車両の運動制御装置
【課題】急操舵に伴うアンダーステア状態の発生に先立って、車両を運動制御してアンダーステア状態の発生を抑制できるようにした車両の運動制御装置を提供する。
【解決手段】車輪に制動力を付与し、アンダーステア状態の発生を抑制するようにした車両の運動制御装置にして、操舵速度を算出する操舵速度算出手段(106)と、操舵速度算出手段によって算出された操舵速度が基準のしきい値より大きくなった場合に、旋回外輪に制動力を付与する制動力付与手段(110)を備えた。
【解決手段】車輪に制動力を付与し、アンダーステア状態の発生を抑制するようにした車両の運動制御装置にして、操舵速度を算出する操舵速度算出手段(106)と、操舵速度算出手段によって算出された操舵速度が基準のしきい値より大きくなった場合に、旋回外輪に制動力を付与する制動力付与手段(110)を備えた。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、急操舵に伴うアンダーステア状態の発生に先立って、車両を運動制御してアンダーステア状態の発生を抑制できるようにした車両の運動制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両の旋回時における挙動を制御する装置の一つとして、例えば、特許文献1に記載されている如く、車両の旋回時における車体の実ヨーレートと目標ヨーレートとの偏差よりステア状態を推定し、ステア状態に応じて左右の車輪の制動力の差を制御し、これにより旋回時の車両の安定性を向上させるよう構成された挙動制御装置が従来より知られている。
【0003】
かかる挙動制御装置によれば、旋回時にステア状態が過剰にオーバステア状態になったり、過剰にアンダーステア状態になったりすることを防止することができ、これにより車両のスピンやドリフトアウト等の好ましからざる旋回挙動を低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2−70561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された従来の挙動制御装置においては、ヨーレート偏差が大きくなって、実際にアンダーステアが発生した段階にて制御が開始されるため、アンダーステアの発生を抑制することができず、アンダーステアを解消するための制御が複雑となる問題がある。
【0006】
本発明は、上記した従来の問題点を解決するためになされたもので、急操舵に伴うアンダーステア状態の発生に先立って、車両を運動制御してアンダーステア状態の発生を抑制できるようにした車両の運動制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明の特徴は、車輪に制動力を付与し、アンダーステア状態の発生を抑制するようにした車両の運動制御装置にして、操舵速度を算出する操舵速度算出手段と、該操舵速度算出手段によって算出された操舵速度が基準のしきい値より大きくなった場合に、旋回外輪に制動力を付与する制動力付与手段とを備えたことである。
【0008】
請求項2に係る発明の特徴は、請求項1において、前記制動力付与手段は、前記旋回外輪への制動力の付与を開始した後、所定時間が経過した場合に、前記旋回外輪への制動力の付与を終了するようにしたことである。
【0009】
請求項3に係る発明の特徴は、請求項1において、前記制動力付与手段は、前記旋回外輪への制動力の付与を開始した後、前記操舵速度算出手段によって算出された操舵速度が基準のしきい値より小さくなった場合に、前記旋回外輪への制動力の付与を終了するようにしたことである。
【0010】
請求項4に係る発明の特徴は、車輪に制動力を付与し、アンダーステア状態の発生を抑制するようにした車両の運動制御装置にして、操舵速度を算出する操舵速度算出手段と、該操舵速度算出手段によって算出された操舵速度が基準のしきい値より大きくなった場合に、旋回内輪に制動力を付与する第1の制動力付与手段と、該第1の制動力付与手段による制動力の付与に引き続いて、旋回外輪に制動力を付与する第2の制動力付与手段とを備えたことである。
【0011】
請求項5に係る発明の特徴は、請求項4において、前記第2の制動力付与手段は、前記第1の制動力付与手段による前記旋回内輪への制動力付与が開始されてから、前記操舵速度に応じた時間の経過後に、前記旋回外輪への制動力付与を開始するようにしたことである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明によれば、操舵速度を算出する操舵速度算出手段と、操舵速度算出手段によって算出された操舵速度が基準のしきい値より大きくなった場合に、旋回外輪に制動力を付与する制動力付与手段とを備えたので、急操舵に伴うアンダーステア状態の発生に先立って、旋回外輪に制動力を付与することにより、車両に前のめりの荷重を生じさせ、車両の回頭性を高めることができる。従って、アンダーステア状態の発生を、旋回外輪に制動力を付与するだけの簡単な制御で容易に抑制することができる。
【0013】
請求項2に係る発明によれば、制動力付与手段は、旋回外輪への制動力の付与を開始した後、所定時間が経過した場合に、旋回外輪への制動力の付与を終了するようにしたので、旋回外輪への制動力付与に伴う旋回外向きのモーメントの発生によるアンダーステア状態の悪化が上記回頭性の向上によるアンダーステア状態の抑制効果を上回る前に、旋回外輪への制動力の付与を終了させることができ、アンダーステア状態の発生を一層抑制することができる。
【0014】
請求項3に係る発明によれば、制動力付与手段は、旋回外輪への制動力の付与を開始した後、操舵速度算出手段によって算出された操舵速度が基準のしきい値より小さくなった場合に、旋回外輪への制動力の付与を終了するようにしたので、請求項2に係る発明と同様な効果を奏することができる。
【0015】
請求項4に係る発明によれば、操舵速度を算出する操舵速度算出手段と、操舵速度算出手段によって算出された操舵速度が基準のしきい値より大きくなった場合に、旋回内輪に制動力を付与する第1の制動力付与手段と、第1の制動力付与手段による制動力の付与に引き続いて、旋回外輪に制動力を付与する第2の制動力付与手段とを備えたので、旋回内輪への制動力の付与により、操舵方向の曲げモーメントを発生させるとともに、前輪荷重を大きくして、車両の回頭性を高めることができる。その後、車両が旋回を始め、旋回外輪の荷重が大きくなるが、旋回内輪への制動力付与に引き続きその旋回外輪に制動力を付与することにより、効果的に車両の前側に荷重を移動させて、さらに回頭性を高めることができる。これによって、アンダーステアの発生をより一層抑制することができる。
【0016】
上記車両の旋回に伴う旋回外輪への荷重移動の速度は、操舵速度が大きいほど大きくなる。そこで、請求項5に係る発明では、第2の制動力付与手段は、第1の制動力付与手段による旋回内輪への制動力付与が開始されてから、操舵速度に応じた時間の経過後に、旋回外輪への制動力付与を開始するようにした。そのため、車両の前側に荷重を一層効果的に移動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る車両の運動制御装置を適用した車両の一実施形態を示す概要図である。
【図2】図1に示すブレーキ液圧発生装置を含む油経路を示す図である。
【図3】ブレーキECUの信号の入出力の関係を示すブロック図である。
【図4】図1に示すブレーキ制御ECUにて実行される第1の実施の形態に係る制御プログラムのフローチャートである。
【図5】第1の実施の形態に係るタイムチャートを示す図である。
【図6】第1の実施の形態における操舵速度に対する制御量の関係を記憶した制御マップを示す図である。
【図7】第1の実施の形態の変形例を示すフローチャートである。
【図8】第1の実施の形態の変形例を示すタイムチャートである。
【図9】図1に示すブレーキ制御ECUにて実行される第2の実施の形態に係る制御プログラムのフローチャートである。
【図10】第2の実施の形態に係るタイムチャートを示す図である。
【図11】第2の実施の形態における操舵速度に対する制御量の関係を記憶した制御マップを示す図である。
【図12】第2の実施の形態の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る車両の運動制御装置を適用した車両の一実施形態を図面を参照して説明する。図1はその車両の全体構成を示す概要図である。この車両は、前輪駆動車であり、車体前部に搭載した駆動源であるエンジン11の駆動力が前輪に伝達される形式のものである。
【0019】
車両は、車両を駆動させる駆動系10と車両を制動させる制動系20を備えている。駆動系10は、エンジン11、変速機12、ディファレンシャル13、左右駆動軸14a,14b、アクセルペダル15およびエンジン制御ECU16を備えている。エンジン11の駆動力は、変速機12で変速された後、ディファレンシャル13および左右駆動軸14a,14bを経て駆動輪である左右前輪Wfl,Wfrにそれぞれ伝達されるようになっている。
