車両の運動制御装置
【課題】モータの負荷を考慮してポンプの作動音を低減すると共に、W/C圧を目標W/C圧にすることが円滑に行えるようにする。
【解決手段】横滑り防止制御の制御対象輪が含まれる制御系統が1つのみであるか2つであるかによりモータ60に掛かる負荷を判定する。そして、制御系統が1つのみの場合にはモータ60に掛かる負荷があまり大きくないと判定して、目標W/C圧の大小に関わらず第1、第2差圧制御弁16、36のうち制御対象輪の配管系統に含まれる側の差圧制御弁で発生させる差圧を一定値に設定する。また、制御系統が2つのみの場合にはモータ60に掛かる負荷が大きいと判定して、目標W/C圧の大きさに応じて第1および第2差圧制御弁16、36で発生させる差圧を設定する。これにより、ポンプ19、39の吐出口側のブレーキ液圧が比較的高くならないようにされ、ポンプ駆動が抑制されないようにできる。
【解決手段】横滑り防止制御の制御対象輪が含まれる制御系統が1つのみであるか2つであるかによりモータ60に掛かる負荷を判定する。そして、制御系統が1つのみの場合にはモータ60に掛かる負荷があまり大きくないと判定して、目標W/C圧の大小に関わらず第1、第2差圧制御弁16、36のうち制御対象輪の配管系統に含まれる側の差圧制御弁で発生させる差圧を一定値に設定する。また、制御系統が2つのみの場合にはモータ60に掛かる負荷が大きいと判定して、目標W/C圧の大きさに応じて第1および第2差圧制御弁16、36で発生させる差圧を設定する。これにより、ポンプ19、39の吐出口側のブレーキ液圧が比較的高くならないようにされ、ポンプ駆動が抑制されないようにできる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキ液圧制御を行うことで車両の運動制御を行う運動制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の車両の運動制御装置として、特許文献1において、ポンプによるブレーキ液の吐出動作により発生させたブレーキ液圧をホイールシリンダ(以下、W/Cという)に供給することで、W/Cの自動加圧を行うブレーキ制御装置が開示されている。具体的には、マスタシリンダ(以下、M/Cという)とW/Cとを結ぶする管路のうちポンプの吐出口とW/Cとを繋ぐ管路との接続点よりもM/C側に配置された差圧制御弁を所定の差圧状態もしくは遮断状態にすると共に、制御対象輪のW/Cの増圧を制御する増圧制御弁の連通・遮断状態をデューティ制御し、さらに制御対象輪とは異なる車輪のW/Cの増圧制御弁を遮断状態にして、ポンプによってブレーキ液を吸入吐出させる。これにより、ポンプによるブレーキ液の吐出動作により発生させたブレーキ液圧に基づいて、制御対象輪のW/Cを加圧する。
【0003】
そして、このようなブレーキ制御装置において、ポンプ吐出時の作動音を低減するために、例えば、ポンプ駆動用のモータに供給する電流量をデューティ制御し、走行路面の摩擦係数が相対的に小さいときには大きいときと比べて、モータに供給する電流量を低下させることでポンプの駆動量、すなわちポンプの吸入吐出量を小さくしている。また、実際のW/C圧が制御目標とする圧力に近づく程、モータに供給する電流量を低下させることでポンプ駆動量を小さくしている。
【特許文献1】特開2000−203401号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、制御対象輪のW/Cを加圧するために、上記のように差圧制御弁を所定の差圧状態もしくは遮断状態にすると共に、制御対象輪とは異なる車輪のW/Cの増圧を制御する増圧制御弁を遮断状態にしているため、ポンプの吐出口側のブレーキ液圧が高くなる。このため、ポンプの吸入吐出量を小さくしているときに、ポンプの吐出口側のブレーキ液圧が高くなると、ポンプ駆動が抑制される。
【0005】
本発明は上記点に鑑みて、モータの負荷を考慮してポンプの作動音を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、運動制御手段(100〜150)により、M/C(13)と複数の車輪(FL〜RR)それぞれに対応して備えられたW/C(14、15、34、35)との間に備えられた差圧制御弁(16、36)、および、この差圧制御弁とW/Cの間においてW/Cそれぞれに対応して備えられた増圧制御弁(17、18、37、38)の間に、ポンプ(19、39)にてブレーキ液を吐出すると共に、差圧制御弁を目標指示圧に応じた差圧に制御し、かつ、増圧制御弁を制御することで、運転者のブレーキ操作に拘わらず制御対象輪に対応するW/Cを加圧し、制御量調整手段(140)にて、走行路面の摩擦係数が小さいときに大きいときと比べてポンプを駆動するモータ(60)の制御量を小さくする。そして、負荷判定手段(220)にて、モータの制御量を小さくするときに、モータに掛かる負荷状態を判定し、差圧制御手段(250)にて、モータに掛かる負荷状態が高負荷状態であるときに、高負荷状態ではない状態と比べて、差圧制御弁の差圧を低下させることを特徴としている。
【0007】
このように、モータに掛かる負荷が大きいと判定される場合に、それを低減することが可能となる。したがって、走行路面の摩擦係数が比較的低い場合に、ポンプの作動音を低減するために、モータへの通電量を低下させてポンプの駆動量を低下させたとしても、ポンプの吐出口側のブレーキ液圧が比較的高くならないようにされ、ポンプ駆動が抑制されないようにできる。このため、ポンプによるブレーキ液の吐出動作が円滑に行われ、円滑にW/C圧を制御目標とする目標W/C圧にすることが可能となる。
【0008】
例えば、請求項2に示すように、負荷判定手段は、制御対象輪がマスタシリンダとW/Cとを結ぶ第1、第2配管系統(50a、50b)のうちのいずれか一方のみに含まれるか、双方に含まれるかにより負荷状態を判定し、制御対象輪が第1、第2配管系統の双方に含まれると負荷状態が高負荷状態であると判定することができる。
【0009】
また、請求項3に示すように、負荷判定手段は、モータの端子電圧の低下勾配に基づいて負荷状態を判定し、低下勾配がしきい値よりも小さいときに、負荷状態が高負荷状態であると判定することもできる。
【0010】
さらに、請求項4に示すように、負荷判定手段は、増圧制御弁のうち制御対象輪と対応する増圧制御弁の通電量に基づいて負荷状態を判定し、通電量がしきい値よりも小さいときに、負荷状態が高負荷状態であると判定することもできる。
【0011】
請求項5に記載の発明では、負荷判定手段(220a)にて、モータの制御量を小さくするときに、モータに掛かる負荷状態を判定し、圧力制御手段(250a、290a)にて、モータに掛かる負荷状態が高負荷状態であるときに、高負荷状態ではない状態と比べて、差圧制御弁の差圧を低下させると共に、増圧制御弁のうち制御対象輪に対応する増圧制御弁を連通状態にすることで、差圧制御弁により発生させる差圧のみに基づいてW/Cの加圧を行うことを特徴としている。
【0012】
このように、モータに掛かる負荷が大きい場合に差圧制御弁で発生させる差圧を一律に小さくし、差圧制御弁よりもW/C側のブレーキ液圧をそのまま制御対象輪のW/C圧としても良い。このようにしても、請求項1と同様の効果を得ることができる。また、この場合にも、請求項2〜5と同様の手法により、負荷判定手段にて高負荷状態を判定することができる。
【0013】
そして、請求項8に示すように、負荷判定手段にて、モータの端子電圧の低下勾配に基づいて負荷状態を判定する場合に、圧力制御手段は、差圧制御弁により発生させる差圧を低下勾配に対応した値とすることができる。
【0014】
また、請求項10に示すように、負荷判定手段にて、増圧制御弁のうち制御対象輪と対応するものの通電量に基づいて負荷状態を判定する場合に、圧力制御手段は、差圧制御弁により発生させる差圧を通電量に対応した値とすることもできる。
【0015】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
【0017】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について説明する。図1は、本発明の第1実施形態にかかる車両の運動制御を実現する車両用のブレーキ制御システム1の全体構成を示したものである。本実施形態では、車両の運転制御として横滑り防止制御を行う場合について説明する。
【0018】
図1において、ドライバがブレーキペダル11を踏み込むと、倍力装置12にて踏力が倍力され、M/C13に配設されたマスタピストン13a、13bを押圧する。これにより、これらマスタピストン13a、13bによって区画されるプライマリ室13cとセカンダリ室13dとに同圧のM/C圧が発生する。M/C圧は、ブレーキ液圧制御用アクチュエータ50を通じて各W/C14、15、34、35に伝えられる。
【0019】
ここで、M/C13は、プライマリ室13cおよびセカンダリ室13dそれぞれと連通する通路を有するマスタリザーバ13eを備える。
【0020】
ブレーキ液圧制御用アクチュエータ50は、第1配管系統50aと第2配管系統50bとを有している。第1配管系統50aは、左前輪FLと右後輪RRに加えられるブレーキ液圧を制御し、第2配管系統50bは、右前輪FRと左後輪RLに加えられるブレーキ液圧を制御する。
【0021】
第1配管系統50aと第2配管系統50bとは、同様の構成であるため、以下では第1配管系統50aについて説明し、第2配管系統50bについては説明を省略する。
【0022】
第1配管系統50aは、上述したM/C圧を左前輪FLに備えられたW/C14及び右後輪RRに備えられたW/C15に伝達し、W/C圧を発生させる主管路となる管路Aを備える。
【0023】
また、管路Aは、連通状態と差圧状態に制御できる第1差圧制御弁16を備えている。この第1差圧制御弁16は、ドライバがブレーキペダル11の操作を行う通常ブレーキ時(運動制御が実行されていない時)には連通状態となるように弁位置が調整されており、第1差圧制御弁16に備えられるソレノイドコイルに電流が流されると、この電流値が大きいほど大きな差圧状態となるように弁位置が調整される。
【0024】
この第1差圧制御弁16が差圧状態のときには、W/C14、15側のブレーキ液圧がM/C圧よりも所定以上高くなった際にのみ、W/C14、15側からM/C13側へのみブレーキ液の流動が許容される。このため、常時W/C14、15側がM/C13側よりも所定圧力以上高くならないように維持される。
【0025】
そして、管路Aは、この第1差圧制御弁16よりも下流になるW/C14、15側において、2つの管路A1、A2に分岐する。管路A1にはW/C14へのブレーキ液圧の増圧を制御する第1増圧制御弁17が備えられ、管路A2にはW/C15へのブレーキ液圧の増圧を制御する第2増圧制御弁18が備えられている。
【0026】
第1、第2増圧制御弁17、18は、連通・遮断状態を制御できる2位置電磁弁により構成されている。
【0027】
第1、第2増圧制御弁17、18は、第1、第2増圧制御弁17、18に備えられるソレノイドコイルへの制御電流がゼロとされる時(非通電時)には連通状態となり、ソレノイドコイルに制御電流が流される時(通電時)に遮断状態に制御されるノーマルオープン型となっている。
【0028】
管路Aにおける第1、第2増圧制御弁17、18及び各W/C14、15の間と調圧リザーバ20とを結ぶ減圧管路としての管路Bには、連通・遮断状態を制御できる2位置電磁弁により構成される第1減圧制御弁21と第2減圧制御弁22とがそれぞれ配設されている。そして、これら第1、第2減圧制御弁21、22はノーマルクローズ型となっている。
