説明

車両フード構造

【課題】歩行者保護性能を確保しつつ、ストライカー上方エリアの張り剛性を確保した車両フード構造を提供する。
【解決手段】フードデントリインフォースメントパネル50は、フードアウターパネル10の裏面に当たる当接部51と、この当接部51の前端からフードインナーパネル20の裏面へ向けて延出した壁部52とを備え、壁部52が谷折り状の折れきっかけの折れ部52Aを有する。折れ部が折れ線で成り、この折れ線が壁部52の下端及び上端よりも車両後方側へずれて配置されている。折れ線は車幅方向に間欠状に設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両のフード構造に係り、特にフードデントリインフォースメントパネルを備えても歩行者保護性能を確保できるフード構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図4は従来の自動車のフード構造100を示す断面図である。図中のFrは車両前方を、Upは車両上方を示す。
フード構造100は、フードアウターパネル110と、このフードアウターパネル110と距離を置いて下方に配置されたフードインナーパネル120と、このフードインナーパネル120の前部から下方へ突出したストライカー130と、このストライカー130が取り付けられたフード前部を補強するフードロックリインフォースメントパネル140と、ストライカー130の上方においてフードアウターパネル110の張り剛性、即ちデント性を強化するフードデントリインフォースメントパネル150と、を備える。
【0003】
図示のフード構造100は、車体外側面を構成するフードアウターパネル110の中央領域が高い位置に設定されている。このため、フードアウターパネル110の前部領域は急傾斜部111で構成されて、この急傾斜部111の上端111Aから車両後方へ延出した緩傾斜部112で当該中央領域が形成されている。例えば、この急傾斜部111の上端111Aが、ラップ・アラウンド・ディスタンス(WAD)が1000mmとなる位置に配置されるようにフードアウターパネル110は構成されている。
【0004】
この種のフード構造100では、フードインナーパネル120が、フード前部において、急傾斜部111の下端から略車両後方へ水平状に延出しているため、ストライカー130が配設された周辺のフードインナーパネル面と該ストライカー130の上方のフードアウターパネル面との間隔Dが広くなる。
このため、ストライカー上方のフードアウターパネル面のデント性を確保するために、フードデントリインフォースメントパネル150は、フードアウターパネル110の裏面に接する当接部151と、この当接部151の前端からフードインナーパネル120の裏面へ向けて延出した壁部152と、を備えている。当接部151の後部は、フードアウターパネル110とフードインナーパネル120の間に設けられたフードロックリインフォースメントパネル140の後部、即ちフードインナーパネル120の裏面側からフードアウターパネル110の裏面側へ延出した傾斜部141の上部に接合されている。
【0005】
このような構成によれば、フードアウターパネル110が手でインナーパネル120側へ押されても、当該フードアウターパネル110はフードデントリインフォースメントパネル150で支えられているため、容易に凹むことはない。よって、例えば、使用者がフードをワックスがけするときに加わる荷重でフードが変形することが防止され、フードの良好なデザイン性が確保される。
【0006】
このようなフードデントリインフォースメントパネルを備えたフード構造が特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特開2007−30693号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、図4に示す従来のフード構造100においては、フード前部に垂直状に起立した壁部152を備えているので、当該壁部152の上方のフードアウターパネル面に衝突物Yが衝突した際に上記壁部152がフードアウターパネル110及びフードデントリインフォースメントパネル150の当接部151のフードインナーパネル120側への移動を妨げることになり、これらのパネル部材が変形し難くなることでエネルギー吸収ストロークが低減して、歩行者保護性能が低減するおそれがある。
【0008】
