説明

車両の前部構造

【課題】前面衝突時の車両前部の潰れ量がステアリングギアボックスにより阻害されることを防止し、衝撃を効果的に吸収することができる車両の前部構造を提供すること。
【解決手段】ステアリングギアボックス12は、衝突による車両前部の変形を受けてパワーユニット7の下方へ移動するようにサスペンションメンバ4の下部に配置されている。このため、車両衝突時には、ステアリングギアボックス12は、パワーユニット7の下方に潜り込むように移動し、車両前部の潰れ方向において、ステアリングギアボックス12が、パワーユニット7と車両の他の部材との間に挟まれることを回避できる。これによって、車両前部の潰れ量がステアリングギアボックス12によって阻害されることを防止でき、衝撃を効果的に吸収できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の前面衝突時の衝撃を効果的に吸収することができる車両の前部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両が前面衝突した際の乗員の安全性能を向上させるためには、衝突時の前方からの荷重によりフロントサイドフレームおよびサスペンションメンバなどの車両前部をより大きく潰すことで、衝突エネルギーを吸収し、乗員居室部の変形を抑えることが最も基本的かつ効果的な手段である。
【0003】
車両前部の潰れ量を阻害するものとしては、エンジンとトランスミッションからなるパワーユニットと、コンプレッサー、オルタネーターおよびポンプなどの補機類に加え、ステアリングギアボックスおよび前輪などが挙げられる。
【0004】
衝突時の衝撃を吸収するための従来の車両の前部構造として、図51に示すようなものが知られている(例えば、特許文献1等参照)。
【0005】
まず、構成から説明すると、車両の両側に設置され、車両の前方に延びるフロントサイドフレーム1(車両後方視で左側のみを図示)と、フロントサイドフレーム1と並行して車両の両側に設置されたフロントサイドフレームアッパ2(車両後方視で左側のみを図示)と、車両の両側のフロントサイドフレーム1の前端間を接続するフロントクロスメンバ3と、フロントサイドフレーム1を基端として車両前方に延びるサスペンションメンバ4とを備えており、車両の両側のフロントサイドフレーム1の間であってサスペンションメンバ4の上部にエンジン5およびトランスミッション6を一体化したパワーユニット7が搭載されている。
【0006】
パワーユニット7の車両後方であって、サスペンションメンバ4の上方には、ステアリングギアボックス12が配置されている。
【0007】
フロントサイドフレーム1とサスペンションメンバ4とは、サスペンションメンバサポート8で連結され、パワーユニット7の車両前方には、冷却ファン9、ラジエータ10およびロアクロスメンバ11が配置され、車両後方にはダッシュボード15が配置されている。
【0008】
次に、このように構成された従来の車両の前部構造の作用について説明すると、車両が前面衝突すると、図52および図53に示すように、前方からの衝撃によりフロントサイドフレーム1およびフロントサイドフレームアッパ2が変形すると共に、冷却ファン9やラジエータ10が押し潰され、また、パワーユニット7が後退することにより、車両前部の潰れ量が確保される。
【特許文献1】特開平8−310444号公報(図1乃至図4、0009段落乃至0024段落)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の車両の前部構造では、ステアリングギアボックス12がパワーユニット7とダッシュボード15の間に挟まれるため、車両前部の潰れ量を阻害するという問題がある。
【0010】
そこで、本発明は、前面衝突時の車両前部の潰れ量がステアリングギアボックスにより阻害されることを防止し、衝撃を効果的に吸収することができる車両の前部構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、請求項1の発明は、車両前部に搭載したパワーユニットと、前記パワーユニットの車両前方側または車両後方側に配置したステアリングギアボックスと、前記ステアリングギアボックスを支持するサスペンションメンバとを有する車両の前部構造であって、
前記ステアリングギアボックスは、衝突による車両前部の変形を受けて前記パワーユニットの下方へ移動するように前記サスペンションメンバの下部に配置されている車両の前部構造を特徴としている。
【0012】
また、請求項2に記載されたものは、前記ステアリングギアボックスは、前記サスペンションメンバの下面に形成された凹み部に配置されている請求項1記載の車両の前部構造を特徴としている。
【0013】
さらに、請求項3に記載されたものは、前記ステアリングギアボックスには、車両前部の変形を前記ステアリングギアボックスに伝える突出部が車両前方に一体に設けられている請求項1または請求項2記載の車両の前部構造を特徴としている。
【0014】
さらに、請求項4に記載されたものは、前記サスペンションメンバには、前記ステアリングギアボックスを前記パワーユニットの下方へ移動させるガイド部が形成されている請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の車両の前部構造を特徴としている。
【0015】
さらに、請求項5に記載されたものは、前記ガイド部は、車両の衝突に伴う前記サスペンションメンバの変形によって形成されたものである請求項4記載の車両の前部構造を特徴としている。
【0016】
さらに、請求項6に記載されたものは、前記ガイド部は、サスペンションクロスメンバに沿って装備したガイド部材によって形成されている請求項4記載の車両の前部構造を特徴としている。
【0017】
さらに、請求項7に記載されたものは、前記ステアリングギアボックスの前記パワーユニット側には、前記ステアリングギアボックスを前記パワーユニットの下方へ移動させるガイド部材が配置されている請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の車両の前部構造を特徴としている。
【0018】
さらに、請求項8に記載されたものは、前記パワーユニットの車両前方には、前記ステアリングギアボックスを前記パワーユニットの下方へ移動させるガイド部材が配置されている請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の車両の前部構造を特徴としている。
【0019】
さらに、請求項9に記載されたものは、前記ステアリングギアボックスは、前記サスペンションメンバの下方において車両前後方向に延設され且つ車両前方からの所定値以上の衝撃荷重の入力によって分離可能に該サスペンションメンバに固設されたステアリングギアボックスマウント部材の上部に配設されている請求項1または請求項2記載の車両の前部構造を特徴としている。
【0020】
さらに、請求項10に記載されたものは、前記ステアリングギアボックスマウント部材は、該ステアリングギアボックスマウント部材に車両後方側に向けて形成されたマウント部材側傾斜部と、前記サスペンションメンバに車両前方側に向けて形成されたサスペンション側傾斜部とを係合させて、前記サスペンションメンバに固設されている請求項9記載の車両の前部構造を特徴としている。
【0021】
さらに、請求項12に記載されたものは、前記ステアリングギアボックスの前記パワーユニット側には、前記ステアリングギアボックスを前記パワーユニットの下方へ移動させるガイド部材が配置されている請求項9または請求項10記載の車両の前部構造を特徴としている。
【0022】
さらに、請求項13に記載されたものは、前記パワーユニットの車両前方には、前記ステアリングギアボックスを前記パワーユニットの下方へ移動させるガイド部材が配置されている請求項9または請求項10記載の車両の前部構造を特徴としている。
【0023】
さらに、請求項14に記載されたものは、前記ステアリングギアボックスには、ステアリングホイールの回動操作を該ステアリングギアボックスに伝達するケーブルが接続されており、該ケーブルは、衝突時に前記ステアリングギアボックスが前記パワーユニットの下方へ移動する距離分の長さを余裕分として有して配策されている請求項1乃至請求項13のいずれか一項に記載の車両の前部構造を特徴としている。
【0024】
さらに、請求項15に記載されたものは、前記ケーブルは、車体構造部分に設置されたケーブル保持部を経由して迂回させるように配策されている請求項14記載の車両の前部構造を特徴としている。
【0025】
さらに、請求項16に記載されたものは、前記車体構造部分は、フロントクロスメンバである請求項15記載の車両の前部構造を特徴としている。
【0026】
さらに、請求項17に記載されたものは、前記車体構造部分は、フロントサイドフレームである請求項15記載の車両の前部構造を特徴としている。
【0027】
さらに、請求項18に記載されたものは、前記車体構造部分は、サスペンションメンバである請求項15記載の車両の前部構造を特徴としている。
さらに、請求項19に記載されたものは、前記ステアリングギアボックスの下方にステアリングギアボックス保護部材を配置すると共に、該ステアリングギアボックス保護部材と、前記ステアリングギアボックスとの間を連結すると共に、該ステアリングギアボックス保護部材の移動により、該ステアリングギアボックスを下方に引下げる連結部材を設けた請求項1乃至請求項13のいずれか一項に記載の車両の前部構造を特徴としている。
【0028】
さらに、請求項20に記載されたものは、前記連結部材は、回動ジョイント部を有して、屈曲された状態で、前記ステアリングギアボックス保護部材と、前記ステアリングギアボックスとの間を連結すると共に、該ステアリングギアボックス保護部材の移動により、該回転ジョイント部を直線状に伸張させることにより、前記ステアリングギアボックスを下方に引下げる屈曲ロッド部材からなる請求項19記載の車両の前部構造を特徴としている。
