説明

車両の前部構造

【課題】 フロントピラーへの窓部の形成という複雑な構造を採らずに、運転席からのフロントコーナ部材の向こう側の視認性を向上するとともに、運転者の疲労を軽減する。
【解決手段】 ウインドシールドガラス13の側縁とサイドガラス14dの前縁の間にフロントコーナ部材16が設けられる。瞳孔間隔66mmの運転者12がフロントコーナ部材16の方向を両眼12a,12bで見たときに、フロントコーナ部材16に向けられた運転者12の視線上に運転者12の瞳孔12c,12dから少なくとも5m離れた車外の対象物18が存在し、車両の運転席に着席した運転者12が見たときのフロントコーナ部材16の幅及び対象物18の幅をそれぞれM及びAとし、Aが155mmとすると、フロントコーナ部材16が存在しても、対象物18のA/3以上の部分を運転者12が視認できるMをフロントコーナ部材16が有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラック、乗用車、バス等のフロントピラー及びドアフレームからなるフロントコーナ部材やフロントピラーからなるフロントコーナ部材の構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
小型トラックの関与した死亡事故は、小型トラックが交差点で対向車線を横切って曲がるとき、即ち交差点右折時における横断中の歩行者との衝突事故が最も多い。具体的には、2000年の小型トラックの関与した死亡事故の統計データによれば、事故の相手としては、図9に示すように、歩行者が465人中98人と最も多く、自転車運転者が465人中96人と2番目に多かった。また相手が歩行者及び自転車運転者である場合、歩行者及び自転車運転者の行動としては、図10に示すように、交差点横断中が194人中99人(歩行者:45人、自転車運転者:54人)と最も多かった。更に相手が交差点横断中の歩行者である場合、小型トラックの行動としては、図11に示すように、交差点右折時が45人中25人と最も多かった。このように小型トラックの交差点右折時における横断中の歩行者との衝突事故が多い一因としては、図12に示すように、小型トラック1が右折しようとして交差点5に進入するとき、小型トラック1の運転者2が直進する対向車に気を取られて右折側の横断歩道3を横断する歩行者8に気付かず、直進する対向車がなくなって小型トラック1が右折し始めてから右折側の横断歩道3上を見るため、歩行者8が運転席側のフロントコーナ部材6に隠れて視認し難いことが挙げられる。特に車両1の剛性を高めるためにフロントコーナ部材6を太くした車両1では、歩行者8が運転席側のフロントコーナ部材6に隠れる割合が多い。
【0003】
この点を解消するために、窓などが形成されたフロントピラーが開示されている(例えば、特許文献1及び2参照。)。特許文献1には、金属材料で形成した外枠部と、合成樹脂等透明材料で形成した中央窓部とからなる車両のフロントピラーが記載されている。この車両のフロントピラーでは、運転席からの死角を減少でき、運転室の視界拡大を図ることができるので、安全性を向上できるようになっている。
また上記特許文献2には、自動車のフロントピラーに窓が設けられ、この窓に透明板が固定された自動車が提案されている。このフロントピラーに窓を付けた自動車では、右折又は左折時に、フロントピラーの窓を透して歩行者をいち早く確認でき、交通事故を未然に防止できるようになっている。
【特許文献1】実開昭63−142276号公報(請求項1、明細書第2頁第15行目〜第16行目、明細書第3頁第17行目〜第19行目、第1図)
【特許文献2】実用新案登録第3039981号公報(請求項1、段落[0005]、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記従来の特許文献1に示された車両のフロントピラーや特許文献2に示されたフロントピラーに窓を付けた自動車では、フロントピラーの窓部の曇りに対する配慮や、部品点数及び製造工数の増大など、克服しなければならない技術的課題が多いため、実現が難しかった。
本発明の目的は、フロントピラーへの窓部の形成という複雑な構造を採らずに、運転席からのフロントコーナ部材の向こう側の視認性を向上できるとともに、運転者の疲労を軽減できる、車両の前部構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に係る発明は、図1〜図3及び図5に示すように、ウインドシールドガラス13の側縁とサイドガラス14dの前縁との間に、ウインドシールドガラス13の側縁及びサイドガラス14dの前縁に沿って延びるフロントコーナ部材16が設けられた車両の前部構造の改良である。
その特徴ある構成は、車両10の運転席に着席しかつ瞳孔間隔が66mmである運転者12がフロントコーナ部材16の方向を両眼12a,12bで見たときであって、フロントコーナ部材16に向けられた運転者12の視線上に運転者12の瞳孔12c,12dから少なくとも5m離れた車外の対象物18が存在し、車両10の運転席に着席した運転者12が見たときのフロントコーナ部材16の幅及び対象物18のの幅をそれぞれM及びAとし、このAが155mmであるとき、フロントコーナ部材16が存在しても、対象物18のA/3以上の部分を運転者12が視認できるMをフロントコーナ部材16が有するところにある。
【0006】