【0020】
制動系20は、左右前輪Wfl,Wfrおよび左右後輪Wrl,Wrrに液圧を供給して車両を制動させる液圧ブレーキ装置から構成されている。この液圧ブレーキ装置(制動系)20は、各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrの回転をそれぞれ規制する各ホイールシリンダWCfl,WCfr,WCrl,WCrrと、エンジン11の吸気負圧をダイヤフラムに作用させてブレーキペダル21の踏み込み操作により生じるブレーキ操作力を助勢して倍力(増大)する倍力装置である負圧式ブースタ22と、負圧式ブースタ22により倍力されたブレーキ操作力に応じた基礎液圧である液圧(油圧)を生成して各ホイールシリンダWCfl,WCfr,WCrl,WCrrに供給するマスタシリンダ23と、ブレーキ液を貯蔵してマスタシリンダ23にそのブレーキ液を補給するリザーバタンク24と、マスタシリンダ23と各ホイールシリンダWCfl,WCfr,WCrl,WCrrとの間に設けられて、ブレーキペダル21の踏込状態に関係なく制御液圧を生成して制御対象輪に付与するブレーキ液圧発生装置25と、ブレーキ液圧発生装置25を制御するブレーキ制御ECU26とを備えている。
【0021】
各ホイールシリンダWCfl,WCfr,WCrl,WCrrは、各キャリパCLfl,CLfr,CLrl,CLrrに設けられており、液密に摺動するピストン(図示省略)を収容している。各ホイールシリンダWCfl,WCfr,WCrl,WCrrに基礎液圧または制御液圧が供給されると、各ピストンが一対のブレーキパッドBPfl,BPfr,BPrl,BPrrを押圧して、各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrと一体回転するディスクロータDRfl,DRfr,DRrl,DRrrを両側から挟んでその回転を規制するようになっている。
【0022】
次に、図2を参照してブレーキ液圧発生装置25の構成を詳述する。このブレーキ液圧発生装置25は、一般的によく知られているものであり、マスタシリンダカット弁である液圧制御弁41,51、ABS制御弁を構成する電磁弁である増圧弁42,43,52,53および減圧弁45,46,55,56、調圧リザーバ44,54、ポンプ47,57、モータ33などから構成されている。
【0023】
ブレーキ液圧発生装置25は、図2に示すように、マスタシリンダ23の第1および第2液圧室23a、23bに接続されている第1および第2油経路LrおよびLfを備えている。第1油経路Lrは、第1液圧室23aと左後輪Wrl,右前輪WfrのホイールシリンダWCrl,WCfrとをそれぞれ連通するものであり、第2油経路Lfは、第2液圧室23bと左前輪Wfl,右後輪WrrのホイールシリンダWCfl,WCrrとをそれぞれ連通するものである。
【0024】
ブレーキ液圧発生装置25の第1油経路Lrには、差圧制御弁から構成されるリニア制御型の液圧制御弁41が備えられている。この液圧制御弁41は、ブレーキ制御ECU26により連通状態と差圧状態を切り替え制御されるものである。液圧制御弁41は非通電して通常連通状態とされているが、通電して差圧状態(閉じる側)にすることにより、ホイールシリンダWCrl,WCfr側の油経路Lr2をマスタシリンダ23側の油経路Lr1よりも所定の制御差圧分高い圧力に保持することができる。この制御差圧はブレーキ制御ECU26により制御電流に応じて調圧されるようになっている。
【0025】
第1油経路Lr2は2つに分岐しており、一方には、ABS制御の加圧モード時において、ホイールシリンダWCrlへのブレーキ液圧の増圧を制御する増圧弁42が備えられ、他方には、ABS制御の加圧モード時において、ホイールシリンダWCfrへのブレーキ液圧の増圧を制御する増圧弁43が備えられている。これら増圧弁42,43は、ブレーキ制御ECU26により連通・遮断状態を制御できる2位置弁として構成されている。増圧弁42,43は、非通電にて連通状態にあり、通電して遮断状態となる常開型開閉電磁弁である。そして、これら増圧弁42,43が連通状態に制御されているときには、マスタシリンダ23の基礎液圧、または/およびポンプ47の駆動と液圧制御弁41の制御によって生成される制御液圧を各ホイールシリンダWCrl,WCfrに加えることができる。また、増圧弁42,43は減圧弁45,46およびポンプ47とともにABS制御を実行することができる。
【0026】
なお、ABS制御が実行されていないノーマルブレーキの際には、これら増圧弁42,43は常時連通状態に制御されている。また、増圧弁42,43には、それぞれ安全弁42a,43aが並列に設けられており、ABS制御時において運転者がブレーキペダル21から足を離したとき、それに伴ってホイールシリンダWCrl,WCfr側からのブレーキ液をリザーバタンク24に戻すようになっている。
【0027】
また、増圧弁42,43と各ホイールシリンダWCrl,WCfrとの間における油経路Lr2は、油経路Lr3を介して調圧リザーバ44に連通されている。油経路Lr3には、ブレーキ制御ECU26により連通・遮断状態を制御できる減圧弁45,46がそれぞれ配設されている。減圧弁45,46は、非通電にて遮断状態にあり、通電して連通状態となる常閉型開閉電磁弁である。これらの減圧弁45,46はノーマルブレーキ状態(ABS非作動時)では常時遮断状態とされ、また、適宜連通状態として油経路Lf3を通じて調圧リザーバ44へブレーキ液を逃がすことにより、ホイールシリンダWCrl,WCfrにおけるブレーキ液圧を制御し、車輪がロック傾向にいたるのを防止できるように構成されている。
【0028】
さらに、液圧制御弁41と増圧弁42,43との間における油経路Lr2と調圧リザーバ44とを結ぶ油経路Lr4には、ポンプ47が安全弁47aとともに配設されている。そして、調圧リザーバ44を油経路Lr1を介してマスタシリンダ23と接続するように油経路Lr5が設けられている。ポンプ47は、ブレーキ制御ECU26の指令によりモータ33によって駆動されるものである。ポンプ47は、ABS制御の減圧モード時においては、ホイールシリンダWCrl,WCfr内のブレーキ液または調圧リザーバ44に貯められているブレーキ液を吸い込んで、連通状態である液圧制御弁41を介してマスタシリンダ23に戻すようになっている。
【0029】
また、ポンプ47は、車両の運動制御、ブレーキアシストなどの、ホイールシリンダWCfl〜WCrrの何れかに自動的に液圧を付与する制御を実行する際においては、差圧状態に切り替えられている液圧制御弁41に制御差圧を発生させるべく、マスタシリンダ23内のブレーキ液を油経路Lr1,Lr5および調圧リザーバ44を介して吸い込んで、油経路Lr4,Lr2および連通状態である増圧弁42,43を介して各ホイールシリンダWCrl,WCfrに吐出して制御液圧を付与するようになっている。なお、ポンプ47が吐出したブレーキ液の脈動を緩和するために、油経路Lr4のポンプ47の上流側にはダンパ48が配設されている。
【0030】
また、油経路Lr1には、マスタシリンダ23内のブレーキ液圧であるマスタシリンダ圧を検出する圧力センサPが設けられており、この検出信号はブレーキ制御ECU26に送信されるようになっている。なお、圧力センサPは油経路Lf1に設けるようにしてもよい。
【0031】
さらに、ブレーキ液圧発生装置25の第2油経路Lfは、第1油経路Lrと同様に油経路Lf1〜Lf5から構成されている。第2油経路Lfには、液圧制御弁41と同様な液圧制御弁51、および調圧リザーバ44と同様な調圧リザーバ54が備えられている。ホイールシリンダWCfl,WCrrに連通する分岐した油経路Lf2,Lf2には、増圧弁42,43と同様な増圧弁52,53が備えられ、油経路Lf3には減圧弁45,46と同様な減圧弁55,56が備えられている。油経路Lf4には、ポンプ47、安全弁47aおよびダンパ48と同様なポンプ57、安全弁57aおよびダンパ58が備えられている。なお、増圧弁52,53には、それぞれ安全弁42a,43aと同様な安全弁52a,53aが並列に設けられている。
【0032】
このように、ブレーキ液圧発生装置25は、マスタシリンダ23からの基礎液圧をホイールシリンダWCfl,WCfr,WCrl,WCrrに直接付与することができる。また、ブレーキ液圧発生装置25は、ポンプ47,57の駆動と液圧制御弁41,51の制御によって生成された制御液圧を、各車輪Wfl,Wfr,Wrl,WrrのホイールシリンダWCfl,WCfr,WCrl,WCrrに付与することができる。すなわち、ブレーキ液圧発生装置25は、運転者のブレーキペダル21の操作状態(踏込状態)に応じた液圧をホイールシリンダWCfl,WCfr,WCrl,WCrrに付与することもできるし、運転者のブレーキペダル21の操作状態に関係なくホイールシリンダWCfl,WCfr,WCrl,WCrrへの液圧を制御することも可能である。
