説明

車両の姿勢制御装置

【課題】走行面の凹凸、横風、急旋回動作等によって生じるロール振動を抑制することができる技術を提供する。
【解決手段】 この車両10は、車体20の左右に回転可能に取付けられている2つの駆動輪12a,12bを異なる駆動トルクで駆動可能となっている。この車両は、車体20のロール振動を抑制する姿勢制御装置32を備えている。姿勢制御装置32は、車体20のロール角を検出するロール角検出手段30と、ロール角検出手段で検出されるロール角の微分値に基づいて、左右の駆動輪に駆動トルク差が生じるように各駆動輪を駆動する制御部を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の姿勢を制御する技術に関する。特に、車体のロール角を制御するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車体のロール角を制御する車両が開示されている。この車両では、車体の左右に設けられた2つの駆動輪が異なる駆動トルクで駆動可能となっている。車両の走行中に車体のロール角が予め設定されたロール角以上となると、車体のロール角がそれまでのロール角より小さくなるように、ロール抑制モーメントが算出される。そして、算出されたロール抑制モーメントが発生するように、左右の駆動輪を異なる駆動トルクで駆動する。これによって、車体のロールが抑えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−12972号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
走行中の車両には、走行面の凹凸、横風、急旋回動作等によって、車体のロール角が周期的に変動するロール振動が発生する。特許文献1の技術は、車体のロール角を制御することはできるが、車体のロール振動を抑制することはできない。本発明は、車体のロール振動を抑制することができる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書に開示する姿勢制御装置は、車体の左右に回転可能に取付けられている2つの駆動輪を異なる駆動トルクで駆動可能な車両の姿勢制御装置であって、車体のロール角を検出するロール角検出手段と、ロール角検出手段で検出されるロール角の微分値に基づいて、左右の駆動輪に駆動トルク差が生じるように各駆動輪を駆動する制御部と、を有している。
【0006】
この姿勢制御装置では、ロール角検出手段で検出されるロール角の微分値に基づいて、左右の駆動輪に駆動トルク差を発生させる。このため、車体のロール角が周期的に変化するロール振動が生じても、そのロール振動が減衰される。これによって、走行面の凹凸、横風、急旋回動作等によって生じるロール振動を抑制することができる。
【0007】
上記の姿勢制御装置の制御部は、ロール角検出手段から出力されるロール角信号から一部の周波数領域の信号を低減して所定の周波数領域の信号を出力するフィルタと、フィルタから出力されるロール角信号の微分値に基づいて、左右の駆動輪に生じさせる駆動トルク差を算出する駆動トルク差算出手段を有していてもよい。この場合には、前記の所定の周波数領域には、車体のロール振動周波数が含まれていることが好ましい。このような構成によると、ロール角検出手段から出力されるロール角信号からノイズ成分(すなわち、一部の周波数領域の信号成分)が低減され、車体のロール振動周波数(すなわち、車体がロール振動する周波数)に基づいて駆動トルク差が算出されるため、車体の姿勢制御を適切に行うことができる。
【0008】
ここで、上記のフィルタは、上記の車体のロール振動周波数において、ナイキスト軌跡が(−1,j0)の単位円の外側に描かれるように設計されていることが好ましい。このような構成によると、車体のロール振動を抑制するフィードバック制御を安定して行うことができる。
【0009】
また、上記の所定の周波数領域には、車体のヨー固有振動数が含まれていないことが好ましい。このような構成によると、車体にヨー振動が生じても、そのヨー振動がロール角振動を抑制するためのフィードバック制御に影響を及ぼすことを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施例に係る車両を模式的に示す図。
【図2】車両の制御系の構成を示すブロック図。