この請求項1に記載された車両の前部構造では、例えば対向車線のある最も狭い道路19の交差点22、即ち対面通行の片側一車線道路19の交差点22で右折するためにこの交差点22で車両10を一時停止させた状態で、この車両10の運転者12が右斜め前方の車外に対象物18が存在するか否かを確認するときであって、この車両10の運転者12を18才以上の日本人男性のうち平均的な瞳孔間隔66mmを有する日本人男性(以下、JM50の日本人男性という)とするとき、JM50の日本人男性の運転者12、即ち18才以上の全日本人男性のうちの半数の運転者12は、幅Mのフロントコーナ部材16が存在しても、対象物18のA/3以上の部分を視認できる。換言すれば、JM50の日本人男性の運転者12は比較的遠い上記歩行者18に両眼12a,12bの焦点を合わせており、両眼12a,12bの視差により運転者12の近くに存在するフロントコーナ部材16の幅Mが比較的狭く、両眼死角領域から歩行者18のA/3以上の部分がはみ出すので、運転者12はこのはみ出し部分を左眼12a又は右眼12bのいずれか一方又は双方で視認できる。また18才以上の日本人の瞳孔間隔には大きな差がないため、JM50の日本人男性の運転者が対象物のA/3以上の部分を見ることができれば、18才以上の大部分の日本人の運転者が対象物を実用上確実に視認できる。
【0007】
ここで、車両10の運転者12の瞳孔間隔を66mmに規定したのは、無作為で選んだ100人の自動車の普通免許又は大型免許等を取得可能な18才以上の日本人男性を身長の小さい順に1列に並ばせたとき、前から50番目の日本人男性の両眼の瞳孔間隔Dが66mmであり、18才以上の日本人男性のうち平均的な瞳孔間隔を有する日本人男性(JM50の日本人男性)を基準にしたからである。
また、対象物18の幅Aを155mmと規定したのは、交差点等の横断歩道を単独で渡る者のうち最も小さい者を日本人の小学1年生、即ち日本人の7才児と考え、この日本人の7才児のうち最も幅が狭い状態が運転者の視線方向に対して横を向いたときの胸厚であり、この日本人の7才児の胸幅の平均値が155mmだからである。
また、運転者12の瞳孔12c,12dから対象物18までの距離を少なくとも5mと規定したのは、対向車線のある最も狭い道路の交差点22、即ち対面通行の片側一車線道路の交差点22で車両10が走行道路19から交差道路21に右折するときに、この車両10の運転者12の瞳孔12c,12dから交差道路21の右側の横断歩道21aを横断している歩行者等の対象物18までの距離が約5mだからである。
更に、運転者12の視認できる対象物18の範囲をA/3以上の部分としたのは、評価試験を行った結果、フロントコーナ部材16が存在しても、運転者12が対象物18を認識できる幅の最小値がA/3であったからである。
【0008】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明であって、更に図1〜図3及び図5に示すように、車両10の運転席に着席した運転者12が見たときのフロントコーナ部材16の幅が58mmを越えかつ72mm以下であることを特徴とする。
この請求項2においてフロントコーナ部材16の幅を58mmを越えかつ72mm以下としたのは、通常の車両10において運転者12がフロントコーナ部材16を見たときに、運転者12の瞳孔12c,12dからフロントコーナ部材16までの距離が約700mmであり、この場合の請求項1に記載された対象物18のA/3以上の部分の視認性を確保できるフロントコーナ部材16の実際上の幅を規定したものである。
請求項3に係る発明は、請求項1に係る発明であって、更に図1〜図3及び図5に示すように、フロントコーナ部材16が存在しても、対象物18のA/2以上の部分を運転者12が視認できるMをフロントコーナ部材16が有することを特徴とする。
この請求項3に記載された車両の前部構造では、請求項1に対して対象物18の視認できる幅をA/3からA/2と拡大することにより、対象物18の視認性を大幅に高めることができる。
請求項4に係る発明は、請求項3に係る発明であって、更に図1〜図3及び図5に示すように、車両10の運転席に着席した運転者12が見たときのフロントコーナ部材16の幅が58mmを越えかつ68mm以下であることを特徴とする。
この請求項4においてフロントコーナ部材16の幅を58mmを越えかつ68mm以下としたのは、通常の車両10において運転者12がフロントコーナ部材16を見たときに、運転者12の瞳孔12c,12dからフロントコーナ部材16までの距離が約700mmであり、この場合の請求項3に記載された対象物18のA/2以上の部分の視認性を確保できるフロントコーナ部材16の実際上の幅を規定したものである。
【0009】
請求項5に係る発明は、図1〜図3及び図8に示すように、請求項1がJM50の日本人男性を運転者12としているのに対して、18才以上の日本人女性のうち比較的狭い瞳孔間隔を有する日本人女性(以下、JF5の日本人女性という)を運転者12としている。この請求項5に記載された発明では、請求項1と同様に交差点22で車両10を一時停止させた状態で、この車両10の右斜め前方の車外に請求項1と同一の対象物18が同一の状態で存在するとき、JF5の日本人女性の運転者12、即ち18才以上の日本人の大部分の運転者12は、幅Mのフロントコーナ部材16が存在しても、対象物18のA/3以上の部分を視認できる。また18才以上の日本人の瞳孔間隔には大きな差がないため、JF5の日本人女性の運転者12が対象物のA/3以上の部分を視認できれば、18才以上の殆ど全ての日本人の運転者12が対象物18のA/3以上の部分を実用上確実に視認できる。
ここで、車両10の運転者12の瞳孔間隔を58mmに規定したのは、無作為で選んだ100人の自動車の普通免許又は大型免許等を取得可能な18才以上の日本人女性を身長の小さい順に1列に並ばせたとき、前から5番目の日本人女性の両眼の瞳孔間隔Dが58mmであり、一般的に日本人男性より日本人女性の方が瞳孔間隔が狭く、18才以上の日本人女性のうち比較的狭い瞳孔間隔を有する日本人女性(JF5の日本人女性)を基準にしたからである。なお、無作為で選んだ100人の自動車の普通免許又は大型免許等を取得可能な18才以上の日本人男性を身長の小さい順に1列に並ばせたとき、前から5番目の日本人男性(JM5の日本人男性)の両眼の瞳孔間隔Dは59mmであり、上記JF5の日本人女性の瞳孔間隔と殆ど変わらない。