【0033】
ブレーキ制御ECU26は、液圧ブレーキ装置20の制御系を司る本発明の車両の運動制御装置を制御するもので、CPU、ROM、RAM、I/Oなどを備えた周知のマイクロコンピュータによって構成され、ROMに記憶されたプログラムに従って各種演算などの処理を実行する。図3は、ブレーキ制御ECU26の信号の入出力の関係を示すブロック図である。
【0034】
図1および図3に示すように、ブレーキ制御ECU26は、各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrに備えられた車輪速度センサSfl,Sfr,Srl,Srr、操舵角センサ27、ヨーレートセンサ28、横加速度(横G)センサ29からの検出信号を受け取り、これら求められた各種物理量をマイクロコンピュータのRAMに記憶する。例えば、ブレーキ制御ECU26は、各検出信号に基づいて各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrの車輪速度や車速(推定車体速度)、ドライバによるステアリングホイール27aの操作量に応じた操舵角、車両に実際に発生しているヨーレートや横Gを求めている。また、これらに基づいて車両の運動制御を実行するか否かを判定するとともに、車両の運動制御を実行する場合の制御対象輪を判別したり、制御量、すなわち制御対象輪のホイールシリンダWCfl,WCfr,WCrl,WCrrに発生させる液圧を求める。そして、その結果に基づいて、ブレーキ制御ECU26は、各液圧制御弁41、51を制御するとともに、ポンプ47、57を駆動するためのモータ33の制御を実行する。
【0035】
このように、本実施の形態に係る車両の運動制御装置は、ブレーキ液圧発生装置25を構成するABS制御用の増圧弁42,43,52,53および減圧弁45,46,55,56、調圧リザーバ44,54、ポンプ47,57ならびにモータ33を流用しながら、このブレーキ液圧発生装置25に、ホイールシリンダWCfl,WCfr,WCrl,WCrrに供給する液圧を制御するリニア制御型の液圧制御弁41、51を備えるとともに、操舵角センサ27、ヨーレートセンサ28、横Gセンサ29等の出力に基づいてブレーキ液圧発生装置25を制御するブレーキ制御ECU26によって構成したものである。
【0036】
車輪速度センサSfl,Sfr,Srl,Srrは、各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrの付近にそれぞれ設けられており、各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrの回転速度(車輪速度)に応じた周波数のパルス信号をブレーキ制御ECU26に出力している。操舵角センサ27は、操舵の中立位置からの回転角度(操舵角)を検出し、操舵角信号をブレーキ制御ECU26に出力するようになっている。ヨーレートセンサ28は、車両のヨーレートを検出して検出信号をブレーキ制御ECU26に出力している。横加速度センサ29は、車両の左右方向の加速度を検出して検出信号をブレーキ制御ECU26に出力している。
【0037】
次に、図4に示すフローチャートおよび図5に示すタイムチャートを参照して、第1の実施の形態に係る車両の運動制御について説明する。なお、図4に示すフローチャートによる制御は、図示しないイグニションスイッチがオン状態になると開始され、所定の時間(例えば5msec)毎に繰り返し実行される。また、以下においては、ステアリングホイール27aの操舵によって、図5に示す操舵量で、例えば、右方向に操舵されたものとして説明する。すなわち、この場合の制御対象輪としての旋回外輪は、左前輪Wflとなる。
【0038】
まず、ステップ100において、操舵角センサ27によって検出された操舵角が読込まれる。ステップ102においては、操舵角センサ27によって検出された操舵角の変化量に基づいて操舵速度が算出され、ステップ104において、算出された操舵速度が予め定められた基準のしきい値THwv(図5参照)より大きいか否かが判断される。操舵速度がしきい値THwvより小さい場合には、プログラムはリターンされる。なお、ステップ102は、請求項における操舵速度算出手段を構成している。
【0039】
操舵速度がしきい値THwvより大きい場合には、ステップ106において、旋回外輪(左前輪)Wflに付与すべき制動力が設定される。すなわち、旋回外輪WflのホイールシリンダWCflに発生させる液圧が設定される。かかるホイールシリンダ圧(ブレーキ力)は、マイクロコンピュータのROMに記憶された制御マップM1(図6参照)に基づいて、操舵速度に応じた制御量に演算される。ステップ108においては、旋回外輪Wflに付与すべき制動時間T1が設定される。制動時間T1は、同じくROMに記憶された設定値(例えば、200msec)に基づいて設定される。続いて、ステップ110において、旋回外輪Wflに制動力を付与すべくブレーキ液圧発生装置25が制御され、ステップ106で設定された制動力で、かつステップ108で設定された制動時間T1だけ旋回外輪Wflに制動力が付与される。上記したステップ110により、請求項における制動力付与手段を構成している。
【0040】
すなわち、左前輪Wflを制御対象輪としてホイールシリンダWCflに設定された液圧を発生させるには、液圧制御弁51を差圧状態にして、モータ33によってポンプ47、57を駆動することにより、液圧制御弁51の下流側(ホイールシリンダ側)のブレーキ液圧は液圧制御弁51で発生させられる差圧により高くなる。このとき、非制御対象輪となる右後輪Wrrに対応する増圧弁53を遮断状態とすることで、ホイールシリンダWCrrが加圧されないようにしつつ、制御対象輪となる左前輪Wflに対応する増圧弁52には電流を流さないようにする。その状態で、リニア制御型の液圧制御弁51に流す電流量を調整することで、ホイールシリンダWCflに所望の液圧を発生させることができる。
【0041】
上記したステップ110において、旋回外輪(左前輪)Wflに操舵速度に応じた制動力が所定の制動時間T1だけ付与されると、ブレーキ液圧発生装置25が制御され、図5に示すように、旋回外輪WflのホイールシリンダWCflへの液圧の供給が停止される。
【0042】
このように、図4に示すフローチャートによれば、操舵速度が基準のしきい値THwvより大きい場合に、旋回外輪Wflに操舵速度に応じた大きさのホイールシリンダ圧(ブレーキ力)を所定時間T1だけかけることにより、車両に前のめりの荷重を生じさせて、旋回外輪Wflのグリップ力を高め、車両の回頭性を高めるようにしている。これによって、旋回外輪Wflに制動力を付与するだけの簡単な制御で、アンダーステアの発生を容易に抑制することができるようになる。
【0043】
しかも、旋回外輪Wflに制動力を付与する制動時間を所定時間T1に設定したことにより、旋回外輪Wflに制動力を長く付与することによる車両を旋回方向と逆方向に旋回させるヨー力の発生を防止できるとともに、旋回外輪Wflへの制動力付与に伴う旋回外向きのモーメントの発生によるアンダーステア状態の悪化が上記した回頭性の向上によるアンダーステア状態の抑制効果を上回る前に、旋回外輪Wflへの制動力の付与を終了させることができ、アンダーステア状態の発生を一層抑制することができる。
【0044】
図7および図8は、図4および図5の変形例を示すフローチャートおよびタイムチャートで、旋回外輪Wflに付与される制動力を、操舵速度が基準のしきい値THwvより小さくなったことを条件として終了させるようにしたものである。
【0045】
すなわち、図7において、旋回外輪(左前輪)Wflに付与すべき制動力を操舵速度THに応じて設定するまで(ステップ100〜106)は、図4のフローチャートと同じであるが、ステップ106において、旋回外輪(左前輪)Wflに付与すべき制動力が設定されると、続くステップ110において、旋回外輪Wflに制動力を付与すべくブレーキ液圧発生装置25が制御され(制御モード)、ステップ106で設定された制動力で旋回外輪Wflに制動力が付与される。その後、プログラムはリターンされる。そして、かかるプログラムが所定時間(例えば5msec)毎に繰り返し実行され、ステップ104において、操舵速度がしきい値THwvよりも小さくなったことが判別されると、ステップ107に移ってモードが非制御モードに切替えられ、ブレーキ液圧発生装置25による液圧制御が終了される(図8参照)。
【0046】
