説明

車両の駐車ブレーキを調節するための方法

【課題】電気機械式の駐車ブレーキの電動ブレーキモータがクランプ力を減衰するために進む必要がある解除距離を簡単な手段により回転数信号を使用することなしに高精度で調節する。
【解決手段】電動ブレーキモータ3によって電気機械的な締付け力を生成する電気機械式のブレーキ装置を備える駐車ブレーキ1を調節するための方法において、電動ブレーキモータ3を解除方向に変位するための解除所要時間を、電動ブレーキモータ3を、以前に係止方向に変位された係止所要時間から決定する

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の駐車ブレーキを調節するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ドイツ国特許第10361042号明細書には、車両を静止状態でロックするクランプ力を生成可能な、車両の駐車ブレーキもしくはパーキングブレーキが記載されている。この駐車ブレーキは、アクチュエータとして電動式ブレーキモータを備え、このブレーキモータの作動時に、ブレーキパッドの支持体であるブレーキピストンが軸線方向にブレーキディスクに向けて変位される。
【0003】
駐車ブレーキの締付けプロセスもしくは係止プロセスで電気的または機械的な故障が生じた場合、電動ブレーキモータの制御を中断することができる。これに続いて車両を再始動できるように、駐車ブレーキを再び解除する必要がある。電動ブレーキモータもしくはこのブレーキモータによって負荷された調節部材が解除方向に進んだ解除距離は、ここでは係止プロセスで検出される回転数信号に基づいて規定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】ドイツ国特許第10361042号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の根底をなす課題は、電気機械式の駐車ブレーキの電動ブレーキモータがクランプ力を減衰するために進む必要がある解除距離を簡単な手段により回転数信号を使用することなしに高精度で調節することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題は、本発明によれば請求項1に記載の特徴により解決される。従属請求項は、目的に適った改良形態を示す。
【0007】
本発明による方法は、クランプ力を生成可能な電動ブレーキモータを備える車両の電気機械式の駐車ブレーキに関係している。電動ブレーキモータのロータの回転運動は、調節部材、例えばスピンドルの軸線方向調節運動に変換され、スピンドルを介して、ブレーキパッドの支持体であるブレーキピストンはブレーキディスクに対して軸線方向に押圧される。
【0008】
場合によっては、駐車ブレーキに、必要に応じて電気機械式のクランプ力に対して付加的に追加クランプ力を生成することができるように追加ブレーキ装置を設けてもよい。追加ブレーキ装置は、特に油圧がブレーキピストンに作用する車両用油圧ブレーキである。
【0009】
本発明による方法では、クランプ力を減衰するために電動ブレーキモータが解除方向に変位される解除所要時間は、電動ブレーキモータが直前に実施された係止プロセスで係止もしくは締付け位置の方向にクランプ力を形成するために変位された係止所要時間により決定される。解除所要時間および係止所要時間は、この場合それぞれ解除方向もしくは係止方向の電動ブレーキモータの操作に関係しており、それぞれのプロセスは、特徴的な速度特性により実施される。解除プロセスおよび係止プロセスはいずれも、ここでは目的に適うように一定の速度で操作され、ブレーキモータの始動プロセスもしくは制動プロセスは動的に実施される。しかしながら、基本的には解除プロセスおよび/または係止プロセスにおける一定ではない速度を有する速度特性も可能である。
【0010】
本実施形態の利点は、電動ブレーキモータのための回転数情報が必要とされず、したがって回転数センサがなしで済ますことができることである。さらに、電動ブレーキモータによって負荷される調節部材、通常はスピンドルを、解除プロセスにおいてどうしても必要な場合のみ戻せばよいことは有利である。解除プロセスにおける調節距離は係止プロセスにおける調節距離に相当するか、もしくは係止プロセスに対して規定された比率を有する。これにより、一方では、不可欠であれば完全なクランプ力減衰が得られるようにブレーキピストンが戻され、これにより、スピンドルとピストンとの不可欠な間隔が調節されることを保障される。スピンドルとピストンとの必要な間隔が調節されるまでブレーキピストンは適宜に戻される。他方では、調節部材は、解除プロセスにおいて終端部当接が得られるまで変位されない。
【0011】
基本的には、直前に行われた係止プロセスの係止所要時間を解除所要時間の検出時に利用することは有利である。しかしながら、以前の係止プロセスを観察するか、または解除所要時間の基礎となる複数の係止プロセスの平均値を生成することも可能である。
【0012】
他の適宜な実施形態によれば、解除所要時間は、係止所要時間と、特に電動モータの制御(測定)変数から算出された比例(適合)係数との乗算によって決定される。比例係数は、有利には一定の変数である。係数は、特に少なくとも1に等しく、したがって解除所要時間は係止所要時間よりも短くはならない。このことは、クランプ力が完全に減衰され、スピンドルとピストンとの不可欠な距離が調節されている領域に電気機械式ブレーキ装置が確実にガイドされることを確保する。
【0013】
比例係数は、有利には係止プロセスにおけるモータ電圧と、解除プロセスの開始時に電動ブレーキモータに印加されたモータ電圧との比率から決定される。係止プロセスにおけるモータ電圧には、有利には以前の係止プロセス全体にわたる平均値を示す平均電圧が使用される。これにより、電動ブレーキモータの始動および制動時の動的影響は下位の役割しか果たさない。
【0014】
解除所要時間を決定するための方法は、基本的に電気機械式のブレーキ装置のあらゆる解除プロセスで使用することができる。有利な実施形態によれば、本方法は、特に駐車ブレーキの係止もしくは締付けプロセスの中断時に使用される。係止プロセスで始動要求が検出された場合にも本方法を簡単に使用することができる。
【0015】
本発明による方法は、駐車ブレーキシステムの構成部分であってもよい、車両内の調整もしくは制御装置で作動する。
【0016】
他の利点および適宜な実施形態が、請求項、図面の説明および図面に示されている。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】電動ブレーキモータを介してクランプ力を生成する、車両のための電気機械式の駐車ブレーキを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1には、静止状態で車両をロックするための電気機械式の駐車ブレーキ1が示されている。駐車ブレーキ1は、ブレーキディスク10に係合するグリッパ9を有するブレーキキャリパ2を備える。調節部材として、駐車ブレーキ1はスピンドル4を回転駆動するブレーキモータ3として電動モータを備え、スピンドル4にはスピンドル構成部材5が回動可能に支承されている。スピンドル4の回動時にスピンドル構成部材5は軸線方向に変位される。スピンドル構成部材5は、ブレーキパッド7の支持体であるブレーキピストン6の内部で移動し、ブレーキパッド7は、ブレーキピストン6によってブレーキディスク10に対して押圧される。ブレーキディスク10の向かい側には、グリッパ9で定置に保持されさた別のブレーキパッド8が位置している。
【0019】
ブレーキピストン6の内部では、スピンドル構成部材5はスピンドル4が回動された場合に、ブレーキディスク10の方向に軸線方向前方へ移動するか、もしくはスピンドル4が反対方向に回動された場合には、軸線方向後方へストッパ11に到達するまで移動することができる。クランプ力を生成するために、スピンドル構成部材5はブレーキピストン6の内側端面を押し、これにより、駐車ブレーキ1の内部に軸線方向に摺動可能に支承されたブレーキピストン6はブレーキパッド7と共にブレーキディスク10の向かい合った端面に押し付けられる。
【0020】
駐車ブレーキは、必要に応じて油圧式の車両ブレーキによって支援することができ、これにより、クランプ力を電動モータ部分と油圧部分とから構成することができる。油圧により支援された場合、ブレーキピストン6におけるブレーキモータに向いた後面が加圧下の油圧液により負荷される。
【0021】
駐車ブレーキの解除は時間に依存して行われる。このために、電動ブレーキモータが、特に一定の変位速度で解除方向に変位される解除所要時間tが決定される。解除所要時間tは、係止所要時間tに依存して、直前に行われた駐車ブレーキの係止プロセスで決定される。解除所要時間tは、
【0022】
【数1】

