説明

車両挙動制御装置

【課題】 電圧異常によりセンサ電源をOFFさせたあと、電圧異常が正常化してセンサ電源をONさせた場合に、車両挙動制御を的確なタイミングで動作可能とできるようにする。
【解決手段】 推定車体速度が実際の車体速度からずれて正確な値として求められないときには、ブレーキ制御が禁止されるようにし、高電圧異常信号が解除されてから推定車体速度が一度0になって、推定車体速度が実際の車体速度に追従した正確な値として求められるようになってから、ブレーキ制御が許可されるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電源電圧が規定電圧から外れる電圧異常、例えば高電圧異常が発生してセンサ電源をOFFしたのち異常が解消されてセンサ電源をONに切替えたときに、車両挙動制御(例えばブレーキ制御)を的確なタイミングに動作可能に切替えられる車両挙動制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、規定電圧から外れる電圧異常、例えば高電圧異常が発生したときに、システム保護などの理由により、センサ電源をOFFする技術がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このようにセンサ電源をOFFする場合、センサから検出信号を得ることができなくなるため、必然的に、そのセンサの検出信号を用いたブレーキ制御、例えばABS(アンチスキッドブレーキ)制御やESC(Electronic Stability Control(横滑り防止制御))などの車両挙動制御が動作不能となる。
【0004】
このため、電圧異常が正常に戻ったときに、センサ電源をONにし、車両挙動制御も動作可能に切替えられるようになっている。
【特許文献1】特公平4−71740号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、センサ電源がONに切替えられた直後から正確な検出結果が得られるとは限らない。
【0006】
例えば、センサ電源をOFFされたのが車輪速度センサであった場合、車輪速度センサの検出信号から得られる車輪速度から車体速度を求めるとき、以下のようにすぐには正確な車体速度を求めることができない。図5に、車輪速度と車体速度の関係を示したタイミングチャートを示し、この図を参照して説明する。
【0007】
車体速度は、例えば4輪の車輪速度のうちの最大車輪速度とされるのが一般的であるが、この値が前回の車体速度から許容増加最大値を加算した上限値を超えている場合には上限値と見なされ、前回の車体速度から許容減少最大値を減算した下限値未満の場合には下限値と見なされる。
【0008】
ここで、車輪速度センサのセンサ電源がOFFされていたときのことを考えると、図5に示されるように、その場合には、車輪速度が得られないため、前回の車体速度がゼロもしくは演算不能となる。このため、車輪速度センサの電源がONに切替えられた瞬間に、得られた車輪速度が数十km/hであったとしても、上記上限値を超えることになり、上限値が車体速度と見なされる。つまり、実際の車体速度が大きな値であったとしても、推定される車体速度が急にはそれに追従する事ができず、実際の車体速度からずれた値となる。
【0009】
したがって、このような値に基づいて車両挙動制御を実行すると、不正確な車体速度に基づいて車両挙動制御が実行されることになり、的確な車両挙動制御とならない。
【0010】
なお、このように不的確な車両挙動制御が行われることを防止するためには、例えば、車輪速度センサのセンサ電源がOFFされた場合に、センサ電源が復帰したときに車体速度の推定に上限値および下限値を設定しないようにすることも考えられるが、それに対応したプログラムを設ける必要があり、ソフトウェアの増大要因になるという問題がある。
【0011】
本発明は上記点に鑑みて、電圧異常によりセンサ電源をOFFさせたあと、電圧異常が正常化してセンサ電源をONさせた場合に、車両挙動制御を的確なタイミングで動作可能とできるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、車両が停止したことを検出する停止状態検出手段(170)と、車両挙動制御の実行を許可するか禁止するかの設定を行う車両挙動制御許可手段(130、180)とを備え、電圧検出手段(16a、18e)にて電源(20)が規定電圧になっていないと判定した場合に、車両挙動制御許可手段(130)にて車両挙動制御を禁止し、電圧検出手段(16a、18e)にて電源(20)が規定電圧になっていないと判定してから、電源(20)が規定電圧になっていると判定した場合に、停止状態検出手段(170)が車両が停止したことを検出すると、車両挙動制御許可手段(180)にて車両挙動制御を許可することを特徴としている。
