説明

車両制御装置

【課題】ブレーキ温度の上昇をより効率良く抑制することが可能な車両制御装置を提供する。
【解決手段】本実施形態の車両制御装置1において、車両の駆動力を制限するECU20及びアクセルアクチュエータ32は、車速センサ14が検出した車両が制動を開始する時の車速である制動開始車速Vに基づいて、車両の駆動力を制限する制限率を変更する。このため、車両が加速、制動、加速、制動を繰り返して走行する際に、制動開始の車速が変動したとしても、制動開始の車速に応じて駆動力が制限され、ブレーキ温度の上昇を効率良く抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御装置に関し、特にブレーキ温度の上昇の抑制を図る車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両が走行する際には、加速、制動、加速、制動を繰り返して走行する。車両の原動機出力が向上すると、加速性能が向上し、短時間で一定車速を超えることが可能となる。このような場合、減速時はブレーキに対する負荷が大きくなり、加速時間も短いため、ブレーキの十分な冷却時間も取れない。ブレーキの設計上、加速性能が向上した場合でも、熱的なブレーキ性能を確保するためには、走行パターンのばらつきを考慮した上で、より大きなスペックのブレーキのハードウェアを設定している。
【0003】
車両のブレーキのスペックは、様々な条件下で決められた性能全てが満足されるように設計される。その際、一般的な使用環境では頻度が少ないにも関わらず、満足させなければならない性能も存在し、必要なブレーキのハードウェアのスペックが過剰となってしまうこともある。例えば、急加速及び急減速が繰り返されるような状況では、ディスクロータ径またはディスクロータの厚さを増やすことにより対応する必要があり、通常時のブレーキの使用だけを考えた場合に比べて大きなスペックが要求される。例えば、高速からの制動の繰り返しや、フルブレーキは一般的な市場環境では頻度の少ない使われ方である。しかしながら、このような使用状況にまで対応しようとすると、ブレーキのコスト増加及び部品重量の増加を招く結果となる。
【0004】
ブレーキの制動性能は、運動エネルギーを熱エネルギーに変換し、ブレーキに蓄えるかあるいはブレーキから放熱させる性能である。車両の加速性能が向上すれば、車両が大きな運動エネルギーを有する状態となる頻度が増え、ブレーキが吸収するエネルギーも大きくなり、より大きなスペックのブレーキが必要となる。また、ドライバーの走行パターン等の車両の使われ方が画一的ではないため、設計条件を超えて使用されるような状況も起こることが考えられ、より大きなスペックのブレーキが必要となる。
【0005】
そこで、車両のブレーキ温度の上昇の抑制を図ることにより、ブレーキのスペックの大きさを低減する装置が提案されている。例えば、特許文献1には、ブレーキ系統の温度を推定し、ブレーキ系統の温度が所定値以上であれば、ドライバーに報知し、走行速度制限を行なう装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭61−115739号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、上記技術では、温度が所定値になるまでは、ブレーキ温度の上昇の抑制は図られない。そのため、上記技術ではブレーキ温度の上昇を抑制する効果が不十分であり、改善の余地があった。
【0008】
本発明は、このような実情を考慮してなされたものであり、その目的は、ブレーキ温度の上昇をより効率良く抑制することが可能な車両制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、車両の駆動力を制限する駆動力制限手段と、車両の車速を検出する車速検出手段とを備え、駆動力制限手段は、車速検出手段が検出した車両が制動を開始する時の車速である制動開始車速に基づいて、車両の駆動力を制限する制限率を変更する車両制御装置である。
【0010】
この構成によれば、車両の駆動力を制限する駆動力制限手段は、車速検出手段が検出した車両が制動を開始する時の車速である制動開始車速に基づいて、車両の駆動力を制限する制限率を変更する。このため、車両が加速、制動、加速、制動を繰り返して走行する際に、制動開始車速が変動したとしても、制動開始車速に応じて駆動力が制限され、ブレーキ温度の上昇をより効率良く抑制することができる。
【0011】
この場合、駆動力制限手段は、基準車速と制動開始車速とに基づいて、車両の駆動力を制限する制限率を変更することが好適である。
【0012】
