説明

車両後部追突時制動制御装置

【課題】車両が停車しているときや減速且つ停車直前のときに、追突荷重が車両後部の衝撃吸収構造の変形により吸収できない程過大な場合でも、乗員にダメージを軽減できる車両後部追突時制動制御装置を提供すること。
【解決手段】車両後部追突時制動制御装置1は、車両の走行速度を検出して速度信号を出力する車速センサ9と、車両への後続車の追突を検出して追突荷重信号を出力する加速度センサ10と、速度信号に基づいて車両の走行速度が低速または零であると判定し、且つ、追突荷重信号から車両に後続車の追突荷重が入力されたと判定したときに、車両の車輪に対してブレーキをかける制動制御部5とを備えている。しかも、制動制御部5は、追突荷重が前記車両の後部の衝撃吸収構造により吸収可能な範囲外であると追突荷重信号から判断したとき、車輪のブレーキを解除するようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、後続車に追突されたときに所定条件で車輪にブレーキをかけるようにした車両後部追突時制動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両が停車しているときや減速且つ停車直前のときに、後続車に追突された場合、前車に玉突き追突をするのを極力回避することができるようにした車両後部追突時制動制御装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ところで、乗用車等の車両では、後部に後続車が追突して追突加重が入力された場合に、この追突加重により後部を変形させて、追突加重を吸収できるように、後部に衝撃吸収構造を設けているのが普通である。
【0004】
この衝撃吸収構造は、車両の後部に後続車が追突したときに、追突加重による乗員へのダメージを軽減するために設けられている。この車両後部の衝撃吸収構造は、変形により吸収できる程度の追突加重であれば、車両が停車しているときやブレーキによる減速且つ停車直前のときに、後続車に追突されても有効である。
【特許文献1】特開2005−145328号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、車両が停車しているときや減速且つ停車直前のときに、追突荷重が車両後部の衝撃吸収構造の変形により吸収できない程過大な場合には、乗員にダメージを与える虞がある。
【0006】
そこで、この発明は、車両が停車しているときや減速且つ停車直前のときに、追突荷重が車両後部の衝撃吸収構造の変形により吸収できない程過大な場合でも、乗員にダメージを軽減できる車両後部追突時制動制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するため、この発明は、車両の走行速度を検出して速度信号を出力する車速検出手段と、前記車両への後続車の追突を検出して追突荷重信号を出力する後部追突検出手段と、前記速度信号に基づいて前記車両の走行速度が低速または零であると判定し、且つ、前記追突荷重信号から前記車両に後続車の追突荷重が入力されたと判定したときに、前記車両の車輪に対してブレーキをかける制動制御手段とを備える車両後部追突時制動制御装置であって、前記制動制御手段は、前記追突荷重が前記車両の後部の衝撃吸収構造により吸収可能な範囲外であると前記追突荷重信号から判断したとき、前記車輪のブレーキを解除する車両後部追突時制動制御装置としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
この構成によれば制動制御手段は、速度信号に基づいて車両の走行速度が低速または零であると判定し、且つ、追突荷重信号から車両に後続車の追突荷重が入力されたと判定したときに、車両の車輪に対してブレーキをかける。この際、制動制御手段は、追突荷重が前記車両の後部の衝撃吸収構造により吸収可能な範囲外であると追突荷重信号から判断したとき、車輪のブレーキを解除するので、車両が停車しているときやブレーキによる減速且つ停車直前のときに、追突荷重が車両後部の衝撃吸収構造の変形により吸収できない程過大な場合でも、乗員に与えるダメージを軽減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、この発明の実施の形態の車両後部追突時制動制御装置を図面に基づいて説明する。
【0010】
図1は本発明に係る車両後部追突時制動制御装置1の全体構成を示している。この車両後部追突時制動制御装置1は、車両のブレーキ制御にエアバッグ2の作動を制御するエアバッグコントローラ3を利用している。このエアバッグコントローラ3は、エアバッグ動作制御のためのプログラムによりエアバッグ2の動作制御をする演算制御回路である。このエアバッグコントローラ3は、エアバッグコントロール部4,制動制御手段としての制動制御部5を備えている。