また、対象物18の幅を155mmと規定し、運転者12の瞳孔12c,12dから対象物18までの距離を少なくとも5mと規定したのは、上記請求項1と同様の理由に基づく。
【0010】
請求項6に係る発明は、請求項5に係る発明であって、更に図1〜図3及び図8に示すように、車両10の運転席に着席した運転者12が見たときのフロントコーナ部材16の幅が58mmを越えかつ65mm以下であることを特徴とする。
この請求項6においてフロントコーナ部材16の幅を58mmを越えかつ65mm以下としたのは、通常の車両10において運転者12がフロントコーナ部材16を見たときに、運転者12の瞳孔12c,12dからフロントコーナ部材16までの距離が約700mmであり、この場合の請求項5に記載された対象物18のA/3以上の部分の視認性を確保できるフロントコーナ部材16の実際上の幅を規定したものである。
請求項7に係る発明は、請求項5に係る発明であって、更に図1〜図3及び図8に示すように、フロントコーナ部材16が存在しても、対象物18のA/2以上の部分を運転者12が視認できるMをフロントコーナ部材16が有することを特徴とする。
この請求項7に記載された車両の前部構造では、請求項5に対して対象物18の視認できる幅をA/3からA/2と拡大することにより、対象物18の視認性を大幅に高めることができる。
請求項8に係る発明は、請求項7に係る発明であって、更に図1〜図3及び図8に示すように、車両10の運転席に着席した運転者12が見たときのフロントコーナ部材16の幅が58mmを越えかつ61mm以下であることを特徴とする。
この請求項8においてフロントコーナ部材16の幅を58mmを越えかつ61mm以下としたのは、通常の車両10において運転者12がフロントコーナ部材16を見たときに、運転者12の瞳孔12c,12dからフロントコーナ部材16までの距離が約700mmであり、この場合の請求項7に記載された対象物18のA/2以上の部分の視認性を確保できるフロントコーナ部材16の実際上の幅を規定したものである。
【発明の効果】
【0011】
以上述べたように、本発明によれば、車両の運転席に着席したJM50の日本人男性の運転者がフロントコーナ部材の方向を両眼で見たときに、フロントコーナ部材が存在しても、対象物のA/3以上の部分を視認できる幅Mをフロントコーナ部材が有するので、18才以上の全日本人男性の半数の運転者は、フロントコーナ部材の向こう側を視認するために上体を左右に動かす必要がなく、首のみを動かしてフロントコーナ部材の方向を正視するだけで、横断歩道等を単独で渡る最も小さい車外の対象物を確実に視認できる。また18才以上の日本人の瞳孔間隔には大きな差がないため、JM50の日本人男性の運転者が対象物のA/3以上の部分視認できれば、18才以上の大部分の日本人の運転者が対象物を実用上確実に視認できる。この結果、運転席からのフロントコーナ部材の向こう側の視認性を向上できるとともに、運転者の疲労を軽減できる。また車両の運転者が外国人であっても、この外国人の瞳孔間隔は日本人の運転者の瞳孔間隔とさほど変わらず、対象物が外国人の7才児であっても、この外国人の7才児の胸幅は日本人の7才児の胸幅と殆ど変わらないため、本発明は日本国内だけでなく外国においても適用でき、上記と同等の効果が得られる。
また車両の運転席に着席した運転者が見たときのフロントコーナ部材の幅が58mmを越えかつ72mm以下であれば、通常の車両において運転者がフロントコーナ部材を見たときに、運転者の瞳孔からフロントコーナ部材までの距離が約700mmであり、この場合の対象物のA/3以上の部分の視認性を確保できるフロントコーナ部材の実際上の幅となり、上記と同様の効果が得られる。
またJM50の日本人男性の運転者が車外の対象物を見たときに、フロントコーナ部材が存在しても、対象物のA/2以上の部分を視認できる幅Mをフロントコーナ部材が有すれば、18才以上の全日本人男性の半数の運転者が上記対象物のA/2以上と上記A/3以上の場合より多い部分を視認できる、即ち大部分の運転者がA/3以上の部分を視認できる。この結果、運転席からのフロントコーナ部材の向こう側の視認性を大幅に向上できるとともに、運転者の疲労をより軽減できる。
また車両の運転席に着席した運転者が見たときのフロントコーナ部材の幅が58mmを越えかつ68mm以下であれば、通常の車両において運転者がフロントコーナ部材を見たときに、運転者の瞳孔からフロントコーナ部材までの距離が約700mmであり、この場合の対象物のA/2以上の部分の視認性を確保できるフロントコーナ部材の実際上の幅となり、上記と同様の効果が得られる。
【0012】
また車両の運転席に着席したJF5の日本人女性の運転者がフロントコーナ部材の方向を両眼で見たときに、フロントコーナ部材が存在しても、対象物のA/3以上の部分を視認できる幅Mをフロントコーナ部材が有すれば、18才以上の大部分の日本人の運転者は、フロントコーナ部材の向こう側を視認するために上体を左右に動かす必要がなく、首のみを動かしてフロントコーナ部材の方向を正視するだけで、車外の対象物を上記より確実に視認できる。また18才以上の日本人の瞳孔間隔には大きな差がないため、JF5の日本人女性の運転者が対象物のA/3以上の部分を視認できれば、18才以上の殆ど全ての日本人の運転者が横断歩道等を単独で渡る最も小さい車外の対象物を実用上確実に視認できる。この結果、運転席からのフロントコーナ部材の向こう側の視認性を更に向上できるとともに、運転者の疲労を更に軽減できる。
また車両の運転席に着席した運転者が見たときのフロントコーナ部材の幅が58mmを越えかつ65mm以下であれば、通常の車両において運転者がフロントコーナ部材を見たときに、運転者の瞳孔からフロントコーナ部材までの距離が約700mmであり、この場合の対象物のA/3以上の部分の視認性を確保できるフロントコーナ部材の実際上の幅となり、上記と同様の効果が得られる。
