説明

車両の走行制御装置

【課題】後続車との衝突の危険性を高めることなく、前方車との衝突を回避するための手段を実現する。
【解決手段】前方車との車間距離および相対速度の計測値と、後続車との車間距離および相対速度の計測値と、自動的に制動を掛ける距離および自動的に掛ける制動力の設定値と、から制動を設定値の通りに掛けた場合の後続車との衝突の危険度を演算する手段(S3)、この危険度の演算値が所定レベルよりも高いときは、その危険度が所定レベル以下になるように、自動的に制動を掛ける距離および自動的に掛ける制動力の設定値を補正する手段(S5)、前方車の車間距離の計測値が補正後の自動的に制動を掛ける距離以下になると補正後の自動的に掛ける制動力をもって制動を掛ける手段(S6,S8)、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両の走行制御装置に関する。特に車両同士の衝突を回避するための制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両同士の衝突を回避するための制御システムについては、前方車との車間距離および相対速度の計測値から前方車との衝突の危険度を演算しつつ、危険度が所定レベルを超えると、自動的に制動を掛けるようにしたものがある。その場合、自動的に掛かる制動により、前方車との衝突は回避しえるものの、走行状況によっては、後続車との衝突を招く可能性が考えられる。
【0003】
特許文献1においては、前方車との相対速度と自車の走行速度(車速)とから安全車間距離を演算する手段、前方車との車間距離の計測値と安全車間距離との比較に基づいて前方車との衝突の危険度を演算する手段、その危険度に応じた警報を後続車に対して発生する手段と、を備えるものが開示される。
【特許文献1】特開平8−160138号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この発明は、このような従来技術を踏まえつつ、後続車との衝突の危険性を高めることなく、前方車との衝突を回避するための制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明は、前方車との車間距離および相対速度を計測する手段、後方車との車間距離および相対速度を計測する手段、 運転者の操作によって前方車との衝突を回避しえる限界距離として自動的に制動を掛ける距離およびその際の自動的に掛ける制動力を設定する手段、 前方車との車間距離および相対速度の計測値と、後続車との車間距離および相対速度の計測値と、自動的に制動を掛ける距離および自動的に掛ける制動力の設定値と、から制動を設定値の通りに掛けた場合の後続車との衝突の危険度を演算する手段、 この危険度の演算値が所定レベルよりも高いときは、その危険度が所定レベル以下になるように、自動的に制動を掛ける距離および自動的に掛ける制動力の設定値を補正する手段、 補正後の自動的に制動を掛ける距離に基づいて、後続車の運転者に対する警報を発生すべき距離を演算する手段、 前方車との車間距離の計測値が警報を発生すべき距離以下になると後続車の運転者に対する警報を発生させる手段、 前方車の車間距離の計測値が補正後の自動的に制動を掛ける距離以下になると補正後の自動的に掛ける制動力をもって制動を掛ける手段、 を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
この発明においては、運転者の操作によって前方車との衝突を回避しえる限界距離として自動的に制動を掛ける距離およびその際の自動的に掛ける制動力が設定され、制動を設定値(自動的に制動を掛ける距離,自動的に掛ける制動力)通りに掛けた場合の後続車との衝突の危険度が演算される。この危険度の演算値が所定レベルよりも高いときは、その危険度が所定レベル以下になるように、自動的に制動を掛ける距離および自動的に掛ける制動力の設定値が補正される。つまり、危険度の演算値が所定レベルよりも高いときは、自動的に制動を掛ける距離が大きく、自動的に掛ける制動力が小さく補正され、危険度が所定レベル以下に抑えられる。
【0007】
