説明

車両の車体後部構造

【課題】車両の前突時に、シート上に着座者を拘束するシートベルトの拘束性能が、より確実に良好に維持されるようにし、これが簡単な構成で、質量の増加を抑制しつつ達成できるようにする。
【解決手段】車体2の前後方向に延びるルーフサイドレール6のインナパネル17の後端部と、上下方向に延びるリヤピラー7のインナパネル21の上端部とを互いに結合し、リヤピラー7のインナパネル21にシートベルト29掛止用のアンカー30を取り付ける。ルーフサイドレール6のインナパネル17の後端部の下部を下方に向けて一体的に延出し、インナパネル17の延出部26とリヤピラー7のインナパネル21の上部とを車体2の幅方向で互いに重ね合わせて結合し(S3,S4,S6)、重ね合わせ部28にアンカー30を取り付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ルーフサイドレールとリヤピラーとの各インナパネル同士を互いに結合し、上記リヤピラーのインナパネルにシートベルト掛止用のアンカーを取り付けた車両の車体後部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記車両の車体後部構造には、従来、下記特許文献1に示されるものがある。この公報のものによれば、車体の前後方向に延びるルーフサイドレールのインナパネルの後端部と、上下方向に延びるリヤピラーのインナパネルの上端部とが互いに結合され、このリヤピラーのインナパネルにシートベルト掛止用のアンカーが取り付けられている。
【0003】
車両の走行時、車室におけるシート上への着座者は、通常、シートベルトによりシート上に拘束された状態とされる。そして、車両の前進走行時に、その前方に位置する何らかの物体に車両が衝突(前突)したときには、着座者はその慣性力により上記シート上から前方に移動しようとする。すると、まず、上記慣性力に基づき、上記シートベルトに対して前方に向かおうとする引張力が与えられる。そして、この引張力は上記シートベルト、およびこのシートベルトを掛止するアンカーを介し上記リヤピラーのインナパネルにより支持される。これにより、上記シート上からの着座者の前方移動が阻止され、着座者は上記シート上に拘束されたままに維持されて、保護される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−63622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記したように、前突時には、上記シートベルトに与えられる引張力は、上記シートベルトおよびアンカーを介しリヤピラーのインナパネルにて支持されるが、この際、上記ルーフサイドレールとリヤピラーとの各インナパネル同士の結合部は、車体の側面視で、倒立L字状に屈曲した部分であるため、この結合部には上記引張力によって応力集中が発生しがちとなる。
【0006】
そして、上記結合部に大きい応力集中が生じた場合には、上記結合部が破断して、上記ルーフサイドレールのインナパネルから上記リヤピラーのインナパネルが剥離する。すると、このリヤピラーのインナパネルに取り付けられている上記アンカーと、このアンカーに掛止されているシートベルトとが共に前方移動することとなる。この結果、上記シート上に着座者を拘束するシートベルトによる拘束性能が急速に低下するという不都合が生じる。
【0007】
そこで、上記ルーフサイドレールとリヤピラーとの各インナパネル同士の結合部を別途の補強材により補強して、上記結合部における応力集中の発生を防止し、もって、この結合部の破断を防止することが考えられる。しかし、単に、このようにすると、車体後部構造の部品点数が増加して構成が複雑になると共に、質量が無用に増加するという不都合が生じる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記のような事情に注目してなされたもので、本発明の目的は、車両の前突時に、シート上に着座者を拘束するシートベルトの拘束性能が、より確実に良好に維持されるようにすることであり、かつ、これが簡単な構成で、かつ、質量の増加を抑制しつつ達成できるようにすることである。
【0009】
請求項1の発明は、車体2の前後方向に延びるルーフサイドレール6のインナパネル17の後端部と、上下方向に延びるリヤピラー7のインナパネル21の上端部とを互いに結合し、このリヤピラー7のインナパネル21にシートベルト29掛止用のアンカー30を取り付けた車両の車体後部構造において、
上記ルーフサイドレール6のインナパネル17の後端部の下部を下方に向けて一体的に延出し、このインナパネル17の延出部26と上記リヤピラー7のインナパネル21の上部とを車体2の幅方向で互いに重ね合わせて結合し(S3,S4,S6)、この重ね合わせ部28に上記アンカー30を取り付けたことを特徴とする車両の車体後部構造。
