説明

車両の衝撃吸収構造

【課題】車両衝突に伴い衝撃吸収部材に作用する曲げモーメントに対し、該衝撃吸収部材が骨格部材との結合側において折れることを抑制することができる車両の衝撃吸収構造を得る。
【解決手段】車両前部構造10は、車両前後方向に延在されたフロントサイドメンバ12と、CFRPより成り長手方向の一端がフロントサイドメンバ12方向の前端12Aに結合されたクラッシュボックス20とを備えている。クラッシュボックス20は、長手方向との直交断面が開断面とされ、該長手方向におけるフロントサイドメンバ12との結合側の一部が厚み方向の少なくとも一方側から補強された補強部36とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂と繊維との複合材より成る衝撃吸収部材を備えた車両の衝撃吸収構造に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化樹脂より成り、フロントバンパリインフォースメントに設けられた荷重エネルギー吸収部材が知られている(例えば、特許文献1、2参照)。これらの荷重エネルギー吸収部材は、長手方向である車体前後方向との直交断面が車幅方向に開口する開断面とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−8283号公報
【特許文献2】特開2005−195155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の如き従来の技術に係る荷重エネルギー吸収部材は、衝突初期に発生する曲げモーメントに対し根元側の耐力が不足しやすい構造であり、この点に改善の余地がある。
【0005】
本発明は、車両衝突に伴い衝撃吸収部材に作用する曲げモーメントに対し、該衝撃吸収部材が骨格部材との結合側において折れることを抑制することができる車両の衝撃吸収構造を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明に係る車両の衝撃吸収構造は、車両前後方向に延在された骨格部材と、樹脂と繊維との複合材より成り、車両前後方向に長手とされると共に該長手方向との直交断面が開断面とされ、長手方向の一端が前記骨格部材の車両前後方向の端部に結合され、かつ長手方向の一端側において曲げに対する補強部を有し、長手方向の他端側から一端側に向けて入力される衝撃のエネルギを吸収するための衝撃吸収部材と、を備えている。
【0007】
請求項1記載の車両の衝撃吸収構造では、一端が骨格部材に結合された衝撃吸収部材に他端に一端側への衝撃が入力されると、衝撃吸収部材は、この衝撃荷重を受けて長手方向の他端側から逐次破壊されつつ、衝撃エネルギを吸収する。ここで、本車両の衝撃吸収構造では、衝撃吸収部材における骨格部材との結合側(反荷重入力側)が補強部にて補強されているので、換言すれば、上記した衝撃荷重に基づき衝撃吸収部材に作用する曲げモーメントが大である部分が補強されているので、該曲げモーメントに対する衝撃吸収部材の耐力が高い。このため、本車両の衝撃吸収構造では、衝撃加重が入力された衝撃吸収部材が骨格部材との結合側で折れることが抑制され、安定した(適正な)衝撃吸収作用を奏する。
【0008】
このように、請求項1記載の車両の衝撃吸収構造では、車両衝突に伴い衝撃吸収部材に作用する曲げモーメントに対し、該衝撃吸収部材が骨格部材との結合側において折れることを抑制することができる。
【0009】
請求項2記載の発明に係る車両の衝撃吸収構造は、車両前後方向に延在された骨格部材と、樹脂と繊維との複合材より成り、車両前後方向に長手とされると共に該長手方向との直交断面が開断面とされ、長手方向の一端が前記骨格部材の車両前後方向の端部に結合され、かつ長手方向の一端側が他端側よりも厚肉とされて構成された補強部を有し、長手方向の他端側から一端側に向けて入力される衝撃のエネルギを吸収するための衝撃吸収部材と、を備えている。
【0010】
請求項2記載の車両の衝撃吸収構造では、一端が骨格部材に結合された衝撃吸収部材に他端に一端側への衝撃が入力されると、衝撃吸収部材は、この衝撃荷重を受けて長手方向の他端側から逐次破壊されつつ、衝撃エネルギを吸収する。ここで、本車両の衝撃吸収構造では、衝撃吸収部材における骨格部材との結合側(反荷重入力側)が補強部(厚肉部)にて補強されているので、換言すれば、上記した衝撃荷重に基づき衝撃吸収部材に作用する曲げモーメントが大きくなる部分が補強されているので、該曲げモーメントに対する衝撃吸収部材の耐力が高い。このため、本車両の衝撃吸収構造では、衝撃加重が入力された衝撃吸収部材が骨格部材との結合側で折れることが抑制され、安定した(適正な)衝撃吸収作用を奏する。
