説明

車両検知装置

【課題】 背景磁場の変動に影響されず、かつ遠方の車両を誤検知することが防止できる車両検知装置を提供する。
【解決手段】 道路下に道路の長手方向に間隔をおいて配置した複数の磁気センサ1と、これら磁気センサの出力が示す道路長手方向の磁気分布の波形的特徴から所望の車線について車両が通過したことを検知する演算装置2とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気の変化から車両の通過を検知する車両検知装置に係り、背景磁場の変動に影響されず、かつ遠方の車両を誤検知することが防止できる車両検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
道路上のある地点で地磁気を計測した場合、時間的に一定なある値が得られる。道路上を磁性体の塊である車両が移動する場合には、磁性体に磁気が集中するため、磁気の強度が時間的に変化する。また、磁性体が磁化している場合には、その磁化の方向と地磁気の方向が等しい場合には磁気は強め合い、互いの方向が反対の場合には磁気は弱め合うため、磁気の強度がより大きく変化する。このような磁気の変化を利用した磁界感応型の車両検知装置の文献として、例えば、特許文献1がある。
【0003】
この文献に記載された発明では、車両が磁気センサの設置点を通過していくと、磁気センサの出力が変化する。このときの磁気センサの出力波形を捉えて車両が通過したことを検出する。2つの磁気センサが道路に沿って間隔をおいて設置されている場合、1台の車両の通過に対して2つの磁気センサから時間差のある車両検知信号が生じる。車両が通過したという事象をカウントすることで通過した車両の台数が得られ、2つの磁気センサによる車両検知信号の時間差と磁気センサの設置点間距離とから速度が得られる。このようにして、道路上を走行する車両の台数と速度とを得ることができる。
【0004】
ここで従来の車両検知装置の構成を図4に、その手順を図5に、信号波形を図6に示す。この手順によると、まず、ステップ51では、磁気センサ41の出力値をAD変換器42でAD変換して読み取り、ステップ52では、演算装置43においてその読み取り値Xから予め設定されたオフセット値Oを減算して計測量Yとしメモリ44に格納し、、ステップ53では、演算装置43においてこの計測量Yを元に車両検知演算を行って車両の有無を判断し、ステップ54でその判断値を車両検知出力部45から外部に出力する。この手順を定期的に繰り返し実行する。
【0005】
ここで、車両検知演算とは、計測量Yが予め設定した上限しきい値Yuと下限しきい値Ydの範囲外のとき車両有りと判断するものである。ただし、計測量Yがいったん下限しきい値Ydの下から大きくなって上限しきい値Yuの上に出る間に、上限しきい値Yuと下限しきい値Ydの範囲内を通る期間がある。そこで、車両検知演算では、上下限しきい値との比較による二値信号Zが1から0に落ちた後でも、穴埋め時間TA以内に1に戻れば、0の期間を1で穴埋めして1台分の車両有りと判断する。二値信号Zが1から0に落ちた後、穴埋め時間TA以上経過して1になったときは、別の車両有りと判断する。計測量Yが上限しきい値Yuと下限しきい値Ydの範囲内にとどまっている間は、二値信号Zが0を維持するので、車両無しと判断する。
【0006】
読み取り値Xからオフセット値Oを減算して計測量Yとしているので、磁気センサ41が配置された場所に地磁気などによる背景磁場が存在するときも、背景磁場による磁気成分、つまりオフセット値Oを減算することで、車両の通過のみによる計測量Yの変化が上下限しきい値を切るようにすることができる。
【0007】
【特許文献1】特開平6−325288号公報
【特許文献2】特開2004−46417号公報
【特許文献3】特開2003−187380号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
地磁気の日変化や磁気嵐等の影響により、同じ場所であっても背景磁場の大きさ(以下、地磁気レベルという)が変動する。図6は、地磁気レベルが予め設定してあるオフセット値Oよりずれている状態を表している。計測量Yの波形のうち左端の部分Aに着目するとオフセット値Oより上にずれた地磁気レベルEが現れている。この地磁気レベルEは、続く部分B,C,Dにも引き続き現れている。地磁気レベルEは上限しきい値Yuまでには達していない。