次に、図9に示すフローチャートおよび図10に示すタイムチャートを参照して、第2の実施の形態に係る車両の運動制御について説明する。かかる第2の実施の形態においては、操舵速度が予め定められた基準のしきい値THwvより大きくなった場合に、第1の実施の形態において述べた旋回外輪(例えば、左前輪)Wflに制動力を付与するに先立って、旋回内輪(例えば、右前輪)Wfrに制動力を付与するようにしたものである。
【0047】
図9において、ステップ200においては、操舵角センサ27によって検出された操舵角が読込まれる。ステップ202においては、操舵角センサ27によって検出された操舵角の変化量に基づいて操舵速度が算出され、ステップ204において、算出された操舵速度が予め定められた基準のしきい値THwvより大きいか否かが判断される。操舵速度がしきい値THwvより小さい場合には、プログラムはリターンされ、操舵速度がしきい値THwvより大きい場合には、ステップ206に移行する。
【0048】
ステップ206においては、旋回内輪(右前輪)Wfrに付与すべき制動力が設定される。すなわち、旋回内輪WfrのホイールシリンダWCfrに発生させる液圧が設定される。かかるホイールシリンダ圧(ブレーキ力)は、マイクロコンピュータのROMに記憶された制御マップM2A(図11参照)に基づいて、操舵速度に応じた制御量に演算される。次いでステップ208において、旋回内輪Wfrに付与すべき制動時間T1(例えば、200msec)が設定される。ステップ210においては、旋回外輪(左前輪)Wflに付与すべき制動力、すなわち、旋回外輪WflのホイールシリンダWCflに発生させる液圧が設定される。かかるホイールシリンダ圧(ブレーキ力)は、ROMに記憶された制御マップM2B(図11参照)に基づいて、操舵速度に応じた制御量に演算される。ステップ212においては、旋回外輪Wflに付与すべき制動時間T2が設定される。かかる旋回外輪Wflに付与すべき制動時間T2は、旋回内輪Wfrに付与すべき制動時間T1と同じでも、また異なる時間であってもよい。
【0049】
ステップ214においては、旋回内輪Wfrに対して旋回外輪Wflに制動力を付与する遅延時間ΔT(図10参照)が設定される。かかる遅延時間ΔTは、例えば、100msec程度のもので、操舵速度に応じて設定される。続いて、ステップ216において、旋回内輪Wfrに制動力を付与すべく、ブレーキ液圧発生装置25が制御され、引き続き遅延時間ΔTだけ時間差をもって、旋回外輪Wflに制動力を付与すべく、ブレーキ液圧発生装置25が制御される(ステップ218)。
【0050】
これにより、図10に示すように、まず、ステップ206で設定された制動力で、かつステップ208で設定された制動時間T1だけ旋回内輪Wfrに制動力が付与され、所定の遅延時間ΔTをおいて引き続き旋回外輪Wflに、ステップ208で設定された制動力で、かつステップ210で設定された制動時間T2だけ制動力が付与される。
【0051】
上記したステップ202により、請求項における操舵速度算出手段を構成し、ステップ216により、請求項における第1の制動力付与手段を構成し、ステップ218により、請求項における第2の制動力付与手段を構成している。
【0052】
上記したように、第2の実施の形態においては、図10のタイムチャートに示すように、操舵速度が予め定められた基準のしきい値THwvより大きくなると、まず、旋回内輪Wfrが操舵速度に応じたホイールシリンダ圧(ブレーキ力)で所定時間T1(例えば、200msec)だけ制動力が付与され、所定の遅延時間ΔT経過後、旋回外輪Wflが所定のホイールシリンダ圧(ブレーキ力)で所定時間T2(例えば、200msec)だけ制動力が付与され、プログラムがリターンされる。なお、旋回外輪Wflへの制動力の付与は、時間で管理する他に、アンダーステアの発生を防止できるまでかけ続けるようにしてもよい。
【0053】
上記した第2の実施の形態によれば、第1の制動付与手段によって旋回内輪Wfrに対し制動力を付与することにより、操舵方向の曲げモーメントを発生させるとともに、前輪荷重を大きくして、車両の回頭性を高めることができる。その後、車両が旋回を始めることにより、旋回外輪Wflの荷重が大きくなるが、旋回内輪Wfrへの制動力付与に引き続き、第2の制動付与手段によって旋回外輪Wflに制動力を付与することにより、効果的に車両の前側に荷重を移動させて、さらに回頭性を高めることができる。これによって、アンダーステアの発生をより一層抑制することができる。この場合、車両の旋回に伴う旋回外輪Wflへの荷重移動の速度は、操舵速度が大きいほど大きくなる。そこで、第2の制動付与手段を、第1の制動力付与手段による旋回内輪Wfrへの制動力付与が開始されてから、操舵速度に応じた時間ΔTの経過後に、旋回外輪Wflへの制動力付与を開始するようにしたため、車両の前側に荷重を一層効果的に移動させることができるようになる。
【0054】
なお、旋回内輪Wfrに対して旋回外輪Wflへの制動力を開始するタイミングは、アンダーステアが発生(操舵ヨーレート>実ヨーレート)したタイミングとすることもでき、あるいは、旋回内輪Wfrへの制動力の付与によって旋回外輪Wflへ荷重が移動したタイミングとしてもよい。
【0055】
図12は、第2の実施の形態の変形例を示すタイムチャートを示すもので、旋回内輪Wfrへの制動力付与の終了を、操舵速度がしきい値THwvより小さくなったことを条件としたものである。この場合、旋回外輪Wflへの制動力の付与は、図12に示すように、操舵速度が0より小さくなった条件で、すなわち、保舵状態か切戻し操舵状態となったことによって終了させることが好ましい。
【0056】
上記した実施の形態においては、制動力の付与を液圧ブレーキ装置によって行う例について述べたが、本発明は、電動アクチュエータによって制動力を付与するブレーキシステムにも適用できるものである。
【0057】
また、上記した実施の形態においては、制動力を付与する旋回外輪あるいは旋回内輪を前輪とした例で述べたが、後輪側に制動力を付与しても同様な作用効果を奏することができる。この場合、旋回内輪への制動力の付与に引き続いて旋回外輪に制動力を付与する場合には、例えば、内側後輪に制動力を付与した後、外側前輪に制動力を付与するようにしてもよい。また、本発明が適用できる車両は、前輪駆動車に限定されるものではなく、後輪駆動車にも適用できるものである。
【0058】
以上、本発明を実施の形態に即して説明したが、本発明は実施の形態で述べた構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内で種々の形態を採り得るものである。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明に係る車両の運動制御装置は、急操舵に伴うアンダーステア状態の発生に先立って、車両を運動制御するものに用いるのに適している。
【符号の説明】
【0060】
20…液圧ブレーキ装置、Wfl,Wfr,Wrl,Wrr…車輪、WCfl,WCfr,WCrl,WCrr…ホイールシリンダ、21…ブレーキペダル、23…マスタシリンダ、25…ブレーキ液圧発生装置、26…ブレーキ制御ECU、27…操舵角センサ、33…モータ、41、51…液圧制御弁、42、43、52、53…増圧弁、45、46、55、56…減圧弁、47、57…ポンプ、Sfl,Sfr,Srl,Srr…車輪速度センサ、106、206…操舵速度算出手段、110…制動力付与手段、216…第1の制動力付与手段、218…第2の制動力付与手段。
【技術分野】
【0001】
本発明は、急操舵に伴うアンダーステア状態の発生に先立って、車両を運動制御してアンダーステア状態の発生を抑制できるようにした車両の運動制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両の旋回時における挙動を制御する装置の一つとして、例えば、特許文献1に記載されている如く、車両の旋回時における車体の実ヨーレートと目標ヨーレートとの偏差よりステア状態を推定し、ステア状態に応じて左右の車輪の制動力の差を制御し、これにより旋回時の車両の安定性を向上させるよう構成された挙動制御装置が従来より知られている。
【0003】
かかる挙動制御装置によれば、旋回時にステア状態が過剰にオーバステア状態になったり、過剰にアンダーステア状態になったりすることを防止することができ、これにより車両のスピンやドリフトアウト等の好ましからざる旋回挙動を低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2−70561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された従来の挙動制御装置においては、ヨーレート偏差が大きくなって、実際にアンダーステアが発生した段階にて制御が開始されるため、アンダーステアの発生を抑制することができず、アンダーステアを解消するための制御が複雑となる問題がある。
【0006】