【0011】
このように、請求項2記載の車両の衝撃吸収構造では、車両衝突に伴い衝撃吸収部材に作用する曲げモーメントに対し、該衝撃吸収部材が骨格部材との結合側において折れることを抑制することができる。
【0012】
請求項3記載の発明に係る車両の衝撃吸収構造は、請求項1又は請求項2記載の車両の衝撃吸収構造において、前記補強部は、前記衝撃吸収部材の長手方向他端側における補強幅が該他端に向けて徐減されている。
【0013】
請求項3記載の車両の衝撃吸収構造では、補強部における衝撃入力側の補強幅が該衝撃入力側に向けて徐減されているので、衝撃吸収部材全体として耐力(断面係数)の急変部が形成されることが防止されている。このため、本車両の衝撃吸収構造では、一層安定した衝撃吸収作用を奏する。
【0014】
請求項4記載の発明に係る車両の衝撃吸収構造は、請求項1〜請求項3の何れか1項記載の車両の衝撃吸収構造において、前記補強部は、前記衝撃吸収部材の長手方向他端側の縁部が該長手方向に対し傾斜された直線状を成している。
【0015】
請求項4記載の車両の衝撃吸収構造では、補強部における衝撃入力側の縁部が長手方向に対し直線状に傾斜されているため、衝撃吸収部材全体として耐力(断面係数)の急変部が形成されることが防止されている。このため、本車両の衝撃吸収構造では、一層安定した衝撃吸収作用を奏する。
【0016】
換言すれば、本車両の衝撃吸収構造では、補強部における衝撃入力側の縁部を長手方向に対し直線状に傾斜させることで、請求項3における補強幅の徐減構造が形成されているものと把握することも可能である。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように本発明に係る車両の衝撃吸収構造は、車両衝突に伴い衝撃吸収部材に作用する曲げモーメントに対し、該衝撃吸収部材が骨格部材との結合側において折れることを抑制することができるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る車両前部構造を構成するクラッシュボックスの構成要素を示す分解斜視図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る車両前部構造を構成するクラッシュボックスを示す分解斜視図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る車両前部構造を構成するクラッシュボックスを示す平面図である。
【図4】図3の4−4線に沿った断面図である。
【図5】本発明の第1の実施形態に係る車両前部構造の概略構成を示す斜視図である。
【図6】本発明の第1の実施形態に係る車両前部構造を構成するクラッシュボックスの補強効果を説明するための線図である。
【図7】本発明の第2の実施形態に係る車両前部構造を構成するクラッシュボックスを示す側面図である。
【図8】図7の8−8線に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の第1の実施形態に係る車両の衝撃吸収構造が適用された車両前部構造10について、図1〜図7に基づいて説明する。先ず、車両前部構造10の概略全体構成を説明し、次いで、本発明の要部であるクラッシュボックス20の詳細構成を説明することとする。なお、図中矢印FRは車両前後方向の前方向を、矢印UPは車両上下方向の上方向を、矢印INは車幅方向の内側を、矢印OUTは車幅方向の外側をそれぞれ示す。
【0020】
(車両の衝撃吸収構造の概略全体構成)
図5には、車両前部構造10の概略全体構成が斜視図にて示されている。この図に示される如く、車両前部構造10は、車両前後方向に長手とされた骨格部材としての左右一対のフロントサイドメンバ12を備えている。各フロントサイドメンバ12は、それぞれの後端部が図示しないダッシュパネルに接続されている。また、各フロントサイドメンバ12は、それぞれの前端部12Aが、衝撃吸収部材としてのクラッシュボックス20を介して、車幅方向に延在する図示しないフロントバンパリインフォースメントに連結されている。
【0021】
