そして、ステップS20にて、ハイブリッドECU100は、変速回転数Ne2がエンスト危険回転数Nedより低いか否かを判定する。ここで、変速回転数Ne2がエンスト危険回転数Ned以上であると判定(No)されたら、ステップS21にて、変速機ECU104は、多段変速機13を駆動制御して変速を行い、モータECU102は、モータジェネレータ14を駆動してエンジン11をアシスト、つまり、ドライバの要求駆動力が確保できるようにモータジェネレータ14を制御する。そして、ステップS22にて、ハイブリッドECU100は、変速機ECU104による多段変速機13の変速制御が完了したか否かを判定する。ここで、多段変速機13の変速が完了していないと判定(No)されたら、ステップS19に戻り、処理を繰り返す。一方、多段変速機13の変速が完了していると判定(Yes)されたら、ステップS23に移行する。
【0050】
ステップS20にて、変速回転数Ne2がエンスト危険回転数Nedより低いと判定(Yes)されたら、ステップS25にて、エンジンECU101は、現在の回転数Neがエンスト危険回転数Nedより低くならないように、この現在の回転数Neをエンスト危険回転数Nedに維持し変速機ECU104は、多段変速機13を駆動制御して変速を行い、モータECU102は、モータジェネレータ14を駆動してエンジン11をアシストする。そして、ステップS26にて、変速回転数Ne2がエンスト危険回転数Nedになったか否かを判定する。ここで、変速回転数Ne2がエンスト危険回転数Nedにならないと判定(No)されたら、ステップS25に戻って処理を繰り返し、変速回転数Ne2がエンスト危険回転数Nedになったと判定(Yes)されたら、ステップS23に移行する。
【0051】
ステップS23にて、モータECU102は、モータジェネレータ14の駆動を停止してエンジン11のアシストを終了する。そして、ステップS24にて、クラッチECU105は、クラッチ12を接続し、エンジン11とモータジェネレータ14との間での駆動伝達を可能とする。
【0052】
また、ここで、本実施形態の車両の制御装置によるエンジン11の始動制御の動作について、図4乃至図6のタイムチャートに基づいて詳細に説明する。
【0053】
図4及び図5に示すように、多段変速機13による変速が行われるとき、エンジン11の回転数Neが上昇すると共に、次の変速段で接続可能なエンジン回転数(変速回転数)Ne2が上昇する。時間t1にて、多段変速機13による変速が開始され、クラッチ12が開放されると、エンジン11と多段変速機13との駆動伝達が遮断されることから、現在のエンジン11の回転数Neが低下し、エンスト危険回転数Nedに接近する。従来は、図4に示すように、エンスト危険回転数Nedが考慮されていないことから、現在のエンジン11の回転数Neがエンスト危険回転数Nedより低くなる。そして、時間t2にて、現在のエンジン11の回転数Neが変速回転数Ne2と同じになり、ここで、多段変速機13による変速が終了する。そのため、現在のエンジン11の回転数Neがエンスト危険回転数Nedより低くなる図4の領域Aにて、エンストが発生する可能性がある。
【0054】
一方、本実施形態では、図5に示すように、エンスト危険回転数Nedが考慮されている(図3のステップS20,S21)ことから、現在のエンジン11の回転数Neが低下しても、エンスト危険回転数Nedに維持される。そして、時間t3にて、現在のエンジン11の回転数Ne(エンスト危険回転数Ned)が変速回転数Ne2と同じになり、ここで、多段変速機13による変速が終了する。そのため、現在のエンジン11の回転数Neがエンスト危険回転数Nedより低くならないため、エンストが発生する可能性がない。なお、期間Tは、ドライバがブレーキなどにより変速回転数Ne2が低下したことを表した期間であり、従来よりもモータジェネレータ14によるアシスト期間TMGが長くなるものの、エンストの発生を防止することができる。
【0055】
また、本実施形態では、図6に示すように、エンスト危険回転数Nedが考慮されている(図3のステップS20,S21)と共に、バッテリECU103の充電状態量SOCが考慮されている(図4のステップS13,S14)ことから、現在のバッテリ26の充電状態量SOCが所定の充電状態量SOC1以下であると、エンスト危険回転数Nedに基づいて設定された多段変速機13における変速線を高回転側に補正している。そして、時間t2にて、多段変速機13による変速が開始され、クラッチ12が開放されると、エンジン11と多段変速機13との駆動伝達が遮断されることから、現在のエンジン11の回転数Neが低下し、エンスト危険回転数Nedに接近する。しかし、変速線が高回転側に補正されていることから、現在のエンジン11の回転数Neの低下が遅延され、時間t3にて、現在のエンジン11の回転数Neがエンスト危険回転数Nedより低くなる前に変速回転数Ne2と同じになり、ここで、多段変速機13による変速が終了する。そのため、現在のエンジン11の回転数Neがエンスト危険回転数Nedより低くならないため、エンストが発生する可能性がない。更に、この場合、モータジェネレータ14によるアシスト期間TMGが長くなることが抑制され、且つ、エンストの発生を防止することができる。