【0029】
調圧リザーバ20と主管路である管路Aとの間には還流管路となる管路Cが配設されている。この管路Cには調圧リザーバ20からM/C13側あるいはW/C14、15側に向けてブレーキ液を吸入吐出するモータ60によって駆動される自吸式のポンプ19が設けられている。モータ60はモータリレー61に備えられる半導体スイッチ61aのオンオフによってモータ60への電圧供給が制御される。
【0030】
そして、調圧リザーバ20とM/C13の間には補助管路となる管路Dが設けられている。この管路Dを通じ、ポンプ19にてM/C13からブレーキ液を吸入し、管路Aに吐出することで、横滑り防止制御やトラクション(TCS)制御などの運動制御時において、W/C14、15側にブレーキ液を供給し、対象となる車輪のW/C圧を加圧する。
【0031】
また、ブレーキECU70は、ブレーキ制御システム1の制御系を司る本発明の車両の運動制御装置に相当するもので、CPU、ROM、RAM、I/Oなどを備えた周知のマイクロコンピュータによって構成され、ROMなどに記憶されたプログラムに従って各種演算などの処理を実行する。図2は、ブレーキECU70の信号の入出力の関係を示すブロック図である。
【0032】
図2に示すように、ブレーキECU70は、各車輪FL〜RRに備えられた車輪速度センサ71〜74、舵角センサ75、ヨーレートセンサ76および横加速度(横G)センサ77からの検出信号を受け取り、各種物理量を求める。例えば、ブレーキECU70は、各検出信号に基づいて各車輪FL〜RRの車輪速度や車速(推定車体速度)、ドライバによるステアリングの操作量に応じた舵角、車両に実際に発生しているヨーレートや横Gを求めている。また、これらに基づいて横滑り防止制御を実行するか否かを判定すると共に、横滑り防止制御を実行する場合の制御対象輪を判別したり、制御量、すなわち制御対象輪のW/Cに発生させるW/C圧を求める。その結果に基づいて、ブレーキECU70が各制御弁16〜18、21、22、36〜38、41、42への電流供給制御およびポンプ19、39を駆動するためのモータ60の電流量制御を実行する。
【0033】
例えば、左前輪FLを制御対象輪としてW/C圧を発生させる場合には、第1差圧制御弁16を差圧状態にしてモータリレー61をオンさせてモータ60によってポンプ19を駆動する。これにより、第1差圧制御弁16の下流側(W/C側)のブレーキ液圧は第1差圧制御弁16で発生させられる差圧により高くなる。このとき、非制御対象輪となる右後輪RRに対応する第2増圧制御弁18を遮断状態とすることで、W/C15が加圧されないようにしつつ、制御対象輪となる左前輪FLに対応する第1増圧制御弁17には電流を流さない若しくは流す電流量を調整(例えばデューティ制御)することで、W/C14に所望のW/C圧を発生させる。
【0034】
なお、モータ60によりポンプ39も駆動されるが、第2差圧制御弁36を差圧状態にしていなければ、ブレーキ液が循環するだけでW/C34、35は加圧されない。
【0035】
以上のようにして、本実施形態のブレーキ制御システム1が構成されている。次に、このブレーキ制御システム1の具体的な作動について説明する。なお、本ブレーキ制御システム1では、通常ブレーキだけでなく、運動制御としてアンチスキッド(ABS)制御等も実行できるが、これらの基本的な作動に関しては従来と同様であるため、ここでは本発明の特徴に関わる横滑り防止制御における作動について説明する。
【0036】
図3は、横滑り防止制御処理のフローチャートであり、ブレーキECU70により実行される。横滑り防止制御処理は、車両に備えられた図示しないイグニッションスイッチがオンされたとき、もしくは車両走行中において、所定の演算周期ごとに実行される。
【0037】
まず、ステップ100では、各種センサ信号読み込みの処理を行う。具体的には、車輪速度センサ71〜74、舵角センサ75およびヨーレートセンサ76の検出信号等、横滑り防止制御に必要な各種検出信号の読み込みを行い、それらから各物理値が求められる。これにより、各車輪FL〜RRそれぞれの車輪速度や車速(推定車体速度)、さらには舵角が求められる。
【0038】
続くステップ110では、駆動輪となる左右後輪RL、RRの車輪速度の差からこのとき実際に車両に対して発生している実ヨーレートを求める。例えば、左右後輪RL、RRそれぞれの車輪速度をVwRL、VwRR、左右後輪RL、RRの間の距離(トレッド)をrとすると、実ヨーレートは、一方の車輪速度VwRLと他方の車輪速度VwRRの差をトレッドrで割った値として演算される。
【0039】
なお、車輪速度VwRLから車輪速度VwRRを引いたときの差は、左旋回の場合には、左後輪RLの車輪速度VwRLの方が右後輪RRの車輪速度VwRRよりも小さくなり、右旋回の場合にはその逆になる。このため、左旋回の場合は上記差は正、右旋回の場合は上記差は負となる。
【0040】
続く、ステップ120では、目標ヨーレートを算出する。具体的には、舵角センサ75の検出信号に基づいて求めた舵角や車速もしくは横Gセンサ77の検出信号に基づいて求めた横G等から周知の手法によって目標ヨーレートを算出する。そして、ステップ110で求めた実ヨーレートとステップ120で求めた目標ヨーレートの差の絶対値を求める。この絶対値が車両の横滑り傾向を示す。
【0041】
この後、ステップ130に進み、この横滑り傾向が開始しきい値を超えているか否かを判定する。このステップ130で肯定判定された場合には、車両に横滑りが発生していると想定し、ステップ140以降の処理を実行する。このようにして、横滑り防止制御が開始される。
【0042】
一方、ステップ130で否定判定された場合は、そのまま処理を終了する。このとき、横滑り防止制御中であることを示すフラグをセットする。
【0043】
ステップ140では、ステップ130で求めた横滑り傾向を用いて制御量の計算を行う。ここでいう制御量の計算とは、車両に発生している横滑り傾向を抑制するために制御対象輪に対して発生させるべき制動力に対応する制御量、つまりそのような制動力を発生させるのに必要な目標W/C圧を得るために、制御弁16〜18、21、22、36〜38、41、42やモータ60に流す電流量(例えば単位時間当たりの通電時間割合を示すデューティ比)等を求めるものである。この制御量(電流量)は、横滑り傾向の大きさに応じて、例えばブレーキECU70内に予め記憶してあるマップや演算式に基づいて求められる。また、モータ60の電流量に関しては、走行路面の摩擦係数に応じて変化させており、摩擦係数が相対的に小さいときに大きいときと比べて、モータ60の電流量を低下させ、ポンプの駆動量を小さくしする。なお、走行路面の摩擦係数に応じてモータ60の電流量を変化させる手法に関しては従来と同様であるため、詳細に関しては省略する。
【0044】
また、制御対象輪の設定は、旋回状態(右旋回と左旋回のいずれか)や車両がオーバステア(OS)状態かアンダーステア(US)状態かに基づいて行われる。車両がOS状態かUS状態かは、目標ヨーレートと実ヨーレートとのいずれが大きいかによって判定できる。そして、例えば、OS状態の場合には旋回外輪や旋回内輪の後輪を制御対象輪、US状態の場合には旋回内輪や旋回外輪の前輪を制御対象輪として、制動力を加えるようにする。なお、旋回外輪もしくは旋回内輪のうち前輪と後輪のいずれかを選択する場合、制御対象輪は、実ヨーレートの大きさや舵角の大きさ、もしくは舵角速度の大きさによって決定する。
【0045】
そして、ステップ150に進み、アクチュエータ駆動処理を実行する。ここでいうアクチュエータ駆動処理は、横滑り防止制御により制御対象輪に対して制動力を発生させるものであり、各制御弁16〜18、21、22、36〜38、41、42への電流供給制御およびポンプ19、39を駆動するためのモータ60への電流量制御を実行する。これにより、制御対象輪に対応するW/C14、15、34、35を自動加圧し、それにより制動力が発生させられ、横滑りが抑制される。
【0046】
一方、制御対象輪には、次に示す差圧設定処理が実行される。図4は、差圧設定処理のフローチャートである。この処理も、車両に備えられた図示しないイグニッションスイッチがオンされたとき、もしくは車両走行中において、所定の演算周期ごとに実行される。なお、本図中に示したステップは、各種処理を実行する手段に対応するものである。
【0047】
まず、ステップ200では、横滑り防止制御中であるか否かを判定する。上述したステップ130で横滑り防止制御中であることを示すフラグがセットされていた場合には、本処理で肯定判定される。ここで肯定判定されれば、ステップ210に進み、横滑り防止制御開始した直後であるか否かを判定する。つまり、横滑り防止制御中フラグがセットされていても、まだ横滑り防止制御開始前であればここで否定判定され、横滑り防止制御開始後であれば肯定判定される。このステップ210で肯定判定された場合にはステップ220に進み、負荷判定処理を行う。負荷判定処理とは、モータ60に掛かる負荷が大きい状態(高負荷状態)であるか否かを判定するための処理である。図5に本実施形態の負荷判定処理のフローチャートを示し、この図を参照して説明する。
【0048】
まず、ステップ300では、制御系統が1つであるか否かを判定する。上述した図3のステップ140において制御対象輪を設定しているが、その制御対象輪が第1配管系統50aと第2配管系統50bのいずれか一方のみか、両方共かによりモータ60に掛かる負荷が異なり、一方のみの場合と比べて、両方共の場合の方がモータ60に掛かる負荷が大きくなる。
【0049】
例えば、制御対象輪が左前輪FLのみの場合、第1配管系統50aにおける第1差圧制御弁16の下流側のブレーキ液が高圧になる。したがって、ポンプ19は、高圧な場所にさらにブレーキ液を吐出することになり、ポンプ39は、低圧な場所にブレーキ液を吐出することになる。このため、モータ60に掛かる負荷は比較的小さくなり、ポンプ19、39の作動音はあまり大きくならない。これに対し、例えば制御対象輪が左右後輪RL、RRとなる場合、第1、第2配管系統50a、50bにおける第1、第2差圧制御弁16、36の下流側のブレーキ液が共に高圧になる。このため、ポンプ19およびポンプ39は、高圧な場所にさらにブレーキ液を吐出する。このため、モータ60に掛かる負荷は比較的大きくなり、ポンプ19、39の作動音が大きくなる。
【0050】
したがって、ステップ300で制御系統が1つであると判定された場合には、モータ60に掛かる負荷はあまり大きくないものと判定して、ステップ310に進み、モータ60に掛かる負荷が大きいことを示す負荷フラグをOFFにして処理を終える。一方、ステップ300で制御系統が1つではない(2つである)と判定された場合には、モータ60に掛かる負荷が大きいものと判定して、ステップ320に進み、負荷フラグをONにして処理を終える。
【0051】
このようにして負荷判定処理が行われると、再び図4のステップ230に進み、負荷フラグがONされているか否かを判定する。そして、ステップ230で否定判定された場合にはステップ240に進み、肯定判定された場合にはステップ250に進む。
【0052】
ステップ240では、目標W/C圧に対する目標指示圧、つまり第1、第2差圧制御弁16、36のうち制御対象輪の配管系統に含まれる側の差圧制御弁で発生させる差圧を一定値に設定する。上述したように制御系統が1つの場合、モータ60の負荷はあまり大きくない。このため、差圧制御弁で発生させる差圧を低くすることなく、通常の一定値(Pt1)とする。
【0053】