またJF5の日本人女性の運転者が車外の対象物を見たときに、フロントコーナ部材が存在しても、対象物のA/2以上の部分を視認できる幅Mをフロントコーナ部材が有すれば、18才以上の大部分の日本人の運転者が上記対象物のA/2以上と上記A/3以上の場合より多い部分を視認できる。この結果、運転席からのフロントコーナ部材の向こう側の視認性は極めて良好になるとともに、運転者の疲労は極めて少なくなる。
更に車両の運転席に着席した運転者が見たときのフロントコーナ部材の幅が58mmを越えかつ61mm以下であれば、通常の車両において運転者がフロントコーナ部材を見たときに、運転者の瞳孔からフロントコーナ部材までの距離が約700mmであり、この場合の対象物のA/2以上の部分の視認性を確保できるフロントコーナ部材の実際上の幅となり、上記と同様の効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
<第1の実施の形態>
図2〜図4に示すように、トラック10のキャブ11の右側には運転者12の着席する運転席が設けられ、キャブ11の前面のフロント開口部11aは透明のウインドシールドガラス13により閉止される。またキャブ11の運転席側の側面には運転者12が乗降するためのサイド開口部11bが設けられ、このサイド開口部11bはサイドドア14により開放可能に閉止される(図3及び図4)。サイドドア14は、ドア本体14aと、このドア本体14aの上面に設けられドア窓14bを形成するために略逆U字状に形成されたドアフレーム14cと、ドア窓14bを開放可能に閉止する透明のサイドガラス14dとを有する。ウインドシールドガラス13の右側縁とサイドガラス14dの前縁との間には、ウインドシールドガラス13の右側縁及びサイドガラス14dの前縁に沿って延びるフロントコーナ部材16が設けられる(図1及び図3)。フロントコーナ部材16は、この実施の形態では、フロントピラー17とドアフレーム14cとガラスフレーム14eとガラスラン14fとウエザストリップ37とにより構成される。またドアフレーム14cは、ドアインナパネル14gとドアアウタパネル14hとを接合することにより形成される(図3)。更に上記ガラスフレーム14eはドアフレーム14cに挿着され、上記ガラスラン14fはサイドガラス14dを保持し案内するためにガラスフレーム14eに装着される。
【0014】
この実施の形態の特徴ある構成は、トラック10の運転席に着席しかつ瞳孔間隔が66mmであるJM50の日本人男性の運転者12がフロントコーナ部材16の方向を両眼12a,12bで見たときであって、フロントコーナ部材16に向けられた運転者12の視線上に運転者12の瞳孔12c,12dから少なくとも5m離れた車外の対象物18(図1及び図2)が存在し、車両10の運転席に着席した運転者12が見たときのフロントコーナ部材16及び対象物18の幅をそれぞれM(図3)及びA(図1)とし、このAが155mmであるとき、フロントコーナ部材16が存在しても、対象物18のA/3以上の部分を運転者12が視認できるMをフロントコーナ部材16が有するところにある。車外の対象物18は、この実施の形態では、トラック10の走行する走行道路19と交差する交差道路21のうち両道路19,21の交差点22のトラック10の運転者から見て右側の横断歩道21aを単独で渡る歩行者のうち最も小さい者、即ち日本人の7才児(小学1年生)である(図1及び図2)。ここで、歩行者18の幅を155mmと規定したのは、上記[発明が解決しようとする手段]の請求項1に記載した理由に基づく。また車両10の運転者12の瞳孔間隔を66mmに規定したのは、上記[発明が解決しようとする手段]の請求項1に記載した理由に基づく。更に運転者12の瞳孔12c,12dから歩行者18までの距離を少なくとも5mと規定したのは、上記[発明が解決しようとする手段]の請求項1に記載した理由に基づく。
【0015】
一方、トラック10の運転席に着席した運転者12が見たときのフロントコーナ部材16の幅Mは、この実施の形態では、72mm以下であり、好ましくは58mmを越えかつ72mm以下である。この運転席に着席した運転者12が見たときのフロントコーナ部材16の幅とは、運転者12がフロントコーナ部材16を正視し(図1)、運転者12の両眼12a,12bの瞳孔12c,12dを結ぶ線分を含む略水平面で上記フロントコーナ部材16を切断し(図3)、更に運転者12の両眼12a,12bの瞳孔12c,12dを結ぶ線分の中点からこの線分に直交する垂線S(視線方向、図1)をフロントコーナ部材16に向って略水平面内で引いたときに、この垂線に平行な2本の平行線S1及びS2(図3)でフロントコーナ部材16を挟んだこれら2本の平行線の間隔M(図3)をいう。なお、運転者12がフロントコーナ部材16を正視するとしたけれども、図1では説明を分かり易くするため簡略的に右眼の瞳孔を基準に表現している。また図1において、両眼死角領域とは運転者12の両眼12a,12bで視認できない領域をいい、左眼死角領域とは運転者12の右眼12bで視認できるけれども左眼12aで視認できない領域をいい、右眼死角領域とは運転者12の左眼12aで視認できるけれども右眼12bで視認できない領域をいう。なお、この実施の形態では、運転者の両眼の瞳孔を結ぶ線分を含む略水平面でフロントコーナ部材を切断したが、水平面又は傾斜面に拘らず運転者の両眼と歩行者を含む平面でフロントコーナ部材を切断してもよい。
【0016】
上記フロントコーナ部材16の幅Mの最大値(72mm)は、運転者12の瞳孔12c,12dから車外の歩行者18までの距離をL1とし、運転者12の瞳孔12c,12dからフロントコーナ部材18までの距離をL2とし、瞳孔間隔をDとし、車外の歩行者18の幅をAとするとき、次の式(1)から求められる(図1、図3及び図5)。