【0011】
このエアバッグコントロール部4は、エアバッグ2の作動を制御するようになっている。また、制動制御部5は、車速判定部6と、追突判定部7と、前方障害物判定部8を有する。
【0012】
また、車両後部追突時制動制御装置1は、車速センサ9と、加速度検出手段としての加速度検出センサ(Gセンサ)10と、車両の前方の障害物を検出する障害物検出手段としての障害物センサ11を有する。この車速センサ9は、車両の走行速度を検出して走行速度信号を出力するようになっている。
【0013】
更に、加速度検出センサ10は、車両の後部に後続車が追突したときに、追突加速度を検出して、加速度信号を後部追突信号(追突荷重信号)として出力するようになっている。この加速度検出センサ10には、周知のGセンサを用いることができるので、その詳細な説明は省略する。
【0014】
尚、エアバッグコントロール部4は、加速度検出センサ10からの加速度信号(前方衝突、後部追突時の加速度信号)をエアバッグコントロール部4が受けて、加速度信号が所定値以上のときに、エアバッグ2を作動させるようになっている。このエアバッグ2の作動の制御は従来周知の技術を採用ができるので、その説明は省略する。
【0015】
また、障害物センサ11は、車両前方に障害物(例えば、車両等)があるか否かを判断する出力信号(障害物検出信号及び障害物非検出信号を含む)を出力するようになっている。この障害物センサ11には、電波や音波或いは光(赤外線、近赤外線等その他の光)等を用いた周知のものを採用できるので、その詳細な説明は省略する。
【0016】
そして、車速センサ9からの走行速度信号は車速判定部6に入力され、加速度検出センサ10からの加速度信号(追突荷重信号)は追突判定部7に入力され、障害物センサ11からの出力信号は前方障害物判定部8に入力されるようになっている。
【0017】
この車速判定部6は、車両の走行速度が低速(例えば5km/h以下)であるか否か、または零であるか否かを判定して、低速のときに低速信号を出力し、零のときに停止信号を出力するようになっている。また、追突判定部7は、車両の後部への後続車の追突時に、加速度検出センサ10からの加速度信号(追突荷重信号)を追突信号として出力するようになっている。さらに、前方障害物判定部8は、障害物センサ11の出力信号から車両の前方に例えば他の車両が障害物として存在するか否かを判定し、即ち障害物センサ11の出力信号が障害物検出信号である場合、障害物存在信号を出力するようになっている。
【0018】
また、制動制御部5は、車速判定部6からの低速信号又は停止信号を受けているときに、加速度検出センサ10から加速度信号(追突荷重信号)が追突信号として入力された場合、強制ブレーキ装置12を駆動して車両の各車輪に対してブレーキをかけるようになっている。
【0019】
この制動制御部5は、強制ブレーキ装置12を駆動して車両の各車輪に対してブレーキをかけている状態で、前方障害物判定部8からの障害物存在信号(障害物センサ11からの障害物検出信号)を受けているときに、追突荷重が車両の後部の衝撃吸収構造により吸収可能な範囲内であると加速度信号(追突荷重信号)から判断したとき、強制ブレーキ装置12による各車輪へのブレーキを解除しないようになっている。
【0020】
また、制動制御部5は、強制ブレーキ装置12を駆動して車両の各車輪に対してブレーキをかけている状態で、追突荷重が車両の後部の衝撃吸収構造により吸収可能な範囲外であると加速度信号(追突荷重信号)から判断したとき、強制ブレーキ装置12による各車輪へのブレーキを解除するようになっている。
【0021】
次に、上記構成の車両後部追突時制動制御装置の動作フローについて、図2を用いて説明する。
【0022】
車両の車速センサ9からの走行速度信号は車速判定部6に入力される。この車速判定部6は、車両の走行速度が低速(例えば5km/h以下)であるか否か、または零であるか否かを判定して、低速のときに低速信号を出力し、零のときに停止信号を出力する。この車速判定部6からの低速信号や停止信号は制動制御部5に入力される。
ステップS1
このステップS1において制動制御部5は、車速判定部6からの低速信号又は停止信号を受けているときに、車両の後部への後続車の追突時に、加速度検出センサ10からの加速度信号(追突荷重信号)を追突信号として受けると、ステップS2に移行する。
ステップS2
このステップS2において制動制御部5は、追突信号を受けると、強制ブレーキ装置12を駆動して車両の各車輪に対してブレーキをかけ、ステップS3に移行する。
ステップS3