本発明は、上記した従来の問題点を解決するためになされたもので、急操舵に伴うアンダーステア状態の発生に先立って、車両を運動制御してアンダーステア状態の発生を抑制できるようにした車両の運動制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明の特徴は、車輪に制動力を付与し、アンダーステア状態の発生を抑制するようにした車両の運動制御装置にして、操舵速度を算出する操舵速度算出手段と、該操舵速度算出手段によって算出された操舵速度が基準のしきい値より大きくなった場合に、旋回外輪に制動力を付与する制動力付与手段とを備えたことである。
【0008】
請求項2に係る発明の特徴は、請求項1において、前記制動力付与手段は、前記旋回外輪への制動力の付与を開始した後、所定時間が経過した場合に、前記旋回外輪への制動力の付与を終了するようにしたことである。
【0009】
請求項3に係る発明の特徴は、請求項1において、前記制動力付与手段は、前記旋回外輪への制動力の付与を開始した後、前記操舵速度算出手段によって算出された操舵速度が基準のしきい値より小さくなった場合に、前記旋回外輪への制動力の付与を終了するようにしたことである。
【0010】
請求項4に係る発明の特徴は、車輪に制動力を付与し、アンダーステア状態の発生を抑制するようにした車両の運動制御装置にして、操舵速度を算出する操舵速度算出手段と、該操舵速度算出手段によって算出された操舵速度が基準のしきい値より大きくなった場合に、旋回内輪に制動力を付与する第1の制動力付与手段と、該第1の制動力付与手段による制動力の付与に引き続いて、旋回外輪に制動力を付与する第2の制動力付与手段とを備えたことである。
【0011】
請求項5に係る発明の特徴は、請求項4において、前記第2の制動力付与手段は、前記第1の制動力付与手段による前記旋回内輪への制動力付与が開始されてから、前記操舵速度に応じた時間の経過後に、前記旋回外輪への制動力付与を開始するようにしたことである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明によれば、操舵速度を算出する操舵速度算出手段と、操舵速度算出手段によって算出された操舵速度が基準のしきい値より大きくなった場合に、旋回外輪に制動力を付与する制動力付与手段とを備えたので、急操舵に伴うアンダーステア状態の発生に先立って、旋回外輪に制動力を付与することにより、車両に前のめりの荷重を生じさせ、車両の回頭性を高めることができる。従って、アンダーステア状態の発生を、旋回外輪に制動力を付与するだけの簡単な制御で容易に抑制することができる。
【0013】
請求項2に係る発明によれば、制動力付与手段は、旋回外輪への制動力の付与を開始した後、所定時間が経過した場合に、旋回外輪への制動力の付与を終了するようにしたので、旋回外輪への制動力付与に伴う旋回外向きのモーメントの発生によるアンダーステア状態の悪化が上記回頭性の向上によるアンダーステア状態の抑制効果を上回る前に、旋回外輪への制動力の付与を終了させることができ、アンダーステア状態の発生を一層抑制することができる。
【0014】
請求項3に係る発明によれば、制動力付与手段は、旋回外輪への制動力の付与を開始した後、操舵速度算出手段によって算出された操舵速度が基準のしきい値より小さくなった場合に、旋回外輪への制動力の付与を終了するようにしたので、請求項2に係る発明と同様な効果を奏することができる。
【0015】
請求項4に係る発明によれば、操舵速度を算出する操舵速度算出手段と、操舵速度算出手段によって算出された操舵速度が基準のしきい値より大きくなった場合に、旋回内輪に制動力を付与する第1の制動力付与手段と、第1の制動力付与手段による制動力の付与に引き続いて、旋回外輪に制動力を付与する第2の制動力付与手段とを備えたので、旋回内輪への制動力の付与により、操舵方向の曲げモーメントを発生させるとともに、前輪荷重を大きくして、車両の回頭性を高めることができる。その後、車両が旋回を始め、旋回外輪の荷重が大きくなるが、旋回内輪への制動力付与に引き続きその旋回外輪に制動力を付与することにより、効果的に車両の前側に荷重を移動させて、さらに回頭性を高めることができる。これによって、アンダーステアの発生をより一層抑制することができる。
【0016】
上記車両の旋回に伴う旋回外輪への荷重移動の速度は、操舵速度が大きいほど大きくなる。そこで、請求項5に係る発明では、第2の制動力付与手段は、第1の制動力付与手段による旋回内輪への制動力付与が開始されてから、操舵速度に応じた時間の経過後に、旋回外輪への制動力付与を開始するようにした。そのため、車両の前側に荷重を一層効果的に移動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る車両の運動制御装置を適用した車両の一実施形態を示す概要図である。
【図2】図1に示すブレーキ液圧発生装置を含む油経路を示す図である。
【図3】ブレーキECUの信号の入出力の関係を示すブロック図である。
【図4】図1に示すブレーキ制御ECUにて実行される第1の実施の形態に係る制御プログラムのフローチャートである。
【図5】第1の実施の形態に係るタイムチャートを示す図である。
【図6】第1の実施の形態における操舵速度に対する制御量の関係を記憶した制御マップを示す図である。
【図7】第1の実施の形態の変形例を示すフローチャートである。
【図8】第1の実施の形態の変形例を示すタイムチャートである。
【図9】図1に示すブレーキ制御ECUにて実行される第2の実施の形態に係る制御プログラムのフローチャートである。
【図10】第2の実施の形態に係るタイムチャートを示す図である。
【図11】第2の実施の形態における操舵速度に対する制御量の関係を記憶した制御マップを示す図である。
【図12】第2の実施の形態の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る車両の運動制御装置を適用した車両の一実施形態を図面を参照して説明する。図1はその車両の全体構成を示す概要図である。この車両は、前輪駆動車であり、車体前部に搭載した駆動源であるエンジン11の駆動力が前輪に伝達される形式のものである。
【0019】
車両は、車両を駆動させる駆動系10と車両を制動させる制動系20を備えている。駆動系10は、エンジン11、変速機12、ディファレンシャル13、左右駆動軸14a,14b、アクセルペダル15およびエンジン制御ECU16を備えている。エンジン11の駆動力は、変速機12で変速された後、ディファレンシャル13および左右駆動軸14a,14bを経て駆動輪である左右前輪Wfl,Wfrにそれぞれ伝達されるようになっている。
【0020】
制動系20は、左右前輪Wfl,Wfrおよび左右後輪Wrl,Wrrに液圧を供給して車両を制動させる液圧ブレーキ装置から構成されている。この液圧ブレーキ装置(制動系)20は、各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrの回転をそれぞれ規制する各ホイールシリンダWCfl,WCfr,WCrl,WCrrと、エンジン11の吸気負圧をダイヤフラムに作用させてブレーキペダル21の踏み込み操作により生じるブレーキ操作力を助勢して倍力(増大)する倍力装置である負圧式ブースタ22と、負圧式ブースタ22により倍力されたブレーキ操作力に応じた基礎液圧である液圧(油圧)を生成して各ホイールシリンダWCfl,WCfr,WCrl,WCrrに供給するマスタシリンダ23と、ブレーキ液を貯蔵してマスタシリンダ23にそのブレーキ液を補給するリザーバタンク24と、マスタシリンダ23と各ホイールシリンダWCfl,WCfr,WCrl,WCrrとの間に設けられて、ブレーキペダル21の踏込状態に関係なく制御液圧を生成して制御対象輪に付与するブレーキ液圧発生装置25と、ブレーキ液圧発生装置25を制御するブレーキ制御ECU26とを備えている。
【0021】
各ホイールシリンダWCfl,WCfr,WCrl,WCrrは、各キャリパCLfl,CLfr,CLrl,CLrrに設けられており、液密に摺動するピストン(図示省略)を収容している。各ホイールシリンダWCfl,WCfr,WCrl,WCrrに基礎液圧または制御液圧が供給されると、各ピストンが一対のブレーキパッドBPfl,BPfr,BPrl,BPrrを押圧して、各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrと一体回転するディスクロータDRfl,DRfr,DRrl,DRrrを両側から挟んでその回転を規制するようになっている。
【0022】
次に、図2を参照してブレーキ液圧発生装置25の構成を詳述する。このブレーキ液圧発生装置25は、一般的によく知られているものであり、マスタシリンダカット弁である液圧制御弁41,51、ABS制御弁を構成する電磁弁である増圧弁42,43,52,53および減圧弁45,46,55,56、調圧リザーバ44,54、ポンプ47,57、モータ33などから構成されている。