一方、ステップ250では、目標W/C圧に対する目標指示圧、つまり第1差圧制御弁16および第2差圧制御弁36で発生させる差圧を上述した一定値(Pt1)を最大値として目標W/C圧が大きくなる程大きく設定する。上述したように制御系統が2つの場合、モータ60の負荷が大きくなる。このため、第1、第2差圧制御弁16、36で発生させる差圧を一定値(Pt1)より低くすることによって、ポンプ19、39の吐出口側のブレーキ液圧を低下させ、モータ60の負荷を低減する。これにより、ポンプ19、39は比較的高圧でない場所にブレーキ液を吐出するため、ポンプ19、39の作動音を低減することが可能となる。
【0054】
第1、第2差圧制御弁16、36の目標指示圧が設定されると、ステップ260に進み、増圧制御弁制御演算を行うことで、制御対象輪に対応する増圧制御弁に流す電流量(デューティ比)を算出する。なお、増圧制御弁に流す電流量に関しては、既に図3のステップ140でも求められているが、横滑り傾向に変化が発生したり、ステップ250のように第1、第2差圧制御弁16、36の目標指示圧の設定に応じて、適宜変更することも可能であるため、本ステップで求めるようにしている。ただし、ここで再度求めることなく、ステップ140で求めた値を用いても構わない。
【0055】
そして、ステップ270に進み、モータ60を駆動すべく、図3のステップ140の結果に応じてモータリレー61のオンオフを制御し、モータ60の通電量(デューティ比)を制御する。
【0056】
一方、ステップ200で否定判定された場合には、ステップ280に進んで横滑り防止制御終了か否かを判定し、横滑り防止制御終了でなければステップ220に戻り、横滑り防止制御終了であればそのまま処理を終了する。
【0057】
以上説明したように、本実施形態では、横滑り防止制御の制御対象輪が含まれる制御系統が1つのみであるか2つであるかによりモータ60に掛かる負荷を判定している。そして、制御系統が1つのみの場合にはモータ60に掛かる負荷があまり大きくないと判定して、目標W/C圧の大小に関わらず第1、第2差圧制御弁16、36のうち制御対象輪の配管系統に含まれる側の差圧制御弁で発生させる差圧を一定値(Pt1)に設定する。また、制御系統が2つの場合にはモータ60に掛かる負荷が大きいと判定して、目標W/C圧の大きさに応じて第1および第2差圧制御弁16、36で発生させる差圧を一定値(Pt1)を最大値として目標W/C圧が大きくなる程大きく設定する。
【0058】
これにより、モータ60に掛かる負荷が大きいと判定される場合に、それを低減することが可能となる。したがって、走行路面の摩擦係数が比較的低い場合に、ポンプ19、39の作動音を低減するために、モータ60への通電量を低下させてポンプ19、39の駆動量を低下させたとしても、ポンプ19、39の吐出口側のブレーキ液圧が比較的高くならないため、ポンプ駆動が抑制されない。これにより、ポンプ19、39によるブレーキ液の吐出動作が円滑に行われ、W/C圧を円滑に目標W/C圧にすることが可能となる。
【0059】
また、本実施形態では、目標W/C圧が大きくなるほど第1および第2差圧制御弁16、36で発生させる差圧を一定値(Pt1)を最大値として大きくする。このため、第1および第2差圧制御弁16、36で発生させる差圧をより目標W/C圧に対応した値にすることができ、より安定した横滑り防止制御が可能となる。
【0060】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対して横滑り防止制御処理で設定する第1、第2差圧制御弁16、36の目標指示圧の設定方法やそれに伴って制御対象輪に対応する増圧制御弁の制御形態を変更したものであり、その他、ブレーキ制御システム1の構成等に関しては第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0061】
図6は、本実施形態の横滑り防止制御処理のフローチャートである。なお、本図中、ステップ200a〜240a、260a〜280aは、図4のステップ200〜240、260〜280と対応する。
【0062】
本実施形態では、図6に示すように、図3に示す第1実施形態の横滑り防止制御処理に対して、ステップ250aにおける第1、第2差圧制御弁16、36の目標指示圧の設定処理を変更すると共に、ステップ290aの処理を追加する。
【0063】
具体的には、本実施形態では、図6のステップ250aに示すように、第1、第2差圧制御弁16、36の目標指示圧を目標W/C圧に対して、ステップ240aにおける一定値(Pt1)より小さい一定値(Pt2)とする。このとき、ステップ240aに示したモータ60に掛かる負荷が大きく無い場合の第1、第2差圧制御弁16、36の目標指示圧に対して、目標指示圧を小さくする。
【0064】
ただし、このようにする場合、第1、第2差圧制御弁16、36で発生させる差圧が一律に小さくなるため、第1、第2差圧制御弁16、36の下流側のブレーキ液圧も小さくなる。このため、ステップ290aにおいて、制御対象輪に対応する増圧制御弁を非通電、つまり連通状態にすることで、第1、第2差圧制御弁16、36の下流側のブレーキ液圧をそのまま制御対象輪のW/C圧とする。これにより、第1実施形態と比べて第1、第2差圧制御弁16、36の下流側のブレーキ液圧が低いながらも、そのブレーキ液圧をそのままW/C圧として作用させることが可能となり、W/C圧を円滑に目標W/C圧にすることが可能となる。
【0065】
なお、本実施形態ではモータ60に掛かる負荷が大きい場合に第1、第2差圧制御弁16、36で発生させる差圧を一律に小さくしつつ、制御対象輪に対応する増圧制御弁を非通電、つまり連通状態にしたが、増圧制御弁の通電をデューティ制御しても構わない。ただし、上述したように、第1実施形態と比べて第1、第2差圧制御弁16、36の下流側のブレーキ液圧が低くなる可能性があるため、増圧制御弁が連通状態になる時間が長くなるように低いデューティ比を設定するのが好ましい。
【0066】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態について説明する。本実施形態は、第1、第2実施形態に対して横滑り防止制御処理中の負荷判定処理を変更したものであり、その他、ブレーキ制御システム1の構成等に関しては第2実施形態と同様であるため、第2実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0067】
上記第1実施形態では、制御系統が1つであるか否かによりモータ60に掛かる負荷を判定したが、本実施形態では、モータ60の端子電圧に基づいてモータ60に掛かる負荷を判定する。これについて、図7に示すモータリレー61のON/OFFとモータ60の端子電圧のタイミングチャートを用いて説明する。
【0068】
モータ60に対する電流量制御をデューティ制御によって行う場合、デューティ比に基づいてモータリレー61のON/OFFを切り替える。このとき、モータリレー61をONからOFFに切り替えた時のモータ60の端子電圧(図1に示すモータリレー61とモータ60との接続点P1の電位)は、モータ60の回転数の低下勾配に依存する。すなわち、モータ60の端子電圧は、モータ60の回転数の低下勾配が小さければ緩やかに低下し、回転数の低下勾配が大きいと急峻に低下する。そして、モータ60の回転数の低下勾配は、モータ60に掛かる負荷に対応しており、負荷が大きいほど大きくなる。したがって、モータ60の端子電圧の低下勾配からモータ60に掛かる負荷を判定することが可能となる。本実施形態では、このようなモータ60の端子電圧に基づいて負荷判定処理を行う。
【0069】
図8は、本実施形態の負荷判定処理のフローチャートである。本処理は、第1実施形態の図4のステップ220や第2実施形態の図6のステップ220aの負荷判定処理として行われる。
【0070】
まず、ステップ400では、モータ60の端子電圧を入力すると共に記憶する。これは、モータリレー61とモータ60との接続点P1の電位をブレーキECU70に入力することにより行われる。次に、ステップ410では、モータ60の端子電圧の低下勾配を演算する。低下勾配は、例えば前回の演算周期のときに入力したモータ60の端子電圧の前回値と今回の演算周期のときに入力したモータ60の端子電圧の今回値との差を求める。
【0071】
続く、ステップ420では、モータ60の端子電圧の低下勾配がしきい値より低いか否かを判定する。上述したようにモータ60の端子電圧の低下勾配を端子電圧の今回値と前回値との差により求めると、低下勾配は負の値となる。そして、低下勾配が急峻となるほど、低下勾配が小さくなる。このため、しきい値をモータ60に掛かる負荷が大きいと想定される値に設定しておき、低下勾配がこのしきい値よりもさらに低い場合に、モータ60に掛かる負荷が大きいと判定する。
【0072】
したがって、ステップ420で否定判定された場合には、ステップ430に進み、モータ60に掛かる負荷が大きいことを示す負荷フラグをOFFにして処理を終える。一方、ステップ420で肯定判定された場合には、ステップ440に進み、負荷フラグをONにして処理を終える。
【0073】
このように、モータ60の端子電圧に基づいて負荷判定処理を行うことも可能であり、このような負荷判定処理を行っても第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0074】
(第4実施形態)
本発明の第4実施形態について説明する。本実施形態は、第2実施形態で示した図6のステップ250aのように目標指示圧を目標W/C圧に対して一定値とする場合において、第3実施形態で行う負荷判定処理を行い、かつ、その負荷判定処理においてモータ60の端子電圧の低下勾配に基づいて差圧制御弁の目標指示圧を設定する。その他に関しては、第3実施形態と同様である。
【0075】
図9は、本実施形態の負荷判定処理のフローチャートである。本処理は、第2実施形態の図6の負荷判定処理として行われる。
【0076】
まず、ステップ400〜440において、図8に示した第3実施形態の負荷判定処理と同様の処理を行う。そして、ステップ430でモータ60に掛かる負荷が大きいと判定された場合に、ステップ450において、モータ60の端子電圧の低下勾配に基づいて、差圧制御弁の目標指示圧を設定する。
【0077】
具体的には、ステップ450中に示した低下勾配−目標指示圧の関係を示したマップに示されるように、低下勾配が小さく(急峻に)なるほど目標指示圧が小さくなるようにしている。目標指示圧の低下のさせ方は、図中実線で示したように線形的(リニア)にしても良いし、図中破線で示したように段階的にしても良い。このような目標指示圧が設定されると、第2実施形態で示した図6のステップ250aの目標W/C圧に対する目標指示圧のマップ中の目標指示圧の値として用いられる。
【0078】
このように、モータ60の端子電圧の低下勾配に基づいて差圧制御弁の目標指示圧を設定することにより、モータ60に掛かる負荷の大きさに対応した目標指示圧とすることが可能となり、より安定した横滑り防止制御が可能となる。
【0079】
(第5実施形態)
本発明の第5実施形態について説明する。本実施形態も、第1、第2実施形態に対して横滑り防止制御処理中の負荷判定処理を変更したものであり、その他、ブレーキ制御システム1の構成等に関しては第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0080】