【図3】車両の制御装置で実行される処理の手順を示すフローチャート。
【図4】左右の駆動輪に駆動トルク差を発生させることでロールモーメントを発生させるメカニズムを説明するための図(平面図)。
【図5】左右の駆動輪に駆動トルク差を発生させることでロールモーメントを発生させるメカニズムを説明するための図(背面図)。
【図6】車両にロール運動が生じている状態を模式的に示す図(背面図)。
【図7】ロール振動を抑制する制御系の構成を示すブロック図。
【図8】制御装置の設計方法を説明するための図。
【図9】車両の駆動制御系の全体構成を示すブロック図。
【図10】車両のロール振動を抑制する効果を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施例に係る車両10について、図面を参照しながら説明する。図1に示すように車両10は、前輪12b,12aと、後輪18と、前輪12a,12b及び後輪18が取付けられた車体20を備えている。なお、以下の説明において、左右の区別は、車両10の進行方向(図中の矢印A)に対して右側を「右」といい、進行方向Aに対して左側を「左」という。
【0012】
前輪12a,12bは、車体20の側面の前端側に回転可能に取付けられている。左前輪12aは、インホイールモータ14aと接続されており、インホイールモータ14aによって駆動される。右前輪12bは、インホイールモータ14bと接続されており、インホイールモータ14bによって駆動される。すなわち、前輪12a、12bは、それぞれ独立して駆動される。前輪12a,12bを駆動することで、車両10は走行面F(図5等に図示)を走行する。また、右前輪12aの回転駆動量(回転角速度)と左前輪12bの回転駆動量(回転角速度)を変えることで、車両10はその進行方向を変えることができる。一方、後輪18は、従動輪であり、車体の50の中央の後端側に回転可能に取付けられている。
【0013】
図2に示すように、車体20は、車体20のロール角を検出するロール角検出センサ30と、ステアリング装置22と、アクセル装置24と、インホイールモータ14a、14bに制御指令値を出力する制御装置32を備えている。
【0014】
ロール角検出センサ30は、車体20のロール角を検出するセンサである。ロール角検出センサ30は、制御装置32に電気的に接続されている。ロール角検出センサ30から出力されるロール角信号(すなわち、車体20のロール角を示す信号)は、制御装置32に入力されるようになっている。ロール角検出センサ30には、例えば、ジャイロセンサを用いることができる。なお、車体20のロール角を検出する手段としては、ジャイロセンサ以外の他の構成を採ることができる。例えば、車輪12a,12bに接続された各サスペンションのストロークを検出するセンサを用いて、車体20のロール角を検出することができる。
【0015】
ステアリング装置22は、運転者によって操作され、車両10の目標進行方向が入力される。ステアリング装置22には、運転者のステアリング操作を検出するステアリング操作検出センサ26が設けられている。ステアリング操作検出センサ26で検出される検出結果は、制御装置32に入力される。ステアリング装置22及びステアリング操作検出センサ26には、公知の自動車に用いられている一般的なものを用いることができる。
【0016】
アクセル装置24は、運転者によって操作され、車両10の目標速度が入力される。アクセル装置24には、運転者のアクセル操作を検出するアクセル操作検出センサ28が設けられている。アクセル操作検出センサ28で検出された検出結果は、制御装置32に入力される。アクセル装置24及びアクセル操作検出センサ28には、公知の自動車に用いられている一般的なものを用いることができる。
【0017】
インホイールモータ14a、14bは、制御装置32と電気的に接続されている。インホイールモータ14a、14bは、制御装置32から入力される制御指令値にしたがって、前輪12a、12bをそれぞれ駆動する。インホイールモータ14aには、エンコーダ16aが設けられている。エンコーダ16aは、制御装置32と電気的に接続されている。エンコーダ16aは、インホイールモータ14aの回転角速度(すなわち、左前輪12aの回転角速度)を検出する。エンコーダ16aが検出した左前輪12aの回転角速度は、制御装置32に入力される。また、インホイールモータ14bにも、エンコーダ16bが設けられている。エンコーダ16bは、右前輪12bの回転角速度を検出する。エンコーダ16bが検出した右前輪12bの回転角速度も、制御装置32に入力される。