【0023】
ブレーキ液圧発生装置25は、図2に示すように、マスタシリンダ23の第1および第2液圧室23a、23bに接続されている第1および第2油経路LrおよびLfを備えている。第1油経路Lrは、第1液圧室23aと左後輪Wrl,右前輪WfrのホイールシリンダWCrl,WCfrとをそれぞれ連通するものであり、第2油経路Lfは、第2液圧室23bと左前輪Wfl,右後輪WrrのホイールシリンダWCfl,WCrrとをそれぞれ連通するものである。
【0024】
ブレーキ液圧発生装置25の第1油経路Lrには、差圧制御弁から構成されるリニア制御型の液圧制御弁41が備えられている。この液圧制御弁41は、ブレーキ制御ECU26により連通状態と差圧状態を切り替え制御されるものである。液圧制御弁41は非通電して通常連通状態とされているが、通電して差圧状態(閉じる側)にすることにより、ホイールシリンダWCrl,WCfr側の油経路Lr2をマスタシリンダ23側の油経路Lr1よりも所定の制御差圧分高い圧力に保持することができる。この制御差圧はブレーキ制御ECU26により制御電流に応じて調圧されるようになっている。
【0025】
第1油経路Lr2は2つに分岐しており、一方には、ABS制御の加圧モード時において、ホイールシリンダWCrlへのブレーキ液圧の増圧を制御する増圧弁42が備えられ、他方には、ABS制御の加圧モード時において、ホイールシリンダWCfrへのブレーキ液圧の増圧を制御する増圧弁43が備えられている。これら増圧弁42,43は、ブレーキ制御ECU26により連通・遮断状態を制御できる2位置弁として構成されている。増圧弁42,43は、非通電にて連通状態にあり、通電して遮断状態となる常開型開閉電磁弁である。そして、これら増圧弁42,43が連通状態に制御されているときには、マスタシリンダ23の基礎液圧、または/およびポンプ47の駆動と液圧制御弁41の制御によって生成される制御液圧を各ホイールシリンダWCrl,WCfrに加えることができる。また、増圧弁42,43は減圧弁45,46およびポンプ47とともにABS制御を実行することができる。
【0026】
なお、ABS制御が実行されていないノーマルブレーキの際には、これら増圧弁42,43は常時連通状態に制御されている。また、増圧弁42,43には、それぞれ安全弁42a,43aが並列に設けられており、ABS制御時において運転者がブレーキペダル21から足を離したとき、それに伴ってホイールシリンダWCrl,WCfr側からのブレーキ液をリザーバタンク24に戻すようになっている。
【0027】
また、増圧弁42,43と各ホイールシリンダWCrl,WCfrとの間における油経路Lr2は、油経路Lr3を介して調圧リザーバ44に連通されている。油経路Lr3には、ブレーキ制御ECU26により連通・遮断状態を制御できる減圧弁45,46がそれぞれ配設されている。減圧弁45,46は、非通電にて遮断状態にあり、通電して連通状態となる常閉型開閉電磁弁である。これらの減圧弁45,46はノーマルブレーキ状態(ABS非作動時)では常時遮断状態とされ、また、適宜連通状態として油経路Lf3を通じて調圧リザーバ44へブレーキ液を逃がすことにより、ホイールシリンダWCrl,WCfrにおけるブレーキ液圧を制御し、車輪がロック傾向にいたるのを防止できるように構成されている。
【0028】
さらに、液圧制御弁41と増圧弁42,43との間における油経路Lr2と調圧リザーバ44とを結ぶ油経路Lr4には、ポンプ47が安全弁47aとともに配設されている。そして、調圧リザーバ44を油経路Lr1を介してマスタシリンダ23と接続するように油経路Lr5が設けられている。ポンプ47は、ブレーキ制御ECU26の指令によりモータ33によって駆動されるものである。ポンプ47は、ABS制御の減圧モード時においては、ホイールシリンダWCrl,WCfr内のブレーキ液または調圧リザーバ44に貯められているブレーキ液を吸い込んで、連通状態である液圧制御弁41を介してマスタシリンダ23に戻すようになっている。
【0029】
また、ポンプ47は、車両の運動制御、ブレーキアシストなどの、ホイールシリンダWCfl〜WCrrの何れかに自動的に液圧を付与する制御を実行する際においては、差圧状態に切り替えられている液圧制御弁41に制御差圧を発生させるべく、マスタシリンダ23内のブレーキ液を油経路Lr1,Lr5および調圧リザーバ44を介して吸い込んで、油経路Lr4,Lr2および連通状態である増圧弁42,43を介して各ホイールシリンダWCrl,WCfrに吐出して制御液圧を付与するようになっている。なお、ポンプ47が吐出したブレーキ液の脈動を緩和するために、油経路Lr4のポンプ47の上流側にはダンパ48が配設されている。
【0030】
また、油経路Lr1には、マスタシリンダ23内のブレーキ液圧であるマスタシリンダ圧を検出する圧力センサPが設けられており、この検出信号はブレーキ制御ECU26に送信されるようになっている。なお、圧力センサPは油経路Lf1に設けるようにしてもよい。
【0031】
さらに、ブレーキ液圧発生装置25の第2油経路Lfは、第1油経路Lrと同様に油経路Lf1〜Lf5から構成されている。第2油経路Lfには、液圧制御弁41と同様な液圧制御弁51、および調圧リザーバ44と同様な調圧リザーバ54が備えられている。ホイールシリンダWCfl,WCrrに連通する分岐した油経路Lf2,Lf2には、増圧弁42,43と同様な増圧弁52,53が備えられ、油経路Lf3には減圧弁45,46と同様な減圧弁55,56が備えられている。油経路Lf4には、ポンプ47、安全弁47aおよびダンパ48と同様なポンプ57、安全弁57aおよびダンパ58が備えられている。なお、増圧弁52,53には、それぞれ安全弁42a,43aと同様な安全弁52a,53aが並列に設けられている。
【0032】
このように、ブレーキ液圧発生装置25は、マスタシリンダ23からの基礎液圧をホイールシリンダWCfl,WCfr,WCrl,WCrrに直接付与することができる。また、ブレーキ液圧発生装置25は、ポンプ47,57の駆動と液圧制御弁41,51の制御によって生成された制御液圧を、各車輪Wfl,Wfr,Wrl,WrrのホイールシリンダWCfl,WCfr,WCrl,WCrrに付与することができる。すなわち、ブレーキ液圧発生装置25は、運転者のブレーキペダル21の操作状態(踏込状態)に応じた液圧をホイールシリンダWCfl,WCfr,WCrl,WCrrに付与することもできるし、運転者のブレーキペダル21の操作状態に関係なくホイールシリンダWCfl,WCfr,WCrl,WCrrへの液圧を制御することも可能である。
【0033】
ブレーキ制御ECU26は、液圧ブレーキ装置20の制御系を司る本発明の車両の運動制御装置を制御するもので、CPU、ROM、RAM、I/Oなどを備えた周知のマイクロコンピュータによって構成され、ROMに記憶されたプログラムに従って各種演算などの処理を実行する。図3は、ブレーキ制御ECU26の信号の入出力の関係を示すブロック図である。
【0034】
図1および図3に示すように、ブレーキ制御ECU26は、各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrに備えられた車輪速度センサSfl,Sfr,Srl,Srr、操舵角センサ27、ヨーレートセンサ28、横加速度(横G)センサ29からの検出信号を受け取り、これら求められた各種物理量をマイクロコンピュータのRAMに記憶する。例えば、ブレーキ制御ECU26は、各検出信号に基づいて各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrの車輪速度や車速(推定車体速度)、ドライバによるステアリングホイール27aの操作量に応じた操舵角、車両に実際に発生しているヨーレートや横Gを求めている。また、これらに基づいて車両の運動制御を実行するか否かを判定するとともに、車両の運動制御を実行する場合の制御対象輪を判別したり、制御量、すなわち制御対象輪のホイールシリンダWCfl,WCfr,WCrl,WCrrに発生させる液圧を求める。そして、その結果に基づいて、ブレーキ制御ECU26は、各液圧制御弁41、51を制御するとともに、ポンプ47、57を駆動するためのモータ33の制御を実行する。
【0035】
このように、本実施の形態に係る車両の運動制御装置は、ブレーキ液圧発生装置25を構成するABS制御用の増圧弁42,43,52,53および減圧弁45,46,55,56、調圧リザーバ44,54、ポンプ47,57ならびにモータ33を流用しながら、このブレーキ液圧発生装置25に、ホイールシリンダWCfl,WCfr,WCrl,WCrrに供給する液圧を制御するリニア制御型の液圧制御弁41、51を備えるとともに、操舵角センサ27、ヨーレートセンサ28、横Gセンサ29等の出力に基づいてブレーキ液圧発生装置25を制御するブレーキ制御ECU26によって構成したものである。