本実施形態では、制御対象輪に対応する増圧制御弁の単位時間当たりの通電時間を示すデューティ比に基づいてモータ60に掛かる負荷を判定する。制御対象輪に対応する増圧制御弁をデューティ制御する場合、デューティ比が高い程、増圧制御弁が遮断状態になる時間が長くなり、W/C圧を保持する時間が長くなる。この時間が長い程、第1、第2差圧制御弁16、36の下流側のブレーキ液圧が高くなる可能性がある。したがって、制御対象輪に対応する増圧制御弁のデューティ比からモータ60に掛かる負荷を判定することが可能となる。本実施形態では、このような制御対象輪に対応する増圧制御弁のデューティ比に基づいて負荷判定処理を行う。
【0081】
図10は、本実施形態の負荷判定処理のフローチャートである。本処理は、第1実施形態の図4や第2実施形態の図6の負荷判定処理として行われる。
【0082】
まず、ステップ500では、制御対象輪に対応する増圧制御弁のデューティ比を入力すると共に記憶する。これは、図3のステップ140の制御量演算により求めた値を用いても良いし、図4のステップ260において制御対象輪の増圧制御弁に流す電流値が求められているのであれば、その値を用いても良い。
【0083】
続く、ステップ510では、制御対象輪に対応する増圧制御弁のデューティ比がしきい値よりも大きいか否かを判定する。ここでのしきい値は、モータ60に掛かる負荷が大きいと想定される値に設定してあり、制御対象輪に対応する増圧制御弁のデューティ比がこのしきい値よりもさらに大きい場合に、モータ60に掛かる負荷が大きいと判定する。
【0084】
したがって、ステップ510で否定判定された場合には、ステップ520に進み、負荷フラグをOFFにして処理を終える。一方、ステップ510肯定判定された場合には、ステップ530に進み、負荷フラグをONにして処理を終える。
【0085】
このように、制御対象輪に対応する増圧制御弁のデューティ比に基づいて負荷判定処理を行うことも可能であり、このような負荷判定処理を行っても第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0086】
なお、ここでは制御対象輪に対応する増圧制御弁のデューティ比に基づいて負荷判定処理を行ったが、これは、増圧制御弁の通電量を利用した負荷判定処理の一例であり、通電量そのものに基づいて負荷判定処理を行っても良い。
【0087】
(第6実施形態)
本発明の第6実施形態について説明する。本実施形態は、第2実施形態で示した図6のステップ250aのように目標指示圧を目標W/C圧に対して一定値に設定する場合において、第5実施形態で行う負荷判定処理を行い、かつ、制御対象輪に対応する増圧制御弁のデューティ比に基づいて差圧制御弁の目標指示圧を設定する。その他に関しては、第5実施形態と同様である。
【0088】
図11は、本実施形態の負荷判定処理のフローチャートである。本処理は、第2実施形態の図6の負荷判定処理として行われる。
【0089】
まず、ステップ500〜530において、図10に示した第5実施形態の負荷判定処理と同様の処理を行う。そして、ステップ510でモータ60に掛かる負荷が大きいと判定された場合に、ステップ540において、制御対象輪に対応する増圧制御弁のデューティ比に基づいて、差圧制御弁の目標指示圧を設定する。
【0090】
具体的には、ステップ540中に示したデューティ比−目標指示圧の関係を示したマップに示されるように、デューティ比が大きくなるほど目標指示圧が小さくする。目標指示圧の低下のさせ方は、図中実線で示したように線形的(リニア)にしても良いし、図中破線で示したように段階的にしても良い。このような目標指示圧が設定されると、第2実施形態で示した図6のステップ250aの目標W/C圧に対する目標指示圧のマップ中の目標指示圧の値として用いられる。
【0091】
このように、制御対象輪に対応する増圧制御弁のデューティ比に基づいて差圧制御弁の目標指示圧を設定することにより、モータ60に掛かる負荷の大きさに対応した目標指示圧とすることが可能となり、より安定した横滑り防止制御が可能となる。
【0092】
(他の実施形態)
上記各実施形態では、横滑り防止制御処理の一形態を示したが、本発明の特徴部分である負荷判定処理および負荷判定の結果に応じた各種処理以外に関しては、従来より知られている様々な手法に代えても構わない。例えば、横滑り防止制御の開始判定に用いる目標ヨーレートや実ヨーレートの求め方を他の手法としても構わない。
【0093】
また、第3、第5実施形態では、第2実施形態に対して負荷判定処理を変更する場合、つまり、第1、第2差圧制御弁16、36の発生させる差圧を一律に低下させる形態に対して負荷判定処理を変更する場合について説明した。これは、第4、第6実施形態において、負荷判定処理で用いるモータ60の端子電圧低下勾配や制御対象輪に対応する増圧制御弁のデューティ比に応じて第1、第2差圧制御弁16、36の発生させる差圧を可変にさせる場合を考慮したものである。このため、第1、第2差圧制御弁16、36の発生させる差圧を目標W/C圧に応じて変化させるのであれば、第1実施形態の負荷判定処理を第3、第5実施形態の手法により行っても良い。
【0094】
また、上記実施形態では、車両の運動制御として、横滑り防止制御において、モータの負荷を考慮してポンプの作動音を低減すると共に、W/C圧を目標W/C圧にすることが円滑に行えるようにすることを例に挙げて説明したが、TCS制御に関しても同様のことが行える。この場合、図4、図6における横滑り防止制御をTCS制御に読み替え、図5、図8〜11に示した負荷判定処理を行うことで、TCS制御において、モータの負荷を考慮してポンプの作動音を低減すると共に、W/C圧を目標W/C圧にすることが円滑に行えるようにすることが可能となる。
【0095】
なお、各図中に示したステップは、各種処理を実行する手段に対応するものである。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】本発明の第1実施形態における車両の運動制御を実現するブレーキ制御システムの全体構成を示す図である。
【図2】ブレーキECUの信号の入出力の関係を示すブロック図である。
【図3】横滑り防止制御処理のフローチャートである。
【図4】差圧設定処理のフローチャートである。
【図5】負荷判定処理のフローチャートである。
【図6】本発明の第2実施形態で説明する横滑り防止制御処理のフローチャートである。
【図7】モータリレーのON/OFFとモータの端子電圧のタイミングチャートである。
【図8】本発明の第3実施形態で説明する負荷判定処理のフローチャートである。
【図9】本発明の第4実施形態で説明する負荷判定処理のフローチャートである。
【図10】本発明の第5実施形態で説明する負荷判定処理のフローチャートである。
【図11】本発明の第6実施形態で説明する負荷判定処理のフローチャートである。
【符号の説明】
【0097】
1…ブレーキ制御システム、13…M/C、14、15、34、35…W/C、16、36…差圧制御弁、17、18、37、38…第1〜第4増圧制御弁、19、39…ポンプ、20、40…調圧リザーバ、21、22、41、42…減圧制御弁、50…ブレーキ液圧制御用アクチュエータ、50a、50b…第1、第2配管系統、60…モータ、61…モータリレー、70…ブレーキECU、71〜74…車輪速度センサ、75…舵角センサ、76…ヨーレートセンサ
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキ液圧制御を行うことで車両の運動制御を行う運動制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の車両の運動制御装置として、特許文献1において、ポンプによるブレーキ液の吐出動作により発生させたブレーキ液圧をホイールシリンダ(以下、W/Cという)に供給することで、W/Cの自動加圧を行うブレーキ制御装置が開示されている。具体的には、マスタシリンダ(以下、M/Cという)とW/Cとを結ぶする管路のうちポンプの吐出口とW/Cとを繋ぐ管路との接続点よりもM/C側に配置された差圧制御弁を所定の差圧状態もしくは遮断状態にすると共に、制御対象輪のW/Cの増圧を制御する増圧制御弁の連通・遮断状態をデューティ制御し、さらに制御対象輪とは異なる車輪のW/Cの増圧制御弁を遮断状態にして、ポンプによってブレーキ液を吸入吐出させる。これにより、ポンプによるブレーキ液の吐出動作により発生させたブレーキ液圧に基づいて、制御対象輪のW/Cを加圧する。
【0003】
そして、このようなブレーキ制御装置において、ポンプ吐出時の作動音を低減するために、例えば、ポンプ駆動用のモータに供給する電流量をデューティ制御し、走行路面の摩擦係数が相対的に小さいときには大きいときと比べて、モータに供給する電流量を低下させることでポンプの駆動量、すなわちポンプの吸入吐出量を小さくしている。また、実際のW/C圧が制御目標とする圧力に近づく程、モータに供給する電流量を低下させることでポンプ駆動量を小さくしている。
【特許文献1】特開2000−203401号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、制御対象輪のW/Cを加圧するために、上記のように差圧制御弁を所定の差圧状態もしくは遮断状態にすると共に、制御対象輪とは異なる車輪のW/Cの増圧を制御する増圧制御弁を遮断状態にしているため、ポンプの吐出口側のブレーキ液圧が高くなる。このため、ポンプの吸入吐出量を小さくしているときに、ポンプの吐出口側のブレーキ液圧が高くなると、ポンプ駆動が抑制される。
【0005】
本発明は上記点に鑑みて、モータの負荷を考慮してポンプの作動音を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、運動制御手段(100〜150)により、M/C(13)と複数の車輪(FL〜RR)それぞれに対応して備えられたW/C(14、15、34、35)との間に備えられた差圧制御弁(16、36)、および、この差圧制御弁とW/Cの間においてW/Cそれぞれに対応して備えられた増圧制御弁(17、18、37、38)の間に、ポンプ(19、39)にてブレーキ液を吐出すると共に、差圧制御弁を目標指示圧に応じた差圧に制御し、かつ、増圧制御弁を制御することで、運転者のブレーキ操作に拘わらず制御対象輪に対応するW/Cを加圧し、制御量調整手段(140)にて、走行路面の摩擦係数が小さいときに大きいときと比べてポンプを駆動するモータ(60)の制御量を小さくする。そして、負荷判定手段(220)にて、モータの制御量を小さくするときに、モータに掛かる負荷状態を判定し、差圧制御手段(250)にて、モータに掛かる負荷状態が高負荷状態であるときに、高負荷状態ではない状態と比べて、差圧制御弁の差圧を低下させることを特徴としている。
【0007】
このように、モータに掛かる負荷が大きいと判定される場合に、それを低減することが可能となる。したがって、走行路面の摩擦係数が比較的低い場合に、ポンプの作動音を低減するために、モータへの通電量を低下させてポンプの駆動量を低下させたとしても、ポンプの吐出口側のブレーキ液圧が比較的高くならないようにされ、ポンプ駆動が抑制されないようにできる。このため、ポンプによるブレーキ液の吐出動作が円滑に行われ、円滑にW/C圧を制御目標とする目標W/C圧にすることが可能となる。
【0008】
例えば、請求項2に示すように、負荷判定手段は、制御対象輪がマスタシリンダとW/Cとを結ぶ第1、第2配管系統(50a、50b)のうちのいずれか一方のみに含まれるか、双方に含まれるかにより負荷状態を判定し、制御対象輪が第1、第2配管系統の双方に含まれると負荷状態が高負荷状態であると判定することができる。
【0009】
