説明

車両の自動制動装置

【課題】ドライバによる操縦の意思を反映しながら、自動制動のオーバーライド制御を行う車両の自動制動装置を提供する。
【解決手段】車両の制動機構を自動で駆動する駆動手段11,13と、車両前方の障害物を検知する前方障害物検知手段2と、車両の運転のためにドライバにより操作されるドライバ操作手段の操作状態を検出するドライバ操作検出手段4〜6と、駆動手段の作動を制御する制御手段1とを備え、制御手段1は、車両が障害物と衝突するかを予測する衝突予測手段22と、該操作が適正な衝突回避操作か誤操作かを判定する操作判定手段23と、操作判定手段によって操作が適正な衝突回避操作であると判定されると駆動手段を非作動とし、ドライバ操作検出手段によって操作状態が検出されない若しくは且つ操作状態が検出されたが操作判定手段によって操作が誤操作であると判定されると駆動手段を作動させる作動指令手段24とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の衝突時の被害を軽減するための自動制動を特定条件下で行う車両の自動制動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車(以下、車両とも言う)の衝突時の被害を軽減するために、自動制動を利用する技術が開発されている。例えば、車両の前方に存在する車両等の障害物が存在する場合に、車両と障害物との関係、つまり、自車両と障害物との相対速度及び相対距離から、衝突の可能性がある判断したときに、追突の警報を発し、さらに自動的にブレーキを作動させる、衝突被害軽減ブレーキに関する技術が開発されている。
【0003】
特許文献1には、自車両と障害物との距離が危険距離となったときに警報を発する追突警報装置付の車両において、危険距離となったときに、ドライバによるブレーキペダルの操作が行われているかの判断を行い、人為的にブレーキがかけられている場合には、この人為的ブレーキ操作を優先させる技術が開示されている。また、この文献には、アクセルペダルの操作が行われているかの判断を行い、アクセル操作が行われている場合には、アクセルアクチュエータによりアクセルペダルを非操作状態に戻した後、自動ブレーキを作動させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−242164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、車両の運転は本来ドライバが主体として行なうべきもので、このような衝突被害軽減ブレーキは、ドライバが衝突の回避操作や衝突時の被害軽減操作を何ら行なわない場合に、実施すべきである。したがって、衝突被害軽減ブレーキを実施すべき状況下に、ドライバが衝突の回避操作等を実施したら、ドライバの回避操作を速やかに反映させるように、このドライバの操作を衝突被害軽減ブレーキよりも優先させる、所謂オーバーライド制御が必要である。
【0006】
しかし、特許文献1に記載の技術は、自動ブレーキの作動時にアクセル操作が行われている場合には、アクセルペダルを非操作状態に戻すものであり、ドライバによる操縦があっても、これに優先して自動ブレーキを作動させるもので、ドライバの意思を制御に反映できない。これは、衝突被害軽減操作はブレーキ操作のみであるとの前提に基づくものと考えられるが、例えば、アクセル操作をしながら、操舵操作で衝突を回避する運転操作もある。したがって、衝突被害軽減のためにドライバのアクセル操作を無視することは適切な制御とは言えない。
【0007】
ただし、車両と障害物との衝突が予測される場合において、ドライバがアクセル操作を行なった場合に、これが必ずしも衝突被害軽減操作であるとは限らない。例えば、ドライバがパニック状態に陥ると、アクセルペダルとブレーキペダルとを踏み間違える可能性があり、もしもこの踏み間違えが発生した場合にも、これを衝突被害軽減操作であると認識すると、その結果、衝突被害軽減ブレーキによる有効な制動制御が、ドライバによる誤ったアクセル操作によりオーバーライドされてしまう場合が考えられる。
【0008】
本発明はこのような課題に鑑みて案出されたもので、車両と障害物との衝突が予測される場合における車両の自動制動時において、ドライバによる操縦の意思を適切に反映して自動制動のオーバーライド制御を行うことができるようにした、車両の自動制動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明は、車両を自動的に制動させる車両の自動制動装置であって、前記車両の制動機構を自動で駆動する駆動手段と、前記車両前方の障害物を検知する前方障害物検知手段と、前記車両の運転のためにドライバにより操作されるドライバ操作手段の操作状態を検出するドライバ操作検出手段と、前記前方障害物検知手段及び前記ドライバ操作検出手段からの情報に基づいて前記駆動手段の作動を制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、前記前方障害物検知手段によって前記障害物が検知されると、前記車両が前記障害物と衝突するかを予測する衝突予測手段と、前記ドライバ操作検出手段によって前記操作状態が検出されると、該操作が適正な衝突回避操作か誤操作かを判定する操作判定手段と、前記衝突予測手段によって前記車両が前記障害物と衝突すると予測された場合において、前記操作判定手段によって前記操作が適正な衝突回避操作であると判定されると前記駆動手段を非作動とし、前記ドライバ操作検出手段によって前記操作状態が検出されない若しくは且つ前記操作状態が検出されたが前記操作判定手段によって前記操作が誤操作であると判定されると前記駆動手段を作動させる作動指令手段とを有していることを特徴としている。
【0010】
また、前記ドライバ操作手段はアクセル操作手段を含み、前記ドライバ操作検出手段は前記車両のアクセル開度を検出するアクセル開度検知手段を含み、前記操作判定手段は、前記ドライバ操作検出手段によりアクセル操作が検出されると、前記アクセル開度検知手段によって検知される前記車両のアクセルの操作量が、予め決定された基準アクセル操作量よりも大きい、及び/又は、前記アクセル開度検知手段によって検知される前記車両のアクセル操作速度が、予め決定された基準アクセル操作速度よりも大きい場合に、前記アクセル操作が前記誤操作であると判定し、他の場合に、前記アクセル操作が前記衝突回避操作であると判定することが好ましい。