【0010】
なお、この項において、上記各用語に付記した符号や図面番号は、本発明の技術的範囲を後述の「実施例」の項や図面の内容に限定解釈するものではない。
【発明の効果】
【0011】
本発明による効果は、次の如くである。
【0012】
請求項1の発明は、車体の前後方向に延びるルーフサイドレールのインナパネルの後端部と、上下方向に延びるリヤピラーのインナパネルの上端部とを互いに結合し、このリヤピラーのインナパネルにシートベルト掛止用のアンカーを取り付けた車両の車体後部構造において、
上記ルーフサイドレールのインナパネルの後端部の下部を下方に向けて一体的に延出し、このインナパネルの延出部と上記リヤピラーのインナパネルの上部とを車体の幅方向で互いに重ね合わせて結合し、この重ね合わせ部に上記アンカーを取り付けており、次の作用効果が生じる。
【0013】
即ち、車両の前突時、車室におけるシート上の着座者は、その慣性力により上記シート上から前方に移動しようとする。すると、まず、上記慣性力に基づき、上記シートベルトに対して前方に向かおうとする引張力が与えられる。そして、この引張力は、上記シートベルトおよびこのシートベルトを掛止するアンカーを介しリヤピラーのインナパネルにて支持される。そして、この際、上記ルーフサイドレールとリヤピラーとの各インナパネル同士の結合部に、上記引張力による応力集中が発生しがちとなる。
【0014】
ここで、上記発明によれば、ルーフサイドレールのインナパネルの後端部の下部を下方に向けて一体的に延出し、このインナパネルの延出部と上記リヤピラーのインナパネルの上部とを車体の幅方向で互いに重ね合わせて結合し、この重ね合わせ部に上記アンカーを取り付けている。
【0015】
このため、上記リヤピラーのインナパネルと上記ルーフサイドレールのインナパネルの延出部とによる重ね合わせ部の形成により、上記リヤピラーのインナパネルは広い面積にわたり補強される。そして、上記重ね合わせ部に上記アンカーが取り付けられたことから、前突時に上記シートベルトを介しアンカーに与えられる引張力は、上記重ね合わせ部によって強固に支持される。
【0016】
しかも、前突時の上記引張力は、上記アンカーを介し上記重ね合わせ部に与えられるが、この重ね合わせ部を構成している上記延出部は、上記ルーフサイドレールの後端部の下部を一体的に延出することにより形成されたものである。このため、上記引張力は上記ルーフサイドレールによって効果的に支持される。そして、このルーフサイドレールは前後方向に延びているため、前方に向かう上記引張力は、上記ルーフサイドレールの長手方向で強固に支持される。よって、上記ルーフサイドレールとリヤピラーとの各インナパネル同士の結合部に上記引張力によって応力集中が発生する、ということは防止される。
【0017】
この結果、前突時において、上記アンカーとこのアンカーに掛止されているシートベルトとは、その位置に保持されることから、シート上に着座者を拘束する上記シートベルトによる拘束性能は、より確実に良好に維持される。
【0018】
また、上記した良好な拘束性能の確実な維持は、上記ルーフサイドレールとリヤピラーとの各インナパネル同士の結合部を別途の補強材により単に補強するのではなく、前記したように、ルーフサイドレールのインナパネルの一部を一体的に延出させ、その延出部をリヤピラーのインナパネルに重ね合わせることにより達成される。よって、上記した良好な拘束性能の確実な維持は、簡単な構成で、かつ、質量の増加を抑制しつつ達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図2のI−I線矢視断面図である。
【図2】車両の車体後部の側面図である。
【図3】車両の車体後部の左側部の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の車両の車体後部構造に関し、車両の前突時に、シート上に着座者を拘束するためのシートベルトの拘束性能が、より確実に良好に維持されるようにすることであり、かつ、これが簡単な構成で、かつ、質量の増加を抑制しつつ達成できるようにする、という目的を実現するため、本発明を実施するための形態は、次の如くである。
【0021】
即ち、車体の前後方向に延びるルーフサイドレールのインナパネルの後端部と、上下方向に延びるリヤピラーのインナパネルの上端部とが互いに結合され、このリヤピラーのインナパネルにシートベルト掛止用のアンカーが取り付けられている。上記ルーフサイドレールのインナパネルの後端部の下部が下方に向けて一体的に延出し、このインナパネルの延出部と上記リヤピラーのインナパネルの上部とが車体の幅方向で互いに重ね合わされて結合させられ、この重ね合わせ部に上記アンカーが取り付けられている。
【実施例】
【0022】
本発明をより詳細に説明するために、その実施例を添付の図に従って説明する。
【0023】