【0009】
この状態で車両検知を行うと、部分Bにおいては、計測量Yの変化が上下に十分大きく出ているため、支障なく二値信号Z=1が得られ、車両有りという正しい車両検知結果が得られる。しかし、部分Cにおいては、車両が通過して計測量Yが変化したにもかかわらず、計測量Yが下限しきい値Ydを下回らないために二値信号Zは0のままであり、車両検知ができない。部分Dにおける計測量Yの変化は遠方の車両によるものである。ここで、遠方の車両とは、特許文献2にあるように磁気センサを設置した車線(車両を検出したい自車線)とは異なる車線(車両を検出したくない他車線)を走行する車両のことである。部分Dにおける計測量Yの変化は自車線の車両から得られる変化に比べて小さいにもかかわらず、地磁気レベルEが重畳しているために、計測量Yが上限しきい値Yuを上回って、車両有りという車両検知結果が得られる。これは誤検知である。
【0010】
背景磁場の変動による検知失敗や誤検知をなくするために、オフセット値Oを自動修正して地磁気レベルEに等しくすることが望ましい。しかし、地磁気レベルEを求める時間を長くすると短期的な背景磁場の変動に間に合わず、地磁気レベルEを求める時間を短くすると渋滞時に車両による磁気を地磁気レベルEとして取り込んでしまっていっそうオフセット値Oがずれてしまう可能性がある。
【0011】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、背景磁場の変動に影響されず、かつ遠方の車両を誤検知することが防止できる車両検知装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために本発明は、道路下に道路の長手方向に間隔をおいて配置した複数の磁気センサと、これら磁気センサの出力が示す道路長手方向の磁気分布の波形的特徴から所望の車線について車両が通過したことを検知する演算装置とを備えたものである。
【0013】
磁気分布のピーク波形の広がりが予め定めた距離より狭ければ磁気センサに近い車線を車両が通過したと判定してもよい。
【0014】
ピーク波形の広がりは半値幅で表してもよい。
【0015】
磁気センサの配置間隔は、磁気センサの直上に位置する車両がもたらす磁気分布のピーク波形の半値幅以内であってもよい。
【0016】
磁気センサの配置長は、車両の1.5台分の区間の磁気分布が計測できる長さ以上であってもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明は次の如き優れた効果を発揮する。
【0018】
(1)背景磁場の変動に影響されない。
【0019】
(2)遠方の車両を誤検知することが防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0021】
本発明に係る車両検知装置の構成を図1に、その手順を図2に、信号波形を図3に示す。
【0022】
まず、構成から述べると、図1の車両検知装置は、道路の地中、橋梁の裏側など道路下に道路の長手方向に間隔をおいて配置した複数の磁気センサ1(#1,#2,…,#n)と、これら磁気センサ1の出力が示す道路長手方向の磁気分布の波形的特徴から所望の車線について車両が通過したことを検知する演算装置2とを備える。A/D変換器3は各磁気センサ1の出力を所定のサンプリング周期でA/D変換するものである。メモリ4は、サンプリングされた各磁気センサ1の出力データ(時系列)をサンプリングから所定時間の間、蓄えることができる。車両検知出力部5は、演算装置2の検知結果を外部に出力するものである。
【0023】
手順は、図2のように、各磁気センサ1の出力値を読み取る(サンプリングする)ステップ21、波形分離処理を行うステップ22、車両計測演算を行うステップ23、判断値(検知結果)を出力するステップ24からなる。
【0024】