本ステップS3において制動制御部5は、車両の前方に他の車両等の障害物があるか否かを判定し、ある場合にはステップS4に移行し、ない場合にはステップS6に移行する。
【0023】
この判定は、障害物センサ11から障害物検出信号が前方障害物判定部8に入力されていて、この前方障害物判定部8が障害物存在信号を出力しているか否かで行われる。
ステップS4
本ステップS3において制動制御部5は、追突荷重が車両の後部の衝撃吸収構造により吸収可能な範囲内であると加速度検出センサ10の加速度信号(追突荷重信号)から判断したとき、ステップS6に移行し、追突荷重が車両の後部の衝撃吸収構造により吸収可能な範囲外であると加速度検出センサ10の加速度信号(追突荷重信号)から判断したとき、ステップS5に移行する。
ステップS5
本ステップS3において制動制御部5は、強制ブレーキ装置12による車両の各車輪に対するブレーキを解除する。これにより、車両の乗員に与えるダメージを軽減させることができる。
【0024】
即ち、強制ブレーキ装置12により車両の各車輪に強制的なブレーキがかけられている状態で、後続車が車両の後部に追突したとき、この際の追突荷重が車両の後部の衝撃吸収構造により吸収可能な範囲外である場合、乗員の頭部が前後に激しく揺らされることが考えられ、乗員の頭部や頸部にダメージを与える虞がある。しかし、追突荷重が車両の後部の衝撃吸収構造により吸収可能な範囲外である場合に、強制ブレーキ装置12による車両の各車輪に対するブレーキを解除して、車両を追突荷重により前側に移動可能とすることで、追突されたときに車両が前方に移動するので、乗員の頭部が前後に激しく揺らされるのを未然に防止して、乗員の頭部や頸部に与えられるダメージを軽減できる。
ステップS6
本ステップS3において制動制御部5は、強制ブレーキ装置12による車両の各車輪に対するブレーキを解除せず、車両を停止させ、2次災害を防止する。
【0025】
即ち、車両の前方に他の車両が障害物として存在する状態で、後続車が車両の後部に追突したとき、各車輪に対するブレーキを解除すると、車両が前方の車両に追突して、2次災害が発生することも考えられる。
【0026】
しかし、後続車が車両の後部に追突したとき、追突荷重が車両の後部の衝撃吸収構造により吸収可能な範囲内である場合、乗員の頭部が前後に激しく揺らされることはない。このような場合には、後続車が車両の後部に追突したきに、各車輪に対するブレーキを解除しなくても、乗員の頭部や頸部に大きなダメージを与えることは考えられない。この結果、車両の前方に他の車両が障害物として存在したとき、各車輪に対するブレーキを解除しないことで、車両が前方の車両に追突して、2次災害が発生するのを防止できる。
【0027】
尚、以上説明した実施例では、エアバッグコントローラ3を利用して、強制ブレーキ装置12の動作制御を行うようにしたが、必ずしもこれに限定されるものではない。例えば、図1のエアバッグコントロール部4及びエアバッグ2を省略した専用の制御回路で強制ブレーキ装置12の動作制御を行っても良い。
【0028】
以上説明したように、この発明の実施の形態の車両後部追突時制動制御装置1は、車両の走行速度を検出して速度信号を出力する車速検出手段(車速センサ9)と、前記車両への後続車の追突を検出して追突荷重信号を出力する後部追突検出手段(加速度検出センサ10)と、前記速度信号に基づいて前記車両の走行速度が低速または零であると判定し、且つ、前記追突荷重信号から前記車両に後続車の追突荷重が入力されたと判定したときに、前記車両の車輪に対してブレーキをかける制動制御手段(制動制御部5)とを備えている。しかも、前記制動制御手段(制動制御部5)は、前記追突荷重が前記車両の後部の衝撃吸収構造により吸収可能な範囲外であると前記追突荷重信号から判断したとき、前記車輪のブレーキを解除するようになっている。
【0029】
この構成によれば制動制御手段(制動制御部5)は、速度信号に基づいて車両の走行速度が低速または零であると判定し、且つ、追突荷重信号から車両に後続車の追突荷重が入力されたと判定したときに、車両の車輪に対してブレーキをかける。この際、制動制御手段(制動制御部5)は、追突荷重が前記車両の後部の衝撃吸収構造により吸収可能な範囲外であると追突荷重信号から判断したとき、車輪のブレーキを解除するので、車両が停車しているときやブレーキによる減速且つ停車直前のときに、追突荷重が車両後部の衝撃吸収構造の変形により吸収できない程過大な場合でも、乗員に与えるダメージを軽減できる。
【0030】