【0018】
制御装置32は、CPU,ROM,RAM等を備えたコンピュータによって構成されている。制御装置32は、車体20に設置されている。制御装置32は、インホイールモータ14a、14bと、エンコーダ16a、16bと、ロール角検出センサ30と、ステアリング操作検出センサ26と、アクセル操作検出センサ28に電気的に接続されている。図2に示すように、制御装置32は、その機能として、速度指令値算出部38と、第1トルク指令値算出部36と、トルク補償値算出部40と、第2トルク指令値算出部34を備えている。
【0019】
速度指令値算出部38は、ステアリング操作検出センサ26から入力されるステアリング操作と、アクセル操作検出センサ28から入力されるアクセル操作から、インホイールモータ14a,14bの速度指令値を算出する。すなわち、速度指令値算出部38は、入力されるステアリング操作から車両10の目標速度を算出し、入力されるアクセル操作から車両10の目標進行方向を算出する。上述したように、本実施例では、左前輪12aと右前輪12bの回転角速度の差によって車両10の進行方向を変更する。したがって、速度指令値算出部38は、車両10が算出された目標速度と目標進行方向となるように、インホイールモータ14a,14bの速度指令値(回転角速度指令値)を算出する。
【0020】
第1トルク指令値算出部36は、速度指令値算出部38から出力される回転角速度指令値と、エンコーダ16a,16bから出力されるインホイールモータ14a,14bの回転角速度とから、インホイールモータ14a,14bのトルク指令値を算出する。すなわち、第1トルク指令値算出部36は、エンコーダ16a,16bから出力されるインホイールモータ14a,14bの回転角速度が速度指令値算出部38から出力されるインホイールモータ14a,14bの回転角速度指令値となるように、インホイールモータ14a,14bのトルク指令値を算出する。
【0021】
第2トルク指令値算出部34は、第1トルク指令値算出部36で算出されるインホイールモータ14a,14bのトルク指令値と、後述するトルク補償値算出部40で算出されるインホイールモータ14a,14bのトルク補償値に基づいて、インホイールモータ14a,14bに出力する最終的なトルク指令値を算出する。具体的には、左前輪12aを駆動するインホイールモータ14aに対しては、第1トルク指令値算出部36で算出されたインホイールモータ14aのトルク指令値にトルク補償値算出部40で算出されたインホイールモータ14aのトルク補償値を加算する。一方、右前輪12bを駆動するインホイールモータ14bについては、第1トルク指令値算出部36で算出されるインホイールモータ14bのトルク指令値からトルク補償値算出部40で算出されたインホイールモータ14bのトルク補償値を減算する。これによって、左右の前輪12a、12bに、トルク補償値算出部40で算出された駆動トルク差が与えられる。
【0022】
トルク補償値算出部40は、ロール角検出センサ30で検出されるロール角の微分値に基づいて、左前輪12aと右前輪12bとの間に駆動トルク差を発生させるためのトルク補償値(トルク指令値)を算出する。まず、左前輪12aと右前輪12bに駆動トルク差を生じさせることによってロールモーメントが発生するメカニズムと、車両10のロール運動の運動方程式について説明する。次いで、トルク補償値算出部40の具体的な構成について詳細に説明する。
【0023】
図4に示すように、左前輪12aと右前輪12bに駆動トルク差を与えると、その駆動トルク差によって左前輪12aと右前輪12bに逆位相の駆動力F/2が生じる。一方、前輪12a,12bは走行面Fに拘束されるため、車体20には前輪12a,12bの中心にトルクτが生じる。このトルクτによって、図5に示すように、車両10の重心位置Gに横力Fが生じ、この横力Fによってロール軸Rの回りにロールモーメントτが発生する。(すなわち、左前輪12aと右前輪12bに駆動トルク差を与えると、ロール軸R回りにロールモーメントτが生じる。)したがって、車体20のロール角に応じて適切なロールモーメントτが生じるように、左前輪12aと右前輪12bに駆動トルク差を与えることで、車体20のロール振動を抑制することができる。なお、前輪12a,12bの駆動力差Fとロールモーメントτrには比例関係があるため、次の式が成立するものとする。