また、上記壁部152を省略して、フードロックリインフォースメントパネル140Aとフードデントリインフォースメントパネル150Aとの結合位置を上方にした図5のフード構造100Aでは、フードロックリインフォースメントパネル140Aがフードインナーパネル120の裏面からフードアウターパネル110の裏面へ延出した第2傾斜部142を備えており、この第2傾斜部142の上端がフードデントリインフォースメントパネル150Aの当接部151の前端に接合される。しかし、フードロックリインフォースメントパネル140Aの成形上の制約から、第2傾斜部142は、フードインナーパネル120の裏面に当たる下端142Aよりも前方側に当接部151の前端と接合する上端142Bが配置されるように傾けて構成される。このため、ストライカー上方のフードアウターパネル面に衝突物Yが衝突した場合、第2傾斜部142が傾いている側へ、即ちフード前方へ倒れようとするが、第2傾斜部142の前方には第2傾斜部142が十分に移動できる隙間がないため、第2傾斜部自体十分に変形することができず、潰れ残りが起きる可能性がある。
さらに、フードロックリインフォースメントパネル140Aは、フードデントリインフォースメントパネル150Aに比べて厚みがあるため変形しづらい。このため、当該第2傾斜部自体がフードアウターパネル110のフードインナーパネル120側への変形移動を妨げる虞がある。
【0009】
本発明は上記問題を解決するために創作されたものであり、歩行者保護性能を確保しつつ、ストライカー上方エリアの張り剛性を確保した、車両フード構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明は、車体外側面を構成するフードアウターパネルと、このフードアウターパネルの下方に配置され周縁をフードアウターパネルの周縁と接合されたフードインナーパネルと、フード前部の下面に設けられたストライカーと、このストライカーの上方においてフードアウターパネルの裏面に当接してフードアウターパネルの張り剛性を強化するフードデントリインフォースメントパネルと、を備えた自動車のフード構造において、フードデントリインフォースメントパネルは、フードアウターパネルの裏面に当たる当接部と、この当接部の前端からフードインナーパネルの裏面へ向けて延出した壁部と、を備え、壁部が折れ部を有することを特徴としている。
本発明の車両フード構造において、好ましくは、折れ部が折れ線で成り、この折れ線が谷折りされて壁部の下端及び上端よりも車両後方側へずれて配置されている。壁部が折れ部の上下に亘る領域に形成された開口を車幅方向に複数有することで、折れ線が車幅方向に間欠状に設けられるのが望ましい。さらに、好ましくは、壁部が車両上下方向に延びたビードを備える。なお、壁部は、例えば、ラップ・アラウンド・ディスタンスが1000mm〜1350mmのフードアウターパネル領域の下方に配設される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ストライカー上方のフードアウターパネル面に衝突物が衝突した際、その荷重によって壁部が谷折り方向へさらに折れ曲がることで、フードアウターパネル及びフードデントリインフォースメントパネルが移動するストロークを確保でき、パネル部材が移動に伴って変形することで衝撃エネルギーを吸収できる。これにより、衝突物に対する衝撃を低減できる。従って、本発明は、歩行者保護性能とストライカー上方エリアの張り剛性を両立することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を説明する。図中の符号Frは車両前方を、Upは車両上方を、LHは車幅方向における左方を示す。
図1は本発明の実施形態に係るフード構造1の断面図であり、図2はフードアウターパネル10を省略したフード構造1の斜視図である。図1では、車幅方向中間位置での断面を示している。
【0013】
フード構造1は、車体外側面を構成するフードアウターパネル10と、このフードアウターパネル10の下方に配置され周縁をフードアウターパネル10の周縁と接合されたフードインナーパネル20と、フード前部の下面に設けられたストライカー30と、フードアウターパネル10とフードインナーパネル20との間に設けられフード前部を補強するフードロックリインフォースメントパネル40と、ストライカー30の上方においてフードアウターパネル10の裏面に当接してフードアウターパネル10の張り剛性を強化するフードデントリインフォースメントパネル50と、を備える。
【0014】
フードアウターパネル10とフードインナーパネル20とは、内部に空間Sが画成されるよう周縁で溶接等によって互いに接合されている。この空間S内にフードロックリインフォースメントパネル40とフードデントリインフォースメントパネル50とが配設される。
【0015】
さらに、本実施形態に係るフード構造1は、車体外側面を構成するフードアウターパネル10の中央領域が高い位置に設定されていることを特徴としている。このため、フードアウターパネル10の前部領域はフード中央領域の勾配より大きな勾配の急傾斜部11で構成され、この急傾斜部11の上端11Aから車両後方へ延出した緩い傾斜の第1緩傾斜部12で当該中央領域が形成されている。例えば、この急傾斜部11の上端11Aが、ラップ・アラウンド・ディスタンス(WAD)が1000mm〜1350mmの位置に配置されるように、フードアウターパネル10は構成される。