【0013】
このように、停止状態検出手段(170)で車両の停止が検出されるまで車両挙動制御が禁止されるようにし、車両の停止が検出されたときに車両挙動制御が許可されるようにしている。つまり、センサ(17a〜17d、18a〜18c)の検出信号から物理量が正確に求められないときには車両挙動制御を禁止し、物理量が正確に求められるときに車両挙動制御を許可している。これにより、電源電圧が規定電圧から外れる電圧異常、例えば高電圧異常が発生してセンサ電源をOFFしたのち異常が解消されてセンサ電源をONに切替えたときに、車両挙動制御を的確なタイミングに動作可能に切替えらることが可能となる。
【0014】
例えば、請求項2に示されるように、電圧検出手段(16a、18e)にて、電源(20)の電圧が規定電圧を超える高電圧異常を検出したときに高電圧信号を出力させ、電圧検出手段(16a、18e)から高電圧信号が出力されている場合に、スイッチ制御手段(16b、18f)にて、センサ(17a〜17d、18a〜18c)への電源(20)からの電圧供給をOFFする形態とすることができる。
【0015】
このように、高電圧異常の場合には、センサ(17a〜17d、18a〜18c)などの保護の観点から、上記のようにセンサ(17a〜17d、18a〜18c)への電圧供給を停止させるため、請求項1に記載の発明を適用するのが好ましい。
【0016】
また、請求項3に示されるように、車両挙動を検出するためのセンサとしては車輪速度センサ(17a〜17d)を挙げることができ、車輪速度センサ(17a〜17d)の検出信号から車輪速度を求めると共に、該車輪速度から推定車体速度を求め、車両挙動制御としてアンチスキッド制御を実行する場合において、センサ(17a〜17d、18a〜18c)への電圧供給が再開されてもすぐに推定車体速度が正確に求められないことから、請求項1に記載の発明を適用すると良い。
【0017】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
(第1実施形態)
本発明の一実施形態を適用した車両挙動制御装置について説明する。本実施形態では、車両挙動制御として、ブレーキ制御を実行するブレーキ制御装置を例に挙げて車両挙動制御装置の説明を行う。
【0019】
図1は、本実施形態のブレーキ制御装置1のブロック構成を示したものである。また、図2は、図1に示す車両用ブレーキ制御装置1の電気回路構成の一部を示した図である。以下、図1、図2を参照して、本実施形態のブレーキ制御装置1について説明する。
【0020】
図1に示されるように、ブレーキ制御装置1には、ブレーキペダル11、倍力装置12、M/C13、W/C14a〜14d、ブレーキ液圧制御用アクチュエータ(以下、ブレーキACTという)15、ブレーキECU16、車輪速度センサ17a〜17dおよびセンサ部18が備えられている。
【0021】
車両に制動力を加える際にドライバによって踏み込まれるブレーキ操作部材としてのブレーキペダル11は、ブレーキ液圧発生源となる倍力装置12およびM/C13に接続されており、ドライバがブレーキペダル11を踏み込むと、倍力装置12にて踏力が倍力され、M/C13に配設された図示しないマスタピストンを押圧する。これにより、これらマスタピストンによって区画される図示しないプライマリ室とセカンダリ室とに同圧のM/C圧が発生させられるようになっている。
【0022】
このM/C圧がブレーキACT15を介して4つの車輪FL、FR、RL、RRそれぞれに備えられたW/C14a〜14dに伝えられることで、W/C圧を発生させるように構成されている。
【0023】
ブレーキACT15は、ABS制御やESCを行うためのもので、各種制御弁やポンプおよびポンプを駆動するためのモータなどを備えている。このブレーキACT15は、各種制御弁やモータがブレーキECU16からの制御信号に基づいて駆動されることで、ブレーキACT15内に形成された油圧回路のブレーキ液流動経路を制御し、制御対象輪のW/C圧の増圧、保持、減圧を行う。なお、このようなブレーキACT15の詳細構造に関しては、周知であるため説明を省略する。
【0024】
また、ブレーキECU16は、電子制御装置に相当するもので、カウンタなどを内蔵したCPU、ROM、RAM、I/Oなどを備えた周知のマイクロコンピュータによって構成され、ROMなどに記憶されたプログラムに従って各車輪FL〜RRの車輪速度の演算や車体速度の推定演算などを実行し、これら各種演算に基づいて、ABS制御やESCを実行するための処理を行う。