【0036】
車輪速度センサSfl,Sfr,Srl,Srrは、各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrの付近にそれぞれ設けられており、各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrの回転速度(車輪速度)に応じた周波数のパルス信号をブレーキ制御ECU26に出力している。操舵角センサ27は、操舵の中立位置からの回転角度(操舵角)を検出し、操舵角信号をブレーキ制御ECU26に出力するようになっている。ヨーレートセンサ28は、車両のヨーレートを検出して検出信号をブレーキ制御ECU26に出力している。横加速度センサ29は、車両の左右方向の加速度を検出して検出信号をブレーキ制御ECU26に出力している。
【0037】
次に、図4に示すフローチャートおよび図5に示すタイムチャートを参照して、第1の実施の形態に係る車両の運動制御について説明する。なお、図4に示すフローチャートによる制御は、図示しないイグニションスイッチがオン状態になると開始され、所定の時間(例えば5msec)毎に繰り返し実行される。また、以下においては、ステアリングホイール27aの操舵によって、図5に示す操舵量で、例えば、右方向に操舵されたものとして説明する。すなわち、この場合の制御対象輪としての旋回外輪は、左前輪Wflとなる。
【0038】
まず、ステップ100において、操舵角センサ27によって検出された操舵角が読込まれる。ステップ102においては、操舵角センサ27によって検出された操舵角の変化量に基づいて操舵速度が算出され、ステップ104において、算出された操舵速度が予め定められた基準のしきい値THwv(図5参照)より大きいか否かが判断される。操舵速度がしきい値THwvより小さい場合には、プログラムはリターンされる。なお、ステップ102は、請求項における操舵速度算出手段を構成している。
【0039】
操舵速度がしきい値THwvより大きい場合には、ステップ106において、旋回外輪(左前輪)Wflに付与すべき制動力が設定される。すなわち、旋回外輪WflのホイールシリンダWCflに発生させる液圧が設定される。かかるホイールシリンダ圧(ブレーキ力)は、マイクロコンピュータのROMに記憶された制御マップM1(図6参照)に基づいて、操舵速度に応じた制御量に演算される。ステップ108においては、旋回外輪Wflに付与すべき制動時間T1が設定される。制動時間T1は、同じくROMに記憶された設定値(例えば、200msec)に基づいて設定される。続いて、ステップ110において、旋回外輪Wflに制動力を付与すべくブレーキ液圧発生装置25が制御され、ステップ106で設定された制動力で、かつステップ108で設定された制動時間T1だけ旋回外輪Wflに制動力が付与される。上記したステップ110により、請求項における制動力付与手段を構成している。
【0040】
すなわち、左前輪Wflを制御対象輪としてホイールシリンダWCflに設定された液圧を発生させるには、液圧制御弁51を差圧状態にして、モータ33によってポンプ47、57を駆動することにより、液圧制御弁51の下流側(ホイールシリンダ側)のブレーキ液圧は液圧制御弁51で発生させられる差圧により高くなる。このとき、非制御対象輪となる右後輪Wrrに対応する増圧弁53を遮断状態とすることで、ホイールシリンダWCrrが加圧されないようにしつつ、制御対象輪となる左前輪Wflに対応する増圧弁52には電流を流さないようにする。その状態で、リニア制御型の液圧制御弁51に流す電流量を調整することで、ホイールシリンダWCflに所望の液圧を発生させることができる。
【0041】
上記したステップ110において、旋回外輪(左前輪)Wflに操舵速度に応じた制動力が所定の制動時間T1だけ付与されると、ブレーキ液圧発生装置25が制御され、図5に示すように、旋回外輪WflのホイールシリンダWCflへの液圧の供給が停止される。
【0042】
このように、図4に示すフローチャートによれば、操舵速度が基準のしきい値THwvより大きい場合に、旋回外輪Wflに操舵速度に応じた大きさのホイールシリンダ圧(ブレーキ力)を所定時間T1だけかけることにより、車両に前のめりの荷重を生じさせて、旋回外輪Wflのグリップ力を高め、車両の回頭性を高めるようにしている。これによって、旋回外輪Wflに制動力を付与するだけの簡単な制御で、アンダーステアの発生を容易に抑制することができるようになる。
【0043】
しかも、旋回外輪Wflに制動力を付与する制動時間を所定時間T1に設定したことにより、旋回外輪Wflに制動力を長く付与することによる車両を旋回方向と逆方向に旋回させるヨー力の発生を防止できるとともに、旋回外輪Wflへの制動力付与に伴う旋回外向きのモーメントの発生によるアンダーステア状態の悪化が上記した回頭性の向上によるアンダーステア状態の抑制効果を上回る前に、旋回外輪Wflへの制動力の付与を終了させることができ、アンダーステア状態の発生を一層抑制することができる。
【0044】
図7および図8は、図4および図5の変形例を示すフローチャートおよびタイムチャートで、旋回外輪Wflに付与される制動力を、操舵速度が基準のしきい値THwvより小さくなったことを条件として終了させるようにしたものである。
【0045】
すなわち、図7において、旋回外輪(左前輪)Wflに付与すべき制動力を操舵速度THに応じて設定するまで(ステップ100〜106)は、図4のフローチャートと同じであるが、ステップ106において、旋回外輪(左前輪)Wflに付与すべき制動力が設定されると、続くステップ110において、旋回外輪Wflに制動力を付与すべくブレーキ液圧発生装置25が制御され(制御モード)、ステップ106で設定された制動力で旋回外輪Wflに制動力が付与される。その後、プログラムはリターンされる。そして、かかるプログラムが所定時間(例えば5msec)毎に繰り返し実行され、ステップ104において、操舵速度がしきい値THwvよりも小さくなったことが判別されると、ステップ107に移ってモードが非制御モードに切替えられ、ブレーキ液圧発生装置25による液圧制御が終了される(図8参照)。
【0046】
次に、図9に示すフローチャートおよび図10に示すタイムチャートを参照して、第2の実施の形態に係る車両の運動制御について説明する。かかる第2の実施の形態においては、操舵速度が予め定められた基準のしきい値THwvより大きくなった場合に、第1の実施の形態において述べた旋回外輪(例えば、左前輪)Wflに制動力を付与するに先立って、旋回内輪(例えば、右前輪)Wfrに制動力を付与するようにしたものである。
【0047】
図9において、ステップ200においては、操舵角センサ27によって検出された操舵角が読込まれる。ステップ202においては、操舵角センサ27によって検出された操舵角の変化量に基づいて操舵速度が算出され、ステップ204において、算出された操舵速度が予め定められた基準のしきい値THwvより大きいか否かが判断される。操舵速度がしきい値THwvより小さい場合には、プログラムはリターンされ、操舵速度がしきい値THwvより大きい場合には、ステップ206に移行する。
【0048】
ステップ206においては、旋回内輪(右前輪)Wfrに付与すべき制動力が設定される。すなわち、旋回内輪WfrのホイールシリンダWCfrに発生させる液圧が設定される。かかるホイールシリンダ圧(ブレーキ力)は、マイクロコンピュータのROMに記憶された制御マップM2A(図11参照)に基づいて、操舵速度に応じた制御量に演算される。次いでステップ208において、旋回内輪Wfrに付与すべき制動時間T1(例えば、200msec)が設定される。ステップ210においては、旋回外輪(左前輪)Wflに付与すべき制動力、すなわち、旋回外輪WflのホイールシリンダWCflに発生させる液圧が設定される。かかるホイールシリンダ圧(ブレーキ力)は、ROMに記憶された制御マップM2B(図11参照)に基づいて、操舵速度に応じた制御量に演算される。ステップ212においては、旋回外輪Wflに付与すべき制動時間T2が設定される。かかる旋回外輪Wflに付与すべき制動時間T2は、旋回内輪Wfrに付与すべき制動時間T1と同じでも、また異なる時間であってもよい。
【0049】
ステップ214においては、旋回内輪Wfrに対して旋回外輪Wflに制動力を付与する遅延時間ΔT(図10参照)が設定される。かかる遅延時間ΔTは、例えば、100msec程度のもので、操舵速度に応じて設定される。続いて、ステップ216において、旋回内輪Wfrに制動力を付与すべく、ブレーキ液圧発生装置25が制御され、引き続き遅延時間ΔTだけ時間差をもって、旋回外輪Wflに制動力を付与すべく、ブレーキ液圧発生装置25が制御される(ステップ218)。
【0050】