【0029】
さらに、請求項21に記載されたものは、前記ステアリングギアボックスの断面の周方向に相対移動可能なリング状部材を介して、該ステアリングギアボックスに一端を連結する請求項20記載の車両の前部構造を特徴としている。
【0030】
さらに、請求項22に記載されたものは、前記連結部材は、該ステアリングギアボックスに一端を連結すると共に、他端を前記ステアリングギアボックス保護部材に弛ませた状態で連結して、該ステアリングギアボックス保護部材の移動により、直線状に伸張されて、前記ステアリングギアボックスを下方に引下げるワイヤ連結部材からなる請求項19記載の車両の前部構造を特徴としている。
【0031】
請求項23に記載された発明は、請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の車両の前部構造において、衝突によりパワーユニットに生じる車両前方への慣性力を、前記ステアリングギアボックスを車両下方へ移動させる力に変換する変換手段を備えていることを特徴としている。
【0032】
請求項24に記載の発明は、請求項23に記載の車両の前部構造において、前記変換手段として、前記パワーユニットとその車両前方に間隔を空けて配置されたステアリングギアボックスとの少なくとも一方に、前記慣性力を伝達可能な伝達ブラケットが、前記パワーユニットとステアリングギアボックスとの他方に向けて取り付けられていることを特徴としている。
【0033】
請求項25に記載の発明は、請求項23に記載の車両の前部構造において、前記変換手段として、前記パワーユニットの車両後方側部分と、パワーユニットの車両前方に配置された前記ステアリングギアボックスの車両下方側部分とを、前記慣性力を伝達可能に連結して配索されたワイヤが設けられていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0034】
このように構成された請求項1に記載のものは、ステアリングギアボックスは、衝突による車両前部の変形を受けてパワーユニットの下方に移動するように、サスペンションメンバの下部に配置されている。
このため、車両衝突時には、ステアリングギアボックスはパワーユニットの下方に潜り込むように移動し、車両前部の潰れ方向において、ステアリングギアボックスがパワーユニットと車両の他の部材との間に挟まれることを回避できる。
これによって、車両前部の潰れ量がステアリングギアボックスによって阻害されることを防止でき、衝撃を効果的に吸収することができる。
【0035】
また、請求項2に記載されたものは、サスペンションメンバの下面に形成された凹み部にステアリングギアボックスが配置されている。
これによって、ステアリングギアボックスの地上高を大きくすることができ、路面からのチッピング等による損傷を低減することができる。
【0036】
さらに、請求項3に記載されたものは、ステアリングギアボックスには、車両前部の変形をステアリングギアボックスに伝える突出部が車両前方に一体に設けられている。
これによって、ステアリングギアボックスは、衝突の際に早期にサスペンションメンバによる固定から解放され、ステアリングギアボックスをより確実にパワーユニットの下方に潜り込むように移動させることができる。
また、突出部をパワステアリング用のモータアクチュエータや油圧アクチュエータのようなステアリングギアボックスと一体化したデバイスで構成すると、車両空間の有効活用を図ることができる。
【0037】
さらに、請求項4に記載されたものは、サスペンションメンバ自身にステアリングギアボックスをパワーユニットの下方に移動させるガイド部を形成している。
これによって、ステアリングギアボックスをパワーユニットの下方に移動させるための別部材を設ける必要はなく、構成が複雑化するのを回避できる。
【0038】
さらに、請求項5に記載されたものは、車両の衝突に伴うサスペンションメンバの変形によってステアリングギアボックスをパワーユニットの下方へ移動させるガイド部が形成されるようになっている。
これによって、ステアリングギアボックスをパワーユニットの下方に移動させるための別部材を設ける必要はなく、構成が複雑化するのを回避できる。
【0039】
さらに、請求項6に記載されたものは、ガイド部は、サスペンションクロスメンバに沿って装備したガイド部材によって形成されている。
これによって、車両の前部構造を殆ど変化させることなくステアリングギアボックスをパワーユニットの下方に移動させることができる。
【0040】
さらに、請求項7に記載されたものは、ステアリングギアボックスのパワーユニット側には、ステアリングギアボックスをパワーユニットの下方へ移動させるガイド部材が配置されている。
これによって、車両の前部構造を殆ど変化させることなくステアリングギアボックスをパワーユニットの下方に移動させることができる。
【0041】
さらに、請求項8に記載されたものは、パワーユニットの車両前方には、ステアリングギアボックスをパワーユニットの下方へ移動させるガイド部材が配置されている。
これによって、車両の前部構造を殆ど変化させることなくステアリングギアボックスをパワーユニットの下方に移動させることができる。
【0042】
さらに、請求項9に記載されたものは、ステアリングギアボックスは、サスペンションメンバの下方において車両前後方向に延設され且つ車両前方からの所定値以上の衝撃荷重の入力によって分離可能にサスペンションメンバに固設されたステアリングギアボックスマウント部材に配設されている。
これによって、車両前方から所定値以上の衝撃荷重の入力があったときは、ステアリングギアボックスマウント部材がサスペンションメンバから安定的に分離して、ステアリングギアボックスは、パワーユニットの下方に潜り込むように移動するようになり、ステアリングギアボックスが、パワーユニットと車両の他の部材との間に挟まれることを安定的に回避できるようになる。
また、ステアリングギアボックスマント部材は、ステアリングギアボックスの下方に位置しているため、車両の走行中に路面から跳ね上げられた小石等が直接ステアリングギアボックスに当たることがないため、ステアリングギアボックスの損傷を回避できる等の保護機能が付与される。
【0043】
さらに、請求項10に記載されたものは、ステアリングギアボックスマウント部材は、ステアリングギアボックスマウント部材に車両後方側に向けて形成されたマウント部材側傾斜部と、サスペンションメンバに車両前方側に向けて形成されたサスペンション側傾斜部とを係合させて、サスペンションメンバに固設されている。
これによって、車両前方から所定値以上の衝撃荷重の入力があったときは、マウント部材側傾斜部とサスペンション側傾斜部との係合部に沿ってステアリングギアボックスマウント部材が車両の後下方向により安定的に移動し、ステアリングギアボックスがパワーユニットと車両の他の部材との間に挟まれることをより安定的に回避できるようになる。
【0044】
さらに、請求項11に記載されたものは、サスペンションメンバ自身にステアリングギアボックスをパワーユニットの下方に移動させるガイド部を形成している。
これによって、ステアリングギアボックスをパワーユニットの下方に移動させるための別部材を設ける必要はなく、構成が複雑化するのを回避できる。
【0045】
さらに、請求項12に記載されたものは、ステアリングギアボックスのパワーユニット側には、ステアリングギアボックスをパワーユニットの下方へ移動させるガイド部材が配置されている。
これによって、車両の前部構造を殆ど変化させることなくステアリングギアボックスをパワーユニットの下方に移動させることができる。
【0046】
さらに、請求項13に記載されたものは、パワーユニットの車両前方には、ステアリングギアボックスをパワーユニットの下方へ移動させるガイド部材が配置されている。
これによって、車両の前部構造を殆ど変化させることなくステアリングギアボックスをパワーユニットの下方に移動させることができる。
【0047】
さらに、請求項14に記載されたものは、ステアリングホイールの回動操作をステアリングギアボックスに伝達するケーブルに、衝突時にステアリングギアボックスがパワーユニット等の構造物と干渉することなく下方に移動する距離分の長さを余裕分として与えて配策されているので、車両衝突時にステアリングギアボックスがパワーユニットの下方へ移動する。
このように、車両衝突時には、ケーブル長の余裕分がステアリングギアボックスをパワーユニットの下方に確実に移動させるため、パワーユニットとステアリングギアボックスが干渉することがなくなり、車両の衝突スペースが大幅に増加し、衝撃を効果的に吸収できるようになる。
【0048】
さらに、請求項15に記載されたものは、ケーブルは、車体構造部分に設置されたケーブル保持部を経由して迂回させるように配策されている。
これによって、車両衝突時には、ケーブル保持部は車体構造部分の変形により車両後方へ移動し、またはケーブル保持部自身が破損し、ケーブルに確実に撓みが発生してステアリングギアボックスの移動が阻害されるのを回避できる。
【0049】
さらに、請求項16に記載されたものは、ケーブル保持部が設置される車体構造部分は、車両衝突時に変形を受けやすいフロントクロスメンバとしたものである。
これによって、車両衝突時には、ケーブル保持部の後方移動または破損がより生じやすくなり、ステアリングギアボックスの移動が阻害されるのをより効果的に回避できる。
さらに、請求項17に記載されたものは、ケーブル保持部が設置される車体構造部分は、車両衝突時に変形を受けやすいフロントサイドフレームとしたものである。
これによって、車両衝突時には、ケーブル保持部の後方移動または破損がより生じやすくなり、ステアリングギアボックスの移動が阻害されるのをより効果的に回避できる。
【0050】
さらに、請求項18に記載されたものは、ケーブル保持部が設置される車体構造部分は、車両衝突時に変形を受けやすいサスペンションメンバとしたものである。