また、請求項3に示すように、負荷判定手段は、モータの端子電圧の低下勾配に基づいて負荷状態を判定し、低下勾配がしきい値よりも小さいときに、負荷状態が高負荷状態であると判定することもできる。
【0010】
さらに、請求項4に示すように、負荷判定手段は、増圧制御弁のうち制御対象輪と対応する増圧制御弁の通電量に基づいて負荷状態を判定し、通電量がしきい値よりも小さいときに、負荷状態が高負荷状態であると判定することもできる。
【0011】
請求項5に記載の発明では、負荷判定手段(220a)にて、モータの制御量を小さくするときに、モータに掛かる負荷状態を判定し、圧力制御手段(250a、290a)にて、モータに掛かる負荷状態が高負荷状態であるときに、高負荷状態ではない状態と比べて、差圧制御弁の差圧を低下させると共に、増圧制御弁のうち制御対象輪に対応する増圧制御弁を連通状態にすることで、差圧制御弁により発生させる差圧のみに基づいてW/Cの加圧を行うことを特徴としている。
【0012】
このように、モータに掛かる負荷が大きい場合に差圧制御弁で発生させる差圧を一律に小さくし、差圧制御弁よりもW/C側のブレーキ液圧をそのまま制御対象輪のW/C圧としても良い。このようにしても、請求項1と同様の効果を得ることができる。また、この場合にも、請求項2〜5と同様の手法により、負荷判定手段にて高負荷状態を判定することができる。
【0013】
そして、請求項8に示すように、負荷判定手段にて、モータの端子電圧の低下勾配に基づいて負荷状態を判定する場合に、圧力制御手段は、差圧制御弁により発生させる差圧を低下勾配に対応した値とすることができる。
【0014】
また、請求項10に示すように、負荷判定手段にて、増圧制御弁のうち制御対象輪と対応するものの通電量に基づいて負荷状態を判定する場合に、圧力制御手段は、差圧制御弁により発生させる差圧を通電量に対応した値とすることもできる。
【0015】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
【0017】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について説明する。図1は、本発明の第1実施形態にかかる車両の運動制御を実現する車両用のブレーキ制御システム1の全体構成を示したものである。本実施形態では、車両の運転制御として横滑り防止制御を行う場合について説明する。
【0018】
図1において、ドライバがブレーキペダル11を踏み込むと、倍力装置12にて踏力が倍力され、M/C13に配設されたマスタピストン13a、13bを押圧する。これにより、これらマスタピストン13a、13bによって区画されるプライマリ室13cとセカンダリ室13dとに同圧のM/C圧が発生する。M/C圧は、ブレーキ液圧制御用アクチュエータ50を通じて各W/C14、15、34、35に伝えられる。
【0019】
ここで、M/C13は、プライマリ室13cおよびセカンダリ室13dそれぞれと連通する通路を有するマスタリザーバ13eを備える。
【0020】
ブレーキ液圧制御用アクチュエータ50は、第1配管系統50aと第2配管系統50bとを有している。第1配管系統50aは、左前輪FLと右後輪RRに加えられるブレーキ液圧を制御し、第2配管系統50bは、右前輪FRと左後輪RLに加えられるブレーキ液圧を制御する。
【0021】
第1配管系統50aと第2配管系統50bとは、同様の構成であるため、以下では第1配管系統50aについて説明し、第2配管系統50bについては説明を省略する。
【0022】
第1配管系統50aは、上述したM/C圧を左前輪FLに備えられたW/C14及び右後輪RRに備えられたW/C15に伝達し、W/C圧を発生させる主管路となる管路Aを備える。
【0023】
また、管路Aは、連通状態と差圧状態に制御できる第1差圧制御弁16を備えている。この第1差圧制御弁16は、ドライバがブレーキペダル11の操作を行う通常ブレーキ時(運動制御が実行されていない時)には連通状態となるように弁位置が調整されており、第1差圧制御弁16に備えられるソレノイドコイルに電流が流されると、この電流値が大きいほど大きな差圧状態となるように弁位置が調整される。
【0024】
この第1差圧制御弁16が差圧状態のときには、W/C14、15側のブレーキ液圧がM/C圧よりも所定以上高くなった際にのみ、W/C14、15側からM/C13側へのみブレーキ液の流動が許容される。このため、常時W/C14、15側がM/C13側よりも所定圧力以上高くならないように維持される。
【0025】
そして、管路Aは、この第1差圧制御弁16よりも下流になるW/C14、15側において、2つの管路A1、A2に分岐する。管路A1にはW/C14へのブレーキ液圧の増圧を制御する第1増圧制御弁17が備えられ、管路A2にはW/C15へのブレーキ液圧の増圧を制御する第2増圧制御弁18が備えられている。
【0026】
第1、第2増圧制御弁17、18は、連通・遮断状態を制御できる2位置電磁弁により構成されている。
【0027】
第1、第2増圧制御弁17、18は、第1、第2増圧制御弁17、18に備えられるソレノイドコイルへの制御電流がゼロとされる時(非通電時)には連通状態となり、ソレノイドコイルに制御電流が流される時(通電時)に遮断状態に制御されるノーマルオープン型となっている。
【0028】
管路Aにおける第1、第2増圧制御弁17、18及び各W/C14、15の間と調圧リザーバ20とを結ぶ減圧管路としての管路Bには、連通・遮断状態を制御できる2位置電磁弁により構成される第1減圧制御弁21と第2減圧制御弁22とがそれぞれ配設されている。そして、これら第1、第2減圧制御弁21、22はノーマルクローズ型となっている。
【0029】
調圧リザーバ20と主管路である管路Aとの間には還流管路となる管路Cが配設されている。この管路Cには調圧リザーバ20からM/C13側あるいはW/C14、15側に向けてブレーキ液を吸入吐出するモータ60によって駆動される自吸式のポンプ19が設けられている。モータ60はモータリレー61に備えられる半導体スイッチ61aのオンオフによってモータ60への電圧供給が制御される。
【0030】
そして、調圧リザーバ20とM/C13の間には補助管路となる管路Dが設けられている。この管路Dを通じ、ポンプ19にてM/C13からブレーキ液を吸入し、管路Aに吐出することで、横滑り防止制御やトラクション(TCS)制御などの運動制御時において、W/C14、15側にブレーキ液を供給し、対象となる車輪のW/C圧を加圧する。
【0031】
また、ブレーキECU70は、ブレーキ制御システム1の制御系を司る本発明の車両の運動制御装置に相当するもので、CPU、ROM、RAM、I/Oなどを備えた周知のマイクロコンピュータによって構成され、ROMなどに記憶されたプログラムに従って各種演算などの処理を実行する。図2は、ブレーキECU70の信号の入出力の関係を示すブロック図である。
【0032】
図2に示すように、ブレーキECU70は、各車輪FL〜RRに備えられた車輪速度センサ71〜74、舵角センサ75、ヨーレートセンサ76および横加速度(横G)センサ77からの検出信号を受け取り、各種物理量を求める。例えば、ブレーキECU70は、各検出信号に基づいて各車輪FL〜RRの車輪速度や車速(推定車体速度)、ドライバによるステアリングの操作量に応じた舵角、車両に実際に発生しているヨーレートや横Gを求めている。また、これらに基づいて横滑り防止制御を実行するか否かを判定すると共に、横滑り防止制御を実行する場合の制御対象輪を判別したり、制御量、すなわち制御対象輪のW/Cに発生させるW/C圧を求める。その結果に基づいて、ブレーキECU70が各制御弁16〜18、21、22、36〜38、41、42への電流供給制御およびポンプ19、39を駆動するためのモータ60の電流量制御を実行する。
【0033】
例えば、左前輪FLを制御対象輪としてW/C圧を発生させる場合には、第1差圧制御弁16を差圧状態にしてモータリレー61をオンさせてモータ60によってポンプ19を駆動する。これにより、第1差圧制御弁16の下流側(W/C側)のブレーキ液圧は第1差圧制御弁16で発生させられる差圧により高くなる。このとき、非制御対象輪となる右後輪RRに対応する第2増圧制御弁18を遮断状態とすることで、W/C15が加圧されないようにしつつ、制御対象輪となる左前輪FLに対応する第1増圧制御弁17には電流を流さない若しくは流す電流量を調整(例えばデューティ制御)することで、W/C14に所望のW/C圧を発生させる。
【0034】
なお、モータ60によりポンプ39も駆動されるが、第2差圧制御弁36を差圧状態にしていなければ、ブレーキ液が循環するだけでW/C34、35は加圧されない。
【0035】
以上のようにして、本実施形態のブレーキ制御システム1が構成されている。次に、このブレーキ制御システム1の具体的な作動について説明する。なお、本ブレーキ制御システム1では、通常ブレーキだけでなく、運動制御としてアンチスキッド(ABS)制御等も実行できるが、これらの基本的な作動に関しては従来と同様であるため、ここでは本発明の特徴に関わる横滑り防止制御における作動について説明する。
【0036】
図3は、横滑り防止制御処理のフローチャートであり、ブレーキECU70により実行される。横滑り防止制御処理は、車両に備えられた図示しないイグニッションスイッチがオンされたとき、もしくは車両走行中において、所定の演算周期ごとに実行される。
【0037】
まず、ステップ100では、各種センサ信号読み込みの処理を行う。具体的には、車輪速度センサ71〜74、舵角センサ75およびヨーレートセンサ76の検出信号等、横滑り防止制御に必要な各種検出信号の読み込みを行い、それらから各物理値が求められる。これにより、各車輪FL〜RRそれぞれの車輪速度や車速(推定車体速度)、さらには舵角が求められる。
【0038】
続くステップ110では、駆動輪となる左右後輪RL、RRの車輪速度の差からこのとき実際に車両に対して発生している実ヨーレートを求める。例えば、左右後輪RL、RRそれぞれの車輪速度をVwRL、VwRR、左右後輪RL、RRの間の距離(トレッド)をrとすると、実ヨーレートは、一方の車輪速度VwRLと他方の車輪速度VwRRの差をトレッドrで割った値として演算される。
【0039】
なお、車輪速度VwRLから車輪速度VwRRを引いたときの差は、左旋回の場合には、左後輪RLの車輪速度VwRLの方が右後輪RRの車輪速度VwRRよりも小さくなり、右旋回の場合にはその逆になる。このため、左旋回の場合は上記差は正、右旋回の場合は上記差は負となる。
【0040】
続く、ステップ120では、目標ヨーレートを算出する。具体的には、舵角センサ75の検出信号に基づいて求めた舵角や車速もしくは横Gセンサ77の検出信号に基づいて求めた横G等から周知の手法によって目標ヨーレートを算出する。そして、ステップ110で求めた実ヨーレートとステップ120で求めた目標ヨーレートの差の絶対値を求める。この絶対値が車両の横滑り傾向を示す。
【0041】
この後、ステップ130に進み、この横滑り傾向が開始しきい値を超えているか否かを判定する。このステップ130で肯定判定された場合には、車両に横滑りが発生していると想定し、ステップ140以降の処理を実行する。このようにして、横滑り防止制御が開始される。
【0042】
一方、ステップ130で否定判定された場合は、そのまま処理を終了する。このとき、横滑り防止制御中であることを示すフラグをセットする。
【0043】