τr=Kr・F (式1)
ここで、定数Krは、車両に応じて決める定数である。
【0024】
次に、車両10のロール運動を表す運動方程式について説明する。ここで、ロール振動時の車体20のロール角θは微少であるため、重力によるロール軸回りのモーメントの影響を無視する。また、ロール振動を励起させる原因は、車両10の旋回動作による遠心力、走行面の凹凸、横風等であるが、これらの外力を車両10の重心位置Gに作用する横力Fとして表す。したがって、ロール運動の運動方程式は、下記の式で表される。
θ(dθ/dt)=τ−Cθ(dθ/dt)−Kθθ―lF (式2)
上記の式において、Iθはロール軸回りの慣性モーメント、Cθはサスペンションによる粘性係数、Kθはサスペンションによるロール剛性係数、lはロール軸Rから重視位置Gまでの距離である。
【0025】
上記の運動方程式からトルク補償値算出部40の具体的な構成を決定することができる。例えば、まず、上記(式1)と(式2)から、前輪12a,12bの駆動力差Fと外力Fからθまでの伝達関数を求める。すなわち、(式2)に(式1)の関係を代入してラプラス変換を行うと、次の式が得られる。
θ={1/(Is+Cθs+Kθ)}・(K・F−l・F) (式3)
したがって、ロール振動角周波数ω(すなわち、ロール振動周波数)及び減衰係数ζは、次の式で表される。
ω=√(Kθ/Iθ) ζ=Cθ/2ω (式4)
なお、(式4)を(式3)に代入すると、(式3)は次の式で表される。
θ={(1/Iθ)/(s+2ζωs+ω)}・(K・F−l・F) (式5)
【0026】
ここで、ロール振動を抑制するためには、減衰係数ζを増大させるフィードバック制御を行えばよい。このために、本実施例のトルク補償値算出部40は、前輪12a,12bの駆動力差Fをロール角の微分値に基づいて与える。すなわち、微分ゲインをKとし、駆動力差Fを次の式で与える。
F=−K・sθ (式6)
(式6)を(式5)に代入すると、次の式を得る。
θ={(−l/Iθ)/(s+(2ζωs+K)s+ω)}・F (式7)
(式7)より明らかなように、(式6)によって駆動力差Fを与えれば、ロール振動の減衰係数ζが見かけ上大きくなり、ロール振動を減衰させることができる。したがって、トルク補償値算出部40が(式6)によって表される駆動力差Fを発生させることで、ロール振動を抑制することができる。
【0027】
なお、ロール角検出センサ30から出力されるロール角信号には各種ノイズ成分が含まれているため、これを除去してフィードバック制御を行うことが好ましい。フィードバック制御に必要な周波数成分はロール振動が生じる周波数成分(ロール振動角周波数ωを含む)であるため、ロール振動が生じる周波数成分を通過させるフィルタを用いることが好ましい。例えば、フィルタとしては、ロール振動が生じる周波数成分を通過させるバンドパスフィルタを用いることができる。なお、バンドパスフィルタが通過させる周波数領域には、車体20のヨー運動の固有振動数が含まれないようにすることが好ましい。これによって、ロール運動のフィードバック制御にヨー振動が影響することを防止することができる。
【0028】
バンドパスフィルタF(s)を用いる場合は、(式6)の駆動力差Fは次の式で表される。
F=−K・F(s)・sθ (式8)
したがって、トルク補償値算出部40は、微分ゲインKとバンドパスフィルタF(s)によって構成することができる。この場合、フィードバック制御系の安定性とロール振動の抑制性能を顧慮して、微分ゲインKとバンドパスフィルタF(s)を設計することとなる。
【0029】
次に、微分ゲインKとバンドパスフィルタF(s)の設計方法(設計指針)の一例を説明する。ここで、駆動力差Fからロール角θまでの伝達関数をP(s)とすると、P(s)は次の式で表される。
P(s)=(Kr/Iθ)/(s+2ζωs+ω) (式9)
また、上記(式8)のフィードバック補償要素を次式のC(s)で置き換える。すなわち、C(s)は次の式で表される。
C(s)=K・F(s)・s (式10)
(式9)と(式10)より、トルク補償値算出部40のフィードバック制御系をブロック線図で表すと、図7となる。図7から明らかなように、このフィードバック制御系の安定性の観点からは、P(jω)C(jω)のベクトル軌跡がナイキスト安定判別の安定条件を満たさなければならない。