【0011】
また、前記ドライバ操作手段はステアリング操作手段を含み、前記ドライバ操作検出手段は前記車両のステアリング操舵角を検出するステアリング操舵角検知手段を含み、前記操作判定手段は、前記ステアリング操舵角検知手段によりステアリング操作が検出されると、前記ステアリング操舵角検知手段によって検知される前記車両のステアリング操舵角が、予め決定された基準ステアリング操舵角よりも大きい、及び/又は、前記ステアリング操舵角検知手段によって検知される前記車両のステアリング操舵速度が、予め決定された基準ステアリング操舵速度よりも大きい場合に、前記ステアリング操作が前記衝突回避操作であると判定することが好ましい。
【0012】
また、前記ドライバ操作手段はブレーキ操作手段を含み、前記ドライバ操作検出手段は前記車両のブレーキ操作量を検出するブレーキ操作量検知手段を含み、前記操作判定手段は、前記ブレーキ操作量検知手段によりブレーキ操作が検出されると、前記ブレーキ操作量検知手段によって検知される前記車両のブレーキ操作量が、予め決定された基準ブレーキ操作量よりも大きい、及び/又は、前記ブレーキ操作量検知手段によって検知される前記車両のブレーキ操作速度が、予め決定された基準ブレーキ操作速度より大きい場合に、前記ブレーキ操作が前記衝突回避操作であると判定することが好ましい。
【0013】
また、前記前方障害物検知手段は、前記車両と前記障害物との相対距離及び相対速度を取得し、前記制御手段は、前記相対距離及び前記相対速度に基づいて衝突予測時間を算出する衝突予測時間算出手段を有し、前記衝突予測手段は、前記衝突予測時間に基づいて前記衝突可能性を予測することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の車両の自動制動装置によれば、ドライバによる運転操作に基づいて、車両の自動制動をオーバーライド制御することが可能となる。つまり、ドライバによる操作がドライバの衝突回避操作であると判定された場合に車両の自動制動を非作動にすることで、ドライバの意思を反映した走行が可能となり、有効な被害軽減効果を得ることができる。また、ドライバによる操作が誤操作であると判定された場合に車両の自動制動を作動させることで、ドライバの意思に反する運転操作による、車両の自動制動の不適切なオーバーライドを抑制することが出来る。
【0015】
また、アクセルの操作量及びアクセルの操作速度に基づいて、アクセル操作がドライバの回避行動によるものか、誤操作によるものかの判定を行うことで、ドライバがブレーキと間違えてアクセルを踏んだ場合のように、アクセル操作からドライバの誤操作の判定を行うことが可能となる。
また、ドライバによるステアリング操作により、車両の自動制動をオーバーライド制御することで、ドライバの衝突回避の意思を反映した走行が可能となり、有効な被害軽減効果を得ることができる。
【0016】
また、ドライバによるブレーキ操作により、車両の自動制動をオーバーライド制御することで、ドライバの減速の意思を反映した走行が可能となり、有効な被害軽減効果を得ることができる。
また、衝突予測時間に基づいて衝突の可能性を予測することで、車両の自動制動の確実性を高め、有効な被害軽減効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係る車両の自動制動装置の全体構成を示す模式的なブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る車両の自動制動装置による、自動制動装置の制御を示す模式的なフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面により、本発明の一実施形態に係る車両の自動制動装置について説明する。図1はその全体構成を示す模式的なブロック構成図、図2は制御内容を示す模式的なフローチャートである。
【0019】
<全体構成>
本実施形態に係る車両の自動制動装置は、自動車(車両ともいう)に適用されるものであって、車両前方に衝突可能性のある障害物が検知され、車両の自動制動が行われた場合に、車両の自動制動に対して、ドライバによる車両の操作によるオーバーライドを行うことで解除するものである。
【0020】
本実施形態に係る車両の自動制動装置は、図1に示すように、制御手段としての統合ECU1と、前方障害物検知手段としてのミリ波レーダ2と、ドライバ操作検出手段としてのアクセル開度センサ4(アクセル開度検知手段)と、ドライバ操作検出手段としてのステアリングセンサ5(ステアリング操舵角検知手段)と、ドライバ操作検出手段としてのブレーキセンサ6(ブレーキ操作量検知手段)と、車速センサ7と、自動制動許可スイッチ8と、警告灯9と、スピーカ10と、駆動手段としてのアクチュエータ11及びエンジンECU13とが設けられている。なお、ECUは、電子制御ユニット(Electric Control Unit)の略称であり、これらのECUは、図示しない入出力装置,制御プログラムや制御マップ等の記憶に供される記憶装置(ROM,RAM等)、中央処理装置(CPU)及びタイマカウンタ等を備えて構成されている。
【0021】
また、統合ECU1には、衝突予測時間算出部21(衝突予測時間算出手段)と、衝突可能性予測部22(衝突可能性予測手段)と、操作判定部23(操作判定手段)と、安全装置制御部24(作動指令手段)と、パラメータ記憶部25とが機能要素として設けられている。このうち衝突予測時間算出部21、衝突可能性予測部22、操作判定部23、及び安全装置制御部24は、コンピュータプログラムによるソフトウエアとして設けられている。
【0022】
統合ECU1は、車両全体を制御する電子制御ユニットであり、上述のように各検出系2,4〜7が電気的に接続されている。そして、この統合ECU1は、各検出系2,4〜7から情報(信号)を受信したら、これらの情報に基づいて判断や演算を行い、その判断結果や演算結果に基づいて各部9〜11,13に制御信号を送信するようになっている。
衝突予測時間算出部21は、ミリ波レーダ2から受信した情報と、車速センサ7から受信した情報に基づき、車両と、車両の前方に存在する障害物との衝突予測時間を算出し、算出された衝突予測時間を衝突可能性予測部22に送信する。
【0023】