警報を発生すべき距離は、補正後の自動的に制動を掛ける距離に基づいて演算され、前方車との車間距離の計測値が警報を発生すべき距離以下になると、後続車の運転者に対する警報が発生する。このため、後続車の運転者に対して、衝突の回避行動に備える時間的な余裕を与えることができる。また、自動的に掛かる制動は、前方車との車間距離の計測値が補正後の自動的に制動を掛ける距離以下になると、補正後の自動的に掛ける制動力をもって作動する。つまり、補正後の自動的に制動を掛ける距離により、タイミングが早められ、補正後の自動的に掛ける制動力により、緩制動が作動するため、後続車の運転者に対して、衝突の回避行動に十分な時間的な余裕を与えることができる。これらの結果、後続車との衝突を回避しつつ、前方車との衝突を回避することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図に基づいて、この発明の実施形態を説明する。
【0009】
図1は、車両の走行制御装置の構成を示す概要図であり、前方車との車間距離および相対速度を計測する手段11と、後続車との車間距離および相対速度を計測する手段12と、を備える。前方車との車間距離および相対速度を計測する手段11、後方車との車間距離および相対速度を計測する手段12については、ミリ波レーダ装置が用いられ、ミリ波を送信してその反射波が到達するまでの時間から車間距離を演算する。また、車間距離の単位時間あたりの変化量(前回の計測値と今回の計測値との差)を相対速度として演算する。
【0010】
10は制御ユニット(衝突被害軽減装置)であり、ブレーキ装置15のほか、運転室のブザー16、車体後部のストップランプ17,ハザードランプ18、を後述のように制御する。運転室のブザー16は、自車の運転者に対して前方車との相対関係(接近状態)を警報する手段を構成する。車体後部のストップランプ17およびハザードランプ18は、後続車の運転者に対して自車と前方車との相対関係(接近状態)を警報する手段として兼用される。なお、前方車との相対速度および後続車との相対速度については、自車速の計測値(車速センサ19の検出値)と車間距離の計測値とから求めることも考えられる。
【0011】
図2は、衝突被害軽減ユニット10の制御内容を説明するフローチャートである。
【0012】
S1においては、前方車との車間距離および相対速度の計測値,後続車との車間距離および相対速度の計測値を読み込む。
【0013】
S2においては、運転者の操作によって前方車との衝突を回避しえる限界距離として「自動的に制動を掛ける距離」およびその際の「自動的に掛ける制動力」を設定する。
【0014】
S3においては、前方車との車間距離および相対速度(S1の計測値)と、後続車との車間距離および相対速度(S1の計測値)と、「自動的に制動を掛ける距離」(S2の演算値)および「自動的に掛ける制動力」(S2の演算値)と、から制動を演算値の通りに掛けた場合の後続車との衝突の危険度を演算する。
【0015】
S4においては、この危険度の演算値が所定レベルよりも高いときは、その危険度が所定レベル以下になるように「自動的に制動を掛ける距離」(S2の演算値)および「自動的に掛ける制動力」(S2の演算値)を補正する。
【0016】
S5においては、「補正後の自動的に制動を掛ける距離」(S4の演算値)に基づいて自車の運転者に対する警報を発生すべき距離と、後続車の運転者に対する警報を発生すべき距離と、を演算する。
【0017】
S6においては、前方車の車間距離(S1の計測値)が「補正後の自動的に制動を掛ける距離」(S4の演算値)以下かどうかを判定する。
【0018】
S7においては、前方車の車間距離(S1の計測値)がS5の演算値(「自車の運転者に対する警報を発生すべき距離」,「後続車の運転者に対する警報を発生すべき距離」)以下かどうかを判定する。
【0019】
S6の判定がyesのときは、S8へ進み、ブザー16の作動(吹鳴)、ストップランプ17およびハザードランプ18の作動(点灯)、に加えて制動を開始する。S6の判定がnoかつS7の判定がyesのときは、S9へ進み、ブザー16、ストップランプ17およびハザードランプ18、を作動させる。S7の判定がnoのときは、S1へ戻る。
【0020】