これによって、車両衝突時には、ケーブル保持部の後方移動または破損がより生じやすくなり、ステアリングギアボックスの移動が阻害されるのをより効果的に回避できる。
【0051】
さらに、請求項19に記載されたものは、変形により、前記ステアリングギアボックス保護部材が移動すると、前記連結部材によって、前記ステアリングギアボックスが、下方に引下げられる。
このため、さらに確実に、前記ステアリングギアボックスを、前記パワーユニットの下方へ移動させることができる。
【0052】
さらに、請求項20に記載されたものは、前記ステアリングギアボックス保護部材の移動により、前記回転ジョイント部が直線状に伸張されて、下方に引き下げる力を、前記ステアリングギアボックスに伝達する。
このため、該直線状に伸張された屈曲ロッド部材によって、前記ステアリングギアボックスが、下方に引下げられて、さらに確実に、前記ステアリングギアボックスを、前記パワーユニットの下方へ移動させることができる。
さらに、請求項21に記載されたものは、前記リング状部材が、前記ステアリングギアボックスの断面の周方向に相対移動して、さらに、円滑に前記ステアリングギアボックスを前記パワーユニットの下方へ移動させることができる。
【0053】
さらに、請求項22に記載されたものは、前記ステアリングギアボックス保護部材の移動により、前記ワイヤ連結部材が、直線状に伸張して、下方に引き下げる力を、前記ステアリングギアボックスに伝達する。
このため、該ワイヤ連結部材によって、前記ステアリングギアボックスが、下方に引下げられて、さらに確実に、前記ステアリングギアボックスを、前記パワーユニットの下方へ移動させることができる。
【0054】
さらに、請求項23乃至請求項25に記載された発明では、車両の前面衝突時に、パワーユニットに生じる車両前方への慣性力が、変換手段により、ステアリングギアボックスを車両下方へ移動させる力に変換される。
【0055】
このため、ステアリングギアボックスを、さらに確実に、パワーユニットの下方へ移動させることができる。
【0056】
なお、請求項24に記載の発明では、パワーユニットの慣性力が、パワーユニットとステアリングギアボックスとの少なくとも一方に、他方に向けて取り付けられた伝達ブラケットを介してステアリングギアボックスに伝達される。
このように、伝達ブラケットを付加した単純でコスト的に有利な手段により、上記効果が得られる。
【0057】
また、請求項25に記載の発明では、パワーユニットの慣性力が、パワーユニットの車両後方側部分とステアリングギアボックスの車両下方側部分とを連結して配索されたワイヤを介して伝達される。
ワイヤは、小さなスペースでも配索が可能であるため、パワーユニットやステアリングギアボックスに、伝達ブラケットを設置するスペースを確保できない場合であっても、ワイヤを配索して上記効果を達成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0058】
以下、本発明の車両の前部構造の最良の実施の形態について図面を参照して説明する。
なお、前記従来例と同一乃至均等な部分については、同一符号を付して説明する。
【0059】
[実施例1]
まず、構成から説明すると、このような本実施例1の車両の前部構造では、図1および図2に示すように、車両の両側に設置され、車両の前方に延びるフロントサイドフレーム1(車両後方視で左側のみを図示)と、フロントサイドフレーム1と並行して車両の両側に設置されたフロントサイドフレームアッパ2(車両後方視で左側のみを図示)と、車両の両側のフロントサイドフレーム1の前端間を接続するフロントクロスメンバ3と、フロントサイドフレーム1を基端として車両前方に延びるサスペンションメンバ4とを備えており、車両の両側のフロントサイドフレーム1の間であってサスペンションメンバ4の上部にエンジン5およびトランスミッション6を一体化したパワーユニット7が搭載されている。
【0060】
サスペンションメンバ4は、車両の両側に設置され、車両前方に延びるサスペンションサイドメンバ4a(車両後方視で左側のみを図示)と、車両の両側のサスペンションサイドメンバ4aの前端間を接続するサスペンションクロスメンバ4bと、車両前方で上向きとなるように傾いていると共に下面に傾斜部4iを有するガイド部4cとを備えており、ガイド部4cの先端にサスペンションクロスメンバ4bが取り付けられている。
【0061】
そして、サスペンションメンバ4の下面には、ガイド部4cとサスペンションクロスメンバ4bに囲まれて凹み部4dが車幅方向に形成され、この凹み部4dにおいて、ステアリングギアボックス12がサスペンションクロスメンバ4bの下面にマウントブラケット13およびボルト14,14用いて固定配置されている。
【0062】
フロントサイドフレーム1とサスペンションクロスメンバ4bとは、サスペンションメンバサポート8で連結され、パワーユニット7の車両前方には、冷却ファン9、ラジエータ10およびロアクロスメンバ11が配置され、車両後方にはダッシュボード15が配置されている。
【0063】
次に、本実施例1の車両の前部構造の作用について説明する。
前面衝突による車両前方からの荷重がステアリングギアボックス12に入力されると、図3に示すように、マウントブラケット13が破断し、ステアリングギアボックス12が車両と分離されて車両後方に移動すると共に、サスペンションメンバ4のガイド部4c(傾斜部4i)に干渉してパワーユニット7の下方に潜り込むようにして移動する。
【0064】
このように、ステアリングギアボックス12は、パワーユニット7と車両の他の部材との間に挟まれることなく移動するので、パワーユニット7の前部の空間を潰すことができ、車両前部の潰れ量を大きくとることができる。
【0065】
また、本実施例1においては、ステアリングギアボックス12は、図1に示すように、ガイド部4cとサスペンションクロスメンバ4bに囲まれて車幅方向に形成された凹み部4dに固定配置されている。
【0066】
このため、ステアリングギアボックス12の地上高を大きくすることができ、路面からのチッピング等による損傷を低減することができる。
【0067】
[実施例2]
本実施例2による車両の前部構造について、前記実施例1と同一乃至均等な部分については同一符号を付して説明する。
【0068】
本実施例2の車両の前部構造の構成は、図4および図5に示すように、ステアリングギアボックス12の車両前方に一体形成された突出部16が、マウントブラケット13よりも車両前方に位置して設けられているものである。
【0069】
突出部16は、衝突の荷重を早期にステアリングギアボックス12に伝えてマウントブラケット13を破断するものであれば、材料や形状は特に限定されないが、パワステアリング用のモータアクチュエータや油圧アクチュエータのようにステアリングギアボックス12と一体化したデバイスで突出部16を構成すると、車両空間の有効活用を図ることができる。
【0070】
次に、本実施例2の車両の前部構造の作用について説明すると、衝突の早期においては、図6に示すように、衝突対象物Bとの前面衝突による車両前方からの荷重が突出部16を介してステアリングギアボックス12に入力されることにより、マウントブラケット13が破断し、ステアリングギアボックス12が車両後方に移動した後、サスペンションメンバ4のガイド部4cに干渉して下方に移動し、ステアリングギアボックス12がパワーユニット7と衝突対象物Bに挟まることが回避される。
【0071】
さらに、車両前部の変形が進むと、図7に示すように、車両と完全に分離されたステアリングギアボックス12は、パワーユニット7と衝突対象物Bとの間に挟まることなく、パワーユニット7の下側を移動し、しかも、マウントブラケット13が破断したことで、サスペンションクロスメンバ4bが強度低下により変形することで、パワーユニット7の前の空間を大きく潰すことができる。
【0072】
このように、本実施例2によれば、ステアリングギアボックス12は衝突の際に早期にサスペンションメンバ4による固定から解放され、ステアリングギアボックス12をより確実にパワーユニット7の下方に潜り込むように移動させることができる。
他の構成および作用については、前記実施例1と同様であるので、説明を省略する。
【0073】
[実施例3]
本実施例3による車両の前部構造について、前記実施例1と同一乃至均等な部分については同一符号を付して説明する。
【0074】
本実施例3の車両の前部構造の構成は、図8に示すように、車両の両側のサスペンションサイドメンバ4a(車両後方視で左側のみを図示)の前端間をロアクロスメンバ11で接続してサスペンションメンバ4を構成し、サスペンションサイドメンバ4aの下部に「ヘ」字状に形成された凹み部10dにステアリングギアボックス12および突出部16が配置されたものである。
【0075】
次に、本実施例3の車両の前部構造の作用について説明すると、サスペンションメンバ4の前端部が車両前方まで延長された構成となっているので、衝突初期の車両前方からの荷重入力により、サスペンションサイドメンバ4aが図9に示すように折れ曲がって変形し、ガイド部4cが形成される。
【0076】
このため、ステアリングギアボックス12は、サスペンションサイドメンバ4aのガイド部4cに干渉してパワーユニット7の下方に潜り込むようにして移動する。
【0077】
他の構成および作用については、前記実施例1と同様であるので、説明を省略する。
【0078】
[実施例4]
本実施例4による車両の前部構造について、前記実施例1と同一乃至均等な部分については同一符号を付して説明する。
【0079】
本実施例4の車両の前部構造の構成は、図10に示すように、サスペンションクロスメンバ4bに沿って、上面に傾斜部4iを有するガイド部材4eを装備させ、ガイド部材4eの前端部にステアリングギアボックス12をマウントブラケット13およびボルト14,14で固定したものである。
【0080】