M = [〔(2/3)×A−D〕/L1]×L2+D ……(1)
上記式(1)に、L1=5000mm、L2=700mm、D=66mm、A=155mmをそれぞれ代入すると、M=71.23mmとなり、小数点以下を切り上げてM=72mmとなる。なお、運転者12の瞳孔12c,12dからフロントコーナ部材16までの距離L2を700mmとしたのは、このL2が車種によって或いは運転席の前後方向への調整によって異なるため、その平均値を採ったものであり、積載量がほぼ2トンであるキャブオーバ型トラックにおける位置関係、即ち運転者12の瞳孔12c,12dからフロントコーナ部材16までの距離L2が約700mmだからである。また、図1に示すように、運転者12の両眼死角領域内にフロントコーナ部材16が収まるように、フロントコーナ部材の幅Mと、運転者12の瞳孔12c,12dからフロントコーナ部材18までの距離をL2とが設定される。また対象物18のA/3以上の部分を運転者12が視認できるMをフロントコーナ部材16が有することから、フロントコーナ部材16により遮られて歩行者18の2A/3未満の部分、例えば歩行者18の半分又は一部分を視認できなくてもよい。更に当然のことながら、歩行者18の幅が155mmを越える場合は、運転者12は対象物18のA/3を越える部分を視認できる。
【0017】
フロントピラー17は、ピラーインナパネル31の両側縁とピラーアウタパネル32の両側縁をそれぞれ接合することにより、例えばほぼ鉛直方向に延びる筒状に形成される(図3)。これによりフロントピラー17の横断面は閉断面に形成される。ピラーインナパネル31は、トラック10の運転席に着席した運転者12の視線方向に沿って設けられたピラーインナ本体31aと、ピラーインナ本体31aの前縁にこのピラーインナ本体31aと一体的に形成された第1フロントフランジ31bと、ピラーインナ本体31aの後縁にこのピラーインナ本体31aと一体的に形成された第1リヤフランジ31cとを有する。一方、ピラーアウタパネル32は、ドアフレーム14cの前面に略対向して設けられたピラーアウタ本体32aと、ピラーアウタ本体32aの前縁にこのピラーアウタ本体32aと一体的に形成された第2フロントフランジ32bと、ピラーアウタ本体32aの後縁にこのピラーアウタ本体32aと一体的に形成された第2リヤフランジ32cとを有する(図3)。また第1フロントフランジ31bのピラー外面と第2フロントフランジ32bのピラー内面とを接合することによりフロント重ね合せ部33が形成され、第1リヤフランジ31cのピラー内面と第2リヤフランジ32cのピラー内面とを接合することによりリヤ重ね合せ部34が形成される(図3)。更にフロント重ね合せ部33とウインドシールドガラス13の内面との隙間には接着剤36が充填され、この接着剤36によりウインドシールドガラス13の側縁がフロントピラー17に取付けられる。更にリヤ重ね合せ部34には、フロントピラー17とドアフレーム14cとの隙間を塞ぐウエザストリップ37が装着される。
【0018】
このように構成されたトラック10の動作を説明する。
図2に示すように、トラック10が対面通行の片側一車線道路を走行し、交差点22で右折するとき、走行道路19の対向車線を直進する対向車が通り過ぎるまで交差点22で停止して待つ。対向車が通り過ぎた後に、トラック10の走行道路19に交差する交差道路21の右側の横断歩道21a上を見て歩行者18が横断しているか否かを確認する。このとき運転者12をJM50の日本人男性とし、この運転者12の瞳孔12c,12dから交差道路21の右斜め前方の車外の歩行者18までの距離L1を5mとし、その歩行者18の幅Aを日本人の7才児の胸幅Aの平均値を155mmとすると、JM50の日本人男性の運転者12、即ち18才以上の全日本人男性のうちの半数の運転者12は、フロントコーナ部材16が存在しても、歩行者18のA/3以上の部分を視認できる(図1)。具体的には、歩行者18が運転者12の両眼死角領域から右眼死角領域にはみ出しているため、左眼12aで歩行者18のA/3以上の部分を視認できる。歩行者18のA/3以上の部分を視認できれば、フロントコーナ部材18の向こう側に歩行者18が存在することを認識できることは実験で確認した。また18才以上の日本人の瞳孔間隔には大きな差がないため、JM50の日本人男性の運転者12が歩行者18のA/3以上の部分を視認できれば、18才以上の大部分の日本人の運転者12が歩行者18を確実に視認できる。
【0019】
一方、図6に示すように、車高の高いボンネット型のRV(レジャービークル)車では、特別のミラー41が左側フロントフェンダ10aの前部上面に取付けられたものが知られている(例えば、特開平8−216788号参照)。この特別のミラー41は『直前直左用ミラー』と呼ばれ、RV車等の前方直下から側方直下にかけて運転者12の死角を視認するためのものである。この特別のミラー41の視界を評価する際に、対象物として、日本人の6才児の肩幅を直径とし身長を高さとする円柱体、即ち直径×高さが300mm×1mである円柱体28(図1)で評価される。この円柱体28を歩行者とし、運転者12の瞳孔間隔Dを、上記[発明が解決しようとする手段]の請求項5に記載したJF5の日本人女性の瞳孔間隔58mmとし、上記式(1)中の『2/3』を『x』とする。即ち、上記式(1)に、M=72mm、L1=5000mm、L2=700mm、D=58mm、A=300mmをそれぞれ代入してxを求めると、x=0.527となる。この結果、歩行者28の視認できる部分は(1−0.527)×300=142mmとなり、JF5の日本人女性の運転者12、即ち殆ど全ての日本人の運転者が歩行者28の約1/2(47.3%)の部分を視認できる。