この構成によれば、駆動力制限手段は、基準車速と制動開始車速とに基づいて、車両の駆動力を制限する制限率を変更する。このため、駆動力制限手段は、制動開始車速が基準車速に対して大きいか小さいかに応じて駆動力を制限する度合を変更でき、駆動力を制限する精度を向上させることができる。
【0013】
この場合、駆動力制限手段は、制動開始車速が基準車速であるときは、基準車速に対して予め設定された基準制限率で車両の駆動力を制限し、制動開始車速が基準車速を超えているときは、制動開始車速が基準車速を大きく超えているほど、基準制限率より大きい制限率で車両の駆動力をより低く制限することが好適である。
【0014】
この構成によれば、駆動力制限手段は、制動開始車速が基準車速であるときは、基準車速に対して予め設定された基準制限率で車両の駆動力を制限し、制動開始車速が基準車速を超えているときは、制動開始車速が基準車速を大きく超えているほど、基準制限率より大きい制限率で車両の駆動力をより低く制限する。このため、車両が加速、制動、加速、制動を繰り返して走行する際に、制動開始車速が基準車速以上にぶれた場合でも、ブレーキ温度の上昇を抑制することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の車両制御装置によれば、ブレーキ温度の上昇をより効率良く抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施形態に係る車両制御装置の構成を示すブロック図である。
【図2】実施形態に係る車両制御装置の駆動力制限率を演算する動作を示すフローチャートである。
【図3】制動開始車速と駆動力制限率との関係を示すグラフ図である。
【図4】実施形態に係る車両制御装置の制動状態を判定する動作を示すフローチャートである。
【図5】実施形態に係る車両制御装置の制動間隔と制動回数とを計測する動作を示すフローチャートである。
【図6】実施形態に係る車両制御装置の駆動力制限におけるブレーキ温度上昇を抑制する効果を示すグラフ図である。
【図7】様々な態様の駆動力制限におけるブレーキ温度情報を抑制する効果を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の実施形態に係る車両制御装置について説明する。本実施形態の車両制御装置1は、ブレーキペダルセンサ11、アクセルペダルセンサ12、スロットル開度センサ13、車速センサ14、ECU20、ブレーキアクチュエータ31及びアクセルアクチュエータ32を備えている。本実施形態の車両制御装置1は車両に搭載され、車両の駆動力を制限することにより、ブレーキ温度の上昇を抑制するための装置である。
【0018】
ブレーキペダルセンサ11は、ブレーキペダルの踏量を検出するセンサである。アクセルペダルセンサ12は、アクセルペダルの踏量を検出するセンサである。スロットル開度センサ13は、車両のエンジンのスロットルの開度を検出するセンサである。車速センサ14は、自車両の車輪の回転速度を検出することにより、自車両の車速を検出するセンサである。
【0019】
ECU(electronic Control Unit)20は、後述するように車両制御装置1全体の制御を行うためのものである。ECU20は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、及び各種のデータベースを格納するハードディスク等の装置から構成される。
【0020】
ブレーキアクチュエータ31は、ブレーキペダルセンサ11の信号に基づいて車両のブレーキを駆動させて、車両に制動をかけるためのアクチュエータである。なお、ブレーキペダルセンサ11が、ブレーキペダルが踏まれたことを検出したときは、車両後部に配置されたストップランプスイッチ(以下、STPと言うこともある)が点灯される。
【0021】
アクセルアクチュエータ32は、ブレーキペダルセンサ11の信号に基づいて車両のスロットル開度を変更し、車両の加速度を変更するためのアクチュエータである。また、アクセルアクチュエータ32は、ECU20からの指令信号に従い、車両のスロットル開度に制限を設け、車両の駆動力を制限する。
【0022】
以下、本実施形態の車両制御装置1の動作について説明する。図2に示すように、車両制御装置1のECU20は、後述するフローにより制動状態判定のフラグがONとなっているか否かを判定する(S11)。もし、制動状態判定のフラグがONとなっているときには(S11)、ECU20は、駆動力制限要求のフラグをONとする(S12)。ECU20は、駆動力の制限率の演算を行ない、演算した駆動力の制限率をアクセルアクチュエータ32に出力して、車両の駆動力を制限する(S13)。
【0023】