次に、本実施例4の車両の前部構造の作用について説明すると、図11に示すように、前面衝突による車両前方からの荷重によりサスペンションクロスメンバ4bおよびサスペンションサイドメンバ4aが変形し、ガイド部材4eがパワーユニット7に干渉することによってステアリングギアボックス12は、パワーユニット7の下方に潜り込むようにして移動する。
他の構成および作用については、前記実施例1と同様であるので、説明を省略する。
【0081】
[実施例5]
本実施例5による車両の前部構造について、前記実施例1と同一乃至均等な部分については同一符号を付して説明する。
【0082】
本実施例5の車両の前部構造の構成は、図12に示すように、ステアリングギアボックス12の車両後方側に、その長さ方向に沿って、上面に傾斜部4iを有するガイド部材4fを装備させ、ステアリングギアボックス12をマウントブラケット13およびボルト14,14でもってサスペンションクロスメンバ4bに固定し、ステアリングギアボックス12の車両前方に突出部16を配置したものである。
【0083】
次に、本実施例5の車両の前部構造の作用について説明すると、図13に示すように、前面衝突による車両前方からの荷重が突出部16を介してステアリングギアボックス12に入力されることにより、マウントブラケット13が破断し、ステアリングギアボックス12はガイド部材4fと共に車両後方に移動した後、パワーユニット7に干渉して下方に移動する。
他の構成および作用については、前記実施例1と同様であるので、説明を省略する。
【0084】
[実施例6]
本実施例6による車両の前部構造について、前記実施例1と同一乃至均等な部分については同一符号を付して説明する。
【0085】
本実施例6の車両の前部構造の構成は、図14に示すように、パワーユニット7の車両前方側に、斜め下方を向いた傾斜部4iを有するガイド部材4gを装備させ、サスペンションクロスメンバ4bにステアリングギアボックス12をマウントブラケット13で固定し、ステアリングギアボックス12の車両前方に突出部16を配置したものである。
【0086】
次に、本実施例6の車両の前部構造の作用について説明すると、図15に示すように、前面衝突による車両前方からの荷重がステアリングギアボックス12に入力されることにより、マウントブラケット13が破断し、ステアリングギアボックス12は車両後方に移動した後、パワーユニット7に装備されたガイド部材4gに干渉して下方に移動する。
他の構成および作用については、前記実施例1と同様であるので、説明を省略する。
【0087】
[実施例7]
本実施例7による車両の前部構造について、前記実施例1と同一乃至均等な部分については同一符号を付して説明する。
【0088】
本実施例7の車両の前部構造の構成は、図16に示すように、サスペンションメンバ4の下面に、パワーユニット7の車両後方に位置して凹み部4hを設け、この凹み部4hにステアリングギアボックス12を固定配置したものである。
【0089】
次に、本実施例7の車両の前部構造の作用について説明すると、図17に示すように、前面衝突時のパワーユニット7の後退により、ステアリングギアボックス12は車両後方に押し込まれ、このとき、ステアリングギアボックス12は上方に配置されたサスペンションメンバ4の凹み部4hに沿って下方に移動し、ステアリングギアボックス12がパワーユニット7とダッシュボード15との間に挟まれることが回避される。
他の構成および作用については、前記実施例1と同様であるので、説明を省略する。
【0090】
[実施例8]
本実施例8による車両の前部構造について、前記実施例1と同一乃至均等な部分については同一符号を付して説明する。
【0091】
本実施例8の車両の前部構造の構成は、図18に示すように、サスペンションメンバ4の下方にステアリングギアボックスマウント部材19を固設し、サスペンションメンバ4の下面とステアリングギアボックスマウント部材19の上面との間にスペースを設け、このスペース内にステアリングギアボックスを配置して、このステアリングギアボックスマウント部材19の上部にステアリングギアボックス12を配設したものである。
【0092】
ステアリングギアボックスマウント部材19は、サスペンションサイドメンバ4aに沿って車両前後方向に延設され、その車両前方側に位置する端部19aがサスペンションクロスメンバ4bに固定され、車両後方側に位置する端部19bがサスペンションサイドメンバ4aに固定され、しかも、この固定力は、車両前方からの所定値以上の衝撃荷重の入力によってステアリングギアボックスマウント部材19がサスペンションメンバ4から分離可能となるように調節されている。
【0093】
ステアリングギアボックスマウント部材19の車両後方側の端部19bには、車両後方側に向けてマウント部材側傾斜部20aが形成され、一方、サスペンションメンバ4には傾斜部20aと係合するサスペンション側傾斜部20bが車両前方側に向けて形成され、マウント部材側傾斜部20aとサスペンション側傾斜部20bとの係合によって、車両前方からの所定値以上の衝撃荷重の入力に対して、ステアリングギアボックスマウント部材19がサスペンションメンバ4からより安定的に分離可能とされている。
【0094】
そして、ステアリングギアボックス12は、ステアリングギアボックスマウント部材19の車両後方側の端部19b付近に配設される。
【0095】
次に、本実施例8の車両の前部構造の作用について説明すると、ステアリングギアボックス12は、ステアリングギアボックスマウント部材19の車両後方側の端部19b付近に配設されているため、ステアリングギアボックスマウント部材19がサスペンションクロスメンバ4bに固定された端部19aからステアリングギアボックス12までには空間(距離)が存在するようになる。
【0096】
このため、車両前方から所定値以上の衝撃荷重の入力があったとき、図19に示すように、ステアリングギアボックス12の車両前方側に配置された車両部品がステアリングギアボックス12と接触する前に、マウント部材側傾斜部20aとサスペンション側傾斜部20bとの係合が外れてステアリングギアボックス12はステアリングギアボックスマウント部材19と共に車両後下方向に移動する。
【0097】
さらに、車両前部の変形が進むと、図20に示すように、ステアリングギアボックスマウント部材19がサスペンションメンバ4から完全に分離し、ステアリングギアボックス12がパワーユニット7と車両の他の部材との間に挟まれることなく移動するので、パワーユニット7の前部の空間を潰すことができ、車両前部の潰れ量を大きくとることができる。
他の構成および作用については、前記実施例1と同様であるので、説明を省略する。
【0098】
[実施例9]
本実施例9による車両の前部構造について、前記実施例8と同一乃至均等な部分については同一符号を付して説明する。
【0099】
本実施例9の車両の前部構造の構成は、図21に示すように、サスペンションメンバ4の下方に固設されたステアリングギアボックスマウント部材19にステアリングギアボックス12を配設すると共に、サスペンションサイドメンバ4aには、ステアリングギアボックス12をパワーユニット7の下方へ移動させるガイド部21を車両前方側に向けて形成したものである。
【0100】
ステアリングギアボックス12は、ステアリングギアボックスマウント部材19の車両後方側の端部19b付近に配設されている。
【0101】
次に、本実施例9の車両の前部構造の作用について説明すると、ステアリングギアボックス12の車両前方側には、ステアリングギアボックス12をパワーユニット7の下方へ移動させるガイド部21が形成されており、車両前方から所定値以上の衝撃荷重の入力があったときは、図22に示すように、ステアリングギアボックスマウント部材19の車両後方側端部19bがサスペンションメンバ4から分離され、ステアリングギアボックス12は、ガイド部21に沿ってステアリングギアボックスマウント部材19と共に車両後下方向に移動する。
【0102】
さらに、車両前部の変形が進むと、図23に示すように、ステアリングギアボックスマウント部材19がサスペンションメンバ4から完全に分離し、ステアリングギアボックス12がパワーユニット7と車両の他の部材との間に挟まれることなく移動するので、パワーユニット7の前部の空間を潰すことができ、車両前部の潰れ量を大きくとることができる。
他の構成および作用については、前記実施例8と同様であるので、説明を省略する。
【0103】
[実施例10]
本実施例10による車両の前部構造について、前記実施例8と同一乃至均等な部分については同一符号を付して説明する。
【0104】
本実施例10の車両の前部構造の構成は、図24に示すように、サスペンションメンバ4の下方に固設されたステアリングギアボックスマウント部材19にステアリングギアボックス12を配設すると共に、ステアリングギアボックス12のパワーユニット7側に、ステアリングギアボックス12をパワーユニットの下方へ移動させるガイド部材22を配置したものである。
【0105】
ガイド部材22には、車両後方側に向けてガイド部材側傾斜部22aが形成され、一方、サスペンションメンバ4にはガイド部材側傾斜部22aと係合するサスペンション側傾斜部20bが車両前方側に向けて形成され、ガイド部材側傾斜部22aとサスペンション側傾斜部20bとの係合によって、ステアリングギアボックス12がサスペンションメンバ4からより安定的に分離可能とされている。
【0106】
次に、本実施例10の車両の前部構造の作用について説明すると、車両前方から所定値以上の衝撃荷重の入力があったときは、図25に示すように、ガイド部材側傾斜部22aとサスペンション側傾斜部20bとの係合が外れてステアリングギアボックス12はステアリングギアボックスマウント部材19と共に車両後下方向に移動すると共に、ステアリングギアボックスマウント部材19の車両後方側端部19bがサスペンションメンバ4から分離される。
【0107】