衝突可能性予測部22は、衝突予測時間算出部21から受信した衝突予測時間に基づき、車両と、車両の前方に存在する障害物とが衝突するかの判断を行い、判断の結果の信号を安全装置制御部24に送信する。
操作判定部23は、アクセル開度センサ4、ステアリングセンサ5、及びブレーキセンサ6から受信した情報に基づき、ドライバによる車両の操作が、ドライバの衝突回避行動の意図を反映したものか、誤操作によるものかの判定を行い、判定の結果の信号を安全装置制御部24に送信する。
【0024】
安全装置制御部24は、衝突可能性予測部22から信号を受信し、車両と障害物とが衝突すると判断された場合には、警告灯9及びスピーカ10に制御信号を送信して乗員に報知を行う。またアクチュエータ11及びエンジンECU13に制御信号を送信して、車両の自動制動を行う。すなわち、アクチュエータ11の作動により車両のブレーキングを行い、また、エンジンECU13を介してエンジントルクのカットと、エンジンがアクセル操作を受け付けないよう制御が行われる。
【0025】
さらに、安全装置制御部24は、操作判定部23から信号を受信し、ドライバによる車両の操作が、ドライバの衝突回避行動の意図を反映したものと判定された場合には、アクチュエータ11及びエンジンECU13に制御信号を送信して、車両の自動制動に対してオーバーライド制御を行う。すなわち、安全装置制御部24によるアクチュエータ11を介したブレーキングの解除を行い、また、エンジンECU13を介してドライバのアクセル操作に応じたエンジンの運転が行われるよう制御が行われる。
【0026】
パラメータ記憶部25は、後述する車両の自動制動、及び車両の自動制動のオーバーライド制御の判定に用いられるパラメータ(閾値)が格納されている。
ミリ波レーダ2は、車両の前部に前方を向いて設置されており、車両前方の障害物を監視することができるようになっている。ミリ波レーダ2は、ミリ波を出射し、この出射したミリ波が反射した電波(反射波)を受信することができる。
【0027】
ミリ波レーダ2には、レーダECU3が内蔵されている。レーダECU3は、ミリ波レーダ2により反射波が検知されると、車両の前方に障害物があるものと判定し、この前方障害物からの反射波情報に基づき、車両と前方障害物との相対距離、及び車両に対する前方障害物の相対速度を算出する。そして、それら算出結果を統合ECU1へ送信する。
アクセル開度センサ4は、アクセルペダルの踏み込み量(操作量)を検出するものである。周期的に或いは時間差をあけてアクセルペダルの踏み込み量を得ることにより、アクセルペダルの踏み込み速度(操作速度)を得ることができる。アクセル開度センサ4は、これら検出結果を統合ECU1へ送信する。
【0028】
ステアリングセンサ5は、ステアリングホイール(ステアリング)の操舵に伴う回転角(ステアリングの操舵角)を検出するものである。周期的に或いは時間差をあけてステアリングの操舵角を得ることにより、ステアリングの操舵速度を得ることができる。ステアリングセンサ5は、これら検出結果を統合ECU1へ送信する。
ブレーキセンサ6は、ブレーキペダルの踏み込み量(操作量)を検出するものである。周期的に或いは時間差をあけてブレーキペダルの踏み込み量を得ることにより、ブレーキペダルの踏み込み速度(操作速度)を得ることができる。ブレーキセンサ6は、これら検出結果を統合ECU1へ送信する。
【0029】
車速センサ7は、車両の速度(車速)を測定することができる。車速センサ7は、この検出結果を統合ECU1へ送信する。
自動制動許可スイッチ8は、本車両の自動制動装置の作動を行うためにドライバにON・OFF操作されるスイッチであって、自動制動許可スイッチ8がON操作されると自動制動装置の制御が行われ、自動制動許可スイッチ8のOFF操作がなされるまで自動制動装置の制御が行われる。
【0030】
警告灯9及びスピーカ10は車両に取り付けられ、安全装置制御部24からの信号を受けて作動し、乗員に車両と障害物との衝突可能性を報知する。
アクチュエータ11はブレーキ12に設けられ、安全装置制御部24からの信号を受け、ブレーキの作動及び解除の操作を行うものである。なお、アクチュエータは、少なくともブレーキの操作を可能であれば良く、例えば油圧又は空気圧を利用したものを適宜用いることが出来る。
【0031】
エンジンECU13はエンジン14に備えられ、安全装置制御部24からの信号を受け、エンジン14の制御を行うものである。走行時に車両と前方障害物との衝突可能性があると判断され、車両の自動制動が行われる場合には、エンジンECU13によりエンジン14の燃料噴射量の制御が行われることでエンジントルクをカットし、エンジン14の回転数が下げられる。また、車両の自動制動が行われる場合には、ドライバによるアクセル操作が行われる場合であっても、アクセル操作を受け付けないよう制御が行われる。
【0032】
<車両の自動制動>
次に、本発明の一実施形態に係る、車両の自動制動装置に関する車両の自動制動について詳述する。
車両の自動制動とは、車両と車両の前方に存在する障害物との衝突の危険性が高まった場合に自動的に車両の制御を行うことで、車両と障害物との衝突被害の軽減を図るものであり、衝突被害軽減ブレーキとも呼ばれるものである。
【0033】
本車両の自動制動装置においては、自動制動が行われると、安全装置制御部24は、アクチュエータ11に制御信号を送信することでアクチュエータ11を作動させ、ブレーキ12の操作を行うことにより車両のブレーキングを行う。さらに、安全装置制御部24は、エンジンECU13に制御信号を送信することで、エンジンECU13を介してエンジン14のエンジントルクをカットすることにより回転数を下げ、また、ドライバによるアクセル操作が行われる場合であっても、エンジン14がアクセル操作を受け付けないよう制御が行われる。
【0034】
車両の自動制動においては、衝突予測時間(TTC:Time to Collision)に基づいて車両と車両の前方に存在する障害物が衝突するか否かの判断を行い、衝突予測時間に応じて車両の制御を行うことができる。
【0035】
車両の自動制動を行うに当たって、衝突予測時間算出部21は、ミリ波レーダ2から受信した情報に基づき、車両と障害物との相対速度及び相対距離から、衝突予測時間TTCを算出する。
次に、衝突可能性予測部22は、衝突予測時間算出部21により算出された衝突予測時間TTCに基づき、車両と障害物が衝突するか否かを判断する。