これにより、車両前部構造10では、車両の前面衝突に伴いフロントバンパリインフォースメントに入力された衝撃荷重が、各クラッシュボックス20、フロントサイドメンバ12、ダッシュパネルを介して車両後部に伝達される(支持される)ようになっている。
【0022】
また、車両前部構造10は、左右一対のクラッシュボックス20の間に配置される図示しないエアコンコンデンサ(及びラジエータ)を支持するためのコンデンササポート14を備えている。さらに、このコンデンササポート14の車幅方向の両外側には、それぞれフェンダサポート16が結合されている。
【0023】
コンデンササポート14は、それぞれ車幅方向に延在されると共に車両上下方向に略対向するように平行に配置されたコンデンササポートアッパ14A及びコンデンササポートロア14Bと、これらコンデンササポートアッパ14A及びコンデンササポートロア14Bの車幅方向両端部を車両上下方向に繋ぐ左右一対のコンデンササポートサイド14Cと、コンデンササポートアッパ14A及びコンデンササポートロア14Bの車幅方向中央部を車両上下方向に繋ぐコンデンササポートセンタ14Dとを有している。
【0024】
したがって、コンデンササポート14は、正面視で略矩形状を成す枠体として形成されており、この実施形態では、車幅方向に長手とされた矩形枠状(倒伏「日」字状)を成している。各クラッシュボックス20は、コンデンササポートセンタ14Dに対する左右異なる側で、それぞれコンデンササポート14に挿通されている。すなわち、コンデンササポート14は、フロントバンパリインフォースメントとダッシュパネルとの間に配置されている。
【0025】
左右のフェンダサポート16は、略車幅方向に沿って延在するフェンダサポートアッパ16Aと、フェンダサポートアッパ16Aに対し車両上下方向の下側に配置されたフェンダサポートロア16Bと、これらフェンダサポートアッパ16A及びフェンダサポートロア16Bの車幅方向外側端部を車両上下方向に繋ぐフェンダサポートサイド16Cと、フェンダサポートサイド16Cとフロントサイドメンバ12の前端部12Aの後端部とを架け渡すフェンダサポートリア16Dとをそれぞれ有している。左右のフェンダサポート16は、上記の通りコンデンササポート14の車幅方向外端に結合されることで、該コンデンササポート14のコンデンササポートサイド14Cとで矩形枠状を成している。
【0026】
これにより、コンデンササポート14と左右のフェンダサポート16とで、全体として梯子型の構造体を成している。この構造体は、上記の如くフェンダサポートリア16Dを介してフロントサイドメンバ12に支持されるのに加えて、連結ブラケット18を介してクラッシュボックス20に支持されている。具体的には、左右のクラッシュボックス20には、それぞれ車両上下方向に張り出した取付部32が形成されており、各取付部32がボルト等の締結手段によって左右一対のコンデンササポートサイド14Cに固定されている。
【0027】
以上説明した車両前部構造10では、各フロントサイドメンバ12、コンデンササポート14、及び左右のフェンダサポート16(の各構成部材)がアルミニウム又はアルミニウムの合金等の金属材にて構成されている。一方、クラッシュボックス20は、後に詳述する如く、炭素繊維と樹脂との複合材である炭素繊維強化プラスチック(以下、「CFRP」という)にて構成されている。
【0028】
(クラッシュボックスの構成)
上記した通り、各クラッシュボックス20は、それぞれの車両前端20Aが図示しないフロントバンパリインフォースメントの車幅方向外端近傍に連結されると共に、それぞれの車両後端20Bが対応するフロントサイドメンバ12の前端部12Aに連結されるように、車両前後方向に沿って延在されている。各クラッシュボックス20は、車体の車幅方向中心線(図示省略)に対し左右対称となるように配置されている。各クラッシュボックス20は、異種材料であるアルミニウム等の金属材より成るフロントサイドメンバ12、フロントバンパリインフォースメントに対し、ボルト等の締結手段にて締結固定されている。
【0029】
図1及び図2に示される如く、各クラッシュボックス20は、車両前後方向に略沿った長手方向との直交面に沿った断面が略波型とされている。この実施形態では、クラッシュボックス20は、略水平面に沿った上壁22と下壁24との間に2つの中間壁26を有し、これらが車幅方向に互い違いに車両上下方向に延在する立壁28にて連結された如く構成されている。すなわち、各クラッシュボックス20は、車幅方向内向き及び外向きに開口する凹部が車両上下方向に交互に形成された開断面構造とされている。