【0025】
例えば、ブレーキECU16は、各車輪FL〜RRの車輪速度と推定された車体速度(以下、推定車体速度という)の偏差として表されるスリップ率がABS制御の開始しきい値を超えていれば、ABS制御を開始させるべく、ブレーキACT15に制御信号を送り、また、センサ部18から送られるESC用の信号に基づいて、ESCを実行させるべく、ブレーキACT15に制御信号を送るという処理を行う。
【0026】
そして、このブレーキECU16からの制御信号に基づいて、上記のように構成されたブレーキACT15に備えられた各制御弁およびポンプを駆動するためのモータへの電圧供給制御を実行する。これにより、ABS制御やESCに対応するように、各W/C14a〜14dに発生させるW/C圧の制御が行われる。
【0027】
また、ブレーキECU16のCPUには、図2に示されるように、電圧検出部16aとスイッチ制御部16bが備えられている。
【0028】
電圧検出部16aは、電圧検出手段に相当し、ブレーキECU16や車輪速度センサ17a〜17dの電圧供給を行う電源となるバッテリ20の電圧を検出し、この電圧が規定電圧の範囲内であるか否かを判定して、規定電圧の範囲を外れているときにそれを示す異常信号を出力する。例えば、電圧検出部16aは、バッテリ20の電圧が規定電圧を超えているような場合には、異常信号として高電圧信号を出力する。
【0029】
スイッチ制御部16bは、スイッチ制御手段に相当し、車輪速度センサ17a〜17dへの電圧供給の制御を行うものであり、車輪速度センサ17a〜17dへの電圧供給ラインに備えられたスイッチ21a〜21dをオンオフ制御することで車輪速度センサ17a〜17dへの電圧供給を制御する。
【0030】
このような構成により、ブレーキECU16では、電圧検出部16aがバッテリ20の電圧が規定電圧の範囲から外れていると判定して異常信号を出力すると、スイッチ制御部16bがそれに基づいて、各車輪速度センサ17a〜17dへの電圧供給ラインに備えられたスイッチ21a〜21dをOFFして車輪速度センサ17a〜17dへの電圧供給を停止させる。そして、電圧検出部16aが再びバッテリ20の電圧が規定電圧の範囲内に入ったと判定して異常信号の出力をやめると、スイッチ制御部16bがスイッチ21a〜21dをONして車輪速度センサ17a〜17dへの電圧供給を再開する。
【0031】
したがって、ブレーキECU16は、車輪速度センサ17a〜17dへの電圧供給を行っているときには、各車輪速度センサ17a〜17dの検出信号を用いて各車輪FL〜RRの車輪速度の演算や推定車体速度の演算などを行うことができるが、電圧供給を行っていないときにはこれらを的確に行うことができないようになっている。
【0032】
センサ部18は、ESC用の各種センサを備えていると共に、これら各種センサの検出信号から検出結果を得て、車内LANなどを通じてブレーキECU16に検出結果を示す信号もしくはESCの実行を指令する信号を出力するものである。
【0033】
具体的には、センサ部18は、Gセンサ18a、ヨーレートセンサ18b、舵角センサ18cおよびマイクロコンピュータ18dを備えている。Gセンサ18aは車両の横加速度に応じた検出信号、ヨーレートセンサ18bはヨー角に応じた検出信号、舵角センサ18cは操舵角に応じた検出信号を出力し、マイクロコンピュータ18dにそれら各検出信号が入力されるようになっている。
【0034】
マイクロコンピュータ18dは、各検出信号を受け取ると、それらから横加速度、ヨーレートおよび操舵角の値を演算し、その結果、もしくはそれらの結果からESCを行うか否かを判定した結果などをブレーキECU16に出力する。
【0035】
また、マイクロコンピュータ18dは、ブレーキECU16と同様に、電圧検出手段に相当する電圧検出部18eとスイッチ制御手段に相当するスイッチ制御部18fを備えている。これら電圧検出部18eおよびスイッチ制御部18fは、ブレーキECU16に備えられた電圧検出部16aおよびスイッチ制御部16bと同様の役割を果たす。
【0036】
このため、マイクロコンピュータ18dでは、電圧検出部18eがバッテリ20の電圧が規定電圧の範囲から外れていると判定して異常信号を出力すると、スイッチ制御部18fがそれに基づいて、各種センサ18a〜18cへの電圧供給ラインに備えられたスイッチ18g〜18iをOFFして各種センサ18a〜18cへの電圧供給を停止させる。そして、電圧検出部18eが再びバッテリ20の電圧が規定電圧の範囲内に入ったと判定して異常信号の出力をやめると、スイッチ制御部18fがスイッチ18g〜18iをONして各種センサ18a〜18cへの電圧供給を再開する。
【0037】