さらに、車両前部の変形が進むと、図26に示すように、ステアリングギアボックスマウント部材19がサスペンションメンバ4から完全に分離し、ステアリングギアボックス12がパワーユニット7と車両の他の部材との間に挟まれることなく移動するので、パワーユニット7の前部の空間を潰すことができ、車両前部の潰れ量を大きくとることができる。
他の構成および作用については、前記実施例8と同様であるので、説明を省略する。
【0108】
[実施例11]
本実施例11による車両の前部構造について、前記実施例8と同一乃至均等な部分については同一符号を付して説明する。
【0109】
本実施例11の車両の前部構造の構成は、図27に示すように、サスペンションメンバ4の下方に固設されたステアリングギアボックスマウント部材19にステアリングギアボックス12を配設すると共に、パワーユニット7の車両前方側にステアリングギアボックス12をパワーユニット7の下方へ移動させるガイド部材23を配置したものである。
【0110】
ガイド部材23には、車両前方側に向けて傾斜部23aが形成され、この傾斜部23aに沿ってステアリングギアボックス12がパワーユニット7の下方へ移動するようになっている。
【0111】
次に、本実施例11の車両の前部構造の作用について説明すると、車両前方から所定値以上の衝撃荷重の入力があったときは、図28に示すように、ステアリングギアボックス12は、ガイド部材23の傾斜部23aに沿って車両後下方向に移動すると共に、ステアリングギアボックスマウント部材19の車両後方側端部19bがサスペンションメンバ4から分離される。
【0112】
さらに、車両前部の変形が進むと、図29に示すように、ステアリングギアボックスマウント部材19がサスペンションメンバ4から完全に分離し、ステアリングギアボックス12がパワーユニット7と車両の他の部材との間に挟まれることなく移動するので、パワーユニット7の前部の空間を潰すことができ、車両前部の潰れ量を大きくとることができる。
他の構成および作用については、前記実施例8と同様であるので、説明を省略する。
【0113】
[実施例12]
本実施例12による車両の前部構造について、前記実施例8と同一乃至均等な部分については同一符号を付して説明する。
【0114】
本実施例12の車両の前部構造の構成は、図30に示すように、サスペンションメンバ4の下方であってパワーユニット7の車両後方側にステアリングギアボックスマウント部材19を固設し、このステアリングギアボックスマウント部材19にステアリングギアボックス12を配設したものである。
【0115】
ステアリングギアボックスマウント部材19は、サスペンションサイドメンバ4aに沿って車両前後方向に延設され、その車両前方側に位置する端部19aがサスペンションメンバ4に固定され、車両後方側に位置する端部19bがサスペンションサイドメンバ4aの車両後方側の端部4jに固定されている。
【0116】
ステアリングギアボックスマウント部材19の車両後方側の端部19bには、車両後方側に向けて傾斜部20cが形成され、一方、サスペンションサイドメンバ4aの車両後方側の端部4jには傾斜部20cと係合する傾斜部20dが車両前方側に向けて形成され、傾斜部20cと傾斜部20dとの係合によって、車両前方からの所定値以上の衝撃荷重の入力に対して、ステアリングギアボックスマウント部材19がサスペンションメンバ4からより安定的に分離可能とされている。
【0117】
次に、本実施例12の車両の前部構造の作用について説明すると、車両前方から所定値以上の衝撃荷重の入力があったときは、図31に示すように、ステアリングギアボックスマウント部材19の傾斜部20cとサスペンションサイドメンバ4aの傾斜部20dとの係合が外れてステアリングギアボックス12はステアリングギアボックスマウント部材19と共に車両後下方向に移動すると共に、ステアリングギアボックスマウント部材19の車両後方側の端部19bがサスペンションサイドメンバ4aから分離される。
【0118】
さらに、車両前部の変形が進むと、図32に示すように、ステアリングギアボックスマウント部材19がサスペンションサイドメンバ4aから完全に分離し、ステアリングギアボックス12がパワーユニット7と車両の他の部材との間に挟まれることなく移動するので、パワーユニット7の前部の空間を潰すことができ、車両前部の潰れ量を大きくとることができる。
他の構成および作用については、前記実施例8と同様であるので、説明を省略する。
【0119】
[実施例13]
本実施例13による車両の前部構造について、前記実施例1と同一乃至均等な部分については同一符号を付して説明する。
【0120】
本実施例13の車両の前部構造の構成は、図33に示すように、ステアリングギアボックス12は、ケーブル17を介してステアリングホイール(図示せず)と接続され、ステアリングホイールの回動操作はケーブル17を介してステアリングギアボックス12に伝達されるようになっている。
【0121】
ケーブル17は、車体構成部分であるフロントクロスメンバ3に設置されたケーブル保持部18で保持されることにより、ケーブル保持部18を経由して配策されている。
【0122】
このため、ケーブル17には、ステアリングギアボックス12がパワーユニット7等の構造物を交わして移動できる距離分の長さが余裕分として加えられる。
【0123】
次に、本実施例13の車両の前部構造の作用について説明すると、図34に示すように、前面衝突時のフロントクロスメンバ3の後退等により、ケーブル保持部18が車両後方へ移動し、または破損する。
【0124】
これに伴い、ケーブル17に撓みが発生し、ステアリングギアボックス12が下方に移動するときは、ケーブル17の周囲部品への引っ掛かり、またはケーブル17の突っ張りにより移動が阻害されなくなる。
【0125】
このため、車両衝突時にケーブルの長さの余裕分がステアリングギアボックス12をパワーユニット7の下方に確実に移動させるため、パワーユニット7とステアリングギアボックス12とが干渉することがなくなり、車両の衝突スペースが大幅に増加し、衝撃を効果的に吸収できるようになる。
【0126】
ここで、比較のため、ケーブル17に余分な長さを付与しない場合を説明する。
図35は、ケーブル17に余分な長さを付与することなく、できるだけ短い長さでもってステアリングギアボックス12とステアリングホイール(図示せず)との間を接続した構成を示したものである。
【0127】
このような構成であると、前面衝突時には、図36に示すように、ステアリングギアボックス12は、ケーブル17の周囲部品への引っ掛かり、およびケーブル17の突っ張り等により移動が抑制されるおそれがある。
【0128】
このため、ステアリングギアボックス12は、図示したように、パワーユニット7と他の部品との間に挟まれる場合があり、その場合、車両前部の潰れ量が少なくなって、衝撃吸収効果が低減するおそれがある。
本実施例13の他の構成および作用については、前記実施例1と同様であるので、説明を省略する。
【0129】
[実施例14]
本実施例14による車両の前部構造について、前記実施例1と同一乃至均等な部分については同一符号を付して説明する。
【0130】
本実施例14の車両の前部構造の構成は、図37に示すように、フロントサイドフレーム1の下面側に設けられたサスペンションメンバ4には、ステアリングギアボックス12が設けられている。
【0131】
このステアリングギアボックス12の下方には、ステアリングギアボックス保護部材24が配置されている。
【0132】
このステアリングギアボックス保護部材24は、車両前後方向に長手方向を沿わせて左,右一対設けられ、前端部24bを前記サスペンションメンバ4の前端近傍に連結すると共に、後端部24cが、前記ガイド部4c後端近傍のサスペンションメンバ4の下面側に、回転連結部24hを介して連結される外枠フレーム体24a,24aを有し、これらの外枠フレーム体24a,24a間を前記後端部24c近傍で左,右に連結するクロスフレーム体24dを設けて、図38に示すように、平面視略梯子状に形成されている。
【0133】
また、この実施例14では、前記外枠フレーム体24a,24aが、車両前方側の傾斜部24e及び車両後方側に延設される水平部24f間が、車両下方の屈曲方向へ変形可能となるように、脆弱部24gによって一体となるように連結されて形成されている。
【0134】
そして、このステアリングギアボックス保護部材24と、前記ステアリングギアボックス12との間が、連結部材としての一対の屈曲ロッド部材25,25によって、連結されている。
【0135】
この屈曲ロッド部材25は、前記ステアリングギアボックス保護部材24が、車両衝突等により、車両後方へ変形しながら移動する際、このステアリングギアボックス12を下方に引下げるように、設けられている。
【0136】
すなわち、この屈曲ロッド部材25は、第1ロッド26及び第2ロッド27と、これらの第1ロッド26及び第2ロッド27間を屈曲可能に連結する回転ジョイント部28とを有して、主に構成されている。
【0137】
そして、前記第1ロッド26の前端を、前記ステアリングギアボックス12に連結すると共に、前記第2ロッド27の後端を、ヒンジ部29を介して回動自在に前記クロスフレーム体24dに連結している。
【0138】
この屈曲ロッド部材25は、図39に示すように、前記ステアリングギアボックス保護部材24が屈曲して、前記水平部24fを車両下側後方へ移動させることにより、前記回転ジョイント部28が、前記第1ロッド26及び第2ロッド27を直線状に伸張させて、前記ステアリングギアボックス12を下方に引下げるように構成されている。
【0139】
次に、本実施例14の車両の前部構造の作用について説明する。
この実施例14の車両の前部構造では、前面衝突による車両前方からの荷重が、前記ステアリングギアボックス12に入力されると、マウントブラケットが破断し、ステアリングギアボックス12が、車両と分離されて車両後方に移動すると共に、サスペンションメンバ4のガイド部4c(傾斜部4i)に干渉してパワーユニット7の下方に潜り込むようにして移動する。