S6,S8により、前方車の車間距離(S1の計測値)が「補正後の自動的に制動を掛ける距離」(S4の演算値)以下になるとその間は「補正後の自動的に掛ける制動力」をもって制動を掛ける手段が構成される。S7,S9により、前方車との車間距離(S1の計測値)が「警報を発生すべき距離」(S5の演算値)以下になると自車の運転者に対する警報および後続車の運転者に対する警報を発生させる手段が構成されるのである。
【0021】
S2〜S5について、制御(処理)の内容をさらに詳しく説明する。
【0022】
S2(「自動的に制動を掛ける距離」,「自動的に掛ける制動力」を設定する処理)においては、制動によって前方車との衝突を回避しえる前後方向の限界距離(制動回避限界距離)=(相対速度の計測値×相対速度の計測値)/(2×最大減速度)、を演算する。
【0023】
この実施形態においては、制動回避限界距離のほか、操舵によって前方車との衝突を回避しえる前後方向の限界距離(操舵回避限界距離)=(衝突を回避する操舵に要する時間)×相対速度、が演算され、これら演算値(制動回避限界距離,操舵回避限界距離)から運転者の操作によって前方車との衝突を回避しえる限界距離として「自動的に制動を掛ける距離」=min[制動回避限界距離,操舵回避限界距離]、を設定する(図6、参照)。
【0024】
「自動的に掛ける制動力」は、この制御システムにおいて、「自動的に掛け得る最大の制動力に基づく減速度)が定数として設定される。最大減速度は、運転者の操作によって車両が出せる減速度の最大値を意味する。
【0025】
図4は、制動回避限界距離=(相対速度の計測値×相対速度の計測値)/(2×最大減速度)について、説明するものである。図4において、Aは自車であり、Bは先行車(前方車)である。
【0026】
先行車B(前方車)との相対関係が図示のような走行状況の場合、制動によって自車Aが先行車B(前方車)と同じ速度まで減速するために必要な時間Tは、V1−α1・T=V2から、T=(V1−V2)/α1、となる。
【0027】
時間Tにおける自車Aの進行距離L1は、L1=V1・T−α1・T2/2=(V12−V22)/(2・α1)、となる。時間Tにおける先行車の進行距離L2は、L2=V2・T=V2・(V1−V2)/α1、となる。
【0028】
先行車Bと衝突しないための限界距離L0(制動回避限界距離)は、L0=L1−L2=(V12−V22)/(2・α1)−V2・(V1−V2)/α1=(V1−V2)2/(2・α1)、となる。ここで、V1−V2=Vr(相対速度)とおくと、L0=Vr2/(2・α1)となり、制動回避限界距離L0は、(相対速度Vr×相対速度Vr)/(2×α1)、として演算される。α1は自車の最大減速度である。
【0029】
図5は、操舵回避限界距離について、説明するものであり、操舵回避限界距離L4は、L4=(V1−V2)・TTC=Vr・TTC、となる。TTCは衝突を回避する操舵に要する時間であり、定数として設定される。従って、操舵回避限界距離L4は、(衝突を回避する操舵に要する時間)×相対速度Vr、として演算される。図5において、Aは自車であり、Bは先行車(前方車)である。
【0030】
図3は、S3の制御内容(制動を演算値の通りに掛けた場合の後続車との衝突の危険度を演算する処理)を説明するフローチャートである。
【0031】
S3.1においては、現状の前方車との相対関係が続いた場合の前方車と衝突するまでの時間(衝突予測時間)=(前方車との車間距離の計測値)/(前方車との相対速度の計測値)、を演算する。S3.2においては、現状の前方車との相対関係が続いた場合に制動を設定値(「自動的に制動を掛ける距離」,「自動的に掛ける制動力」)通りに作動させるまでの時間(制動予測時間)=衝突予測時間−{「自動的に制動を掛ける距離」(S2の設定値)/(前方車との相対速度の計測値)}、を演算する。
【0032】
S3.3においては、制動予測時間経過時点の後続車との相対関係(車間距離,相対速度)を演算する。すなわち、制動予測時間経過時点の後続車との相対速度=後続車との相対速度の計測値、制動予測時間経過時点の後続車との車間距離=後続車との車間距離の計測値−後続車との相対速度の計測値×制動予測時間の演算値、を演算する。
【0033】