次に、上記のように構成されたブレーキ制御装置1によるセンサ電源のオンオフ制御について、図3および図4を参照して説明する。
【0038】
図3は、ブレーキECU16がROMに記憶されたプログラムに従って実行するセンサ電源のオンオフ制御のフローチャートを示したものである。この図に示される処理は、図示しないイグニッションスイッチがOFFからONに切り替えられたときに所定の演算周期毎に実行される。この図中に示したステップが、各種処理を実行する手段に対応するものである。
【0039】
なお、ここでは電圧検出部16aが異常信号として高電圧信号を出力した場合の処理について説明するが、バッテリ20の電圧が規定電圧を下回っている場合の低電圧信号が出力されている場合も同様である。また、センサ部18のマイクロコンピュータ18dでも同様の処理を行っている。
【0040】
まず、ステップ100では、電圧検出部16aから高電圧信号が出力されているか否かを判定する。すなわち、バッテリ20の電圧が規定電圧の範囲内であるか、その範囲外であるかを判定する。このとき、電圧検出部16aから高電圧信号が出力されていれば、ステップ110に進み、ブレーキECU16のCPUに備えられたカウンタのカウント値を1つインクリメントする。
【0041】
続いて、ステップ120に進み、高電圧信号が出力されてから所定時間が経過したか否かを判定する。具体的には、高電圧信号が出力されてからの経過時間は、カウンタのカウント値×演算周期に相当するため、カウンタのカウント値が所定値以上であるか否かを判定することで、本ステップの判定を行っている。
【0042】
高電圧信号が出力されてから所定時間が経過する前であれば、ノイズなどに起因して高電圧信号が出力された可能性もある。このため、高電圧信号が出力されてから所定時間が経過するまでは待ち、所定時間が経過したらステップ130に進む。そして、ステップ130で高電圧異常状態であることを示す電圧異常ダイアグを出力(セット)する。この電圧異常ダイアグが出力されると、ブレーキECU16はABS制御やESCというブレーキ制御の実行を禁止すべく、ブレーキ制御許可フラグをリセットする。
【0043】
また、これに伴ってステップ140でセンサ電源をOFFするべく、スイッチ制御部16bにてスイッチ21a〜21dをOFFさせる。これにより、各車輪速度センサ17a〜17dへの電圧供給が停止される。
【0044】
一方、ステップ100で高電圧信号が出力されていないと判定された場合には、ステップ150に進み、カウンタを0にリセットする。そして、ステップ160に進んでセンサ電源をONするべく、スイッチ制御部16bにてスイッチ21a〜21dをONさせる。これにより、各車輪速度センサ17a〜17dへの電圧供給が開始される。
【0045】
この後、ステップ170に進み、推定車体速度が0になったか否かを判定する。ここでは、車体速度が0になったか否かは、4輪の車輪速度がすべて0になったか否かで判定する。バッテリ20の電圧が規定範囲から外れたのち、再び規定範囲内に入った場合、センサ電源がONされれば車輪速度センサ17a〜17dへの電圧供給が再開されることになるため、ブレーキECU16は車輪速度センサ17a〜17dの検出信号に基づいて各車輪速度を求めることが可能となる。なお、ブレーキECU16のうち、このように車両の停止状態を検出する部分が停止状態検出手段に相当するものである。
【0046】
このとき、上述したように各車輪速度が求められたとしても、推定車体速度を求める際に、車体速度の増加最大値および減少最大値から決まる上限値や下限値が存在することから、実際の車体速度に追従できない。このため、正確に推定車体速度を求めることができない。
【0047】
しかしながら、車両が停止し、ステップ170に示したように、4輪の車輪速度がすべて0になれば、推定車体速度および実際の車体速度も同様に0になる。このため、その後車両が走行を再開したときに、実際の車体速度に追従した正しい推定車体速度を求めることが可能となる。
【0048】
したがって、車体速度が0になっていなければ、まだ正確な推定車体速度が求められないとして、ステップ170で否定判定されるとそのまま処理を完了する。そして、車体速度が0になるまで待ち、車体速度が0になると、正確な推定車体速度が求められるものとして、ステップ170で肯定判定されるとステップ180に進み、高電圧異常解除、つまり電圧異常ダイアグの出力をやめ(リセット)、処理を完了する。これにより、ブレーキECU16はABS制御やESCというブレーキ制御の実行を許可すべく、ブレーキ制御許可フラグをセットする。
【0049】