【0030】
また、上壁22、下壁24における開口端側の縁部(車幅方向内縁)からは、車両上下方向に沿って互いに離間するように上下一対のフランジ部30が延設されている。上記した各取付部32は、上下のフランジ部30からさらに車両上下方向に互いに離間するように延設されて形成されている。
【0031】
そして、各クラッシュボックス20は、フロントサイドメンバ12と比較して、それぞれの長手方向に一致する車体前後方向に沿った軸圧縮荷重に対し低強度(低剛性)とされている。これにより、クラッシュボックス20は、前端側から所定値以上の後向きの軸圧縮荷重が入力された場合には、圧縮破壊されつつフロントサイドメンバ12に伝達する衝撃荷重(動荷重)を低減するようになっている。上記の通りCFRPより成るクラッシュボックス20は、軸圧縮荷重を受けて車両前方から逐次(順次)破壊(粉砕)されつつ衝撃エネルギを吸収するようになっている。
【0032】
この実施形態では、各クラッシュボックス20は、平面視で車両前方が車両後方に対し細幅となるスラント(テーパ)形状とされている。これにより、上記した通り各クラッシュボックス20は、軸圧縮荷重によって車両前方から逐次破壊され易い構成とされている。なお、クラッシュボックス20の車両前端20Aには、フロントバンパリインフォースメントに結合するための座部となる前壁34が形成され、車両後端20Bは、前端部12Aに結合すべく平面視の幅寸法が略一定とされている。また、各クラッシュボックス20は、車両前方から逐次破壊されるのに伴って上下の取付部32におけるコンデンササポート14との係合が解除され、該コンデンササポート14への入力荷重が伝達されない(伝達が抑制される)構成とされている。
【0033】
そして、以上説明した各クラッシュボックス20は、それぞれ衝突荷重の入力側である車両前端20Aとは長手方向の反対側である車両後端20B側に、補強部36が設けられている。この実施形態における補強部36は、クラッシュボックス20における補強部が設けられていない部分(以下、「一般部」という)38に対する厚肉部として構成されている。
【0034】
各クラッシュボックス20の補強部36は、それぞれの車両前端から車両前後方向の中間部にかけて車幅方向に沿った補強幅が略0から徐々に増す(車両前方に向けて徐減される)構造とすることで、クラッシュボックス20の長手方向の特定部位に断面(断面係数等)の急変部が形成されないように構成されている。以下、補強部36を有するクラッシュボックス20の具体的な構造について、その製造方法を参照しつつ説明する。
【0035】
図1には、クラッシュボックス20を構成するボックス本体形成シート40、第1補強シート42、第2補強シート44、第3補強シート46、第4補強シート48が、分解斜視図にて示されている。図1に示すボックス本体形成シート40、第1〜第4補強シート42〜48は、それぞれ焼成及び樹脂含浸前のCFRPシート(プリプレグ)の積層体を所定形状に形成したものとされている。なお、図1において括弧付きで示す符号は、クラッシュボックス20の構成部分における上記ボックス本体形成シート40、第1〜第4補強シート42〜48が構成する部分を示している。また、上記ボックス本体形成シート40、第1〜第2補強シート42、44は、図1に両方向矢印で示される如く、前壁34を除く各部で炭素繊維の配向方向が車両前後方向に略一致されている。前壁34、及び各補強シート46、48における炭素繊維の配向方向は車幅方向に略一致されている。
【0036】
ボックス本体形成シート40は、補強部36と一般部38とを含むクラッシュボックス20の全体形状に対応した形状を成している。すなわち、ボックス本体形成シート40は、上壁22、下壁24、各中間壁26、各立壁28、各フランジ部30、各取付部32、及び前壁34の構成部分を有して構成されている。第3補強シート46、第4補強シート48は、ボックス本体形成シート40における前壁34の構成部分を前後から重ね合わされ、該ボックス本体形成シート40と共に前壁34を構成する(前壁34を補強する)構成とされている。
【0037】
第1補強シート42は、上壁22、下壁24、各中間壁26、各立壁28、各フランジ部30の各車両後部すなわち補強部36の構成部分を有し、ボックス本体形成シート40に対し車幅方向の内側から重ね合わされるようになっている。第1補強シート42における上壁22、下壁24、各中間壁26を構成する部分の前縁42Aは、車幅方向の外側に位置する部分が相対的に車幅方向内側に位置する部分に対し車両前方に位置するように、略全長(車幅方向の略全幅)に亘って車両前後方向に対し傾斜された略直線状を成している。