【0023】
にしたがって、比例係数Fおよび以前の係止プロセスの係止所要時間tに依存しており、比例係数Fにより、係止プロセスにおける平均的なモータ電圧

と解除プロセス開始時のモータ電圧Uとの比率が示されている:
【0024】
【数3】

【0025】
このようにして決定された解除所要時間tは、特に故障時、例えば係止プロセスの中断後または係止プロセスの間に始動要求が検出された場合に算出される。
【0026】
解除所要時間が少なくとも係止所要時間に対応あるいは一致する場合、目的に適っているといえる。上記関連では、これは比例係数Fが少なくとも値1をとることにより達成される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動ブレーキモータ(3)によって電気機械的な締付け力を生成する、電気機械式のブレーキ装置を備える駐車ブレーキ(1)を調節するための方法において、
前記電動ブレーキモータ(3)を解除方向に動作させるための解除所要時間(t)を、前記電動ブレーキモータ(3)を、以前に係止方向に動作させた係止所要時間(t)から決定することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記解除所要時間(t)の算出時に、直前に行われた係止プロセスの前記係止所要時間(t)を使用する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記係止所要時間(t)と、電動モータの制御変数から算出される比例係数(F)との乗算によって前記解除所要時間を(t)検出し:
【数1】

とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
係止プロセスにおけるモータ電圧

と解除プロセス開始時におけるモータ電圧(
)との比率から前記比例係数(F)を決定し:
【数3】

とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
係止プロセスで前記電動ブレーキモータ(3)の平均のモータ電圧(

)を用いる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記解除所要時間(t)を少なくとも前記係止所要時間(t)に対応させる、請求項1から5までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
係止プロセスの中断時に本方法を使用する、請求項1から6までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
係止プロセスで始動要求が検出された場合に本方法を使用する、請求項1から7までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
請求項1から8までのいずれか一項に記載の方法を実施するための調整もしくは制御装置。
【請求項10】
請求項9に記載の調整もしくは制御装置を有する車両の駐車ブレーキ。

【図1】
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【公開番号】特開2012−176749(P2012−176749A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−38424(P2012−38424)
【出願日】平成24年2月24日(2012.2.24)
【出願人】(591245473)ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング (591)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【Fターム(参考)】