そして、安全装置制御部24は、車両と障害物が衝突する可能性が高いと判断された場合に車両の自動制動が行われる。さらに、ドライバの操作に応じて車両の制動のオーバーライド制御を行う。
【0036】
ここで、衝突予測時間TTCとは、ある時点における車両と障害物との相対距離Drを、相対速度Vrで除したもの(TTC=Dr/Vr)である。衝突予測時間TTCは、車両と障害物1との衝突を予測する指標として用いることが出来る。
衝突可能性予測部22は、衝突予測時間TTCを、衝突可能性の判断閾値としての、第一閾値Ts1、第二閾値Ts2、及び第三閾値Ts3との比較を行うことにより、自車両1の制御を行うか否かを判断する。
【0037】
第一閾値Ts1、第二閾値Ts2、及び第三閾値Ts3は、パラメータ記憶部25に格納されている。衝突可能性予測部22は、パラメータ記憶部25からこれらの閾値を読み出し、車両と障害物が衝突するか否かを判断する。
第一閾値Ts1、第二閾値Ts2、及び第三閾値Ts3の関係は、以下の式(1)で表される。
s1>Ts2>Ts3 ・・・(1)
すなわち、第一閾値Ts1の値が最も大きく、次に第二閾値Ts2が大きく、第三閾値Ts3は最も小さい値となっている。
【0038】
第一閾値Ts1とは、車両が障害物に衝突する可能性があると判断される指標となる時間である。衝突予測時間TTCが、第一閾値Ts1以下である場合(TTC≦Ts1)、統合ECU1は、安全装置制御部24により警告灯9及びスピーカ10を作動させることで、ドライバへ車両と障害物の衝突可能性の報知を行う。
【0039】
第二閾値Ts2とは、車両が障害物に衝突する可能性が高いと判断される指標となる時間である。衝突予測時間TTCが、第二閾値Ts2以下である場合(TTC≦Ts2)、統合ECU1は、安全装置制御部24によりアクチュエータ11を介してブレーキ12を作動させ、緩ブレーキをかけることにより車両の制動を行う。また、エンジンECU13を介してエンジン14の制御を行うことで、エンジン14の回転数を下げ、ドライバによるアクセル操作を受け付けないようにすることにより車両の制動が行われる。
【0040】
第三閾値Ts3とは、車両が障害物に衝突すると判断される指標となる時間である。衝突予測時間TTCが、第三閾値Ts3以下である場合(TTC≦Ts3)、統合ECU1は、安全装置制御部24によりアクチュエータ11を介してブレーキ12を作動させ、急ブレーキをかけることで車両の制動を行う。また、エンジンECU13を介してエンジン14の制御を行うことで、エンジン14の回転数を下げ、ドライバによるアクセル操作を受け付けないようにすることにより車両の制動が行われる。
【0041】
<車両の自動制動の制御>
次に、本発明の一実施形態に係る、車両の自動制動装置に関する車両の自動制動の制御について詳述する。
上述したとおり、車両の前方に障害物が存在する場合、車両と障害物の衝突被害を軽減するために、車両の自動制動が行われる。一方で、ドライバが車両の前方の障害物を認識して、車両の操縦を行うことにより、前方の障害物との衝突を回避し、又は被害の軽減を試みようとする場合が考えられる。このような場合に、ドライバによる車両の操作により、車両の自動制動に対してオーバーライド制御を行うのが車両の自動制動の制御である。
【0042】
ドライバによる衝突回避行動の意図に基づいた車両の操作により、車両の自動制動に対してオーバーライド制御を行うことで、障害物に対してドライバによる衝突回避操作を試みることが可能となり、被害軽減効果を高めることができる。
車両の自動制動のオーバーライド制御は、車両の自動制動を非作動にして、ドライバによる車両の操作を車両の自動制動に優先させることにより、ドライバによる車両の操作を有効にすることで行われる。
【0043】
本車両の自動制動装置においては、車両の自動制動のオーバーライド制御が行われると、安全装置制御部24は、アクチュエータ11に制御信号を送信することで、安全装置制御部24によるアクチュエータ11の作動の解除が行われ、ブレーキ12によるブレーキングが解除される。また、エンジンECU13に制御信号を送信することで、エンジンECU13を介してドライバのアクセル操作に応じたエンジン14の運転が行われるよう制御が行われる。これにより、ドライバの操作に応じた、アクセル操作及びブレーキ操作が可能となる。
【0044】
ここで、ドライバが車両の前方の障害物を認識して、回避又は衝突被害軽減のための操作を試みようとした場合に、ドライバが操作を誤る場合が考えられる。例えば、ブレーキペダルの踏み込みにより車両の減速を試みるところを、誤ってアクセルペダルの踏み込みを行う場合が想定される。このような場合において、ドライバによる車両の操作による車両の自動制動のオーバーライド制御を行うと、適切な車両の自動制動がドライバによる誤った操作によりオーバーライドされてしまい、有効な衝突の被害軽減効果を得ることができない。
【0045】
このため、ドライバによる車両の操作により、車両の自動制動のオーバーライド制御を行う際には、ドライバの操作が、ドライバによる衝突回避行動の意図を反映したものか、誤操作によるものかの判定を行う必要がある。そして、ドライバの操作がドライバによる衝突回避行動の意図を反映したものと判定された場合には、ドライバによる車両の操作により、車両の自動制動のオーバーライド制御を行う。一方、ドライバの操作が誤操作によるものであると判定された場合には、ドライバによる車両の操作による車両の自動制動のオーバーライド制御を行わず、自動制動の作動を行い、又は自動制動を継続して行う必要がある。
【0046】
ドライバによる車両の操作が、ドライバの衝突回避行動の意図を反映したものか、誤操作によるものかの判定を行うにあたっては、ドライバによる車両の操作状況及びドライバの運転状態に基づいて判定を行うことができる。ドライバによる車両の操作状況としては、例えばアクセル操作、ステアリング操作、ブレーキ操作、クラッチ操作、パーキングブレーキ操作、方向指示器(ウインカ)操作、警笛(ホーン)操作に基づいて判定を行うことができる。本発明の実施形態においては、アクセル操作、ステアリング操作、及びブレーキ操作に基づいて、ドライバの操作がドライバによる衝突回避行動の意図によるものか、誤操作によるものかの判定を行う。
【0047】