図3は、磁気センサが設置された道路(自車線)上に1台の車両がある(走行している)ときに得られる信号波形の例を示したものであり、横軸に個々の磁気センサと道路上にある車両(車両中心、すなわち車両の前後方向の中心を基準とする)との距離(道路長手方向距離)をとり、縦軸に磁束密度(磁気センサの出力の大きさ)をとって表した道路長手方向の磁気分布である。この例では、距離0よりひとつ前方に位置する磁気センサの出力が最も大きく、これよりさらに前方に位置する磁気センサの出力は車両中心からの距離が大きいほど小さい。距離0よりひとつ後方に位置する磁気センサの出力は、距離0に位置する磁気センサの出力よりやや小さい程度であるが、その後方に位置する磁気センサの出力は、前方の十分遠い磁気センサの出力よりかなり小さい。図示しない後方の十分遠い位置に磁気センサがあれば前方の十分遠い磁気センサの出力と同程度の大きさの出力が現れると考えられるが、ここでは出力が大きいほうのピークに着目する。
【0025】
図示のように、車両による磁気は車両の前方にある磁気センサから後方にある磁気センサにわたり、出力が単調に増加した後減少する波形を呈する。このような波形をピーク波形と呼ぶことにする。図示したピーク波形は、車両の存在により形成される磁場のほぼ中心を通るように各磁気センサが配置されているため、各磁気センサの出力の大きさが顕著に異なるピーク波形となっている。ここで、車両が各磁気センサから道路横断方向に遠いところ(例えば、他車線上)にあったとすると、車両の存在により形成される磁場の中心から外れたところを通るように各磁気センサが配置されていることになるため、各磁気センサの出力の大きさの差異は車両が自車線上に車両がある場合に比べて小さい。従って、この場合のピーク波形は、広がりが大きくなる。このことから、ピーク波形の広がりが広ければ車両は各磁気センサから道路横断方向に遠いところにあり、ピーク波形の広がりが狭ければ車両は各磁気センサから道路横断方向に近いところにあると判断できる。
【0026】
以下、図1〜図3を参照しつつ、本発明に係る車両検知装置の動作を説明する。
【0027】
まず、ステップ21では、各磁気センサ1の出力値をAD変換器3でAD変換して読み取り、メモリ4に格納していく。ステップ22では、演算装置2において波形分離処理を行う。波形分離処理は、シンプレックス法、DFP(Davidon−Fletcher−Powell)法、最小自乗法を用いて行う。
【0028】
さらに、ステップ22では、演算装置2において、メモリ4に格納されている各磁気センサ1の時系列データから同じサンプリングタイムのデータを読み出して磁気分布の波形データとする。この磁気分布の波形データから磁気分布の波形的特徴を抽出する。具体的な波形的特徴のひとつとして、公知の方法で最大値を発見し、ピーク値とする。また、このピーク値を持つデータの番号(磁気センサ1の番号)を記憶する。ただし、車両が存在しなければ磁気分布の波形は平らであり、最大値と他の値(最低値、中間値あるいは平均値)との差は大きくない。そこで、最大値と他の値との差に対して適宜のしきい値を適用することにより、有意のピーク値を持つ波形(図3に示されるようなピーク波形)だけを取り出せるようにするとよい。
【0029】
ピーク値とそのデータ番号が確定したら、ピーク波形の広がりを求める。ここでは、ピーク波形の広がりは半値幅で表すものとする。半値幅とはピーク値の半分の値のレベルでピーク波形をスライスして得られる切断線の長さである。半値幅は、ピーク値のデータ番号より小さい番号の波形データ及び大きい番号の波形データについてそれぞれピーク値Pの半分の値P/2を切るまでのデータ個数を調べ、それぞれのデータ個数を加え合わせ、この和に磁気センサ配置間隔を掛け合わせると得られる。図3の例では、ピーク値Pの半分の値P/2のレベルでピーク波形をスライスすると、約2.5mの半値幅が求まることが分かる。
【0030】
ステップ3では、演算装置2において車両検知演算を行う。すなわち、前ステップ2で得られた半値幅を予め定めた基準値(ピーク波形の広がりの判断基準となる距離に相当)と比較する。半値幅が基準値より小さければ、ピーク波形の広がりは狭いということになるので、磁気センサ1に近い車線を車両が通過したと判定することができる。逆に、半値幅が基準値より大きければ、ピーク波形の広がりは広いということになるので、磁気センサ1から遠い車線を車両が通過したと判定することができる。
【0031】
ステップ4では、その判断値を車両検知出力部5から外部に出力する。
【0032】
以上の手順を定期的に繰り返し実行する。
【0033】
このようにして、所定の時間帯における車両の通過台数や個々の車両の通過速度を求めることができる。
【0034】