この結果、フロントコーナ部材16の幅Mが72mmであれば、歩行者10の幅(胸幅)が155mmであるときJM50の日本人男性の運転者が歩行者のA/3の部分を視認でき、歩行者の直径(肩幅)が300mmであるとき瞳孔間隔の狭いJF5の日本人女性の運転者でも歩行者の約A/2の部分を視認できる。従って、トラック10の運転者12はフロントコーナ部材16の向こう側を視認するために上体を左右に動かす必要がなく、首のみを動かしてフロントコーナ部材16の方向を正視するだけで横断歩道21a上の歩行者18,28を確実に視認できるとともに、運転者12の疲労を軽減できる。また運転者12は横断歩道21a上に歩行者18がいないと判断すると、速やかに交差点22を右折する。更に運転者12が見たときのフロントコーナ部材16の幅を72mm以下、好ましくは58mmを越えかつ72mm以下と狭くすることにより、ウインドシールドガラス13の両側部が拡大される。この拡大されたウインドシールドガラス13の両側部は、ワイパにより払拭できるとともに、デフロスタにより曇りを確実に除去できる。この結果、運転者12のウインドシールドガラスを通した前方及び斜め前方の視認性を更に高めることができる。
【0020】
なお、上記第1の実施の形態では、フロントコーナ部材16を、車外の歩行者18のA/3以上の部分を視認できる幅Mに形成したが、フロントコーナ部材16を、車外の歩行者18のA/2以上の部分を視認できる幅Mに形成することが好ましい。この場合、運転席に着席した運転者12が見たときのフロントコーナ部材16の幅は68mm以下、好ましくは58mmを越えかつ68mm以下となる。このフロントコーナ部材16の幅Mの最大値(68mm)は、次の式(2)から求められる(図1、図3及び図5)。
M = [〔(1/2)×A−D〕/L1]×L2+D ……(2)
上記式(2)に、L1=5000mm、L2=700mm、D=66mm、A=155mmをそれぞれ代入すると、M=67.61mmとなり、小数点以下を切り上げてM=68mmとなる。
このように構成すれば、JM50の日本人男性の運転者12、即ち18才以上の全日本人男性のうちの半数の運転者12は、上記歩行者18のA/2以上の部分を視認できる。また図1の円柱体28を歩行者とし、運転者12の瞳孔間隔DをJF5の日本人女性の瞳孔間隔58mmとし、上記式(2)中の『1/2』を『y』とする。即ち、上記式(2)に、M=68mm、L1=5000mm、L2=700mm、D=58mm、A=300mmをそれぞれ代入してyを求めると、y=0.431となる。この結果、歩行者28の視認できる部分は(1−0.431)×300=171mmとなり、JF5の日本人女性の運転者12、即ち殆ど全ての日本人の運転者が歩行者28の1/2以上(約56%)の部分を視認できる。従って、上記第1の実施の形態より歩行者18,28の視認性を向上できる。
【0021】
一方、第1の実施の形態では、歩行者18を7才児とし、この歩行者18の幅を運転者12の視線方向に対して直角方向に向いた極めて稀な場合の胸幅155とする厳しい条件の下で説明したけれども、実際上、上記歩行者18は様々な方向を向き、また歩行者18がランドセル等を背負っている場合を考え合せれば、瞳孔間隔が66mmであるJM50の日本人男性の運転者にとって歩行者18の胸幅A=155mmのA/3の部分が見えれば、実用上、瞳孔間隔が66mm以下の運転者12であっても上記歩行者18を十分に認識でき、大部分の運転者12が歩行者18を視認できる。
また歩行者28を肩幅(直径)300mmの6才児としても、この歩行者28の肩幅A=300mmのA/3の部分が見えれば、実際上の子供を視認することは可能である。JM50の日本人男性の運転者12にとって歩行者28の肩幅A=300mmのA/3の部分が見えるフロントコーナ部材16の幅Mは、次の式(1)から求めることができる。
M = [〔(2/3)×A−D〕/L1]×L2+D ……(1)
上記式(1)に、L1=5000mm、L2=700mm、D=66mm、A=300mmをそれぞれ代入すると、M=84.76mmとなり、小数点以下を切り上げてM=85mmとなる。フロントコーナ部材16の幅Mが85mm以下、好ましくは58mmを越えかつ85mm以下であれば、直径300mmの対象物28である実際上の子供を視認できる。
【0022】
一方、図7に示すように、従来のフロントコーナ部材6は、第1ウエザストリップ9aとフロントピラー7と第2ウエザストリップ9bとドアフレーム4cとガラスフレーム4eとガラスラン4fとにより構成される。この従来の小型トラックのフロントコーナ部材6の幅M、即ち第1ウエザストリップ9aからガラスラン4fまでの幅Mを測定したところ92〜98mmであった。上記式(1)に、M=92mm、L1=5000mm、L2=700mm、D=66mmをそれぞれ代入すると、A=377.6mmとなり、2A/3=251.7mmとなる。また上記式(1)に、M=98mm、L1=5000mm、L2=700mm、D=66mmをそれぞれ代入すると、A=441.9mmとなり、2A/3=294.6mmとなる。従って、車外の対象物を肩幅(直径)300mmの6才児とすると、運転者はフロントコーナ部材6により遮られて83.9%[(251.7/300)×100]から99.5%[(294.6/300)×100]の部分を視認できず、本発明のフロントコーナ部材の方が従来のフロントコーナ部材6より格段に視界を改善できる。なお、図7中の符号9cはウインドシールドガラスである。
【0023】
<第2の実施の形態>
図8は本発明の第2の実施の形態を示す。また便宜上、上記第1の実施の形態に用いた図1〜図4も利用して説明する。