【0016】
フードインナーパネル20は、フードアウターパネル10の急傾斜部11の下端部から車両後方へいくにつれて緩やかな勾配、即ち前述の急傾斜部11の勾配よりも緩やかな勾配で上方へ傾斜した第2緩傾斜部21と、この第2緩傾斜部21の後端から車両後方へいくにつれて下方へ傾斜した第3緩傾斜部22と、この第3緩傾斜部22の後端から車両後方へいくにつれて上方へ傾斜した第4傾斜部23と、この第4傾斜部23の後端から車両後方へいくにつれて上記第4傾斜部23より大きい勾配で傾斜した第5傾斜部24と、を備えている。なお、ストライカー30は、上記第4傾斜部23の車幅方向中央位置で下面から垂下するように配設される。第2緩傾斜部21〜第5緩傾斜部24はそれぞれパネル状に形成されており、それらはプレス成形によって一体に構成される。
【0017】
フードロックリインフォースメントパネル40は、第2緩傾斜部21の上に重ねられる第6緩傾斜部41と、この第6緩傾斜部41の後端から延出した第7緩傾斜部42と、この第7緩傾斜部42の後端から延出し前述の第4緩傾斜部23に重ねられる第8緩傾斜部43と、この第8緩傾斜部43の後端からフードアウターパネル10の裏面側へ延出した第9緩傾斜部44と、を備える。
ここで、第9緩傾斜部44はフードインナーパネル20の第5緩傾斜部24と接触しないように、第9緩傾斜部44と第5緩傾斜部24との間には隙間が形成される。この第9緩傾斜部44は第5緩傾斜部24より大きな勾配で、車両後方へいくにつれて上方へ傾斜している。
【0018】
フードデントリインフォースメントパネル50は、ストライカー上方のフードアウターパネル面、即ち第1緩傾斜部12の裏面に接する当接部51と、この当接部51の前端からフードインナーパネル20の裏面へ向けて延出した壁部52と、を備えている。
当接部51は、マスチック60(図2参照)を介してフードアウターパネル10を裏打ちするように配設される。この当接部51の後部は、前述の第9緩傾斜部44の上部に接合されている。さらに、この当接部51は、その前後方向の中間位置から後方の領域に、車幅方向に延びる断面逆ハット型の第1凹部53と、この第1凹部53の後方で第1凹部53と同形に形成された第2凹部54と、を備えている。上記第9緩傾斜部44の上部は第2凹部54の底部に接合される。
【0019】
さらに、本実施形態に係るフード構造1では、壁部52は高さ中間程度の位置に折れ部52Aを有すると共に、当接部51の前端から折れ部52Aまでの第1壁部52Bと、折れ部52Aより下方の第2壁部52Cと、この第2壁部52Cの下端から水平前方にひろがるフランジ52Dと、から構成されている。さらに、本実施形態では、折れ部52Aが車幅水平方向に筋状に延びた折れ線(以下、折れ線に符号52Aを付す)で成り、この折れ線52Aが第1壁部52Bの上端の位置及び第2壁部52Cの下端の位置よりも、第9緩傾斜部44側へずれて配設されていることを特徴としている。
さらに、本実施形態の当接部51には、図2に示すように第1凹部53の前側から第2壁部52Cに亘る領域に形成された前後方向に長い開口55が車幅方向に複数並設されて、折れ線52Aが車幅方向に間欠状に設けられる。上記開口55に隣接して前後方向に延びる当接部51のパネル部位51Aの延長線上において、第2壁部52Cには、車両上下方向に延びたビード70が形成されている。
このように構成される壁部52は、ラップ・アラウンド・ディスタンスが1000mm〜1350mmのフードアウターパネル領域の下方に、配設されている
【0020】
また、本実施形態では、フードデントリインフォースメントパネル50は、フードロックリインフォースメントパネル40よりも寸法が大きく形成されていて、車幅方向においてフランジ52Dがフードロックリインフォースメントパネル40の第6緩傾斜部41よりも幅広のため、車幅中央領域においてフランジ52Dは第6緩傾斜部41に接合され、車幅中央からずれた端領域のフランジ52Dはフードインナーパネル20の裏面に直接接合されている。
【0021】
このように構成されたフード構造1では、図3に示すように急傾斜部11の上端11A寄りの第1緩傾斜部12に衝突物Xが衝接すると、フード内へ向けて衝突物Xが進入する。この進入の過程では、衝突物Xによってフードアウターパネル10及びフードデントリインフォースメントパネル50に荷重が加わり、この荷重がフードデントリインフォースメントパネル50の壁部52に伝わると、壁部52が谷折り状の折れ線52Aを境にさらに谷折り方向に折れ曲がる。即ち、第2壁部52Cが第9緩傾斜部44側へ倒れるように、壁部52は折れ曲がる。これにより、フードアウターパネル10及びフードデントリインフォースメントパネル50はフードインナーパネル20側へ移動しながら変形する。
【0022】