なお、ブレーキECU16のうち、このようにブレーキ制御(車両挙動制御)を許可するか禁止するかの設定を行う部分が車両挙動制御許可手段に相当する。
【0050】
このようにして、センサ電源のON・OFF制御が行われる。図4に、このセンサ電源のON・OFF制御を実行した場合のタイミングチャートを示す。
【0051】
時点T1においてバッテリ20の電圧が規定電圧を超えたとすると、それと同時に電圧検出部16aから高電圧信号が出力される。そして、高電圧信号が出力されてから所定時間経過した時点T2に至ると、電圧異常ダイアグがセットされ、スイッチ制御部16bがスイッチ21a〜21dをOFFすることで車輪速度センサ17a〜17dへの電圧供給が停止させられる。
【0052】
これにより、ブレーキECU16は車輪速度センサ17a〜17dの検出信号が得られなくなるため、各車輪速度を求めることができず、各車輪速度は0となる。そして、正確な推定車体速度も求められなくなり、実際の車体速度からずれた値となる。
【0053】
この後、時点T3においてバッテリ20の電圧が規定電圧の範囲内に再び入ると、それと同時に電圧検出部16aから高電圧信号が出力されなくなる。これにより、スイッチ制御部16bがスイッチ21a〜21dをONすることで車輪速度センサ17a〜17dへの電圧供給が再開される。
【0054】
このとき、ブレーキECU16は、車輪速度センサ17a〜17dの検出信号を再び受け取ることになるため、各車輪速度が求められることになるが、まだ正確な推定車体速度は求めることができない。このため、このときには電圧異常ダイアグはセットされたままで、ブレーキ制御許可フラグもリセットされたままとなり、ABS制御やESCというブレーキ制御が禁止される。
【0055】
そして、時点T4において4輪の車輪速度が0になると、電圧異常フラグがリセットされ、ブレーキ制御許可フラグがセットされて、ABS制御やESCというブレーキ制御が許可される。
【0056】
以上説明したように、本実施形態のブレーキ制御装置1によれば、推定車体速度が実際の車体速度からずれて正確な値として求められないときには、ブレーキ制御が禁止されるようにし、高電圧異常信号が出力されてから推定車体速度が一度0になって、推定車体速度が実際の車体速度に追従した正確な値として求められるようになってから、ブレーキ制御が許可されるようにしている。
【0057】
同様に、ESCに利用される各種センサ18a〜18cに関しても、電圧異常によってセンサ電源がOFFされた後、再び電圧異常が解消されてセンサ電源がONされても、正確な検出信号が得られるまでブレーキ制御が禁止されるため、不的確なブレーキ制御が実行されることを防止することが可能となる。
【0058】
このように、本実施形態のブレーキ制御装置1により、電源電圧が規定電圧から外れる電圧異常、例えば高電圧異常が発生してセンサ電源をOFFしたのち異常が解消されてセンサ電源をONに切替えたときに、ブレーキ制御を的確なタイミングに動作可能に切替えらることが可能となる。
【0059】
また、4輪の車輪速度が0になったか否かによってブレーキ制御を許可するか禁止するかを決めればよく、推定車体速度の演算手法を変更するものではないため、ソフトウェアの増大の要因になることもない。
【0060】
なお、推定車体速度の演算手法を変更する以外にも、推定車体速度が正確に求められない期間中、ブレーキECU16に備えられるマイクロコンピュータのCPUをリセットするという手法やイグニッションスイッチがOFFされるまでブレーキ制御を禁止する手法も考えられる。
【0061】
しかしながら、CPUをリセットしてしまうと、ブレーキECU16と他のECUとの通信などが一時的に途絶えてしまうという問題があるし、イグニッションがOFFされるまでブレーキ制御を禁止したのでは、それまでの期間中にブレーキ制御を行うべき状況に陥ったとしても、ブレーキ制御を行うことができないという問題がある。このため、本実施形態に示したように、4輪の車輪速度が0になったことを検出したときに、ブレーキ制御を許可するようにするという手法が好ましい。
【0062】
(他の実施形態)
近年進められている車両搭載ECUの通信網にて、ブレーキECU16が車速センサの検出信号やメータECUが保持する車速情報を入手できる場合には、そこから車体速度を取得し、その車体速度が0になったときにブレーキ制御が許可されるようにしても構わない。
【0063】
また、上記実施形態では、車両挙動制御装置の一例としてブレーキ制御装置1を例に挙げて説明したが、バッテリ20などの電源の電圧が規定電圧ではないときにセンサ電源をOFFし、車両挙動制御を禁止するようなものであれば、他の車両挙動制御装置に対しても本発明を適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の第1実施形態におけるブレーキ制御装置1のブロック構成を示す図である。