ステップ140では、ステップ130で求めた横滑り傾向を用いて制御量の計算を行う。ここでいう制御量の計算とは、車両に発生している横滑り傾向を抑制するために制御対象輪に対して発生させるべき制動力に対応する制御量、つまりそのような制動力を発生させるのに必要な目標W/C圧を得るために、制御弁16〜18、21、22、36〜38、41、42やモータ60に流す電流量(例えば単位時間当たりの通電時間割合を示すデューティ比)等を求めるものである。この制御量(電流量)は、横滑り傾向の大きさに応じて、例えばブレーキECU70内に予め記憶してあるマップや演算式に基づいて求められる。また、モータ60の電流量に関しては、走行路面の摩擦係数に応じて変化させており、摩擦係数が相対的に小さいときに大きいときと比べて、モータ60の電流量を低下させ、ポンプの駆動量を小さくしする。なお、走行路面の摩擦係数に応じてモータ60の電流量を変化させる手法に関しては従来と同様であるため、詳細に関しては省略する。
【0044】
また、制御対象輪の設定は、旋回状態(右旋回と左旋回のいずれか)や車両がオーバステア(OS)状態かアンダーステア(US)状態かに基づいて行われる。車両がOS状態かUS状態かは、目標ヨーレートと実ヨーレートとのいずれが大きいかによって判定できる。そして、例えば、OS状態の場合には旋回外輪や旋回内輪の後輪を制御対象輪、US状態の場合には旋回内輪や旋回外輪の前輪を制御対象輪として、制動力を加えるようにする。なお、旋回外輪もしくは旋回内輪のうち前輪と後輪のいずれかを選択する場合、制御対象輪は、実ヨーレートの大きさや舵角の大きさ、もしくは舵角速度の大きさによって決定する。
【0045】
そして、ステップ150に進み、アクチュエータ駆動処理を実行する。ここでいうアクチュエータ駆動処理は、横滑り防止制御により制御対象輪に対して制動力を発生させるものであり、各制御弁16〜18、21、22、36〜38、41、42への電流供給制御およびポンプ19、39を駆動するためのモータ60への電流量制御を実行する。これにより、制御対象輪に対応するW/C14、15、34、35を自動加圧し、それにより制動力が発生させられ、横滑りが抑制される。
【0046】
一方、制御対象輪には、次に示す差圧設定処理が実行される。図4は、差圧設定処理のフローチャートである。この処理も、車両に備えられた図示しないイグニッションスイッチがオンされたとき、もしくは車両走行中において、所定の演算周期ごとに実行される。なお、本図中に示したステップは、各種処理を実行する手段に対応するものである。
【0047】
まず、ステップ200では、横滑り防止制御中であるか否かを判定する。上述したステップ130で横滑り防止制御中であることを示すフラグがセットされていた場合には、本処理で肯定判定される。ここで肯定判定されれば、ステップ210に進み、横滑り防止制御開始した直後であるか否かを判定する。つまり、横滑り防止制御中フラグがセットされていても、まだ横滑り防止制御開始前であればここで否定判定され、横滑り防止制御開始後であれば肯定判定される。このステップ210で肯定判定された場合にはステップ220に進み、負荷判定処理を行う。負荷判定処理とは、モータ60に掛かる負荷が大きい状態(高負荷状態)であるか否かを判定するための処理である。図5に本実施形態の負荷判定処理のフローチャートを示し、この図を参照して説明する。
【0048】
まず、ステップ300では、制御系統が1つであるか否かを判定する。上述した図3のステップ140において制御対象輪を設定しているが、その制御対象輪が第1配管系統50aと第2配管系統50bのいずれか一方のみか、両方共かによりモータ60に掛かる負荷が異なり、一方のみの場合と比べて、両方共の場合の方がモータ60に掛かる負荷が大きくなる。
【0049】
例えば、制御対象輪が左前輪FLのみの場合、第1配管系統50aにおける第1差圧制御弁16の下流側のブレーキ液が高圧になる。したがって、ポンプ19は、高圧な場所にさらにブレーキ液を吐出することになり、ポンプ39は、低圧な場所にブレーキ液を吐出することになる。このため、モータ60に掛かる負荷は比較的小さくなり、ポンプ19、39の作動音はあまり大きくならない。これに対し、例えば制御対象輪が左右後輪RL、RRとなる場合、第1、第2配管系統50a、50bにおける第1、第2差圧制御弁16、36の下流側のブレーキ液が共に高圧になる。このため、ポンプ19およびポンプ39は、高圧な場所にさらにブレーキ液を吐出する。このため、モータ60に掛かる負荷は比較的大きくなり、ポンプ19、39の作動音が大きくなる。
【0050】
したがって、ステップ300で制御系統が1つであると判定された場合には、モータ60に掛かる負荷はあまり大きくないものと判定して、ステップ310に進み、モータ60に掛かる負荷が大きいことを示す負荷フラグをOFFにして処理を終える。一方、ステップ300で制御系統が1つではない(2つである)と判定された場合には、モータ60に掛かる負荷が大きいものと判定して、ステップ320に進み、負荷フラグをONにして処理を終える。
【0051】
このようにして負荷判定処理が行われると、再び図4のステップ230に進み、負荷フラグがONされているか否かを判定する。そして、ステップ230で否定判定された場合にはステップ240に進み、肯定判定された場合にはステップ250に進む。
【0052】
ステップ240では、目標W/C圧に対する目標指示圧、つまり第1、第2差圧制御弁16、36のうち制御対象輪の配管系統に含まれる側の差圧制御弁で発生させる差圧を一定値に設定する。上述したように制御系統が1つの場合、モータ60の負荷はあまり大きくない。このため、差圧制御弁で発生させる差圧を低くすることなく、通常の一定値(Pt1)とする。
【0053】
一方、ステップ250では、目標W/C圧に対する目標指示圧、つまり第1差圧制御弁16および第2差圧制御弁36で発生させる差圧を上述した一定値(Pt1)を最大値として目標W/C圧が大きくなる程大きく設定する。上述したように制御系統が2つの場合、モータ60の負荷が大きくなる。このため、第1、第2差圧制御弁16、36で発生させる差圧を一定値(Pt1)より低くすることによって、ポンプ19、39の吐出口側のブレーキ液圧を低下させ、モータ60の負荷を低減する。これにより、ポンプ19、39は比較的高圧でない場所にブレーキ液を吐出するため、ポンプ19、39の作動音を低減することが可能となる。
【0054】
第1、第2差圧制御弁16、36の目標指示圧が設定されると、ステップ260に進み、増圧制御弁制御演算を行うことで、制御対象輪に対応する増圧制御弁に流す電流量(デューティ比)を算出する。なお、増圧制御弁に流す電流量に関しては、既に図3のステップ140でも求められているが、横滑り傾向に変化が発生したり、ステップ250のように第1、第2差圧制御弁16、36の目標指示圧の設定に応じて、適宜変更することも可能であるため、本ステップで求めるようにしている。ただし、ここで再度求めることなく、ステップ140で求めた値を用いても構わない。
【0055】
そして、ステップ270に進み、モータ60を駆動すべく、図3のステップ140の結果に応じてモータリレー61のオンオフを制御し、モータ60の通電量(デューティ比)を制御する。
【0056】
一方、ステップ200で否定判定された場合には、ステップ280に進んで横滑り防止制御終了か否かを判定し、横滑り防止制御終了でなければステップ220に戻り、横滑り防止制御終了であればそのまま処理を終了する。
【0057】
以上説明したように、本実施形態では、横滑り防止制御の制御対象輪が含まれる制御系統が1つのみであるか2つであるかによりモータ60に掛かる負荷を判定している。そして、制御系統が1つのみの場合にはモータ60に掛かる負荷があまり大きくないと判定して、目標W/C圧の大小に関わらず第1、第2差圧制御弁16、36のうち制御対象輪の配管系統に含まれる側の差圧制御弁で発生させる差圧を一定値(Pt1)に設定する。また、制御系統が2つの場合にはモータ60に掛かる負荷が大きいと判定して、目標W/C圧の大きさに応じて第1および第2差圧制御弁16、36で発生させる差圧を一定値(Pt1)を最大値として目標W/C圧が大きくなる程大きく設定する。
【0058】
これにより、モータ60に掛かる負荷が大きいと判定される場合に、それを低減することが可能となる。したがって、走行路面の摩擦係数が比較的低い場合に、ポンプ19、39の作動音を低減するために、モータ60への通電量を低下させてポンプ19、39の駆動量を低下させたとしても、ポンプ19、39の吐出口側のブレーキ液圧が比較的高くならないため、ポンプ駆動が抑制されない。これにより、ポンプ19、39によるブレーキ液の吐出動作が円滑に行われ、W/C圧を円滑に目標W/C圧にすることが可能となる。
【0059】
また、本実施形態では、目標W/C圧が大きくなるほど第1および第2差圧制御弁16、36で発生させる差圧を一定値(Pt1)を最大値として大きくする。このため、第1および第2差圧制御弁16、36で発生させる差圧をより目標W/C圧に対応した値にすることができ、より安定した横滑り防止制御が可能となる。
【0060】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対して横滑り防止制御処理で設定する第1、第2差圧制御弁16、36の目標指示圧の設定方法やそれに伴って制御対象輪に対応する増圧制御弁の制御形態を変更したものであり、その他、ブレーキ制御システム1の構成等に関しては第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0061】
図6は、本実施形態の横滑り防止制御処理のフローチャートである。なお、本図中、ステップ200a〜240a、260a〜280aは、図4のステップ200〜240、260〜280と対応する。
【0062】
本実施形態では、図6に示すように、図3に示す第1実施形態の横滑り防止制御処理に対して、ステップ250aにおける第1、第2差圧制御弁16、36の目標指示圧の設定処理を変更すると共に、ステップ290aの処理を追加する。
【0063】
具体的には、本実施形態では、図6のステップ250aに示すように、第1、第2差圧制御弁16、36の目標指示圧を目標W/C圧に対して、ステップ240aにおける一定値(Pt1)より小さい一定値(Pt2)とする。このとき、ステップ240aに示したモータ60に掛かる負荷が大きく無い場合の第1、第2差圧制御弁16、36の目標指示圧に対して、目標指示圧を小さくする。
【0064】
ただし、このようにする場合、第1、第2差圧制御弁16、36で発生させる差圧が一律に小さくなるため、第1、第2差圧制御弁16、36の下流側のブレーキ液圧も小さくなる。このため、ステップ290aにおいて、制御対象輪に対応する増圧制御弁を非通電、つまり連通状態にすることで、第1、第2差圧制御弁16、36の下流側のブレーキ液圧をそのまま制御対象輪のW/C圧とする。これにより、第1実施形態と比べて第1、第2差圧制御弁16、36の下流側のブレーキ液圧が低いながらも、そのブレーキ液圧をそのままW/C圧として作用させることが可能となり、W/C圧を円滑に目標W/C圧にすることが可能となる。
【0065】
なお、本実施形態ではモータ60に掛かる負荷が大きい場合に第1、第2差圧制御弁16、36で発生させる差圧を一律に小さくしつつ、制御対象輪に対応する増圧制御弁を非通電、つまり連通状態にしたが、増圧制御弁の通電をデューティ制御しても構わない。ただし、上述したように、第1実施形態と比べて第1、第2差圧制御弁16、36の下流側のブレーキ液圧が低くなる可能性があるため、増圧制御弁が連通状態になる時間が長くなるように低いデューティ比を設定するのが好ましい。