【0030】
一方、(式7)をP(s)とC(s)を使って書き換えると、次式が導かれる。
θ={−l/(1+P(s)C(s))}・P(s)・l/K・F (式11)
したがって、外力Fdが車両10に作用したときにロール振動を抑制するためには、ロール振動の固有振動数(すなわち、ω)の近傍の周波数領域(例えば、ロール振動の固有振動数ωであるときにω±Δ0.2ωの周波数領域)で、次式を満足するフィードバック補償C(s)を設計すればよい。
|1/(1+P(jω)C(jω))|<1 (式12)
すなわち、|1/(1+P(jω)C(jω))|が1より小さければ、外力Fが作用しても、ロール角θは減衰する。したがって、(式12)を満足すれば、車両10のロール振動が抑制することができる。なお、(式12)の条件をP(jω)C(jω)のベクトル軌跡上で表現すると、図8に示すように、ロール振動周波数ωの近傍の周波数領域において、[−1,j0]を中心とした単位円外でベクトル軌跡が描かれることを意味する。
【0031】
したがって、微分ゲインKとバンドパスフィルタF(s)は、次の2つの条件が満足されるように設計することが好ましい。すなわち、(1)P(jω)C(jω)のベクトル軌跡(ナイキスト軌跡)がナイキスト安定判別の安定条件を満足し、(2)P(jω)C(jω)のベクトル軌跡(ナイキスト軌跡)がロール振動周波数の近傍の周波数領域において[−1,j0]を中心とした単位円外で描かれるように、設計することが好ましい。このように微分ゲインKとバンドパスフィルタF(s)を設計することで、適切に車体20のロール振動を抑制することができる。
【0032】
以上、制御装置32の各部34〜40の構成を詳細に説明したが、制御装置32の全体構成をブロック線図で表すと、図9に示すようになる。すなわち、左右の車輪速度制御則37a、37b(第1トルク指令値算出部36に相当)には、エンコーダ16a,16bからの検出値(V,V)が入力されると共に、速度指令値算出部38より目標角速度(Vref,Vref)が入力される。そして、左右の車輪速度制御則37a、37bは、入力されたこれらの値に基づいてトルク指令値を算出する。一方、フィードバック補償C(s)には、ロール角θが入力され、このロール角θを用いて左右の前輪12a,12bの駆動トルク差が算出され、この駆動トルク差は各車輪12a,12bに分配される。加算器34a,34b(第2トルク指令値算出部34に相当)は、車輪速度制御則37a、37bから入力されるトルク指令値と、フィードバック補償C(s)から入力される駆動トルク差(トルク補償値)に基づいて、左右のインホイールモータ14a,14bに出力するトルク指令値(τref,τref)を算出する。これによって、左右の車輪12a,12bに適切な駆動トルク差が与えられ、車体20のロール振動が抑制される。
【0033】
次に、上述した車両10の制御装置32で行われる処理を、図3のフローチャートに従って説明する。制御装置32は、所定の制御周期毎に、図3に示すステップS10〜S24の処理を繰り返し実行する。これにより、車両10は走行面Fを走行する。
【0034】
図3に示すように、制御装置32は、まず、センサ26,28の出力に基づいて、運転者がステアリング操作及びアクセル操作を行ったか否かを判断する(S10)。運転者がステアリング操作及びアクセル操作を行っていない場合(ステップS10でNO)は、そのまま待機し、運転者がステアリング操作及びアクセル操作を行っている場合(ステップS10でYES)は、ステップS12に進む。
【0035】
ステップS12に進むと、制御装置32は、運転者から入力されたステアリング操作及びアクセル操作に基づいて、左右のインホイールモータ14a,14bの目標回転角速度(速度指令値)を算出する(S12)。また、制御装置32は、エンコーダ16a,16bの出力からインホイールモータ14a,14bの実際の回転角速度を検出し(S14)、ロール角検出センサ30の出力から車体20のロール角を検出する(S16)。
【0036】