【0140】
図39に示すように、前面衝突時のフロントクロスメンバ3及び、サスペンションメンバ4の前端部が後退することにより、前記ステアリングギアボックス保護部材24は、前記脆弱部24gを中心として、車両下方に向けて屈曲変形する。
【0141】
この際、この実施例14の車両の前部構造では、更に、前記ステアリングギアボックス保護部材24が屈曲して、前記水平部24f,24fを車両下側後方へ移動させる際、前記回転連結部24h,24hによって、水平部24f,24fは、容易に下方に向けて回動される。
【0142】
このように、ステアリングギアボックス保護部材24,24の左,右一対の水平部24f,24fに設けられたクロスフレーム体24dが、これらの水平部24f,24fと共に、車両下方に向けて移動すると、前記屈曲ロッド部材25が、前記回転ジョイント部28を回動中心として、直線状に伸張されて、下方に引き下げる力を、前記ステアリングギアボックス12に伝達する。
【0143】
このため、直線状に伸張された屈曲ロッド部材25によって、前記ステアリングギアボックス12が、下方に引下げられて、さらに確実に、前記ステアリングギアボックス12を、前記パワーユニット7の下方へ移動させることができる。
【0144】
また、変形開始から、前記屈曲ロッド部材25が、直線状に伸張して、前記ステアリングギアボックス12を、前記パワーユニット7の下方へ引き下げるまでの間に、前記マウントブラケットが破断し、ステアリングギアボックス12が、車両と分離されて車両後方に移動する。
【0145】
このため、ステアリングギアボックス12のマウントブラケットが、破断した後、前記屈曲ロッド部材25によって引き下げる力をステアリングギアボックス12に与えることが出来るので、前記屈曲ロッド部材25を破断させることなく、前記サスペンションメンバ4のガイド部4c(傾斜部4i)によるガイドと合わせて、更に、安定させて、前記ステアリングギアボックス12をパワーユニット7の下方へ移動させることができる。
【0146】
本実施例14の他の構成および作用については、前記実施例1と同様であるので、説明を省略する。
【0147】
[実施例15]
本実施例15による車両の前部構造について、前記実施例14と同一乃至均等な部分については同一符号を付して説明する。
【0148】
本実施例15の車両の前部構造の構成は、図40に示すように、前記ステアリングギアボックス12の断面の周方向に相対移動可能なリング状部材30を介して、このステアリングギアボックス12に、前記屈曲ロッド部材25の第1ロッド26の一端が連結されている。
次に、この実施例15の車両の前部構造の作用効果について説明する。
この実施例15の車両の前部構造では、前記実施例14の車両の前部構造の作用効果に加えて、更に、前記ステアリングギアボックス保護部材24の移動により、前記屈曲ロッド部材25が、直線上に伸張する際、前記リング状部材30が、前記ステアリングギアボックス12の断面の周方向に相対移動して、さらに、円滑に前記ステアリングギアボックス12を前記パワーユニット7の下方へ移動させることができる。
本実施例15の他の構成および作用については、前記実施例1と同様であるので、説明を省略する。
【0149】
[実施例16]
本実施例16による車両の前部構造について、前記実施例14及び実施例15と同一乃至均等な部分については同一符号を付して説明する。
【0150】
本実施例16の車両の前部構造の構成は、図41に示すように、前記ステアリングギアボックス12の断面の周方向に相対移動可能なリング状部材30を介して、このステアリングギアボックス12に、連結部材としてのワイヤ連結部材31の一端31aが連結されている。
【0151】
このワイヤ連結部材31の他端31bは、前記ステアリングギアボックス保護部材24の後端部24c近傍に、弛ませた状態で連結されている。
【0152】
そして、ステアリングギアボックス保護部材24の移動により、直線状に伸張されて、前記ステアリングギアボックス12を下方に引下げるように構成されている。
次に、この実施例16の車両の前部構造の作用効果について説明する。
この実施例16の車両の前部構造では、前記実施例1乃至15の車両の前部構造の作用効果に加えて、更に、前記ステアリングギアボックス保護部材24が屈曲して、前記水平部24fを車両下側後方へ移動させることにより、前記ワイヤ連結部材31が、直線状に伸張して、下方に引き下げる力を、前記ステアリングギアボックス12に伝達する。
【0153】
このため、ワイヤ連結部材31によって、前記ステアリングギアボックス12が、下方に引下げられて、さらに確実に、前記ステアリングギアボックス12を、前記パワーユニット7の下方へ移動させることができる。
また、変形開始から、前記ワイヤ連結部材31が、直線状に伸張して、前記ステアリングギアボックス12を、前記パワーユニット7の下方へ引き下げるまでの間に、前記マウントブラケットが破断し、ステアリングギアボックス12が、車両と分離されて車両後方に移動する。
【0154】
このため、ステアリングギアボックス12のマウントブラケットが、破断した後、前記ワイヤ連結部材31によって引き下げる力をステアリングギアボックス12に与えることが出来るので、前記ワイヤ連結部材31を切断させることなく、前記サスペンションメンバ4のガイド部4c(傾斜部4i)によるガイドと合わせて、更に、安定させて、前記ステアリングギアボックス12をパワーユニット7の下方へ移動させることができる。
【0155】
本実施例16の他の構成および作用については、前記実施例14及び実施例15と同様であるので、説明を省略する。
【0156】
[実施例17]
本実施例17による車両の前部構造について、前記実施例14及び実施例15と同一乃至均等な部分については同一符号を付して説明する。
【0157】
本実施例17の車両の前部構造の構成では、図42及び図43に示すように、前記ステアリングギアボックス保護部材124が配置されている。
【0158】
このステアリングギアボックス保護部材124,124には、前記水平部24f,24fのうち、後端部24c,24cの下面側に、変形を促進する易屈曲部32,32が、各々略三角形の凹状を呈するように形成されている。
【0159】
次に、この実施例17の車両の前部構造の作用効果について説明する。
この実施例17の車両の前部構造では、前記実施例1乃至16の車両の前部構造の作用効果に加えて、更に、前記ステアリングギアボックス保護部材124が屈曲して、前記水平部24fを車両下側後方へ移動させる際、前記易屈曲部32が、変形を促進する。
【0160】
このため、前記実施例14の車両の前部構造のように、後端部24cに、前記回転連結部24hを設けなくても、簡便な構造で、前記ステアリングギアボックス12を、パワーユニット7の下方に潜り込むように移動させることができる。
【0161】
[実施例18]
本実施例18による車両の前部構造について、前記実施例1と同一乃至均等な部分については同一符号を付して説明する。
【0162】
本実施例18の車両の前部構造は、衝突時のパワーユニット7の慣性力を、ステアリングギアボックス12の下方への移動力に変換させるようにした例である。
【0163】
図44および図45に示すように、サスペンションメンバ4は、サスペンションサイドメンバ4aとサスペンションクロスメンバ4bとを備えており、サスペンションサイドメンバ4aは、ガイド部4cおよび傾斜部4iを備えている。
また、ステアリングギアボックス12は、パワーユニット7の車両前方に配置され、サスペンションクロスメンバ4bに、図示を省略したブラケットで支持されている。以上の構成は、実施例1と同様である。
【0164】
ステアリングギアボックス12の左右には、モータアクチュエータを収容したモータハウジング812,812が設けられている。すなわち、本実施例18は、図外のステアリングの操作を電気的に検出してモータハウジング812,812に収容されたモータアクチュエータによりステアリングギアを駆動させる構成となっている。
【0165】
パワーユニット7の車両前方側面の下部の左右に、一対の変換手段としての脱落用ブラケット(伝達ブラケット)71が、その先端をステアリングギアボックス12のモータハウジング812,812に近接させ、車両斜め前下方に向けて突出されている。そして、この脱落用ブラケット71の突出方向は、前面衝突時に、パワーユニット7が、図示を省略したエンジンマウント部を中心に車両前方へ揺動した際に、その先端が、モータハウジング812,812の車両側方から見た図心位置を押すことができるように向けられている。
【0166】
また、脱落用ブラケット71は、ステアリングギアボックス12のサスペンションクロスメンバ4bに対する取付強度よりも高い強度(圧縮および曲げ耐力)を有しており、かつ、パワーユニット7への取り付けも、ステアリングギアボックス12の取付強度よりも高強度に成されている。
なお、脱落用ブラケット71の先端とステアリングギアボックス12との間には、通常の走行の際にパワーユニット7が図外の弾性を有したエンジンマウントを中心に揺動した場合に、両者が干渉しないだけの間隔が設けられている。
【0167】
次に、この実施例18の車両の前部構造の作用効果について説明する。
車両前面衝突時には、フロントサイドフレーム1やサスペンションメンバ4などの車体骨格部材が図46に示すように車両前後方向に潰れて衝突エネルギを吸収するとともに、パワーユニット7が慣性力により車体骨格部材に対して相対的に車両前方へ移動する。
【0168】
そして、この相対移動により、パワーユニット7とステアリングギアボックス12との車両前後方向の距離が縮まり、脱落用ブラケット71の先端がステアリングギアボックス12に当接して、前記慣性力がステアリングギアボックス12に伝達される。
【0169】
この場合、脱落用ブラケット71は、ステアリングギアボックス12の図心を向いているため、上記伝達が効率良く成され、ステアリングギアボックス12のサスペンションクロスメンバ4bに対する取付位置を中心とした回転モーメントを与え、この取付部分が破壊される。