【0038】
第2補強シート44は、上壁22、下壁24、各中間壁26、各立壁28、各フランジ部30の各車両後部すなわち補強部36の構成部分を有し、ボックス本体形成シート40に対し車幅方向の外側から重ね合わされるようになっている。第2補強シート44における上壁22、下壁24、各中間壁26を構成する部分の前縁44Aは、車幅方向の外側に位置する部分が相対的に車幅方向内側に位置する部分に対し車両後方に位置するように、略全長(車幅方向の略全幅)に亘って車両前後方向に対し傾斜された略直線状を成している。
【0039】
また、第1補強シート42、第2補強シート44は、図2及び図4に示される如く平面視において、それぞれの前縁42A、44Aが上壁22、下壁24、各中間壁26の幅方向略中間部の交差点Xで交差するように形成されている。これにより、補強部36は、交差点Xに対する車両前方で、車両前方に向けて補強幅が徐々に減じられる(一般部38である非補強部の幅が車両前方に向けて徐々に増加される)構成とされている。
【0040】
そして、クラッシュボックス20は、上記したボックス本体形成シート40に第1補強シート42、第2補強シート44、第3補強シート46、第4補強シート48をそれぞれの所定方向から重ね合わせ、金型内で樹脂を含浸させて焼成し、その後に穴あけ等の機械加工を適宜施すことで、製造される。したがって、クラッシュボックス20は、その車両後部において補強部材としての第1補強シート42、第2補強シート44にて補強されたものと把握することができ、またボックス本体形成シート40に第1補強シート42、第2補強シート44を重ね合わせる工法にて厚肉部である補強部36を一体に形成したものと把握することもできる。
【0041】
次に、第1の実施形態の作用を説明する。
【0042】
上記構成の車両前部構造10が適用された車両(自動車等)が前面衝突に至った場合、左右少なくとも一方のクラッシュボックス20には、フロントバンパリインフォースメントを介して車両前後方向に沿った軸圧縮荷重が作用する。この軸圧縮荷重が所定値以上である場合、クラッシュボックス20は、衝突荷重の一部を支持しつつ車両前端20Aから逐次破壊(圧縮を受けて粉砕)される。これにより、前面衝突に伴う衝撃エネルギの一部が吸収され、フロントサイドメンバ12すなわち車体に伝達(支持)される荷重が緩和される。
【0043】
ところで、車両前後方向に長手のクラッシュボックス20は、車両前端20Aからの車両後方側への荷重に基づく曲げモーメントが作用し、この曲げモーメントは、車両後端20Bで最大となる。例えば図6に破線にて示すクラッシュボックスの曲げモーメントに対する耐力Sを、想像線にて示す発生曲げモーメントMがクラッシュボックスの後端において上回ると、該クラッシュボックスの後端で折れが生じる。このようにクラッシュボックスにおける反荷重入力側(根元側)が前面衝突の初期に発生する曲げモーメントに耐え切れずに折れてしまうと、該クラッシュボックスでは、車両前方からの軸圧縮を受けることができず、衝撃エネルギを吸収することができないこととなる。
【0044】
ここで、本実施形態に係る車両前部構造10では、クラッシュボックス20におけるフロントサイドメンバ12との結合側の一部すなわち反荷重入力側に補強部36が設けられているため、該クラッシュボックス20の曲げモーメントに対する耐力が高い。換言すれば、図6に示される如く、補強部36を設けることで、クラッシュボックス20の曲げモーメントに対する耐力Srが想定される最大の発生モーメントMを上回ることとなる。
【0045】
このため、車両前部構造10では、クラッシュボックス20が前面衝突の初期に発生する曲げモーメントによって根元側が折れることが防止され、該クラッシュボックス20によって安定して(クラッシュボックス20を適正に破壊させて)前面衝突による衝撃エネルギを吸収することができる。
【0046】
また、車両前部構造10では、補強部36の補強幅が車両前端側に向けて徐減されることで、補強部36と一般部38との間に断面急変部が形成されない構成とされているため、曲げモーメントに対する耐力の急変が回避される。このため、クラッシュボックス20は、車両前端20Aからの逐次破壊モードが実現(平面視スラント形状による逐次破壊モードが維持)され、所要のエネルギ吸収性能(特性)を得ることができる。すなわち、車両前部構造10では、補強部36の補強幅が車両前端側に向けて徐減される構成によって、前面衝突による衝撃エネルギをクラッシュボックス20によって一層安定して吸収することができる。