S3.4においては、自車の制動に対して後続車の運転者が認識して判断し回避操作を取るまでの時間(制動反応時間)が定数として設定され、制動反応時間経過時点の後続車との相対速度=「制動予測時間経過時点の後続車との相対速度」(S3.3の演算値)+「自動的に掛ける制動力」(S2の演算値)×制動反応時間、制動予測時間経過時点の後続車との車間距離=「制動予測時間経過時点の後続車との車間距離」(S3.3の演算値)−「制動予測時間経過時点の後続車との車間距離」(S3.3の演算値)×制動反応時間−「自動的に掛ける制動力」(S2の演算値)×制動反応時間×制動反応時間÷2、を演算する。
【0034】
S3.5においては、後続車との衝突の危険度として、制動反応時間経過時点から後続車が衝突するまでの時間(制動反応時間経過後の後続車との衝突予測時間)=「制動予測時間経過時点の後続車との車間距離」(S3.4の演算値)÷「制動反応時間経過時点の後続車との相対速度」(S3.4の演算値)、を演算するのである。
【0035】
図2のS4(後続車との衝突の危険度に基づいて「自動的に制動を掛ける距離」および「自動的に掛ける制動力」を補正する処理)においては、危険度(S3.5の演算値)と比較される所定レベルとして「運転者の回避操作に要する時間」(運転者の通常回避時間)が常数として設定され、偏差=(危険度の演算値)−(運転者の回避操作に要する時間)、を演算する。次いで、偏差>0のときは、データマップ(図示せず)から、偏差に対応する「自動的に制動を掛ける距離」の補正値および「自動的に掛ける制動力」の補正値を求め、「補正後の自動的に制動を掛ける距離」=「自動的に制動を掛ける距離」(S2の設定値)+補正値、「補正後の自動的に掛ける制動力」=「自動的に掛ける制動力」(S2の設定値)+補正値、を演算する。
【0036】
S5においては、「自動的に掛ける制動を予告する警報の作動時間」が設定され、「自車の運転者に対する警報を発生すべき距離」および「後続車の運転者に対する警報を発生すべき距離」=「補正後の自動的に制動を掛ける距離」+「前方車との相対速度」(S1の計測値)×(自動的に掛ける制動を予告する警報の作動時間)、を演算する。
【0037】
このような制御システムにおいては、運転者の操作によって前方車との衝突を回避しえる限界距離として「自動的に制動を掛ける距離」およびその際の「自動的に掛ける制動力」が設定され、制動を設定値(「自動的に制動を掛ける距離」,「自動的に掛ける制動力」)通りに掛けた場合の後続車との衝突の危険度が演算される。この危険度の演算値が所定レベルよりも高いときは、その危険度が所定レベル以下になるように「自動的に制動を掛ける距離」および「自動的に掛ける制動力」の設定値が補正される。つまり、危険度の演算値が所定レベルよりも高いときは、「自動的に制動を掛ける距離」の設定値が大きく、「自動的に掛ける制動力」の設定値が小さく補正され、危険度が所定レベル以下に抑えられる。
【0038】
「警報を発生すべき距離」は、「補正後の自動的に制動を掛ける距離」に基づいて演算され、前方車との車間距離の計測値が「警報を発生すべき距離」以下になると、自車の運転者に対する警報および後続車の運転者に対する警報が発生する。このため、後続車の運転者に対しても、衝突の回避行動に備える時間的な余裕を与えることができる。また、「自動的に掛かる制動」は、前方車との車間距離の計測値が「補正後の自動的に制動を掛ける距離」以下になると、「補正後の自動的に掛ける制動力」をもって作動する。つまり、「補正後の自動的に制動を掛ける距離」により、タイミングが早められ、「補正後の自動的に掛ける制動力」により、緩制動が作動するため、後続車の運転者に対しても、衝突の回避行動に十分な時間的な余裕を与えることができる。これらの結果、後続車との衝突を回避しつつ、前方車との衝突を回避することが可能となる。
【0039】
図2のS2において、「自動的に制動を掛ける距離」は、制動回避限界距離と操舵回避限界距離とのうち、小さい方の値が選択されるため、「後続車との衝突の危険度」との関係からは、安全側に設定されるのである。「後続車との衝突の危険度」は、図3のフローチャートにより、自車の制動に対して後続車の運転者が認識して判断し回避操作を取るまでの時間(制動反応時間)を含め、制動反応時間経過後の後続車との衝突予測時間として緻密かつ正確に演算される。制動反応時間経過後の後続車との衝突予測時間は、図2のS4において、偏差=(危険度の演算値)−(運転者の回避操作に要する時間)に基づいて、偏差>0のときは、マップデータから偏差に対応する補正値が求められ、「補正後の自動的に制動を掛ける距離=「自動的に制動を掛ける距離」+補正値、「補正後の自動的に掛ける制動力」=「自動的に掛ける制動力」+補正値、として与えられるので、「運転者の回避操作に要する時間」以上に過不足なく適確に補正しえるのである。これらにより、衝突被害軽減システムの信頼性を大いに向上させることができる。