図3に示すように、ECU20には制動開始車速Vに対する駆動力制限率のマップが設定されている。図3に示すように、設計上の基準車速であるV0では、駆動力制限率は一定の基準制限率となるようにされている。制動開始時の車速Vが基準車速V0を超えると、駆動力制限率の要求値は、制動開始時の車速Vが基準車速V0を超えている量に比例して増大するようにされている。このように本実施形態では、駆動力の制限率を実際の制動条件とブレーキ温度の設計見積もり時の条件との乖離から決定する。この場合の要求値である要求制限率は、要求制限率=基準制限率×制動開始車速/設計基準車速により算出しても良い。
【0024】
図2に戻り、ECU20は制動状態判定のフラグをOFFとしてリセットする(S14)。ECU20は、車速センサ14により車両の車速Vが基準車速V0より低いV1未満である状態が、制動を終了したと判断する時間であるT2以上に継続したか否かを判定する(S15)。車速VがV1未満となった状態がT2以上に継続したときは(S15)、ECU20は、駆動力制限要求のフラグをOFFとしてリセットする(S16)。すなわち、ECU20は、制動状態判定のフラグがONになっている間は、駆動力制限要求のフラグをONとして、制動開始車速に応じた制限率で車両の駆動力を制限する。
【0025】
以下、図2の制動状態判定のフラグがONにされる動作について説明する。図4に示すように、車両制御装置1のECU20は、後述するタイマで計測された車両が一度制動をかけてから加速し、再び制動を開始するまでの制動間隔TがT0を超えているか否かについて判定する(S21)。ここで、T0は、設計上で車両が基準車速V0から制動により減速してV1となり、再度V1から基準車速V0まで加速して、再度制動を開始するまでの時間である。
【0026】
制動間隔TがT0を超えているときは(S21)、ECU20は、車速センサ14により制動開始時の車速Vが基準車速V0以上であるか否かを判定する(S22)。制動開始時の車速Vが基準車速V0以上であるときは(S22)、ECU20は制動状態判定のフラグをONとする(S23)。ECU20は、後述するカウンタとタイマとをリセットとする(S24)。すなわち、ECU20は、制動間隔Tが設計上の制動間隔であるT0を超えており、制動開始時の車速Vが設計上の基準車速V0以上であるときは、制動状態判定のフラグをONとする。ここで、ECU20は、制動回数が所定の閾値Nを超えているときのみ制動状態判定のフラグをONとしても良い。
【0027】
以下、車両制御装置1のタイマとカウンタとにより、制動間隔と制動回数とを計測する動作について説明する。車両制御装置1のECU20は、アクセルペダルセンサ12の検出値により、アクセルペダルがOFFからONとなったか否かを判定する(S31)。アクセルペダルがOFFからONとなったときは(S31)、ECU20はスロットル開度センサ13によりフルスロットルか否かを判定する(S32)。フルスロットルであるときは(S32)、ECU20は車速センサ14により車速Vが基準車速V0以上であるか否かを判定する(S33)。
【0028】
車速Vが基準車速V0以上であるときは(S33)、ECU20はブレーキペダルセンサ11及びアクセルペダルセンサ12により、アクセルペダルがOFFとされ且つブレーキペダルがONとなりSTPがONとなったか否かを判定する(S34)。アクセルペダルがOFFとされSTPがONとなったときは(S34)、ECU20は制動間隔計測タイマの計時を開始する(S35)。
【0029】
ECU20は、車速センサ14により、車速VがV1以下となったか否かを判定する(S36)。車速VがV1以下となったときは(S36)、ECU20はブレーキペダルがONからOFFとなり、STPがONからOFFとなったか否かを判定する(S37)。STPがONからOFFとなったときは(S37)、ECU20は制動間隔計測タイマを停止し、それまでの制動間隔Tを出力する(S38)。また、ECU20は制動回数カウンタをそれまで計数した数字に1を加算した制動回数Nを出力する(S39)。なお、STPがONからOFFになるまでは、ECU20はS34〜S37のステップを実行する。すなわち、ECU20は、アクセルペダルがOFFからONとなり、フルスロットルとされて、車両が基準車速V0以上となり、次にブレーキペダルがONとなってからOFFとなるまでの加速から制動までの工程の間隔と回数とを計測する。なお、以上の図2、4及び5のフローは、車両制御装置1が搭載された車両の走行中で繰り返し並行して実行される。
【0030】