【0170】
同時に、前記実施例1の車両の前部構造の場合と同様の車両前方からの衝突入力と、脱落用ブラケット71からの入力、ならびにガイド部4cの傾斜部4iにより、ステアリングギアボックス12は、車両下方へ押し下げられる。
よって、実施例1と同様に、車両前部の潰れ量を大きく確保することができる。また、パワーユニット7の外側に、脱落用ブラケット71を取り付けただけの簡単な構成で、この効果を得ることができる。
【0171】
[実施例19]
本実施例19による車両の前部構造について、前記実施例1と同一乃至均等な部分については同一符号を付して説明する。
【0172】
この実施例19は、実施例18の変形例であって、パワーユニット7の慣性力を、ステアリングギアボックス12の下方への移動力に変換させる手段として、脱落用ブラケット71に代えて脱落用ワイヤ190を用いた例である。
【0173】
すなわち、図48に示すように、脱落用ワイヤ190は、一方の端部がパワーユニット7の車両後方側端部に結合され、もう一方の端部がステアリングギアボックス12の車両下方側端部であって前記図心に重なる位置に結合され、その中間部は、サスペンションサイドメンバ4aに沿って配索されている。さらに、脱落用ワイヤ190は、延在方向である車両前後方向に移動可能に支持する複数の回転可能なプーリを備えたマウント手段191に支持されている。
【0174】
さらに、脱落用ワイヤ190は、自身の強度および結合強度が、ステアリングギアボックス12のサスペンションクロスメンバ4bに対する取付強度よりも高い強度に設定されている。また、脱落用ワイヤ190には、通常走行時に生じるパワーユニット7の揺動を吸収可能な初期弛みが与えられている。
【0175】
次に、この実施例19の車両の前部構造の作用効果について説明する。
車両前面衝突時には、フロントサイドフレーム1やサスペンションメンバ4などの車体骨格部材が図49に示すように車両前後方向に潰れて衝突エネルギを吸収するとともに、パワーユニット7が慣性力により車体骨格部材に対して相対的に車両前方へ移動する。
【0176】
そして、この相対移動により、パワーユニット7が脱落用ワイヤ190を引っ張り前記慣性力がステアリングギアボックス12の図心位置に伝達される。これにより、実施例18と同様にステアリングギアボックス12に対してサスペンションクロスメンバ4bへの取付位置を中心とした回転モーメントが与えられて、ステアリングギアボックス12の取付部分が破壊される。
【0177】
同時に、前記実施例1の車両の前部構造と同様に、ステアリングギアボックス12が車両前方からの入力で後退した場合、ガイド部4cの傾斜部4iにより車両下方にガイドされる。
【0178】
同時に、前記実施例1の車両の前部構造の場合と同様の車両前方からの衝突入力と、脱落用ワイヤ190からの入力、ならびにガイド部4cの傾斜部4iにより、ステアリングギアボックス12は、車両下方へ押し下げられる。
よって、実施例1と同様に、車両前部の潰れ量を大きく確保することができる。また、脱落用ワイヤ190は、配索に必要なスペースが小さくて済むため、ステアリングギアボックス12およびパワーユニット7に、脱落用ブラケット71の設置スペースを確保できない場合などに有効である。
【0179】
以上、図面を参照して、本発明の最良の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0180】
例えば、前記実施例4では、サスペンションクロスメンバ4bとガイド部材4eは別部材で形成した例について説明したが、サスペンションクロスメンバ4bとガイド部材4eは同一部材で形成しても良い。
【0181】
また、前記実施例13では、フロントクロスメンバ3にケーブル保持部18を設置した例について説明したが、フロントサイドフレーム1、サスペンションメンバ4およびその他の車体構造部分に設置してもよい。
【0182】
また、実施例18では、伝達ブラケットとしての脱落用ブラケット71をパワーユニット7に取り付けた例を示したが、これに限定されず、この伝達ブラケットをステアリングギアボックス12に設けたり、ステアリングギアボックス12とパワーユニット7との両方に設けたりしても実施例18と同様の作用効果を得ることができる。
また、実施例18では、伝達ブラケットとしての脱落用ブラケット71を左右一対設けたが、これに限定されず、1個あるいは3以上の複数設けてもよく、要は、効率良くステアリングギアボックス12を脱落させることができるように設ければよい。
【図面の簡単な説明】
【0183】
【図1】本発明の最良の実施の形態である実施例1の車両の前部構造の構成を説明する側面図である。
【図2】実施例1の車両の前部構造の構成を説明する正面図である。
【図3】実施例1の車両の前部構造の作用を説明する側面図である。
【図4】本発明の最良の実施の形態である実施例2の車両の前部構造の構成を説明する側面図である。
【図5】実施例2の車両の前部構造の構成を説明する正面図である。
【図6】実施例2の車両の前部構造の作用(衝突初期)を説明する側面図である。
【図7】実施例2の車両の前部構造の作用を説明する側面図である。
【図8】本発明の最良の実施の形態である実施例3の車両の前部構造の構成を説明する側面図である。
【図9】実施例3の車両の前部構造の作用を説明する側面図である。
【図10】本発明の最良の実施の形態である実施例4の車両の前部構造の構成を説明する側面図である。
【図11】実施例4の車両の前部構造の作用を説明する側面図である。
【図12】本発明の最良の実施の形態である実施例5の車両の前部構造の構成を説明する側面図である。
【図13】実施例5の車両の前部構造の作用を説明する側面図である。
【図14】本発明の最良の実施の形態である実施例6の車両の前部構造の構成を説明する側面図である。
【図15】実施例6の車両の前部構造の作用を説明する側面図である。
【図16】本発明の最良の実施の形態である実施例7の車両の前部構造の構成を説明する側面図である。
【図17】実施例7の車両の前部構造の作用を説明する側面図である。
【図18】本発明の最良の実施の形態である実施例8の車両の前部構造の構成を説明する側面図である。
【図19】実施例8の車両の前部構造の作用を説明する側面図であって、車両前部の変形途中の説明図である。
【図20】実施例8の車両の前部構造の作用を説明する側面図であって、車両前部の変形後の説明図である。
【図21】本発明の最良の実施の形態である実施例9の車両の前部構造の構成を説明する側面図である。
【図22】実施例9の車両の前部構造の作用を説明する側面図であって、車両前部の変形途中の説明図である。
【図23】実施例9の車両の前部構造の作用を説明する側面図であって、車両前部の変形後の説明図である。
【図24】本発明の最良の実施の形態である実施例10の車両の前部構造の構成を説明する側面図である。
【図25】実施例10の車両の前部構造の作用を説明する側面図であって、車両前部の変形途中の説明図である。
【図26】実施例10の車両の前部構造の作用を説明する側面図であって、車両前部の変形後の説明図である。
【図27】本発明の最良の実施の形態である実施例11の車両の前部構造の構成を説明する側面図である。
【図28】実施例11の車両の前部構造の作用を説明する側面図であって、車両前部の変形途中の説明図である。
【図29】実施例11の車両の前部構造の作用を説明する側面図であって、車両前部の変形後の説明図である。
【図30】本発明の最良の実施の形態である実施例12の車両の前部構造の構成を説明する側面図である。
【図31】実施例12の車両の前部構造の作用を説明する側面図であって、車両前部の変形途中の説明図である。
【図32】実施例12の車両の前部構造の作用を説明する側面図であって、車両前部の変形後の説明図である。
【図33】本発明の最良の実施の形態である実施例13の車両の前部構造の構成を説明する側面図である。
【図34】実施例13の車両の前部構造の作用を説明する側面図である。
【図35】実施例13の比較例の説明図であって、ケーブルに余裕長さを付与しない場合の車両の前部構造の構成を説明する側面図である。
【図36】実施例13の比較例の説明図であって、ケーブルに余裕長さを付与しない場合の車両の前部構造の作用を説明する側面図である。
【図37】本発明の最良の実施の形態である実施例14の車両の前部構造の構成を説明する側面図である。
【図38】実施例14の車両の前部構造の構成を説明し、ステアリングギアボックス保護部材の平面図である。
【図39】実施例14の車両の前部構造の作用を説明する側面図であって、車両前部の変形後の説明図である。
【図40】本発明の最良の実施の形態である実施例15の車両の前部構造の要部の構成を説明し、ステアリングギアボックス周縁の拡大側面図である。
【図41】本発明の最良の実施の形態である実施例16の車両の前部構造の要部の構成を説明し、ステアリングギアボックス周縁の拡大側面図である。
【図42】本発明の最良の実施の形態である実施例17の車両の前部構造の構成を説明する側面図である。
【図43】実施例17の車両の前部構造の構成を説明し、ステアリングギアボックス保護部材の平面図である。
【図44】本発明の最良の実施の形態である実施例18の車両の前部構造の構成を説明する側面図である。
【図45】実施例18の車両の前部構造の構成を説明する平面図である。
【図46】実施例18の車両の前部構造の作用を説明する側面図であって、車両前部の変形途中の説明図である。
【図47】実施例18の車両の前部構造の作用を説明する側面図であって、車両前部の変形後の説明図である。
【図48】本発明の最良の実施の形態である実施例19の車両の前部構造の構成を説明する側面図である。
【図49】実施例19の車両の前部構造の作用を説明する側面図であって、車両前部の変形途中の説明図である。