図において、符号1は、自動車で例示される車両であり、矢印Frは、この車両1の進行方向の前方を示している。また、下記する左右とは、車両1の前方に向かっての車両1の幅方向をいうものとする。
【0024】
車両1の車体2は板金製で、この車体2の内部が車室3とされている。上記車体2は、この車体2の前後方向に延びて車体2の左右の上部外側部を構成する左右一対のルーフサイドレール6,6と、これら各ルーフサイドレール6,6の後方に隣接し、上下方向に延びて車体2の左右の後部外側部を構成する左右一対のリヤピラー7,7と、上記左右のルーフサイドレール6,6に架設されて、上記車室3の上面を形成するルーフパネル8とを備えている。上記ルーフサイドレール6とリヤピラー7とは車体2の骨格部材とされ、十分の強度と剛性とを備えている。
【0025】
上記ルーフサイドレール6の下方、かつ、リヤピラー7の前方には、車室3の内外を連通させるサイドドア開口10が形成され、このドア開口10を開閉可能とするサイドドア11が設けられている。また、上記左右リヤピラー7と上記ルーフパネル8の後端縁部とで囲まれるよう車体2の後面にバックドア開口12が形成され、このドア開口12を開閉可能とするバックドア13が設けられている。
【0026】
上記ルーフサイドレール6は、車体2の幅方向で互いに対面するアウタ、インナパネル16,17を有し、これら両パネル16,17の各上端縁部同士と、各下端縁部同士とはそれぞれスポット溶接S1,S2により結合されている。また、これら両パネル16,17のそれぞれ幅方向(上下方向)の中途部は互いに離反し、これにより、上記ルーフサイドレール6は、内部空間18を有して閉断面構造とされている。
【0027】
一方、上記リヤピラー7は、車体2の幅方向で互いに対面するアウタ、インナパネル20,21を有し、これら両パネル20,21の各前端縁部同士と、各後端縁部同士とがそれぞれスポット溶接S3,S4により結合されている。また、これら両パネル20,21のそれぞれ幅方向(前後方向)の中途部は互いに離反し、これにより、上記リヤピラー7は、内部空間22を有して閉断面構造とされている。
【0028】
上記リヤピラー7のアウタ、インナパネル20,21に挟まれて、このリヤピラー7を補強する補強パネル24が設けられている。この補強パネル24の前、後端縁部は、上記リヤピラー7の両パネル20,21の各前端縁部の間と、各後端縁部の間とに挟まれて、それぞれ前記スポット溶接S3,S4により結合されている。また、上記補強パネル24の前上部24aは前方に延出して、上記ルーフサイドレール6を補強している。また、上記補強パネル24の後上部24bは車体2の幅方向の内方に延出して、前記ルーフパネル8の後端縁部を補強している。
【0029】
上記ルーフサイドレール6のインナパネル17の後端部の下部は下方に向けて一体的に延出している。このインナパネル17の延出部26は、上記リヤピラー7のインナパネル21の上部と、上記補強パネル24との間に配置されている。上記延出部26の前端縁部は、上記リヤピラー7のインナパネル21の上部と補強パネル24との各前端縁部の間に挟まれて前記スポット溶接S3により結合され、上記延出部26の後端縁部は、上記リヤピラー7のインナパネル21の上部と補強パネル24との各後端縁部の間に挟まれて前記スポット溶接S4により結合されている。また、上記リヤピラー7のインナパネル21の上下方向の中途部と補強パネル24の下端縁部とは、上記延出部26の下端縁部26aの下方においてスポット溶接S5により結合されている。
【0030】
車体2の側面視(図2)で、上記延出部26の下端縁部26aは、前突時に着座者から上記シートベルト29に与えられる引張力Fが向かう方向にほぼ平行に直線的に延びるよう形成されている。また、上記リヤピラー7のインナパネル21、補強パネル24、および延出部26の下端縁部26aは、互いに重ね合わされてスポット溶接S6により結合されている。
【0031】
上記リヤピラー7のインナパネル21、補強パネル24、および延出部26のそれぞれ幅方向(前後方向)の中途部は車体2の幅方向で互いに重ね合わされており、この重ね合わせ部28に、シートベルト29掛止用のショルダーアンカー30が締結具31により取り付けられている。車両1の走行時には、上記車室3の後部におけるシート上の着座者が、上記シートベルト29により上記シート上に拘束される。
【0032】
車両1の前突時、上記シート上の着座者は、その慣性力により上記シート上から前方に移動しようとする。すると、まず、上記慣性力に基づき、上記シートベルト29に対して前方に向かおうとする引張力Fが与えられる。そして、この引張力Fは、上記シートベルト29およびこのシートベルト29を掛止するアンカー30を介しリヤピラー7のインナパネル21にて支持される。そして、この際、上記ルーフサイドレール6とリヤピラー7との各インナパネル17,21同士の結合部に、上記引張力Fによる応力集中が発生しがちとなる。