これらアクセル操作、ステアリング操作、及びブレーキ操作に基づく、ドライバの操作がドライバによる衝突回避行動の意図によるものか、誤操作によるものかの判定と、車両の自動制動のオーバーライドは、単独で行っても良く、判定条件を適宜組み合わせて行っても良い。
【0048】
[アクセル操作に基づく判定]
アクセル操作に基づく、衝突回避行動の意図によるものか、誤操作によるものかの判定は、アクセル開度センサ4により得られるアクセルペダルの踏み込み量、及びアクセルペダルの踏み込み速度に基づいて、操作判定部23により行われる。
【0049】
ドライバが車両の前方の障害物を認識して、衝突の回避又は被害の軽減を試みる際には、ステアリング操作を行いながら緩やかに加速を行う場合が考えられる。例えば、車両の前方に障害物が存在しており、さらに車両の後方から後続車両が接近している場合には、進路変更を行いながら加速を行うことで、前方の障害物の側方を通り抜け、且つ後続車両との接触を回避する必要がある。このような場合に、自動制動を非作動とし、ドライバによるアクセル操作を有効にする、自動制動のオーバーライド制御を行う必要がある。
【0050】
しかし、上述したとおり、アクセル操作が行われる場合には、ドライバがブレーキペダルの踏み込みと誤ってアクセルペダルの操作を行う可能性があり、このような誤操作によるアクセル操作に基づく自動制動のオーバーライドを除外する必要がある。このとき、ドライバがブレーキペダルの操作を誤ってアクセルペダルを踏み込んだ場合には、急ブレーキをかけようとする意図から、アクセルペダルの踏み込み量が大きく、且つ、アクセルペダルの踏み込み速度が大きくなるものと考えられる。
【0051】
従って、アクセルペダルの踏み込み量と予め決定された踏み込み量の閾値Saとの比較を行い、アクセルペダルの踏み込み量が、踏み込み量の閾値Saよりも大きく、且つ、アクセルペダルの踏み込み速度と予め決定された踏み込み速度の閾値Vとの比較を行い、アクセルペダルの踏み込み速度が、踏み込み速度の閾値Vよりも大きい場合には、ドライバによるアクセル操作が誤操作によるものであると判定することができる。
【0052】
一方で、アクセルペダルの踏み込み量が踏み込み量の閾値Sよりも小さく、且つ、アクセルペダルの踏み込み速度が踏み込み速度の閾値Vよりも小さい場合には、ドライバによるアクセル操作が誤操作によるものではなく、衝突回避行動の意図によるものであると判定することができる。
なお、ドライバが衝突回避を行うために、アクセルペダルの踏み込み量が大きくないものの、素早いアクセル操作を行う場合が考えられる。このため、アクセルペダルの踏み込み量が踏み込み量の閾値Sよりも小さく、且つ、アクセルペダルの踏み込み速度が踏み込み速度の閾値Vよりも大きい場合には、ドライバによるアクセル操作は、誤操作によるものではなく、衝突回避行動の意図によるものであると判定することができる。
【0053】
また、例えば大型車両を操縦する場合のように、車両によっては十分な加速を得るために、アクセルペダルの踏み込み速度は速くないものの、大きく踏み込む場合が考えられる。このため、アクセルペダルの踏み込み量が踏み込み量の閾値Sよりも大きく、且つ、アクセルペダルの踏み込み速度が踏み込み速度の閾値Vよりも小さい場合には、ドライバによるアクセル操作は、誤操作によるものではなく、衝突回避行動の意図によるものであると判定することができる。
【0054】
ここで、本実施形態においては、アクセルペダルの踏み込み量と、アクセルペダルの踏み込み速度とが共に閾値よりも大きい場合に、ドライバによるアクセル操作が誤操作によるものであると判定したが、車両による自動制動を優先させる観点からは、アクセルペダルの踏み込み量と、アクセルペダルの踏み込み速度の比較は、どちらか一方が閾値よりも大きい場合に、ドライバによるアクセル操作が誤操作によるものであると判定してもよい。ここで、アクセルペダルの踏み込み量の閾値Sとアクセルペダルの踏み込み速度の閾値Vは、アクセルペダルの踏み込み量とアクセルペダルの踏み込み速度とが共に閾値よりも大きいと判定する場合と、どちらかが閾値よりも大きいと判定する場合とで、異なる値を用いても良い。
【0055】
なお、上記踏み込み量の閾値S、及び踏み込み速度の閾値Vは、運転者がブレーキペダルと踏み間違えてアクセルペダルを踏んでいると判定できる値を、予め車両及び車種に基づく運転の特性に応じて決定し、パラメータ記憶部25に格納しておく。操作判定部23は、上記閾値をパラメータ記憶部25から読み出すことで比較を行うものとする。
また、上記踏み込み量の閾値S、及び踏み込み速度の閾値Vは、車両と障害物との相対距離、相対速度、及び衝突予測時間に応じて変更しても良い。
【0056】
[ステアリング操作に基づく判定]
ステアリング操作に基いて、ドライバによる車両の操作が、衝突回避行動の意図によるものか、誤操作によるものかの判定は、ステアリングセンサ5により得られるステアリングの操舵角、及びステアリングの操舵速度に基づいて、操作判定部23により行われる。
【0057】
ドライバが車両の前方の障害物を認識して、衝突の回避又は被害の軽減を試みる場合に、ステアリングの操作を行うことで、車両の進行方向を変えることが考えられる。従って、ステアリングの操舵角と予め決定された操舵角の閾値Sとの比較を行い、ステアリングの操舵角が、操舵角の閾値Sよりも大きい場合には、ドライバがステアリング操作を行い、衝突の回避又は被害の軽減を試みようとする意図があるものと判定することができる。
【0058】
ドライバがステアリング操作を行い、衝突の回避又は被害の軽減を試みようとする意図があるものと判定される場合には、ステアリング操作と同時に行うアクセル操作は、ドライバによる衝突の回避又は被害の軽減を試みようとする意図の元に行われる可能性が高いと考えられる。このため、ドライバによるアクセル操作が、衝突回避行動の意図によるものか、誤操作によるものかの判定を行うにあたって、アクセルの開度とステアリングの操舵角とを組み合わせて判定を行うことができる。
【0059】