【図2】図1に示す車両用ブレーキ制御装置1の電気回路構成の一部を示した図である。
【図3】センサ電源のオンオフ制御のフローチャートである。
【図4】センサ電源のオンオフ制御を実行した場合のタイミングチャートである。
【図5】車輪速度と車体速度の関係を示したタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0065】
1…ブレーキ制御装置、14a〜14d…W/C、15…ブレーキACT、16…ブレーキECU、16a…電圧検出部、16b…スイッチ制御部、17a〜17d…各車輪速度センサ、18…センサ部、18a…Gセンサ、18b…ヨーレートセンサ、18c…舵角センサ、18d…マイクロコンピュータ、18e…電圧検出部、18f…スイッチ制御部、18g〜18i…スイッチ、20…バッテリ、21a〜21d…スイッチ、FL〜RR…車輪。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された電源(20)の電圧が規定電圧となっているか否かを判定する電圧検出手段(16a、18e)と、
車両挙動を検出するためのセンサ(17a〜17d、18a〜18c)への前記電源(20)からの電圧供給のON・OFFを制御するスイッチ制御手段(16b、18f)と、を有し、
前記センサ(17a〜17d、18a〜18c)の検出信号に基づいて前記車両挙動を示す物理量を求め、該物理量に基づいて車両挙動制御を実行すると共に、
前記電圧検出手段(16a、18e)にて前記電源(20)が前記規定電圧になっていないと判定した場合に、前記スイッチ制御手段(16b、18f)にて、前記センサ(17a〜17d、18a〜18c)への前記電源(20)からの電圧供給をOFFするように構成された車両挙動制御装置であって、
前記車両が停止したことを検出する停止状態検出手段(170)と、
前記車両挙動制御の実行を許可するか禁止するかの設定を行う車両挙動制御許可手段(130、180)と、を備え、
前記電圧検出手段(16a、18e)にて前記電源(20)が前記規定電圧になっていないと判定した場合に、前記車両挙動制御許可手段(130、180)にて前記車両挙動制御を禁止し、
前記電圧検出手段(16a、18e)にて前記電源(20)が前記規定電圧になっていないと判定してから、前記電源(20)が前記規定電圧になっていると判定した場合に、前記停止状態検出手段(170)が前記車両が停止したことを検出すると、前記車両挙動制御許可手段(130、180)にて前記車両挙動制御を許可することを特徴とする車両挙動制御装置。
【請求項2】
前記電圧検出手段(16a、18e)は、前記電源(20)の電圧が前記規定電圧を超える高電圧異常を検出して高電圧信号を出力するものであり、
前記電圧検出手段(16a、18e)から前記高電圧信号が出力されている場合に、前記スイッチ制御手段(16b、18f)にて、前記センサ(17a〜17d、18a〜18c)への前記電源(20)からの電圧供給をOFFすることを特徴とする請求項1に記載の車両挙動制御装置。
【請求項3】
前記車両挙動を検出するためのセンサは車輪速度センサ(17a〜17d)であり、
前記車両挙動を示す物理量として、前記車輪速度センサ(17a〜17d)の検出信号から車輪速度を求めると共に、該車輪速度から推定車体速度を求め、
前記車両挙動制御としてアンチスキッド制御を実行することを特徴とする請求項1または2に記載の車両挙動制御装置。
【請求項4】
前記車両挙動を検出するためのセンサは横加速度センサ(18a)、ヨーレートセンサ(18b)および舵角センサ(18c)であり、
前記車両挙動を示す物理量として、前記横加速度センサ(18a)の検出信号から横加速度、前記ヨーレートセンサ(18b)の検出信号からヨーレート、前記舵角センサ(18c)の検出信号から操舵角を求め、
前記車両挙動制御として横滑り防止制御を実行することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の車両挙動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−55520(P2007−55520A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−245417(P2005−245417)
【出願日】平成17年8月26日(2005.8.26)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】