次いで、制御装置32は、ステップS12で算出された目標回転角速度と、ステップS14で検出した実際の回転角速度とから、インホイールモータ14a,14bの回転角速度が目標回転角速度となるようにトルク指令値(第1トルク指令値)を算出する(S18)。また、制御装置32は、ステップS16で検出したロール角を用いて、左右のインホイールモータ14a,14bに与えるトルク補償値(駆動トルク差)を算出する(S20)。そして、制御装置32は、ステップS18で算出したトルク指令値と、ステップS20で算出したトルク補償値に基づいて、インホイールモータ14a,14bに出力するトルク指令値(第2トルク指令値)を算出し(S22)、その算出したトルク指令値を各インホイールモータ14a,14bに出力する(S24)。これによって、左右の前輪12a,12bに適切な駆動トルク差が与えられ、ロール振動が減衰される。
【0037】
図10は、本実施例の車両10に外力Fによりロール振動が生じたときのロール角θの経時変化と、従来の車両(トルク補償値を与えない車両)に外力Fが作用したときのロール角θの経時変化を併せて示すグラフである。図10より明らかなように、本実施例の車両10では、従来の車両と比較して、車体20のロール振動が短時間の間に減衰している。
【0038】
上述した説明から明らかなように、本実施例の車両10では、車体20のロール角θの微分値に基づいて、左右の前輪12a,12bに駆動トルク差を発生させる。このため、走行面の凹凸、横風、急旋回動作等によって生じるロール振動を速やかに減衰させ、安定した走行を実現することができる。特に、トレッド幅の狭い車両や、車高の高い車両においてはロール振動が大きな問題となるが、このような車両においてもロール振動を好適に抑制することができる。
【0039】
なお、上述した実施例では、バンドパスフィルタを用いてトルク補償値算出部40を構成したが、バンドパスフィルタの代わりに不必要な周波数成分の信号を除去するバンドエリミネイトフィルタを用いることができる。
【0040】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例をさまざまに変形、変更したものが含まれる。
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0041】
10 車両
12a 左前輪
12b 右前輪
14a,14b インホイールモータ
14a,14b 左右前輪
14a,14b 各車輪
14a,14b インホイールモータ
14a,14b インホイールモータ
16a,16b エンコーダ
18 後輪
20 車体
22 ステアリング装置
24 アクセル装置
26 ステアリング操作検出センサ
28 アクセル操作検出センサ
30 ロール角検出センサ
32 制御装置
34 トルク指令値算出部
36 第1トルク指令値算出部
38 速度指令値算出部
40 トルク補償値算出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の左右に回転可能に取付けられている2つの駆動輪を異なる駆動トルクで駆動可能な車両の姿勢制御装置であって、
車体のロール角を検出するロール角検出手段と、
ロール角検出手段で検出されるロール角の微分値に基づいて、左右の駆動輪に駆動トルク差が生じるように各駆動輪を駆動する制御部と、を有する姿勢制御装置。
【請求項2】
制御部は、
ロール角検出手段から出力されるロール角信号から一部の周波数領域の信号を低減して所定の周波数領域の信号を出力するフィルタと、
フィルタから出力されるロール角信号の微分値に基づいて、左右の駆動輪に生じさせる駆動トルク差を算出する駆動トルク差算出手段と、を有しており、
前記の所定の周波数領域には、車体のロール振動周波数が含まれている、請求項1に記載の姿勢制御装置。
【請求項3】
前記フィルタは、前記の車体のロール振動周波数において、ナイキスト軌跡が(−1,j0)の単位円の外側に描かれるように設計されている、請求項2に記載の姿勢制御装置。
【請求項4】
前記の所定の周波数領域には、車体のヨー固有振動数が含まれていない、請求項2又は3に記載の姿勢制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−180011(P2012−180011A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−44227(P2011−44227)
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】