【0047】
そして、車両前部構造10では、被補強部(ボックス本体形成シート40)と同じCFRPより成る補強材(各補強シート42、44)にて補強されてクラッシュボックス20が構成されているので、該クラッシュボックス20は、前面衝突に伴い車両後端20Bまで破壊(粉砕)され得る。このため、クラッシュボックス20の略全長を衝撃吸収ストロークとすることができる。
【0048】
このように、第1の実施形態に係る車両前部構造10では、車両の前面衝突に伴い衝撃吸収部材に作用する曲げモーメントに対し、該衝撃吸収部材が骨格部材との結合側において折れることを抑制することができる。
【0049】
なお、第1の実施形態では、第1補強シート42、第2補強シート44を用いてボックス本体形成シート40を厚み(板厚)方向の両側から補強したクラッシュボックス20を得る例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、第1補強シート42又は第2補強シート44を用いてボックス本体形成シート40を厚み方向の片側から補強してクラッシュボックス20を得る構成としても良い。
【0050】
また、第1の実施形態では、第1補強シート42、第2補強シート44がボックス本体形成シート40に対応した波型の開断面(立体形状)を成す例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、上壁22、下壁24、各中間壁26の一部又は全部に重ね合わされる平板状の補強シートにてボックス本体形成シート40を補強する構成としても良い。
【0051】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態に係る車両前部構造50について、図7及び図8に基づいて説明する。なお、上記した第1の実施形態と基本的に同一の部品、部分については、第1の実施形態と同一の符号を付して説明を省略する。
【0052】
図7には、車両前部構造50の要部が車幅方向内側から見た側面図にて示されている。この図に示される如く、車両前部構造50では、補強部36を有するクラッシュボックス20に代えて、補強部52を有するクラッシュボックス54を備える点で、第1の実施形態に係る車両前部構造10とは異なる。
【0053】
クラッシュボックス54は、ボックス本体形成シート40、第3補強シート46、第4補強シート48に樹脂を含浸させて焼成して成るボックス本体56における車両後端側に、該ボックス本体56とは別に焼成されて成るCFRP製の補強板58とを接合することで構成されている。具体的には、図8にも示される如く、補強板58は、ボックス本体56に対する車幅方向内側に設けられ、該車幅方向内側に位置する上下中央の立壁28、上下のフランジ部30に接着層Bを介して接合(接着)されている。
【0054】
この補強板58の前縁58Aは、車両上下方向の下側に位置する部分が相対的に上側に位置する部分に対し車両前方に位置するように、略全長(車両上下方向の略全高)に亘って車両上下方向に対し傾斜された略直線状を成している。このように、車両前部構造50では、ボックス本体56に補強板58を接着することで、車両後端側の一部に補強部52を有するクラッシュボックス54が構成されている。このクラッシュボックス54においては、補強板58の前縁58Aが上記の通り傾斜していることにより、補強部52の車両前部における車体上下方向に沿った補強幅が車両前方に向けて徐減された構成が実現されている。車両前部構造50の他の実施形態は、車両前部構造10の対応する構成と同じである。
【0055】
したがって、第2の実施形態に係る車両前部構造50によっても、クラッシュボックス54の車両後端側に補強部52が設けられていることによって、基本的に車両前部構造10と同様の作用によって同様の効果を得ることができる。
【0056】
なお、第2の実施形態では、ボックス本体56の車幅方向内側に補強板58を接着により固定した例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、補強板58に代えて又は58と共に、ボックス本体56の車幅方向外側に補強板を接合した構成としても良い。この補強板を補強板58と共に設ける構成においては、該補強板の前縁と補強板58の前縁58Aとが側面視で交差するように逆向き傾斜させる構成とすることができる。