【0033】
ここで、前記構成によれば、ルーフサイドレール6のインナパネル17の後端部の下部を下方に向けて一体的に延出し、このインナパネル17の延出部26と上記リヤピラー7のインナパネル21の上部とを車体2の幅方向で互いに重ね合わせて結合し(S3,S4,S6)、この重ね合わせ部28に上記アンカー30を取り付けている。
【0034】
このため、上記リヤピラー7のインナパネル21と上記ルーフサイドレール6のインナパネル17の延出部26とによる重ね合わせ部28の形成により、上記リヤピラー7のインナパネル21は広い面積にわたり補強される。そして、上記重ね合わせ部28に上記アンカー30が取り付けられたことから、前突時に上記シートベルト29を介しアンカー30に与えられる引張力Fは、上記重ね合わせ部28によって強固に支持される。
【0035】
しかも、前突時の上記引張力Fは、上記アンカー30を介し上記重ね合わせ部28に与えられるが、この重ね合わせ部28を構成している上記延出部26は、上記ルーフサイドレール6の後端部の下部を一体的に延出することにより形成されたものである。このため、上記引張力Fは上記ルーフサイドレール6によって効果的に支持される。そして、このルーフサイドレール6は前後方向に延びているため、前方に向かう上記引張力Fは、上記ルーフサイドレール6の長手方向で強固に支持される。よって、上記ルーフサイドレール6とリヤピラー7との各インナパネル17,21同士の結合部に上記引張力Fによって応力集中が発生する、ということは防止される。
【0036】
この結果、前突時において、上記アンカー30とこのアンカー30に掛止されているシートベルト29とは、その位置に保持されることから、シート上に着座者を拘束する上記シートベルト29による拘束性能は、より確実に良好に維持される。
【0037】
また、上記した良好な拘束性能の確実な維持は、上記ルーフサイドレール6とリヤピラー7との各インナパネル17,21同士の結合部を別途の補強材により単に補強するのではなく、前記したように、ルーフサイドレール6のインナパネル17の一部を一体的に延出させ、その延出部26をリヤピラー7のインナパネル21に重ね合わせることにより達成される。よって、上記した良好な拘束性能の確実な維持は、簡単な構成で、かつ、質量の増加を抑制しつつ達成できる。
【0038】
また、前記構成によれば、車体2の側面視(図2)で、上記延出部26の下端縁部26aが、前突時に上記シートベルト29に与えられる引張力Fの方向にほぼ平行となるよう形成されている。
【0039】
このため、前突時の上記引張力Fが上記延出部26の下端縁部26a側に与えられるとき、上記引張力Fは、この延出部26の下端縁部26aの長手方向の各部によって、より均等に支持される。よって、上記延出部26の下端縁部26aの一部に応力集中が発生して、この一部が容易に変形する、ということは防止され、上記引張力Fは上記延出部26によって強固に支持される。この結果、前記した前突時の前記シートベルト29による拘束性能は、更に確実に良好に維持される。
【0040】
なお、以上は図示の例によるが、補強パネル24は設けなくてもよい。また、スポット溶接S5,S6はしなくてもよい。
【符号の説明】
【0041】
1 車両
2 車体
3 車室
6 ルーフサイドレール
7 リヤピラー
8 ルーフパネル
16 アウタパネル
17 インナパネル
18 内部空間
20 アウタパネル
21 インナパネル
22 内部空間
24 補強パネル
26 延出部
26a 下端縁部
28 重ね合わせ部
29 シートベルト
30 アンカー
31 締結具
F 引張力
S スポット溶接

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の前後方向に延びるルーフサイドレールのインナパネルの後端部と、上下方向に延びるリヤピラーのインナパネルの上端部とを互いに結合し、このリヤピラーのインナパネルにシートベルト掛止用のアンカーを取り付けた車両の車体後部構造において、
上記ルーフサイドレールのインナパネルの後端部の下部を下方に向けて一体的に延出し、このインナパネルの延出部と上記リヤピラーのインナパネルの上部とを車体の幅方向で互いに重ね合わせて結合し、この重ね合わせ部に上記アンカーを取り付けたことを特徴とする車両の車体後部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−25849(P2011−25849A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−174675(P2009−174675)
【出願日】平成21年7月27日(2009.7.27)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】