【0066】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態について説明する。本実施形態は、第1、第2実施形態に対して横滑り防止制御処理中の負荷判定処理を変更したものであり、その他、ブレーキ制御システム1の構成等に関しては第2実施形態と同様であるため、第2実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0067】
上記第1実施形態では、制御系統が1つであるか否かによりモータ60に掛かる負荷を判定したが、本実施形態では、モータ60の端子電圧に基づいてモータ60に掛かる負荷を判定する。これについて、図7に示すモータリレー61のON/OFFとモータ60の端子電圧のタイミングチャートを用いて説明する。
【0068】
モータ60に対する電流量制御をデューティ制御によって行う場合、デューティ比に基づいてモータリレー61のON/OFFを切り替える。このとき、モータリレー61をONからOFFに切り替えた時のモータ60の端子電圧(図1に示すモータリレー61とモータ60との接続点P1の電位)は、モータ60の回転数の低下勾配に依存する。すなわち、モータ60の端子電圧は、モータ60の回転数の低下勾配が小さければ緩やかに低下し、回転数の低下勾配が大きいと急峻に低下する。そして、モータ60の回転数の低下勾配は、モータ60に掛かる負荷に対応しており、負荷が大きいほど大きくなる。したがって、モータ60の端子電圧の低下勾配からモータ60に掛かる負荷を判定することが可能となる。本実施形態では、このようなモータ60の端子電圧に基づいて負荷判定処理を行う。
【0069】
図8は、本実施形態の負荷判定処理のフローチャートである。本処理は、第1実施形態の図4のステップ220や第2実施形態の図6のステップ220aの負荷判定処理として行われる。
【0070】
まず、ステップ400では、モータ60の端子電圧を入力すると共に記憶する。これは、モータリレー61とモータ60との接続点P1の電位をブレーキECU70に入力することにより行われる。次に、ステップ410では、モータ60の端子電圧の低下勾配を演算する。低下勾配は、例えば前回の演算周期のときに入力したモータ60の端子電圧の前回値と今回の演算周期のときに入力したモータ60の端子電圧の今回値との差を求める。
【0071】
続く、ステップ420では、モータ60の端子電圧の低下勾配がしきい値より低いか否かを判定する。上述したようにモータ60の端子電圧の低下勾配を端子電圧の今回値と前回値との差により求めると、低下勾配は負の値となる。そして、低下勾配が急峻となるほど、低下勾配が小さくなる。このため、しきい値をモータ60に掛かる負荷が大きいと想定される値に設定しておき、低下勾配がこのしきい値よりもさらに低い場合に、モータ60に掛かる負荷が大きいと判定する。
【0072】
したがって、ステップ420で否定判定された場合には、ステップ430に進み、モータ60に掛かる負荷が大きいことを示す負荷フラグをOFFにして処理を終える。一方、ステップ420で肯定判定された場合には、ステップ440に進み、負荷フラグをONにして処理を終える。
【0073】
このように、モータ60の端子電圧に基づいて負荷判定処理を行うことも可能であり、このような負荷判定処理を行っても第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0074】
(第4実施形態)
本発明の第4実施形態について説明する。本実施形態は、第2実施形態で示した図6のステップ250aのように目標指示圧を目標W/C圧に対して一定値とする場合において、第3実施形態で行う負荷判定処理を行い、かつ、その負荷判定処理においてモータ60の端子電圧の低下勾配に基づいて差圧制御弁の目標指示圧を設定する。その他に関しては、第3実施形態と同様である。
【0075】
図9は、本実施形態の負荷判定処理のフローチャートである。本処理は、第2実施形態の図6の負荷判定処理として行われる。
【0076】
まず、ステップ400〜440において、図8に示した第3実施形態の負荷判定処理と同様の処理を行う。そして、ステップ430でモータ60に掛かる負荷が大きいと判定された場合に、ステップ450において、モータ60の端子電圧の低下勾配に基づいて、差圧制御弁の目標指示圧を設定する。
【0077】
具体的には、ステップ450中に示した低下勾配−目標指示圧の関係を示したマップに示されるように、低下勾配が小さく(急峻に)なるほど目標指示圧が小さくなるようにしている。目標指示圧の低下のさせ方は、図中実線で示したように線形的(リニア)にしても良いし、図中破線で示したように段階的にしても良い。このような目標指示圧が設定されると、第2実施形態で示した図6のステップ250aの目標W/C圧に対する目標指示圧のマップ中の目標指示圧の値として用いられる。
【0078】
このように、モータ60の端子電圧の低下勾配に基づいて差圧制御弁の目標指示圧を設定することにより、モータ60に掛かる負荷の大きさに対応した目標指示圧とすることが可能となり、より安定した横滑り防止制御が可能となる。
【0079】
(第5実施形態)
本発明の第5実施形態について説明する。本実施形態も、第1、第2実施形態に対して横滑り防止制御処理中の負荷判定処理を変更したものであり、その他、ブレーキ制御システム1の構成等に関しては第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0080】
本実施形態では、制御対象輪に対応する増圧制御弁の単位時間当たりの通電時間を示すデューティ比に基づいてモータ60に掛かる負荷を判定する。制御対象輪に対応する増圧制御弁をデューティ制御する場合、デューティ比が高い程、増圧制御弁が遮断状態になる時間が長くなり、W/C圧を保持する時間が長くなる。この時間が長い程、第1、第2差圧制御弁16、36の下流側のブレーキ液圧が高くなる可能性がある。したがって、制御対象輪に対応する増圧制御弁のデューティ比からモータ60に掛かる負荷を判定することが可能となる。本実施形態では、このような制御対象輪に対応する増圧制御弁のデューティ比に基づいて負荷判定処理を行う。
【0081】
図10は、本実施形態の負荷判定処理のフローチャートである。本処理は、第1実施形態の図4や第2実施形態の図6の負荷判定処理として行われる。
【0082】
まず、ステップ500では、制御対象輪に対応する増圧制御弁のデューティ比を入力すると共に記憶する。これは、図3のステップ140の制御量演算により求めた値を用いても良いし、図4のステップ260において制御対象輪の増圧制御弁に流す電流値が求められているのであれば、その値を用いても良い。
【0083】
続く、ステップ510では、制御対象輪に対応する増圧制御弁のデューティ比がしきい値よりも大きいか否かを判定する。ここでのしきい値は、モータ60に掛かる負荷が大きいと想定される値に設定してあり、制御対象輪に対応する増圧制御弁のデューティ比がこのしきい値よりもさらに大きい場合に、モータ60に掛かる負荷が大きいと判定する。
【0084】
したがって、ステップ510で否定判定された場合には、ステップ520に進み、負荷フラグをOFFにして処理を終える。一方、ステップ510肯定判定された場合には、ステップ530に進み、負荷フラグをONにして処理を終える。
【0085】
このように、制御対象輪に対応する増圧制御弁のデューティ比に基づいて負荷判定処理を行うことも可能であり、このような負荷判定処理を行っても第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0086】
なお、ここでは制御対象輪に対応する増圧制御弁のデューティ比に基づいて負荷判定処理を行ったが、これは、増圧制御弁の通電量を利用した負荷判定処理の一例であり、通電量そのものに基づいて負荷判定処理を行っても良い。
【0087】
(第6実施形態)
本発明の第6実施形態について説明する。本実施形態は、第2実施形態で示した図6のステップ250aのように目標指示圧を目標W/C圧に対して一定値に設定する場合において、第5実施形態で行う負荷判定処理を行い、かつ、制御対象輪に対応する増圧制御弁のデューティ比に基づいて差圧制御弁の目標指示圧を設定する。その他に関しては、第5実施形態と同様である。
【0088】
図11は、本実施形態の負荷判定処理のフローチャートである。本処理は、第2実施形態の図6の負荷判定処理として行われる。
【0089】
まず、ステップ500〜530において、図10に示した第5実施形態の負荷判定処理と同様の処理を行う。そして、ステップ510でモータ60に掛かる負荷が大きいと判定された場合に、ステップ540において、制御対象輪に対応する増圧制御弁のデューティ比に基づいて、差圧制御弁の目標指示圧を設定する。
【0090】
具体的には、ステップ540中に示したデューティ比−目標指示圧の関係を示したマップに示されるように、デューティ比が大きくなるほど目標指示圧が小さくする。目標指示圧の低下のさせ方は、図中実線で示したように線形的(リニア)にしても良いし、図中破線で示したように段階的にしても良い。このような目標指示圧が設定されると、第2実施形態で示した図6のステップ250aの目標W/C圧に対する目標指示圧のマップ中の目標指示圧の値として用いられる。
【0091】
このように、制御対象輪に対応する増圧制御弁のデューティ比に基づいて差圧制御弁の目標指示圧を設定することにより、モータ60に掛かる負荷の大きさに対応した目標指示圧とすることが可能となり、より安定した横滑り防止制御が可能となる。
【0092】
(他の実施形態)
上記各実施形態では、横滑り防止制御処理の一形態を示したが、本発明の特徴部分である負荷判定処理および負荷判定の結果に応じた各種処理以外に関しては、従来より知られている様々な手法に代えても構わない。例えば、横滑り防止制御の開始判定に用いる目標ヨーレートや実ヨーレートの求め方を他の手法としても構わない。
【0093】
また、第3、第5実施形態では、第2実施形態に対して負荷判定処理を変更する場合、つまり、第1、第2差圧制御弁16、36の発生させる差圧を一律に低下させる形態に対して負荷判定処理を変更する場合について説明した。これは、第4、第6実施形態において、負荷判定処理で用いるモータ60の端子電圧低下勾配や制御対象輪に対応する増圧制御弁のデューティ比に応じて第1、第2差圧制御弁16、36の発生させる差圧を可変にさせる場合を考慮したものである。このため、第1、第2差圧制御弁16、36の発生させる差圧を目標W/C圧に応じて変化させるのであれば、第1実施形態の負荷判定処理を第3、第5実施形態の手法により行っても良い。
【0094】
また、上記実施形態では、車両の運動制御として、横滑り防止制御において、モータの負荷を考慮してポンプの作動音を低減すると共に、W/C圧を目標W/C圧にすることが円滑に行えるようにすることを例に挙げて説明したが、TCS制御に関しても同様のことが行える。この場合、図4、図6における横滑り防止制御をTCS制御に読み替え、図5、図8〜11に示した負荷判定処理を行うことで、TCS制御において、モータの負荷を考慮してポンプの作動音を低減すると共に、W/C圧を目標W/C圧にすることが円滑に行えるようにすることが可能となる。
【0095】
なお、各図中に示したステップは、各種処理を実行する手段に対応するものである。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】本発明の第1実施形態における車両の運動制御を実現するブレーキ制御システムの全体構成を示す図である。
【図2】ブレーキECUの信号の入出力の関係を示すブロック図である。