【0040】
例えば、図7のような、前方車Bとの車間距離が100m、前方車Bとの相対速度が自車Aの方が10m/s速く、後続車Cとの車間距離が60m、後続車Cとの相対速度が後続車Cの方が5m/s速い、走行状況について、制御ユニット10の制御内容を具体的に説明する。
【0041】
「自動的に制動を掛ける距離」およびその際の「自動的に掛ける制動力」を設定する手段(S2)においては、衝突を回避する操舵に要する時間:0.8s、最大減速度:6m/s2、自動的に掛ける制動力:5m/s2、が定数として設定される。
【0042】
操舵回避限界距離=[衝突を回避する操舵に要する時間:0.8s]×[前方車との相対速度の計測値:10m/s]=8m、制動回避限界距離=[前方車との相対速度の計測値:10m/s]2/(2×最大減速度:6m/s2)=8.3m、となる。「自動的に制動を掛ける距離」=min[制動回避限界距離:8.3m,操舵回避限界距離:8m]=8m、が設定される。
【0043】
制動を演算値の通りに掛けた場合の後続車Cとの衝突の危険度を演算する手段(S3)においては、前方車Bとの衝突予測時間=[前方車Bとの車間距離:100m]/[前方車Bとの相対速度:10m/s]=10s、前方車Bに対する制動予測時間=[衝突予測時間:10s]−([自動的に制動を掛ける距離:8m]/[前方車Bとの相対速度:10m/s]=9.2s、となる。
【0044】
[制動予測時間:9.2s]の経過時点の後続車との相対速度=[後続車Cとの相対速度:5m/s]=5m/s、[制動予測時間:9.2s]の経過時点の後続車Cとの車間距離=[後続車Cとの車間距離:60m]−[後続車Cとの相対速度:5m/s]×[制動予測時間:9.2s]=14m、となる。
【0045】
[制動反応時間:0.8s]が定数として設定され、[制動反応時間:0.8s]の経過時点の後続車Cとの相対速度=[制動予測時間経過時点の後続車Cとの相対速度:5m/s]+[自動的に掛ける制動力:5m/s2]×[制動反応時間:0.8s]=9.0m/s、[制動反応時間:0.8s]の経過時点の後続車との車間距離=[制動予測時間経過時点の後続車Cとの車間距離:14m]−[制動予測時間経過時点の後続車Cとの相対速度:5m/s]×[制動反応時間:0.8s]−[自動的に掛ける制動力:5m/s2]×[制動反応時間:0.8s]2÷2=8.4m、となる。
【0046】
制動を演算値の通りに掛けた場合の後続車との衝突の危険度は、制動反応時間経過時点から後続車Cが衝突するまでの時間(制動反応時間経過後の後続車Cとの衝突予測時間)=[制動予測時間経過時点の後続車Cとの車間距離:8.4m]÷[制動反応時間経過時点の後続車Cとの相対速度:9.0m/s]=0.93s、となる。
【0047】
「後続車Cとの衝突の危険度」に基づいて「自動的に制動を掛ける距離」および「自動的に掛ける制動力」を補正する手段(S4)においては、[運転者の通常回避時間:1.6s]が設定され、[制動反応時間経過後の後続車Cとの衝突予測時間:0.93s]が[運転者の通常回避時間:1.6s]以上(後続車Cとの衝突の危険度が所定レベル以下)となるように「自動的に制動を掛ける距離:8m」および「自動的に掛ける制動力:5m/s2」を補正する。偏差=[運転者の回避操作に要する時間:1.6s]−[危険度の演算値:0.93s]、が演算され、偏差>0のときは、マップ(図示せず)の検索により、偏差に対応する補正値を求める。この例においては、[自動的に制動を掛ける距離:8m]に対する[補正値:5.5m]、[自動的に掛ける制動力:5m/s2]に対する[補正値:2.04m/s2]、が与えられ、「補正後の自動的に制動を掛ける距離」=[自動的に制動を掛ける距離:8m]+[補正値:5.5m]=13.5m、「補正後の自動的に掛かる制動力」=[自動的に掛ける制動力:5m/s2]−[補正値:2.04m/s2]=2.96m/s2、が演算されるのである。