これにより、図10に示すように、まず、ステップ206で設定された制動力で、かつステップ208で設定された制動時間T1だけ旋回内輪Wfrに制動力が付与され、所定の遅延時間ΔTをおいて引き続き旋回外輪Wflに、ステップ208で設定された制動力で、かつステップ210で設定された制動時間T2だけ制動力が付与される。
【0051】
上記したステップ202により、請求項における操舵速度算出手段を構成し、ステップ216により、請求項における第1の制動力付与手段を構成し、ステップ218により、請求項における第2の制動力付与手段を構成している。
【0052】
上記したように、第2の実施の形態においては、図10のタイムチャートに示すように、操舵速度が予め定められた基準のしきい値THwvより大きくなると、まず、旋回内輪Wfrが操舵速度に応じたホイールシリンダ圧(ブレーキ力)で所定時間T1(例えば、200msec)だけ制動力が付与され、所定の遅延時間ΔT経過後、旋回外輪Wflが所定のホイールシリンダ圧(ブレーキ力)で所定時間T2(例えば、200msec)だけ制動力が付与され、プログラムがリターンされる。なお、旋回外輪Wflへの制動力の付与は、時間で管理する他に、アンダーステアの発生を防止できるまでかけ続けるようにしてもよい。
【0053】
上記した第2の実施の形態によれば、第1の制動付与手段によって旋回内輪Wfrに対し制動力を付与することにより、操舵方向の曲げモーメントを発生させるとともに、前輪荷重を大きくして、車両の回頭性を高めることができる。その後、車両が旋回を始めることにより、旋回外輪Wflの荷重が大きくなるが、旋回内輪Wfrへの制動力付与に引き続き、第2の制動付与手段によって旋回外輪Wflに制動力を付与することにより、効果的に車両の前側に荷重を移動させて、さらに回頭性を高めることができる。これによって、アンダーステアの発生をより一層抑制することができる。この場合、車両の旋回に伴う旋回外輪Wflへの荷重移動の速度は、操舵速度が大きいほど大きくなる。そこで、第2の制動付与手段を、第1の制動力付与手段による旋回内輪Wfrへの制動力付与が開始されてから、操舵速度に応じた時間ΔTの経過後に、旋回外輪Wflへの制動力付与を開始するようにしたため、車両の前側に荷重を一層効果的に移動させることができるようになる。
【0054】
なお、旋回内輪Wfrに対して旋回外輪Wflへの制動力を開始するタイミングは、アンダーステアが発生(操舵ヨーレート>実ヨーレート)したタイミングとすることもでき、あるいは、旋回内輪Wfrへの制動力の付与によって旋回外輪Wflへ荷重が移動したタイミングとしてもよい。
【0055】
図12は、第2の実施の形態の変形例を示すタイムチャートを示すもので、旋回内輪Wfrへの制動力付与の終了を、操舵速度がしきい値THwvより小さくなったことを条件としたものである。この場合、旋回外輪Wflへの制動力の付与は、図12に示すように、操舵速度が0より小さくなった条件で、すなわち、保舵状態か切戻し操舵状態となったことによって終了させることが好ましい。
【0056】
上記した実施の形態においては、制動力の付与を液圧ブレーキ装置によって行う例について述べたが、本発明は、電動アクチュエータによって制動力を付与するブレーキシステムにも適用できるものである。
【0057】
また、上記した実施の形態においては、制動力を付与する旋回外輪あるいは旋回内輪を前輪とした例で述べたが、後輪側に制動力を付与しても同様な作用効果を奏することができる。この場合、旋回内輪への制動力の付与に引き続いて旋回外輪に制動力を付与する場合には、例えば、内側後輪に制動力を付与した後、外側前輪に制動力を付与するようにしてもよい。また、本発明が適用できる車両は、前輪駆動車に限定されるものではなく、後輪駆動車にも適用できるものである。
【0058】
以上、本発明を実施の形態に即して説明したが、本発明は実施の形態で述べた構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内で種々の形態を採り得るものである。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明に係る車両の運動制御装置は、急操舵に伴うアンダーステア状態の発生に先立って、車両を運動制御するものに用いるのに適している。
【符号の説明】
【0060】
20…液圧ブレーキ装置、Wfl,Wfr,Wrl,Wrr…車輪、WCfl,WCfr,WCrl,WCrr…ホイールシリンダ、21…ブレーキペダル、23…マスタシリンダ、25…ブレーキ液圧発生装置、26…ブレーキ制御ECU、27…操舵角センサ、33…モータ、41、51…液圧制御弁、42、43、52、53…増圧弁、45、46、55、56…減圧弁、47、57…ポンプ、Sfl,Sfr,Srl,Srr…車輪速度センサ、106、206…操舵速度算出手段、110…制動力付与手段、216…第1の制動力付与手段、218…第2の制動力付与手段。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪に制動力を付与し、アンダーステア状態の発生を抑制するようにした車両の運動制御装置にして、
操舵速度を算出する操舵速度算出手段と、該操舵速度算出手段によって算出された操舵速度が基準のしきい値より大きくなった場合に、旋回外輪に制動力を付与する制動力付与手段と、を備えたことを特徴とする車両の運動制御装置。
【請求項2】
請求項1において、前記制動力付与手段は、前記旋回外輪への制動力の付与を開始した後、所定時間が経過した場合に、前記旋回外輪への制動力の付与を終了するようにしたことを特徴とする車両の運動制御装置。
【請求項3】
請求項1において、前記制動力付与手段は、前記旋回外輪への制動力の付与を開始した後、前記操舵速度算出手段によって算出された操舵速度が基準のしきい値より小さくなった場合に、前記旋回外輪への制動力の付与を終了するようにしたことを特徴とする車両の運動制御装置。
【請求項4】
車輪に制動力を付与し、アンダーステア状態の発生を抑制するようにした車両の運動制御装置にして、
操舵速度を算出する操舵速度算出手段と、該操舵速度算出手段によって算出された操舵速度が基準のしきい値より大きくなった場合に、旋回内輪に制動力を付与する第1の制動力付与手段と、該第1の制動力付与手段による制動力の付与に引き続いて、旋回外輪に制動力を付与する第2の制動力付与手段と、を備えたことを特徴とする車両の運動制御装置。
【請求項5】
請求項4において、前記第2の制動力付与手段は、前記第1の制動力付与手段による前記旋回内輪への制動力付与が開始されてから、前記操舵速度に応じた時間の経過後に、前記旋回外輪への制動力付与を開始するようにしたことを特徴とする車両の運動制御装置。
【請求項1】
車輪に制動力を付与し、アンダーステア状態の発生を抑制するようにした車両の運動制御装置にして、
操舵速度を算出する操舵速度算出手段と、該操舵速度算出手段によって算出された操舵速度が基準のしきい値より大きくなった場合に、旋回外輪に制動力を付与する制動力付与手段と、を備えたことを特徴とする車両の運動制御装置。
【請求項2】
請求項1において、前記制動力付与手段は、前記旋回外輪への制動力の付与を開始した後、所定時間が経過した場合に、前記旋回外輪への制動力の付与を終了するようにしたことを特徴とする車両の運動制御装置。
【請求項3】
請求項1において、前記制動力付与手段は、前記旋回外輪への制動力の付与を開始した後、前記操舵速度算出手段によって算出された操舵速度が基準のしきい値より小さくなった場合に、前記旋回外輪への制動力の付与を終了するようにしたことを特徴とする車両の運動制御装置。
【請求項4】
車輪に制動力を付与し、アンダーステア状態の発生を抑制するようにした車両の運動制御装置にして、
操舵速度を算出する操舵速度算出手段と、該操舵速度算出手段によって算出された操舵速度が基準のしきい値より大きくなった場合に、旋回内輪に制動力を付与する第1の制動力付与手段と、該第1の制動力付与手段による制動力の付与に引き続いて、旋回外輪に制動力を付与する第2の制動力付与手段と、を備えたことを特徴とする車両の運動制御装置。
【請求項5】
請求項4において、前記第2の制動力付与手段は、前記第1の制動力付与手段による前記旋回内輪への制動力付与が開始されてから、前記操舵速度に応じた時間の経過後に、前記旋回外輪への制動力付与を開始するようにしたことを特徴とする車両の運動制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−73605(P2011−73605A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−227862(P2009−227862)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】
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