このように、本発明では、道路長手方向の磁気分布の波形的特徴から所望の車線について車両が通過したことを検知するようにしたので、従来のように背景磁場の変動に影響されることがない。なぜなら、各磁気センサ1における背景磁場の強さは同じであり、背景磁場に時間的に変動があってもその結果は各磁気センサ1の出力に対して均等に現れるからである。この均等な変化は図3の波形の全体が上下に移動することに相当するので、半値幅等の波形的特徴には全く影響がない。
【0035】
また、本発明では、車両と各磁気センサとの道路横断方向の距離に応じてピーク波形の広がりが違うことを利用して車両の遠近を判断しているので、遠方の車両を誤検知することが防止できる。
【0036】
なお、本発明では、磁気分布の波形を分析することになるので、磁気分布の分解能、すなわち磁気センサの配置密度は高い方が望ましい。しかし、あまりに多数の磁気センサを使用すると経済的に問題があるので、磁気センサの配置長(一端の磁気センサ#1から他端の磁気センサ#nまでの距離)と配置間隔(磁気センサ#iから磁気センサ#i+1までの距離)について、次のような条件があるとよい。
【0037】
磁気センサの配置長は、少なくとも車両の1.5台分の区間の磁気分布が計測できる長さとする。また、磁気センサの配置間隔は、磁気センサの直上に位置する車両がもたらす磁気分布のピーク波形の半値幅よりも十分狭いものとする。図3の例のように、磁気センサの直上に位置する車両がもたらす磁気分布のピーク波形の半値幅を1mとしたとき、磁気センサの配置間隔は10〜20cmがよく、車両1台の前後長さを5mと考えると、1.5台分は7.5mであるから、配置長は7.5mとなる。この結果、磁気センサは75個〜38個を配置することになる。
【0038】
本発明は、磁気計測軸を増やすことにより、車両のある方向を検出することができる。
【0039】
また、本発明は離れた場所にある磁気ピークを計測できるので、埋設送電線の電流計測に応用できる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の一実施形態を示す車両検知装置の構成図である。
【図2】本発明の一実施形態を示す車両検知装置の手順図である。
【図3】本発明により得られる磁気分布の波形図である。
【図4】従来の車両検知装置の構成図である。
【図5】従来の車両検知装置の手順図である。
【図6】従来における磁気センサの出力信号及び二値信号の時間波形図である。
【符号の説明】
【0041】
1 磁気センサ
2 演算装置
3 A/D変換器
4 メモリ
5 車両検知出力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
道路下に道路の長手方向に間隔をおいて配置した複数の磁気センサと、これら磁気センサの出力が示す道路長手方向の磁気分布の波形的特徴から所望の車線について車両が通過したことを検知する演算装置とを備えたことを特徴とする車両検知装置。
【請求項2】
磁気分布のピーク波形の広がりが予め定めた距離より狭ければ磁気センサに近い車線を車両が通過したと判定することを特徴とする請求項1記載の車両検知装置。
【請求項3】
ピーク波形の広がりは半値幅で表すことを特徴とする請求項1又は2記載の車両検知装置。
【請求項4】
磁気センサの配置間隔は、磁気センサの直上に位置する車両がもたらす磁気分布のピーク波形の半値幅以内であることを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の車両検知装置。
【請求項5】
磁気センサの配置長は、車両の1.5台分の区間の磁気分布が計測できる長さ以上であることを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の車両検知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−65605(P2006−65605A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−247999(P2004−247999)
【出願日】平成16年8月27日(2004.8.27)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】