【0048】
「自車Aの運転者に対する警報を発生すべき距離」と、「後続車Cの運転者に対する警報を発生すべき距離」と、を演算する手段(S5)においては、[自動的に掛ける制動を予告する警報の作動時間:0.8s]が設定され、「自車Aの運転者に対する警報を発生すべき距離」および「後続車Cの運転者に対する警報を発生すべき距離」=[補正後の自動的に制動を掛ける距離;13.5m]+[前方車Bとの相対速度:10m/s]×[自動的に掛ける制動を予告する警報の作動時間:0.8s]=21.5m、となる。
【0049】
自車Aの運転者に対する警報および後続車Cの運転者に対する警報を発生させる手段(S7,S9)においては、前方車Bとの車間距離の計測値が[警報を発生すべき距離:21.5m]と比較され、[警報を発生すべき距離:21.5m]≧前方車Bとの車間距離になると、「自車Aの運転者に対する警報」および「後続車Cの運転者に対する警報」が作動する。
【0050】
前方車Bの車間距離が「補正後の自動的に制動を掛ける距離」以下になるとその間は「補正後の自動的に掛ける制動力」をもって制動を掛ける手段(S6,S8)においては、前方車Bとの車間距離の計測値が[補正後の自動的に制動を掛ける距離:13.5m]と比較され、[補正後の自動的に制動を掛ける距離:13.5m]≧前方車Bとの車間距離になると、「自車Aの運転者に対する警報」および「後続車Cの運転者に対する警報」の作動と共に[補正後の自動的に掛ける制動力:2.96m/s2]をもって制動が作動するのである。
【0051】
この例においては、「自車Aの運転者に対する警報を発生すべき距離」および「後続車Cの運転者に対する警報を発生すべき距離」=[補正後の自動的に制動を掛ける距離;13.5m]+[前方車との相対速度:10m/s]×[自動的に掛ける制動を予告する警報の作動時間:0.8s]=21.5m、となるが、自車Aの運転者に対する警報の発生タイミングと、後続車Cの運転者に対する警報の発生タイミングと、は同時でなく、タイムラグを設定することも考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】この発明の実施形態に係る制御系の概要図である。
【図2】同じく制御内容を説明するフローチャートである。
【図3】同じく制御内容を説明するフローチャートである。
【図4】同じく制動回避限界距離の説明図である。
【図5】同じく操舵回避限界距離の説明図である。
【図6】同じく自動的に制動を掛ける距離の特性図である。
【図7】同じく制御内容を説明する走行状況図である。
【符号の説明】
【0053】
10 制御ユニット(衝突被害軽減装置)
11,12 ミリ波レーダ装置
15 ブレーキ装置
16 ブザー
17 ストップランプ
18 ハザードランプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前方車との車間距離および相対速度を計測する手段、後方車との車間距離および相対速度を計測する手段、
運転者の操作によって前方車との衝突を回避しえる限界距離として自動的に制動を掛ける距離およびその際の自動的に掛ける制動力を設定する手段、
前方車との車間距離および相対速度の計測値と、後続車との車間距離および相対速度の計測値と、自動的に制動を掛ける距離および自動的に掛ける制動力の設定値と、から制動を設定値の通りに掛けた場合の後続車との衝突の危険度を演算する手段、
この危険度の演算値が所定レベルよりも高いときは、その危険度が所定レベル以下になるように、自動的に制動を掛ける距離および自動的に掛ける制動力の設定値を補正する手段、
補正後の自動的に制動を掛ける距離に基づいて、後続車の運転者に対する警報を発生すべき距離を演算する手段、
前方車との車間距離の計測値が警報を発生すべき距離以下になると後続車の運転者に対する警報を発生させる手段、
前方車の車間距離の計測値が補正後の自動的に制動を掛ける距離以下になると補正後の自動的に掛ける制動力をもって制動を掛ける手段、
を備えたことを特徴とする車両の走行制御装置。
【請求項2】
前記の後続車との衝突の危険度を演算する手段は、
現状の前方車との相対関係が続いた場合に設定の距離で制動を掛けるまでの制動予測時間を演算する手段、