この実施の形態では、車両10の運転席に着席しかつ瞳孔間隔が58mmであるJF5の日本人女性の運転者12がフロントコーナ部材16の方向を両眼12a,12bで見たときであって、フロントコーナ部材16に向けられた運転者12の視線上に運転者12の瞳孔12c,12dから少なくとも5m離れた車外の歩行者18(図1及び図2)が存在し、車両10の運転席に着席した運転者12が見たときのフロントコーナ部材16の幅及び歩行者18の幅をそれぞれM(図3)及びA(図1)とし、このAが155mmであるとき、フロントコーナ部材16が存在しても、歩行者18のA/3以上の部分を運転者12が視認できるMをフロントコーナ部材16が有する。ここで、車両10の運転者12の瞳孔間隔を58mmに規定したのは、上記[発明が解決しようとする課題]の請求項5に記載した理由に基づく。また、歩行者18の幅を155mmと規定し、運転者12の瞳孔12c,12dから歩行者18までの距離を少なくとも5mと規定したのは、上記[発明が解決しようとする課題]の請求項1に記載した理由に基づく。
【0024】
一方、トラック10の運転席に着席した運転者12が見たときのフロントコーナ部材16の幅は、この実施の形態では、65mm以下、好ましくは58mmを越えかつ65mm以下である。この運転席に着席した運転者12が見たときのフロントコーナ部材16の幅とは、上記第1の実施の形態で定義した幅をいう。
上記フロントコーナ部材16の幅Mの最大値(65mm)は次の式(1)から求められる(図1、図3及び図8)。
M = [〔(2/3)×A−D〕/L1]×L2+D ……(1)
上記式(1)に、L1=5000mm、L2=700mm、D=58mm、A=155mmをそれぞれ代入すると、M=64.35mmとなり、小数点以下を切り上げてM=65mmとなる。なお、運転者12の瞳孔12c,12dからフロントコーナ部材16までの距離L2を700mmとしたのは、上記第1の実施の形態に記載した理由と同一の理由に基づく。上記以外は第1の実施の形態と同一に構成される。
【0025】
このように構成されたトラック10の動作を説明する。
図2に示すように、トラック10が対面通行の片側一車線道路を走行し、交差点22で右折するとき、走行道路19の対向車線を直進する対向車が通り過ぎるまで交差点22で停止して待つ。対向車が通り過ぎた後に、トラック10の走行道路19に交差する交差道路21の右側の横断歩道21a上を見て歩行者18が横断しているか否かを確認する。このとき運転者12がJF5の日本人女性とし、この運転者12の瞳孔12c,12dから交差道路21の右斜め前方の車外の歩行者18までの距離L1を5mとし、その歩行者18の幅Aを日本人の7才児の胸幅Aの平均値を155mmとすると、JF5の日本人女性の運転者12、即ち18才以上の大部分の日本人の運転者12は、フロントコーナ部材16が存在しても、歩行者18のA/3以上の部分を視認できる(図1)。具体的には、歩行者18が運転者12の両眼死角領域から右眼死角領域にはみ出しているため、左眼12aで歩行者18のA/3以上の部分を視認できる。また18才以上の日本人の瞳孔間隔には大きな差がないため、JF5の日本人女性の運転者12が歩行者18のA/3以上の部分を視認できれば、18才以上の殆ど全ての日本人の運転者12が歩行者18を確実に視認できる。また18才以上の日本人の瞳孔間隔には大きな差がないため、JF5の日本人女性の運転者12が歩行者のA/3以上の部分を視認できれば、18才以上の殆ど全ての日本人の運転者12が歩行者18を確実に視認できる。従って、トラック10の運転者12はフロントコーナ部材16の向こう側を視認するために上体を左右に動かす必要がなく、首のみを動かしてフロントコーナ部材16の方向を正視するだけで横断歩道21a上の歩行者18を確実に視認できるとともに、運転者12の疲労を軽減できる。上記以外の動作は第1の実施の形態と同様であるので、繰返しの説明を省略する。
【0026】
なお、上記第2の実施の形態では、フロントコーナ部材16を、車外の歩行者18のA/3以上の部分を視認できる幅Mに形成したが、フロントコーナ部材16を、車外の歩行者18のA/2以上の部分を視認できる幅Mに形成することが好ましい。この場合、運転席に着席した運転者12が見たときのフロントコーナ部材16の幅は61mm以下、好ましくは58mmを越えかつ61mm以下となる。このフロントコーナ部材16の幅Mの最大値(61mm)は次の式(2)から求められる(図1、図3及び図8)。
M = [〔(1/2)×A−D〕/L1]×L2+D ……(2)
上記式(2)に、L1=5000mm、L2=700mm、D=58mm、A=155mmをそれぞれ代入すると、M=60.73mmとなり、小数点以下を切り上げてM=61mmとなる。
このように構成すれば、JF5の日本人女性の運転者12、即ち18才以上の殆ど全ての日本人の運転者12は、上記歩行者18のA/2以上の部分を視認できるので、上記第2の実施の形態より歩行者18の視認性を向上できる。
また、上記第1及び第2の実施の形態では、車両としてトラックを挙げたが、乗用車又はバスでもよい。
また、車両の運転者が外国人であっても、この外国人の瞳孔間隔は日本人の運転者の瞳孔間隔とさほど変わらず、対象物が外国人の7才児であっても、この外国人の7才児の胸幅は日本人の7才児の胸幅と殆ど変わらず、対象物が外国人の6才児であっても、この外国人の6才児の肩幅は日本人の6才児の肩幅と殆ど変わらないため、本発明は日本国内だけでなく外国においても適用でき、上記と同等の効果が得られる。
更に、上記第1及び第2の実施の形態では、車両として右側に運転席を有する車両、いわゆる右ハンドル車両を挙げたが、左側に運転席を有する車両、いわゆる左ハンドル車両にも本発明を適用できる。この場合、運転席側、即ち左側のフロントコーナ部材に本発明が適用される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明第1及び第2実施形態のトラックのフロントコーナ部材と運転者の両眼と車外の対象物との位置関係を示す平面図である。
【図2】そのトラックが交差点で右折するときの状況を示す平面図である。
【図3】図4のB−B線断面図である。