【図50】実施例19の車両の前部構造の作用を説明する側面図であって、車両前部の変形後の説明図である。
【図51】従来例の車両の前部構造の構成を説明する側面図である。
【図52】従来例の車両の前部構造の作用を説明する側面図である。
【図53】従来例の車両の前部構造の作用を説明する平面図である。
【符号の説明】
【0184】
1 フロントサイドフレーム
3 フロントクロスメンバ
4 サスペンションメンバ
4b サスペンションクロスメンバ
4c ガイド部
4d 凹み部
4e,4f,4g ガイド部材
7 パワーユニット
12 ステアリングギアボックス
16 突出部
17 ケーブル
18 ケーブル保持部
19 ステアリングギアボックスマウント部材
20a マウント部材側傾斜部
20b ステアリング側傾斜部
21 ガイド部
22,23 ガイド部材
24 ステアリングギアボックス保護部材
25 屈曲ロッド部材(連結部材)
28 回転ジョイント部
30 リング状部材
31 ワイヤ連結部材(連結部材)
32 易屈曲部
71 脱落用ブラケット(変換手段:伝達ブラケット)
190 脱落用ワイヤ(変換手段:ワイヤ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前部に搭載したパワーユニットと、前記パワーユニットの車両前方側または車両後方側に配置したステアリングギアボックスと、前記ステアリングギアボックスを支持するサスペンションメンバとを有する車両の前部構造であって、
前記ステアリングギアボックスは、衝突による車両前部の変形を受けて前記パワーユニットの下方へ移動するように前記サスペンションメンバの下部に配置されていることを特徴とする車両の前部構造。
【請求項2】
前記ステアリングギアボックスは、前記サスペンションメンバの下面に形成された凹み部に配置されていることを特徴とする請求項1記載の車両の前部構造。
【請求項3】
前記ステアリングギアボックスには、車両前部の変形を前記ステアリングギアボックスに伝える突出部が車両前方に一体に設けられていることを特徴とする請求項1または請求項2記載の車両の前部構造。
【請求項4】
前記サスペンションメンバには、前記ステアリングギアボックスを前記パワーユニットの下方へ移動させるガイド部が形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の車両の前部構造。
【請求項5】
前記ガイド部は、車両の衝突に伴う前記サスペンションメンバの変形によって形成されたものであることを特徴とする請求項4記載の車両の前部構造。
【請求項6】
前記ガイド部は、サスペンションクロスメンバに沿って装備したガイド部材によって形成されていることを特徴とする請求項4記載の車両の前部構造。
【請求項7】
前記ステアリングギアボックスの前記パワーユニット側には、前記ステアリングギアボックスを前記パワーユニットの下方へ移動させるガイド部材が配置されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の車両の前部構造。
【請求項8】
前記パワーユニットの車両前方には、前記ステアリングギアボックスを前記パワーユニットの下方へ移動させるガイド部材が配置されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の車両の前部構造。
【請求項9】
前記ステアリングギアボックスは、前記サスペンションメンバの下方において車両前後方向に延設され且つ車両前方からの所定値以上の衝撃荷重の入力によって分離可能に該サスペンションメンバに固設されたステアリングギアボックスマウント部材の上部に配設されていることを特徴とする請求項1または請求項2記載の車両の前部構造。
【請求項10】
前記ステアリングギアボックスマウント部材は、該ステアリングギアボックスマウント部材に車両後方側に向けて形成されたマウント部材側傾斜部と、前記サスペンションメンバに車両前方側に向けて形成されたサスペンション側傾斜部とを係合させて、前記サスペンションメンバに固設されていることを特徴とする請求項9記載の車両の前部構造。
【請求項11】
前記サスペンションメンバには、前記ステアリングギアボックスを前記パワーユニットの下方へ移動させるガイド部が車両前方側に向けて形成されていることを特徴とする請求項9または請求項10記載の車両の前部構造。
【請求項12】
前記ステアリングギアボックスの前記パワーユニット側には、前記ステアリングギアボックスを前記パワーユニットの下方へ移動させるガイド部材が配置されていることを特徴とする請求項9または請求項10記載の車両の前部構造。
【請求項13】
前記パワーユニットの車両前方には、前記ステアリングギアボックスを前記パワーユニットの下方へ移動させるガイド部材が配置されていることを特徴とする請求項9または請求項10記載の車両の前部構造。
【請求項14】
前記ステアリングギアボックスには、ステアリングホイールの回動操作を該ステアリングギアボックスに伝達するケーブルが接続されており、該ケーブルは、衝突時に前記ステアリングギアボックスが前記パワーユニットの下方へ移動する距離分の長さを余裕分として有して配策されていることを特徴とする請求項1乃至請求項13のいずれか一項に記載の車両の前部構造。
【請求項15】
前記ケーブルは、車体構造部分に設置されたケーブル保持部を経由して迂回させるように配策されていることを特徴とする請求項14記載の車両の前部構造。
【請求項16】
前記車体構造部分は、フロントクロスメンバであることを特徴とする請求項15記載の車両の前部構造。
【請求項17】
前記車体構造部分は、フロントサイドフレームであることを特徴とする請求項15記載の車両の前部構造。
【請求項18】
前記車体構造部分は、サスペンションメンバであることを特徴とする請求項15記載の車両の前部構造。
【請求項19】
前記ステアリングギアボックスの下方にステアリングギアボックス保護部材を配置すると共に、該ステアリングギアボックス保護部材と、前記ステアリングギアボックスとの間を連結すると共に、該ステアリングギアボックス保護部材の移動により、該ステアリングギアボックスを下方に引下げる連結部材を設けたことを特徴とする請求項1乃至請求項13のいずれか一項に記載の車両の前部構造。
【請求項20】
前記連結部材は、回動ジョイント部を有して、屈曲された状態で、前記ステアリングギアボックス保護部材と、前記ステアリングギアボックスとの間を連結すると共に、該ステアリングギアボックス保護部材の移動により、該回転ジョイント部を直線状に伸張させることにより、前記ステアリングギアボックスを下方に引下げる屈曲ロッド部材からなることを特徴とする請求項19記載の車両の前部構造。
【請求項21】
前記ステアリングギアボックスの断面の周方向に相対移動可能なリング状部材を介して、該ステアリングギアボックスに一端を連結することを特徴とする請求項20記載の車両の前部構造。
【請求項22】
前記連結部材は、該ステアリングギアボックスに一端を連結すると共に、他端を前記ステアリングギアボックス保護部材に弛ませた状態で連結して、該ステアリングギアボックス保護部材の移動により、直線状に伸張されて、前記ステアリングギアボックスを下方に引下げるワイヤ連結部材からなることを特徴とする請求項19記載の車両の前部構造。
【請求項23】
衝突によりパワーユニットに生じる車両前方への慣性力を、前記ステアリングギアボックスを車両下方へ移動させる力に変換する変換手段を備えていることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の車両の前部構造。
【請求項24】
前記変換手段として、前記パワーユニットとその車両前方に間隔を空けて配置されたステアリングギアボックスとの少なくとも一方に、前記慣性力を伝達可能な伝達ブラケットが、前記パワーユニットとステアリングギアボックスとの他方に向けて取り付けられていることを特徴とする請求項23に記載の車両の前部構造。
【請求項25】
前記変換手段として、前記パワーユニットの車両後方側部分と、パワーユニットの車両前方に配置された前記ステアリングギアボックスの車両下方側部分とを、前記慣性力を伝達可能に連結して配索されたワイヤが設けられていることを特徴とする請求項23に記載の車両の前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【図45】
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【図46】
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【図47】
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【図48】
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【図49】
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【図50】
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【図51】
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【図52】
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【図53】
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【公開番号】特開2007−269306(P2007−269306A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−297268(P2006−297268)
【出願日】平成18年11月1日(2006.11.1)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】