制動予測時間の演算値と後続車の車間距離および相対速度の計測値とから制動予測時間経過時点の後続車の車間距離を演算する手段、
自車の制動に対して後続車の運転者が認識して回避操作を取るまでの制動反応時間を設定する手段、
制動反応時間中に後続車の走行する距離、制動反応時間中に後続車との車間距離が自動的に掛かる制動によって縮まる距離、制動反応時間中の自動的に掛かる制動による分の減速度、を演算する手段、
制動予測経過時点の後続車の車間距離と、制動反応時間中の後続車の走行距離と、制動反応時間中に後続車との車間距離が自動的に掛かる制動によって縮まる距離と、から制動反応時間経過時点の後続車との車間距離を演算する手段、
制動予測経過時点の後続車との相対速度と、制動反応時間中の自動的に掛かる制動による分の減速度と、から制動反応時間経過時点の後続車との相対速度を演算する手段、
制動反応時間経過時点の車間距離と、制動反応時間経過時点の相対速度と、から後続車との衝突の危険度として、制動反応時間経過後に後続車と衝突するまでの衝突予測時間を演算する手段、
を備えることを特徴とする請求項1に係る車両の走行制御装置。
【請求項3】
前記の自動的に制動を掛ける距離および自動的に掛ける制動力の設定値を補正する手段は、
危険度の演算値と比較される所定レベルとして運転者の回避操作に要する時間を設定する手段、
運転者の回避操作に要する時間と後続車との衝突の危険度との偏差を求め、偏差>0のときは、偏差に対応する自動的に制動を掛ける距離の補正値および自動的に掛ける制動力の補正値を求め、自動的に制動を掛ける距離の設定値+補正値、自動的に掛ける制動力の設定値−補正値、に補正する手段、
を備えたことを特徴とする請求項1または請求項2に係る車両の走行制御装置。
【請求項4】
前記の自動的に制動を掛ける距離およびその際の自動的に掛ける制動力を設定する手段は、
制動によって前方車との衝突を回避しえる前後方向の限界距離としての制動回避限界距離を、運転者の操作によって車両の出せる最大減速度と、前方車の相対速度の計測値と、から演算する手段、
操舵によって前方車との衝突を回避しえる前後方向の限界距離としての操舵回避限界距離を、衝突を回避する操舵に要する時間と、前方車との相対速度の計測値と、から演算する手段、
これらの演算値から運転者の操作によって前方車との衝突を回避しえる限界距離として自動的に制動を掛ける距離に制動回避限界距離と操舵回避限界距離との中の小さい方の値を設定する手段、
を備えたことを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか1つに係る車両の走行制御装置。
【請求項5】
前記の警報を発生すべき距離を演算する手段は、
自動的に掛かる制動を予告する警報の作動時間を設定する手段、
この警報の作動時間と、補正後の自動的に制動を掛ける距離と、前方車との相対速度の計測値と、から後続車の運転者に対する警報を発生すべき距離を演算する手段、
を備えることを特徴とする請求項1〜請求項4の何れか1つに係る車両の走行制御装置。
【請求項6】
前記の補正後の自動的に制動を掛ける距離に基づいて、自車の運転者に対する警報を発生すべき距離を演算する手段、
前方車との車間距離の計測値が前記の警報を発生すべき距離以下になると自車の運転者に対する警報を発生させる手段、
を備えることを特徴とする請求項1〜請求項4の何れか1つに係る車両の走行制御装置。
【請求項7】
前記の警報を発生すべき距離を演算する手段は、
自動的に掛かる制動を予告する警報の作動時間を設定する手段、
この警報の作動時間と、補正後の自動的に制動を掛ける距離と、前方車との相対速度の計測値と、から自車の運転者に対する警報を発生すべき距離を演算する手段、
を備えることを特徴とする請求項6に係る車両の走行制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−290600(P2008−290600A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−138910(P2007−138910)
【出願日】平成19年5月25日(2007.5.25)
【出願人】(000003908)日産ディーゼル工業株式会社 (1,028)
【Fターム(参考)】