【図4】フロントコーナ部材を含むトラックの要部斜視図である。
【図5】第1実施形態のJM50の日本人男性の運転者が5m離れた日本人の7才児を見たときにこの7才児のA/3の部分及びA/2の部分を視認できるフロントコーナ部材の幅Mの最大値と、6才児を見たときの6才児のA/3の部分を視認できるフロントコーナ部材の幅Mの最大値と、従来のフロントコーナ部材の幅Mを92mm及び98mmとしたときの日本人の6才児がフロントコーナ部材により遮られて見えない幅をそれぞれ示す図である。
【図6】車高の高いボンネット型のRV車の特別のミラーを含む要部側面図である。
【図7】従来のフロントコーナ部材を示す図3に対応する断面図である。
【図8】第2実施形態のJF5の日本人女性の運転者が5m離れた日本人の7才児を見たときにこの7才児のA/3の部分及びA/2の部分を視認できるフロントコーナ部材の幅Mの最大値をそれぞれ示す図である。
【図9】2000年の小型トラックの関与した死亡事故の相手の種類とその種類毎の死者数を示す図である。
【図10】図9の相手が歩行者及び自転車運転者である場合の歩行者及び自転車運転者の行動の種類とその種類毎の歩行者等の死者数を示す図である。
【図11】図10の相手が交差点横断中の歩行者である場合の小型トラックの行動の種類とその種類毎の歩行者の死者数を示す図である。
【図12】従来の小型トラックが交差点で右折するときの状況を示す平面図である。
【符号の説明】
【0028】
10 トラック(車両)
12 運転者
12a,12b 眼
12c,12d 瞳孔
13 ウインドシールドガラス
14d サイドガラス
16 フロントコーナ部材
18 歩行者(車外の対象物)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウインドシールドガラス(13)の側縁とサイドガラス(14d)の前縁との間に、前記ウインドシールドガラス(13)の側縁及び前記サイドガラス(14d)の前縁に沿って延びるフロントコーナ部材(16)が設けられた車両の前部構造において、
前記車両(10)の運転席に着席しかつ瞳孔間隔が66mmである運転者(12)がフロントコーナ部材(16)の方向を両眼(12a,12b)で見たときであって、
前記フロントコーナ部材(16)に向けられた前記運転者(12)の視線上に前記運転者(12)の瞳孔(12c,12d)から少なくとも5m離れた車外の対象物(18)が存在し、前記車両(10)の運転席に着席した運転者(12)が見たときの前記フロントコーナ部材(16)の幅及び前記対象物(18)の幅をそれぞれM及びAとし、このAが155mmであるとき、前記フロントコーナ部材(16)が存在しても、前記対象物(18)のA/3以上の部分を前記運転者(12)が視認できるMを前記フロントコーナ部材(16)が有することを特徴とする車両の前部構造。
【請求項2】
車両(10)の運転席に着席した運転者(12)が見たときのフロントコーナ部材(16)の幅が58mmを越えかつ72mm以下である請求項1記載の車両の前部構造。
【請求項3】
フロントコーナ部材(16)が存在しても、対象物(18)のA/2以上の部分を運転者(12)が視認できるMを前記フロントコーナ部材(16)が有する請求項1記載の車両の前部構造。
【請求項4】
車両(10)の運転席に着席した運転者(12)が見たときのフロントコーナ部材(16)の幅が58mmを越えかつ68mm以下である請求項3記載の車両の前部構造。
【請求項5】
ウインドシールドガラス(13)の側縁とサイドガラス(14d)の前縁との間に、前記ウインドシールドガラス(13)の側縁及び前記サイドガラス(14d)の前縁に沿って延びるフロントコーナ部材(16)が設けられた車両の前部構造において、
前記車両(10)の運転席に着席しかつ瞳孔間隔が58mmである運転者(12)がフロントコーナ部材(16)の方向を両眼(12a,12b)で見たときであって、
前記フロントコーナ部材(16)に向けられた前記運転者(12)の視線上に前記運転者(12)の瞳孔(12c,12d)から少なくとも5m離れた車外の対象物(18)が存在し、前記車両(10)の運転席に着席した運転者(12)が見たときの前記フロントコーナ部材(16)の幅及び前記対象物(18)の幅をそれぞれM及びAとし、このAが155mmであるとき、前記フロントコーナ部材(16)が存在しても、前記対象物(18)のA/3以上の部分を前記運転者(12)が視認できるMを前記フロントコーナ部材(16)が有することを特徴とする車両の前部構造。
【請求項6】
車両(10)の運転席に着席した運転者(12)が見たときのフロントコーナ部材(16)の幅が58mmを越えかつ65mm以下である請求項5記載の車両の前部構造。
【請求項7】
フロントコーナ部材(16)が存在しても、対象物(18)のA/2以上の部分を運転者(12)が視認できるMをフロントコーナ部材(16)が有する請求項5記載の車両の前部構造。
【請求項8】
車両(10)の運転席に着席した運転者(12)が見たときのフロントコーナ部材(16)の幅が58mmを越えかつ61mm以下である請求項7記載の車両の前部構造。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図1】
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【図2】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−347440(P2006−347440A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−177930(P2005−177930)
【出願日】平成17年6月17日(2005.6.17)
【出願人】(000005463)日野自動車株式会社 (1,484)
【Fターム(参考)】