ここで、本実施形態においては、ステアリングの操舵角が閾値よりも大きい場合に、ドライバが衝突の回避又は被害の軽減を試みようとする意図があるものと判定したが、ステアリングの操舵速度と予め決定された操舵速度の閾値Vとの比較を行い、ステアリングの操舵速度が、操舵速度の閾値Vよりも大きい場合には、ドライバがステアリング操作を行い、衝突の回避又は被害の軽減を試みようとする意図があるものと判定してもよい。また、ステアリングの操舵角と、ステアリングの操舵速度が共に閾値よりも大きい場合に、ドライバがステアリング操作を行い、衝突の回避又は被害の軽減を試みようとする意図があるものと判定してもよい。この場合、ステアリングの操舵角の閾値Sとステアリングの操舵速度の閾値Vは、ステアリングの操舵角とステアリングの操舵速度とが共に閾値よりも大きいと判定する場合と、どちらかが閾値よりも大きいと判定する場合とで、異なる値を用いても良い。
【0060】
なお、上記ステアリングの操舵角の閾値S、及びステアリングの操舵速度の閾値Vは、運転者が前方障害物の回避又は被害の軽減のためにステアリング操作を行っていると判定できる値を、予め車両及び車種に基づく運転の特性に応じて決定し、パラメータ記憶部25に格納しておく。操作判定部23は、上記閾値をパラメータ記憶部25から読み出すことで比較を行うものとする。
また、上記ステアリングの操舵角の閾値S、及びステアリングの操舵速度の閾値Vは、車両と障害物との相対距離、相対速度、及び衝突予測時間に応じて変更しても良く、車両と障害物との相対位置、及びオフセット量に応じて変更しても良い。
【0061】
[ブレーキ操作に基づく判定]
ブレーキ操作に基づいて、ドライバによる車両の操作が、衝突回避行動の意図によるものか、誤操作によるものかの判定は、ブレーキセンサ6により得られるブレーキペダルの踏み込み量、及びブレーキペダルの踏み込み速度に基づいて、操作判定部23により行われる。
【0062】
ドライバが車両の前方の障害物を認識して、衝突の回避又は被害の軽減を試みる場合に、ブレーキの操作を行うことで、車両の減速を行うことが考えられる。このため、ドライバが衝突回避行動の意図の元でブレーキ操作を行い、このブレーキ操作が自動制動により行われるブレーキ操作よりも高い車両の制動力が得られる場合には、自動制動の作動が継続している場合よりも高い被害軽減効果が期待される。
【0063】
従って、ブレーキペダルの踏み込み量と、自動制動によるブレーキ操作が行われた場合に相当する、ブレーキペダルの踏み込み量の閾値Sとの比較を行い、ブレーキペダルの踏み込み量が、踏み込み量の閾値Sよりも大きい場合には、ドライバがブレーキ操作を行い、衝突の回避又は被害の軽減を試みようとする意図があるものと判定することが出来る。このとき、自動制動に対してドライバのブレーキ操作によりオーバーライド制御を行い、ブレーキペダルの踏み込み量が踏み込み量の閾値Sよりも大きいブレーキ操作により車両の制動を行うことで、有効な被害軽減効果を得ることができる。
【0064】
また、ブレーキペダルの踏み込み速度と、自動制動によるブレーキ操作が行われた場合に相当する、ブレーキペダルの踏み込み速度の閾値Vとの比較を行い、ブレーキペダルの踏み込み速度が、踏み込み速度の閾値Vよりも大きく、且つ、ブレーキペダルの踏み込み量が、踏み込み量の閾値Sよりも大きい場合には、ドライバがブレーキ操作を行い、衝突の回避又は被害の軽減を試みようとする意図があるものと判定してもよい。このとき、自動制動に対してドライバのブレーキ操作によりオーバーライド制御を行い、ブレーキペダルの踏み込み量が踏み込み量の閾値Sよりも大きく、ブレーキペダルの踏み込み速度が踏み込み速度の閾値Vよりも大きいブレーキ操作により車両の制動を行うことで、有効な被害軽減効果を得ることができる。この場合、ブレーキペダルの踏み込み量の閾値Sとブレーキペダルの踏み込み速度の閾値Vは、ブレーキペダルの踏み込み量とブレーキペダルの踏み込み速度とが共に閾値よりも大きいと判定する場合と、ブレーキペダルの踏み込み量が閾値よりも大きいと判定する場合とで、異なる値を用いても良い。
【0065】
なお、上記踏み込み量の閾値S、及び踏み込み速度の閾値Vは、自動制動によるブレーキ操作が行われた場合のブレーキの踏み込み量及び踏み込み速度に相当する値を、予め車両及び車種に基づく特性に応じて決定し、パラメータ記憶部25に格納しておく。操作判定部23は、上記閾値をパラメータ記憶部25から読み出すことで比較を行うものとする。
また、上記踏み込み量の閾値S、及び踏み込み速度の閾値Vは、車両と障害物との相対距離、相対速度、及び衝突予測時間に応じて変更しても良い。
【0066】
<車両の自動制動装置に関する車両の自動制動の制御処理の手順>
次に、本発明の一実施形態に係る、衝突被害軽減処理の手順について詳述する。
本車両の自動制動装置は、図2に示すフローチャートに従って、制御が実施される。
なお、このフローは、自動制動許可スイッチ8がONになると実施され、自動制動許可スイッチ8がOFFになるまで所定の周期で実施される。
【0067】
まず、車速センサ7による車速に基づいて、車両が走行中であるかの判定が行われる(ステップS1)。
次に、ミリ波レーダ2による検知結果に基づいて、前方障害物が検出されるかの判定が行われる(ステップS2)。
【0068】
前方障害物が検出された場合には、検出結果に基づいて、衝突予測時間算出部21により、衝突予測時間の算出が行われる(ステップS3)
さらに、算出された衝突予測時間TTCに基づいて、車両と障害物との衝突可能性の判断が行われる(ステップS4)。このとき、衝突予測時間TTCが第二閾値Ts2以下であるときは、車両が障害物に衝突する可能性が高いと判断されることとなる(ステップS4のYesルート)。
【0069】
ここで、車両が停車中である場合(ステップS1のNoルート)には、車両の自動制動を行う必要が無いため、自動制動は非作動となる(ステップS6)。また、前方障害物が検出されない場合(ステップS2のNoルート)には、衝突を回避し又は被害を軽減する対象となる障害物が存在しないこととなるため、自動制動は非作動となる(ステップS6)。また、衝突予測時間TTCが第二閾値Ts2よりも大きい場合には(ステップS4のNoルート)、車両の前方に障害物は存在するものの、衝突の可能性が低いこととなるため、自動制動は非作動となる(ステップS6)。このとき、既に自動制動が作動していた場合には、自動制動が解除される。
【0070】