【0056】
このように本実施形態の車両の制御装置によれば、エンジン11と多段変速機13との間にクラッチ12を設け、多段変速機13の出力軸38にモータジェネレータ14を接続し、このモータジェネレータ14にバッテリ26を接続して構成し、バッテリ26の充電状態量が予め設定された所定値より少ないときに多段変速機13における変速線を高回転数に補正し、多段変速機13による変速時にエンジン11の回転数が自立回転数より低下しないようにモータジェネレータ14によりアシスト可能とし、このモータジェネレータ14が駆動するときに補正された変速線を用いて変速制御を実行するようにしている。
【0057】
従って、バッテリECU103の充電状態量が少ないと、多段変速機13における変速線を高回転側に補正するため、多段変速機13による変速が開始されてクラッチ12が開放されても、エンジン11の回転数Neの低下が遅延され、エンジン11の回転数Neがエンスト危険回転数Nedより低くなる前に変速回転数Ne2と同じになり、多段変速機13による変速が行われることとなり、変速時におけるエンジン11の回転数低下によるエンストの発生を防止することができると共に、モータジェネレータ14によるアシスト期間の長期化が抑制され、燃費の向上を図ることができる。
【0058】
また、本実施形態の車両の制御装置では、エンジン11の回転数と多段変速機13の変速段とバッテリ26の充電状態量に応じて危険回転数を求め、この危険回転数に基づいて変速線の補正量を設定している。従って、変速線の補正量は、エンジン11の回転数と多段変速機13の変速段とバッテリ26の充電状態量に応じて設定されるエンスト危険回転数に基づくことから、変速時におけるエンストを適正に防止することができる。
【0059】
また、本実施形態の車両の制御装置では、変速指令が入力されたら、クラッチ12を開放してエンジン11と多段変速機13との間の駆動伝達を遮断し、モータジェネレータ14を作動してエンジン11をアシストすると共に変速線を用いて変速を行い、エンジン11における現在の回転数と危険回転数とが同回転数となったら変速完了と判定して作動を停止し、クラッチ12を接続してエンジン11と多段変速機13との間の駆動伝達を可能とすると共に、モータジェネレータ14の作動を停止している。従って、エンジン11の停止を防止しながら、短時間で効率的な変速制御を実行することができる。
【符号の説明】
【0060】
11 エンジン(内燃機関)
12 クラッチ
13 多段変速機(変速機)
14 モータジェネレータ(電気モータ)
15 最終減速装置
16 駆動輪
23 インバータ
26 バッテリ(二次電池)
41 変速操作装置
61 SOCセンサ
100 ハイブリッドECU(変速線補正手段、モータアシスト手段、変速制御手段)
101 エンジンECU
102 モータECU(モータアシスト手段)
103 バッテリECU
104 変速機ECU(変速線補正手段、変速制御手段)
105 クラッチECU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、
前記内燃機関の出力軸側に接続可能な変速機と、
前記内燃機関と前記変速機との間の駆動伝達を遮断可能なクラッチと、
前記変速機の出力軸側に接続可能な電気モータと、
前記電気モータに電力を供給可能な二次電池と、
を備える車両において、
前記二次電池の充電量が予め設定された所定値より少ないときに前記変速機における変速線を高回転数に補正する変速線補正手段と、
前記変速機による変速時に前記内燃機関の回転数が自立回転数より低下しないように前記電気モータにより前記内燃機関をアシストするモータアシスト手段と、
前記モータアシスト手段が作動するときに前記変速線補正手段により補正された変速線を用いて変速制御を実行する変速制御手段と、
を備えることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記変速線補正手段は、前記内燃機関の回転数と前記変速機の変速比と前記二次電池の充電量に応じて危険回転数を求め、この危険回転数に基づいて変速線の補正量を設定することを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
変速指令が入力されたら、前記クラッチにより前記内燃機関と前記変速機との間の駆動伝達を遮断すると共に、前記モータアシスト手段及び変速制御手段を作動し、前記変速制御手段は、前記内燃機関における現在の回転数と前記危険回転数とが同回転数となったら変速完了と判定して作動を停止し、前記クラッチにより前記内燃機関と前記変速機との間の駆動伝達を可能とすると共に、前記モータアシスト手段の作動を停止することを特徴とする請求項1または2に記載の車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−245877(P2012−245877A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−118962(P2011−118962)
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】