以下、本実施形態の車両制御装置1の作用効果について説明する。本実施形態の車両制御装置1において、車両の駆動力を制限するECU20及びアクセルアクチュエータ32は、車速センサ14が検出した車両が制動を開始する時の車速である制動開始車速Vに基づいて、車両の駆動力を制限する制限率を変更する。このため、車両が加速、制動、加速、制動を繰り返して走行する際に、制動開始の車速が変動したとしても、制動開始の車速に応じて駆動力が制限され、ブレーキ温度の上昇を効率良く抑制することができる。
【0031】
また、本実施形態では、ECU20及びアクセルアクチュエータ32は、基準車速V0と制動開始車速Vとに基づいて、車両の駆動力を制限する制限率を変更する。このため、ECU20及びアクセルアクチュエータ32は、制動開始車速Vが基準車速V0に対して大きいか小さいかに応じて駆動力を制限する度合を変更でき、駆動力を制限する精度を向上させることができる。
【0032】
さらに、本実施形態では、ECU20及びアクセルアクチュエータ32は、制動開始車速Vが基準車速V0であるときは、基準車速V0に対して予め設定された基準制限率で車両の駆動力を制限し、制動開始車速Vが基準車速V0を超えているときは、制動開始車速Vが基準車速V0を大きく超えているほど、基準制限率より大きい制限率で車両の駆動力をより低く制限する。このため、車両が加速、制動、加速、制動を繰り返して走行する際に、制動開始車速Vが基準車速V0以上にぶれた場合でも、ブレーキ温度の上昇を抑制することができる。
【0033】
図6に示すように、同じ車速V1と基準車速V0との間を車両が加速及び減速を繰り返す場合でも、細線で示す駆動力制限無しの場合にはブレーキ温度は大きく上昇し続けるのに対し、太線で示す駆動力制限有りの場合には、基準速度V0以内での制動での設計上の見積もり温度aは超えてしまうが、ブレーキ温度は図中右端の値で飽和し、抑えられることが判る。この場合の駆動力制限無しと駆動力制限有りとの場合の飽和温度の差は、温度差dに達する。
【0034】
図7に示すように、運転中の制動開始時期のばらつきにより、制動間隔を設計上の基準であるT0よりも大きいT1となるように制動を開始する場合には、設計上の基準車速V0を超えた車速から車両が制動をかけて減速することになる。なお、上記T2はT2>T1となるように設定される。時間P1において基準車速V0を超える車速から制動をかけると、車速とは無関係に一定の制限率で駆動力を制限した場合は、破線で示すように、制動開始車速が増大した分の温度差b−aを相殺することができず、ブレーキ温度の上昇を助長する。一方、時間P1において基準車速V0を超える車速から制動をかけると、制動開始車速の変化分に相当する制限率で駆動力を制限した場合は、一点鎖線で示すように、基準車速V0以上の高車速からの制動にもかかわらず、ブレーキ温度の上昇を抑えることができることが判る。すなわち、本実施形態では、制動開始車速がばらついて、設計上の基準車速V0よりも高い側にずれたとしても、それ以降のブレーキ温度の上昇を抑えることができる。
【0035】
尚、本発明は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0036】
1…車両制御装置、11…ブレーキペダルセンサ、12…アクセルペダルセンサ、13…スロットル開度センサ、14…車速センサ、20…ECU、31…ブレーキアクチュエータ、32…アクセルアクチュエータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の駆動力を制限する駆動力制限手段と、
前記車両の車速を検出する車速検出手段と
を備え、
前記駆動力制限手段は、前記車速検出手段が検出した前記車両が制動を開始する時の車速である制動開始車速に基づいて、前記車両の駆動力を制限する制限率を変更する、車両制御装置。
【請求項2】
前記駆動力制限手段は、基準車速と前記制動開始車速とに基づいて、前記車両の駆動力を制限する前記制限率を変更する、請求項1に記載の車両制御装置。
【請求項3】
前記駆動力制限手段は、
前記制動開始車速が前記基準車速であるときは、前記基準車速に対して予め設定された基準制限率で前記車両の駆動力を制限し、
前記制動開始車速が前記基準車速を超えているときは、前記制動開始車速が前記基準車速を大きく超えているほど、前記基準制限率より大きい前記制限率で前記車両の駆動力をより低く制限する、請求項2に記載の車両制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−106565(P2012−106565A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−256031(P2010−256031)
【出願日】平成22年11月16日(2010.11.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】