【図3】横滑り防止制御処理のフローチャートである。
【図4】差圧設定処理のフローチャートである。
【図5】負荷判定処理のフローチャートである。
【図6】本発明の第2実施形態で説明する横滑り防止制御処理のフローチャートである。
【図7】モータリレーのON/OFFとモータの端子電圧のタイミングチャートである。
【図8】本発明の第3実施形態で説明する負荷判定処理のフローチャートである。
【図9】本発明の第4実施形態で説明する負荷判定処理のフローチャートである。
【図10】本発明の第5実施形態で説明する負荷判定処理のフローチャートである。
【図11】本発明の第6実施形態で説明する負荷判定処理のフローチャートである。
【符号の説明】
【0097】
1…ブレーキ制御システム、13…M/C、14、15、34、35…W/C、16、36…差圧制御弁、17、18、37、38…第1〜第4増圧制御弁、19、39…ポンプ、20、40…調圧リザーバ、21、22、41、42…減圧制御弁、50…ブレーキ液圧制御用アクチュエータ、50a、50b…第1、第2配管系統、60…モータ、61…モータリレー、70…ブレーキECU、71〜74…車輪速度センサ、75…舵角センサ、76…ヨーレートセンサ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスタシリンダ(13)と複数の車輪(FL〜RR)それぞれに対応して備えられたホイールシリンダ(14、15、34、35)との間に備えられた差圧制御弁(16、36)、および、前記差圧制御弁と前記ホイールシリンダの間において前記ホイールシリンダそれぞれに対応して備えられた増圧制御弁(17、18、37、38)の間に、ポンプ(19、39)にてブレーキ液を吐出すると共に、前記差圧制御弁を目標指示圧に応じた差圧に制御し、かつ、前記増圧制御弁を制御することで、運転者のブレーキ操作に拘わらず制御対象輪に対応する前記ホイールシリンダを加圧する運動制御手段(100〜150)と、
走行路面の摩擦係数が小さいときには大きいときと比べて、前記ポンプを駆動するモータ(60)の制御量を小さくする制御量調整手段(140)と、
前記モータの制御量を小さくするときに、前記モータに掛かる負荷状態を判定する負荷判定手段(220)と、
前記モータに掛かる負荷状態が高負荷状態であるときに、前記高負荷状態ではない状態と比べて、前記差圧制御弁の前記差圧を低下させる差圧制御手段(250)と、を具備することを特徴とする車両の運動制御装置。
【請求項2】
前記負荷判定手段は、前記制御対象輪が前記マスタシリンダと前記ホイールシリンダとを結ぶ第1、第2配管系統(50a、50b)のうちのいずれか一方のみに含まれるか、双方に含まれるかにより前記負荷状態を判定し、前記制御対象輪が前記第1、第2配管系統の双方に含まれると前記負荷状態が前記高負荷状態であると判定することを特徴とする請求項1に記載の車両の運動制御装置。
【請求項3】
前記負荷判定手段は、前記モータの端子電圧の低下勾配に基づいて前記負荷状態を判定し、前記低下勾配がしきい値よりも小さいときに、前記負荷状態が前記高負荷状態であると判定することを特徴とする請求項1に記載の車両の運動制御装置。
【請求項4】
前記負荷判定手段は、前記増圧制御弁のうち前記制御対象輪と対応する増圧制御弁の通電量に基づいて前記負荷状態を判定し、前記通電量がしきい値よりも小さいときに、前記負荷状態が前記高負荷状態であると判定することを特徴とする請求項1に記載の車両の運動制御装置。
【請求項5】
マスタシリンダ(13)と複数の車輪(FL〜RR)それぞれに対応して備えられたホイールシリンダ(14、15、34、35)との間に備えられた差圧制御弁(16、36)、および、前記差圧制御弁と前記ホイールシリンダの間において前記ホイールシリンダそれぞれに対応して備えられた増圧制御弁(17、18、37、38)の間に、ポンプ(19、39)にてブレーキ液を吐出すると共に、前記差圧制御弁を目標指示圧に応じた差圧に制御し、かつ、前記増圧制御弁を制御することで、制御対象輪に対応する前記ホイールシリンダを加圧する運動制御手段(100〜150)と、
前記ポンプを駆動するモータ(60)の制御量を、走行路面の摩擦係数が相対的に小さいときには大きいときと比べて小さくする制御量調整手段(140)と、
前記モータの制御量を小さくするときに、前記モータに掛かる負荷状態を判定する負荷判定手段(220a)と、
前記モータに掛かる負荷状態が高負荷状態であるときに、前記高負荷状態ではない状態と比べて、前記差圧制御弁の前記差圧を低下させると共に、前記増圧制御弁のうち前記制御対象輪に対応する増圧制御弁を連通状態にすることで、前記差圧制御弁により発生させる前記差圧のみに基づいて前記ホイールシリンダの加圧を行う圧力制御手段(250a、290a)と、を具備することを特徴とする車両の運動制御装置。
【請求項6】
前記負荷判定手段は、前記制御対象輪が前記マスタシリンダと前記ホイールシリンダとを結ぶ第1、第2配管系統(50a、50b)のうちのいずれか一方のみに含まれるか、双方に含まれるかにより前記負荷状態を判定し、前記制御対象輪が前記第1、第2配管系統の双方に含まれると前記負荷状態が前記高負荷状態であると判定することを特徴とする請求項5に記載の車両の運動制御装置。
【請求項7】
前記負荷判定手段は、前記モータの端子電圧の低下勾配に基づいて前記負荷状態を判定し、前記低下勾配がしきい値よりも小さいときに、前記負荷状態が前記高負荷状態であると判定することを特徴とする請求項5に記載の車両の運動制御装置。
【請求項8】
前記圧力制御手段は、前記差圧制御弁により発生させる前記差圧を前記低下勾配に対応した値とすることを特徴とする請求項7に記載の車両の運動制御装置。
【請求項9】
前記負荷判定手段は、前記増圧制御弁のうち前記制御対象輪と対応するものの通電量に基づいて前記負荷状態を判定し、前記通電量がしきい値よりも小さいときに、前記負荷状態が前記高負荷状態であると判定することを特徴とする請求項5に記載の車両の運動制御装置。
【請求項10】
前記圧力制御手段は、前記差圧制御弁により発生させる前記差圧を前記通電量に対応した値とすることを特徴とする請求項9に記載の車両の運動制御装置。
【請求項1】
マスタシリンダ(13)と複数の車輪(FL〜RR)それぞれに対応して備えられたホイールシリンダ(14、15、34、35)との間に備えられた差圧制御弁(16、36)、および、前記差圧制御弁と前記ホイールシリンダの間において前記ホイールシリンダそれぞれに対応して備えられた増圧制御弁(17、18、37、38)の間に、ポンプ(19、39)にてブレーキ液を吐出すると共に、前記差圧制御弁を目標指示圧に応じた差圧に制御し、かつ、前記増圧制御弁を制御することで、運転者のブレーキ操作に拘わらず制御対象輪に対応する前記ホイールシリンダを加圧する運動制御手段(100〜150)と、
走行路面の摩擦係数が小さいときには大きいときと比べて、前記ポンプを駆動するモータ(60)の制御量を小さくする制御量調整手段(140)と、
前記モータの制御量を小さくするときに、前記モータに掛かる負荷状態を判定する負荷判定手段(220)と、
前記モータに掛かる負荷状態が高負荷状態であるときに、前記高負荷状態ではない状態と比べて、前記差圧制御弁の前記差圧を低下させる差圧制御手段(250)と、を具備することを特徴とする車両の運動制御装置。
【請求項2】
前記負荷判定手段は、前記制御対象輪が前記マスタシリンダと前記ホイールシリンダとを結ぶ第1、第2配管系統(50a、50b)のうちのいずれか一方のみに含まれるか、双方に含まれるかにより前記負荷状態を判定し、前記制御対象輪が前記第1、第2配管系統の双方に含まれると前記負荷状態が前記高負荷状態であると判定することを特徴とする請求項1に記載の車両の運動制御装置。
【請求項3】
前記負荷判定手段は、前記モータの端子電圧の低下勾配に基づいて前記負荷状態を判定し、前記低下勾配がしきい値よりも小さいときに、前記負荷状態が前記高負荷状態であると判定することを特徴とする請求項1に記載の車両の運動制御装置。
【請求項4】
前記負荷判定手段は、前記増圧制御弁のうち前記制御対象輪と対応する増圧制御弁の通電量に基づいて前記負荷状態を判定し、前記通電量がしきい値よりも小さいときに、前記負荷状態が前記高負荷状態であると判定することを特徴とする請求項1に記載の車両の運動制御装置。
【請求項5】
マスタシリンダ(13)と複数の車輪(FL〜RR)それぞれに対応して備えられたホイールシリンダ(14、15、34、35)との間に備えられた差圧制御弁(16、36)、および、前記差圧制御弁と前記ホイールシリンダの間において前記ホイールシリンダそれぞれに対応して備えられた増圧制御弁(17、18、37、38)の間に、ポンプ(19、39)にてブレーキ液を吐出すると共に、前記差圧制御弁を目標指示圧に応じた差圧に制御し、かつ、前記増圧制御弁を制御することで、制御対象輪に対応する前記ホイールシリンダを加圧する運動制御手段(100〜150)と、
前記ポンプを駆動するモータ(60)の制御量を、走行路面の摩擦係数が相対的に小さいときには大きいときと比べて小さくする制御量調整手段(140)と、
前記モータの制御量を小さくするときに、前記モータに掛かる負荷状態を判定する負荷判定手段(220a)と、
前記モータに掛かる負荷状態が高負荷状態であるときに、前記高負荷状態ではない状態と比べて、前記差圧制御弁の前記差圧を低下させると共に、前記増圧制御弁のうち前記制御対象輪に対応する増圧制御弁を連通状態にすることで、前記差圧制御弁により発生させる前記差圧のみに基づいて前記ホイールシリンダの加圧を行う圧力制御手段(250a、290a)と、を具備することを特徴とする車両の運動制御装置。
【請求項6】
前記負荷判定手段は、前記制御対象輪が前記マスタシリンダと前記ホイールシリンダとを結ぶ第1、第2配管系統(50a、50b)のうちのいずれか一方のみに含まれるか、双方に含まれるかにより前記負荷状態を判定し、前記制御対象輪が前記第1、第2配管系統の双方に含まれると前記負荷状態が前記高負荷状態であると判定することを特徴とする請求項5に記載の車両の運動制御装置。
【請求項7】
前記負荷判定手段は、前記モータの端子電圧の低下勾配に基づいて前記負荷状態を判定し、前記低下勾配がしきい値よりも小さいときに、前記負荷状態が前記高負荷状態であると判定することを特徴とする請求項5に記載の車両の運動制御装置。
【請求項8】
前記圧力制御手段は、前記差圧制御弁により発生させる前記差圧を前記低下勾配に対応した値とすることを特徴とする請求項7に記載の車両の運動制御装置。
【請求項9】
前記負荷判定手段は、前記増圧制御弁のうち前記制御対象輪と対応するものの通電量に基づいて前記負荷状態を判定し、前記通電量がしきい値よりも小さいときに、前記負荷状態が前記高負荷状態であると判定することを特徴とする請求項5に記載の車両の運動制御装置。
【請求項10】
前記圧力制御手段は、前記差圧制御弁により発生させる前記差圧を前記通電量に対応した値とすることを特徴とする請求項9に記載の車両の運動制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−189044(P2008−189044A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−23088(P2007−23088)
【出願日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】
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