他方、衝突予測時間TTCが第二閾値Ts2以下の場合(ステップS4のYesルート)、ブレーキペダルの踏込量と、自動制動によるブレーキ操作に相当する踏み込み量の閾値Sとの比較が行われる(ステップS5)。ここでブレーキの踏込み量が閾値Sよりも大きいときは(ステップS5のYesルート)、ドライバがブレーキ操作を行い、衝突の回避又は被害の軽減を試みようとする意図があり、ドライバによるブレーキ操作が自動制動によるブレーキ操作よりも強く行われていると判定される。この場合、ドライバによるブレーキ操作により、自動制動によるブレーキ操作と比較して有効な被害軽減効果が得られると期待されるため、自動制動のブレーキ制御は非作動となり、ドライバによるブレーキ操作により自動制動がオーバーライド制御される(ステップS6)。このとき、自動制動のオーバーライド制御に伴い、ドライバのブレーキ操作に応じたブレーキ12の作動が行われる。
【0071】
ブレーキペダルの踏込み量が閾値S以下ときは(ステップS5のNoルート)、ドライバによるブレーキ操作は自動制動によるブレーキ操作と比較して十分ではないか、ドライバによるブレーキ操作が行われていないこととなる。この場合、アクセルペダルの踏み込み量が、踏み込み量の閾値Sよりも大きいか否かが判定され、さらに、アクセルペダルの踏み込み速度が、踏み込み速度の閾値Vよりも大きいか否かが判定される。
【0072】
アクセルペダルの踏み込み量が踏み込み量の閾値Sより大きく(ステップS7のYesルート)、且つアクセルペダルの踏み込み速度が踏み込み速度の閾値Vよりも大きい(ステップS8のYesルート)ときには、ドライバは急ブレーキ操作を行おうとしたところ、誤ってアクセルペダルを踏み込むことにより、アクセルペダルの踏み込み量が大きく、且つ踏み込み速度が大きくなっている場合であると判定される。このため、ドライバのアクセル操作による自動制動のオーバーライド制御は行わず、自動制動の作動が行われ、又は自動制動が継続して行われる(ステップS9)。このとき、自動制動の作動に伴い、ブレーキ12の作動によりブレーキングが行われ、また、ドライバによるアクセルペダルの踏み込みに関わらず、エンジンECU13によりエンジン14の回転数が下げられ、ドライバによるアクセル操作が受け付けないよう制御が行われる。
【0073】
一方、アクセルペダルの踏み込み量が踏み込み量の閾値Sより小さく(ステップS7のNoルート)、又はアクセルペダルの踏み込み速度が踏み込み速度の閾値Vaよりも小さい(ステップS8のNoルート)ときには、ステアリングの操舵角が予め決定された操舵角の閾値Sよりも大きいか否かが判定される(ステップS10)。
ステアリングの操舵角が、操舵角の閾値Sよりも大きい(ステップS10のYesルート)ときには、ドライバがステアリングの操作を行い、障害物との衝突を回避し、又は被害を軽減する意図がある場合であると判定される。この場合、ドライバによるステアリング操作とアクセル操作とにより障害物との衝突を回避し、または被害の軽減を試みることで、自動制動を継続した場合によるブレーキ操作と比較して有効な被害軽減効果が期待される。このため、自動制動が非作動となり、ドライバによるアクセル操作及びステアリング操作により自動制動がオーバーライド制御される(ステップS6)。このとき、自動制動のオーバーライド制御に伴い、ドライバのアクセル操作、ステアリング操作、及びブレーキ操作に応じた車両の制御が行われる。
【0074】
一方、ステアリングの操舵角が、操舵角の閾値Sよりも小さい(ステップ10のNoルート)ときには、ステアリング操作によるドライバによる衝突回避行動の意図が無く、またはアクセル操作もドライバによる衝突回避行動の意図に基づくものでは無いと判定されることから、自動制動の作動が行われ、又は自動制動が継続して行われる(ステップS9)。このとき、自動制動の作動に伴い、ブレーキ12の作動によりブレーキングが行われ、また、ドライバによるアクセルペダルの踏み込みに関わらず、エンジンECU13によりエンジン14の回転数が下げられ、ドライバによるアクセル操作が受け付けないよう制御が行われる。
【0075】
<作用・効果>
本車両の自動制動装置は、ドライバによるアクセルペダルの踏み込み量、アクセルペダルの踏み込み速度、及びステアリングの操舵角に基づいて、アクセル操作及びステアリング操作がドライバによる衝突回避の意図の元に行われたと判定し、車両の自動制動のオーバーライド制御を行っている。このため、ドライバによる車両の運転操作に基づいて、車両の操作がドライバの回避行動によるものであるとの判定された場合に車両の自動制動のオーバーライド制御が行われることで、ドライバの意思を迅速に反映した走行が可能となり、ドライバのアクセル及びステアリング操作による有効な被害軽減効果を得ることができる。
【0076】
また、ドライバによるアクセルペダルの踏み込み量、アクセルペダルの踏み込み速度、及びステアリングの操舵角に基づいて、アクセル操作が誤操作によるものであると判定し、車両の自動制動の作動が行われ、又は作動が継続して行われる。このため、アクセル操作が誤操作によるものであると判定した場合に、車両の自動制動の作動を行い、または自動制動を継続させることで、ドライバの意思に反するアクセル操作による、車両の自動制動の不適切なオーバーライドを抑制し、適切な自動制動を行うことが可能となる。
【0077】
また、ドライバによるブレーキペダルの踏み込み量が所定の閾値より大きいときには、自動制動によるブレーキ操作よりも、ドライバによるブレーキ操作を優先している。このため、ドライバの減速の意思を反映して走行状況に応じた適切な車両の制動が可能となり、有効な被害軽減効果を得ることができる。
また、衝突予測時間に基づいて衝突の可能性を予測することで、車両と障害物の相対関係から衝突の可能性を判断することが可能となり、車両の自動制動の確実性を高め、有効な被害軽減効果を得ることができる。
【0078】
<その他>
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は係る実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することが出来る。
例えば、上述の実施形態では、アクセル開度センサを用いてアクセルペダルの踏み込み量の検知を行うものとしたが、アクセルペダルの踏み込み力の検知を行うものとしてもよい。
【0079】
また、上述の実施形態では、車両の操作がドライバの回避行動によるものであるとの判定された場合には、車両の自動制動のオーバーライド制御が行われるものとしたが、オーバーライド制御は自動制動に伴うブレーキ及びエンジンの制御について行い、警告灯及びスピーカによる報知は継続して行わせるものであってもよい。