【0057】
また、上記した各実施形態では、各補強シート42、44、補強板58の各前縁42A、44A、58Aを車両前後方向に対し直線状に傾斜させる(片テーパを形成する)ことで、補強幅の徐減部を構成した例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、各補強シート42、44、補強板58の各前縁42A、44A、58Aを両テーパ状に形成して補強幅の徐減部を構成しても良く、各前縁42A、44A、58Aを曲線状に形成して補強幅の徐減部を構成しても良い。
【0058】
さらに、上記した各実施形態では、クラッシュボックス20、54が各取付部32を有する例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、別部材であるブラケットを介してクラッシュボックス20、54がコンデンササポート14を支持する構成としても良い。また、クラッシュボックス20、54がコンデンササポート14を支持しない構成とすることもできる。
【0059】
またさらに、上記した各実施形態では、本発明に係る車両の衝撃吸収構造が車両前部構造10に適用された例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、リヤバンパリインフォースメントに結合されるクラッシュボックスを備えた車対後部に本発明を適用することも可能である。
【0060】
また、上記した実施形態では、複合材としてのCFRPにてクラッシュボックス20、54が構成された例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、ガラス繊維と樹脂との複合材であるガラス繊維強化プラスチック(GFRP)等にてクラッシュボックス20、54を構成しても良い。また、本発明は、クラッシュボックス20の上記した断面波型に限定されることもなく、繊維の配向方向によって限定されることもない。
【0061】
その他、本発明は、上記した実施形態における各部の構造に限定されずことはなく、各種変形して実施可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0062】
10 車両前部構造(車両の衝撃吸収構造)
12 フロントサイドメンバ(骨格部材)
20 クラッシュボックス(衝撃吸収部材)
36 補強部
50 車両前部構造(車両の衝撃吸収構造)
52 補強部
54 クラッシュボックス(衝撃吸収部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前後方向に延在された骨格部材と、
樹脂と繊維との複合材より成り、車両前後方向に長手とされると共に該長手方向との直交断面が開断面とされ、長手方向の一端が前記骨格部材の車両前後方向の端部に結合され、かつ長手方向の一端側において曲げに対する補強部を有し、長手方向の他端側から一端側に向けて入力される衝撃のエネルギを吸収するための衝撃吸収部材と、
を備えた車両の衝撃吸収構造。
【請求項2】
車両前後方向に延在された骨格部材と、
樹脂と繊維との複合材より成り、車両前後方向に長手とされると共に該長手方向との直交断面が開断面とされ、長手方向の一端が前記骨格部材の車両前後方向の端部に結合され、かつ長手方向の一端側が他端側よりも厚肉とされて構成された補強部を有し、長手方向の他端側から一端側に向けて入力される衝撃のエネルギを吸収するための衝撃吸収部材と、
を備えた車両の衝撃吸収構造。
【請求項3】
前記補強部は、前記衝撃吸収部材の長手方向他端側における補強幅が該他端に向けて徐減されている請求項1又は請求項2記載の車両の衝撃吸収構造。
【請求項4】
前記補強部は、前記衝撃吸収部材の長手方向他端側の縁部が該長手方向に対し傾斜された直線状を成している請求項1〜請求項3の何れか1項記載の車両の衝撃吸収構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−195068(P2010−195068A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−39097(P2009−39097)
【出願日】平成21年2月23日(2009.2.23)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】