尚、上述した実施例では、後部追突検出手段として、前記車両への後続車の追突を検出して加速度信号を追突荷重信号として出力する加速度検出センサ10を用いたが、必ずしもこれに限定されるものではない。例えば、車両後部の衝撃吸収構造部分に歪みゲージを配設しておいて、車両の後部への後続車の追突時に、車両後部の衝撃吸収構造部分が変形したとき、衝撃吸収構造部分の変形を歪みゲージからの出力(抵抗値)の変化により検出して、この変化から追突を検出すると共に、この歪みの変化速度から追突加重を求めるようにしても良い。
【0031】
また、この発明の実施の形態の車両後部追突時制動制御装置1は、前記車両は前方の障害物を検出して障害物検出信号を出力する障害物センサ11を備えている。しかも、前記制動制御手段(制動制御部5)は、前記障害物検出信号から障害物の存在を検出しているときに、前記追突荷重が前記車両の後部の衝撃吸収構造により吸収可能な範囲内であると前記追突荷重信号から判断したときに、前記車輪のブレーキを解除しないようになっている。また、前記制動制御手段(制動制御部5)は、前記追突荷重が前記車両の後部の衝撃吸収構造により吸収可能な範囲外であると前記追突荷重信号から判断したときに、前記車輪のブレーキを解除するようになっている。
【0032】
この構成によれば、追突荷重が車両の後部の衝撃吸収構造により吸収可能な範囲内のときには、乗員に与えるダメージを軽減できると共に、他の車両への追突という2次災害を防止できる。しかも、追突荷重が車両の後部の衝撃吸収構造により吸収可能な範囲外のときには、車両の各車輪に対するブレーキを解除して、車両を追突荷重により前側に移動可能とすることで、追突されたときに車両が前方に移動するので、乗員の頭部が前後に激しく揺らされるのを未然に防止して、乗員の頭部や頸部に与えられるダメージを軽減できる。
【0033】
また、この発明の実施の形態の車両後部追突時制動制御装置1において、前記後部追突検出手段は前記車両への後続車の追突を検出して加速度信号を追突荷重信号として出力する加速度検出センサ10である。
【0034】
この構成によれば、エアバッグ2の制御に必要な加速度検出センサ10を用いて、追突荷重を検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に係る車両後部追突時制御装置の全体構成図である。
【図2】本発明に係る車両後部追突時制御装置の動作を示したフローチャートである。
【符号の説明】
【0036】
1・・・車両後部追突時制動制御装置
5・・・制動制御部(制動制御手段)
9・・・車速センサ(車速検出手段)
10・・・加速度検出センサ(後部追突検出手段)
11・・・障害物センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の走行速度を検出して速度信号を出力する車速検出手段と、前記車両への後続車の追突を検出して追突荷重信号を出力する後部追突検出手段と、前記速度信号に基づいて前記車両の走行速度が低速または零であると判定し、且つ、前記追突荷重信号から前記車両に後続車の追突荷重が入力されたと判定したときに、前記車両の車輪に対してブレーキをかける制動制御手段とを備える車両後部追突時制動制御装置であって、
前記制動制御手段は、前記追突荷重が前記車両の後部の衝撃吸収構造により吸収可能な範囲外であると前記追突荷重信号から判断したとき、前記車輪のブレーキを解除することを特徴とする車両後部追突時制動制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両後部追突時制動制御装置において、前記車両は前方の障害物を検出して障害物検出信号を出力する障害物センサを備え、
前記制動制御手段は、前記障害物検出信号から障害物の存在を検出しているときに、前記追突荷重が前記車両の後部の衝撃吸収構造により吸収可能な範囲内であると前記追突荷重信号から判断したときに、前記車輪のブレーキを解除せず、且つ、前記追突荷重が前記車両の後部の衝撃吸収構造により吸収可能な範囲外であると前記追突荷重信号から判断したときに、前記車輪のブレーキを解除することを特徴とする車両後部追突時制動制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の車両後部追突時制動制御装置において、前記後部追突検出手段は前記車両への後続車の追突を検出して加速度信号を追突荷重信号として出力する加速度検出センサであることを特徴とする車両後部追突時制動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−149933(P2008−149933A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−341022(P2006−341022)
【出願日】平成18年12月19日(2006.12.19)
【出願人】(000004765)カルソニックカンセイ株式会社 (3,404)
【Fターム(参考)】