【0080】
また、上述の実施形態では、衝突予測時間TTCを第二閾値Ts2と比較して判定を行ったが、衝突予測時間TTCとの比較の基準となる値は車両の自動制動の条件に合わせて任意に変更することが出来る。例えば、衝突予測時間TTCが第一閾値Ts1以下であるかの判定を行ってもよく、衝突予測時間TTCが第三閾値Ts3以下であるかの判定を行っても良い。また、衝突予測時間TTCと、第一閾値Ts1、第二閾値Ts2、及び第三閾値Ts3とを段階的に判定を行い、各段階に応じてアクセル、ステアリング、ブレーキの操作の判定に用いられる閾値を変更して適用してもよい。すなわち、車両と障害物との相対状況に応じて、ドライバの操作の判定に係る値の閾値を変更するものであってもよい。
【符号の説明】
【0081】
1 統合ECU(制御手段)
2 ミリ波レーダ(前方障害物検知手段)
3 レーダECU
4 アクセル開度センサ(アクセル開度検知手段)
5 ステアリングセンサ(ステアリング操舵角検知手段)
6 ブレーキセンサ(ブレーキ操作量検知手段)
7 車速センサ
8 自動制動許可スイッチ
9 警告灯
10 スピーカ
11 アクチュエータ
12 ブレーキ
13 エンジンECU
14 エンジン
21 衝突予測時間算出部(衝突予測時間算出手段)
22 衝突可能性予測部(衝突可能性予測手段)
23 操作判定部(操作判定手段)
24 安全装置制御部(作動指令手段)
25 パラメータ記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両を自動的に制動させる車両の自動制動装置であって、
前記車両の制動機構を自動で駆動する駆動手段と、
前記車両前方の障害物を検知する前方障害物検知手段と、
前記車両の運転のためにドライバにより操作されるドライバ操作手段の操作状態を検出するドライバ操作検出手段と、
前記前方障害物検知手段及び前記ドライバ操作検出手段からの情報に基づいて前記駆動手段の作動を制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、
前記前方障害物検知手段によって前記障害物が検知されると、前記車両が前記障害物と衝突するかを予測する衝突予測手段と、
前記ドライバ操作検出手段によって前記操作状態が検出されると、該操作が適正な衝突回避操作か誤操作かを判定する操作判定手段と、
前記衝突予測手段によって前記車両が前記障害物と衝突すると予測された場合において、前記操作判定手段によって前記操作が適正な衝突回避操作であると判定されると前記駆動手段を非作動とし、前記ドライバ操作検出手段によって前記操作状態が検出されない若しくは且つ前記操作状態が検出されたが前記操作判定手段によって前記操作が誤操作であると判定されると前記駆動手段を作動させる作動指令手段とを有している
ことを特徴とする車両の自動制動装置。
【請求項2】
前記ドライバ操作手段はアクセル操作手段を含み、前記ドライバ操作検出手段は前記車両のアクセル開度を検出するアクセル開度検知手段を含み、
前記操作判定手段は、前記ドライバ操作検出手段によりアクセル操作が検出されると、
前記アクセル開度検知手段によって検知される前記車両のアクセルの操作量が、予め決定された基準アクセル操作量よりも大きい、及び/又は、前記アクセル開度検知手段によって検知される前記車両のアクセル操作速度が、予め決定された基準アクセル操作速度よりも大きい場合に、前記アクセル操作が前記誤操作であると判定し、他の場合に、前記アクセル操作が前記衝突回避操作であると判定する
ことを特徴とする、請求項1記載の車両の自動制動装置。
【請求項3】
前記ドライバ操作手段はステアリング操作手段を含み、前記ドライバ操作検出手段は前記車両のステアリング操舵角を検出するステアリング操舵角検知手段を含み、
前記操作判定手段は、前記ステアリング操舵角検知手段によりステアリング操作が検出されると、
前記ステアリング操舵角検知手段によって検知される前記車両のステアリング操舵角が、予め決定された基準ステアリング操舵角よりも大きい、及び/又は、前記ステアリング操舵角検知手段によって検知される前記車両のステアリング操舵速度が、予め決定された基準ステアリング操舵速度よりも大きい場合に、前記ステアリング操作が前記衝突回避操作であると判定する
ことを特徴とする請求項1又は2記載の車両の自動制動装置。
【請求項4】
前記ドライバ操作手段はブレーキ操作手段を含み、前記ドライバ操作検出手段は前記車両のブレーキ操作量を検出するブレーキ操作量検知手段を含み、
前記操作判定手段は、前記ブレーキ操作量検知手段によりブレーキ操作が検出されると、
前記ブレーキ操作量検知手段によって検知される前記車両のブレーキ操作量が、予め決定された基準ブレーキ操作量よりも大きい、及び/又は、前記ブレーキ操作量検知手段によって検知される前記車両のブレーキ操作速度が、予め決定された基準ブレーキ操作速度より大きい場合に、前記ブレーキ操作が前記衝突回避操作であると判定する
ことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の車両の自動制動装置。
【請求項5】
前記前方障害物検知手段は、前記車両と前記障害物との相対距離及び相対速度を取得し、
前記制御手段は、前記相対距離及び前記相対速度に基づいて衝突予測時間を算出する衝突予測時間算出手段を有し、
前記衝突予測手段は、前記衝突予測時間に基づいて前記衝突可能性を予測する
ことを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の車両の自動制動装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−121534(P2012−121534A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−276302(P2010−276302)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【出願人】(598051819)ダイムラー・アクチェンゲゼルシャフト (1,147)
【氏名又は名称原語表記】Daimler AG
【住所又は居所原語表記】Mercedesstrasse 137,70327 Stuttgart,Deutschland
【Fターム(参考)】