このように、本実施形態に係るフード構造1によれば、ストライカー上方のフードアウターパネル面に衝突物Xが衝突した際、その荷重によって壁部52が折れ曲がることで、フードアウターパネル10及びフードデントリインフォースメントパネルの移動ストロークを確保でき、パネル部材が移動に伴って変形することで衝撃エネルギーを吸収できる。これにより、衝突物Xに対する衝撃を低減できる。
【0023】
本実施形態では、第2壁部52Cがビード70を備えて車両上下方向の荷重に対する剛性が高いため、第1壁部52Bが折れ線52Aを境に折れ曲がり易く構成されている。これにより、確実にフードアウターパネル10及びフードデントリインフォースメントパネル50の変形が可能である。
さらに、折れ線52Aが車幅方向に間欠状に配置されているので、折れ線52Aが壁部52の全幅に亘るような筋状に形成される場合と比べて、壁部52が撓み変形することを防止でき、確実に折り曲げることができる。
また、本フード構造1では、固い骨格部材であるラジエータサポート80(図1参照)からフードアウターパネル10が十分に離れているため、底付きなどを防止できる。
【0024】
以上説明したが、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において様々な形態で実施をすることができる。例えば、開口55の形状やビード70の数は図示例に限定されるものではなく、また、開口55やビード70を省略して、本発明は構成することもできる。上記説明中の数値は例示である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施形態に係るフード構造の断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係るフード構造の斜視図である。
【図3】本発明の実施形態に係るフード構造の作用を説明するための断面図である。
【図4】従来の車両フード構造を示す断面図である。
【図5】従来の車両フード構造を示す断面図である。
【符号の説明】
【0026】
1 フード構造
10 フードアウターパネル
11 急傾斜部
11A 上端
12 第1緩傾斜部
20 フードインナーパネル
21 第2緩傾斜部
22 第3緩傾斜部
23 第4緩傾斜部
24 第5緩傾斜部
30 ストライカー
40 フードロックリインフォースメントパネル
41 第6緩傾斜部
42 第7緩傾斜部
43 第8緩傾斜部
44 第9緩傾斜部
50 フードデントリインフォースメントパネル
51 当接部
51A パネル部位
52 壁部
52A 折れ線(折れ部)
52B 第1壁部
52C 第2壁部
52D フランジ
53 第1凹部
54 第2凹部
55 開口
60 マスチック
70 ビード
80 ラジエータサポート
X 衝突物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体外側面を構成するフードアウターパネルと、このフードアウターパネルの下方に配置され周縁を上記フードアウターパネルの周縁と接合されたフードインナーパネルと、フード前部の下面に設けられたストライカーと、このストライカーの上方において上記フードアウターパネルの裏面に当接して上記フードアウターパネルの張り剛性を強化するフードデントリインフォースメントパネルと、を備えた自動車のフード構造において、
上記フードデントリインフォースメントパネルは、上記フードアウターパネルの裏面に当たる当接部と、この当接部の前端から上記フードインナーパネルの裏面へ向けて延出した壁部と、を備え、
上記壁部が折れ部を有することを特徴とする、車両フード構造。
【請求項2】
前記折れ部が折れ線で成り、この折れ線が壁部の下端及び上端よりも車両後方側へずれて谷折りされて配置されていることを特徴とする、請求項1に記載の車両フード構造。
【請求項3】
前記壁部が前記折れ部の上下に亘る領域に形成された開口を車幅方向に複数有することで、前記折れ線が車幅方向に間欠状に設けられることを特徴とする、請求項1に記載の車両フード構造。
【請求項4】
前記壁部が車両上下方向に延びたビードを備えていることを特徴とする、請求項1〜3の何れかに記載の車両フード構造。
【請求項5】
ラップ・アラウンド・ディスタンスが1000mm〜1350mmのフードアウターパネル領域の下方に、前記壁部が配設されていることを特徴とする、請求項1〜4の何れかに記載の車両フード構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−40168(P2009−40168A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−205989(P2007−205989)
【出願日】平成19年8月7日(2007.8.7)
【出願人】(000157083)関東自動車工業株式会社 (1,164)
【Fターム(参考)】